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特許70431192-シアノエチル基含有重合体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-18
(45)【発行日】2022-03-29
(54)【発明の名称】2-シアノエチル基含有重合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08F 8/30 20060101AFI20220322BHJP
   C08F 16/06 20060101ALI20220322BHJP
【FI】
C08F8/30
C08F16/06
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020532644
(86)(22)【出願日】2019-07-15
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-02-18
(86)【国際出願番号】 KR2019008719
(87)【国際公開番号】W WO2020022681
(87)【国際公開日】2020-01-30
【審査請求日】2020-06-12
(31)【優先権主張番号】10-2018-0085442
(32)【優先日】2018-07-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2019-0084310
(32)【優先日】2019-07-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】500239823
【氏名又は名称】エルジー・ケム・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100122161
【弁理士】
【氏名又は名称】渡部 崇
(72)【発明者】
【氏名】ヨン・マン・イ
(72)【発明者】
【氏名】ユンテ・ファン
(72)【発明者】
【氏名】ドン・フン・パク
(72)【発明者】
【氏名】ジン・ヨン・リュ
【審査官】中川 裕文
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第03432512(US,A)
【文献】特開平09-225284(JP,A)
【文献】特開平09-227172(JP,A)
【文献】特開平09-228291(JP,A)
【文献】特開平02-252791(JP,A)
【文献】特開昭60-197704(JP,A)
【文献】特開昭63-023903(JP,A)
【文献】英国特許出願公開第02199834(GB,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 6/00-246/00
C08B 1/00- 37/18
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリロニトリルおよび水酸基含有化合物を反応させて、2-シアノエチル基含有重合体を含む粗生成物を形成する段階;および
前記粗生成物を有機溶媒を含む抽出溶媒で抽出して精製された2-シアノエチル基含有重合体を形成する段階を含み、
前記有機溶媒は、前記2-シアノエチル基含有重合体に対するハンセン溶解度パラメータ距離が6.8以上であり、
前記有機溶媒は、アセトンに対するハンセン溶解度パラメータ距離が13.0以下であ
前記抽出段階は2回~5回で行われ、前記有機溶媒を単独で含む抽出溶媒で抽出する段階;および水で抽出する段階を含み、
前記有機溶媒は、イソプロピルアルコール、n-ブタノール、エタノール、トルエンおよびメチルイソブチルケトンからなる群より選択される、2-シアノエチル基含有重合体の製造方法。
【請求項2】
前記抽出溶媒は前記粗生成物の100重量部を基準にして80~500重量部の含量で使用され、前記有機溶媒は前記抽出溶媒の20~100重量%の含量で使用される、請求項1に記載の2-シアノエチル基含有重合体の製造方法。
【請求項3】
前記アクリロニトリルおよび水酸基含有化合物の反応段階は、苛性ソーダ(NaOH)を含む触媒の存在下に、塩基性条件で行われる、請求項1又は2に記載の2-シアノエチル基含有重合体の製造方法。
【請求項4】
前記水酸基含有化合物はポリビニルアルコール系重合体を含み、前記2-シアノエチル基含有重合体はシアノエチルポリビニルアルコールである、請求項1~のいずれか一項に記載の2-シアノエチル基含有重合体の製造方法。
【請求項5】
前記2-シアノエチル基含有重合体は重量平均分子量が100,000~600,000であり、シアノエチル基置換率が70~90%である、請求項1~のいずれか一項に記載の2-シアノエチル基含有重合体の製造方法。
【請求項6】
前記精製された2-シアノエチル基含有重合体は、アクリロニトリルを含む未反応物を0.05重量%未満で含む、請求項1~のいずれか一項に記載の2-シアノエチル基含有重合体の製造方法。
【請求項7】
前記精製された2-シアノエチル基含有重合体は、ビス-シアノエチルエーテル(BCE)を含む副産物を0.05重量%未満で含む、請求項1~のいずれか一項に記載の2-シアノエチル基含有重合体の製造方法。
【請求項8】
前記精製された2-シアノエチル基含有重合体は、残留金属塩を10ppmw未満で含む、請求項1~のいずれか一項に記載の2-シアノエチル基含有重合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願との相互引用
本出願は2018年7月23日付韓国特許出願第10-2018-0085442号および2019年7月12日付韓国特許出願第10-2019-0084310号に基づいた優先権の利益を主張し、当該韓国特許出願の文献に開示された全ての内容は本明細書の一部として含まれる。
【0002】
本発明は、精製過程中の水使用量を減らして廃水発生量を減らしながらも、高純度に精製された2-シアノエチル基含有重合体を製造することができる2-シアノエチル基含有重合体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0003】
最近、リチウム二次電池が多様な用途/分野に適用されている。特に、リチウム二次電池が大容量化、高エネルギー密度化されることによって、セパレータの耐熱性確保に対する関心が増加している。
【0004】
よって、セパレータの熱収縮または熱溶融による短絡を防止して、電池の信頼性を高める技術であって、例えばポリオレフィン系フィルムなどの微細孔を有する多孔性基材の一側面または両面(表面と裏面)に耐熱性多孔質層を備えた多層構造のセパレータが提案されている。
【0005】
このようなセパレータで、前記耐熱性多孔質層は、無機物と前記無機物を均一に分散するための分散剤として2-シアノエチル基含有重合体を広く使用している。
【0006】
このような2-シアノエチル基含有重合体は、代表的に苛性ソーダ(NaOH)などを含む触媒が使用される塩基性条件で、アクリロニトリルおよびポリビニルアルコールなどの水酸基含有化合物を反応させて製造できる。また、このような反応進行のための反応媒質としては、代表的にアセトンを含む溶媒が使用されている。このような反応を行うことによって、水酸基がシアノエチルエーテル基で置換されてシアノエチルポリビニルアルコールなどの2-シアノエチル基含有重合体が製造できる。
【0007】
しかし、このような反応過程では不可避に、アクリロニトリルの未反応物、触媒などに由来した残留金属塩、そして、ビス-シアノエチルエーテル(Bis-cyanoethyl ether;BCE)などの副産物が生成されることがあり、これらは2-シアノエチル基含有重合体を含む粗生成物に含まれる。
【0008】
よって、従来は前記2-シアノエチル基含有重合体を含む粗生成物から未反応物、残留金属塩および副産物などを除去するために、前記反応終了後多量の水を使用した水洗工程で2-シアノエチル基含有重合体を抽出する方法を適用した。しかし、このような抽出過程で、前記未反応物、残留金属塩および副産物などを十分に除去するためには、多段階の抽出過程が必要であるだけでなく、その過程で2-シアノエチル基含有重合体に対して50倍以上の水が使用されているのが実情である。
【0009】
これは、置換反応時、前記水酸基含有化合物および触媒が水溶液状態で使用されるので、すでに粗生成物中に多量の水が含まれており、前記置換反応によって形成された2-シアノエチル基含有重合体の固形分濃度が5~10重量%程度で比較的低いためである。そのため、単一抽出過程でも、重合体の析出/精製のために多量の水が使用されるしかない。
【0010】
このように多量の水が使用される結果、抽出過程進行後には、前記アクリロニトリルの未反応物、触媒などに由来した残留金属塩、そして、ビス-シアノエチルエーテルなどの副産物を含む悪性廃水(特に、窒素含有廃水など)が大量で発生するしかなく、このような廃水の浄化のためにも非常に多くの工程費用がかかっているのが実情である。しかも、前記多段階の水を使用した抽出過程などによって、工程エネルギー消費も非常に大きくなる短所がある。
【0011】
よって、前記精製/抽出過程中の水使用量を減らして廃水発生量を減らしながらも、高純度に精製された2-シアノエチル基含有重合体を得ることができる技術の開発が要請されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
よって、本発明は、精製過程中の水使用量を減らして廃水発生量を減らしながらも、多量の水を使用した場合に準じて高純度に精製された2-シアノエチル基含有重合体を製造することができる2-シアノエチル基含有重合体の製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、アクリロニトリルおよび水酸基含有化合物を反応させて、2-シアノエチル基含有重合体を含む粗生成物を形成する段階;および
前記粗生成物を有機溶媒を含む抽出溶媒で抽出して精製された2-シアノエチル基含有重合体を形成する段階を含み、
前記有機溶媒は、前記2-シアノエチル基含有重合体に対するハンセン溶解度パラメータ距離が6.8以上であり、
前記有機溶媒は、アセトンに対するハンセン溶解度パラメータ距離が13.0以下になる2-シアノエチル基含有重合体の製造方法を提供する。
【0014】
以下、発明の具体的な実施形態による2-シアノエチル基含有重合体の製造方法についてより詳細に説明する。
【0015】
発明の一実施形態によれば、アクリロニトリルおよび水酸基含有化合物を反応させて、2-シアノエチル基含有重合体を含む粗生成物を形成する段階;および
前記粗生成物を有機溶媒を含む抽出溶媒で抽出して精製された2-シアノエチル基含有重合体を形成する段階を含み、
前記有機溶媒は、前記2-シアノエチル基含有重合体に対するハンセン溶解度パラメータ距離が6.8以上であり、
前記有機溶媒は、アセトンに対するハンセン溶解度パラメータ距離が13.0以下になる2-シアノエチル基含有重合体の製造方法が提供される。
【0016】
本発明者らの継続的な実験の結果、特定の範囲の溶解度パラメータ距離を充足する有機溶媒を抽出溶媒として使用することによって、抽出過程で水を使用しないか、水の使用量を大きく減らしながらも、高純度に精製された2-シアノエチル基含有重合体を得ることができることを確認して発明を完成した。
【0017】
以下の実施例を通じても立証されるように、前記有機溶媒を抽出溶媒として使用した結果、多量の水を使用した従来技術に準じて、前記アクリロニトリルの未反応物、触媒などに由来した残留金属塩、そして、ビス-シアノエチルエーテルなどの副産物を重合体の粗生成物から効果的に除去/精製することができることが確認された。
【0018】
これは、前記溶解度パラメータを含む有機溶媒がアセトンなど反応媒質として使用された溶媒とよく混和されながらも、2-シアノエチル基含有重合体に対しては非溶媒(NON-SOLVENT)として作用できるためであると予測される。その結果、2-シアノエチル基含有重合体と混ざらず、前記反応媒質として使用された溶媒中の未反応物、残留金属塩および/または副産物などのみを選択的に溶かすことによって、このような有機溶媒を使用した抽出過程で前記未反応物/残留金属塩/副産物がほとんど完全に除去された高純度の2-シアノエチル基含有重合体を得ることができることが確認された。
【0019】
したがって、このような有機溶媒で既存の抽出過程の水を完全に代替するか、少なくとも一部代替して、抽出/精製過程中の水使用量を減らして廃水発生量を減らしながらも、従来技術に準じて高純度に精製された2-シアノエチル基含有重合体を製造することができる。
【0020】
以下、一実施形態による2-シアノエチル基含有重合体の製造方法について、各段階別に説明する。
【0021】
一実施形態の製造方法では、まず、アクリロニトリルおよび水酸基含有化合物を反応させて、2-シアノエチル基含有重合体を含む粗生成物を形成する。このような反応段階は2-シアノエチル基含有重合体の通常の製造方法によって行うことができ、以下で簡略に説明する。
【0022】
このような反応段階は、例えば、下記反応式で表されたようにアクリロニトリルと分子内に水酸基含有化合物(重合体)とのマイケル付加反応によって製造したことであり得る。
【0023】
【化1】
【0024】
前記反応式中、Polymer-OHは水酸基含有化合物(重合体)、Polymer-O-CH-CH-CNは2-シアノエチル基含有重合体を示す。
【0025】
さらに具体的に、2-シアノエチル基含有重合体は、例えば、分子内に水酸基を有する化合物を水に溶解し、苛性ソーダおよび/または炭酸ナトリウムなどの触媒を添加した後、続いてアクリロニトリルを添加し、約0~約60℃で約2~約12時間反応を行うことによって製造できる。
【0026】
この時、アクリロニトリルは、前記水酸基含有化合物100重量部に対して、1~10重量部、あるいは5~10重量部で添加できる。
【0027】
また、上記反応段階で、アクリロニトリルは溶剤としての役割も兼ねることができ、アセトンなど、アクリロニトリルと反応しない希釈溶剤をさらに添加することもできる。
【0028】
但し、本発明が前述の反応条件に限定されるのではなく、温度、時間、および反応物の含量など具体的な反応条件はシアノエチル基の置換比率を調節するための側面から変更可能である。
【0029】
一方、前述の反応段階を通じて2-シアノエチル基含有重合体を含む粗生成物を形成した後には、このような粗生成物を有機溶媒を含む抽出溶媒で抽出して精製された2-シアノエチル基含有重合体を形成する段階を行う。
【0030】
より具体的に、前記反応終了後、反応液は水層と2-シアノエチル基含有重合体を含む有機層の2層に分離され、有機層を取り出し、これに前記抽出溶媒を加えて粗生成物を析出させることによって、精製された2-シアノエチル基含有重合体を得ることができる。
【0031】
一実施形態の方法では、前記抽出溶媒として前記2-シアノエチル基含有重合体に対するハンセン溶解度パラメータ距離が6.8以上であり、アセトンに対するハンセン溶解度パラメータ距離が13.0以下になる特定有機溶媒を使用することができる。
【0032】
この時、前記ハンセン溶解度パラメータは前記有機溶媒の2-シアノエチル基含有重合体またはアセトンに対する溶解度媒介変数距離(Ra、radius of the Hansen Solubility Sphere)と定義および算出でき、このように定義される各溶媒別ハンセン溶解度パラメータと、これから2-シアノエチル基含有重合体またはアセトンに対するハンセン溶解度パラメータ距離を算出する方法は以前からよく知られている(HANSEN SOLUBILITY PARAMETERS、A User’s Handbook参照)。
【0033】
より具体的に、前記ハンセン溶解度パラメータ距離は、このようなハンドブックに整理された各溶媒別溶解度パラメータ値と、アセトンおよび2-シアノエチル基含有重合体の溶解度パラメータ値を活用して、下記式1によって算出することができる:
【0034】
[式1]
Ra=(4△D+△P+△H1/2
【0035】
上記の式で、Ra:溶解度媒介変数距離と定義される2-シアノエチル基含有重合体またはアセトンに対する各溶媒のハンセン溶解度パラメータ距離であり、
△Dは、溶媒に対する非極性溶解度媒介変数(Dispersion cohesion parameter)と、2-シアノエチル基含有重合体またはアセトンに対する非極性溶解度媒介変数の距離(差異値)であり、
△Pは、溶媒に対する極性溶解度媒介変数(Polar cohesion parameter)と、2-シアノエチル基含有重合体またはアセトンに対する極性溶解度媒介変数の距離(差異値)であり、
△Hは、溶媒に対する水素結合溶解度媒介変数(Hydrogen bonding cohesion parameter)と、2-シアノエチル基含有重合体またはアセトンに対する水素結合溶解度媒介変数の距離(差異値)である。
【0036】
特に、一実施形態の方法で使用される有機溶媒は、前記2-シアノエチル基含有重合体に対するハンセン溶解度パラメータ距離が6.8以上、あるいは7.0以上、あるいは6.8~13.0あるいは7.0~10.0である特性を有することができる。これにより、2-シアノエチル基含有重合体と非混和性を示してこれに対する非溶媒(NON-SOLVENT)と定義され得る。
【0037】
また、前記有機溶媒は、前記アセトンに対するハンセン溶解度パラメータ距離が13.0以下、あるいは12.5以下、あるいは2.0~12.5あるいは5.0~12.5である特性を有することができる。これは、有機溶媒がアセトンなど反応媒質として使用された溶媒とよく混和されることを意味することができる。
【0038】
このような2つの特性を示す有機溶媒を使用して抽出過程を行うことによって、前記有機溶媒が2-シアノエチル基含有重合体と混ざらず、前記反応媒質として使用された溶媒中の未反応物、残留金属塩および/または副産物などのみを選択的に溶かして、前記抽出過程で前記未反応物/残留金属塩/副産物がほとんど完全に除去された高純度の2-シアノエチル基含有重合体を得ることができる。
【0039】
一方、多様な有機溶媒に関して、前記2つの特性値を下記表1および2に整理して示した。
【0040】
【表1】
【0041】
【表2】
【0042】
S.P.:Hansen溶解度媒介変数(Hansen Solubility parameter)
HSP(D):非極性溶解度媒介変数(Dispersion cohesion parameter)
HSP(P):極性溶解度媒介変数(Polar cohesion parameter)
HSP(H):水素結合溶解度媒介変数(Hydrogen bonding cohesion parameter)
Ra:溶解度媒介変数距離と定義される2-シアノエチル基含有重合体に対する各溶媒のハンセン溶解度パラメータ距離
Ra from Ace:前記有機溶媒のアセトンに対するハンセン溶解度パラメータ距離
【0043】
上記表1および2の各特性値を考慮して、前記抽出段階での有機溶媒としては、例えば、イソプロピルアルコール、n-ブタノール、メタノール、エタノール、トルエン、およびメチルイソブチルケトンからなる群より選択された1種以上を使用することができる。これらのうち、最終製造しようとする2-シアノエチル基含有重合体の種類や、置換率などを考慮して、適切な溶媒を選択して使用することができる。但し、この中でも、2-シアノエチル基含有重合体との非混和性、アセトンなど反応媒質との混和性および/または未反応物/残留金属塩/副産物の溶解度などを考慮して、アルコール系溶媒を好ましく使用することができ、イソプロピルアルコールを最も好ましく使用することができる。
【0044】
一方、前記抽出溶媒は、単一抽出段階を基準にして、前記粗生成物の100重量部を基準にして80~500重量部、あるいは100~400重量部、あるいは150~300重量部の含量で使用できる。これにより、抽出溶媒の使用量を過度に増加させずに、抽出段階の効率を好ましく維持することができる。
【0045】
また、前記抽出溶媒は前述の有機溶媒のみを含むか、このような有機溶媒と共に水などの他の溶媒を含むことができ、前記特定有機溶媒による抽出/精製効率を維持するために、前記有機溶媒は前記抽出溶媒の20~100重量%、あるいは50~100重量%、あるいは70~100重量%の含量で使用され、選択的に残量の水、その他の溶媒が使用できる。
【0046】
一方、前記抽出段階で、前記抽出溶媒は前述の特定有機溶媒のみを含むことができるが、このような有機溶媒および水の混合溶媒を使用することもでき、前記抽出段階は複数回、例えば、2回~7回、あるいは2回~5回で行うこともできる。
【0047】
このような抽出方法の具体的な一例で、前記抽出溶媒は前記有機溶媒を単独で含み、前記抽出段階は2回~5回、あるいは3回~4回で行うことができる。
【0048】
また、前記抽出方法の具体的な他の例で、前記抽出溶媒は前記有機溶媒と水の混合溶媒を含み、前記抽出段階は2回~5回、あるいは3回~4回で行うことができる。
【0049】
そして、前述の抽出方法の具体的な例において、前記抽出段階は前記有機溶媒を含む抽出溶媒を使用した段階のみで行うこともできるが、これに付加して、水で抽出する段階を1回~3回で追加して行うこともできる。
【0050】
このような抽出方法の具体的な例は、具体的な2-シアノエチル基含有重合体の種類、置換率やその他の工程変数などを考慮して適切に選択できる。このうちのいずれの方法によっても、既存工程に比べて水の使用量を大きく減らすことができ、これにより、廃水の発生量およびその処理などのための工程費用/エネルギーを大きく低減することができるのはもちろんである。
【0051】
一方、前述の過程を通じて生成可能な2-シアノエチル基含有重合体の例としては、シアノエチルプルラン、シアノエチルセルロース、シアノエチルジヒドロキシプロピルプルラン、シアノエチルヒドロキシエチルセルロース、シアノエチルヒドロキシプロピルセルロース、シアノエチルデンプンなどのシアノエチル多糖類やシアノエチルポリビニルアルコールなどであり、適切にはシアノエチルポリビニルアルコールであり得る。このような2-シアノエチル基含有重合体の種類は水酸基含有化合物の種類によって変更可能であり、水酸基含有化合物としてポリビニルアルコール系重合体を使用して前記シアノエチルポリビニルアルコールを得ることができる。
【0052】
また、前記2-シアノエチル基含有重合体のシアノエチル基置換率は70~90%になり得、重量平均分子量が100,000~600,000になり得る。前記範囲のシアノエチル基置換率と、重合体の分子量などの複合的な要素によって、セパレータ内で分散剤として適切に使用され得る。
【0053】
一方、前記シアノエチル基置換率は、出発原料である水酸基含有化合物の単量体単位当りに存在する水酸基のモル数に対するシアノエチル基で置換された水酸基のモル数の比(%)で表され得る。
【0054】
一方、2-シアノエチル基含有重合体のシアノエチル基置換率は、2-シアノエチル基含有重合体の製造過程で、ポリビニルアルコールなどの水酸基含有化合物の水溶液を製造した後に、苛性ソーダなどの触媒水溶液を添加することによって向上するものである。このような置換率は、Kjeldahl methodによって測定した2-シアノエチル基含有重合体の窒素含有量から算出することができる。
【0055】
前述の一実施形態の方法で製造された精製された2-シアノエチル基含有重合体は、重合体の全体重量を基準にして、ビス-シアノエチルエーテル(BCE)を含む副産物を0.05重量%未満、あるいは0.03重量%以下の含量で含むことができる。
【0056】
また、前記精製された2-シアノエチル基含有重合体はその全体重量を基準にして触媒などに由来した残留金属塩を10ppmw未満、あるいは5ppmw未満で含むことができ、アクリロニトリルを含む未反応物を0.05重量%未満、あるいは0.02重量%未満で含むことができる。
【0057】
このように一実施形態の方法を適用することによって、抽出過程での水の全部または一部を特定有機溶媒で代替することによって、水の使用量および廃水の発生量を大きく減らすことができ、このような減少された水の使用量でも高純度に精製された2-シアノエチル基含有重合体を得ることができる。このような高純度の2-シアノエチル基含有重合体はリチウム二次電池のセパレータ用分散剤などとして非常に好ましく使用できる。
【発明の効果】
【0058】
前述のように、本発明は、特定の有機溶媒を含む抽出溶媒を使用することによって、精製過程中の水使用量を減らして廃水発生量を減らしながらも、多量の水を使用した場合に準じて高純度に精製された2-シアノエチル基含有重合体を製造することができる2-シアノエチル基含有重合体の製造方法を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0059】
発明を下記の実施例でより詳細に説明する。但し、下記の実施例は本発明を例示するものに過ぎず、本発明の内容が下記の実施例によって限定されるのではない。
【0060】
シアノエチル置換率は、下記合成例で生成されたシアノエチル化ポリビニルアルコールに対して、Kjeldahl Methodを通じて窒素含有量を求めた後、重合体の繰り返し単位当り元来存在した水酸基のモル数に対する百分率で算出した。
【0061】
重量平均分子量値は、GPCを通じて分析し、GPCの測定条件は下記の通りである。
装置:ゲル浸透クロマトグラフィーGPC(測定機器名:Alliance e2695;製造会社:WATERS)
検出器:示差屈折率検出器(測定機器名:W2414;製造会社:WATERS)
カラム:DMFカラム
流速:1mL/分
カラム温度:65℃
注入量:0.100mL
標準化のための試料:ポリスチレン
【実施例
【0062】
合成例1
ポリビニルアルコール(PVA)1重量部とアクリロニトリル(Acrylonitrile)(AN)6重量部、苛性ソーダ1wt%水溶液1.32重量部を攪拌機装着反応器に投入して50℃で100分間反応させた。ここにアセトン10重量部と水3重量部を加えて40分間攪拌後、酢酸25wt%水溶液0.088重量部を投入して反応終結させた。
(シアノエチル置換率:79%、MW:408K)
【0063】
合成例2
ポリビニルアルコール(PVA)の20重量%水溶液1重量部、苛性ソーダ30重量%水溶液0.02重量部、アクリロニトリル(Acrylonitrile)(AN)1.5重量部を攪拌機装着反応器に投入して50℃で50分間反応させた。ここにアセトン5重量部を加えて50分間攪拌後、酢酸を追加投入して反応終結させた。
【0064】
実施例1~4
有機溶媒(各実施例で使用された溶媒の種類は下記表3に整理された通りである。)150重量部が入った反応槽に合成例1で得られた2-シアノエチル基含有重合体の粗生成物100重量部を投入して2-シアノエチル基含有重合体(シアノエチルポリビニルアルコール)を析出させた。析出された重合体をアセトン30重量部に再溶解した後、有機溶媒析出過程を1回さらに実施した。2回抽出後、アセトンに溶解された重合体を水150重量部が入った反応槽に投入して再析出させた。その後、乾燥工程を通じて精製された重合体を得た。
【0065】
比較例1
水500重量部が入った反応槽に合成例1で得られた2-シアノエチル基含有重合体の粗生成物100重量部を投入して2-シアノエチル基含有重合体(シアノエチルポリビニルアルコール)を析出させた。以後の段階は、実施例1~4と同様に行って精製された重合体を得た。
【0066】
前記実施例1~4および比較例1で最初抽出段階後に析出されたそれぞれ得られた重合体内の残留未反応物(AN)および副産物(Bis-cyanoethyl ether、BCE)の含量はガスクロマトグラフィーで分析/確認し、残留金属塩含量はICP質量分析装置を使用して分析/確認した。
【0067】
より具体的に、前記残留未反応物および副産物は重合体をDMFに希釈後、GC-FID(製造会社Agilent)を用いて分析し、抽出が終わった生成物内残留金属塩含量はICP-OES(測定機器名Optima8300;製造会社Perkinelmer)分析装備を用いて測定した。このような分析/確認の結果を下記表3に整理して示した:
【0068】
【表3】
【0069】
上記表3を参照すれば、実施例1~4では特定有機溶媒で1次抽出過程を行うことによって、水を使用した抽出に比べても副産物/未反応物の含量をさらに減らすことができるのが確認された。
【0070】
実施例5
イソプロピルアルコール溶媒100重量部および水300重量部が入った反応槽に合成例2で得られた2-シアノエチル基含有重合体の粗生成物100重量部を投入して2-シアノエチル基含有重合体(シアノエチルポリビニルアルコール)を析出させた。析出された重合体をアセトン30重量部に再溶解した後、前記イソプロピルアルコール/水の混合溶媒を使用した抽出過程と、アセトン再溶解過程を2回さらに繰り返した。その後、乾燥工程を通じて精製された重合体を得た。
【0071】
比較例2
水500重量部が入った反応槽に合成例2で得られた2-シアノエチル基含有重合体の粗生成物100重量部を投入して2-シアノエチル基含有重合体(シアノエチルポリビニルアルコール)を析出させた。析出された重合体をアセトン30重量部に再溶解した後、前記水を使用した抽出過程と、アセトン再溶解過程を5回繰り返した。その後、乾燥工程を通じて精製された重合体を得た。
【0072】
前記実施例5でイソプロピルアルコールと、水を使用した3次抽出後に、最終的に得られた重合体、実施例4および比較例2でそれぞれ得られた重合体内の残留未反応物(AN)および副産物(Bis-cyanoethyl ether、BCE)の含量をガスクロマトグラフィーで分析/確認し、残留金属塩含量はICP質量分析装置を使用して分析/確認した。ガスクロマトグラフィーおよびICP分析装置/方法は前述の実施例1~4と同一に適用した。
【0073】
このような分析/確認結果と、実施例/比較例での溶媒(水)使用量を下記表4に整理して示した:
【0074】
【表4】
【0075】
上記表4を参照すれば、実施例4および5では比較例2に準じて副産物/未反応物/残留金属塩の含量を減少させて高純度に精製された2-シアノエチル基含有重合体を得ることができることが確認された。さらに、実施例では比較例に比べて、水使用量(廃水発生量)を大きく低減することができることが確認された。