(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-22
(45)【発行日】2022-03-30
(54)【発明の名称】核酸検出方法及び核酸検出装置、並びに、核酸検出キット
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/6869 20180101AFI20220323BHJP
C12Q 1/6876 20180101ALI20220323BHJP
C12M 1/00 20060101ALI20220323BHJP
C12N 15/09 20060101ALI20220323BHJP
【FI】
C12Q1/6869 Z ZNA
C12Q1/6876 Z
C12M1/00 A
C12N15/09 Z
(21)【出願番号】P 2018044969
(22)【出願日】2018-03-13
【審査請求日】2021-02-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【氏名又は名称】廣田 浩一
(72)【発明者】
【氏名】尾形 聡一
(72)【発明者】
【氏名】前田 礼男
(72)【発明者】
【氏名】矢本 梨恵
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 幸栄
(72)【発明者】
【氏名】米川 侑希
(72)【発明者】
【氏名】湯本 真之
【審査官】池上 京子
(56)【参考文献】
【文献】PNAS,2003年,vol.100, no.13,p.7743-7748
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C12Q 1/00-3/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
標的核酸中の全てのシトシンが非メチル化シトシンであることを検出するための核酸検出方法であって、
前記標的核酸中の非メチル化シトシンをウラシルに変換して核酸試料を得る変換工程と、
前記核酸試料に対し、
前記核酸試料
のセンス鎖又はアンチセンス鎖における3’末端の一部に相補的な塩基配列を有する伸長反応プライマー、並びに基質としてddGTP、dCTP、dATP、及びdTTP
を用いて
一本鎖の伸長核酸断片を得る核酸伸長工程と、
前記伸長核酸断片のうち、前記標的核酸中に非メチル化シトシンのみを有する標的核酸から得られた伸長核酸断片を検出する検出工程と、を含むことを特徴とする核酸検出方法。
【請求項2】
前記標的核酸中の非メチル化シトシンが、CG配列のシトシンである請求項1に記載の核酸検出方法。
【請求項3】
前記伸長反応プライマーの5’末端に標識体を有する請求項1から2のいずれかに記載の核酸検出方法。
【請求項4】
前記伸長反応プライマーの5’末端と標識体との間に前記核酸試料に対して非相補的な塩基配列を有する請求項3に記載の核酸検出方法。
【請求項5】
前記標識体が、ビオチン、ジゴキシゲニン、ポリアデニル酸(ポリA)配列である請求項3から4のいずれかに記載の核酸検出方法。
【請求項6】
前記核酸伸長工程の後に、伸長核酸断片回収手段により前記伸長核酸断片を回収する伸長核酸断片回収工程をさらに含む請求項1から5のいずれかに記載の核酸検出方法。
【請求項7】
前記伸長核酸断片回収手段が、前記標識体と結合可能な媒体である請求項6に記載の核酸検出方法。
【請求項8】
前記伸長核酸断片回収手段が、微粒子である請求項6から7のいずれかに記載の核酸検出方法。
【請求項9】
前記伸長核酸断片回収手段が、アビジン、ストレプトアビジン、ニュートラアビジン、抗ビオチン抗体、抗ジゴキシゲニン抗体、及びオリゴTが化学修飾された磁気ビーズ又はセファロースビーズである請求項6から8のいずれかに記載の核酸検出方法。
【請求項10】
前記伸長核酸断片を検出する検出手段が、アガロースゲル電気泳動、リアルタイムPCR、蛍光標識プローブ法である請求項1から9のいずれかに記載の核酸検出方法。
【請求項11】
標的核酸中の全てのシトシンが非メチル化シトシンであることを検出するための核酸検出
装置であって、
前記標的核酸中の非メチル化シトシンをウラシルに変換して核酸試料を得る変換手段と、
前記核酸試料に対し、
前記核酸試料
のセンス鎖又はアンチセンス鎖における3’末端の一部に相補的な塩基配列を有する伸長反応プライマー、並びに基質としてddGTP、dCTP、dATP、及びdTTP
を用いて
一本鎖の伸長核酸断片を得る核酸伸長手段と、
前記伸長核酸断片のうち、前記標的核酸中に非メチル化シトシンのみを有する標的核酸から得られた伸長核酸断片を検出する検出手段と、を有することを特徴とする核酸検出装置。
【請求項12】
請求項1から10のいずれかに記載の核酸断片検出方法に用いられる検出キットであって、
前記標的核酸中の非メチル化シトシンをウラシルに変換して核酸試料を得る変換
試薬と、
前記核酸試料に対し、
前記核酸試料
のセンス鎖又はアンチセンス鎖における3’末端の一部に相補的な塩基配列を有する伸長反応プライマー、並びに基質としてddGTP、dCTP、dATP、及びdTTPを含み、核酸伸長反応を行う核酸伸長試薬と、
前記核酸伸長反応により得られた
一本鎖の伸長核酸断片のうち、前記標的核酸中に非メチル化シトシンのみを有する標的核酸から得られた伸長核酸断片を検出する検出試薬と、を有することを特徴とする核酸検出キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、核酸検出方法及び核酸検出装置、並びに、核酸検出キットに関する。
【背景技術】
【0002】
生物を構成する個々の細胞は、同一の塩基配列を有するにも関わらず、細胞種によって固有の性質(表現型)を示している。この表現型は、体細胞分裂の後も継承され、細胞固有の遺伝子発現パターンによって決定されていることがわかってきている。この遺伝子発現パターンの制御には、DNAのメチル化が重要な役割を担っている。
【0003】
DNAのメチル化は、ほとんどの場合、シトシンに生じ、遺伝子の発現抑制をする。
動物のゲノムDNAでは5’-CG-3’配列(「CG配列」、「シトシン-リン酸-グアニンサイト」、又は「CpGサイト」などと称することがある)中のシトシン(C)がメチル化されることがわかっている。
ゲノム中には、CpGサイトが高頻度に存在するCpGアイランドと呼ばれる領域があり、ヒトではCpGアイランド中のCpGサイトの約60%から約90%がメチル化されていることが知られている。CpGアイランドは遺伝子の転写調節領域で多く発見されており、遺伝子の転写調節に重要な役割を果たしている。
【0004】
近年、様々な疾病を分析するのに、その疾病に関与する遺伝子領域におけるシトシン(C)のメチル化パターンを解析することが試みられている。
メチル化パターンの解析方法としては、例えば、メチル化シトシンを有する標的核酸中のシトシンをウラシルに変換する変換処理を行い、変換処理を行った標的核酸をPCRで増幅し、得られた増幅産物に対して、2’,3’-ジデオキシシチジン三リン酸(ddCTP)、又は2’,3’-ジデオキシグアノシン三リン酸(ddGTP)を用いてDNA伸長反応を行い、解析することにより、標的核酸中のメチル化シトシンの位置を決定する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、標的核酸中の全てのシトシンが非メチル化シトシンであることを簡便で迅速かつ定量的に検出することができる核酸検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
課題を解決するための手段としての本発明の核酸検出方法は、
標的核酸中の全てのシトシンが非メチル化シトシンであることを検出するための核酸検出方法であって、
前記標的核酸中の非メチル化シトシンをウラシルに変換して核酸試料を得る変換工程と、
前記核酸試料に対し、
前記核酸試料の一部に相補的な塩基配列を有する伸長反応プライマー、並びに基質としてddGTP、dCTP、dATP、及びdTTPを少なくとも用いて伸長核酸断片を得る核酸伸長工程と、
前記伸長核酸断片のうち、前記標的核酸中に非メチル化シトシンのみを有する標的核酸から得られた伸長核酸断片を検出する検出工程と、を含む。
【発明の効果】
【0007】
本発明によると、標的核酸中の全てのシトシンが非メチル化シトシンであることを簡便で迅速かつ定量的に検出することができる核酸検出方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、変換工程における非メチル化シトシン及びメチル化シトシンの反応を示す図である。
【
図2】
図2は、標的核酸中の全てのCpGサイト(5箇所)のシトシンが非メチル化シトシンである一例を示す図である。
【
図3】
図3は、変換工程により標的核酸中の非メチル化シトシンをウラシルに変換して得られた核酸試料の一例を示す図である。
【
図4】
図4は、核酸伸長工程により使用する伸長反応プライマーが核酸試料にアニールする位置の一例を示す図である。
【
図5】
図5は、核酸伸長工程により得られた伸長核酸断片の一例を示す図である。
【
図6】
図6は、検出工程に用いるプライマーの位置の一例を示す図である。
【
図8】
図8は、検出工程の他の一例を示す図である。
【
図9】
図9は、標的核酸中のCpGサイトにメチル化シトシンを有する一例を示す図である。
【
図10】
図10は、変換工程により標的核酸中の非メチル化シトシンをウラシルに変換して得られた核酸試料の一例を示す図である。
【
図11】
図11は、核酸伸長工程により使用する伸長反応プライマーが核酸試料にアニールする位置の一例を示す図である。
【
図12】
図12は、核酸伸長工程により得られた伸長核酸断片の一例を示す図である。
【
図14】
図14は、標的核酸中のCpGサイトのシトシンが全て非メチル化シトシンである場合の核酸伸長断片と核酸伸長断片の3’末端の塩基配列に相補的な塩基配列を有するプライマーとの位置の一例を示す図である。
【
図16】
図16は、
図15において得られた伸長核酸断片に対する検出工程の一例を示す図である。
【
図17】
図17は、標的核酸中のCpGサイトにメチル化シトシンを有する場合の核酸伸長断片と核酸伸長断片の3’末端の塩基配列に相補的な塩基配列を有するプライマーとの位置の一例を示す図である。
【
図19】
図19は、
図18において得られた伸長核酸断片に対する検出工程の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(核酸検出方法及び核酸検出装置)
本発明の核酸検出方法は、
標的核酸中の全てのシトシンが非メチル化シトシンであることを検出するための核酸検出方法であって、
前記標的核酸中の非メチル化シトシンをウラシルに変換して核酸試料を得る変換工程と、
前記核酸試料に対し、
前記核酸試料の一部に相補的な塩基配列を有する伸長反応プライマー、並びに基質としてddGTP、dCTP、dATP、及びdTTPを少なくとも用いて伸長核酸断片を得る核酸伸長工程と、
前記伸長核酸断片のうち、前記標的核酸中に非メチル化シトシンのみを有する標的核酸から得られた伸長核酸断片を検出する検出工程と、を含み、さらに必要に応じてその他の工程を含む。
【0010】
本発明の核酸検出装置は、
標的核酸中の全てのシトシンが非メチル化シトシンであることを検出するための核酸検出装置であって、
前記標的核酸中の非メチル化シトシンをウラシルに変換して核酸試料を得る変換手段と、
前記核酸試料に対し、
前記核酸試料の一部に相補的な塩基配列を有する伸長反応プライマー、並びに基質としてddGTP、dCTP、dATP、及びdTTPを少なくとも用いて伸長核酸断片を得る核酸伸長手段と、
前記伸長核酸断片のうち、前記標的核酸中に非メチル化シトシンのみを有する標的核酸から得られた伸長核酸断片を検出する検出手段と、を有し、更に必要に応じてその他の手段を有する。
【0011】
本発明者らは、標的核酸中の全てのシトシンが非メチル化シトシンであることを検出するための核酸検出方法について検討したところ、以下の知見を得た。
上記特許文献1に記載の技術では、PCR法による標的核酸の増幅の後に、断片的に伸長核酸断片を増幅してから電気泳動を行い塩基長毎に分画し、標的配列中のメチル化シトシンの位置を決定するため、増幅が起こりやすい配列ほど効率よく増幅されてしまうPCRの反応効率(PCRバイアスと称することもある)を考慮する必要があり、非メチル化シトシンを含有する標的核酸を定量することができないという問題がある。
さらに、上記特許文献1の技術では、PCR増幅反応、核酸伸長反応、及び電気泳動などの簡便な手法を組み合わせて行われているが、電気泳動によりメチル化シトシンの位置を決定するためには、数塩基の差を区別可能な分解能を有するバイオアナライザーなどの専用の装置を必要するため、簡便に行うことができないという問題がある。
【0012】
本発明においては、標的核酸中の非メチル化シトシンをウラシルに変換し、得られた核酸試料に対して相補的な塩基配列を有する伸長反応プライマーとddGTPを含有する基質を用いて伸長反応を行い、標的核酸中に非メチル化シトシンのみを有する標的核酸から得られた伸長核酸断片を検出することによって、標的核酸中の全てのシトシンが非メチル化シトシンであることを簡便で迅速かつ定量的に検出することができる。
なお、定量的とは、絶対定量でも相対定量でもよい。
【0013】
なお、本発明において、核酸は、DNA、RNAなどを使用することができる。
【0014】
本発明において、標的核酸とは、解析対象とする核酸を意味する。
標的核酸としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ゲノムDNA、プラスミドDNA、PCR増幅産物、人工合成した塩基配列などが挙げられる。
【0015】
<変換工程及び変換手段>
変換工程は、標的核酸中の非メチル化シトシンをウラシルに変換して核酸試料を得る工程であり、変換手段により好適に実施することができる。
【0016】
標的核酸中の非メチル化シトシンをウラシルに変換する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、重亜硫酸塩を用いるバイサルファイト法などが挙げられる。
また、変換工程には、後述する本発明の核酸検出キットにおける変換試薬を用いることが好ましい。
【0017】
図1は、重亜硫酸のナトリウム塩を用いたバイサルファイト法による非メチル化シトシン及びメチル化シトシンの反応を示す図である。
図1に示すように、非メチル化シトシンでは、重亜硫酸ナトリウムによる脱アミノ化反応が起こり、最終的にシトシンがウラシルに変換されるが、メチル化シトシンの場合、変換反応が生じず、メチル化シトシンが未反応のまま残存する。
このように、標的核酸中の非メチル化シトシンのみを選択的にウラシルに変換することができる。
【0018】
<核酸伸長工程及び核酸伸長手段>
核酸伸長工程は、核酸試料に対して、核酸試料の一部に相補的な塩基配列を有する伸長反応プライマー、並びに基質としてddGTP、dCTP、dATP、及びdTTPを少なくとも用いて伸長核酸断片を得る工程であり、核酸伸長手段によって好適に実施される。
【0019】
標的核酸の非メチル化シトシンは、センス鎖及びアンチセンス鎖の両方において、変換反応で塩基部分のシトシンがウラシルに変換された核酸試料となっている。核酸伸長工程では、この核酸試料のセンス鎖又はアンチセンス鎖に相補的な伸長反応プライマー、並びにdATP、dTTP、dCTP、及びddGTP(ジデオキシグアノシン三リン酸)を使用して核酸伸長反応を行う。
ddGTPは、リボースの2位及び3位のヒドロキシ基を水素に置換したグアノシン三リン酸であり、3位の位置に酸素を有していないため、隣り合う5’側のリン酸との脱水縮合が行われず、核酸伸長反応が終結する。このため、標的核酸、即ち、核酸試料がメチル化シトシンを有している場合には、メチル化シトシンと相補的なグアニンを有するddGTPが取り込まれ、核酸伸長反応を終結する。よって、標的核酸にメチル化シトシンを有する場合には、得られる伸長核酸断片は、鋳型となる核酸断片の塩基長よりも短くなり、標的核酸に非メチル化シトシンのみを有する場合には、ddGTPが取り込まれず、鋳型となる核酸試料と同じ塩基長となる。
【0020】
核酸伸長手段としては、後述する本発明の核酸検出キットに用いる核酸伸長試薬を好適に用いることができる。具体的には、核酸試料のセンス鎖又はアンチセンス鎖の一部に相補的な塩基配列を有するプライマー、dATP、dTTP、dGTP、dCTP、ddGTPなどの基質、DNAポリメラーゼ、塩などが挙げられる。これらについては、後述する本発明の核酸検出キットにて詳細に説明する。
【0021】
また、標的核酸が極めて少量である場合には、伸長反応を行う前に、核酸増幅反応を行うことが好ましい。核酸増幅反応を行う場合には、増幅サイクル数を10サイクル程度とすることにより、後の検出工程に影響を与えることなく、定量的に検出することができる。
【0022】
<検出工程及び検出手段>
検出工程は、前記伸長核酸断片のうち、前記標的核酸中に非メチル化シトシンのみを有する標的核酸から得られた伸長核酸断片を検出する工程であり、検出手段により好適に実施することができる。
【0023】
検出手段としては、伸長核酸断片を検出することができれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、リアルタイムPCR、アガロースゲル電気泳動、蛍光標識プローブ法などが挙げられる。
検出手段が、リアルタイムPCRであると、標的核酸中の全てのCpGサイトが非メチル化されている核酸断片をバイオマーカーとした経過観察や、サンプル間での比較検討が可能になる。
また、検出手段が、アガロースゲル電気泳動であると、特別な実験装置を用いなくとも非メチル化シトシンを有する標的核酸から得られた伸長核酸断片をのみの増幅を簡便に確認することで検出することができる。
【0024】
蛍光標識プローブ法は、伸長核酸断片の一部に相補的な塩基配列と、蛍光物質及び消光物質とを有するプローブを用いる。蛍光標識プローブ法に用いるプローブでは、蛍光物質及び消光物質が近接している状態、即ち同一分子上に存在する場合では、蛍光物質に対する励起光を照射しても、消光物質への蛍光エネルギー移動により蛍光が検出できない。しかし、伸長核酸断片の一部にアニールしたプローブをエクソヌクレアーゼのヌクレアーゼ活性により分解することで、蛍光物質と消光物質を分離することにより、蛍光物質の蛍光を検出することができるようになる。なお、エキソヌクレアーゼのヌクレアーゼ活性としては、3’→5’エキソヌクレアーゼ活性などを利用することができる。
蛍光標識プローブにおける伸長核酸断片の一部に相補的な塩基配列としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、伸長核酸断片に含まれる全てのCpGサイトよりも3’側の塩基配列に相補的な配列とすることが好ましい。伸長核酸断片に含まれる全てのCpGサイトよりも3’側の塩基配列に相補的な配列とすることにより、伸長核酸断片を特異的に検出することができる。
蛍光標識プローブ法を用いることにより、恒温槽、ヒートブロックなどにより検出を行うことができるため、サーマルサイクラーなどの特別な装置を用いる必要がなく、簡便に行うことができる。
【0025】
また、検出工程には、後述する本発明の核酸検出キットにおける検出試薬を好適に用いることができる。検出試薬については、後述する本発明の核酸検出キットにて詳細に説明する。
【0026】
本発明は、検出工程までの間にPCRバイアスを生じさせる核酸増幅を行わずに検出をおこなうため、簡便で迅速であり、定量性に優れる検出方法とすることができる。
【0027】
<その他の工程及びその他の手段>
その他の工程及びその他の手段としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、伸長核酸断片回収工程及び伸長核酸回収手段などが挙げられる。
【0028】
<<伸長核酸断片回収工程及び伸長核酸断片回収手段>>
伸長核酸断片回収工程は、伸長核酸断片回収手段により伸長核酸断片を回収する工程である。
【0029】
伸長核酸断片回収工程は、鋳型である核酸試料と伸長核酸断片の混合物から伸長核酸断片のみを回収することにより、検出工程における検出精度を向上させることができる。
【0030】
伸長核酸回収手段ついては、本発明の核酸検出キットにおける伸長核酸回収手段を好適に用いることができる。伸長核酸回収手段ついては、本発明の核酸検出キットと同様のものを用いることができるため、後述する本発明の核酸検出キットにて詳細に説明する。
【0031】
以下、本発明の核酸検出方法について、図面を参照して詳細に説明する。
【0032】
図2から
図8は、標的核酸中の全てのCpGサイト(5箇所)のシトシンが非メチル化シトシンである場合の本発明の核酸検出方法の一例を示す模式図である。
図2は、標的核酸中の全てのCpGサイト(5箇所)のシトシンが非メチル化シトシンである一例を示す図であり、
図3は、変換工程により標的核酸中の非メチル化シトシンをウラシルに変換して得られた核酸試料の一例を示す図であり、
図4は、核酸伸長工程により使用する伸長反応プライマーが核酸試料にアニールする位置の一例を示す図であり、
図5は、核酸伸長工程により得られた伸長核酸断片の一例を示す図であり、
図6は、検出工程に用いるプライマーの位置の一例を示す図であり、
図7は、検出工程の一例を示す図であり、
図8は、検出工程の他の一例を示す図である。
【0033】
図2に示すように、標的核酸中のセンス鎖101及びアンチセンス鎖102の二本鎖核酸103において、全てのCpGサイトのシトシンが非メチル化シトシン105である場合、変換工程を行うことにより、
図3に示すように、標的核酸中の全ての非メチル化シトシンが、ウラシル107に変換された核酸試料108が得られる。
次に、得られた核酸試料108の3’末端の塩基配列に相補的な塩基配列を有する伸長反応プライマー109と、DNAポリメラーゼ、並びに基質としてdATP、dTTP、dCTP、及びddGTPを用いて核酸伸長反応を行う。伸長反応プライマー109は、CpGサイトを含まないように設計することにより、CpGサイトのシトシンのメチル化状態に依存せずにアニールできるようにする。このとき、鋳型となる核酸試料108は、変換工程により、シトシンがウラシルに変換されているため、
図5に示すように、生成する伸長核酸断片には、核酸試料108のウラシルの位置に相補的なアデニンを有するdATP110が取り込まれる。
次に、
図6に示すように、伸長核酸断片の5’末端付近と同じ塩基配列のプライマー112と、伸長核酸断片の3’末端と相補的なプライマー113を用いて、伸長核酸断片の検出を行う。この場合、
図7に示すような標的核酸中の5箇所のCpGサイトであった部位がdTTP114に置換された核酸断片を合成し、検出することができる。
また、
図6及び
図7に示すような核酸増幅反応により検出工程を行う方法の他に、
図8に示すような蛍光標識プローブ119を用いた検出方法を用いることもできる。また、
図8に示すように、蛍光標識プローブ119の伸長核酸断片の一部に相補的な塩基配列は、伸長核酸断片の3’末端に相補的な配列とすることにより、標的核酸101中の全てのCpGサイトのシトシンが非メチル化シトシンである場合のみ蛍光を検出するようにすることができる。
【0034】
図9から
図13は、標的核酸中にメチル化シトシンを有する場合の本発明の核酸検出方法の一例を示す模式図である。
図9は、標的核酸中のCpGサイトにメチル化シトシンを有する一例を示す図であり、
図10は、変換工程により標的核酸中の非メチル化シトシンをウラシルに変換して得られた核酸試料の一例を示す図であり、
図11は、核酸伸長工程により使用する伸長反応プライマーが核酸試料にアニールする位置の一例を示す図であり、
図12は、核酸伸長工程により得られた伸長核酸断片の一例を示す図であり、
図13は、検出工程の一例を示す図である。
【0035】
図9に示すように、標的核酸中のセンス鎖101及びアンチセンス鎖102の二本鎖核酸103において、標的核酸はCpGサイトのシトシンが非メチル化シトシン105、及びメチル化シトシン106である核酸を有している。この標的核酸に対して変換反応を行うことにより、
図10に示すように、標的核酸中の非メチル化シトシン105は、ウラシル107に変換され、メチル化シトシン106はメチル化シトシン106のまま存在する核酸試料108が得られる。
次に、得られた核酸試料108の3’末端の塩基配列に相補的な塩基配列を有する伸長反応プライマー109と、DNAポリメラーゼ、並びに基質としてdATP、dTTP、dCTP、及びddGTPを用いて核酸伸長反応を行う。伸長反応プライマー109は、CpGサイトを含まないように設計することにより、CpGサイトのシトシンのメチル化状態に依存せずにアニールできるようにする。このとき、鋳型となる核酸試料108は、変換工程により、シトシンがウラシルに変換されているため、
図12に示すように、核酸試料108のウラシルの位置には相補的なアデニンを有するdATP110が、メチル化シトシンの位置には相補的なグアニンを有するddGTPが取り込まれた伸長核酸断片を生成する。このとき、ddGTPが取り込まれると、それに続く核酸伸長反応が終結するため、鋳型となる核酸試料よりも短い伸長核酸断片が得られる。
次に、検出工程における一例を説明する。
図13に示すように、伸長核酸断片の5’末端付近及び3’末端と相補的なプライマー112及びプライマー113を用いて、伸長核酸断片の検出を行う場合、得られた伸長核酸断片には3’末端に相補的な塩基配列を有さないため、核酸増幅反応を起こさない。これにより、標的核酸に非メチル化シトシンのみを有する場合にのみ核酸増幅が行われるため、非メチル化シトシンを有する標的核酸を特異的に検出することができる。
【0036】
図14から
図19は、伸長核酸プライマーにタグ配列と標識体を修飾した場合の核酸伸長工程、及び検出工程の一例を示す模式図である。
図14は、標的核酸中のCpGサイトのシトシンが全て非メチル化シトシンである場合の核酸伸長断片と核酸伸長断片の3’末端の塩基配列に相補的な塩基配列を有するプライマーとの位置の一例を示す図であり、
図15は、
図14において核酸伸長を行った伸長核酸断片の一例を示す図であり、
図16は、
図15において得られた伸長核酸断片に対する検出工程の一例を示す図であり、
図17は、標的核酸中のCpGサイトにメチル化シトシンを有する場合の核酸伸長断片と核酸伸長断片の3’末端の塩基配列に相補的な塩基配列を有するプライマーとの位置の一例を示す図であり、
図18は、
図17において核酸伸長を行った伸長核酸断片の一例を示す図であり、
図19は、
図18において得られた伸長核酸断片に対する検出工程の一例を示す図である。
【0037】
図14に示すように、伸長反応プライマー115は、その5’末端側に図示しないタグ配列と標識体117を有している。この伸長反応プライマー115を用いて得られた伸長核酸断片は
図15に示すように、5’末端に標識体117を有している。標識体117は、伸長核酸断片回収工程において、伸長核酸断片回収手段により使用される標識となるため、伸長核酸断片を特異的に回収するのに用いることができる。
次に、
図16に示すように、伸長核酸断片の5’末端に付加されたタグ配列の少なくとも1部分に対して相補的な塩基配列を有するプライマー116と、伸長核酸断片の3’末端と相補的なプライマー113を用いて、検出工程を行う。この場合、プライマー113及び116は標的核酸の全てのCpGサイトを含む領域を増幅できるように設計する。
図16に示すように、得られた伸長核酸断片にメチル化シトシンが含まれない場合にのみ核酸増幅を検出することができる。
【0038】
図17から
図19は、
図11において伸長核酸断片の5’末端に付加されたタグ配列の少なくとも1部分に対して相補的な塩基配列を有するプライマー116を用いた場合の核酸伸長工程及び検出工程の一例を示す図であり、標識体117を用いることにより、
図18に示すように鋳型となる核酸試料よりも短い伸長核酸断片となる。そのため、
図19に示すように、得られた伸長核酸断片には3’末端に相補的な塩基配列を有さないため、核酸増幅反応を起こさない。これにより、標的核酸に非メチル化シトシンのみを有する場合にのみ、核酸増幅が行われるため、非メチル化シトシンのみを有する標的核酸を特異的に検出することができる。
【0039】
(核酸検出キット)
本発明の核酸検出キットは、本発明の核酸検出方法に用いられる核酸検出キットであって、
前記標的核酸中の非メチル化シトシンをウラシルに変換して核酸試料を得る変換工程と、
前記核酸試料に対し、
前記核酸試料の一部に相補的な塩基配列を有する伸長反応プライマー、並びに基質としてddGTP、dCTP、dATP、及びdTTPを含み、核酸伸長反応を行う核酸伸長試薬と、
前記核酸伸長反応により得られた前記伸長核酸断片のうち、前記標的核酸中に非メチル化シトシンのみを有する標的核酸から得られた伸長核酸断片を検出する検出試薬と、を有する。
【0040】
-変換試薬-
変換試薬は、標的核酸中の非メチル化シトシンをウラシルに変換する試薬である。
【0041】
変換試薬としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、重亜硫酸塩などが挙げられる。
重亜硫酸塩としては、例えば、重亜硫酸ナトリウム、メタ重亜硫酸ナトリウムなどが挙げられる。
【0042】
-核酸伸長試薬-
核酸伸長試薬は、核酸試料に対し、
前記核酸試料の一部に相補的な塩基配列を有する伸長反応プライマー、並びに基質としてddGTP、dCTP、dATP、及びdTTPを含み、核酸伸長反応を行う試薬を有し、その他の成分を含有する。
【0043】
伸長反応プライマーとしては、核酸試料のセンス鎖又はアンチセンス鎖の一部に相補的な塩基配列を有しており、Tm値、得られる伸長核酸断片の長さなどを考慮して適宜設計することができる。
【0044】
伸長反応プライマーに使用できる核酸としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、DNA、RNAなどの核酸、PNA、BNA、LNAなどの人工的に合成した核酸類似体(人工核酸とも称することがある)などの核酸などが挙げられる。
【0045】
また、本発明の核酸検出キットを用いる本発明の核酸検出方法では、伸長核酸断片のみを回収し、後述する検出工程を行うために、核酸試料のセンス鎖又はアンチセンス鎖の一部に相補的な塩基配列を有するプライマーには、標識体を化学修飾させることが好ましい。
【0046】
--標識体--
標識体としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ビオチン、ジゴキシゲニン、アデノシンが連続的に結合しているポリA配列などが挙げられる。
【0047】
さらに、核酸試料のセンス鎖又はアンチセンス鎖の一部に相補的な塩基配列を有する伸長反応プライマーの5’末端には、核酸試料のセンス鎖又はアンチセンス鎖に含まれない塩基配列であるタグ配列を有するように設計することもできる。伸長反応プライマーの5’末端にタグ配列を有すると、後述する検出工程において、核酸伸長工程により得られた伸長核酸断片を特異的に検出することができる。なお、伸長反応プライマーにタグ配列を有している場合においても、鋳型となる核酸試料にハイブリダイゼーションすることができる。
また、プライマーに標識体を化学修飾する場合には、伸長反応プライマーの5’末端と標識体との間にタグ配列を有することが好ましい。
【0048】
タグ配列としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、後の検出工程において、非特異増幅を起こさない配列であることが好ましい。
タグ配列の長さとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、10塩基対以上が好ましく、20塩基対以上がさらに好ましい。タグ配列の長さが10塩基対以上であると、検出工程においてタグ配列と相補的な塩基配列を検出用のプライマーとして用いることができる。
【0049】
その他の成分としては、核酸伸長反応を行う酵素、バッファー、水などが挙げられる。
【0050】
核酸伸長反応を行う酵素としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、α型DNAポリメラーゼ以外のDNAポリメラーゼ、改変α型DNAポリメラーゼなどが挙げられる。
【0051】
α型DNAポリメラーゼとは、超好熱始原菌由来のファミリーB(α型)に属するDNAポリメラーゼである。α型DNAポリメラーゼとしては、例えばパイロコッカス・フリオサス(Pyrococcus furiosus)由来の耐熱性DNAポリメラーゼ(Pfu DNAポリメラーゼ)、サーモコッカス・リトラリス(Thermococcus litoralis)由来の耐熱性DNAポリメラーゼ(Ti(Vent)ポリメラーゼ)、パイロコッカス・コダカラエンシス(Pyrococcus kodakaraensis)KOD1由来の耐熱性DNAポリメラーゼ(KOD DNAポリメラーゼ)などが挙げられる。
【0052】
α型DNAポリメラーゼは、ウラシルに対して強く結合するウラシル結合ポケットを有しているため、鋳型核酸中にウラシルが含まれているとウラシルと結合し、ポリメラーゼ活性を大きく阻害する。そのため、核酸試料中に、ウラシルを有していても核酸伸長反応が進むα型以外のDNAポリメラーゼ、又はウラシルとの結合性が改変され、ウラシルによってポリメラーゼ活性が阻害されない、改変α型DNAポリメラーゼを用いることが好ましい。
【0053】
α型DNAポリメラーゼ以外のポリメラーゼとしては、例えば、Ex Taq(タカラバイオ株式会社製)などが挙げられる。
【0054】
バッファーとしては、例えば、10x reaction buffer(タカラバイオ株式会社製)などが挙げられる。
【0055】
-検出試薬-
検出試薬は、回収した前記伸長核酸断片のうち、前記標的核酸中に非メチル化シトシンのみを有する標的核酸から得られた伸長核酸断片を検出する検出試薬である。
【0056】
検出試薬としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、通常のPCR法に用いるDNAポリメラーゼ、基質、バッファー、プライマーなどの試薬、通常のアガロースゲル電気泳動法によるDNAの検出に用いるアガロース、エチジウムブロミドなどの試薬、通常のリアルタイムPCRに用いることができるプライマーなどの試薬、蛍光標識プローブ法に用いる蛍光標識プローブ及びエキソヌクレアーゼ(例えば、Exonuclease III、タカラバイオ株式会社製)などの試薬などが挙げられる。
【0057】
検出に用いるDNAポリメラーゼとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、α型DNAポリメラーゼを用いることが好ましい。α型DNAポリメラーゼは、鋳型となる核酸にウラシルが含まれている場合にはポリメラーゼ活性が大きく阻害される。そのため、バイサルファイト処理により非メチル化シトシンがウラシルに変換された核酸試料が混入している場合においても、α型DNAポリメラーゼを用いることにより、伸長核酸断片からの特異的な増幅を行なうことができる。よって、α型DNAポリメラーゼを用いることにより、検出精度を向上させることができる。
【0058】
検出試薬のプライマーに使用できる核酸としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、DNA、RNAなどの核酸、PNA、BNA、LNAなどの人工的に合成した核酸類似体(人工核酸とも称することがある)などの核酸などが挙げられる。
【0059】
アガロース電気泳動を用いることによって、得られた電気泳動によるバンドの画像処理を組み合せることにより、リアルタイムPCRの装置などの特別な装置を用いることなく簡便に検出することができる。
【0060】
-その他の試薬-
その他の試薬としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、伸長核酸断片回収試薬などが挙げられる。
【0061】
--伸長核酸断片回収試薬--
伸長核酸断片回収試薬としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、アビジン、ストレプトアビジン、ニュートラアビジン、抗ビオチン抗体などのビオチン結合タンパク質、抗ジゴキシゲニン(DIG)抗体、チミンが連続したオリゴdTなどが修飾された磁気ビーズ又はセファロースビーズなどが挙げられる。
【実施例】
【0062】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0063】
標的核酸として、ヒト由来のMyelin Basic Protein(MBP)遺伝子の部分配列からなる170塩基の核酸断片(以下、MBP170と称することがある)を用いた。このMBP170のアンチセンス鎖には、5’末端側から27塩基目、37塩基目、67塩基目、71塩基目、88塩基目、100塩基目、133塩基目にCpGサイトのシトシンを7箇所有している(配列番号1参照)。
MBP170の7箇所全てのCpGサイトのシトシンが非メチル化シトシンであるMBP170_U7、及びMBP170の7箇所全てのCpGサイトのシトシンがメチル化シトシンであるMBP170_m7をDNA合成により人工的に作製した。また、ネガティブコントロールとして、全てのCpGサイトのシトシンが非メチル化されたセンス鎖のMBP170_Fwを作製した。作製したMBP170_U7、MBP170_m7、及びMBP170_Fwを用いて、以下の工程による処理を行い、核酸を検出した。
【0064】
<変換工程>
MBP170_U7、MBP170_m7、及びMBP170_Fwをそれぞれ1μgずつエッペンドルフチューブにとり、蒸留水で20μLとする。MBP170_U7、MBP170_m7、及びMBP170_Fwの溶解液に、3mol/L水酸化ナトリウム2.2μLを加え、37℃、15分間静置する。次に、31mol/L硫酸ナトリウム/5mMヒドロキノン(pH5.0)を220μL加え、80℃、45分間静置する。
その後、カラム(商品名:ssDNA/RNA Clean&Concentrator、Zymo Research社製)に回収し、pH8.5~11.5の脱スルホン試薬を20~100μL添加し、脱スルホン処理を行った。その後、カラム上で洗浄を洗浄バッファーによる洗浄を行なった後、溶出処理を行い、MBP170_U7の核酸試料U7、MBP170_U7の核酸試料m7、及びMBP170_Fwの核酸試料Fwを得た。
【0065】
<核酸伸長工程>
次に、得られた核酸試料U7、核酸試料m7、及び核酸試料Fwを以下の反応液1の組成で調製し、
図20の反応条件にて伸長核酸反応を行い、伸長核酸断片を得た。なお、ddGTP mixには、ddGTP、dCTP、dATP、dTTPが等量ずつ含まれている。また、伸長反応プライマー(配列番号2参照)の5’末端には標識体として、ビオチンが修飾したものを使用した。
【0066】
-反応液1-
・核酸試料U7、核酸試料m7、又は核酸試料Fw :1μL
・Ex Taq*1 :0.05μL
・伸長反応プライマー(5μmol/L、配列番号2参照):0.5μL
・10x reaction buffer*1 :1.0μL
・ddGTP mix*2 :0.1mmol/L each
・H2O :up to 10μL
*1:タカラバイオ株式会社製
*2:Deoxynucleoside Triphosphate Set(Sigma社製)、及びDideoxynucleoside Triphosphate Set(Sigma社製)を用いて、ddGTP,dATP、dCTP、dTTPが1mMとなるように蒸留水を用いて調製し、ddGTP mixとした。
【0067】
伸長反応によって得られた伸長核酸断片は、得られた反応液中にDynabeads M-280 Streptavidin(Thermo Fisher Scientific社製)2.5μLを添加し、回収した。回収したビーズを、水酸化ナトリウム条件下で、洗浄を行い、TE bufferで懸濁後、95℃、2分間熱処理して変性し回収した。
【0068】
<検出工程>
回収した伸長核酸断片含有反応液を、リアルタイムPCRを行い、検出した。条件は
図21及び以下の通りである。得られた結果を
図22に示す。
・PrimeSTAR MAX Premix(タカラバイオ):10μL
・プライマー1(配列番号3参照) :4pmol
・プライマー2(配列番号4参照) :4pmol
・ROX dye(株式会社ニッポンジーン製) :0.2μL
・EVA green(Biotium社製) :1μL
・伸長核酸断片含有反応液 :2μL
・H
2O :up to 20μL
【0069】
図22に示すように、MBP170_U7において、MBP170_m7に対して有意に低いCt値の値を得ることができた。このことから、非メチル化断片のみを検出することができることが示された。
【0070】
さらに、反応液1中の核酸試料U7を40fg/μL~40ng/μLとなるように調製し、上記と同様の方法で伸長反応、リアルタイムPCRを行い、伸長核酸断片の検出を行なった。結果を
図23に示す。
【0071】
図23に示すように、DNA濃度依存的なCt値の変化が見られており、定量性のある検出系であることが示された。
【0072】
本発明の態様としては、例えば、以下のとおりである。
<1> 標的核酸中の全てのシトシンが非メチル化シトシンであることを検出するための核酸検出方法であって、
前記標的核酸中の非メチル化シトシンをウラシルに変換して核酸試料を得る変換工程と、
前記核酸試料に対し、
前記核酸試料の一部に相補的な塩基配列を有する伸長反応プライマー、並びに基質としてddGTP、dCTP、dATP、及びdTTPを少なくとも用いて伸長核酸断片を得る核酸伸長工程と、
前記伸長核酸断片のうち、前記標的核酸中に非メチル化シトシンのみを有する標的核酸から得られた伸長核酸断片を検出する検出工程と、を含むことを特徴とする核酸検出方法である。
<2> 前記標的核酸中の前記非メチル化シトシンが、CG配列のシトシンである前記<1>に記載の核酸検出方法である。
<3> 前記伸長反応プライマーの5’末端に標識体を有する前記<1>から<2>のいずれかに記載の核酸検出方法である。
<4> 前記伸長反応プライマーの5’末端と標識体との間に、前記核酸試料に含まれない塩基配列を有する前記<3>に記載の核酸検出方法である。
<5> 前記標識体が、ビオチン、ジゴキシゲニン、ポリA配列である前記<3>から<4>のいずれかに記載の核酸検出方法である。
<6> 前記核酸伸長工程の後に、伸長核酸断片回収手段により前記伸長核酸断片を回収する伸長核酸断片回収工程をさらに含む前記<1>から<5>のいずれかに記載の核酸検出方法である。
<7> 前記伸長核酸断片回収手段が、前記標識体と結合可能な媒体である前記<1>から<6>のいずれかに記載の核酸検出方法である。
<8> 前記伸長核酸断片回収手段が、微粒子である前記<6>に記載の核酸検出方法である。
<9> 前記伸長核酸断片回収手段が、アビジン、ストレプトアビジン、ニュートラアビジン、抗ビオチン抗体、抗ジゴキシゲニン抗体、及びオリゴTが化学修飾された磁気ビーズ又はセファロースビーズである前記<6>から<8>のいずれかに記載の核酸検出方法である。
<10> 前記伸長核酸断片を検出する検出手段が、アガロースゲル電気泳動、リアルタイムPCR、蛍光標識プローブ法である前記<1>から<9>のいずれかに記載の核酸検出方法である。
<11> 標的核酸中の全てのシトシンが非メチル化シトシンであることを検出するための核酸検出方法であって、
前記標的核酸中の非メチル化シトシンをウラシルに変換して核酸試料を得る変換手段と、
前記核酸試料に対し、
前記核酸試料の一部に相補的な塩基配列を有する伸長反応プライマー、並びに基質としてddGTP、dCTP、dATP、及びdTTPを含み、核酸伸長反応を行う、
核酸伸長手段と、
前記核酸伸長反応により得られた前記伸長核酸断片のうち、前記標的核酸中に非メチル化シトシンのみを有する標的核酸から得られた伸長核酸断片を検出する検出手段と、を有することを特徴とする核酸検出装置である。
<12> 前記<1>から<10>のいずれかに核酸検出方法に用いられる核酸検出キットであって、
前記標的核酸中の非メチル化シトシンをウラシルに変換して核酸試料を得る変換工程と、
前記核酸試料に対し、
前記核酸試料の一部に相補的な塩基配列を有する伸長反応プライマー、並びに基質としてddGTP、dCTP、dATP、及びdTTPを含み、核酸伸長反応を行う核酸伸長試薬と、
前記核酸伸長反応により得られた前記伸長核酸断片のうち、前記標的核酸中に非メチル化シトシンのみを有する標的核酸から得られた伸長核酸断片を検出する検出試薬と、を有することを特徴とする核酸検出キットである。
【0073】
前記<1>から<10>のいずれかに記載の核酸検出方法、前記<11>に記載の核酸検出装置、前記<12>に記載の核酸検出キットによると、従来における前記諸問題を解決し、前記本発明の目的を達成することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0074】
【符号の説明】
【0075】
101 標的核酸のセンス鎖
102 標的核酸のアンチセンス鎖
103 標的核酸の二本鎖核酸
105 非メチル化シトシン
106 メチル化シトシン
107 ウラシル
108 核酸試料
109 伸長反応プライマー
115 タグ配列を有する伸長反応プライマー
117 標識体
119 蛍光標識プローブ
【配列表】