(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-22
(45)【発行日】2022-03-30
(54)【発明の名称】有機エレクトロニクス材料及びその利用
(51)【国際特許分類】
C08G 61/12 20060101AFI20220323BHJP
H01L 51/50 20060101ALI20220323BHJP
H01L 27/32 20060101ALI20220323BHJP
H05B 33/02 20060101ALI20220323BHJP
G09F 9/30 20060101ALI20220323BHJP
【FI】
C08G61/12
H05B33/14 B
H01L27/32
H05B33/02
H05B33/22 D
G09F9/30 365
(21)【出願番号】P 2018529820
(86)(22)【出願日】2017-07-20
(86)【国際出願番号】 JP2017026222
(87)【国際公開番号】W WO2018021133
(87)【国際公開日】2018-02-01
【審査請求日】2020-06-02
(31)【優先権主張番号】P 2016145263
(32)【優先日】2016-07-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2016217367
(32)【優先日】2016-11-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】昭和電工マテリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】吉成 優規
(72)【発明者】
【氏名】石塚 健一
(72)【発明者】
【氏名】杉岡 智嗣
(72)【発明者】
【氏名】本名 涼
(72)【発明者】
【氏名】龍崎 大輔
(72)【発明者】
【氏名】舟生 重昭
【審査官】辰己 雅夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-118653(JP,A)
【文献】特開2013-036023(JP,A)
【文献】特開2015-126115(JP,A)
【文献】特開2009-283509(JP,A)
【文献】特開2015-017231(JP,A)
【文献】国際公開第2010/140553(WO,A1)
【文献】特開2013-081052(JP,A)
【文献】特開2016-115756(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00- 13/08
C08G61/00- 61/12
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)、下記式(2)、及び下記式(3)からなる群から選択される少なくとも1つの構造を含む電荷輸送性ポリマーを含有し、
前記電荷輸送性ポリマーは、3方向以上に分岐した構造を有する電荷輸送性ポリマーであって、置換又は非置換の、芳香族アミン構造、カルバゾール構造、チオフェン構造、ビチオフェン構造、ベンゼン構造、及びフルオレン構造からなる群から選択される構造を含む3価以上の構造単位を含む、
有機エレクトロニクス材料。
【化1】
(式(1)~(3)中、Xは、置換又は非置換のオキセタン基及び置換又は非置換のビニル基からなる群から選択される重合性官能基であり、nは、
5~12の整数を表す。)
【請求項2】
前記電荷輸送性ポリマーが、前記式(1)、式(2)、及び式(3)からなる群から選択される少なくとも1つの構造を末端に有する、請求項1に記載の有機エレクトロニクス材料。
【請求項3】
下記式(1a)、下記式(2a)、及び下記式(3a)からなる群から選択される少なくとも1つの構造を含む電荷輸送性ポリマーを含有し、
前記電荷輸送性ポリマーは、3方向以上に分岐した構造を有する電荷輸送性ポリマーであって、置換又は非置換の、芳香族アミン構造、カルバゾール構造、チオフェン構造、ビチオフェン構造、ベンゼン構造、及びフルオレン構造からなる群から選択される構造を含む3価以上の構造単位を含む、
有機エレクトロニクス材料。
【化2】
(式(1a)~(3a)中、Xaは、置換又は非置換のオキセタン基及び置換又は非置換のビニル基からなる群から選択される重合性官能基であり、mは
7~30の整数を表す。)
【請求項4】
前記電荷輸送性ポリマーが、前記式(1a)、式(2a)、及び式(3a)からなる群から選択される少なくとも1つの構造を末端に有する、請求項3に記載の有機エレクトロニクス材料。
【請求項5】
前記電荷輸送性ポリマーが、置換又は非置換の、芳香族アミン構造、カルバゾール構造、チオフェン構造、及びビチオフェン構造からなる群から選択される構造を含む3価以上の構造単位を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の有機エレクトロニクス材料。
【請求項6】
前記電荷輸送性ポリマーが、置換又は非置換の、芳香族アミン構造、カルバゾール構造、チオフェン構造、ビチオフェン構造、ベンゼン構造、複数のベンゼン環が縮合した多環芳香族構造、及びフルオレン構造からなる群から選択される構造を含む2価の構造単位を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の有機エレクトロニクス材料。
【請求項7】
前記電荷輸送性ポリマーが正孔輸送材料である、請求項1~6のいずれか一項に記載の有機エレクトロニクス材料。
【請求項8】
さらに重合開始剤を含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の有機エレクトロニクス材料。
【請求項9】
前記重合開始剤がカチオン重合開始剤を含む、請求項8に記載の有機エレクトロニクス材料。
【請求項10】
前記カチオン重合開始剤がオニウム塩を含む、請求項9に記載の有機エレクトロニクス材料。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一項に記載の有機エレクトロニクス材料により形成された、有機層。
【請求項12】
請求項11に記載の有機層を含む、有機エレクトロニクス素子。
【請求項13】
請求項11に記載の有機層を含む、有機エレクトロルミネセンス素子。
【請求項14】
燐光材料を含む発光層を有する、請求項13に記載の有機エレクトロルミネセンス素子。
【請求項15】
遅延蛍光材料を含む発光層を有する、請求項13に記載の有機エレクトロルミネセンス素子。
【請求項16】
フレキシブル基板をさらに有する、請求項13~15のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネセンス素子。
【請求項17】
樹脂フィルム基板をさらに有する、請求項13~15のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネセンス素子。
【請求項18】
請求項13~17のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネセンス素子を備えた、表示素子。
【請求項19】
請求項13~17のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネセンス素子を備えた、照明装置。
【請求項20】
請求項19に記載の照明装置と、表示手段として液晶素子とを備えた、表示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、有機エレクトロニクス材料、有機層、有機エレクトロニクス素子、有機エレクトロルミネセンス素子(「有機EL素子」ともいう。)、表示素子、照明装置、及び表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL素子は、例えば、白熱ランプ、ガス充填ランプ等の代替えとして、大面積ソリッドステート光源用途として注目されている。また、フラットパネルディスプレイ(FPD)分野における液晶ディスプレイ(LCD)に置き換わる最有力の自発光ディスプレイとしても注目されており、製品化が進んでいる。
【0003】
有機EL素子は、使用する有機材料から、低分子化合物を用いる低分子型有機EL素子と、高分子化合物を用いる高分子型有機EL素子の2つに大別される。有機EL素子の製造方法は、主に真空系で成膜が行われる乾式プロセスと、凸版印刷、凹版印刷等の有版印刷、インクジェット等の無版印刷などにより成膜が行われる湿式プロセスとの2つに大別される。簡易成膜が可能なため、湿式プロセスは、今後の大画面有機ELディスプレイには不可欠な方法として期待されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般に、高分子材料を使用して湿式プロセスにより有機EL素子を構成した場合、低コスト化、及び大面積化が容易であるという特長を有している。そのため、近年、高分子材料を用いて作製した有機層を多層化し、各々の層の機能を分離することによって、有機EL素子の各種特性の向上を図るための様々な方法が検討されている。しかし、従来の高分子材料を用いて作製した有機層を有する有機EL素子には、駆動電圧、発光効率、及び発光寿命といった特性において、さらなる改善が望まれている。
【0006】
本発明の実施形態は、上記に鑑み、有機エレクトロニクス素子に好適に使用できる有機エレクトロニクス材料を提供することを目的とする。また、本発明の他の実施形態は、上記有機エレクトロニクス材料を用いて形成された有機層、有機エレクトロニクス素子、有機EL素子、表示素子、照明装置、及び表示装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の実施形態は、有機エレクトロニクス材料に関し、その1つの態様は、下記式(1)、下記式(2)、及び下記式(3)からなる群から選択される少なくとも1つの構造を含む電荷輸送性ポリマーを含有する有機エレクトロニクス材料に関する。
【0008】
【0009】
式(1)~(3)中、Xは、置換又は非置換のオキセタン基及び置換又は非置換のビニル基からなる群から選択される重合性官能基であり、nは、1~12の整数を表す。
【0010】
本発明の実施形態の有機エレクトロニクス材料の、他の態様は、下記式(1a)、下記式(2a)、及び下記式(3a)からなる群から選択される少なくとも1つの構造を含む電荷輸送性ポリマーを含有する有機エレクトロニクス材料に関する。
【0011】
【0012】
式(1a)~(3a)中、Xaは重合性官能基であり、mは1~30の整数を表す。
【0013】
本発明の他の実施形態は、上記のいずれかの有機エレクトロニクス材料により形成された、有機層に関する。
【0014】
本発明の他の実施形態は、上記の有機層を含む、有機エレクトロニクス素子に関する。
【0015】
本発明の他の実施形態は、上記の有機層を含む、有機エレクトロルミネセンス素子も関する。
【0016】
本発明の他の実施形態は、上記の有機エレクトロルミネセンス素子を備えた、表示素子に関する。
【0017】
本発明の他の実施形態は、上記の有機エレクトロルミネセンス素子を備えた、照明装置に関する。
【0018】
本発明の他の実施形態は、上記の照明装置と、表示手段として液晶素子とを備えた、表示装置に関する。
【発明の効果】
【0019】
本発明の実施形態によれば、有機エレクトロニクス素子に好適に使用できる有機エレクトロニクス材料を提供することができる。また、上記有機エレクトロニクス材料を使用した有機層、有機エレクトロニクス素子及び有機EL素子、並びに、それを用いた表示素子、照明装置、及び表示装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の実施形態である有機EL素子の一例を示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の実施形態について説明するが、本発明がこれらの実施形態に限定されることはない。
【0022】
以下の記載において、アリール基は、芳香族炭化水素から水素原子1個を除いた原子団である。ヘテロアリール基は、芳香族複素環から水素原子1個を除いた原子団である。アリーレン基は、芳香族炭化水素から水素原子2個を除いた原子団である。ヘテロアリーレン基は、芳香族複素環から水素原子2個を除いた原子団である。アレーントリイル基は、芳香族炭化水素から水素原子3個を除いた原子団である。ヘテロアレーントリイル基は、芳香族複素環から水素原子3個を除いた原子団である。
芳香族炭化水素としては、単環、縮合環、又は、単環及び縮合環から選択される2個以上が単結合を介して結合した多環が挙げられる。芳香族複素環としては、単環、縮合環、又は、単環及び縮合環から選択される2個以上が単結合を介して結合した多環が挙げられる。
【0023】
<有機エレクトロニクス材料>
実施形態の有機エレクトロニクス材料の1つの態様は、下記式(1)、下記式(2)、及び下記式(3)からなる群から選択される少なくとも1つの構造を含む電荷輸送性ポリマー(以下、電荷輸送性ポリマーIという場合もある。)を含有する有機エレクトロニクス材料(以下、有機エレクトロニクス材料Iという場合もある。)である。
【0024】
【0025】
式(1)~(3)中、Xは、置換又は非置換のオキセタン基及び置換又は非置換のビニル基からなる群から選択される重合性官能基であり、nは、1~12の整数を表す。以下、Xを「重合性官能基X」という場合もある。
【0026】
実施形態の有機エレクトロニクス材料の他の1つの態様は、下記式(1a)、下記式(2a)、及び下記式(3a)からなる群から選択される少なくとも1つの構造を含む電荷輸送性ポリマー(以下、電荷輸送性ポリマーIIという場合もある。)を含有する有機エレクトロニクス材料(以下、有機エレクトロニクス材料IIという場合もある。)である。
【0027】
【0028】
式(1a)~(3a)中、Xaは重合性官能基であり、mは1~30の整数を表す。以下、Xaを「重合性官能基Xa」という場合もある。
【0029】
実施形態の有機エレクトロニクス材料Iは、有機エレクトロニクス素子に好適に使用することができる。また、実施形態の有機エレクトロニクス材料Iは、湿式プロセス用のインク組成物への適用に適している。
【0030】
そして、驚くべきことに、実施形態の有機エレクトロニクス材料Iを用いることで、有機EL素子の発光特性を向上させ、発光効率の向上、及び発光寿命の向上といった効果が得られる。推測ではあるが、電荷輸送性ポリマーIにおいて、重合性官能基Xが、-O(CH2)n-のみを介してベンゼン環に連結することで、化学的安定性が向上したためであると考える。また、駆動寿命に優れた有機エレクトロニクス素子等を提供することができる。
【0031】
実施形態の有機エレクトロニクス材料IIは、有機エレクトロニクス素子に好適に使用することができる。また、実施形態の有機エレクトロニクス材料IIは、湿式プロセス用のインク組成物への適用に適している。
【0032】
また、驚くべきことに、実施形態の有機エレクトロニクス材料IIを用いることで、有機EL素子の発光特性を向上させ、駆動電圧の低減、発光効率の向上、及び発光寿命の向上といった効果が得られる。推測ではあるが、電荷輸送性ポリマーIIが、アルキレン基のみでベンゼン環と重合性官能基Xaとが連結されている構造を含むことで、ポリマー分子間にアルキル鎖の連結部が形成され、有機EL素子の駆動に伴って発生するルイス塩基、ルイス酸成分のポリマーへの攻撃に対する耐性が向上し、材料劣化が抑制されるためであると考える。また、ポリマー分子間に、極性基を排除したアルキル鎖の連結部が形成されることで、ポリマー分子の表面が高LUMO、かつ、深HOMO状態となり、正孔又は電子といったキャリアに対して安定になるため、素子駆動中の劣化が抑制されることに起因すると考えられる。
【0033】
[電荷輸送性ポリマー]
(電荷輸送性ポリマーI)
電荷輸送性ポリマーIは、電荷を輸送する能力を有する。実施形態の有機エレクトロニクス材料Iにおいて、電荷輸送性ポリマーIは、重合性官能基Xを有する、上記式(1)、式(2)、及び式(3)からなる群から選択される少なくとも1つの構造を含む(以下、式(1)の構造、式(2)の構造及び式(3)の構造をそれぞれ式(1)で表される構造、式(2)で表される構造及びは式(3)で表される構造ともいう。)。電荷輸送性ポリマーIは、式(1)、(2)、又は(3)で表される構造を複数含んでいてもよい。式(1)、(2)、又は(3)で表される構造を複数含む場合は、それらの構造は同一であっても異なってもよい。
【0034】
式(1)~(3)において、Xは、置換又は非置換のオキセタン基及び置換又は非置換のビニル基からなる群から選択される重合性官能基である。なお、「重合性官能基」とは、熱及び/又は光を加えることにより、互いに結合を形成し得る官能基をいう。
【0035】
重合性官能基Xは、置換又は非置換のオキセタン基及び置換又は非置換のビニル基からなる群から選択される重合性官能基であることが好ましい。重合性官能基Xが置換基を有するオキセタン基又は置換基を有するビニル基であるときの置換基は特に限定されないが、例えば、炭素数1~22個(より好ましくは炭素数1~10個)の直鎖、環状又は分岐アルキル基、炭素数2~20個のアリール基又はヘテロアリール基等が挙げられる。これらの置換基がさらに置換基を有していてもよい。置換基を有するビニル基の例として、例えば、置換又は非置換のスチリル基が挙げられる。置換基を有するオキセタン基の例として、例えば、炭素数1~22個(より好ましくは炭素数1~10個)の直鎖、環状又は分岐アルキル基を有するオキセタン基が挙げられる。重合性官能基Xとしては、置換又は非置換のオキセタン基が、より好ましい。
【0036】
式(1)~(3)において、nは1~12であることが好ましい。溶解性を確保する観点からは、nは、1以上が好ましく、2以上がより好ましく、6以上がさらに好ましい。
ポリマー分子同士の結合距離を短縮し、ホッピングによるキャリア輸送性を高める観点からはnは、あまり大きくないほうが好ましい。nは、12以下が好ましいが、例えば、8以下であってもよく、4以下であってもよい。
【0037】
式(1)、(2)、又は(3)で表される構造の具体例として、以下があげられる。ただし、式(1)、 (2)、又は(3)で表される構造は以下に限定されない。なお、下記の具体例において、「*」は、他の構造との結合部位を表す。
【0038】
【0039】
【0040】
【0041】
【0042】
【0043】
【0044】
式(1)、(2)、又は(3) で表される構造は、電荷輸送性ポリマーIの末端部(すなわち、下記で説明する構造単位T)に導入されていても、末端部以外の部分(すなわち、下記で説明する構造単位L又はB)に導入されていても、末端部と末端以外の部分の両方に導入されていてもよい。硬化性の観点からは、少なくとも末端部に導入されていることが好ましく、硬化性及び電荷輸送性の両立を図る観点からは、末端部のみに導入されていることが好ましい。また、電荷輸送性ポリマーIが分岐構造を有する場合、重合性官能基Xを有する式(1)、(2)、又は(3)で表される構造は、電荷輸送性ポリマーIの主鎖に導入されていても、側鎖に導入されていてもよく、主鎖と側鎖の両方に導入されていてもよい。
【0045】
重合性官能基は、溶解度の変化に寄与する観点からは、電荷輸送性ポリマーI中に多く含まれる方が好ましい。一方、電荷輸送性を妨げない観点からは、電荷輸送性ポリマーI中に含まれる量が少ない方が好ましい。式(1)、(2)又は(3)で表される構造、又は重合性官能基Xの含有量は、これらを考慮し、適宜設定できる。
【0046】
例えば、電荷輸送性ポリマーIの1分子あたりの重合性官能基Xの数は、十分な溶解度の変化を得る観点から、2個以上が好ましく、3個以上がより好ましい。また、重合性官能基Xの数は、電荷輸送性を保つ観点から、1,000個以下が好ましく、500個以下がより好ましい。
【0047】
電荷輸送性ポリマーIの1分子あたりの式(1)、(2)、又は(3)で表される構造の数は、電荷輸送性ポリマーIを合成するために使用した、式(1)、 (2)、又は(3)で表される構造の仕込み量(モノマーの仕込み量)、各構造単位に対応するモノマーの仕込み量、電荷輸送性ポリマーIの重量平均分子量等を用い、平均値として求めることができる。また、重合性官能基の数は、電荷輸送性ポリマーIの1H NMR(核磁気共鳴)スペクトルにおける重合性官能基に由来するシグナルの積分値と全スペクトルの積分値との比、電荷輸送性ポリマーIの重量平均分子量等を利用し、平均値として算出できる。簡便であることから、仕込み量が明らかである場合は、好ましくは、仕込み量を用いて求めた値を採用する。
【0048】
(電荷輸送性ポリマーII)
電荷輸送性ポリマーIIは、電荷を輸送する能力を有する。実施形態の有機エレクトロニクス材料IIにおいて、電荷輸送性ポリマーIIは、重合性官能基Xaを有する、上記式(1a)、式(2a)、及び式(3a)からなる群から選択される少なくとも1つの構造を含む(以下、式(1a)の構造、式(2a)の構造及び式(3a)の構造をそれぞれ式(1a)で表される構造、式(2a)で表される構造及びは式(3a)で表される構造ともいう。)。電荷輸送性ポリマーIIは、式(1a)、(2a)、又は(3a)で表される構造を複数含んでいてもよい。式(1a)、(2a)、又は(3a)で表される構造を複数含む場合は、それらの構造は同一であっても異なってもよい。
【0049】
式(1a)~(3a)において、Xaは重合性官能基である。上記の通り、「重合性官能基」とは、熱及び/又は光を加えることにより、互いに結合を形成し得る官能基をいう。
【0050】
重合性官能基Xaとしては、置換又は非置換の、炭素-炭素多重結合を有する基(例えば、ビニル基、アリル基、ブテニル基、エチニル基、アクリロイル基、アクリロイルオキシ基、アクリロイルアミノ基、メタクリロイル基、メタクリロイルオキシ基、メタクリロイルアミノ基、ビニルオキシ基、ビニルアミノ基、ビニルフェニル基等)、小員環を有する基(例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基等の環状アルキル基;エポキシ基(オキシラニル基)、オキセタン基(オキセタニル基)等の環状エーテル基;ジケテン基;エピスルフィド基;ラクトン基;ラクタム基等)、複素環基(例えば、フラン-イル基、ピロール-イル基、チオフェン-イル基、シロール-イル基)などが挙げられる。これらの基が置換されている場合の置換基は特に限定されないが、例えば、炭素数1~22個(より好ましくは炭素数1~10個)の直鎖、環状又は分岐アルキル基が挙げられる。
重合性官能基Xaとしては、特に、置換又は非置換の、ビニル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、エポキシ基、及びオキセタン基が好ましく、反応性及び有機エレクトロニクス素子の特性の観点から、置換又は非置換の、ビニル基、オキセタン基、又はエポキシ基がより好ましく、置換又は非置換のオキセタン基が最も好ましい。置換又は非置換のオキセタン基の例としては、下記の重合性官能基Xaの具体例に示されるものが挙げられる。
【0051】
重合性官能基Xaの具体例として、以下が挙げられる。重合性官能基Xaは以下の構造に限定されない。
【0052】
【0053】
式(1a)~(3a)において、重合性官能基Xaとベンゼン環を連結している炭素数mは1~30が好ましい。ポリマーの溶解性を高める観点からは、mは4以上が好ましく、6以上が更に好ましく、8以上が更にも好ましい。ポリマー分子同士の結合距離を短縮し、ホッピングによるキャリア輸送性を高める観点からは8以下が好ましく、6以下が更に好ましく、4以下が更に好ましい。
【0054】
式(1a)、(2a)、又は(3a)で表される構造の具体例として以下があげられる。ただし、式(1a)、 (2a)、又は(3a)で表される構造は以下に限定されない。なお、下記の具体例において、「*」は、他の構造との結合部位を表す。
【0055】
【0056】
【0057】
【0058】
【0059】
【0060】
【0061】
式(1a)、(2a)、又は(3a)で表される構造は、電荷輸送性ポリマーIIの末端部(すなわち、下記で説明する構造単位T)に導入されていても、末端部以外の部分(すなわち、下記で説明する構造単位L又はB)に導入されていても、末端部と末端以外の部分の両方に導入されていてもよい。硬化性の観点からは、少なくとも末端部に導入されていることが好ましく、硬化性及び電荷輸送性の両立を図る観点からは、末端部のみに導入されていることが好ましい。また、電荷輸送性ポリマーIIが分岐構造を有する場合、重合性官能基Xaを有する式(1a)、(2a)、又は(3a)で表される構造は、電荷輸送性ポリマーIIの主鎖に導入されていても、側鎖に導入されていてもよく、主鎖と側鎖の両方に導入されていてもよい。
【0062】
重合性官能基は、溶解度の変化に寄与する観点からは、電荷輸送性ポリマーII中に多く含まれる方が好ましい。一方、電荷輸送性を妨げない観点からは、電荷輸送性ポリマーII中に含まれる量が少ない方が好ましい。式(1a)、(2a)又は(3a)で表される構造、又は重合性官能基Xaの含有量は、これらを考慮し、適宜設定できる。
【0063】
例えば、電荷輸送性ポリマーIIの1分子あたりの重合性官能基Xaの数は、十分な溶解度の変化を得る観点から、2個以上が好ましく、3個以上がより好ましい。また、重合性官能基Xaの数は、電荷輸送性を保つ観点から、1,000個以下が好ましく、500個以下がより好ましい。
【0064】
電荷輸送性ポリマーIIの1分子あたりの式(1a)、(2a)、又は(3a)で表される構造の数は、電荷輸送性ポリマーIIを合成するために使用した、式(1a)、 (2a)、又は(3a)で表される構造の仕込み量(モノマーの仕込み量)、各構造単位に対応するモノマーの仕込み量、電荷輸送性ポリマーIIの重量平均分子量等を用い、平均値として求めることができる。また、重合性官能基の数は、電荷輸送性ポリマーIIの1H NMR(核磁気共鳴)スペクトルにおける重合性官能基に由来するシグナルの積分値と全スペクトルの積分値との比、電荷輸送性ポリマーIIの重量平均分子量等を利用し、平均値として算出できる。簡便であることから、仕込み量が明らかである場合は、好ましくは、仕込み量を用いて求めた値を採用する。
【0065】
(電荷輸送性ポリマーI及びIIの構造)
以下に、実施形態における電荷輸送性ポリマーI及びIIの構造を具体的に説明する。
【0066】
電荷輸送性ポリマーI及びIIは、それぞれ、直鎖状であっても、又は、分岐構造を有していてもよい。電荷輸送性ポリマーI及びIIは、それぞれ、好ましくは、電荷輸送性を有する2価の構造単位Lと末端部を構成する1価の構造単位Tとを少なくとも含み、分岐部を構成する3価以上の構造単位Bを更に含んでもよい。電荷輸送性ポリマーI及びIIは、それぞれ、各構造単位を、それぞれ1種のみ含んでいても、又は、それぞれ複数種含んでいてもよい。電荷輸送性ポリマーI及びIIのそれぞれにおいて、各構造単位は、「1価」~「3価以上」の結合部位において互いに結合している。
【0067】
電荷輸送性ポリマーIに含まれる部分構造及び電荷輸送性ポリマーIIに含まれる部分構造のそれぞれの例として、以下が挙げられる。電荷輸送性ポリマーI及びIIは、いずれも、以下の部分構造を有するものに限定されない。部分構造中、「L」は構造単位Lを、「T」は構造単位Tを、「B」は構造単位Bを表す。本明細書において式中の「*」は、他の構造単位との結合部位を表す。以下の部分構造中、複数のLは、互いに同一の構造単位であっても、互いに異なる構造単位であってもよい。T及びBについても、同様である。
【0068】
【0069】
【0070】
(構造単位L)
構造単位Lは、電荷輸送性を有する2価の構造単位である。構造単位Lは、電荷を輸送する能力を有する原子団を含んでいればよく、特に限定されない。例えば、構造単位Lは、置換又は非置換の、芳香族アミン構造、カルバゾール構造、チオフェン構造、フルオレン構造、ベンゼン構造、ビフェニル構造、ターフェニル構造、ナフタレン構造、アントラセン構造、テトラセン構造、フェナントレン構造、ジヒドロフェナントレン構造、ピリジン構造、ピラジン構造、キノリン構造、イソキノリン構造、キノキサリン構造、アクリジン構造、ジアザフェナントレン構造、フラン構造、ピロール構造、オキサゾール構造、オキサジアゾール構造、チアゾール構造、チアジアゾール構造、トリアゾール構造、ベンゾチオフェン構造、ベンゾオキサゾール構造、ベンゾオキサジアゾール構造、ベンゾチアゾール構造、ベンゾチアジアゾール構造、ベンゾトリアゾール構造、及び、これらの1種又は2種以上を含む構造から選択される。芳香族アミン構造は、好ましくはトリアリールアミン構造であり、より好ましくはトリフェニルアミン構造である。
【0071】
一実施形態において、構造単位Lは、優れた正孔輸送性を得る観点から、置換又は非置換の、芳香族アミン構造、カルバゾール構造、チオフェン構造、フルオレン構造、ベンゼン構造、ピロール構造、及び、これらの1種又は2種以上を含む構造から選択されることが好ましく、置換又は非置換の、芳香族アミン構造、カルバゾール構造、及び、これらの1種又は2種以上を含む構造から選択されることがより好ましい。他の実施形態において、構造単位Lは、優れた電子輸送性を得る観点から、置換又は非置換の、フルオレン構造、ベンゼン構造、フェナントレン構造、ピリジン構造、キノリン構造、及び、これらの1種又は2種以上を含む構造から選択されることが好ましい。
【0072】
一実施形態において、構造単位Lは、置換又は非置換の、芳香族アミン構造、カルバゾール構造、チオフェン構造、ビチオフェン構造、ベンゼン構造、複数のベンゼン環が縮合した多環芳香族構造、及びフルオレン構造からなる群から選択される構造を含んでもよい。複数のベンゼン環が縮合した縮合多環芳香族の例として、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン、ピレン、ベンゾピレンなどが挙げられる。
【0073】
一実施形態において、電荷輸送性ポリマーIは、式(1)、(2)又は(3)で表される構造を含む構造単位Lを含んでもよい。
【0074】
一実施形態において、電荷輸送性ポリマーIIは、式(1a)、(2a)又は(3a)で表される構造を含む構造単位Lを含んでもよい。
【0075】
構造単位Lの具体例として、以下が挙げられる。構造単位Lは、以下に限定されない。
【0076】
【0077】
【0078】
Rは、それぞれ独立に、水素原子又は置換基を表す。電荷輸送性ポリマーIにおいて、好ましくは、Rは、それぞれ独立に、-R1、-OR2、-SR3、-OCOR4、-COOR5、-SiR6R7R8、ハロゲン原子、及び、式(1)、(2)又は(3)で表される構造からなる群から選択される。電荷輸送性ポリマーIIにおいて、好ましくは、Rは、それぞれ独立に、-R1、-OR2、-SR3、-OCOR4、-COOR5、-SiR6R7R8、ハロゲン原子、及び、重合性官能基を含む基からなる群から選択され、重合性官能基の例としては、重合性官能基Xaの例として挙げられたものが挙げられ、重合性官能基を含む基として、例えば、上記の式(1a)、(2a)、又は(3a)で表される構造が挙げられる。
R1~R8は、それぞれ独立に、水素原子;炭素数1~22個の直鎖、環状又は分岐アルキル基;又は、炭素数2~30個のアリール基又はヘテロアリール基を表す。アルキル基は、更に、炭素数2~20個のアリール基又はヘテロアリール基により置換されていてもよく、アリール基又はヘテロアリール基は、更に、炭素数1~22個の直鎖、環状又は分岐アルキル基により置換されていてもよい。
Rは、好ましくは水素原子、アルキル基、アリール基、アルキル置換アリール基である。
【0079】
Arは、炭素数2~30個のアリーレン基又はヘテロアリーレン基を表す。Arは、好ましくはアリーレン基であり、より好ましくはフェニレン基である。
【0080】
(構造単位T)
構造単位Tは、電荷輸送性ポリマーの末端部を構成する1価の構造単位である。構造単位Tは、特に限定されず、例えば、置換又は非置換の、芳香族炭化水素構造、芳香族複素環構造、及び、これらの1種又は2種以上を含む構造から選択される。一実施形態において、構造単位Tは、電荷の輸送性を低下させずに耐久性を付与するという観点から、置換又は非置換の芳香族炭化水素構造であることが好ましく、置換又は非置換のベンゼン構造であることがより好ましい。また、他の実施形態において、電荷輸送性ポリマーが末端部に重合性官能基を有する場合、構造単位Tは重合可能な構造(例えば、ピロール-イル基等の重合性官能基)であってもよい。構造単位Tは、構造単位Lと同じ構造を有していても、又は、異なる構造を有していてもよい。
【0081】
一実施形態において、電荷輸送性ポリマーIは、式(1)、(2)又は(3)で表される構造を含む構造単位Tを含むことが好ましい。
【0082】
一実施形態において、電荷輸送性ポリマーIIは、式(1a)、(2a)又は(3a)で表される構造を含む構造単位Tを含むことが好ましい。
【0083】
構造単位Tの具体例として、以下が挙げられる。構造単位Tは、以下に限定されない。
【0084】
【0085】
Rは、構造単位LにおけるRと同様である。
【0086】
電荷輸送性ポリマーIは、式(1)、(2)、又は(3)で表される構造を有する構造単位Tを含む場合、一実施形態において、Rのうちのいずれか1つは下記式で表され、他のRは水素原子であることが好ましい。下記式において、X及びnは、式(1)、(2)、又は(3)におけるX及びnと同義であり、好ましい範囲も同様である。
【0087】
【0088】
電荷輸送性ポリマーIIは、式(1a)、(2a)、又は(3a)で表される構造を有する構造単位Tを含む場合、一実施形態において、Rのうちのいずれか1つは下記式で表され、他のRは水素原子であることが好ましい。下記式において、Xa及びmは、式(1a)、(2a)、又は(3a)におけるXa及びmと同義であり、好ましい範囲も同様である。
【0089】
【0090】
(構造単位B)
構造単位Bは、電荷輸送性ポリマーが分岐構造を有する場合に、分岐部を構成する3価以上の構造単位である。構造単位Bは、有機エレクトロニクス素子の耐久性向上の観点から、好ましくは6価以下であり、より好ましくは3価又は4価である。構造単位Bは、電荷輸送性を有する単位であることが好ましい。例えば、構造単位Bは、有機エレクトロニクス素子の耐久性向上の観点から、置換又は非置換の、芳香族アミン構造、カルバゾール構造、縮合多環式芳香族炭化水素構造、及び、これらの1種又は2種以上を含有する構造から選択される。構造単位Bは、構造単位Lと同じ構造を有していても、又は、異なる構造を有していてもよく、また、構造単位Tと同じ構造を有していても、又は、異なる構造を有していてもよい。
【0091】
一実施形態において、構造単位Bは、置換又は非置換の、芳香族アミン構造、カルバゾール構造、チオフェン構造、ビチオフェン構造、ベンゼン構造、複数のベンゼン環が縮合した多環芳香族構造、及びフルオレン構造からなる群から選択される構造を含んでもよい。
複数のベンゼン環が縮合した多環芳香族の例として、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン、ピレン、ベンゾピレン等が挙げられる。
【0092】
一実施形態において、電荷輸送性ポリマーIは、式(1)、(2)又は(3)で表される構造を含む構造単位Bを含んでもよい。
【0093】
一実施形態において、電荷輸送性ポリマーIIは、式(1a)、(2a)又は(3a)で表される構造を含む構造単位Bを含んでもよい。
【0094】
構造単位Bの具体例として、以下が挙げられる。構造単位Bは、以下に限定されない。
【0095】
【0096】
Wは、3価の連結基を表し、例えば、炭素数2~30個のアレーントリイル基又はヘテロアレーントリイル基を表す。Arは、それぞれ独立に2価の連結基を表し、例えば、それぞれ独立に、炭素数2~30個のアリーレン基又はヘテロアリーレン基を表す。Arは、好ましくはアリーレン基、より好ましくはフェニレン基である。Yは、2価の連結基を表し、例えば、構造単位LにおけるR(ただし、重合性官能基を含む基を除く。)のうち水素原子を1個以上有する基から、更に1個の水素原子を除いた2価の基が挙げられる。Zは、炭素原子、ケイ素原子、又はリン原子のいずれかを表す。構造単位中、ベンゼン環、Ar及びWは、置換基を有していてもよく、置換基の例として、構造単位LにおけるRが挙げられる。
【0097】
(構造単位の割合)
電荷輸送性ポリマーIに含まれる構造単位Lの割合は、十分な電荷輸送性を得る観点から、全構造単位を基準として、10モル%以上が好ましく、20モル%以上がより好ましく、30モル%以上が更に好ましい。また、電荷輸送性ポリマーIに含まれる構造単位Lの割合は、構造単位T及び必要に応じて導入される構造単位Bを考慮すると、95モル%以下が好ましく、90モル%以下がより好ましく、85モル%以下が更に好ましい。
電荷輸送性ポリマーIIに含まれる構造単位Lの割合の好ましい範囲は、上述の電荷輸送ポリマーIに含まれる構造単位Lの割合の好ましい範囲と同様である。
【0098】
電荷輸送性ポリマーIに含まれる構造単位Tの割合は、有機エレクトロニクス素子の特性向上の観点、又は、粘度の上昇を抑え、電荷輸送性ポリマーの合成を良好に行う観点から、全構造単位を基準として、5モル%以上が好ましく、10モル%以上がより好ましく、15モル%以上が更に好ましい。また、電荷輸送性ポリマーIに含まれる構造単位Tの割合は、十分な電荷輸送性を得る観点から、60モル%以下が好ましく、55モル%以下がより好ましく、50モル%以下が更に好ましい。
電荷輸送性ポリマーIIに含まれる構造単位Tの割合の好ましい範囲は、上述の電荷輸送ポリマーIに含まれる構造単位Tの割合の好ましい範囲と同様である。
【0099】
電荷輸送性ポリマーIが構造単位Bを含む場合、電荷輸送性ポリマーIに含まれる構造単位Bの割合は、有機エレクトロニクス素子の耐久性向上の観点から、全構造単位を基準として、1モル%以上が好ましく、5モル%以上がより好ましく、10モル%以上が更に好ましい。また、電荷輸送性ポリマーIが構造単位Bを含む場合、電荷輸送性ポリマーIに含まれる構造単位Bの割合は、粘度の上昇を抑え、電荷輸送性ポリマーの合成を良好に行う観点、又は、十分な電荷輸送性を得る観点から、50モル%以下が好ましく、40モル%以下がより好ましく、30モル%以下が更に好ましい。
電荷輸送性ポリマーIIが構造単位Bを含む場合、電荷輸送性ポリマーIIに含まれる構造単位Bの割合の好ましい範囲は、上述の、電荷輸送性ポリマーIが構造単位Bを含む場合の電荷輸送性ポリマーIに含まれる構造単位Bの割合の好ましい範囲と同様である。
【0100】
電荷輸送性ポリマーIの重合性官能基Xの割合は、電荷輸送性ポリマーIを効率よく硬化させるという観点から、全構造単位を基準として、0.1モル%以上が好ましく、1モル%以上がより好ましく、3モル%以上が更に好ましい。また、重合性官能基の割合は、良好な電荷輸送性を得るという観点から、70モル%以下が好ましく、60モル%以下がより好ましく、50モル%以下が更に好ましい。なお、ここでの「重合性官能基の割合」とは、重合性官能基を有する構造単位の割合をいう。
【0101】
電荷輸送性ポリマーIIの重合性官能基の割合は、電荷輸送性ポリマーIIを効率よく硬化させるという観点から、全構造単位を基準として、0.1モル%以上が好ましく、1モル%以上がより好ましく、3モル%以上が更に好ましい。また、重合性官能基の割合は、良好な電荷輸送性を得るという観点から、70モル%以下が好ましく、60モル%以下がより好ましく、50モル%以下が更に好ましい。なお、ここでの「重合性官能基の割合」とは、重合性官能基を有する構造単位の割合をいう。
【0102】
電荷輸送性ポリマーIにおいて、電荷輸送性、耐久性、生産性等のバランスを考慮すると、構造単位L及び構造単位Tの割合(モル比)は、L:T=100:1~70が好ましく、100:3~50がより好ましく、100:5~30が更に好ましい。また、電荷輸送性ポリマーIが構造単位Bを含む場合、構造単位L、構造単位T、及び構造単位Bの割合(モル比)は、L:T:B=100:10~200:10~100が好ましく、100:20~180:20~90がより好ましく、100:40~160:30~80が更に好ましい。
電荷輸送性ポリマーIIにおける構造単位L及び構造単位Tの割合(モル比)の好ましい割合、及び、電荷輸送性ポリマーIIが構造単位Bを含む場合の、構造単位L、構造単位T、及び構造単位Bの割合(モル比)の好ましい範囲は、上述の、電荷輸送性ポリマーIおける構造単位L及び構造単位Tの割合(モル比)の好ましい割合、及び、電荷輸送性ポリマーIが構造単位Bを含む場合の、構造単位L、構造単位T、及び構造単位Bの割合(モル比)の好ましい範囲と同様である。
【0103】
構造単位の割合は、電荷輸送性ポリマーを合成するために使用した、各構造単位に対応するモノマーの仕込み量を用いて求めることができる。また、構造単位の割合は、電荷輸送性ポリマーの1H NMRスペクトルにおける各構造単位に由来するスペクトルの積分値を利用し、平均値として算出することができる。簡便であることから、仕込み量が明らかである場合は、好ましくは、仕込み量を用いて求めた値を採用する。
【0104】
(数平均分子量)
電荷輸送性ポリマーI及び電荷輸送性ポリマーIIの数平均分子量は、それぞれ、溶剤への溶解性、成膜性等を考慮して適宜、調整できる。
電荷輸送性ポリマーIの数平均分子量は、電荷輸送性に優れるという観点から、500以上が好ましく、1,000以上がより好ましく、2,000以上が更に好ましい。また、電荷輸送性ポリマーIの数平均分子量は、溶媒への良好な溶解性を保ち、インク組成物の調製を容易にするという観点から、1,000,000以下が好ましく、100,000以下がより好ましく、50,000以下が更に好ましい。
電荷輸送性ポリマーIIの数平均分子量の好ましい範囲は、上述の、電荷輸送性ポリマーIの数平均分子量の好ましい範囲と同様である。
【0105】
(重量平均分子量)
電荷輸送性ポリマーI及びIIのそれぞれにおいて、電荷輸送性ポリマーの重量平均分子量は、溶剤への溶解性、成膜性等を考慮して適宜、調整できる。
電荷輸送性ポリマーIの重量平均分子量は、電荷輸送性に優れるという観点から、1,000以上が好ましく、5,000以上がより好ましく、10,000以上が更に好ましい。また、電荷輸送性ポリマーIの重量平均分子量は、溶媒への良好な溶解性を保ち、インク組成物の調製を容易にするという観点から、1,000,000以下が好ましく、700,000以下がより好ましく、400,000以下が更に好ましい。
電荷輸送性ポリマーIIの重量平均分子量の好ましい範囲は、上述の、電荷輸送性ポリマーIの重量平均分子量の好ましい範囲と同様である。
【0106】
数平均分子量及び重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)により、標準ポリスチレンの検量線を用いて測定することができる。
【0107】
GPCの測定条件として、以下の条件を用いることができる。
装置:高速液体クロマトグラフ Prominence(株)島津製作所
送液ポンプ(LC-20AD)
脱気ユニット(DGU-20A)
オートサンプラ(SIL-20AHT)
カラムオーブン(CTO-20A)
PDA検出器(SPD-M20A)
示差屈折率検出器(RID-20A)
カラム:Gelpack(登録商標)
GL-A160S/GL-A150S 日立化成(株)
溶離液:テトラヒドロフラン(THF)(HPLC用、安定剤含有)和光純薬工業(株)
流速:1mL/min
カラム温度:40℃
検出波長:254nm
分子量標準物質:標準ポリスチレンキットPStQuick A/B/C 東ソー(株)
【0108】
(製造方法)
本実施形態の電荷輸送性ポリマーI及びIIは、それぞれ、正孔輸送性を有する構造単位を含むモノマーの重合体又は共重合体であることが好ましい。電荷輸送性ポリマーI及びIIは、それぞれ、好ましくは、上記構造単位Lを含む一種以上のモノマーと、上記構造単位Tを含む一種以上のモノマーとを含み、任意に上記構造単位Bを含むモノマーを含むモノマー混合物を用いて、これらのモノマーを共重合させることにより、好ましく製造することができる。共重合の形式は、交互、ランダム、ブロック又はグラフト共重合体であってもよいし、それらの中間的な構造を有する共重合体、例えばブロック性を帯びたランダム共重合体であってもよい。
【0109】
電荷輸送性ポリマーI及びIIは、それぞれ、種々の合成方法により製造でき、その製造方法は特に限定されない。例えば、鈴木カップリング、根岸カップリング、園頭カップリング、スティルカップリング、ブッフバルト・ハートウィッグカップリング等の公知のカップリング反応を用いることができる。鈴木カップリングは、芳香族ボロン酸誘導体と芳香族ハロゲン化物の間で、Pd触媒を用いたクロスカップリング反応を起こさせるものである。鈴木カップリングによれば、所望とする芳香環同士を結合させることにより、電荷輸送性ポリマーI及びIIのそれぞれを簡便に製造できる。
【0110】
カップリング反応では、触媒として、例えば、Pd(0)化合物、Pd(II)化合物、Ni化合物等が用いられる。また、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0)、酢酸パラジウム(II)等を前駆体とし、ホスフィン配位子と混合することにより発生させた触媒種を用いることもできる。電荷輸送性ポリマーI及びIIの合成方法については、例えば、国際公開第WO2010/140553号の記載を参照できる。
【0111】
[ドーパント]
有機エレクトロニクス材料I及びIIは、それぞれ、任意の添加剤を含むことができ、例えばドーパントを更に含有してよい、ドーパントは、有機エレクトロニクス材料に添加することでドーピング効果を発現させ、電荷の輸送性を向上させ得るものであればよく、特に制限はない。ドーピングには、p型ドーピングとn型ドーピングがあり、p型ドーピングではドーパントとして電子受容体として働く物質が用いられ、n型ドーピングではドーパントとして電子供与体として働く物質が用いられる。正孔輸送性の向上にはp型ドーピング、電子輸送性の向上にはn型ドーピングを行うことが好ましい。有機エレクトロニクス材料に用いられるドーパントは、p型ドーピング又はn型ドーピングのいずれの効果を発現させるドーパントであってもよい。また、1種のドーパントを単独で添加しても、複数種のドーパントを混合して添加してもよい。
【0112】
p型ドーピングに用いられるドーパントは、電子受容性の化合物であり、例えば、ルイス酸、プロトン酸、遷移金属化合物、イオン化合物、ハロゲン化合物、π共役系化合物等が挙げられる。具体的には、ルイス酸としては、FeCl3、PF5、AsF5、SbF5、BF5、BCl3、BBr3等;プロトン酸としては、HF、HCl、HBr、HNO5、H2SO4、HClO4等の無機酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、トリフルオロ酢酸、1-ブタンスルホン酸、ビニルフェニルスルホン酸、カンファスルホン酸等の有機酸;遷移金属化合物としては、FeOCl、TiCl4、ZrCl4、HfCl4、NbF5、AlCl3、NbCl5、TaCl5、MoF5;イオン化合物としては、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ホウ酸イオン、トリス(トリフルオロメタンスルホニル)メチドイオン、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドイオン、ヘキサフルオロアンチモン酸イオン、AsF6
-(ヘキサフルオロ砒酸イオン)、BF4
-(テトラフルオロホウ酸イオン)、PF6
-(ヘキサフルオロリン酸イオン)等のパーフルオロアニオンを有する塩、アニオンとして前記プロトン酸の共役塩基を有する塩など;ハロゲン化合物としては、Cl2、Br2、I2、ICl、ICl3、IBr、IF等;π共役系化合物としては、TCNE(テトラシアノエチレン)、TCNQ(テトラシアノキノジメタン)等が挙げられる。また、特開2000-36390号公報、特開2005-75948号公報、特開2003-213002号公報等に記載の電子受容性化合物を用いることも可能である。好ましくは、ルイス酸、イオン化合物、π共役系化合物等である。
また、上記イオン化合物として、例えば、オニウム塩が挙げられる。オニウム塩とは、ヨードニウム、アンモニウム等のカチオンと対アニオンからなる化合物を言う。
【0113】
n型ドーピングに用いられるドーパントは、電子供与性の化合物であり、例えば、Li、Cs等のアルカリ金属;Mg、Ca等のアルカリ土類金属;LiF、Cs2CO3等のアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の塩;金属錯体;電子供与性有機化合物などが挙げられる。
【0114】
有機層の溶解度の変化を容易にするために、ドーパントとして重合性官能基に対する重合開始剤として作用し得る化合物を用いることが好ましい。
【0115】
[他の任意成分]
有機エレクトロニクス材料I及びIIは、それぞれ、電荷輸送性低分子化合物、他のポリマー等を更に含有してもよい。
【0116】
[含有量]
有機エレクトロニクス材料I中の電荷輸送性ポリマーIの含有量は、良好な電荷輸送性を得る観点から、有機エレクトロニクス材料Iの全質量に対して50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上がより好ましく、80質量%以上が更に好ましい。有機エレクトロニクス材料I中の電荷輸送性ポリマーIの含有量の上限は特に限定されず、100質量%とすることも可能である。ドーパント等の添加剤を含むことを考慮し、有機エレクトロニクス材料I中の電荷輸送性ポリマーIの含有量を、例えば99質量%以下、98質量%以下、95質量%以下、90質量%以下、等としてもよい。
有機エレクトロニクス材料II中の電荷輸送性ポリマーのII含有量は、良好な電荷輸送性を得る観点から、有機エレクトロニクス材料IIの全質量に対して50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上がより好ましく、80質量%以上が更に好ましい。有機エレクトロニクス材料II中の電荷輸送性ポリマーIIの含有量の上限は特に限定されず、100質量%とすることも可能である。ドーパント等の添加剤を含むことを考慮し、有機エレクトロニクス材料II中の電荷輸送性ポリマーIIの含有量を、例えば99質量%以下、98質量%以下、95質量%以下、90質量%以下、等としてもよい。
【0117】
有機エレクトロニクス材料Iがドーパントを含有する場合、その含有量は、有機エレクトロニクス材料Iの電荷輸送性を向上させる観点から、有機エレクトロニクス材料Iの全質量に対して、0.01質量%以上が好ましく、0.1質量%以上がより好ましく、0.5質量%以上が更に好ましい。また、成膜性を良好に保つ観点から、有機エレクトロニクス材料Iの全質量に対して、50質量%以下が好ましく、30質量%以下がより好ましく、20質量%以下が更に好ましい。
有機エレクトロニクス材料IIがドーパントを含有する場合、その含有量は、有機エレクトロニクス材料IIの電荷輸送性を向上させる観点から、有機エレクトロニクス材料IIの全質量に対して、0.01質量%以上が好ましく、0.1質量%以上がより好ましく、0.5質量%以上が更に好ましい。また、成膜性を良好に保つ観点から、有機エレクトロニクス材料IIの全質量に対して、50質量%以下が好ましく、30質量%以下がより好ましく、20質量%以下が更に好ましい。
【0118】
<インク組成物>
前記実施形態の有機エレクトロニクス材料I及びIIは、それぞれ、さらに該材料を溶解又は分散し得る溶媒を含有するインク組成物であってよい。このようなインク組成物を用いることによって、塗布法といった簡便な方法によって有機層を容易に形成できる。
【0119】
[溶媒]
溶媒としては、水、有機溶媒、又はこれらの混合溶媒を使用できる。有機溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール;ペンタン、ヘキサン、オクタン等のアルカン;シクロヘキサン等の環状アルカン;ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、テトラリン、ジフェニルメタン等の芳香族炭化水素;エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコール-1-モノメチルエーテルアセタート等の脂肪族エーテル;1,2-ジメトキシベンゼン、1,3-ジメトキシベンゼン、アニソール、フェネトール、2-メトキシトルエン、3-メトキシトルエン、4-メトキシトルエン、2,3-ジメチルアニソール、2,4-ジメチルアニソール等の芳香族エーテル;酢酸エチル、酢酸n-ブチル、乳酸エチル、乳酸n-ブチル等の脂肪族エステル;酢酸フェニル、プロピオン酸フェニル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸プロピル、安息香酸n-ブチル等の芳香族エステル;N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド等のアミド系溶媒;ジメチルスルホキシド、テトラヒドロフラン、アセトン、クロロホルム、塩化メチレンなどが挙げられる。好ましくは、芳香族炭化水素、脂肪族エステル、芳香族エステル、脂肪族エーテル、芳香族エーテル等である。
【0120】
[重合開始剤]
インク組成物は、好ましくは、重合開始剤を含有する。重合開始剤として、公知のラジカル重合開始剤、カチオン重合開始剤、アニオン重合開始剤等を使用できる。インク組成物を簡便に調製できる観点から、ドーパントとしての機能と重合開始剤としての機能とを兼ねる物質を用いることが好ましい。そのような物質として、例えば、前記イオン化合物が挙げられる。また、カチオン重合開始剤として、前記オニウム塩を好ましく用いることができる。
【0121】
[添加剤]
インク組成物は、更に、任意成分として添加剤を含有してもよい。添加剤としては、例えば、重合禁止剤、安定剤、増粘剤、ゲル化剤、難燃剤、酸化防止剤、還元防止剤、酸化剤、還元剤、表面改質剤、乳化剤、消泡剤、分散剤、界面活性剤等が挙げられる。
【0122】
[含有量]
インク組成物における溶媒の含有量は、種々の塗布方法へ適用することを考慮して定めることができる。例えば、溶媒の含有量は、溶媒に対し電荷輸送性ポリマーの割合が、0.1質量%以上となる量が好ましく、0.2質量%以上となる量がより好ましく、0.5質量%以上となる量が更に好ましい。また、溶媒の含有量は、溶媒に対し電荷輸送性ポリマーの割合が、20質量%以下となる量が好ましく、15質量%以下となる量がより好ましく、10質量%以下となる量が更に好ましい。
【0123】
<有機層>
本発明の実施形態である有機層は、前記実施形態の有機エレクトロニクス材料又はインク組成物を用いて形成された層である。インク組成物を用いることによって、塗布法により有機層を良好かつ簡便に形成できる。塗布方法としては、例えば、スピンコーティング法;キャスト法;浸漬法;凸版印刷、凹版印刷、オフセット印刷、平版印刷、凸版反転オフセット印刷、スクリーン印刷、グラビア印刷等の有版印刷法;インクジェット法等の無版印刷法などの公知の方法が挙げられる。塗布法によって有機層を形成する場合、塗布後に得られた有機層(塗布層)を、ホットプレート又はオーブンを用いて乾燥させ、溶媒を除去してもよい。
【0124】
電荷輸送性ポリマーI及びIIは、それぞれ、重合性官能基を有する。この場合、光照射、加熱処理等により電荷輸送性ポリマーの重合反応を進行させ、有機層の溶解度を変化させることができる。溶解度を変化させた有機層を積層することで、有機エレクトロニクス素子の多層化を容易に図ることが可能となる。有機層の形成方法については、例えば、国際公開第WO2010/140553号の記載を参照できる。
【0125】
乾燥後又は硬化後の有機層の厚さは、電荷輸送の効率を向上させる観点から、好ましくは0.1nm以上であり、より好ましくは1nm以上であり、更に好ましくは3nm以上である。また、有機層の厚さは、電気抵抗を小さくする観点から、好ましくは300nm以下であり、より好ましくは200nm以下であり、更に好ましくは100nm以下である。
【0126】
<有機エレクトロニクス素子>
本発明の実施形態である有機エレクトロニクス素子は、少なくとも一つ以上の前記実施形態の有機層を有する。有機エレクトロニクス素子として、例えば、有機EL素子、有機光電変換素子、有機トランジスタ等が挙げられる。有機エレクトロニクス素子は、好ましくは、少なくとも一対の電極の間に有機層が配置された構造を有する。
【0127】
<有機EL素子>
本発明の実施形態である有機EL素子は、少なくとも一つ以上の前記実施形態の有機層を有する。有機EL素子は、通常、発光層、陽極、陰極、及び基板を備えており、必要に応じて、正孔注入層、電子注入層、正孔輸送層、電子輸送層等の他の機能層を備えている。各層は、蒸着法により形成してもよく、塗布法により形成してもよい。有機EL素子は、好ましくは、前記有機層を発光層又は他の機能層として有し、より好ましくは機能層として有し、更に好ましくは正孔注入層及び正孔輸送層の少なくとも一方として有する。
【0128】
図1は、有機EL素子の一実施形態を示す断面模式図である。
図1の有機EL素子は、多層構造の素子であり、基板8、陽極2、正孔注入層3及び正孔輸送層6、発光層1、電子輸送層7、電子注入層5、並びに陰極4をこの順に有している。以下、各層について説明する。
【0129】
[発光層]
発光層に用いる材料として、低分子化合物、ポリマー、デンドリマー等の発光材料を使用できる。ポリマーは、溶媒への溶解性が高く、塗布法に適しているため好ましい。発光材料としては、蛍光材料、燐光材料、熱活性化遅延蛍光材料(TADF)等が挙げられる。
【0130】
蛍光材料として、ペリレン、クマリン、ルブレン、キナクドリン、スチルベン、色素レーザー用色素、アルミニウム錯体、これらの誘導体等の低分子化合物;ポリフルオレン、ポリフェニレン、ポリフェニレンビニレン、ポリビニルカルバゾール、フルオレンーベンゾチアジアゾール共重合体、フルオレン-トリフェニルアミン共重合体、これらの誘導体等のポリマー;これらの混合物等が挙げられる。
【0131】
燐光材料として、Ir、Pt等の金属を含む金属錯体などを使用できる。Ir錯体としては、例えば、青色発光を行うFIr(pic)(イリジウム(III)ビス[(4,6-ジフルオロフェニル)-ピリジネート-N,C2]ピコリネート)、緑色発光を行うIr(ppy)3(ファク トリス(2-フェニルピリジン)イリジウム)、赤色発光を行う(btp)2Ir(acac)(ビス〔2-(2’-ベンゾ[4,5-α]チエニル)ピリジナート-N,C3〕イリジウム(アセチル-アセトネート))、Ir(piq)3(トリス(1-フェニルイソキノリン)イリジウム)等が挙げられる。Pt錯体としては、例えば、赤色発光を行うPtOEP(2、3、7、8、12、13、17、18-オクタエチル-21H、23H-フォルフィンプラチナ)等が挙げられる。
【0132】
発光層が燐光材料を含む場合、燐光材料の他に、更にホスト材料を含むことが好ましい。ホスト材料としては、低分子化合物、ポリマー、又はデンドリマーを使用できる。低分子化合物としては、例えば、CBP(4,4’-ビス(9H-カルバゾール-9-イル)ビフェニル)、mCP(1,3-ビス(9-カルバゾリル)ベンゼン)、CDBP(4,4’-ビス(カルバゾール-9-イル)-2,2’-ジメチルビフェニル)、これらの誘導体等が、ポリマーとしては、前記実施形態の有機エレクトロニクス材料、ポリビニルカルバゾール、ポリフェニレン、ポリフルオレン、これらの誘導体等が挙げられる。
【0133】
熱活性化遅延蛍光材料としては、例えば、Adv. Mater., 21, 4802-4906 (2009);Appl. Phys. Lett., 98, 083302 (2011);Chem. Comm., 48, 9580 (2012);Appl. Phys. Lett., 101, 093306 (2012);J. Am. Chem. Soc., 134, 14706 (2012);Chem. Comm., 48, 11392 (2012);Nature, 492, 234 (2012);Adv. Mater., 25, 3319 (2013);J. Phys. Chem. A, 117, 5607 (2013);Phys. Chem. Chem. Phys., 15, 15850 (2013);Chem. Comm., 49, 10385 (2013);Chem. Lett., 43, 319 (2014)等に記載の化合物が挙げられる。
【0134】
[正孔注入層、正孔輸送層]
上記の有機エレクトロニクス材料を用いて形成された有機層を、正孔注入層及び正孔輸送層の少なくとも一方として使用することが好ましく、少なくとも正孔輸送層として使用することが一層好ましい。上述のとおり、有機エレクトロニクス材料を含むインク組成物を用いることにより、これらの層を容易に形成することができる。
【0135】
有機EL素子が、上記の有機エレクトロニクス材料を用いて形成された有機層を正孔輸送層として有し、さらに正孔注入層を有する場合、正孔注入層には公知の材料を使用できる。また、有機EL素子が、上記の有機エレクトロニクス材料を用いて形成された有機層を正孔注入層として有し、更に正孔輸送層を有する場合、正孔輸送層には公知の材料を使用できる。
【0136】
[電子輸送層、電子注入層]
電子輸送層及び電子注入層に用いる材料としては、例えば、フェナントロリン誘導体、ビピリジン誘導体、ニトロ置換フルオレン誘導体、ジフェニルキノン誘導体、チオピランジオキシド誘導体、ナフタレン、ペリレンなどの縮合環テトラカルボン酸無水物、カルボジイミド、フルオレニリデンメタン誘導体、アントラキノジメタン及びアントロン誘導体、オキサジアゾール誘導体、チアジアゾール誘導体、ベンゾイミダゾール誘導体、キノキサリン誘導体、アルミニウム錯体等が挙げられる。また、前記実施形態の有機エレクトロニクス材料も使用できる。
【0137】
[陰極]
陰極材料としては、例えば、Li、Ca、Mg、Al、In、Cs、Ba、Mg/Ag、LiF、CsF等の金属又は金属合金が用いられる。
【0138】
[陽極]
陽極材料としては、例えば、金属(例えば、Au)又は導電性を有する他の材料が用いられる。他の材料として、例えば、酸化物(例えば、ITO:酸化インジウム/酸化錫)、導電性高分子(例えば、ポリチオフェン-ポリスチレンスルホン酸混合物(PEDOT:PSS))が挙げられる。
【0139】
[基板]
基板として、ガラス、プラスチック等を使用できる。基板は、透明であることが好ましく、また、フレキシブル性を有するフレキシブル基板であることが好ましい。石英ガラス、光透過性樹脂フィルム等が好ましく用いられる。
【0140】
樹脂フィルムとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリレート、ポリイミド、ポリカーボネート、セルローストリアセテート、セルロースアセテートプロピオネート等からなるフィルムが挙げられる。
【0141】
樹脂フィルムを用いる場合、水蒸気、酸素等の透過を抑制するために、樹脂フィルムへ酸化珪素、窒化珪素等の無機物をコーティングして用いてもよい。
【0142】
[封止]
有機EL素子は、外気の影響を低減させて長寿命化させるため、封止されていてもよい。封止に用いる材料としては、ガラス、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のプラスチックフィルム、又は酸化珪素、窒化ケイ素等の無機物を用いることができるが、これらに限定されることはない。
封止の方法も、特に限定されず、公知の方法で行うことができる。
【0143】
[発光色]
有機EL素子の発光色は特に限定されるものではない。白色の有機EL素子は、家庭用照明、車内照明、時計又は液晶のバックライト等の各種照明器具に用いることができるため好ましい。
【0144】
白色の有機EL素子を形成する方法としては、複数の発光材料を用いて複数の発光色を同時に発光させて混色させる方法を用いることができる。複数の発光色の組み合わせとしては、特に限定されないが、青色、緑色及び赤色の3つの発光極大波長を含有する組み合わせ、青色と黄色、黄緑色と橙色等の2つの発光極大波長を含有する組み合わせなどが挙げられる。発光色の制御は、発光材料の種類と量の調整により行うことができる。
【0145】
<表示素子、照明装置、表示装置>
本発明の実施形態である表示素子は、前記実施形態の有機EL素子を備えている。例えば、赤、緑及び青(RGB)の各画素に対応する素子として、有機EL素子を用いることで、カラーの表示素子が得られる。画像の形成方法には、マトリックス状に配置した電極でパネルに配列された個々の有機EL素子を直接駆動する単純マトリックス型と、各素子に薄膜トランジスタを配置して駆動するアクティブマトリックス型とがある。
【0146】
また、本発明の実施形態である照明装置は、本発明の実施形態の有機EL素子を備えている。さらに、本発明の実施形態である表示装置は、照明装置と、表示手段として液晶素子とを備えている。例えば、表示装置は、バックライトとして本発明の実施形態である照明装置を用い、表示手段として公知の液晶素子を用いた表示装置、すなわち液晶表示装置とすることができる。
【0147】
本発明の実施形態は、下記を含む。しかし、本発明は下記の実施形態に限定されない。
【0148】
<1> 下記式(1)、下記式(2)、及び下記式(3)からなる群から選択される少なくとも1つの構造を含む電荷輸送性ポリマーを含有する有機エレクトロニクス材料。
【化26】
(式(1)~(3)中、Xは、置換又は非置換のオキセタン基及び置換又は非置換のビニル基からなる群から選択される重合性官能基であり、nは、1~12の整数を表す。)
<2> 前記電荷輸送性ポリマーが、前記(1)、式(2)、及び式(3)からなる群から選択される少なくとも1つの構造を末端に有する、<1>に記載の有機エレクトロニクス材料。
【0149】
<3> 下記式(1a)、下記式(2a)、及び下記式(3a)からなる群から選択される少なくとも1つの構造を含む電荷輸送性ポリマーを含有する有機エレクトロニクス材料。
【化27】
(式(1a)~(3a)中、Xaは重合性官能基であり、mは1~30の整数を表す。)
<4> 前記電荷輸送性ポリマーが、前記(1a)、式(2a)、及び式(3a)からなる群から選択される少なくとも1つの構造を末端に有する、<3>に記載の有機エレクトロニクス材料。
【0150】
<5> 前記電荷輸送性ポリマーが、3方向以上に分岐した構造を有する電荷輸送性ポリマーであって、置換又は非置換の、芳香族アミン構造、カルバゾール構造、チオフェン構造、ビチオフェン構造、ベンゼン構造、複数のベンゼン環が縮合した多環芳香族構造、及びフルオレン構造からなる群から選択される構造を含む3価以上の構造単位を含む、<1>~<4>のいずれか1項に記載の有機エレクトロニクス材料。
<6> 前記電荷輸送性ポリマーが、置換又は非置換の、芳香族アミン構造、カルバゾール構造、チオフェン構造、ビチオフェン構造、ベンゼン構造、複数のベンゼン環が縮合した多環芳香族構造、及びフルオレン構造からなる群から選択される構造を含む2価の構造単位を含む、<1>~<5>のいずれか一項に記載の有機エレクトロニクス材料。
<7> 前記電荷輸送性ポリマーが正孔輸送材料である、<1>~<6>のいずれか一項に記載の有機エレクトロニクス材料。
<8> さらに重合開始剤を含む、<1>~<7>のいずれか一項に記載の有機エレクトロニクス材料。
<9> 前記重合開始剤がカチオン重合開始剤を含む、<8>に記載の有機エレクトロニクス材料。
<10> 前記カチオン重合開始剤がオニウム塩を含む、<9>に記載の有機エレクトロニクス材料。
【0151】
<11> <1>~<10>のいずれか一項に記載の有機エレクトロニクス材料により形成された、有機層。
<12> <11>に記載の有機層を含む、有機エレクトロニクス素子。
<13> <11>に記載の有機層を含む、有機エレクトロルミネセンス素子。
<14> 燐光材料を含む発光層を有する、<13>に記載の有機エレクトロルミネセンス素子。
<15> 遅延蛍光材料を含む発光層を有する、<13>に記載の有機エレクトロルミネセンス素子。
<16> フレキシブル基板をさらに有する、<13>~<15>のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネセンス素子。
<17> 樹脂フィルム基板をさらに有する、<13>~<15>のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネセンス素子。
<18> <13>~<17>のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネセンス素子を備えた、表示素子。
<19> <13>~<17>のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネセンス素子を備えた、照明装置。
<20> 19に記載の照明装置と、表示手段として液晶素子とを備えた、表示装置。
【0152】
日本国特許出願第2016-217367号及び日本国特許出願第2016-145263号の開示はその全体が参照により本明細書に取り込まれる。
【実施例】
【0153】
以下に、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。特に断らない限り、「%」は「質量%」を意味する。
【0154】
<Pd触媒の調製>
窒素雰囲気下のグローブボックス中で、室温下、サンプル管にトリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(73.2mg、80μmol)を秤取り、アニソール(15ml)を加え、30分間攪拌した。同様に、サンプル管にトリス(t-ブチル)ホスフィン(129.6mg、640μmol)を秤取り、アニソール(5mL)を加え、5分間攪拌した。これらの溶液を混合し、室温で30分間攪拌して、触媒の溶液を得た。なお、触媒の調製において、すべての溶媒は、30分以上窒素バブルにより脱気した後に使用した。
【0155】
1.第1の実施例及び比較例
<電荷輸送性ポリマーの合成>
表1に示す電荷輸送性ポリマーは次の手順で合成した。表1に示すように、下記ブロモモノマー、下記ボロン酸モノマー、下記重合性モノマー、下記末端モノマーを組み合わせて各種ポリマーを合成した。三口丸底フラスコに、ボロン酸モノマー(4.0mmol)、ブロモモノマー(5.0mmol)、重合性モノマー(重合性モノマー100%の場合:2.0mmol、重合性モノマー50%の場合:1.0mmol)、末端モノマー(重合性モノマー100%の場合:0mmol、重合性モノマー50%の場合:1.0mmol)、及びアニソール(20mL)を加え、さらに、上記調製したPd触媒溶液(7.5mL)を加えた。30分撹拌した後、10%テトラエチルアンモニウム水酸化物水溶液(20mL)を追加した。この混合物を2時間、加熱・還流した。なお、ここまでの全ての操作は、窒素気流下で行った。また、すべての溶媒は、30分以上窒素バブルにより脱気した後に使用した。
【0156】
【0157】
【0158】
【0159】
【0160】
表1に示す全ての電荷輸送性ポリマーの精製は次の手順で行った。反応終了後、有機層を水洗し、有機層をメタノール-水(9:1)に注いだ。生じた沈殿をろ過により回収した。回収された固体を酢酸エチル中で攪拌し、ろ過して固体を回収する工程を3回繰り返して洗浄した。洗浄後の沈殿をトルエンに溶解し、メタノールから再沈殿した。得られた沈殿を十分に乾燥した後トルエンに溶解し、10%のポリマー溶液とした。この溶液に、ポリマーと同質量のスカベンジャ(Strem Chemicals社製「Triphenylphosphine, polymer-bound on styrene-divinylbenzene copolymer」)を加え、室温で5時間以上攪拌した。この後、孔径0.2μmのポリテトラフルオロエチレン製フィルタ(ディスミック25JP020AN)によりスカベンジャをろ別し、メタノールと混合して再沈殿した。ポリマーをろ過回収し、デシケータ中で真空乾燥して、低分子量成分を除去していない電荷輸送性ポリマーを得た。
【0161】
得られたポリマーの重量平均分子量Mw、数平均分子量Mnを、GPCにより測定して求めた。GPCの測定条件は、下記のとおりである。得られた値を、表2に示す。
装置:高速液体クロマトグラフ Prominence(株)島津製作所
送液ポンプ(LC-20AD)
脱気ユニット(DGU-20A)
オートサンプラ(SIL-20AHT)
カラムオーブン(CTO-20A)
PDA検出器(SPD-M20A)
示差屈折率検出器(RID-20A)
カラム:Gelpack(登録商標)
GL-A160S(製造番号:686-1J27)
GL-A150S(製造番号:685-1J27)日立化成(株)
溶離液:テトラヒドロフラン(THF)(HPLC用、安定剤含有)和光純薬工業(株)
流速:1mL/min
カラム温度:40℃
検出波長:254nm
分子量標準物質:標準ポリスチレンキットPStQuick A/B/C 東ソー(株)
【0162】
【0163】
【0164】
<有機EL素子の作製>
表3の比較例1~14、及び実施例1~32に示す有機EL素子を次の手順で作製した。ITOを1.6mm幅にパターンニングしたガラス基板上に、PEDOT:PSS分散液(シュタルク・ヴィテック社製、AI4083 LVW142)を、回転速度1500min-1でスピン塗布し、ホットプレート上で空気中、200℃/10分加熱乾燥して、正孔注入層(40nm)を形成した。以後の実験は乾燥窒素環境下で行った。
【0165】
表3に記載の電荷輸送性ポリマー(4.5mg)、下記イオン化合物1(0.13mg)、及びトルエン(1.2mL)を混合し、正孔輸送層形成用のインク組成物を調製した。このインク組成物を、上記得られた正孔注入層上に、回転速度3000min-1でスピンコートした後、ホットプレート上で120℃、10分間加熱して硬化させ、正孔輸送層(40nm)を形成した。
【0166】
【0167】
上記で得たガラス基板を、真空蒸着機中に移し、正孔輸送層上に、CBP:Ir(ppy)3(94:6、30nm)、BAlq(10nm)、Alq3(30nm)、LiF(0.8nm)、及びAl(100nm)をこの順に蒸着して成膜し、発光層、正孔ブロック層、電子輸送層、電子注入層、及び陰極を積層した。
【0168】
電極形成後、大気開放することなく、乾燥窒素環境中に上記積層ガラス基板を移し、これを、0.7mmの無アルカリガラスに0.4mmのザグリ加工を施した封止用ガラスと、光硬化性エポキシ樹脂を用いて貼り合わせることにより封止し、多層構造の高分子型有機EL素子を作製した。
【0169】
表3の比較例1~14、及び実施例1~32に示す有機EL素子に電圧を印加して、発光性能を評価した。その結果、いずれも緑色の発光が確認された。それぞれの素子について、発光輝度1000cd/m2時の駆動電圧と発光効率、及び初期輝度3000cd/m2における発光寿命(輝度半減時間)を測定した。測定結果を表3に示す。
【0170】
【0171】
2.第2の実施例及び比較例
<電荷輸送性ポリマーの合成>
表4に示す電荷輸送性ポリマーは次の手順で合成した。表4に示すように、下記ブロモモノマー、下記ボロン酸モノマー、下記重合性モノマー、下記末端モノマーを組み合わせて各種ポリマーを合成した。三口丸底フラスコに、ボロン酸モノマー(4.0mmol)、ブロモモノマー(5.0mmol)、重合性モノマー(重合性モノマー100%の場合:2.0mmol、重合性モノマー50%の場合:1.0mmol)、末端モノマー(重合性モノマー100%の場合:0mmol、重合性モノマー50%の場合:1.0mmol、重合性モノマー25%の場合:1.5mmol)、及びアニソール(20mL)を加え、さらに、上記調製したPd触媒溶液(7.5mL)を加えた。30分撹拌した後、10%テトラエチルアンモニウム水酸化物水溶液(20mL)を追加した。この混合物を2時間、加熱・還流した。なお、ここまでの全ての操作は、窒素気流下で行った。また、すべての溶媒は、30分以上窒素バブルにより脱気した後に使用した。
【0172】
【0173】
【0174】
【0175】
【0176】
表4に示す全ての電荷輸送性ポリマーの精製は次の手順で行った。反応終了後、有機層を水洗し、有機層をメタノール-水(9:1)に注いだ。生じた沈殿をろ過により回収した。回収された固体を酢酸エチル中で攪拌し、ろ過して固体を回収する工程を3回繰り返して洗浄した。洗浄後の沈殿をトルエンに溶解し、メタノールから再沈殿した。得られた沈殿を十分に乾燥した後トルエンに溶解し、10%のポリマー溶液とした。この溶液に、ポリマーと同質量のスカベンジャ(Strem Chemicals社製「Triphenylphosphine, polymer-bound on styrene-divinylbenzene copolymer」)を加え、室温で5時間以上攪拌した。この後、孔径0.2μmのポリテトラフルオロエチレン製フィルタ(ディスミック25JP020AN)によりスカベンジャをろ別し、メタノールと混合して再沈殿した。ポリマーをろ過回収し、デシケータ中で真空乾燥して、低分子量成分を除去していない電荷輸送性ポリマーを得た。
【0177】
得られたポリマーの重量平均分子量Mw、及び数平均分子量Mnを、GPCにより測定して求めた。GPCの測定条件は、上記の第1の実施例及び比較例に記載されたとおりである。得られた値を表5に示す。
【0178】
【0179】
【0180】
<有機EL素子の作製>
表6の比較例1a~14a、及び実施例1a~32aに示す有機EL素子を次の手順で作製した。
ITOを1.6mm幅にパターンニングしたガラス基板上に、PEDOT:PSS分散液(シュタルク・ヴィテック社製、AI4083 LVW142)を、回転速度1500min-1でスピン塗布し、ホットプレート上で空気中、200℃/10分加熱乾燥して、正孔注入層(40nm)を形成した。以後の実験は乾燥窒素環境下で行った。
【0181】
表6に記載の電荷輸送性ポリマー(4.5mg)、下記イオン化合物1(0.13mg)、及びトルエン(1.2mL)を混合し、正孔輸送層形成用のインク組成物を調製した。このインク組成物を、上記得られた正孔注入層上に、回転速度3000min-1でスピンコートした後、ホットプレート上で120℃、10分間加熱して硬化させ、正孔輸送層(40nm)を形成した。
【0182】
【0183】
上記で得たガラス基板を、真空蒸着機中に移し、正孔輸送層上に、CBP:Ir(ppy)3(94:6、30nm)、BAlq(10nm)、Alq3(30nm)、LiF(0.8nm)、及びAl(100nm)をこの順に蒸着して成膜し、発光層、正孔ブロック層、電子輸送層、電子注入層、及び陰極を積層した。
【0184】
電極形成後、大気開放することなく、乾燥窒素環境中に上記積層ガラス基板を移し、これを、0.7mmの無アルカリガラスに0.4mmのザグリ加工を施した封止用ガラスと、光硬化性エポキシ樹脂を用いて貼り合わせることにより封止し、多層構造の高分子型有機EL素子を作製した。
【0185】
表6の比較例1a~14a、及び実施例1a~32aに示す有機EL素子に電圧を印加して、発光性能を評価した。その結果、いずれも緑色の発光が確認された。それぞれの素子について、発光輝度1000cd/m2時の駆動電圧と発光効率、及び初期輝度3000cd/m2における発光寿命(輝度半減時間)を測定した。測定結果を表6に示す。
【0186】
【符号の説明】
【0187】
1 発光層
2 陽極
3 正孔注入層
4 陰極
5 電子注入層
6 正孔輸送層
7 電子輸送層
8 基板