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特許7042802ポリオレフィン樹脂複合材及びその製造方法
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  • 特許-ポリオレフィン樹脂複合材及びその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-17
(45)【発行日】2022-03-28
(54)【発明の名称】ポリオレフィン樹脂複合材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 23/02 20060101AFI20220318BHJP
   C08L 1/02 20060101ALI20220318BHJP
   C08L 23/04 20060101ALI20220318BHJP
   C08L 23/10 20060101ALI20220318BHJP
   C08L 55/02 20060101ALI20220318BHJP
   C08K 7/02 20060101ALI20220318BHJP
【FI】
C08L23/02
C08L1/02
C08L23/04
C08L23/10
C08L55/02
C08K7/02
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019509210
(86)(22)【出願日】2018-03-13
(86)【国際出願番号】 JP2018009757
(87)【国際公開番号】W WO2018180469
(87)【国際公開日】2018-10-04
【審査請求日】2021-01-26
(31)【優先権主張番号】P 2017065481
(32)【優先日】2017-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2017210135
(32)【優先日】2017-10-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成26年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、SIP(戦略的イノベーション創造プログラム)「革新的構造材料」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002631
【氏名又は名称】特許業務法人イイダアンドパートナーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100076439
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 敏三
(74)【代理人】
【識別番号】100161469
【弁理士】
【氏名又は名称】赤羽 修一
(72)【発明者】
【氏名】金 宰慶
(72)【発明者】
【氏名】小澤 英史
(72)【発明者】
【氏名】中島 康雄
(72)【発明者】
【氏名】八木 健
【審査官】中川 裕文
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-209439(JP,A)
【文献】特開2011-116838(JP,A)
【文献】特開2011-093990(JP,A)
【文献】特開2011-219571(JP,A)
【文献】特開2012-236906(JP,A)
【文献】特開2010-089483(JP,A)
【文献】特開2017-128717(JP,A)
【文献】特開2016-094516(JP,A)
【文献】特開2012-102324(JP,A)
【文献】特開2015-183153(JP,A)
【文献】特開2009-167249(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K 3/00- 13/08
C08L 1/00-101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィン樹脂と、該ポリオレフィン樹脂100質量部に対して10~150質量部のセルロース繊維と、該セルロース繊維100質量部に対して1~150質量部の水とを混合し、溶融混練する工程を含むポリオレフィン樹脂複合材の製造方法であって、
前記セルロース繊維が粉状パルプであり、
前記溶融混練を二軸押出機により行い、得られるポリオレフィン樹脂複合材中に生じるセルロース繊維の凝集体の面積が20,000μm 未満である、ポリオレフィン樹脂複合材の製造方法
ただし、前記ポリオレフィン樹脂複合材が水溶性樹脂を含む形態を除く。
【請求項2】
前記セルロース繊維が、植物繊維のセルロースである、請求項1に記載のポリオレフィン樹脂複合材の製造方法
【請求項3】
前記ポリオレフィン樹脂が、ポリエチレン、ポリプロピレンおよびアクリロニトリル/ブタジエン/スチレン共重合体のうちの少なくとも1種である、請求項1または2に記載のポリオレフィン樹脂複合材の製造方法
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載のポリオレフィン樹脂複合材の製造方法によりポリオレフィン樹脂複合材を得て、得られたポリオレフィン樹脂複合材を成形することを含む、成形品の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリオレフィン樹脂複合材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セルロースは、地球上に多く存在する再生可能な天然資源である。セルロースは、軽量、高強度等の特性を有し、樹脂の強化材として利用する研究が行われており、その可能性が注目されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、脂肪族ポリエステルからなる樹脂成分と、特定の前処理がなされたパルプ及び/又はセルロース系繊維からなる繊維成分とを、セルロース非晶領域膨潤剤の存在下で溶融混練処理する工程を含む、高強度で高剛性な脂肪族ポリエステル組成物を得るための製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第4013870号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
セルロース繊維は親水性が高く、それゆえ親水性の高い樹脂と混合した場合には馴染みやすく、樹脂中にセルロース繊維が均一分散した複合材を調製しやすいとされる。
他方、ポリオレフィン樹脂のような疎水性の高い樹脂に対するセルロース繊維の親和性は乏しく、ポリオレフィン樹脂とセルロース繊維とを溶融混練しても比較的大きなセルロース繊維の凝集体(セルロース凝集体ともいう。)が生じてしまう。すなわち、ポリオレフィン樹脂とセルロース繊維とを溶融混練しても、セルロース繊維の樹脂改質作用を十分に引き出した、セルロース繊維が均一分散した樹脂複合材を得ることは難しい。
そこで本発明は、セルロース凝集体のサイズが十分に小さく、ポリオレフィン樹脂とセルロースとが高度な均一性で一体化されたポリオレフィン樹脂複合材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、ポリオレフィン樹脂とセルロース繊維とを所定比で混合し、水の存在下で溶融混練することにより、得られる成形体中に生じるセルロース凝集体のサイズを十分に小さくできること、結果、ポリオレフィン樹脂とセルロース繊維との一体性を高めることができるという事実を見出した。本発明はこれらの知見に基づきさらに検討を重ね、完成されるに至ったものである。
【0007】
本発明の上記課題は、下記手段により解決された。
<1>
ポリオレフィン樹脂と、該ポリオレフィン樹脂100質量部に対して10~150質量部のセルロース繊維とを含有し、前記セルロース繊維の凝集体の面積が20,000μm未満である、ポリオレフィン樹脂複合材。
<2>
前記セルロース繊維が、植物繊維のセルロースである、<1>に記載のポリオレフィン樹脂複合材。
<3>
前記ポリオレフィン樹脂が、ポリエチレン、ポリプロピレンおよびアクリロニトリル/ブタジエン/スチレン共重合体のうちの少なくとも1種である、<1>または<2>に記載のポリオレフィン樹脂複合材。
<4>
ポリオレフィン樹脂と、該ポリオレフィン樹脂100質量部に対して10~150質量部のセルロース繊維と、水とを混合し、溶融混練する工程を含む、ポリオレフィン樹脂複合材の製造方法。
<5>
前記溶融混練における前記水の混合量が、セルロース繊維100質量部に対して1~150質量部である、<4>に記載のポリオレフィン樹脂複合材の製造方法。
<6>
得られるポリオレフィン樹脂複合材中に生じるセルロース繊維の凝集体の面積が20,000μm未満である、<4>または<5>に記載のポリオレフィン樹脂複合材の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明のポリオレフィン樹脂複合材は、複合材中のセルロース凝集体のサイズが十分に小さく、高度に均一分散された樹脂材料である。本発明のポリオレフィン樹脂複合材の製造方法によれば、複合材中に生じるセルロース凝集体のサイズを十分に小さくでき、ポリオレフィン樹脂とセルロース繊維とが高い均一性で一体化されたポリオレフィン樹脂複合材を得ることができる。
本発明の上記及び他の特徴及び利点は、適宜添付の図面を参照して、下記の記載からより明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1(a)~1(d)は、[実施例]における「セルロース凝集体の面積測定方法」において撮影した画像である。 図1(a)は比較例1で得たポリオレフィン樹脂複合材のペレットを後述のセルロース凝集体の面積算出方法にしたがって撮影した画像であり、図1(b)はセルロース凝集体の面積の決定のために図1(a)を画像処理したものである。また、図1(c)は実施例1で得たポリオレフィン樹脂複合材のペレットを後述のセルロース凝集体の面積算出方法にしたがって撮影した画像であり、図1(d)はセルロース凝集体の面積の決定のために図1(c)を画像処理したものである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(ポリオレフィン樹脂複合材)
本発明のポリオレフィン樹脂複合材は、少なくとも、ポリオレフィン樹脂100質量部に対し、セルロース繊維を10~150質量部含有し、複合材中に存在するセルロース凝集体の面積が20,000μm(2万μm)未満である。本発明においてセルロース凝集体の面積とは、セルロース凝集体の表面積を意味するのではなく、後述するように、ポリオレフィン樹脂複合材を所定の厚さに展延して平面視観察することにより測定される、セルロース凝集体の平面視面積を意味する。
以下、本発明のポリオレフィン樹脂複合材に用いられる成分を説明する。
【0011】
-ポリオレフィン樹脂-
ポリオレフィン樹脂は、少なくとも1種のオレフィンを重合してなる樹脂であり、単独重合体であっても共重合体であってもよい。
本発明において、オレフィンとは、広義の意味で用いる。すなわち、炭素-炭素二重結合を有する無置換の炭化水素化合物に加えて、炭素-炭素二重結合を有する炭化水素化合物がさらに置換基を有する場合を含む。
このようなオレフィンとしては、例えば、エチレン、プロピレン、イソブチレン、イソブテン(1-ブテン)を含む炭素原子数4~12のα-オレフィン、ブタジエン、イソプレン、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリルアミド、ビニルアルコール、酢酸ビニル、塩化ビニル、スチレン、アクリロニトリルなどが挙げられる。
【0012】
上記の炭素原子数4~12のα-オレフィンとしては、例えば、1-ブテン、2-メチル-1-プロペン、2-メチル-1-ブテン、3-メチル-1-ブテン、1-ヘキセン、2-エチル-1-ブテン、2,3-ジメチル-1-ブテン、2-メチル-1-ペンテン、3-メチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、3,3-ジメチル-1-ブテン、1-ヘプテン、メチル-1-ヘキセン、ジメチル-1-ペンテン、エチル-1-ペンテン、トリメチル-1-ブテン、メチルエチル-1-ブテン、1-オクテン、メチル-1-ペンテン、エチル-1-ヘキセン、ジメチル-1-ヘキセン、プロピル-1-ヘプテン、メチルエチル-1-ヘプテン、トリメチル-1-ペンテン、プロピル-1-ペンテン、ジエチル-1-ブテン、1-ノネン、1-デセン、1-ウンデセン、1-ドデセンなどが挙げられる。
【0013】
オレフィン単独重合体とは、1種類のオレフィンの重合体をいう。
また、オレフィン共重合体とは、あるオレフィンとそれとは異なるオレフィンとの共重合体をいう。オレフィン共重合体は、炭素-炭素二重結合を有する無置換の炭化水素化合物を構成成分として有する共重合体であることが好ましい。ポリオレフィン樹脂は、その構成成分が、炭素-炭素二重結合を有する無置換の炭化水素化合物からなることが好ましい。
【0014】
ポリオレフィン樹脂としては、例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリイソブチレン樹脂、ポリイソブテン樹脂、ポリイソプレン樹脂、ポリブタジエン樹脂、(メタ)アクリル樹脂(いわゆるアクリル樹脂)、ポリ塩化ビニル樹脂などのビニル樹脂、ポリ(メタ)アクリルアミド樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン共重合樹脂(ABS樹脂)、エチレン/(メタ)アクリル酸エステル共重合体、エチレン/酢酸ビニル共重合体などが挙げられる。
【0015】
これらの樹脂のうち、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン共重合樹脂(ABS樹脂)が好ましく、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂がなかでも好ましい。
【0016】
ポリエチレン樹脂としては、エチレン単独重合体、エチレン-α-オレフィン共重合体などが挙げられる。α-オレフィンとしては、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテンが好ましい。
【0017】
エチレン-α-オレフィン共重合体としては、例えば、エチレン-1-ブテン共重合体、エチレン-1-ペンテン共重合体、エチレン-1-ヘキセン共重合体、エチレン-1-オクテン共重合体などが挙げられる。
【0018】
なお、密度もしくは形状で分類した場合、高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、超低密度ポリエチレン(VLDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、超高分子量ポリエチレン(UHMW-PE)のいずれのポリエチレン樹脂を用いてもよい。
【0019】
ポリプロピレン樹脂としては、プロピレン単独重合体、プロピレン-エチレンランダム共重合体、プロピレン-α-オレフィンランダム共重合体、プロピレン-エチレン-α-オレフィン共重合体、プロピレンブロック共重合体(プロピレン単独重合体成分または主にプロピレンからなる共重合体成分と、エチレンおよびα-オレフィンから選択されるモノマーの少なくとも1種とプロピレンとを共重合して得られる共重合体とからなる)などが挙げられる。これらのポリプロピレン樹脂は単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
【0020】
ポリプロピレン樹脂に用いられるα-オレフィンは、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、1-オクテン、1-デセンが好ましく、1-ブテン、1-ヘキセン、1-オクテンがより好ましい。
【0021】
プロピレン-α-オレフィンランダム共重合体としては、例えば、プロピレン-1-ブテンランダム共重合体、プロピレン-1-ヘキセンランダム共重合体、プロピレン-1-オクテンランダム共重合体などが挙げられる。
【0022】
プロピレン-エチレン-α-オレフィン共重合体としては、例えば、プロピレン-エチレン-1-ブテン共重合体、プロピレン-エチレン-1-ヘキセン共重合体、プロピレン-エチレン-1-オクテン共重合体などが挙げられる。
【0023】
プロピレンブロック共重合体としては、例えば、(プロピレン)-(プロピレン-エチレン)共重合体、(プロピレン)-(プロピレン-エチレン-1-ブテン)共重合体、(プロピレン)-(プロピレン-エチレン-1-ヘキセン)共重合体、(プロピレン)-(プロピレン-1-ブテン)共重合体、(プロピレン)-(プロピレン-1-ヘキセン)共重合体、(プロピレン-エチレン)-(プロピレン-エチレン)共重合体、(プロピレン-エチレン)-(プロピレン-エチレン-1-ブテン)共重合体、(プロピレン-エチレン)-(プロピレン-エチレン-1-ヘキセン)共重合体、(プロピレン-エチレン)-(プロピレン-1-ブテン)共重合体、(プロピレン-エチレン)-(プロピレン-1-ヘキセン)共重合体、(プロピレン-1-ブテン)-(プロピレン-エチレン)共重合体、(プロピレン-1-ブテン)-(プロピレン-エチレン-1-ブテン)共重合体、(プロピレン-1-ブテン)-(プロピレン-エチレン-1-ヘキセン)共重合体、(プロピレン-1-ブテン)-(プロピレン-1-ブテン)共重合体、(プロピレン-1-ブテン)-(プロピレン-1-ヘキセン)共重合体などが挙げられる。
【0024】
これらのポリプロピレン樹脂のうち、プロピレン単独重合体、プロピレン-エチレンランダム共重合体、プロピレン-1-ブテンランダム共重合体、プロピレン-エチレン-1-ブテン共重合体、プロピレンブロック共重合体が好ましい。
【0025】
ポリプロピレン樹脂の結晶性は、融解温度(融点)や立体規則性で求められ、本発明のポリオレフィン樹脂複合材に求められる品質や、それを成形して得られる成形品に求められる品質に応じて、調整する。
なお、立体規則性はアイソタクチックインデックス、シンジオタクチックインデックスと称される。
【0026】
アイソタクチックインデックスは、Macromolecules,第8巻,687頁(1975年)に記載の13C-NMR法で求められる。具体的には13C-NMRスペクトルのメチル基の炭素領域の全吸収ピーク中のmmmmピークの面積分率として、ポリプロピレン樹脂のアイソタクチックインデックスを求める。
アイソタクチックインデックスが高いものは、結晶性が高く、0.96以上が好ましく、0.97以上がより好ましく、0.98以上がさらに好ましい。
【0027】
一方、シンジオタクチックインデックスは、J.Am.Chem.Soc.,110,6255(1988)やAngew.Chem.Int.Ed.Engl.,1955,34,1143-1170に記載の方法で求められ、シンジオタクチックインデックスが高いものが、結晶性が高い。
【0028】
本発明において、ポリオレフィン樹脂は、変性されたポリオレフィン樹脂でもよく、また、変性されていないポリオレフィン樹脂に変性されたポリオレフィン樹脂を含んでもよい。
変性されたポリオレフィン樹脂としては、ポリオレフィン樹脂を、不飽和カルボン酸もしくはその誘導体によりグラフト変性したものが挙げられる。不飽和カルボン酸としては、例えば、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、アクリル酸、メタクリル酸等が挙げられ、不飽和カルボン酸誘導体としては、例えば、無水マレイン酸、無水イタコン酸、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸グリシジル、マレイン酸モノエチルエステル、マレイン酸ジエチルエステル、フマル酸モノメチルエステル、フマル酸ジメチルエステル等が挙げられる。これらの不飽和カルボン酸および/またはその誘導体のうち、好ましくはアクリル酸、メタクリル酸のグリシジルエステル、無水マレイン酸である。
【0029】
アクリル樹脂としては、例えば、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル、アクリロニトリルなどのアクリル単量体の単独重合体または共重合体、アクリル単量体と他の単量体との共重合体などが挙げられる。
このうち、(メタ)アクリル酸エステルは、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2-エチルへキシルなどの炭素数1~10のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルや、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチルなどの(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキル、(メタ)アクリル酸グリシジルエステルなどが挙げられる。
【0030】
アクリル単量体の単独重合体または共重合体の具体例としては、例えば、ポリ(メタ)アクリル酸エステル、アクリル酸エステル-メタクリル酸エステル共重合体、ポリアクリロニトリルなどが挙げられる。アクリル単量体と他の単量体との共重合体の具体例としては、例えば、(メタ)アクリル酸エステル-スチレン共重合体、(メタ)アクリル酸-スチレン共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体、アクリロニトリル-スチレン共重合体、アクリロニトリル-スチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体などが挙げられる。
【0031】
ビニル樹脂としては、例えば、塩化ビニル樹脂[塩化ビニルモノマーの単独重合体(ポリ塩化ビニル樹脂など)、塩化ビニル単量体と他の単量体との共重合体(塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル-(メタ)アクリル酸エステル共重合体など)など]、ビニルアルコール樹脂(ポリビニルアルコールなどの単独重合体、エチレン-ビニルアルコール共重合体などの共重合体など)、ポリビニルホルマールなどのポリビニルアセタール樹脂などが挙げられる。これらのビニル系樹脂は、単独でもまたは2種以上組み合わせても使用することができる。
【0032】
ポリオレフィン樹脂のメルトフローレート(MFR)は、通常、0.01~400g/10分であり、機械的強度や生産安定性を高めるという観点から、好ましくは0.1~400g/10分であり、より好ましくは0.5~200g/10分である。
なお、MFRは、特段の断りがない限り、JIS K7210に準拠し、190℃、2.16kg荷重下で10分間あたりに流出するポリマーの質量(g/10分)である。
【0033】
-セルロース繊維-
本発明で使用するセルロース繊維は、繊維状のセルロースであり、工業的な利用方法が確立されており、入手しやすいため、植物繊維のセルロースが好ましく、特に、微細な植物繊維状のセルロース(粉状パルプ)が好ましい。
パルプは、紙の原料ともなるもので、植物から抽出される仮道管を主成分とする。化学的に見ると、主成分は多糖類であり、その主成分はセルロースである。
植物繊維のセルロースは、特に限定されるものではないが、例えば、木材、竹、麻、ジュート、ケナフ、農作物残廃物(例えば、麦や稲などの藁、とうもろこし、綿花などの茎、サトウキビ)、布、再生パルプ、古紙、木粉などの植物に由来のものが挙げられるが、本発明では、木材もしくは木材由来のものが好ましく、木粉がより好ましく、クラフトパルプが特に好ましい。
なお、クラフトパルプは、木材もしくは植物原料から、苛性ソーダなどの化学処理によって、リグニン・ヘミセルロースを除去し、純粋に近いセルロースを取り出したパルプの総称である。
【0034】
本発明では、このようなセルロース繊維を、水の共存下、ポリオレフィン樹脂と溶融混練することで、面積が20,000μm以上のセルロース凝集体の形成を抑制し、ポリオレフィン樹脂複合材中におけるセルロース繊維の均一な分散を実現するものである。なお、セルロース凝集体の面積の上限は14,000μm以下であることが好ましい。また、セルロース凝集体の面積の下限は500μm以上であることが好ましい。
セルロース凝集体の面積が小さいことは、セルロース繊維の凝集を防いでセルロース繊維がより均一に分散していることを示し、ポリオレフィン樹脂の強化効率が高いことを意味する。
【0035】
植物繊維のセルロースは、30~40分子が束となり、直径約3nm、長さは数百nmから数十μmの超極細幅で高結晶性のミクロフィブリルを形成し、これらが軟質な非結晶部を介しながら束となった構造を形成している。本発明の原料として使用する粉末状セルロース(粉状パルプ)は、この束状の集合体である。
【0036】
本発明のポリオレフィン樹脂複合材中、セルロース繊維の含有量は、ポリオレフィン樹脂100質量部に対し、10~150質量部である。
セルロース繊維の含有量が10質量部未満であると、セルロース繊維による樹脂の改質作用を十分に得ることが難しい。逆に、150質量部を超えると、面積が20,000μm以上のセルロース凝集体が形成されるおそれがある。
セルロース凝集体の面積は、実施例の項に記載の方法により決定される。
【0037】
-その他の成分-
本発明のポリオレフィン樹脂複合材には、上記以外に、酸化防止剤、光安定剤、ラジカル捕捉剤、紫外線吸収剤、着色剤(染料、有機顔料、無機顔料)、充填剤、滑剤、可塑剤、アクリル加工助剤等の加工助剤、発泡剤、パラフィンワックス等の潤滑剤、表面処理剤、結晶核剤、離型剤、加水分解防止剤、アンチブロッキング剤、帯電防止剤、防曇剤、防徽剤、イオントラップ剤、難燃剤、難燃助剤等の他の成分を、上記目的を損なわない範囲で適宜含有することができる。
【0038】
酸化防止剤、劣化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤、ヒドロキシルアミン系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤が挙げられ、フェノール系ではオルト位にt-アルキル基を有するヒンダードフェノール系化合物が好ましい。
【0039】
フェノール系酸化防止剤としては、例えば、テトラキス[メチレン-3(3’,5’-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、オクタデシル-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、3,9-ビス[2-{3-(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオニルオキシ}-1,1-ジメチルエチル]-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、トリエチレングリコール-N-ビス-3-(3-t-ブチル-5-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、1,6-ヘキサンジオールビス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、2,2-チオビス-ジエチレンビス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]であり、さらに好ましくは、3,9-ビス[2-{3-(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオニルオキシ}-1,1-ジメチルエチル]-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、ラウリル-3,5-t-ブチル-4-ヒドロキシベンゾエート、パルミチル-3,5-t-ブチル-4-ヒドロキシベンゾエート、ステアリル-3,5-t-ブチル-4-ヒドロキシベンゾエート、ベヘニル-3,5-t-ブチル-4-ヒドロキシベンゾエート、2,4-ジ-t-ブチル-フェニル-3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンゾエート、トコフェロール類等が挙げられる。
【0040】
リン系酸化防止剤としては、例えば、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4-ジ-t-ブチル-6-メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4-ジクミルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、テトラキス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)-4,4’-ジフェニレンジホスホナイト、2,2’-メチレンビス(4,6-ジ-t-ブチルフェニル)2-エチルヘキシルホスファイト、2,2’-エチリデンビス(4,6-ジ-t-ブチルフェニル)フルオロホスファイト、ビス(2,4-ジ-t-ブチル-6-メチルフェニル)エチルホスファイト、2-(2,4,6-トリ-t-ブチルフェニル)-5-エチル-5-ブチル-1,3,2-オキサホスホリナン、2,2’,2’-ニトリロ[トリエチル-トリス(3,3’,5,5’-テトラ-t-ブチル-1,1’-ビフェニル-2,2’-ジイル)ホスファイト、2,4,8,10-テトラ-t-ブチル-6-[3-(3-メチル-4-ヒドロキシ-5-t-ブチルフェニル)プロポキシ]ジベンゾ[d,f][1,3,2]ジオキサホスフェピン等が挙げられる。
【0041】
イオウ系酸化防止剤としては、例えば、ジラウリル3,3’-チオジプロピオネート、トリデシル3,3’-チオジプロピオネート、ジミリスチル3,3’-チオジプロピオネート、ジステアリル3,3’-チオジプロピオネート、ラウリルステアリル3,3’-チオジプロピオネート、ネオペンタンテトライルテトラキス(3-ラウリルチオプロピオネート)、ビス[2-メチル-4-(3-n-アルキル(炭素原子数12~14のアルキル)チオプロピオニルオキシ)-5-t-ブチルフェニル]スルフィド等が挙げられる。
【0042】
光安定剤としては、分子量が1000以上のヒンダードアミン光安定剤(2,2,6,6-テトラメチルピペリジン骨格を分子内に有する光安定剤)が挙げられる。
【0043】
紫外線吸収剤としては、ベンゾトリアゾール系化合物、トリアジン系化合物、ベンゾフェノン系化合物、サリチレート系化合物、シアノアクリレート系化合物、ニッケル系化合物が挙げられる。
【0044】
着色剤としては、例えば、カーボンブラック、無機顔料、有機顔料が挙げられる。例えば、カーボンブラックとしては、ファーネスブラック、チャンネルブラック、アセチレンブラック、ランプブラック等が挙げられる。無機顔料としては、例えば、鉄黒、弁柄、酸化チタン、カドミウムレッド、カドミウムイエロー、群青、コバルトブルー、チタンイエロー、鉛丹、鉛黄、紺青等が挙げられる。有機顔料としては、例えば、キナクリドン、ポリアゾイエロー、アンスラキノンイエロー、ポリアゾレッド、アゾレーキイエロー、ペリレン、フタロシアニングリーン、フタロシアニンブルー、イソインドリノンイエロー等が挙げられる。これらの着色剤は単独でも、2種類以上を併用してもよい。
【0045】
充填剤としては、シリカ、ヒドロキシアパタイト、アルミナ、チタニア、ベーマイト、タルク、または炭酸カルシウムなどの金属化合物などが好ましく挙げられる。
【0046】
(ポリオレフィン樹脂複合材の製造方法)
本発明のポリオレフィン樹脂複合材の製造方法は、ポリオレフィン樹脂100質量部と、セルロース繊維10~150質量部とを、水の存在下で溶融混練することを含む。これにより、面積が20,000μm以上のセルロース凝集体の生成を抑制し、セルロース繊維がより均一に分散したポリオレフィン樹脂複合材を得ることができる。水の配合量は、セルロース繊維の分散性、加工性等の観点から、ポリオレフィン樹脂100質量部に対して1~225質量部とすることが好ましく、また、セルロース繊維100質量部に対して1~150質量部とすることが好ましい。
【0047】
また、本発明のポリオレフィン樹脂複合材の製造方法において、セルロース繊維の分散性をより向上させるため、セルロース繊維の混合量と水の混合量との比(セルロース繊維の混合量:水の混合量)が1:0.01~1.5が好ましく、1:0.36~1.5がより好ましい。
【0048】
本発明のポリオレフィン樹脂複合材の製造方法における溶融混練において、ポリオレフィン樹脂と、セルロース繊維と、水とを混合する順序は特に制限されない。ポリオレフィン樹脂と、セルロース繊維とを先に混合して溶融混練した後、水を加え、さらに混練してもよく、ポリオレフィン樹脂と、セルロース繊維と、水とを全て加工機内に投入した後に溶融混練してもよい。また、セルロース繊維と水を混練した後、ポリオレフィン樹脂を加え、さらに溶融混練してもよい。
この混練加工工程は、押出し、射出などにより加工、成形する段階で、加工機内で混練することが好ましい。
【0049】
ポリオレフィン樹脂は疎水性が高く、その溶融混練において水を加えると、樹脂が滑るなどして目的の均一混練に支障をきたす場合がある。したがって、ポリオレフィンの溶融混練においては通常、水を添加することはない。
これに対し本発明のポリオレフィン樹脂複合材の製造方法では、ポリオレフィン樹脂の溶融混練において水を加え、これにより、面積が20,000μm以上のセルロース凝集体の生成を抑制する。この理由は定かではないが、溶融混練において加えた水がセルロースを膨潤させてセルロース繊維の微細化を促進し、この微細化されたセルロース繊維が水と一体となってポリオレフィンに作用し、ポリオレフィン樹脂とセルロースの均一な溶融混練が可能になるものと推定される。
【0050】
溶融混練の温度は、セルロース繊維の熱分解を生じにくい温度を上限とすることが望ましい。従って、上限温度は300℃以下が好ましく、250℃以下がより好ましく、230℃以下がさらに好ましい。下限はポリオレフィン樹脂の融点より10℃以上高いことが実際的である。
溶融混練における撹拌は、スクリュー軸方向に適宜ニーディングディスクを配置するなどして、十分な混練性を確保可能なスクリュー構成を組み、かつ必要な生産量を得ることが可能なスクリュー回転数(通常は100~300rpm程度の範囲)で混練することが好ましい。
混練加工する装置としては、同方向二軸スクリュー方式の装置が好ましく、例えば、二軸押出機〔テクノベル社製 KZW15TW-45MG-NH(商品名)〕が挙げられる。
ただし、同方向二軸押出機に限られることはなく、単軸押出機や、異方向二軸押出機、3軸以上の多軸押出機、バッチ式混練機(ニーダー、バンバリー等)など、充分な混練性が得られ、本発明と同様の効果が得られるのであれば、どのような方式でも構わない。
【0051】
本発明のポリオレフィン樹脂複合材の用途としては、例えば、自動車、二輪車などの車両用材料、ロボットアームの構造部材、アミューズメント用ロボット部品、義肢部材、家電材料、OA機器筐体、建材部材、排水設備、トイレタリー材料、各種タンク、コンテナー、シート、玩具、スポーツ用品等が挙げられる。
【0052】
車両用材料としては、例えば、ドアートリム、ピラー、インストルメンタルパネル、コンソール、ロッカーパネル、アームレスト、ドアーインナーパネル、スペアタイヤカバー、ドアノブ等の内装部品や、バンパー、スポイラー、フェンダー、サイドステップ、ドア・アウターパネル等の外装部品、その他エアインテークダクト、クーラントリザーブタンク、ラジエターリザーブタンク、ウインドウ・ウオッシャータンク、フェンダーライナー、ファン等の部品、また、フロント・エンドパネル等の一体成形部品等が挙げられる。
【実施例
【0053】
以下、本発明を実施例に基づき、さらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0054】
-使用素材-
以下に、使用した素材を示す。
(1)ポリオレフィン樹脂
・高密度ポリエチレン〔MFR=5g/10分(190℃/2.16kg)、密度=0.953g/cm
・ポリプロピレン〔MFR=9g/10分(230℃/2.16kg)、密度=0.900g/cm
(2)セルロース繊維
・セルロースA:KCフロックW-200〔商品名 日本製紙社製、平均粒径約32μmの粉末状セルロース〕
・セルロースB:LIGNOCEL C-120〔商品名 J・レッテンマイヤー・アンド・サンズ社製、平均粒径70~150μm〕
【0055】
(実施例1)
以下の工程で、ポリオレフィン樹脂複合材を調製した。
二軸押出機〔テクノベル社製 KZW15TW-45MG-NH(商品名)〕に、ポリオレフィン樹脂を、出口温度190℃、1000g/時間の速度でフィードしつつ、2台目のフィーダーにより、セルロースAを110g/時間の速度でフィードし、液添ポンプにより水を98g/時間でフィードし、下記表1の組成を満たす混合物を200℃で溶融混練した。その後、混練物を押出して、ポリオレフィン樹脂複合材を得た。溶融混練におけるスクリュー回転数は100rpmとした。得られたポリオレフィン樹脂複合材の含水率は0.9質量%であった。
【0056】
(実施例2~14、比較例1~4)
下記表1の組成を採用したこと以外は、実施例1と同様にして実施例2~14及び比較例1~4のポリオレフィン樹脂複合材を得た。
なお、比較例3は、水の配合量が多すぎて、押出機の吐出量が不安定になり、ポリオレフィン樹脂複合材が得られなかった。
【0057】
上記の各実施例及び比較例で得た各ポリオレフィン樹脂複合材について、複合材中に生じたセルロース凝集体の面積を下記の通り算出した。
【0058】
(セルロース凝集体の面積算出方法)
得られたポリオレフィン樹脂複合材を、平面視面積が36倍となるように展延した後、当該平面視におけるセルロース凝集体の面積を測定した。以下、より詳細に説明する。
得られたポリオレフィン樹脂複合材を、縦3.3mm×横4.3mm×厚さ3.6mmの直方体のペレットとした。このペレットを用いて、厚み0.1mmの測定用シートを作製した。具体的には、プレス装置を用いてペレットを160℃で5分間予熱後、さらに160℃で20MPaの圧力下で5分間加圧して測定用シートを作製した。
作製したシートを、ニコン社製工業用顕微鏡「ECLIPSE LV100ND(商品名)」により倍率50倍で平面視観察し、この観察面を撮影して画像処理し、0~80の輝度でカウントされた部分をセルロース凝集体として、面積を算出した。
具体的には、視野を1.3mm×1.7mmとし、ランダムに9視野を撮影した。得られた画像をニコン社製「NIS-Elemenets D(商品名)」により下記条件で画像処理し、0~80の輝度でカウントされた部分の各々の面積を算出した。その中で、面積が最大・最小のものを、セルロース凝集体の面積の最大値・最小値とした。ただし500μm未満のものは、測定対象から除外した。なぜならば、原材料として使用している凝集していないセルロース繊維を上記と同様の方法で測定した際、その面積が約500μmであり、これ以下のものは、セルロース繊維が凝集して形成されたものとは認められないためである。
【0059】
-画像処理条件-
・スムーズ off
オブジェクトの端の形状に作用して、形状を滑らかにする機能。
・クリーン on
小さなオブジェクトが見えなくなる機能。小オブジェクトが消えるだけで、その他の画像は影響を受けない。本測定では、面積が500μm未満を排除するため、500μm未満のオブジェクトをクリーン機能で除去した。
・閉領域を埋める off
オブジェクト内の閉領域を埋める機能。
・分割 off
結合された単一のオブジェクトを検出し、分離する機能。
得られた結果を、まとめて下記表1に示す。
【0060】
比較例1及び実施例1で得られたポリオレフィン樹脂複合材のペレットについて、上記の方法にしたがって撮影した画像と画像処理を行って面積を測定した画像をそれぞれ図1(a)、1(b)、1(c)、及び1(d)に載せた。
【0061】
(引張弾性率)
前記で得られたポリオレフィン樹脂複合材ペレットを80℃、24時間乾燥し、射出成形機〔ファナック(株)製ロボットショットα-30C〕により、JIS K7127の試験片タイプ2号に準拠して、引張試験片を作製した。
上記で作製した引張試験片の引張弾性率(GPa)をJIS K7161に準拠して、引張試験機〔インストロン社製のインストロン試験機5567型〕により、試験速度:1.0mm/minの条件で測定した。
【0062】
【表1】
【0063】
<表の注>
ポリオレフィン樹脂、セルロースAとB及び水の行の数値の単位は、質量部であり、「-」は水が未使用、すなわち0質量部であることを示す。
比較例3の「凝集体の面積」における「-」は、セルロース繊維とポリオレフィン樹脂が一体化した複合材が得られなかったことを意味する。
【0064】
上記表1から、実施例1~14のポリオレフィン樹脂複合材は、いずれもセルロース凝集体の面積が20,000μm未満であり、機械特性(引張弾性率)にも優れていた。
これに対して、比較例1のポリオレフィン樹脂複合材は、混練時に水を用いておらず、セルロース凝集体の面積が20,000μmを超えた。比較例2のポリオレフィン樹脂複合材は、ポリオレフィン樹脂100質量部に対して、セルロース200質量部用いており、凝集体の面積が20,000μmを超えた。また、比較例3では、セルロース繊維とポリオレフィン樹脂が一体化した複合材が得られなかった。一方、比較例4では、セルロースの配合量が少ないため、高剛性な複合材が得られなかった。
【0065】
このように、ポリオレフィン樹脂とセルロースとを特定量、溶融混練するに当たり、水を特定量加えることにより、セルロース凝集体のサイズを20,000μm未満に抑えることができ、ポリオレフィン樹脂とセルロース繊維とが高度な均一性で一体化した樹脂複合材が得られることがわかる。
こうして得られた本発明のポリオレフィン樹脂複合材は、セルロース繊維の樹脂改質作用を十分に引き出すことができ、軽量、高剛性、低線熱膨張係数等を実現でき、また外観にも優れる。
【0066】
本発明をその実施態様とともに説明したが、我々は特に指定しない限り我々の発明を説明のどの細部においても限定しようとするものではなく、添付の請求の範囲に示した発明の精神と範囲に反することなく幅広く解釈されるべきであると考える。
【0067】
本願は、2017年3月29日に日本国で特許出願された特願2017-065481及び2017年10月31日に日本国で特許出願された特願2017-210135に基づく優先権を主張するものであり、これらはここに参照してその内容を本明細書の記載の一部として取り込む。
図1