(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-17
(45)【発行日】2022-03-28
(54)【発明の名称】銀被覆金属粉末およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
B22F 1/145 20220101AFI20220318BHJP
C22C 9/04 20060101ALI20220318BHJP
B22F 9/08 20060101ALI20220318BHJP
H01B 5/00 20060101ALI20220318BHJP
H01B 13/00 20060101ALI20220318BHJP
H01B 1/02 20060101ALI20220318BHJP
H01B 1/00 20060101ALI20220318BHJP
H01B 1/22 20060101ALI20220318BHJP
B22F 1/17 20220101ALI20220318BHJP
【FI】
B22F1/145
C22C9/04
B22F9/08 A
H01B5/00 C
H01B13/00 501Z
H01B1/02 A
H01B1/00 C
H01B1/22 A
B22F1/17
(21)【出願番号】P 2021049786
(22)【出願日】2021-03-24
(62)【分割の表示】P 2015055530の分割
【原出願日】2015-03-19
【審査請求日】2021-03-24
(73)【特許権者】
【識別番号】506334182
【氏名又は名称】DOWAエレクトロニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107548
【氏名又は名称】大川 浩一
(72)【発明者】
【氏名】藤本 英幸
(72)【発明者】
【氏名】尾木 孝造
(72)【発明者】
【氏名】井上 健一
【審査官】瀧口 博史
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2008/059789(WO,A1)
【文献】特開2015-021143(JP,A)
【文献】特開2003-105404(JP,A)
【文献】特開2007-245077(JP,A)
【文献】特開昭55-138001(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00
B22F 9/08
H01B 1/00
H01B 5/00
H01B 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅合金の粉末を銀からなる層により被覆した後、銀からなる層で被覆した銅合金の粉末を水素ガス100%の雰囲気下において60~160℃で0.5~50時間加熱して表面改質を行うことを特徴とする、銀被覆金属粉末の製造方法。
【請求項2】
前記銅合金が、1~50質量%の亜鉛を含み、残部が銅および不可避不純物からなる組成を有することを特徴とする、請求項1に記載の銀被覆金属粉末の製造方法。
【請求項3】
銅の粉末を銀からなる層により被覆した後、銀からなる層で被覆した銅の粉末を水素ガス100%の雰囲気下において60~140℃で0.5~50時間加熱して表面改質を行うことを特徴とする、銀被覆金属粉末の製造方法。
【請求項4】
前記銀からなる層の被覆量が、前記銀からなる層で被覆した銅または銅合金の粉末に対して7~50質量%であることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれかに記載の銀被覆金属粉末の製造方法。
【請求項5】
前記表面改質の前または後に、前記銀からなる層で被覆した銅または銅合金の粉末を表面処理剤で表面処理することを特徴とする、請求項1乃至4のいずれかに記載の銀被覆金属粉末の製造方法。
【請求項6】
前記銅または銅合金の粉末をアトマイズ法により製造することを特徴とする、請求項1乃至5のいずれかに記載の銀被覆金属粉末の製造方法。
【請求項7】
前記銅または銅合金の粉末のレーザー回折式粒度分布装置により測定した体積基準累積50%粒子径(D
50
径)が0.1~15μmであることを特徴とする、請求項1乃至6のいずれかに記載の銀被覆金属粉末の製造方法。
【請求項8】
樹脂と溶剤を含み、導電性粉体として銀被覆金属粉末を含む導電性ペーストにおいて、銀被覆金属粉末が、銅または銅合金の粉末が銀からなる層により被覆され、粒子形状を真球としてBET比表面積から算出した粒子径D
BET
(μm)に対するレーザー回折式粒度分布装置により測定した体積基準累積50%粒子径(D
50
径)の比(D
50
/D
BET
)が3.5以下であり、且つpH0の硫酸水溶液に30分間浸漬したときの銅イオン溶出量が450mg/L以下である、銀被覆金属粉末であることを特徴とする、導電ペースト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銀被覆金属粉末およびその製造方法に関し、特に、導電ペーストなどに使用する銀被覆銅粉または銀被覆銅合金粉末およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、印刷法などにより電子部品の電極や配線を形成するために、銀粉や銅粉などの導電性の金属粉末に溶剤、樹脂、分散剤などを配合して作製した導電ペーストが使用されている。
【0003】
しかし、銀粉は、体積抵抗率が極めて小さく、良好な導電性物質であるが、貴金属の粉末であるため、コストが高くなる。一方、銅粉は、体積抵抗率が低く、良好な導電性物質であるが、酸化され易いため、銀粉に比べて保存安定性(信頼性)に劣っている。
【0004】
これらの問題を解消するために、導電ペーストに使用する金属粉末として、銅または銅合金の粉末の表面を銀で被覆した銀被覆金属粉末が使用されている。
【0005】
しかし、従来の銀被覆金属粉末では、銅または銅合金の粉末の表面に銀単独の層が存在するため、耐マイグレーション性が悪くなるという問題がある。
【0006】
このような問題を解消するため、表面に銀を被着した銅粒子からなる銀被着銅粉を非酸化性雰囲気中150~600℃の温度で熱処理することによって銀拡散銅粉を製造する方法(例えば、特許文献1参照)や、銀コート銅粉を湿式還元雰囲気中で加熱する方法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2001-11502号公報(段落番号0006)
【文献】特開2003-105404号公報(段落番号0017)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1の方法により製造した銀拡散銅粉や、特許文献2の銀コート銅粉などの従来の銀被覆金属粉末は、粒子同士が焼結し易く、導電ペーストの導電性粉体として使用した場合に、銀被覆金属粉末の分散性が低下したり、また、導電ペーストの粘度が経時的に増大して、導電ペーストとして使用するのが困難になるという問題があった。
【0009】
したがって、本発明は、このような従来の問題点に鑑み、粒子同士が焼結し難く且つ導電ペーストに使用した場合にその導電ペーストの粘度の経時的な増大を抑制することができる銀被覆金属粉末およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、銅または銅合金の粉末を銀含有層により被覆した後、銀含有層で被覆した銅または銅合金の粉末を還元性雰囲気下において60~160℃で0.5~50時間加熱して表面改質を行うことにより、粒子同士が焼結し難く且つ導電ペーストに使用した場合にその導電ペーストの粘度の経時的な増大を抑制することができる銀被覆金属粉末を製造することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明による銀被覆金属粉末の製造方法は、銅または銅合金の粉末を銀含有層により被覆した後、銀含有層で被覆した銅または銅合金の粉末を還元性雰囲気下において60~160℃で0.5~50時間加熱して表面改質を行うことを特徴とする。
【0012】
この銀被覆金属粉末の製造方法において、銀含有層の被覆量が、銀含有層で被覆した銅または銅合金の粉末に対して7~50質量%であるのが好ましく、銀含有層が銀または銀化合物からなる層であるのが好ましい。また、銅合金が、1~50質量%の亜鉛を含み、残部が銅および不可避不純物からなる組成を有するのが好ましい。また、還元性雰囲気が水素雰囲気であるのが好ましく、表面改質の前または後に、銀含有層で被覆した銅または銅合金の粉末を表面処理剤で表面処理するのが好ましい。また、銅または銅合金の粉末をアトマイズ法により製造するのが好ましく、銅または銅合金の粉末のレーザー回折式粒度分布装置により測定した体積基準累積50%粒子径(D50径)が0.1~15μmであるのが好ましい。
【0013】
また、本発明による銀被覆金属粉末は、銅または銅合金の粉末が銀含有層により被覆され、粒子形状を真球としてBET比表面積から算出した粒子径DBET(μm)に対するレーザー回折式粒度分布装置により測定した体積基準累積50%粒子径(D50径)の比(D50/DBET)が3.5以下であり、pH0の硫酸水溶液に30分間浸漬したときの銅イオン溶出量が450mg/L以下であることを特徴とする。
【0014】
この銀被覆金属粉末において、銀含有層の被覆量が、銀含有層で被覆した銅または銅合金の粉末に対して7~50質量%であるのが好ましく、銀含有層が銀または銀化合物からなる層であるのが好ましい。また、銅合金が、1~50質量%の亜鉛を含み、残部が銅および不可避不純物からなる組成を有するのが好ましい。また、銅または銅合金の粉末のレーザー回折式粒度分布装置により測定した体積基準累積50%粒子径(D50径)が0.1~15μmであるのが好ましい。
【0015】
さらに、本発明による導電ペーストは、樹脂と溶剤および反応性希釈剤の少なくとも一方とを含み、導電性粉体として上記の銀被覆金属粉末を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、粒子同士が焼結し難く且つ導電ペーストに使用した場合にその導電ペーストの粘度の経時的な増大を抑制することができる銀被覆金属粉末およびその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明による銀被覆金属粉末の製造方法の実施の形態では、銅または銅合金の粉末を銀含有層により被覆した後、銀含有層で被覆した銅または銅合金の粉末を還元性雰囲気下において60~160℃で0.5~50時間加熱して表面改質を行う。
【0018】
この銀被覆金属粉末の製造方法において、銀含有層は、銀または銀化合物からなる層であるのが好ましい。また、銀含有層の被覆量は、銀含有層で被覆した銅または銅合金の粉末に対して7~50質量%であるのが好ましく、8~45質量%であるのがさらに好ましく、9~40質量%であるのが最も好ましい。銀含有層の被覆量が7質量%未満では、銀被覆金属粉末の導電性に悪影響を及ぼすので好ましくない。一方、50質量%を超えると、銀の使用量の増加によってコストが高くなるので好ましくない。
【0019】
銅合金の粉末を銀含有層で被覆する場合、銅合金は、1~50質量%(好ましくは1~10質量%、さらに好ましくは2~5質量%)の亜鉛を含み、残部が銅および不可避不純物からなる組成を有するのが好ましい。亜鉛の含有量が1質量%未満では、銅合金粉末中の銅の酸化が著しく、耐酸化性に問題が生じるので好ましくない。一方、50質量%を超えると、銀被覆金属粉末の導電性に悪影響を及ぼすので好ましくない。
【0020】
銅または銅合金の粉末の粒子径は、(ヘロス法によって)レーザー回折式粒度分布装置により測定した体積基準累積50%粒子径(D50径)が0.1~15μmであるのが好ましく、0.3~10μmであるのがさらに好ましく、1~5μmであるのが最も好ましい。体積基準累積50%粒子径(D50径)が0.1μm未満では、銀被覆金属粉末の導電性に悪影響を及ぼすので好ましくない。一方、15μmを超えると、微細な配線の形成が困難になるので好ましくない。
【0021】
銅または銅合金の粉末は、湿式還元法、電解法、気相法などにより製造してもよいが、合金成分を溶解温度以上で溶解し、タンディッシュ下部から落下させながら高圧ガスまたは高圧水を衝突させて急冷凝固させることにより微粉末とする、(ガスアトマイズ法、水アトマイズ法などの)所謂アトマイズ法により製造するのが好ましい。特に、高圧水を吹き付ける、所謂水アトマイズ法により製造すると、粒子径が小さい銅または銅合金の粉末を得ることができるので、銅または銅合金の粉末を導電ペーストに使用した際に粒子間の接触点の増加による導電性の向上を図ることができる。
【0022】
銅または銅合金の粉末を銀含有層で被覆する方法として、銅と銀の置換反応を利用する方法や、還元剤を用いる還元法により、銅または銅合金の粉末の表面に銀または銀化合物を析出させる方法を使用することができ、例えば、溶媒中に銅または銅合金の粉末と銀または銀化合物を含む溶液を攪拌しながら銅または銅合金の粉末の表面に銀または銀化合物を析出させる方法や、溶媒中に銅または銅合金の粉末および有機物を含む溶液と溶媒中に銀または銀化合物および有機物を含む溶液とを混合して攪拌しながら銅または銅合金の粉末の表面に銀または銀化合物を析出させる方法などを使用することができる。
【0023】
この溶媒としては、水、有機溶媒またはこれらを混合した溶媒を使用することができる。水と有機溶媒を混合した溶媒を使用する場合には、室温(20~30℃)において液体になる有機溶媒を使用する必要があるが、水と有機溶媒の混合比率は、使用する有機溶媒により適宜調整することができる。また、溶媒として使用する水は、不純物が混入するおそれがなければ、蒸留水、イオン交換水、工業用水などを使用することができる。
【0024】
銀含有層の原料として、銀イオンを溶液中に存在させる必要があるため、水や多くの有機溶媒に対して高い溶解度を有する硝酸銀を使用するのが好ましい。また、銅または銅合金の粉末を銀含有層で被覆する反応(銀被覆反応)をできるだけ均一に行うために、固体の硝酸銀ではなく、硝酸銀を溶媒(水、有機溶媒またはこれらを混合した溶媒)に溶解した硝酸銀溶液を使用するのが好ましい。なお、使用する硝酸銀溶液の量、硝酸銀溶液中の硝酸銀の濃度および有機溶媒の量は、目的とする銀含有層の量に応じて決定することができる。
【0025】
銀含有層をより均一に形成するために、溶液中にキレート化剤を添加してもよい。キレート化剤としては、銀イオンと金属銅との置換反応により副生成する銅イオンなどが再析出しないように、銅イオンなどに対して錯安定度定数が高いキレート化剤を使用するのが好ましい。特に、銀被覆金属粉末のコアとなる銅または銅合金の粉末は(主構成要素として)銅を含んでいるので、銅との錯安定度定数に留意してキレート化剤を選択するのが好ましい。具体的には、キレート化剤として、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、イミノジ酢酸、ジエチレントリアミン、トリエチレンジアミンおよびこれらの塩からなる群から選ばれたキレート化剤を使用することができる。
【0026】
銀被覆反応を安定かつ安全に行うために、溶液中にpH緩衝剤を添加してもよい。このpH緩衝剤として、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、アンモニア水、炭酸水素ナトリウムなどを使用することができる。
【0027】
銀被覆反応の際には、銀塩を添加する前に溶液中に銅または銅合金の粉末を入れて攪拌し、銅または銅合金の粉末が溶液中に十分に分散している状態で、銀塩を含む溶液を添加するのが好ましい。この銀被覆反応の際の反応温度は、反応液が凝固または蒸発する温度でなければよいが、好ましくは10~40℃、さらに好ましくは15~35℃の範囲で設定する。また、反応時間は、銀または銀化合物の被覆量や反応温度によって異なるが、1分~5時間の範囲で設定することができる。
【0028】
表面改質は、銀含有層で被覆した銅または銅合金の粉末を還元性雰囲気下において60~160℃、好ましくは80~150℃、さらに好ましくは80~140℃で0.5~50時間、好ましくは1~40時間加熱することによって行う。加熱温度が60℃より低いと、導電ペーストに使用した場合に、時間の経過により導電ペーストの粘度が上昇し、160℃より高いと、粒子同士が焼結し、導電ペーストに使用した場合に、銀被覆金属粉末の分散性が低下する。また、還元性雰囲気は、水素雰囲気(水素ガス100%の雰囲気)であるのが好ましい。
【0029】
この表面改質の前または後に、銀含有層で被覆した銅または銅合金の粉末を表面処理剤で表面処理するのが好ましく、この表面処理剤が、脂肪酸またはベンゾトリアゾールであるのが好ましい。この脂肪酸として、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、パルミトレイン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、オレイン酸、バクセン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキジン酸、エイコサジエン酸、エイコサトリエン酸、エイコサテトラエン酸、アラキドン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、ネルボン酸、セロチン酸、モンタン酸、メリシン酸などを使用することができるが、パルミチン酸、ステアリン酸またはオレイン酸を使用するのが好ましい。
【0030】
表面処理剤の添加量は、銀被覆金属粉末に対して0.1~7質量%であるのが好ましく、0.3~6質量%であるのがさらに好ましく、0.3~5質量%であるのが最も好ましい。表面処理は、銀含有層で被覆した銅または銅合金の粉末と表面処理剤とを混合して行ってもよいし、銀含有層で被覆した銅または銅合金の粉末のスラリーに表面処理剤を添加して行ってもよい。このように銀被覆金属粉末を表面処理剤(好ましくは0.1~7質量%の表面処理剤)で表面処理することにより、タップ密度を高めて分散性を向上させて、導電膜の体積抵抗率を低下させるとともに、耐酸化性を付与して、体積抵抗率の変化率を低下させることができる。
【0031】
また、本発明による銀被覆金属粉末の実施の形態では、銅または銅合金の粉末が銀含有層により被覆され、粒子形状を真球としてBET比表面積から算出した粒子径DBET(μm)に対するレーザー回折式粒度分布装置により測定した体積基準累積50%粒子径(D50径)の比(D50/DBET)が3.5以下、好ましくは3.0以下であり、pH0の硫酸水溶液に30分間浸漬したときの銅イオン溶出量が450mg/L以下、好ましくは420mg/L以下である。D50/DBETが3.5以下であれば、粒子同士の焼結が少なく、導電ペーストに使用した際に銀被覆金属粉末の分散性が良好であり、また、銅イオン溶出量が450mg/L以下であれば、導電ペーストを製造した後に時間の経過による導電ペーストの粘度の上昇を抑制することができる。
【0032】
この銀被覆金属粉末において、銀含有層が銀または銀化合物からなる層であるのが好ましい。また、銀含有層の被覆量は、銀含有層で被覆した銅または銅合金の粉末に対して7~50質量%であるのが好ましく、8~45質量%であるのがさらに好ましく、9~40質量%であるのが最も好ましい。また、銅合金が、1~50質量%の亜鉛を含み、残部が銅および不可避不純物からなる組成を有するのが好ましい。さらに、銅または銅合金の粉末の粒子径は、(ヘロス法によって)レーザー回折式粒度分布装置により測定した体積基準累積50%粒子径(D50径)が0.1~15μmであるのが好ましく、0.3~10μmであるのがさらに好ましく、1~5μmであるのが最も好ましい。
【実施例】
【0033】
以下、本発明による銀被覆金属粉末およびその製造方法の実施例について詳細に説明する。
【0034】
[実施例1]
銅7.6kgと亜鉛0.4kgを加熱した溶湯をタンディッシュ下部から落下させながら高圧水を吹付けて急冷凝固させ、ろ過し、水洗し、乾燥し、解砕し、分級して、銅合金粉末(銅-亜鉛合金粉末)を得た。
【0035】
このようにして得られた(銀被覆前の)銅合金粉末の組成および体積基準累積50%粒子径(D50径)を求めたところ、銅合金粉末中の銅の含有量は95.1質量%、亜鉛の含有量は4.9質量%であり、銅合金粉末はCu95Zn5合金の粉末であった。また、銅合金粉末の体積基準累積50%粒子径(D50径)は2.0μmであった。なお、銅合金粉末中の銅および亜鉛の含有量は、銅合金粉末(約2.5g)を塩化ビニル製リング(内径3.2mm×厚さ4mm)内に敷き詰めた後、錠剤型の成型圧縮機(株式会社前川試験製作所製の型番BRE-50)により100kNの荷重をかけて、銅合金粉末のペレットを作製し、このペレットをサンプルホルダー(開口径3.0cm)に入れて蛍光X線分析装置(株式会社リガク製のRIX2000)内の測定位置にセットし、測定雰囲気を減圧下(8.0Pa)とし、X線出力を50kV、50mAとした条件で測定した結果から、装置に付属のソフトウェアで自動計算することによって求め、ナトリウム未満の軽元素を除いた成分の比率を算出した。また、銅合金粉末の体積基準累積50%粒子径(D50径)は、レーザー回折式粒度分布装置(SYMPATEC社製のヘロス粒度分布測定装置(HELOS&RODOS))により測定した。
【0036】
また、EDTA-2Na二水和物61.9gと炭酸アンモニウム61.9gを純水720gに溶解した溶液(溶液1)と、EDTA-2Na二水和物307.1gと炭酸アンモニウム153.5gを純水1223gに溶解した溶液に、硝酸銀51.2gを純水158gに溶解した溶液を加えて得られた溶液(溶液2)を用意した。
【0037】
次に、窒素雰囲気下において、得られた銅合金粉末(銅-亜鉛合金粉末)130gを溶液1に加えて、攪拌しながら25℃まで昇温させた。この銅合金粉末(銅-亜鉛合金粉末)が分散した溶液に溶液2を加えて1時間攪拌した後、ろ過し、水洗し、乾燥して、銀被覆銅合金粉末(銀被覆銅-亜鉛合金粉末)を得た。
【0038】
この銀被覆銅合金粉末を水素ガス(100%)雰囲気中において80℃で10時間保持して、銀被覆銅合金粉末の表面改質を行った。
【0039】
このようにして得られた銀被覆銅合金粉末の組成、体積基準累積50%粒子径(D50径)、BET比表面積を求めた。
【0040】
銀被覆銅合金粉末中の銅および亜鉛の含有量は、銀被覆前の銅合金粉末中の銅および亜鉛の含有量と同様の方法により、銀被覆銅合金粉末のペレットを作製して求めた。また、銀被覆銅合金粉末の断面を集束イオンビーム(FIB)加工観察装置(日本電子株式会社製のJEM-9310FIB)によって加工した後、電界放出形走査電子顕微鏡(FE-SEM)(日本電子株式会社製のJSM-6700F)によって観察したところ、銅合金粉末の表面が銀で被覆されていることが確認された。また、銀被覆銅合金粉末の銀(Ag)の被覆量も、銀被覆銅合金粉末中の銅および亜鉛の含有量と同様の方法により求めた。その結果、銀被覆銅合金粉末の銀の被覆量は21.8質量%、銅の含有量は74.9質量%、亜鉛の含有量は3.3質量%であった。
【0041】
銀被覆銅合金粉末の体積基準累積50%粒子径(D50径)は、レーザー回折式粒度分布装置(SYMPATEC社製のヘロス粒度分布測定装置(HELOS&RODOS))により測定した。その結果、体積基準累積50%粒子径(D50径)は2.2μmであった。
【0042】
銀被覆銅合金粉末のBET比表面積は、BET比表面積測定装置(ユアサイオニクス株式会社製の4ソーブUS)を用いてBET法により求めた。その結果、銀被覆銅合金粉末のBET比表面積は0.78m2/gであった。また、この銀被覆銅合金粉末の真密度をAgとCuとZnの金属単体の密度(Ag:10.49g/cm3、Cu:8.92g/cm3、Zn:7.14g/cm3)の加重平均値として算出すると9.20g/cm3になり、粒子形状を真球としてBET比表面積から算出した粒子径DBET(μm)=6/(BET比表面積(m2/g)×真密度(g/cm3)は0.84μmになる。また、銀被覆銅合金粉末の焼結の度合いを示す指標としてD50/DBETを算出すると2.6になる。なお、D50/DBET=1であれば、レーザー回折式粒度分布装置により測定した体積基準累積50%粒子径(D50径)とBET比表面積から算出したDBETが等しいこと、すなわち、個々の粒子が完全に分散している状態を示し、D50/DBETが大きいほど、BET比表面積から算出したDBETに対して、レーザー回折式粒度分布装置により測定した体積基準累積50%粒子径(D50径)が大きいこと、すなわち、粒子の焼結が進んでいることを示している。
【0043】
また、銀被覆銅合金粉末5gを液温25℃でpH0の硫酸水溶液45gとともに容量100mLのポリプロピレン製の広口ビンに入れ、高周波出力200Wの超音波洗浄機により超音波を30分間印加した後、得られたスラリーを0.2μmのフィルタにより固液分離して得られた溶出液中の銅イオン量(銅イオン溶出量)をICP法により求めたところ、325mg/Lであった。
【0044】
また、得られた銀被覆銅合金粉末5gを、エチルセルロース(100cps)4gとヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート(信越化学工業株式会社製のHP-55S)5gをテルピネオール(試薬)91gに溶解して作製したビヒクル5gと混練脱泡機で混合した後、三本ロールを5回パスして均一に分散させることによって導電ペーストを作製した。この導電ペーストの作製直後の粘度η1と、25℃恒温で4日間放置した後に測定した粘度η2を、粘度計(Brookfield社製のDV-III粘度計、CP-52コーン)を使用して、1rpm(ずり速度2sec-1)で測定し、粘度増加率=(η2-η1)/η1を求めたところ、導電ペーストの粘度増加率は25%であった。
【0045】
[実施例2]
表面改質の際の加熱時間を40時間とした以外は、実施例1と同様の方法により得られた銀被覆銅合金粉末について、実施例1と同様の方法により、組成、体積基準累積50%粒子径(D50径)、BET比表面積を求め、真密度、DBET、D50/DBETを算出し、溶出液中の銅イオン量を求めるとともに、導電ペーストの粘度増加率を求めた。
【0046】
その結果、銀被覆銅合金粉末の銀の被覆量は22.0質量%、銅の含有量は74.8質量%、亜鉛の含有量は3.2質量%であった。また、体積基準累積50%粒子径(D50径)は2.3μmであり、BET比表面積は0.75m2/gであった。また、真密度は9.21g/cm3、DBETは0.87μm、D50/DBETは2.6になる。また、溶出液中の銅イオン量は237mg/Lであり、導電ペーストの粘度増加率は24%であった。
【0047】
[実施例3]
表面改質の際の加熱温度を100℃とした以外は、実施例1と同様の方法により得られた銀被覆銅合金粉末について、実施例1と同様の方法により、組成、体積基準累積50%粒子径(D50径)、BET比表面積を求め、真密度、DBET、D50/DBETを算出し、溶出液中の銅イオン量を求めるとともに、導電ペーストの粘度増加率を求めた。
【0048】
その結果、銀被覆銅合金粉末の銀の被覆量は21.8質量%、銅の含有量は74.8質量%、亜鉛の含有量は3.4質量%であった。また、体積基準累積50%粒子径(D50径)は2.1μmであり、BET比表面積は0.77m2/gであった。また、真密度は9.20g/cm3、DBETは0.85μm、D50/DBETは2.4になる。また、溶出液中の銅イオン量は203mg/Lであり、導電ペーストの粘度増加率は17%であった。
【0049】
[実施例4]
表面改質の際の加熱温度を150℃として加熱時間を40時間とした以外は、実施例1と同様の方法により得られた銀被覆銅合金粉末について、実施例1と同様の方法により、組成、体積基準累積50%粒子径(D50径)、BET比表面積を求め、真密度、DBET、D50/DBETを算出し、溶出液中の銅イオン量を求めるとともに、導電ペーストの粘度増加率を求めた。
【0050】
その結果、銀被覆銅合金粉末の銀の被覆量は22.1質量%、銅の含有量は74.9質量%、亜鉛の含有量は3.0質量%であった。また、体積基準累積50%粒子径(D50径)は3.0μmであり、BET比表面積は0.62m2/gであった。また、真密度は9.21g/cm3、DBETは1.05μm、D50/DBETは2.9になる。また、溶出液中の銅イオン量は175mg/Lであり、導電ペーストの粘度増加率は17%であった。
【0051】
[実施例5]
銅8kgを加熱した溶湯をタンディッシュ下部から落下させながら高圧水を吹付けて急冷凝固させ、ろ過し、水洗し、乾燥し、解砕し、分級して、銅粉を得た。
【0052】
このようにして得られた(銀被覆前の)銅粉の体積基準累積50%粒子径(D50径)を実施例1と同様の方法により求めたところ、銅粉の体積基準累積50%粒子径(D50径)は2.3μmであった。
【0053】
また、EDTA-2Na二水和物61.9gと炭酸アンモニウム61.9gを純水720gに溶解した溶液(溶液1)と、EDTA-2Na二水和物136.5gと炭酸アンモニウム68.2gを純水544gに溶解した溶液に、硝酸銀22.7gを純水70gに溶解した溶液を加えて得られた溶液(溶液2)を用意した。
【0054】
次に、窒素雰囲気下において、得られた銅粉130gを溶液1に加えて、攪拌しながら25℃まで昇温させた。この銅粉が分散した溶液に溶液2を加えて1時間攪拌した後、ろ過し、水洗し、乾燥して、銀被覆銅粉を得た。
【0055】
この銀被覆銅粉を水素ガス(100%)雰囲気中において100℃で1時間保持して、銀被覆銅粉の表面改質を行った。
【0056】
次に、得られた銀被覆銅粉80gとパルミチン酸0.24g(銀被覆銅粉に対して0.3質量%)をカッターミルに入れ、20秒間の解砕を2回行うことによって、パルミチン酸で表面処理された銀被覆銅粉を得た。
【0057】
このようにして得られた銀被覆銅粉について、実施例1と同様の方法により、組成、体積基準累積50%粒子径(D50径)、BET比表面積を求め、真密度、DBET、D50/DBETを算出し、溶出液中の銅イオン量を求めるとともに、導電ペーストの粘度増加率を求めた。
【0058】
その結果、銀被覆銅粉の銀の被覆量は10.6質量%、銅の含有量は89.4質量%であった。また、体積基準累積50%粒子径(D50径)は2.3μmであり、BET比表面積は0.51m2/gであった。また、真密度は9.09g/cm3、DBETは1.29μm、D50/DBETは1.8になる。また、溶出液中の銅イオン量は404mg/Lであり、導電ペーストの粘度増加率は29%であった。
【0059】
[実施例6]
表面改質の際の加熱温度を120℃として加熱時間を10時間とした以外は、実施例5と同様の方法により得られた銀被覆銅粉について、実施例1と同様の方法により、組成、体積基準累積50%粒子径(D50径)、BET比表面積を求め、真密度、DBET、D50/DBETを算出し、溶出液中の銅イオン量を求めるとともに、導電ペーストの粘度増加率を求めた。
【0060】
その結果、銀被覆銅粉の銀の被覆量は10.4質量%、銅の含有量は89.6質量%であった。また、体積基準累積50%粒子径(D50径)は2.3μmであり、BET比表面積は0.48m2/gであった。また、真密度は9.08g/cm3、DBETは1.38μm、D50/DBETは1.7になる。また、溶出液中の銅イオン量は297mg/Lであり、導電ペーストの粘度増加率は22%であった。
【0061】
[比較例1]
表面改質を行わなかった以外は、実施例1と同様の方法により得られた銀被覆銅合金粉末について、実施例1と同様の方法により、組成、体積基準累積50%粒子径(D50径)、BET比表面積を求め、真密度、DBET、D50/DBETを算出し、溶出液中の銅イオン量を求めるとともに、導電ペーストの粘度増加率を求めた。
【0062】
その結果、銀被覆銅合金粉末の銀の被覆量は22.0質量%、銅の含有量は74.9質量%、亜鉛の含有量は3.1質量%であった。また、体積基準累積50%粒子径(D50径)は2.0μmであり、BET比表面積は0.82m2/gであった。また、真密度は9.21g/cm3、DBETは0.79μm、D50/DBETは2.5になる。また、溶出液中の銅イオン量は467mg/Lであり、導電ペーストの粘度増加率は54%であった。
【0063】
[比較例2]
表面改質を行わなかった以外は、実施例5と同様の方法により得られた銀被覆銅粉について、実施例1と同様の方法により、組成、体積基準累積50%粒子径(D50径)、BET比表面積を求め、真密度、DBET、D50/DBETを算出し、溶出液中の銅イオン量を求めるとともに、導電ペーストの粘度増加率を求めた。
【0064】
その結果、銀被覆銅粉の銀の被覆量は10.5質量%、銅の含有量は89.5質量%であった。また、体積基準累積50%粒子径(D50径)は2.2μmであり、BET比表面積は0.54m2/gであった。また、真密度は9.20g/cm3、DBETは1.23μm、D50/DBETは1.7になる。また、溶出液中の銅イオン量は463mg/Lであり、導電ペーストの粘度増加率は69%であった。
【0065】
[比較例3]
表面改質の際の加熱温度を200℃として加熱時間を40時間とした以外は、実施例1と同様の方法により得られた銀被覆銅合金粉末について、実施例1と同様の方法により、組成、体積基準累積50%粒子径(D50径)、BET比表面積を求め、真密度、DBET、D50/DBETを算出し、溶出液中の銅イオン量を求めるとともに、導電ペーストの粘度増加率を求めた。
【0066】
その結果、銀被覆銅合金粉末の銀の被覆量は21.8質量%、銅の含有量は74.9質量%、亜鉛の含有量は3.3質量%であった。また、体積基準累積50%粒子径(D50径)は4.1μmであり、BET比表面積は0.57m2/gであった。また、真密度は9.20g/cm3、DBETは1.14μm、D50/DBETは3.6になる。また、溶出液中の銅イオン量は187mg/Lであり、導電ペーストの粘度増加率は19%であった。
【0067】
[比較例4]
表面改質を大気雰囲気中において行った以外は、実施例4と同様の方法により得られた銀被覆銅合金粉末について、実施例1と同様の方法により、組成、体積基準累積50%粒子径(D50径)、BET比表面積を求め、真密度、DBET、D50/DBETを算出し、溶出液中の銅イオン量を求めるとともに、導電ペーストの粘度増加率を求めた。
【0068】
その結果、銀被覆銅合金粉末の銀の被覆量は22.2質量%、銅の含有量は74.9質量%、亜鉛の含有量は2.9質量%であった。また、体積基準累積50%粒子径(D50径)は2.3μmであり、BET比表面積は0.85m2/gであった。また、真密度は9.22g/cm3、DBETは0.77μm、D50/DBETは2.9になる。また、溶出液中の銅イオン量は2210mg/Lであり、導電ペーストの粘度が著しく増大して粘度増加率を求めることができなかった。
【0069】
これらの実施例および比較例の銀被覆金属粉末の製造条件および特性を表1~表3に示す。
【0070】
【0071】
【0072】
【0073】
表1~表4からわかるように、実施例1~6の銀被覆金属粉末(銀被覆銅粉または銀被覆銅合金粉末)では、D50/DBETが低く、粒子の焼結が進んでいなかった。また、実施例1~6の銀被覆金属粉末では、溶出液中の銅イオン量が低く、実施例1~6の銀被覆金属粉末を使用して作製した導電ペーストの粘度増加率は低かった。一方、比較例3の銀被覆金属粉末(銀被覆銅合金粉末)では、D50/DBETが高く、粒子の焼結が進んでいた。また、比較例1、2及び4の銀被覆金属粉末(銀被覆銅粉または銀被覆銅合金粉末)では、溶出液中の銅イオン量が高く、比較例1、2及び4の銀被覆金属粉末(銀被覆銅粉または銀被覆銅合金粉末)を使用して作製した導電ペーストの粘度増加率は高かった。