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特許7042343インクセット、インクジェット捺染方法、及び着色樹脂粒子分散物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-16
(45)【発行日】2022-03-25
(54)【発明の名称】インクセット、インクジェット捺染方法、及び着色樹脂粒子分散物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/40 20140101AFI20220317BHJP
   C09D 11/328 20140101ALI20220317BHJP
   B41M 5/00 20060101ALI20220317BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20220317BHJP
【FI】
C09D11/40
C09D11/328
B41M5/00 120
B41M5/00 114
B41M5/00 132
B41M5/00 100
B41J2/01 501
【請求項の数】 27
(21)【出願番号】P 2020532345
(86)(22)【出願日】2019-07-18
(86)【国際出願番号】 JP2019028338
(87)【国際公開番号】W WO2020022192
(87)【国際公開日】2020-01-30
【審査請求日】2020-10-30
(31)【優先権主張番号】P 2018141895
(32)【優先日】2018-07-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019036273
(32)【優先日】2019-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002505
【氏名又は名称】特許業務法人航栄特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 昭太
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 憲晃
(72)【発明者】
【氏名】▲濱▼田 直佳
(72)【発明者】
【氏名】中野 良一
(72)【発明者】
【氏名】井腰 剛生
【審査官】田澤 俊樹
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/131107(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/042916(WO,A1)
【文献】特開2012-007148(JP,A)
【文献】特開2004-075920(JP,A)
【文献】特開2003-055886(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/00-11/54
B41M 5/00
B41J 2/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブラックインク、イエローインク、マゼンタインク、及びシアンインクを含有するインクセットであって、
前記インクセットのうちの少なくとも1種のインクが、
着色樹脂粒子と水とを含む着色樹脂粒子分散物を含有するインクであ
前記着色樹脂粒子は、油溶性染料、分散染料、及び建染染料からなる群より選択される少なくとも1種の染料と、非水溶性鎖状ポリマーとを含み、
前記非水溶性鎖状ポリマーは、下記一般式(G)で表される構造、環状構造、及び親水性基を有する、インクセット
【化1】
一般式(G)中、Rgは水素原子又は置換基を表し、Lgは-O-、-S-、又は-NRz-を表す。Rzは水素原子又は置換基を表す。*は結合位置を表す。
【請求項2】
前記非水溶性鎖状ポリマーが、下記一般式(1)で表される構造単位及び下記一般式(2)で表される構造単位からなる群より選択される少なくとも1種の構造単位を有する請求項1に記載のインクセット
【化2】
一般式(1)及び(2)中、
Cy及びCyは、それぞれ独立に、環状構造を含む2価の有機基を表し、
及びYは、それぞれ独立に、-O-、-S-、又は-NRz-を表し、
Rzは、水素原子又は置換基を表す。
*1及び*2はそれぞれ結合位置を表す。
【請求項3】
前記非水溶性鎖状ポリマーが、前記一般式(1)で表される構造単位及び前記一般式(2)で表される構造単位を共に有する請求項2に記載のインクセット
【請求項4】
前記一般式(1)で表される構造単位及び前記一般式(2)で表される構造単位からなる群より選択される少なくとも1種の構造単位の総量が、前記非水溶性鎖状ポリマーの全量に対し、15質量%以上である請求項2又は3に記載のインクセット
【請求項5】
前記非水溶性鎖状ポリマー1g中の環状構造の物質量の総和が、0.7mmol/g以上である請求項1~4のいずれか1項に記載のインクセット
【請求項6】
前記Cy及びCyの少なくとも1つが、環を3つ以上含む請求項2~4のいずれか1項に記載のインクセット
【請求項7】
前記非水溶性鎖状ポリマーが重合性基を有する請求項1~6のいずれか1項に記載のインクセット
【請求項8】
前記親水性基が、カルボキシ基及びカルボキシ基の塩からなる群から選択される少なくとも1種である請求項1~7のいずれか1項に記載のインクセット
【請求項9】
前記非水溶性鎖状ポリマー1g中のカルボキシ基及びカルボキシ基の塩の物質量の総和が、0.30mmol/g~1.50mmol/gである請求項8に記載のインクセット
【請求項10】
前記非水溶性鎖状ポリマーの重量平均分子量が、5000~100000である請求項1~9のいずれか1項に記載のインクセット
【請求項11】
前記染料が油溶性染料である、請求項1~10のいずれか1項に記載のインクセット
【請求項12】
前記油溶性染料は、アゾ基を2つ有している、請求項11に記載のインクセット
【請求項13】
前記油溶性染料が、金属錯体又は下記一般式(M-A)で表される化合物を含む、請求項11又は12に記載のインクセット
【化3】
一般式(M-A)中、R~R20は各々独立に水素原子又は置換基を表す。
【請求項14】
前記油溶性染料は、クロムを含む、請求項13に記載のインクセット
【請求項15】
前記染料の含有量に対する前記非水溶性鎖状ポリマーの含有量の質量比が、0.1~2.5である、請求項1~14のいずれか1項に記載のインクセット
【請求項16】
前記染料の含有量に対する前記非水溶性鎖状ポリマーの含有量の質量比が、0.25~1である、請求項1~15のいずれか1項に記載のインクセット
【請求項17】
前記着色樹脂粒子が、油性有機溶剤を含有する請求項1~16のいずれか1項に記載のインクセット
【請求項18】
前記油性有機溶剤の沸点が180℃以上である請求項17に記載のインクセット
【請求項19】
前記着色樹脂粒子分散物を含有するインクが、顔料を含有する請求項1~18のいずれか1項に記載のインクセット
【請求項20】
インクジェット用である請求項1~19のいずれか1項に記載のインクセット
【請求項21】
捺染用である請求項1~20のいずれか1項に記載のインクセット
【請求項22】
前記ブラックインクが、前記着色樹脂粒子分散物を含有するインクである、請求項1~21のいずれか1項に記載のインクセット。
【請求項23】
請求項1~21のいずれか1項に記載のインクセットを用いて、インクジェット方式で布帛に印捺する工程を有するインクジェット捺染方法。
【請求項24】
前記布帛が綿及びポリエステルから選ばれる少なくとも1種を含む、請求項23に記載のインクジェット捺染方法。
【請求項25】
前記布帛が、凝集剤を含む水性前処理液により前処理された布帛である、請求項23又は24に記載のインクジェット捺染方法。
【請求項26】
更に熱処理工程を含む、請求項23~25のいずれか1項に記載のインクジェット捺染方法。
【請求項27】
着色樹脂粒子と水とを含む着色樹脂粒子分散物の製造方法であって、
前記着色樹脂粒子は、油溶性染料、分散染料、及び建染染料からなる群より選択される少なくとも1種の染料と、非水溶性鎖状ポリマーとを含み、
前記非水溶性鎖状ポリマーは、下記一般式(G)で表される構造、環状構造、及び親水性基を有し、
下記工程(1)及び(2)を含む、着色樹脂粒子分散物の製造方法。
工程(1):油溶性染料、分散染料、及び建染染料からなる群より選択される少なくとも1種の染料と、下記一般式(G)で表される構造、環状構造、及び親水性基を有する非水溶性鎖状ポリマーと、水と、有機溶剤とを含有する混合物を乳化処理して乳化物を得る工程
工程(2):前記工程(1)で得られた前記乳化物から前記有機溶剤を除去する工程
ただし、前記工程(1)の前記混合物における前記染料の含有量に対する前記非水溶性鎖状ポリマーの含有量の質量比は0.1~2.5である。
【化4】
一般式(G)中、Rgは水素原子又は置換基を表し、Lgは-O-、-S-、又は-NRz-を表す。Rzは水素原子又は置換基を表す。*は結合位置を表す。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、着色樹脂粒子分散物、インク、インクセット、及びインクジェット捺染方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェットインクは、インクジェット法に適用できるインクであり、種々の用途に広く用いられている。たとえば、インクジェット捺染は、版を作製する必要がなく、手早く階調性に優れた画像を形成でき、更に、形成画像として必要な量のインクのみを使用するため、廃液が少ないなどの環境的な利点を有する優れた捺染方法であると言える。
【0003】
特許文献1及び2には、染料によりコアが構成され、架橋構造を有するポリマーによりシェルが構成された、コア-シェル構造を有する粒子と、水性媒体とを含むインクが記載されている。
特許文献3には、分散染料と、分散染料の分散媒体としての水溶性ウレタンポリマーと、水とを含むインクが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】欧州特許第2933374号明細書
【文献】日本国特開2008-69203号公報
【文献】日本国特開平10-168151号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、本発明者らの検討により、特許文献1、2に記載のインクは、インクジェット捺染に適用した際に得られる着色布の発色性、及び保存安定性が不十分であることが分かった。
【0006】
本発明の課題は、布帛上に、発色性、耐洗濯性、耐汗性、耐摩擦性及び耐ドライクリーニング性に優れた画像を形成することができ、プラスチック基材上に発色性、鉛筆硬度、及び基材との密着性に優れた画像を形成することができ、かつ吐出安定性及び保存安定性に優れるインクを製造するために用いることができる着色樹脂粒子分散物、上記着色樹脂粒子分散物を用いて製造されたインク、上記インクを有するインクセット、上記インクを用いたインクジェット捺染方法、及び上記着色樹脂粒子分散物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは鋭意研究を重ね、特定の非水溶性鎖状ポリマー(一般式(G)で表される構造、環状構造、及び親水性基を有する非水溶性鎖状ポリマー)と特定の染料(油溶性染料、分散染料、及び建染染料からなる群より選択される少なくとも1種の染料)とを含む着色樹脂粒子を用いることで、上記課題を解決できることを見出した。すなわち、本発明は下記構成を有する。
〔1〕
ブラックインク、イエローインク、マゼンタインク、及びシアンインクを含有するインクセットであって、
上記インクセットのうちの少なくとも1種のインクが、
着色樹脂粒子と水とを含む着色樹脂粒子分散物を含有するインクであり、
上記着色樹脂粒子は、油溶性染料、分散染料、及び建染染料からなる群より選択される少なくとも1種の染料と、非水溶性鎖状ポリマーとを含み、
上記非水溶性鎖状ポリマーは、下記一般式(G)で表される構造、環状構造、及び親水性基を有する、インクセット。
【化101】
一般式(G)中、Rgは水素原子又は置換基を表し、Lgは-O-、-S-、又は-NRz-を表す。Rzは水素原子又は置換基を表す。*は結合位置を表す。
〔2〕
上記非水溶性鎖状ポリマーが、下記一般式(1)で表される構造単位及び下記一般式(2)で表される構造単位からなる群より選択される少なくとも1種の構造単位を有する〔1〕に記載のインクセット。
【化102】
一般式(1)及び(2)中、
Cy 及びCy は、それぞれ独立に、環状構造を含む2価の有機基を表し、
及びY は、それぞれ独立に、-O-、-S-、又は-NRz-を表し、
Rzは、水素原子又は置換基を表す。
*1及び*2はそれぞれ結合位置を表す。
〔3〕
上記非水溶性鎖状ポリマーが、上記一般式(1)で表される構造単位及び上記一般式(2)で表される構造単位を共に有する〔2〕に記載のインクセット。
〔4〕
上記一般式(1)で表される構造単位及び上記一般式(2)で表される構造単位からなる群より選択される少なくとも1種の構造単位の総量が、上記非水溶性鎖状ポリマーの全量に対し、15質量%以上である〔2〕又は〔3〕に記載のインクセット。
〔5〕
上記非水溶性鎖状ポリマー1g中の環状構造の物質量の総和が、0.7mmol/g以上である〔1〕~〔4〕のいずれか1項に記載のインクセット。
〔6〕
上記Cy 及びCy の少なくとも1つが、環を3つ以上含む〔2〕~〔4〕のいずれか1項に記載のインクセット。
〔7〕
上記非水溶性鎖状ポリマーが重合性基を有する〔1〕~〔6〕のいずれか1項に記載のインクセット。
〔8〕
上記親水性基が、カルボキシ基及びカルボキシ基の塩からなる群から選択される少なくとも1種である〔1〕~〔7〕のいずれか1項に記載のインクセット。
〔9〕
上記非水溶性鎖状ポリマー1g中のカルボキシ基及びカルボキシ基の塩の物質量の総和が、0.30mmol/g~1.50mmol/gである〔8〕に記載のインクセット。
〔10〕
上記非水溶性鎖状ポリマーの重量平均分子量が、5000~100000である〔1〕~〔9〕のいずれか1項に記載のインクセット。
〔11〕
上記染料が油溶性染料である、〔1〕~〔10〕のいずれか1項に記載のインクセット。
〔12〕
上記油溶性染料は、アゾ基を2つ有している、〔11〕に記載のインクセット。
〔13〕
上記油溶性染料が、金属錯体又は下記一般式(M-A)で表される化合物を含む、〔11〕又は〔12〕に記載のインクセット。
【化103】
一般式(M-A)中、R ~R 20 は各々独立に水素原子又は置換基を表す。
〔14〕
上記油溶性染料は、クロムを含む、〔13〕に記載のインクセット。
〔15〕
上記染料の含有量に対する上記非水溶性鎖状ポリマーの含有量の質量比が、0.1~2.5である、〔1〕~〔14〕のいずれか1項に記載のインクセット。
〔16〕
上記染料の含有量に対する上記非水溶性鎖状ポリマーの含有量の質量比が、0.25~1である、〔1〕~〔15〕のいずれか1項に記載のインクセット。
〔17〕
上記着色樹脂粒子が、油性有機溶剤を含有する〔1〕~〔16〕のいずれか1項に記載のインクセット。
〔18〕
上記油性有機溶剤の沸点が180℃以上である〔17〕に記載のインクセット。
〔19〕
上記着色樹脂粒子分散物を含有するインクが、顔料を含有する〔1〕~〔18〕のいずれか1項に記載のインクセット。
〔20〕
インクジェット用である〔1〕~〔19〕のいずれか1項に記載のインクセット。
〔21〕
捺染用である〔1〕~〔20〕のいずれか1項に記載のインクセット。
〔22〕
上記ブラックインクが、上記着色樹脂粒子分散物を含有するインクである、〔1〕~〔21〕のいずれか1項に記載のインクセット。
〔23〕
〔1〕~〔21〕のいずれか1項に記載のインクセットを用いて、インクジェット方式で布帛に印捺する工程を有するインクジェット捺染方法。
〔24〕
上記布帛が綿及びポリエステルから選ばれる少なくとも1種を含む、〔23〕に記載のインクジェット捺染方法。
〔25〕
上記布帛が、凝集剤を含む水性前処理液により前処理された布帛である、〔23〕又は〔24〕に記載のインクジェット捺染方法。
〔26〕
更に熱処理工程を含む、〔23〕~〔25〕のいずれか1項に記載のインクジェット捺染方法。
〔27〕
着色樹脂粒子と水とを含む着色樹脂粒子分散物の製造方法であって、
上記着色樹脂粒子は、油溶性染料、分散染料、及び建染染料からなる群より選択される少なくとも1種の染料と、非水溶性鎖状ポリマーとを含み、
上記非水溶性鎖状ポリマーは、下記一般式(G)で表される構造、環状構造、及び親水性基を有し、
下記工程(1)及び(2)を含む、着色樹脂粒子分散物の製造方法。
工程(1):油溶性染料、分散染料、及び建染染料からなる群より選択される少なくとも1種の染料と、下記一般式(G)で表される構造、環状構造、及び親水性基を有する非水溶性鎖状ポリマーと、水と、有機溶剤とを含有する混合物を乳化処理して乳化物を得る工程
工程(2):上記工程(1)で得られた上記乳化物から上記有機溶剤を除去する工程
ただし、上記工程(1)の上記混合物における上記染料の含有量に対する上記非水溶性鎖状ポリマーの含有量の質量比は0.1~2.5である。
【化104】
一般式(G)中、Rgは水素原子又は置換基を表し、Lgは-O-、-S-、又は-NRz-を表す。Rzは水素原子又は置換基を表す。*は結合位置を表す。
本発明は、上記〔1〕~〔27〕に係る発明であるが、以下、それ以外の事項についても参考のため記載している。
【0008】
<1>
着色樹脂粒子と水とを含む着色樹脂粒子分散物であって、
上記着色樹脂粒子は、油溶性染料、分散染料、及び建染染料からなる群より選択される少なくとも1種の染料と、非水溶性鎖状ポリマーとを含み、
上記非水溶性鎖状ポリマーは、下記一般式(G)で表される構造、環状構造、及び親水性基を有する、着色樹脂粒子分散物。
【0009】
【化1】
【0010】
一般式(G)中、Rgは水素原子又は置換基を表し、Lgは-O-、-S-、又は-NRz-を表す。Rzは水素原子又は置換基を表す。*は結合位置を表す。
<2>
上記非水溶性鎖状ポリマーが、下記一般式(1)で表される構造単位及び下記一般式(2)で表される構造単位からなる群より選択される少なくとも1種の構造単位を有する<1>に記載の着色樹脂粒子分散物。
【0011】
【化2】
【0012】
一般式(1)及び(2)中、
Cy及びCyは、それぞれ独立に、環状構造を含む2価の有機基を表し、
及びYは、それぞれ独立に、-O-、-S-、又は-NRz-を表し、
Rzは、水素原子又は置換基を表す。
*1及び*2はそれぞれ結合位置を表す。
<3>
上記非水溶性鎖状ポリマーが、上記一般式(1)で表される構造単位及び上記一般式(2)で表される構造単位を共に有する<2>に記載の着色樹脂粒子分散物。
<4>
上記一般式(1)で表される構造単位及び上記一般式(2)で表される構造単位からなる群より選択される少なくとも1種の構造単位の総量が、上記非水溶性鎖状ポリマーの全量に対し、15質量%以上である<2>又は<3>に記載の着色樹脂粒子分散物。
<5>
上記非水溶性鎖状ポリマー1g中の環状構造の物質量の総和が、0.7mmol/g以上である<1>~<4>のいずれか1項に記載の着色樹脂粒子分散物。
<6>
上記Cy及びCyの少なくとも1つが、環を3つ以上含む<2>~<4>のいずれか1項に記載の着色樹脂粒子分散物。
<7>
上記非水溶性鎖状ポリマーが重合性基を有する<1>~<6>のいずれか1項に記載の着色樹脂粒子分散物。
<8>
上記親水性基が、カルボキシ基及びカルボキシ基の塩からなる群から選択される少なくとも1種である<1>~<7>のいずれか1項に記載の着色樹脂粒子分散物。
<9>
上記非水溶性鎖状ポリマー1g中のカルボキシ基及びカルボキシ基の塩の物質量の総和が、0.30mmol/g~1.50mmol/gである<8>に記載の着色樹脂粒子分散物。
<10>
上記非水溶性鎖状ポリマーの重量平均分子量が、5000~100000である<1>~<9>のいずれか1項に記載の着色樹脂粒子分散物。
<11>
上記染料が油溶性染料である、<1>~<10>のいずれか1項に記載の着色樹脂粒子分散物。
<12>
上記油溶性染料は、アゾ基を2つ有している、<11>に記載の着色樹脂粒子分散物。
<13>
上記油溶性染料が、金属錯体又は下記一般式(M-A)で表される化合物を含む、<11>又は<12>に記載の着色樹脂粒子分散物。
【0013】
【化3】
【0014】
一般式(M-A)中、R~R20は各々独立に水素原子又は置換基を表す。
<14>
上記油溶性染料は、クロムを含む、<13>に記載の着色樹脂粒子分散物。
<15>
上記染料の含有量に対する上記非水溶性鎖状ポリマーの含有量の質量比が、0.1~2.5である、<1>~<14>のいずれか1項に記載の着色樹脂粒子分散物。
<16>
上記染料の含有量に対する上記非水溶性鎖状ポリマーの含有量の質量比が、0.25~1である、<1>~<15>のいずれか1項に記載の着色樹脂粒子分散物。
<17>
上記着色樹脂粒子が、油性有機溶剤を含有する<1>~<16>のいずれか1項に記載の着色樹脂粒子分散物。
<18>
上記油性有機溶剤の沸点が180℃以上である<17>に記載の着色樹脂粒子分散物。
<19>
<1>~<18>のいずれか1項に記載の着色樹脂粒子分散物を含有するインク。
<20>
顔料を含有する<19>に記載のインク。
<21>
インクジェット用である<19>又は<20>に記載のインク。
<22>
捺染用である<19>~<21>のいずれか1項に記載のインク。
<23>
ブラックインク、イエローインク、マゼンタインク、及びシアンインクを含有するインクセットであって、上記インクセットのうちの少なくとも1種のインクが、<19>~<22>のいずれか1項に記載のインクである、インクセット。
<24>
上記ブラックインクが、<19>~<22>のいずれか1項に記載のインクである、<23>に記載のインクセット。
<25>
<19>~<22>のいずれか1項に記載のインクを、インクジェット方式で布帛に印捺する工程を有するインクジェット捺染方法。
<26>
上記布帛が綿及びポリエステルから選ばれる少なくとも1種を含む、<25>に記載のインクジェット捺染方法。
<27>
上記布帛が、凝集剤を含む水性前処理液により前処理された布帛である、<25>又は<26>に記載のインクジェット捺染方法。
<28>
更に熱処理工程を含む、<25>~<27>のいずれか1項に記載のインクジェット捺染方法。
<29>
着色樹脂粒子と水とを含む着色樹脂粒子分散物の製造方法であって、
上記着色樹脂粒子は、油溶性染料、分散染料、及び建染染料からなる群より選択される少なくとも1種の染料と、非水溶性鎖状ポリマーとを含み、
上記非水溶性鎖状ポリマーは、下記一般式(G)で表される構造、環状構造、及び親水性基を有し、
下記工程(1)及び(2)を含む、着色樹脂粒子分散物の製造方法。
工程(1):油溶性染料、分散染料、及び建染染料からなる群より選択される少なくとも1種の染料と、下記一般式(G)で表される構造、環状構造、及び親水性基を有する非水溶性鎖状ポリマーと、水と、有機溶剤とを含有する混合物を乳化処理して乳化物を得る工程
工程(2):上記工程(1)で得られた上記乳化物から上記有機溶剤を除去する工程
ただし、上記工程(1)の上記混合物における上記染料の含有量に対する上記非水溶性鎖状ポリマーの含有量の質量比は0.1~2.5である。
【0015】
【化4】
【0016】
一般式(G)中、Rgは水素原子又は置換基を表し、Lgは-O-、-S-、又は-NRz-を表す。Rzは水素原子又は置換基を表す。*は結合位置を表す。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、布帛上に、発色性、耐洗濯性、耐汗性、耐摩擦性及び耐ドライクリーニング性に優れた画像を形成することができ、プラスチック基材上に発色性、鉛筆硬度、及び基材との密着性に優れた画像を形成することができ、かつ吐出安定性及び保存安定性に優れるインクを製造するために用いることができる着色樹脂粒子分散物、上記着色樹脂粒子分散物を用いて製造されたインク、上記インクを有するインクセット、上記インクを用いたインクジェット捺染方法、及び着色樹脂粒子分散物の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明について詳細に説明する。
本明細書において「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
本明細書において、「画像」とは、インクによって形成された膜全般を意味し、パターン画像(例えば、文字、記号、又は図形)だけでなく、ベタ画像も包含される。
本明細書において、「(メタ)アクリレート」はアクリレート及びメタクリレートの少なくとも一種を表し、「(メタ)アクリル」はアクリル及びメタクリルの少なくとも一種を表し、「(メタ)アクリロイル」は、アクリロイル及びメタクリロイルの少なくとも一種を表す。
本明細書において、「置換基群A」とは、国際公開第2017/131107号の[0117]に記載された置換基を示す。
また、本明細書において置換基群A1は下記の置換基を含むものとする。
【0019】
(置換基群A1)
ハロゲン原子、アルキル基(好ましくは炭素数1~30)、シクロアルキル基(好ましくは炭素数3~30)、アリール基(好ましくは炭素数6~30)、ヘテロ環基(好ましくは炭素数3~30)、アシル基(好ましくは炭素数2~30)、ヒドロキシル基、カルボキシ基、スルホ基、シアノ基、ニトロ基、アルコキシ基(好ましくは炭素数1~30)、アリールオキシ基(好ましくは炭素数6~30)、アシルオキシ基(好ましくは炭素数2~30)、アルコキシカルボニル基(好ましくは炭素数2~30)、アリールオキシカルボニル基(好ましくは炭素数7~30)、カルバモイル基、スルファモイル基、アルキルスルホニル基(好ましくは炭素数1~30)、アリールスルホニル基(好ましくは炭素数6~30)、アミノ基、アシルアミノ基(好ましくは炭素数1~30)、アルキルスルホニルアミノ基(好ましくは炭素数1~30)、アリールスルホニルアミノ基(好ましくは炭素数6~30)、及びこれらを2つ以上組み合わせてなる置換基。
【0020】
[着色樹脂粒子分散物]
本発明の着色樹脂粒子分散物は、
着色樹脂粒子と水とを含む着色樹脂粒子分散物であって、
上記着色樹脂粒子は、油溶性染料、分散染料、及び建染染料からなる群より選択される少なくとも1種の染料と、非水溶性鎖状ポリマーとを含み、
非水溶性鎖状ポリマーは、下記一般式(G)で表される構造、環状構造、及び親水性基を有する、着色樹脂粒子分散物である。
【0021】
【化5】
【0022】
一般式(G)中、Rgは水素原子又は置換基を表し、Lgは-O-、-S-、又は-NRz-を表す。Rzは水素原子又は置換基を表す。*は結合位置を表す。
【0023】
本発明の着色樹脂粒子分散物により前述の効果が得られる理由については、詳細は明らかではないが、以下のように推測される。
本発明の着色樹脂粒子分散物は、前述のように、特定の染料と特定の非水溶性鎖状ポリマーとを含む。特定の非水溶性鎖状ポリマーは、「鎖状」であり、すなわち「架橋構造」を有していない。着色樹脂粒子を製造する際に、架橋構造を有するポリマーを用いた場合は、染料によりコアが構成され、ポリマーによりシェルが構成された、いわゆるコア-シェル構造の粒子となる。これに対して、鎖状ポリマーを用いた場合は、染料と鎖状ポリマーとが均一に分散した形態の着色樹脂粒子(「分散型粒子」とも呼ぶ。)が得られるものと考えられる。特定の非水溶性鎖状ポリマーは疎水的な環状構造を有するため、同じく疎水的な性質を有する特定の染料と親和性が高い。そのため、コア-シェル構造の粒子よりも、分散型粒子の方が染料がポリマーに馴染みやすく、染料をより高濃度にしても安定的に含有することができるため、高い発色性を実現できると考えられる。
また、特定の非水溶性鎖状ポリマーが疎水性であることで、耐洗濯性、耐汗性、耐摩擦性及び耐ドライクリーニング性に優れた画像を形成することができる。
さらに、特定の非水溶性鎖状ポリマーは親水性基を有しているため、着色樹脂粒子分散物及び着色樹脂粒子分散物を含むインク中での、着色樹脂粒子の分散安定性が高い。また、特定の非水溶性鎖状ポリマーは、疎水的でありかつ剛直である環状構造を含んでいるので、非水溶性鎖状ポリマーの加水分解が抑制され、その結果、着色樹脂粒子の分散安定性が保たれ、吐出安定性及び保存安定性に優れたインクとなると考えられる。
また、特定の非水溶性鎖状ポリマーの上述の諸性質により、プラスチック基材(以下、「基材」ともいう)に適用した場合、発色性、鉛筆硬度(剛直な環状構造に起因)、及び基材との密着性(環状構造による疎水性増加とガラス転移温度の高温化に起因)に優れた画像を形成できる。
【0024】
<<着色樹脂粒子>>
本発明における着色樹脂粒子について説明する。
本発明における着色樹脂粒子の平均粒子径は、200nm以下であることが好ましく、20~200nmであることがより好ましく、40~150nmであることが更に好ましい。上記着色樹脂粒子の平均粒子径が200nm以下であると、インクジェット法により吐出することが容易となる。
本明細書においては、着色樹脂粒子の平均粒子径は、粒度分布測定装置(ナノトラックUPA EX150、日機装株式会社製、商品名)を用いて測定した体積平均粒子径(MV)の値を用いた。
【0025】
本発明の着色樹脂粒子分散物及びインクにおいて、着色樹脂粒子は分散して存在している。
着色樹脂粒子は、分散時において、着色樹脂粒子自体の性質として、又は分散剤を併用することにより、水となじみやすく(濡れやすく)、静電反発(斥力)又は立体反発により着色樹脂粒子の再凝集を防止し、沈降生成の抑制の機能を有する。
着色樹脂粒子を分散させる方法としては公知の方法を用いることができる。
【0026】
<非水溶性鎖状ポリマー>
本発明における非水溶性鎖状ポリマーは、下記一般式(G)で表される構造、環状構造、及び親水性基を有する。
【0027】
【化6】
【0028】
一般式(G)中、Rgは水素原子又は置換基を表し、Lgは-O-、-S-、又は-NRz-を表す。Rzは水素原子又は置換基を表す。*は結合位置を表す。
【0029】
本発明において、「非水溶性」とは、測定対象の物質(鎖状ポリマー)を105℃で2時間乾燥させて測定用乾燥試料を得て、その測定用乾燥試料の25℃の蒸留水100gに対する溶解量が1g以下であることを意味する。
【0030】
本発明において、「鎖状ポリマー」とは、ポリマーを形成する各構造単位が鎖状に結合されてなる主鎖を含むポリマーを意味する。
鎖状ポリマーは、主鎖から分岐する側鎖を有していてもよい。即ち、鎖状ポリマーは、分岐構造を有していてもよい。
【0031】
(一般式(G)で表される構造)
一般式(G)中、Rgは水素原子又は置換基を表し、置換基としては炭素数1~10の炭化水素基が好ましく、炭素数1~6の炭化水素基がより好ましく、炭素数1~3の炭化水素基が更に好ましい。炭化水素基としてはアルキル基、アリール基などが好ましい。Rgは水素原子を表すことが好ましい。
【0032】
一般式(G)中、Lgは-O-、-S-、又は-NRz-を表す。Rzは水素原子又は置換基を表す。Rzの好ましい範囲は先に記載したRgの好ましい範囲と同様である。
Lgは-O-又は-NRz-を表すことが好ましく、-O-を表すことがより好ましい。
【0033】
本発明における非水溶性鎖状ポリマーは、主鎖中に一般式(G)で表される構造を有することが好ましい。一般式(G)で表される構造は、好ましくは、ウレタン結合、チオウレタン結合(-NH-C(=O)-S-)、又はウレア結合を表すものであり、本発明における非水溶性鎖状ポリマーは、ポリウレタン、ポリチオウレタン、又はポリウレアであることが好ましい。
【0034】
ポリウレタンは、典型的には、ジイソシアネート化合物と、ジオール化合物とを反応させて合成することができる。ポリウレタンは、さらにチオウレタン結合及び/又はウレア結合を有していてもよい。
ポリチオウレタンは、典型的には、ジイソシアネート化合物と、ジチオール化合物とを反応させて合成することができる。ポリチオウレタンは、さらにウレタン結合及び/又はウレア結合を有していてもよい。
ポリウレアは、典型的には、ジイソシアネート化合物と、ジアミン化合物とを反応させて合成することができる。ポリウレアは、さらにウレタン結合及び/又はチオウレタン結合を有していてもよい。
非水溶性鎖状ポリマーは公知の方法(例えば国際公開第2018/042916号などに記載の方法)で合成してもよいし、市販品を用いてもよい。
【0035】
(環状構造)
環状構造とは、環式化合物から1つ以上(好ましくは1つ又は2つ)の任意の水素原子を取り除いてなる1価以上(好ましくは1価又は2価)の基を意味する。
環状構造は非水溶性鎖状ポリマーの主鎖中に含まれることが好ましい。
環状構造に含まれる環(以下、「環X」とも呼ぶ。)は、脂肪族環であっても、芳香族環であってもよい。また、環Xは炭化水素環であっても、複素環であってもよい。
環Xは、環員の炭素数が3~30の環であることが好ましく、環員の炭素数が3~20の環であることがより好ましい。
炭化水素環としては、脂肪族環であっても芳香族環であってもよい。好ましくは環員の炭素数が5~15の炭化水素環であり、より好ましくは環員の炭素数が6~12の炭化水素環である。
炭化水素環としては、具体的には、シクロヘキサン環、ノルボルナン環(ビシクロ[2.2.1]ヘプタン環)、オクタヒドロ-4,7-メタノ-1H-インデン環(トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン環)、ベンゼン環、ナフタレン環、フルオレン環などが挙げられる。
複素環としては、窒素原子、酸素原子、及び硫黄原子の少なくとも1つを含む、環員の炭素数が3~12の環であることが好ましい。
環Xは置換基を有していてもよい。環Xが置換基を有する場合の置換基を置換基Zとすると、置換基Zとしては特に限定されないが、例えばアルキル基、アルコキシ基、ハロゲン原子、ハロゲン化アルキル基、ヘテロ原子含有基などが挙げられる。
置換基Zとしてのハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、又はヨウ素原子が好ましく、フッ素原子、塩素原子、又は臭素原子がより好ましい。
置換基Zとしてのハロゲン化アルキル基としては、ハロゲン原子を少なくとも1個有する炭素数1~6のアルキル基が好ましい。ハロゲン化アルキル基におけるハロゲン原子の好ましい範囲は、置換基Zとしてのハロゲン原子の好ましい範囲と同様である。
置換基Zとしてのアルキル基としては、炭素数1~6のアルキル基が好ましい。
置換基Zとしてのヘテロ原子含有基としては、アルコキシ基、アシルオキシ基、(メタ)アクリロイルオキシ基が挙げられ、炭素数1~6のアルコキシ基が好ましく、メトキシ基又はエトキシ基がより好ましく、メトキシ基が特に好ましい。
【0036】
非水溶性鎖状ポリマーは、下記一般式(1)で表される構造単位(構造単位(1)とも呼ぶ。)及び下記一般式(2)で表される構造単位(構造単位(2)とも呼ぶ。)から選択される少なくとも1種の構造単位(繰り返し単位)を有することが好ましい。
【0037】
【化7】
【0038】
一般式(1)及び(2)中、
Cy及びCyは、それぞれ独立に、環状構造を含む2価の有機基を表し、
及びYは、それぞれ独立に、-O-、-S-、又は-NRz-を表し、
Rzは、水素原子又は置換基を表す。
*1及び*2は、それぞれ独立に、結合位置を表す。
【0039】
構造単位(1)は、ジイソシアネート化合物に由来する構造単位に相当するものであることが好ましく、構造単位(2)は、ジオール化合物、ジチオール化合物、又はジアミン化合物に由来する構造単位に相当するものであることが好ましい。
【0040】
*1は、構造単位(1)以外の構造単位との結合位置を表すことが好ましい。構造単位(1)以外の構造単位としては、構造単位(2)又は後述する構造単位(3)などが挙げられる。
*2は、構造単位(2)以外の構造単位との結合位置を表すことが好ましい。構造単位(2)以外の構造単位としては、構造単位(1)などが挙げられる。
【0041】
及びYは、それぞれ独立に、酸素原子、硫黄原子、又は-NRz-を表し、Rzは、水素原子又は置換基を表す。
Rzについては、先に記載した一般式(G)におけるRzと同様である。
及びYは、それぞれ独立に、-O-又は-NRz-であることが好ましく、-O-であることがより好ましい。
【0042】
Cy及びCyは、それぞれ独立に、環状構造を含む2価の有機基を表す。
【0043】
Cy及びCyは、それぞれ独立に、下記一般式(RA1)又は(RA2)で表される基を表すことが好ましい。
【0044】
【化8】
【0045】
一般式(RA1)中、Mはそれぞれ独立に置換基を有していてもよい環を表し、Lcは2価の連結基を表し、kは0以上の整数を表し、LA及びLAはそれぞれ独立に単結合又は2価の連結基を表す。Mが複数存在する場合は、それぞれ異なっていても同じでもよい。Lcが複数存在する場合は、それぞれ異なっていても同じでもよい。*は結合位置を表す。
一般式(RA2)中、Mは置換基を有していてもよい環を表し、LAは3価の連結基を表す。*は結合位置を表す。
【0046】
一般式(RA1)のM及び一般式(RA2)のMは、前述の環Xと同様である。
一般式(RA1)のM及び一般式(RA2)のMが有していてもよい置換基は、前述の置換基Zと同様である。
【0047】
一般式(RA1)中、Lcは2価の連結基を表す。Lcとしては、アルキレン基、アルキレンオキシ基、スルホニル基、カルボニル基、エーテル基(-O-)、エステル基(-COO-)、スピロ環基、又はこれらを組み合わせてなる基などが挙げられ、炭素数1~10のアルキレン基又はスルホニル基が好ましい。
Lcは置換基を有していてもよく、置換基としては先に記載した置換基Zが挙げられる。
【0048】
一般式(RA1)中、kは0以上の整数を表し、0~2の整数を表すことが好ましく、0又は1を表すことがより好ましい。
【0049】
一般式(RA1)中、LA及びLAはそれぞれ独立に単結合又は2価の連結基を表す。
LA及びLAとしての2価の連結基は、先に記載したLcと同様のものが挙げられる。
LA及びLAは単結合又は炭素数1~10のアルキレン基を表すことが特に好ましい。
LA及びLAは置換基を有していてもよく、置換基としては先に記載した置換基Zが挙げられる。
【0050】
一般式(RA2)中、LAは3価の連結基を表す。
LAは、炭素数1~10の3価の炭化水素基、又は炭素数1~10の炭化水素基とスルホニル基、カルボニル基、エーテル基(-O-)、エステル基(-COO-)、及びスピロ環基から選ばれる少なくとも1種の2価の連結基とを組み合わせてなる3価の連結基などが挙げられる。
LAは置換基を有していてもよく、置換基としては先に記載した置換基Zが挙げられる。
【0051】
非水溶性鎖状ポリマーをより疎水的及び剛直にして、諸性能をより向上させるという観点から、Cy及びCyの少なくとも1つが環を2つ以上含むことが好ましく、3つ以上含むことがより好ましい。
本明細書において、環の数は、単環の数を意味する。
従って、「環を2つ以上含む」の概念には、縮合環、橋かけ環、及びスピロ環の一部ではない単環を2つ以上含むことだけでなく、縮合環を1つ含むこと、橋かけ環を1つ含むこと、及びスピロ環を1つ含むことも包含される。
【0052】
また、Cy及びCyの少なくとも一方は、5員又は6員の環を含むことが好ましい。
ここで、「5員又は6員の環を含む」の概念には、5員又は6員の単環を含む縮合環を含むこと、5員又は6員の単環を含む橋かけ環を含むこと、及び5員又は6員の単環を含むスピロ環を含むことも包含される。
【0053】
Cyの具体例としては、国際公開第2018/042916号の段落[0060]に記載の構造が挙げられる。
【0054】
Cyの具体例としては、国際公開第2018/042916号の段落[0064]に記載の構造が挙げられる。
【0055】
非水溶性鎖状ポリマーを更に疎水的及び剛直にして、諸性能を更に向上させるという観点から、非水溶性鎖状ポリマーは構造単位(1)及び構造単位(2)を共に有することが好ましい。
【0056】
構造単位(1)を形成するための化合物(以下、「単位(1)形成用化合物」又は「単位(1)用化合物」ともいう。)としては、ジイソシアネート化合物が挙げられる。
単位(1)形成用化合物は、イソシアネート基に加えて、イソシアネート基以外の重合性基を有していてもよい。
単位(1)形成用化合物の具体例としては、国際公開第2018/042916号の段落[0067]に記載の単位(1)形成用化合物が挙げられる。
【0057】
構造単位(2)を形成するための化合物(以下、「単位(2)形成用化合物」又は「単位(2)用化合物」ともいう。)としては、例えば、ジオール化合物、ジチオール化合物、及びジアミン化合物が挙げられる。
単位(2)形成用化合物は、ヒドロキシ基又はアミノ基に加えて、これら以外の重合性基を有していてもよい。
単位(2)形成用化合物の具体例としては、国際公開第2018/042916号の段落[0069]~[0070]に記載の単位(2)形成用化合物が挙げられる。
【0058】
非水溶性鎖状ポリマーの全量に対する構造単位(1)及び構造単位(2)から選択される少なくとも1種の構造単位の総量は、15質量%以上であることが好ましく、30質量%以上であることがより好ましく、45質量%以上であることが更に好ましく、60質量%以上であることが更に好ましく、70質量%以上であることが特に好ましい。これにより、非水溶性鎖状ポリマー中の環状構造の割合が多くなり、その結果、前述した本発明の効果がより向上する。「構造単位(1)及び構造単位(2)から選択される少なくとも1種の構造単位の総量」とは、構造単位(1)の量と構造単位(2)の量の合計の量を表す。
非水溶性鎖状ポリマーの全量に対する構造単位(1)の量と構造単位(2)の量の合計の量の上限は特に限定はないが、例えば98質量%以下であり、好ましくは95質量%以下である。
【0059】
非水溶性鎖状ポリマー1g中の環状構造の物質量の総和を非水溶性鎖状ポリマーの環価とした場合に、非水溶性鎖状ポリマーの環価は、0.7mmol/g以上であることが好ましい。これにより、本発明の効果がより向上する。
非水溶性鎖状ポリマーの環価は、より好ましくは4.00mmol/g以上である。
非水溶性鎖状ポリマーの環価の上限は、特に限定されないが、例えば9.00mmol/g以下である。
非水溶性鎖状ポリマーに含まれる環状構造が構造単位(1)及び構造単位(2)のみである場合、非水溶性鎖状ポリマーの環価は、下記式によって求めることもできる。
非水溶性鎖状ポリマーの環価(mmol/g)
=(((非水溶性鎖状ポリマーの全量に対する構造単位(1)の含有量(質量%)/100)×構造単位(1)中の環状構造の数/構造単位(1)の分子量)+((非水溶性鎖状ポリマーの全量に対する構造単位(2)の含有量(質量%)/100)×構造単位(2)中の環状構造の数/構造単位(2)の分子量))×1000
【0060】
(親水性基)
非水溶性鎖状ポリマーは、親水性基を含む。
非水溶性鎖状ポリマーに含まれる親水性基は、着色樹脂粒子分散物及びインクの分散安定性に寄与する。
親水性基としては、アニオン性基又はノニオン性基が好ましく、分散安定性向上の効果に優れる点から、アニオン性基が好ましい。
例えば、同じ分子量のアニオン性基とノニオン性基とを比較した場合、アニオン性基の方が、分散安定性向上の効果に優れる。即ち、アニオン性基(特に好ましくは、カルボキシ基及びカルボキシ基の塩からなる群から選択される少なくとも1種)は、その分子量が小さい場合においても、分散安定性向上の効果を十分に発揮し得る。
【0061】
アニオン性基としては、中和されていないアニオン性基であってもよいし、中和されたアニオン性基であってもよい。
中和されていないアニオン性基としては、カルボキシ基、スルホ基、硫酸基、ホスホン酸基、リン酸基、等が挙げられる。
中和されたアニオン性基としては、カルボキシ基の塩、スルホ基の塩、硫酸基の塩、ホスホン酸基の塩、リン酸基の塩、等が挙げられる。
【0062】
本明細書中において、「カルボキシ基が中和されている」とは、アニオン性基としてのカルボキシ基が、「塩」の形態(例えば、「-COONa」)となっていることを指す。アニオン性基としての、スルホ基、硫酸基、ホスホン酸基、及びリン酸基についても同様である。
中和は、例えば、アルカリ金属水酸化物(例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等)、有機アミン(例えば、トリエチルアミン等)を用いて行うことができる。
【0063】
非水溶性鎖状ポリマーに含まれ得るアニオン性基としては、分散安定性の観点から、カルボキシ基、カルボキシ基の塩、スルホ基、スルホ基の塩、硫酸基、硫酸基の塩、ホスホン酸基、ホスホン酸基の塩、リン酸基、及びリン酸基の塩からなる群から選択される少なくとも1種が好ましく、カルボキシ基及びカルボキシ基の塩からなる群から選択される少なくとも1種であることがより好ましい。
上述した、カルボキシ基の塩、スルホ基の塩、硫酸基の塩、ホスホン酸基の塩、及びリン酸基の塩における「塩」としては、アルカリ金属塩又は有機アミン塩が好ましく、アルカリ金属塩がより好ましい。
アルカリ金属塩におけるアルカリ金属としては、K又はNaが好ましい。
【0064】
また、非水溶性鎖状ポリマーが親水性基としてアニオン性基を含む場合において、非水溶性鎖状ポリマー1g中のアニオン性基の物質量の総和を、非水溶性鎖状ポリマーの酸価とした場合、非水溶性鎖状ポリマーの酸価は、分散安定性の観点から、0.10mmol/g~2.00mmol/gであることが好ましく、0.30mmol/g~1.50mmol/gであることがより好ましい。
本発明では、特に、非水溶性鎖状ポリマー1g中のカルボキシ基及びカルボキシ基の塩の物質量の総和が、0.30mmol/g~1.50mmol/gであることが好ましい。
【0065】
また、非水溶性鎖状ポリマーが親水性基としてアニオン性基を有する場合、非水溶性鎖状ポリマーのアニオン性基の中和度は、50%~100%が好ましく、70%~90%がより好ましい。
ここで、中和度とは、インクに含有される非水溶性鎖状ポリマーにおける、「中和されていないアニオン性基(例えばカルボキシ基)の数と中和されたアニオン性基(例えばカルボキシ基の塩)の数との合計」に対する「中和されたアニオン性基の数」の比(即ち、比〔中和されたアニオン性基の数/(中和されていないアニオン性基の数+中和されたアニオン性基の数)〕)を指す。
非水溶性鎖状ポリマーの中和度(%)は、中和滴定によって測定される。
【0066】
本明細書において、非水溶性鎖状ポリマーの中和度(%)は、以下のようにして求める。
まず、測定対象である、非水溶性鎖状ポリマーを含む着色樹脂粒子の水分散物(例えばインク)を準備する。
準備した水分散物50gに対し、80000rpm(rounds per minute;以下同じ)、40分の条件の遠心分離を施す。遠心分離によって生じた上澄み液を除去し、沈殿物(着色樹脂粒子)を回収する。
容器1に、回収した着色樹脂粒子を約0.5g秤量し、秤量値W1(g)を記録する。次いで、テトラヒドロフラン(THF)54mL及び蒸留水6mLの混合液を添加し、秤量した特定粒子を希釈することにより中和度測定用試料1を得る。
得られた中和度測定用試料1に対し、滴定液として0.1N(=0.1mol/L)水酸化ナトリウム水溶液を用いて滴定を行い、当量点までに要した滴定液量をF1(mL)として記録する。滴定において複数の当量点が得られた場合は、最大滴定量での当量点の値を用いる。ここで、「最大滴定量F1(mL)」は、着色樹脂粒子に含まれるアニオン性基のうち、中和されていないアニオン性基(例えば、-COOH)の量に相当する。
また、容器2に、回収した着色樹脂粒子を約0.5g秤量し、秤量値W2(g)を記録する。次いで、酢酸60mLを添加し、秤量した着色樹脂粒子を希釈することにより中和度測定用試料2を得る。
得られた中和度測定用試料2に対し、滴定液として0.1N(=0.1mol/L)過塩素酸酢酸溶液を用いて滴定を行い、当量点までに要した滴定液量をF2(mL)として記録する。滴定において複数の当量点が得られた場合は、最大滴定量での当量点の値を用いる。ここで、「最大滴定量F2(mL)」は、着色樹脂粒子に含まれるアニオン性基のうち、中和されたアニオン性基(例えば、-COONa)の量に相当する。
「F1(mL)」及び「F2(mL)」の測定値に基づき、下記の式に従って、アニオン性基の中和度(%)を求める。
F1(mL)×水酸化ナトリウム水溶液の規定度(0.1mol/L)/W1(g)+F2(mL)×過塩素酸酢酸溶液の規定度(0.1mol/L)/W2(g) = 着色樹脂粒子に含まれるアニオン性基の全量(中和されたアニオン性基及び中和されていないアニオン性基の全量)(mmol/g)・・・(1)
F2(mL)×過塩素酸酢酸溶液の規定度(0.1mol/L)/W2(g) = 着色樹脂粒子に含まれるアニオン性基のうち、中和されたアニオン性基の量(mmol/g)・・・(2)
中和度(%) = (2)/(1)×100
【0067】
また、親水性基としてのノニオン性基は、ポリエーテル構造を有する基であることが好ましく、ポリアルキレンオキシ基を含む基であることがより好ましい。
【0068】
-親水性基を有する構造単位-
非水溶性鎖状ポリマーは、親水性基を有する構造単位を含むことが好ましい。
親水性基を有する構造単位は、好ましくは、後述する親水性基導入用化合物を原料として形成される。
親水性基を有する構造単位として、特に好ましくは、アニオン性基を有する構造単位である、下記一般式(3)で表される構造単位(構造単位(3)とも呼ぶ。)である。
【0069】
【化9】
【0070】
構造単位(3)中、RX1は、水素原子又は炭素数1~10のアルキル基を表し、Aは、アニオン性基を表し、*3は、構造単位(3)以外の構造単位との結合位置を表す。
【0071】
ここで、「*3は、構造単位(3)以外の構造単位との結合位置を表し」とは、非水溶性鎖状ポリマーにおいて、構造単位(3)同士が直接結合することはないことを意味する。
構造単位(3)中の*3の位置に結合する構造単位(3)以外の構造単位は、1種のみであっても2種以上であってもよい。
上記構造単位(3)以外の構造単位としては特に制限はないが、例えば、ジイソシアネート化合物に由来する構造単位(例えば上記構造単位(1))が挙げられ、構造単位(3)との結合により、ウレタン結合を形成することが好ましい。
【0072】
Aで表されるアニオン性基の例としては、前述のアニオン性基の例と同様である。
Aで表されるアニオン性基としては、カルボキシ基又はカルボキシ基の塩が好ましい。
非水溶性鎖状ポリマーは、Aがカルボキシ基である態様の構造単位(3)と、Aがカルボキシ基の塩である態様の構造単位(3)と、を含んでいてもよい。
【0073】
非水溶性鎖状ポリマーの全量に対する親水性基を有する構造単位(例えば構造単位(3))の含有量は、好ましくは3質量%~30質量%であり、より好ましくは5質量%~20質量%である。
非水溶性鎖状ポリマーの全量に対するアニオン性基を有する構造単位の含有量は、非水溶性鎖状ポリマーの酸価を考慮して調整してもよい。
【0074】
-親水性基導入用化合物-
非水溶性鎖状ポリマーへの親水性基の導入は、親水性基導入用化合物を用いて行うことができる。
親水性基導入用化合物のうち、アニオン性基導入用化合物としては、α-アミノ酸(具体的には、リシン、アラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン、グルタミン酸、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、トレオニン、トリプトファン、チロシン、バリン)等のアミノ酸が挙げられる。
アニオン性基導入用化合物としては、上記のα-アミノ酸以外にも、ヒドロキシ基、チオール基、及び-NHRN1基(RN1は、水素原子又は炭素数1~10の炭化水素基を表す)から選択される少なくとも1種を1つ以上(好ましくは1つ又は2つ)有し、アニオン性基として、カルボキシ基、スルホ基、硫酸基、ホスホン酸基、又はリン酸基を有する化合物が挙げられる。なお、アニオン性基導入用化合物は、ベタイン構造(分子内塩構造)を有していてもよい。具体例としては、国際公開第2018/042916号の段落[0114]に記載の化合物が挙げられる。
【0075】
アニオン性基導入用化合物は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどの無機塩基;トリエチルアミンなどの有機塩基;等を用い、アニオン性基の少なくとも一部を中和して用いてもよい。
【0076】
親水性基導入用化合物のうち、ノニオン性基導入用化合物としては、ポリエーテル構造を有する化合物が好ましく、ポリオキシアルキレン基を有する化合物がより好ましい。
【0077】
(重合性基)
非水溶性鎖状ポリマーは、重合性基を含むことも好ましい。
重合性基は、光、熱、赤外線などによる、画像の硬化に寄与する。すなわち、非水溶性鎖状ポリマーが重合性基を含むことにより、着色樹脂粒子分散物を含むインクによって形成された画像を硬化させた場合、着色樹脂粒子同士が重合性基によって結合され、その結果、画像の疎水性及び剛直性が向上するものと考えられる。また、非水溶性鎖状ポリマーが重合性基を含むことにより、得られる硬化膜はガラス転移温度が高くなり(ゲル化し)、膜の凝集破壊が抑えられ、密着性及び膜質がより向上する。
非水溶性鎖状ポリマーが重合性基を含む場合、重合性基は、非水溶性鎖状ポリマー中において、例えば、構造単位(1)及び構造単位(2)の少なくとも一方に含まれていてもよいし、構造単位(1)及び構造単位(2)以外の部分に含まれていてもよい。構造単位(1)及び構造単位(2)以外の部分とは、構造単位(1)以外の、ジイソシアネート化合物に由来する構造単位、構造単位(2)以外のジオール化合物、ジチオール化合物、又はジアミン化合物に由来する構造単位、構造単位(3)などが挙げられる。
【0078】
重合性基としては、光重合性基又は熱重合性基が好ましい。
光重合性基としては、ラジカル重合性基が好ましく、エチレン性二重結合を含む基がより好ましく、ビニル基及び1-メチルビニル基の少なくとも一方を含む基が更に好ましい。ラジカル重合性基としては、ラジカル重合反応性及び形成される膜の硬度の観点から、(メタ)アクリロイル基が特に好ましい。
熱重合性基としては、エポキシ基、オキセタニル基、アジリジニル基、アゼチジニル基、ケトン基、アルデヒド基、又はブロックイソシアネート基が好ましい。
非水溶性鎖状ポリマーは、重合性基を1種のみ含有していてもよいし、2種以上含有していてもよい。
非水溶性鎖状ポリマーが重合性基を有することは、例えば、フーリエ変換赤外線分光測定(FT-IR)分析によって確認することができる。
非水溶性鎖状ポリマーに重合性基を導入するためには、非水溶性鎖状ポリマーを合成する際に重合性基導入用化合物を用いる方法が挙げられる。重合性基導入用化合物としては、国際公開第2018/042916号の段落[0117]~[0124]の記載を参照することができる。
【0079】
非水溶性鎖状ポリマーが重合性基を有する場合、ラジカル重合開始剤を添加することで熱硬化しやすくなるため、特に高硬度な硬化膜を得ることができる。ラジカル重合開始剤としては例えば過酸化物、アゾ化合物などの開始剤を使用することができる。保存安定性の観点からラジカル重合開始剤の10時間半減期は100℃以上が望ましい。ラジカル重合開始剤としては特に制限はないが、例えば日油株式会社製のパーブチルA、パーヘキサ22、パーブチルZ、パーヘキサV、パーブチルP、パークミルD、パーヘキシルD、パーヘキサ25B、パーブチルC、パーブチルD、パーメンタH、パーヘキシン25B、パークミルP、パーオクタH、パークミルH、パーブチルH、ノフマーBCが挙げられる。
ラジカル重合開始剤の使用量は、非水溶性鎖状ポリマーに対して0.1~20質量%が好ましく、より好ましくは0.1~10質量%である。
ラジカル重合開始剤は特定の染料、非水溶性鎖状ポリマーと共に着色樹脂粒子に含まれても良く、着色樹脂粒子とは別に着色樹脂粒子分散物に含まれてもよい。
【0080】
(その他のジイソシアネート化合物、ジオール化合物、ジチオール化合物、ジアミン化合物)
非水溶性鎖状ポリマーを合成する際、単位(1)形成用化合物以外のジイソシアネート化合物(脂肪族ジイソシアネート化合物)、単位(2)形成用化合物以外のジオール化合物(脂肪族ジオール化合物)、ジチオール化合物(脂肪族ジチオール化合物)、又はジアミン化合物(脂肪族ジアミン化合物)を用いることもできる。
上記ジイソシアネート化合物、ジオール化合物、ジチオール化合物、ジアミン化合物は、分子内に、ヘテロ原子を含んでいてもよく、例えば、-O-、-CO-、-COO-、-OCOO-、-S-、及び-SO-から選ばれる少なくとも1種を有していてもよい。また、置換基を有していてもよく、置換基としては前述の置換基Zが挙げられる。
【0081】
非水溶性鎖状ポリマーの重量平均分子量としては、インクの分散安定性(即ち、着色樹脂粒子の分散安定性)の観点から、5000~100000であることが好ましく、8000~70000であることがより好ましく、10000~50000であることが更に好ましい。
【0082】
本明細書中において、重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定された値を意味する。
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によるMwの測定では、測定装置として、HLC(登録商標)-8020GPC(東ソー(株))を用い、カラムとして、TSKgel(登録商標)Super Multipore HZ-H(4.6mmID×15cm、東ソー(株))を3本用い、溶離液として、THF(テトラヒドロフラン)を用いる。また、測定条件としては、試料濃度を0.45質量%、流速を0.35ml/min、サンプル注入量を10μl、及び測定温度を40℃とし、RI検出器を用いて行う。
検量線は、東ソー(株)の「標準試料TSK standard,polystyrene」:「F-40」、「F-20」、「F-4」、「F-1」、「A-5000」、「A-2500」、「A-1000」、及び「n-プロピルベンゼン」の8サンプルから作製する。
【0083】
非水溶性鎖状ポリマーの含有量は、着色樹脂粒子の固形分量に対し、10質量%以上であることが好ましく、20質量%以上であることがより好ましい。
非水溶性鎖状ポリマーの含有量が、着色樹脂粒子の固形分量に対して10質量%以上であると、インクの分散安定性(即ち、着色樹脂粒子の分散安定性)がより向上する。
非水溶性鎖状ポリマーの含有量は、着色樹脂粒子の固形分量に対し、80質量%以下が好ましく、70質量%以下であることがより好ましく、60質量%以下であることが更に好ましく、50質量%以下であることが特に好ましく、40質量%以下であることが最も好ましい。
【0084】
また、後述する油溶性染料、分散染料、及び建染染料からなる群より選択される少なくとも1種の染料の含有量に対する、非水溶性鎖状ポリマーの含有量の質量比が、0.1~2.5であることが好ましく、0.1~1であることがより好ましく、0.1~0.7であることが更に好ましい。
【0085】
着色樹脂粒子は、本開示のインクの効果を損なわない範囲で、非水溶性鎖状ポリマー以外のその他のポリマーを含有してもよい。
その他のポリマーとしては、非水溶性鎖状ポリマー以外の鎖状ポリマー、三次元架橋構造を有するポリマー、等が挙げられる。
但し、本開示のインクの効果をより効果的に奏する観点から、着色樹脂粒子中の全ポリマー成分に占める非水溶性鎖状ポリマーの割合は、80質量%~100質量%であることが好ましく、90質量%~100質量%であることがより好ましく、95質量%~100質量%であることが更に好ましく、理想的には100質量%である。
【0086】
<油溶性染料、分散染料、及び建染染料からなる群より選択される少なくとも1種の染料>
着色樹脂粒子は、油溶性染料、分散染料、及び建染染料からなる群より選択される少なくとも1種の染料(「特定染料」ともいう)を含む。
【0087】
特定染料としては、以下の染料が好ましい。なお、「C.I.」は「カラーインデックス」の略である。また、「Disperse」と記載されているものは分散染料であり、「Solvent」と記載されているものは油溶性染料である。
C.I.Disperse Yellow 3,7,8,23,39,51,54,60,71,86、
C.I.Solvent Yellow 2,14,16,21,33,43,44,56,82,85,93,98,114,131,135,157,160,163,167,176,179,185,189、
C.I.Disperse Red 11,50,53,55,55:1,59,60,65,70,75,93,146,158,190,190:1,207,239,240、
C.I.Solvent Red 8,23,24,25,49,52,109,111,119,122,124,135,146,149,150,168,169,172,179,195,196,197,207,222,227,312,313、
C.I.Disperse Blue 3,5,19,26,26:1,35,55,56,58,64,64:1,72,72:1,81,81:1,91,95,108,131,141,145,359,360、
C.I.Solvent Blue 3,4,5,35,36,38,44,45,59,63,67,68,70,78,83,97,101,102,104,105,111,122、
C.I.Disperse Orange 1,1:1,5,7,20,23,25,25:1,33,56,76、
C.I.Solvent Orange 3,14,54,60,62,63,67,86,107、
C.I.Disperse Violet 8,11,17,23,26,27,28,29,36,57、
C.I.Solvent Violet 8,9,11,13,14,26,28,31,36,59、
C.I.Solvent Green 3,5,7,28、
C.I.Disperse Brown 2、
C.I.Solvent Brown 53、
C.I.Solvent Black 3,5,7,27,28,29,34
建染染料としては、特に以下の染料が好ましい。
C.I.Vat Yellow 2、4、10、20、33;C.I.Vat Orange 1、2、3、5、7、9、13、15;C.I.Vat Red 1、2、10、13、15、16、41、61;C.I.Vat Blue 1、3、4、5、6、8、12、14、18、19、20、29、35、41;C.I.Vat Black 1、8、9、13、14、20、25、27、29、36、56、57、59、60
【0088】
染料の中でも、油溶性染料が好ましい。
油溶性染料は、アゾ基を2つ有している染料であることがより好ましい。
【0089】
油溶性染料は、金属錯体又は下記一般式(M-A)で表される化合物を含むことが好ましい。
【0090】
金属錯体を含む油溶性染料は、クロム錯体を含む油溶性染料であることが好ましい。
クロム錯体を含む油溶性染料の具体例としては、特に限定されないが、例えば、C.I.Solvent Black 27、C.I.Solvent Black 28、C.I.Solvent Black 29などが挙げられる。
また、上記以外の金属錯体を含む油溶性染料としては、例えば、C.I.Solvent Blue 70(銅錯体を含む油溶性染料)などが挙げられる。
【0091】
一般式(M-A)で表される化合物について説明する。
【0092】
【化10】
【0093】
一般式(M-A)中、R~R20は各々独立に水素原子又は置換基を表す。
上記置換基としては上記置換基群Aから選ばれる置換基(好ましくは上記置換基群A1から選ばれる置換基)が挙げられる。
一般式(M-A)中、R及びRは水素原子を表すことが好ましい。
~R18は、水素原子を表すことが好ましい一態様として挙げられる。
19及びR20は、各々独立に、アルキル基を表すことが好ましい一態様として挙げられ、炭素数1~30のアルキル基を表すことがより好ましく、炭素数1~10のアルキル基を表すことが更に好ましく、炭素数1~6のアルキル基を表すことが特に好ましく、メチル基を表すことが最も好ましい。
【0094】
一般式(M-A)で表される化合物の好ましい態様として、下記一般式(M-A-1)で表される化合物が挙げられる。
【0095】
【化11】
【0096】
一般式(M-A-1)中、R1m及びR2mは各々独立に、置換基を有していてもよい炭素数1~12のアルキル基を表し、R3mはハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、炭素数2~12のアルコキシカルボニル基、又は炭素数2~12のアシル基を表す。R1m及びR2mは互いに結合して環を形成していてもよい。
【0097】
一般式(M-A-1)中、R1m及びR2mは各々独立に、置換基を有していてもよい炭素数1~12のアルキル基を表す。
1m及びR2mが表すアルキル基は、直鎖状であっても分岐鎖状であってもよい。
1m及びR2mが表すアルキル基の炭素数は1~12であり、1~8が好ましく、1~5がより好ましい。
1m及びR2mが表すアルキル基は、置換基を有していてもよく、置換基としては特に限定されないが、例えば、ヒドロキシル基、アルキルカルボニルオキシ基(好ましくは炭素数2~8のアルキルカルボニルオキシ基)、アルキルアミノカルボニルオキシ基(好ましくは炭素数2~8のアルキルアミノカルボニルオキシ基)、シアノ基、カルバモイル基、アルキルカルバモイル基(好ましくは炭素数2~8のアルキルカルバモイル基)、アリールカルバモイル基(好ましくは炭素数7~11のアリールカルバモイル基、より好ましくはフェニルカルバモイル基)、アリール基(好ましくは炭素数6~10のアリール基、より好ましくはフェニル基)などが挙げられる。
1m及びR2mが表すアルキル基は、置換基を有していない(すなわち、無置換のアルキル基である)ことが好ましい。
【0098】
1m及びR2mは互いに結合して環を形成していてもよい。
1m及びR2mが互いに結合して環を形成する場合、R1mとR2mとでアルキレン基を形成する。このアルキレン基の炭素数は2~12であることが好ましく、2~8であることがより好ましい。このアルキレン基は置換基を有していてもよく、置換基としては、特に限定されないが、例えばアルキル基が有してもよい置換基として前述したものが挙げられる。
【0099】
1m及びR2mは、熱に対する安定性の観点から、無置換の炭素数1~12のアルキル基、又は、ヒドロキシル基、アルキルカルボニルオキシ基、若しくはアルキルアミノカルボニルオキシ基を置換基として有する炭素数1~12のアルキル基を表すことが好ましく、更に溶解性と製造コストの観点から、無置換の炭素数1~12のアルキル基を表すことがより好ましく、無置換の炭素数1~8のアルキル基を表すことがより一層好ましく、無置換の炭素数1~5のアルキル基を表すことが特に好ましい。
さらに溶解性の観点では、R1mとR2mが異なることが特に好ましい。
【0100】
一般式(M-A-1)中のR3mはハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、炭素数2~12のアルコキシカルボニル基、又は炭素数2~12のアシル基を表す。
3mがハロゲン原子を表す場合、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子などが挙げられ、フッ素原子又は塩素原子が好ましく、塩素原子がより好ましい。
3mが炭素数2~12のアルコキシカルボニル基を表す場合、炭素数2~8のアルコキシカルボニル基が好ましく、炭素数2~5のアルコキシカルボニル基がより好ましい。
3mが炭素数2~12のアシル基を表す場合、炭素数2~8のアシル基が好ましく、炭素数2~5のアシル基がより好ましい。また、炭素数2~12のアシル基としては、例えば、炭素数2~12のアルキルカルボニル基、炭素数6~12のアリールカルボニル基(例えば、ベンゾイル基等)などが挙げられ、炭素数2~12のアルキルカルボニル基が好ましい。
【0101】
3mは、耐熱性の観点で、好ましくはフッ素原子、塩素原子、ニトロ基、シアノ基、炭素数2~12のアルコキシカルボニル基、又は炭素数2~12のアシル基であり、より好ましくはフッ素原子、塩素原子、ニトロ基、シアノ基、炭素数2~12のアルキルカルボニル基であり、更に好ましくは塩素原子、シアノ基、ニトロ基、又は炭素数2~5のアルキルカルボニル基であり、最も好ましくは、塩素原子、ニトロ基、シアノ基、又はアセチル基である。
【0102】
一般式(M-A-1)で表される化合物の具体例を以下に示すが、本発明はこれらに限定されない。なお、下記化合物(1-25)~(1-30)、(1-52)は、一般式(M-A-1)中のR1m及びR2mが互いに結合して環を形成している化合物である。Phはフェニル基を表す。
【0103】
【表1】
【0104】
【表2】
【0105】
【表3】
【0106】
【表4】
【0107】
着色樹脂粒子中の染料の含有量は、発色性と染色堅牢性を担保する理由から、10~90質量%が好ましく、15~80質量%がより好ましく、20~75質量%が更に好ましく、25~70質量%が特に好ましい。
【0108】
<油性有機溶剤>
本発明の着色樹脂粒子は、更に油性有機溶剤を含有してもよい。
油性有機溶剤とは、20℃における水に対する溶解度が10質量%以下である有機溶剤を表す。油性有機溶剤の20℃における水に対する溶解度は、5質量%以下が好ましく、1質量%以下が更に好ましい。これは、乳化時に油(有機成分)と水が混ざりにくくなり、合成適性及び粒子の安定性が良化するためである。
【0109】
油性有機溶剤は、不揮発性であることが好ましい。
油性有機溶剤は、反応時の不揮発性の観点、及び、着色樹脂粒子分散物又はインク保管時の分散安定性の観点から、沸点が180℃以上であることが好ましい。
なお、本発明における、沸点は大気圧下において、一般的な蒸留法により測定することができる。明細書での沸点は、標準条件(1気圧、25℃)での沸点の値である。
1気圧=101.325kPaである。
【0110】
油性有機溶剤の具体例としては、非ハロゲンリン酸エステル(例えば大八化学工業製TCP)、アルキル基置換芳香族化合物(例えばJXTGエネルギー製アルケンKS-41、呉羽化学製KMC500)、長鎖アルキル基置換エステル化合物(例えば日本油脂製ラウリン酸メチルKS-33、富士フイルム和光純薬製トリス(2-エチルヘキサン酸)グリセロール)、二塩基酸エステル(例えばINVISTA製DBE、東京化成製コハク酸ジメチル、グルタル酸ジメチル、コハク酸ジイソプロピル)、アルキレングリコール誘導体(例えば東京化成製エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールジベンゾエート)が挙げられる。
一般式(M-A)で表される染料の溶解性の観点からは特にDBE、コハク酸ジメチル、グルタル酸ジメチル、コハク酸ジイソプロピル、トリス(2-エチルヘキサン酸)グリセロール、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、及びジエチレングリコールジブチルエーテルが好ましい。
【0111】
着色樹脂粒子中に油性有機溶剤を含む場合の含有量としては、着色樹脂粒子の固形分に対して、0.1~20質量%であることが好ましく、1~15質量%であることがより好ましく、3~10質量%であることが更に好ましい。
【0112】
<<水>>
本発明の着色樹脂粒子分散物は、水を含む。水としては、特に制限されることはなく、イオン交換水、限外ろ過水、逆浸透水、蒸留水等の純水、または超純水を用いることが出来るが、超純水を用いることがより好ましい。
着色樹脂粒子分散物中の水の含有量は、好ましくは40~80質量%であり、より好ましくは45~75質量%であり、特に好ましくは50~75質量%である。水の含有量が上記範囲内であると、着色樹脂粒子分散物、及びインクの安定性に優れ(沈降などが起こりにくく)、インクジェット用インクとしての吐出安定性にも優れる。
【0113】
〔着色樹脂粒子分散物の製造方法〕
本発明の着色樹脂粒子分散物を製造する方法には特に制限はないが、上記非水溶性鎖状ポリマー、上記特定染料、及び有機溶剤を含む油相成分と、水を含む水相成分と、を混合し、乳化させることにより、着色樹脂粒子を形成する工程を有する、着色樹脂粒子分散物の製造方法であることが好ましい。
着色樹脂粒子分散物の製造方法は、着色樹脂粒子を形成する工程として、下記工程(1)及び(2)を含む、着色樹脂粒子分散物の製造方法であることが特に好ましい。
工程(1):上記特定染料と、上記非水溶性鎖状ポリマーと、水と、有機溶剤とを含有する混合物を乳化処理して乳化物を得る工程
工程(2):工程(1)で得られた乳化物から有機溶剤を除去する工程
工程(1)の混合物における特定染料の含有量に対する非水溶性鎖状ポリマーの含有量の質量比は0.1~2.5であることが好ましい。
【0114】
着色樹脂粒子を形成する工程では、上述した油相成分と水相成分とを混合し、得られた混合物を乳化させることにより、着色樹脂粒子が形成される。形成された着色樹脂粒子は、製造されるインクにおいて分散質として機能する。
水相成分中の水は、製造されるインクにおける分散媒として機能する。
【0115】
油相成分に含まれる有機溶剤としては、例えば、酢酸エチル、メチルエチルケトン等が挙げられる。
有機溶媒は、着色樹脂粒子の形成過程において、また、着色樹脂粒子の形成後において、その少なくとも一部が除去されることが好ましい。
【0116】
着色樹脂粒子がさらに油性有機溶剤を含む場合においては、油相成分中に油性有機溶剤を含むことが好ましい。
油相成分に含まれる各成分は、単に混合すればよく、全ての成分を一度に混合してもよいし、各成分をいくつかに分けて混合してもよい。
【0117】
水相成分は、水を含むこと以外には特に制限はなく、水のみであってもよい。
【0118】
インクの保存安定性及び吐出安定性の観点から、着色樹脂粒子分散物の製造時は乳化剤(界面活性剤)を実質的に用いないことが好ましい。すなわち、上記工程(1)の乳化物は乳化剤を実質的に含まないことが好ましく、乳化物中の乳化剤の含有量は乳化物の全質量に対して0.01質量%以下であることが好ましい。
【0119】
また、油相成分及び水相成分の少なくとも一方は、中和されていないアニオン性基(カルボキシ基、スルホ基、リン酸基、ホスホン酸基、硫酸基、等)に対する中和剤として、塩基性化合物を含有してもよい。これにより、着色樹脂粒子の形成過程において、中和されたアニオン性基(即ち、塩の形態であるアニオン性基;例えば、カルボキシ基の塩、スルホ基の塩、リン酸基の塩、ホスホン酸基の塩、硫酸基の塩、等)を形成できる。
上記塩基性化合物(中和剤)を用いる場合、上記塩基性化合物(中和剤)は、少なくとも水相成分に含有させることが好ましい。
塩基性化合物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の無機塩基、トリエチルアミン等の有機塩基などが挙げられる。これらの中でも、塩基性化合物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の無機塩基が好ましい。
また、塩の形態であるアニオン性基における塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩;トリエチルアミン塩等の有機アミン塩;等が挙げられる。これらの中でも、塩の形態であるアニオン性基における塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩が好ましい。
【0120】
着色樹脂粒子を形成する工程において、油相成分と水相成分との混合の方法には特に限定はないが、例えば、攪拌による混合が挙げられる。
【0121】
着色樹脂粒子を形成する工程において、乳化の方法には特に限定はないが、例えば、ホモジナイザー等の乳化装置(例えば、分散機等)による乳化が挙げられる。
乳化における分散機の回転数は、例えば、5000rpm~20000rpmであり、好ましくは10000rpm~15000rpmである。
乳化における回転時間は、例えば、1分間~120分間であり、好ましくは3分間~60分間であり、より好ましくは3分間~30分間であり、更に好ましくは5分間~15分間である。
【0122】
着色樹脂粒子を形成する工程における乳化は、加熱下で行ってもよい。
乳化を加熱下で行うことにより、着色樹脂粒子をより効率よく形成できる。
また、乳化を加熱下で行うことにより、油相成分中の有機溶媒の少なくとも一部を、混合物中から除去し易い。
乳化を加熱下で行う場合の加熱温度としては、35℃~70℃が好ましく、40℃~60℃がより好ましい。
【0123】
また、着色樹脂粒子を形成する工程は、混合物を(例えば35℃未満の温度で)乳化させる乳化段階と、乳化段階によって得られた乳化物を(例えば35℃以上の温度で)加熱する加熱段階と、を含んでいてもよい。
乳化段階と加熱段階とを含む態様では、特に加熱段階において、着色樹脂粒子をより効率よく形成できる。
また、乳化段階と加熱段階とを含む態様では、特に加熱段階において、油相成分中の有機溶媒の少なくとも一部を、混合物中から除去し易い。
加熱段階における加熱温度としては、35℃~70℃が好ましく、40℃~60℃がより好ましい。
加熱段階における加熱時間は、6時間~50時間が好ましく、12時間~40時間がより好ましく、15時間~35時間が更に好ましい。
【0124】
[インク]
本発明のインクは、上記着色樹脂粒子分散物を含有する。
【0125】
本発明のインク中の上記着色樹脂分散物の含有量は、好ましくは1~20質量%であり、より好ましくは1~15質量%であり、更に好ましくは3~10質量%である。
【0126】
<水性有機溶剤>
本発明のインクは、水性有機溶剤を含むことが好ましい。
水性有機溶剤としては、25℃における水への溶解度として10g/100g-HO以上であるものが好ましく、20g/100g-HO以上であるものがより好ましく、水と任意の割合で混和するものが特に好ましい。水性有機溶剤としては、アルコール系溶剤、アミド系溶剤、ニトリル系溶剤が挙げられ、アルコール系溶剤、アミド系溶剤が好ましい。例えば、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、イソブタノール、tert-ブタノール、トリメチロールプロパン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、1,2,6-ヘキサントリオ-ル、チオグルコール、ヘキシレングリコール、グリセリン、ジグリセリン、2-ピロリドン、N-メチル-2-ピロリドン、1,5-ペンタンジオ-ル、1,6-ヘキサンジオール、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、アセトニトリルなどが挙げられる。好ましくはトリメチロールプロパン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、2-ピロリドン、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、エチレングリコールモノブチルエーテルであり、より好ましくは、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、2-ピロリドン、エチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールであり、特に好ましくはエチレングリコール、グリセリン、2-ピロリドン、テトラエチレングリコールである。
【0127】
インク中の水性有機溶剤の含有量は、好ましくは5~50質量%であり、より好ましくは5~40質量%であり、更に好ましくは10~30質量%である。水性有機溶剤の含有量が上記範囲内であると、捺染用インクジェットインクの安定性に優れ(沈降などが起こりにくく)、インクジェットインクとしての吐出安定性にも優れる。
【0128】
また、水性有機溶剤としては、以下の水性有機溶剤(b1)も用いることができる。
【0129】
<水性有機溶剤(b1)>
本明細書において、水性有機溶剤(b1)とは、上記非水溶性鎖状ポリマーの溶解度が0.05質量%以上であり、エーテル又はアミドであり、かつ沸点が287℃以上である水性有機溶剤を表す。
【0130】
上記水性有機溶剤(b1)は、25℃における水への溶解度として10g/100g-HO以上であるものが好ましく、20g/100g-HO以上であるものがより好ましく、水と任意の割合で混和するものが特に好ましい。
【0131】
上記水性有機溶剤(b1)に対する上記非水溶性鎖状ポリマーの溶解度が0.05質量%以上であると、発色濃度を向上させることができるため、好ましい。上記溶解度が0.05質量%以上となることによって、インクジェット方式で布帛に印刷した後の熱定着において、発色濃度が劇的に向上することができる。
【0132】
上記水性有機溶剤(b1)に対する非水溶性鎖状ポリマーの溶解度が5質量%以下であることが好ましく、1質量%以下であることが更に好ましい。
【0133】
溶解度は、汎用の方法でも測定可能であるが、本発明においては、以下の方法により測定することができる。非水溶性鎖状ポリマーの溶解度測定は、着色樹脂粒子の作製において、染料を添加しないで作製した非水溶性鎖状ポリマー粒子について行う。非水溶性鎖状ポリマー粒子の水分散体について、シャーレ上で25℃の条件で自然放置し、質量減少が無くなるまで乾燥させる。ガラスバイヤル中に水性有機溶剤を100g秤量し、これに、先に得られた非水溶性鎖状ポリマーの固体を添加し、超音波洗浄器(アズワン社製、1-6900-01)で30分超音波を当て、溶解有無を目視で評価する。適宜、非水溶性鎖状ポリマーの固体の秤量値を変更し、完全溶解する、最大量の固体の秤量値と水溶性有機溶剤の質量から、溶解度(質量%)を算出する。
【0134】
水性有機溶剤(b1)の沸点が287℃以上であると、発色濃度を向上させることができるが、これは、沸点が高いほうが、熱定着時の水溶性有機溶剤の揮発速度が低くなり、十分に非水溶性鎖状ポリマーと水性有機溶剤が馴染む時間が増加するためと考えられる。また、沸点が高いほうが、インクジェットノズル面での乾燥が抑制されることが理由と推測されるが、連続吐出性も大幅に改良することができる。
【0135】
本発明における、沸点は大気圧下において、一般的な蒸留法により測定することができる。明細書での沸点は、標準条件(1気圧、25℃)での沸点の値である。
1気圧=101.325kPaである。
【0136】
水性有機溶剤(b1)の含有量は、インクの全質量に対して、25~45質量%であることが好ましく、30~40質量%であることが更に好ましい。
【0137】
水性有機溶剤(b1)は、上記特性を満たすものであれば、特に限定されないが、インクジェット方式での吐出性、熱定着時の揮発しやすさの観点で、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール(例えば、分子量が400~800)、ヒドロキシエチルピロリドン、ヒドロキシプロピルピロリドン、バレロラクタム、カプロラクタム、ヘプタラクタム、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル(分子量400)、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル(分子量550)、ポリエチレングリコールジメチルエーテル(分子量500)、トリプロピレングリコール、テトラプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール(分子量400)、ポリプロピレングリコール(分子量600)、ポリプロピレングリコール(分子量700)、サーフィノール465(日信化学工業製)などが好ましい。
【0138】
<架橋剤>
本発明のインクは、更に架橋剤を含んでいても良い。
架橋剤は、架橋性基を少なくとも2つ有する化合物であることが好ましい。
架橋剤が有する架橋性基としては、カルボキシ基、ヒドロキシル基、スルホン酸基、アミド基等が好ましい。
架橋剤としては、ブロック化イソシアネート系化合物、オキサゾリン系化合物、カルボジイミド化合物などが挙げられるが、中でも、HDI(ヘキサメチレンジイソシアネート)、H6XDI(水添キシリレンジイソシアネート)、IPDI(イソホロンジイソシアネート)、又はH12MDI(ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート)のTMP(トリメチロールプロパン)アダクト体又はイソシアヌレート体をブロック剤によりブロックしたブロック化イソシアネート系化合物、及びカルボジイミド化合物が好ましく、ブロック剤は、その解離温度から、DEM(マロン酸ジエチル)、DIPA(ジイソプロピルアミン)、TRIA(1,2,4-トリアゾール)、DMP(3,5-ジメチルピラゾール)、MEKO(ブタノンオキシム)が好適に用いることが出来る。なお、これらのブロック化イソシアネート系化合物は、そのイソシアネート基の一部をポリオール、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリエーテルなどと反応させたオリゴマーとして用いることもできる。
カルボジイミド化合物としては、日清紡ケミカル株式会社製のカルボジライト水性樹脂用架橋剤E-02、E-03A、E-05(以上製品名)が好ましく、保存安定性と反応性の観点からE-05が特に好ましい。
架橋剤粒子としては、インクジェットでの吐出性向上の観点で、平均粒子径が200nm以下であることが好ましい。平均粒子径は、粒度分布測定装置(ナノトラックUPA EX150、日機装株式会社製、商品名)を用いて測定した体積平均粒子径(MV)の値を用いることができる。
架橋剤の解離温度としては、架橋効率の観点で、低いほど好ましい一方、保存安定性の観点で高いほど好ましく、それらのバランスを適宜とって選定することができる。解離温度としては、90℃~180℃の範囲にあることが好ましく、90℃~120℃の範囲がより好ましく、110℃~120℃の範囲が特に好ましい。
また、架橋剤は、親水基を付与することで、水溶性又は自己乳化性があるものとしてインクに配合するのが好ましい。この状態であれば、配合したインク粘度を低粘度とすることができ、再分散性に優れたものとすることができる。
架橋剤粒子としては、これを以って、特に限定されないが、例えば、エラストロンBN-77(ブロックイソシアネート、粒径19nm、解離温度120℃以上、第一工業製薬社製)、エラストロンBN-27(ブロックイソシアネート、粒径108nm、解離温度180℃以上、第一工業製薬社製)、デュラネートWM44-70G(ブロックイソシアネート、粒径42nm、解離温度約90℃、旭化成社製)、TRIXENE AQUA BI200(ブロックイソシアネート、粒径94nm、解離温度110-120℃、BAXENDEN製)などが挙げられる。
【0139】
インク中の架橋剤の含有量は、0.1~10質量%であることが好ましく、0.5~8質量%であることがより好ましく、1~5質量%であることが更に好ましい。
【0140】
<顔料>
本発明のインクは、更に顔料を含むことができる。上記顔料は本発明のインク中で分散していることが好ましい。
本発明のインクジェット捺染方法では、ポリマーが布帛上で膜を形成するが、色によっては、更にこの膜中に顔料が分散することで、色相を調整したり、色濃度をより高くしたりすることができるため好ましい。顔料は1種のみ用いても良いし、2種以上を用いても良い。
【0141】
本発明に用いることができる顔料は特に限定されないが、たとえば、
カーボンブラック、
アニリンブラック、
C.I.ピグメントイエロー3、12、53、55、74、81、83、93、94、95、97、98、100、101、104、108、109、110、117、120、128、138、153、155、180、185、
C.I.ピグメントレッド112、114、122、123、146、149、166、168、170、172、177、178、179、185、190、193、202、206、209、219、
C.I.ピグメントバイオレット19、23、
C.I.ピグメントオレンジ36、43、64、
C.I.ピグメントブルー15、15:1、15:2、15:3、15:4、15:6、16、17:1、56、60、63、
C.I.ピグメントグリーン36から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0142】
本発明のインクが顔料を含む場合、インク中の顔料の含有量は、0.5~10質量%が好ましく、0.5~8質量%がより好ましく、0.5~5質量%が更に好ましい。
【0143】
本発明では、インクの調製に際して、分散剤を用いて顔料を水中に分散させた顔料の水分散体(「顔料水分散体」とも呼ぶ。)を用いることもできる。顔料水分散体としては、たとえば特開2012-7148号公報に記載された顔料分散体を用いることができる。また、顔料水分散体としては、Pro-jet Black APD1000(Fujifilm Imaging Colorants社製)などの市販品を用いることもできる。
顔料としては、自己分散型顔料を使用することもできる。
自己分散型顔料とは、分散剤を使用しなくても水に分散可能な顔料である。自己分散型顔料は、例えば、顔料の表面にカルボニル基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、スルホ基、リン酸基等の親水性基及びそれらの塩の少なくとも一種が、直接又は他の基を介して化学結合により導入されているものが挙げられる。
自己分散型顔料は好ましくは、自己分散型カーボンブラックである。
使用し得る自己分散型顔料としては、自己分散型カーボンブラックCAB-O-JET 200、同300、同400(以上、キャボット社製)、BONJET CW-1(カルボキシ基として500μmol/g)、同CW-2(カルボキシ基として470μmol/g)(以上、オリヱント化学工業株式会社製)、東海カーボン株式会社のAqua-Black 162(カルボキシル基として約800μmol/g)等の市販品が挙げられる。
顔料としては分散剤を用いて顔料を水中に分散させた顔料の水分散体あるいは自己分散顔料いずれも好ましく用いることができる。
【0144】
<ワックス>
本発明のインクは、ワックスを含有してもよい。これにより、得られるインク膜表面の摩擦抵抗を低減することでき、摩擦性を向上させることができる。
【0145】
上記ワックスは、本発明のインク中で粒子の形態で存在することが好ましい。粒子の形態のワックスを「ワックス粒子」と呼ぶ。
ワックス粒子としては、ワックスが水中で分散された分散体を使用することが好ましく、ワックスとしては、ポリエチレン(オレフィンとも表現される)、パラフィン、カルナバ(エステルとも表現される)が好ましく、より好ましくは、摩擦性向上、発色濃度向上の観点で、カルナバが挙げられる。これらは、単独で用いてもよいし、2種以上併用してもよく、また、2種以上をそれら混合物の粒子として用いてもよい。
【0146】
ワックス粒子の分散形態としては、アニオン性、ノニオン性が好ましいが、ノニオン性であることが特に好ましい。ノニオン性であることで、本発明においては、インク膜表面上にワックスが偏在しやすくなると考えられるが、摩擦性向上に効果的であり、好ましい。また、通常、着色剤以外の無色成分を捺染用インクジェットインクに含ませると、着色剤と布帛上の前処理剤との相互作用を阻害し、発色濃度を悪化させる場合があるが、ノニオン性のワックス粒子を用いることで発色濃度の悪化を抑制することができるものと推察される。
【0147】
ワックスの融点としては、安定性と摩擦性向上の観点で、60℃~120℃の範囲にあることが好ましく、60℃~100℃の範囲がより好ましい。融点を高くすることで捺染インクの安定性を向上させることができる一方、融点を必要以上に高くしないことが、摩擦性向上に効果的である。
ワックスの融点は、一般的な融点測定機にて測定することができる。
【0148】
ワックス粒子の体積平均粒子径(MV)としては、インクジェットでの吐出性の観点で、0.3μm以下が好ましく、0.2μm以下がより好ましく、0.1μm以下が特に好ましい。
体積平均粒子径は、上述の着色樹脂粒子と同様の方法にて測定できる。
【0149】
ワックスの含有量としては、捺染用インクジェットインク中、0.1~10質量%が好ましく、0.5~8質量%がより好ましく、1~5質量%が更に好ましい。
【0150】
上記ワックス粒子としては、市販品を用いてもよく、これを以って特に限定されないが、例えば、ポリロンL-787(中京油脂社製、ポリエチレン、ノニオン、融点102℃、体積平均粒子径0.1μm)、ハイドリン-703(中京油脂社製、パラフィン、アニオン、融点75℃、体積平均粒子径0.1μm)、R108(中京油脂社製、パラフィン、ノニオン、融点66℃、体積平均粒子径0.2μm)、セロゾール524(中京油脂社製、カルナバ、ノニオン、融点83℃、体積平均粒子径0.07μm)などが挙げられるが、より好ましくは、R108(中京油脂社製、パラフィン、ノニオン、融点66℃、体積平均粒子径0.2μm)、セロゾール524(中京油脂社製、カルナバ、ノニオン、融点83℃、体積平均粒子径0.07μm)が挙げられ、特に好ましくは、セロゾール524(中京油脂社製、カルナバ、ノニオン、融点83℃、体積平均粒子径0.07μm)が挙げられる。
【0151】
<その他の成分>
本発明のインクは、上記した以外の成分を含んでいてもよい。
その他の成分としては、たとえば、上記染料及び顔料以外の着色剤、有機溶媒、界面活性剤、pH調整剤、蛍光増白剤、表面張力調整剤、消泡剤、乾燥防止剤、潤滑剤、増粘剤、紫外線吸収剤、退色防止剤、帯電防止剤、マット剤、酸化防止剤、比抵抗調整剤、防錆剤、無機顔料、還元防止剤、防腐剤、防黴剤、及びキレート剤等が挙げられる。これらの成分については、国際公開第2017/131107号に記載されているものを好ましく使用することができる。
界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば以下のものが挙げられる。
【0152】
(HLBが3~8のノニオンアセチレン系の界面活性剤)
本発明のインクは、HLBが3~8のノニオンアセチレン系の界面活性剤(以下、「(c)成分」又は「(c)界面活性剤」ともいう)を含んでいてもよい。
(c)成分におけるHLBは、3~8であり、4~6が好ましく、4が更に好ましい。HLB(Hydorophile-LipophileBalance)は親水新油バランスを表す指標であり、界面活性剤ハンドブック(第234頁、工学図書株式会社など)で記載されている。連続吐出性と間欠吐出性ともに満足させることができるため、HLBは3~8の範囲となる。
【0153】
本発明における(c)界面活性剤は、ノニオンアセチレン系である。界面活性剤としては、電荷で分類するとアニオン系、カチオン系、ノニオン系が挙げられるが、着色樹脂粒子の分散物の安定性を鑑みて、本発明における(c)界面活性剤ではノニオン系の界面活性剤が用いられる。また、界面活性剤としては、構造の観点で分類すると、アセチレン系、非アセチレン系が挙げられるが、連続吐出性と間欠吐出性の観点で、本発明における(c)界面活性剤では、アセチレン系の界面活性剤が用いられる。
本発明における(c)界面活性剤はアセチレン系の界面活性剤であるが、具体的には、アセチレン結合を有する界面活性剤である。
上記(c)界面活性剤としては、直鎖型や分岐(ジェミナル)型のものが挙げられるが、高速のインクジェットへの対応の観点で、分岐型のものが応答が速いため、より好ましい。
【0154】
上記(c)界面活性剤の含有量が、インクの全質量に対して、0.1~2.0質量%であることが好ましく、0.5~2.0質量%であることがより好ましい。
十分な連続吐出性と間欠吐出性が得られる観点により、上記(c)界面活性剤の含有量は、インクの全質量に対して0.1質量%以上であることが好ましく、十分な連続吐出性と間欠吐出性が得られる観点から、上記(c)界面活性剤の含有量は、インクの全質量に対して2.0質量%以下であることが好ましい。
【0155】
(c)界面活性剤の例としては、特に限定されないが、サーフィノールDF110D(HLB3、日信化学社製)、サーフィノール104E(HLB4、日信化学社製)、サーフィノール104H(HLB4、日信化学社製)、サーフィノール104A(HLB4、日信化学社製)、サーフィノール104PA(HLB4、日信化学社製)、サーフィノール104PG50(HLB4、日信化学社製)、サーフィノール104S(HLB4、日信化学社製)、サーフィノール420(HLB4、日信化学社製)、サーフィノール82(HLB4、日信化学社製)、サーフィノールSE(HLB6、日信化学社製)、サーフィノールSE-F(HLB6、日信化学社製)、サーフィノール61(HLB6、日信化学社製)、サーフィノール440(HLB8、日信化学社製)、サーフィノール2502(HLB8、日信化学社製)などが挙げられるが、サーフィノール104E(HLB4、日信化学社製)、サーフィノール104H(HLB4、日信化学社製)、サーフィノール104A(HLB4、日信化学社製)、サーフィノール104PA(HLB4、日信化学社製)、サーフィノール104PG50(HLB4、日信化学社製)、サーフィノール104S(HLB4、日信化学社製)、サーフィノール420(HLB4、日信化学社製)、サーフィノール82(HLB4、日信化学社製)、サーフィノールSE(HLB6、日信化学社製)、サーフィノールSE-F(HLB6、日信化学社製)、サーフィノール61(HLB6、日信化学社製)などがより好ましく、サーフィノール104E(HLB4、日信化学社製)、サーフィノール104H(HLB4、日信化学社製)、サーフィノール104A(HLB4、日信化学社製)、サーフィノール104PA(HLB4、日信化学社製)、サーフィノール104PG50(HLB4、日信化学社製)、サーフィノール104S(HLB4、日信化学社製)、サーフィノール420(HLB4、日信化学社製)、サーフィノール82(HLB4、日信化学社製)などが特に好ましい。
【0156】
本発明のインクをインクジェット用(インクジェットインク)として用いる場合には、インクの表面張力を、20mN/m~70mN/mに調整することが好ましく、25mN/m~60mN/mに調整することがより好ましい。また、インクをインクジェット用として用いる場合には、インクの粘度を、40mPa・s以下に調整することが好ましく、30mPa・s以下に調整することがより好ましく、20mPa・s以下に調整することが特に好ましい。尚、粘度はE型回転粘度計を用い、25℃に制御して測定する。
表面張力及び粘度は、種々の添加剤、例えば、粘度調整剤、表面張力調整剤、比抵抗調整剤、皮膜調整剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、退色防止剤、防黴剤、防錆剤、分散剤、及び界面活性剤等を添加することによって、調整することができる。
【0157】
本発明のインク(好ましくはインクジェットインク)は、捺染用であることが好ましい。
本発明のインクは、インクジェット方式で布帛に捺染する、捺染用インクジェットインクであることがより好ましい。
【0158】
本発明の捺染用インクジェットインクは、前処理剤が塗布されていない布帛にもにじまずに直接印画することができるため、作業性の観点でも有用である。
【0159】
<インクの調製方法>
本発明のインクの調製方法は特に限定されない。たとえば、着色樹脂粒子分散物に、水性有機溶剤、水、及び必要に応じて界面活性剤等を混合して、インクを調製する方法が挙げられる。
【0160】
[インクセット]
本発明のインクセットは、ブラックインク、イエローインク、マゼンタインク、及びシアンインクを少なくとも含有するインクセットであって、インクセットのうちの少なくとも1種のインクが、上記本発明のインクである。
本発明のインクセットは、ブラックインクが本発明のインクであることが好ましい。
【0161】
本発明のインクセットは、インクジェット捺染用であることが好ましい。
【0162】
[インクジェット捺染方法]
本発明のインクジェット捺染方法は、本発明のインク(捺染用インクジェットインク)を、インクジェット方式で直接布帛に印捺する工程を有するインクジェット捺染方法である。
本発明のインクジェット捺染方法は、布帛が、凝集剤を含む水性前処理液により前処理された布帛であってもよい。すなわち、本発明のインクジェット捺染方法は、凝集剤を含む水性前処理液を布帛に付与して、前処理された布帛を得る前処理工程を有していてもよい。
なお、本発明において、捺染用インクジェットインクを、インクジェット方式で布帛に「直接印捺する」とは、転写工程が不要であり、捺染糊を付与する工程が不要で捺染用インクジェットインクが直接布帛に印捺されることを指す。
本発明のインクジェット捺染方法は、廃水及び転写紙などの廃材を出さず、簡便な方法であり、有用である。
【0163】
(前処理工程)
上記前処理工程は、凝集剤を含む水性前処理液を布帛に付与して、前処理された布帛を得る工程である。水性前処理液を布帛に付与する方法としては、特に限定されるものではないが、コーティング法、パディング法、インクジェット法、スプレー法、スクリーン印刷法などが挙げられる。
水性前処理液に含まれる凝集剤としては、着色樹脂粒子を凝集させる作用を有するものであれば、特に限定されないが、有機酸、多価金属塩、及びカチオン性化合物から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
特に、凝集剤がカチオン性化合物又は多価金属塩であって、着色樹脂粒子中のポリマーがアニオン性基(好ましくは酸基であり、より好ましくはカルボキシ基)を有する場合に、上記インクジェット捺染方法にて印画すると、高濃度の着色布を得ることができる。これは、予め前処理されたカチオン性化合物又は多価金属塩が、アニオン性基を有するポリマーを含むインクと接触した瞬間に凝集するために、布帛表面に留まるために、結果的に表面に存在する着色樹脂粒子の量が多くなり、高濃度化できたものと考えられる。凝集剤はカチオン性化合物であることがより好ましい。
【0164】
≪多価金属塩≫
多価金属塩とは、2価以上の金属イオンとアニオンから構成される化合物である。具体的には、塩化カルシウム、硝酸カルシウム、硫酸カルシウム、酢酸カルシウム、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、塩化マグネシウム、酢酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、塩化バリウム、硫化亜鉛、炭酸亜鉛、硝酸銅等が挙げられる。
【0165】
≪カチオン性化合物≫
カチオン性化合物としては、特に限定されず、低分子化合物であっても、高分子化合物であってもよい。
低分子のカチオン性化合物としては、例えば、(2-ヒドロキシエチル)トリメチルアンモニウムクロリド、ベンゾイルコリンクロリド、ベンジルトリエチルアンモニウムクロリド、トリメチルアセトヒドラジドアンモニウムクロリド、1-ブチル-1-メチルピロリジニウムクロリド、3-ヒドロキシ-4-(トリメチルアンモニオ)ブチラート塩酸塩、グリシジルトリメチルアンモニウムクロリド、L-カルニチン塩酸塩等が挙げられる。
高分子のカチオン性化合物としては、例えば、ポリアリルアミン又はその誘導体、アミン-エピハロヒドリン共重合体、又は他の第4級アンモニウム塩型カチオンポリマーなどの、水に可溶であり、かつ水中で正に荷電するカチオン性高分子が挙げられる。尚、場合によっては水分散性カチオンポリマーを用いることもできる。
【0166】
凝集剤は、1種単独で使用してもよいし、2種以上併用してもよい。
水性前処理液には、水、及び水性有機溶剤などの他に、例えば、架橋剤、界面活性剤、樹脂などが含まれていてもよい。水性前処理液が含有してもよい水性有機溶剤及び架橋剤としては、本発明のインクに含有してもよいものとして先に記載した水性有機溶剤及び架橋剤が挙げられる。
【0167】
≪溶剤≫
水性前処理液は、溶剤(有機溶剤)を含有することが好ましい。有機溶剤としては特に限定されないが、例えば、グリセリン、ジエチレングリコール、1,3-プロパンジオール、トリエチレングリコール、2-ピロリドン、テトラエチレングリコール、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、テトラエチレングリコールモノブチルエーテルなどが挙げられる。
【0168】
<熱処理工程>
本発明のインクジェット捺染方法は、更に、熱処理工程を含むことが好ましい。布帛に印捺した後に、熱処理工程を行うことで、非水溶性鎖状ポリマーが膜を形成しやすくなる。
熱処理工程は、着色布を加熱することにより行われることが好ましい。
熱処理工程の温度は、100~220℃が好ましく、130~200℃がより好ましい。熱処理工程の加熱時間は、20秒~300秒が好ましく、30~240秒がより好ましく、40~180秒が更に好ましい。
【0169】
<後処理>
本発明の捺染用インクジェットインクにより着色した布帛は、必要に応じて、着色布に後処理剤を全面にパディング処理することで、風合いの柔軟性及び堅牢性(特に耐摩擦性)が、更に向上した着色布を得ることができる。柔軟化を目的とした後処理剤としては、カチオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、非イオン系界面活性剤、ジメチルシリコーンオイル、アミノシリコーンオイル、カルボキシ変性シリコーンオイル、ヒドロキシ変性シリコーンオイル、脂肪酸、脂肪酸アマイド、鉱物油、植物油、動物油、可塑剤などが挙げられる。
また、着色布表面のスベリ性を向上させる目的の後処理剤としては、金属石鹸、パラフィンワックス、カルナバワックス、マイクロスタリンワックス、ジメチルシリコーンオイル、アミノシリコーンオイル、カルボキシ変性シリコーンオイル、ヒドロキシ変性シリコーンオイルなどが挙げられる。
パディング処理は、これらの後処理剤を水溶媒にミキサー攪拌により乳化、熱乳化、又は分散したものに、着色布を浸漬しマングル等で絞り乾燥、熱処理を加えて処理する。
また、後処理剤中に固着剤として樹脂エマルジョンを少量配合することにより、着色布の耐摩擦性を向上させることができる。後処理剤に対しての配合量は5%未満が好ましく、これにより着色布の風合いの柔らかさが損なわれにくいため好ましい。
後処理剤に固着剤として配合する樹脂エマルジョンとしては、特に限定するものではないが、アクリル酸エステル樹脂エマルジョン、ウレタン樹脂エマルジョン、エチレン・酢酸ビニル共重合樹脂(EVA樹脂)エマルジョン、シリコーン/アクリル樹脂エマルジョン、ポリエステル樹脂エマルジョンなどを用いることができ、着色布の風合いを柔らかくするために、これ等の樹脂エマルジョンのガラス転移点が0℃以下であることが好ましい。
【0170】
<布帛>
本発明のインクジェット捺染方法は、様々な種類の布帛に適用できる。たとえば、生地布帛(繊維種)としては、ナイロン、ポリエステル、アクリロニトリル等の合成繊維、アセテート、レーヨン等の半合成繊維、綿、絹、毛等の天然繊維、及びこれらの混合繊維、織物、編み物、不織布等が挙げられ、綿及びポリエステルから選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
布帛としては、前処理した布帛を用いることもできる。前処理液は、コーティング法、パディング法、インクジェット法、スプレー法、スクリーン印刷法などにより、付与できる。前処理液は、着色樹脂粒子中のポリマーを凝集させる凝集剤を含み、水溶液であることが好ましい。凝集剤としては、例えば、有機酸、多価金属塩、及びカチオン性化合物などが挙げられる。
衣料品としては、Tシャツ、トレーナー、ジャージ、パンツ、スウェットスーツ、ワンピース、ブラウスなどが挙げられる。また、寝具、ハンカチなどにも好適である。
【0171】
<プラスチック基材>
本発明のインクは、プラスチック基材に対する画像形成の用途に好適である。
プラスチック基材におけるプラスチックとしては、ポリ塩化ビニル(PVC)樹脂、二酢酸セルロース、三酢酸セルロース、プロピオン酸セルロース、酪酸セルロース、酢酸酪酸セルロース、硝酸セルロース、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン(PE)、ポリスチレン(PS)、ポリプロピレン(PP)、ポリカーボネート(PC)、ポリビニルアセタール、アクリル樹脂、等が挙げられる。
プラスチック基材は、コロナ処理されていてもよい。
【0172】
本発明のインクによれば、PET基材等の一般的なプラスチック基材に対してだけでなく、水系インクによる画像形成では画像との密着性を確保することが難しい基材に対しても、密着性に優れた画像を形成することができる。
水系インクによる画像形成では画像との密着性を確保することが難しい基材としては、極性基を有しない疎水性の基材が挙げられる。
極性基を有しない疎水性の基材としては、PS基材、コロナ処理されたPP基材(「コロナPP」と称されることがある)、PE基材、PEがラミネートされた紙基材、等が挙げられる。
【実施例
【0173】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0174】
<モノマーの合成例>
以下の表5~9に示す化合物を合成した。
【0175】
【表5】
【0176】
【表6】
【0177】
【表7】
【0178】
【表8】
【0179】
【表9】
【0180】
〔非水溶性鎖状ポリマー及び比較ポリマーの合成〕
非水溶性鎖状ポリマーとしてポリマーP1~P43を合成し、比較ポリマーとしてポリマーR1~R3を合成した。
これらのポリマーの合成では、上記表5~9に示した単位(1)形成用化合物、単位(2)形成用化合物、親水性基導入用化合物、及びその他の化合物を用いた。その他の化合物とは、単位(1)形成用化合物以外のジイソシアネート化合物、又は、単位(2)形成用化合物以外のジオール化合物、ジチオール化合物、若しくはジアミン化合物である。
単位(1)形成用化合物は、いずれもジイソシアネート化合物である。単位(2)形成用化合物は、a-4を除き、ジオール化合物である。その他の化合物は、TMHDI及びTMPを除き、ジオール化合物である。TMHDIは、ジイソシアネート化合物であり、a-4は、ジアミン化合物である。TMPはトリオール化合物である。
【0181】
<ポリマーP1の合成>
三口フラスコに、単位(1)形成用化合物であるイソホロンジイソシアネート(IPDI)73.4g、親水性基導入用化合物である2,2-ジメチロールプロパン酸(DMPA)13.4g、その他の化合物である(b-6)(旭化成(株)製T5651)225g、及び反応液濃度が50質量%になるように酢酸エチル311.8gを仕込み、70℃に加熱した。そこに、ネオスタンU-600(日東化成(株)製、無機ビスマス触媒;以下、「U-600」ともいう)を0.2g添加し、70℃で5時間撹拌した。
次に、そこにイソプロピルアルコール218.0g及び酢酸エチル197.0gを添加し、70℃で3時間撹拌した。撹拌後、反応液を室温(23℃)まで放冷し、次いで酢酸エチルで濃度調整を行うことにより、ポリマーP1の30質量%溶液(溶媒は、酢酸エチル/イソプロピルアルコールの混合溶液)を得た。
【0182】
<ポリマーP2~P43及びR1~R2の合成>
ポリマーを形成するための化合物の種類及び量を表10に示すように変更した以外はポリマーP1の合成と同様にして、ポリマーP2~P43及びR1~R2の各々の30質量%溶液を得た。なお、イソプロピルアルコール添加前の撹拌時間は、各々表11記載の重量平均分子量に到達するまでとし、反応を実施した。
表10中、「N1」は「親水性基導入用化合物」を表し、「N2」は「ジイソシアネート化合物」を表し、「N3」は「ジオール化合物、ジチオール化合物、又はジアミン化合物」を表す。
【0183】
<ポリマーR3の合成>
ポリマーを形成するための化合物の種類及び量を表10に示すように変更し、70℃5時間の攪拌後にイソプロピルアルコールを添加しなかった以外はポリマー1の合成と同様にして、ポリマーR3の30質量%溶液を得た。
【0184】
以下の表10及び表11に、ポリマーP1~P43及びR1~R3について、ポリマー形成用化合物の種類及び使用量、ポリマー全量に対する構造単位(1)及び構造単位(2)から選択される少なくとも1種の構造単位の総量(質量%)、ポリマーの環価(mmol/g)、ポリマーの酸価(mmol/g)、ポリマーの重量平均分子量(Mw)、25℃の蒸留水100gに対するポリマーの溶解量(g)を示す。
なお、表11において、ポリマーの環価(mmol/g)、及びポリマーの酸価(mmol/g)は計算値であり、ポリマーの重量平均分子量(Mw)、及び25℃の蒸留水100gに対するポリマーの溶解量(g)は実測値である。
【0185】
【表10】
【0186】
【表11】
【0187】
〔着色樹脂粒子水分散物の調製〕
<実施例1>
(分散物1の調製)
-油相成分の調製-
酢酸エチルと、ポリマーP1の30質量%溶液と、C.I. Solvent Black 3(SB-3、商品名:Oil Black 860、オリエント化学工業製)と、を混合し、15分間撹拌することにより、固形分30質量%の油相成分149.8gを得た。
油相成分の調製において、ポリマーP1の30質量%溶液及びSB-3の使用量は、製造される着色樹脂粒子の固形分に対するポリマーP1及びSB-3の含有量(質量%)が表12に示す値となる量とした。
【0188】
-水相成分の調製-
蒸留水135.3gと、中和剤としての水酸化ナトリウムと、を混合し、15分間撹拌することにより、水相成分を調製した。
中和剤としての水酸化ナトリウムの使用量は、製造される着色樹脂粒子において、中和度が90%となるように調整した。
水酸化ナトリウムの具体的な量は、以下の算出式によって求めた。
水酸化ナトリウムの量(g)=油相成分の全量(g)×(油相成分の固形分濃度(質量%)/100)×(油相成分の固形分量に対する鎖状ポリマーP1の含有量(質量%)/100)×非水溶性鎖状ポリマーP1の酸価(mmol/g)×0.9×水酸化ナトリウムの分子量(g/mol)/1000
【0189】
-分散物1の調製-
上記油相成分と上記水相成分とを混合し、得られた混合物を室温でホモジナイザーを用いて18000rpmで10分間乳化させ、乳化物を得た。得られた乳化物を蒸留水48.0gに添加し、得られた液体を50℃に加熱し、50℃で5時間攪拌することにより、上記液体から酢酸エチル及びイソプロピルアルコールを留去した。
酢酸エチル及びイソプロピルアルコールが留去された液体を、固形分含有量が20質量%となるように蒸留水で希釈することにより、着色樹脂粒子の分散物1を得た。
【0190】
<実施例2~37、実施例53~58、比較例R1~R3>
(分散物2~37、53~58、R1~R3の調製)
水分散液の調製に用いたポリマーP1を、表12及び表13に示すポリマーに変更したこと以外は実施例1と同様の操作を行い、分散物2~37、53~58、R1~R3を得た。
【0191】
<実施例38~46、59>
(分散物38~46の調製)
油相成分の調製において、ポリマーP1を表13に示すポリマーに変更し、ポリマーの30質量%溶液及び染料の使用量を、製造される着色樹脂粒子の固形分に対するポリマー及び染料の含有量(質量%)が表13に示す値となる量に変更した以外は実施例1と同様の操作を行い、分散物38~46、59を得た。
【0192】
<実施例47~49>
(分散物47~49の調製)
油相成分の調製において、ポリマーP1を、ポリマーP37に変更し、ポリマーの30質量%溶液及び染料の使用量を、製造される着色樹脂粒子の固形分に対するポリマー及び染料の含有量(質量%)が表13に示す値となる量に変更し、さらに、油性有機溶剤としてoil-1~oil-3を表13に示す含有量となるように添加し、これらを混合し、15分間撹拌したこと以外は実施例1と同様の操作を行い、分散物47~49を得た。
【0193】
なお、oil-1~oil-3は、以下のとおりである。
oil-1:DBE(INVISTA製、二塩基酸エステル)
oil-2:コハク酸ジメチル(東京化成製)
oil-3:ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート(東京化成製)
それぞれの沸点を以下に示す。
oil-1:196~225℃
oil-2:196℃
oil-3:247℃
【0194】
<実施例50~52>
(分散物50~52の調製)
油相成分の調製において、ポリマーP1を、ポリマーP37に変更し、染料を表13に示すSR-24、SB-44、DR-60/VR-41に変更し、ポリマーの30質量%溶液及び染料の使用量を、製造される着色樹脂粒子の固形分に対するポリマー及び染料の含有量(質量%)が表13に示す値となる量に変更し、さらに、油性有機溶剤としてoil-1を表13に示す含有量となるように添加し、これらを混合し、15分間撹拌したこと以外は実施例1と同様の操作を行い、分散物50~52を得た。
【0195】
<実施例60>
(分散物60の調製)
水分散物の調液に用いたポリマーP1を、表13に示すポリマーP17に変更し、油相成分として更にバーブチルZ 3.3g(日油株式会社製)を加えたこと以外は実施例1と同様の操作を行い、分散物60を得た。
【0196】
なお、使用した染料は、以下のとおりである。
SR-24:C.I. Solvent Red 24
SB-44:C.I. Solvent Blue 44
DR-60:C.I. Disperse Red 60
VR-41:C.I. Vat Red 41
【0197】
<実施例61~68>
(分散物61~68の調製)
水分散物の調液に用いたポリマーP1を、表14に示すポリマーP37に変更し、染料を表14に示すSB-27、SB-28、SB-29、SBlue-70、(1-3)に変更したこと以外は実施例1と同様の操作を行い、分散物61~68を得た。
【0198】
なお、使用した染料は、以下のとおりである。
SB-27:C.I. Solvent Black 27(クロム錯体)
SB-28:C.I. Solvent Black 28(クロム錯体)
SB-29:C.I. Solvent Black 29(クロム錯体)
SBlue-70:C.I. Solvent Blue 70(銅錯体)
(1-3):下記化合物
【0199】
【化12】


【0200】
なお、化合物(1-3)を以下のスキームに従い合成した。
【0201】
【化13】
【0202】
〔中間体(CP3)の合成〕
3Lの三ツ口フラスコに、1,8-ナフタレンジアミン(富士フイルム和光純薬(株)製)158g(1モル)とメタノール1400mLを加え、次いで、氷冷下で濃硫酸(富士フイルム和光純薬(株)製、試薬特級)57g(0.6モル)を内温40℃以下に保ちながらゆっくりと滴下した。この懸濁液に、ケトン化合物(X)に相当する2-ペンタノン(富士フイルム和光純薬(株)製、試薬一級)100g(1.16モル)を注入した後、内温55℃で1時間反応させた。反応液を室温(25℃)まで冷却し、ここへ水冷下、2mol/L水酸化ナトリウム水溶液を1500mLゆっくりと滴下した。室温で15分間撹拌した後に、吸引ろ過を行い、水/メタノール=1/1(v/v)1000mL、次いで水1000mL、最後に水/メタノール=1/1(v/v)1000mLでかけ洗いを行い、得られた粉末を50℃の送風乾燥器で24時間乾燥させ、中間体(CP3)の淡褐色粉末を得た(収量210g、収率93%)。
【0203】
〔化合物(2-1)の合成〕
1Lの三ツ口フラスコに、o-置換アニリン(Y)に相当するo-クロロアニリン(富士フイルム和光純薬(株)製、試薬特級)71.4g(0.56モル)と水560mLを加え、次いで、氷冷下で濃塩酸(富士フイルム和光純薬(株)製、試薬特級)140mL(1.68モル)を内温10℃以下に保ちながらゆっくりと滴下した。この溶液に、亜硝酸ナトリウム(富士フイルム和光純薬(株)製、試薬特級)38.64gを水69.6gに溶解させた水溶液を内温0~5℃に保ちながらゆっくりと滴下した後に、内温0~5℃で15分間反応させた。ここへアミド硫酸(富士フイルム和光純薬(株)製、試薬一級)5.44gを添加し、内温0~5℃で15分間反応させ、ジアゾニウム塩溶液とした。
別途、3Lの三ツ口フラスコに、1-ナフチルアミン(MAHATME DYE CHEM PVT LTD製)76.2g(0.53モル)にアセトン1,904mLを加えた後に、内温を15℃まで冷却した。この溶液に、先に調製したジアゾニウム塩溶液を、内温15~20℃に保ちながら注意深く滴下した後に、内温15~20℃で30分間反応させた。反応液から析出している結晶を吸引ろ過によりろ取し、アセトン/水=1/1(v/v)1000mLでかけ洗いを行った。この結晶のウエットケーキをアセトン/酢酸エチル=1/1(v/v)1500mLに加え、45~50℃に加温し15分間撹拌した後、熱時ろ過して、アセトン/酢酸エチル=1/1(v/v)500mLでかけ洗いを行った後、40℃の送風乾燥器で6時間乾燥させることで、化合物(2-1)の塩酸塩を深緑色結晶として得た(収量142g、収率85%)。
【0204】
〔化合物(1-3)の合成〕
1Lの三ツ口フラスコに、化合物(2-1)の塩酸塩29.8g(0.094モル)、水172mL、酢酸(富士フイルム和光純薬(製)、試薬特級)120mL、プロピオン酸(富士フイルム和光純薬(株)製、試薬特級)172mLを加え、内温を5℃まで冷却した。ここへ注意深く濃塩酸(富士フイルム和光純薬(株)製、試薬特級)22.4mL(0.269モル)を内温10℃以下で滴下し、次いで、亜硝酸ナトリウム(富士フイルム和光純薬(株)製、試薬特級)6.48g(0.094モル)を水25.6mLに溶解させた水溶液を内温0~5℃に保ちながらゆっくりと滴下した後に、内温0~5℃で1時間反応させた[ジアゾニウム塩溶液]。
別途、2Lの三ツ口フラスコに、中間体(CP3)21.28g(0.094モル)、アミド硫酸(富士フイルム和光純薬(株)製、試薬一級)、テトラヒドロフラン(富士フイルム和光純薬(株)製、試薬特級)128mL、及び水128mLを加えて内温を5℃に冷却した。先に調製したジアゾニウム塩溶液を内温を5~10℃に保ちながらゆっくりと滴下した後に、内温0~10℃で30分間反応させ、次いで15~20℃で30分間反応させた。ここへアセトン576mLを滴下し、析出している結晶を吸引ろ過でろ取し、アセトン/水=1/1(v/v)でかけ洗いを行った。得られたウエットケーキを酢酸エチル3000mL/水1200mLに加えて撹拌し、炭酸水素ナトリウム水溶液を用いてpH8まで中和した。その後、セライトろ過によって不溶物を除去し、酢酸エチル層のみをロータリーエバポレータを用いて濃縮して得られた残渣をメタノールで再結晶することで、化合物(1-3)の深緑色光沢結晶を得た(収量30.6g、収率64%)。
【0205】
以下表12~14に、着色樹脂粒子分散物の各成分の種類及び含有量について示す。なお、表12~14において、ポリマー及び染料の含有量とは、着色樹脂粒子の固形分に対するポリマー及び染料の含有量を質量%で表した値であり、油性有機溶剤の含有量とは、着色樹脂粒子の固形分に対する油性有機溶剤の添加量を質量%で表した値である。
すべての実施例及び比較例において、着色樹脂粒子の平均粒子径は150nmであった。
【0206】
【表12】
【0207】
【表13】
【0208】
【表14】
【0209】
〔インクの調製〕
<実施例1a>
(インク1aの調製)
下記組成の各成分を混合し、インク1aを作製した。
―インクの組成―
分散物1 82質量部
顔料分散液 13質量部
フッ素系界面活性剤 0.3質量部
2-メチルプロパンジオール 4.7質量部
【0210】
なお、インクの調製に用いた顔料分散液及びフッ素系界面活性剤は以下のとおりである。
顔料分散液:Pro-jet Black APD1000(Fujifilm Imaging Colorants社製)、顔料濃度14質量%
フッ素系界面活性剤:Du Pont社製、Capstone FS-31、固形分25質量%
【0211】
<実施例2a~57a、61a~68a、比較例1a~3a>
(インク2a~57a、61a~68a、R1a~R3aの調製)
分散物1を下記表15~17に記載した分散物に変更した以外はインク1aと同様にしてインクインク2a~57a、61a~68a、R1a~R3aを得た。
【0212】
〔評価〕
上記で得られたインク2a~57a、61a~68a、R1a~R3aを、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)製メンブレンフィルター(孔径:1μm)でろ過した後、以下の評価を行った。結果を表15~17に示す。
【0213】
<画像(硬化膜)の鉛筆硬度>
調製後室温で1日以内保管した上記インクを基材上に塗布することにより、上記基材上に厚さ2μmの塗膜を形成した。基材としては、ポリスチレン(PS)シート(Robert Horne社製の「falcon hi impact polystyrene」)を用いた。また、上記塗布は、RK PRINT COAT INSTRUMENTS社製 Kハンドコーター KハンドコーターのNo.2バーを用いて行った。次に、上記塗膜を60℃で3分間乾燥させた。乾燥後の塗膜を160℃のオーブンで3分加熱することにより、乾燥後の塗膜を硬化させた。上記硬化膜について、JIS K5600-5-4(1999年)に基づき、鉛筆硬度を測定した。鉛筆硬度の測定に用いる鉛筆としては、三菱鉛筆(株)製のUNI(登録商標)を使用した。なお、鉛筆硬度の許容範囲はHB以上であり、H以上であることが好ましい。鉛筆硬度がB以下である硬化膜は、取り扱い時に傷が生じる可能性があり好ましくない。
【0214】
<画像(硬化膜)の密着性>
上記鉛筆硬度の評価における硬化膜の形成と同様にして、硬化膜を形成した。得られた硬化膜に対し、ISO2409(2013年)(クロスカット法)に準拠してクロスハッチテストを実施し、以下の評価基準に従って、硬化膜の、PS(ポリスチレン)基材に対する密着性を評価した。このクロスハッチテストでは、カット間隔を1mmとし、1mm角の正方形の格子を25個形成した。下記評価基準において、0及び1が、実用上許容されるレベルである。下記評価基準において、格子が剥がれた割合(%)は、下記式によって求められた値である。下記式における全格子数は25である。
格子が剥がれた割合(%)=〔(剥がれが生じた格子数)/(全格子数)〕×100
-画像(硬化膜)の密着性の評価基準-
0: 格子が剥がれた割合(%)が0%であった。
1: 格子が剥がれた割合(%)が0%超5%以下であった。
2: 格子が剥がれた割合(%)が5%超15%以下であった。
3: 格子が剥がれた割合(%)が15%超35%以下であった。
4: 格子が剥がれた割合(%)が35%超65%以下であった。
5: 格子が剥がれた割合(%)が65%超であった。
【0215】
上記硬化膜の密着性の評価に用いたPS基材は、表面に極性基を有しない疎水性の基材である点で、表面に極性基を有するPET(ポリエチレンテレフタレート)基材及びPVC(ポリ塩化ビニル)基材とは異なる。このため、水系のインクを用いた画像形成において、PS基材は、PET基材及びPVC基材と比較して、画像(硬化膜)と基材との密着性が得られにくい基材である。従って、PS基材を用いた上記硬化膜の密着性の評価は、厳格な条件の密着性評価である。このため、上記硬化膜の密着性の評価結果に優れることは、硬化膜の基材との密着性が極めて優れることを意味する。
【0216】
<発色性>
上記鉛筆硬度の評価における硬化膜の形成と同様にして、硬化膜を形成した。得られた硬化膜に対し、測色機(Gretag Macbeth Spectrolino, X-Rite社製)を用いて評価した。発色性は黒色について、下記のように評価した。下記評価基準において、Aまでが、実用上許容されるレベルである。
黒色(ブラック):
SSS:OD(Optical Density)値 1.7以上
SS:OD値 1.6以上 1.7未満
S:OD値 1.4以上 1.6未満
A:OD値 1.2以上 1.4未満
B:OD値 1.0以上 1.2未満
C:OD値 0.8以上 1.0未満
D:OD値 0.8未満
【0217】
<インクの吐出性>
調製後室温で1日以内保管した上記インクをインクジェットプリンタ(Fujifilm Dimatix社製、DMP)のヘッドから30分間吐出し、次いで吐出を停止した。吐出の停止から5分間経過した後、上述のPS基材上に、再び上記ヘッドから上記インクを吐出させ、5cm×5cmのベタ画像を形成した。これらの画像を目視で観察し、不吐出ノズルの発生等によるドット欠けの有無を確認し、下記評価基準に従ってインクの吐出性を評価した。下記評価基準において、インクの吐出性が最も優れるものは、Aである。
-吐出性の評価基準-
A:不吐出ノズルの発生等によるドット欠けの発生が認められず、良好な画像が得られた。
B:不吐出ノズルの発生等によるドット欠けの発生がわずかに認められたが、実用上支障を来さない程度であった。
C:不吐出ノズルの発生等によるドット欠けの発生があり、実用に耐えない画像であった。
D:ヘッドから吐出できなかった。
【0218】
<インクの保存安定性1>
調製後室温で1日以内保管した上記インクを容器に密封し、60℃で2週間経時させた。2週間経時後のインクについて、上記の吐出性の評価と同様の評価を実施し、同様の評価基準に従って、インクの保存安定性を評価した。評価基準において、インクの保存安定性が最も優れるものは、Aである。
【0219】
【表15】
【0220】
【表16】
【0221】
【表17】
【0222】
本発明のインクは、吐出安定性及び保存安定性に優れており、発色性、鉛筆硬度、及び基材との密着性に優れた画像(硬化膜)が得られた。
一方、着色樹脂粒子中のポリマーが環状構造を有していない比較例1aでは、染料を高濃度で保持することが困難であり、発色性、及びインクの保存安定性が劣る結果となった。また、ポリマーが環状構造に由来する剛直性、疎水性を有しないため、鉛筆硬度や密着性にも劣っていた。ポリマーが架橋構造を有する比較例3aでは、ポリマーと染料の親和性に劣るため、染料の保持力に劣り、発色性に劣る結果となった。ポリマーが水溶性である比較例2aでは、染料の保持力が最も低く、いずれの評価項目においても劣る結果となった。
【0223】
〔捺染用インクジェットインクの調製〕
<実施例1b>
(捺染用インクジェットインク1bの調製)
下記組成の各成分を混合し、捺染用インクジェットインク1bを作製した。
―捺染用インクジェットインクの組成―
分散物1(固形分) 10質量部
顔料(固形分) 1質量部
界面活性剤(固形分) 1質量部
テトラエチレングリコール 35質量部
水 53質量部
【0224】
なお、インクの調製に用いた顔料及び界面活性剤は以下のとおりである。
顔料:CAB-O-JET 200 (Cabot社製)
界面活性剤:サーフィノール104 (日信化学工業社製)
【0225】
<実施例2b~52b、比較例1b~3b>
(捺染用インクジェットインク2b~52bの調製)
分散物1を分散物2~52に変更した以外は捺染用インクジェッインク1bと同様にして捺染用インクジェットインク2b~52bを得た。
【0226】
<実施例53b、54b>
(捺染用インクジェットインク53b、54bの調製)
下記組成の各成分を混合し、捺染用インクジェットインク53b、54bをそれぞれ作製した。―捺染用インクジェットインクの組成―
分散物3(固形分) 5質量部
顔料(固形分)(CAB-O-JET200) 1質量部
界面活性剤(固形分)(サーフィノール104) 1質量部
テトラエチレングリコール 35質量部
架橋剤(固形分) 5質量部
水 53質量部
【0227】
なお、架橋剤としては、捺染用インクジェットインク53bでは、エラストロンBN-77(第一工業製薬製)を用い、捺染用インクジェットインク54bではE-05(日清紡ケミカル製)を用いた。
CAB-O-JET200は、キャボット社製の自己分散型カーボンブラックである。
【0228】
<実施例55b、56b>
(捺染用インクジェットインク55b、56bの調製)
下記組成の各成分を混合し、捺染用インクジェットインク55b、56bをそれぞれ作製した。―捺染用インクジェットインクの組成―
分散物3(固形分) 5質量部
顔料(固形分)
(Pro-jet Black APD1000) 1質量部
界面活性剤(固形分)(サーフィノール104) 1質量部
テトラエチレングリコール 35質量部
架橋剤(固形分) 5質量部
水 53質量部
【0229】
なお、架橋剤としては、捺染用インクジェットインク55bでは、エラストロンBN-77(第一工業製薬製)を用い、捺染用インクジェットインク56bではE-05(日清紡ケミカル製)を用いた。
【0230】
〔評価〕
上記で得られた捺染用インクジェットインク1b~56b、R1b~R3bを、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)製メンブレンフィルター(孔径:1μm)でろ過した後、以下の評価を行った。結果を表18及び表19に示す。
【0231】
―インクジェット捺染―
上記で得られた捺染用インクジェットインクをインクカートリッジに充填し、インクジェットプリンタ(PX-045A、セイコーエプソン株式会社製)を用いて、予め前処理をした綿布帛(綿ブロード40、色染社製)に画像を記録して、加熱処理によりインクを定着させて、着色布を得た。
・前処理
カチオマスターPD-7(含凝集剤、四日市合成株式会社製、固形分50質量%)(50質量部)、BYK348(ビックケミー・ジャパン株式会社製)(5質量部)、グリセリン(100質量部)、水(845質量部)を混合し、撹拌することにより、水性前処理液を調整した。
上記調整した水性前処理液を、パディング法により綿布帛(綿ブロード40、色染社製)に絞り率70%で絞って24時間乾燥させた。なお、絞り率(%)は、水性処理液を含んだ布帛を絞った後の、布帛に対する水性処理液の残存量(質量比率)を表す。
・加熱処理
得られた着色布を20℃で12時間乾燥後、ヒートプレス機(卓上自動平プレス機AF-54TEN型、アサヒ繊維機械株式会社製)を用いて160℃、60秒の条件で加熱し、インクを定着させた。
【0232】
<発色性>
発色性の評価は色によって以下の基準で評価した。黒色と黒色以外について、下記のように評価した。
【0233】
黒色以外(シアン、マゼンタ;実施例50b~52b):
明度(L*)、色度(a*、b*)から算出した彩度C値により、OD(Optical Density)値1.0のときに、以下の基準で評価した。
A:L*>50且つC>40
B:L*>40且つ30<C≦40、又は、40<L*≦50且つC>30
C:L*>30且つ20<C≦30、又は、30<L*≦40且つC>20
D:L*≦30、又は、C≦20
【0234】
黒色(ブラック;実施例1b~49b、53b~56b、比較例1b~3b):
OD値により以下の基準で評価した。
SSS:OD値 1.7以上
SS:OD値 1.6以上 1.7未満
S:OD値 1.4以上 1.6未満
A:OD値 1.2以上 1.4未満
B:OD値 1.0以上 1.2未満
C:OD値 0.8以上 1.0未満
D:OD値 0.8未満
【0235】
<インクの保存安定性2>
調製後室温で1日以内保管した上記捺染用インクジェットインクを容器に密封し、60℃で2週間経時させた。2週間経時後のインクについて、上述の方法によりインクジェット捺染を行い、着色布を得た。得られた着色布に対して発色性評価を実施し、同様の評価基準に従って、インクの保存安定性を評価した。
【0236】
<耐洗濯性>
JIS L-0844 A-2号(2011年改定)に基づいて評価した。耐洗濯性の評価結果は数値が大きい方が堅牢性に優れることを示す。
【0237】
<耐汗性>
JIS L-0848(2004年改定)に基づいて評価した。耐汗性の評価結果は数値が大きい方が堅牢性に優れることを示す。
【0238】
<耐摩擦性>
JIS L-0849 II形(2013年改定)に基づいて評価した。耐摩擦性の評価結果は数値が大きい方が堅牢性に優れることを示す。
【0239】
<耐ドライクリーニング性>
JIS L-0860 A-1法(2008年改定)に基づいて評価した。耐ドライクリーニング性の評価結果は数値が大きい方が堅牢性に優れることを示す。
【0240】
【表18】
【0241】
【表19】
【0242】
本発明のインクは保存安定性に優れており、発色性、耐洗濯性、耐汗性、耐摩擦性及び耐ドライクリーニング性に優れた着色布が得られた。
一方、着色樹脂粒子中のポリマーが環状構造を有していない比較例1bでは、染料を高濃度で保持することが困難であり、いずれの評価項目においても劣る結果となった。ポリマーが架橋構造を有する比較例3bでは、ポリマーと染料との親和性に劣るため、染料の保持力に劣り、発色性及びインクの保存安定性に劣る結果となった。ポリマーが水溶性である比較例2aでは、染料の保持力が最も低く、いずれの評価項目においても劣る結果となった。
【0243】
<実施例1c>
(捺染用インクジェットインク1cの調製)
下記組成の各成分を混合し、捺染用インクジェットインク1cを調製した。
-捺染用インクジェットインクの組成-
分散物1(固形分) 13質量部
界面活性剤(固形分) 1質量部
テトラエチレングリコール 35質量部
水 51質量部
【0244】
なお、界面活性剤としては、サーフィノール104 (日信化学工業社製)を用いた。
【0245】
<実施例10c、38c~41c、61c~68c>
分散物1を下記表20に記載した分散物に変更した以外は捺染用インクジェットインク1cと同様にして捺染用インクジェットインク10c、38c~41c、61c~68cを調製した。
【0246】
〔評価〕
捺染用インクジェットインク1c、10c、38c~41c、61c~68cについて、前述の捺染用インクジェットインク1b~56bと同様に、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)製メンブレンフィルター(孔径:1μm)でろ過した後、同様にインクジェット捺染を行い、同様に評価を行った。結果を表20に示す。
【0247】
【表20】
【0248】
表20に示した結果より、捺染用インクジェットインク61c~68cを用いた場合、特に発色性及び保存安定性に優れることが分かった。
【0249】
<実施例IS-1~IS-5、比較例IS-1C>
〔インクジェットインク(Qm)の作成〕
(顔料分散液の調製)
スチレン-アクリル酸共重合体(ジョンクリル678、BASF製、商品名)3g、ジメチルアミノエタノール1.3g、イオン交換水80.7gを70℃で撹拌し混合した。次いで、C.I.ピグメントレッド112を15g、粒径0.5mmのジルコニアビーズを体積率で50%充填し、サンドグラインダーミルを用いて分散し、顔料の含有量が15質量%の顔料分散液を得た。
【0250】
(水性バインダーの調製)
2-ブタノン50gを三ツ口フラスコに入れ、内温を75℃に加温し、そこへn-ブチルメタクリレート80g、アクリル酸20g、2-ブタノン50g、アゾイソブチロニトリル0.5gの混合物を3時間かけて滴下した。滴下後、5時間加熱還流し、室温まで冷却し、減圧加熱することで重合物の残渣を得た。ここへイオン交換水350mL、モノマーとして添加したアクリル酸の1.05倍モルの水酸化ナトリウムを加えて溶解させた。全量が500gとなるようにイオン交換水で希釈し、水性バインダーの20質量%水溶液を得た。
【0251】
(顔料インクの調製)
上記顔料分散液46.6g、上記水性バインダーの20質量%水溶液15g、PDX-7664A(BASF社製、商品名)2.9g、トリエチレングリコールモノブチルエーテル10g、1,2-ヘキサンジオール5g、ジエチレングリコール11.2g、オルフィン465(日信化学工業製、商品名)0.6gを混合し、ここへイオン交換水を加えて全量を100gに調製し、0.8μmのフィルターでろ過してインクジェットインク(Qm)を得た。インクジェットインク(Qm)はマゼンタインクである。
【0252】
〔インクジェットインク(Qc)の作成〕
C.I.ピグメントレッド112に代えて、C.I.ピグメントブルー15:4を用いた以外は、インクジェットインク(Qm)の作成と同様にして、インクジェットインク(Qc)を作成した。インクジェットインク(Qc)はシアンインクである。
【0253】
〔インクジェットインク(Qy)の作成〕
C.I.ピグメントレッド112に代えて、C.I.ピグメントイエロー180を用いた以外は、インクジェットインク(Qm)の作成と同様にして、インクジェットインク(Qy)を作成した。インクジェットインク(Qy)はイエローインクである。
【0254】
〔インクジェットインク(Qb)の作成〕
C.I.ピグメントレッド112に代えて、カーボンブラックを用いた以外は、インクジェットインク(Qm)の作成と同様にして、インクジェットインク(Qb)を作成した。インクジェットインク(Qb)はブラックインクである。
【0255】
〔インクジェット捺染用インクセットの作成〕
下記表21に示すインクジェットインクの組み合わせで、インクジェット捺染用インクセットS1~S5、及びX1を作成した。
【0256】
(インクセット評価方法)
(凝集剤を含む水性前処理液の調製)
カチオマスターPD-7(含凝集剤;四日市合成株式会社製、固形分50質量%)(50質量部)、BYK348(ビックケミー・ジャパン株式会社製)(5質量部)、グリセリン(100質量部)、水(845質量部)を混合し、撹拌することにより、水性前処理液を調製した。
(前処理工程)
上記調製した水性前処理液を、パディング法により、ポリエステル布帛(ポリエステルトロピカル(帝人株式会社製)、株式会社色染社製、商品コードA02-01019)、コットン布帛(綿ブロードシル付、株式会社色染社製、商品コードA02-01002)、及びポリエステル65%コットン35%混紡(混紡ポリエステル65/綿35ブロード、株式会社色染社製、商品コードA02-01030)にそれぞれ絞り率70%で絞って24時間乾燥させた。なお、絞り率(%)は、水性処理液を含んだ布帛を絞った後の、布帛に対する水性処理液の残存量(質量比率)を表す。
【0257】
(インクジェット捺染、加熱処理および評価)
インクジェット捺染用インクセットS1~S5、及びX1を、インクカートリッジに装填し、インクジェットプリンタ(セイコーエプソン株式会社製カラリオPX-045A、商品名)を用いて、前処理工程後のポリエステル布帛(ポリエステルトロピカル(帝人株式会社製)、株式会社色染社製、商品コードA02-01019)、前処理工程後のコットン布帛(綿ブロードシル付、株式会社色染社製、商品コードA02-01002)、及び前処理工程後のポリエステル65%コットン35%混紡(混紡ポリエステル65/綿35ブロード、株式会社色染社製、商品コードA02-01030)にそれぞれ画像を印捺し、室温で12時間乾燥させた。乾燥後、ヒートプレス(アサヒ繊維機械株式会社製、商品名:卓上自動平プレス機AF-54TEN型)を用いて、温度200℃、圧力0.20N/cm、時間60秒間、熱処理を行い、着色布を得た。
【0258】
得られた着色布について、下記のように画像鮮明性について評価した。
[画像鮮明性]
目視による官能評価を行った。3種類の布帛とも鮮明な場合をA、2種類で鮮明な場合をB、1種類のみ鮮明な場合をC、鮮明な画像なしをDの4段階で評価した。結果を表21に示した。
【0259】
【表21】
【0260】
本発明の捺染用インクジェットインクを含有するインクセット用いると、画像鮮明性に優れていた。
【産業上の利用可能性】
【0261】
本発明によれば、布帛上に、発色性、耐洗濯性、耐汗性、耐摩擦性及び耐ドライクリーニング性に優れた画像を形成することができ、プラスチック基材上に発色性、鉛筆硬度、及び基材との密着性に優れた画像を形成することができ、かつ吐出安定性及び保存安定性に優れるインクを製造するために用いることができる着色樹脂粒子分散物、上記着色樹脂粒子分散物を用いて製造されたインク、上記インクを有するインクセット、上記インクを用いたインクジェット捺染方法、及び着色樹脂粒子分散物の製造方法を提供することができる。
【0262】
本発明を詳細にまた特定の実施態様を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは当業者にとって明らかである。
本出願は、2018年7月27日出願の日本特許出願(特願2018-141895)、及び2019年2月28日出願の日本特許出願(特願2019-036273)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。