(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-22
(45)【発行日】2022-03-30
(54)【発明の名称】窒化物半導体テンプレートおよび窒化物半導体デバイス
(51)【国際特許分類】
H01L 21/205 20060101AFI20220323BHJP
H01L 21/20 20060101ALI20220323BHJP
C30B 29/38 20060101ALI20220323BHJP
C30B 33/02 20060101ALI20220323BHJP
C23C 16/34 20060101ALI20220323BHJP
【FI】
H01L21/205
H01L21/20
C30B29/38 C
C30B33/02
C23C16/34
(21)【出願番号】P 2020131400
(22)【出願日】2020-08-03
(62)【分割の表示】P 2016236873の分割
【原出願日】2016-12-06
【審査請求日】2020-08-03
(73)【特許権者】
【識別番号】515131378
【氏名又は名称】株式会社サイオクス
(73)【特許権者】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】304026696
【氏名又は名称】国立大学法人三重大学
(74)【代理人】
【識別番号】100145872
【氏名又は名称】福岡 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100187632
【氏名又は名称】橘高 英郎
(72)【発明者】
【氏名】藤倉 序章
(72)【発明者】
【氏名】今野 泰一郎
(72)【発明者】
【氏名】三宅 秀人
【審査官】佐藤 靖史
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-115023(JP,A)
【文献】国際公開第2011/037251(WO,A1)
【文献】特開2009-054780(JP,A)
【文献】国際公開第2011/058968(WO,A1)
【文献】特開2010-195678(JP,A)
【文献】特開2010-111556(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/205
H01L 21/20
C30B 29/38
C30B 33/02
C23C 16/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に窒化アルミニウム層が形成されてなる窒化物半導体テンプレートであって、
前記窒化アルミニウム層は、
前記基板上に連続膜となる厚さで、かつ、クラックが発生しない厚さ
である100~800nmの厚さに形成され、窒化アルミニウムからなり、前記基板の側の面が窒素極性面であり、前記窒素極性面と対向する側の面がアルミニウム極性面であり、前記アルミニウム極性面における平均転位密度が1×10
9個/cm
2以下である第一層と、
前記第一層における前記アルミニウム極性面上に形成され、窒化アルミニウムからなり、表面における平均転位密度が1×10
9個/cm
2以下である第二層と、を備え、
前記第一層と前記第二層とが不純物濃度の違いにより区別される
窒化物半導体テンプレート。
【請求項2】
前記第二層との界面を構成する前記第一層の表面が、前記第二層の表面よりも荒れている
請求項1に記載の窒化物半導体テンプレート。
【請求項3】
前記第二層における酸素濃度が、前記第一層における酸素濃度よりも小さい
請求項1または2に記載の窒化物半導体テンプレート。
【請求項4】
前記第一層は、前記アルミニウム極性面の表面粗さRMSが1~50nmであり、
前記第二層は、表面の表面粗さRMSが10nm以下である
請求項1から
3のいずれか1項に記載の窒化物半導体テンプレート。
【請求項5】
請求項1から
4のいずれか1項に記載の窒化物半導体テンプレートと、
前記窒化物半導体テンプレート上に成長して形成された窒化物半導体積層構造と、
を備える窒化物半導体デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化物半導体テンプレートおよび窒化物半導体デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
紫外波長帯で発光する発光ダイオード(LED)は、下地基板上にアルミニウム(Al)を含む窒化物半導体層を積層して形成されるが、その下地基板として、Alを含む窒化物半導体膜を有した窒化物半導体テンプレートが用いられることがある。かかる窒化物半導体テンプレートは、サファイア基板や炭化ケイ素(SiC)基板等の異種基板上に、Alを含む窒化物半導体膜(例えば、窒化アルミニウム(AlN)膜)が数100nm~数10μm厚で形成されてなるものである。このような窒化物半導体テンプレートについては、基板上の薄いAlN膜等の窒化物半導体膜に関して、アニール処理によって高品質化することが提案されている(例えば非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】H.Miyake他、「Annealing of an AlN buffer in N2-CO for growth of a high-quality AlN film on sapphire」、Applied Physics Express 9、025501 (2016)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述した従来技術によるアニール処理の処理条件では、そのアニール処理を効率的に行うことができず、また処理条件を変えて効率化を図るとアニール処理後における窒化物半導体膜の表面状態の劣化を招いてしまうおそれがある。
【0005】
本発明は、高品質な窒化物半導体テンプレートとこれを用いた窒化物半導体デバイスを効率的に得ることができる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様によれば、
基板上に窒化物半導体層が形成されてなる窒化物半導体テンプレートの製造方法であって、
前記基板上に、アルミニウムを含む窒化物半導体からなる第一層をエピタキシャル成長させて形成する第一層形成工程と、
前記第一層に対して不活性ガス雰囲気でアニール処理を行うアニール工程と、
前記アニール工程後の前記第一層上に、アルミニウムを含む窒化物半導体からなる第二層を気相成長によりエピタキシャル成長させて形成し、前記第一層と前記第二層とで前記窒化物半導体層を構成する第二層形成工程と、
を備える窒化物半導体テンプレートの製造方法が提供される。
【0007】
本発明の他の態様によれば、
基板上に窒化物半導体層が形成されてなる窒化物半導体テンプレートであって、
前記窒化物半導体層は、
前記基板上に形成され、アルミニウムを含む窒化物半導体からなり、前記基板の側の面が窒素極性面であり、前記窒素極性面と対向する側の面がIII族極性面である第一層と、
前記第一層における前記III族極性面上に形成され、アルミニウムを含む窒化物半導体からなる第二層と、を備え、
前記第一層と前記第二層とが不純物濃度の違いにより区別される
窒化物半導体テンプレートが提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、高品質な窒化物半導体テンプレートとこれを用いた窒化物半導体デバイスを効率的に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の一実施形態に係る窒化物半導体テンプレートの概略構成例を示す断面図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る窒化物半導体テンプレートの製造に用いられる成長装置の一具体例を示す模式図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係る窒化物半導体テンプレートの製造手順の概要を示す断面図である。
【
図4】本発明の一実施形態に係る窒化物半導体テンプレートにおいて第一層を構成するAlN膜の表面の転位に関する状態とアニール処理条件との関係の一具体例を示す説明図である。
【
図5】本発明の一実施形態に係る窒化物半導体テンプレートにおいて第二層を構成するAlN膜の表面の転位に関する状態とアニール処理条件との関係の一具体例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<発明者の得た知見>
紫外波長帯で発光するLED(以下、単に「紫外LED」という。)は、その下地基板として、単結晶AlN基板や、アルミニウム(Al)を含む窒化物半導体膜を有した窒化物半導体テンプレート等が用いられる。
単結晶AlN基板は、一般的に、異種基板上に昇華法により数mm~数cm厚のAlN膜を成長させた後、異種基板を除去することで実現され、表面の転位密度が1×105個/cm2以下の低転位なものが得られている。ただし、未だに1インチ径以上の大きな基板サイズの実現が困難であることや、不純物の混入により紫外領域での吸収が多いため、紫外LEDの生産性や特性等の面で十分なものが得られているとはいえない。
一方、窒化物半導体テンプレートは、サファイア基板やSiC基板等の異種基板上に、例えばAlN膜のようなAlを含む窒化物半導体膜が数100nm~数10μm厚で形成されてなるものであり、その窒化物半導体膜の厚さが薄いためクラックを生じ難く大口径化が容易であり、MOVPE(Metal-Organic Vapor Phase Epitaxy)法やHVPE(Hydride Vapor Phase Epitaxy)法等といった不純物混入を抑制できる気相成長法が使えるため、大口径化や透明度等の点では昇華法を用いる単結晶AlN基板よりも有利である。
したがって、紫外LEDについては、大口径化や透明度等の点を考慮して、その下地基板として窒化物半導体テンプレートを用いることが考えられる。
【0011】
ところで、これまでに実現されている窒化物半導体テンプレートは、Alを含む窒化物半導体膜の膜厚が薄い(数μm厚)場合には、表面の転位密度が高くなってしまい(例えば1×109個/cm2超)、また、転位密度が1×108個/cm2台以下と低い場合には、下地となる種基板の加工が必要であったり、Alを含む窒化物半導体膜の厚さを大きくする(例えば20μm超)必要があるためクラックを生じ易かったりする、といった問題があった。
このような問題を解消するために、非特許文献1には、サファイア基板上の薄いAlN膜をアニールによって高品質化する手法が開示されている。すなわち、非特許文献1には、サファイア基板上に300nm程度のAlN膜を成長させた後に、その基板およびAlN膜に対してN2-CO混合雰囲気中で1600℃以上の高温アニールすることで、AlN膜の転位密度を1×108個/cm2台に低転位化することが記載されている。AlN膜のアニール処理にN2-CO混合雰囲気を用いるのは、アニール処理中のAlN表面の劣化(表面の白濁)を抑えるためである。
【0012】
しかしながら、一般的なMOVPE法やHVPE法の成長装置では、一酸化炭素(CO)を含むガスを流すことを想定していない。そのため、非特許文献1に開示された手法を適用しようとすると、成長装置とは別のCOガスを流せるアニール装置を準備する必要がある。また、例えば、COガスを導入できるように成長装置を構成した場合には、炭素(C)や酸素(O)等の不純物混入により、成長させる窒化物半導体膜の純度が低下してしまうことが懸念される。
その一方で、本発明者が追試した結果、一般的なMOVPE法やHVPE法の成長装置で実現可能な窒素ガス(N2)雰囲気中において、Alを含む窒化物半導体膜に対するアニール処理を1600℃以上で行った場合には、N2-CO混合雰囲気中におけるアニール処理ではないので、その窒化物半導体膜の表面の劣化が生じてしまうことがわかった。
【0013】
これらのことを踏まえた上で、本発明者は鋭意検討を重ねた結果、一見するとその上への再成長には適さない程度に荒れた表面のAlを含む窒化物半導体膜が得られても、その荒れた窒化物半導体膜の表面に対して、追加のAlを含む窒化物半導体膜を所定条件下で成長させると、荒れた表面を鏡面化することができ、さらに再成長表面の転位密度を1×109個/cm2以下にできる、という新たな知見を得るに至った。
【0014】
本発明は、本発明者が見出した上述の新たな知見に基づくものである。
【0015】
<本発明の一実施形態>
以下、本発明の一実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0016】
(1)窒化物半導体テンプレートの構成
先ず、本実施形態に係る窒化物半導体テンプレートの概略構成例について説明する。
図1は、本実施形態に係る窒化物半導体テンプレートの概略構成例を示す断面図である。
【0017】
本実施形態で例に挙げる窒化物半導体テンプレート10は、LED等の半導体装置(半導体デバイス)を製造する際に下地基板として用いられるもので、基板状の構造体として構成されているものである。具体的には、窒化物半導体テンプレート10は、基板11と、窒化物半導体層12と、を備えて構成されている。
【0018】
(基板)
基板11は、窒化物半導体層12を支持する支持基板として機能するものである。なお、以下において、基板11の上面(窒化物半導体層12の側の面)を「表面(または第一の主面)」とし、その反対側に位置する基板11の下面を「裏面(または第二の主面)」とする。
【0019】
基板11は、例えば、サファイア(Al2O3)基板からなり、C面((0001)面)からa軸方向またはm軸方向に0.1~3°傾いた面を表面とするように構成されている。
【0020】
また、基板11の表面は、例えば、鏡面となっている。換言すると、その上にIII族窒化物半導体をエピタキシャル成長させることが可能な、いわゆるエピレディ面となっている。具体的には、基板11の表面の二乗平均平方根粗さ(RMS)が、例えば、10nm以下、好ましくは1nm以下である。なお、本明細書でいう「RMS」は、原子間力顕微鏡(AFM)にて5μm×5μmサイズの像を解析することで得られる値を意味している。一方、基板11の裏面については、特に限定されるものではないが、表面側と同様の鏡面、あるいは、ランダムな凹凸を有する粗面である、いわゆるラップ面とすることが考えられる。
【0021】
基板11の直径サイズは、例えば、2~8インチ径のサイズのものを用いる。これにより、窒化物半導体テンプレート10は、1インチ径を超える大きな基板サイズに対応したものとなる。また、基板11の厚さについては、LED構造積層後のウエハの反りを抑制する観点から、ウエハの直径サイズが大きいほど厚いほうが好ましいが、例えば、300μm~2mmとすることが考えられる。
【0022】
(窒化物半導体層)
窒化物半導体層12は、基板11上に形成された、アルミニウム(Al)を含む窒化物半導体からなる層である。Alを含む窒化物半導体としては、例えば窒化アルミニウム(AlN)が挙げられるが、これに限定されることはない。すなわち、Alを含む窒化物半導体は、In1-x-yAlxGayN(0≦x+y≦1、0<x≦1、0≦y≦1)で表わされるものであれば、AlNの他に、窒化インジウムアルミニウム(AlInN)、窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)、または、窒化アルミニウムガリウムインジウム(AlInGaN)であってもよい。
また、窒化物半導体層12は、基板11に面する側に位置する第一層13と、その第一層13に重なるように形成された第二層14と、の二層構造に構成されている。
【0023】
窒化物半導体層12を構成する第一層13と第二層14とは、それぞれが不純物濃度の違いにより区別される。例えば、二次イオン質量分析法(SIMS)による分析結果に基づき、第一層13と第二層14との不純物濃度を比べると、基板11の側に近い第一層13には、不純物としてのOが、第二層14に比べて多量に含まれている。
【0024】
このような第一層13と第二層14との酸素濃度の違いが生じる原因は、各層成長時のAlを含む窒化物半導体の結晶性の違いに起因する。すなわち、第一層13の成長時には、Alを含む窒化物半導体中の転位密度が多いため、成長中に基板11側からの拡散により、あるいは、成長雰囲気からの混入により、多量の酸素が取り込まれる。その濃度は、例えば1×1018~1×1021/cm3程度である。一方、第二層14の成長時には、下地となる第一層13は後述するようにアニール処理によって高品質化(低転位化)しているため、第二層14も低転位なAlを含む窒化物半導体の層となる。このため、第二層14の成長時には、第一層13からの若干の酸素拡散はあるものの、全体的には酸素の取り込みが抑制される。第二層14の酸素濃度は、成長装置の雰囲気にも依存するが、典型的には例えば1×1018/cm3以下となる。
【0025】
したがって、窒化物半導体層12は、不純物濃度を測定することによって、第一層13と第二層14との二層構造であることを特定することができ、さらには第一層13と第二層14との界面位置がどこに存在するかを特定することができる。なお、不純物濃度の測定については、例えばSIMS分析の結果を用いて行うことが考えられるが、他の公知の手法を用いて行っても構わない。
【0026】
(第一層)
二層構造を構成する一方の層である第一層13は、詳細を後述するように、基板11上にAlを含む窒化物半導体をエピタキシャル成長させて形成された層であり、さらに不活性ガス雰囲気でのアニール処理が施されてなる層である。このように形成されることで、第一層13は、成長方向に極性を有するように構成される。具体的には、基板11の側の面の殆どが窒素(N)極性面となり、そのN極性面と対向する側の面(すなわち、第二層14の側の面)の殆どがIII族極性面となるように構成される。第二層14の側の面である第一層13の表面は、若干(例えば、表面積の10%以下程度)のN極性面を含んでいても構わない。その場合であっても、Alを含む窒化物半導体自体が高温でIII族極性に成長しやすい性質により、後述するように、第二層14を成長することで、第二層14の表面全体がIII族極性面となる。
【0027】
また、第一層13は、アニール処理が施されることで、その表面(すなわち、第二層14の側の面)が低転位化されている。具体的には、例えば、表面における平均転位密度は、1×109個/cm2以下である。また、例えば、X線回折(XRD)を利用した表面に対するX線ロッキングカーブ(XRC)測定の(10-12)回折の半値幅は、600秒以下、より好ましくは400秒以下である。
【0028】
ただし、第一層13は、不活性ガス雰囲気でのアニール処理を経ているので、当該アニール処理を経ない場合に比べて表面が劣化し得る場合があり、具体的には表面粗さRMSが例えば1~50nmとなっている。
【0029】
アニール処理によるAlを含む窒化物半導体中の転位密度の減少と表面粗さの増加は、そのアニール処理中に、Alを含む窒化物半導体中またはその表面の構成原子が比較的自由に動き回っていることを意味している。転位部分には構成原子のダングリングボンドが多数存在するので、本来は完全結晶よりもエネルギー的に高い状態にある。ところが、詳細を後述するようなアニール処理を行ってAlを含む窒化物半導体の構成原子が自由に動ける状態になると、結晶全体のエネルギーを下げるように転位を消滅させる駆動力が発生するのである。
ただし、このような構成原子が比較的自由に動く状態にすると、前述のようにAlを含む窒化物半導体の表面が荒れてしまうため、従来はこのような条件でのアニール処理が、Alを含む窒化物半導体の低転位化の手法として採用されることが無かったのである。
【0030】
また、第一層13は、連続膜となる厚さで、かつ、クラックが発生しない厚さとなるように、形成されている。具体的には、第一層13は、例えば、100~800nmの厚さで形成されている。第一層13の厚さが100nm未満であると連続膜にならないおそれがあるが、100nm以上とすることで連続膜として形成することができる。また、第一層13の厚さが800nmを超えてしまうと、その形成時あるいはその後のアニール処理時にクラックが発生してしまうおそれがあるが、800nm以下とすることでクラックが発生しないように形成することができる。なお、第一層13は、例えば、100~800nmの厚さで形成されているが、特に200~800nmの厚さで形成されていることが好ましい。
【0031】
(第二層)
二層構造を構成する他方の層である第二層14は、詳細を後述するように、第一層13の表面上に、Alを含む窒化物半導体をエピタキシャル成長させて形成された層である。このように形成される第二層14は、前述したように、その全域がIII族極性面となる。
【0032】
また、第二層14は、低転位化された第一層13の上に形成されているので、第一層13と同様に低転位なものとなる。具体的には、例えば、その表面(すなわち、第一層13の側の面とは反対側の面)における平均転位密度は、1×109個/cm2以下である。
【0033】
しかも、第二層14は、低転位化された第一層13の上に形成されているので、厚く形成してもクラックが発生し難いものとなる。下地層に転位が多いと、その下地層の内部に亀裂を多く含んでいるのと同様な状態となるので、その上に形成する層が応力に対して弱くなり割れ易くなる一方で、第一層13のような低転位な層を下地とすれば、その上に形成する第二層14内の弱い部分が少なくなって割れ難くなるためである。
具体的には、第二層14は、例えば、100nm~20μmの厚さで形成されている。より好ましくは、第二層14は、例えば、3~20μmの厚さで形成されている。そして、3μm以上の厚さであっても、第二層14は、クラックフリー層として構成されている。
【0034】
また、第二層14は、第一層13の上に重ねて成長させているので、第一層13のみの場合に比べて、表面が平坦化されたものとなる。具体的には、第二層14は、その表面の表面粗さRMSが10nm以下、より好ましくは1nm以下となっている。
【0035】
(2)窒化物半導体テンプレートの製造方法
次に、上述した構成の窒化物半導体テンプレート10を製造する手順、すなわち本実施形態に係る窒化物半導体テンプレートの製造方法について説明する。
【0036】
(成長装置の構成例)
ここで、先ず、窒化物半導体テンプレート10の製造に用いる成長装置の構成例について説明する。
図2は、本実施形態に係る窒化物半導体テンプレートの製造に用いられる成長装置の一具体例を示す模式図である。
図例は、成長装置の一具体例として、ハイドライド気相成長装置(HVPE装置)を示している。
【0037】
HVPE装置200は、石英やアルミナ等の耐熱性材料からなり、成膜室201が内部に構成された気密容器203を備えている。成膜室201内には、基板11を保持するサセプタ208が設けられている。サセプタ208は、基板11の表面を上側にした状態で基板11を収容するポケット208pを有している。サセプタ208は、回転機構216が有する回転軸215に接続されており、該サセプタ208の裏面に設けられたギアによって基板11を上方に保持したまま、該サセプタ208上に載置される基板11を周方向(主面に沿った方向)に回転可能に構成されている。
これらのサセプタ208、ポケット208p、回転機構216は、カーボンあるいはSiCや窒化ホウ素(BN)等のコーティングを施したカーボンで構成されるのが好ましく、それ以外の部材は、不純物の少ない高純度石英で構成されるのが好ましい。また、特に1300℃以上の高温にさらされる領域の部材は、高純度石英に代えてアルミナで構成されるのが好ましい。
【0038】
気密容器203の一端には、成膜室201内へ塩化水素(HCl)ガスを供給するガス供給管232b、成膜室201内へアンモニア(NH3)ガスを供給するガス供給管232c、および、成膜室201内へH2ガス、N2ガスまたはHClガスを供給するガス供給管232dが接続されている。ガス供給管232b~232dには、上流側から順に、流量制御器241b~241d、バルブ243b~243dがそれぞれ設けられている。ガス供給管232bの下流には、原料としての固体のAlを収容するガス生成器233bが設けられている。ガス生成器233bには、HClガスとAlとの反応により生成された成膜ガスとしての塩化アルミニウム(AlClまたはAlCl3)ガスを、サセプタ208上に保持された基板11等に向けて供給するノズル249bが接続されている。ガス供給管232c,232dの下流側には、これらのガス供給管から供給された成膜ガスをサセプタ208上に保持された基板11等に向けて供給するノズル249c,249dが接続されている。ノズル249b~249dは、基板11の表面に対して交差する方向(表面に対して斜めの方向)にガスを流すよう配置されている。
【0039】
一方、気密容器203の他端には、成膜室201内を排気する排気管230が設けられている。排気管230にはポンプ231(或いはブロワ)が設けられている。気密容器203の外周にはガス生成器233b内やサセプタ208上に保持された基板11等を所望の温度に加熱するゾーンヒータ207が、気密容器203内には成膜室201内の温度を測定する温度センサ209が、それぞれ設けられている。なお、ゾーンヒータ207のガス生成器233b付近(図中A1参照)は、600~800℃または400~600℃に維持され、これにより、HClガスとAlとの反応によりAlClガスまたはAlCl3ガスが生成される。また、ゾーンヒータ207のサセプタ208付近(図中A3参照)は、後述の成長に適した温度に維持される。
【0040】
HVPE装置200が備える各部材は、コンピュータとして構成されたコントローラ280に接続されており、コントローラ280上で実行されるプログラムによって、後述する処理手順や処理条件が制御されるように構成されている。
【0041】
なお、HVPE装置200は、上述した各部の他に、成膜室201内へHClガスを供給するガス供給管232a、流量制御器241a、バルブ243a、原料としてのガリウム(Ga)融液またはインジウム(In)融液を収容するガス生成器233a、ノズル249a等が設けられており、HClガスとGa融液またはIn融液との反応により生成された成膜ガスとしての塩化ガリウム(GaCl)ガスまたは塩化インジウム(InCl)ガスを、サセプタ208上に保持された基板11等に向けて供給するように構成されていてもよい。さらに言えば、Ga融液およびIn融液を収容するガス生成器をそれぞれ別個に持ち、GaClガスとInClガスをそれぞれ独立に供給可能な構成としてもよい。
【0042】
(製造手順の概要)
続いて、上述した構成のHVPE装置200を用いた窒化物半導体テンプレートの製造手順を、窒化物半導体がAlNである場合を例に挙げて説明する。以下、窒化物半導体がAlNである場合の窒化物半導体テンプレート10を「AlNテンプレート10」と称する。
図3は、本実施形態に係る窒化物半導体テンプレートの製造手順の概要を示す断面図である。
【0043】
AlNテンプレート10の製造は、基板準備工程(ステップ1、以下ステップを「S」と略す。)と、第一層形成工程(S2)と、アニール工程(S3)と、第二層形成工程(S4)と、を経て行う。
【0044】
(S1:基板準備工程)
基板準備工程(S1)では、HVPE装置200で処理される基板11、すなわちAlNテンプレート10を構成することになる基板11を用意する。具体的には、基板11として、例えば、C面からa軸方向またはm軸方向に0.1~3°傾いた面を表面とするサファイア基板を用意する。基板11のオフ方向によっては、AlN膜の最適な成長条件が若干変化する場合があるため、用いる基板11のオフ方向を一定に保つことが再現性を高めるためには有効である。オフ角が0.1°未満の場合には、サファイア基板の研磨の段階で、オフ方向の精度が低くなり、基板11毎にオフ方向が変わるという事態が生じるため、このような小さいオフ角の基板11は避けることが好ましい。また、オフ角が3°よりも大きい場合には、最終的に得られるAlNテンプレート10の表面に巨大ステップが形成される場合が多いので、このような大きいオフ角の基板11は避けることが好ましい。
【0045】
基板11の直径サイズは、例えば、2~8インチ径のサイズのいずれかを選択する。ここでいう直径サイズは、実際のインチサイズでも構わないが、慣例的に用いられている「2インチ」=50mm、「6インチ」=150mm等のサイズでも構わない。
【0046】
(S2:第一層形成工程)
基板準備工程(S1)の後は、次いで、第一層形成工程(S2)を行う。第一層形成工程(S2)では、先ず、基板準備工程(S1)で用意した基板11を、その表面を上側にした状態で、HVPE装置200のサセプタ208上に載置する。
【0047】
また、HVPE装置200においては、ガス生成器233b内に原料としての固体のAlを収容しておく。そして、サセプタ208を回転させるとともに、成膜室201内の加熱および排気を実施しながら、ガス供給管232dから成膜室201内へH2ガス(あるいはH2ガスとN2ガスとの混合ガス)を供給する。さらには、成膜室201内が所望の成長温度、成長圧力に到達し、成膜室201内が所望の雰囲気となった状態で、ガス供給管232b,232cからガス供給を行い、基板11の表面に対して交差する方向に、成膜ガスとしてAlClガスまたはAlCl3ガスとNH3ガスとを供給する。これらの成膜ガスは、H2ガス、N2ガスまたはこれらの混合ガスから成るキャリアガスと混合して供給してもよい。
【0048】
これにより、
図3(a)に示すように、基板11の表面側には、AlNからなる第一層13が気相成長によりエピタキシャル成長されて形成されることとなる。このように、第一層13を気相成長によりエピタキシャル成長させて形成することで、例えば昇華法で形成する場合に比べると、AlNテンプレート10の大口径化(例えば2インチ径以上の大きな基板サイズの実現)や透明度確保等の点で有利である。
【0049】
第一層13が形成される基板11は、その表面が鏡面となっており、表面に凹凸パターンを有していない。そのため、第一層13の形成にあたり、基板11と第一層13との間には、表面の凹凸パターンに起因するボイドが存在することがない。
【0050】
第一層13の形成は、第一層13が連続膜となる厚さで、かつ、第一層13にクラックが発生しない厚さとなるように行う。具体的には、既に説明したように、例えば、第一層13の厚さが100~800nm、特に200~800nmとなるように、第一層13の形成を行う。
【0051】
また、第一層形成工程(S2)では、上述した厚さへの成長完了時点(すなわち、アニール処理前のアズグロウン状態)で、第一層13が結晶化する(すなわち、非アモルファス状態となる)条件にて、第一層13の形成を行う。具体的には、第一層13の形成を、例えば、HVPE装置200のサセプタ208付近が1000~1300℃の成長温度を維持する状態となるように、ゾーンヒータ207による加熱を行う(
図2中A3参照)。そして、第一層13を形成するためのAlN膜の成長は、成長速度が0.5~500nm/分となるように、AlClガスまたはAlCl
3ガスおよびNH
3の供給量を調整して行う。N源とAl源の供給量比(いわゆるV/III比)は、0.2~200とする。このとき、ノズル249dからは、ノズル249a~dへの寄生的なAlN付着を防止するためにHClガスを流してもよく、その量は、AlClガスまたはAlCl
3ガスに対して0.1~100の比率とする。
【0052】
このようにして形成された第一層13は、成長完了時点(すなわち、アニール処理前のアズグロウン状態)においては、その表面の表面粗さRMSが、例えば、0.3~10nm程度となる。また、第一層13は、成長方向に極性を有するようになり、例えば基板11の側がN極性面となり、その反対側(すなわち、第一層13の表面)のほぼ全面がIII族極性面であるAl極性面となる。
【0053】
(S3:アニール工程)
ところで、第一層13は、クラックが発生しない厚さとなるように薄く形成されるため、成長完了時点(すなわち、アニール処理前のアズグロウン状態)においては、転位密度が高くなってしまうことが懸念される。そこで、第一層形成工程(S2)の後は、基板11上の薄い第一層13を高品質化すべく、アニール工程(S3)を行うのである。
【0054】
アニール工程(S3)にあたっては、HVPE装置200における成膜室201内へのAlClガスまたはAlCl
3ガス、NH
3ガスおよびH
2ガスの供給を停止し、全てのガス供給管からN
2ガスを供給することで、成膜室201内の雰囲気をN
2ガスへ置換する。そして、成膜室201内をN
2ガス雰囲気とした後に、サセプタ208を回転させつつ、成膜室201内の排気を実施しながら、ゾーンヒータ207(
図2中A3参照)によりサセプタ208付近を所望のアニール処理温度まで上昇させる。このようにして、アニール工程(S3)では、HVPE装置200の成膜室201内から基板11を搬出することなく、その基板11上に形成された第一層13に対して、N
2ガス雰囲気でアニール処理を行う。つまり、AlClガスまたはAlCl
3ガス、NH
3ガスおよびH
2ガスを含有しない雰囲気であるN
2ガス雰囲気で、第一層13に対するアニール処理を行うのである。このように、N
2ガス雰囲気でアニール処理を行うので、アニール処理中の第一層13へのCやO等の不純物混入を抑制することができ、また第一層形成工程(S2)で用いたHVPE装置200をそのまま用いたアニール処理も実現可能となる。
【0055】
アニール工程(S3)で行うアニール処理は、第一層13の表面の状態(特に、転位に関する状態)を高品質化するためのものである。このことから、アニール工程(S3)では、アニール処理後の第一層13の表面における平均転位密度が1×109個/cm2以下となる条件で、アニール処理を行うことが好ましい。また、アニール工程(S3)では、アニール処理後の第一層13の表面に対するXRC測定の(10-12)回折の半値幅が600秒以下、より好ましくは400秒以下となる条件で、アニール処理を行う。このことは、アニール工程(S3)では、第一層13の主として刃状転位を低減させる条件で、アニール処理を行うことに対応する。なお、平均転位密度が1×109個/cm2以下となる場合には、XRC測定の(10-12)回折の半値幅が概ね400秒以下となることに対応している。
【0056】
アニール処理後のAlN層の表面の転位(例えば刃状転位およびらせん転位)に関する状態は、例えば
図4に示すように、そのアニール処理を行う際の処理温度(アニール温度)に依存する。
図4は、第一層を構成するAlN膜の表面の転位に関する状態とアニール処理条件との関係の一具体例を示す説明図である。
図例は、XRD装置を用いたXRC測定の(10-12)回折の半値幅(すなわち刃状転位とらせん転位両方についての測定結果)とアニール温度との関係の具体例(
図4(a)参照)、並びに、同じくXRC測定の(0002)回折の半値幅(すなわちらせん転位についての測定結果)とアニール温度との関係の具体例(
図4(b)参照)を示している。具体的には、図例の場合、第一層13の厚さが100nm、200nm、320nm、460nm、570nm、800nm、840nm、1020nmのいずれかであり、アニール無しの場合またはアニール温度が1500~1850℃であり、アニール処理の時間が1時間であり、アニール処理の直後、すなわち第二層14を成長する前に、HVPE装置200からウエハを取り出してXRC測定を行った結果を示している。
【0057】
図4(a)および
図4(b)に示す測定結果によれば、アニール処理を全く行わない場合には、第一層13の表面における平均転位密度が、従来のAlN膜と同等の1×10
10個/cm
2程度かそれ以上であり、(0002)回折の半値幅は100秒程度と小さいものの、(10-12)回折の半値幅は1000秒程度と大きな値となっている。
一方、アニール処理を行った場合には、特に1600℃以上のアニール処理によってXRC半値幅に変化が生じている。すなわち、1600℃以上の温度のアニール処理を行うことにより、XRC測定の(0002)回折の半値幅はアニール処理を行わない場合と比較して増加し、(10-12)回折の半値幅は減少している。
特に、(10-12)回折の半値幅に着目すると、アニール温度が1600~1800℃の範囲で減少が顕著であり、殊に第一層13の厚さが800nm以下の場合に、600秒以下の小さな半値幅となっている。また、第一層13の厚さが320nm以下の場合には1600~1800℃の範囲で、第一層13の厚さが460nmの場合には1720~1800℃の範囲で、(10-12)回折の半値幅は400秒以下となっており、この条件においては、転位密度に換算して1×10
9個/cm
2以下となっていると考えられる。アニール温度が1850℃以上の場合には、(10-12)回折の半値幅は700秒以上に悪化しており、アニール温度が高すぎて、転位密度が逆に増加に転じているものと考えられる。
なお、アニール時間を30~180分の間で変えた場合にも、ほぼ同様の結果が得られている。
【0058】
以上のことから、アニール工程(S3)では、上述した第一層13の高品質化を実現するための具体的な条件として、例えば、第一層13の厚さが100~800nmの範囲で、アニール処理を1600~1800℃の温度範囲で、かつ、30~180分の時間で行う。
第一層13の厚さが100nmよりも小さい場合には、第一層13成長後に表面が平坦化しておらず、アニール処理中に基板11のサファイアがエッチングされることで、第一層13が剥離してしまうため、高品質な膜を得ることが困難となる。また、第一層13の厚さが800nmよりも大きい場合には、
図4に示すように、XRC測定の(0002)回折の半値幅を600秒以下とするのは困難である。このことは、第一層13が薄い場合には、アニール処理中にAlNの構成原子が比較的自由に動き回ることで転位が減少しているという考えを支持する現象である。すなわち、第一層13が厚い場合にAlN膜の高品質化が難しくなるのは、相対的にAlN中の構成原子の自由度が低下するためと考えると、説明できるのである。
アニール処理を1600℃未満の温度で行うと、そのアニール処理の効果を十分に得られず、第一層13の表面状態を高品質化できないおそれがあり、また1850℃以上の温度でアニール処理を行うと、過剰にアニール処理を行うことになってしまい、却って第一層13の表面状態の高品質化の妨げになる。
アニール処理の時間についても同様であり、アニール処理を30分未満の時間で行うと、そのアニール処理の効果を十分に得られず、第一層13の表面状態を高品質化できないおそれがあり、また180分を超える時間でアニール処理を行うと、過剰にアニール処理を行うことになってしまい、却って第一層13の表面状態の高品質化の妨げになることが懸念される。
【0059】
ところで、アニール工程(S3)では、十分にAlN膜を高品質化できる条件でアニール処理を行うと、第一層13の表面が劣化する。具体的には、アニール処理を行う前と、アニール処理を行った後とで、第一層13の表面に以下に述べるような変化が生じることがある。
【0060】
例えば、第一層13の表面の表面粗さRMSについては、アニール工程(S3)後の表面粗さRMSが、第一層形成工程(S2)の後でアニール工程(S3)を行う前の表面粗さRMSよりも大きい。具体的には、第一層形成工程(S2)後でアニール工程(S3)前の第一層13の表面の表面粗さRMSが0.3~10nmであるのに対して、アニール工程(S3)後の第一層13の表面の表面粗さRMSが1~50nmであるといったように、それぞれの表面粗さRMSに変化が生じる。
【0061】
また、例えば、第一層13の表面に対するXRC測定の(0002)回折あるいは(0004)回折の半値幅については、アニール工程(S3)後の値が、第一層形成工程(S2)後でアニール工程(S3)前における値よりも大きくなる。具体的には、
図4に示したように、第一層形成工程(S2)後でアニール工程(S3)前の第一層13の表面に対するXRC測定の(0002)回折あるいは(0004)回折の半値幅は、第一層13の厚さが少なくとも800nm以下の場合には、50~200秒である。これに対して、アニール工程(S3)後の第一層13の表面に対するXRC測定の(0002)回折あるいは(0004)回折の半値幅は、1600~1800℃のアニール処理に対して、100~600秒であるといったように、アニール処理前後でそれぞれの値に変化が生じる。
(0002)回折あるいは(0004)回折の半値幅の増加は、一般的には、刃状転位密度の増加を示していると考えられている。しかしながら、これは主として、表面が平坦化した場合の結晶に対する議論であり、表面が荒れている場合には異なる議論が成り立つ。すなわち、表面が荒れている場合には、転位が存在していなくても、表面での原子位置あるいは格子面の向きに付加的な自由度が生じるため、(0002)回折あるいは(0004)回折の半値幅が大きく観測される場合がある。このことから考えて、少なくともアニール温度が1800℃以下の範囲では、
図4でみられる(0002)回折の半値幅の増大は、第一層13の転位密度の増大を反映したものではなく、表面荒れによるものと考えられる。後述するように、アニール処理後の第一層13上に僅か数100nmの第二層14を成長しただけであっても、表面が平坦化した場合に(0002)回折の半値幅がアニール処理前と同等程度に回復していることも、この推論(アニール処理後に転位密度が増大していない)を裏付けている。
【0062】
このように、N2ガス雰囲気でのアニール処理を第一層13が低転位化するほど行うと、その第一層13には、表面荒れ等の劣化が生じてしまう。そのため、従来は、N2ガス雰囲気でのアニール処理は用いられてこなかった。
ところが、N2ガス雰囲気でのアニール処理によって第一層13の表面に劣化が生じた場合であっても、その荒れた表面に対して追加のAlN膜を後述する所定条件下で成長させると、荒れた表面を鏡面化することができ、さらに再成長表面の転位密度を最良の場合には1×109個/cm2以下にできることを、本発明者は見出した。そこで、アニール工程(S3)の後は、第一層13に重ねて第二層14を所定条件下で成長させるべく、第二層形成工程(S4)を行うのである。
【0063】
(S4:第二層形成工程)
第二層形成工程(S4)では、第一層13が形成された基板11をHVPE装置200の成膜室201内から搬出することなく、サセプタ208を回転させるとともに、成膜室201内の加熱および排気を実施しながら、ガス供給管232dから成膜室201内へH2ガス(あるいはH2ガスとN2ガスとの混合ガス)を供給する。さらには、成膜室201内が所望の成長温度、成長圧力に到達し、成膜室201内が所望の雰囲気となった状態で、ガス供給管232b,232cからガス供給を行い、基板11の表面に対して交差する方向に、成膜ガスとしてAlClガスまたはAlCl3ガスとNH3ガスとを供給する。これらの成膜ガスは、H2ガス、N2ガスまたはこれらの混合ガスから成るキャリアガスと混合して供給してもよい。
【0064】
これにより、
図3(b)に示すように、第一層13の表面上には、AlNからなる第二層14が気相成長によりエピタキシャル成長されて形成されることとなる。このように、第二層14を気相成長によりエピタキシャル成長させて形成することで、第二層14の結晶構造は、第一層13の結晶構造に準じたものとなる。つまり、第一層13が低転位化されているので、その上に形成する第二層14についても、低転位なものとなる。具体的には、例えば、アニール処理後の第一層13の表面における平均転位密度が最良の場合には1×10
9個/cm
2以下であることから、その上に形成する第二層14の表面における平均転位密度についても最良の場合には1×10
9個/cm
2以下となる。また、第二層14の成長により、表面全域がIII族極性面であるAl極性面となる。
【0065】
第二層14の形成は、例えば、第二層14の厚さが100nm~20μmとなるように行う。このように厚く形成しても、第二層14は、低転位化された第一層13の上に形成されているので、クラックが発生し難いものとなる。下地層に転位が多いと、その下地層の内部に亀裂を多く含んでいるのと同様な状態となるので、その上に形成する層が応力に対して弱くなり割れ易くなる一方で、第一層13のような低転位な層を下地とすれば、その上に形成する第二層14内の弱い部分が少なくなって割れ難くなるためである。つまり、第一層13の上に形成する第二層14については、例えば、一般的にクラックが発生し得ると考えられる3μm以上の厚さで形成しても、クラックフリー層(クラックが存在しない層)として形成されることになる。
【0066】
また、第二層形成工程(S4)では、第二層14の形成を、例えば、HVPE装置200のサセプタ208付近が1000~1600℃の成長温度、より好ましくは1400~1600℃の成長温度を維持する状態となるように、ゾーンヒータ207(
図2中A3参照)による加熱を行う。そして、第二層14を形成するためのAlN膜の成長は、成長速度が0.5~500nm/分となるように、AlClガスまたはAlCl
3ガスおよびNH
3の供給量を調整して行う。N源とAl源の供給量比(いわゆるV/III比)は、0.2~200とする。このとき、ノズル249dからは、ノズル249a~dへの寄生的なAlN付着を防止するためにHClガスを流してもよく、その量は、AlCl
3ガスに対して0.1~100の比率とする。
【0067】
このようにして形成された第二層14は、その表面の表面粗さRMSが、例えば、10nm以下、より好ましくは1nm以下となる。
【0068】
つまり、第一層13の表面に劣化が生じた場合であっても、その第一層13が低転位化されていることを前提とした上で、その第一層13の表面に重ねて形成する第二層14を、100nm以上の厚さで、かつ、1000~1600℃の成長温度、特に1400~1600℃の成長温度で成長させると、第二層14の表面については鏡面化することができる。さらには、第二層14の表面の転位密度を最良の場合には1×109個/cm2以下にすることができる。
【0069】
図5は、第二層を構成するAlN膜の表面の転位に関する状態とアニール処理条件との関係の一具体例を示す説明図であり、XRC測定の(10-12)回折の半値幅(すなわち刃状転位とらせん転位両方についての測定結果)とアニール温度との関係の具体例(
図5(a)参照)、並びに、同じくXRC測定の(0002)回折の半値幅(すなわちらせん転位についての測定結果)とアニール温度との関係の具体例(
図5(b)参照)を示している。
図例は、第一層13上に300nmの厚さの第二層14を成長した後に測定したXRC半値幅を示したものである。さらに詳しくは、図例は、第一層13の厚さが100nm、200nm、320nm、460nm、570nm、800nm、840nm、1020nmのいずれかであり、アニール無しの場合またはアニール温度が1500~1850℃であり、アニール処理の時間が1時間である場合において、その第一層13上に300nmの厚さで形成した第二層14についてXRC測定を行った結果を示している。
【0070】
図5(a)に示す測定結果によれば、第一層13のアニール温度が1600~1800℃の範囲であり、第一層13の厚さが800nm以下の場合に、第二層14の表面に対するXRC測定の(10-12)回折の半値幅は、600秒以下となっている。また、
図5(b)に示す測定結果によれば、対応する条件での(0002)回折の半値幅は200秒以下であり、これらの条件において刃状転位およびらせん転位の双方の転位密度が低く抑えられていることがわかる。
特に、(10-12)回折の半値幅に着目すると、アニール温度が1600~1800℃の範囲で、かつ、第一層13の厚さが320nm以下の場合と、アニール温度が1700~1800℃の範囲で、かつ、第一層13の厚さが460nmの場合には、XRC測定の(10-12)回折の半値幅は400秒以下となっており、転位密度が1×10
9個/cm
2以下となっている。
なお、第二層14の厚さを、100nm~20μmと変えた場合においても、ほぼ同様の結果が得られている。
【0071】
(S2からS4までの流れ)
以上のように、本実施形態において、AlNテンプレート10の製造にあたっては、第一層形成工程(S2)、アニール工程(S3)および第二層形成工程(S4)を、同一の成長装置であるHVPE装置200を用いて連続的に行う。つまり、連続的に行うので、アニール工程(S3)の後、第一層13に対する研磨工程を挟まずに、第二層形成工程(S4)を行う。
【0072】
したがって、例えば非特許文献1に開示された手法の場合とは異なり、成長装置とは別に、COガスを流せるアニール装置を準備する必要がない。さらには、N2ガス雰囲気でのアニール処理を行うので、特に上部の第二層14へのCやO等の不純物混入を抑制することができ、また気相成長を行うHVPE装置200をそのまま用いたアニール処理も実現可能となる。
【0073】
(製造品)
以上に説明した各工程(S1~S4)を経ることで、
図1に示す本実施形態のAlNテンプレート10が製造される。
【0074】
かかるAlNテンプレート10は、基板11上に第一層13を成長させた後、N2ガス雰囲気中で1600~1800℃の温度でのアニール処理を行い、その上に第二層14を100nm以上の厚さで、かつ、1000~1600℃の成長温度、特に1400~1600℃の成長温度で成長させて得られたものであり、これにより第二層14の表面を鏡面化かつ低転位化したものである。つまり、かかるAlNテンプレート10は、HVPE装置200のみで(すなわち、成長装置とは別のアニール装置等を必要としない簡素な装置構成で)、例えば非特許文献1に開示された手法による従来品と同等以上の表面品質および結晶品質を実現したものである。
【0075】
また、かかるAlNテンプレート10は、第一層13と第二層14とが同一のHVPE装置200を用いて連続的に形成されたものであるが、第一層13の成長中には、AlN中の転位密度が多いため、成長中に基板11側からの拡散により、あるいは、成長雰囲気からの混入により、多量の酸素が取り込まれる。その濃度は、1×1018~1×1021/cm3程度である。第一層13自体は従来用いられている方法で成長しているので、この酸素濃度に関しても従来法によるものと同程度である。一方、第二層14の成長時には、下地となる第一層13がアニール処理により高品質化(低転位化)しているため、第二層14も低転位なAlNとなる。このため、第二層14の成長時には、第一層13からの若干の酸素拡散はあるものの、全体的には酸素の取り込みが抑制される。第二層14の酸素濃度は、HVPE装置200の雰囲気にも依存するが、典型的には1×1018/cm3以下となる。
【0076】
このようにして得られたAlNテンプレート10は、例えば、LED等の半導体装置(半導体デバイス)を製造する際に用いられる。すなわち、AlNテンプレート10上にn型、p型またはアンドープの多層膜を積層し、これによりAlを含む窒化物半導体積層構造を成長させて形成することで、窒化物半導体デバイスを構成することができる。かかる窒化物半導体デバイスは、例えば、ショットキーダイオード、pn接合ダイオード、発光ダイオードまたはトランジスタを実現し得るものとなる。
【0077】
(3)本実施形態により得られる効果
本実施形態によれば、以下に示す1つまたは複数の効果が得られる。
【0078】
(a)本実施形態によれば、AlNテンプレート10のAlN層12を第一層13と第二層14との二層構造とし、第一層13に対してN2ガス雰囲気でアニール処理を行った後に、その第一層13の上に第二層14を再成長させるので、高品質なAlNテンプレート10を効率的に得ることができる。
【0079】
(b)本実施形態のAlNテンプレート10は、基板11上のAlN層12が第一層13と第二層14との二層構造であり、これら第一層13および第二層14がいずれも気相成長によるエピタキシャル成長によって形成されている。したがって、例えば昇華法で形成する場合に比べると、AlNテンプレート10の大口径化や透明度確保等の点で有利である。
【0080】
(c)また、本実施形態のAlNテンプレート10は、第一層13に対してアニール処理を行っているので、これにより第一層13を低転位化することができる。しかも、第一層13が低転位化されているので、その上に形成する第二層14についても低転位なものとなる。つまり、本実施形態のAlNテンプレート10は、AlN層12の低転位化を第一層13へのアニール処理によって達成するので、低転位化のためにAlN成長厚を大きくする必要がなく、アニール処理を経ない場合よりも薄い厚さ(第一層13および第二層14の合計厚)でAlN層12の表面の低転位化を達成でき、そのAlN層12にクラックが生じる危険性を低減することができる。
しかも、低転位化された第一層13の上に第二層14を形成するので、第二層14を厚く形成してもクラックが生じ難くなる。下地層に転位が多いと、その下地層の内部に亀裂を多く含んでいるのと同様な状態となるので、その上に形成する層が応力に対して弱くなり割れ易くなる一方で、第一層13のような低転位な層を下地とすれば、その上に形成する第二層14内の弱い部分が少なくなって割れ難くなるためである。
【0081】
(d)また、本実施形態のAlNテンプレート10は、第一層13に対してN2ガス雰囲気でアニール処理を行うので、CやO等の不純物混入を抑制することができ、成長させるAlN膜の純度が低下してしまうといった懸念を解消することができる。
しかも、N2ガス雰囲気でのアニール処理であれば、AlN膜を成長させるHVPE装置200をそのまま用いて行うことが実現可能となるので、HVPE装置200とは別のアニール装置を準備する必要がない。つまり、AlNテンプレート10の製造にあたって、第一層形成工程(S2)、アニール工程(S3)および第二層形成工程(S4)をHVPE装置200で連続的に行うことが実現可能となるので、そのAlNテンプレート10の製造を非常に効率的に行うことができる。
【0082】
(e)N2ガス雰囲気でのアニール処理を結晶層が低転位化するほど行うと表面荒れ等の劣化が生じてしまうため、従来はN2ガス雰囲気でのアニール処理が用いられなかった。ところが、本実施形態においては、N2ガス雰囲気でのアニール処理によって第一層13の表面に劣化が生じた場合であっても、その荒れた表面に対して追加のAlN成長となる第二層14の形成を所定条件下で行うので、第二層14については表面を鏡面化することができ、第二層14の表面、すなわちAlN層12の表面の平均転位密度を1×109個/cm2以下にすることができる。つまり、例えアニール処理によって第一層13の表面が荒れた場合であっても、そのアニール処理によって低転位化した第一層13の上には、平坦な表面を持つ第二層14が成長可能であり、これにより高品質なAlNテンプレート10を得ることができる。
【0083】
<他の実施形態>
以上に、本発明の一実施形態を具体的に説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
【0084】
上述した実施形態では、窒化物半導体がAlNである場合、すなわち第一層13および第二層14がAlNを用いて形成されている場合を例に挙げたが、本発明がこれに限定されることはない。第一層13および第二層14は、それぞれAlを含む窒化物半導体、例えば、In1-x-yAlxGayN(0≦x+y≦1、0<x≦1、0≦y≦1)で表わされるAlN、AlInN、AlGaN、または、AlInGaNである場合には、上述した実施形態の例と同様の結果が得られる。
【0085】
また、上述した実施形態では、アニール工程(S3)においてN2ガス雰囲気でのアニール処理を行う場合を例に挙げたが、本発明がこれに限定されることはない。すなわち、アニール工程(S3)で行うアニール処理は、GaClガス、GaCl3ガス、AlClガス、AlCl3ガス、InClガス、InCl3ガス、HClガス、Cl2ガス、NH3ガスおよびH2ガスを含有しない雰囲気で第一層13に対して行うものであれば、N2ガスに代えて、例えば、アルゴン、ヘリウム等といったN2ガスとは別種の不活性ガスを使用して行うものであってもよく、その場合であっても上述した実施形態の場合と同様の技術的効果を奏する。
【0086】
また、上述した実施形態では、基板11がサファイア基板である場合について説明したが、本発明がこれに限定されることはなく、例えば基板11はSiC基板等であってもよい。ただし、基板11がSiC基板の場合には、アニール工程(S3)での最適アニール温度は1600~2000℃の範囲となる。
また、基板11の表面は、C面に限定されるものではなく、R面、A面もしくはM面、またはこれらの面から0.1~3°の範囲で傾いた面であってもよい。
【0087】
また、上述した実施形態では、HVPE装置200において、基板11の主面に対して交差する方向(主面に対して斜めの方向)にガスを流す場合について説明したが、基板11の主面に沿った方向(主面に対して平行な方向)や、基板11の主面に対して垂直な方向にガスを流してもよい。
【0088】
さらに、上述した実施形態では、HVPE装置200を用いて窒化物半導体テンプレート10を製造する場合を例に挙げたが、本発明がこれに限定されることはない。すなわち、窒化物半導体テンプレート10の製造に用いる成長装置は、第一層13および第二層14をエピタキシャル成長させて形成するものであれば、例えば、MOVPE装置等の他の気相成長装置や、スパッタ法やナトリウムフラックス法等の気相成長法以外の成長装置を用いて行うものであってもよく、その場合であっても上述した実施形態の場合と同様の技術的効果を奏する。
【0089】
さらに、上述した実施形態では、第一層形成工程(S2)、アニール工程(S3)および第二層形成工程(S4)を、同一のHVPE装置200を用いて連続的に行う場合を例に挙げたが、本発明がこれに限定されることはない。すなわち、第一層形成工程(S2)、アニール工程(S3)および第二層形成工程(S4)は、各工程を全て異なる装置を用いて行うか、またはいずれか二工程について同一の成長装置を用いて行うようにしても構わない。
【0090】
<本発明の好ましい態様>
以下、本発明の好ましい態様について付記する。
【0091】
[付記1]
本発明の一態様によれば、
基板上に窒化物半導体層が形成されてなる窒化物半導体テンプレートの製造方法であって、
前記基板上に、アルミニウムを含む窒化物半導体からなる第一層をエピタキシャル成長させて形成する第一層形成工程と、
前記第一層に対して不活性ガス雰囲気でアニール処理を行うアニール工程と、
前記アニール工程後の前記第一層上に、アルミニウムを含む窒化物半導体からなる第二層を気相成長によりエピタキシャル成長させて形成し、前記第一層と前記第二層とで前記窒化物半導体層を構成する第二層形成工程と、
を備える窒化物半導体テンプレートの製造方法が提供される。
【0092】
[付記2]
付記1に記載の窒化物半導体テンプレートの製造方法において、好ましくは、
前記基板として、C面からa軸方向またはm軸方向に0.1~3°傾いた面を表面とするサファイア基板を用いる。
【0093】
[付記3]
付記1または2に記載の窒化物半導体テンプレートの製造方法において、好ましくは、
前記基板として、2~8インチ径のサイズのものを用いる。
【0094】
[付記4]
付記1から3のいずれか一つに記載の窒化物半導体テンプレートの製造方法において、好ましくは、
前記アニール工程後の前記第一層の表面の表面粗さRMSが、前記第一層形成工程後で前記アニール工程前における前記第一層の表面の表面粗さRMSよりも大きい。
なお、表面粗さRMSは、原子間力顕微鏡による5μm×5μmサイズの像を解析することで得られる値とする。
【0095】
[付記5]
付記4に記載の窒化物半導体テンプレートの製造方法において、好ましくは、
前記第一層形成工程後で前記アニール工程前の前記第一層の表面の表面粗さRMSは、0.3~10nmであり、
前記アニール工程後の前記第一層の表面の表面粗さRMSは、1~50nmである。
【0096】
[付記6]
付記1から5のいずれか一つに記載の窒化物半導体テンプレートの製造方法において、好ましくは、
前記アニール工程後の前記第一層の表面に対するX線ロッキングカーブ測定の(000
2)回折あるいは(0004)回折の半値幅が、前記第一層形成工程後で前記アニール工
程前における値よりも大きくなる条件で、前記アニール処理を行う。
【0097】
[付記7]
付記6に記載の窒化物半導体テンプレートの製造方法において、好ましくは、
前記第一層形成工程後の前記第一層の表面に対するX線ロッキングカーブ測定の(0002)回折あるいは(0004)回折の半値幅は、50~200秒であり、
前記アニール工程後の前記第一層の表面に対するX線ロッキングカーブ測定の(0002)回折あるいは(0004)回折の半値幅は、100~600秒である。
【0098】
[付記8]
付記1から7のいずれか一つに記載の窒化物半導体テンプレートの製造方法において、好ましくは、
前記第一層形成工程では、前記第一層が連続膜となる厚さで、かつ、前記第一層にクラックが発生しない厚さとなるように、前記第一層の形成を行う。
【0099】
[付記9]
付記8に記載の窒化物半導体テンプレートの製造方法において、好ましくは、
前記第一層形成工程では、前記第一層の厚さが100~800nmとなるように、前記第一層の形成を行う。
【0100】
[付記10]
付記1から9のいずれか一つに記載の窒化物半導体テンプレートの製造方法において、好ましくは、
前記第一層形成工程では、成長完了時点(=アニール処理前のアズグロウン状態)で前記第一層が結晶化(=非アモルファス状態)する条件にて、前記第一層の形成を行う。
【0101】
[付記11]
付記10に記載の窒化物半導体テンプレートの製造方法において、好ましくは、
前記第一層形成工程では、前記第一層の形成を1000~1300℃の成長温度で行う。
【0102】
[付記12]
付記1から11のいずれか一つに記載の窒化物半導体テンプレートの製造方法において、好ましくは、
前記アニール工程では、前記アニール工程後の前記第一層の表面における平均転位密度が1×109個/cm2以下となる条件で、前記アニール処理を行う。
【0103】
[付記13]
付記1から12のいずれか一つに記載の窒化物半導体テンプレートの製造方法において、好ましくは、
前記アニール工程では、前記アニール処理の後の前記第一層の表面に対するX線ロッキングカーブ測定の(10-12)回折の半値幅が600秒以下となる条件で、前記アニール処理を行う。
【0104】
[付記14]
付記13に記載の窒化物半導体テンプレートの製造方法において、より好ましくは、
前記半値幅が400秒以下となる条件で、前記アニール処理を行う。
【0105】
[付記15]
付記1から14のいずれか一つに記載の窒化物半導体テンプレートの製造方法において、好ましくは、
前記アニール工程では、前記第一層の刃状転位を低減させる条件で、前記アニール処理を行う。
【0106】
[付記16]
付記1から15のいずれか一つに記載の窒化物半導体テンプレートの製造方法において、好ましくは、
前記基板がサファイア基板であり、
前記アニール工程では、前記アニール処理を1600~1800℃の温度範囲で行う。
【0107】
[付記17]
付記1から15のいずれか一つに記載の窒化物半導体テンプレートの製造方法において、好ましくは、
前記基板がSiC基板であり、
前記アニール工程では、前記アニール処理を1600~2000℃の温度範囲で行う。
【0108】
[付記18]
付記1から17のいずれか一つに記載の窒化物半導体テンプレートの製造方法において、好ましくは、
前記アニール工程では、前記アニール処理を30~180分の時間で行う。
【0109】
[付記19]
付記1から18のいずれか一つに記載の窒化物半導体テンプレートの製造方法において、好ましくは、
前記アニール工程では、前記アニール処理を窒素ガス雰囲気で行う。
【0110】
[付記20]
付記1から19のいずれか一つに記載の窒化物半導体テンプレートの製造方法において、好ましくは、
前記アニール工程では、水素およびアンモニアガスを含有しない雰囲気で前記アニール処理を行う。
【0111】
[付記21]
付記1から20のいずれか一つに記載の窒化物半導体テンプレートの製造方法において、好ましくは、
前記アニール工程では、窒素ガスに代えて、前記窒素ガスとは別種の不活性ガス(アルゴン、ヘリウム等)を使用して、前記アニール処理を行う。
【0112】
[付記22]
付記1から21のいずれか一つに記載の窒化物半導体テンプレートの製造方法において、好ましくは、
前記第二層形成工程では、前記第二層の表面粗さRMSが10nm以下となる条件で、前記第二層の形成を行う。
【0113】
[付記23]
付記22に記載の窒化物半導体テンプレートの製造方法において、より好ましくは、
前記第二層の表面粗さRMSを1nm以下とする。
【0114】
[付記24]
付記1から23のいずれか一つに記載の窒化物半導体テンプレートの製造方法において、好ましくは、
前記第二層形成工程では、前記第二層の形成を1000~1600℃の成長温度で行う。
【0115】
[付記25]
付記1から24のいずれか一つに記載の窒化物半導体テンプレートの製造方法において、好ましくは、
前記第二層形成工程では、前記第二層の厚さが100nm~20μmとなるように、前記第二層の形成を行う。
【0116】
[付記26]
付記1から25のいずれか一つに記載の窒化物半導体テンプレートの製造方法において、好ましくは、
前記第一層形成工程、前記アニール工程および前記第二層形成工程を、同一の成長装置を用いて連続的に行う。
【0117】
[付記27]
付記26に記載の窒化物半導体テンプレートの製造方法において、好ましくは、
前記アニール工程の後、前記第一層に対する研磨工程を挟まずに、前記第二層形成工程を行う。
【0118】
[付記28]
本発明の他の態様によれば、
基板上に窒化物半導体層が形成されてなる窒化物半導体テンプレートであって、
前記窒化物半導体層は、
前記基板上に形成され、アルミニウムを含む窒化物半導体からなり、前記基板の側の面が窒素極性面であり、前記窒素極性面と対向する側の面がIII族極性面である第一層と、
前記第一層における前記III族極性面上に形成され、アルミニウムを含む窒化物半導体からなる第二層と、を備え、
前記第一層と前記第二層とが不純物濃度の違いにより区別される
窒化物半導体テンプレートが提供される。
【0119】
[付記29]
付記28に記載の窒化物半導体テンプレートにおいて、好ましくは、
前記第一層と前記第二層との界面における前記第一層の側の表面粗さRMSは、1~50nmである。
【0120】
[付記30]
付記28または29に記載の窒化物半導体テンプレートにおいて、好ましくは、
前記第一層は、前記III族極性面の表面粗さRMSが1~50nmであり、
前記第二層は、表面の表面粗さRMSが10nm以下である。
【0121】
[付記31]
付記28から30のいずれか一つに記載の窒化物半導体テンプレートにおいて、好ましくは、
前記第一層は、100~800nmの厚さであり、
前記第二層は、100nm~20μmの厚さである。
【0122】
[付記32]
付記28から31のいずれか一つに記載の窒化物半導体テンプレートにおいて、好ましくは、
前記第二層は、3μm以上の厚さのクラックフリー層である。
【0123】
[付記33]
付記28から32のいずれか一つに記載の窒化物半導体テンプレートにおいて、好ましくは、
前記第二層の表面における平均転位密度が1×109個/cm2以下である。
【0124】
[付記34]
付記28から33のいずれか一つに記載の窒化物半導体テンプレートにおいて、好ましくは、
前記第二層の表面全域がIII族極性面となっている。
【0125】
[付記35]
付記28から34のいずれか一つに記載の窒化物半導体テンプレートにおいて、好ましくは、
前記基板が表面凹凸パターンを有しておらず、
前記基板と前記第一層との間には、前記表面凹凸パターンに起因するボイドが存在していない。
【0126】
[付記36]
付記28から35のいずれか一つに記載の窒化物半導体テンプレートにおいて、好ましくは、
前記第一層および前記第二層は、In1-x-yAlxGayN(0≦x+y≦1、0<x≦1、0≦y≦1)で表わされる窒化アルミニウム、窒化インジウムアルミニウム、窒化アルミニウムガリウム、または、窒化アルミニウムガリウムインジウムからなる。
【0127】
[付記37]
本発明のさらに他の態様によれば、
請求項28から36のいずれか一つに記載の窒化物半導体テンプレートと、
前記窒化物半導体テンプレート上に成長して形成された窒化物半導体積層構造と、
を備える窒化物半導体デバイスが提供される。
【0128】
[付記38]
付記37に記載の窒化物半導体デバイスにおいて、好ましくは、
前記窒化物半導体積層構造は、In1-x-yAlxGayN(0≦x+y≦1、0<x≦1、0≦y≦1)で表わされる、n型、p型またはアンドープの多層膜を積層してなるものであり、ショットキーダイオード、pn接合ダイオード、発光ダイオードまたはトランジスタを実現するものである。
【符号の説明】
【0129】
10…窒化物半導体テンプレート(AlNテンプレート)、11…基板、12…窒化物半導体層、13…第一層、14…第二層、200…HVPE装置