(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-22
(45)【発行日】2022-03-30
(54)【発明の名称】糖誘導体、抗菌剤および化粧料
(51)【国際特許分類】
C08B 37/16 20060101AFI20220323BHJP
A61K 8/73 20060101ALI20220323BHJP
A61K 31/724 20060101ALI20220323BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20220323BHJP
A61P 31/04 20060101ALI20220323BHJP
A61P 31/10 20060101ALI20220323BHJP
【FI】
C08B37/16
A61K8/73
A61K31/724
A61P17/00 101
A61P31/04
A61P31/10
(21)【出願番号】P 2017151947
(22)【出願日】2017-08-04
【審査請求日】2020-07-10
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成27年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果展開事業 研究成果最適展開支援プログラム、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】304021277
【氏名又は名称】国立大学法人 名古屋工業大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000185363
【氏名又は名称】小池化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001128
【氏名又は名称】特許業務法人ゆうあい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山村 初雄
(72)【発明者】
【氏名】宮川 淳
(72)【発明者】
【氏名】小見 宏幸
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼田 健太
(72)【発明者】
【氏名】竹内 彩乃
【審査官】阿久津 江梨子
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-111562(JP,A)
【文献】J. Med. Chem.,2008年,Vol. 51,pp. 7563-7573
【文献】Chem. Commun.,2014年,Vol. 50,pp. 5444-5446
【文献】Chemical Biology & Drug Design,2017年04月04日,Vol. 90, No. 5,pp. 1012-1018
【文献】Chem. Pharm. Bull.,2017年04月01日,Vol. 65, No. 4,pp. 312-317
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08B 37/16
A61K 8/73
A61K 31/724
A61P 17/00
A61P 31/04
A61P 31/10
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の一般式(1)
で示される糖誘導体またはその塩であって、
前記糖誘導体のClogPが
-4.6以上
-2.6以下の範囲内にある糖誘導体またはその塩。
【化2】
(一般式(1)
において、単糖は
グルコースであり、トリアゾールの窒素は単糖の一級水酸基と置換している。さらに、R
1はアルキレン基を示し、R
2はアルキル基を示し、nは
6または7である。)
【請求項2】
前記ClogPが-4.0以上の範囲内にある請求項
1に記載の糖誘導体またはその塩。
【請求項3】
請求項1
または2に記載の糖誘導体またはその塩を含む抗菌剤。
【請求項4】
請求項1
または2に記載の糖誘導体またはその塩を含む化粧料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糖誘導体、抗菌剤および化粧料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
化粧品では、パラベン類やフェノキシエタノールなどの防腐剤が配合されている。しかし、防腐剤の使用については、種々の課題がある。例えば、パラベン類の使用については、刺激を感じる人や安全性にネガティブなイメージを持っている一定数の消費者がいるという課題がある。フェノキシエタノールの使用については、フェノキシエタノールは臭いがあるという課題がある。このような背景があり、パラベンを含む既存の防腐剤を使用しない、防腐剤フリーといったカテゴリーの製品が市場に投入されつつあり、消費者の認知度も高くなってきている。
【0003】
また、特許文献1に、単糖がグリコシド結合で鎖状または環状に連結した糖誘導体が記載されている。この糖誘導体は、抗菌性を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
防腐剤フリーの化粧品を実現するためには、抗菌性を有し、人に対して安全性が高い原料が必要となる。また、人の皮膚に塗布して使用される医薬品や、人が使用する工業用品および雑貨などの製品に抗菌性を持たせるためには、抗菌性を有し、人に対して安全性が高い原料が必要となる。
【0006】
本発明は上記点に鑑みて、抗菌性を有し、かつ、安全性が高い化合物を提供することを目的とする。また、本発明は、抗菌性を有し、かつ、安全性が高い抗菌剤を提供することを他の目的とする。また、本発明は、抗菌性を有し、かつ、安全性が高い化粧料を提供することを他の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、特許文献1に記載の糖誘導体を改良することで、本発明の糖誘導体、抗菌剤および化粧料を完成するに至った。
【0008】
すなわち、上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明は、
下記の一般式(1)で示される糖誘導体またはその塩であって、
糖誘導体のClogPが-4.6以上-2.6以下の範囲内にある糖誘導体またはその塩である。なお、下記の一般式(2)は、参考として記載されている。
【0009】
【0010】
ここで、一般式(1)において、単糖はグリコシド結合で連結しており、トリアゾールの窒素は単糖の一級水酸基と置換している。さらに、R1はアルキレン基を示し、R2はアルキル基を示し、nは6または7である。
【0011】
これによれば、グラム陽性菌およびグラム陰性菌に対する抗菌性を有する化合物が得られる。さらに、これによれば、細胞毒性が低い(すなわち、細胞に対して作用が強すぎない)化合物が得られる可能性が高くなる。よって、グラム陽性菌およびグラム陰性菌に対する抗菌性を有し、かつ、安全性が高い化合物を提供することが可能となる。
【0015】
さらに、これによれば、真菌に対する抗菌性を有する化合物が得られる可能性が高くなる。
【0016】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、ClogPが-4.0以上の範囲内にある糖誘導体またはその塩である。
【0017】
これによれば、グラム陽性菌およびグラム陰性菌に対して強い抗菌性を有し、真菌に対する抗菌性を有し、さらに、細胞毒性がより低い化合物が得られる可能性が高くなる。よって、グラム陽性菌、グラム陰性菌および真菌に対する抗菌性を有し、かつ、安全性が高い化合物を提供することが可能となる。
【0018】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の糖誘導体またはその塩を含む抗菌剤である。上記の糖誘導体またはその塩は、抗菌性を有し、かつ、安全性が高い化合物である。よって、これによれば、抗菌性を有し、かつ、安全性が高い抗菌剤を提供することができる。
【0019】
請求項4に記載の発明は、請求項1または2に記載の糖誘導体またはその塩を含む化粧料である。上記の糖誘導体またはその塩は、抗菌性を有し、かつ、安全性が高い化合物である。また、一般式(1)で示される上記の糖誘導体またはその塩は、分子量が500よりも大きい。このため、上記の糖誘導体またはその塩が、角質下へ浸透する可能性は低い。よって、これによれば、抗菌性を有し、かつ、安全性が高い化粧品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】グラム陽性菌についてのMICの測定結果とシクロデキストリン誘導体のClogPとの関係を示す図である。
【
図2】グラム陰性菌についてのMICの測定結果とシクロデキストリン誘導体のClogPとの関係を示す図である。
【
図3】真菌についてのMICの測定結果とシクロデキストリン誘導体のClogPとの関係を示す図である。
【
図4】シクロデキストリン濃度が0.0125%のときの細胞生存率(%)とシクロデキストリン誘導体のClogPとの関係を示す図である。
【
図5】シクロデキストリン濃度が0.0125%のときの細胞生存率(%)とシクロデキストリン誘導体のClogPとの関係を示す図である。
【
図6】培養表皮モデル試験に用いた培養表皮モデルを示す図である。
【
図7A】番号5の化合物についての培養皮膚モデル試験結果、細胞毒性試験結果および眼刺激性試験結果を示す図である。
【
図7B】番号8の化合物についての培養皮膚モデル試験結果、細胞毒性試験結果および眼刺激性試験結果を示す図である。
【
図7C】番号11の化合物についての培養皮膚モデル試験結果、細胞毒性試験結果および眼刺激性試験結果を示す図である。
【
図7D】番号12の化合物についての培養皮膚モデル試験結果、細胞毒性試験結果および眼刺激性試験結果を示す図である。
【
図8A】番号5の化合物についての各濃度におけるIL-1αの測定結果を示す図である。
【
図8B】番号8の化合物についての各濃度におけるIL-1αの測定結果を示す図である。
【
図8C】番号11の化合物についての各濃度におけるIL-1αの測定結果を示す図である。
【
図8D】番号12の化合物についての各濃度におけるIL-1αの測定結果を示す図である。
【
図9】メチルパラベンおよびフェノキシエタノールと、番号5、8、11、12の化合物とにおけるIL-1α産生量を示す図である。
【
図10】番号5、8、11、12の化合物のそれぞれについての吸収スペクトルを示す図である。
【
図11】番号5、8、11、12の化合物のそれぞれについてのモル吸光度係数を示す図表である。
【
図12】ヒトパッチテストの判定基準を示す図表である。
【
図13】香粧品の皮膚刺激指数による分類を示す図表である。
【
図14】ヒトパッチテストの試験結果を示す図表である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
まず、本発明の糖誘導体の代表例であるシクロデキストリン誘導体について説明する。本実施形態のシクロデキストリン誘導体は、上記の一般式(1)において、単糖がグルコースであり、R1がアルキレン基であり、R2がアルキル基であり、n=6、7または8である化合物である。なお、n=8の化合物は、参考として記載されたものである。
【0022】
シクロデキストリンは、単糖であるグルコースが環状に連なった環状糖質である。グルコースの数が6個のものは、αシクロデキストリンと呼ばれる。グルコースの数が7個のものは、βシクロデキストリンと呼ばれる。グルコースの数が8個のものは、γシクロデキストリンと呼ばれる。
【0023】
本実施形態のシクロデキストリン誘導体のデザインとして、シクロデキストリン上に複数のアルキルアミノ部を集積させた。親水性であるシクロデキストリンのグルコース部分にトリアゾール部を介してアミノ部を連結することで、親水性でかつ陽イオン性部分を構成し、一方、アルキル部が疎水性部分を形成する。この疎水性基を併せ持つアミノ基が細菌膜傷害性抗菌官能基となる。これによって、本実施形態のシクロデキストリン誘導体は、細胞膜を傷害して細菌への抗菌性を実現する。
【0024】
細胞膜を傷害して細菌への抗菌性を実現する抗菌剤は、耐性菌の発生を抑制できることが知られている。したがって、本実施形態のシクロデキストリン誘導体においても、耐性菌の発生を抑制することが期待できる。
【0025】
本実施形態のシクロデキストリン誘導体の合成において鍵となるのは、アルキルアミノ部をシクロデキストリン分子上に備え付けることである。ペプチド様の抗菌構造を実現するには、シクロデキストリンを構成するすべてのグルコース上に反応を起こす多点反応を実現せねばならない。それには、本発明者が開発したマイクロ波照射による加熱条件下でのクリック反応(Chem. Lett. 2013、42,643参照)によって官能基を導入する方法が有効である。
【0026】
以下に一般的な合成法を記す。まず、シクロデキストリンを塩化メタンスルホニルと反応させて、その6位をクロロ化する。次に、アジ化ナトリウムを使用して、このクロロ基をアジド基に置換し、さらに、二級水酸基のアセチル化を無水酢酸によって行った。その後に該当するアミノ化アルキンを、銅触媒の存在下でのマイクロ波加熱(120℃)によって反応させてクリック反応を行い、アミノ基をシクロデキストリン上に導入する。引き続き、ナトリウムメトキシド/メタノール、トリフルオロ酢酸処理を行って、目的とする疎水性基とアミノ基を併せ持つシクロデキストリン誘導体を合成する。
【0027】
これによって、アルキルアミノ部が結合したメチルトリアゾール基が、分子内に6~8個含まれるシクロデキストリン誘導体を合成することができる。
【0028】
また、本実施形態のシクロデキストリン誘導体では、そのClogPが-8.8以上0.6以下の範囲内にある。
【0029】
ClogPとは、水とオクタノールの2相系において、それぞれに分配している有機化合物の濃度の比をもとにした分配係数で、その有機化合物の疎水性を示す指標であり、フラグメント法等により算出されうる。ClogPの算出においては、Cambridge Soft社の化学構造描画、物性計算ツールであるChemBioDraw Ultra 14等の市販のソフトウエアを用いればよい。本明細書等に記載したClogPはChemBioDraw Ultra 14を用いて計算した数値である。
【0030】
後述する実施例に示すように、ClogPを-8.8以上0.6以下の範囲内とすることで、グラム陽性菌およびグラム陰性菌に対する抗菌性を有する化合物が得られる。さらに、これによれば、細胞毒性が低い化合物が得られる可能性が高くなる。
【0031】
本実施形態のシクロデキストリン誘導体では、そのClogPが-8.8以上-2.6以下の範囲内にあることが好ましい。ClogPをこの数値範囲内とすることで、グラム陽性菌およびグラム陰性菌に対して強い抗菌性を有する化合物が得られる可能性が高くなる。
【0032】
本実施形態のシクロデキストリン誘導体では、そのClogPが-4.6以上-2.6以下の範囲内にあることがより好ましい。ClogPをこの数値範囲内とすることで、グラム陽性菌およびグラム陰性菌に対して強い抗菌性を有し、さらに、真菌に対する抗菌性を有する化合物が得られる可能性が高くなる。
【0033】
本実施形態のシクロデキストリン誘導体では、そのClogPが-4.0以上-2.6以下の範囲内にあることがより好ましい。ClogPをこの数値範囲内とすることで、グラム陽性菌およびグラム陰性菌に対して強い抗菌性を有し、真菌に対する抗菌性を有し、さらに、細胞毒性がより低い化合物が得られる可能性が高くなる。
【0034】
このように、本実施形態のシクロデキストリン誘導体は、抗菌性を有する、または、抗菌性を有することが期待できる。本実施形態のシクロデキストリン誘導体は、化粧料や食品で既に使用されているオリゴ糖を骨格としている。さらに、本実施形態のシクロデキストリン誘導体は、後述する実施例に示すように、細胞毒性が低く、安全性試験の結果においても、安全性が高いことが確認されている。したがって、本実施形態のシクロデキストリン誘導体は、人に対する安全性が高い化合物である。
【0035】
したがって、本実施形態のシクロデキストリン誘導体を含むものは抗菌剤となる。この抗菌剤は、抗菌性を発揮するために、本実施形態のシクロデキストリン誘導体を有効成分として含む。この抗菌剤は、人に対する安全性が高いため、人の皮膚に塗布して使用される医薬品や、人が使用する工業用品および雑貨などの製品への適用が可能である。
【0036】
また、上記背景技術に記載の通り、現在、化粧品に使用されているパラベン類やフェノキシエタノールなどの防腐剤は、皮膚刺激や臭いの課題がある。
【0037】
これに対して、本実施形態のシクロデキストリン誘導体は、分子量が500よりも大きい。分子量が500以下の物質は角層下へ浸透することが報告されている(Exp Dermatol 2000:9:165-169参照)。このことから、本実施形態のシクロデキストリン誘導体は、角層下へ浸透する可能性が低い。また、後述する実施例における培養表皮モデル試験の結果より、本実施形態のシクロデキストリン誘導体は、メチルパラベンおよびフェノキシエタノールよりも皮膚刺激性が低いことが確認されている。このため、本実施形態のシクロデキストリン誘導体は、皮膚刺激の懸念が無く、人に対して安全性が高い。
【0038】
また、本実施形態のシクロデキストリン誘導体は、臭いが無いシクロデキストリンを骨格としているので、化合物全体としても臭いが無い。
【0039】
よって、本実施形態のシクロデキストリン誘導体は、化粧品原料としての使用が可能である。すなわち、本実施形態のシクロデキストリン誘導体を含む化粧料は、抗菌性を有し、人に対して安全性が高い。
【0040】
上述の通り、本実施形態のシクロデキストリン誘導体においては、アミノ基を含む構造がトリアゾール部を介して導入され、かつ、アルキル部を併せ持つグルコースを複数個含むことが、抗菌性の実現に寄与する。すなわち、アルキルアミノアルキルトリアゾール基を導入したグルコースを複数個含むことが、抗菌性の実現に寄与する。
【0041】
したがって、グルコースが鎖状に連なって形成された、オリゴ糖又は多糖グルカンにおいて、そのグルコース部にアルキルアミノアルキルトリアゾール基を導入すれば抗菌性を現すと考えられる。さらに、グルコースの異性体にはマンノースに代表される単糖ヘキソースがある。これらはグルコースと同じ数の炭素と水酸基を持ち、同様の親水性を持つ。そして、それが連なったオリゴ糖~多糖が存在し、代表としてマンナンがある。これらもまた、その繰り返し構造である単糖の上に、上記と同様の構造のアルキルアミノアルキルトリアゾール基を導入すれば抗菌性を現すと考えられる。
【0042】
よって、本実施形態のシクロデキストリン誘導体以外の上記した一般式(1)または一般式(2)で示される糖誘導体またはその塩においても、本実施形態のシクロデキストリン誘導体と同様の効果が得られると考えられる。
【0043】
また、本実施形態のシクロデキストリン誘導体以外の上記した一般式(1)または一般式(2)で示される糖誘導体またはその塩を含む抗菌剤も、抗菌性を有し、かつ、安全性が高い抗菌剤となる。
【0044】
また、本実施形態のシクロデキストリン誘導体以外の上記した一般式(1)または一般式(2)で示される糖誘導体またはその塩を含む化粧料も、抗菌性を有し、かつ、安全性が高い化粧料となる。
【0045】
一般式(1)または一般式(2)で示される糖誘導体またはその塩において、nは2以上の整数である。一般式(1)または一般式(2)で示される化合物の分子量は、R1=CH2、R2=CH3のときが最小となる。このときの糖ユニットの式量は256である。このため、n=2のときの化合物の分子量は、256×2=512である。よって、一般式(1)または一般式(2)で示される化合物の分子量は、500よりも大きい。このため、上記の糖誘導体またはその塩が、角質下へ浸透する可能性は低い。よって、上記の糖誘導体またはその塩を化粧料に用いても安全性を確保できる。
【0046】
一般式(1)または一般式(2)で示される糖誘導体またはその塩において、nは実際に存在するオリゴ糖または多糖を構成する数である。例えば、nは1000以下である。nは100以下であることが好ましい。
【0047】
糖誘導体の塩としては、トリフルオロ酢酸塩、塩酸塩、アスパラギン酸塩、アスコルビン酸塩、クエン酸塩等が挙げられる。一般式(1)または一般式(2)で示される糖誘導体の塩では、常に活性本体である糖誘導体のClogPが-8.8以上0.6以下の範囲内にある。
【0048】
一般式(1)または一般式(2)で示される糖誘導体またはその塩において、単糖としては、グルコース、マンノースに代表される単糖ヘキソースが挙げられる。
【実施例】
【0049】
(実施例1)
表1に示す番号1-19の化合物を合成した。番号1-19の化合物は、一般式(1)中のn、R1、R2のそれぞれが表1に示される基であるシクロデキストリン誘導体である。番号5-8、11-14の化合物が本発明の実施例であり、番号18、19の化合物が比較例である。番号1-4、9、10、15-17の化合物が参考例である。番号1-15の化合物のR2は、炭素数が5、6または7のアルキル基である。
【0050】
【0051】
【0052】
合成した化合物の構造を核磁気共鳴スペクトル、質量分析、元素分析より確認した。また、合成した化合物のそれぞれについて、最小発育阻止濃度(MIC)測定および細胞毒性試験を行った。各化合物の合成方法、MIC測定の測定方法、細胞毒性試験の試験方法は、以下の通りである。
【0053】
[番号3の化合物の合成]
硫酸銅五水和物1.90 mg (7.61×10-6 mol)を200 μlの純水に溶かし、アスコルビン酸ナトリウム18.3 mg(9.24×10-5 mol)を200 μlの純水に溶かしたものを加えた。その溶液を、DMSO 1 mlに溶かしたオクタキス(2,3-アセチル-6-アジド)γシクロデキストリン19.8 mg(9.13×10-6 mol)に加えた。ここにDMSO 1 mlに溶かした第三ブトキシカルボニル化N―(n-ヘキシル)―N―(2-プロピニル)アミン22.1 mg(9.24×10-5 mol)を加えた。これにマイクロ波を照射し加熱(30 分, 120℃)した後、酢酸エチルに溶かし、これを5 %EDTA二ナトリウム水溶液で洗浄し、減圧留去にて溶媒を除去した残渣をシリカゲルカラム (塩化メチレン/メタノール) により精製し、白色固体30.7 mg(収率82.4 %)を得た。この白色固体28.1 mg(6.88×10-5 mol)をメタノール2 mlを加えて溶解させた。続いて、28%ナトリウムメトキシドーメタノールをpHが10になるまで加え、室温で5時間攪拌した。その後、陽イオン交換樹脂をpH が7になるまで加えた。陽イオン交換樹脂を濾去し、減圧留去により白色固体21.1 mg(収率90.1 %)を得た。この白色固体14.3mg(4.19×10-5 mol)にトリフルオロ酢酸2mlを加え、5.5時間、攪拌し、溶媒留去により白色固体14.4 mg(収率97.9 %)を得た。
【0054】
[番号4の化合物の合成]
硫酸銅五水和物14.3 mg (5.73×10-5 mol)を1.5 mlの純水に溶かし、アスコルビン酸ナトリウム134 mg(6.77×10-4 mol)を1.5 mlの純水に溶かしたものを加えた。その溶液を、DMSO 7 mlに溶かしたオクタキス(2,3-アセチル-6-アジド)γシクロデキストリン151 mg(6.95×10-5 mol)に加えた。ここにDMSO 8 mlに溶かした第三ブトキシカルボニル化N―(4-メチルペンチル)―N―(2-プロピニル)アミン166 mg(6.94×10-4 mol)を加えた。これにマイクロ波を照射し加熱(30 分, 120℃)した後、酢酸エチルに溶かし、これを5 %EDTA二ナトリウム水溶液で洗浄し、減圧留去にて溶媒を除去した残渣をシリカゲルカラム (塩化メチレン/メタノール) により精製し、白色固体211 mg(収率74.4 %)を得た。この白色固体188 mg(4.61×10-5 mol)をメタノール3 mlを加えて溶解させた。続いて、28%ナトリウムメトキシドーメタノールをpHが10になるまで加え、室温で5.5時間攪拌した。その後、陽イオン交換樹脂をpH が7になるまで加えた。陽イオン交換樹脂を濾去し、減圧留去により白色固体149 mg(収率94.6 %)を得た。この白色固体101mg(2.96×10-5mol)にトリフルオロ酢酸3 mlを加え、4.5時間、攪拌し、溶媒留去により白色固体102 mg(収率97.6 %)を得た。
【0055】
[番号5のシクロデキストリン誘導体の合成]
硫酸銅五水和物15.2 mg (6.09×10-5 mol)を1.0 mlの純水に溶かし、アスコルビン酸ナトリウム130 mg(6.56×10-4 mol)を1.0 mlの純水に溶かしたものを加えた。その溶液を、DMSO 5 mlに溶かしたヘプタキス(2,3-アセチル-6-アジド)βシクロデキストリン100 mg(5.27×10-5 mol)に加えた。ここにDMSO 5 mlに溶かした第三ブトキシカルボニル化N―(シクロヘキシルメチル)―N―(2-プロピニル)アミン142 mg(5.66×10-4mol)を加えた。これにマイクロ波を照射し加熱(30 分, 100℃)した後、酢酸エチルに溶かし、これを5 %EDTA二ナトリウム水溶液で洗浄し、減圧留去にて溶媒を除去した残渣をシリカゲルカラム (塩化メチレン/メタノール) により精製し、白色固体155 mg(収率80.6 %)を得た。この白色固体125 mg(3.42×10-5 mol)をメタノール4 mlに溶解させた。続いて、28%ナトリウムメトキシドーメタノール 30 μl加え、室温で7時間攪拌した。その後、陽イオン交換樹脂をpH が7になるまで加えた。陽イオン交換樹脂を濾去し、減圧留去により白色固体104 mg(収率99.1%)を得た。同様の合成で得られたものを加えた白色固体140mg(4.56×10-5mol)にトリフルオロ酢酸5 mlを加え、8時間、攪拌し、溶媒留去により白色固体116 mg(収率80.2 %)を得た。
【0056】
[番号8の化合物の合成]
硫酸銅五水和物6.9 mg (2.77×10-5 mol)を1.0 mlの純水に溶かし、アスコルビン酸ナトリウム68.5 mg(3.46×10-4 mol)を1.0 mlの純水に溶かしたものを加えた。その溶液を、DMSO 5 mlに溶かしたヘプタキス(2,3-アセチル-6-アジド)βシクロデキストリン75.0 mg(4.60×10-5 mol)に加えた。ここにDMSO 5 mlに溶かした第三ブトキシカルボニル化N―(n-ヘキシル)―N―(2-プロピニル)アミン99.2 mg(4.15×10-4 mol)を加えた。これにマイクロ波を照射し加熱(30 分, 100℃)した後、酢酸エチルに溶かし、これを5 %EDTA二ナトリウム水溶液で洗浄し、減圧留去にて溶媒を除去した残渣をシリカゲルカラム (塩化メチレン/メタノール) により精製し、白色固体126 mg(収率89.1 %)を得た。同様の方法で合成したものを加えた白色固体146 mg(4.08×10-5 mol)をメタノール3mlに溶解させた。続いて、28%ナトリウムメトキシドーメタノール 20 μl加え、室温で6.5時間攪拌した。その後、陽イオン交換樹脂をpH が7になるまで加えた。陽イオン交換樹脂を濾去し、減圧留去により白色固体114 mg(収率93.6%)を得た。この白色固体107mg(3.59×10-5mol)にトリフルオロ酢酸5 mlを加え、6時間、攪拌し、溶媒留去により白色固体92.2 mg(収率83.3 %)を得た。
【0057】
[番号11の化合物の合成]
硫酸銅五水和物 9.3 mg (3.76×10-5 mol)を1.0 mlの純水に溶かし、アスコルビン酸ナトリウム98.1 mg(4.95×10-4 mol)を1.0 mlの純水に溶かしたものを加えた。その溶液を、DMSO 5 mlに溶かしたヘキサキス(2,3-アセチル-6-アジド)αシクロデキストリン100 mg(6.15×10-5 mol)に加えた。ここにDMSO 5 mlに溶かした第三ブトキシカルボニル化N―(シクロヘキシルメチル)―N―(2-プロピニル)アミン140 mg(5.55×10-4mol)を加えた。これにマイクロ波を照射し加熱(10 分, 100℃)した後、酢酸エチルに溶かし、これを5 %EDTA二ナトリウム水溶液で洗浄し、減圧留去にて溶媒を除去した残渣をシリカゲルカラム (塩化メチレン/メタノール) により精製し、白色固体169 mg(収率87.5 %)を得た。この白色固体160 mg(5.10×10-5 mol)をメタノール3mlに溶解させた。続いて、28%ナトリウムメトキシドーメタノール 20 μl加え、室温で8.5時間攪拌した。その後、陽イオン交換樹脂をpH が7になるまで加えた。陽イオン交換樹脂を濾去し、減圧留去により白色固体124 mg(収率92.1 %)を得た。この白色固体115 mg(4.37×10-5mol)にトリフルオロ酢酸3 mlを加え、8時間、攪拌し、溶媒留去により白色固体101 mg(収率85.2 %)を得た。
【0058】
[番号12の化合物の合成]
硫酸銅五水和物 18.8 mg (7.53×10-5 mol)を1.0 mlの純水に溶かし、アスコルビン酸ナトリウム183 mg(9.21×10-4 mol)を1.0 mlの純水に溶かしたものを加えた。その溶液を、DMSO 5 mlに溶かしたヘキサキス(2,3-アセチル-6-アジド)αシクロデキストリン200 mg(6.15×10-5 mol)に加えた。ここにDMSO 5 mlに溶かした第三ブトキシカルボニル化N―(4-メチルペンチル)―N―(2-プロピニル)アミン219 mg(9.15×10-4 mol)を加えた。これにマイクロ波を照射し加熱(10 分, 100℃)した後、酢酸エチルに溶かし、これを5 %EDTA二ナトリウム水溶液で洗浄し、減圧留去にて溶媒を除去した残渣をシリカゲルカラム (塩化メチレン/メタノール) により精製し、白色固体343 mg(収率91.1 %)を得た。この白色固体68.0 mg(2.22×10-5 mol)をメタノール3mlに溶解させた。続いて、28%ナトリウムメトキシドーメタノール 20 μl加え、室温で7時間攪拌した。その後、陽イオン交換樹脂をpH が7になるまで加えた。陽イオン交換樹脂を濾去し、減圧留去により白色固体56.0 mg(収率98.6 %)を得た。この白色固体54.1 mg(2.11×10-5mol)にトリフルオロ酢酸2 mlを加え、7時間、攪拌し、溶媒留去により白色固体52.3 mg(収率93.6 %)を得た。
【0059】
[その他の化合物の合成]
番号1、2、16、17の化合物については、番号3の化合物の合成に使用した第三ブトキシカルボニル化N―(n-ヘキシル)―N―(2-プロピニル)アミン第三ブトキシカルボニル化n-ヘキシルアミノプロピンに換えて、第三ブトキシカルボニル化N―(n-ペンチル)―N―(2-プロピニル)アミン、第三ブトキシカルボニル化N―(3-メチルブチル)―N―(2-プロピニル)アミン、第三ブトキシカルボニル化N―(5-ヘキセニル)―N―(2-プロピニル)アミン、第三ブトキシカルボニル化N―(6-ヘプテニル)―N―(2-プロピニル)アミンをそれぞれ用いることで合成した。
【0060】
番号6、7、9の化合物については、番号5の化合物の合成に使用した第三ブトキシカルボニル化N―(シクロヘキシルメチル)―N―(2-プロピニル)アミンに換えて、第三ブトキシカルボニル化N―(4-メチルペンチル)―N―(2-プロピニル)アミン、第三ブトキシカルボニル化N―(2-エチルブチル)―N―(2-プロピニル)アミン、第三ブトキシカルボニル化N―(2-エチルブチル)―N―(n-ヘプチル)アミンをそれぞれ用いることで合成した。
【0061】
番号10、13-15の化合物については、番号11の化合物の合成に使用した第三ブトキシカルボニル化N―(シクロヘキシルメチル)―N―(2-プロピニル)アミンに換えて、第三ブトキシカルボニル化N―(n-ペンチル)―N―(2-プロピニル)アミン、第三ブトキシカルボニル化N―(2-エチルブチル)―N―(2-プロピニル)アミン、第三ブトキシカルボニル化N―(n-ヘキシル)―N―(2-プロピニル)アミン、第三ブトキシカルボニル化N―(n-ヘプチル)―N―(2-プロピニル)アミンをそれぞれ用いることで合成した。
【0062】
[MIC測定]
MIC測定では、化粧品の保存効力試験で使用する菌種として、グラム陽性菌であるStaphylococcus aureus、グラム陰性菌であるEscherichia coli、真菌であるCandida albicansを用いた。これら細菌についての最小発育阻止濃度(MIC)を測定した。
【0063】
ここでは、微量液体希釈によるMIC測定方法で測定した。シクロデキストリン誘導体として、精製水で2倍希釈系列を作製したものを用いた。これと細菌液とを培地と混合して37℃、20時間培養した。その結果、菌が増殖できなかった最も低い薬剤濃度をMICと定めた。
【0064】
一般的に、グラム陽性菌とグラム陰性菌とのそれぞれについてのMIC値が800μg/mL以下の化合物は、グラム陽性菌とグラム陰性菌とのそれぞれに対して抗菌性を有すると判断される。同様に、真菌についてのMIC値が800μg/mL以下の化合物は、細菌に対して抗菌性を有すると判断される。
【0065】
[細胞毒性試験]
合成した化合物のそれぞれについて、ヒト繊維芽細胞を対象とした細胞毒性試験を実施した。シクロデキストリン誘導体の濃度が所定の試験濃度となるように、シクロデキストリン誘導体含有培地を調製し、細胞に添加した。細胞とサンプルの接触のために、24時間CO2インキュベーターで細胞を培養した。その後、MTT試薬添加培地に交換し、3時間CO2インキュベーターで培養した。MTT試薬は、細胞に取り込まれミトコンドリア内で不溶性のホルマザンを生成するため、生細胞では、ホルマザンが蓄積され細胞が青黒くなる。ホルマザンを抽出液(0.04N塩酸IPA溶液)で溶出後、570nmの吸光度を測定した。その測定結果に基づいて生細胞数存在割合(すなわち、細胞生存率)を算出した。そして、生細胞数存在割合から40%以上を細胞毒性無と判定した。
【0066】
表2に、番号1-19の化合物のそれぞれのClogPの算出値、MIC測定結果および細胞毒性試験結果を示す。
【0067】
【0068】
[グラム陽性菌についてのMIC測定結果]
表1に示すように、グラム陽性菌についてのMICは、番号1-17の化合物のいずれも、64μg/mL以下であった。したがって、番号1-17の化合物のいずれも、グラム陽性菌に対して抗菌性を有する。比較例としての番号18、19の化合物のMICは、それぞれ、128μg/mL、256μg/mL超であり、具体的な数値は不明である。したがって、番号18の化合物はグラム陽性菌に対して抗菌性を有するが、番号19の化合物がグラム陽性菌に対して抗菌性を有するかは不明である。
【0069】
図1に、表1中のグラム陽性菌についてのMICの測定結果とシクロデキストリン誘導体のClogPとの関係を示す。
図1より、ClogPが-8.8以上0.6以下の範囲内のとき、MIC値が64μg/mL以下の小さな値を示すことがわかる。一方、ClogPが-13.1および0.66のそれぞれのときでは、MIC値は64μg/mLよりも大きな値を示す。よって、ClogPが-8.8以上0.6以下の範囲内のシクロデキストリン誘導体は、ClogPがその範囲外のものと比較して、グラム陽性菌に対する抗菌性が高いことがわかる。
【0070】
[グラム陰性菌についてのMIC測定結果]
表1に示すように、グラム陰性菌についてのMICは、番号1-17の化合物のいずれも、128μg/mL以下であった。したがって、番号1-17の化合物のいずれも、グラム陰性菌に対して強い抗菌性を有する。比較例としての番号18、19の化合物のMICは、どちらも、128μg/mL超であり、具体的な数値は不明である。したがって、番号18、19の化合物のどちらも、グラム陽性菌に対して抗菌性を有するかは不明である。
【0071】
図2に、表1中のグラム陰性菌についてのMICの測定結果とシクロデキストリン誘導体のClogPとの関係を示す。
図2より、ClogPが-8.8以上0.6以下のとき、MIC値が64μg/mL以下の小さな値を示すことがわかる。一方、ClogPが-13.1および0.66のそれぞれのとき、MIC値は64μg/mLよりも大きな値を示す。よって、ClogPが-8.8以上0.6以下の範囲内のシクロデキストリン誘導体は、ClogPがその範囲外のものと比較して、グラム陰性菌に対する抗菌性が高いことがわかる。
【0072】
さらに、
図2において、MIC値が32μg/mL以下となったのは、ClogPが-8.8以上-2.6以下の範囲内のときであった。よって、ClogPが-8.8以上-2.6以下の範囲内のシクロデキストリン誘導体は、グラム陰性菌に対して強い抗菌性を有する可能性が高いと考えられる。
【0073】
なお、
図1において、ClogPが-8.8以上-2.6以下の範囲内のとき、ほとんどの化合物のMIC値は、16μg/mL以下であった。よって、ClogPが-8.8以上-2.6以下の範囲内のシクロデキストリン誘導体は、グラム陽性菌に対しても強い抗菌性を有する可能性が高いと考えられる。
【0074】
[真菌についてのMIC測定結果]
図3に、表1中の真菌についてのMICの測定結果とシクロデキストリン誘導体のClogPとの関係を示す。
図3において、MIC値が800μg/mL以下となったのは、ClogPが-4.6以上-2.6以下の範囲内のときであった。よって、ClogPが-4.6以上-2.6以下の範囲内のシクロデキストリン誘導体は、真菌に対して抗菌性を有する可能性が高いと考えられる。
【0075】
【0076】
表3は、化粧品で防腐剤として汎用されているメチルパラベンとフェノキシエタノールのMIC値と番号5、8、11、12の化合物のMIC値とを示している。メチルパラベンとフェノキシエタノールのMIC値は、文献から引用した値である。表3より、番号5、8、11、12の化合物は、汎用されている防腐剤よりも、グラム陽性菌、グラム陰性菌および真菌のそれぞれに対する抗菌力が強いことがわかる。すなわち、番号5、8、11、12の化合物は、汎用されている防腐剤よりも非常に低濃度で抗菌効果があることがわかる。
【0077】
[細胞毒性試験の結果]
表1に、番号1-17の化合物のそれぞれについて、試験濃度(%:w/v)が0.0125%、0.05%のそれぞれのときの細胞生存率を示す。
図4に、シクロデキストリン濃度が0.0125%のときの細胞生存率(%)とシクロデキストリン誘導体のClogPとの関係を示す。
図5に、シクロデキストリン濃度が0.05%のときの細胞生存率(%)とシクロデキストリン誘導体のClogPとの関係を示す。シクロデキストリン濃度0.0125%、0.05%は、グラム陰性菌のMIC値である128μg/mL、真菌のMIC値である512μg/mLに基づいて設定されている。
【0078】
図4に示すように、試験濃度が0125%のときでは、ClogPが-8.8以上0.6以下の範囲内のほとんどの化合物において、細胞生存率が40%以上であった。よって、シクロデキストリン誘導体のClogPを-8.8以上0.6以下の範囲内に設定することで、細胞毒性が低い化合物が得られる可能性が高くなると考えられる。
【0079】
図5に示すように、試験濃度が0.05%のときでは、細胞生存率が40%以上となったものは、ClogPが-4.0以上-2.6以下の範囲内に集中していた。よって、シクロデキストリン誘導体のClogPを-4.0以上-2.6以下の範囲内に設定することで、細胞毒性がより低い化合物が得られる可能性が高くなると考えられる。
【0080】
(実施例2)
表1の番号5、8、11、12の化合物を合成し、それぞれの化合物について安全性試験を実施した。番号5、8、11、12の化合物は、MIC試験で抗菌効果が高いことが確認された化合物である。安全性試験として、培養表皮モデル試験、眼刺激性試験、3T3-NRU法試験、AMES試験、染色体異常試験、シルクワーム経口毒性試験、ヒトパッチテストを実施した。以下、それぞれの試験方法および試験結果を説明する。
【0081】
[培養表皮モデル試験の試験方法および試験結果]
図6に示す培養表皮モデルを用いて、所定条件後の細胞生存率を測定した。
図6に示す培養表皮モデルは、株式会社ジャパン・ティッシュ・エンジニアリング社製の「ヒト3次元培養表皮モデルLabCyte EPI-MODEL」である
(http://www.jpte.co.jp/business/LabCyte/EPI_MODEL.html参照)。皮膚刺激のガイドラインはサンプル接触時間が15分と短く、更に接触後42時間培養するため、死滅により減少した細胞数はある程度回復してしまう。これらの化合物の化粧品用途への適用を考慮すると、接触時間15分という化粧品は存在せず、12時間程度は接触した状態となる。また、接触後の培養により刺激性判定が緩くなるため、ここでは、接触時間を24時間、接触後培養なしという実用を想定した試験方法で実施した。
【0082】
図7A、7B、7C、7Dに、番号5、8、11、12の化合物(化合物5、8、11、12)のそれぞれについての培養皮膚モデル試験結果を示す。
図7A、7B、7C、7Dでは、試験濃度毎の細胞生存率を示している。
図7A、7B、7C、7Dでは、細胞毒性試験結果、眼刺激性試験結果をあわせて示しており、培養表皮モデル試験の結果を皮膚刺激と表記している。
【0083】
図7A、7B、7C、7Dに示すように、いずれの化合物においても、細胞毒性試験では、試験濃度が0.1%のとき、細胞生存率が40%未満であり、細胞毒性有りの結果となった。しかしながら、
図6に示すように、角層が存在している培養表皮モデル試験では、試験した最高濃度0.1%でも細胞生存率は80%以上であった。この結果は、シクロデキストリン誘導体が角層を透過できず、角層下にある細胞に接触しなかったためと考えられる。
【0084】
また、この培養表皮モデル試験では、細胞生存率で毒性を判定するが、細胞が死ななくても炎症性サイトカイン(IL-1α)が産生されていることがあるため、潜在的刺激性を示す場合がある。そこで、培養表皮モデルで試験したときの培地を回収し、IL-1αを定量した。IL-1αが60pg/mL以下であれば刺激性はないと判断した。
【0085】
図8A、8B、8C、8Dに、番号5、8、11、12の化合物のそれぞれについての各濃度におけるIL-1αの測定結果を示す。
図8A、8B、8C、8Dに示すように、いずれの化合物においても、IL-1αが60pg/mL以下であった。
【0086】
図7A~7D、
図8A~8Dに示す結果から総合的に判断すると、試験に供した全ての化合物において、皮膚刺激なしという結果となった。
【0087】
また、
図9に、化粧品で防腐剤として汎用されているメチルパラベンおよびフェノキシエタノールと、本発明の実施例の化合物とにおけるIL-1α産生量を示す。
図9は、
図8A~8Dの試験とは別に、対比のために行った試験結果である。試験方法は、
図8A~8Dの試験と同じである。
【0088】
図9に示すように、刺激性に関して実用濃度で培養皮膚モデルで試験した時のIL-1αを指標とした比較において、本発明の実施例の化合物は、メチルパラベンおよびフェノキシエタノールよりも刺激性が低いことが判明した。
【0089】
[眼刺激性試験の試験方法および試験結果]
ヒト角膜上皮細胞を培養し、角膜上皮構造になったモデル(この状態で購入)を使用してサンプルを接触させた後の細胞生存率を測定した。細胞生存率40%以上は刺激性なしと判定した。具体的には、モデル表面にサンプルを1分間接触させ、PBS洗浄後24時間培養して生細胞反応試薬で細胞生存率を計測した。
【0090】
図7A~7Dに示すように、いずれの化合物において、いずれの試験濃度においても、眼刺激性試験の細胞生存率は40%以上であり、眼刺激に関しても刺激なしという結果となった。
【0091】
[3T3-NRU法試験の試験方法および試験結果]
光毒性試験実施前に290nm~700nmの極大波長におけるモル吸光係数を測定し、その結果が1000Lmol-1cm-1未満の物質は光毒性の懸念はないと判断して良いとされている。分子を結合させていないシクロデキストリン(α、β、γ)を含め、1mmolL-1に調整したサンプルについて、200nm~700nmの範囲で吸収スペクトルを測定した。
【0092】
図10に、番号5、8、11、12の化合物のそれぞれについてのスペクトルを示す。
図10に示すように、骨格となるシクロデキストリンに抗菌活性を持たせるため分子を結合させると極大波長が現れた。しかし、
図11に示すように、測定した化合物の全てにおいて、光毒性有無の判定基準である290~700nm領域での極大波長モル吸光度係数(MEC)が1000Lmol
-1cm
-1未満であった。よって、番号5、8、11、12の化合物は、光毒性の懸念が無いという結果となった。
【0093】
ICH S10ガイドラインにおける位置づけ(ROSアッセイ技術講習会資料)では、経皮適用薬に推奨される手法としては、モル吸光係数が1000Lmol-1cm-1未満であれば光毒性の懸念はないと判断して良いとされている。しかし、全身適用薬に推奨される評価方法としては、まれではあるが間接的メカニズムによる光毒性が起きる可能性が排除できないため、注意が必要とされている。化粧用途を想定した場合、口紅は経口により体内に入ることもあり、経皮のみの安全性だけでは懸念があることから、実際にOECDガイドラインに準拠して下記のように試験を実施した。
【0094】
具体的には、マウス線維芽細胞を96ウェルプレートに播種し、8濃度(最高は実用化想定濃度の10倍となる0.1%)のサンプルを1濃度につき2つのプレートに添加する。サンプルとして番号8の化合物を用いた。1時間CO2インキュベーターで培養後、2枚のプレートの内1枚に光毒性用太陽光照射装置で光を暴露し、もう1枚は同時間暗所に置く。両プレートの培地をサンプル未添加培地に交換し、24時間CO2インキュベーターで培養する。その後、ニュートラルレッド添加培地に交換し、3時間CO2インキュベーターで培養する。ニュートラルレット抽出培地に交換し10分間撹拌後、540nmの吸光度を測定しMPE(Mean Photo Effect)を計算して判定した。
【0095】
番号5、8、11、12の化合物の代表として番号8の化合物について、光毒性試験を実施した結果、MPEは0.059となった。MPE<0.2であれば、光毒性なしであるため、番号8の化合物については、モル吸光係数の結果を含め、光毒性はないということが確認できた。
【0096】
[AMES試験の試験方法および試験結果]
化粧品・医薬部外品製造販売ガイドブック及び医薬品の遺伝毒性試験に関するガイドラインに準拠した試験計画で試験した。試験内容としてはネズミチフス菌と大腸菌に代謝活性化存在下と非存在下でサンプルを接触させ、遺伝子変異によって生成したコロニー数をカウントした。代謝活性化存在下及び非存在下で、遺伝子変異によるコロニー数が陰性対象の2倍より少なく用量依存性もない場合、遺伝子毒性は陰性となる。しかし、本発明のシクロデキストリンは抗菌活性があるため、試験で用いる細菌を殺してしまい結果を得ることができない懸念があった。試験機関と協議したところ、生育阻害のない濃度を最高濃度に設定し、そこから段階希釈して試験することでガイドラインに準拠した結果とすることができることが判明した。そこで、本実施例で用いる化合物についての対象細菌に対する生育阻害について調査し、その調査結果に基づいて、最高濃度を、ネズミチフス菌代謝活性化非存在下0.000313wt%、ネズミチフス菌代謝活性化存在下、大腸菌代謝活性化存在下及び大腸菌代謝活性化非存在下0.01wt%に設定した。
【0097】
設定した最高濃度から2倍希釈系列を調製した。代謝活性化非存在下は、各用量のサンプル、陰性対照物質(注射用水)及び陽性対象物質(各菌株で異なる物質を使用)をそれぞれ100μLずつチューブに入れ、0.1mol/Lナトリウム・リン酸緩衝液(pH7.4)500μLおよび各菌株懸濁液100μLを添加して37℃に設定した恒温振盪槽で20分間振盪した。その後、菌種ごとのトップアガー2mLを加え撹拌。その後、混合液を最小グルコース寒天平板培地に重層して室温で固めた。代謝活性化存在下では0.1mol/Lナトリウム・リン酸緩衝液(pH7.4)のかわりにS9mixを500μL加え、それ以外は同様の操作を行った。トップアガー固化後、37℃に設定したインキュベーター内で48時間培養した。復帰変異コロニー数をコロニーカウンターや肉眼で計測した。
【0098】
その結果、いずれの化合物においても、陰性対象に対するコロニー数は2倍未満であった。試験した全ての化合物は、遺伝毒性(変異原性)無しであった。
【0099】
[染色体異常試験の試験方法および試験結果]
本試験は1つのサンプルで非常に煩雑である。AMES試験では、用いた4つの化合物で、差異はなかったことから、番号5、8、11、12の化合物の代表として番号8の化合物について、OECDガイドラインに準拠して試験を実施した。
【0100】
具体的には、60mmシャーレにチャイニーズハムスター肺由来の線維芽細胞を播種し、3日間培養した。事前に試験した細胞毒性試験で細胞生存率40%以上の濃度を最高濃度に設定しそこから2倍希釈系列を調製した。シャーレに活性化非存在下と活性化存在下で各濃度のサンプルを添加し、6時間CO2インキュベーターで培養した。サンプル未添加培地に交換し、更に18時間CO2インキュベーターで培養した後、染色体標本を作製した(短時間処理)。サンプル未添加培地に交換せずにそのまま24時間培養した後、染色体標本を作製するものを連続処理とした。
【0101】
標本の染色体数的異常と構造異常の出現頻度を観察した結果、短時間処理(活性化非存在下及び活性化存在下)並びに連続処理いずれにおいても、全てのサンプル濃度で数的異常の出現頻度及び構造異常出現頻度が5%未満であったため、陰性と判定した。すなわち、番号8の化合物は、染色体異常無しという結果であった。
【0102】
[シルクワーム経口毒性試験の試験方法および試験結果]
カイコの4齢幼虫が脱皮した後の絶食状態の5齢幼虫を用いた。1群あたり7頭使用し、群間で体重の偏りが出ないようにしたが雌雄の区別は行わなかった。0.1%水溶液を最大濃度(1/1倍)とし、0.9%NaClで1/10、1/100、1/1000倍に希釈したサンプルを調製し注射サンプルとした。カイコに1mlツベルクリンシリンジ(Terumo社製)と27G注射針(Terumo社製)を用いて、注射サンプル50μlを腸管内に投与した。投与箇所は第1体節から第5体節の間に注射針を用いて腸管内に直接投与した。完全に動かない場合「死亡」と判定し、横になったまま立ち上がれないが体が動いている場合は「瀕死」と判定した。観察期間中は容器の掃除ならびに餌の追加を行った。投与後直ちに毒性が現れない場合は、餌を切らさないようにした。二日目における生存率から毒性を判定した。
【0103】
その結果、番号5、8、11、12の化合物のいずれにおいても、カイコに対する毒性は今回投与した濃度では認められなかった。今回投与した濃度ではカイコに対する急性毒性はないことが示唆された。化粧品の実用化想定濃度の10倍(0.1%)でも、経口毒性がないことが確認できた。
【0104】
[ヒトパッチテストの試験方法および試験結果]
各種vitro試験結果では試験した番号5、8、11、12の化合物で差異がなかったことから、細胞毒性試験、MICの結果からパッチテストは、番号8の化合物をサンプルとした。試験に同意した健常男女20名を被験者としてパッチテストを実施した。パッチテストユニット(Finn Chambers on Scanpor tape)にサンプル(0.1wt%)15μLを塗布し、被験者の背部に24時間閉塞貼付した。その後、パッチテストユニットを除去し、皮膚科専門医による判定とデジカメでの撮影を行った。判定基準としては、
図12、13に示す本邦基準を用いた。被験者20人に対して本邦判定基準で皮膚刺激評点を算出し総和を求め、症例数で割った値を100倍した皮膚刺激指数が5.0以下の場合、安全品と判定される。
【0105】
図14に示すように、化粧品として必要な最低条件である20名で試験を実施した結果、番号8の化合物(化合物8)は、生理食塩水、注射用水および白色ワセリンと同様に、全く皮膚反応を示さない安全品であることが確認できた。
【0106】
以上の通り、表1の番号5、8、11、12の化合物は、安全性が高いことが確認された。