(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-17
(45)【発行日】2022-03-28
(54)【発明の名称】電線用外装体及び外装体付きワイヤーハーネス
(51)【国際特許分類】
H02G 3/04 20060101AFI20220318BHJP
B60R 16/02 20060101ALI20220318BHJP
H01B 7/00 20060101ALI20220318BHJP
H01B 7/24 20060101ALI20220318BHJP
【FI】
H02G3/04 062
B60R16/02 623T
H01B7/00 301
H01B7/24
(21)【出願番号】P 2018043743
(22)【出願日】2018-03-12
(62)【分割の表示】P 2017222096の分割
【原出願日】2017-11-17
【審査請求日】2020-07-17
(31)【優先権主張番号】P 2017129293
(32)【優先日】2017-06-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】391045897
【氏名又は名称】古河AS株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100143959
【氏名又は名称】住吉 秀一
(72)【発明者】
【氏名】池田 英行
(72)【発明者】
【氏名】亀井 好一
(72)【発明者】
【氏名】児島 直之
(72)【発明者】
【氏名】高村 聡
(72)【発明者】
【氏名】押野 貴志
【審査官】須藤 竜也
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-201240(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02G 3/04
B60R 16/02
F16L 57/00
H01B 7/00
H01B 7/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂発泡シートが折り曲げられて形成された、電線の外周に装着される電線用外装体であり、
前記熱可塑性樹脂発泡シートの両面に非発泡層を有
し、
前記熱可塑性樹脂発泡シートが、裁断面にR0.05mm以上1.0mm以下の曲部を有する電線用外装体。
【請求項2】
熱可塑性樹脂発泡シートが折り曲げられて形成された、電線の外周に装着される電線用外装体であり、
前記熱可塑性樹脂発泡シートの両面に非発泡層を有し、
折曲部の前記熱可塑性樹脂発泡シートの密度が、前記折曲部以外の前記熱可塑性樹脂発泡シートの密度よりも高く、且つ400Kg/m
3以上1200Kg/m
3以下であ
る電線用外装体。
【請求項3】
熱可塑性樹脂発泡シートが折り曲げられて形成された、電線の外周に装着される電線用外装体であり、
前記熱可塑性樹脂発泡シートの両面に非発泡層を有し、
前記熱可塑性樹脂発泡シートが、15000nm以上25000nm以下のスペクトル領域に、0.005以上の吸光度を有す
る電線用外装体。
【請求項4】
熱可塑性樹脂発泡シートが折り曲げられて形成された、電線の外周に装着される電線用外装体であり、
前記熱可塑性樹脂発泡シートの両面に非発泡層を有し、
前記熱可塑性樹脂発泡シートのショア硬さ(HSC)が、60以上100以下であ
る電線用外装体。
【請求項5】
熱可塑性樹脂発泡シートが折り曲げられて形成された、電線の外周に装着される電線用外装体であり、
前記熱可塑性樹脂発泡シートの両面に非発泡層を有し、
前記熱可塑性樹脂発泡シートの発泡層の気泡数密度が、800個/mm
3以上であ
る電線用外装体。
【請求項6】
熱可塑性樹脂発泡シートが折り曲げられて形成された、電線の外周に装着される電線用外装体であり、
前記熱可塑性樹脂発泡シートの両面に非発泡層を有し、
前記熱可塑性樹脂発泡シートの、JIS K 6767:1999に準拠して測定した
引裂強さが、150N/cm以上であ
る電線用外装体。
【請求項7】
前記熱可塑性樹脂発泡シートの厚さが、0.50mm以上4.0mm以下である請求項1
乃至6のいずれか1項に記載の電線用外装体。
【請求項8】
前記非発泡層の厚さが、10μm以上100μm以下である請求項1乃至
7のいずれか1項に記載の電線用外装体。
【請求項9】
前記熱可塑性樹脂発泡シートが、引張強さ3MPa以上10MPa以下であり、前記熱可塑性樹脂発泡シート面上における第1の基準直線方向の引張強度に対する、該第1の基準直線に対し直交する第2の基準直線方向の引張強度の割合が、50%以上200%以下である請求項1乃至8のいずれか1項に記載の電線用外装体。
【請求項10】
外装体付きワイヤーハーネスであって、
ワイヤーハーネスと、
請求項1乃至
9のいずれか1項に記載の電線用外装体と、を備え、
前記電線用外装体は、前記ワイヤーハーネスの外周に装着されている外装体付きワイヤーハーネス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電線の外周に装着される電線用外装体及び外装体付きワイヤーハーネスに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、射出成形によって、所望の電線の配線経路に沿った形状を有する電線用外装体が製造されている。しかし、射出成形によって製造される電線用外装体は、中実の樹脂製であるため軽量化が難しいという問題があった。また、射出成形のための金型が必要となるため、低コスト化を図ることができず、少量多種の電線用外装体を生産することへの対応が難しいという問題があった。さらに、射出成形金型装置によって製造される電線用外装体は、立体形状なので、輸送効率や保管性に劣るという問題があった。
【0003】
また、車両等に配索される電線の外周に装着される電線用外装体として、複数の板状部材の間に中空構造が形成された中空板材でワイヤーハーネスの外周を覆うことにより、外力からワイヤーハーネスを保護するプロテクタが知られている(特許文献1)。特許文献1では、前記中空板材の中空構造として、山部と谷部からなる凹凸部が波状に連続する形状を有する板状部材である介在部材が用いられている。
【0004】
しかし、前記介在部材の中空構造を有する中空板材では、機械的特性に異方性があるため、電線用外装体に対応する形状に中空板材を切り出す際に、切り出しの方向性が制約されてしまうので、設計の自由度が十分に得られない。従って、中空板材の面内に、電線用外装体の切り出し形状を最密配置することができず、低コスト化が阻害されてしまうという問題があった。また、前記中空板材では、中空構造の凹凸部の寸法が大きいので、機械的特性を均一化しつつ小さな形状に切り出すことが難しく、小型の電線用外装体の形成には適切ではないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、機械的特性の異方性を防止しつつ、設計の自由度が向上し、小型の電線用外装体も形成できる電線用外装体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の態様は、熱可塑性樹脂発泡シートが折り曲げられて形成された、電線の外周に装着される電線用外装体であり、前記熱可塑性樹脂発泡シートの両面に非発泡層を有する電線用外装体電線である。
【0008】
本発明の態様は、前記熱可塑性樹脂発泡シートの厚さが、0.50mm以上4.0mm以下である電線用外装体である。
【0009】
本発明の態様は、折曲部の前記熱可塑性樹脂発泡シートの密度が、前記折曲部以外の前記熱可塑性樹脂発泡シートの密度よりも高く、且つ400Kg/m3以上1200Kg/m3以下である電線用外装体である。
【0010】
本発明の態様は、前記熱可塑性樹脂発泡シートが、裁断面にR0.05mm以上1.0mm以下の曲部を有する電線用外装体である。
【0011】
本発明の態様は、前記非発泡層の厚さが、10μm以上100μm以下である電線用外装体である。
【0012】
本発明の態様は、前記熱可塑性樹脂発泡シートが、15000nm以上25000nm以下のスペクトル領域に、0.005以上の吸光度を有する電線用外装体である。なお、上記吸光度は、好ましくは0.01以上、より好ましくは0.02以上である。
【0013】
本発明の態様は、前記熱可塑性樹脂発泡シートのショア硬さ(HSC)が、60以上100以下である電線用外装体である。
【0014】
本発明の態様は、前記熱可塑性樹脂発泡シートの発泡層の気泡数密度が、800個/mm3以上である電線用外装体である。
【0015】
本発明の態様は、前記熱可塑性樹脂発泡シートが、引張強さ3MPa以上10MPa以下、より好ましくは4MPa以上10MPa以下であり、前記熱可塑性樹脂発泡シート面上における第1の基準直線方向の引張強さに対する、該第1の基準直線に対し直交する第2の基準直線方向の引張強さの割合が、50%以上200%以下、より好ましくは60%以上180%以下、さらに好ましくは80%以上120%以下である電線用外装体である。
【0016】
前記熱可塑性樹脂発泡シートの、JIS K 6767:1999に準拠して測定した引裂強さが、150N/cm以上である電線用外装体である。
【0017】
本発明の態様は、外装体付きワイヤーハーネスであって、ワイヤーハーネスと、前記電線用外装体と、を備え、前記電線用外装体は、前記ワイヤーハーネスの外周に装着されている外装体付きワイヤーハーネスである。
【発明の効果】
【0018】
本発明の電線用外装体の態様によれば、密度が200Kg/m3以上700Kg/m3以下である熱可塑性樹脂発泡シートが、折り曲げられて形成されることにより、機械的特性の異方性が防止されて、電線用外装体の設計の自由度が向上し、小型の電線用外装体も形成できる。
【0019】
また、本発明の電線用外装体の態様によれば、熱可塑性樹脂発泡シートが折り曲げられた態様であることにより、軽量化でき、少量多種の生産に対応することができる。また、本発明の電線用外装体の態様によれば、熱可塑性樹脂発泡シートが折り曲げられた態様であることにより、シート状で輸送、保管ができるので、輸送効率、保管性に優れている。
【0020】
本発明の電線用外装体の態様によれば、折曲部の熱可塑性樹脂発泡シートの密度が、折曲部以外の熱可塑性樹脂発泡シートの密度よりも高く、且つ400Kg/m3以上1200Kg/m3以下であることにより、電線用外装体の形状を安定的に設定、維持することができる。
【0021】
本発明の電線用外装体の態様によれば、熱可塑性樹脂発泡シートの両面に非発泡層を有することにより、電線用外装体内面における折曲部の機械的強度の低下を防止でき、また、電線用外装体外面における耐摩耗性が向上して、振動の発生する車両等に取り付けられても優れた耐久性が得られる。
【0022】
本発明の電線用外装体の態様によれば、熱可塑性樹脂発泡シートが、15000nm以上25000nm以下のスペクトル領域に、0.005以上の吸光度を有することにより、延焼性を低減でき、例えば、自動車に配線するワイヤーハーネスの外装体として好適に使用できる。前記吸光度は、好ましくは0.01以上、より好ましくは0.02以上である。
【0023】
本発明の電線用外装体の態様によれば、熱可塑性樹脂発泡シートの発泡層の気泡数密度が800個/mm3以上であることにより、機械的特性の異方性を確実に防止して、電線用外装体の設計の自由度がさらに向上し、また、小型の電線用外装体もより確実に形成できる。
【0024】
本発明の態様によれば、熱可塑性樹脂発泡シートの引裂強さが150N/cm以上であることにより、固定部材を介して車両等へ外装体付きワイヤーハーネスを取り付ける際に、固定部材に対する外装体の接続強度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明の実施形態例に係る外装体及び外装体付きワイヤーハーネスを示す斜視図である。
【
図2】
図1に示す外装体を展開した状態で示す斜視図である。
【
図3】本発明の実施形態例に係る外装体の取り付け手段の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態例に係る電線用外装体について、図面を用いながら説明する。
【0027】
まず、
図1、2を用いて、本発明の実施形態例に係る外装体付きワイヤーハーネスについて説明する。本発明の実施形態例に係る外装体付きワイヤーハーネス1は、複数の電線が束ねられたワイヤーハーネス5と、ワイヤーハーネス5の外周に装着される外装体(電線用外装体)7と、を有する。外装体7は、ワイヤーハーネス5の延び方向(
図1の長手方向x)に沿って延在する複数の壁部2を備えており、複数の壁部2に囲まれて形成され、ワイヤーハーネス5を収容する収容部3を有している。なお、
図1においては、ワイヤーハーネス5を1本の円柱形状で示しているが、ワイヤーハーネス5は、複数の電線を束ねたものである。
【0028】
外装体7の複数の壁部2は、1枚の熱可塑性樹脂発泡シートを折り曲げることにより一体的に形成されている。熱可塑性樹脂発泡シートは、折曲部20a~20dを折り曲げることにより複数の壁部2が形成されている。複数の壁部2は、底壁部21と、底壁部21の端縁から折曲部20aを介して連設された側壁部22と、底壁部21の端縁から折曲部20bを介して連設された側壁部23と、側壁部22の先端から折曲部20cを介して連設された上壁部24と、側壁部23の先端から折曲部20dを介して連設された蓋壁部25とを有している。
【0029】
図2に示すように、折曲部20a~20dのうち折曲部20cには、後述する係止片251a~251hがそれぞれ挿入可能に、長手方向xに沿って所定の間隔毎に係止孔201a~201hが形成されている。
【0030】
図1に示すように、底壁部21は、長手方向xにおける両端が、上壁部24及び蓋壁部25の両端より長手方向xに延出された延出部211a,211bを有している。側壁部22は、長手方向xにおける両端が、延出部211a,211bから折曲部20aを介して立設された立設部221a,221bを有しており、長手方向xにおける両端を一部切欠いた形状を有している。また、側壁部23も、側壁部22と同じく、長手方向xにおける両端が、延出部211a,211bから折曲部20bを介して立設された立設部231a,231bを有しており、長手方向xにおける両端を一部切欠いた形状を有している。
【0031】
上壁部24は、側壁部23の先端から長手方向xに対して直交方向である短手方向yの中央付近まで、底壁部21に対して略水平に延びている。
【0032】
蓋壁部25は、上壁部24を上から覆い重なるように配置されている。この蓋壁部25の先端には、
図2に示すように、係止孔201a~201hに挿入可能な係止片251a~251hを有している。係止片251a~251hは、係止孔201a~201hに対応して所定の間隔毎に設けられている。また、係止片251a~251hのうち、係止片251a,251c,251e,251gは、蓋壁部25から先端に向かって長手方向xにおける一側(延出部211a側)へ傾斜した略矩形状を有し、係止片251b,251d,251f,251hは、蓋壁部25から先端に向かって長手方向xにおける他側(延出部211b側)へ傾斜した略矩形状を有している。なお、係止片251a~251hの形状は、上記態様に限らず、外装体7の形状を保持するために種々の形状を採用することができる。
【0033】
図1に示すように、収容部3は、底壁部21、側壁部22,23及び蓋壁部25で囲まれた部分である。収容部3は、底壁部21、側壁部22,23及び蓋壁部25により長手方向xにおける一側(延出部211a側)と他側(延出部211b側)が貫通した筒状に形成されおり、ワイヤーハーネス5を収容することができる。
【0034】
次に、外装体7に用いられる熱可塑性樹脂発泡シートについて説明する。熱可塑性樹脂発泡シートの樹脂種については、熱可塑性樹脂であれば、特に限定されず、例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリフェニレンスルファイド樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、ポリテトラフルオロエチレン樹脂、アクリル樹脂等を挙げることができる。
【0035】
外装体7に用いられる熱可塑性樹脂発泡シートの密度は、200Kg/m3以上700Kg/m3以下の範囲であれば特に限定されないが、軽量性と引張強さ等の機械的強度とのバランスをより向上させる点から、300Kg/m3以上600Kg/m3以下が好ましく、350Kg/m3以上550Kg/m3以下が特に好ましい。上記範囲の密度を有する熱可塑性樹脂発泡シートが折り曲げられることで、外装体7が形成される。なお、熱可塑性樹脂発泡シートの密度は、JIS K 7222に基づいて測定する。
【0036】
熱可塑性樹脂発泡シートの厚さは、特に限定されないが、折り曲げ容易性と引張強さ等の機械的強度とのバランスをより向上させる点から、0.50mm以上4.0mm以下が好ましく、0.8mm以上2.5mm以下が特に好ましい。
【0037】
折曲部20a~20dは、必要に応じて、平坦な熱可塑性樹脂発泡シートを押し成形等により折り曲げ形成しやすい形状とした押し成形部としてもよい。折曲部20a~20dが押し成形部となっていることにより、折り曲げを容易化でき、さらに、折り曲げ位置の精度を向上、すなわち、外装体7の形状、寸法の精度を向上させることができる。
【0038】
折曲部20a~20dは、押し成形部とした場合、折曲部20a~20d以外の部位である複数の壁部2よりも、熱可塑性樹脂発泡シートの密度が高い、高密度部となっている。折曲部20a~20dにおける熱可塑性樹脂発泡シートの密度は、複数の壁部2よりも高い値であれば、特に限定されないが、外装体7の形状を安定的に設定、維持しつつ折曲部20a~20dの折り曲げ性を得る点から、400Kg/m3以上1200Kg/m3以下が好ましく、500Kg/m3以上1200Kg/m3以下が特に好ましい。なお、熱可塑性樹脂発泡シートの折曲部の密度は、屈曲したシートを平坦に戻し、折曲部の部分から両側1mmの幅を切り出して、JIS K 7222に基づいて測定する。
【0039】
また、熱可塑性樹脂発泡シートには、両面または片面に、非発泡層を有していてもよい。すなわち、熱可塑性樹脂発泡シートは、発泡層と該発泡層上に形成された非発泡層とを有する構成としてもよい。熱可塑性樹脂発泡シートの表面に非発泡層が形成されていることにより、外装体7の曲げ弾性が向上して、収容されるワイヤーハーネス5の保護性能がより向上する。なお、外装体7の曲げ弾性をより向上させる点から、熱可塑性樹脂発泡シートの両面に非発泡層を有する3層構造の構成が好ましい。また、熱可塑性樹脂発泡シートの両面に非発泡層を有することにより、外装体7の内面における折曲部20a~20dの機械的強度の低下を防止して、破断等を抑制できるだけでなく、外装体7の外面の耐摩耗性が向上して、例えば、振動の発生する車両等に外装体7が取り付けられても、優れた耐久性が得られる。
【0040】
非発泡層の厚さは、特に限定されないが、例えば、10μm以上100μm以下が挙げられる。また、両面に非発泡層を有する熱可塑性樹脂発泡シートのショア硬さ(HSC)は、例えば、60以上100以下である。
【0041】
また、熱可塑性樹脂発泡シートは、15000nm以上25000nmのスペクトル領域に、0.005 以上、好ましくは0.01以上、より好ましくは0.02以上の吸光度を有する構成としてもよい。該構成とすることにより、熱可塑性樹脂発泡シートの延焼性を低減でき、例えば、自動車に配索されるワイヤーハーネス5の外装体7として好適に使用できる。上記吸光度は、熱可塑性樹脂発泡シートの材料となる熱可塑性樹脂組成物に、例えば、染料や着色顔料等の着色剤を適量添加することで、得ることができる。
【0042】
また、熱可塑性樹脂発泡シートの発泡層の気泡数密度は、特に限定されないが、例えば、その下限値は、機械的特性の異方性をより確実に防止して設計の自由度をさらに向上させ、また、小型の電線用外装体をより好適に形成できる点から、800個/mm3以上が好ましく、1000個/mm3以上が特に好ましい。一方で、上記気泡数密度の上限値は、例えば、優れた機械的強度を得る点から、1010個/mm3以下を挙げることができる。なお、本発明における気泡数密度は、熱可塑性樹脂発泡シートの縦断面のSEM写真を撮影し、当該SEM写真上において発泡層中の任意の100×100μmの領域に存在する気泡数nを計数し、1mm2当たりに存在する気泡数を算出した。得られた数値を3/2乗することで1mm3当たりの気泡数に換算し気泡数密度とした。
【0043】
また、折曲部20a~20dは、押し成形部としなくても、熱可塑性樹脂発泡シートを折り曲げることにより、折曲部20a~20dにおいて気泡がつぶれて、壁部2よりも高い密度となる。押し成形部としない折曲部20a~20dの密度は、上記と同じく、400Kg/m3以上1200Kg/m3以下が好ましく、500Kg/m3以上1200Kg/m3以下が特に好ましい。
【0044】
すなわち、外装体7に用いられる熱可塑性樹脂発泡シートは、優れた折り曲げ性を有している。これは、熱可塑性樹脂発泡シートが、上記した密度の範囲と好ましくは上記した発泡層の気泡数密度の範囲を有することにより、熱可塑性樹脂発泡シートの折り曲げ時に、折曲部20a~20dの気泡がつぶれて、熱可塑性樹脂発泡シートの折曲部20a~20dの破断を防止できるためである。従って、折曲部20a~20dに、押し成形部ではなく、例えば、ハーフカット部、破線状のカット部等を形成することで、所望の形状に折り曲げ形成しやすい態様としてもよい。
【0045】
熱可塑性樹脂発泡シート面上における任意の第1の基準直線方向の引張強さに対する、該第1の基準直線に対し直交する第2の基準直線方向の引張強さの割合が、50%以上200%以下、より好ましくは60%以上180%以下、さらに好ましくは80%以上120%以下である。熱可塑性樹脂発泡シートが上記引張強さの割合の範囲を有することにより、機械的特性の等方性をより向上させることができるので、設計の自由度がさらに向上し、小型の電線用外装体でもより好適に形成できる。
【0046】
また、熱可塑性樹脂発泡シートの引張強さは、特に限定されないが、その下限値は、収容されるワイヤーハーネス5の保護性能がより向上する点から3MPa以上が好ましく、4MPa以上がより好ましく、6MPa以上が特に好ましい。一方で、上記引張強さの上限値は、外装体7の成形性の点から10MPa以下が好ましい。なお、本発明における引張強さは、JIS K 6767:1999に基づいて測定する。
【0047】
熱可塑性樹脂発泡シートの引裂強さは、特に限定されないが、
図3に示すように、外装体7を装着したクランプ100による車体(図示せず)へのはめ込み等、固定部材を用いて車両等へ外装体7を取り付ける際に、固定部材に対する外装体7の接続強度を向上させる点から、その下限値は、150N/cm以上が好ましく、200N/cm以上がより好ましく、250N/cm以上が特に好ましい。一方で、上記引裂強さの上限値は、高い値であるほど好ましいが、例えば、2000N/cm以下である 。なお、本発明における引裂強さは、JIS K 6767:1999に基づいて測定する。なお、車両等への外装体7の取り付け方法は、クランプ100によるはめ込みに限定されず、これに代えて、例えば、粘着テープや接着剤等による粘着や接着、バンドによる結束等が挙げられる。
【0048】
次に、上記した外装体7の形成方法、及び外装体7へワイヤーハーネス5を装着して外装体付きワイヤーハーネス1を形成する方法について、それぞれ説明する。外装体7の形成方法では、先ず、外装体7を形成するための母材となる熱可塑性樹脂発泡シートから、外装体7に相当する部分を打ち抜く、打ち抜き加工を行う。打ち抜き加工としては、例えば、低コスト化と加工簡易性の点から、トムソン刃金型での打ち抜き等が挙げられる。なお、トムソン刃金型での打ち抜きをする際、刃の形状を適宜設定することで熱可塑性樹脂発泡シートの裁断面にR0.05mm以上1.0mm以下の曲部を形成することができる。
【0049】
外装体7に相当する部分を打ち抜いた後、打ち抜かれた外装体7に相当する部分のうち、折曲部20a~20dに対応する部分に押し成形を施す。押し成形を施すことにより、折曲部20a~20dを形成し、折曲部20a~20dに良好な折り曲げ性を付与する。このように、折曲部20a~20dは、押し成形が施された部位なので、折曲部20a~20dは、折曲部20a~20d以外の部位よりも、熱可塑性樹脂発泡シートの密度が高くなっている。
【0050】
上記のように形成された外装体7をワイヤーナーネス5へ装着する方法では、先ず、底壁部21に対して側壁部22,23が略垂直となるように、折曲部20a,20bで折り曲げる。折曲部20a,20bで折り曲げると、側壁部22,23の先端部側の間が長手方向xに沿って上方に開口した形状となる。
【0051】
折曲部20a,20bを折り曲げた後、底壁部21にワイヤーハーネス5を載置し、底壁部21に対して上壁部24が略平行となるように、折曲部20cで折り曲げる。次に、底壁部21に対して蓋壁部25が略平行となるように、折曲部20dで折り曲げる。折曲部20dで蓋壁部25を折り曲げると、側壁部22,23の先端部の間の開口が塞がれて収容部3が形成されるとともに、収容部3内にワイヤーハーネス5が挿通された状態で収容される。
【0052】
次に、係止片251a~251hを、それぞれ係止孔201a~201hに挿入して嵌め込むことにより、側壁部22,23の先端部の間の開口が塞がれた状態が固定され、外装体7がワイヤーハーネス5の外周に装着される。
【0053】
なお、外装体7は、ワイヤーハーネス5を構成する複数の電線を分散しないように固定するための固定用テープの外周に装着されていてもよく、固定用テープを使用していない複数の電線の外周に装着されていてもよい。また、外装体7は、1本の電線の外周に装着されていてもよい。
【0054】
従来の電線用外装体では、母材である中空板材の機械的特性に異方性があるため、電線用外装体に対応する形状に中空板材を切り出す際に、切り出しの方向性が制約されて、設計の自由度が十分に得られず、また、小型の外装体7の形成に適さないのに対し、上記本発明の実施形態例に係る外装体7によれば、密度が200Kg/m3以上700Kg/m3以下である、機械的特性の等方性に優れた熱可塑性樹脂発泡シートが、折り曲げられて形成されるので、外装体7の設計の自由度が向上し、また、小型化も容易である。
【0055】
また、上記本発明の実施形態例に係る外装体7によれば、熱可塑性樹脂発泡シートが折り曲げられた態様なので、射出成形金型装置によって製造される電線用外装体と比較して軽量化でき、また、少量多種の外装体7の生産に対応することができる。また、上記本発明の実施形態例に係る外装体7によれば、シート状で輸送、保管ができるので、輸送効率、保管性に優れている。
【0056】
次に、本発明の他の実施形態例について説明する。上記実施形態例に係る外装体7では、ワイヤーハーネス5が略直線状に延在していることに対応して、複数の壁部2は、ワイヤーハーネス5の延び方向(
図1の長手方向x)に沿って直線状に形成されていたが、これに代えて、複数の壁部2は、延在方向の途中で、ワイヤーハーネス5の形状に沿うように分岐されていてもよく、また、ワイヤーハーネス5の形状に沿うように曲げられていてもよい。また、収容部3は、ワイヤーハーネス5の形状に沿うように、拡径、縮径されていてもよい。
【0057】
また、上記実施形態例に係る外装体7では、複数の壁部2を介する折曲部20a~20dは、いずれも、複数の壁部2よりも高い密度を有していたが、これに代えて、折曲部20a~20dの一部を複数の壁部2よりも高い密度としてもよい。
【0058】
また、上記実施形態例に係る外装体7では、外装体7の短手方向yの断面形状は、略四角形であったが、該断面形状は、特に限定されず、例えば、三角形、五角形等の多角形でもよい。さらに、上記実施形態例に係る外装体7では、係止片251a~251hを係止孔201a~201hに嵌め込むことにより、側壁部22,23の先端部の間の開口が塞がれた状態を固定していたが、固定手段は特に限定されず、蓋壁部25が上壁部24と接着されて固定されていてもよく、蓋壁部25と上壁部24とを接続する別部品により固定されていてもよい。
【実施例】
【0059】
外装体の吸光度の測定はフーリエ変換赤外分光法(FTIR)によるATR(Attenuated Total Reflection)法を用いて実施した。測定には独ブルカー社製ALPHAを用いた。外装体を構成する熱可塑性樹脂発泡シートをFTIR測定し、15000nmから25000nmの吸光度の平均値を用いた。
【0060】
燃焼性の測定はシート材を12.5mm幅、125mm超に切り出したサンプルを持って行った。都市ガスを用いてブンゼンバーナーの炎高を25mmに調整し、水平に固定したサンプルにバーナーを45度傾けて着火、燃焼速度を求めた。燃焼速度はサンプルの両端から25mmの位置の表線間の燃焼時間を計測し求めた。燃焼速度は75.0mm/min以下であれば良好と評価した。
【0061】
吸光度の測定結果を以下に示す。1.5mm厚2倍発泡のナチュラル色、青色、黒色のサンプルを準備し、FTIRによる測定を行った。ナチュラル色は吸光度0.000であり、燃焼速度は75.9mm/minであった。青色は吸光度0.002であり、燃焼速度は75.7mm/minであった。一方、黒色のサンプルは吸光度0.01であり、燃焼速度は65.0mm/minであった。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明では、機械的特性の異方性を防止できることで、設計の自由度が向上し、また、小型の電線用外装体も形成できるので、例えば、多種の形状が要求される自動車に配索されるワイヤーハーネスの外装体の分野で利用価値が高い。
【符号の説明】
【0063】
1 外装体付きワイヤーハーネス
2 壁部
3 収容部
5 ワイヤーハーネス
7 外装体(電線用外装体)
20a 折曲部
20b 折曲部
20c 折曲部
20d 折曲部
21 底壁部
22,23 側壁部
24 上壁部
25 蓋壁部