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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-22
(45)【発行日】2022-03-30
(54)【発明の名称】R-T-B系焼結磁石
(51)【国際特許分類】
   H01F 1/057 20060101AFI20220323BHJP
   B22F 3/00 20210101ALI20220323BHJP
   C21D 6/00 20060101ALI20220323BHJP
   C22C 28/00 20060101ALI20220323BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20220323BHJP
【FI】
H01F1/057 170
B22F3/00 F
C21D6/00 B
C22C28/00 A
C22C38/00 303D
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2022503838
(86)(22)【出願日】2021-09-17
(86)【国際出願番号】 JP2021034362
【審査請求日】2022-01-19
(31)【優先権主張番号】P 2020158819
(32)【優先日】2020-09-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101683
【弁理士】
【氏名又は名称】奥田 誠司
(74)【代理人】
【識別番号】100155000
【弁理士】
【氏名又は名称】喜多 修市
(72)【発明者】
【氏名】國吉 太
【審査官】後藤 嘉宏
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/065481(WO,A1)
【文献】特開2019-208013(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 1/057
B22F 3/00
C21D 6/00
C22C 28/00
C22C 38/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
R-T-B系焼結磁石(Rは希土類元素うちの少なくとも2種であり、Ndを必ず含み、TbおよびDyの少なくとも一方を必ず含む。TはFeまたはFeとCoであり、Bは硼素である)であって、R14B化合物からなる主相と、前記主相の粒界部分に位置する粒界相とを含み、
Ndの含有量(mass%)を[Nd]、
Prの含有量(mass%)を[Pr]、
Ceの含有量(mass%)を[Ce]
Dyの含有量(mass%)を[Dy]、
Tbの含有量(mass%)を[Tb]、
Oの含有量(mass%)を[O]、
Cの含有量(mass%)を[C]とするとき、
R-T-B系焼結磁石におけるTに対するBの原子数比率は、R14B化合物の化学量論組成におけるTに対するBの原子数比率よりも低く、
26.0mass%≦([Nd]+[Pr]+[Ce]+[Dy]+[Tb])-(9×[O]+12×[C])≦27.5mass%、
0.15mass%≦[O]≦0.30mass%、および、
0.05mass%<[Tb]≦0.35mass%、
の関係を満たし、
磁石表面から磁石内部に向かってTb濃度およびDy濃度の少なくとも一方が漸減する部分を含む、R-T-B系焼結磁石。
【請求項2】
残留磁束密度(B)が1.43T以上、保磁力(HcJ)が1900kA/m以上である、請求項1に記載のR-T-B系焼結磁石。
【請求項3】
Bの含有量(mass%)を[B]とするとき、0.90mass%≦[B]≦0.97mass%である、請求項1または2に記載のR-T-B系焼結磁石。
【請求項4】
0.05mass%≦[C]≦0.18mass%であり、かつ、[C]<[O]である、請求項1から3のいずれか1項に記載のR-T-B系焼結磁石。
【請求項5】
前記磁石表面から前記磁石内部に向かってPr濃度が漸減する部分を含む、請求項1から4のいずれか1項に記載のR-T-B系焼結磁石。
【請求項6】
前記磁石表面から前記磁石内部に向かってM(Mは、Ga、Cu、ZnおよびSiからなる群から選択された少なくとも一種)濃度が漸減する部分を含む、請求項1から5のいずれか1項に記載のR-T-B系焼結磁石。
【請求項7】
0.05mass%<[Tb]≦0.30mass%である、請求項1から6のいずれか1項に記載のR-T-B系焼結磁石。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はR-T-B系焼結磁石に関する。
【背景技術】
【0002】
R-T-B系焼結磁石(Rは希土類元素うちの少なくとも1種であり、TはFeまたはFeとCoであり、Bは硼素である)は、永久磁石の中で最も高性能な磁石として知られており、ハードディスクドライブのボイスコイルモータ(VCM)、電気自動車など(EV、HV、PHVなど)のトラクションモータ、および産業機器用モータなどの各種モータ、家電製品などに使用されている。
【0003】
R-T-B系焼結磁石は、主としてR14B化合物からなる主相と、この主相の粒界部分に位置する粒界相とから構成されている。主相であるR14B化合物は高い飽和磁化と異方性磁界を持つ強磁性材料であり、R-T-B系焼結磁石の特性を左右する。
【0004】
R-T-B系焼結磁石は、高温で保磁力HcJ(以下、単に「HcJ」という)が低下するため不可逆熱減磁が起こるという問題がある。そのため、特に電気自動車用モータに使用されるR-T-B系焼結磁石では、高温下でも高いHcJを有する、すなわち室温においてより高いHcJを有することが要求されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2007/102391号
【文献】国際公開第2018/143230号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
14B型化合物中の軽希土類元素RL(主にNd、Pr)を重希土類元素RH(主にTb、Dy)で置換すると、HcJが向上することが知られている。しかし、HcJが向上する一方、R14B型化合物相の飽和磁化が低下するために残留磁束密度B(以下、単に「B」という)が低下してしまうという問題がある。また、特にTbは、もともと資源量が少ないうえ産出地が限定されている等の理由から、供給が不安定であり、価格変動するなどの問題を有している。そのため、Tbをできるだけ使用せず(使用量をできるだけ少なくして)、Bの低下を抑制しつつ、高いHcJを得ることが求められ
ている。
【0007】
特許文献1には、R-T-B系合金の焼結磁石の表面に重希土類元素RHを供給しつつ、重希土類元素RHを焼結磁石の内部に拡散させることが記載されている。特許文献1に記載の方法は、R-T-B系焼結磁石の表面から内部に重希土類元素RHを拡散させてHcJ向上に効果的な主相結晶粒の外殻部に重希土類元素RHを濃化させることにより、Bの低下を抑制しつつ、高いHcJを得ることができる。
【0008】
特許文献2には、R-T-B系焼結体の表面から粒界を通じて磁石内部に重希土類元素RHと共に軽希土類元素RLおよびGaを拡散させることが記載されている。特許文献2に記載の方法により、重希土類元素RHの磁石内部への拡散を促進させることができ、重希土類元素RHの使用量を低減しつつ、極めて高いHcJを得ることが可能になる。
【0009】
近年特に電気自動車用モータなどにおいて重希土類元素RH、その中でも特にTbの使用量を低減しつつ、更に高いBと高いHcJを得ることが求められている。
【0010】
本開示の様々な実施形態は、Tbの使用量を低減しつつ、高いBと高いHcJを有するR-T-B系焼結磁石の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本開示のR-T-B系焼結磁石は、非限定的で例示的な実施形態において、R-T-B系焼結磁石(Rは希土類元素うちの少なくとも2種であり、Ndを必ず含み、TbおよびDyの少なくとも一方を必ず含む。TはFeまたはFeとCoであり、Bは硼素である)であって、R14B化合物からなる主相と、前記主相の粒界部分に位置する粒界相とを含む。Ndの含有量(mass%)を[Nd]、Prの含有量(mass%)を[Pr]、Ceの含有量(mass%)を[Ce]、Dyの含有量(mass%)を[Dy]、Tbの含有量(mass%)を[Tb]、Oの含有量(mass%)を[O]、Cの含有量(mass%)を[C]とするとき、R-T-B系焼結磁石におけるTに対するBの原子数比率はは、R14B化合物の化学量論組成におけるTに対するBの原子数比率よりも低く、26.0mass%≦([Nd]+[Pr]+[Ce]+[Dy]+[Tb])-(9×[O]+12×[C])≦27.5mass%、0.15mass%≦[O]≦0.30mass%、および、0.05mass%<[Tb]≦0.35mass%の関係を満たす。また、磁石表面から磁石内部に向かってTb濃度およびDy濃度の少なくとも一方が漸減する部分を含む。
【0012】
ある実施形態において、残留磁束密度(B)が1.43T以上、保磁力(HcJ)が1900kA/m以上である。
【0013】
ある実施形態において、Bの含有量(mass%)を[B]とするとき、0.90mass%≦[B]≦0.97mass%である。
【0014】
ある実施形態において、0.05mass%≦[C]≦0.18mass%であり、かつ、[C]<[O]である。
【0015】
ある実施形態において、前記磁石表面から前記磁石内部に向かってPr濃度が漸減する部分を含む。
【0016】
ある実施形態において、前記磁石表面から前記磁石内部に向かってM(Mは、Ga、Cu、ZnおよびSiからなる群から選択された少なくとも一種)濃度が漸減する部分を含む。
【0017】
ある実施形態において、0.05mass%<[Tb]≦0.30mass%である。
【発明の効果】
【0018】
本開示の実施形態によれば、Tbなどの重希土類元素RHの使用量を低減しつつ、高いBと高いHcJを有するR-T-B系焼結磁石の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1A】R-T-B系焼結磁石の一部を拡大して模式的に示す断面図である。
図1B図1Aの破線矩形領域内を更に拡大して模式的に示す断面図である。
図2A】本開示の実施形態におけるR-T-B系焼結磁石100を模式的に示す斜視図である。
図2B】R-T-B系焼結磁石100において、磁石表面から磁石内部に向かってTb濃度およびDy濃度の少なくとも一方が漸減する部分の一例を示すグラフである。
図3】本開示の実施形態におけるR-T-B系焼結磁石の製造方法の工程例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
まず、本開示によるR-T-B系焼結磁石の基本構造を説明する。R-T-B系焼結磁石は、原料合金の粉末粒子が焼結によって結合した構造を有しており、主としてR14B化合物粒子からなる主相と、この主相の粒界部分に位置する粒界相とから構成されている。
【0021】
図1Aは、R-T-B系焼結磁石の一部を拡大して模試的に示す断面図であり、図1B図1Aの破線矩形領域内を更に拡大して模式的に示す断面図である。図1Aには、一例として長さ5μmの矢印が大きさを示す基準の長さとして参考のために記載されている。図1Aおよび図1Bに示されるように、R-T-B系焼結磁石は、主としてR14B化合物からなる主相12と、主相12の粒界部分に位置する粒界相14とから構成されている。また、粒界相14は、図1Bに示されるように、2つのR14B化合物粒子(グレイン)が隣接する二粒子粒界相14aと、3つのR14B化合物粒子が隣接する粒界三重点14bとを含む。典型的な主相結晶粒径は磁石断面の円相当径の平均値で3μm以上10μm以下である。主相12であるR14B化合物は高い飽和磁化と異方性磁界を持つ強磁性材料である。したがって、R-T-B系焼結磁石では、主相12であるR14B化合物の存在比率を高めることによってBを向上させることができる。R14B化合物の存在比率を高めるためには、原料合金中のR量、T量、B量を、R14B化合物の化学量論比(R量:T量:B量=2:14:1)に近づければよい。
【0022】
しかしながら、R-T-B系焼結磁石には、粒界相14も存在するため、原料合金中のR、T、Bは主相12だけではなく、粒界相14の形成にも消費される。粒界相14は、焼結工程中に溶融し、主相12であるR14B化合物を相互に物理的に結合する働きを示す。このため、従来、粒界相14は、溶融する温度が比較的低い希土類リッチ(Rリッチ)の組成となるように設計されてきた。具体的には、R量がR14B化合物の化学量論比よりも多くなるように原料合金中の組成を設定し、それによって余剰のRを粒界相の形成に用いることが行われてきた。一方、粒界相14の構成、具体的には粒界相14に含まれる物質の種類および量が、HcJの大きさに影響を与えることも知られている。
【0023】
前述したように、特許文献2に開示されている方法では、R-T-B系焼結体の表面から粒界を通じて磁石内部に重希土類元素RH(例えばTb)と共に軽希土類元素RL(特にPr)およびGaを拡散させる。粒界に拡散されたPrおよびGaがTbなどの重希土類元素RHの磁石内部への拡散を促進し、極めて高いHcJが実現される。しかし、本発明者による検討の結果、PrおよびGaを磁石内部へ拡散させると、二粒子粒界相が厚くなり、その結果として、主相の体積比率が低下してBの低下を招いてしまう場合のあることがわかった。また、Tbの拡散を大幅に進行させて高いHcJを得るためにはPrおよびGaの拡散が有効であるが、二粒子粒界相が厚くなりすぎないように、PrおよびGaの拡散量は必要最小限にするべきことが分かった。
【0024】
また、R-T-B系焼結磁石に含有されるTに対するBの原子数比率(B/T)が、R14B化合物の化学量論組成におけるTに対するBの原子数比率よりも低いか否かに応じて、粒界相の構成(粒界に存在し得る鉄基化合物または希土類化合物などの物質の種類および濃度)が変化することがわかった。
【0025】
本発明者は、R-T-B系焼結磁石に含有されるTに対するBの原子数比率(B/T)がR14B化合物の化学量論組成におけるTに対するBの原子数比率である1/14よりもよりも低い場合に、PrおよびGaの粒界拡散による磁石特性改善の効果が高まることを見出した。すなわち、B/Tの原子数比率が1/14よりも低い場合、PrおよびGaの粒界拡散が促進される。なお、R14B化合物において、Bの一部が炭素(C)によって置換されていても、同様の効果が得られる。また、Gaに代えて、あるいは、Gaに加えて、Cu、Znおよび/またはSiをPrとともに拡散しても、Tb、Dyなどの重希土類元素の比較的少ない量の拡散によって磁石特性を改善できることもわかった。以下、Ga、Cu、Zn、およびSiからなる群から選択された1種以上の金属を総称して金属元素Mと称する場合がある。
【0026】
このように、重希土類元素RHとともに、Prおよび金属元素MをR-T-B系焼結体の表面から内部へ拡散させる場合において、B/Tの原子数比率は粒界拡散の挙動を調整して磁石特性を改善するための重要なパラメータのひとつである。以下、B/Tの原子数比率が1/14よりも低いR-T-B系焼結体およびR-T-B系焼結磁石を、それぞれ、「低ボロンR-T-B系焼結体」および「低ボロンR-T-B系焼結磁石」と呼ぶ場合がある。なお、本開示においては、拡散前および拡散中のR-T-B系焼結磁石を「R1-T-B系焼結体」と称し、拡散後のR-T-B系焼結磁石を単に「R-T-B系焼結磁石」と称することとする。
【0027】
本発明者の更なる検討の結果、主相であるR14B化合物中のBと置換していたCが、焼結工程により、粒界中の希土類酸化物と結合し、粒界中に希土類酸素炭素化合物(R-O-C化合物)を生成することがわかった。また、この場合の原子比が、R:(C,O)=1:1である点も分かった。このようなR-O-C化合物が粒界に生成されると、その分、主相であるR14B化合物を構成するCの含有量が低下する。前述したように、R14B化合物におけるBの一部がCによって置換されていても、「低ボロン」による効果が得られる。したがって、主相であるR14B化合物を構成するCの含有量が低下することは、BおよびCの総量が実効的に減少する。また、粒界にR-O-C化合物が形成されることは、原料合金に含まれる希土類元素Rの一部がR-O-C化合物の生成に消費されることを意味する。なお、R-O-C化合物は、R-O化合物(希土類酸化物)およびR-C化合物(希土類炭化物)を含むものとする。
【0028】
以上のことから本発明者は、低ボロンR-T-B系焼結体の表面から内部へGaなどの金属元素MとPrと同時にTbおよび/またはDyを拡散する場合、拡散による磁石特性改善効果を最適化するには、粒界の厚さや構成を制御する必要があり、そのためにはR、O、およびCの含有量が適切な関係を満足する必要があると想定した。そして、検討の結果、Ndの含有量(mass%)を[Nd]、Prの含有量(mass%)を[Pr]、Ceの含有量(mass%)を[Ce]Dyの含有量(mass%)を[Dy]、Tbの含有量(mass%)を[Tb]、Oの含有量(mass%)を[O]、Cの含有量(mass%)を[C]とするとき、25.8mass%≦([Nd]+[Pr]+[Ce]+[Dy]+[Tb])-(9×[O]+12×[C])≦27.3の範囲に調整したR1-T-B系焼結体に対して、Tbと共にPrとMを拡散させると、PrおよびMが磁石内部に過剰に拡散されず、かつ、Tbの拡散を大幅に進行させることができることを見出した。これにより得られたR-T-B系焼結磁石は、R-T-B系焼結磁石におけるTに対するBの原子数比率は、R14B化合物の化学量論組成におけるTに対するBの原子数比率よりも低く、
26.0mass%≦([Nd]+[Pr]+[Ce]+[Dy]+[Tb])-(9×[O]+12×[C])≦27.5mass%、
0.15mass%≦[O]≦0.30mass%、および、
0.05mass%<[Tb]≦0.35mass%、の関係を満足する。
【0029】
以下、本開示の実施形態におけるR-T-B系焼結磁石を詳細に説明する。
【0030】
<R-T-B系焼結磁石>
本開示のR-T-B系焼結磁石は、R14B化合物からなる主相と、主相の粒界部分に位置する粒界相とを含む。このR-T-B系焼結磁石は、磁石表面から磁石内部に向かってTb濃度およびDy濃度の少なくとも一方が漸減する部分を含む。磁石表面から磁石内部にTb濃度およびDy濃度の少なくとも一方が漸減する部分は、TbおよびDyの少なくとも一方が磁石表面から磁石内部に拡散されることによって形成される。この点の詳細は、後述する。
【0031】
本実施形態のR-T-B系焼結磁石におけるNdの含有量(mass%)を[Nd]、Prの含有量(mass%)を[Pr]、Ceの含有量(mass%)を[Ce]、Dyの含有量(mass%)を[Dy]、Tbの含有量(mass%)を[Tb]、Tの含有量(mass%)を[T]、Bの含有量(mass%)を[B]、Oの含有量(mass%)を[O]、Cの含有量(mass%)を[C]とする。これらの含有量は、特に下限値を規定しない場合、0mass%、あるいは測定限界以下の大きさであってもよい。言い換えると、本実施形態のR-T-B系焼結磁石は、例えばCeやDyを含有していなくてもよい。
【0032】
前述したように、本実施形態のR-T-B系焼結磁石において、Tに対するBの原子数比率は、R14B化合物の化学量論組成におけるTに対するBの原子数比率よりも低い。このことを原子数比率ではなく、質量比率(mass%の比率)で表現すると、下記式(1)で表される(TがFeベースであるため、Feの原子数を用いた)。
[T]/55.85>14×[B]/10.8 (1)
【0033】
本実施形態のR-T-B系焼結磁石において、酸素含有量の範囲は、0.15mass%≦[O]≦0.30mass%によって規定される。このような大きさの酸素含有量は、原料合金の粗粉砕粉(水素粉砕)や微粉砕紛作製時における酸化条件を制御することによって実現され得る。この点については、後述する。
【0034】
本実施形態のR-T-B系焼結磁石では、下記式(2)が成立する。
26.0mass%≦([Nd]+[Pr]+[Ce]+[Dy]+[Tb])-(9×[O]+12×[C])≦27.5mass% (2)
【0035】
すなわち、本実施形態では、R-T-B系焼結体中の軽希土類元素RL(Ndを必ず含み、Prおよび/またはCeを含んでいてもよい)ならびに重希土類元素RH(Tbおよび/またはDy)、OおよびCの含有量が調整され、それによって、上記式(2)が満足されている。なお、Cの含有量は、粉砕や成形時に添加される潤滑剤の添加量により調整され得る。好ましくは、式2は、26.0mass%以上27.2mass%以下である。よりTb量を低く抑えつつも、高いB及びHcJを得ることが出来る。
【0036】
上記式(2)は、R-T-B系焼結磁石における軽希土類元素RLと重希土類元素RHのうち、Oと結合したり、Cと結合したりして粒界相に取り込まれる元素を除いた実効的な希土類含有量の範囲を表している。R-T-B系焼結磁石に含有される希土類元素のうちの主たる成分はNdである。このため、Nd、Pr、Ce、Dy、Tbの代表としてNdを選び、OおよびCのそれぞれとの結合に消費される希土類元素の重量比を見積もることができる。Nd、OおよびCの原子量は、それぞれ、約144、16、12である。このため、1.0massの[O]との結合によって144/16=9.0massの[Nd]が消費される。同様に、1.0massの[C]との結合によって144/12=12.0massの[Nd]が消費される。このことから、上記式(2)は、希土類元素(Nd、Pr、Ce、Dy、Tb)のうち、OまたはCとの結合に消費される希土類元素を除外した残りの希土類元素の量を近似的に示している。
【0037】
本開示において、([Nd]+[Pr]+[Ce]+[Dy]+[Tb])-(9×[O]+12×[C])をR´量と呼ぶ場合がある。上記式(2)は、R´量が26.0mass%以上27.5mass%以下の範囲にあることを規定している。R´量が26.0mass%未満であると、Tb、Pr、Mが磁石表面から内部に供給されにくくなり、HcJが低下する可能性があることがわかった。また、R´量が27.5mass%を超えると、重希土類元素RHなどが磁石表面から磁石内部に過剰に拡散されてBが低下する可能性があることもわかった。この範囲にあるとき、より高いBと高いHcJを有することができる。なお、軽希土類元素RL(Ndを必ず含み、Prおよび/またはCeを含んでいてもよい)の含有量は、希土類元素R全体のうちの90mass%以上である。軽希土類元素RLの含有量が希土類元素R全体の含有量の90mass%未満であると、Bが低下する可能性がある。
【0038】
本実施形態のR-T-B系焼結磁石におけるTbの含有量は、0.05mass%<[Tb]≦0.35mass%である。酸素含有量を上記の範囲内に調整したうえで、上記式(2)を満足するように軽希土類元素RLの含有量を制御した結果、Gaなどの金属元素MおよびPrを磁石内部に過剰に拡散させることなく、Tbの拡散を促進し、比較的少ないTb含有量でも、目的とする優れた磁石特性が達成される。
【0039】
こうして得られるR-T-B系焼結磁石は、残留磁束密度(B)が1.43T以上、保磁力(HcJ)が1900kA/m以上でありながら、Tb含有量が0.35mass%以下(好ましくはTbの含有量が0.30mass%以下、より好ましくは、0.25mass%以下)であり、Tbの使用量を低減しつつ、極めて高いBと高いHcJを有することができる。
【0040】
R-T-B系焼結磁石における、BおよびHcJの磁気特性は、磁石全体の磁気特性を意味しており、例えば、B-Hトレーサにより測定することができる。磁石が大きく、磁石全体の磁気特性を測定することができない場合は、例えば、磁石の角部(端部)を7mm角(7mm×7mm×7mm)程度に加工してB-Hトレーサにより測定してもよい。さらに、磁石が小さい場合は、複数の磁石を重ね合わせて7mm角程度とし、B-Hトレーサにより測定してもよい。また、前記Tb含有量、前記RLの含有量および前記酸素の含有量は、磁石全体の組成(平均組成)を示しており、Tb及びRLの含有量は、磁石全体を例えば、高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP-OES)を使用して測定することができる。また、酸素含有量は、例えば、ガス融解-赤外線吸収法によるガス分析装置を使用して測定することができる。
【0041】
本実施形態におけるR-T-B系焼結磁石は、Tbおよび/またはDyが磁石表面から磁石内部に向かって拡散されているため、その結果として、磁石表面から磁石内部に向かってTb濃度およびDy濃度の少なくとも一方が漸減する部分を含む。
【0042】
図2Aは、本実施形態におけるR-T-B系焼結磁石100を模式的に示す斜視図である。図2Bは、R-T-B系焼結磁石100において、磁石表面から磁石内部に向かってTb濃度およびDy濃度の少なくとも一方が漸減する部分の一例を示すグラフである。図2Aには、参考のため、互いに直交するX軸、Y軸、およびZ軸が示されている。
【0043】
図2Aに示される例において、R-T-B系焼結磁石100は、磁石表面の一部に相当する上面100Tおよび下面100Bと、側面100Sとを有している。このR-T-B系焼結磁石100のZ軸方向におけるサイズは、厚さtである。図2Bのグラフにおいて、縦軸は、R-T-B系焼結磁石100の上面Tからの深さ(Z)であり、横軸は、Tb濃度およびDy濃度の少なくとも一方の濃度(D)である。この例において、TbがR-T-B系焼結磁石100の上面100Tおよび下面100Bのそれぞれが磁石内部に拡散されている。その結果、図2Bに示されるように、磁石表面から磁石内部にTb濃度およびDy濃度の少なくとも一方が漸減する部分が、磁石中心から見て上面100Tの側と下面100Bの側の両方に存在している。
【0044】
磁石表面から磁石内部にTb濃度およびDy濃度の少なくとも一方が漸減する部分をR-T-B系焼結磁石が含むことの意義を説明する。前述したように、磁石表面から磁石内部にTb濃度およびDy濃度の少なくとも一方が漸減する部分をR-T-B系焼結磁石が含むということは、TbおよびDyの少なくとも一方が磁石表面から磁石内部に拡散された状態にあることを意味している。この状態は、例えば、R-T-B系焼結磁石の任意の断面における磁石表面から磁石中央付近までをエネルギー分散型X線分光方法(EDX)により線分析(ライン分析)することにより確認することができる。
【0045】
TbおよびDyの濃度は、測定部位のサイズが例えばサブミクロン程度である場合、測定部位が主相結晶粒(R14B化合物粒子)および粒界のいずれに位置するかによって異なり得る。また、測定部位が粒界に位置している場合、粒界に形成され得るTbまたはDyを含む化合物の種類および分布に応じて、TbまたはDyの濃度は局所的または微視的に変化し得る。しかし、TbおよびDyが磁石表面から磁石内部に拡散された場合、これらの元素の、磁石表面からの深さが等しい位置における濃度平均値は、磁石表面から磁石内部に向かって徐々に低下していくことは明らかである。本開示では、少なくともR-T-B系焼結磁石の磁石表面から200μmの深さまでの領域において、深さをパラメータとする関数として測定されるTbおよびDyの濃度平均値の少なくとも一方が深さの増加とともに低下していれば、このR-T-B系焼結磁石は、Tb濃度およびDy濃度の少なくとも一方が漸減する部分を含むと定義する。
【0046】
本実施形態のR-T-B系焼結磁石は、製造工程時において、Tb、Dyなどの重希土類元素RHだけではなく、好ましくは、Prが磁石表面から磁石内部に向かって拡散される。このため、好ましい実施形態において、R-T-B系焼結磁石は、Pr濃度が漸減する部分を含む。また、好ましい実施形態では、Tb、Dyなどの重希土類元素RHおよびPrとともに、Gaなどの金属元素M(Mは、Ga、Cu、ZnおよびSiからなる群から選択された少なくとも一種)が磁石表面から磁石内部に向かって拡散される。このため、更に好ましい実施形態において、R-T-B系焼結磁石は、磁石表面から磁石内部に向かって元素M(Mは、Ga、Cu、ZnおよびSiからなる群から選択された少なくとも一種)の濃度が漸減する部分を含む。
【0047】
磁石表面から磁石内部にTb、Pr、Ga、または金属元素Mの濃度が漸減する部分を含むということは、これらの元素が磁石表面から磁石内部に拡散された状態にあることを意味している。「磁石表面から磁石内部に所定元素の濃度が漸減する部分を含む」か否かは、例えば、R-T-B系焼結磁石の任意の断面における磁石表面から磁石中央付近までをエネルギー分散型X線分光方法(EDX)により線分析(ライン分析)することにより確認することができる。これらの所定元素の濃度は、測定部位が主相結晶粒(R14B化合物粒子)や粒界であったり、拡散前のR-T-B系焼結磁石体や拡散時に生じるTb、Pr、Ga、および金属元素Mを含む化合物の種類や有無により局所的には上下したりする場合がある。しかしながら、全体的な濃度はそれぞれ磁石内部に行くに従って漸減して(徐々に濃度が低くなって)いく。よって所定元素の局所的に濃度が下がったり、上がったりしていたとしても、本開示の「磁石表面から磁石内部に所定元素の濃度が漸減する部分を含む」に該当するものと認められる。
【0048】
本実施形態におけるR-T-B系焼結磁石は、例えば、下記の組成を有し得る。
R:26.8mass%以上31.5mass%以下(Rは、希土類元素のうち少なくとも一種であり、Tbおよび軽希土類元素RLを含有し、軽希土類元素RLの含有量は、R全体の90mass%以上である)、
B:0.90mass%以上0.97mass%以下、
M:0.05mass%以上1.0mass%以下(Mは、Ga、Cu、ZnおよびSiからなる群から選択された少なくとも一種である)、
M1:0mass%以上2.0mass%以下(M1は、Al、Ti、V、Cr、Mn、Ni,Zr、Nb、Mo、Ag、In、Sn、Hf、Ta、W、Pb、およびBiからなる群から選択された少なくとも1種)
残部T(TはFe又はFeとCo)、および不可避的不純物からなる。
【0049】
Rは、軽希土類元素RLとして、Nd以外に、La、Ce、Pr、Pm、Sm、Euなどを含んでもよい。一般には、不可避的不純物としてO(酸素)、N(窒素)、C(炭素)などが含有されるが、本開示の実施形態では、特にOおよびCの挙動に着目し、その含有量と所定の希土類元素の含有量との関係を規定することにより、高いBとHcJを達成することに成功している。
【0050】
<R-T-B系焼結磁石の製造方法>
以下、本開示のR-T-B系焼結磁石の製造方法の実施形態を説明する。
【0051】
本実施形態における製造方法は、図3に示されるように、R1-T-B系焼結体を準備する工程S10と、R2-M合金を準備する工程S20と、第一の熱処理を実施する工程S30と、第二の熱処理を実施する工程S40と、を含み得る。工程S30は、R1-T-B系焼結体表面の少なくとも一部にR2-M合金の少なくとも一部を接触させ、真空又は不活性ガス雰囲気中、700℃以上950℃以下の温度で第一の熱処理を実施することにより、R2およびMを磁石内部に拡散させる工程である。工程S40は、第一の熱処理が実施されたR-T-B系焼結磁石に対して、真空又は不活性ガス雰囲気中、450℃以上750℃以下の温度で、かつ前記第一の熱処温度よりも低い温度で第二の熱処理を実施する工程である。以下、これらの各工程をより詳細に説明する。
【0052】
(R1-T-B系焼結体を準備する工程)
まず、R1-T-B系焼結体の組成に説明する。
【0053】
本実施形態で用いるR1-T-B系焼結体において特徴的な点のひとつは、R1-T-B系焼結体に含有されるR1、酸素量、炭素量などを調整し、最終的に前述の式(1)を満足するR-T-B系焼結磁石を作製することにある。このため、このR1-T-B系焼結では、25.8mass%≦([Nd]+[Pr]+[Ce]+[Dy]+[Tb]-(9×[O]+12×[C])≦27.3mass%、0.15mass%≦[O]≦0.30mass%の関係を満足するR1-T-B系焼結体を準備する。また、好ましくは、0.05mass%≦[C]≦0.18mass%の関係を満足するR1-T-B系焼結体を準備する。このようなR1-T-B系焼結体に対して、後述する拡散工程を行うことにより、R1-T-B系焼結体内部にPrおよびMなどが磁石内部に過剰に拡散されず、かつ、TbやDyの粒界拡散を大幅に促進させることが可能になる。
【0054】
この工程で準備するR1-T-B系焼結体は、例えば以下の組成を有する。
R1:26.6mass%以上31.5mass%以下(R1は、希土類元素のうち少なくとも一種であり、軽希土類元素RLLを含有し、RLLの含有量は、R1全体の含有量の90mass%以上である)、
B:0.90mass%以上0.97mass%以下、
M:0mass%以上1.0mass%以下(Mは、Ga、Cu、ZnおよびSiからなる群から選択された少なくとも一種である)、
M1:0mass%以上2.0mass%以下(M1は、Al、Ti、V、Cr、Mn、Ni,Zr、Nb、Mo、Ag、In、Sn、Hf、Ta、W、Pb、およびBiからなる群から選択された少なくとも1種)
残部T(TはFe又はFeとCo)、および不可避的不純物からなる。
【0055】
なお、RLLにおけるNdの含有量は、RLL全体の80mass%以上であることが好ましい。
【0056】
R1-T-B系焼結体でも、前述の式(1)が満たされている。
【0057】
次にR1-T-B系焼結体の準備方法について説明する。
【0058】
まず、R-T-B系焼結磁石用合金を準備した後、この合金を例えば水素粉砕法などによって粗く粉砕する。
【0059】
R-T-B系焼結磁石用合金の製造方法を例示する。上述した組成となるように事前に調整した金属または合金を溶解し、鋳型に入れて凝固させるインゴット鋳造法により合金インゴットを得ることができる。また、上述した組成となるように事前に調整した金属または合金の溶湯を単ロール、双ロール、回転ディスク、または回転円筒鋳型等に接触させて急冷し、急冷凝固合金を作製するストリップキャスト法によって合金を作製してもよい。また、遠心鋳造法など、他の急冷法によってフレーク状の合金を製造してもよい。
【0060】
本開示の実施形態においては、インゴット法と急冷法のどちらの方法により製造された合金も使用すること可能であるが、ストリップキャスト法などの急冷法により製造された合金を用いることが好ましい。急冷法によって作製した合金の厚さは、通常0.03mm~1mmの範囲にあり、フレーク形状である。合金溶湯は冷却ロールの接触した面(ロール接触面)から凝固し始め、ロール接触面から厚さ方向に結晶が柱状に成長してゆく。急冷合金は、従来のインゴット鋳造法(金型鋳造法)によって作製された合金(インゴット合金)と比較して、短時間で冷却されているため、組織が微細化され、結晶粒径が小さい。また粒界の面積が広い。Rリッチ相は粒界内に大きく広がるため、急冷法はRリッチ相の分散性に優れる。このため水素粉砕法により粒界で破断し易い。急冷合金を水素粉砕することで、水素粉砕粉(粗粉砕粉)のサイズを例えば1.0mm以下とすることができる。このようにして得た粗粉砕粉を、ジェットミルで粉砕する。
【0061】
ジェットミル粉砕は、窒素等の不活性雰囲気で粉砕する。粉砕は、例えば加湿雰囲気のジェットミルで粉砕してもよい。従来、粉砕工程にて粉末粒子を小さくする場合、粉砕効率の悪化に加えて、粉砕工程において不活性ガス(特に不活性ガスとして乾燥した窒素ガスを用いた場合)により粉末粒子が劣化(窒化)し、粉砕粒子を小さくしたことによる所望の磁気特性向上効果が得られないことがあった。加湿された不活性ガスを用いることにより、不活性ガスによる粉末粒子の劣化を低減することができる。加湿雰囲気中に粉砕によって粉末粒子表面に酸化膜が形成されるため、粉末粒子内部への不活性ガス(特に窒素ガス)の導入を防ぐことができ、これにより不活性ガスによる粉末粒子の劣化(窒化)を抑制できる。本実施形態では、最終的に得られるR-T-B系焼結磁石において、含有酸素量を特定の範囲となるように粉末粒子を加湿粉砕する。これにより、粉末粒子の劣化(窒化)の抑制と、加湿酸化による磁気特性低下の抑制を両立できる。
【0062】
本実施形態では、最終的に得られるR-T-B系焼結磁石の含有酸素量を特定範囲(0.15mass%≦[O]≦0.30mass%)になるように加湿粉砕の条件を調整し、かつ、粉末粒子を小さくする(平均粒径が2.0μm以上4.5μm以下、好ましくは平均粒径が2.0μm以上3.5μm以下)。このような加湿粉砕を行うことより、粉砕性を改善できるとともに、粉砕工程における酸化や窒化による磁気特性の低下を低減することも可能になる。なお、含有酸素量の調整は、加湿粉砕に限らない。例えば、急冷合金の水素粉砕時(粗粉砕分の作製時)に酸素を調整してもよい。
【0063】
R1-T-B系焼結体の作製に用いる微粉末は、前記の各条件を満たしていれば、一種類の原料合金(単一原料合金)から作製してもよいし、二種類以上の原料合金を用いてそれらを混合する方法(ブレンド法)によって作製してもよい。
【0064】
好ましい実施形態では、磁場中プレスによって上記の微粉末から粉末成形体を作製した後、この粉末成形体を焼結する。磁場中プレスでは酸化抑制の観点から不活性ガス雰囲気中によるプレスまたは湿式プレスによって粉末成形体を形成する方が好ましい。特に湿式プレスは粉末成形体を構成する粒子の表面が油剤などの分散剤によって被覆され、大気中の酸素や水蒸気との接触が抑制される。このため、プレス工程の前後あるいはプレス工程中に粒子が大気によって酸化されることを防止または抑制することができる。このため、酸素含有量を所定範囲内に制御しやすい。磁場中湿式プレスを行う場合、微粉末に分散媒を混ぜたスラリーを用意し、湿式プレス装置の金型におけるキャビティに供給して磁場中でプレス成形する。
【0065】
次に、成形体を焼結してR1-T-B系焼結体を得る。成形体の焼結は、好ましくは、0.13Pa(10-3Torr)以下、より好ましくは0.07Pa(5.0×10-4Torr)以下の圧力下で、温度1000℃~1150℃の範囲で行なう。焼結による酸化を防止するために、雰囲気の残留ガスは、ヘリウム、アルゴンなどの不活性ガスにより置換され得る。得られた、焼結体に対しては、熱処理を行ってもよい。熱処理温度、熱処理時間などの熱処理条件は、公知の条件を採用することができる。
【0066】
(R2-M合金を準備する工程)
本実施形態では、重希土類元素RHとしてTbを選択し、Prと金属元素MであるGaとともにR1-T-B系焼結体の表面から内部に拡散させる。このため、これらの拡散の対象とする元素を含有するR2-M合金を準備する。
【0067】
まず、R2-M合金の組成について説明する。R2-M合金におけるR2は希土類元素のうち少なくとも二種であり、TbおよびPrを必ず含む。好ましくは、R2がR2-M合金全体の65mass%以上97mass%以下であり、MはR2-M合金全体の3mass%以上35mass%以下である。R2におけるTbの含有量はR2-M合金全体の3mass%以上24mass以下であることが好ましい。また、R2におけるPrの含有量はR2-M合金全体の65mass%以上86mass%以下が好ましい。また、MがGaの場合、Gaの50mass%以下をCuおよびSnの少なくとも一方で置換してもよい。R2-M合金は不可避的不純物を含んでいても良い。なお、本開示における「Gaの50%以下をCuで置換」とは、R2-M合金中のGaの含有量(mass%)を100%とし、そのうち50%をCuで置換できることを意味する。好ましくは、R2-M合金のPrの含有量は、R2全体の50mass%以上であり、更に好ましくは、R2はPrとTbのみからなる。Prを含有することにより粒界相中の拡散が進みやすくなるため、Tbをさらに効率よく拡散することが可能となり、より高いHcJを得ることができる。
【0068】
R2-M合金の形状およびサイズは、特に限定されず、任意である。R2-M合金は、フィルム、箔、粉末、ブロック、粒子などの形状をとり得る。
【0069】
次にR2-M合金の作製方法を説明する。
【0070】
R2-M合金は、一般的なR-T-B系焼結磁石の製造方法において採用されている原料合金の作製方法、例えば、金型鋳造法やストリップキャスト法や単ロール超急冷法(メルトスピニング法)やアトマイズ法などを用いて準備することができる。また、R2-M合金は、前記によって得られた合金をピンミルなどの公知の粉砕手段によって粉砕されたものであってもよい。
【0071】
(拡散工程)
前述の方法によって準備したR1-T-B系焼結体の表面の少なくとも一部に、R2-M合金の少なくとも一部を接触させ、真空又は不活性ガス雰囲気中、700℃以上950℃以下の温度で第一の熱処理を実施することにより、R2およびMを磁石内部に拡散させる拡散工程を行う。これにより、R2-M合金からTb、PrおよびMを含む液相が生成し、その液相がR1-T-B系焼結体中の粒界を経由して焼結体表面から内部に拡散導入される。このとき、R1-T-B系焼結体に含有される重希土類元素RH(好ましくはTb)の含有量を0.05mass%以上0.30mass%以下という極めて微量な範囲で増加させることが好ましい。これにより、重希土類元素RHの消費量を抑制しながら、極めて高いHcJ向上効果を得ることができる。R1-T-B系焼結体に含有されるTbの含有量を0.05mass%以上0.30mass%以下増加させるため、R2-M合金の量、処理時の加熱温度、粒子径(R2-M合金が粒子状の場合)、処理時間等の各種条件を調整してよい。これらのなかでも、R2-M合金の量および処理時の加熱温度を調整することにより、比較的容易に重希土類元素RHの導入量(増加量)を制御できる。
【0072】
本明細書において、例えば、「Tbの含有量を0.05mass%以上0.30mass%以下増加させる」とは、mass%で示される含有量において、その数値が0.05以上0.30以下増加することを意味する。例えば、拡散工程前のR1-T-B系焼結体のTbの含有量が0.50mass%であり拡散工程後のR-T-B系焼結磁石のTbの含有量が0.60mass%であった場合は、拡散工程によりTbの含有量を0.10mass%増加させたことになる。なお、TbおよびDyの少なくとも一方の含有量(RH量)を0.05mass%以上0.30mass%以下増加しているかどうかは、拡散工程前におけるR1-T-B系焼結体および拡散工程後のR-T-B系焼結磁石(又は第二の熱処理後のR-T-B系焼結磁石)全体におけるRH量をそれぞれ測定して拡散前後でどのくらいRH量が増加したかを求めることにより算出することができる。また、拡散後のR-T-B系焼結磁石表面に(又は第二の熱処理後のR-T-B系焼結磁石表面)R2-M合金の濃化部が存在する場合は、前記濃化部を切削加工等により取り除いてからRH量を測定することが望ましい。
【0073】
第一の熱処理温度が700℃未満であると、例えばTb、PrおよびMを含む液相量が少なすぎて高いHcJを得ることが出来ない。一方、950℃を超えるとHcJが低下する可能性がある。好ましくは、850℃以上950℃以下である。より高いHcJを得ることができる。また、好ましくは、第一の熱処理(700℃以上950℃以下)が実施されたR-T-B系焼結磁石を前記第一の熱処理を実施した温度から5℃/分以上の冷却速度で300℃まで冷却した方が好ましい。より高いHcJを得ることができる。さらに好ましくは、300℃までの冷却速度は15℃/分以上である。
【0074】
第一の熱処理は、R1-T-B系焼結体表面に、任意形状のR2-M合金を配置し、公知の熱処理装置を用いて行うことができる。例えば、R1-T-B系焼結体表面をR2-M合金の粉末層で覆い、第一の熱処理を行うことができる。例えば、R2-M合金を分散媒中に分散させたスラリーをR1-T-B系焼結体表面に塗布した後、分散媒を蒸発させR2-M合金とR1-T-B系焼結体とを接触させてもよい。なお、分散媒として、アルコール(エタノール等)、アルデヒドおよびケトンを例示できる。また、重希土類元素RHは、R2-M合金からだけでなく、R2-M合金と共に重希土類元素RHのフッ化物、酸化物、酸フッ化物等をR-T-B系焼結磁石表面に配置することにより重希土類元素RHを導入してもよい。すなわち、重希土類元素RHと共に軽希土類元素RLおよびMを同時に拡散させることができればその方法は特に問わない。重希土類元素RHのフッ化物、酸化物、酸フッ化物としては、例えば、TbF、DyF、Tb、Dy、TbOF、DyOFが挙げられる。
【0075】
またR2-M合金は、R2-M合金の少なくとも一部がR1-T-B系焼結体の少なくとも一部に接触していれば、その配置位置は特に問わないが、好ましくは、R2-M合金は、少なくともR1-T-B系焼結体の配向方向に対して垂直な表面に接触させるように配置する。より効率よくR2やMを含む液相を磁石表面から内部に拡散導入させることができる。この場合、R1-T-B系焼結体の配向方向のみにR2-M合金を接触させても、R1-T-B系焼結体の全面にR2-M合金を接触させてもよい。
【0076】
(第二の熱処理を実施する工程)
第一の熱処理が実施されたR1-T-B系焼結体に対して、真空又は不活性ガス雰囲気中、450℃以上750℃以下で、かつ、前記第一の熱処理を実施する工程で実施した温度よりも低い温度で熱処理を行う。本開示においてこの熱処理を第二の熱処理という。第二の熱処理を行うことにより、高いHcJを得ることができる。第二の熱処理が第一の熱処理よりも高い温度であったり、第二の熱処理の温度が450℃未満および750℃を超えたりする場合は、高いHcJを得られない可能性がある。
【実施例
【0077】
実験例1
R1-T-B系焼結体が表1のNo.A~Iに示す組成となるように各元素の原料を秤量し、ストリップキャスティング法により合金を作製した。得られた各合金を水素粉砕法により粗粉砕し粗粉砕粉を得た。次に、得られた粗粉砕粉に、潤滑剤としてステアリン酸亜鉛を粗粉砕粉100mass%に対して0.04mass%添加、混合した後、気流式粉砕機(ジェットミル装置)を用いて、窒素気流中で乾式粉砕し、粉砕粒径D50が3μmの微粉砕粉(合金粉末)を得た。前記微粉砕粉に、潤滑剤としてステアリン酸亜鉛を微粉砕粉100mass%に対して0.05mass%添加、混合した後磁界中で成形し成形体を得た。なお、成形装置には、磁界印加方向と加圧方向とが直交するいわゆる直角磁界成形装置(横磁界成形装置)を用いた。得られた成形体を、真空中、1060℃以上1090℃以下(サンプル毎に焼結による緻密化が十分起こる温度を選定)で4時間焼結し、R1-T-B系焼結体を得た。得られたR1-T-B系焼結体の密度は7.5Mg/m以上であった。得られたR1-T-B系焼結体の成分の結果を表1に示す。なお、表1における各成分は、高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP-OES)を使用して測定した。また、O(酸素)含有量は、ガス融解-赤外線吸収法によるガス分析装置を使用して測定した。以下、R2-M合金及びR-T-B系焼結磁石の成分の結果も同様である。また、R1-T-B系焼結体における[Nd]+[Pr]+[Ce]+[Dy]+[Tb])-(9×[O]+12×[C])の値を表1に示す。なお、R1-T-B系焼結体において、Tb及びCeに関しては本実験例では積極的に含有させていない。
【0078】
【表1】
【0079】
R2-M合金がおよそ表2のNo.aに示す組成となるように各元素の原料を秤量しそれらの原料を溶解して、単ロール超急冷法(メルトスピニング法)によりリボンまたはフレーク状の合金を得た。得られた合金を、乳鉢を用いてアルゴン雰囲気中で粉砕した後、目開き425μmの篩を通過させ、R2-M合金を準備した。得られたR2-M金の組成を表2に示す。
【0080】
【表2】
【0081】
表1のNo.A~IのR1-T-B系焼結体を切断、研削加工し、7.4mm×7.4mm×7.4mmの立方体とした。次に、No.A~IのR1-T-B系焼結体の全面にR1R1-T-B系焼結体100mass%に対してR2-M合金(No.a)を3mass%散布した。拡散工程は、50Paに制御した減圧アルゴン中で、900℃で4時間第一の熱処理を行った後室温まで冷却を行った。これにより、第一の熱処理が実施されたR-T-B系焼結磁石を得た。更に、第一の熱処理が実施されたR-T-B系焼結磁石に対して、50Paに制御した減圧アルゴン中で、480℃で3時間第二の熱処理を行った後室温まで冷却を行いR-T-B系焼結磁石(No.1~9)を作製した。得られたR-T-B系焼結磁石におけるR量(本実験例ではNd+Pr+Tb)、Tb量、酸素量(O)、炭素量(C)、窒素量(N)および(([Nd]+[Pr]+[Ce]+[Dy]+[Tb])-(9×[O]+12×[C])の値を表3に示す。なお、R-T-B系焼結磁石において、Ceに関しては本実験例では積極的に含有させていない。なお、No.1~9はいずれも本開示の式1を満足していることを確認した。また、得られたR-T-B系焼結磁石に機械加工を施し、サンプルを7mm×7mm×7mmに加工し、BHトレーサにより測定した。測定結果を表3に示す。また、No.1~9の磁石断面における磁石表面から磁石中央部付近までをEDXにより線分析(ライン分析)をおこなった所、全てのサンプルで、Tb、Pr、GaおよびCu濃度がそれぞれ磁石表面から磁石中央部に漸減している(徐々に濃度が低くなっている)ことを確認した。
【0082】
【表3】
【0083】
表3に示すように、本発明例は、いずれもBが1.43T以上、HcJが1900kA/m以上であり、Tb量を低く抑えつつも、高いB及び高いHcJが得られている。これに対し、本開示の範囲からはずれている比較例は、いずれもBが1.43T以上、HcJが1900kA/m以上の高いBと高いHcJが得られていない。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本開示によれば、高残留磁束密度、高保磁力のR-T-B系焼結磁石を作製することができる。本開示の焼結磁石は、高温下に晒されるハイブリッド車搭載用モータ等の各種モータや家電製品等に好適である。
【符号の説明】
【0085】
12・・・R14B化合物からなる主相、14・・・粒界相、14a・・・二粒子粒界相、14b・・・粒界三重点
【要約】
14B化合物からなる主相と、前記主相の粒界部分に位置する粒界相とを含む。Ndの含有量(mass%)を[Nd]、Prの含有量(mass%)を[Pr]、Ceの含有量(mass%)を[Ce]、Dyの含有量(mass%)を[Dy]、Oの含有量(mass%)を[O]、Cの含有量(mass%)を[C]とするとき、R-T-B系焼結磁石におけるTに対するBの原子数比率は、R14B化合物の化学量論組成におけるTに対するBの原子数比率よりも低く、26.0mass%≦([Nd]+[Pr]+[Ce]+[Dy]+[Tb])-(9×[O]+12×[C])≦27.5mass%、0.15mass%≦[O]≦0.30mass%、および、0.05mass%<[Tb]≦0.35mass%の関係を満たす。また、磁石表面から磁石内部に向かってTb濃度およびDy濃度の少なくとも一方が漸減する部分を含む。
図1A
図1B
図2A
図2B
図3