(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-22
(45)【発行日】2022-03-30
(54)【発明の名称】研磨用組成物、研磨用組成物の製造方法および研磨方法
(51)【国際特許分類】
C09K 3/14 20060101AFI20220323BHJP
C09G 1/02 20060101ALI20220323BHJP
B24B 37/00 20120101ALI20220323BHJP
H01L 21/304 20060101ALI20220323BHJP
【FI】
C09K3/14 550D
C09G1/02
B24B37/00 H
H01L21/304 622D
(21)【出願番号】P 2018527457
(86)(22)【出願日】2017-06-12
(86)【国際出願番号】 JP2017021695
(87)【国際公開番号】W WO2018012176
(87)【国際公開日】2018-01-18
【審査請求日】2020-04-10
(31)【優先権主張番号】P 2016140629
(32)【優先日】2016-07-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000236702
【氏名又は名称】株式会社フジミインコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】八田国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 章太
(72)【発明者】
【氏名】井澤 由裕
【審査官】井上 恵理
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-273780(JP,A)
【文献】特開2009-289885(JP,A)
【文献】国際公開第2009/128494(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/162265(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/021599(WO,A1)
【文献】特開2002-338951(JP,A)
【文献】特開2002-249762(JP,A)
【文献】特開2007-153732(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 3/14
C01B 33/00- 33/193
H01L 21/304
B24B 3/00- 39/06
C09G 1/02
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱重量測定により得られる重量変化率分布曲線の25℃以上250℃以下の範囲における最大ピーク温度が30℃以上53℃以下であり、真密度が1.80g/cm
3以上2.10g/cm
3以下であり、会合度が1.5以上5.0以下である
、ゾル-ゲル法により製造されたコロイダルシリカを含み、25℃でのpHが6.0未満である、研磨用組成物。
【請求項2】
さらに水を含有する、請求項
1に記載の研磨用組成物。
【請求項3】
さらに酸を含む、請求項
2に記載の研磨用組成物。
【請求項4】
前記
コロイダルシリカの含有量が、組成物全体に対して0質量%を超えて8質量%以下である、請求項1~
3のいずれか1項に記載の研磨用組成物。
【請求項5】
前記
コロイダルシリカの真密度が1.90g/cm
3以上2.10g/cm
3以下である、請求項1~
4のいずれか1項に記載の研磨用組成物。
【請求項6】
酸素原子およびケイ素原子を含む研磨対象物を研磨するために用いられる、請求項1~
5のいずれか1項に記載の研磨用組成物。
【請求項7】
研磨対象物を研磨するために用いられる研磨用組成物の製造方法であって、
熱重量測定により得られる重量変化率分布曲線の25℃以上250℃以下の範囲における最大ピーク温度が30℃以上53℃以下であり、真密度が1.80g/cm
3以上2.10g/cm
3以下であり、会合度が1.5以上5.0以下であるシリカを準備すること、
当該シリカと、水とを混合すること、および
混合物の25℃でのpHを6.0未満に調整することを含
み、
前記シリカを準備することは、ゾル-ゲル法によりコロイダルシリカを製造する段階を含む、製造方法。
【請求項8】
酸素原子およびケイ素原子を含む研磨対象物を、請求項1~
6のいずれか1項に記載の研磨用組成物を用いて、または
請求項
7に記載の製造方法により研磨用組成物を得、当該研磨用組成物を用いて研磨対象物を研磨することを有する、研磨方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研磨用組成物、研磨用組成物の製造方法および研磨方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体基板表面の多層配線化に伴い、デバイスを製造する際に、半導体基板を研磨して平坦化する、いわゆる、化学的機械的研磨(Chemical Mechanical Polishing;CMP)技術が利用されている。CMPは、シリカやアルミナ、セリア等の砥粒、防食剤、界面活性剤などを含む研磨用組成物(スラリー)を用いて、半導体基板等の研磨対象物(被研磨物)の表面を平坦化する方法であり、研磨対象物(被研磨物)は、シリコン、ポリシリコン、シリコン酸化膜(酸化ケイ素)、シリコン窒化物や、金属等からなる配線、プラグなどである。
【0003】
例えば、酸化ケイ素などの酸素原子及びケイ素原子を含む基板を研磨するためのCMPスラリーとして、特表2001-507739号公報(米国特許第5759917号明細書に相当)では、塩、可溶性セリウム、カルボン酸、およびシリカ(特にヒュームドシリカ)を含む水性化学機械的研磨組成物が開示されている。また、特開2015-063687号公報(米国特許第9012327号明細書に相当)では、水、0.1~40重量%のコロイダルシリカ粒子、および0.001~5重量%の添加剤(ピリジン誘導体)を含む化学機械研磨組成物が開示されている。
【発明の概要】
【0004】
しかしながら、特表2001-507739号公報(米国特許第5759917号明細書に相当)に記載の水性化学機械的研磨組成物によれば、基板の研磨速度は向上するものの、基板表面のスクラッチが多く発生するという問題がある。
【0005】
また、特開2015-063687号公報(米国特許第9012327号明細書に相当)に記載の化学機械研磨組成物によれば、基板表面のスクラッチは抑制されるものの、研磨速度が十分でないという問題がある。
【0006】
このように、酸素原子とケイ素原子とを含む研磨対象物の研磨においては、研磨速度の向上およびスクラッチ(欠陥)の低減という、いわば相反する課題を解決することができる研磨用組成物が求められていた。
【0007】
そこで、本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり、研磨対象物(特に酸素原子およびケイ素原子を含む研磨対象物)を高い研磨速度で研磨することができ、かつ該研磨対象物表面のスクラッチ(欠陥)を低減させることができる研磨用組成物を提供することを目的とする。
【0008】
本発明者らは、上記の問題を解決すべく、鋭意研究を行った。その結果、熱重量測定により得られる重量変化率分布曲線の25℃以上250℃以下の範囲における最大ピークの温度が所定の範囲内であるシリカを用い、且つpHが6.0未満の研磨用組成物によって、上記課題が解決することを見出した。
【0009】
すなわち、上記目的は、熱重量測定により得られる重量変化率分布曲線の25℃以上250℃以下の範囲における最大ピーク温度が30℃以上53℃以下であるシリカを含み、25℃でのpHが6.0未満である、研磨用組成物によって達成できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】砥粒の研磨対象物に対する作用を説明するための模式図である。
【
図2】実施例および比較例において用いた砥粒について行った熱重量測定により得られた重量変化率分布曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の一側面は、熱重量測定により得られる重量変化率分布曲線の25℃以上250℃以下の範囲における最大ピーク温度が30℃以上53℃以下であるシリカを含み、25℃でのpHが6.0未満である、研磨用組成物である。このような構成を有する研磨用組成物は、研磨対象物(特に酸素原子およびケイ素原子を含む研磨対象物)を高い研磨速度で研磨することができ、かつ該研磨対象物表面のスクラッチ(欠陥)を低減させることができる。
【0012】
本明細書において、シリカを熱重量測定して得られる重量変化率分布曲線の25℃以上250℃以下の範囲における最大ピークを、「TGピーク」とも称する。また、最大ピーク(TGピーク)のボトム温度を「最大ピーク温度」または「TGピーク温度」とも称する。
【0013】
従来、多層化の進む半導体デバイスにおいて、層間絶縁膜(例えば、SiO
2膜)をより高い研磨速度で研磨する技術の開発が求められている。一般的に、砥粒が研磨対象物を研磨する機械的作用は下記のようなメカニズムによる。すなわち、
図1に示されるように、砥粒が研磨対象物に接近する(
図1中のa))。次に、砥粒が研磨対象物上で移動することによって、基板表面が掻き取られ(研磨され)(
図1中のb))、最終的に砥粒が研磨対象物から脱離する(
図1中のc))。上記作用のうち、従来では、高研磨速度を達成するために、上記砥粒が研磨対象物に接近する工程(
図1中のa))に着目し、砥粒の研磨対象物への接近および/または接触頻度を高めることで砥粒の作用による研磨を向上することが試みられてきた。砥粒の研磨対象物への接近および/または接触頻度を高める方法としては、例えば、砥粒数を増加させる、砥粒の大きさを大きくする、異形の砥粒を使用する、研磨対象物と符号が異なるゼータ電位を有する砥粒を使用する、塩を添加し砥粒と研磨対象物のゼータ電位の絶対値を小さくする、などの方法が提案されてきた。しかしながら、近年のより高い研磨速度の要求、さらにはスクラッチ(欠陥)の低減に対する要求を十分満足するためには、上記したような既存技術を単に組み合わせたのみでは困難であった。
【0014】
上記課題を解決するために、本発明者らは鋭意検討を行った。その結果、熱重量分析において所定の挙動を示すシリカ(砥粒)を用い、さらに研磨用組成物のpHを比較的低く設定することにより、高い研磨速度およびスクラッチ(欠陥)の低減が両立できることを見出した。本発明の技術的範囲を制限するものでは無いが、推測されるメカニズムを、分散媒として水を用いたシリカ分散液を例にして以下に説明する。
【0015】
研磨用組成物に用いられるシリカ粒子表面には、表面シラノール基による水素結合等を介して分散媒分子(水分子)の膜が形成されると考えられる。かような分散媒分子(水分子)膜を有するシリカを熱重量分析(TG)に供すると、室温程度の開始温度から加熱温度(測定温度)を上昇させるにつれて、粒子表面上を被覆する分散媒(例えば、水)の蒸発によるものと考えられる重量の減少が観測され、さらに温度を上昇させるとシラノール基間の脱水縮合による凝集体の形成、さらには粒子同士の融着による粒子成長という挙動を示す。このうち、粒子表面上を被覆する分散媒(例えば、水)の蒸発による重量の減少は通常250℃以下で起こると考えられることから、本発明における25℃以上250℃以下の範囲における最大ピーク(TGピーク)はおそらくは粒子表面上を被覆する分散媒(例えば、水)の蒸発に起因するものであると考えられる。従って、当該ピークのピーク温度が低いことは、粒子表面上を被覆する分散媒(例えば、水)が粒子表面上から喪失しやすいこと(砥粒表面と分散媒分子との親和性が弱いこと)を反映していると解される。かような分散媒分子膜を喪失しやすい(砥粒表面と分散媒分子との親和性が弱い、ゆえにTGピーク温度が低い)シリカを研磨用組成物に用いた場合、研磨時においてシリカ(砥粒)表面と研磨対象物との間に分散媒分子膜が存在しにくくなるため、研磨対象物にシリカが容易に接近できる。このため、より少量(低濃度)のシリカであっても、シリカが効率よく(高頻度で)研磨対象物に接近し、研磨対象物表面を効率よく掻き取る(研磨する)。特に、オルトケイ酸テトラエチル(TEOS)のような酸素原子とケイ素原子とを含む研磨対象物の研磨においては、分散媒分子膜(例えば、水分子膜)を失いやすい(砥粒表面と分散媒分子との親和性が弱い、ゆえにTGピーク温度が低い)場合、研磨時にシリカ粒子が研磨対象物表面に接近しやすいため、シリカ表面のシラノール基と研磨対象物表面のシラノール基とがより結合しやすい。さらに、かようなシリカ粒子と研磨対象物表面との間には水素結合だけでなく、電荷的な相互作用も関係していると考えられる。本発明においては、組成物のpHを6.0未満とすることにより、シリカ粒子と研磨対象物表面との間の電荷的な相互作用が好適に発揮されると考えられる。このため、シリカ粒子が研磨対象物表面を移動する時間が長くなる。ゆえに、シリカ粒子が研磨対象物から脱離するまでの時間が長いため、シリカ粒子は基板表面をより長時間(より効率よく)掻き取り(研磨する)、研磨速度を向上できる。また、上述したようにシリカ粒子の研磨対象物表面での移動距離が長いため、その移動中に研磨対象物表面に存在するスクラッチを掻き取る(除去する)ことができる。このため、シリカのTGピーク温度が低く、且つ研磨用組成物のpHが6.0未満であることにより、研磨速度を向上でき、また、スクラッチ(欠陥)を低減できると考えられる。
【0016】
また、本発明の一側面に係る研磨用組成物によれば、シリカ(砥粒)が研磨対象物に容易に接近し、長時間研磨対象物表面に存在すると考えられるため、より低濃度のシリカであっても研磨対象物を高研磨速度で研磨でき、これによってスクラッチ(欠陥)発生をより一層低減できるばかりでなく、コストの観点からも好ましい。
【0017】
以下、本発明を詳細に説明する。なお、特記しない限り、操作および物性等の測定は室温(20~25℃)/相対湿度40~50%RHの条件で行う。本明細書において、範囲を示す「X~Y」は、XおよびYを含み、「X以上Y以下」を意味する。
【0018】
<研磨用組成物>
本発明の一側面に係る研磨用組成物は、熱重量測定により得られる重量変化率分布曲線の25℃以上250℃以下の範囲における最大ピーク温度が30℃以上53℃以下であるシリカを含み、25℃でのpHが6.0未満である。
【0019】
「熱重量測定」は一定速度で加熱温度を上昇させながら試料の重量を連続的に測定し、加熱による試料の重量変化を追跡して、試料の熱的特性を解析する手法である。本明細書において「熱重量測定」は、具体的には、実施例に記載の手法にて測定される。
【0020】
本明細書において「重量変化率分布曲線」は、熱重量測定により得られる重量変化の結果に基づき、試料の単位面積当たりの重量変化率を縦軸に、測定温度(加熱温度)を横軸にプロットした重量変化率分布を、ガウシアンフィッティングした曲線である。試料の単位面積当たりの重量変化率は、具体的には、実施例に記載の手法にて求めた値である。
【0021】
本発明の一側面に係る研磨用組成物においては、熱重量測定により得られる重量変化率分布曲線の25℃以上250℃以下の範囲における最大ピーク温度が30℃以上53℃以下であるシリカを用いることを特徴の一つとする。重量変化率分布曲線の25℃以上250℃以下の範囲における最大ピーク(TGピーク)は、シリカ表面に存在する分散媒分子膜(例えば、水分子膜)の蒸発(喪失)に起因して計測される重量変化であると考えられる。TGピーク温度が53℃より大きい(すなわち、分散媒分子膜を喪失しにくい)シリカは、シリカと分散媒との親和性が高すぎて(例えば、シリカ粒子表面の水分子膜が厚すぎて)、シリカ粒子と研磨対象物表面との距離が離れすぎ、シリカと研磨対象物表面とが十分接近できない。このため、シリカ粒子が研磨対象物表面に十分な時間存在できず、研磨効率(研磨速度)が低くなる。一方、TGピーク温度が30℃未満のシリカを作製することは、技術的に困難である。研磨速度の向上とスクラッチ(欠陥)の低減とのより高度にバランスのとれた両立の観点から、シリカのTGピーク温度の下限は、好ましくは35℃以上であり、より好ましくは40℃以上であり、さらに好ましくは40℃を超える。また、研磨速度の向上とスクラッチ(欠陥)の低減とのより高度にバランスのとれた両立の観点から、シリカのTGピーク温度の上限は、好ましくは53℃未満であり、より好ましくは52℃以下であり、さらに好ましくは50℃未満である。よりさらに好ましくは48℃未満であり、最も好ましくは46℃未満である。好ましい一実施形態では、シリカのTGピーク温度は35℃以上53℃未満であり、より好ましい一実施形態では、シリカのTGピーク温度は40℃以上52℃以下であり、さらに好ましい一実施形態では、シリカのTGピークは40℃を超えて50℃未満であり、よりさらに好ましい一実施形態では、シリカのTGピークは40℃を超えて48℃未満であり、最も好ましい一実施形態では、シリカのTGピークは40℃を超えて46℃未満である。このような範囲であれば、研磨速度の向上およびスクラッチ(欠陥)の低減がより高度にバランスされて両立できる。特に上記範囲であれば、シリカ含有量の低い組成物でも高い研磨速度を達成できる。
【0022】
上記のTGピークはシリカ表面上に形成される分散媒分子膜(水分子膜)に起因すると考えられることから、シリカの表面状態を改質する等の手段によって制御することができる。本発明においてはTGピーク温度が上記範囲であるシリカであれば特に限定されないが、例えば、水熱処理によってシリカ表面を改質することでTGピーク温度を低くしたり、例えば、強酸または強アルカリの液中でシリカを加熱することでTGピークを大きくしたりすることができる。水熱処理(水熱反応)を例にして、シリカ表面状態の改質処理について以下により具体的に説明する。水熱処理(水熱反応)を例にして、シリカ表面状態の改質処理について以下により具体的に説明する。
【0023】
水熱処理(水熱反応)では、コロイダルシリカ等のシリカを、オートクレーブ等の耐圧容器に水とともに充填する。水熱反応は、例えば120℃以上300℃以下、好ましくは150℃以上180℃以下で実施される。このとき、昇温速度は、例えば0.5℃/分以上5℃/分以下である。目的の反応温度に達した後、水熱反応を0.1時間以上30時間以下、好ましくは0.5時間以上5.0時間以下行う。水熱反応時の圧力は、例えば飽和水蒸気圧であり、より具体的には、例えば0.48MPa以上1.02MPa以下である。目的の反応時間が経過した後は、過剰な水熱処理の進行を防止するため、速やかに試料を冷却することが好ましい。
【0024】
本発明の研磨用組成物は、シリカ(シリカ粒子)を砥粒として必須に含み、より好ましくはコロイダルシリカを砥粒として含む。すなわち、本発明の好ましい形態によると、シリカはコロイダルシリカである。コロイダルシリカの製造方法としては、ケイ酸ソーダ法、ゾルーゲル法等が挙げられ、いずれの製造方法で製造されたコロイダルシリカでも好適に用いられる。しかしながら、金属不純物低減の観点から、高純度で製造できるゾルーゲル法により製造されたコロイダルシリカが好ましい。
【0025】
ここで、シリカ(砥粒)の形状は、特に制限されず、球形状であってもよいし、非球形状であってもよいが、球形状が好ましい。
【0026】
シリカ(砥粒)の大きさは特に制限されない。例えば、シリカ(砥粒)の平均一次粒子径は、5nm以上であることが好ましく、10nm以上であることがより好ましく、20nm以上であることがさらに好ましい。シリカの平均一次粒子径が大きくなるにつれて、研磨用組成物による研磨対象物の研磨速度が向上する。また、シリカの平均一次粒子径は、200nm以下であることが好ましく、100nm以下であることがより好ましく、50nm以下であることがさらに好ましい。シリカの平均一次粒子径が小さくなるにつれて、研磨用組成物を用いた研磨により低欠陥で粗度の小さい表面を得ることが容易である。シリカ(砥粒)の平均一次粒子径は、好ましい一実施形態では5nm以上200nm以下であり、より好ましい一実施形態では10nm以上100nm以下であり、特に好ましい一実施形態では20nm以上50nm以下である。なお、シリカの平均一次粒子径(シリカ粒子(一次粒子)の直径)は、例えば、BET法から算出したシリカ粒子の比表面積(SA)を基に、シリカ粒子の形状が真球であると仮定して、算出することができる。本明細書では、シリカの平均一次粒子径は、下記実施例に記載の方法によって測定された値を採用する。
【0027】
また、シリカ(砥粒)の平均二次粒子径は、25nm以上であることが好ましく、35nm以上であることがより好ましく、55nm以上であることがさらに好ましい。シリカの平均二次粒子径が大きくなるにつれて、研磨中の抵抗が小さくなり、安定的に研磨が可能になる。また、シリカ(砥粒)の平均二次粒子径は、1μm以下であることが好ましく、500nm以下であることがより好ましく、100nm以下であることがさらに好ましい。シリカ(砥粒)の平均二次粒子径が小さくなるにつれて、シリカ(砥粒)の単位質量当たりの表面積が大きくなり、研磨対象物との接触頻度が向上し、研磨能率が向上する。シリカ(砥粒)の平均二次粒子径は、好ましい一実施形態では25nm以上1μm以下であり、より好ましい一実施形態では35nm以上500nm以下であり、特に好ましい一実施形態では55nm以上100nm以下である。本明細書では、シリカの平均二次粒子径は、下記実施例に記載の方法によって測定された値を採用する。なお、これらの値から算出される会合度(平均二次粒子径/平均一次粒子径)の値についても特に制限はなく、例えば1.5~5.0であり、好ましくは1.8~4.0程度である。
【0028】
例えば、シリカ(砥粒)の密度は、製造方法(例えば、ゾル-ゲル法、珪酸ソーダ法など)によっても異なる。また、一つの製造方法(例えば、ゾル-ゲル法)をとっても、反応温度や反応に要した時間などで空隙率は変化する。空隙率はシリカそのものの硬さに影響を与えると考えられるため、真密度を把握しておくことが好ましい。ここで、シリカ(砥粒)の真密度は、シリカの硬度を考慮すると、1.70g/cm3を超えることが好ましく、1.80g/cm3以上であることがより好ましく、1.90g/cm3以上であることがさらに好ましく、2.07g/cm3以上であることが特に好ましい。本発明のより好ましい一実施形態によると、シリカは1.80g/cm3以上の真密度を有する。本発明のさらに好ましい一実施形態によると、シリカは1.90g/cm3以上の真密度を有する。本発明の特に好ましい形態によると、シリカは2.07g/cm3以上の真密度を有する。また、シリカの真密度の上限は、2.20g/cm3以下であることが好ましく、2.18g/cm3以下であることがより好ましく、2.15g/cm3以下であることが特に好ましい。シリカ(砥粒)の真密度は、好ましい一実施形態では1.70g/cm3を超え2.20g/cm3以下であり、より好ましい一実施形態では1.80g/cm3以上2.18g/cm3以下であり、さらに好ましい一実施形態では1.90g/cm3以上2.15g/cm3以下であり、特に好ましい一実施形態では2.07g/cm3以上2.15g/cm3以下である。本明細書では、シリカ(砥粒)の真密度は、下記実施例に記載の方法によって測定された値を採用する。
【0029】
シリカ(砥粒)のBET比表面積は、特に制限されないが、50m2/g以上であることが好ましく、60m2/g以上であることがより好ましく、70m2/g以上であることがさらに好ましい。また、シリカのBET比表面積の上限は、120m2/g以下であることが好ましく、95m2/g未満であることがより好ましい。研磨速度の向上とスクラッチ(欠陥)の低減とのバランスの観点から、シリカ(砥粒)のBET比表面積は、好ましい一実施形態では50m2/g以上120m2/g以下であり、より好ましい一実施形態では60m2/g以上95m2/g未満であり、さらに好ましい一実施形態では70m2/g以上95m2/g未満である。本明細書では、シリカ(砥粒)のBET比表面積は、下記実施例に記載の方法によって測定された値を採用する。
【0030】
さらに、シリカは、表面修飾されていてもよい。表面修飾したシリカを砥粒として用いる場合には、有機酸または有機アミンを固定化したコロイダルシリカが好ましく使用される。研磨用組成物中に含まれるコロイダルシリカの表面への有機酸または有機アミンの固定化は、例えばコロイダルシリカの表面に有機酸または有機アミンの官能基が化学的に結合することにより行われている。コロイダルシリカと有機酸または有機アミンを単に共存させただけではコロイダルシリカへの有機酸または有機アミンの固定化は果たされない。有機酸の一種であるスルホン酸をコロイダルシリカに固定化するのであれば、例えば、“Sulfonic acid-functionalized silica through quantitative oxidation of thiol groups”, Chem. Commun. 246-247 (2003)に記載の方法で行うことができる。具体的には、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン等のチオール基を有するシランカップリング剤をコロイダルシリカにカップリングさせた後に過酸化水素でチオール基を酸化することにより、スルホン酸が表面に固定化されたコロイダルシリカを得ることができる。あるいは、カルボン酸をコロイダルシリカに固定化するのであれば、例えば、“Novel Silane Coupling Agents Containing a Photolabile 2-Nitrobenzyl Ester for Introduction of a Carboxy Group on the Surface of Silica Gel”, Chemistry Letters, 3, 228-229 (2000)に記載の方法で行うことができる。具体的には、光反応性2-ニトロベンジルエステルを含むシランカップリング剤をコロイダルシリカにカップリングさせた後に光照射することにより、カルボン酸が表面に固定化されたコロイダルシリカを得ることができる。有機アミンの一種であるアルキルアミンをコロイダルシリカに固定するのであれば、特開2012-211080号公報に記載の方法で行うことができる。具体的には、3-アミノプロピルトリエトキシシラン等のアルキルアミン基を有するシランカップリング剤をコロイダルシリカにカップリングさせることにより、有機アミンが表面に固定化されたコロイダルシリカを得ることができる。
【0031】
シリカの大きさ(平均一次粒子径、平均二次粒子径)、真密度、およびBET比表面積は、シリカ(砥粒)の製造方法の選択等により適切に制御することができる。
【0032】
研磨用組成物は、シリカを砥粒として含む。ここで、シリカの含有量は、特に制限されない。しかし、上述したように、本発明の研磨用組成物であれば、少量(低濃度)のシリカであっても、シリカが効率よく研磨対象物に接近するため、研磨対象物表面を効率よく研磨できる。具体的には、シリカの含有量(濃度)は、研磨用組成物全体に対して、0質量%を超えて8質量%以下であることが好ましい。シリカの含有量の下限は、研磨用組成物全体に対して0.002質量%以上であることがより好ましく、0.02質量%以上であることがさらに好ましく、0.1質量%以上であることが特に好ましい。また、シリカの含有量の上限は、研磨用組成物全体に対して、8質量%未満であることがより好ましく、5質量%以下であることがさらに好ましく、2質量%以下であることが特に好ましい。特に、上記のようにシリカ量を少なくすることで砥粒の研磨対象物に対する衝突に起因するスクラッチ(欠陥)の低減が有効に達成できるという観点から好ましい。シリカの含有量は、研磨用組成物全体に対して、好ましい一実施形態では0.002質量%以上8質量%以下であり、より好ましい一実施形態では0.02質量%以上5質量%以下であり、さらに好ましい一実施形態では0.1質量%以上2質量%以下である。このような範囲であれば、コストを抑えながら、研磨速度の向上およびスクラッチ(欠陥)の低減をバランスよく両立できる。なお、研磨用組成物が2種以上のシリカを含む場合には、シリカの含有量は、これらの合計量を意図する。
【0033】
本発明の研磨用組成物は、各成分を分散するための分散媒を含むことが好ましい。分散媒としては、水;メタノール、エタノール、エチレングリコール等のアルコール類;アセトン等のケトン類等や、これらの混合物などが例示できるが、水を含むことが好ましい。すなわち、本発明の好ましい形態によると、研磨用組成物は、さらに水を含有する。本発明のより好ましい形態によると、分散媒は実質的に水からなる。なお、上記の「実質的に」とは、本発明の目的効果が達成され得る限りにおいて、水以外の分散媒が含まれ得ることを意図し、より具体的には、90質量%以上100質量%以下の水と0質量%以上10質量%以下の水以外の分散媒とからなり、好ましくは99質量%以上100質量%以下の水と0質量%以上1質量%以下の水以外の分散媒とからなる。最も好ましくは、分散媒は水である。他の成分の作用を阻害することを抑制するという観点から、不純物をできる限り含有しない水が好ましく、具体的には、イオン交換樹脂にて不純物イオンを除去した後、フィルタを通して異物を除去した純水や超純水、または蒸留水が好ましい。
【0034】
本発明の研磨用組成物は、25℃におけるpHが6.0未満であることを特徴の一つとする。研磨用組成物の25℃におけるpHが6.0以上であると、研磨速度が低くなり、スクラッチも発生しやすくなる。研磨用組成物の25℃におけるpHは、5.0以下であることが好ましく、4.0以下であることが特に好ましい。研磨用組成物の25℃におけるpHの下限は、1.0以上であることが好ましく、2.0以上であることがより好ましく、3.0以上であることが特に好ましい。なお、本明細書では、特記しない限り、「pH」は「25℃におけるpH」を意味する。研磨用組成物の25℃におけるpHは、好ましい一実施形態では1.0以上6.0未満であり、より好ましい一実施形態では2.0以上6.0未満であり、さらに好ましい一実施形態では3.0以上6.0未満であり、特に好ましい一実施形態では3.0以上4.0以下である。このようなpHの研磨用組成物であれば、シリカ(砥粒)を安定して分散できる。本明細書では、pHは、25℃でpHメータ(株式会社堀場製作所製 型番:LAQUA(登録商標))により測定される値を採用する。
【0035】
上記pHは、pH調整剤を適量添加することにより、調整することができる。すなわち、研磨用組成物は、pH調整剤をさらに含んでもよい。ここで、研磨用組成物のpHを所望の値に調整するために必要に応じて使用されるpH調整剤は酸およびアルカリのいずれであってもよく、また、無機化合物および有機化合物のいずれであってもよい。酸の具体例としては、例えば、硫酸、硝酸、ホウ酸、炭酸、次亜リン酸、亜リン酸およびリン酸等の無機酸;ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、2-メチル酪酸、n-ヘキサン酸、3,3-ジメチル酪酸、2-エチル酪酸、4-メチルペンタン酸、n-ヘプタン酸、2-メチルヘキサン酸、n-オクタン酸、2-エチルヘキサン酸、安息香酸、グリコール酸、サリチル酸、グリセリン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、マレイン酸、フタル酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸および乳酸などのカルボン酸、ならびにメタンスルホン酸、エタンスルホン酸およびイセチオン酸等の有機硫酸、フィチン酸、ヒドロキシエチリデンジホスホン酸等の有機リン系の酸等の有機酸等が挙げられる。本発明の一側面に係る研磨用組成物は、6.0未満という比較的低いpHであるため、一実施形態では、研磨用組成物はさらに酸を含む。
【0036】
アルカリの具体例としては、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物、アンモニア、エチレンジアミンおよびピペラジンなどのアミン、ならびにテトラメチルアンモニウムおよびテトラエチルアンモニウムなどの第4級アンモニウム塩が挙げられる。これらpH調整剤は、単独でもまたは2種以上混合しても用いることができる。
【0037】
本発明の一側面に係る研磨用組成物は、必要に応じて、酸化剤、金属防食剤、防腐剤、防カビ剤、水溶性高分子、難溶性の有機物を溶解するための有機溶媒等の他の成分をさらに含んでもよい。以下、好ましい他の成分である、酸化剤、金属防食剤、防腐剤、および防カビ剤について説明する。
【0038】
(酸化剤)
研磨用組成物に添加し得る酸化剤は、研磨対象物の表面を酸化する作用を有し、研磨用組成物による研磨対象物の研磨速度を向上させる。
【0039】
使用可能な酸化剤は、過酸化水素、過酸化ナトリウム、過酸化バリウム、オゾン水、銀(II)塩、鉄(III)塩、過マンガン酸、クロム酸、重クロム酸、ペルオキソ二硫酸、ペルオキソリン酸、ペルオキソ硫酸、ペルオキソホウ酸、過ギ酸、過酢酸、過安息香酸、過フタル酸、次亜塩素酸、次亜臭素酸、次亜ヨウ素酸、塩素酸、亜塩素酸、過塩素酸、臭素酸、ヨウ素酸、過ヨウ素酸、過硫酸、ジクロロイソシアヌル酸およびそれらの塩等が挙げられる。これら酸化剤は、単独でもまたは2種以上混合して用いてもよい。
【0040】
研磨用組成物中の酸化剤の含有量は0.1g/L以上であることが好ましく、より好ましくは1g/L以上であり、さらに好ましくは3g/L以上である。酸化剤の含有量が多くになるにつれて、研磨用組成物による研磨対象物の研磨速度はより向上する。
【0041】
研磨用組成物中の酸化剤の含有量はまた、200g/L以下であることが好ましく、より好ましくは100g/L以下であり、さらに好ましくは40g/L以下である。酸化剤の含有量が少なくなるにつれて、研磨用組成物の材料コストを抑えることができるのに加え、研磨使用後の研磨用組成物の処理、すなわち廃液処理の負荷を軽減することができる。また、酸化剤による研磨対象物表面の過剰な酸化が起こる虞を少なくすることもできる。
【0042】
(金属防食剤)
研磨用組成物中に金属防食剤を加えることにより、研磨用組成物を用いた研磨で配線の脇に凹みが生じるのをより抑えることができる。また、研磨用組成物を用いて研磨した後の研磨対象物の表面にディッシングが生じるのをより抑えることができる。
【0043】
使用可能な金属防食剤は、特に制限されないが、好ましくは複素環式化合物または界面活性剤である。複素環式化合物中の複素環の員数は特に限定されない。また、複素環式化合物は、単環化合物であってもよいし、縮合環を有する多環化合物であってもよい。該金属防食剤は、単独でもまたは2種以上混合して用いてもよい。また、該金属防食剤は、市販品を用いてもよいし合成品を用いてもよい。
【0044】
金属防食剤として使用可能な複素環化合物の具体例としては、例えば、ピロール化合物、ピラゾール化合物、イミダゾール化合物、トリアゾール化合物、テトラゾール化合物、ピリジン化合物、ピラジン化合物、ピリダジン化合物、ピリンジン化合物、インドリジン化合物、インドール化合物、イソインドール化合物、インダゾール化合物、プリン化合物、キノリジン化合物、キノリン化合物、イソキノリン化合物、ナフチリジン化合物、フタラジン化合物、キノキサリン化合物、キナゾリン化合物、シンノリン化合物、プテリジン化合物、チアゾール化合物、イソチアゾール化合物、オキサゾール化合物、イソオキサゾール化合物、フラザン化合物等の含窒素複素環化合物が挙げられる。
【0045】
(防腐剤および防カビ剤)
本発明で用いられる防腐剤および防カビ剤としては、例えば、2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オンや5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン等のイソチアゾリン系防腐剤、パラオキシ安息香酸エステル類、およびフェノキシエタノール等が挙げられる。これら防腐剤および防カビ剤は、単独でもまたは2種以上混合して用いてもよい。
【0046】
<研磨用組成物の製造方法>
本発明の研磨用組成物の製造方法は、特に制限されず、例えば、砥粒、および必要に応じて他の成分を、例えば分散媒中で、攪拌混合することにより得ることができる。すなわち、本発明の一側面では、研磨対象物を研磨するために用いられる研磨用組成物の製造方法であって、熱重量測定により得られる重量変化率分布曲線の25℃以上250℃以下の範囲における最大ピーク温度が30℃以上53℃以下であるシリカを準備すること、当該シリカと水とを混合すること、および混合物の25℃でのpHを6.0未満に調整することを含む、製造方法が提供される。
【0047】
ここで、上述したように、熱重量測定により得られる重量変化率分布曲線の25℃以上250℃以下の範囲における最大ピーク温度を30℃以上53℃以下に調節するためには、水熱処理や表面修飾等によりシリカの表面状態を制御すればよい。
【0048】
各成分を混合する際の温度は特に制限されないが、10~40℃が好ましく、溶解速度を上げるために加熱してもよい。また、混合時間も特に制限されない。上記pHは、上述したように、pH調整剤を適量添加することにより、調整することができる。
【0049】
<研磨対象物>
本発明において、研磨対象物は特に制限されず、金属、酸素原子及びケイ素原子を有する研磨対象物、ケイ素-ケイ素結合を有する研磨対象物、窒素原子及びケイ素原子を有する研磨対象物などが挙げられる。
【0050】
金属としては、例えば、銅、アルミニウム、ハフニウム、コバルト、ニッケル、チタン、タングステン等が挙げられる。
【0051】
酸素原子及びケイ素原子を有する研磨対象物としては、例えば、酸化ケイ素(SiO2)、オルトケイ酸テトラエチル(TEOS)等が挙げられる。
【0052】
ケイ素-ケイ素結合を有する研磨対象物としては、例えば、ポリシリコン、アモルファスシリコン、単結晶シリコン、n型ドープ単結晶シリコン、p型ドープ単結晶シリコン、SiGe等のSi系合金等が挙げられる。
【0053】
窒素原子及びケイ素原子を有する研磨対象物としては、窒化ケイ素膜、SiCN(炭窒化ケイ素)等のケイ素-窒素結合を有する研磨対象物などが挙げられる。
【0054】
これら材料は、単独で用いてもよいしまたは2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0055】
これらのうち、酸素原子およびケイ素原子を含む研磨対象物である場合に、更に言えば酸素原子およびケイ素原子の結合が含まれる研磨対象物である場合に本発明による効果をより有効に発揮でき、オルトケイ酸テトラエチル(TEOS)を原料とした酸化ケイ素を含む研磨対象物である場合に、本発明による効果をさらに有効に発揮できる。すなわち、本発明の好ましい形態によると、本発明の研磨用組成物は、酸素原子およびケイ素原子を含む研磨対象物を研磨するために用いられる。さらに、本発明の特に好ましい形態によると、研磨対象物がオルトケイ酸テトラエチルを原料とした酸化ケイ素基板である。
【0056】
なお、研磨対象物は酸素原子とケイ素原子とを含む材料であることが好ましいが、この場合であっても、上記以外に他の材料を含んでいてもよい。他の材料の例としては、例えば、窒化ケイ素(SiN)、炭化ケイ素(SiC)、サファイア(Al2O3)、シリコンゲルマニウム(SiGe)等が挙げられる。
【0057】
<研磨方法および基板の製造方法>
上述のように、本発明の一側面に係る研磨用組成物や、上記製造方法により製造される研磨用組成物は、酸素原子と、ケイ素原子と、を含む研磨対象物の研磨に特に好適に用いられる。よって、本発明の一側面によれば、酸素原子およびケイ素原子を含む研磨対象物を、上記の研磨用組成物を用いて、または上記の製造方法により研磨用組成物を得、当該研磨用組成物を用いて研磨対象物を研磨することを有する、研磨方法が提供される。また、本発明の好ましい形態によると、オルトケイ酸テトラエチル(TEOS)を含む研磨対象物を、本発明の研磨用組成物を用いて、または上記の製造方法により研磨用組成物を得、当該研磨用組成物を用いて研磨することを有する、研磨方法が提供される。
【0058】
研磨装置としては、研磨対象物を有する基板等を保持するホルダーと回転数を変更可能なモータ等とが取り付けてあり、研磨パッド(研磨布)を貼り付け可能な研磨定盤を有する一般的な研磨装置を使用することができる。
【0059】
前記研磨パッドとしては、一般的な不織布、ポリウレタン、および多孔質フッ素樹脂等を特に制限なく使用することができる。研磨パッドには、研磨液が溜まるような溝加工が施されていることが好ましい。
【0060】
研磨条件にも特に制限はなく、例えば、研磨定盤(プラテン)の回転速度は、10~500rpmが好ましく、研磨対象物を有する基板にかける圧力(研磨圧力)は、0.5~10psiが好ましい。研磨パッドに研磨用組成物を供給する方法も特に制限されず、例えば、ポンプ等で連続的に供給する方法が採用される。この供給量に制限はないが、研磨パッドの表面が常に本発明の一側面に係る研磨用組成物で覆われていることが好ましい。
【0061】
研磨終了後、基板を流水中で洗浄し、スピンドライヤ等により基板上に付着した水滴を払い落として乾燥させることにより、酸素原子とケイ素原子とを有する基板が得られる。
【0062】
本発明の研磨用組成物は一液型であってもよいし、研磨用組成物の一部または全部を任意の混合比率で混合した二液型をはじめとする多液型であってもよい。また、研磨用組成物の供給経路を複数有する研磨装置を用いた場合、研磨装置上で研磨用組成物が混合されるように、予め調整された2つ以上の研磨用組成物を用いてもよい。
【0063】
また、本発明の一側面に係る研磨用組成物は、原液の形態であってもよく、研磨用組成物の原液を水で希釈することにより調製されてもよい。研磨用組成物が二液型であった場合には、混合および希釈の順序は任意であり、例えば一方の組成物を水で希釈後それらを混合する場合や、混合と同時に水で希釈する場合、また、混合された研磨用組成物を水で希釈する場合等が挙げられる。
【実施例】
【0064】
本発明を、以下の実施例および比較例を用いてさらに詳細に説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。なお、特記しない限り、「%」および「部」は、それぞれ、「質量%」および「質量部」を意味する。また、下記実施例において、特記しない限り、操作は室温(25℃)/相対湿度40~50%RHの条件下で行われた。
【0065】
なお、シリカ(砥粒)の平均一次粒子径(nm)、平均二次粒子径(nm)、真密度(g/cm3)、BET比表面積(m2/g)、ならびにTGピーク温度(℃)は、以下の方法により測定した。
【0066】
[シリカの平均粒子径(nm)]
シリカ(砥粒)の平均一次粒子径(nm)は、約0.2gのシリカサンプルについて、BET法で3~5回連続で測定した値から算出したシリカ粒子の比表面積(SA)の平均値を基に、シリカ粒子の形状が真球であると仮定して算出する。なお、これらの値から、会合度(平均二次粒子径/平均一次粒子径)の値についても算出できる。
【0067】
シリカ(砥粒)の平均二次粒子径(nm)は、シリカサンプルについて、動的光散乱式の粒子径分布測定装置(UPA-UT151、日機装株式会社製)を用いて測定した。まず、砥粒を純水中へ分散させ、ローディングインデックス(レーザーの散乱強度)が0.01である分散液を調製した。次いで、この分散液を用いて、UTモードでの体積平均粒子径Mvの値を3~5回連続で測定し、得られた値の平均値を平均二次粒子径とした。
【0068】
[シリカの真密度(g/cm3)]
シリカ(砥粒)の真密度(g/cm3)は、下記方法によって測定される。詳細には、まず、るつぼにシリカ水溶液を固形分(シリカ)で約15gとなるように入れ、市販のホットプレートを使用して、約200℃で水分を蒸発させる。さらに、シリカの空隙に残留した水分も除去するために、電気炉(アドバンテック株式会社製、焼成炉)にて300℃で1時間の熱処理を行い、処理後の乾燥シリカを乳鉢で擂り潰す。次に、あらかじめ精密天秤(株式会社エー・アンド・デイ製、GH-202)にて重量を測定した100ml比重瓶(Wa(g))に、上記にて作製した乾燥シリカを10g入れて重量を測定した(Wb(g))後、エタノールを20ml加えて、減圧したデシケータ内で30分間脱気する。その後、比重瓶内をエタノールで満たし、栓をして重量を測定する(Wc(g))。シリカの重量測定を終えた比重瓶は内容物を廃棄し、洗浄後にエタノールで満たし重量を測定する(Wd(g))。これらの重量と測定時のエタノールの温度(t(℃))から、式1および式2で真密度を算出する。
【0069】
【0070】
【0071】
[シリカのBET比表面積(m2/g)]
シリカ(砥粒)の比表面積(m2/g)は、BET法を用いて測定する。詳細には、試料(シリカ)を105℃で12時間以上加温して水分を除去する。乾燥したシリカを乳鉢で擂り潰し、あらかじめ重量を測定したセル(Wa’(g))にシリカを約0.2g入れて重量を測定した(Wb’(g))後、5分以上、比表面積計(株式会社島津製作所製、flowsorb II 2300)の加温部で180℃に保温する。その後、測定部に装着し、脱気時の吸着面積(A[m2])を計測する。当該A値を用いて、下記式3により、比表面積SA[m2/g]を求める。
【0072】
【0073】
[熱重量測定(TG)]
TGは、測定サンプルの温度をある一定のプログラムに従って変化させたときのサンプルの重量変化を検出する解析手法であり、温度の関数としてプロットされたデータを得る。まず、測定試料であるシリカを105℃で24時間乾燥させ、遊離水分を除去する。乾燥させた試料をめのう乳鉢で磨り潰した後、アルミナパンに約30mg量り入れ、TG測定機(Thermo plus Evo(リガク社製))を用いて測定を行う。標準試料としてはα-アルミナを用いる。測定の際は、先ず、2℃/分で測定部の温度を150℃まで上昇させ、余剰水分を蒸発させる。これにより、乾燥後の静置時間の違いによる吸湿量の差の影響を排除する。その後、相対湿度70%RH、25℃の雰囲気中で40分間静置させることで試料に水分を吸湿させる。測定部が25℃に低下したら直ちに、1℃/分で測定部の温度を250℃まで上昇させ、経時的な熱重量変化を0.5分ごとに観測する。測定で求めた重量変化から単位面積当たりの重量変化率(重量変化率)を算出する。重量変化率を縦軸に、測定温度を横軸にとってプロットし、ガウシアンフィッティングを行って重量変化率分布曲線を得て、最大ピークのボトム温度(TGピーク温度)を求める。なお、測定点n-1(試料重量Wn-1、測定温度Tn-1)と次の測定点n(試料重量Wn、測定温度Tn)との間における重量変化率(ΔW)は以下の式4により算出される値である。
【0074】
【0075】
<比較例1>
砥粒として砥粒1を準備した。砥粒1は、平均一次粒子径が35nm、平均二次粒子径が67nm、会合度が1.9、BET比表面積が78m
2/g、真密度が1.80g/cm
3、TGピーク温度が55.0℃の、ゾルーゲル法により作製したコロイダルシリカである。熱重量測定により得られた砥粒1(比較例1)についての重量変化率分布曲線を
図2に示す。
【0076】
上記砥粒1を、組成物中の濃度が1.0質量%となるように、分散媒(純水)中で攪拌・分散させ、さらに、pH調整剤として乳酸を研磨用組成物のpHが4.0となるように加えることにより、研磨用組成物(研磨用組成物1)を作製した(混合温度:約25℃、混合時間:約10分)。なお、研磨用組成物(液温:25℃)のpHは、pHメータ(株式会社堀場製作所製 型番:LAQUA(登録商標))により確認した。
【0077】
<実施例1>
上記砥粒1を以下の条件にて水熱処理して得た砥粒2を用いた以外は、比較例1と同様の手法により、研磨用組成物2を調製した。すなわち、1kgの砥粒1をバンドヒーター式オートクレーブ(耐圧硝子工業社製 TAS-1型)に投入した(シリカ濃度19.5質量%、pH7.3)。当装置は容器に密着したバンドヒーターにより温度を制御し、内部は攪拌しながら均一に試料に熱を加える仕組みになっている。水熱処理は、室温(25℃)を始点として、昇温速度が1.75℃/分、最高温度が160℃、最高温度(160℃)を維持する時間が1時間45分、最高温度(160℃)における圧力が0.63MPaになるよう設定し、プログラム運転で行った。水熱処理が完了した砥粒は、加熱時間が過剰に延びない様、直ちに室温環境下に戻した。上記手法により、砥粒2を得た。
【0078】
上記水熱処理にて得られた砥粒2は、平均一次粒子径が35nm、平均二次粒子径が67nm、会合度が1.9、BET比表面積が68m
2/g、真密度が1.80g/cm
3、TGピーク温度が51.0℃であった。熱重量測定により得られた砥粒2(実施例1)についての重量変化率分布曲線を
図2に示す。
【0079】
<比較例2>
砥粒として砥粒3を準備した。砥粒3は、平均一次粒子径が32nm、平均二次粒子径が61nm、会合度が1.9、BET比表面積が90m2/g、真密度が2.10g/cm3、TGピーク温度が44.5℃の、ゾルーゲル法により作製したコロイダルシリカである。
【0080】
上記砥粒3を、組成物中の濃度が1.0質量%、pH8.0となるように、分散媒(純水)中で攪拌・分散させることにより、研磨用組成物(研磨用組成物3)を作製した(混合温度:約25℃、混合時間:約10分)。pHの調整にはアンモニアを用いた。
【0081】
<実施例2>
比較例2において、研磨用組成物のpHが4.0となるように、pH調整剤として乳酸を加えることにより研磨用組成物を調製した。上記以外は比較例2と同様にして、研磨用組成物4を作製した。熱重量測定により得られた砥粒3(実施例2)についての重量変化率分布曲線を
図2に示す。
【0082】
上記で得られた研磨用組成物について、下記方法に従って、研磨速度および欠陥(スクラッチ数)を評価した。これらの結果を下記表1に示す。なお、下記表1において、「TEOS RR」は研磨速度を意味する。
【0083】
[研磨速度]
上記で得られた各研磨用組成物を用いて、研磨対象物(TEOS基板)を以下の研磨条件で研磨した際の研磨速度(TEOS RR)を測定した。
【0084】
(研磨条件)
研磨機:小型卓上研磨機(日本エンギス株式会社製、EJ380IN)
研磨パッド:硬質ポリウレタン製パッド(ニッタ・ハース株式会社製、IC1000)
プラテン(定盤)回転速度:60[rpm]
ヘッド(キャリア)回転速度:60[rpm]
研磨圧力:3.0[psi]
研磨用組成物(スラリー)の流量:100[ml/min]
研磨時間:1[min]
研磨速度(研磨レート)は、研磨対象物の研磨前後の膜厚を光干渉式膜厚測定装置(株式会社SCREENホールディングス製、ラムダエースVM2030)によって求めて、その差を研磨時間で除することにより評価した(下記式参照)。
【0085】
【0086】
[欠陥(スクラッチ数)]
上記で得られた各研磨用組成物を用いて、下記方法に従って、欠陥(スクラッチ数)を評価した。詳細には、研磨対象物表面のスクラッチの個数は、ケーエルエー・テンコール(KLA-TENCOR)株式会社製の欠陥検出装置(ウエハ検査装置)“Surfscan(登録商標) SP2”を用いて、ウエハ全面(ただし外周2mmは除く)上の0.13μm以上の欠陥を検出した。検出した欠陥を、Review-SEM(RS-6000、株式会社日立ハイテクノロジーズ製)で全数観察することで、欠陥(スクラッチ)数を集計した。得られた欠陥(スクラッチ)数を下記の判断基準に従って評価した。
【0087】
(スクラッチ数判断基準)
◎:0.13μm以上の欠陥が20個以下
○:0.13μm以上の欠陥が21個以上30個以下
△:0.13μm以上の欠陥が31個以上50個以下
×:0.13μm以上の欠陥が51個以上
【0088】
【0089】
上記表1から明らかなように、実施例の研磨用組成物はシリカ濃度1.0質量%という低濃度であっても、比較例の研磨用組成物に比べて、TEOS基板の研磨速度をより向上させ、かつTEOS基板表面のスクラッチも低減させうることが分かる。
【0090】
なお、本出願は、2016年7月15日に出願された日本特許出願第2016-140629号に基づいており、その開示内容は、参照により全体として引用されている。