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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-16
(45)【発行日】2022-03-25
(54)【発明の名称】電気絶縁油組成物
(51)【国際特許分類】
   H01B 3/20 20060101AFI20220317BHJP
   C10M 129/10 20060101ALI20220317BHJP
   C10M 133/38 20060101ALI20220317BHJP
   C10N 20/00 20060101ALN20220317BHJP
   C10N 40/16 20060101ALN20220317BHJP
   C10N 30/00 20060101ALN20220317BHJP
【FI】
H01B3/20 T
C10M129/10
C10M133/38
C10N20:00 A
C10N40:16
C10N30:00 Z
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018105463
(22)【出願日】2018-05-31
(65)【公開番号】P2019212397
(43)【公開日】2019-12-12
【審査請求日】2021-01-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000183646
【氏名又は名称】出光興産株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000141015
【氏名又は名称】株式会社かんでんエンジニアリング
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】特許業務法人大谷特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100119666
【弁理士】
【氏名又は名称】平澤 賢一
(74)【代理人】
【識別番号】100153866
【弁理士】
【氏名又は名称】滝沢 喜夫
(74)【代理人】
【識別番号】100078732
【弁理士】
【氏名又は名称】大谷 保
(74)【代理人】
【識別番号】100195888
【弁理士】
【氏名又は名称】竹原 裕一
(72)【発明者】
【氏名】後藤 健治
(72)【発明者】
【氏名】西川 精一
(72)【発明者】
【氏名】山中 功
【審査官】和田 財太
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-054324(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 3/20
C10M 129/10
C10M 133/38
C10N 20/00
C10N 30/00
C10N 40/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基油(A)と、フェノール系酸化防止剤と、帯電防止剤と、を含む電気絶縁油組成物であって、
前記基油(A)が以下の条件(A1)、(A2)、及び(A3)を満たし、
条件(A1):環分析(n-d-M法)による%Cが5.3%未満
条件(A2):環分析(n-d-M法)による%Cが40.0%以上52.0%以下
条件(A3):流動点が-40℃以下
前記フェノール系酸化防止剤の含有量が、前記電気絶縁油組成物の全量基準で、0.06質量%以上0.4質量%以下であり、
前記帯電防止剤の含有量が、前記電気絶縁油組成物の全量基準で、3質量ppm以上40質量ppm以下である、電気絶縁油組成物。
【請求項2】
前記フェノール系酸化防止剤が、2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾールである、請求項1に記載の電気絶縁油組成物。
【請求項3】
前記帯電防止剤が、ベンゾトリアゾール系化合物である、請求項1又は2に記載の電気絶縁油組成物。
【請求項4】
前記ベンゾトリアゾール系化合物が、1,2,3-ベンゾトリアゾールである、請求項3に記載の電気絶縁油組成物。
【請求項5】
金属不活性化剤を更に含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の電気絶縁油組成物。
【請求項6】
JIS K2265-3-2007のペンスキーマルテンス密閉法により測定される引火点が135℃以上である、請求項1~5のいずれか1項に記載の電気絶縁油組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気絶縁油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
電気絶縁油組成物は、基油と酸化防止剤とを少なくとも含み、油入コンデンサ、油入ケーブル、油入変圧器、及び油入遮断器等の油入電気機器の絶縁材料として広く用いられている。例えば、特許文献1には、鉱油及び合成油の少なくともいずれか一方を主成分とし、スルフィド型硫黄分及びフェノール系化合物を所定量含有する電気絶縁油組成物が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2000-306430号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、油入電気機器の内部で過熱や放電等の異常が生じると、電気絶縁油組成物等の分解物である水素(H)、メタン(CH)、エタン(C)、プロパン(C)、ブタン(C10)、エチレン(C)、アセチレン(C)、及び一酸化炭素(CO)等の可燃性ガスが生じる。この現象を利用して、油入電気機器の運転中の内部異常の有無を診断する油中ガス分析が広く利用されている。油中ガス分析の結果、油入電気機器に内部異常が生じていると診断された場合には、油入電気機器を停止してメンテナンス等の作業が実行されることになる。
【0005】
しかしながら、近年、油中ガス分析の診断結果を誤らせる恐れのある現象が欧州や米国において報告されている。具体的には、油入電気機器の内部での過熱や放電等に依らず、比較的低温で油入電気機器内に多量の可燃性ガスが発生した事例が報告されている。この現象は、「ストレイガス現象」と呼ばれる。また、ストレイガス現象において発生する可燃性ガスは、「ストレイガス」と呼ばれる。ストレイガス現象の発生原因については未だ解明されていない。
ストレイガス現象が生じると、油入電気機器の内部で過熱や放電等が起こっていないにもかかわらず、可燃性ガスが発生してしまう。そのため、油中ガス分析において、可燃性ガスが検出されてしまい、この検出結果を根拠として、油入電気機器の内部で過熱や放電等が起こっているとの誤った判断がなされてしまう。そして、この誤った判断に基づいて、実際には過熱や放電等の不具合が生じていない油入電気機器に対してメンテナンス等の作業が無駄に実行されてしまうことになる。
【0006】
そこで、本発明は、ストレイガスが発生しにくい電気絶縁油組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討の結果、特定の基油を含む電気絶縁油組成物が、上記の課題を解決し得ることを見出した。
すなわち、本発明は、以下の[1]に関する。
[1]基油(A)と、フェノール系酸化防止剤と、帯電防止剤と、を含む電気絶縁油組成物であって、
前記基油(A)が以下の条件(A1)、(A2)、及び(A3)を満たし、
条件(A1):環分析(n-d-M法)による%Cが5.3%未満
条件(A2):環分析(n-d-M法)による%Cが40.0%以上
条件(A3):流動点が-40℃以下
前記フェノール系酸化防止剤の含有量が、前記電気絶縁油組成物の全量基準で、0.06質量%以上0.4質量%以下であり、
前記帯電防止剤の含有量が、前記電気絶縁油組成物の全量基準で、3質量ppm以上40質量ppm以下である、電気絶縁油組成物。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ストレイガスが発生しにくい電気絶縁油組成物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[電気絶縁油組成物]
本発明の電機絶縁油組成物は、基油(A)と、フェノール系酸化防止剤と、帯電防止剤と、を含む。
基油(A)は、以下の条件(A1)、(A2)、及び(A3)を満たす。
条件(A1):環分析(n-d-M法)による%Cが5.3%未満
条件(A2):環分析(n-d-M法)による%Cが40.0%以上
条件(A3):流動点が-40℃以下
前記フェノール系酸化防止剤の含有量が、前記電気絶縁油組成物の全量基準で、0.06質量%以上0.4質量%以下であり、
前記帯電防止剤の含有量が、前記電気絶縁油組成物の全量基準で、3質量ppm以上40質量ppm以下である、電気絶縁油組成物である。
【0010】
電気絶縁油の規格の一例であるIEC規格(IEC60296)には、電気絶縁油の分類として「微量添加油」及び「添加油」が存在する。「微量添加油」及び「添加油」に分類される電気絶縁油には、所定量の酸化防止剤が含まれる。当該酸化防止剤は、通常、フェノール系酸化防止剤である。また、電気絶縁油の各種規格を満たす上で、通常、所定量の帯電防止剤も添加される。
なお、「IEC規格」とは、国際電気標準会議が制定した国際規格である。
本発明者らは、電気絶縁油の各種規格を考慮し、種々検討した結果、以下のことを突き止めるに至った。
一般に、酸化防止剤を含む電気絶縁油組成物の酸化安定性は、基油の精製度が高いほど向上する。すなわち、基油の芳香族分、硫黄分、及び窒素分等が少ないほど、酸化防止剤の消耗が抑えられると共に、酸化防止剤による酸化防止効果が向上し、より酸化安定性の高い電気絶縁油組成物が得られる。
しかしながら、本発明者らが鋭意検討した結果、精製度の高い基油を用いた電気絶縁油組成物は、酸化防止剤が消耗した後、ストレイガスが急激に発生しやすいことを突き止めるに至った。
この問題に対し、本発明者らは、電気絶縁油組成物に用いる基油を、上記条件(A1)、(A2)、及び(A3)を満たす基油とすることによって、酸化防止剤が消耗した後も、ストレイガスの急激な発生が抑制された電気絶縁油組成物が得られることを知見した。かかる知見から、電気絶縁油の各種規格を満たすために、所定量のフェノール系酸化防止剤及び所定量の帯電防止剤が添加された電気絶縁油組成物において、上記条件(A1)、(A2)、及び(A3)を満たす基油を用いることによって、本発明の課題を解決できることを見出した。
【0011】
以下、本発明の電気絶縁油組成物について詳細に説明すると共に、当該電気絶縁油組成物の性状、当該電気絶縁油組成物の製造方法、当該電気絶縁油組成物の使用方法、及び当該電気絶縁油組成物を有する油入電気機器について詳細に説明する。
【0012】
<基油(A)>
本発明の電気絶縁油組成物が含有する基油(A)は、以下の条件(A1)、(A2)、及び(A3)を満たす。
条件(A1):環分析(n-d-M法)による%Cが5.3%未満
条件(A2):環分析(n-d-M法)による%Cが40.0%以上
条件(A3):流動点が-40℃以下
【0013】
本発明において、%C及び%Cは、ASTM D3238-95に準拠し、環分析(n-d-M法)にて求めた値である。
%Cは、芳香族炭素量の全炭素量に対する質量割合(百分率)を示す値である。
%Cは、ナフテン炭素量の全炭素量に対する質量割合(百分率)を示す値である。
【0014】
また、本発明において、流動点は、JIS K 2269:1987に準拠して測定した値である。
【0015】
本発明では、基油(A)の条件(A1)として、環分析(n-d-M法)による%Cが5.3%未満であることを規定している。基油(A)の%Cが5.3%以上であると、電気絶縁油組成物中の酸化防止剤の消耗が早く、電気絶縁油組成物の酸化防止能を十分に維持できない。そのため、IEC規格の酸化安定性試験やJIS規格の酸化安定性試験に合格しない。
IEC規格の酸化安定性試験及びJIS規格の酸化安定性試験は、後述する実施例に記載の方法により実施される。
【0016】
ここで、本発明の一態様において、ストレイガスのうち水素発生量を抑制しやすくする観点、ストレイガスの急激な発生の起点となる電気絶縁油組成物中の酸化防止剤の消耗をより抑制しやすくする観点、及び、酸化防止剤による酸化防止能をより向上させる観点から、基油(A)の%Cは、好ましくは5.2%以下、より好ましくは5.0%以下、更に好ましくは4.8%以下、より更に好ましくは4.6%以下、更になお好ましくは4.4%以下、一層好ましくは4.2%以下、より一層好ましくは4.0%以下、更に一層好ましくは3.8%以下、より更に一層好ましくは3.5%以下である。また、好ましくは0.01%以上、より好ましくは0.1%以上、更に好ましくは0.5%以上、より更に好ましくは1.0%以上、更になお好ましくは1.5%以上、一層好ましくは2.0%以上、より一層好ましくは2.5%以上である。
【0017】
次に、本発明では、基油(A)の条件(A2)として、環分析(n-d-M法)による%Cが40%以上であることを規定している。基油(A)の%Cが40%未満であると、酸化防止剤が消耗した後に、ストレイガスの急激な発生が起こりやすくなる。
【0018】
ここで、本発明の一態様において、酸化防止剤が消耗した後のストレイガスの発生をより抑制しやすくする観点から、基油(A)の%Cは、好ましくは41.0%以上、より好ましくは41.2%以上、更に好ましくは41.4%以上、より更に好ましくは41.6%以上、更になお好ましくは41.8%以上、一層好ましくは42.0%以上、より一層好ましくは42.2%、更に一層好ましくは42.4%以上である。
なお、本発明の一態様において、酸化防止剤の消耗を抑制する観点、及び、酸化防止剤による酸化防止効果を向上させる観点から、基油(A)の%Cは、通常52%以下、好ましくは51%以下、より好ましくは50%以下である。
【0019】
なお、本発明において、基油(A)の%Cは、60%未満となる。ここで、本発明の一態様において、酸化防止剤が消耗した後のストレイガスの発生をより抑制しやすくする観点から、基油(A)の%Cは、好ましくは57.5%以下、より好ましくは57.2%以下、更に好ましくは57.0%以下、より更に好ましくは56.8%以下、更になお好ましくは56.6%以下、一層好ましくは56.4%以下、より一層好ましくは56.2%以下、更に一層好ましくは56.0%以下である。また、同様の観点から、基油(A)の%Cは、好ましくは53.6%以上、より好ましくは53.8%以上、更に好ましくは54.0%以上、より更に好ましくは54.2%以上、更になお好ましくは54.4%以上、一層好ましくは54.6%以上である。
%Cは、パラフィン炭素量に対する質量割合(百分率)を示す値である。
【0020】
次に、本発明では、基油(A)の条件(A3)として、流動点が-40℃以下であることを規定している。基油(A)の流動点が-40℃よりも高温であると、低温環境での使用時に電気絶縁油組成物の流動性が悪化する恐れがある。
なお、より低温条件下で流動性を満足する電気絶縁油組成物を調製する観点から、基油(A)の流動点は、好ましくは-40℃未満、より好ましくは-42.5℃以下、更に好ましくは-45.0℃以下である。基油(A)の流動点は、通常-65.0℃以上である。
【0021】
ここで、本発明の一態様において、実用上の安全性をより向上させる観点から、基油(A)の引火点は、好ましくは135℃以上、より好ましくは140℃以上、更に好ましくは145℃以上である。
なお、本発明において、引火点は、JIS K 2265-3:2007に準拠し、ペンスキーマルテンス密閉法により測定した値である。
【0022】
また、本発明の一態様において、基油(A)の密度は、好ましくは0.8400g/cm以上、より好ましくは0.8450g/cm以上、更に好ましくは0.8500g/cm以上である。また、基油(A)の密度は、好ましくは0.8950g/cm以下、より好ましくは0.8800g/cm以下、更に好ましくは0.8650g/cm以下である。
なお、本発明において、密度は、JIS K 2249に準拠して測定した値である。
【0023】
条件(A1)、(A2)、及び(A3)を満たす基油(A)、更には、条件(A1)、(A2)、及び(A3)に加えて上記引火点、さらには密度の要件を満たす基油(A)としては、例えば、精製パラフィン系鉱油が挙げられる。
当該精製パラフィン系鉱油は、例えば、パラフィン系原油の常圧蒸留後の残油を減圧蒸留し、得られた減圧留出油を1回以上、好ましくは1回水素化精製処理してから、水素化脱蝋処理した後、電気絶縁油組成物に用いられる基油として適切な粘度を有する留分を回収して調製される。
【0024】
本発明の一態様において、電気絶縁油組成物に用いられる基油として適切な粘度とは、基油(A)の40℃における動粘度が、好ましくは5mm/s以上12mm/s以下、より好ましくは6mm/s以上11mm/s以下、更に好ましくは7mm/s以上10mm/s以下であることを意味する。
また、本発明の一態様において、電気絶縁油組成物に用いられる基油として適切な粘度を100℃における動粘度で規定する場合、基油(A)の100℃における動粘度は、好ましくは1mm/s以上10mm/s以下、より好ましくは1.4mm/s以上8mm/s以下、更に好ましくは1.8mm/s以上6mm/s以下である。
【0025】
本発明の一態様において、電気絶縁油組成物中における基油(A)の含有量は、電気絶縁油組成物の全量基準で、好ましくは95質量%以上、より好ましくは97質量%以上、更に好ましくは99質量%以上である。
上記要件を満たす基油(A)は、電気絶縁油組成物用の基油として用いることによって、酸化防止剤消耗後のストレイガスの発生を抑制し得る。したがって、本発明の一態様では、上記要件を満たす基油(A)によって、酸化防止剤消耗後のストレイガスの発生を抑制し得る、電気絶縁油組成物用の基油が提供される。
【0026】
<フェノール系酸化防止剤>
本発明の電気絶縁油組成物は、フェノール系酸化防止剤を、電気絶縁油組成物の全量基準で、0.06質量%以上0.4質量%以下含む。
本発明の一態様の電気絶縁油組成物において、フェノール系酸化防止剤の含有量は、電気絶縁油組成物の酸化防止効果を十分に発揮させながらも、電気絶縁油組成物の絶縁性能を十分に確保する観点から、電気絶縁油組成物の全量基準で、好ましくは0.06質量%以上0.35質量%以下、より好ましくは0.06質量%以上0.30質量%以下である。
【0027】
ここで、本発明の一態様の電気絶縁油組成物は、IEC規格(IEC60296)における「微量添加油(T)」として使用することを想定する場合、フェノール系酸化防止剤の含有量は、電気絶縁油組成物の全量基準で、好ましくは0.06質量%以上0.08質量%未満であり、より好ましくは0.065質量%以上0.075質量%以下である。
また、本発明の一態様の電気絶縁油組成物は、IEC規格(IEC60296)における「添加油(I)」として使用することを想定する場合、フェノール系酸化防止剤の含有量は、電気絶縁油組成物の全量基準で、好ましくは0.08質量%以上0.4質量%以下であり、より好ましくは0.15質量%以上0.4質量%以下であり、更に好ましくは0.2質量%以上0.35質量%以下である。
【0028】
フェノール系酸化防止剤としては、例えば、2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール、2,6-ジ-t-ブチル-4-エチルフェノール、2,4-ジメチル-6-t-ブチルフェノール、2,6-ジ-t-アミル-p-クレゾール、n-オクチル-3-(4-ヒドロキシ-3,5-ジ-t-ブチルフェニル)プロピオネート、6-メチルヘプチル-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオナート、n-オクタデシル-3-(4-ヒドロキシ-3,5-ジ-t-ブチルフェニル)プロピオネートなどのモノフェノール系酸化防止剤が挙げられる。
また、4,4'-メチレンビス(2,6-ジ-t-ブチルフェノール)、4,4'-ビス(2,6-ジ-t-ブチルフェノール)、4,4'-ビス(2-メチル-6-t-ブチルフェノール)、2,2'-メチレンビス(4-エチル-6-t-ブチルフェノール)、2,2'-メチレンビス(4-メチル-6-t-ブチルフェノール)、4,4'-ブチリデンビス(3-メチル-6-t-ブチルフェノール)、4,4'-イソプロピリデンビス(2,6-ジ-t-ブチルフェノール)、2,2'-メチレンビス(4-メチル-6-ノニルフェノール)、2,2'-イソブチリデンビス(4,6-ジメチルフェノール)、2,2'-メチレンビス(4-メチル-6-シクロヘキシルフェノール)、4,4'-チオビス(2-メチル-6-t-ブチルフェノール)、4,4'-チオビス(3-メチル-6-t-ブチルフェノール)、2,2'-チオビス(4-メチル-6-t-ブチルフェノール)、ビス(3-メチル-4-ヒドロキシ-5-t-ブチルベンジル)スルフィド、ビス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)スルフィド、チオジエチレンビス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]等のビスフェノール系酸化防止剤が挙げられる。
これらの中でも、モノフェノール系酸化防止剤が好ましく、2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾールが更に好ましい。
酸化防止剤は、一種を単独で、又は二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0029】
<帯電防止剤>
本発明の電気絶縁油組成物は、帯電防止剤を、電気絶縁油組成物の全量基準で、3質量ppm以上40質量ppm以下含む。
本発明の一態様の電気絶縁油組成物において、電気絶縁油組成物の流動帯電現象を効果的に抑制する観点から、電気絶縁油組成物の全量基準で、好ましくは4質量ppm以上38質量ppm以下、より好ましくは5質量ppm以上35質量ppm以下、更に好ましくは7質量ppm以上30質量ppm以下である。
【0030】
本発明の一態様の電気絶縁油組成物において用いられる帯電防止剤の種類は特に限定されず、電気絶縁油組成物に一般的に用いられる帯電防止剤から選択される一種以上を適宜用いることができる。
ここで、本発明の一態様の電気絶縁油組成物において用いられる帯電防止剤としては、ベンゾトリアゾール系化合物を用いることが好ましい。ベンゾトリアゾール系化合物は、金属不活性化剤としての機能する化合物である。そのため、電気絶縁油組成物の酸化防止能を更に向上させ得る。
ベンゾトリアゾール系化合物としては、例えば、ベンゾトリアゾール及びその誘導体が挙げられる。これらの中でも、ベンゾトリアゾールが好ましく、1,2,3-ベンゾトリアゾールがより好ましい。
帯電防止剤は、一種を単独で、又は二種以上を組合せて用いてもよい。
【0031】
<金属不活性化剤>
本発明の一態様の電気絶縁油組成物は、さらに金属不活性化剤を含有してもよい。
本発明の一態様の電気絶縁油組成物において用いられる金属不活性化剤の種類は特に限定されず、電気絶縁油組成物に一般的に用いられる金属不活性化剤から選択される一種以上を適宜用いることができる。
このような金属不活性化剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール系化合物及びチアジアゾール系化合物が挙げられる。
ベンゾトリアゾール系化合物としては、例えば、ベンゾトリアゾール及びその誘導体が挙げられる。
チアジアゾール系化合物としては、例えば、チアジアゾール及びその誘導体が挙げられる。
なお、ベンゾトリアゾール系化合物は、上記のように、帯電防止剤としても機能する。したがって、ベンゾトリアゾール系化合物を金属不活性化剤とした場合には、流動帯電現象を効果的に抑制する効果も発揮され得る。
また、本発明の一態様の電気絶縁油組成物において、帯電防止剤としてベンゾトリアゾール系化合物を含む場合、金属不活性化剤として、更にベンゾトリアゾール系化合物以外の金属不活性化剤が含まれていてもよい。
金属不活性化剤は、一種を単独で、又は二種以上を組合せて用いてもよい。
【0032】
<その他の添加剤>
本発明の一態様の電気絶縁油組成物は、本発明の効果を妨げない範囲で、上記成分以外の添加剤を含有してもよい。上記成分以外の添加剤としては、流動点降下剤等が挙げられる。
【0033】
[電気絶縁油組成物の性状]
本発明の一態様の電気絶縁油組成物は、以下の性状を有する。
【0034】
<酸価及びスラッジ発生量>
(JIS C2101規格法による酸価及びスラッジ発生量)
JIS C2101規格に基づく評価試験における、本発明の一態様の電気絶縁油組成物の酸化試験後の酸価は、0.6mgKOH/g以下であり、好ましくは0.5mgKOH/g以下、より好ましくは0.4mgKOH/g以下、更に好ましくは0.3mgKOH/g以下である。
また、JIS C2101規格に基づく評価試験における、本発明の一態様の電気絶縁油組成物の酸化試験後のスラッジ発生量は、0.4%以下であり、好ましくは0.3%以下、より好ましくは0.2%以下、更に好ましくは0.1%以下である。
【0035】
(IEC61125規格C法による酸価及びスラッジ発生量)
IEC61125規格C法に基づく評価試験における、本発明の一態様の電気絶縁油組成物の酸化試験後の酸価は、1.2mgKOH/g以下であり、好ましくは1.0mgKOH/g以下、より好ましくは0.9mgKOH/g以下、更に好ましくは0.8mgKOH/g以下である。
また、IEC61125規格C法に基づく評価試験における、本発明の一態様の電気絶縁油組成物の酸化試験後のスラッジ発生量は、0.8%以下であり、好ましくは0.7%以下、より好ましくは0.6%以下、更に好ましくは0.5%以下である。
【0036】
<動粘度>
本発明の一態様の電気絶縁油組成物の40℃における動粘度は、5mm/s以上12mm/s以下であることが好ましく、より好ましくは6mm/s以上11mm/s以下、さらに好ましくは7mm/s以上10mm/s以下である。5mm/s以上であれば、揮発性が高くなりにくく、引火点が低下することもなく、安全上問題が生じる可能性が軽減される。12mm/s以下であれば、流動性が低くならず、装置内で循環しにくくなることを回避できるため、電気絶縁油組成物に要求される冷却性能に影響を与える可能性は軽減される。
100℃における動粘度は、1mm/s以上10mm/s以下が好ましい。100℃における動粘度がこの範囲にあると、揮発性が適切になり、安全上問題が生じることがない。当該観点から、より好ましくは1.4mm/s以上8mm/s以下、更に好ましくは1.8mm/s以上6mm/s以下である。
【0037】
[電気絶縁油組成物の製造方法]
本発明の電気絶縁油組成物を製造する方法は、特に限定されないが、例えば、以下の工程を含む製造方法により製造される。
(工程1):パラフィン系原油の常圧蒸留後の残油を減圧蒸留し、得られた減圧留出油を1回以上水素化分解処理してから、水素化脱蝋処理して、40℃動粘度が5mm/s以上12mm/s以下の基油(A)を調製する工程、
(工程2):工程1で得られた基油(A)と、フェノール系酸化防止剤と、帯電防止剤とを、前記フェノール系酸化防止剤の含有量が、電気絶縁油組成物の全量基準で0.06質量%以上0.4質量%以下となり、かつ、帯電防止剤の含有量が、電気絶縁油組成物の全量基準で3質量ppm以上40質量ppm以下となるように混合する工程
なお、工程2において、基油(A)と、フェノール系酸化防止剤と、帯電防止剤とを同時に混合することには限定されず、これらのうちのいずれか2種を混合した後、残りの1種を混合するようにしてもよい。
フェノール系酸化防止剤及び帯電防止剤としては、上記の例示化合物を用いることができる。
また、工程2において、さらに金属不活性化剤を混合してもよい。金属不活性化剤についても、上記の例示化合物を用いることができる。
【0038】
[電気絶縁油組成物の使用方法]
本発明の電気絶縁油組成物は、油入コンデンサ、油入ケーブル、油入変圧器、及び油入遮断器等の油入電気機器の絶縁材料として使用することができる。
したがって、本発明によれば、本発明の電気絶縁油組成物を、油入コンデンサ、油入ケーブル、油入変圧器、及び油入遮断器等の油入電気機器の絶縁材料として使用する方法が提供される。
【0039】
[油入電気機器]
上記のとおり、本発明の電気絶縁油組成物は、油入コンデンサ、油入ケーブル、油入変圧器、及び油入遮断器等の油入電気機器の絶縁材料として使用することができる。
したがって、本発明によれば、本発明の電気絶縁油組成物を絶縁材料として有する油入コンデンサ、油入ケーブル、油入変圧器、及び油入遮断器等の油入電気機器が提供される。
【実施例
【0040】
以下、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明する。但し、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0041】
[基油1~5の調製]
以下に説明する方法により、基油1~5を調製した。
<基油1>
パラフィン系原油の常圧蒸留残渣の減圧蒸留留分に対し、水素化精製処理を1回施し、次いで、水素化脱蝋処理を1回施して得られる、電気絶縁油相当の粘度(60N)の留分を基油1として用いた。
<基油2>
パラフィン系原油の常圧蒸留残渣の減圧蒸留留分に対し、水素化精製処理を2回施し、次いで、水素化脱蝋処理を1回施して得られる、電気絶縁油相当の粘度(60N)の留分を基油2として用いた。
<基油3>
パラフィン系原油の常圧蒸留残渣の減圧蒸留留分に対し、水素化精製処理を1回施して得られる、電気絶縁油相当の粘度(60N)の留分を基油3として用いた。
<基油4>
パラフィン系原油の常圧蒸留残渣の減圧蒸留留分に対し、水素化精製処理を1回施し、次いで、溶剤脱蝋処理を1回施して得られる、電気絶縁油相当の粘度(60N)の留分を基油4として用いた。
<基油5>
パラフィン系原油を減圧蒸留処理して得られる減圧軽油に対し、水素化分解処理を1回施し、次いで、水素化脱蝋処理を1回施して得られる、電気絶縁油相当の粘度(60N)の留分を基油5として用いた。
【0042】
[基油1~5の性状測定]
基油1~5について、以下の性状を測定した。
<%C、%C、及び%C
%C、%C、及び%Cは、ASTM D3238-95に準拠し、環分析(n-d-M法)にて求めた。
<流動点>
流動点は、JIS K 2269:1987に準拠して測定した。
<引火点>
引火点は、JIS K 2265-3:2007に準拠し、ペンスキーマルテンス密閉法により測定した。
<40℃動粘度、100℃動粘度、及び粘度指数>
40℃動粘度、100℃動粘度、及び粘度指数は、JIS K2283:2003に準拠して測定及び算出した。
<密度>
密度は、JIS K 2249に準拠して測定した。
【0043】
[電気絶縁油組成物の調製]
基油1~5のそれぞれに、酸化防止剤として、フェノール系酸化防止剤である2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾールを、電気絶縁油組成物の全量基準で0.07質量%添加し、また、帯電防止剤として、1,2,3-ベンゾトリアゾールを、電気絶縁油組成物の全量基準で10質量ppm添加し、電気絶縁油組成物を調製した。
【0044】
[評価]
調製した電気絶縁油組成物について、以下に説明する2種の酸化試験を実施した。
【0045】
<JIS酸化試験>
調製した電気絶縁油組成物をJIS C2101規格に基づく評価試験により評価した。
具体的には、JIS C2101規格に基づく評価試験における、電気絶縁油組成物の酸化試験後の酸価及びスラッジ発生量の双方が以下の基準を満たす場合には総合評価Aとし、酸価及びスラッジ発生量の少なくともいずれかが以下の基準を満たさない場合は総合評価Bとした。
(酸価)
・0.6mgKOH/g以下
(スラッジ発生量)
・0.4%以下
【0046】
<IEC酸化試験>
調製した電気絶縁油組成物をIEC61125規格C法に基づく評価試験により評価した。
具体的には、IEC61125規格C法に基づく評価試験における、電気絶縁油組成物の酸化試験後の酸価及びスラッジ発生量の双方が以下の基準を満たす場合には総合評価Aとし、酸価及びスラッジ発生量の少なくともいずれかが以下の基準を満たさない場合は総合評価Bとした。
(酸価)
・1.2mgKOH/g以下
(スラッジ発生量)
・0.8%以下
【0047】
<可燃性ガス発生量の測定>
酸化防止剤を消費し尽した後のストレイガスの発生状況を確認するため、基油1~5について、次の手順で可燃性ガスの発生量を測定した。まず、ASTM D7150に準拠し、室温にて30分間の空気バブリングを行った後、容量50mLのガラスシリンジに40mLの基油を採取した。次に、基油を入れたガラスシリンジを120℃の恒温槽で164時間加熱した後、基油中の可燃性ガスをストリッピング抽出ガスクロマトグラフィー法で測定した。測定対象とした可燃性ガスは、水素(H)、メタン(CH)、エタン(C)、プロパン(C)、イソブタン(i-C10)、ノルマルブタン(n-C10)、及び一酸化炭素(CO)である。測定対象とした可燃性ガスの総量を総可燃性ガス発生量(TCG)とし、TCGを以下の基準により評価して、可燃性ガス発生量を総合評価した。
・1500ppm以下:A
・1500ppm超:B
【0048】
基油1~5の性状測定結果、JIS酸化試験結果、IEC酸化試験結果、及び可燃性ガス発生量測定結果を表1に示す。
【0049】
【表1】
【0050】
表1に示す結果から、比較例1及び2のように、%Cが5.3%以上であると、酸化防止効果が十分に得られないことがわかる。また、比較例3のように、%Cが40%未満で且つ%Cが比較例1よりも大きな値となる場合、特に、%Cが40%未満で且つ%Cが60.0%以上である精製度の高い基油である場合、酸化防止剤を消耗した後に多量の可燃性ガスが発生することがわかる。
これらに対し、上記条件(A1)、(A2)、及び(A3)を満たす基油を用いた実施例1及び2の電気絶縁油組成物は、十分な酸化防止効果が確保されていると共に、酸化防止剤を消耗した後の可燃性ガスの発生が抑制されていることがわかる。
また、実施例1及び2並びに比較例1~3における水素発生量の傾向から、%Cが5.3%未満であると水素発生量が抑えられることがわかる。そして、実施例1及び2では、水素以外の可燃性ガスの発生量も十分に抑えられ、水素及び水素以外の可燃性ガスの発生量が全体として抑えられる。これにより、酸化防止剤を消耗した後のストレイガスの発生が十分に抑制される。
また、%Cが2.7%以上5.3%未満であると、水素の発生量と水素以外の可燃性ガスの発生量とが特に少ないため、酸化防止剤を消耗した後のストレイガスの発生が極めて効果的に抑制され得る。