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特許7042986接着剤用組成物及びフィルム状接着剤、並びに、フィルム状接着剤を用いた半導体パッケージ及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-17
(45)【発行日】2022-03-28
(54)【発明の名称】接着剤用組成物及びフィルム状接着剤、並びに、フィルム状接着剤を用いた半導体パッケージ及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09J 163/00 20060101AFI20220318BHJP
   C09J 171/08 20060101ALI20220318BHJP
   C09J 11/04 20060101ALI20220318BHJP
   C09J 7/35 20180101ALI20220318BHJP
   H01L 21/52 20060101ALI20220318BHJP
   H01L 21/301 20060101ALI20220318BHJP
【FI】
C09J163/00
C09J171/08
C09J11/04
C09J7/35
H01L21/52 D
H01L21/78 M
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021552639
(86)(22)【出願日】2021-05-19
(86)【国際出願番号】 JP2021018947
【審査請求日】2021-09-03
(31)【優先権主張番号】P 2020129493
(32)【優先日】2020-07-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002631
【氏名又は名称】特許業務法人イイダアンドパートナーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100076439
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 敏三
(74)【代理人】
【識別番号】100161469
【弁理士】
【氏名又は名称】赤羽 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100198328
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 幸恵
(72)【発明者】
【氏名】森田 稔
【審査官】上條 のぶよ
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-188540(JP,A)
【文献】特開2017-183642(JP,A)
【文献】国際公開第2017/168820(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/161864(WO,A1)
【文献】特開2017-179055(JP,A)
【文献】特開2012-049388(JP,A)
【文献】特開2009-167372(JP,A)
【文献】特開2020-061423(JP,A)
【文献】特開2018-182276(JP,A)
【文献】特開2016-065209(JP,A)
【文献】特開2008-124141(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J,H01L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ樹脂(A)、エポキシ樹脂硬化剤(B)、フェノキシ樹脂(C)及び無機充填材(D)を含有する接着剤用組成物であって、
前記フェノキシ樹脂(C)の25℃における弾性率が500MPa以上であり、
前記エポキシ樹脂(A)と前記フェノキシ樹脂(C)の各含有量の合計に占める前記フェノキシ樹脂(C)の割合が、10~60質量%であり、
前記接着剤用組成物を用いて形成した、硬化前のフィルム状接着剤の25℃におけるナノインデンテーション硬さが1.40~2.20MPa、ヤング率が1000~2000MPaである接着剤用組成物。
【請求項2】
前記無機充填材(D)の平均粒径(d50)が0.01~5.0μmであり、
前記エポキシ樹脂(A)、前記エポキシ樹脂硬化剤(B)、前記フェノキシ樹脂(C)及び前記無機充填材(D)の各含有量の合計に占める前記無機充填材(D)の割合が、5~70体積%である請求項1に記載の接着剤用組成物。
【請求項3】
前記無機充填材(D)が、モース硬度2以上の無機充填材を含む請求項2に記載の接着剤用組成物。
【請求項4】
前記接着剤用組成物を用いて形成した、硬化前のフィルム状接着剤を25℃から5℃/分の昇温速度で昇温したとき、120℃における溶融粘度が100~10000Pa・sの範囲にある請求項1~3のいずれか1項に記載の接着剤用組成物。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の接着剤用組成物により得られてなるフィルム状接着剤。
【請求項6】
厚みが1~60μmである、請求項5に記載のフィルム状接着剤。
【請求項7】
厚みが5~15μmである、請求項5又は6に記載のフィルム状接着剤。
【請求項8】
半導体パッケージの製造方法であって、
表面に少なくとも1つの半導体回路が形成された半導体ウェハの裏面に、請求項5~7のいずれか1項に記載のフィルム状接着剤を熱圧着して接着剤層を設け、前記接着剤層を介してダイシングテープを設ける第1の工程と、
前記半導体ウェハと前記接着剤層とを同時にダイシングすることにより、ダイシングテープ上に、前記半導体ウェハ及び前記接着剤層を備える接着剤層付き半導体チップを得る第2の工程と、
前記接着剤層から前記ダイシングテープを取り除き、前記接着剤層付き半導体チップと配線基板とを前記接着剤層を介して熱圧着する第3の工程と、
前記接着剤層を熱硬化する第4の工程と、
を含む半導体パッケージの製造方法。
【請求項9】
半導体チップと配線基板、又は、半導体チップ間が、請求項5~7のいずれか1項に記載のフィルム状接着剤の熱硬化体により接着されてなる、半導体パッケージ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接着剤用組成物及びフィルム状接着剤、並びに、フィルム状接着剤を用いた半導体パッケージ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体チップを多段に積層したスタックドMCP(Multi Chip Package)が普及しており、携帯電話、携帯オーディオ機器用のメモリパッケージとして搭載されている。また、携帯電話等の多機能化に伴い、パッケージの高密度化・高集積化も推し進められている。これに伴い、半導体チップの多段積層化が進行している。
【0003】
このようなメモリパッケージの製造過程における配線基板と半導体チップとの接着、また、半導体チップ間の接着(いわゆる、ダイアタッチ)には、フィルム状接着剤(ダイアタッチフィルム)が使用され、このフィルム状接着剤には、十分な接着性が求められる。加えて、半導体チップの多段積層化に伴い、フィルム状接着剤の薄膜化も要求されている。
【0004】
従来、いわゆる薄型フィルム状接着剤として用いることができる材料としては、例えば、特許文献1に、アクリル酸エステル系ポリマー、多官能イソシアネート系架橋剤、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、及びシリカを含有し、ショアA硬度を規定した接着剤層を設けた半導体装置製造用フィルムロールが記載されている。
【0005】
また、特許文献2には、モース硬度の異なる2種類以上の熱伝導性フィラーを含有し、ダイシング工程でのブレードの摩耗量が50μm/m以下である放熱性フィルム状接着剤であって、エポキシ樹脂、エポキシ樹脂硬化剤、フェノキシ樹脂を含有するフィルム状接着剤が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第5322609号公報
【文献】特開2019-21829号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
通常、フィルム状接着剤を使用する場合、フィルム状接着剤を貼合した半導体ウェハを、ダイシングテープを土台にして、ダイシングし、半導体チップに個片化する。その後、個片化した、フィルム状接着剤付きの半導体チップは、ダイシングテープ下部よりニードルやスライダー等の治具によりダイシングテープから剥がすピックアップ工程を経て、配線基板表面や半導体素子面に熱圧着される。
配線基板表面や半導体素子表面は必ずしも平滑な面状態ではないため、熱圧着時にフィルム状接着剤と被着体との界面に空気を巻き込むことがある。巻き込まれた空気(ボイド)は熱硬化後の接着力を低下させるだけでなく、放熱性の低下等の原因となりうる。
加えて、フィルム状接着剤には、ピックアップ工程におけるニードルやスライダー等の治具跡がフィルム状接着剤表面に残る場合がある。このような治具痕は、フィルム状接着剤を熱圧着した際にボイドとなり、上述の接着力の低下等の問題の発生の要因となる場合がある。上述の治具痕が残りボイドとなる問題は、フィルム状接着剤の薄膜化(例えば、20μm未満)につれてより顕在化する。
【0008】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、フィルム状接着剤を薄膜としてもピックアップ工程における治具跡がフィルム状接着剤表面に残りにくく、さらに、実装の際にはボイドの形成を抑制しうる、ダイアタッチ性が良好なフィルム状接着剤、及びこれを得るのに好適な接着剤用組成物を提供することを課題とする。さらに本発明は、このフィルム状接着剤を用いた半導体パッケージとその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は上記課題に鑑み鋭意検討を重ねた結果、フィルム状接着剤の原料としてエポキシ樹脂、エポキシ樹脂硬化剤、フェノキシ樹脂、及び無機充填材の組み合わせを採用した上で、このフェノキシ樹脂として一定以上の弾性率を示すものを用い、エポキシ樹脂とフェノキシ樹脂の各含有量の合計に占めるフェノキシ樹脂の含有量を一定以上とし、さらに、硬化前のナノインデンテーション硬さ及びヤング率が一定の値以上となるように制御したフィルム状接着剤とすることにより、上記課題を解決できることを見出した。
本発明はこれらの知見に基づきさらに検討を重ねて完成されるに至ったものである。
【0010】
本発明の上記課題は下記の手段により解決される。
〔1〕
エポキシ樹脂(A)、エポキシ樹脂硬化剤(B)、フェノキシ樹脂(C)及び無機充填材(D)を含有する接着剤用組成物であって、
前記フェノキシ樹脂(C)の25℃における弾性率が500MPa以上であり、
前記エポキシ樹脂(A)と前記フェノキシ樹脂(C)の各含有量の合計に占める前記フェノキシ樹脂(C)の割合が、10~60質量%であり、
前記接着剤用組成物を用いて形成した、硬化前のフィルム状接着剤の25℃におけるナノインデンテーション硬さが0.10MPa以上、ヤング率が100MPa以上である接着剤用組成物。
〔2〕
前記無機充填材(D)の平均粒径(d50)が0.01~5.0μmであり、
前記エポキシ樹脂(A)、前記エポキシ樹脂硬化剤(B)、前記フェノキシ樹脂(C)及び前記無機充填材(D)の各含有量の合計に占める前記無機充填材(D)の割合が、5~70体積%である〔1〕に記載の接着剤用組成物。
〔3〕
前記無機充填材(D)が、モース硬度2以上の無機充填材を含む〔2)に記載の接着剤用組成物。
〔4〕
前記接着剤用組成物を用いて形成した、硬化前のフィルム状接着剤を25℃から5℃/分の昇温速度で昇温したとき、120℃における溶融粘度が100~10000Pa・sの範囲にある〔1〕~〔3〕のいずれか1項に記載の接着剤用組成物。
〔5〕
〔1〕~〔4〕のいずれか1項に記載の接着剤用組成物により得られてなるフィルム状接着剤。
〔6〕
厚みが1~60μmである、〔5〕に記載のフィルム状接着剤。
〔7〕
半導体パッケージの製造方法であって、
表面に少なくとも1つの半導体回路が形成された半導体ウェハの裏面に、〔5〕又は〔6〕に記載のフィルム状接着剤を熱圧着して接着剤層を設け、前記接着剤層を介してダイシングテープを設ける第1の工程と、
前記半導体ウェハと前記接着剤層とを同時にダイシングすることにより、ダイシングテープ上に、前記半導体ウェハ及び前記接着剤層を備える接着剤層付き半導体チップを得る第2の工程と、
前記接着剤層から前記ダイシングテープを取り除き、前記接着剤層付き半導体チップと配線基板とを前記接着剤層を介して熱圧着する第3の工程と、
前記接着剤層を熱硬化する第4の工程と、
を含む半導体パッケージの製造方法。
〔8〕
半導体チップと配線基板、又は、半導体チップ間が、〔5〕又は〔6〕に記載のフィルム状接着剤の熱硬化体により接着されてなる、半導体パッケージ。
【0011】
本発明において「~」を用いて表される数値範囲は、「~」前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
本発明において、(メタ)アクリルとは、アクリル及びメタクリルの一方又は両方を意味する。(メタ)アクリレートについても同様である。
【発明の効果】
【0012】
本発明のフィルム状接着剤は、ピックアップ工程における治具跡がフィルム状接着剤表面に残りにくく、さらに、実装の際にはボイドの形成を抑制しうる、ダイアタッチ性が良好なフィルム状接着剤である。
本発明の接着剤用組成物は、上記フィルム状接着剤を得るのに好適である。
本発明の製造方法によれば、上記フィルム状接着剤を用いて半導体パッケージを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、本発明の半導体パッケージの製造方法の第1の工程の好適な一実施形態を示す概略縦断面図である。
図2図2は、本発明の半導体パッケージの製造方法の第2の工程の好適な一実施形態を示す概略縦断面図である。
図3図3は、本発明の半導体パッケージの製造方法の第3の工程の好適な一実施形態を示す概略縦断面図である。
図4図4は、本発明の半導体パッケージの製造方法のボンディングワイヤーを接続する工程の好適な一実施形態を示す概略縦断面図である。
図5図5は、本発明の半導体パッケージの製造方法の多段積層実施形態例を示す概略縦断面図である。
図6図6は、本発明の半導体パッケージの製造方法の別の多段積層実施形態例を示す概略縦断面図である。
図7図7は、本発明の半導体パッケージの製造方法により製造される半導体パッケージの好適な一実施形態を示す概略縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<<接着剤用組成物及びフィルム状接着剤>>
本発明の接着剤用組成物は、フィルム状接着剤の形成に好適に使用できる。
本発明の接着剤用組成物は、エポキシ樹脂(A)、エポキシ樹脂硬化剤(B)、フェノキシ樹脂(C)及び無機充填材(D)を含有しており、
フェノキシ樹脂(C)の25℃における弾性率が500MPa以上であり、
エポキシ樹脂(A)とフェノキシ樹脂(C)の各含有量の合計に占めるフェノキシ樹脂(C)の割合が、10~60質量%であり、
接着剤用組成物を用いて形成した、硬化前のフィルム状接着剤の25℃における、ナノインデンテーション硬さが0.10MPa以上、ヤング率が100MPa以上である。
本発明において、硬化前のフィルム状接着剤とは、エポキシ樹脂(A)が熱硬化する前の状態にあるものをいう。熱硬化前のフィルム状接着剤とは、具体的には、フィルム状接着剤形成後、25℃以上の温度条件下に曝されていないフィルム状接着剤を意味する。一方、硬化後のフィルム状接着剤とは、エポキシ樹脂(A)が熱硬化した状態にあるものをいう。なお、上記の説明は、本発明の接着剤用組成物の特性を明確にするためのものであり、本発明のフィルム状接着剤が、25℃以上の温度条件下に曝されていないものに限定されるものではない。
また、上記ナノインデンテーション硬さ及びヤング率の測定の際に、実質的に硬化しない程度の温度にさらされることを妨げるものではない。
【0015】
治具痕の形成を抑制しつつ、ダイアタッチ性を高める観点から、硬化前のフィルム状接着剤の25℃におけるナノインデンテーション硬さは0.10MPa以上である。ナノインデンテーション硬さは、0.10~5.00MPaが好ましく、0.20~3.00MPaがより好ましく、1.00~2.50MPaがさらに好ましく、1.40~2.20MPaが特に好ましい。ナノインデンテーション硬さは、ISO14577 (2015版)に準拠して、実施例に記載の方法で測定されるものである。ナノインデンテーション硬さは、各樹脂成分の含有量、フェノキシ樹脂(C)の弾性率、無機充填材の含有量及び種類等を調整することにより制御することができる。
治具痕の形成を抑制しつつ、ダイアタッチ性を高める観点から、硬化前のフィルム状接着剤の25℃におけるヤング率は、100MPa以上である。ヤング率は、100~5000MPaが好ましく、200~3000MPaがより好ましく、1000~2000MPaがより好ましい。ヤング率は、実施例に記載の方法で測定することができる。ヤング率は、各樹脂成分の含有量、フェノキシ樹脂(C)の弾性率、無機充填材の含有量及び種類等を調整することにより制御することができる。
なお、上記ナノインデンテーション硬さ及びヤング率は、硬化前のフィルム状接着剤が厚さ100μmである場合を想定した値であり、後述する実施例のようにして厚さ100μmのフィルム状接着剤を調製してナノインデンテーション硬さ及びヤング率を決定することができる。
【0016】
以下、接着剤用組成物に含まれる各成分について説明する。
【0017】
(エポキシ樹脂(A))
上記エポキシ樹脂(A)は、エポキシ基を持つ熱硬化型の樹脂であり、エポキシ当量は500g/eq以下である。エポキシ樹脂(A)は液体、固体または半固体のいずれであってもよい。本発明において液体とは、軟化点が25℃未満であることをいい、固体とは、軟化点が60℃以上であることをいい、半固体とは、軟化点が上記液体の軟化点と固体の軟化点との間(25℃以上60℃未満)にあることをいう。本発明で使用するエポキシ樹脂(A)としては、好適な温度範囲(例えば60~120℃)で低溶融粘度に到達することができるフィルム状接着剤を得る観点から、軟化点が100℃以下であることが好ましい。なお、本発明において、軟化点とは、軟化点試験(環球式)法(測定条件:JIS-2817に準拠)により測定した値である。
【0018】
本発明で使用するエポキシ樹脂(A)において、硬化体の架橋密度が高くなり、結果として、配合される無機充填材(D)同士の接触確率が高く接触面積が広くなることでより高い熱伝導率が得られるという観点から、エポキシ当量は150~450g/eqであることが好ましい。なお、本発明において、エポキシ当量とは、1グラム当量のエポキシ基を含む樹脂のグラム数(g/eq)をいう。
エポキシ樹脂(A)の質量平均分子量は、通常、10,000未満が好ましく、5,000以下がより好ましい。下限値に特に制限はないが、300以上が実際的である。
質量平均分子量は、GPC(Gel Permeation Chromatography)分析による値である。
【0019】
エポキシ樹脂(A)の骨格としては、フェノールノボラック型、オルソクレゾールノボラック型、クレゾールノボラック型、ジシクロペンタジエン型、ビフェニル型、フルオレンビスフェノール型、トリアジン型、ナフトール型、ナフタレンジオール型、トリフェニルメタン型、テトラフェニル型、ビスフェノールA型、ビスフェノールF型、ビスフェノールAD型、ビスフェノールS型、トリメチロールメタン型等が挙げられる。このうち、樹脂の結晶性が低く、良好な外観を有するフィルム状接着剤を得られるという観点から、トリフェニルメタン型、ビスフェノールA型、クレゾールノボラック型、オルソクレゾールノボラック型が好ましい。
【0020】
エポキシ樹脂(A)の含有量は、本発明の接着剤用組成物のうち、フィルム状接着剤を構成する成分(具体的には、溶媒以外の成分)の総含有量100質量部中、3~70質量部が好ましく、3~30質量部が好ましく、5~30質量部がより好ましい。含有量を上記好ましい範囲内とすることにより、治具痕の形成を抑制しつつ、ダイアタッチ性を高めることができる。また、上記好ましい上限値以下とすることにより、オリゴマー成分の生成を抑え、少しの温度変化ではフィルム状態(フィルムタック性等)の変化を生じにくくすることができる。
【0021】
(エポキシ樹脂硬化剤(B))
上記エポキシ樹脂硬化剤(B)としては、アミン類、酸無水物類、多価フェノール類等の任意の硬化剤を用いることができる。本発明では、低溶融粘度で、かつ、ある温度を超える高温で硬化性を発揮し、速硬化性を有し、さらに、室温での長期保存が可能な保存安定性の高いフィルム状接着剤とする観点から、潜在性硬化剤を用いることが好ましい。
潜在性硬化剤としては、ジシアンジアミド化合物、イミダゾール化合物、硬化触媒複合系多価フェノール化合物、ヒドラジド化合物、三弗化ホウ素-アミン錯体、アミンイミド化合物、ポリアミン塩、およびこれらの変性物やこれらをマイクロカプセル型としたものを挙げることができる。これらは1種を単独で用いても、もしくは2種以上を組み合わせて用いてもよい。より優れた潜在性(室温での安定性に優れ、かつ、加熱により硬化性を発揮する性質)を有し、硬化速度がより速い観点から、イミダゾール化合物を用いることがより好ましい。
【0022】
エポキシ樹脂(A)100質量部に対するエポキシ樹脂硬化剤(B)の含有量は、0.5~100質量部が好ましく、1~80質量部がより好ましく、2~50質量部がさらに好ましく、4~20質量部がさらに好ましい。含有量を上記好ましい下限値以上とすることにより硬化時間をより短くすることができ、他方、上記好ましい上限値以下とすることにより、過剰の硬化剤のフィルム状接着剤中への残留を抑えることができる。結果、残留硬化剤の水分の吸着が抑えられ、半導体装置の信頼性の向上を図ることができる。
【0023】
(フェノキシ樹脂(C))
フェノキシ樹脂(C)は、フィルム状接着剤を形成した際に、常温(25℃)でのフィルムタック性を抑制し、造膜性(フィルム形成性)を付与する成分である。
上記フェノキシ樹脂(C)は、常温(25℃)弾性率が500MPa以上である。上記フェノキシ樹脂(C)の常温(25℃)弾性率は、1000MPa以上が好ましく、1500MPa以上がより好ましい。また、常温(25℃)弾性率の上限は特に限定されないが、2000MPa以下が好ましい。このような弾性率を有するフェノキシ樹脂を用いることにより、治具痕の抑制とダイアタッチ性との両立をより高いレベルで実現することが可能になる。
常温(25℃)弾性率は、後述する実施例に記載の方法により決定することができる。なお、接着剤用組成物が2種以上のフェノキシ樹脂を含有する場合の常温(25℃)弾性率は、後述する実施例に記載の方法における常温弾性率測定用のフェノキシ樹脂フィルムとして、接着剤用組成物を構成する混合比率でフェノキシ樹脂を配合して作製したフィルムを用いて決定することができる。
【0024】
上記フェノキシ樹脂(C)としては、質量平均分子量は、通常、10000以上である。上限値に特に制限はないが、5000000以下が実際的である。
上記フェノキシ樹脂(C)の質量平均分子量は、GPC〔ゲル浸透クロマトグラフィー(Gel Permeation Chromatography)〕によるポリスチレン換算で求める。
【0025】
上記フェノキシ樹脂(C)のガラス転移温度(Tg)は、120℃未満が好ましく、100℃未満がより好ましく、90℃未満がより好ましい。下限は、0℃以上が好ましく、10℃以上がより好ましい。
上記フェノキシ樹脂(C)のガラス転移温度は、昇温速度0.1℃/分でDSCにより測定されたガラス転移温度である。
【0026】
接着剤用組成物は、フェノキシ樹脂(C)として、少なくとも1種のフェノキシ樹脂を含有する。
なお、本発明においてフェノキシ樹脂(C)とは、エポキシ当量(1当量のエポキシ基あたりの樹脂の質量)が500g/eqを越えるものである。つまり、フェノキシ樹脂の構造を有していても、エポキシ当量が500g/eq以下である樹脂はエポキシ樹脂(A)に分類される。
【0027】
フェノキシ樹脂(C)は、ビスフェノールもしくはビフェノール化合物とエピクロルヒドリンのようなエピハロヒドリンとの反応、液状エポキシ樹脂とビスフェノールもしくはビフェノール化合物との反応で得ることができる。
いずれの反応においても、ビスフェノールもしくはビフェノール化合物としては、下記一般式(A)で表される化合物が好ましい。
【0028】
【化1】
【0029】
一般式(A)において、Lは、単結合または2価の連結基を表し、Ra1およびRa2は、各々独立に置換基を表す。maおよびnaは各々独立に、0~4の整数を表す。
【0030】
において、2価の連結基は、アルキレン基、フェニレン基、-O-、-S-、-SO-、-SO-、または、アルキレン基とフェニレン基とが組み合わされた基が好ましい。
アルキレン基は、炭素数が1~10が好ましく、1~6がより好ましく、1~3がさらに好ましく、1または2が特に好ましく、1が最も好ましい。
アルキレン基は、-C(Rα)(Rβ)-が好ましく、ここで、RαおよびRβは各々独立に、水素原子、アルキル基、アリール基を表す。RαとRβが互いに結合して、環を形成してもよい。RαおよびRβは、水素原子またはアルキル基(例えば、メチル、エチル、イソプロピル、n-プロピル、n-ブチル、イソブチル、ヘキシル、オクチル、2-エチルヘキシル)が好ましい。アルキレン基は、なかでも-CH-、-CH(CH)、-C(CH-が好ましく、-CH-、-CH(CH)がより好ましく、-CH-がさらに好ましい。
【0031】
フェニレン基は、炭素数が6~12が好ましく、6~8がより好ましく、6がさらに好ましい。フェニレン基は、例えば、p-フェニレン、m-フェニレン、o-フェニレンが挙げられ、p-フェニレン、m-フェニレンが好ましい。
アルキレン基とフェニレン基が組み合わされた基としては、アルキレン-フェニレン-アルキレン基が好ましく、-C(Rα)(Rβ)-フェニレン-C(Rα)(Rβ)-がより好ましい。
αとRβが結合して形成する環は、5または6員環が好ましく、シクロペンタン環、シクロヘキサン環がより好ましく、シクロヘキサン環がさらに好ましい。
【0032】
は、単結合またはアルキレン基、-O-、-SO-が好ましく、アルキレン基がより好ましい。
【0033】
a1およびRa2は、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アルキルチオ基、ハロゲン原子が好ましく、アルキル基、アリール基、ハロゲン原子がより好ましく、アルキル基がさらに好ましい。
【0034】
maおよびnaは、0~2が好ましく、0または1がより好ましく、0がさらに好ましい。
【0035】
ビスフェノールもしくはビフェノール化合物は、例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールAD、ビスフェノールAP、ビスフェノールAF、ビスフェノールB、ビスフェノールBP、ビスフェノールC、ビスフェノールE、ビスフェノールF、ビスフェノールG、ビスフェノールM、ビスフェノールS、ビスフェノールP、ビスフェノールPH、ビスフェノールTMC、ビスフェノールZや、4,4’-ビフェノール、2,2’-ジメチル-4,4’-ビフェノール、2,2’,6,6’-テトラメチル-4,4’-ビフェノール、カルド骨格型ビスフェノール等が挙げられ、ビスフェノールA、ビスフェノールAD、ビスフェノールC、ビスフェノールE、ビスフェノールF、4,4’-ビフェノールが好ましく、ビスフェノールA、ビスフェノールE、ビスフェノールFがより好ましく、ビスフェノールAが特に好ましい。
【0036】
上記の液状エポキシ樹脂としては、脂肪族ジオール化合物のジグリシジルエーテルが好ましく、下記一般式(B)で表される化合物がより好ましい。
【0037】
【化2】
【0038】
一般式(B)において、Xはアルキレン基を表し、nbは1~10の整数を表す。
【0039】
アルキレン基は、炭素数が2~10が好ましく、2~8がより好ましく、3~8がさらに好ましく、4~6が特に好ましく、6が最も好ましい。
例えば、エチレン、プロピレン、ブチレン、ペンチレン、へキシレン、オクチレンが挙げられ、エチレン、トリメチレン、テトラメチレン、ペンタメチレン、ヘプタメチレン、ヘキサメチレン、オクタメチレンが好ましい。
【0040】
nbは1~6が好ましく、1~3がより好ましく、1がさらに好ましい。
【0041】
ここで、nbが2~10の場合、Xはエチレンまたはプロピレンが好ましく、エチレンがさらに好ましい。
【0042】
ジグリシジルエーテルにおける脂肪族ジオール化合物としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ヘプタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,7-ペンタンジオール、1,8-オクタンジオールが挙げられる。
【0043】
フェノキシ樹脂は、上記反応において、ビスフェノールもしくはビフェノール化合物の1種又は2種以上を用いることができる。また。脂肪族ジオール化合物についても1種又は2種以上を用いることができる。例えば、1,6-ヘキサンジオールのジグリシジルエーテルとビスフェノールAとビスフェノールFの混合物とを反応させて得られたフェノキシ樹脂が挙げられる。
【0044】
フェノキシ樹脂(C)は、本発明では、液状エポキシ樹脂とビスフェノールもしくはビフェノール化合物との反応で得られたフェノキシ樹脂が好ましく、下記一般式(I)で表される繰り返し単位のフェノキシ樹脂がより好ましい。
【0045】
【化3】
【0046】
一般式(I)において、L、Ra1、Ra2、maおよびnaは、一般式(A)におけるL、Ra1、Ra2、maおよびnaと同義であり、好ましい範囲も同じである。Xおよびnbは、一般式(B)におけるXおよびnbと同義であり、好ましい範囲も同じである。
【0047】
本発明では、これらのなかでも、ビスフェノールAと1,6-ヘキサンジオールのジグリシジルエーテルとの重合体が好ましい。
フェノキシ樹脂の骨格に着目すると、本発明では、ビスフェノールA型フェノキシ樹脂、ビスフェノールA・F型共重合型フェノキシ樹脂を好ましく用いることができる。また、低弾性高耐熱型フェノキシ樹脂を好ましく用いることができる。
【0048】
フェノキシ樹脂(C)の質量平均分子量は、10000以上が好ましく、10000~100000がより好ましい。
また、フェノキシ樹脂(C)中に僅かに残存するエポキシ基の量は、エポキシ当量で、5000g/eqを越えることが好ましい。
【0049】
フェノキシ樹脂(C)のガラス転移温度(Tg)は、100℃未満が好ましく、90℃未満がより好ましい。下限は、0℃以上が好ましく、10℃以上がより好ましい。
【0050】
フェノキシ樹脂(C)は、上記のような方法で合成してもよく、また市販品を使用しても構わない。市販品としては、例えば、1256(ビスフェノールA型フェノキシ樹脂、三菱化学(株)製)、YP-50(ビスフェノールA型フェノキシ樹脂、新日化エポキシ製造(株)製)、YP-70(ビスフェノールA/F型フェノキシ樹脂、新日化エポキシ製造(株)製)、FX-316(ビスフェノールF型フェノキシ樹脂、新日化エポキシ製造(株)製)、および、FX-280S(カルド骨格型フェノキシ樹脂、新日化エポキシ製造(株)製)、4250(ビスフェノールA型/F型フェノキシ樹脂、三菱化学(株)製)、FX-310(低弾性高耐熱型フェノキシ樹脂、新日化エポキシ製造(株)製)等が挙げられる。
接着剤用組成物中、エポキシ樹脂(A)とフェノキシ樹脂(C)の各含有量の合計に占めるフェノキシ樹脂(C)の割合は10~60質量%であり、15~50質量%とすることも好ましく、18~45質量%とすることも好ましい。
【0051】
(無機充填材(D))
無機充填材(D)は、通常、接着剤用組成物に使用される無機充填材を特に制限なく用いることができる。
無機充填材(D)としては、例えば、シリカ、クレー、石膏、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、アルミナ(酸化アルミニウム)、酸化ベリリウム、酸化マグネシウム、炭化ケイ素、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、窒化ホウ素等のセラミック類、アルミニウム、銅、銀、金、ニッケル、クロム、鈴、錫、亜鉛、パラジウム、半田等の金属、又は合金類、カーボンナノチューブ、グラフェン等のカーボン類等の種々の無機粉末が挙げられる。
【0052】
無機充填材(D)の平均粒径(d50)は特に限定されないが、治具痕の形成を抑制しつつ、ダイアタッチ性を高める観点から、0.01~6.0μmが好ましく、0.01~5.0μmが好ましく、0.1~3.5μmがより好ましく、0.6~1.0μmがさらに好ましい。平均粒径(d50)とは、いわゆるメジアン径であり、レーザー回折・散乱法により粒度分布を測定し、累積分布において粒子の全体積を100%としたときに50%累積となるときの粒径を意味する。本発明の接着剤用組成物の一態様は、無機充填材(D)に着目した場合、平均粒径(d50)が0.1~3.5μmの無機充填材を含む。また、別の好ましい態様は、平均粒径(d50)が3.5μmを超える無機充填材を含む。
【0053】
無機充填材のモース硬度は特に限定されないが、治具痕の発生を抑制しつつ、ダイアタッチ性を高める観点から、2以上であることが好ましく、2~9であることがより好ましく、8~9であることがさらに好ましい。モース硬度は、モース硬度計により測定することができる。
【0054】
上記無機充填材(D)は、熱伝導性を有する無機充填材とすることもできる。このような無機充填材(D)は、接着剤層に熱伝導性を付与する。本発明の接着剤用組成物は、無機充填材(D)に着目した場合、熱伝導性を有する無機充填材(熱伝導率が12W/m・K以上の無機充填材)を含む態様でもよいし、熱伝導性を有さない無機充填材(熱伝導率が12W/m・K未満の無機充填材)を含む態様でもよい。
熱伝導性を有する無機充填材(D)は、熱伝導性材料からなる粒子または熱伝導性材料で表面被覆されてなる粒子であって、これらの熱伝導性材料の熱伝導率が12W/m・K以上であることが好ましく、30W/m・K以上であることがより好ましい。
上記熱伝導性材料の熱伝導率が上記好ましい下限値以上であると、目的の熱伝導率を得るために配合する無機充填材(D)の量を低減することができ、接着剤層の溶融粘度の上昇が抑制されて、基板に圧着する際に基板の凹凸部への埋め込み性をより向上させることができる。結果、ボイドの発生をより確実に抑制できる。
本発明において、上記熱伝導性材料の熱伝導率は、25℃における熱伝導率を意味し、各材料の文献値を用いることができる。文献に記載がない場合にも、例えば、セラミックスであればJIS R 1611により測定される値、金属であれば、JIS H 7801により測定される値を代用することができる。
【0055】
熱伝導性を有する無機充填材(D)としては、例えば、熱伝導性のセラミックスがあげられ、アルミナ粒子(熱伝導率:36W/m・K)、窒化アルミニウム粒子(熱伝導率:150~290W/m・K)、窒化ホウ素粒子(熱伝導率:60W/m・K)、酸化亜鉛粒子(熱伝導率:54W/m・K)、窒化ケイ素フィラー(熱伝導率:27W/m・K)、炭化ケイ素粒子(熱伝導率:200W/m・K)および酸化マグネシウム粒子(熱伝導率:59W/m・K)が好ましく挙げられる。
特にアルミナ粒子は高熱伝導率を有し、分散性、入手容易性の点で好ましい。また、窒化アルミニウム粒子や窒化ホウ素粒子は、アルミナ粒子よりもさらに高い熱伝導率を有する観点で好ましい。本発明では、なかでもアルミナ粒子と窒化アルミニウム粒子が好ましい。
また、熱伝導性を有する金属で表面被覆された粒子も挙げられる。例えば、銀(熱伝導率:429W/m・K)、ニッケル(熱伝導率:91W/m・K)及び金(熱伝導率:329W/m・K)等の金属で表面被覆された、シリコーン樹脂粒子及びアクリル樹脂粒子等が好ましく挙げられる。
特に、銀で表面被覆されたシリコーン樹脂粒子は、応力緩和性並びに高耐熱性の観点から好ましい。
【0056】
無機充填材(D)は、表面処理や表面改質されていてもよく、このような表面処理や表面改質に用いる表面改質剤としては、シランカップリング剤、リン酸もしくはリン酸化合物及び界面活性剤が挙げられ、本明細書において記載する事項以外は、例えば、国際公開第2018/203527号における熱伝導フィラーの項又は国際公開第2017/158994号の窒化アルミニウム充填材の項における、シランカップリング剤、リン酸もしくはリン酸化合物及び界面活性剤の記載を適用することができる。
【0057】
無機充填材(D)を、エポキシ樹脂(A)、エポキシ樹脂硬化剤(B)及びフェノキシ樹脂(C)等の樹脂成分に配合する方法としては、粉体状の無機充填材と必要に応じてシランカップリング剤、リン酸もしくはリン酸化合物及び界面活性剤等の表面改質剤とを直接配合する方法(インテグラルブレンド法)、もしくはシランカップリング剤、リン酸もしくはリン酸化合物及び界面活性剤等の表面処理剤で処理された無機充填材を有機溶剤に分散させたスラリー状無機充填材を配合する方法を使用することができる。
また、シランカップリング剤により無機充填材(D)を処理する方法としては特に限定されず、溶媒中で無機充填材(D)とシランカップリング剤を混合する湿式法、気相中で無機充填材(D)とシランカップリング剤を混合する乾式法、上記インテグラルブレンド法などが挙げられる。
【0058】
特に、窒化アルミニウム粒子は、高熱伝導化に貢献するものの、加水分解によりアンモニウムイオンを生成しやすいため、吸湿率が小さいフェノール樹脂と併用することや、表面改質により加水分解が抑制されていることが好ましい。窒化アルミニウムの表面改質方法としては、表面層に酸化アルミニウムの酸化物層を設け耐水性を向上させ、リン酸もしくはリン酸化合物による表面処理を行い樹脂との親和性を向上させる方法が特に好ましい。
【0059】
シランカップリング剤は、ケイ素原子にアルコキシ基、アリールオキシ基のような加水分解性基が少なくとも1つ結合したものであり、これに加えて、アルキル基、アルケニル基、アリール基が結合してもよい。アルキル基は、アミノ基、アルコキシ基、エポキシ基、(メタ)アクリロイルオキシ基が置換したものが好ましく、アミノ基(好ましくはフェニルアミノ基)、アルコキシ基(好ましくはグリシジルオキシ基)、(メタ)アクリロイルオキシ基が置換したものがより好ましい。
シランカップリング剤は、例えば、2-(3,4-エポキシシクロへキシル)エチルトリメトキシシラン、3-グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシジルオキシプロピルトリエトキシシラン、3-グリシジルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシジルオキシプロピルメチルジエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロイルオキプロピルメチルジメトキシシラン、3-メタクリロイルオキプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロイルオキプロピルメチルジエトキシシラン、3-メタクリロイルオキプロピルトリエトキシシランなどが挙げられる。
【0060】
表面改質剤は、無機充填材(D)100質量部に対し、0.1~25.0質量部含有させるのが好ましく、0.1~10質量部含有させるのがより好ましく、0.1~2.0質量部含有させるのがさらに好ましい。
表面改質剤の含有量を上記好ましい範囲とすることにより、無機充填材(D)の凝集を抑制しながら、過剰なシランカップリング剤及び界面活性剤の、半導体組立加熱工程(例えばリフロー工程)における揮発による接着界面での剥離を抑制することができ、ボイドの発生が抑えられ、ダイアタッチ性を向上させることができる。
【0061】
無機充填材(D)の形状は、フレーク状、針状、フィラメント状、球状、鱗片状のものが挙げられるが、高充填化及び流動性の観点から球状が好ましい。
【0062】
本発明の接着剤用組成物は、エポキシ樹脂(A)、エポキシ樹脂硬化剤(B)、フェノキシ樹脂(C)および無機充填材(D)の各含有量の合計に占める無機充填材(D)の割合が、5~70体積%であることが好ましい。上記無機充填材(D)の含有割合が上記下限値以上であると、フィルム状接着剤とした際に治具痕の発生を抑制しつつ、ダイアタッチ性を向上させることができる。さらに、所望とする溶融粘度を付与できる場合がある。また、上記上限値以下であると、フィルム状接着剤に所望とする溶融粘度を付与することができ、ボイドの発生を抑制することができる。また、熱変化時に半導体パッケージに生じる内部応力を緩和することもでき、接着力も向上させることができる場合がある。
エポキシ樹脂(A)、エポキシ樹脂硬化剤(B)、フェノキシ樹脂(C)および無機充填材(D)の各含有量の合計に占める無機充填材(D)の割合は、20~70体積%が好ましく、20~60体積%がより好ましく、20~50体積%がさらに好ましい。上記割合は、30~70体積%でもよく、30~50体積%とすることもでき、35~50体積%とすることもできる。
上記無機充填材(D)の含有量(体積%)は、エポキシ樹脂(A)、エポキシ樹脂硬化剤(B)、フェノキシ樹脂(C)および無機充填材(D)の含有質量と比重から算出することができる。
本発明の接着剤用組成物の好ましい形態は、無機充填材(D)の平均粒径(d50)が0.01~5.0μmであり、エポキシ樹脂(A)、エポキシ樹脂硬化剤(B)、フェノキシ樹脂(C)及び無機充填材(D)の各含有量の合計に占める無機充填材(D)の割合が、5~70体積%である形態である。
【0063】
(その他の成分)
本発明の接着剤用組成物は、エポキシ樹脂(A)、エポキシ樹脂硬化剤(B)、フェノキシ樹脂(C)および無機充填材(D)の他に、本発明の効果を損なわない範囲で、これら以外の高分子化合物を含有してもよい。
上記高分子化合物としては、例えば、天然ゴム、ブチルゴム、イソプレンゴム、クロロプレンゴム、シリコーンゴム、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体、ポリブタジエン樹脂、ポリカーボネート樹脂、熱可塑性ポリイミド樹脂、6-ナイロンや6,6-ナイロン等のポリアミド樹脂、(メタ)アクリル樹脂、ポリエチレンテレフタレート及びポリブチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂、ポリアミドイミド樹脂、フッ素樹脂等が挙げられる。これらの高分子化合物は単独で用いてもよく、また2種以上を組み合わせて用いてもよい。
また、本発明の接着剤用組成物は、有機溶媒(メチルエチルケトン等)、イオントラップ剤(イオン捕捉剤)、硬化触媒、粘度調整剤、酸化防止剤、難燃剤、着色剤等をさらに含有していてもよい。例えば、国際公開第2017/158994号のその他の添加物を含むことができる。
【0064】
本発明の接着剤用組成物中に占める、エポキシ樹脂(A)、エポキシ樹脂硬化剤(B)、フェノキシ樹脂(C)および無機充填材(D)の含有量の合計の割合は、例えば、60質量%以上とすることができ、70質量%以上が好ましく、80質量%以上がさらに好ましく、90質量%以上とすることもできる。また、上記割合は100質量%でもよく、95質量%以下とすることもできる。
本発明の接着剤用組成物は、本発明のフィルム状接着剤を得るために好適に用いることができる。ただし、フィルム状接着剤に限定されず、液状の接着剤を得るためにも好適に用いることができる。
【0065】
本発明の接着剤用組成物は、上記各成分を、エポキシ樹脂(A)が事実上、硬化しない温度において混合することにより得ることができる。混合の順は特に限定されない。エポキシ樹脂(A)、フェノキシ樹脂(C)等の樹脂成分を必要に応じて溶媒と共に混合し、その後、無機充填材(D)及びエポキシ樹脂硬化剤(B)を混合してもよい。この場合、エポキシ樹脂硬化剤(B)の存在下での混合を、エポキシ樹脂(A)が事実上、硬化しない温度で行えばよく、エポキシ樹脂硬化剤(B)の非存在下での樹脂成分の混合はより高い温度で行ってもよい。
【0066】
本発明の接着剤用組成物は、エポキシ樹脂(A)の硬化を抑制する観点から、使用前(フィルム状接着剤とする前)には10℃以下の温度条件下で保管されることが好ましい。
【0067】
<<フィルム状接着剤>>
本発明のフィルム状接着剤は、本発明の接着剤用組成物より得られてなるフィルム状の接着剤であって、上述の、エポキシ樹脂(A)、エポキシ樹脂硬化剤(B)、フェノキシ樹脂(C)および無機充填材(D)を含有してなる。その他、本発明の接着剤用組成物においてその他の添加物として記載する添加物のうち、有機溶媒以外の添加物を含有していてもよい。有機溶媒は、通常、乾燥により接着剤用組成物から除去されるが、0.1~1000ppm程度であれば含有されていてもよい。
ここで、フィルムとは、厚み200μm以下の薄膜を意味する。形状、大きさ等は、特に制限されず、使用態様にあわせて適宜調整することができる。
本発明のフィルム状接着剤は、硬化前において上述のナノインデンテーション硬さ及びヤング率を有する。
本発明のフィルム状接着剤は、治具痕の形成が抑制されており、その上、ダイアタッチ性に優れる。その理由は定かではないが、エポキシ樹脂(A)、エポキシ樹脂硬化剤(B)、フェノキシ樹脂(C)及び無機充填材(D)を含有する接着剤用組成物とした上で、フェノキシ樹脂の弾性率及び含有量を特定のものとし、さらに、硬化前のフィルム状接着剤の25℃におけるナノインデンテーション硬さ及びヤング率を特定の範囲のものとしたことにより、ピックアップ時においては十分なフィルム表面硬度を保持して治具痕が残りにくく、実装時においては低溶融粘度となって治具痕や被着体の凹凸をある程度吸収しつつ、被着体との界面に巻き込まれた空気を排出できることに起因すると考えられる。
【0068】
本発明のフィルム状接着剤は、ダイアタッチ性を高める観点から、熱硬化前のフィルム状接着剤を25℃から5℃/分の昇温速度で昇温したとき、120℃における溶融粘度が100~10000Pa・sの範囲にあることが好ましく、200~10000Pa・sの範囲にあることがより好ましく、500~10000Pa・sの範囲にあることがより好ましく、1000~10000Pa・sの範囲にあることがより好ましく、1500~10000Pa・sの範囲にあることがより好ましく、8000~10000Pa・sの範囲にあることがより好ましく、8000~9200Pa・sの範囲にあることがさらに好ましい。120℃における溶融粘度が上記好ましい範囲内であることにより、フィルム状接着剤を設けた半導体チップを配線基板上に熱圧着する際に配線基板凹凸部間におけるボイドの発生を、より効果的に低減することができる。
溶融粘度は、後述する実施例に記載の方法により決定することができる。
溶融粘度は、無機充填材(D)の含有量、さらには、無機充填材(D)の種類に加え、エポキシ樹脂(A)、エポキシ樹脂硬化剤(B)及びフェノキシ樹脂(C)等の共存する化合物もしくは樹脂の種類やこれらの含有量により制御できる。
【0069】
本発明のフィルム状接着剤は、厚みが1~60μmであることが好ましい。厚みは、3~30μmがより好ましく、5~20μmが特に好ましい。フィルム状接着剤を薄膜としても、ピックアップ時の治具痕、及びボイドの発生を抑制できる優れたダイアタッチ性を示すという、本発明の効果をより発揮することができるという観点からは、フィルム状接着剤の厚みは、5~15μmが好ましい。
フィルム状接着剤の厚みは、接触・リニアゲージ方式(卓上型接触式厚み計測装置)により測定することができる。
【0070】
本発明のフィルム状接着剤は、本発明の接着剤用組成物(ワニス)を調製し、この組成物を、離型処理された基材フィルム上に塗布し、必要に応じて乾燥させて形成することができる。接着剤用組成物は、通常は有機溶媒を含有する。
離型処理された基材フィルムとしては、得られるフィルム状接着剤のカバーフィルムとして機能するものであればよく、公知のものを適宜採用することができる。例えば、離型処理されたポリプロピレン(PP)、離型処理されたポリエチレン(PE)、離型処理されたポリエチレンテレフタレート(PET)が挙げられる。
塗工方法としては、公知の方法を適宜採用することができ、例えば、ロールナイフコーター、グラビアコーター、ダイコーター、リバースコーター等を用いた方法が挙げられる。
乾燥は、エポキシ樹脂(A)を硬化せずに、接着剤用組成物から有機溶媒を除去してフィルム状接着剤とできればよい。乾燥温度は、使用するエポキシ樹脂(A)、フェノキシ樹脂(C)及びエポキシ樹脂硬化剤(B)の種類により適宜に設定することができ、例えば、80~150℃の温度で1~20分保持することにより行うことができる。
【0071】
本発明のフィルム状接着剤は、本発明のフィルム状接着剤単独で構成されていてもよく、フィルム状接着剤の少なくとも一方の面に上述の離型処理された基材フィルムが貼り合わされてなる形態であってもよい。また、本発明のフィルム状接着剤は、フィルムを適当な大きさに切り出した形態であってもよく、フィルムをロール状に巻いてなる形態であってもよい。
【0072】
本発明のフィルム状接着剤は、少なくとも一方の表面(すなわち、被着体と貼り合わせる少なくとも一方の面)の算術平均粗さRaが3.0μm以下であることが好ましく、被着体と貼り合わせるいずれの側の表面の算術平均粗さRaも3.0μm以下であることがより好ましい。
上記の算術平均粗さRaは、2.0μm以下であることがより好ましく、1.5μm以下であることがさらに好ましい。下限値は特に制限はないが、0.1μm以上であることが実際的である。
【0073】
本発明のフィルム状接着剤は、エポキシ樹脂(A)の硬化を抑制する観点から、使用前(硬化前)には10℃以下の温度条件下で保管されることが好ましい。
【0074】
<<半導体パッケージおよびその製造方法>>
本発明の半導体パッケージは、半導体チップと配線基板間、及び半導体チップ間の少なくとも一方が、本発明のフィルム状接着剤の熱硬化体で接着されてなる。半道体チップ及び配線基板は、通常のものを使用することができる。接着の条件については、後述の、製造方法の説明において説明する。
本発明の半導体パッケージの製造方法は、半導体チップと配線基板間、及び半導体チップ間の少なくとも一方の接着に、本発明のフィルム状接着剤を用いる以外は、通常の半導体パッケージの製造方法により製造することができる。
以下、図面を参照しながら本発明の半導体パッケージおよびその製造方法の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、以下の説明および図面中、同一または相当する要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。図1図7は、本発明の半導体パッケージの製造方法の各工程の好適な一実施形態を示す概略縦断面図である。図1図7は模式図であり、説明の便宜上、半導体ウェハ等の各部材のサイズや相対的な大小関係等は実際のものと異なる場合がある。
【0075】
本発明の半導体パッケージの製造方法の好適な実施形態においては、先ず、第1の工程として、図1に示すように、表面に少なくとも1つの半導体回路が形成された半導体ウェハ1の裏面(すなわち、半導体ウェハ1の半導体回路が形成されていない面)に、本発明のフィルム状接着剤を熱圧着して接着剤層2を設け、この接着剤を介して、ダイシングテープ3を設ける。この際、接着剤層2とダイシングテープ3とが一体となった製品を半導体ウェハ1の裏面に一度に熱圧着してもよい。熱圧着の条件は、エポキシ樹脂(A)が事実上熱硬化しない温度で行う。例えば、70℃、圧力0.3MPaの条件が挙げられる。
半導体ウェハ1としては、表面に少なくとも1つの半導体回路が形成された半導体ウェハを適宜用いることができ、例えば、シリコンウェハ、SiCウェハ、GaAsウェハ、GaNウェハが挙げられる。
接着剤層2としては、本発明のフィルム状接着剤を1層で単独で用いても2層以上を積層して用いてもよい。このような接着剤層2をウェハ1の裏面に設ける方法としては、フィルム状接着剤を半導体ウェハ1の裏面に積層させることが可能な方法を適宜採用することができ、半導体ウェハ1の裏面にフィルム状接着剤を貼り合せた後、2層以上を積層する場合には所望の厚さとなるまで順次フィルム状接着剤を積層させる方法や、フィルム状接着剤を予め目的の厚さに積層した後に半導体ウェハ1の裏面に貼り合せる方法等を挙げることができる。また、このような接着剤層2を半導体ウェハ1の裏面に設ける際に用いる装置としては特に制限されず、例えば、ロールラミネーター、マニュアルラミネーターのような公知の装置を適宜用いることができる。
ダイシングテープ3としては特に制限されず、適宜公知のダイシングテープを用いることができる。
【0076】
次いで、第2の工程として、図2に示すように、半導体ウェハ1と接着剤層2とを同時にダイシングすることにより、ダイシングテープ3上に、半導体ウェハ1(半導体チップ4)と接着剤層2とを備える接着剤層付き半導体チップ5を得る。ダイシングに用いる装置は特に制限されず、適宜公知のダイシング装置を用いることができる。
【0077】
次いで、第3の工程として、図3に示すように、接着剤層2からダイシングテープ3を取り除き、接着剤層付き半導体チップ5と配線基板6とを接着剤層2を介して熱圧着する。このようにして、配線基板6に接着剤層付き半導体チップ5を実装する。配線基板6としては、表面に半導体回路が形成された基板を適宜用いることができ、例えば、プリント回路基板(PCB)、各種リードフレーム、および、基板表面に抵抗素子やコンデンサー等の電子部品が搭載された基板が挙げられる。
接着剤層からダイシングテープ3を取り除く(はがす)方法(接着剤層付半導体チップのピックアップ方法)としては、通常の治具を用いたピックアップ方法を採用でき、具体的には、ニードルやスライダー等の治具によりダイシングテープ3から剥がす方法が挙げられる。本発明の製造方法によれば、この工程において、フィルム状接着剤表面に治具痕が生じにくい。
配線基板6に接着剤層付き半導体チップ5を実装する方法としては特に制限されず、接着剤層2を利用して接着剤層付き半導体チップ5を配線基板6または配線基板6の表面上に搭載された電子部品に接着させることが可能な従来の方法を適宜採用することができる。このような実装方法としては、上部からの加熱機能を有するフリップチップボンダーを用いた実装技術を用いる方法、下部からのみの加熱機能を有するダイボンダーを用いる方法、ラミネーターを用いる方法等の従来公知の加熱、加圧方法を挙げることができる。実装(熱圧着)の条件は、エポキシ樹脂(A)が事実上熱硬化しない条件で行う。例えば、120℃、圧力0.1MPa、1.0秒の条件が挙げられる。
このように、本発明のフィルム状接着剤からなる接着剤層2を介して接着剤層付き半導体チップ5を配線基板6上に実装することで、電子部品により生じる配線基板5上の凹凸部にフィルム状接着剤を追従させることができるため、半導体チップ4と配線基板6とを密着させて固定することが可能となる。
本発明の製造方法によれば、この工程において、フィルム状接着剤からなる接着剤層と配線基板との界面にボイドが生じにくく、高い信頼性で実装を行うことができる。
【0078】
次いで、第4の工程として、接着剤層2(本発明のフィルム状接着剤)を熱硬化させて熱硬化体とする。熱硬化の温度としては、本発明のフィルム状接着剤の熱硬化開始温度以上であれば特に制限がなく、使用するエポキシ樹脂(A)、フェノキシ樹脂(C)及びエポキシ樹脂硬化剤(B)の種類により異なるものであり、一概に言えるものではないが、例えば、100~180℃が好ましく、より高温にて硬化した方が短時間で硬化可能であるという観点から、140~180℃がより好ましい。温度が熱硬化開始温度未満であると、熱硬化が十分に進まず、接着層2の強度が低下する傾向にあり、他方、上記上限を超えると硬化過程中にフィルム状接着剤中のエポキシ樹脂、硬化剤や添加剤等が揮発して発泡しやすくなる傾向にある。また、硬化処理の時間は、例えば、10~120分間が好ましい。
【0079】
次いで、本発明の半導体パッケージの製造方法では、図4に示すように、配線基板6と接着剤層付き半導体チップ5とをボンディングワイヤー7を介して接続することが好ましい。このような接続方法としては特に制限されず、従来公知の方法、例えば、ワイヤーボンディング方式の方法、TAB(Tape Automated Bonding)方式の方法等を適宜採用することができる。
【0080】
また、搭載された半導体チップ4の表面に、別の半導体チップ4を熱圧着、熱硬化し、再度ワイヤーボンディング方式により配線基板6と接続することにより、複数個積層することもできる。例えば、図5に示すように半導体チップをずらして積層する方法、もしくは図6に示すように2層目以降の接着剤層2を厚くすることで、ボンディングワイヤー7を埋め込みながら積層する方法等がある。
【0081】
本発明の半導体パッケージの製造方法では、図7に示すように、封止樹脂8により配線基板6と接着剤層付き半導体チップ5とを封止することが好ましく、このようにして半導体パッケージ9を得ることができる。封止樹脂8としては特に制限されず、半導体パッケージの製造に用いることができる適宜公知の封止樹脂を用いることができる。また、封止樹脂8による封止方法としても特に制限されず、適宜公知の方法を採用することが可能である。
【0082】
本発明の半導体パッケージの製造方法によって、薄型フィルムの形態であっても、ピックアップ工程における治具痕の形成を抑制でき、しかも、ダイアタッチ工程においてボイドの発生を抑制できる。
【実施例
【0083】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。また、室温とは25℃を意味し、MEKはメチルエチルケトン、PETはポリエチレンテレフタレートである。
【0084】
(実施例1)
トリフェニルメタン型エポキシ樹脂(商品名:EPPN-501H、質量平均分子量:1000、軟化点:55℃、半固体、エポキシ当量:167g/eq、日本化薬(株)製)56質量部、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(商品名:YD-128、質量平均分子量:400、軟化点:25℃以下、液体、エポキシ当量:190g/eq、新日化エポキシ製造(株)製)49質量部、ビスフェノールA型フェノキシ樹脂(商品名:YP-50、質量平均分子量:70000、Tg:84℃、常温(25℃)弾性率:1700MPa、新日化エポキシ製造(株)製)30質量部及びMEK67質量部を1000mlのセパラブルフラスコ中において温度110℃で2時間加熱攪拌し、樹脂ワニスを得た。
次いで、この樹脂ワニスを800mlのプラネタリーミキサーに移し、アルミナフィラー(商品名:AO-502、(株)アドマテックス製、平均粒径(d50):0.6μm、モース硬度:9Mohs、熱伝導率:36W/m・K)55質量部を添加して、イミダゾール型硬化剤(商品名:2PHZ-PW、四国化成(株)製)8.5質量部、シランカップリング剤(商品名:サイラエースS-510、JNC株式会社製)3.0質量部を加えて室温において1時間攪拌混合後、真空脱泡して混合ワニスを得た。
次いで、得られた混合ワニスを厚み38μmの離型処理されたPETフィルム(剥離フィルム)上に塗布して、130℃で10分間加熱乾燥し、縦300mm、横200mm、厚みが10μmである、剥離フィルム付フィルム状接着剤を得た。得られたこのフィルム状接着剤は、10℃以下で保存した。上記乾燥後に、エポキシ樹脂は硬化していない。
【0085】
(実施例2)
アルミナフィラー(商品名:AO-502、(株)アドマテックス製、平均粒径(d50):0.6μm、モース硬度:9Mohs、熱伝導率:36W/m・K)の使用量を320質量部としたこと以外は実施例1と同様にして剥離フィルム付フィルム状接着剤を作製した。
【0086】
(実施例3)
アルミナフィラー(商品名:AO-502、(株)アドマテックス製、平均粒径(d50):0.6μm、モース硬度:9Mohs、熱伝導率:36W/m・K)の使用量を480質量部としたこと以外は実施例1と同様にして剥離フィルム付フィルム状接着剤を作製した。
【0087】
(実施例4)
フェノキシ樹脂をビスフェノールA・F共重合型フェノキシ樹脂(商品名:YP-70、質量平均分子量:55000、Tg:72℃、常温弾性率1400MPa、新日化エポキシ製造(株)製)に代えたこと以外は実施例2と同様にして剥離フィルム付きフィルム状接着剤を作製した。
【0088】
(実施例5)
フェノキシ樹脂を低弾性高耐熱型フェノキシ樹脂(商品名:FX-310、質量平均分子量:40000、Tg:110℃、常温弾性率500MPa、新日化エポキシ製造(株)製)に代えたこと以外は実施例2と同様にして剥離フィルム付フィルム状接着剤を作製した。
【0089】
(実施例6)
ビスフェノールA型フェノキシ樹脂(商品名:YP-50、質量平均分子量:70000、Tg:84℃、常温弾性率1700MPa、新日化エポキシ製造(株)製)の使用量を44質量部とし、アルミナフィラー(商品名:AO-502、(株)アドマテックス製、平均粒径(d50):0.6μm、モース硬度:9Mohs、熱伝導率:36W/m・K)の使用量を350質量部としたこと以外は実施例1と同様にして剥離フィルム付フィルム状接着剤を作製した。
【0090】
(実施例7)
ビスフェノールA型フェノキシ樹脂(商品名:YP-50、質量平均分子量:70000、Tg:84℃、常温弾性率1700MPa、新日化エポキシ製造(株)製)の使用量を70質量部とし、アルミナフィラー(商品名:AO-502、(株)アドマテックス製、平均粒径(d50):0.6μm、モース硬度:9Mohs、熱伝導率:36W/m・K)の使用量を400質量部としたこと以外は実施例1と同様にして剥離フィルム付フィルム状接着剤を作製した。
【0091】
(実施例8)
ビスフェノールA型フェノキシ樹脂(商品名:YP-50、質量平均分子量:70000、Tg:84℃、常温弾性率1700MPa、新日化エポキシ製造(株)製)の使用量を50質量部とし、無機充填材を銀フィラー(商品名:AG-4-8F、(株)DOWAエレクトロニクス製、平均粒径(d50):2.0μm、モース硬度:2Mohs、熱伝導率:429W/m・K)360質量部に代えたこと以外は実施例1と同様にして剥離フィルム付フィルム状接着剤を作製した。
【0092】
(実施例9)
ビスフェノールA型フェノキシ樹脂(商品名:YP-50、質量平均分子量:70000、Tg:84℃、常温弾性率1700MPa、新日化エポキシ製造(株)製)の使用量を50質量部とし、無機充填材を銀フィラー(商品名:AG-4-8F、(株)DOWAエレクトロニクス製、平均粒径(d50):2.0μm、モース硬度:2Mohs、熱伝導率:429W/m・K)610質量部に代えたこと以外は実施例1と同様にして剥離フィルム付フィルム状接着剤を作製した。
【0093】
(実施例10)
ビスフェノールA型フェノキシ樹脂(商品名:YP-50、質量平均分子量:70000、Tg:84℃、常温弾性率1700MPa、新日化エポキシ製造(株)製)の使用量を50質量部とし、無機充填材を銀フィラー(商品名:AG-4-8F、(株)DOWAエレクトロニクス製、平均粒径(d50):2.0μm、モース硬度:2Mohs、熱伝導率:429W/m・K)950質量部に代えたこと以外は実施例1と同様にして剥離フィルム付フィルム状接着剤を作製した。
【0094】
(実施例11)
無機充填材をシリカフィラー(商品名:SO-25R、(株)製、平均粒径(d50):0.5μm、モース硬度:7Mohs、熱伝導率:1W/m・K)14質量部に代えたこと以外は実施例1と同様にして剥離フィルム付フィルム状接着剤を作製した。
【0095】
(実施例12)
無機充填材をシリカフィラー(商品名:SO-25R、(株)製、平均粒径(d50):0.5μm、モース硬度:7Mohs、熱伝導率:1W/m・K)67質量部に代えたこと以外は実施例1と同様にして剥離フィルム付フィルム状接着剤を作製した。
【0096】
(実施例13)
無機充填材をナノシリカフィラー(商品名:RY-200、日本アエロジル(株)製、平均粒径(d50):12nm、モース硬度:7Mohs、熱伝導率:1W/m・K)14質量部に代えたこと以外は実施例1と同様にして剥離フィルム付フィルム状接着剤を作製した。
【0097】
(実施例14)
無機充填材をナノシリカフィラー(商品名:RY-200、日本アエロジル(株)製、平均粒径(d50):12nm、モース硬度:7Mohs、熱伝導率:1W/m・K)67質量部に代えたこと以外は実施例1と同様にして剥離フィルム付フィルム状接着剤を作製した。
【0098】
(実施例15)
ビスフェノールA型フェノキシ樹脂(商品名:YP-50、質量平均分子量:70000、Tg:84℃、常温弾性率1700MPa、新日化エポキシ製造(株)製)の使用量を15質量部としたこと以外は実施例1と同様にしてフィルム状接着剤を作製した。
【0099】
(実施例16)
ビスフェノールA型フェノキシ樹脂(商品名:YP-50、質量平均分子量:70000、Tg:84℃、常温弾性率1700MPa、新日化エポキシ製造(株)製)の使用量を130質量部としたこと以外は実施例1と同様にしてフィルム状接着剤を作製した。
【0100】
(実施例17)
無機充填材を10.0μmメッシュフィルターを用いて粒度分布を調整したシリカフィラー(商品名:FB-7SDS、(株)DENKA、平均粒径(d50):5.4μm、モース硬度:7Mohs、熱伝導率:1W/m・K)30質量部に代えたこと以外は実施例1と同様にしてフィルム状接着剤を作製した。
【0101】
(比較例1)
ビスフェノールA型フェノキシ樹脂(商品名:YP-50、質量平均分子量:70000、Tg:84℃、常温弾性率1700MPa、新日化エポキシ製造(株)製)の使用量を10質量部とし、アルミナフィラー(商品名:AO-502、(株)アドマテックス製、平均粒径(d50):0.6μm、モース硬度:9Mohs、熱伝導率:36W/m・K)の使用量を275質量部としたこと以外は実施例1と同様にして剥離フィルム付フィルム状接着剤を作製した。
【0102】
(比較例2)
ビスフェノールA型フェノキシ樹脂(商品名:YP-50、質量平均分子量:70000、Tg:84℃、常温弾性率1700MPa、新日化エポキシ製造(株)製)の使用量を190質量部とし、アルミナフィラー(商品名:AO-502、(株)アドマテックス製、平均粒径(d50):0.6μm、モース硬度:9Mohs、熱伝導率:36W/m・K)の使用量を670質量部としたこと以外は実施例1と同様にして剥離フィルム付フィルム状接着剤を作製した。
【0103】
(比較例3)
フェノキシ樹脂をビスフェノールF+1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル型フェノキシ樹脂(商品名:YX-7180、質量平均分子量:50000、Tg:15℃、常温弾性率200MPa、三菱ケミカル(株)製)10質量部に代え、アルミナフィラー(商品名:AO-502、(株)アドマテックス製、平均粒径(d50):0.6μm、モース硬度:9Mohs、熱伝導率:36W/m・K)の使用量を275質量部としたこと以外は実施例1と同様にして剥離フィルム付フィルム状接着剤を作製した。
【0104】
(比較例4)
フェノキシ樹脂をビスフェノールF+1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル型フェノキシ樹脂(商品名:YX-7180、質量平均分子量:50000、Tg:15℃、常温弾性率200MPa、三菱ケミカル(株)製)190質量部に代え、アルミナフィラー(商品名:AO-502、(株)アドマテックス製、平均粒径(d50):0.6μm、モース硬度:9Mohs、熱伝導率:36W/m・K)の使用量を670質量部としたこと以外は実施例1と同様にして剥離フィルム付フィルム状接着剤を作製した。
【0105】
(比較例5)
フェノキシ樹脂をビスフェノールF+1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル型フェノキシ樹脂(商品名:YX-7180、質量平均分子量:50000、Tg:15℃、常温弾性率200MPa、三菱ケミカル(株)製)30質量部に代えたこと以外は実施例1と同様にしてフィルム状接着剤を作製した。
【0106】
(比較例6)
フェノキシ樹脂をアクリルポリマー溶液(商品名:S-2060、固形分25%(有機溶媒:トルエン)、東亜合成(株)製)40質量部(うちアクリルポリマー10質量部)に代え、アルミナフィラー(商品名:AO-502、(株)アドマテックス製、平均粒径(d50):0.6μm、モース硬度:9Mohs、熱伝導率:36W/m・K)の使用量を275質量部としたこと以外は実施例1と同様にして剥離フィルム付フィルム状接着剤を作製した。
【0107】
(比較例7)
フェノキシ樹脂をアクリルポリマー溶液(商品名:S-2060、固形分25%(有機溶媒:トルエン)、東亜合成(株)製)760質量部(うちアクリルポリマー190質量部)に代え、アルミナフィラー(商品名:AO-502、(株)アドマテックス製、平均粒径(d50):0.6μm、モース硬度:9Mohs、熱伝導率:36W/m・K)の使用量を670質量部としたこと以外は実施例1と同様にして剥離フィルム付フィルム状接着剤を作製した。
【0108】
(比較例8)
フェノキシ樹脂をアクリルポリマー溶液(商品名:S-2060、固形分25%(有機溶媒:トルエン)、東亜合成(株)製)1600質量部(うちアクリルポリマー400質量部)に代えたこと以外は実施例1と同様にしてフィルム状接着剤を作製した。
【0109】
(比較例9)
フェノキシ樹脂をアクリルポリマー溶液(商品名:S-2060、固形分25%(有機溶媒:トルエン)、東亜合成(株)製)120質量部(うちアクリルポリマー30質量部)に代えたこと以外は実施例1と同様にしてフィルム状接着剤を作製した。
【0110】
(比較例10)
エポキシ樹脂をトリフェニルメタン型エポキシ樹脂(商品名:EPPN-501H、質量平均分子量:1000、軟化点:55℃、半固体、エポキシ当量:167g/eq、日本化薬(株)製)50質量部とし、ビスフェノールA型フェノキシ樹脂(商品名:YP-50、質量平均分子量:70000、Tg:84℃、常温弾性率1700MPa、新日化エポキシ製造(株)製)の使用量を100質量部とし、アルミナフィラー(商品名:AO-502、(株)アドマテックス製、平均粒径(d50):0.6μm、モース硬度:9Mohs、熱伝導率:36W/m・K)の使用量を450質量部とし、シランカップリング剤(商品名:サイラエースS-510、JNC株式会社製)の使用量を7.0質量部としたこと以外は実施例1と同様にして剥離フィルム付フィルム状接着剤を作製した。
【0111】
(比較例11)
無機充填材をシリコーンフィラー(商品名:MSP-SN05、日興リカ(株)製、平均粒径(d50):0.5μm、モース硬度:1Mohs以下、熱伝導率:0.2W/m・K)8質量部としたこと以外は実施例1と同様にして剥離フィルム付フィルム状接着剤を作製した。
【0112】
(比較例12)
無機充填材をシリコーンフィラー(商品名:MSP-SN05、日興リカ(株)製、平均粒径(d50):0.5μm、モース硬度:1Mohs以下、熱伝導率:0.2W/m・K)95質量部としたこと以外は実施例1と同様にして剥離フィルム付フィルム状接着剤を作製した。
【0113】
(比較例13)
無機充填材をシリコーンフィラー(商品名:MSP-SN05、日興リカ(株)製、平均粒径(d50):0.5μm、モース硬度:1Mohs以下、熱伝導率:0.2W/m・K)220質量部としたこと以外は実施例1と同様にして剥離フィルム付フィルム状接着剤を作製した。
【0114】
(比較例14)
無機充填材を使用しないこと以外は実施例1と同様にしてフィルム状接着剤を作製した。
【0115】
各実施例及び比較例で用いたフェノキシ樹脂及びアクリル樹脂の25℃における弾性率は、以下のようにして測定した。
<常温(25℃)弾性率>
各種フェノキシ樹脂30質量部及びMEK(メチルエチルケトン)70質量部を500mlのセパラブルフラスコ中において、温度110℃で2時間加熱攪拌し、樹脂ワニスを得た。
次いで、この樹脂ワニスを厚み38μmの離型処理されたPETフィルム(剥離フィルム)上に塗布して、130℃で10分間加熱乾燥し、縦300mm、横200mm、厚みが100μmである、フェノキシ樹脂フィルムを得た。
このフェノキシ樹脂フィルムを5mm×17mmのサイズに切り取り、動的粘弾性測定装置(商品名:Rheogel-E4000F、(株)ユービーエム製)を用いて、測定温度範囲0~100℃、昇温速度5℃/分、及び周波数1Hzの条件下で測定を行い、25℃における弾性率の値を求めた。
アクリル樹脂についても、フェノキシ樹脂と同様に、上記方法に従って25℃における弾性率を求めた。
【0116】
各実施例及び比較例で用いた無機充填材の平均粒径(d50)は、以下のようにして測定した。
<平均粒径(d50)の測定>
上記で用いた各無機充填材0.1gとMEK9.9gを秤量し、これらの混合物に超音波分散処理を5分行い、測定用試料を調製した。この測定用試料について、レーザー回折・散乱法(型式:LMS-2000e、(株)セイシン企業製)により測定した粒度分布の粒径の体積分率の累積カーブから、平均粒径(d50)を求めた。
【0117】
各実施例及び比較例において、ヤング率及びナノインデンテーション硬さ測定、溶融粘度測定、ニードル痕評価、並びにダイアタッチ性評価はそれぞれ以下に示す方法により実施した。その結果を表1、2に示す。
【0118】
<ヤング率及びナノインデンテーション硬さ測定>
各実施例及び比較例において得られた剥離フィルム付フィルム状接着剤から縦5.0cm×横5.0cmのサイズの正方形を切り取り、剥離フィルムを剥離した状態で切り取った試料を積層し、70℃のステージ上で、ハンドローラーにて貼り合わせて、厚さが約100μmである試験片を得た。この試験片から縦1.0cm×横1.0cmのサイズの正方形を切り取り、超微小押し込み硬さ試験機(ENT-NEXUS 、ELIONIX製)にて、室温(25℃)にて、最大荷重10μN、負荷時間80秒、待機時間17秒、除荷時間80秒にて三角錘型ダイヤモンド圧子(Berkovichタイプ;115°)をフィルム状接着剤表面から押し込み、測定を実施した。各試料のポアソン比より、ヤング率とナノインデンテーション硬さを求めた。なお、試験片の作製時に貼り合わせを70℃で行っているが、70℃に上記の短時間晒されても、エポキシ樹脂の硬化反応は実質的に生じない。したがって、上記の測定結果は、25℃以上の温度に晒されていないフィルム状接着剤を用いた結果と実質的に同じである。
【0119】
<溶融粘度の測定>
各実施例及び比較例において得られた剥離フィルム付フィルム状接着剤から縦5.0cm×横5.0cmのサイズの正方形を切り取り、剥離フィルムを剥離した状態で切り取った試料を積層し、70℃のステージ上で、ハンドローラーにて貼り合わせて、厚さが約1.0mmである試験片を得た。この試験片について、レオメーター(RS6000、Haake社製)を用い、温度範囲20~250℃、昇温速度5℃/分での粘性抵抗の変化を測定した。得られた温度-粘性抵抗曲線から、120℃における溶融粘度(Pa・s)をそれぞれ算出した。
【0120】
<ニードル痕評価>
各実施例及び比較例において得られた剥離フィルム付フィルム状接着剤を、先ず、マニュアルラミネーター(商品名:FM-114、テクノビジョン社製)を用いて温度70℃、圧力0.3MPaにおいてダミーシリコンウェハ(8inchサイズ、厚さ100μm)の一方の面に接着させた。その後、フィルム状接着剤から剥離フィルムを剥離した後、同マニュアルラミネーターを用いて室温、圧力0.3MPaにおいてフィルム状接着剤の前記ダミーシリコンウェハとは反対側の面上にダイシングテープ(商品名:K-13、古河電気工業(株)製)及びダイシングフレーム(商品名:DTF2-8-1H001、DISCO社製)を接着させた。次いで、2軸のダイシングブレード(Z1:NBC-ZH2050(27HEDD)、DISCO社製/Z2:NBC-ZH127F-SE(BC)、DISCO社製)が設置されたダイシング装置(商品名:DFD-6340、DISCO社製)を用いて5mm×5mmのサイズになるようにダミーシリコンウェハ側からダイシングを実施して、フィルム状接着剤付ダミーチップを得た。
次いで、ダイボンダー(商品名:DB-800、(株)日立ハイテクノロジーズ製)にて、前記フィルム状接着剤付ダミーチップをダイシングテープから下記条件にてピックアップし、ピックアップ後のフィルム状接着剤上のニードル痕状態を観察し、下記評価によってニードル痕評価を行った。本試験において、評価ランク「AA」及び「A」が合格レベルである。
ピックアップ条件
ニードル本数4本、ニードルR150(μm)、ニードルピッチ3.5mm、突き上げ速度5mm/秒、突き上げ高さ200μm、ピックアップ時間100m秒
評価基準
AA:ピックアップした半導体チップ24個のすべてにおいて、フィルム状接着剤表面にニードル痕が観察されない。
A:ピックアップした半導体チップ24個のうち1~3個においてフィルム状接着剤表面にニードル痕が観察され、かつ、当該ニードル痕が観察されたフィルム状接着剤表面におけるニードル痕の数が1~3である。
B:ピックアップした半導体チップ24個のうち1~3個においてフィルム状接着剤表面にニードル痕が観察され、かつ、当該ニードル痕が観察されたフィルム状接着剤表面におけるニードル痕の数が4である。
C:ピックアップした半導体チップ24個のうち4個以上においてフィルム状接着剤表面にニードル痕が観察される。
【0121】
<ダイアタッチ性評価>
各実施例及び比較例において得られた剥離フィルム付フィルム状接着剤を、先ず、マニュアルラミネーター(商品名:FM-114、テクノビジョン社製)を用いて温度70℃、圧力0.3MPaにおいてダミーシリコンウェハ(8inchサイズ、厚さ100μm)の一方の面に接着させた。その後、フィルム状接着剤から剥離フィルムを剥離した後、同マニュアルラミネーターを用いて室温、圧力0.3MPaにおいてフィルム状接着剤の前記ダミーシリコンウェハとは反対側の面上にダイシングテープ(商品名:K-13、古河電気工業(株)製)及びダイシングフレーム(商品名:DTF2-8-1H001、DISCO社製)を接着させた。次いで、2軸のダイシングブレード(Z1:NBC-ZH2050(27HEDD)、DISCO社製/Z2:NBC-ZH127F-SE(BC)、DISCO社製)が設置されたダイシング装置(商品名:DFD-6340、DISCO社製)を用いて10mm×10mmのサイズになるようにダミーシリコンウェハ側からダイシングを実施して、フィルム状接着剤付ダミーチップを得た。
次いで、ダイボンダー(商品名:DB-800、(株)日立ハイテクノロジーズ製)にて、前記フィルム状接着剤付ダミーチップをダイシングテープからピックアップし、120℃、圧力0.1MPa(荷重400gf)、時間1.0秒の条件において、前記フィルム状接着剤付きダミーチップのフィルム状接着剤側と、リードフレーム基板(42Alloy系、凸版印刷(株)製)の実装面側とを貼り合わせるように、熱圧着した。ここで、上記リードフレーム基板の実装面は、僅かな表面粗さを持つ金属面である。
基板上に熱圧着したフィルム状接着剤付きダミーチップについて、超音波探傷装置(SAT)(日立パワーソリューションズ製 FS300III)を用いて、フィルム状接着剤とリードフレーム基板実装面との界面におけるボイドの有無を観察し、下記評価基準に基づいて、ダイアタッチ性評価を行った。本試験において、評価ランク「A」が合格レベルである。
評価基準
A:実装した24個のダミーチップの全てにおいてボイドが観察されない。
B:実装した24個のダミーチップのうち1個以上3個以下のダミーチップにおいてボイドが観察される。
C:実装した24個のダミーチップのうち4個以上のダミーチップにおいてボイドが観察される。
【0122】
【表1】
【0123】
【表2】
【0124】
<表の注>
接着剤層の欄における「-」は、その成分を含有していないことを意味する。
*:比較例5~9においては、アクリル樹脂量/(エポキシ樹脂量+アクリル樹脂量)を示す。
BisA型エポキシ樹脂:ビスフェノールA型エポキシ樹脂
BisA型フェノキシ樹脂:ビスフェノールA型フェノキシ樹脂
BisA/BisF共重合型フェノキシ樹脂:ビスフェノールA・F共重合型フェノキシ樹脂
フェノキシ樹脂の欄における「弾性率」は、「常温(25℃)弾性率」を意味する。
【0125】
上記表1及び2から、以下のことがわかる。
本発明で規定する組成、フェノキシ樹脂の割合、ヤング率及びナノインデンテーション硬さのいずれかを満たさない接着剤用組成物を用いて得られたフィルム状接着剤は、いずれも、ニードル痕評価及びダイアタッチ性評価のいずれかが不合格であり、治具痕の抑制及びダイアタッチ性の向上を達成することができていない。
これに対して、本発明の実施例1~17の接着剤用組成物を用いて得られたフィルム状接着剤は、治具痕が残りにくく、ダイアタッチ性にも優れていた。
【0126】
本発明をその実施態様とともに説明したが、我々は特に指定しない限り我々の発明を説明のどの細部においても限定しようとするものではなく、添付の請求の範囲に示した発明の精神と範囲に反することなく幅広く解釈されるべきであると考える。
【0127】
本願は、2020年7月30日に日本国で特許出願された特願2020-129493に基づく優先権を主張するものであり、これはここに参照してその内容を本明細書の記載の一部として取り込む。
【符号の説明】
【0128】
1 半導体ウェハ
2 接着剤層(フィルム状接着剤)
3 ダイシングテープ
4 半導体チップ
5 フィルム状接着剤付き半導体チップ
6 配線基板
7 ボンディングワイヤー
8 封止樹脂
9 半導体パッケージ

【要約】
エポキシ樹脂(A)、エポキシ樹脂硬化剤(B)、フェノキシ樹脂(C)及び無機充填材(D)を含有する接着剤用組成物であって、前記フェノキシ樹脂(C)の25℃における弾性率が500MPa以上であり、前記エポキシ樹脂(A)と前記フェノキシ樹脂(C)の各含有量の合計に占める前記フェノキシ樹脂(C)の割合が、10~60質量%であり、前記接着剤用組成物を用いて形成した、硬化前のフィルム状接着剤の25℃におけるナノインデンテーション硬さが0.10MPa以上、ヤング率が100MPa以上である接着剤用組成物、これを用いたフィルム状接着剤、このフィルム状接着剤を用いた半道体パッケージとその製造方法。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7