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特許7043731銅張積層基板とその製造方法、並びに配線基板
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  • 特許-銅張積層基板とその製造方法、並びに配線基板 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-22
(45)【発行日】2022-03-30
(54)【発明の名称】銅張積層基板とその製造方法、並びに配線基板
(51)【国際特許分類】
   C23C 28/00 20060101AFI20220323BHJP
   C23C 14/06 20060101ALI20220323BHJP
   H05K 1/03 20060101ALI20220323BHJP
【FI】
C23C28/00 B
C23C28/00 D
C23C14/06 A
H05K1/03 630J
H05K1/03 630H
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2017030407
(22)【出願日】2017-02-21
(65)【公開番号】P2018135561
(43)【公開日】2018-08-30
【審査請求日】2020-01-30
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123869
【弁理士】
【氏名又は名称】押田 良隆
(72)【発明者】
【氏名】浅川 吉幸
【審査官】▲辻▼ 弘輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-302756(JP,A)
【文献】特開2012-087323(JP,A)
【文献】特開2004-303863(JP,A)
【文献】国際公開第2012/108264(WO,A1)
【文献】特開2013-023745(JP,A)
【文献】特表2016-534222(JP,A)
【文献】特開2015-040324(JP,A)
【文献】特開2015-014028(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 28/00-28/04
C23C 14/00-14/58
H05K 1/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁体フィルムの少なくとも一方の表面に接着剤を介さずに備えられる下地層と、該下地層の表面に銅導体層を備えた銅張積層基板において、
前記絶縁体フィルムがポリイミドであり、
前記絶縁体フィルムの前記下地層側の表面が、イミド結合が切断され形成されたアミド結合と窒素原子を有する官能基を備え、
前記下地層が、窒素を18~22.6質量%含有する窒化チタンで、
前記下地層の膜厚が、5~300nmで
あることを特徴とする銅張積層基板。
【請求項2】
絶縁体フィルムの少なくとも一方の表面に、接着剤を介さずに備えられる窒化チタンの下地層と、該下地層の表面に銅導体層を備えた銅張積層基板の製造方法において、
前記下地層が、窒素を18~22.6質量%含有する窒化チタンで、且つ前記下地層の膜厚が、5~300nmであり、
前記絶縁体フィルムの下地層側の表面に、窒素ガスあるいは窒素ガスを2体積%以上含有する希ガスとの混合ガス雰囲気下で、印可電圧800V~2600Vでのプラズマ処理あるいは印加電圧600V~2600Vでのイオンビーム処理を実施して、前記絶縁体フィルムの下地層側の表面に、窒素原子を有する官能基を形成した後に前記下地層が設けられることを特徴とする銅張積層基板の製造方法。
【請求項3】
前記下地層の成膜が、乾式めっき法であること特徴とする請求項2に記載の銅張積層基板の製造方法。
【請求項4】
前記下地層を成膜する乾式めっき法が、スパッタリング法であり、かつ、窒化物ターゲットを用いることを特徴とする請求項3に記載の銅張積層基板の製造方法。
【請求項5】
絶縁体フィルムの少なくとも一方の表面に、接着剤を介さずに下地層を配し、前記下地層の表面に銅導体層を配する積層構造の配線が配される配線基板であって、
前記絶縁体フィルムがポリイミドであり、
前記絶縁体フィルムの前記下地層側の表面が、イミド結合が切断され形成されたアミド結合と窒素原子を有する官能基を備え、
前記下地層が窒素を18~22.6質量%含有する窒化チタンで、
前記下地層の膜厚が、5~300nmであることを特徴とする配線基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁体フィルムの少なくとも一方の表面に接着剤を介することなく下地層とその下地層の表面に形成される銅導体層との積層構造を備えた銅張積層基板と、その製造方法、並びに配線基板に関し、より具体的には、該下地層に窒化チタンを用いる銅張積層基板に関する。
【背景技術】
【0002】
フレキシブルなプリント配線基板は、絶縁体フィルム上に接着剤を用いて導体層となる銅箔を貼り合わせた3層銅張積層基板(例えば、特許文献1参照)と、絶縁体フィルム上に接着剤を用いることなしに乾式めっき法または湿式めっき法のメタライジング法により導体層となる銅被膜層を直接形成した2層銅張積層基板とに大別される。
【0003】
ところで、近年の電子機器の高密度化に伴い、狭ピッチ化した配線幅の配線基板が求められるようになり、銅張積層基板からエッチングなどの配線加工を経て配線基板を得るには、銅張積層基板に3層銅張積層基板に代えて、2層銅張積層基板が主に用いられている。
【0004】
この2層銅張積層基板は、絶縁体フィルムの少なくとも一方の表面に均一な厚みの銅被覆層が形成されるが、その手段としては、通常電気めっき法が採用される。そして、電気めっきを行うために、電気めっきの形成前に絶縁体フィルム上に薄い金属層を形成して表面全面に導電性を付与し、その上に電気めっきを行うのが一般的である(例えば、特許文献2参照)。尚、絶縁体フィルム上に形成される薄い金属層は、真空蒸着法、イオンプレーティング法などの乾式めっき法を用いて形成される。
【0005】
こうした中で、絶縁体フィルムと銅被覆層との密着性は、その界面にCuOやCuO等の脆弱層が形成されると非常に弱くなることから、プリント配線板に要求される銅導体層との密着強度を維持するため、絶縁体フィルムと銅被覆層との間に下地金属層として、ニッケル-クロム合金層を設けることが行われている(特許文献3参照)。
【0006】
現在のメタライジング法で製造される2層銅張積層基板では、下地金属層にニッケル-クロム合金を用いている。下地金属層にニッケル-クロム系合金を用いる利点は、ニッケル-20%クロム合金を用いた場合、ピール強度で150℃、168時間後の耐熱ピール強度が高いといった特徴がある。欠点としては、逆に絶縁との結合が強いためニッケル-クロム合金が絶縁体フィルムのポリイミド表面に残りやすく、もしも配線間に残った場合は、表面に残ったニッケルとクロムのうち、ニッケルがマイグレーションし絶縁抵抗が劣化し、場合によっては、ショートに至ってしまうという絶縁信頼性の問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平6-132628号公報
【文献】特開平8-139448号公報
【文献】特開平6-120630号公報
【文献】特開2015-101778号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、メタライジング法で製造される2層銅張積層基板で下地金属層にニッケル-クロム合金を用いた問題を解決するために、下地金属層にニッケル-クロム合金を用いる代わりに下地層として窒化チタンを用いて、高いピール強度と絶縁信頼性を向上させた銅張積層基板を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1の発明は、絶縁体フィルムの少なくとも一方の表面に接着剤を介さずに備えられる下地層と、該下地層の表面に銅導体層を備えた銅張積層基板において、前記絶縁体フィルムがポリイミドであり、前記絶縁体フィルムの前記下地層側の表面が、イミド結合が切断され形成されたアミド結合と窒素原子を有する官能基を備え、前記下地層が、窒素を18~22.6質量%含有する窒化チタンで、前記下地層の膜厚が、5~300nmであることを特徴とする銅張積層基板である。
【0010】
本発明の第2の発明は、絶縁体フィルムの少なくとも一方の表面に、接着剤を介さずに備えられる窒化チタンの下地層と、該下地層の表面に銅導体層を備えた銅張積層基板の製造方法において、その下地層が、窒素を18~22.6質量%含有する窒化チタンで、且つ前記下地層の膜厚が、5~300nmであり、その絶縁体フィルムの下地層側の表面に、窒素ガスあるいは窒素ガスを2体積%以上含有する希ガスとの混合ガス雰囲気下で、印可電圧800V~2600Vでのプラズマ処理あるいは印加電圧600V~2600Vでのイオンビーム処理を実施して、前記絶縁体フィルムの下地層側の表面に、窒素原子を有する官能基を形成した後に前記下地層が設けられることを特徴とする銅張積層基板の製造方法である。
【0011】
本発明の第3の発明は、第2の発明における下地層の成膜が、乾式めっき法であること特徴とする銅張積層基板の製造方法である。
【0012】
本発明の第4の発明は、第3の発明における下地層を成膜する乾式めっき法が、スパッタリング法であり、かつ、窒化物ターゲットを用いることを特徴とする銅張積層基板の製造方法である。
【0013】
本発明の第5の発明は、絶縁体フィルムの少なくとも一方の表面に、接着剤を介さずに下地層を配し、前記下地層の表面に銅導体層を配する積層構造の配線が配される配線基板であって、前記絶縁体フィルムがポリイミドであり、前記絶縁体フィルムの前記下地層側の表面が、イミド結合が切断され形成されたアミド結合と窒素原子を有する官能基を備え、前記下地層が窒素を18~22.6質量%含有する窒化チタンで、下地層の膜厚が、5~300nmであることを特徴とする配線基板である。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る銅張積層基板は、下地層に窒化チタンを用いることで、上記課題を解決し、密着性が高く、かつ絶縁信頼性の高い銅導体層を形成した銅張積層基板を得ることができる。また、この基板を使用することによって、密着性が高い配線部を有する信頼性の高い狭幅、狭ピッチの配線部を持った配線基板を効率よく得ることができる。従って、産業上、その効果は大きい。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明に係る銅張積層基板の連続製造に適したロールツーロールスパッタリング装置の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明に係る銅張積層基板は、絶縁体フィルムの少なくとも一方の表面に、接着剤を介さずに窒化チタンの下地層を備え、その下地層の表面に所望の厚みの銅導体層を備えた銅張積層基板である。
【0017】
(1)絶縁体フィルム
絶縁体フィルムは、電気絶縁性を備えたフィルムであればよく、樹脂フィルムを用いることが望ましい。本発明で用いることができる絶縁体フィルムには、ポリイミドフィルム、ポリアミドフィルム、ポリエチレンテレフタレート(PET)やポリエチレンテレナフタレート(PEN)等のポリエステル系フィルム、ポリテトラフルオロエチレン系フィルム、ポリフェニレンサルファイド系フィルム、ポリエチレンナフタレート系フィルム、もしくは液晶ポリマー系フィルムから選ばれた絶縁樹脂フィルムを耐熱性、誘電体特性、電気絶縁性や配線基板の製造工程や次工程での耐薬品性等を考慮し用途に応じて適宜選択できる。このうち、ポリイミドフィルムは、電気絶縁性や耐熱性さらには耐薬品性の観点から望ましい。
また、絶縁体フィルムの厚みは、取扱いや柔軟性の観点から10μm~100μmが望ましい。
【0018】
(2)下地層
本発明に係る銅張積層基板では、下地層に窒素を18~22.6質量%含有する窒化チタンを用いる。これまで広く知られた銅張積層基板では下地層にニッケル-クロム合金を用いているが、銅張積層基板を配線基板へ加工する際には、絶縁体フィルムに残留するニッケルの完全な除去が望ましい。そこで、ニッケルを含まない下地層はいくつか提案されているが、配線間の電気化学反応に起因する酸化還元反応を発生し難く、電気化学的な腐食であるマイグレーション耐性による絶縁信頼性を備えたチタン系の下地層は有望である。
【0019】
ところが、金属チタンを下地層として成膜する場合には、金属チタンは非常に活性であり、スパッタリング中の微量の酸素によって、酸化を受けやすく、酸化してしまうとピール強度の劣化(特に耐熱ピール強度)が著しいという問題がある。
【0020】
また、通常では銅張積層基板の製造過程で、絶縁体フィルムと下地層との密着性、すなわちピール強度を改善する為に、絶縁体フィルム表面に存在する絶縁体フィルムの分子が未硬化のオリゴマー等を含む脆弱層の除去と、該脆弱層を除去された絶縁体フィルムを構成する高分子に酸素官能基等を導入する酸素プラズマ処理が行われている。
【0021】
例えば、絶縁体フィルムのポリイミドフィルムに酸素プラズマ処理等で酸素原子を有する官能基を形成し、ニッケル-クロム系合金との結合を高める処理が施される。しかし、チタン系下地層の場合はこの酸素プラズマ処理も、絶縁体フィルムに導入される酸素を含む官能基により、下地層が成膜中に酸化されピール強度劣化の原因になる。なお、下地層の酸化の分析は、XPS分析(X-ray Photoelectron Spectroscopy)やオージェ電子分析等から観測される化学シフトから酸素原子とチタン原子の結合から知ることができる。
【0022】
本発明の銅張積層基板では、下地層のチタンは酸素と結合していないことが必要である。
そこで、本発明に係る銅張積層基板では、下地層の成膜の前に絶縁体フィルムの表面に窒素原子を有する官能基を形成し、酸化を防ぐことが望ましい。
ここで、絶縁体フィルムへのポリイミドフィルムを例に説明すると、ポリイミド分子のイミド結合を構成する窒素原子の環状の結合の一方の結合が切断されてアミド結合が生じるのと同時に、イミド結合が切断された他方に窒素原子が導入され、導入された窒素原子がアミノ基となるのである。
絶縁体フィルムの表面に窒素原子を有する官能基を導入するには雰囲気が、窒素ガスあるいは窒素ガスを2体積%以上含有する希ガスとの混合ガスを用いてプラズマ処理あるいはイオンビーム処理を行うことが望ましい。ここで、希ガスとは、アルゴン、キセノン、クリプトン、ヘリウムであり、入手可能性からアルゴンが望ましい。
【0023】
雰囲気ガスの圧力制御の観点からプラズマ処理よりもイオンビーム処理が望ましい。プラズマ処理では印加電圧800V~2600V、イオンビーム処理では印加電圧600V~2600Vを印加すれば、絶縁体フィルムの脆弱層の除去と窒素原子を有する官能基を導入することができる。印加電圧は、絶縁体フィルムの特性を考慮して適宜選択すればよい。
【0024】
下地層の成膜は、乾式めっき法で成膜され、乾式めっき法のうちスパッタリング法が望ましい。この下地層のスパッタリング成膜は、スパッタリングカソードに金属チタンターゲットを備え、スパッタリングガスのアルゴンなどの希ガスに窒素ガスを添加した反応性スパッタリングで成膜することも可能である。さらに、窒化チタンターゲットを用いて成膜することがより望ましく、窒化チタンターゲットを用いると、スパッタリング装置に吸着していた酸素や水などがスパッタリング雰囲気に放出されても下地層の酸化を防ぐことができる。
【0025】
下地層の膜厚は5~300nmが望ましい。
下地層の膜厚が5nm未満では、緻密な下地層を成膜できず、薄いと膜としても存在できず、島状の析出物となり、最終的に得られる銅張積層基板や配線基板の耐食性が低くなり、酸素の影響で酸化が進行する。一方、下地層の膜厚が300nmを超えると配線加工の際のエッチングによる下地層の除去が困難となる。
【0026】
下地層の窒化チタンの組成は18~22.6質量%の窒素を含む。窒化チタンの窒素の含有率が18~22.6質量%であれば、最終的に得られる銅張積層基板や配線基板を大気中で150℃で熱処理しても下地層が変質することはない。
【0027】
(3)銅導体層
本発明に係る銅張積層基板では、下地層の表面に銅導体層が形成される。銅導体層は、膜厚1~20μmが望ましい。
銅導体層は、下地層の表面に成膜される銅薄膜層と銅電気めっき層の積層構造としてもよい。銅薄膜層は膜厚50nm~1000nmが望ましい。銅薄膜層は、スパッタリング法や蒸着法などの乾式めっき法で成膜することができる。
窒化チタンの下地層の表面に銅薄膜層を設けるのは、導電性を備える窒化チタンの下地層であっても、下地層が5nm~100nmでは下地層の抵抗値が高いので、その表面に電気めっき法で銅導体層の銅電気めっき層を設けることが難しい。そこで、下地層が100nm以下の場合、下地層の表面には銅薄膜層を設けることが望ましい。一方、下地層の膜厚により銅薄膜層を省略できる場合は、下地層と銅導体層の銅電気めっき層が積層された銅張積層基板となる。
【0028】
銅電気めっき層は、銅薄膜層の表面に電気めっき法により成膜することができる。電気めっきは公知の銅電気めっき浴等を用いて公知の電気めっき方法で成膜できる。
銅薄膜層と銅電気めっき層の膜厚の合計が1~20μmとなればよい。
【0029】
(4)銅張積層基板の製造方法
本発明に係る銅張積層基板の製造方法の一例は、絶縁体フィルムの少なくとも一方の表面に下地層と必要に応じて銅薄膜層を乾式めっき法で成膜し、その後、公知の銅電気めっきで銅導体層の銅電気めっき層が形成されて、完成する。
【0030】
図1は、銅張積層基板の連続製造に適したロールツーロールスパッタリング装置10の一例である。ロールツーロールスパッタリング装置10で下地層と銅薄膜層を成膜する手順を説明する。
ロールツーロールスパッタリング装置10は、その構成部品のほとんどを収納した直方体状の筐体11を備えている。
筐体11は円筒状でも良く、その形状は問わないが、10-4Pa~1Paの範囲に減圧された状態を保持できれば良い。
【0031】
この筐体11内には、長尺の絶縁体フィルム基板であるポリイミドフィルムFを、供給する巻出ロール12、ガイドロール13a、13b、13c、13d、13f、13g、13h、13i、13j、キャンロール14、イオン照射源15、前フィードロール16a、キャンロール17、スパッタリングカソード18a、18b、18c、18d、後ろフィードロール16b、巻取ロール19が格納されている。また、ガイドロール13f、13gには絶縁体フィルムの搬送張力を測定する張力センサーが備わる。巻出ロール12、キャンロール14、キャンロール17、前フィードロール16a、巻取ロール19にはサーボモータによる動力を備える。巻出ロール12、巻取ロール19は、パウダークラッチ等によるトルク制御によって長尺の絶縁体フィルムであるポリイミドフィルムFの張力バランスが保たれるようになっている。
【0032】
スパッタリングカソード18a~18dは、マグネトロンカソード式でキャンロール17に対向して配置される。スパッタリングカソード18a~18dのポリイミドフィルムFの巾方向の寸法は、ポリイミドフィルムFの巾より広ければよい。
【0033】
ポリイミドフィルムFは、キャンロール14に対向して配されるイオン照射源15により絶縁体フィルムであるポリイミドフィルムFの表面に窒素原子を有する官能基が形成される。そのため、イオン照射源には、希ガスに窒素ガスが添加された混合ガスが供給される。ここで、プラズマ処理で窒素原子を有する官能基の導入を行う場合、イオン照射源15に替えてプラズマ照射手段を配置してプラズマ処理を実施する。
【0034】
ポリイミドフィルムFは、ロールツーロールスパッタリング装置10内を搬送されて、キャンロール17に対向するスパッタリングカソード18a~18dで成膜され、下地層が成膜され下地層付ポリイミドフィルムF2に加工される。例えば、スパッタリングカソード18aには窒化チタンターゲットを、スパッタリングカソード18b、18c、18dには銅ターゲットを装着して、窒化チタンの下地層の表面に銅薄膜層が製膜された下地層付ポリイミドフィルムF2となる。勿論、スパッタリングカソード18a~18dの全てに窒化チタンターゲットを装着し、下地層のみを成膜した下地層付ポリイミドフィルムF2とすることもできる。
【0035】
窒化チタンの下地層は、スパッタリングガスのアルゴンに窒素ガスを添加した雰囲気で反応性スパッタリングで成膜されることも可能である。
キャンロール14、17は、その表面が硬質クロムめっきで仕上げられ、その内部には筐体12の外部から供給される冷媒や温媒が循環し、略一定の温度に調整される。
【0036】
また、下地層をスパッタリングで成膜した後に、銅薄膜層を蒸着法で成膜しても良い。
ロールツーロールスパッタリング装置10で成膜され、得られた下地層付ポリイミドフィルムを公知のロールツーロール連続電気めっき装置で銅電気めっき層を成膜すれば、銅張積層基板は完成する。
なお、ロールツーロールスパッタリング装置10は、長尺の絶縁体フィルムに連続してプラズマ処理またはイオンビーム処理、次いで、下地層成膜を連続して行うことができる。勿論、連続した処理ではなく、真空チャンバー内で枚葉式にプラズマ処理やイオンビーム処理から下地層の成膜を行ってもよい。
【0037】
(5)配線基板
本発明に係る銅張積層基板は、公知のセミアディティブ法や公知のサブトラクティブ法で配線加工することができる。
サブトラクティブ法とは、銅張積層基板の銅導体層の表面に、銅導体層等を除去したい個所のレジスト層に開口部を設けて、開口部により露出している不要な銅導体層と下地層を、エッチングなどで除去する方法である。その銅導体層のエッチング除去には塩化第二鉄水溶液などを用いることができ、下地層の除去には、特許文献4に開示される過酸化水素とフッ化物イオン供給源とホスホノブタントリカルボン酸とアゾール化合物を含むエッチング液や塩酸と硫酸と芳香族スルホン酸の混合液系のエッチング液やアンモニアと過酸化水素を含むエッチング液を用いることができる。
【0038】
一方、セミアディティブ法は、銅張積層基板の銅導体層の表面に配線パターンを形成したい箇所に、レジスト層の開口部(図示せず)を設け、その開口部によって、露出している銅導体層を陰極として電気銅めっきして所望の膜厚の配線部を形成した後、レジスト層を除去して、フラッシュエッチングなどで配線部以外の前記銅張積層基板の下地層と銅導体層を除去することにより、配線板を完成させる方法ものである。その銅導体層の除去には市販のセミアディティブ方法の銅の除去液を用いることができ、下地層の除去は、サブトラクティブ法と同様の塩酸と硫酸と芳香族スルホン酸の混合液系のエッチング液を用いることができる。
【0039】
これまで本発明に係る銅張積層基板を説明してきた。本発明に係る銅張積層基板は絶縁体フィルム表面に窒素原子を有する官能基を形成し、酸化を防ぐこと、スパッタリング中のTiの酸化を防ぎかつ、ポリイミドフィルムとの反応によって酸素と結合することを防ぎ、銅張積層基板の密着性を向上させている。さらには、配線加工後に絶縁体フィルムの表面に残留しやすいニッケル系合金を下地層に用いないので、ニッケルの残留の無い耐マイグレーション性に優れた銅張積層基板とその銅張積層基板から得られる配線基板を提供する事が可能になる。
【実施例
【0040】
以下に、本発明の実施例を比較例とともに説明する。特性評価は以下に示す各測定方法で行った。
[ピール強度]
ピール強度は、IPC-TM-650、NUMBER2.4.9に準拠した測定方法で行った。ただし、リード幅は1mmとし、ピールの角度は90°とした。
試験試料の作製は、リードのエッチングには塩化第二鉄エッチング液と、下地層の除去する塩酸と硫酸と芳香族スルホン酸の混合液系のエッチング液を用い、サブトラクティブ法で形成し、得られた試料の室温での90°ピール強度(常態ピール強度)を測定後、試料の一部をオーブンに収納しその後、150℃で168時間放置し、取り出し、室温になるまで放置したのち、90°ピール強度の耐熱性(耐熱ピール強度[IPC-TM-650、NUMBER2.4.9に準拠])を評価した。
【0041】
[HHBT試験]
電気化学的な耐腐食性の指標であり耐環境試験であるHHBT(High Temperature High Humidity Bias Test)試験は、試験片にサブトラクトラクティブ法によって形成した30μmピッチ(ライン/スペース=15/15μm)の櫛歯試験片を用いた。エッチングには塩化第二鉄エッチング液と下地層の除去の塩酸と硫酸と芳香族スルホン酸の混合液系のエッチング液(株式会社ADEKA製SX-621)で行った。
【0042】
測定は、JPCA-ET04に準拠し、85℃、85%R.H.環境下で、DC60Vを端子間に通電し、通電後1000時間の抵抗変化を観察する。抵抗が10Ω以下になった時点でショート不良と判断し、1000時間の経過後も10Ω以上であれば合格と判断した。
【0043】
[耐腐食性評価]
次に、耐腐食性の指標としては、裏面変色が挙げられるが、これは、HHBT試験後のサンプルの裏面観察によって行った。
著しい変色が見られた場合、不良「×」と判断し、変色が見られないか、軽微な場合までを、合格「○」と判断した。
【実施例1】
【0044】
厚み38μmのポリイミドフィルム(東レ・ディユポン社製、製品名「カプトン150EN」)を12cm×12cmの大きさに切り出し、真空チャンバー内に載置した。そのポリイミドフィルムの片面を99.995wt%の純度の窒素ガス雰囲気下、2000Vの電圧でプラズマ処理を行った。その後、20質量%の窒素を含む窒化チタンターゲットを装着したスパッタリングカソードで、ポリイミドフィルム上に下地層を20nmの厚みに形成し、その下地層の表面に銅ターゲットを装着した別なスパッタリングカソードで銅薄膜層を200nmの厚みに形成して下地層付ポリイミドフィルムを得た。
ついで、得られた下地層付ポリイミドフィルムを真空チャンバーから取出し、pH1の硫酸銅電気めっき浴を用いた電気めっき法にて、銅薄膜層の表面に銅電気めっき層を8μmまで形成して実施例1に係る銅張積層基板を得た。
【0045】
得られた銅張積層基板からサブトラクティブ法によって、ピール強度試験用試料及びHHBT試験用の櫛歯試験片を作製し、各試験に供した。
その結果を表1に纏めた。
【実施例2】
【0046】
実施例1の銅張積層基板において、窒化チタンの下地層の膜厚を300nmとしたこと、下地層の表面に銅薄膜層を設けない、下地層付ポリイミドフィルムを得たことと、この下地層の表面に銅電気めっき層を膜厚8μmに成膜した以外は、実施例1と同様の条件で製造して実施例2に係る銅張積層基板を得、その銅張積層基板を、実施例1と同様に評価した。
その試験結果を表1に纏めて示した。
なお、実施例2の銅張積層基板では、下地層のTiN層は導電性を有するため、直接銅めっき層を形成することも可能であり、工程上のメリットとなりうる。
【0047】
(比較例1)
実施例1の銅張積層基板の作製において、プラズマ処理の雰囲気を99.995wt%の純度の窒素ガスに99.995wt%の純度の酸素ガスを10vol%含む混合ガスを用いた以外は実施例1と同様の条件にて、比較例1に係る銅張積層基板を作製した。その得られた比較例1に係る銅張積層基板を実施例1と同様に評価し、表1に纏めて示した。また、耐熱ピール強度測定後、剥離されたリードについて絶縁体フィルムとの剥離面をオージェ電子分析したところ酸化チタンのスペクトルが確認された。
【0048】
(比較例2)
実施例1の銅張積層基板の作製において、プラズマ処理の雰囲気を99.995wt%の純度の窒素ガスに99.995wt%の純度の酸素ガスを10vol%含む混合ガスを用いたことと、下地層にチタンターゲットをスパッタリングカソードで成膜したこと以外は実施例1と同様の条件にして比較例2に係る銅張積層基板を作製した。すなわち、比較例2に係る銅張積層基板は、下地層が膜厚20nmのチタンの層である。
作製した比較例2に係る銅張積層基板の各特性を評価し、表1に結果を纏めて示した。また、比較例1と同様に、耐熱ビープ強度の測定後の剥離されたリードについて絶縁体フィルムとの剥離面をオージェ電子分析したところ酸化チタンのスペクトルが確認された。
【0049】
【表1】
【0050】
なお、本実施例においては、サブトラクティブ法によってポリイミドフィルムの片面に配線パターンを有する基板から得られた片面フレキシブル配線板についての作製例を示したが、絶縁体フィルムの両面に配線部を有する両面フレキシブル配線板、あるいはセミアディティブ法により作製された片面または両面フレキシブル配線板についても同様の優れた結果が得られている。
【符号の説明】
【0051】
10 ロールツーロールスパッタリング装置
11 筐体
12 巻出ロール
13a~13j ガイドロール
14、17 キャンロール
15 イオン照射源
16a 前フィードロール
16b 後ろフィードロール
18a~18d スパッタリングカソード
19 巻取ロール
F ポリイミドフィルム
F2 下地層付ポリイミドフィルム
図1