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特許7043173ダイシング用保護膜基材、ダイシング用保護膜組成物、ダイシング用保護シート、及び被加工ウエーハの製造方法
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  • 特許-ダイシング用保護膜基材、ダイシング用保護膜組成物、ダイシング用保護シート、及び被加工ウエーハの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-18
(45)【発行日】2022-03-29
(54)【発明の名称】ダイシング用保護膜基材、ダイシング用保護膜組成物、ダイシング用保護シート、及び被加工ウエーハの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/301 20060101AFI20220322BHJP
   H01L 21/683 20060101ALI20220322BHJP
   C08F 222/04 20060101ALI20220322BHJP
【FI】
H01L21/78 M
H01L21/78 P
H01L21/68 N
C08F222/04
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2017020445
(22)【出願日】2017-02-07
(65)【公開番号】P2018129365
(43)【公開日】2018-08-16
【審査請求日】2019-11-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000220239
【氏名又は名称】東京応化工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(72)【発明者】
【氏名】浅井 隆宏
(72)【発明者】
【氏名】安蘇谷 健人
(72)【発明者】
【氏名】嶋谷 聡
【審査官】三浦 みちる
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-045890(JP,A)
【文献】特開2011-204806(JP,A)
【文献】特開2010-262970(JP,A)
【文献】特開2009-283607(JP,A)
【文献】特開2014-172932(JP,A)
【文献】特開2014-130853(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/301
H01L 21/683
C08F 222/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸無水物由来のモノマー構成単位と疎水性モノマー由来のモノマー構成単位とを含み、アルカリ可溶性基がアルキルビニルエーテルを用いてブロックされているモノマー構成単位を含まない共重合体からなるダイシング用加工面保護膜基材であって、
前記疎水性モノマーはスチレンを含み、
前記酸無水物由来のモノマー構成単位の比率が、前記共重合体の全モノマー構成単位に対して、25モル%以上95モル%以下である基材。
【請求項2】
前記共重合体は、重量平均分子量3000以上20000以下である請求項1記載の基材。
【請求項3】
ブレードダイシング用保護膜基材である請求項1又は2記載の基材。
【請求項4】
酸無水物由来のモノマー構成単位を含み、アルカリ可溶性基がアルキルビニルエーテルを用いてブロックされているモノマー構成単位を含まない共重合体からなるダイシング用保護膜基材であって、前記酸無水物由来のモノマー構成単位の比率が、前記共重合体の全モノマー構成単位に対して、25モル%以上95モル%以下である基材と、
溶媒と、
を含み、
前記溶媒がアンモニア及び/又はアルカリ性のアミン系溶媒であるダイシング用保護膜組成物。
【請求項5】
請求項1からいずれか記載の基材を含む保護層を備えるダイシング用加工面保護シート。
【請求項6】
材を含む保護膜がウエーハの加工面上に形成された状態で、前記保護膜及び前記加工面をダイシングする工程と、
前記保護膜をアルカリ液に接触させて前記加工面から除去する工程と、を有し、
前記基材が、酸無水物由来のモノマー構成単位を含み、アルカリ可溶性基がアルキルビニルエーテルを用いてブロックされているモノマー構成単位を含まない共重合体からなるダイシング用保護膜基材であって、前記酸無水物由来のモノマー構成単位の比率が、前記共重合体の全モノマー構成単位に対して、25モル%以上95モル%以下である、
被加工ウエーハの製造方法。
【請求項7】
前記アルカリ液は、アルカリ性のアミン系溶媒を含む請求項記載の方法。
【請求項8】
前記除去は、60nm膜厚/秒以上の速度で行う請求項又は記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウエーハをダイシングする際に使用されるダイシング用保護膜基材、ダイシング用保護膜組成物、ダイシング用保護シート、及び被加工ウエーハの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ウエーハのダイシング工程において、ウエーハの回路形成面がむき出しの状態であると、回路形成面にダイシング時の切削水、ウエーハ切削によって生じる切削クズ等の汚染物が付着し、該回路形成面が汚染されてしまう。
【0003】
そこで、ウエーハの面全体に保護膜を形成し、保護膜とともにウエーハをダイシングし、その後ダイシングされたウエーハから保護膜を除去することが各種提案されている。これにより、ウエーハの回路形成面と汚染物が直接接触することが抑制され、回路形成面の汚染を防止することが可能である。例えば、特許文献1には、水溶性樹脂と水溶性のレーザー光吸収剤とが溶解した溶液からなるダイシング用保護膜が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2006-140311号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載されるダイシング用保護膜は、水溶性であるため、水を使うブレードダイシング等のダイシングには適さない。そこで、このようなダイシングには、非水溶性のダイシング用保護膜を用いることが考えられる。しかしながら、非水溶性のダイシング用保護膜の除去には、有機溶剤からなる剥離剤の使用が一般的であり、作業環境上等の点で望ましくない。
【0006】
本発明は、ダイシング時の耐水性に優れ、かつ水系剥離剤による除去が容易なダイシング用保護膜基材、ダイシング用保護膜組成物、ダイシング用保護シート、及び被加工ウエーハの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、酸無水物由来のモノマー構成単位を含む共重合体が、ダイシング用保膜に耐水性を付与できると同時に、水系剥離剤であるアルカリ液により除去が可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
本発明の第1の態様は、酸無水物由来のモノマー構成単位を含む共重合体からなるダイシング用保護膜基材である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ダイシング時の耐水性に優れ、かつ水系剥離剤による除去が容易なダイシング用保護膜基材、ダイシング用保護膜組成物、ダイシング用保護シート、及び被加工ウエーハの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施例2の保護膜をpH及び濃度の異なるアンモニア水溶液に浸漬した場合における、保護膜の溶解速度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について、詳細に説明する。但し、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではない。本発明は、その目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
【0012】
<ダイシング用保護膜基材>
本実施の形態に係るダイシング用保護膜基材(以下、単に「基材」ということがある。)は、酸無水物由来のモノマー構成単位を含む共重合体からなる。
【0013】
本実施の形態に係る基材を含む保護膜は、酸無水物由来のモノマー構成単位を含む共重合体からなるため、中性の水を使用するダイシング時において耐水性に優れ、ウエーハを保護する。また、この基材は、酸無水物由来のモノマー構成単位中の環構造が、アルカリ液中では開環されて水に溶解可能となることから、この基材を含む保護膜は、有機溶剤を使用せずともアルカリ水溶液による除去が可能である。
【0014】
このような酸無水物由来のモノマー構成単位(以下、単に「酸無水物モノマー」ということがある。)としては、例えば、カルボン酸無水物が挙げられる。カルボン酸無水物としては、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水シュウ酸、無水コハク酸、無水フタル酸、無水安息香酸等が挙げられ、無水マレイン酸が好ましい。これらは共重合体中に1種で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0015】
酸無水物モノマーは、共重合体の全モノマー構成単位に対して、好ましくは30モル%以上、より好ましくは40モル%以上、さらに好ましくは50モル%以上の比率で含まれる。酸無水物モノマーを30モル%以上の比率で含むことにより、耐水性とアルカリ可溶性のバランスを取りやすくなる。酸無水物モノマーが過小であると、基材に耐水性を付与しにくくなるか、アルカリ液による除去が困難となる傾向がある。酸無水物モノマーの比率の上限は、特に限定されないが、共重合体の全モノマー構成単位に対して、好ましくは95モル%以下、より好ましくは90モル%以下、より好ましくは85モル%以下である。
【0016】
上述した共重合体は、酸無水物モノマー以外の他のモノマー構成単位を含む。他のモノマー構成単位としては、例えば、疎水性モノマー由来のモノマー構成単位や、親水性モノマー由来のモノマー構成単位が挙げられる。保護膜の耐水性を向上させる点から、共重合体は、疎水性モノマー由来のモノマー構成単位を更に含むことが好ましい。また、保護膜のアルカリ液への溶解性を高める点からは、共重合体は、親水性モノマー由来のモノマー構成単位を更に含んでもよい。
【0017】
疎水性モノマー由来のモノマー構成単位(以下、単に「疎水性モノマー」ということがある。)としては、例えば、スチレン、アクリル酸エステル(例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、sec-ブチル、ter-ブチル、イソブチル、アリル、フェニル、ベンジル、ラウリル、ステアリルエステル等)、メタクリル酸エステル(例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、sec-ブチル、ter-ブチル、イソブチル、アリル、フェニル、ベンジル、ラウリル、ステアリルエステル等)、α-メチルスチレン、酢酸ビニル、塩化ビニル等が挙げられる。これらは共重合体中に1種で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。後述するように、水系剥離剤としてアルカリ液を用いる点では、アルカリ可溶性モノマーとして、スチレン、アクリル酸及び/又はメタクリル酸エステルが好ましく挙げられる。
【0018】
疎水性モノマーは、共重合体の全モノマー構成単位に対して、好ましくは5モル%以上、より好ましくは10モル%以上、より好ましくは15モル%以上の比率で含まれる。一方、疎水性モノマーは、共重合体の全モノマー構成単位に対して、好ましくは70モル%以下、より好ましくは60モル%以下、より好ましくは50モル%以下の比率で含まれる。疎水性モノマーを上記範囲で含むことにより、保護膜の耐水性を向上させることができる。疎水性モノマーの比率が過大であると、アルカリ液による除去が困難となる傾向がある。
【0019】
また、共重合体の重量平均分子量(GPCによるスチレン換算重量平均分子量である)は、特に限定されないが、例えば20000以下、具体的には15000以下、10000以下であってもよい。上限は特に限定されないが、例えば1000以上、具体的には3000以上、5000以上であってもよい。共重合体の重量平均分子量が、上記範囲であることにより、基材の粘度を調整しやすく、保護膜の膜厚を確保しやすい。
【0020】
共重合体の200℃における溶解粘度は、特に限定されないが、好ましくは100000ポアズ以下、より好ましくは60000ポアズ以下である。下限は特に限定されないが、例えば100ポアズ以上、具体的には1000ポアズ以上、2000ポアズ以上であってよい。
【0021】
また、共重合体のガラス転移点は、特に限定されないが、例えば70℃以上、具体的には100℃以上、110℃以上、120℃以上であってよい。上限は特に限定されないが、例えば200℃以下、具体的には160℃以下であってよい。
【0022】
共重合体の酸価は、特に限定されないが、保護膜のアルカリ液への溶解性を高める点から、例えば90以上、具体的には200以上、250以上であってよい。上限は特に限定されないが、600以下、具体的には550以下、500以下であってよい。
【0023】
<ダイシング用保護膜組成物>
本実施形態に係るダイシング用保護膜組成物(以下、単に保護膜組成物ということがある。)は、上述した基材と、溶媒とを含む。本実施形態に係る保護膜組成物は、上述した基材を含むことから、ダイシング時の耐水性に優れ、かつ水系剥離剤による除去が容易である。
【0024】
保護膜組成物は、ウエーハの加工面上にスピンコート等の方法により塗布、乾燥されることにより、保護膜を形成することができる。
【0025】
保護膜の膜厚が厚いと、アルカリ液による保護膜の除去が困難であり得るが、本発明の保護膜はアルカリ液への溶解性に優れるため、比較的厚い膜厚でも、それによりダイシング時の保護を十分に与えられる。また、用いる基材の溶解可能量や粘度の制約から、過剰に厚い保護膜の形成が難しい場合があり得る。他方、保護膜の膜厚が薄いと、ダイシング時の保護性が不十分であり得るが、本発明の保護膜は耐水性に優れるため、比較的薄い膜厚でも十分であり得る。そこで、本実施形態に係る保護膜組成物は、次の膜厚の保護膜の形成に用いることが好ましい。保護膜の膜厚の下限は、特に限定されるものではないが、好ましくは50nm以上、より好ましくは100nm以上、150nm以上である。
保護膜の膜厚の上限は、特に限定されるものではないが、好ましくは1000nm以下、より好ましくは800nm以下である。
【0026】
保護膜組成物に含まれる溶媒としては、共重合体を溶解することができれば特に限定されないが、アンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の無機溶媒や、脂肪族アミン、芳香族アミン、複素環式アミン等の有機アミン化合物、第4級アンモニウムヒドロキシド等の有機アンモニウム塩等のアミン系溶媒が挙げられる。中でも、上述した基材を多量に溶解させやすい点から、アンモニアやアルカリ性のアミン系溶媒が好ましく、第4級アンモニウムヒドロキシドがより好ましい。
【0027】
溶媒のpHは、用いるアルカリ液により異なり得るが、十分量の基材が溶解可能であり、それにより所望の膜厚の保護膜を形成しやすい点から、好ましくはpH7.5以上、より好ましくはpH9以上である。他方、本発明で用いる基材は、アルカリ液への溶解性に優れることから、過剰に高いpHのアルカリ液を用いる必要性は低い。そこで、pHの上限は特に限定されないが、取り扱い等の点からpH13以下が好ましく、より好ましくは12以下、11以下である。例えば、アンモニア水溶液の場合には、pHの下限は好ましくは10.5以上、より好ましくはpH10.7以上であり、上限は好ましくは13以下、より好ましくは12以下、11以下である。テトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)水溶液の場合、pHの下限は好ましくは10以上、より好ましくは11以上であり、上限は好ましくは13以下、より好ましくは12以下である。
【0028】
上記脂肪族アミンとしては、具体的には、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、イソプロピルアミン、ブチルアミン、イソブチルアミン、tert-ブチルアミン、ペンチルアミン、イソペンチルアミン、tert-ペンチルアミン、ヘキシルアミン、ヘプチルアミン、オクチルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリイソプロピルアミン、トリブチルアミン、トリイソブチルアミン、トリtert-ブチルアミン、トリペンチルアミン、トリイソペンチルアミン、トリtert-ペンチルアミン、トリヘキシルアミン、トリヘプチルアミン、トリオクチルアミン等が挙げられる。
【0029】
上記芳香族アミンとしては、具体的には、ベンジルアミン、アニリン、N-メチルアニリン、N,N-ジメチルアニリン、o-メチルアニリン、m-メチルアニリン、p-メチルアニリン、N,N-ジエチルアニリン、ジフェニルアミン、ジ-p-トリルアミン等が挙げられる。
【0030】
上記複素環式アミンとしては、具体的には、ピリジン、o-メチルピリジン、o-エチルピリジン、2,3-ジメチルピリジン、4-エチル-2-メチルピリジン、3-エチル-4-メチルピリジン等が挙げられる。
【0031】
上記第4級アンモニウムヒドロキシドとしては、具体的には、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルエチルアンモニウムヒドロキシド、ジメチルジエチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチル(ヒドロキシエチル)アンモニウムヒドロキシド、ジメチルジ(ヒドロキシエチル)アンモニウムヒドロキシド等が挙げられる。
【0032】
上記第4級アンモニウムヒドロキシドとしては、具体的には、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルエチルアンモニウムヒドロキシド、ジメチルジエチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチル(ヒドロキシエチル)アンモニウムヒドロキシド、ジメチルジ(ヒドロキシエチル)アンモニウムヒドロキシド等が挙げられる。
【0033】
溶媒の使用量は特に限定されないが、保護膜組成物がウエーハに塗布可能な濃度となる範囲において、塗布膜厚に応じて適宜設定される。具体的には、保護膜組成物の固形分濃度が2質量%以上30質量%以下、好ましくは5質量%以上20質量%以下の範囲内となるように用いることが好ましい。
【0034】
<ダイシング用保護シート>
本実施形態に係るダイシング用保護シート(以下、単に保護シートということがある。)は、上述した基材を含む保護層を備える。本実施形態に係る保護シートは、ウエーハの加工面上に貼付されて使用される。本実施形態に係る保護シートは、上述した基材を含むことから、ダイシング時の耐水性に優れ、かつアルカリ液による除去が容易である。
【0035】
保護膜の膜厚が厚いと、アルカリ液による保護膜の除去が困難であり得るが、本発明の保護膜はアルカリ液への溶解性に優れるため、比較的厚い膜厚でも良く、それによりダイシング時の保護を十分に与えられる。また、用いる基材の溶解可能量や粘度の制約から、過剰に厚い保護膜の形成が難しい場合があり得る。他方、保護膜の膜厚が薄いと、ダイシング時の保護性が不十分であり得るが、本発明の保護膜は耐水性に優れるため、比較的薄い膜厚でも十分であり得る。そこで、保護膜の層厚の下限は、特に限定されるものではないが、好ましくは50nm以上、より好ましくは100nm以上、150nm以上である。保護層の層厚の下限は、特に限定されないが、好ましくは50nm以上、より好ましくは100nm以上である。保護層の層厚の上限は、特に限定されるものではないが、好ましくは500nm以下、より好ましくは300nm以下である。
【0036】
本実施形態に係る保護シートは、保護層以外にも、通常の保護シートに用いられる、粘着剤層、弾性層等の他の層を備えていてもよい。また、保護シートは、ウエーハの加工面上に貼付する際に剥離される剥離シートを備えていてもよい。
【0037】
粘着剤層としては、ウエーハの加工面上に貼付可能で、かつアルカリ液による除去が可能であれば特に限定されず、公知のゴム系樹脂、アクリル系樹脂等、並びに公知の充填剤及び公知の各種添加剤を含有する粘着剤を使用することができる。
【0038】
<被加工ウエーハの製造方法>
本実施形態に係る被加工ウエーハの製造方法は、上述した基材を含む保護膜がウエーハの加工面上に形成された状態で、保護膜及び加工面をダイシングする工程(以下、「ダイシング工程」ということがある。)と、保護膜をアルカリ液に接触させてウエーハの加工面から除去する工程(以下、「除去工程」ということがある。)と、を有する。
【0039】
本実施形態に係る被加工ウエーハの製造方法は、上述したように、保護膜が酸無水物由来のモノマー構成単位を含む共重合体からなる基材を含むことから、ダイシング工程で中性の水を用いるような場合であっても、ウエーハの加工面を汚染物から保護することが可能である。また、除去工程ではアルカリ液による保護膜の除去が可能であることから、有機溶剤を用いる必要がなく、薬剤の処理等、作業環境上の点で有意である。
【0040】
ウエーハとしては、その種類は特に限定されるものではなく、ウエーハの加工面への汚染物の付着が問題となるウエーハ、例えばトランジスタ、キャパシタ、抵抗から構成されるメモリ、論理回路等の半導体素子、固体撮像素子、熱電変換素子、光電変換素子等の種々の半導体素子が形成されるものが挙げられる。半導体ウエーハとしては、シリコン、ゲルマニウム等の半導体、シリコンゲルマニウム、GaAs、InGaAs等の化合物半導体等からなるウエーハが挙げられる。
【0041】
ウエーハ上に保護膜を形成する方法は、特に限定されず、上述した保護膜組成物をスピンコート等の方法により塗布、乾燥することで保護膜を形成してもよいし、保護シートを貼付することで保護膜を形成してもよい。
【0042】
保護膜の膜厚が厚いと、アルカリ液による保護膜の除去が困難であり得るが、本発明の保護膜はアルカリ液への溶解性に優れるため、比較的厚い膜厚でも良く、それによりダイシング時の保護を十分に与えられる。また、用いる基材の溶解可能量や粘度の制約から、過剰に厚い保護膜の形成が難しい場合があり得る。他方、保護膜の膜厚が薄いと、ダイシング時の保護性が不十分であり得るが、本発明の保護膜は耐水性に優れるため、比較的薄い膜厚でも十分であり得る。そこで、保護膜の膜厚の下限は、特に限定されるものではないが、好ましくは50nm以上、より好ましくは100nm以上、150nm以上である。
【0043】
[ダイシング工程]
ダイシング工程は、ウエーハと保護膜とを一括して小片に切断してチップ化する工程であり、公知のダイシング装置を用いて行うことができる。例えば、以下のように行う。まず、保護膜が形成されたウエーハの加工面とは反対側の裏面全面にダイシングシートを貼着し、ダイシング装置のウエーハリングに取り付ける。そして、ダイシング装置のダイヤモンド微粒が貼付された回転ブレードによって切削部分に水を吐出させながら、ダイシングラインに沿ってウエーハと保護膜とを一括して切断する。これにより、ウエーハは、ダイシングシートに貼り付いている状態でチップ化されている。
【0044】
本実施形態に係る保護膜は、耐水性に優れることから、大量の水を用いるダイシング、例えばブレードダイシングにおいても、溶解することなくウエーハの加工面を保護できる。
【0045】
[除去工程]
除去工程は、保護膜をアルカリ液からなる剥離液に接触させてウエーハから除去する工程である。例えば、上述したウエーハリングに取り付けられた状態(ダイシングシートに貼着された状態)のままのウエーハを、アルカリ液からなる剥離液に浸漬し、必要に応じて撹拌する。これにより、保護膜とダイシング工程で発生した切削クズとダイヤモンド微粒を同時に容易に除去することができる。このとき、本発明で用いる保護膜はアルカリ液への溶解性に優れるため、除去は穏やかな条件でも短時間に行うことができ、例えば5~30℃、5~600秒(具体的には300秒以下、200秒以下、100秒以下、50秒以下、20秒以下、15秒以下であってよい。)で行うことができる。
【0046】
剥離剤として用いるアルカリ液としては、保護膜組成物で用い得る溶媒と同種のものが挙げられる。保護膜を速やかに除去しやすい点から、アンモニアやアルカリ性のアミン系溶媒が好ましく、第4級アンモニウムヒドロキシドがより好ましい。
【0047】
剥離剤として用いるアルカリ液のpHは、用いるアルカリ液により異なり得るが、保護膜を速やかに溶解可能である点から、好ましくはpH7.5以上、より好ましくはpH9以上である。他方、本発明で用いる保護膜は、アルカリ液への溶解性に優れることから、過剰に高いpHのアルカリ液を用いる必要性は低い。そこで、pHの上限は特に限定されないが、取り扱い等の点からpH13以下が好ましく、より好ましくは12以下、11以下である。例えば、アンモニア水溶液の場合には、pHの下限は好ましくは10.5以上、より好ましくはpH10.7以上であり、上限は好ましくは13以下、より好ましくは12以下、11以下である。テトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)水溶液の場合、pHの下限は好ましくは10以上、より好ましくは11以上であり、上限は好ましくは13以下、より好ましくは12以下である。
【0048】
また、剥離剤として用いるアルカリ液の濃度は、用いるアルカリ液により異なるが、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.08質量%以上である。上限は特に限定されないが、所定値超となると溶解速度も飽和する。例えば、アンモニア水溶液である場合には、濃度の下限は0.01質量%以上であることが好ましく、より好ましくは0.08質量%以上である一方、上限は好ましくは10質量%以下、より好ましくは1質量%以下、0.5質量%以下、0.2質量%以下、0.1質量%以下である。
【0049】
本発明は、上述したように高速での溶解が可能であり、具体的には60nm膜厚/秒以上、100nm膜厚/秒以上、140nm膜厚/秒以上、170nm膜厚/秒以上の溶解速度が挙げられる。
【0050】
上記除去工程の後、必要に応じて各チップをダイシングシートから分離することで被加工ウエーハを完成することができる。その後、各チップをパッケージにマウントする、ボンディング、パッケージの封止等を任意に行って、半導体を完成させることができる。
【実施例
【0051】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0052】
[実施例1]
(保護膜組成物の調製)
スチレン無水マレイン酸共重合体(分子量:5500、商品名:SMA-1000、川原油化社製)4質量部を、4質量%のアンモニア水溶液90質量部に溶解させ、孔径0.4μmのフィルターにより濾過して、保護膜組成物を調製した。
【0053】
(保護膜の形成)
上記保護膜組成物をスピンコータで回転数を調整しながらシリコンウエーハ上に塗布し、100℃で30秒乾燥させ、膜厚110nmとなる保護膜を得た。
【0054】
[実施例2]
実施例1で得られた保護膜組成物をスピンコータで回転数を調整しながらシリコンウエーハ上に塗布し、100℃で30秒乾燥させ、膜厚170nmとなる保護膜を得た。
【0055】
[評価1]
実施例1、2で得られたシリコンウエーハ上の保護膜を、23℃の各種液(脱イオン水、5質量%のアンモニア水溶液(NHaq)、2.38質量%のテトラメチルアンモニウムヒドロキシド水溶液(TMAH))に浸漬し、保護膜の溶解性を評価した。
【0056】
実施例1及び実施例2の保護膜は、脱イオン水に対しては、膜減りがなく保護効果が高いことが確認された。一方、水系剥離剤となるアンモニア水溶液やテトラメチルアンモニウムヒドロキシド水溶液によっては、いずれも10秒以内に除去することが可能であることが確認された。
【0057】
[評価2]
実施例2で得られたシリコンウエーハ上の保護膜を、濃度及びpHが異なるアンモニア水溶液中(23℃)に浸漬し、保護膜の溶解試験を行った。その結果を図1に示す。
【0058】
図1の結果から、実施例2で得られた保護膜は、0.01質量%以上のアンモニア水溶液により除去可能であることが確認された。特に、0.08質量%アンモニア水溶液による溶解試験では、40nm膜厚/秒の溶解速度を得ることができ、0.1質量%アンモニア水溶液による溶解試験では、170nm膜厚/秒の溶解速度を得ることができ、それ以上の濃度のアンモニウム水溶液を用いても溶解速度はほぼ飽和することが確認された。
【0059】
[実施例3]
スチレン無水マレイン酸共重合体(分子量:9500、商品名:SMA-3000、川原油化社製)4質量部を、4質量%のアンモニア水溶液90質量部に溶解させ、孔径0.4μmのフィルターにより濾過して、保護膜組成物を調製した。そして、実施例1と同様に、スピンコータで回転数を調整しながらシリコンウエーハ上に塗布し、100℃で30秒乾燥させ、膜厚900nmとなる保護膜を得た。
【0060】
[比較例1]
特開2006-140311号公報の[0064]に記載のポリビニルアルコールを純水に溶解し固形分濃度10質量%の保護膜用組成物を得た。そして、実施例1と同様に、スピンコータで回転数を調整しながらシリコンウエーハ上に塗布し、100℃で30秒乾燥させ、膜厚1400nmとなる保護膜を得た。
【0061】
[比較例2]
有機溶剤剥離型のネガ系レジスト材料(商品名:OMR100、東京応化工業株式会社製)を、実施例1と同様に、スピンコータで回転数を調整しながらシリコンウエーハ上に塗布し、120℃で60秒乾燥、暴露(500mJ/cm(ghi線))し、膜厚1300nmとなる保護膜を得た。
【0062】
[評価4]
実施例3及び比較例1、2の保護膜を各種液(脱イオン水、5質量%のアンモニア水溶液(NHaq)、2.38質量%のテトラメチルアンモニウムヒドロキシド水溶液(TMAH))に23℃10分間浸漬し、各保護膜の溶解性をそれぞれ調べた。その結果を表1に示す。なお、表1中、評価基準は、下記の通りである。
◎:1秒以内に溶解しはじめる
〇:3秒以内に溶解しはじめる
×:溶解しない
【0063】
【表1】
【0064】
表1の結果から、実施例3の保護膜は、脱イオン水に対しては溶解せず耐水性に優れ、アンモニア水溶液やテトラメチルアンモニウムヒドロキシド水溶液に対しては溶解しやすく除去性に優れることが確認された。一方、比較例1の保護膜は、アンモニア水溶液やテトラメチルアンモニウムヒドロキシド水溶液に溶解するものの、脱イオン水にも溶解しやすく、耐水性が得られないことが確認された。また、比較例2の保護膜は、純水、アンモニア水溶液、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド水溶液のいずれにも溶解し難く、水系剥離剤による除去が困難であることが確認された。
図1