IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 古河電工パワーシステムズ株式会社の特許一覧 ▶ 古河電気工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-くさび形引留クランプ 図1
  • 特許-くさび形引留クランプ 図2
  • 特許-くさび形引留クランプ 図3
  • 特許-くさび形引留クランプ 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-17
(45)【発行日】2022-03-28
(54)【発明の名称】くさび形引留クランプ
(51)【国際特許分類】
   H02G 7/05 20060101AFI20220318BHJP
【FI】
H02G7/05 060
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019112500
(22)【出願日】2019-06-18
(65)【公開番号】P2020205701
(43)【公開日】2020-12-24
【審査請求日】2021-01-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000117010
【氏名又は名称】古河電工パワーシステムズ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(74)【代理人】
【識別番号】100143959
【弁理士】
【氏名又は名称】住吉 秀一
(72)【発明者】
【氏名】橋本 文由
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 孝郁
(72)【発明者】
【氏名】東田 修一
(72)【発明者】
【氏名】山本 裕三
【審査官】石坂 知樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-224923(JP,A)
【文献】特開2003-111260(JP,A)
【文献】実公昭39-017650(JP,Y1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02G 7/05
H02G 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
碍子を介して支持物に連結されるくさびと、該くさびに前記碍子側から嵌合して前記くさびとの間で電線を把持するクランプ本体と、を備えたくさび形引留クランプであって、
前記支持物の支持点を貫通する電線伸張方向と前記くさび形引留クランプの電線把持固定部の電線軸心方向の角度θ、クランプ口元の曲率半径ρ(単位mm)、クランプ口元の出口長さlx(単位mm)が、下記式(1)
arcsin(lx/ρ)≧θ (1)
の関係を満たす、クランプ口元の曲率半径ρ及びクランプ口元の出口長さlxを有するくさび形引留クランプ。
【請求項2】
前記クランプ口元の曲率半径ρ(単位mm)と前記電線の外径D(単位mm)が、下記式(2)
ρ≧4D (2)
の関係を満たす、請求項1に記載のくさび形引留クランプ。
【請求項3】
前記電線の外径D(単位mm)、前記電線の外層素線の図心から表面までの距離d(単位mm)、前記電線の外層素線の弾性係数Eaを用いて、下記式(3)
σ=(d×Ea)/3×(ρ+D/2) (3)
から算出されるクランプ口元で発生する応力σが小さくなるように、クランプ口元の曲率半径ρ及びクランプ口元の出口長さlxが選択されている請求項1または2に記載のくさび形引留クランプ。
【請求項4】
前記応力σが15kg/mm以下である請求項3に記載のくさび形引留クランプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、くさび側を電柱等の支持物に連結し、電線を支持物に引き留めるくさび形引留クランプに関する。
【背景技術】
【0002】
くさび形引留クランプは、クランプ本体とくさびとの間に電線を挟み、くさび作用で電線を把持、固定するものである。くさび形引留クランプとしては、くさび側を支持物に取り付けられた碍子に連結する構造を有するくさび形引留クランプと、クランプ本体側を支持物に取り付けられた碍子に連結する構造を有するくさび形引留クランプとがある。
【0003】
くさび形引留クランプは、支持物の支持点を貫通する電線伸張方向とくさび形引留クランプの電線把持固定部の電線軸心方向を一致させると、構造が複雑化するという問題がある。また、電柱等の支持物の支持点(電線引留点)を跨ぐジャンパー線を形成するためには、支持物の支持点を貫通する電線伸張方向がくさび形引留クランプの電線把持固定部の電線軸心方向に対して所定の角度を有していることが好ましい。従って、くさび形引留クランプは、電線伸張方向がくさび形引留クランプの電線把持固定部の電線軸心方向に対して所定の角度を有する構造となっている。
【0004】
一方で、電線伸張方向がくさび形引留クランプの電線把持固定部の電線軸心方向に対して所定の角度を有するように電線をくさび形引留クランプに把持させると、くさび形引留クランプのクランプ口元にて電線に屈曲部が生じ、該屈曲部にて電線に応力が加わってしまう。電線の屈曲部に応力が加わると、電線への荷重による破断や電線の横ぶれ等による疲労破断が生じやすい。
【0005】
そこで、くさびを支持物に連結する構造のくさび形引留クランプでは、くさび形引留クランプの電線挿通方向aを電線引留め方向bに対して10°~40°の範囲に設定した角度θを持たせることで、把持した電線のクランプ口元に大きな応力が発生することを防止したくさび形引留クランプが提案されている(特許文献1)。また、クランプ本体を支持物に連結する構造のくさび形引留クランプでは、クランプ体が電線を張設したときの電線の伸張方向と、くさび体挿入部の軸心方向とのなす角度が20°~50°の範囲に設定した角度を持たせることで、電線の屈曲点の応力を小さくすることが提案されている(特許文献2)。
【0006】
特許文献1、2のくさび形引留クランプは、いずれも、電線伸張方向とくさび形引留クランプの電線把持固定部の電線軸心方向との角度を所定範囲内に制御することで、電線の屈曲点、すなわち、クランプ口元近傍に発生する電線への応力を緩和するというものである。しかしながら、特許文献1、2の通り、電線伸張方向に対するくさび形引留クランプの電線把持固定部の電線軸心方向の角度を制御すれば、電線への応力が緩和されるのは当然といえる。従って、特許文献1、2では、前記角度を制御すれば、電線への応力が緩和される方向となることが定性的に開示されているにすぎず、所望とする前記角度とくさび形引留クランプの構造との観点から、各種電線に対応した電線への応力を確実に低減するには、不十分であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2003-224923号公報
【文献】特開2003-111260号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、ジャンパー線を形成しつつ、各種電線に対応した電線への応力を確実に低減して、各種電線への荷重による破断及び各種電線の横ぶれ等による疲労破断を確実に防止できるくさび形引留クランプを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のくさび形引留クランプは、電線伸張方向とくさび形引留クランプの電線把持固定部の電線軸心方向の角度θに応じて、クランプ口元の曲率半径ρとクランプ口元の出口長さlxの関係を制御することで、電線への応力を確実に低減するものである。
【0010】
本発明の構成の要旨は以下の通りである。
[1]碍子を介して支持物に連結されるくさびと、該くさびに前記碍子側から嵌合して前記くさびとの間で電線を把持するクランプ本体と、を備えたくさび形引留クランプであって、
前記支持物の支持点を貫通する電線伸張方向と前記くさび形引留クランプの電線把持固定部の電線軸心方向の角度θ、クランプ口元の曲率半径ρ(単位mm)、クランプ口元の出口長さlx(単位mm)が、下記式(1)
arcsin(lx/ρ)≧θ (1)
の関係を満たす、クランプ口元の曲率半径ρ及びクランプ口元の出口長さlxを有するくさび形引留クランプ。
[2]前記クランプ口元の曲率半径ρ(単位mm)と前記電線の外径D(単位mm)が、下記式(2)
ρ≧4D (2)
の関係を満たす、[1]に記載のくさび形引留クランプ。
[3]前記電線の外径D(単位mm)、前記電線の外層素線の図心から表面までの距離d(単位mm)、前記電線の外層素線の弾性係数Eaを用いて、下記式(3)
σ=(d×Ea)/3×(ρ+D/2) (3)
から算出されるクランプ口元で発生する応力σが小さくなるように、クランプ口元の曲率半径ρ及びクランプ口元の出口長さlxが選択されている[1]または[2]に記載のくさび形引留クランプ。
[4]前記応力σが15kg/mm以下である[3]に記載のくさび形引留クランプ。
【発明の効果】
【0011】
本発明の態様によれば、電線伸張方向とくさび形引留クランプの電線把持固定部の電線軸心方向の角度がθである際に、下記式
arcsin(lx/ρ)≧θ
の関係を満たす、クランプ口元の曲率半径ρ及びクランプ口元の出口長さlxを有するくさび形引留クランプであることにより、ジャンパー線を形成しつつ、各種電線に対応した電線への応力を確実に低減して、各種電線への荷重による破断及び各種電線の横ぶれ等による疲労破断を確実に防止できる。また、本発明の態様によれば、実際に使用する寸法の範囲内、且つクランプ口元の曲率半径ρと出口長さlxとの関係を調整することで、各種電線に対応した電線への応力を確実に低減できるくさび形引留クランプを得ることができるので、くさび形引留クランプの設計及び製造が容易である。
【0012】
本発明の態様によれば、クランプ口元の曲率半径ρと電線の外径Dが、下記式
ρ≧4D
の関係を満たすことにより、クランプ口元における電線の屈曲がより確実に低減されて、電線への応力をより確実に低減できる。
【0013】
本発明の態様によれば、電線の外径D、電線の外層素線の図心から表面までの距離d、電線の外層素線の弾性係数Eaを用いて、下記式
σ=(d×Ea)/3×(ρ+D/2)
から算出されるクランプ口元で発生する応力σが小さくなるように、クランプ口元の曲率半径ρ及びクランプ口元の出口長さlxが選択されていることにより、電線への応力σを精度よく低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施形態例に係るくさび形引留クランプを用いて電線を電柱に引き留めた状態の全体構造を示す側面説明図である。
図2図1のくさび形引留クランプとその周辺の拡大図である。
図3図2のくさび形引留クランプのクランプ口元とその周辺の拡大図である。
図4】本発明の実施形態例に係るくさび形引留クランプのクランプ口元の曲率半径ρ及びクランプ口元の出口長さlxとクランプ口元で発生する応力σの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明の実施形態例に係るくさび形引留クランプについて説明する。図1は、本発明の実施形態例に係るくさび形引留クランプを用いて電線を電柱に引き留めた状態の全体構造を示す側面説明図である。図2は、図1のくさび形引留クランプとその周辺の拡大図である。図3は、図2のくさび形引留クランプのクランプ口元とその周辺の拡大図である。
【0016】
図1に示すように、電線2は、電柱(図示せず)上部に設けられた腕金3の左右両側にて、それぞれ、本発明の実施形態例に係るくさび形引留クランプ1で把持されている。また、電線2のジャンパー部2’は、腕金3の上方にて、支持用碍子5で支持されている。くさび形引留クランプ1は、2つ連接して設けられた碍子7及び連結用金具10を介して、腕金3に連結されている。電柱の腕金3が、電線2を支持する支持物として機能する。くさび形引留クランプ1は、碍子7に連結されるくさび11と、くさび11に碍子7側から嵌合してくさび11との間で電線2を把持するクランプ本体12と、を備えている。くさび11は、碍子7を介して支持物である腕金3に連結されている。
【0017】
電線2としては、例えば、鋼心アルミニウム撚り線(亜鉛メッキ鋼線を中心に配置し、その周囲を硬アルミニウム線で撚り合わせた電線)や硬銅撚り線等が挙げられる。なお、電線2の外径Dは、特に限定されないが、例えば、5~25mmが挙げられる。
【0018】
図2に示すように、くさび形引留クランプ1は、くさび11とクランプ本体12との間で電線2を把持する電線把持固定部13を有している。クランプ本体12は、下部が開口した部分開口中空部材であり、上部が電線2を収容する上側電線収容部となっている。また、クランプ本体12内部に嵌合するくさび11は、上面に電線2を収容するための下側電線収容部が形成されている。クランプ本体12の上側電線収容部とくさび11の下側電線収容部との間に電線把持固定部13が形成される。
【0019】
また、クランプ本体12の電線入口側12cには、クランプ本体12を叩くための突起部12dが形成されている。くさび11とくさび11に嵌合されたクランプ本体12との間に電線2が挿入された状態で、突起部12dをクランプ本体12の電線入口側12c方向へ叩いて摺動させることで、くさび作用により、くさび11とクランプ本体12との間で電線2が把持される。上記から、電線2は、クランプ本体12の内表面と接触した状態となっている。
【0020】
図2、3に示すように、電線2の架線時に電線2に張力がかかると、電線2を支持する支持物である腕金3の支持点31を貫通する電線伸張方向aに向かって電線2は矢印r方向に回転し、最大、くさび形引留クランプ1の電線把持固定部13の電線軸心方向bと、なす角度θを形成する。すなわち、くさび形引留クランプ1は、電線伸張方向aと電線把持固定部13の電線軸心方向bとのなす角度θを有する構造となっている。
【0021】
また、図3に示すように、くさび形引留クランプ1は、クランプ本体12の電線入口側12cとその近傍に位置するクランプ口元12aの内表面全体が、曲率半径ρの円弧状の曲面となっている。クランプ口元12aの内表面の曲率半径は、クランプ口元12aの内表面の側面視における曲率半径である。クランプ口元12aの内表面の曲面は、クランプ本体12の電線入口側12cがくさび11に対して後退するように形成されている。すなわち、くさび形引留クランプ1では、クランプ口元12aの内表面は曲率半径ρの曲面構造となっている。
【0022】
また、くさび形引留クランプ1のクランプ口元12aは、出口長さlxを有している。クランプ口元12aの出口長さは、電線把持固定部13の電線軸心方向bに対して平行方向の長さである。上記から、クランプ口元12aの電線軸心方向bに対して平行方向の長さは、出口長さlxとなっている。すなわち、クランプ本体1の内表面のうち、曲率半径ρの曲面構造となっている部位について、電線軸心方向bに対して平行方向の長さは、lxとなっている。
【0023】
くさび形引留クランプ1では、電線伸張方向aと電線把持固定部13の電線軸心方向bの角度θに応じて、クランプ口元12aの内表面の曲率半径ρとクランプ口元12aの出口長さlxの関係を制御することで、電線2への曲げ応力σを確実に低減する。具体的には、くさび形引留クランプ1では、腕金3の支持点31を貫通する電線伸張方向aと電線把持固定部13の電線軸心方向bの角度θ、クランプ口元12aの曲率半径ρ(単位mm)、クランプ口元12aの出口長さlx(単位mm)が、下記式(1)
arcsin(lx/ρ)≧θ (1)
の関係を満たす、クランプ口元12aの曲率半径ρ及びクランプ口元12aの出口長さlxとなっている。
【0024】
図3に示すように、上記式(1)は、電線2がクランプ本体12の内表面から離れる地点である離脱点2aが、出口長さlxの範囲内に位置していることを意味している。すなわち、上記式(1)は、離脱点2aが曲面構造であるクランプ口元12aの内表面上に存在し、従って、クランプ口元12aからの前記曲面構造の接線方向における電線2の離脱点2aが、出口長さlxの範囲内であることを意味している。
【0025】
離脱点2aより電線伸張方向aの外側(電線伸張方向aのうち、碍子7から離れる方向)では、電線2に曲げ応力σがかからない状態となっている。一方で、電線2の離脱点2aが出口長さlxの範囲内ではない場合、電線2が、クランプ口元12aのうちクランプ本体12の電線入口側12cの端部において屈折荷重を受けてしまい、電線2に大きな曲げ応力σがかかるので、電線2に、荷重による破断や疲労破断等が発生する原因となる。
【0026】
クランプ口元12aの出口長さlxとしては、上記式(1)の関係を満たす長さであれば、特に限定されないが、例えば、5~40mmの範囲が挙げられる。また、クランプ口元12aの内表面の曲率半径ρとしては、上記式(1)の関係を満たす曲率半径であれば、特に限定されないが、例えば、25~350mmの範囲が挙げられる。また、電線伸張方向aと電線軸心方向bの角度θは、電線2の架線条件に応じて、適宜選択可能であり、例えば、0.12~0.25radの範囲が挙げられる。
【0027】
上記式(1)は、次のように求められる。即ち、くさび形引留クランプ1のクランプ口元12aとその周辺の拡大図である図3の角度θとθsで形成される直角三角形Tに着目すれば明らかであるが、θ=θsである。なぜなら、θ=90°-(90°-θs)であるからである。ここでθsは、arcsin(lx´/ρ)であり、離脱点2aがクランプ口元12aのうちクランプ本体12の電線入口側12cの端部に位置する時、最大値arcsin(lx/ρ)をとる事は明らかである。よって、所定のθの値が、上記最大値以下であれば、離脱点2aは、ρ、lxで形成される円弧状の曲面の範囲内に位置することとなり、その条件式は、式(1)のarcsin(lx/ρ)≧θで表されることとなる。
【0028】
くさび形引留クランプ1では、離脱点2aが曲面構造であるクランプ口元12aの内表面上に存在していることにより、電線2にジャンパー部2’を形成しつつ、各種の電線2に対応した電線2への曲げ応力σを確実に低減して、各種の電線2への荷重による破断及び各種の電線2の横ぶれ等による疲労破断を確実に防止できる。また、くさび形引留クランプ1では、実際に使用する寸法の範囲内、且つクランプ口元12aの曲率半径ρと出口長さlxとの関係を調整することで、各種の電線2に対応した電線2への曲げ応力σを確実に低減できるので、くさび形引留クランプ1の設計及び製造が容易である。
【0029】
上記式(1)の関係を満たすことに加えて、さらに、クランプ口元12aの曲率半径ρ(単位mm)と電線2の外径D(単位mm)が、下記式(2)の関係を満たすように、電線2の外径Dに応じてクランプ口元12aの曲率半径ρを調整することが好ましい。
ρ≧4D (2)
【0030】
上記式(2)は、電線2を曲げて固定する場合の最小屈曲半径の一般式であり、クランプ口元12aの曲率半径ρを電線2の外径Dの4倍以上にすることで、電線2がクランプ口元12aにて損傷や性能の劣化を受けることを防止できる。
【0031】
上記式(1)の関係だけでなく、上記式(2)の関係も満たすように、クランプ口元12aの曲率半径ρを調整することにより、クランプ口元12aにおける電線2の屈曲がより確実に低減されて、電線2への曲げ応力σをより確実に低減できる。
【0032】
クランプ口元12aで発生する応力σは、電線2の外径D(単位mm)、電線2の外層素線の図心から表面までの距離d(単位mm)、電線2の外層素線の弾性係数Ea(単位kg/mm)を用いて、下記式(3)
σ=(d×Ea)/3×(ρ+D/2) (3)
から算出される。式(3)中における曲率半径ρは、電線伸張方向aと電線軸心方向bのなす角度θとクランプ口元12aの出口長さlxの関数である上記式(1)の関係を満たしている。
【0033】
上記式(3)は、次のように求められる。即ち、撚り線の外層各素線に作用する応力σについて求めた下記式(4)があり、実測値と計算値はよく一致している。ここで、Mは撚り線に働く曲げモーメント(単位kgmm)、dsは外層素線の半径(単位mm)、EIは撚り線の曲げ剛性(単位kgmm)である。
σ=(M×ds×Ea)/3×EI (4)
dsの外層素線の半径は、素線断面が円でない場合も考慮すると、外層素線の図心から表面までの距離d(単位mm)と見なせる。また、曲げモーメントMにより、撚り線の中心軸がρ+D/2の曲率で曲がるとすると、その関係式は下記式(5)となる。
M=EI/(ρ+D/2) (5)
よって、式(4)に式(5)を入れ、ds=dとすると、式(3)が求められる。
【0034】
図4は、くさび形引留クランプ1のクランプ口元12aの曲率半径ρ及びクランプ口元12aの出口長さlxとクランプ口元12aで発生する曲げ応力σの関係を示すグラフである。図4では、電線伸張方向aと電線軸心方向bのなす角度θが所定値(図4では、角度θが1/8勾配(0.124rad)、1/6勾配(0.165rad)、1/4勾配(0.245rad))の場合に、クランプ口元12aの出口長さlx(単位mm)と、なす角度θと出口長さlxの値から上記式(1)で算出される曲率半径ρ(単位mm)の最大値と、上記式(3)から算出される曲げ応力σの関係を示している。なお、図4では、電線2の外層素線の図心から表面までの距離dが0.8935mm、電線2の外層素線の弾性係数Eaが6300kg/mm、電線2の外径Dが7.2mmである。
【0035】
図4に示すように、電線伸張方向aと電線軸心方向bのなす角度θが大きいほど、クランプ口元12aの曲率半径ρを小さく設計する必要があり、結果、電線2への曲げ応力σは大きくなる。また、図4に示すように、クランプ口元12aの出口長さlxを大きく設計することで、クランプ口元12aの曲率半径ρを大きく設計でき、電線2への曲げ応力σを緩和できる点で有利であることがわかる。このように、くさび形引留クランプ1では、電線2への曲げ応力σを緩和するにあたり、適切で具体的なくさび形引留クランプ1の寸法設計が可能である。
【0036】
クランプ口元12aで発生する電線2への曲げ応力σは、小さいほど好ましいが、ジャンパー部2’を形成しつつ、曲げ応力σを低減する点から、アルミニウム電線素線の0.2%耐力程度以下である15kg/mm以下となるようにクランプ口元12aの曲率半径ρ及びクランプ口元12aの出口長さlxが設計されるのが好ましく、10kg/mm以下となるようにクランプ口元12aの曲率半径ρ及びクランプ口元12aの出口長さlxが設計されるのが特に好ましい。
【0037】
上記式(3)から算出されるクランプ口元12aで発生する曲げ応力σが小さくなるように、クランプ口元12aの曲率半径ρ及びクランプ口元12aの出口長さlxが選択されることにより、クランプ口元12aにおける電線2への曲げ応力σを精度よく低減できる。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明のくさび形引留クランプでは、ジャンパー線を形成しつつ、各種電線に対応した電線への応力を確実に低減して、各種電線への荷重による破断及び各種電線の横ぶれ等による疲労破断を確実に防止できるので、縁回しされる電線を電柱に引き留める分野で利用することができる。
【符号の説明】
【0039】
1 くさび形引留クランプ
11 くさび
12 クランプ本体
12a クランプ口元
図1
図2
図3
図4