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特許7043865立体造形用樹脂粉末、及び立体造形物の製造装置
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-22
(45)【発行日】2022-03-30
(54)【発明の名称】立体造形用樹脂粉末、及び立体造形物の製造装置
(51)【国際特許分類】
   B29C 64/153 20170101AFI20220323BHJP
   B33Y 70/00 20200101ALI20220323BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20220323BHJP
   B29C 64/165 20170101ALI20220323BHJP
   B29C 64/314 20170101ALI20220323BHJP
【FI】
B29C64/153
B33Y70/00
B33Y10/00
B29C64/165
B29C64/314
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2018019742
(22)【出願日】2018-02-07
(65)【公開番号】P2018149800
(43)【公開日】2018-09-27
【審査請求日】2020-11-18
(31)【優先権主張番号】P 2017049042
(32)【優先日】2017-03-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 浩一
(72)【発明者】
【氏名】田元 望
(72)【発明者】
【氏名】飯田 崇一朗
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 啓
(72)【発明者】
【氏名】山下 康之
(72)【発明者】
【氏名】岩附 仁
(72)【発明者】
【氏名】樋口 信三
(72)【発明者】
【氏名】鴨田 紀一
【審査官】▲高▼橋 理絵
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-159635(JP,A)
【文献】国際公開第2015/194678(WO,A1)
【文献】特開2016-040121(JP,A)
【文献】特開2014-188871(JP,A)
【文献】特開2006-321711(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 64/00-64/40
B33Y 10/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
立体造形用樹脂粉末であって、
前記立体造形用樹脂粉末の50%累積体積粒径が20μm以上であり、かつ柱体粒子を含み、
前記柱体粒子の平均円形度が、0.5μm以上200μm以下の粒径の範囲において、0.83以上であることを特徴とする立体造形用樹脂粉末。
【請求項2】
前記柱体粒子が、端部が頂点を持たない請求項1に記載の立体造形用樹脂粉末。
【請求項3】
前記柱体粒子の底面の長辺が5μm以上200μm以下であり、かつ高さが5μm以上200μm以下である請求項1から2のいずれかに記載の立体造形用樹脂粉末。
【請求項4】
前記柱体粒子の底面の長辺に対する高さの比が、0.5倍以上2倍以下である請求項3に記載の立体造形用樹脂粉末。
【請求項5】
前記立体造形用樹脂粉末の体積平均粒径と、前記立体造形用樹脂粉末の数平均粒径との粒径比(体積平均粒径/数平均粒径)が、2.00以下である請求項1から4のいずれかに記載の立体造形用樹脂粉末。
【請求項6】
前記立体造形用樹脂粉末の比重が、0.8以上である請求項1から5のいずれかに記載の立体造形用樹脂粉末。
【請求項7】
前記立体造形用樹脂粉末が、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリエステル、ポリアリールケトン、ポリフェニレンスルフィド、液晶ポリマー、ポリアセタール、ポリイミド、及びフッ素樹脂から選択される少なくとも1種を含む請求項1から6のいずれかに記載の立体造形用樹脂粉末。
【請求項8】
前記立体造形用樹脂粉末の表面に、流動化剤が付着している請求項1から7のいずれかに記載の立体造形用樹脂粉末。
【請求項9】
前記流動化剤の平均一次粒径が、500nm以下である請求項8に記載の立体造形用樹脂粉末。
【請求項10】
前記流動化剤が、シリカ及びチタニアの少なくともいずれかである請求項8から9のいずれかに記載の立体造形用樹脂粉末。
【請求項11】
50%累積体積粒径が20μm以上であり、かつ柱体粒子を含み、前記柱体粒子の平均円形度が、0.5μm以上200μm以下の粒径の範囲において、0.83以上である立体造形用樹脂粉末を含む層を形成する層形成工程と、
選択的に電磁波を照射し、前記層の選択された領域内の立体造形用樹脂粉末同士を接着させる粉末接着工程と、
を含むことを特徴とする立体造形物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、立体造形用樹脂粉末、及び立体造形物の製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
粉末積層造形法は、粉末状の材料にレーザーやバインダーを用いて、一層ずつ固めて造形する方法である。
【0003】
前記粉末積層造形法において、前記レーザーを用いる方法は、粉末床溶融(PBF:powder bed fusion)方式と称され、例えば、選択的にレーザーを照射して立体造形物を形成するSLS(selective leser sintering)方式や、マスクを使い平面状にレーザーを当てるSMS(selective mask sintering)方式などが知られている。一方、前記バインダーを用いる方法は、例えば、バインダー樹脂を含むインクをインクジェット等の方法により吐出して立体造形物を形成するバインダージェット(Binder Jetting)方式などが知られている。
【0004】
これらの中でも、前記PBF方式は、レーザー光線を金属やセラミックス又は樹脂の薄層に選択的にレーザーを選択的に照射することにより粉末を溶融接着させ、成膜した後、前記成膜した膜の上に別の層を形成して同様の操作を繰り返すことにより順次積層して立体造形物を得ることができる(例えば、特許文献1~3参照)。
【0005】
前記PBF方式の樹脂粉末を使用する場合では、薄層間の内部応力を低く維持することと緩和とをしながら、供給槽に供給された樹脂粉末の層を樹脂の軟化点付近の温度まで加熱しておき、この層にレーザー光線を選択的に照射し、照射された樹脂粉末自身を軟化点以上の温度まで加熱して相互に融着させることにより立体造形が行われる。
【0006】
現在、PBF方式には、ポリアミド樹脂が多く用いられ、特に、ポリアミド12は、ポリアミドの中でも、比較的低い融点を持ち、熱収縮率が小さい点や吸水性が低い点から好適に用いることができる。
近年では、試作用途の他に、造形物を最終製品として使用する需要が増えてきており、様々な樹脂を使用したいとの要望が増えてきている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、粉末層を形成する時に、粒子をより密に詰めることができ、得られる立体造形物の強度を向上するとともに、複雑かつ精細な立体造形物を簡便かつ効率よく製造することができ、更にリサイクル性にも優れる立体造形用樹脂粉末を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するための手段としての本発明の立体造形用樹脂粉末は、柱体粒子を含み、前記柱体粒子の平均円形度が、0.5μm以上200μm以下の粒径の範囲において、0.83以上である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によると、粉末層を形成する時に、粒子をより密に詰めることができ、得られる立体造形物の強度を向上するとともに、複雑かつ精細な立体造形物を簡便かつ効率よく製造することができ、更にリサイクル性にも優れる立体造形用樹脂粉末を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1A図1Aは、円柱体の一例を示す概略斜視図である。
図1B図1Bは、図1Aの円柱体の側面図である。
図1C図1Cは、円柱体の端部に頂点を持たない形状の一例を示す側面図である。
図1D図1Dは、円柱体の端部に頂点を持たない形状の他の一例を示す側面図である。
図1E図1Eは、円柱体の端部に頂点を持たない形状の他の一例を示す側面図である。
図1F図1Fは、円柱体の端部に頂点を持たない形状の他の一例を示す側面図である。
図1G図1Gは、円柱体の端部に頂点を持たない形状の他の一例を示す側面図である。
図1H図1Hは、円柱体の端部に頂点を持たない形状の他の一例を示す側面図である。
図1I図1Iは、円柱体の端部に頂点を持たない形状の他の一例を示す側面図である。
図2図2は、円柱体の端部に頂点を持たない形状の一例を示す走査型電子顕微鏡写真である。
図3図3は、本発明の立体造形物の製造装置の一例を示す概略説明図である。
図4a図4aは、平滑な表面を有する粉末層を形成する工程の一例を示す概略図である。
図4b図4bは、平滑な表面を有する粉末層を形成する工程の一例を示す概略図である。
図4c図4cは、立体造形用液体材料を滴下する工程の一例を示す概略図である。
図4d図4dは、造形用粉末貯蔵槽に新たに樹脂粉末層が形成される工程の一例を示す概略図である。
図4e図4eは、造形用粉末貯蔵槽に新たに樹脂粉末層が形成される工程の一例を示す概略図である。
図4f図4fは、再び立体造形用液体材料を滴下する工程の一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(立体造形用樹脂粉末)
本発明の立体造形用樹脂粉末(以下、「樹脂粉末」とも称することがある)は、柱体粒子を含み、前記柱体粒子の平均円形度が、0.5μm以上200μm以下の粒径の範囲において、0.83以上であり、更に必要に応じてその他の成分を含有する。
本発明の立体造形用樹脂粉末は、従来の立体造形物を得る技術では、立体造形用樹脂粉末の層を形成する際、密度が十分に得られず、レーザーを照射すると空間部分を透過したレーザーが狙いの領域を超えて固化するブロッキングが発生しやすくなるという問題があるという知見に基づくものである。
また、本発明の立体造形用樹脂粉末は、従来の立体造形物を得る技術では、空壁を多く含むことにより、焼結後に膨らみが発生し、更に、造形物の密度が低下するため、寸法精度や強度が大幅に低下するという問題があるという知見に基づくものである。
【0012】
<柱体粒子>
本発明の立体造形用樹脂粉末は、柱体粒子を含み、更に必要に応じてその他の粒子を含む。
【0013】
-平均円形度-
本発明の立体造形用樹脂粉末の平均円形度としては、前記立体造形用樹脂粉末の粒径が0.5μm以上200μm以下の範囲において、0.83以上であり、0.85以上が好ましい。前記平均円形度の上限としては、1.0以下が好ましく、0.98以下がより好ましい。前記平均円形度とは、円らしさを表す指標であり、1が最も円に近いことを意味する。前記平均円形度は、面積(画素数)をSとし、周囲長をLとしたときに、下式(1)により円形度を測定し、それらを算術平均した値を用いることができる。
円形度=4πS/L ・・・式(1)
【0014】
前記平均円形度を簡易的に求める方法としては、例えば、湿式フロー式粒子径・形状分析装置(装置名:FPIA-3000、シスメックス株式会社製)を用いて測定することにより、数値化することができる。前記湿式フロー式粒子径・形状分析装置は、ガラスセル中を流れる懸濁液中の粒子画像をCCDで高速撮像し、個々の粒子画像をリアルタイムに解析することができ、このような粒子を撮影し、画像解析を行う装置が、本発明の平均円形度を求める上で有効である。測定カウント数としては、特に制限はないが、1,000以上が好ましい。
【0015】
前記立体造形用樹脂粉末の形状としては、柱体であることにより、形成される層において、粒子の隙間を最小限に詰めることができ、その結果、得られる立体造形物の強度や寸法精度を高めることができる。前記柱体としては、生産性と造形の安定性の点から、底面と上面は略平行で直柱体に近い方がより好ましい。なお、前記立体造形用樹脂粉末の形状は、例えば、走査型電子顕微鏡(装置名:S4200、株式会社日立製作所製)、湿式フロー式粒子径・形状分析装置(装置名:FPIA-3000、シスメックス株式会社製)などを用いて観察することにより判別することができる。
【0016】
前記柱体粒子は、底面と上面とを持つ柱状又は筒状の形状を有する粒子であり、例えば、略円柱体や多角柱体など、底面や上面の形状は特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
前記柱体粒子としては、底面や上面の形状が円や楕円形状であれば略円柱体であり、四角形又は六角形等の多角形であれば多角柱体である。底面と上面の間に柱状又は筒状の領域を有するものであれば、底面と上面の形状は、同じであってもよいし、異なっていてもよい。また、底面や上面と柱の部分(側面)とが直交した直柱体であってもよいし、直交していない斜柱体であってもよい。
【0017】
前記柱体粒子は、底面と上面を有する柱体形状を有するが、粒子の端部が頂点を持たない形状であることが好ましい。前記頂点とは、柱体の中に存在する角の部分をいう。
前記柱体粒子の形状について、図1Aから図1Iを用いて説明する。図1Aは、円柱体の一例を示す概略斜視図である。図1Bは、図1Aの円柱体の側面図である。図1Cは、円柱体の端部に頂点を持たない形状の一例を示す側面図である。図1Dから図1Iは、いずれも円柱体の端部に頂点を持たない形状の他の一例を示す側面図である。
【0018】
図1Aに示す円柱体を、側面から観察すると、図1Bに示すように長方形の形状を有しており、角の部分、即ち、頂点が4箇所存在する。この端部に頂点を持たない形状の一例が図1Cから図1Iである。前記柱体粒子の頂点の有無の確認は、前記柱体粒子の側面に対する投影像から判別することができる。例えば、柱体粒子の側面に対して走査型電子顕微鏡(装置名:S4200、株式会社日立製作所製)等を用いて観察し、二次元像として取得する。この場合、投影像は4辺形となり、各々隣り合う2辺によって構成される部位を端部とすると、隣り合う2つの直線のみで構成される場合は、角が形成され頂点を持つことになり、図1Cから図1Iのように端部が円弧によって構成される場合は端部に頂点を持たないことになる。
【0019】
図2に示すように、柱体21は、第一の面22と、第二の面23と、側面24とを有する。
第一の面22は、第一の対向面22aと、側面24に沿って延伸した形状である第一の面の外周領域22bと、を有する。第一の面の外周領域22bは、曲面を介して第一の対向面22aと連続する面であり、第一の対向面22aと略直交する。第二の面23は、第一の対向面22aと対向する第二の対向面23aと、側面24に沿って延伸した形状である第二の面の外周領域23bと、を有する。第二の面の外周領域23bは、曲面を介して第二の対向面23aと連続する面であり、第二の対向面23aと略直交する。側面24は、第一の面22、及び第二の面23に隣接する。また、側面24上に、第一の面の外周領域22b、及び第二の面の外周領域23bが延伸している。
なお、第一の面の外周領域22b及び第二の面の外周領域23b(以下、「外周領域」とも称する)の形状は、側面24とSEM画像上で区別可能な形状であればよく、外周領域の一部が側面24と一体化している形状、外周領域が側面24と接している形状、及び外周領域と側面24との間に空間が存在する形状等を含む。また、第一の面の外周領域22b及び第二の面の外周領域23bは、側面24の面方向と略同一の面方向となるように設けられていることが好ましい。
なお、図2に示すように、第一の面の外周領域22b及び第二の面の外周領域23bは、側面24に沿って延伸してなり、側面24上に位置する。また、第一の面の外周領域22b及び第二の面の外周領域23bと、側面24と、の接続領域近辺を覆う第一の面及び第二の面の特徴的な構造は、ボトルキャップ形状とも称する。
【0020】
このように、柱体粒子が端部に頂点を持たないような形状にすることにより、前記平均円形度を高めることが可能になり、流動性が向上し、充填密度をより一層高めることができ、立体造形物の強度や寸法精度を高める上で非常に有効である。
【0021】
-略円柱体-
前記略円柱体の一例としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、真円柱体、楕円柱体などが挙げられる。これらの中でも、真円柱体に近い方が好ましい。なお、前記略円柱体の略円とは、長径と短径との比(長径/短径)が、1~10であるものを意味し、円部分の一部が欠けたものも含まれる。
【0022】
前記略円柱体は、略円の向かい合う面を有することが好ましい。前記向かい合う面の円の大きさがずれていてもよいが、大きい面と小さい面との円の直径の比(大きい面/小さい面)としては、密度を高める上で有効であることから、1.5倍以下が好ましく、1.1倍以下がより好ましい。
【0023】
前記略円柱体の底面の長辺としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、5μm以上200μm以下が好ましい。なお、前記略円柱体粒子における底面の長辺とは、底面の直径を意味する。また、前記略円柱体の円形部分が楕円形である場合は、長径を意味する。また、前記略円柱体の高さ(底面と上面との距離)としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、5μm以上200μm以下が好ましい。前記略円柱体の高さが、5μm以上200μm以下であると、粉末の層の形成時に立体造形用樹脂粉末の巻き上げを低減でき、粉末の層の表面が平滑になり、また、立体造形用樹脂粉末の間にできる空隙を低減することができ、立体造形物の表面性や寸法精度をより高める効果が得られる。
【0024】
なお、前記略円柱体の粒子としては、底面の長辺及び高さが5μm未満、又は200μm超の粒子が含まれていてもよいが、その含有量は少ない方が好ましい。具体的には、底面の長辺及び高さが5μm以上200μm以下である略円柱体の含有量としては、立体造形用樹脂粉末全量に対して、50%以上が好ましく、75%以上がより好ましい。なお、略円柱体の含有量は、例えば、立体造形用樹脂粉末を採取してSEM観察を行い、得られたSEM像のすべての粒子の数に対する、底面の長辺及び高さが5μm以上200μm以下である略円柱体の数から求めることができる。
【0025】
-多角柱体-
前記多角柱体としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、三角柱、直方体や立方体を含む四角柱、五角柱、六角柱などが挙げられる。これらの中でも、立体造形用樹脂粉末がより密に充填できる点から、立方体が好ましい。なお、これらの形状は概略を示すものであり、一部が欠けたものや一部変形したものもすべて含まれる。
【0026】
前記多角柱体の底面の長辺としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、5μm以上200μm以下が好ましい。なお、前記多角柱体粒子における底面の長辺とは、多角柱体の底面の対角線のうち、最も長い線を意味する。また、前記多角柱体の高さ(底面と上面との距離)としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、5μm以上200μm以下が好ましい。上記範囲内であることにより、粉末層の形成時に立体造形用樹脂粉末の巻き上げを低減でき、粉末層の表面が平滑になり、また立体造形用樹脂粉末の間にできる空隙を低減することができ、立体造形物の表面性や寸法精度をより高める効果が得られる。
なお、前記多角柱体の粒子の底面の長辺及び高さが、5μm未満、又は200μm超の粒子が含まれていてもよいが、その含有量は少ない方が好ましい。具体的には、底面の長辺及び高さが5μm以上200μm以下である多角柱体の含有量としては、立体造形用樹脂粉末全量に対して、50%以上が好ましく、75%以上がより好ましい。なお、多角柱体の含有量は、例えば、立体造形用樹脂粉末を採取してSEM観察を行い、得られたSEM像のすべての粒子の数に対する、底面の長辺及び高さが5μm以上200μm以下である多角柱体の数から求めることができる。
【0027】
前記柱体粒子の底面における長辺と高さは、近い方が好ましい。例えば、底面における長辺に対する高さの比は、0.5倍以上2倍以下が好ましく、0.7倍以上1.5倍以下がより好ましい。前記比が、上記範囲内であることにより、立体造形時に樹脂粉末の層を形成する際、空隙が少なく、立体造形用樹脂粉末がより密に充填されやすくなり、得られる立体造形物の強度や寸法精度を高める上で有効である。
【0028】
前記立体造形用樹脂粉末の柱体粒子すべてにおいて、頂点を持たなくすることが最も好ましく、端部に頂点を持たない柱体粒子の割合が高い方がより好ましい。具体的には、立体造形用樹脂粉末全量に対する端部に頂点を持たない柱体粒子の割合は、50%以上が好ましく、75%以上がより好ましく、90%以上が更に好ましい。これにより、樹脂粉末の平均円形度が高まり、本発明の効果がより高まる。
【0029】
前記端部に頂点を持たない柱体粒子の割合としては、例えば、前述のように走査型電子顕微鏡(装置名:S4200、株式会社日立製作所製)等を用いて樹脂粉末を観察し、得られた二次元像からすべての柱体粒子に対する端部に頂点を持たない柱体粒子の割合を求めることによって判別することができる。例えば、前記走査型電子顕微鏡を用いて10視野の二次元像を撮影し、全柱体粒子に対する端部に頂点を持たない柱体粒子の割合を求め、平均することにより求めることができる。
【0030】
なお、前記端部に頂点を持たない柱体粒子においては、整った略円柱体又は多角柱体である必要はなく、側面の投影像においてくびれを有する形状や、端部が引き伸ばされた形状、又は押しつぶされたり、曲がったりした形状のものを含んでいてもよい。
【0031】
このように、樹脂粉末中の柱体粒子について端部に頂点を持たない形状にする方法としては、柱体粒子の頂点を丸めることが可能な方法であれば、いずれの方法でも使用可能であり、例えば、高速回転式の機械粉砕や高速衝撃式の機械粉砕、又は機械摩擦により表面溶融など、従来公知の球形化処理装置を用いる方法などが挙げられる。
【0032】
粉末積層方式の立体造形装置における粉末層の平均厚みは、目的によって異なるものの、概ね5μm以上500μm以下が好ましく、50μm以上200μm以下がより好ましい。そのため、前記立体造形用樹脂粉末の50%累積体積粒径としては、寸法安定性の点から、5μm以上200μm以下が好ましく、20μm以上150μm以下がより好ましい。前記50%累積体積粒径が、上記範囲内であることにより、粉末層の形成時に立体造形用樹脂粉末の巻き上げを低減でき、粉末層の表面が平滑になり、また、立体造形用樹脂粉末の間にできる空隙を低減することができ、立体造形物の表面性や寸法精度をより高める効果が得られる。なお、前記50%累積体積粒径は、例えば、粒度分布測定装置(装置名:microtrac MT3300EXII、マイクロトラック・ベル株式会社製)を用いて測定することができる。
【0033】
前記立体造形用樹脂粉末中の柱体粒子としては、高さが均一で粉体の形や大きさに偏りがなく、同一な集合体として形成された単分散に近いものの方が好ましい。これにより、立体造形物の寸法精度や強度をより一層高めることができる。具体的には、前記立体造形用樹脂粉末の体積平均粒径(Mv)と、前記立体造形用樹脂粉末の数平均粒径(Mn)との粒径比(体積平均粒径(Mv)/数平均粒径(Mn))としては、2.00以下が好ましく、1.5以下がより好ましく、1.2以下が特に好ましい。
前記立体造形用樹脂粉末の体積平均粒径(Mv)としては、5μm以上200μm以下が好ましく、20μm以上100μm以下がより好ましい。
前記立体造形用樹脂粉末の数平均粒径(Mn)としては、2.5μm以上200μm以下が好ましく、10μm以上100μm以下がより好ましい。
前記体積平均粒径(Mv)、及び前記数平均粒径(Mn)は、例えば、粒度分布測定装置(装置名:microtrac MT3300EXII、マイクロトラック・ベル株式会社製)を用いて測定することができる。
【0034】
-比重-
前記立体造形用樹脂粉末の比重としては、0.8以上が好ましく、0.96以上がより好ましく、1.0以上が特に好ましい。前記比重が、0.8以上であると、粉末層を形成する(リコート)時の立体造形用樹脂粉末の2次凝集を抑止できる。一方、上限値としては、金属代替の軽量化ニーズから3.0以下が好ましく、1.5以下がより好ましく、1.40以下が特に好ましい。前記比重としては、真比重を測定することにより行うことができる。前記真比重の測定は、気相置換法を用いた乾式自動密度計(装置名:アキュピック1330、株式会社島津製作所製)を用いて一定温度で気体(Heガス)の体積と圧力を変化させて、サンプルの体積を求め、このサンプルの体積から質量を計測し、サンプルの密度を測定することにより行うことができる。
【0035】
-樹脂-
前記立体造形用樹脂粉末としては、熱可塑性樹脂を用いることが好ましい。前記熱可塑性樹脂とは、熱をかけると可塑化し、溶融するものを意味する。前記熱可塑性樹脂の中でも、結晶性樹脂を用いてもよい。なお、前記結晶性樹脂とは、ISO 3146(プラスチック転移温度測定方法、JIS K7121)の測定した場合に、融解ピークを有するものを意味する。
【0036】
前記樹脂粉末は、ISO 3146に準拠して測定したときの融点が100℃以上の樹脂であることが好ましい。ISO 3146に準拠して測定したときの前記融点が100℃以上であると、製品の外装等に使用されうる耐熱温度の範囲であるため好ましい。なお、前記融点は、ISO 3146(プラスチック転移温度測定方法、JIS K7121)に準拠して、示差走査熱量測定(DSC)を用いて測定することができ、複数の融点が存在する場合は、高温側の融点を使用する。
【0037】
前記結晶性樹脂としては、結晶制御された結晶性熱可塑性樹脂が好ましい。前記結晶性熱可塑性樹脂としては、例えば、熱処理、延伸、結晶核剤、超音波処理等、従来公知の外部刺激の方法により、得ることができる。このように、結晶サイズや結晶配向が制御されている結晶性熱可塑性樹脂は、高温下のリコート時に発生するエラーを低減できることからより好ましい。
【0038】
前記結晶性熱可塑性樹脂の製造方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、立体造形用樹脂粉末に対して各樹脂のガラス転移点以上の温度で加熱し、結晶性を高めるアニーリング処理や、より結晶性を高めるために結晶核剤を添加し、その後、アニーリング処理する方法を用いることができる。また、超音波処理や溶媒に溶解しゆっくりと揮発させることにより結晶性を高める方法や、外部電場印加処理により結晶性成長させる方法、更に延伸することにより高配向、高結晶化したものを粉砕、裁断等の加工を施す方法などが挙げられる。
【0039】
前記アニーリング処理としては、例えば、樹脂をガラス転移温度から50℃高い温度にて3日間加熱し、その後、室温までゆっくりと冷却することにより行うことができる。
【0040】
前記延伸としては、例えば、押し出し加工機を用いて、融点より30℃以上高い温度にて撹拌しながら、繊維状に樹脂溶融物を引き伸ばす方法などが挙げられる。具体的には、溶融物を1倍以上10倍以下程度に延伸し繊維にする。この時、押出し加工機のノズル口の形状により繊維断面の形状を決めることができる。本発明において、前記柱体粒子が略円柱体である場合には、ノズル口も円形形状のものが用いられ、前記柱体粒子が多角柱体である場合には、ノズル口は多角形形状のものが用いられる。ノズル口の数は多ければ多いほど生産性を高めることが期待できる。前記延伸については、樹脂ごと溶融粘度ごとに最大の延伸倍率を変えることができる。
【0041】
前記超音波処理については、例えば、樹脂に、グリセリン(東京化成工業株式会社製、試薬グレード)溶媒を樹脂に対して5倍ほど加えた後、融点より20℃高い温度まで加熱し、超音波発生装置(装置名:ultrasonicator UP200S、ヒールシャー社製)にて24kHz、振幅60%での超音波を2時間与えることにより行うことができる。その後、室温にてイソプロパノールの溶媒で洗浄後、真空乾燥することが好ましい。
【0042】
前記外部電場印加処理としては、例えば、立体造形用樹脂粉末をガラス転移温度以上にて加熱した後に600V/cmの交流電場(500ヘルツ)を1時間印加し、ゆっくりと冷却することにより行うことができる。
【0043】
前記粉末積層方式の中でもPBF方式では、結晶層変化についての温度幅(温度窓)が大きな方が、反り返りを抑制でき、造形安定性が高まることから、非常に有効である。そのためには、融解開始温度と冷却時の再結晶温度との間の差がより大きな立体造形用樹脂粉末を用いることが好ましく、前記結晶性熱可塑性樹脂がより好ましく用いられる。
【0044】
前記結晶性熱可塑性樹脂は、例えば、下記(1)~(3)から選択される少なくとも1種を満たすことにより判別できる。
(1)示差走査熱量測定において、ISO 3146に準拠して、10℃/minにて、融点より30℃高い温度まで昇温したときの吸熱ピークの融解開始温度をTmf1とし、その後、10℃/minにて、-30℃以下まで降温し、更に、10℃/minにて、融点より30℃高い温度まで昇温したときの吸熱ピークの融解開始温度をTmf2としたときに、Tmf1>Tmf2となる。なお、前記吸熱ピークの融解開始温度は、融点での吸熱が終了した後に、熱量の一定となったところから低温側へx軸に対して平行な直線を引き、前記直線から-15mW下がった時点での温度である。
【0045】
(2)示差走査熱量測定において、ISO 3146に準拠して、10℃/minにて、融点より30℃高い温度まで昇温したときの吸熱ピークのエネルギー量から求められる結晶化度をCd1とし、その後、10℃/minにて、-30℃以下まで降温し、更に、10℃/minにて、融点より30℃高い温度まで昇温したときの吸熱ピークのエネルギー量から求められる結晶化度をCd2としたときに、Cd1>Cd2となる。
【0046】
(3)X線回折測定により得られる結晶化度をCx1とし、窒素雰囲気下10℃/minにて、融点より30℃高い温度まで昇温し、その後、10℃/minにて、-30℃以下まで降温し、更に、10℃/minにて、融点より30℃高い温度まで昇温したときのX線回折測定により得られる結晶化度をCx2としたときに、Cx1>Cx2となる。
【0047】
前記(1)~(3)は、同一の前記立体造形用樹脂粉末について、異なる視点から特性を規定したものであり、前記(1)~(3)は互いに関連しており、前記(1)~(3)のうち、いずれか1種を満たすことができれば有効である。前記(1)~(3)は、例えば、下記の方法によって測定することができる。
【0048】
[条件(1)の示差走査熱量測定による融解開始温度の測定方法]
前記条件(1)の示差走査熱量測定(DSC)による融解開始温度の測定方法としては、ISO 3146(プラスチック転移温度測定方法、JIS K7121)の測定方法に準じて、示差走査熱量測定装置(株式会社島津製作所製、DSC-60A)を使用し、10℃/minにて、融点より30℃高い温度まで昇温したときの吸熱ピークの融解開始温度(Tmf1)を測定する。その後、10℃/minにて、-30℃以下まで降温し、更に、10℃/minにて、融点より30℃高い温度まで昇温したときの吸熱ピークの融解開始温度(Tmf2)を測定する。なお、前記吸熱ピークの融解開始温度は、融点での吸熱が終了した後に、熱量の一定となったところから低温側へx軸に対して平行な直線を引き、前記直線から-15mW下がった時点での温度である。
【0049】
[条件(2)の示差走査熱量測定による結晶化度の測定方法]
前記条件(2)の示差走査熱量測定(DSC)による結晶化度の測定方法としては、ISO 3146(プラスチック転移温度測定方法、JIS K7121)に準拠して、10℃/minにて、融点より30℃高い温度まで昇温したときの吸熱ピークのエネルギー量(融解熱量)を測定し、完全結晶熱量に対する融解熱量から結晶化度(Cd1)を求めることができる。その後、10℃/minにて、-30℃以下まで降温し、更に、10℃/minにて、融点より30℃高い温度まで昇温したときの吸熱ピークのエネルギー量を測定し、完全結晶熱量に対する融解熱量から結晶化度(Cd2)を求めることができる。
【0050】
[条件(3)のX線解析装置による結晶化度の測定方法]
前記条件(3)のX線解析装置による結晶化度の測定方法としては、二次元検出器を有するX線解析装置(Bruker社、Discover8)を使用し、室温にて2θ範囲を10~40に設定し、得られた粉末をガラスプレート上に置き、結晶化度を測定(Cx1)することができる。次に、DSC内において、窒素雰囲気化にて10℃/minで加熱し、融点より30℃高い温度まで昇温し、10分保温した後、10℃/min、-30℃まで冷却後のサンプルを室温に戻し、Cx1と同様にして、結晶化度(Cx2)を測定することができる。
【0051】
前記立体造形用樹脂粉末として用いられる前記熱可塑性樹脂としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリエステル、ポリエーテル、ポリアリールケトン、液晶ポリマー(LCP)、ポリアセタール(POM)、ポリイミド、フッ素樹脂、ポリフェニレンスルフィド等のポリマーなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0052】
前記ポリオレフィンとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0053】
前記ポリアミドとしては、例えば、ポリアミド410(PA410)、ポリアミド6(PA6)、ポリアミド66(PA66)、ポリアミド610(PA610)、ポリアミド612(PA612)、ポリアミド11(PA11)、ポリアミド12(PA12);半芳香族性のポリアミド4T(PA4T)、ポリアミドMXD6(PAMXD6)、ポリアミド6T(PA6T)、ポリアミド9T(PA9T)、ポリアミド10T(PA10T)などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。 これらの中でも、PA9Tは、ポリノナメチレンテレフタルアミドとも呼ばれ、炭素が9つのジアミンにテレフタル酸モノマーから構成され、一般的にカルボン酸側が芳香族であるため半芳香族と呼ばれる。更には、ジアミン側も芳香族である全芳香族としてp-フェニレンジアミンとテレフタル酸モノマーとからできるアラミドと呼ばれるものも前記ポリアミドに含まれる。
【0054】
前記ポリエステルとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブタジエンテレフタレート(PBT)、ポリ乳酸(PLA)などが挙げられる。耐熱性を付与するため一部テレフタル酸やイソフタル酸が入った芳香族を含むポリエステルも好適に用いることができる。
【0055】
前記ポリエーテルとしては、例えば、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)、ポリアリールエーテルケトン(PAEK)、ポリエーテルエーテルケトンケトン(PEEKK)、ポリエーテルケトンエーテルケトンケトン(PEKEKK)などが挙げられる。
前記ポリエーテル以外にも、結晶性ポリマーであればよく、例えば、ポリアセタール、ポリイミド、ポリエーテルスルフォンなどが挙げられる。前記PA9Tのように融点ピークが2つあるものを用いてもよい(完全に溶融させるには2つ目の融点ピーク以上に樹脂温度を上げる必要がある)。
【0056】
前記立体造形用樹脂粉末としては、柱体粒子のみで構成されるのが好ましいが、柱体粒子以外の粒子が含まれていてもよい。前記柱体粒子の含有量としては、立体造形用樹脂粉末全量に対して、50%以上が好ましく、75%以上がより好ましく、90%以上が特に好ましい。少なくとも柱体粒子が50%以上であることにより、充填密度を高める効果が顕著に現れ、得られる立体造形物の寸法精度や強度を高める上で非常に有効である。なお、柱体粒子の含有量は、例えば、立体造形用樹脂粉末を採取してSEM観察を行い、得られたSEM像のすべての粒子の数に対する、柱体粒子の数から求めることができる。
【0057】
前記立体造形用樹脂粉末としては、前記熱可塑性樹脂以外に、非結晶性樹脂からなる樹脂粉末や、流動化剤、強化剤、難燃剤、酸化防止剤、可塑剤、安定化剤、結晶核剤等の添加剤等を含んでいてもよい。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらは、前記熱可塑性樹脂と混合し、立体造形用樹脂粉末に内在させてもよいし、前記立体造形用樹脂粉末の表面に付着させてもよい。
【0058】
前記立体造形用樹脂粉末としては、特に、流動化剤、強化剤、難燃剤、酸化防止剤が有効に用いられる。
前記立体造形用樹脂粉末としては、表面に流動化剤を有していることが好ましく、表面に流動化剤が付着していることがより好ましい。
前記流動化剤は、前記樹脂粉末の表面の一部又はすべてを被覆することにより、立体造形用樹脂粉末の流動性を高める効果を有する。前記立体造形用樹脂粉末の流動性が高まると、リコート時の粉末層の表面平滑性が高まり、また、立体造形用樹脂粉末の空隙が低減され、立体造形物の表面性、寸法精度、強度の更なる向上が可能となり、非常に有効である。これらの流動化剤は、樹脂粉末の表面に被覆されることによって効果が得られるが、その一部が樹脂粉末中に含まれていてもよい。
【0059】
前記流動化剤の平均一次粒径としては、500nm以下が好ましく、50nm以下がより好ましい。これにより、樹脂粉末表面への流動化剤の被覆率を高めることができ、流動性が向上すると同時に空隙を低減できることから有効である。なお、前記平均一次粒径は、例えば、粒径測定システム(装置名:ELSZ-2000ZS、大塚電子株式会社製)を用いて測定することができる。
【0060】
前記流動化剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、無機材料からなる球状粒子が好ましい。前記流動化剤としては、シリカ、アルミナ、チタニア、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化錫、酸化鉄、酸化銅、水和シリカ、シリカ表面上にシランカップリング剤により変性させたもの、ケイ酸マグネシウムなどが、よく使われている。特に、効果の観点から、シリカ、チタニア、水和シリカ、シリカ表面上にシランカップリング剤により変性させたものがより好ましく、シリカ表面上にシランカップリング剤により疎水性に変性させたものがコストの観点から特に好ましい。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0061】
また、前記流動化剤は、表面に疎水化処理されたものが好ましく用いられる。
前記疎水化処理の方法としては、特に限定されず、従来公知の方法を用いることができる。前記疎水化処理剤としては、例えば、ヘキサメチルジシラザン(HMDS)、ジメチルジクロロシラン(DMDS)等のシランカップリング剤、ジメチルシリコーンオイル、アミノ変性シリコーンオイル等のシリコーンオイル処理剤などが挙げられる。これらの中では、シランカップリング剤が好ましい。
前記疎水化処理剤による処理量としては、粒子の表面積あたり、2mg/m以上6mg/m以下が好ましい。
【0062】
前記流動化剤の含有量としては、前記立体造形用樹脂粉末全量に対して、0.05質量%以上3質量%以下が好ましく、0.1質量%以上1.5質量%以下がより好ましい。前記含有量が、上記範囲内であると、立体造形用樹脂粉末の流動性を向上できると同時に、空隙の増加による充填密度低下の影響を最小限に留めることができるため好ましい。
【0063】
前記立体造形用樹脂粉末への前記流動化剤の混合、被覆の工程については、従来公知の粉体混合機が用いられるが、ジャケット等を装備して、内部の温度を調節できるものが好ましい。また、混合機の回転数、速度、時間、温度などを任意に変更させることが可能である。これらの粉体混合機としては、例えば、V型混合機、ヘンシェルミキサー、ロッキングミキサー、ナウターミキサー、スーパーミキサーなどが挙げられる。
【0064】
前記強化剤は、主に強度を高めるために添加され、フィラー又は充填材として含有される。例えば、ファイバーやビーズが好適に用いられ、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、ガラスファイバーやガラスビーズ、カーボンファイバー、金属ファイバー、金属ビーズ、アルミボール、国際公開第2008/057844号パンフレットに記載のものなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよいし、樹脂中に含まれていてもよい。
前記立体造形用樹脂粉末としては、適度の乾燥しているのが好ましく、真空乾燥機やシリカゲルを入れることにより使用前に乾燥させてもよい。
【0065】
一般に、シャープメルト性を有さない立体造形用樹脂粉末に対して、前記ファイバーフィラーやビーズフィラーを混合すると、造形物の精度が悪化する傾向にある。これは、添加する前記ファイバーフィラーやビーズフィラーの熱伝導率が、前記立体造形用樹脂粉末よりも高いため、SLS造形時に粉面にレーザー照射した際、照射部に与えられた熱が照射部外へ拡散してしまい、照射部外の樹脂粉末の温度が融点以上となり過剰に造形されてしまうことが原因である。
【0066】
一方、本発明の立体造形用樹脂粉末(前記シャープメルト性を有する結晶性熱可塑性樹脂組成物)と前記ファイバーフィラーやビーズフィラーとの混合粉末は、樹脂粉末がシャープメルト性を有するために、熱拡散によりレーザー照射部外の樹脂温度が上昇したとしても融解しにくいため、前記過剰な造形を抑止することができ、高い造形精度を維持することが可能である。
【0067】
前記ファイバーフィラーの平均繊維径としては、1μm以上30μm以下が好ましく、平均繊維長さとしては30μm以上500μmが好ましい。前記平均繊維径や前記平均繊維長さがこの範囲の形状のファイバーフィラーを用いることにより、造形物強度の向上を実現し、かつ造形物表面の粗さをファイバーフィラーが無添加な造形物の表面粗さと同程度に維持することが可能となる。
【0068】
前記ビーズフィラーの円形度としては、0.8以上1.0以下が好ましく、体積平均粒径としては、10μm以上200μm以下が好ましい。なお、前記円形度は、面積(画素数)をSとし、周囲長をLとしたときに、下式により求められる。
円形度=4πS/L ・・・(式)
前記体積平均粒径は、例えば、粒度分布測定装置(マイクロトラック・ベル株式会社製、microtrac MT3300EXII)を用いて測定することができる。
前記強化剤の含有量としては、立体造形用樹脂粉末全量に対して、5質量%以上60質量%以下であることが好ましい。前記含有量が、5質量%以上であると、添加する本来の目的である強度を高める効果が十分に発揮され、60質量%以下であると、造形不良を防止することができる。
【0069】
前記難燃剤としては、例えば、建築材料、車両材料、船舶艤装材料等火災防止対応が必要な材料に好適に用いることができる。
前記難燃剤としては、例えば、ハロゲン系、リン系、無機水和金属化合物系、窒素系、シリコーン系などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。前記難燃剤を2種以上併用する場合は、ハロゲン系と無機水和金属化合物系との組合せが、難燃性能を高くすることができるため好ましい。
【0070】
前記難燃剤としては、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維等の無機繊維状物質、タルク、マイカ、モンモリロナイト等の無機層状珪酸塩などの無機強化剤を添加しても難燃性を向上することができる。この場合は、物性強化と難燃性強化との両立が可能となる。
前記立体造形用樹脂粉末の難燃性は、例えば、JIS K6911、JIS L1091(ISO 6925)、JIS C3005、発熱性試験(コーンカロリメータ)などにより評価することができる。
【0071】
前記難燃剤の含有量としては、立体造形用樹脂粉末全量に対して、1質量%以上50質量%以下が好ましく、より難燃性を高めることができる点から、10質量%以上30質量%以下がより好ましい。前記含有量が、1質量%以上であると、十分な難燃性を実現できる。また、前記含有量が、50質量%以下であると、立体造形用樹脂粉末の溶融固化特性が変化することを抑制し、造形精度低下や造形物の物性劣化が発生することを防止できる。
【0072】
また、樹脂劣化を抑制する点から、前記酸化防止剤(劣化防止剤や安定剤を含む)を含有することも可能であり、有効である。前記酸化防止剤としては、例えば、金属不活性化剤であるヒドラジド系やアミド系、ラジカル捕捉剤であるフェノール系(ヒンダードフェノール系)やアミン系、過酸化物分解剤であるホスフェート系や硫黄系、紫外線吸収剤であるトリアジン系などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。特に、ラジカル捕捉剤と過酸化物分解剤とを組み合わせて用いると有効であることが知られており、本発明においても特に有効である。
【0073】
前記酸化防止剤の含有量としては、立体造形用樹脂粉末全量に対して、0.05質量%以上5質量%以下が好ましく、0.1質量%以上3質量%以下がより好ましく、0.2質量%以上2質量%以下が特に好ましい。前記含有量が、上記範囲内であることにより、熱劣化を防止する効果が得られ、造形に使用した樹脂粉末を再利用することが可能になる。また、熱による変色を防止する効果も得られる。
【0074】
また、前記立体造形用樹脂粉末としては、SLS法やSMS法について使用できるが、適切な粒度、粒度分布、熱移動特性、溶融粘度、嵩密度、流動性、溶融温度、及び再結晶温度のようなパラメーターについて適切なバランスを示す特性を呈している。
【0075】
前記立体造形用樹脂粉末の嵩密度としては、PBF方式でのレーザー焼結度を促進する点から、樹脂自身の持っている密度に差異があるが嵩密度は大きい方が好ましく、タップ密度として0.35g/mL以上がより好ましく、0.40g/mL以上が更に好ましく、0.5g/mL以上が特に好ましい。
【0076】
前記立体造形用樹脂粉末を用いて、レーザー焼結により形成される立体造形物は、滑らかであり、最小オレンジピール以下を呈する十分な解像度を示す表面を形成できる。ここで、前記オレンジピールとは、一般にPBFでのレーザー焼結により形成される立体造形物の表面上に不適切な粗面、又は空孔やゆがみのような表面欠陥の存在を意味する。前記空孔は、例えば、美観を損なうだけでなく、機械強度にも著しく影響を及ぼすことがある。
【0077】
更に、前記立体造形用樹脂粉末を使用し、レーザー焼結により形成される立体造形物としては、焼結中から焼結後の冷却時の間に、発生する相変化による反りや歪み、発煙したりするような不適切なプロセス特性を示さないことが好ましい。
【0078】
本発明の立体造形用樹脂粉末を用いることにより、寸法精度や強度が高く、更に表面性(オレンジピール性)に優れた立体造形物を得ることができる。更に、リサイクル性に優れ、余剰粉を繰り返し使用しても、立体造形物の寸法精度や強度の低下を抑制することができる。
【0079】
本発明において用いられるリサイクル粉末としては、下記の試験方法のリサイクル方法に従って試験した時、PBF方式の製作機(装置名:AM S5500P、株式会社リコー製)中にて、リサイクル粉末を少なくとも1回、より好ましくは5回、より好ましくは7回、特に好ましくは少なくとも10回試験を行った後も、不適切なプロセス特性を示さない、ISO(国際標準化機構)3167 Type1A 150mm長さ多目的犬骨様試験標本を形成することができる。
【0080】
-柱体粒子の製造方法-
本発明の立体造形用樹脂粉末としては、樹脂を繊維化し、その後、前記繊維を裁断して直接的に略円柱体や多角柱体を得る方法や、フィルム形状から同様の柱体を得る方法や、得られた多角柱体の粒子を作製後に後加工により略円柱体を作製する方法など、前記柱体粒子を作製できれば、如何なる方法を用いてもよい。
【0081】
前記繊維化の方法としては、例えば、押し出し加工機を用いて、融点より30℃以上高い温度にて撹拌しながら、繊維状に樹脂溶融物を引き伸ばす方法などが挙げられる。この際、樹脂溶融物は、1倍以上10倍以下程度に延伸して繊維化することが好ましい。この場合、柱体粒子の底面の形状は、押出し加工機のノズル口の形状により決定される。例えば、柱体粒子の底面の形状、即ち繊維の断面が円形形状である場合は、ノズル口も円形形状のものを用い、多角形形状である場合は、ノズル口もそれに合わせて選定される。立体造形物の寸法精度は高ければ高いほどよく、面の部分の円形形状が半径において少なくとも10%以内が好ましい。また、ノズルの口の数は可能な範囲で多くした方が、生産性を高める上で好ましい。
【0082】
前記繊維を裁断する方法としては、ギロチン方式の上刃と下刃が共に刃物になっている裁断装置や、押し切り方式と呼ばれる下側は刃物ではなく板にて、上刃で裁断していく装置などがあり、これらの従来公知の装置を用いることができる。従来公知の前記装置は、例えば、0.005mm以上0.2mm以下に直接カットする装置や、COレーザー等を用いて裁断できる方法もあり、好ましく用いられる。これらの方法により、本発明の柱体粒子を含む樹脂粉末を得ることができる。
【0083】
樹脂ペレットを粉砕する方法も有効に用いられる。例えば、ペレット等の形態の樹脂を従来公知の粉砕機を用いて機械的に粉砕し、得られた樹脂粉末から、目的の粒径以外のものを分級することによって得られる。粉砕時の温度としては、粉砕効率が高まる点から、0℃以下(各樹脂自身の脆弱温度以下)が好ましく、-25℃以下がより好ましく、-100℃以下が特に好ましい。
【0084】
(立体造形物の製造方法及び立体造形物の製造装置)
前記立体造形物の製造方法は、本発明の立体造形用樹脂粉末を含む層を形成する層形成工程と、前記層の選択された領域内の立体造形用樹脂粉末同士を接着させる粉末接着工程と、を含み、更に必要に応じてその他の工程を含む。
本発明の立体造形物の製造装置は、本発明の立体造形用樹脂粉末を含む層を形成する層形成手段と、前記層の選択された領域内の立体造形用樹脂粉末同士を接着させる粉末接着手段と、を有し、更に必要に応じてその他の手段を有する。
前記立体造形物の製造方法は、前記立体造形物の製造装置を用いることにより好適に実施することができる。前記立体造形用樹脂粉末としては、本発明の立体造形用樹脂粉末と同様のものを用いることができる。
【0085】
前記立体造形用樹脂粉末は、粉末積層方式の立体造形物製造装置すべてに使用することができる。前記粉末積層方式の立体造形物の製造装置は、粉末の層を形成した後、選択された領域の立体造形用樹脂粉末同士を接着させる手段が異なり、一般にSLS方式やSMS方式に代表される電磁照射手段、バインダージェット方式に代表される液体吐出手段などが挙げられる。本発明の立体造形用樹脂粉末は、これらのいずれに適用することができ、粉末を積層する手段を含む立体造形装置すべてに用いることができる。
【0086】
前記電磁波照射を用いるSLS方式やSMS方式等の立体造形物の製造装置において、電磁波照射に用いられる電磁波を照射する部材(電磁波照射源)としては、例えば、紫外線、可視光線、赤外線等を照射するレーザーのほか、マイクロ波、放電、電子ビーム、放射加熱器、LEDランプ等、又はこれらの組合せなどが挙げられる。
また、前記立体造形用樹脂粉末を選択的に接着させる方法として電磁波照射を用いる場合、効率的に吸収させたり、又は吸収を妨げたりする方法もあり、例えば、吸収剤や抑制剤を前記樹脂粉末に含有させる方法も可能である。
【0087】
これらの立体造形物の製造装置の一例について、図3を用いて説明する。図3は、本発明の立体造形物の製造装置の一例を示す概略図である。図3に示すように、粉末の供給槽5に粉末を貯蔵し、使用量に応じて、ローラ4を用いてレーザー走査スペース6に供給する。供給槽5は、ヒーター3により温度を調節されていることが好ましい。電磁照射源1から出力したレーザーを反射鏡2を用いて、レーザー走査スペース6に照射する。前記レーザーによる熱により、粉末を焼結して立体造形物を得ることができる。
【0088】
前記供給槽5の温度としては、粉末の融点より10℃以上低いことが好ましい。
前記レーザー走査スペースにおける部品床温度としては、粉末の融点より5℃以上低温であることが好ましい。
レーザー出力としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、10ワット以上150ワット以下が好ましい。
【0089】
別の実施態様においては、選択的マスク焼結(selective mask sintering:SMS)技術を使用して、立体造形物を製造することができる。前記SMSプロセスについては、例えば、米国特許第6,531,086号明細書に記載されているものを好適に用いることができる。
【0090】
前記SMSプロセスとしては、遮蔽マスクを使用して選択的に赤外放射を遮断し、粉末層の一部に選択的に照射する。本発明の立体造形用樹脂粉末から立体造形物を製造するためにSMSプロセスを使用する場合、前記立体造形用樹脂粉末の赤外吸収特性を増強させる材料を含有させることが可能であり、有効である。例えば、前記樹脂粉末に1種以上の熱吸収剤及び/又は暗色物質(カーボンファイバー、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、もしくはカーボンファイバー、セルロースナノファイバー等)を含有することができる。
【0091】
更に別の実施態様においては、本発明の立体造形用樹脂粉末を用い、前記バインダージェット方式の立体造形物の製造装置を使用して、立体造形物を製造することができる。この方法は、本発明の前記立体造形用樹脂粉末を含む層を形成する層形成工程と、前記層の選択された領域内の立体造形用樹脂粉末同士を接着させる粉末接着工程と、を含み、更に必要に応じてその他の工程を含む。
【0092】
図4aから図4fに、バインダージェット方式のプロセスの一例を示すプロセス概略図である。図4aから図4fに示す立体造形物の製造装置は、造形用粉末貯蔵槽11と供給用粉末貯蔵槽12とを有し、これらの粉末貯蔵槽は、それぞれ上下に移動可能なステージ13を有し、該ステージ13上に本発明の立体造形用樹脂粉末を載置し、前記立体造形用樹脂粉末を含む層を形成する。造形用粉末貯蔵槽11の上には、前記粉末貯蔵槽内の前記立体造形用樹脂粉末に向けて立体造形用液体材料16を吐出する造形液供給手段15を有し、更に、供給用粉末貯蔵槽12から造形用粉末貯蔵槽11に立体造形用粉末材料を供給すると共に、造形用粉末貯蔵槽11の立体造形用樹脂粉末(層)表面を均すことが可能な樹脂粉末層形成手段14(以下、リコーターとも称する)を有する。
【0093】
図4a及び図4bは、供給用粉末貯蔵槽12から造形用粉末貯蔵槽11に立体造形用樹脂粉末を供給するとともに、平滑な表面を有する粉末層を形成する工程の一例を示す概略図である。造形用粉末貯蔵槽11及び供給用粉末貯蔵槽12の各ステージ13を制御し、所望の層厚になるようにギャップを調整し、前記樹脂粉末層形成手段14を供給用粉末貯蔵槽12から造形用粉末貯蔵槽11に移動させることにより、造形用粉末貯蔵槽11に樹脂粉末層が形成される。
【0094】
図4cは、造形用粉末貯蔵槽11の粉末層上に前記立体造形用液体材料供給手段15を用いて、立体造形用液体材料16を滴下する工程の一例を示す概略図である。この時、粉末層上に立体造形用液体材料16を滴下する位置は、立体造形物を幾層もの平面にスライスした二次元画像データ(スライスデータ)により決定される。
【0095】
図4d及び図4eは、供給用粉末貯蔵槽12のステージ13を上昇させ、造形用粉末貯蔵槽11のステージ13を降下させ、所望の層厚になるようにギャップを制御し、再び前記樹脂粉末層形成手段14を供給用粉末貯蔵槽12から造形用粉末貯蔵槽11に移動させることにより、造形用粉末貯蔵槽11に新たに樹脂粉末層が形成される工程の一例を示す概略図である。
【0096】
図4fは、再び造形用粉末貯蔵槽11の樹脂粉末層上に前記造形液供給手段15を用いて、立体造形用液体材料16を滴下する工程の一例を示す概略図である。これらの一連の工程を繰り返し、必要に応じて乾燥させ、立体造形用液体材料が付着していない樹脂粉末(余剰粉)を除去することによって、立体造形物を得ることができる。
【0097】
前記立体造形用樹脂粉末同士を接着させるためには、接着剤を含むことが好ましい。前記接着剤は、吐出する液体に溶解した状態で含有させてもよいし、前記立体造形用樹脂粉末に接着剤粒子として混在させてもよい。前記接着剤は、吐出する液体に溶解することが好ましく、例えば吐出する液体が水を主成分とするものであれば、前記接着剤は水溶性であることが好ましい。
【0098】
前記水溶性の接着剤としては、例えば、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルピロリドン、ポリアミド、ポリアクリルアミド、ポリエチレンイミン、ポリエチレンオキシド、ポリアクリル酸樹脂、セルロース樹脂、ゼラチンなどが挙げられる。これらの中でも、立体造形物の強度や寸法精度を高める点から、ポリビニルアルコールが好ましい。
【0099】
本発明の立体造形用樹脂粉末は、充填密度が高く、粒度分布がシャープであり、その結果得られる立体造形物の寸法精度や強度、表面性を向上することができ、これらの効果は電磁照射を用いる方法に限定されるものではなく、バインダージェット方式を始めとする粉末積層方式を採用したすべての立体造形装置に用いることができる。
【0100】
(立体造形物)
前記立体造形物は、本発明の立体造形用樹脂粉末を用い、本発明の立体造形物の製造装置により好適に製造することができる。
【実施例
【0101】
以下、実施例を示して本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例により限定されるものではない。
【0102】
得られた立体造形用樹脂粉末について、「平均円形度」、「比重」、「タップ密度」、「粒径比(体積平均粒径/数平均粒径)」、及び「端部に頂点を持たない柱体粒子の割合」は、以下のようにして測定した。結果を下記表1及び表2に示す。
【0103】
[平均円形度]
前記平均円形度は、湿式フロー式粒子径・形状分析装置(装置名:FPIA-3000、シスメックス株式会社製)を用いて、粉体粒子カウント数が3,000個以上をカウントする状態にて、粒子形状画像を取得し、粒径が0.5μm以上200μm以下の粒径の範囲において、柱体粒子の円形度の平均値を求めた。各円形度は2回ずつ測定し、その平均値を平均円形度とした。
【0104】
[比重]
前記比重は、気相置換法を用いた乾式自動密度計(装置名:アキュピック1330、株式会社島津製作所製)を用いて一定温度で気体(Heガス)の体積と圧力を変化させて、サンプルの体積を求め、このサンプルの体積から質量を計測し、サンプルの密度を測定することにより行った。
【0105】
[タップ密度]
ISO 1068に準じた方法にて評価を実施した。ガラス製の250mLメスシリンダー(柴田科学株式会社製)を使用し、試料100gをタッピングさせずに入れた後にメスシリンダーをタッピング装置に取り付け、タッピングを1,300回後に装置を止め、試料の占める体積を読み取った。更に1,300回タッピングし、2つの差が2mLを超えなくなるまで行い、小さい方の体積を読み取った。秤量した試料の質量と読み取った体積の数値を割り返すことによりタップ密度とした。
【0106】
[粒径比(体積平均粒径(Mv)/数平均粒径(Mn))]
前記粒径比(体積平均粒径/数平均粒径)は、粒度分布測定装置(マイクロトラック・ベル株式会社製、microtrac MT3300EXII)を用いて、立体造形用樹脂粉末ごとの粒子屈折率を使用し、溶媒は使用せず乾式(大気)法にて体積平均粒径(Mv)及び数平均粒径(Mn)を測定し、粒径比(体積平均粒径/数平均粒径)を算出した。粒子屈折率は、ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂:1.57、ポリアミド66(PA66)樹脂:1.53、ポリアミド9T(PA9T)樹脂:1.53、ポリプロピレン(PP)樹脂:1.48、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂:1.57、ポリアセタール(POM)樹脂:1.48と設定した。
【0107】
(端部に頂点を持たない柱体粒子の割合)
得られた立体造形用樹脂粉末を、走査型電子顕微鏡(装置名:S4200、株式会社日立製作所製)を用いて樹脂粉末を観察し、得られた10視野の二次元像からすべての柱体粒子に対する頂点を持たない柱体粒子の割合を求めた。立体造形用樹脂粉末中に、端部に頂点を持たない柱体粒子が75%以上を「○」、端部に頂点を持たない柱体粒子が75%未満を「×」とした。
【0108】
(実施例1)
ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂(商品名:ノバデュラン5020、三菱エンジニアリングプラスチック株式会社製、融点:218℃、ガラス転移温度:43℃)のペレット99.1質量%に、フェノール系酸化防止剤(商品名:AO-60、株式会社ADEKA製)0.3質量%、ホスフェート系酸化防止剤(商品名:PEP-36、株式会社ADEKA製)0.6質量%を添加し、攪拌した後、押し出し加工機(株式会社日本製鋼所製)を用いて、融点より30℃高い温度にて撹拌後、ノズル口が円形形状のものを用いて繊維化した。ノズルから出る糸の本数は100本とした。4倍程度延伸し、繊維径が60μm、精度が±4μmの樹脂繊維を得た。得られた樹脂繊維を押し切り方式の裁断装置(株式会社荻野精機製作所製、NJシリーズ1200型)を用いて繊維長60μmに裁断し、略円柱体粒子を含む樹脂粉末を得た。
【0109】
得られた樹脂粉末を走査型電子顕微鏡(装置名:S4200、株式会社日立製作所製)を用いて確認したところ、殆どの柱体粒子は断面がきれいに裁断されており、切断面は互いに平行な略円柱体形状を有していた。また、略円柱体の高さを測定したところ、80μm±10μmの精度で切断できていた。前記走査型電子顕微鏡を用いて10視野の二次元像を得て、それぞれにおいてすべての粒子に対する略円柱体形状の粒子の割合を求めると、その平均は92%であった。中には裁断時に押しつぶされ、底面に対する高さ方向がたるのように膨らんだ形状のものやその反対に凹んだ形状のものが僅かに含まれており、それらの割合はすべての粒子に対して0.9%であった。また、延伸による結晶制御により、融解エネルギーが約2倍増大していた。DSCの初回の加熱条件では融点開始温度(Tmf1)は、219℃であったが、2回目の加熱条件では、融点開始温度(Tmf2)は、210℃であった。
【0110】
更に、得られた樹脂粉末について、球形化処理を行った。球形化処理は、球形化処理装置(装置名:MP型ミキサーMP5A/1、三井鉱山株式会社製)を用い、撹拌速度9,600rpmにて20分間処理を行い、立体造形用樹脂粉末を得た。得られた立体造形用樹脂粉末を立体造形用樹脂粉末1とした。これを、走査型電子顕微鏡(装置名:S4200、株式会社日立製作所製)を用いて確認したところ、端部に頂点が丸められており、端部に頂点を持たない柱体粒子が得られたことを確認した。また、同様に10視野の二次元像を得て、それぞれについてすべての柱体粒子に対する端部に頂点を持たない柱体粒子の割合を求めたところ、その平均は88%であった。
【0111】
(実施例2)
実施例1において使用した同じ樹脂を、押し出し加工機(株式会社日本製鋼所製)を用いて、融点より30℃高い温度にて撹拌後ノズルより溶融させTダイ(株式会社日本製鋼所製)を用いて溶融状態のシートを4倍程度延伸で引っ張りながら冷却ロールに接触させて冷却、固化させ、1,000mm×1,000mm×平均厚み80μmのフィルムを得た。得られたフィルムを押し切り方式の裁断装置(株式会社荻野精機製作所製、NJシリーズ1200型)を使用して裁断した。前記裁断は、フィルムに対して深さ80μmの厚み、線幅は80μmになるように裁断した後に90°回転させ、深さ80μmの厚さ、線幅80μmになる様にカットすることにより1辺80μmの立方体形状の樹脂粉末を得た。なお、カットした粒子は2度切りを抑止するため吸引機で吸いながら行った。裁断後の断面を走査型電子顕微鏡で観察したところ、断面はきれいに裁断されており、裁断面は平行で、2度切りのような物はほとんど見られなかった。また、立方体の各辺を測定したところ80μm±10μmの精度で切断できていた。裁断時につぶれた様子も見られなかった。また、同様にしてすべての粒子に対する多角柱体(立方体)形状の粒子の割合を求めると、その平均は96%であった。
【0112】
更に、得られた前記樹脂粉末について、球形化処理を行った。球形化処理は、実施例1と同様にして行った。得られた樹脂粉末を立体造形用樹脂粉末2とした。これを、前記走査型電子顕微鏡を用いて確認したところ、端部に頂点が丸められており、端部に頂点を持たない柱体粒子が得られたことを確認した。また、同様にしてすべての柱体粒子に対する端部に頂点を持たない柱体粒子の割合を求めたところ、その平均は83%であった。
【0113】
(実施例3)
実施例1において、ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂をポリアミド66(PA66)樹脂(商品名:レオナ1300S、旭化成ケミカルズ株式会社製、融点:265℃)に変更し、酸化防止剤をホスフェート系酸化防止剤(商品名:PEP-36、株式会社ADEKA社製)0.2質量%のみに変更した以外は、実施例1と同様にして、樹脂粉末を作製した。
得られた樹脂粉末を実施例1と同様の方法により球形化処理を行い、これを立体造形用樹脂粉末3とした。これを、走査型電子顕微鏡を用いて観察を行ったところ、端部に頂点を持たない柱体粒子が得られたことを確認した。また、同様にしてすべての柱体粒子に対する端部に頂点を持たない柱体粒子の割合を求めたところ、その平均は90%であった。
【0114】
(実施例4)
ポリアミド9T(PA9T)樹脂(商品名:ジェネスタN1000A、株式会社クラレ製、融点:300℃)を押し出し加工機(株式会社日本製鋼所製)を用いて、融点より30℃高い温度にて撹拌後、ノズル口が円形形状のものを用いて繊維化した。前記ノズル口から出る糸の本数は60本とした。1.2倍程度延伸し、繊維径が40μm±2μmの樹脂繊維を得た。
得られた樹脂繊維をギロチン方式の裁断装置(装置名:HP600、株式会社辻鉄工所製)を用いて繊維長40μmに裁断し、略円柱体粒子を含む樹脂粉末を得た。
得られた樹脂粉末を走査型電子顕微鏡を用いて観察したところ、断面はきれいに裁断されており、切断面は互いに平行であった。また、略円柱体の高さを測定したところ、40μm±8μmの精度で切断できていた。裁断時につぶれた様子も見られなかった。
更に、得られた前記樹脂粉末を実施例1と同様の方法により球形化処理を行い、これを立体造形用樹脂粉末4とした。これを、走査型電子顕微鏡を用いて観察したところ、端部に頂点を持たない柱体粒子が確認された。また、同様にしてすべての柱体粒子に対する端部に頂点を持たない柱体粒子の割合を求めたところ、その平均は86%であった。
【0115】
(実施例5)
実施例1において、ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂をポリプロピレン(PP)樹脂(商品名:ノバテック MA3、日本ポリプロ株式会社製、融点:180℃、ガラス転移温度:0℃)に変更し、繊維長80μmに裁断した以外は、実施例1と同様にして、略円柱体を含む樹脂粉末を得た。
得られた樹脂粉末を実施例1と同様の方法により球形化処理を行い、これを立体造形用樹脂粉末5とした。これを、走査型電子顕微鏡を用いて観察したところ、端部に頂点を持たない柱体粒子であることが確認された。また、同様にしてすべての柱体粒子に対する端部に頂点を持たない柱体粒子の割合を求めたところ、その平均は84%であった。
【0116】
(実施例6)
実施例1において、ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂をポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂(商品名:HT P22PF、VICTREX社製、融点:334℃、ガラス転移温度:143℃)に変更し、更に延伸倍率を3倍に変更し、繊維長70μmに裁断した以外は、実施例1と同様にして、略円柱体の粒子を含む樹脂粉末を得た。
得られた樹脂粉末を実施例1と同様の方法により球形化処理を行い、これを立体造形用樹脂粉末6とした。これを、走査型電子顕微鏡を用いて観察したところ、端部に頂点を持たない柱体粒子であることが確認された。また、同様にしてすべての柱体粒子に対する端部に頂点を持たない柱体粒子の割合を求めたところ、その平均は77%であった。
【0117】
(実施例7)
実施例1において、ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂をポリアセタール(POM)樹脂(商品名:ユピタール F10-01、三菱エンジニアリングプラスチック株式会社製、融点:175℃)に変更し、繊維長85μmに裁断した以外は、実施例1と同様にして、略円柱体を含む樹脂粉末を得た。
得られた樹脂粉末を実施例1と同様の方法により球形化処理を行い、これを立体造形用樹脂粉末7とした。これを、走査型電子顕微鏡を用いて観察したところ、端部に頂点を持たない柱体粒子であることが確認された。また、同様にしてすべての柱体粒子に対する端部に頂点を持たない柱体粒子の割合を求めたところ、その平均は80%であった。
【0118】
(実施例8)
実施例1において、繊維径を80μm、繊維長を50μmとした以外は、すべて実施例1と同様にして、立体造形用樹脂粉末8を作製した。これを、走査型電子顕微鏡(装置名:S4200、株式会社日立製作所製)を用いて確認したところ、端部の頂点が丸められており、端部に頂点を持たない柱体粒子が得られたことを確認した。また、同様にしてすべての柱体粒子に対する端部に頂点を持たない柱体粒子の割合を求めたところ、その平均は85%であった。
【0119】
(実施例9)
実施例1において、酸化防止剤を無添加とし、球形化処理の時間を5分間に変更した以外は、実施例1と同様にして、立体造形用樹脂粉末9を作製した。これを、走査型電子顕微鏡(装置名:S4200、株式会社日立製作所製)を用いて確認したところ、端部の頂点が丸められており、端部に頂点を持たない柱体粒子が得られたことを確認した。また、同様にしてすべての柱体粒子に対する端部に頂点を持たない柱体粒子の割合を求めたところ、その平均は73%であった。
【0120】
(実施例10)
実施例1において、酸化防止剤を無添加とし、球形化処理の時間を120分間に変更した以外は、実施例1と同様にして、立体造形用樹脂粉末10を作製した。これを、前述の走査型電子顕微鏡(装置名:S4200、株式会社日立製作所製)を用いて確認したところ、端部の頂点が丸められており、端部に頂点を持たない柱体粒子が得られたことを確認した。また、すべての柱体粒子に対する端部に頂点を持たない柱体粒子の割合を求めたところ、その平均は96%であった。
【0121】
(実施例11)
実施例1において、球形化処理装置(装置名:メテオレインボーMR-10、日本ニューマチック工業株式会社製)を用いた以外は、実施例1と同様にして、立体造形用樹脂粉末11を作製した。これを、走査型電子顕微鏡(装置名:S4200、株式会社日立製作所製)を用いて確認したところ、端部の頂点が丸められており、端部に頂点を持たない柱体粒子が得られたことを確認した。また、同様にしてすべての柱体粒子に対する端部に頂点を持たない柱体粒子の割合を求めたところ、その平均は80%であった。
【0122】
(実施例12)
実施例1において、球形化処理を行う前に、立体造形用樹脂粉末1に対して、流動化剤(商品名:AEROSIL RX200、日本アエロジル株式会社製、表面処理剤HMDS、平均一次粒径:12nm、電荷量:-200μC/g)を0.8質量%混合し、球形化処理装置(装置名:MP型ミキサーMP5A/1、三井鉱山株式会社製)を用いて、球形化と外添剤の混合を同時に行い、立体造形用樹脂粉末12を作製した。撹拌速度は9600rpm、処理時間は5分間とした。これを、走査型電子顕微鏡(装置名:S4200、株式会社日立製作所製)を用いて確認したところ、端部の頂点が丸められており、端部に頂点を持たない柱体粒子が得られたことを確認した。また、同様にしてすべての柱体粒子に対する端部に頂点を持たない柱体粒子の割合を求めたところ、その平均は77%であった。
【0123】
(実施例13)
実施例12において、流動化剤の含有量を0.2質量%に変更した以外は、実施例12と同様にして、立体造形用樹脂粉末13を作製した。これを、前述の走査型電子顕微鏡(装置名:S4200、株式会社日立製作所製)を用いて確認したところ、端部の頂点が丸められており、端部に頂点を持たない柱体粒子が得られたことを確認した。また、同様にしてすべての柱体粒子に対する端部に頂点を持たない柱体粒子の割合を求めたところ、その平均は80%であった。
【0124】
(実施例14)
実施例12において、流動化剤の添加量を1.3質量%に変更した以外は、実施例12と同様にして、立体造形用樹脂粉末14を作製した。これを、走査型電子顕微鏡(装置名:S4200、株式会社日立製作所製)を用いて確認したところ、端部の頂点が丸められており、端部に頂点を持たない柱体粒子が得られたことを確認した。また、同様にしてすべての柱体粒子に対する端部に頂点を持たない柱体粒子の割合を求めたところ、その平均は71%であった。
【0125】
(実施例15)
実施例12において、流動化剤(商品名:SFP-20MHH、デンカ株式会社製、表面処理剤HMDS、平均一次粒径:400nm)を用いた以外は、実施例12と同様にして、立体造形用樹脂粉末15を作製した。これを、走査型電子顕微鏡(装置名:S4200、株式会社日立製作所製)を用いて確認したところ、端部の頂点が丸められており、端部に頂点を持たない柱体粒子が得られたことを確認した。また、同様にしてすべての柱体粒子に対する端部に頂点を持たない柱体粒子の割合を求めたところ、その平均は78%であった。
【0126】
(実施例16)
実施例12において、流動化剤(商品名:AEROXIDE T805、日本アエロジル株式会社製、表面処理剤オクチルトリメトキシシラン、平均一次粒径:21nm)を用いた以外は、実施例12と同様にして、立体造形用樹脂粉末16を作製した。これを、走査型電子顕微鏡(装置名:S4200、株式会社日立製作所製)を用いて確認したところ、端部の頂点が丸められており、端部に頂点を持たない柱体粒子が得られたことを確認した。また、同様にしてすべての柱体粒子に対する端部に頂点を持たない柱体粒子の割合を求めたところ、その平均は81%であった。
【0127】
(実施例17)
実施例1において、ノズル口が六角形状のものを用いて繊維化し、六角柱体の樹脂粉末を得た以外は、実施例1と同様にして、立体造形用樹脂粉末17を作製した。これを、走査型電子顕微鏡(装置名:S4200、株式会社日立製作所製)を用いて確認したところ、端部の頂点が丸められており、端部に頂点を持たない柱体粒子が得られたことを確認した。また、同様にしてすべての柱体粒子に対する端部に頂点を持たない柱体粒子の割合を求めたところ、その平均は85%であった。
【0128】
(比較例1)
ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂(商品名:ノバデュラン5020、三菱エンジニアリングプラスチック株式会社製、融点:218℃、ガラス転移温度:43℃)を低温粉砕システム(装置名:リンレックスミルLX1、ホソカワミクロン株式会社製)を用いて、-200℃の条件化で、粒径が5μm以上200μm以下になるように凍結粉砕を行い、立体造形用樹脂粉末18を作製した。
得られた立体造形用樹脂粉末を走査型電子顕微鏡(装置名:S4200、株式会社日立製作所製)を用いて観察したところ、楕円形状、棒状、板状など様々な形状を有する粒子が混在していたが、柱体粒子は認められなかった。
【0129】
(比較例2)
比較例1の樹脂粉末について、球形化処理装置(装置名:MP型ミキサーMP5A/1、三井鉱山株式会社製)を用い、撹拌速度9,600rpmにて20分間球形化処理を行った。得られた樹脂粉末を立体造形用樹脂粉末19とした。これを、走査型電子顕微鏡(装置名:S4200、株式会社日立製作所製)を用いて観察したところ、楕円形状、棒状、板状など様々な形状を有する粒子は混在していたが、全体的に丸みを帯びていた。しかし、柱体粒子は認められなかった。
【0130】
(比較例3)
比較例2の樹脂粉末について、球形化処理を行う前に、立体造形用樹脂粉末19に対し、流動化剤(商品名:AEROSIL RX200、日本アエロジル株式会社製、表面処理剤HMDS、平均一次粒径12nm)を0.8質量%混合し、球形化処理装置(三井鉱山株式会社製、MP型ミキサーMP5A/1)を用いて、球形化と外添剤の混合を同時に行い、立体造形用樹脂粉末20を作製した。撹拌速度は9,600rpm、処理時間は5分間とした。
これを、走査型電子顕微鏡(装置名:S4200、株式会社日立製作所製)を用いて確認したところ、楕円形状、棒状、板状など様々な形状を有する粒子は混在していたが、全体的に丸みを帯びていた。しかし、柱体粒子は認められなかった。
【0131】
(比較例4)
比較例1において、ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂をポリアミド66(PA66)樹脂(商品名:レオナ1300S、旭化成ケミカルズ株式会社製、融点:265℃)に変更した以外は、比較例1と同様にして、立体造形用樹脂粉末21を作製した。
得られた樹脂粉末を走査型電子顕微鏡(装置名:S4200、株式会社日立製作所製)を用いて観察したところ、楕円形状、棒状、板状など様々な形状を有する粒子が混在していたが、柱体粒子は認められなかった。
【0132】
【表1】
【0133】
なお、前記表1において、成分の商品名、及び製造会社名については下記の通りである。
・PBT:ポリブチレンテレフタレート樹脂、三菱エンジニアリングプラスチック株式会社製、商品名:ノバデュラン5020、融点:218℃、ガラス転移温度:43℃
・PA66:ポリアミド66樹脂、旭化成ケミカルズ株式会社製、商品名:レオナ1300S、融点:265℃
・PA9T:ポリアミド9T樹脂、株式会社クラレ製、商品名:ジェネスタN1000A、融点:306℃
・PP:ポリプロピレン樹脂、日本ポリプロ株式会社製、商品名:ノバテック MA3、融点:130℃、ガラス転移温度:0℃
・PEEK:ポリエーテルエーテルケトン樹脂、VICTREX社製、商品名:HT P22PF、融点:334℃、ガラス転移温度:143℃
・POM:ポリアセタール樹脂、三菱エンジニアリングプラスチック株式会社製、商品名:ユピタール F10-01、融点:175℃
・RX200:日本アエロジル株式会社製、商品名:AEROSIL RX200、表面処理剤HMDS、平均一次粒径:12nm、電荷量:-200μC/g、疎水性フュームドシリカ
・SFP-20:デンカ株式会社製、商品名:SFP-20MHH、表面処理剤HMDS、平均一次粒径:400nm、超微粒子球状シリカ
・T805:日本アエロジル株式会社製、商品名:AEROXIDE T805、表面処理剤オクチルトリメトキシシラン、平均一次粒径:21nm、オクチルシリル化酸化チタン
【0134】
得られた立体造形用樹脂粉末について、以下のようにして、「寸法精度」、「表面性(オレンジピール性)」、「引張強度」、及び「リサイクル性」について評価を行った。結果を表1に示す。
【0135】
(寸法精度)
得られた立体造形用樹脂粉末について、SLS方式の立体造形装置(装置名:AM S5500P、株式会社リコー製)を使用し、立体造形物の製造を行った。設定条件は、粉末層の平均厚みを0.1mm、レーザー出力を10ワット以上150ワット以下、レーザー走査スペースを0.1mm、床温度を樹脂の融点より-3℃に設定した。
寸法精度評価用サンプルは、1辺50mm、平均厚み5mmの直方体とし、CADデータに基づいて立体造形物を作製し、これを寸法精度評価用サンプルとした。寸法精度評価用サンプルのCADデータと、実際に造形したサンプルの各辺の長さの差を求め、その平均値を寸法差とし、以下の基準に基づいて寸法精度を評価した。
-評価基準-
◎:寸法差が0.02mm以下である
○:寸法差が0.02mm超0.05mm以下である
△:寸法差が0.05mm超0.10mm以下である
×:寸法差が0.10mm超である
【0136】
(表面性(オレンジピール性))
前記「寸法精度」の評価に用いた立体造形サンプルを用いて、表面を目視観察、光学顕微鏡観察及び官能試験を行った。官能試験はサンプルを手で触り、その触感から表面性、特に滑らかさについて評価を行った。これらの結果を総合し、下記評価基準に基づいて、表面性(オレンジピール性)の評価を行った。
-評価基準-
◎:表面が非常に滑らかで、気になる凹凸や粗面が殆ど認められない
○:表面の滑らかさに問題はなく、表面の凹凸や粗面は許容できる
△:表面に滑らかさはなく、凹凸や粗面が目視で認識できる
×:表面が引っかかり、表面の凹凸やゆがみ等の欠陥が多数認められる
【0137】
(引張強度)
寸法精度評価用サンプルの作製時と同じ装置及び同じ条件に設定し、(a)引っ張り試験標本を中心部にY軸方向に長辺が向くように、引っ張り試験標本の長手方向に5個造形した。各々の造形物層の間隔は5mmとした。次に、(b)1辺50mm、平均厚み5mmの直方体の立体造形物を製造した。引張り試験標本サンプルは、ISO(国際標準化機構)3167 Type1A 150mm長さ多目的犬骨様試験標本(標本は、長さ80mm、厚さ4mm、幅10mmの中心部分を有する)を使用して行った。
得られた立体造形物について、ISO 527に準じた引張試験(装置名:AGS-5kN、株式会社島津製作所製)を使用して実施し、「引張強度」を評価した。なお、前記引張試験における試験速度は、50mm/分間とした。また、引張強度の初期値は、造形1回目の立体造形物について5回試験を行い、得られた測定値の平均値とした。得られた引張強度の平均値から、下記評価基準に基づいて、引張強度の評価を行った。
-評価基準-
◎:引張強度が100MPa以上である
○:引張強度が50MPa以上100MPa未満である
△:引張強度が30MPa以上50MPa未満である
×:引張強度が30MPa未満である
【0138】
(リサイクル性)
寸法精度、表面性、及び引張強度の評価に用いた立体造形物を作製した時に使用した樹脂粉末の余剰粉を、前記立体造形装置の供給床中に戻し、使用済みの樹脂粉末を用いて立体造形物の作製を行った。この作業を繰り返し10回行い、下記評価基準に基づいて、「リサイクル性」を評価した。
-評価基準-
ランク5:10回繰り返して使用しても、立体造形物に反りや変形が殆ど認められず、引張強度の初期値に対する低下率が15%未満である
ランク4:10回繰り返して使用しても、立体造形物に反りや変形が少なく、引張強度の初期値に対する低下率が15%以上20%未満である
ランク3:10回繰り返して使用しても、立体造形物に反りや変形が少なく、引張強度の初期値に対する低下率が20%以上30%未満である
ランク2:10回繰り返して使用すると、立体造形物に反りや変形が認められ、引張強度の初期値に対する低下率が30%以上40%未満である
ランク1:10回繰り返して使用すると、立体造形物に反りや変形が認められ、引張強度の初期値に対する低下率が40%以上である
【0139】
【表2】
【0140】
本発明の態様としては、例えば、以下のとおりである。
<1> 柱体粒子を含み、
前記柱体粒子の平均円形度が、0.5μm以上200μm以下の粒径の範囲において、0.83以上であることを特徴とする立体造形用樹脂粉末である。
<2> 前記柱体粒子が、端部が頂点を持たない前記<1>に記載の立体造形用樹脂粉末である。
<3> 前記柱体粒子の底面の長辺が5μm以上200μm以下であり、かつ高さが5μm以上200μm以下である前記<1>から<2>のいずれかに記載の立体造形用樹脂粉末である。
<4> 前記柱体粒子の底面の長辺に対する高さの比が、0.5倍以上2倍以下である前記<3>に記載の立体造形用樹脂粉末である。
<5> 前記柱体粒子の底面の長辺に対する高さの比が、0.7倍以上1.5倍以下である前記<4>に記載の立体造形用樹脂粉末である。
<6> 前記立体造形用樹脂粉末の体積平均粒径と、前記立体造形用樹脂粉末の数平均粒径との粒径比(体積平均粒径/数平均粒径)が、2.00以下である前記<1>から<5>のいずれかに記載の立体造形用樹脂粉末である。
<7> 前記粒径比(体積平均粒径/数平均粒径)が、1.5以下である前記<6>に記載の立体造形用樹脂粉末である。
<8> 前記粒径比(体積平均粒径/数平均粒径)が、1.2以下である前記<7>に記載の立体造形用樹脂粉末である。
<9> 前記立体造形用樹脂粉末の比重が、0.8以上である前記<1>から<8>のいずれかに記載の立体造形用樹脂粉末である。
<10> 前記立体造形用樹脂粉末が、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリエステル、ポリアリールケトン、ポリフェニレンスルフィド、液晶ポリマー、ポリアセタール、ポリイミド、及びフッ素樹脂から選択される少なくとも1種を含む前記<1>から<9>のいずれかに記載の立体造形用樹脂粉末である。
<11> 前記立体造形用樹脂粉末の表面に、流動化剤を有する前記<1>から<10>のいずれかに記載の立体造形用樹脂粉末である。
<12> 前記流動化剤の平均一次粒径が、500nm以下である前記<11>に記載の立体造形用樹脂粉末である。
<13> 前記流動化剤の平均一次粒径が、50nm以下である前記<12>に記載の立体造形用樹脂粉末である。
<14> 前記流動化剤が、シリカ及びチタニアの少なくともいずれかである前記<11>から<13>のいずれかに記載の立体造形用樹脂粉末である。
<15> 前記柱体粒子が、略円柱体、及び多角柱体のいずれかである前記<1>から<14>のいずれかに記載の立体造形用樹脂粉末である。
<16> 前記多角柱体が、三角柱、四角柱、五角柱、及び六角柱から選択されるいずれかである前記<15>に記載の立体造形用樹脂粉末である。
<17> 前記四角柱が、直方体、及び立方体のいずれかである前記<16>に記載の立体造形用樹脂粉末である。
<18> 前記四角柱が、立方体である前記<17>に記載の立体造形用樹脂粉末である。
<19> 前記<1>から<18>のいずれかに記載の立体造形用樹脂粉末を含む層を形成する層形成手段と、
前記層の選択された領域内の立体造形用樹脂粉末同士を接着させる粉末接着手段と、を有することを特徴とする立体造形物の製造装置である。
<20> 前記粉末接着手段が、電磁波を照射する部材を有する前記<19>に記載の立体造形物の製造装置である。
【0141】
前記<1>から<18>のいずれかに記載の立体造形用樹脂粉末、及び前記<19>から<20>のいずれかに記載の立体造形物の製造装置は、従来における前記諸問題を解決し、前記本発明の目的を達成することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0142】
【文献】特表2014-522331号公報
【文献】特表2013-529599号公報
【文献】特表2015-515434号公報
図1A
図1B
図1C
図1D
図1E
図1F
図1G
図1H
図1I
図2
図3
図4a
図4b
図4c
図4d
図4e
図4f