(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-22
(45)【発行日】2022-03-30
(54)【発明の名称】光ファイバ入りトロリ線の架線方法
(51)【国際特許分類】
B60M 1/28 20060101AFI20220323BHJP
【FI】
B60M1/28 N
(21)【出願番号】P 2017217532
(22)【出願日】2017-11-10
【審査請求日】2020-06-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002583
【氏名又は名称】特許業務法人平田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】蛭田 浩義
(72)【発明者】
【氏名】安部 英則
(72)【発明者】
【氏名】田村 和彦
【審査官】冨永 達朗
(56)【参考文献】
【文献】実開昭63-072241(JP,U)
【文献】特開2000-001134(JP,A)
【文献】特開2004-034800(JP,A)
【文献】特開2014-012504(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60M 1/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トロリ線本体と、前記トロリ線本体に内蔵された摩耗検知用の光ファイバと、を有する光ファイバ入りトロリ線の架線方法であって、
延線車両に設置され、前記光ファイバ入りトロリ線が横巻きされているドラムから前記光ファイバ入りトロリ線を送り出して架線する架線工程と、
架線後に除去される前記光ファイバ入りトロリ線の余長部分に対して、前記ドラムへの横巻きにより前記光ファイバ入りトロリ線に付与される曲げと反対方向の曲げを付与する工程と、を含
み、
前記曲げを付与する工程では、前記ドラムへの巻き癖と反対方向の曲がり癖が付与されるように矯正器により曲げを付与することで、前記光ファイバ入りトロリ線の余長部分が前記架線工程において架線された前記光ファイバ入りトロリ線の水平位置よりも上方に向かって反る
光ファイバ入りトロリ線の架線方法。
【請求項2】
前記曲げを付与する工程では、前記光ファイバ入りトロリ線に曲率半径500mm以上1100mm以下の曲げを付与する、
請求項
1に記載の光ファイバ入りトロリ線の架線方法。
【請求項3】
前記曲げを付与する工程では、前記光ファイバ入りトロリ線の端末が前記ドラムに巻き付けられ張力が付与されている状態で曲げを付与する、
請求項
1または2に記載の光ファイバ入りトロリ線の架線方法。
【請求項4】
前記曲げを付与する工程では、前記光ファイバ入りトロリ線の端末から5m以内の位置にて曲げを付与する、
請求項1乃至
3の何れか1項に記載の光ファイバ入りトロリ線の架線方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバ入りトロリ線の架線方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両が走行する空間の上部に架線されるトロリ線として、トロリ線本体と、トロリ線本体に内蔵された摩耗検知用の光ファイバと、を有する光ファイバ入りトロリ線が知られている。光ファイバ入りトロリ線では、トロリ線本体の摩耗が進行すると光ファイバが破断される。よって、光ファイバの破断を検知することで、トロリ線本体の摩耗を検知することができる。
【0003】
トロリ線の張り替え作業を行う場合などに用いられる従来のトロリ線の架線方法として、例えば、特許文献1の方法がある。特許文献1では、延線車両に設置されたドラムからトロリ線を送り出しつつ架線作業を行う方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、光ファイバ入りトロリ線は、波状摩耗対策のために、横巻された形状でドラムに巻かれている。そして、横巻された形状でドラムに巻かれた状態の光ファイバ入りトロリ線において、光ファイバは、圧縮ひずみや伸びひずみが生じている状態でトロリ線本体に内蔵されている。光ファイバ入りトロリ線の架線作業を行う際には、光ファイバに生じていた圧縮ひずみが伸びひずみに、伸びひずみが圧縮ひずみに変換されることになるが、この際、トロリ線本体に内蔵された光ファイバに生じる伸びひずみが大きくなり過ぎてしまう場合がある。光ファイバに生じる伸びひずみが大きくなり過ぎると、光ファイバの寿命が短くなり、光ファイバに早期に断線が生じてしまうおそれが生じる。
【0006】
そこで、本発明は、光ファイバに生じる伸びひずみを抑制可能な光ファイバ入りトロリ線の架線方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決することを目的として、トロリ線本体と、前記トロリ線本体に内蔵された摩耗検知用の光ファイバと、を有する光ファイバ入りトロリ線の架線方法であって、延線車両に設置され、前記光ファイバ入りトロリ線が横巻きされているドラムから前記光ファイバ入りトロリ線を送り出して架線する架線工程と、架線後に除去される前記光ファイバ入りトロリ線の余長部分に対して、前記ドラムへの横巻きにより前記光ファイバ入りトロリ線に付与される曲げと反対方向の曲げを付与する工程と、を含む、光ファイバ入りトロリ線の架線方法を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、光ファイバに生じる伸びひずみを抑制可能な光ファイバ入りトロリ線の架線方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】光ファイバ入りトロリ線の長手方向に垂直な断面を示す断面図である。
【
図3】光ファイバ入りトロリ線のドラムへの横巻きを説明する説明図である。
【
図4】(a)~(c)は、本発明の一実施の形態に係る光ファイバ入りトロリ線の架線方法を説明する説明図である。
【
図5】真直器による光ファイバ入りトロリ線への曲げの付加を説明する説明図である。
【
図6】内側光ファイバにおけるひずみの分布を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[実施の形態]
以下、本発明の実施の形態を添付図面にしたがって説明する。
【0011】
(光ファイバ入りトロリ線の説明)
図1は、光ファイバ入りトロリ線の長手方向に垂直な断面を示す断面図である。
【0012】
図1に示すように、光ファイバ入りトロリ線1は、トロリ線本体2と、トロリ線本体2に内蔵された摩耗検知用の光ファイバ3と、を有している。
【0013】
トロリ線本体2は、異形丸形のトロリ線であり、上部の小弧面21、下部の大弧面22、両側部の小弧面21と大弧面22の間のV字状のイヤー溝23と、大弧面22の底部から所定の距離の位置にトロリ線本体2の長手方向に沿って設けられた線上の摩耗検知線用溝24とを有する。トロリ線本体2は、例えば、JISE2101、EN50149に規定されたみぞ付硬銅トロリ線に該当する。
【0014】
トロリ線本体2は、銅合金、例えば、Cu-Sn-In系合金又はCu-Sn系合金を主成分とする。具体的に、トロリ線本体2は、錫(Sn)が0質量%超0.6質量%以下、インジウム(In)が0質量%超0.1質量%以下で含有され、残部が銅及び不可避不純物からなるCu-Sn-In系合金、又は錫(Sn)が0質量%超0.3質量%以下で含有され、残部が銅及び不可避不純物からなるCu-Sn系合金で構成されることが好ましい。トロリ線本体2の公称断面積は、例えば150mm2(150SQ)以上かつ170mm2(170SQ)以下である。
【0015】
光ファイバ入りトロリ線1を介して、例えば高速で走行する新幹線などの鉄道車両からなる電気車に給電が行われる際には、トロリ線本体2の大弧面22の底部が、パンタグラフ等の電気車の集電装置に接触する。このため、集電装置の摺動により、トロリ線本体2は大弧面22の底部から摩耗する。摩耗が進むと、設定された摩耗限度位置26に達する前に摩耗検知線としての光ファイバ3が断線し、断線検知システムが作動して、トロリ線本体2が限界に近いところまで摩耗していることが検知される。
【0016】
摩耗検知線用溝24は、その上端の位置がトロリ線本体2の摩耗限度位置26に一致するような位置に設けられる。
図1に示される例では、トロリ線本体2の中心線27の両側に1つずつ、計2つの摩耗検知線用溝24が設けられ、それら2つの摩耗検知線用溝24の各々に摩耗検知線として光ファイバ3が配置されている。2つの光ファイバ3を用いることにより、偏摩耗が生じた場合にも摩耗を検知することができる。
【0017】
(架線の構成の説明)
図2は、光ファイバ入りトロリ線1を含む架線の構成の一例を示す模式図である。
【0018】
図2に示すように、光ファイバ入りトロリ線1は、図示しない鉄道車両が走行する線路100の上方の空間に架設される。ここでは、一例として、架線の構成がコンパウンドカテナリー方式である場合を説明する。なお、架線の構成は、シンプルカテナリー方式であってもよい。
【0019】
コンパウンドカテナリー方式では、吊架線11からドロッパ12により補助吊架線13を吊り下げ、補助吊架線13からハンガ14により光ファイバ入りトロリ線1を吊り下げた構成となっている。補助吊架線13と光ファイバ入りトロリ線1はそれぞれ引留クランプ15,16の一端に固定され、引留クランプ15,16の他端が、それぞれターンバックル17,18を介してヨーク金具19に連結されている。ヨーク金具19は、補助吊架線13と光ファイバ入りトロリ線1の張力のバランスをとる役割を果たしている。
【0020】
(架線時に光ファイバ3の伸びひずみが大きくなることの説明)
図3に示すように、光ファイバ入りトロリ線1は、ドラム31に横巻きされている。すなわち、光ファイバ入りトロリ線1は、その中心線27がドラム31の回転軸と略平行になるようにドラム31に巻き回されている。そのため、ドラム31の径方向において中心線27よりも内側に位置する一方の光ファイバ3(内側光ファイバ3aと呼称する)には、圧縮ひずみが加わった状態となり、中心線27よりも径方向外側に位置する他方の光ファイバ3(外側光ファイバ3bと呼称する)には、伸びひずみが加わった状態となる。
【0021】
より詳細には、例えば、全長1000mの光ファイバ入りトロリ線1をドラム31に横巻きする場合を考えると、内側光ファイバ3aを配置する経路の経路長は1000mよりも短く、例えば990mとなる。光ファイバ入りトロリ線1をドラム31に巻き付ける際に内側光ファイバ3aの一部が軸方向に突出するものの、摩耗検知線用溝24の内周面との摩擦の影響や、摩耗検知線用溝24内での蛇行により、実際の経路長よりも長い、例えば995mの内側光ファイバ3aが光ファイバ入りトロリ線1に含まれる。このように、例えば990mの経路に995mの内側光ファイバ3aが収容されていることになり、光ファイバ入りトロリ線1をドラム31に横巻きした状態においては、内側光ファイバ3aには、圧縮ひずみが加わった状態になる。
【0022】
同様に、外側光ファイバ3を配置する経路の経路長は1000mよりも長く、例えば1010mとなる。光ファイバ入りトロリ線1をドラム31に巻き付ける際に外側光ファイバ3bの一部がトロリ線本体2に引き込まれるものの、摩耗検知線用溝24の内周面との摩擦の影響により、実際の経路長よりも短い、例えば1005mの外側光ファイバ3bが光ファイバ入りトロリ線1に含まれる。このように、例えば1010mの経路に1005mの外側光ファイバ3bが収容されていることになり、光ファイバ入りトロリ線1をドラム31に横巻きした状態においては、外側光ファイバ3bには、伸びひずみが加わった状態になる。
【0023】
ドラム31から光ファイバ入りトロリ線1を延出して架線作業を行うと、両光ファイバ3a,3bの経路長が共に1000mの長さになる。しかしながら、内側光ファイバ3aは、例えば995mしか収容されていないため、架線作業を行い経路長が1000mになると、伸びひずみが加わった状態になる。同様に、外側光ファイバ3bは、例えば1005m収容されているため、架線作業を行い経路長が1000mになると、圧縮ひずみが加わった状態になる。このように、内側光ファイバ3aは、ドラム31に横巻きされた状態では圧縮ひずみが加わっているが、架線作業を行うと伸びひずみが加わった状態になる。外側光ファイバ3bは、ドラム31に横巻きされた状態では伸びひずみが加わっているが、架線作業を行うと圧縮ひずみが加わった状態になる。
【0024】
したがって、特に内側光ファイバ3aにおいて、架線時に伸びひずみが大きくなりすぎると、寿命低下の原因となってしまう。詳細は後述するが、本実施の形態では、架線後に除去される光ファイバ入りトロリ線1の余長部分に内蔵される光ファイバ3(内側光ファイバ3a)を、光ファイバ入りトロリ線1の架線部分に引き込ませることで、光ファイバ3に生じる伸びひずみが過大となることを抑制している。以下、光ファイバ入りトロリ線1の架線方法について詳細に説明する。
【0025】
(光ファイバ入りトロリ線1の架線方法の説明)
図4(a)~(c)は、本実施の形態に係る光ファイバ入りトロリ線の架線方法を説明する説明図である。本実施の形態に係る光ファイバ入りトロリ線の架線方法は、準備工程と、架線工程と、曲げを付与する工程と、端末処理工程と、を含んでいる。以下、各工程について詳細に説明する。
【0026】
(準備工程)
準備工程では、所定の長さ(例えば、1000m~1800m程度の長さ)の光ファイバ入りトロリ線1が横巻きされているドラム31を、架線作業を行うための延線車両32に設置する。
【0027】
(架線工程)
架線工程では、
図4(a)に示すように、延線車両32に設置されたドラム31から所定の速度で光ファイバ入りトロリ線1を順次送り出し、線路100の上方の空間部分に架線を行う。光ファイバ入りトロリ線1の架線始めには、ドラム31に巻かれている光ファイバ入りトロリ線1の始端部分(送り出し始めの端末から5m程度までの部分)を、架線後に除去される光ファイバ入りトロリ線1の余長部分として架線せずに確保する。次いで、余長部分として確保した以降の光ファイバ入りトロリ線1をドラム31から順次送り出して架線する。光ファイバ入りトロリ線1の架線終わりには、ドラム31に巻かれている光ファイバ入りトロリ線1の終端部分(送り出し終わりの端末から5m程度の部分)を、架線後に除去される光ファイバ入りトロリ線1の余長部分(後述する余長部分1a)として架線せずに確保する。なお、
図4では、一例として、旧トロリ線10が既に架線されており、この旧トロリ線10を光ファイバ入りトロリ線1に張り替える場合について示している。光ファイバ入りトロリ線1は、その中心線27が略鉛直方向に沿うように架線される。ドラム31に横巻きされた状態では、光ファイバ入りトロリ線1は、その中心線27が略水平方向に沿うように配置されているため、架線工程においては、ドラム31から延出された光ファイバ入りトロリ線1は、その中心軸(横断面視における中心)まわりに略90度回転されつつ(捩れさせつつ)架線されることになる。
【0028】
(曲げを付与する工程)
曲げを付与する工程では、架線後に除去される光ファイバ入りトロリ線1の余長部分に対して、ドラム31への横巻きにより光ファイバ入りトロリ線1に付与される曲げと反対方向の曲げを付与する。
図4では、一例として、光ファイバ入りトロリ線1の終端部分に確保した余長部分1aに対して、曲げを付与する場合について説明する。なお、以下に説明する曲げを付与する工程は、光ファイバ入りトロリ線1の始端部分(送り出し始めの端末から5m程度までの部分)で確保した余長部分にも同様に行う。
【0029】
具体的には、まず、架線工程により光ファイバ入りトロリ線1の架設が行われた後、光ファイバ入りトロリ線1の余長部分1aをドラム31から引き出す。その後、
図4(b)に示すように、光ファイバ入りトロリ線1がドラム31に巻き付けられ張力が付与されている状態で、矯正器としての真直器33により光ファイバ入りトロリ線1に曲げを付与する。
【0030】
曲げを付与する工程では、余長部分1aの端末から所定距離までの範囲において、1か所以上曲げを付与するとよい。また、曲げを付与する工程で2か所以上に曲げを付与する場合は、長手方向に所定の間隔で曲げを加えてもよい。さらに、長手方向における所定の範囲に連続的に曲げを加えてもよい。ここでは、余長部分1aに1か所曲げを付与する場合について説明する。
【0031】
本実施の形態では、光ファイバ入りトロリ線1の余長部分1aの長さ(端末からの長さ)を約5mとした。曲げを付与する位置が端末から離れすぎると十分に効果が得られない場合があるため、曲げを付与する工程では、光ファイバ入りトロリ線1の端末から5m以内、より好ましくは3m以内の位置にて、曲げを付与することが望ましい。
【0032】
また、曲げを付与する作業は、光ファイバ入りトロリ線1に張力が作用している方が行いやすいことから、曲げを付与する工程では、この余長部分1aのうち3m以上(端末から3m以上10m未満)がドラム31に巻き付けられた状態で、光ファイバ入りトロリ線1に曲げを付与するとよい。なお、トロリ線本体2の端末からは2m程度光ファイバ3が露出していたが、この露出した部分の光ファイバ3は架線の際に除去した。
【0033】
一般に、ドラム31への巻き付け(横巻き)により光ファイバ入りトロリ線1に付与される曲げ(巻き癖の原因となる曲げ)の曲率半径は500mm~1100mm程度であることから、曲げを付与する工程では、真直器33により、巻き癖と反対の方向に500mm以上1100mm以下の曲げを光ファイバ入りトロリ線1に付与するとよい。光ファイバ入りトロリ線1に曲げを付与することにより、
図4(c)に示すように、光ファイバ入りトロリ線1の余長部分1aは、ドラム31への巻き癖と反対側に曲がり癖が付与されることになり、真直器33で曲げを付与した部分を基準として、一点鎖線で示される水平位置よりも上方に向かって反る。なお、余長部分1aでは張力が付与されないため、余長部分1aにおいては、光ファイバ入りトロリ線1は中心線27が略水平方向に沿うように、横向きとなっている。
【0034】
余長部分1aに曲げを付与しない状態においては、内側光ファイバ3aはドラム31から開放されたままの自然な状態(付与された巻き癖により自然に曲がり、垂れ下がっている状態)となる。このままの状態では、内側光ファイバ3aは、ドラム31に巻き付けられた状態(圧縮ひずみが付与された状態)で維持されてしまい、内側光ファイバ3aがトロリ線本体2内に引き込まれることが妨げられてしまう。なお、
図4(c)では、曲げを付与しない場合の光ファイバ入りトロリ線1の余長部分1aを破線にて示している。
【0035】
本実施の形態のように、ドラム31への横巻きにより付与される曲げと反対方向の曲げを余長部分1aに付与する(つまり、巻き癖と反対方向の曲がり癖が付与されるように局部ひずみを付与する)ことにより、余長部分1aにおける内側光ファイバ3aの圧縮ひずみを伸びひずみに変化させることができる。より具体的には、曲げを付与する工程を行うことによって、架線前の光ファイバ入りトロリ線1において光ファイバ3に加わっている0.1%~0.3%の圧縮ひずみが、0.1%~0.3%程度の伸びひずみに矯正される。その結果、光ファイバ入りトロリ線1を架線した際に、光ファイバ3が余長部分1aから長手方向に引き込まれる量が大きくなり、光ファイバ3の伸びひずみを低減させることが可能になる。
【0036】
なお、光ファイバ入りトロリ線1の端末を真っ直ぐに矯正するだけでは、光ファイバ3を十分に引き込みませることが困難な場合がある。少なくとも光ファイバ入りトロリ線1の余長部分1aが水平位置よりも上方に反る程度(巻き癖と反対側に曲がり癖が付与される程度)に曲げを付与することが望まれる。
【0037】
曲げを付与する工程を行うと、余長部分1aの内側光ファイバ3aが架線部分へと引き込まれる。具体的には、この際に光ファイバ3が1m~3m程度、架線部分のトロリ線本体2へと引き込まれる。その結果、架線後の光ファイバ入りトロリ線1に内蔵される光ファイバ3(内側光ファイバ3a)に加わる伸びひずみが低減されることになる。
【0038】
余長部分1aから架線部分へと光ファイバ3(内側光ファイバ3a)が引き込まれるため、余長部分1aの長さは、光ファイバ3(内側光ファイバ3a)の引き込み長以上の長さに設定されるとよい。なお、光ファイバ3(内側光ファイバ3a)のみを余長としてもたせることも考えられるが、この場合、架線作業時に光ファイバ3が簡単に断線してしまうため、現実的ではないといえる。
【0039】
曲げを付与する工程を行うと、架線により圧縮ひずみが付与された状態となる外側光ファイバ3bは、端末から突出し易くなる。つまり、曲げを付与する工程を行うことにより、外側光ファイバ3aの圧縮ひずみも抑制可能となる。
【0040】
(端末処理工程)
曲げを付与する工程を行った後、光ファイバ入りトロリ線1を引留クランプ16に取り付ける端末処理(端末加工)を行う。この際、曲げを付与する工程にて曲げを付与された部分のトロリ線本体2及び光ファイバ3(
図4では余長部分1a)は切断され除去される。ここでは、光ファイバ入りトロリ線1の両端部分に確保した5mの余長部分のうち端末から3mを切断して除去し、引留クランプ16への取り付け作業を行った。光ファイバ3の端末処理については、例えば、トロリ線本体2に内蔵された2本の光ファイバ3の端末同士を光学的に接続する、あるいは断線検知システムから延出された光ファイバを光学的に接続する等の端末処理が行われる。この光ファイバ3の端末処理のため、引留クランプ16への取り付け位置から所定長さ(1.5m程度)の余長が確保されているとよい。
【0041】
(曲げを付与する範囲と、付与する曲げの曲率半径の検討)
全長が約1800mの光ファイバ入りトロリ線1を用い、余長部分1aの長さを5mとした場合において、
図5に示すように、光ファイバ入りトロリ線1の余長部分1aに真直器33により曲げを付与して、光ファイバ3の引き込み量の測定、及び伸びひずみの評価を行った。実施例1では、曲げを付与する位置(端末からの距離)Xを3m、付与する曲げの曲率半径Rを500mmとした、同様に、実施例2では、位置Xを3mとし、曲率半径Rを1100mmとした。実施例3では、位置Xを5mとし、曲率半径Rを500mmとした。実施例4では、位置Xを5mとし、曲率半径Rを1100mmとした。
【0042】
光ファイバ3の引き込み量は、余長部分1aのトロリ線本体2の長さと光ファイバ3の長さとを比較することで測定した。例えば、光ファイバ入りトロリ線1の端末から5mを採取し、その中に光ファイバ3が3m残っていた場合、5m-3m=2mが光ファイバ3の引き込み量となる。伸びひずみの評価では、BOTDR(Brillouin Optical Time Domain Analysis)測定装置を用いて伸びひずみの評価を行い、伸びひずみが0.3%未満の場合に良好、0.3%以上0.4%未満の場合に可、0.4%以上の場合に不可とした。
【0043】
また、同様にして、位置Xを5mとし、付与する曲げの曲率半径Rを1500mmとした比較例について、光ファイバ3の引き込み量の測定、及び伸びひずみの評価を行った。結果をまとめて表1に示す。
【0044】
【0045】
表1に示すように、位置Xを3mとした実施例1,2の方が、位置Xを5mとした実施例3,4と比較して、光ファイバ3の引き込み量が大きくなり、伸びひずみも抑えられていることが分かる。また、実施例1と実施例2、実施例3と実施例4を比較すれば分かるように、曲げの曲率半径Rを500mmと小さくした方が、曲げの曲率半径Rを1100mmとした場合よりも、光ファイバ3の引き込み量が多くなり、伸びひずみも抑えられている。なお、比較例では、曲げの曲率半径Rが1500mmと大きいため、光ファイバ3の引き込み量が小さく、伸びひずみが大きかった。また、表1の結果より、光ファイバ3の引き込み量が大きいほど、伸びひずみが抑えられていることも確認できた。このように、できるだけ端末から近い位置で、できるだけ小さな曲率半径の曲げを付与することで、光ファイバ3の引き込み量をより大きくし、伸びひずみを十分に抑えることが可能である。
【0046】
(実施の形態の作用及び効果)
以上説明したように、本実施の形態に係る光ファイバ入りトロリ線の架線方法では、架線後に除去される光ファイバ入りトロリ線1の余長部分1aに対して、ドラム31への横巻きにより付与される曲げと反対方向の曲げを付与する工程を含んでいる。これにより、従来最大で1m程度であった光ファイバ3(内側光ファイバ3a)の引き込み量を、最大で2m程度と大きくすることができ、光ファイバ3(内側光ファイバ3a)の伸びひずみを、従来の0.4%から0.1%~0.3%程度にまで抑えることが可能になる。また、光ファイバ3(内側光ファイバ3a)の伸びひずみを抑えることにより、光ファイバ3(内側光ファイバ3a)の寿命を十分に長くする(例えば、約15年の寿命を十分に確保する)ことが可能になる。さらに、曲げを付与する工程では、光ファイバ3がトロリ線本体2内に収容された状態で曲げを付与するため、光ファイバ3の損傷も抑制できる。
【0047】
図6は、内側光ファイバ3aにおけるひずみの分布を示すグラフ図である。
図6に破線で示されるように、曲げを付与する工程を行わない従来例では、架線部分の伸びひずみが大きくなり、余長部分が圧縮ひずみのままとなっている。これに対して、曲げを付与する工程を行った本発明においては、特に架線部分の端末付近において大きく伸びひずみが低減されており、架線部分の長手方向中心に向かって徐々に伸びひずみは大きくなるものの、その伸びひずみの最大値(ピーク値)も低減される。その結果、光ファイバ3の寿命が向上する。
【0048】
(実施の形態のまとめ)
次に、以上説明した実施の形態から把握される技術思想について、実施の形態における符号等を援用して記載する。ただし、以下の記載における各符号等は、特許請求の範囲における構成要素を実施の形態に具体的に示した部材等に限定するものではない。
【0049】
[1]トロリ線本体(2)と、前記トロリ線本体(2)に内蔵された摩耗検知用の光ファイバ(3)と、を有する光ファイバ入りトロリ線(1)の架線方法であって、延線車両(32)に設置され、前記光ファイバ入りトロリ線(1)が横巻きされているドラム(31)から前記光ファイバ入りトロリ線(1)を送り出して架線する架線工程と、架線後に除去される前記光ファイバ入りトロリ線(1)の余長部分(1a)に対して、前記ドラム(31)への横巻きにより前記光ファイバ入りトロリ線(1)に付与される曲げと反対方向の曲げを付与する工程と、を含む、光ファイバ入りトロリ線の架線方法。
【0050】
[2]前記曲げを付与する工程では、前記ドラム(31)への巻き癖と反対方向の曲がり癖が付与されるように、曲げを付与する、[1]に記載の光ファイバ入りトロリ線の架線方法。
【0051】
[3]前記曲げを付与する工程では、前記光ファイバ入りトロリ線(1)に曲率半径500mm以上1100mm以下の曲げを付与する、[1]または[2]に記載の光ファイバ入りトロリ線の架線方法。
【0052】
[4]前記曲げを付与する工程では、前記光ファイバ入りトロリ線(1)の端末が前記ドラム(31)に巻き付けられ張力が付与されている状態で曲げを付与する、[1]乃至[3]の何れか1項に記載の光ファイバ入りトロリ線の架線方法。
【0053】
[5]前記曲げを付与する工程では、前記光ファイバ入りトロリ線(1)の端末から5m以内の位置にて曲げを付与する、[1]乃至[4]の何れか1項に記載の光ファイバ入りトロリ線の架線方法。
【0054】
[6]前記曲げを付与する工程では、矯正器(33)により前記光ファイバ入りトロリ線(1)に曲げを付与する、[1]乃至[5]の何れか1項に記載の光ファイバ入りトロリ線の架線方法。
【0055】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、上記に記載した実施の形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。また、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変形して実施することが可能である。
【符号の説明】
【0056】
1…光ファイバ入りトロリ線
1a…余長部分
2…トロリ線本体
3…光ファイバ
31 ドラム
32 延線車両
33 真直器(矯正器)