(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-22
(45)【発行日】2022-03-30
(54)【発明の名称】水性塗料、塗膜付き基材およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C09D 127/12 20060101AFI20220323BHJP
C09D 5/02 20060101ALI20220323BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20220323BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20220323BHJP
B05D 7/00 20060101ALI20220323BHJP
B05D 5/00 20060101ALI20220323BHJP
B32B 37/14 20060101ALI20220323BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20220323BHJP
B32B 27/18 20060101ALI20220323BHJP
C09D 7/63 20180101ALI20220323BHJP
C09D 5/08 20060101ALI20220323BHJP
【FI】
C09D127/12
C09D5/02
C09D7/61
B05D7/24 302L
B05D7/24 302Y
B05D7/24 302F
B05D7/24 302P
B05D7/24 302U
B05D7/24 302T
B05D7/24 303B
B05D7/00 C
B05D7/00 L
B05D5/00 Z
B32B37/14 Z
B32B27/30 D
B32B27/18 Z
C09D7/63
C09D5/08
(21)【出願番号】P 2019527989
(86)(22)【出願日】2018-07-06
(86)【国際出願番号】 JP2018025745
(87)【国際公開番号】W WO2019009416
(87)【国際公開日】2019-01-10
【審査請求日】2021-02-09
(31)【優先権主張番号】P 2017133707
(32)【優先日】2017-07-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100168985
【氏名又は名称】蜂谷 浩久
(72)【発明者】
【氏名】尾知 修平
(72)【発明者】
【氏名】由上 栞
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 俊
【審査官】横山 敏志
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-088495(JP,A)
【文献】特開2002-121543(JP,A)
【文献】特開2005-113029(JP,A)
【文献】特表2005-508433(JP,A)
【文献】特開2006-336008(JP,A)
【文献】特開2007-262377(JP,A)
【文献】特表2010-524683(JP,A)
【文献】特開2016-138223(JP,A)
【文献】国際公開第2017/122700(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00-201/10
B05D 7/24
B05D 7/00
B05D 5/00
B32B 37/14
B32B 27/30
B32B 27/18
Japio-GPG/FX
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フルオロオレフィンに基づく単位および親水性基を有する単位を含む含フッ素重合体の粒子と、
下式1~3で表される群から選ばれる1種以上の加水分解性シランおよび下式4で表される加水分解性シラン、または下式1~3で表される群から選ばれる1種以上の加水分解性シランおよび下式4で表される加水分解性シランの縮合物と、
水と、を含むことを特徴とする水性塗料。
(式1) NH
2-Q
1-Z
1
(式2) NH
2-X
2-NH-Q
2-Z
2
(式3) NH(-Q
3-Z
3)
2
(式4) R
4-Q
4-Z
4
式中の記号は、以下の意味を示す。
Q
1、Q
2、Q
3およびQ
4は、それぞれ独立に、炭素数3~18のアルキレン基またはエーテル性酸素原子を含む炭素数3~18のアルキレン基である。X
2は、炭素数1~18のアルキレン基である。Z
1、Z
2、Z
3およびZ
4は、それぞれ独立に、加水分解性シリル基である。R
4は、水素原子、ビニル基、エポキシ基、メタクリロイルオキシ基、アクロイルオキシ基、ウレイド基、メルカプト基またはイソシアネート基である。
【請求項2】
前記R
4が、水素原子またはメタクリロイルオキシ基である、請求項1に記載の水性塗料。
【請求項3】
前記水性塗料中のケイ素原子に対するフッ素原子のモル比が1~300である、請求項1または2に記載の水性塗料。
【請求項4】
前記親水性基が、ヒドロキシ基、カルボキシ基またはアミノ基である、請求項1~3のいずれか1項に記載の水性塗料。
【請求項5】
前記式1~3で表される群から選ばれる1種以上の加水分解性シランおよび前記式4で表される加水分解性シラン、または前記加水分解性シランの縮合物を、前記含フッ素重合体の全質量に対して0.1~10質量%含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の水性塗料。
【請求項6】
前記R
4が水素原子であり、前記Q
4が炭素数4~10のアルキレン基である、請求項1~5のいずれか1項に記載の水性塗料。
【請求項7】
さらに、無機顔料を含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の水性塗料。
【請求項8】
前記無機顔料の全質量に対する、前記式1~3で表される群から選ばれる1種以上の加水分解性シランおよび前記式4で表される加水分解性シラン、または前記式1~3で表される群から選ばれる1種以上の加水分解性シランおよび前記式4で表される加水分解性シランの縮合物の質量比が、0.01~0.10である、請求項7に記載の水性塗料。
【請求項9】
前記無機顔料が、酸化チタン顔料である、請求項7または8に記載の水性塗料。
【請求項10】
前記無機顔料が、酸化チタン含有量80~95質量%の酸化チタン顔料である、請求項7~9のいずれか1項に記載の水性塗料。
【請求項11】
窯業建材の塗装に用いられる、請求項1~10のいずれか1項に記載の水性塗料。
【請求項12】
重防食塗料として用いられる、請求項1~10のいずれか1項に記載の水性塗料。
【請求項13】
基材の表面に、請求項1~12のいずれか1項に記載の水性塗料を塗布して塗布層を形成し、前記塗布層を乾燥させて塗膜を形成する、塗膜付き基材の製造方法。
【請求項14】
基材、および請求項1~12のいずれか1項に記載の水性塗料から前記基材上に形成された塗膜を有する塗膜付き基材であって、前記塗膜中の、前記塗膜の全質量に対するケイ素原子の含有量が0.01~10質量%であり、前記塗膜におけるケイ素原子に対するフッ素原子のモル比が1~300である、塗膜付き基材。
【請求項15】
前記塗膜の、JIS K 5600-5-4(2009)に従って計測される鉛筆硬度が、4B~Hである、請求項14に記載の塗膜付き基材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐候性に優れ、経時的な変色や光沢の低下が抑制された安定した塗膜表面を有する塗膜を形成できる水性塗料、塗膜付き基材の製造方法および塗膜付き基材に関する。
【背景技術】
【0002】
塗料分野において、環境保護の観点から、塗膜樹脂として含フッ素重合体を、塗料溶媒として水を含む、含フッ素重合体の粒子を含む水性塗料が急速に普及している(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記水性塗料では、粒子状に分散している含フッ素重合体のパッキングにより塗膜が形成されるため、含フッ素重合体の耐候性が発現せず塗膜の耐候性が低下する場合や、塗膜表面における経時的な変色や光沢が低下するなど塗膜表面の外観が安定しない場合があるという課題があった。
本発明者らは、特許文献1に記載の水性塗料から塗膜を形成した場合には、その塗膜の耐候性は未だ充分でなく、塗膜表面が変色したり、その光沢が低下したりすることを知見した。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、鋭意検討した結果、上記水性塗料に、特定の加水分解性シランを組み合わせて配合するか、またはそれらの縮合物を配合することにより、耐候性に優れ、塗膜表面の外観が安定した塗膜を形成できるのを見出した。
すなわち、本発明は、以下の態様を有するものである。
【0006】
[1]フルオロオレフィンに基づく単位および親水性基を有する単量体に基づく単位を含む含フッ素重合体の粒子と、下式1~3で表される群から選ばれる1種以上の加水分解性シランおよび下式4で表される加水分解性シラン、または下式1~3で表される群から選ばれる1種以上の加水分解性シランおよび下式4で表される加水分解性シランの縮合物と、水と、を含むことを特徴とする、水性塗料。
(式1) NH2-Q1-Z1
(式2) NH2-X2-NH-Q2-Z2
(式3) NH(-Q3-Z3)2
(式4) R4-Q4-Z4
式中の記号は、以下の意味を示す。
Q1、Q2、Q3およびQ4は、それぞれ独立に、炭素数3~18のアルキレン基またはエーテル性酸素原子を含む炭素数3~18のアルキレン基である。
X2は、炭素数1~18のアルキレン基である。
Z1、Z2、Z3およびZ4は、それぞれ独立に、加水分解性シリル基である。
R4は、水素原子、ビニル基、エポキシ基、メタクリロイルオキシ基、アクロイルオキシ基、ウレイド基、メルカプト基またはイソシアネート基である。
[2]前記R4が水素原子またはメタクリロイルオキシ基である[1]の水性塗料。
[3]前記水性塗料中のケイ素原子に対するフッ素原子のモル比が1~300である[1]または[2]の水性塗料。
[4]前記親水性基が、ヒドロキシ基、カルボキシ基またはアミノ基である[1]~[3]のいずれかの水性塗料。
[5]前記式1~3で表される群から選ばれる1種以上の加水分解性シランおよび前記式4で表される加水分解性シラン、または前記加水分解性シランの縮合物を、前記含フッ素重合体の全質量に対して0.1~10質量%含む[1]~[4]のいずれかの水性塗料。
[6]前記R4が水素原子であり、前記Q4が炭素数4~10のアルキレン基である[1]~[5]のいずれかの水性塗料。
[7]さらに、無機顔料を含む[1]~[6]のいずれかの水性塗料。
[8]前記無機顔料の全質量に対する、前記式1~3で表される群から選ばれる1種以上の加水分解性シランおよび前記式4で表される加水分解性シラン、または前記式1~3で表される群から選ばれる1種以上の加水分解性シランおよび前記式4で表される加水分解性シランの縮合物の質量比が0.01~0.10である[7]の水性塗料。
[9]前記無機顔料が、酸化チタン顔料である[7]または[8]の水性塗料。
[10]前記無機顔料が、酸化チタン含有量80~95質量%の酸化チタン顔料である[7]~[9]のいずれかの水性塗料。
[11]窯業建材の塗装に用いられる[1]~[10]のいずれかの水性塗料。
[12]重防食塗料として用いられる[1]~[10]のいずれかの水性塗料。
[13]基材の表面に、[1]~[12]のいずれかの水性塗料を塗布して塗布層を形成し、前記塗布層を乾燥させて塗膜を形成する、塗膜付き基材の製造方法。
[14]基材、および請求項1~12のいずれか1項に記載の水性塗料から前記基材上に形成された塗膜を有する塗膜付き基材であって、前記塗膜中の、前記塗膜の全質量に対するケイ素原子の含有量が0.01~10質量%であり、前記塗膜におけるケイ素原子に対するフッ素原子のモル比が1~300である、塗膜付き基材。
[15]前記塗膜の、JIS K 5600-5-4(2009)に従って計測される鉛筆硬度が、4B~Hである[14]の塗膜付き基材。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、耐候性に優れ、塗膜表面における経時的な変色や光沢の低下が抑制されている安定した塗膜表面を有する塗膜を形成できる水性塗料を提供できる。また、本発明によれば、耐候性に優れ、塗膜表面における経時的な変色や光沢の低下が抑制されている安定した塗膜表面を有する塗膜付き基材を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明における用語の意味は以下の通りである。
「単位」とは、単量体の重合により直接形成された、上記単量体1分子に基づく原子団と、上記原子団の一部を化学変換して得られる原子団との総称である。重合体が含む全単位に対する、それぞれの単位の含有量(モル%)は、含フッ素重合体の製造に際して使用する成分の仕込み量から決定できる。
「加水分解性シラン」とは、加水分解反応してシラノール基(-Si-OH基)を形成し得る基である加水分解性シリル基を有する化合物を意味する。加水分解性シリル基とは、例えば、アルコキシシリル基である。
「数平均分子量」は、ポリスチレンを標準物質としてゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定される値である。「数平均分子量」は「Mn」ともいう。
「酸価」および「水酸基価」は、それぞれ、JIS K 0070-3(1992)の方法に準じて測定される値である。
【0009】
「最低造膜温度」は、含フッ素重合体を乾燥させたとき、亀裂のない均一な塗膜が形成される最低の温度である。本発明では、造膜温度測定装置IMC-1535型(井元製作所社製)を用いて測定される値である。
粒子の「平均粒子径」は、動的光散乱法により求められるD50の値である。なお、D50は、動的光散乱法により求めた粒子の粒度分布(実施例では、ELS-8000(大塚電子社製)を使用)において、小さな粒子側から起算した体積累計50体積%の粒子直径を表す。
固形分の質量とは、塗料が溶媒を含む場合に、塗料から溶媒を除去した質量である。なお、溶媒以外の塗料の固形分を構成する成分に関して、その性状が液体状であっても、固形分とみなす。なお、塗料の固形分の質量は、塗料を130℃で20分加熱した後に残存する質量として求められる。
【0010】
本発明の水性塗料は、後述する含フッ素重合体と、後述する式1~3で表される群から選ばれる1種以上の加水分解性シラン(以下、アミノシランともいう。)および後述する式4で表される加水分解性シラン(以下、特定シランともいう。)またはそれらの縮合物と、水と、を含む。本発明の水性塗料において、含フッ素重合体の粒子および変性(メタ)アクリル重合体の粒子は、溶媒である水中に溶解または分散している。
本明細書において、アミノシランおよび特定シラン、またはそれらの縮合物を、総称してシラン化合物ともいう。本発明の水性塗料がシラン化合物を含むとは、アミノシランと特定シランとを含む態様、アミノシランおよび特定シランの縮合物を含む態様、ならびに、アミノシランと、特定シランと、アミノシランおよび特定シランの縮合物とを含む態様のいずれをも指す。
【0011】
本発明の水性塗料は、耐候性に優れ、変色や光沢低下が抑制された安定した表面を有する塗膜を形成できる。この理由は、必ずしも明確ではないが、次のように考えられる。
含フッ素重合体は疎水性が高く、水性塗料中における含フッ素重合体の粒子の分散安定性と均一性は低い。そのため、含フッ素重合体の粒子のパッキングにより形成される水性塗料の塗膜は不均一になりやすく、変色や光沢低下が起きやすいと考えられる。
ここで、本発明者らは、含フッ素重合体を含む水性塗料に、さらにアミノシランと特定シランとを組み合せて配合すれば、その塗膜の耐候性が優れ、塗膜表面の安定性が向上することを知見した。
【0012】
上記した優れた水性塗料が得られるその理由は必ずしも明確ではないが、以下の様に考えられる。本発明におけるシラン化合物は、水とも含フッ素重合体とも親和性を有している。したがって、上記シラン化合物は、塗膜形成時の含フッ素重合体の粒子のパッキングにおいて、含フッ素重合体の近傍に存在するために、塗膜の均一性を向上させると考えられる。その結果、本発明の水性塗料から形成される塗膜は、耐候性に優れ、変色や光沢低下が抑制されると考えられる。
【0013】
本発明における含フッ素重合体は、フルオロオレフィンに基づく単位(以下、「単位F」ともいう。)と、親水性基を有する単位(以下、単位1ともいう。)とを含む。
フルオロオレフィンは、水素原子の1以上がフッ素原子で置換されたオレフィンである。フルオロオレフィンは、フッ素原子で置換されていない水素原子の1以上が塩素原子で置換されていてもよい。
【0014】
フルオロオレフィンとしては、CF2=CF2、CF2=CFCl、CF2=CHF、CH2=CF2、CF2=CFCF3、CF3-CH=CHF、CF3-CF=CH2等が挙げられる。フルオロオレフィンは、本発明の水性塗料から形成されてなる塗膜(以下、本塗膜ともいう。)の耐候性の観点から、CF2=CF2またはCF2=CFClがより好ましく、CF2=CFClが特に好ましい。フルオロオレフィンは、2種以上を併用してもよい。
【0015】
単位Fの含有量は、含フッ素重合体の分散安定性と、本塗膜の耐候性の観点から、含フッ素重合体が含む全単位に対して、20~70モル%が好ましく、30~60モル%がより好ましく、45~55モル%が特に好ましい。
【0016】
単位1は、親水性基を有する単量体に基づく単位であってもよく、単位1を含む含フッ素重合体の親水性基を、異なる親水性基に変換させて得られる単位であってもよい。このような単位としては、ヒドロキシ基を有する単位を含む含フッ素重合体に、ポリカルボン酸またはその酸無水物等を反応させて、ヒドロキシ基の一部または全部をカルボキシ基に変換させて得られる単位が挙げられる。なお、単位1は、フッ素原子を有さない。
単位1が有する親水性基としては、ヒドロキシ基、カルボキシ基またはアミノ基が好ましく、含フッ素重合体とシラン化合物との親和性の観点から、ヒドロキシ基またはカルボキシ基が特に好ましい。
【0017】
ヒドロキシ基を有する単量体としては、アリルアルコール、またはヒドロキシ基を有する、ビニルエーテル、ビニルエステル、アリルエーテル、アリルエステル、(メタ)アクリル酸エステル等が挙げられる。ヒドロキシ基を有する単量体としては、アリルアルコールまたは式X1-Z1で表される単量体が好ましい。
X1は、CH2=CHC(O)O-、CH2=C(CH3)C(O)O-、CH2=CHOC(O)-、CH2=CHCH2OC(O)-、CH2=CHO-またはCH2=CHCH2O-であり、CH2=CHO-またはCH2=CHCH2O-であることが好ましい。
Z1は、ヒドロキシ基を有する炭素数2~42の1価の有機基である。該有機基は、直鎖状でもよく、分岐鎖状でもよい。また、該有機基は、環構造からなっていてもよく、環構造を含んでいてもよい。
上記有機基としては、水酸基を有する炭素数2~6のアルキル基、水酸基を有する炭素数6~8のシクロアルキレン基を含むアルキル基、または水酸基を有するポリオキシアルキレン基が好ましい。
【0018】
ヒドロキシ基を有する単量体の2種以上を併用する場合、少なくとも1種は、含フッ素重合体とシラン化合物との親和性の観点から、ヒドロキシ基を有するポリオキシアルキレン基を有する単量体であることが好ましい。つまり、この場合において、単位Cは、ヒドロキシ基を有するポリオキシアルキレン基を有する単量体に基づく単位を含むのが好ましい。単位Cに対する、ヒドロキシ基を有するポリオキシアルキレン基を有する単量体に基づく単位の比(ヒドロキシ基を有するポリオキシアルキレン基を有する単量体に基づく単位/単位C)は、モル比で0.01~1.0が好ましく、0.03~0.50であることがより好ましい。
【0019】
ヒドロキシ基を有する単量体の具体例としては、CH2=CHCH2OH、CH2=CHOCH2-cycloC6H10-CH2OH、CH2=CHCH2OCH2-cycloC6H10-CH2OH、CH2=CHOCH2CH2OH、CH2=CHCH2OCH2CH2OH、CH2=CHOCH2CH2CH2CH2OH、CH2=CHCH2OCH2CH2CH2CH2OH、CH2=CHOCH2-cycloC6H10-CH2(OCH2CH2)10OH、CH2=CHOCH2-cycloC6H10-CH2(OCH2CH2)15OH、CH2=CHCOOCH2CH2OH、CH2=C(CH3)COOCH2CH2OHが挙げられる。なお、「-cycloC6H10-」はシクロへキシレン基を表し、「-cycloC6H10-」の結合部位は、通常1,4-である。
【0020】
カルボキシ基を有する単量体としては、不飽和カルボン酸、(メタ)アクリル酸等が挙げられる。カルボキシ基を有する単量体は、式X2-Z2で表される単量体が好ましい。
X2は、CH2=CH-、CH(CH3)=CH-またはCH2=C(CH3)-であり、CH2=CH-またはCH(CH3)=CH-であることが好ましい。
Z2は、カルボキシ基またはカルボキシ基を有する炭素数1~12の1価の飽和炭化水素基であり、カルボキシ基または炭素数1~10のカルボキシアルキル基が好ましい。
カルボキシ基を有する単量体の具体例としては、CH(CH3)=CHCOOH、CH2=CHCOOH、CH2=C(CH3)COOH、式CH2=CH(CH2)n21COOHで表される化合物(n21は1~10の整数である。中でも、CH2=CHCH2COOH、CH2=CH(CH2)8COOHが好ましい。)が挙げられる。
【0021】
単位1の含有量は、含フッ素重合体とシラン化合物との親和性の観点から、含フッ素重合体が含む全単位に対して、0.1~35モル%が好ましく、1~20モル%がより好ましい。
単量体1は、2種以上を併用してもよい。
【0022】
単位1が有する親水性基は、架橋性基であってもよい。
親水性基がヒドロキシ基である場合、本発明の水性塗料は、本塗膜の耐候性の点から、硬化剤としてイソシアネート系硬化剤(イソシアネート基を2以上有する化合物)を含むのが好ましい。
親水性基がカルボキシ基である場合、本発明の水性塗料は、本塗膜の耐候性の点から、硬化剤としてカルボジイミド系硬化剤(カルボジイミド基を2以上有する化合物)、アミン系硬化剤(アミノ基を2以上有する化合物)、オキサゾリン系硬化剤(オキサゾリン基を2以上有する化合物)またはエポキシ系硬化剤(エポキシ基基を2以上有する化合物)を含むのが好ましい。
【0023】
本発明における含フッ素重合体は、単位Fおよび単位1以外の単位(以下、単位2ともいう。)をさらに含んでもよい。
単位2は、単位Fおよび単位1以外の単量体(以下、単量体2ともいう。)に基づく単位である。単量体2としては、親水性基およびフッ素原子を有さない、ビニルエーテル、ビニルエステル、アリルエーテル、アリルエステル、(メタ)アクリル酸エステル等が挙げられる。
【0024】
単量体2としては、アルキル基を有する、ビニルエーテル、ビニルエステル、アリルエーテル、アリルエステル、(メタ)アクリル酸エステルからなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。本塗膜の変色がより抑制される観点から、アルキルビニルエーテルおよびアルキルビニルエステルの一方または両方が特に好ましい。上記アルキル基の炭素数は、本発明の水性塗料が無機顔料を含む場合の、無機顔料の分散性に優れる観点から、1~12がより好ましく、1~8が特に好ましい。
【0025】
アルキル基を有する単量体のアルキル基は、直鎖状であってもよく、分岐鎖状であってもよい。なお、ここにおいて、アルキル基は、環構造を含まない基を意味する。
アルキル基を有する単量体のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、2-エチルヘキシル基、ネオノニル基またはネオデカニル基が挙げられる。アルキル基を有する単量体のアルキル基としては、本発明の水性塗料の貯蔵安定性に優れる観点から、炭素数1~4の直鎖状のアルキル基が好ましい。
【0026】
単量体2の具体例としては、エチルビニルエーテル、tert-ブチルビニルエーテル、2-エチルヘキシルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル、酢酸ビニル、ピバル酸ビニルエステル、ネオノナン酸ビニルエステル(HEXION社商品名「ベオバ9」。)、ネオデカン酸ビニルエステル(HEXION社商品名「ベオバ10」。)、安息香酸ビニルエステルtert-ブチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレートが挙げられる。単量体2は、2種以上を併用してもよい。
【0027】
含フッ素重合体が単位2を含む場合、単位2の含有量は、単位Fおよび単位1との反応性の観点から、含フッ素重合体が含む全単位に対して、0モル%超60モル%以下が好ましく、5~40モル%が特に好ましい。また、含フッ素重合体が、炭素数1~4の直鎖状のアルキル基を有する単位2を含む場合、含フッ素重合体が含む全単位に対する、炭素数1~4の直鎖状のアルキル基を有する単位2の含有量は、本発明の水性塗料の貯蔵安定性に優れる観点から、0モル%超60モル%以下が好ましく、20~40モル%が特に好ましい。
【0028】
含フッ素重合体は、本塗膜の造膜性の観点から、含フッ素重合体が含む全単位に対して、単位Fの含有量、単位1の含有量、単位2の含有量が、この順に、20~70モル%、0.1~35モル%、0~60モル%であるのが好ましい。
【0029】
本発明における含フッ素重合体が水酸基価を有する場合、水酸基価は、1~80mgKOH/gが好ましく、5~70mgKOH/gがより好ましく、15~60mgKOH/gが特に好ましい。
含フッ素重合体が酸価を有する場合、酸価は、1~80mgKOH/gが好ましく、5~70mgKOH/gがより好ましく、15~60mgKOH/gが特に好ましい。
水酸基価および酸価が上記範囲内にあれば、本発明の水性塗料が無機顔料を含む場合等に、含フッ素重合体と無機顔料とが好適に配置され、本塗膜の耐候性がより向上する。
【0030】
含フッ素重合体の最低造膜温度は、本塗膜を密にする観点から、0~60℃が好ましく、10~40℃がより好ましく、20~35℃がさらに好ましい。
【0031】
含フッ素重合体の製造方法としては、水と重合開始剤の存在下、フルオロオレフィンと単量体1を重合させる方法が挙げられる。含フッ素重合体の製造方法における重合法の具体例としては、乳化重合法が挙げられる。乳化重合法により、水中に含フッ素重合体が粒子状に分散している水性分散液が得られる。
重合においては、必要に応じて、界面活性剤、分子量調整剤(ドデシルメルカプタン、ブチルメルカプタン等)、pH調整剤等を添加してもよい。
【0032】
含フッ素重合体は、水中において粒子状に分散している。含フッ素重合体の粒子の平均粒子径は、本塗膜の耐水性の観点から、200nm以下が好ましく、190nm以下がより好ましく、185nm以下が特に好ましい。上記平均粒子径は、通常50nm以上である。
本発明の水性塗料における含フッ素重合体の含有量は、本塗膜の耐候性の観点から、水性塗料の全質量に対して10~90質量%が好ましく、20~80質量%がより好ましい。
【0033】
本発明におけるアミノシランは、下式1~3で表される群から選ばれる1種以上の加水分解性シランである。
(式1) NH2-Q1-Z1
(式2) NH2-X2-NH-Q2-Z2
(式3) NH(-Q3-Z3)2
【0034】
式中の記号は、以下の意味を示す。
Q1、Q2およびQ3は、それぞれ独立に、炭素数3~18のアルキレン基またはエーテル性酸素原子を含む炭素数3~18のアルキレン基であり、炭素数3~18のアルキレン基が好ましい。X2は、炭素数1~18のアルキレン基であり、炭素数2~12のアルキレン基が好ましい。
Z1、Z2、およびZ3は、それぞれ独立に、加水分解性シリル基であり、トリアルコキシシリル基が好ましく、トリメトキシシリル基またはトリエトキシシリル基が特に好ましい。
【0035】
アミノシランの具体例としては、ビス(トリエトキシシリルプロピル)アミン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシランが挙げられる。
アミノシランは、2種以上を併用してもよい。
【0036】
本発明の水性塗料は、含フッ素重合体が有する親水性基との親和性、特に、本発明の水性塗料が無機顔料を含む場合には、無機顔料との親和性の観点から、シラン化合物の100質量部に対して、アミノシランの10~90質量部を含むのが好ましく、20~80質量部を含むのが特に好ましい。
【0037】
本発明における特定シランは、下式4で表される加水分解性シランである。
(式4) R4-Q4-Z4
式中の記号は、以下の意味を示す。
Q4は、炭素数3~18のアルキレン基またはエーテル性酸素原子を含む炭素数3~18のアルキレン基であり、炭素数3~18のアルキレン基であるのが好ましい。
Z4は、加水分解性シリル基であり、トリアルコキシシリル基であるのが好ましく、トリメトキシシリル基またはトリエトキシシリル基であるのが特に好ましい。
R4は、水素原子、ビニル基、エポキシ基、メタクリロイルオキシ基、アクロイルオキシ基、ウレイド基、メルカプト基またはイソシアネート基であり、水素原子またはメタクリロイルオキシ基であるのが好ましく、水素原子であるのが特に好ましい。
【0038】
本発明における特定シランは、アルキルアルコキシシランまたはメタクロイルオキシアルキルアルコキシシランが好ましく、本塗膜の変色が抑制される観点から、アルキルアルコキシシランが特に好ましい。
【0039】
アルキルアルコキシシランは、モノアルキルトリアルコキシシラン、ジアルキルジアルコキシシランまたはトリアルキルモノアルコキシシランが好ましい。特に、本発明の水性塗料が無機顔料を含む場合に、無機顔料の表面を高度に被覆して無機顔料の疎水性を制御できる観点から、モノアルキルトリアルコキシシランが特に好ましい。
アルキルアルコキシシランにおけるアルコキシ基は、炭素数1~3のアルコキシ基が好ましく、メトキシ基またはエトキシ基が特に好ましい。
アルキルアルコキシシランにおけるアルキル基は、本塗膜の変色が抑制される観点から、炭素数3~18のアルキル基であり、炭素数3~12のアルキル基が好ましく、炭素数4~10のアルキル基がさらに好ましく、炭素数4~5のアルキル基が特に好ましい。
アルキルアルコキシシランの具体例としては、メチルトリエトキシシラン、n-プロピルトリメトキシシラン、イソブチルトリメトキシシラン、オクチルトリメトキシシラン、ヘキサデシルトリメトキシシランが挙げられる。
【0040】
メタクロイルオキシアルキルアルコキシシランは、特に、本発明の水性塗料が無機顔料を含む場合に、無機顔料の表面を高度に被覆して無機顔料の疎水性を制御できる観点から、モノメタクロイルオキシアルキルアルコキシシランが好ましい。
メタクロイルオキシアルキルアルコキシシランにおけるアルコキシ基は、炭素数1~3のアルコキシ基が好ましく、メトキシ基またはエトキシ基が特に好ましい。
メタクロイルオキシアルキルアルコキシシランの具体例としては、3-メタクロイルオキシプロピルジメトキシシラン、3-メタクロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクロイルオキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-メタクロイルオキシプロピルトリエトキシシランが挙げられる。
【0041】
特定シランの他の具体例としては、3-グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン等のエポキシ基を有するアルコキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン等のメルカプト基を有するアルコキシシラン、3-ウレイドプロピルトリエトキシシラン等のウレイド基を有するアルコキシシラン、3-イソシアナトプロピルトリエトキシシラン等のイソシアネート基を有するアルコキシシラン等が挙げられる。特定シランは、2種以上を併用してもよい。
【0042】
本発明の水性塗料中の、ケイ素原子に対するフッ素原子の比(以下、F/Si比ともいう。)は、1~300が好ましく、10~100がより好ましく、15~70が特に好ましい。水性塗料中のF/Siが上記範囲内にあれば、含フッ素重合体と、アミノシランおよび特定シラン、またはそれらの縮合物が、好適に相互作用する。なお、この効果は、本発明の水性塗料が無機顔料を含む場合に、特に顕著である。
なお、本発明の水性塗料中のF/Si比は、水性塗料中に含まれるケイ素原子を有する化合物のケイ素原子の総モル量に対する、水性塗料中に含まれる含フッ素重合体が有するフッ素原子の総モル量の比である。
【0043】
また、本発明の水性塗料において、シラン化合物の総含有量は、含フッ素重合体との親和性の観点から、含フッ素重合体の全質量に対して、0.01~50質量%が好ましく、0.1~30質量%がより好ましく、1~20質量%が特に好ましい。
【0044】
本発明の水性塗料は、無機顔料を含むのが好ましい。この場合、本塗膜の意匠性が向上するとともに、有機顔料等を含む場合と比較して防食性が向上し、窯業建材に用いられる塗料および重防食塗料として好適である。
【0045】
本発明の効果は、特に、本発明の水性塗料が無機顔料を含む場合に、さらに顕著であることを、本発明者らは知見している。
つまり、含フッ素重合体および無機顔料を含む水性塗料は、無機顔料から化学的な作用を受けて劣化する場合がある。たとえば、太陽光や紫外線により、無機顔料が活性化されたり酸化されたりする場合、その際に発生する活性種によって、含フッ素重合体が劣化する場合がある。こうした劣化現象は、塗膜中に無機顔料が偏在する場合に進行しやすく、その結果、塗膜が白亜化し、塗膜表面が劣化する。
【0046】
一方、本発明におけるシラン化合物は、ともに無機顔料と親和性が高く、かつ、炭素数3~18のエーテル性酸素原子を含んでいてもよいアルキレン基を有している。そのため、本発明の水性塗料において、シラン化合物は、無機顔料の表面に高密度に配置された状態にあると考えられる。特に、シラン化合物の中でも、特定シランが有するアルキレン基(R4が水素原子である場合には、アルキル基)によって、無機顔料の表面が被覆されると考えられる。さらに、無機顔料の表面に高密度に配置されたアミノシランのアミノ基は、最表面(水側)に配置しており、水性塗料中における無機顔料の分散安定性を向上させるだけでなく、含フッ素重合体の親水性基とも親和して、含フッ素重合体と無機顔料との親和性を向上させているとも考えられる。その結果、本発明の水性塗料から形成される塗膜は、無機顔料が偏在することなく均一に分散しているともに、含フッ素重合体との親和性も良好であるため、塗膜表面における無機顔料の露出が少なく、塗膜の白亜化に伴う塗膜表面の劣化が抑制されると考えられる。
つまり、水性塗料には意匠性を備えるために無機顔料が含まれる場合が多いが、本発明によれば、無機顔料を含む場合であっても、高度な意匠性および耐候性を長期間維持できる塗膜を形成できる水性塗料を提供することもできる。
上記効果は、無機顔料が、光触媒活性を有する顔料である酸化チタン顔料である場合に、特に顕著である。
【0047】
無機顔料としては、光輝顔料、防錆顔料、着色顔料、体質顔料等が挙げられる。
光輝顔料は、塗膜に光輝性を付与する顔料であり、アルミニウム粉、ニッケル粉、ステンレス粉、銅粉、ブロンズ粉、金粉、銀粉、雲母粉、グラファイト粉、ガラスフレークまたは鱗片状酸化鉄粉が好ましい。
防錆顔料は、基材に防錆性を付与する顔料であり、無鉛防錆顔料が好ましく、シアナミド亜鉛、酸化亜鉛、リン酸亜鉛、リン酸カルシウムマグネシウム、モリブデン酸亜鉛またはホウ酸バリウムが好ましい。
着色顔料は、塗膜を着色するための顔料であり、酸化チタンおよび酸化鉄が好ましい。
体質顔料は、塗膜の硬度を向上させ、かつ、塗膜の膜厚を増すための顔料であり、タルク、硫酸バリウムまたはマイカ等が好ましい。
無機顔料は、2種以上を併用してもよい。
【0048】
無機顔料は、意匠性の観点から、酸化チタン顔料が好ましく、耐候性の観点から、酸化チタン含有量80~95質量%の酸化チタン顔料がより好ましい。具体的には、酸化チタン顔料は、シリカ、アルミナ、ジルコニア、セレンまたはポリオールにより表面処理されている酸化チタン顔料が好ましく、表面処理により、酸化チタン含有量が80~95質量%に調整されている酸化チタン顔料が特に好ましい。
酸化チタン顔料の酸化チタン含有量が上記範囲内であれば、本塗膜の意匠性および耐候性に優れるとともに、酸化チタン顔料の表面にシラン化合物を配置させやすい。
【0049】
本発明の水性塗料が無機顔料を含む場合の無機顔料の含有量は、本塗膜の意匠性および含フッ素重合体との相互作用の観点から、含フッ素重合体の全質量に対して、0.01~90質量%が好ましく、0.1~80質量%がより好ましく、1~70質量%がさらに好ましく、30~60質量%が特に好ましい。
【0050】
本発明の水性塗料が無機顔料を含む場合の、無機顔料の全質量に対するシラン化合物の質量の比(シラン化合物の質量/無機顔料の質量)は、0.001~1.0が好ましく、0.01~0.10が特に好ましい。上記比が上記範囲にあれば、シラン化合物が無機顔料の表面を好適に被覆することができ、本塗膜の耐候性がより良好であり、および本塗膜表面の経時的な変色や光沢の低下をより抑制できる。
【0051】
本発明の水性塗料における水は、含フッ素重合体等の各成分を分散させる分散媒である。分散媒は、水のみからなるか、水と水溶性有機溶媒とからなる混合溶媒が好ましい。後者の場合、水溶性有機溶媒の含有量は、水の全質量に対して、5質量%以下が好ましく、1質量%以下がより好ましく、0.5質量%以下が特に好ましい。水溶性有機溶媒の具体例としては、メタノール、エタノール、ブタノール、アセトン、メチルエチルケトンが挙げられる。
【0052】
本発明の水性塗料は、必要に応じて、種々の添加剤を含んでもよい。
添加剤の具体例としては、本発明の含フッ素重合体以外の重合体(本発明の含フッ素重合体以外の含フッ素重合体、ポリエステル、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリウレタン等)、本発明のシラン化合物以外のシラン化合物(シリカゾル等)、界面活性剤、硬化剤、有機顔料、分散剤、消泡剤、造膜助剤、レベリング剤、増粘剤、硬化助剤、光安定剤、紫外線吸収剤、表面調整剤、低汚染化剤が挙げられる。
なお、本発明の水性塗料が、本発明のシラン化合物以外のシラン化合物を含む場合、上記シラン化合物は、上記シラン化合物のみで縮合していてもよく、本発明のアミノシランおよび特定シランと縮合していてもよく、本発明のアミノシランおよび特定シランのうちどちらか一方と縮合していてもよい。
【0053】
本発明の水性塗料は、上述した通り、本塗膜の耐候性の観点から、含フッ素重合体の親水性基と反応し得る基を2以上有する化合物である硬化剤を含むのが好ましい。また、本塗膜の耐候性の観点から、本発明の水性塗料は、紫外線吸収剤を含むのが好ましい。
【0054】
本発明の水性塗料の製造方法としては、以下の方法が挙げられる。
まず、水と重合開始剤の存在下、フルオロオレフィンおよび単量体1を重合して、含フッ素重合体を含む水性分散液を得る。上記水性分散液水中に含フッ素重合体が粒子状に分散している水性分散液と、アミノシラン、特定シランおよび無機顔料を混合して、本発明の水性塗料を得る。
【0055】
本発明の水性塗料は、基材の表面に直接塗布してもよく、表面処理(下地処理等)された基材の表面に塗布してもよい。本塗膜の厚みは、本塗膜の耐久性の観点から、25~100μmが好ましく、30~80μmがより好ましい。
【0056】
基材の材質の具体例としては、非金属材料(樹脂、ゴム、木材等の有機質材料、コンクリート、ガラス、セラミックス、石材等の無機質材料等)、金属材料(鉄、鉄合金、アルミニウム、アルミニウム合金等)が挙げられる。
本発明の水性塗料の塗布方法の具体例としては、刷毛、ローラー、ディッピング、スプレー、ロールコーター、ダイコーター、アプリケーター、スピンコーター等の塗布装置を使用する方法が挙げられる。
本塗膜は、水性塗料を塗布して塗布層を形成し、得られた塗布層を乾燥させて形成するのが好ましい。塗布後の乾燥温度は、0~50℃が好ましい。本塗膜は、塗布層を形成して乾燥させたのち、必要に応じて加熱硬化させて形成してもよい。加熱硬化温度としては、50~200℃が好ましい。乾燥時間は通常30分~2週間であり、加熱硬化時間は通常1分~24時間である。
【0057】
上記製造方法で得られた塗膜付き基材は、基材と、上記基材の表面上に配置された本発明の水性塗料から形成されてなる塗膜とを有する。上記塗膜付き基材は、耐候性に優れ、経時的な塗膜劣化が抑制されるため、長期的な耐候性を求められる窯業建材や重防食用途に用いられる基材として有用である。特に上記塗膜付き基材が無機顔料を含む場合には、耐候性とともに高度な意匠性を求められる窯業建材および重防食用途に用いられる基材としても有用である。本発明の水性塗料は、窯業建材の塗装に用いられる塗料または重防食塗料として、特に有用である。
【0058】
本発明によれば、基材と、基材の表面上に配置された、シラン化合物を含む塗膜を有する塗膜付き基材であって、上記塗膜の全質量に対するケイ素原子の含有量が0.01~10質量%であり、上記塗膜におけるケイ素原子に対するフッ素原子のモル比が1~300である、塗膜付き基材が提供される。
【0059】
なお、塗膜中のケイ素原子の含有量は、塗膜の全質量に対するケイ素原子の含有量(質量%)であり、塗膜を形成する塗料の固形分の質量に対する、塗料が含むケイ素原子の含有量(質量%)として求めることもできる。塗膜中のケイ素原子の含有量は、塗膜または塗料に含ませるシラン化合物の種類および質量によって調節できる。
また、塗膜における、ケイ素原子に対するフッ素原子のモル比とは、上述した水性塗料中におけるF/Si比と同義である。
【0060】
本塗膜の表面における、ケイ素原子に対するフッ素原子のモル比は、上記F/Si比よりも大きいことが好ましい。本塗膜の表面における、ケイ素原子に対するフッ素原子のモル比は、走査電子顕微鏡による用いたエネルギー分散型X線分光法にて塗膜表面を分析して求められる、ケイ素原子に由来するX線強度に対するフッ素原子に由来するX線強度の比(以下、FX/SiX比ともいう。)である。FX/SiX比は、塗膜中に含ませる含フッ素重合体およびシラン化合物の種類、および質量等によって調節できる。
本塗膜が無機顔料を含み、かつFX/SiX比がF/Si比よりも大きい場合、本塗膜表面における無機顔料の露出が少ない。したがって、本塗膜は耐候性に優れ、経時的な変色や光沢の低下が抑制された安定した塗膜表面を有する。
【0061】
本塗膜中のケイ素原子の含有量は、本塗膜の非粘着性が向上する観点から、0.01~10質量%が好ましく、0.1~1質量%がより好ましい。
【0062】
本塗膜の、JIS K 5600-5-4(2009)に従って計測される鉛筆硬度は、塗膜付き基材の加工性の観点から、4B~Hであり、3B~Hが好ましく、2B~Bがより好ましい。
【0063】
本発明の塗膜付き基材は、含フッ素重合体と加水分解性シランまたは加水分解性シランの縮合物とを含む塗膜を有しており、上記塗膜に含まれるケイ素原子の量と、上記塗膜表面のフッ素原子とケイ素原子の量とが所定の範囲に調製されているため、耐候性と塗膜表面の安定性に優れる。特に、塗膜に無機顔料が含まれる場合には、塗膜中の無機顔料の分散が良好であり、耐候性および意匠性の長期安定性に優れる。
【実施例】
【0064】
以下、例を挙げて本発明を詳細に説明する。ただし本発明はこれらの例に限定されない。なお、後述する表中における各成分の配合量は、質量基準を示す。また、例1~4および6は実施例であり、例5は比較例である。
【0065】
<含フッ素重合体の製造に使用した成分の略称>
CF2=CFCl:CTFE
シクロヘキサンジメタノールモノビニルエーテル:CHMVE
CH2=CHOCH2-cycloC6H10-CH2(OCH2CH2)15OH:CM-15EOVE
エチルビニルエーテル:EVE
2-エチルヘキシルビニルエーテル:2-EHVE
シクロヘキシルビニルエーテル:CHVE
界面活性剤1:DKS NL-100(ポリオキシエチレンアルキルエーテル、第一工業製薬社商品名)
界面活性剤2:SLS(ラウリル硫酸ナトリウム)
【0066】
<加水分解性シラン>
シラン化合物1:3-アミノプロピルトリアルコキシシランおよびイソブチルトリアルコキシシランの等量の混合物(3-アミノプロピルトリアルコキシシランおよびイソブチルトリアルコキシシランの縮合物を含む)
シラン化合物2:N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシランおよびヘキシルトリメトキシシランの等量の混合物
シラン化合物3:N-2-(アミノエチル)-8-アミノオクチルトリエトキシシランおよびデシルトリメトキシシランの等量の混合物
シラン化合物4:γ-アミノプロピルトリメトキシシランおよびγ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシランの等量の混合物
【0067】
<無機顔料>
無機顔料:D-918(堺化学社商品名、酸化チタン含有量85%の酸化チタン顔料)
<添加剤>
分散剤:BYK-190(ビックケミージャパン社商品名)
消泡剤:デヒドラン1620(サンノプコ社商品名)
造膜助剤: テキサノール(イーストマンケミカルズ社商品名)
レベリング剤:BYK-348(ビックケミージャパン社商品名)
増粘剤:ACRYSOL TT-935(ダウケミカル社商品名)
【0068】
[含フッ素重合体1の製造例]
オートクレーブ内に、CTFE(466g)、CHMVE(150g)、CM-15EOVE(20g)、2-EHVE(184g)、CHVE(242g)、イオン交換水(930g)、炭酸カリウム(1.40g)、DKS NL-100(47g)、およびSLS(0.93g)を撹拌下で導入して昇温し、50℃に保持した。
次いで、オートクレーブ内に、過硫酸アンモニウムの0.4質量%水溶液(50mL)を連続的に添加しながら24時間重合した後、オートクレーブ内溶液をろ過し、含フッ素重合体1の粒子を含む水性分散液(含フッ素重合体1の濃度50質量%)を得た。
含フッ素重合体1の水酸基価は47mgKOH/gであり、最低造膜温度は32℃であり、含フッ素重合1体の粒子の平均粒子径は173nmであった。
なお、含フッ素重合体が含む全単位に対する、CTFEに基づく単位、CHMVEに基づく単位、CM-EOVEに基づく単位、2-EHVEに基づく単位、CHVEに基づく単位の含有量は、この順に50モル%、11モル%、0.3モル%、14.7モル%、24モル%であった。
【0069】
[含フッ素重合体2の製造例]
含フッ素重合体1の製造例で用いた単量体の種類と量を、CTFE(532g)、EVE(249g)、2-EHVE(143g)、CHMVE(31g)、CM-15EOVE(19gに変更した以外は同様にして、含フッ素重合体2の粒子を含む水性分散液2(含フッ素重合体2の濃度50質量%)を得た。
含フッ素重合体1の水酸基価は12mgKOH/gであり、最低造膜温度は26℃であり、含フッ素重合1体の粒子の平均粒子径は150nmであった。
含フッ素重合体2が含む全単位に対する、CTFEに基づく単位、EVEに基づく単位、2-EHVEに基づく単位、CHMVEに基づく単位、CM-EOVEに基づく単位の含有量は、この順に50モル%、37.75モル%、10モル%、2モル%、0.25モル%であった。
【0070】
[顔料分散液の製造例]
無機顔料(72g)、分散剤(5g)、消泡剤(0.5g)、イオン交換水(22.5g)、およびガラスビーズ(100g)を混合し、ロッキングミルを用いて分散し、その後ガラスビーズを濾過して、顔料分散液を調製した。
【0071】
[水性塗料の製造例]
表1に記載の水性塗料の成分である、水性分散液、シラン化合物1、造膜助剤、レベリング剤、増粘剤、上記顔料分散剤およびイオン交換水を、それぞれ、表1に示される量にて混合してそれぞれ水性塗料1~6を得た。
【0072】
[塗膜付き基材の製造例]
縦120mm、横60mm、厚さ15mmのスレート板の表面に、ミラクシーラーエコ(エスケー化研社商品名)を塗布し、25℃で24時間乾燥させて、乾燥膜厚20μmの下塗り膜を有するスレート板を得た。
次いで、上記下塗り膜の表面に、各水性塗料をガラス棒にて塗布し、室温で14日間乾燥させて、各水性塗料から形成されてなる塗膜(乾燥膜厚40μm)を有するスレート板をそれぞれ得た。得られた塗膜付きスレート板をそれぞれ試験片1~6として、後述の評価に供した。
【0073】
[評価]
上記それぞれの各水性塗料および各試験片を、以下の評価法に供して、その塗膜性能を評価した。結果を表1にまとめて示す。
【0074】
(水性塗料の貯蔵安定性)
各水性塗料を、それぞれガラス瓶に入れ、密封して50℃にて2ヶ月静置した。2ヶ月後の水性塗料の色を目視で評価した。
A:変色(黄化)が見られない。
B:わずかに変色(黄化)している。
C:変色(黄化)している。
【0075】
(塗膜の耐候性)
試験片について、下記の試験条件下、JIS K 5600-7-7(方法1)に準拠し、キセノンウェザーメーターを用いてキセノンアーク放射を行い、暴露試験を行った。ただし、試験片に対して、水の代わりに1質量%過酸化水素水を噴霧した。
<試験条件>
相対湿度:70%RH、
ブラックパネル温度:50℃、
キセノンアーク放射の放射照度:80W/m2(300~400nm)、
1質量%過酸化水素水の噴霧および乾燥:噴霧時間3分-乾燥時間2分のサイクル。
【0076】
<塗膜の光沢保持率>
キセノンアーク放射直前の塗膜の60°光沢度の値を100%としたときの、キセノンアーク放射80時間後の塗膜の60°光沢度の値の割合を光沢保持率(単位:%)として、経時的な塗膜表面の劣化による光沢の変化の度合いを評価した。光沢保持率は、JIS K 5600-4-7:1999(ISO 2813:1994)に準拠して測定し、算出した。
S:光沢保持率60%以上。
A:光沢保持率50%以上60%未満。
B:光沢保持率40%以上50%未満。
C:光沢保持率40%以下。
【0077】
<塗膜の変色>
キセノンアーク放射直前の塗膜の表面の測色の測定と、キセノンアーク放射40時間後の含フッ素塗膜の表面の測色の測定とを、色差計(日本電色工業社製、SA4000)を用いて行った。測定は、JIS K 5600-4-5:1999に準拠した。そして、JIS K 5600-4-6:1999に準拠して、放射前後の色差(ΔE)を算出し、経時的な塗膜表面の劣化による変色度合を評価した。
S:ΔE値1.3未満。
A:ΔE値1.3以上1.5未満。
B:ΔE値1.5以上2.7未満。
C:ΔE値2.7以上。
【0078】
(塗膜の硬度)
JIS K5600-5-4(2009)に従って試験片の塗膜の鉛筆硬度を評価した。
【0079】
(塗膜の表面分析)
試験片の塗膜表面を、走査電子顕微鏡を用いたエネルギー分散型X線分光法にて、以下の測定条件に従って定量分析し、ケイ素原子に由来するX線強度に対する、フッ素原子に由来するX線強度の比を求め、塗膜表面におけるケイ素原子に対するフッ素原子のモル比(FX/SiX比)に換算した。得られたFX/SiX比を、塗膜におけるF/Si比と比較したところ、いずれもF/Si比よりも大きかった。
<測定条件>
試験機:日本電子社製「JSM-5900LV」
加速電圧:20kV、倍率:1000倍
測定前処理:EOL社製オートファインコーター「JFC-1300」による、20mA、45秒の白金コート
【0080】
【0081】
なお、2017年7月7日に出願された日本特許出願2017-133707号の明細書、特許請求の範囲及び要約書の全内容をここに引用し、本発明の明細書の開示として、取り入れるものである。