(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-23
(45)【発行日】2022-03-31
(54)【発明の名称】セメント用急硬性添加材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C04B 22/08 20060101AFI20220324BHJP
【FI】
C04B22/08 Z
(21)【出願番号】P 2018086997
(22)【出願日】2018-04-27
【審査請求日】2021-02-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000183266
【氏名又は名称】住友大阪セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100116687
【氏名又は名称】田村 爾
(74)【代理人】
【識別番号】100098383
【氏名又は名称】杉村 純子
(74)【代理人】
【識別番号】100155860
【氏名又は名称】藤松 正雄
(72)【発明者】
【氏名】狩野 和弘
(72)【発明者】
【氏名】木虎 智子
(72)【発明者】
【氏名】上河内 貴
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 恭子
(72)【発明者】
【氏名】菊池 定人
(72)【発明者】
【氏名】平野 有紀
(72)【発明者】
【氏名】新杉 匡史
【審査官】山本 吾一
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-108235(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
C12A7系鉱物相を70質量%以上、C2Sを25質量%以下、C3Aを5質量%以下、CAを10質量%以下、C2ASを20質量%以下
、C4AFを0.5質量%以下で含み、CaO及びMgO並びに、残部の鉱物相の総質量が15質量%以下であることを特徴とする、セメント用急硬性添加材。
【請求項2】
請求項
1記載のセメント用急硬性添加材において、更にFe
2O
3を5質量%以下で含み、CIE色差式によって求めたL*値が、式L*≧-3.4×Fe
2O
3+55の範囲であることを特徴とする、セメント用急硬性添加材。
【請求項3】
請求項1
又は2記載のセメント用急硬性添加材において、CIE色差式によって求めたL*値が67~85であることを特徴とする、セメント用急硬性添加材。
【請求項4】
C12A7系鉱物相が70質量%以上、C2Sが25質量%以下、C3Aが5質量%以下、CAが10質量%以下、C2ASが20質量%以下
、C4AFを0.5質量%以下、CaO及びMgO並びに、残部の鉱物相の総質量が15質量%以下となるように原料を配合して粉末化し、該粉末化原料を焼成して得られる焼成体のL*値が、式L*≧-3.4×Fe
2O
3+55の範囲になるように、焼成時の酸素濃度を調整して焼成することを特徴とする、セメント用急硬性添加材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメント用急硬性添加材及びその製造方法に関し、特に、任意のセメントに添加して、常温のみならず夏季のような高温であっても、セメントに良好な初期強度の発現を付与することができるとともに、所定の流動性を十分に確保して施工性に優れる、セメント用急硬性添加材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、トンネルや地下空間の建設工事では、モルタルやコンクリート等のセメント混合物を、壁面や露出面に吹き付けてライニングし、壁面や露出面の崩落を防止する吹き付け施工工法が広く実施されている。
かかるコンクリート吹き付け工法においては、コンクリート等を調製し、それを取り扱う際に必要な最低限の可使時間(ハンドリングタイム)を確保するとともに、壁面や露出面に吹き付けた後に、コンクリート等を即時に硬化させる必要がある。
また、止水工事や緊急工事においても、モルタルやコンクリートの可使時間を確保するとともに、即時に硬化させる必要がある。
【0003】
従来、急硬性を有するセメントとして、ジェットセメント等の急硬性セメントを製造している。これらに使用されるクリンカとして、ジェットセメントクリンカ、C4A3Sを主成分とするアーウィン系クリンカ、CAを主成分とするアルミナセメントクリンカ等がある。
また、急硬性成分であるC12A7を主成分としたクリンカを溶融し、その後これを急冷することによって、非晶質C12A7を得る方法もある。
【0004】
特に、従来のジェットセメントクリンカは、カルシウムシリケート相を主成分とし速硬性成分としてC11A7・CaF2を約20~30重量%含有するクリンカであり、C11A7CaF2やC4AF等の融液相を生成させてなるものである。従って、急硬性成分であるC12A7の含有量を、上記範囲以上とすると、融液相が多くなりすぎ、クリンカが溶融してしまい、例えば現状設備での製造が非常に困難となる。
【0005】
また、アーウィン系クリンカは、急硬性を有するアーウィン(C4A3S)を70重量%以上含有することから急硬性セメント用クリンカとして利用されているが、その急硬性成分の特性により、特に、低温での急硬性に劣るという問題がある。
更に、CAを主成分とするアルミナセメントクリンカは、C12A7を主成分としたクリンカに比べると、急硬性が劣る。
【0006】
急硬性クリンカとしては、特許第4616113号公報(特許文献1)に、還元雰囲気下での焼成前のC12A7またはC11A7・CaX2(Xはハロゲンを示す)の含有量が20~30質量%であって、該C12A7またはC11A7・CaX2(Xはハロゲンを示す)を、還元雰囲気下、1300~1380℃で焼成することにより、X線回折により測定した格子定数が11.93~11.96Åであることを特徴とする、急硬性クリンカが開示されている。
【0007】
更に、特許第3179702号公報(特許文献2)には、急硬性セメント、急結材、速硬性セメント、地盤改良材、マスキング材等に使用されるクリンカ組成物であって、鉱物相として、12CaO・7Al2O3系のカルシウムアルミネートを主成分としたクリンカ原料に、Fe2O3を全体の0.1~9重量%、CaF2を全体の0.1~9重量%含有共存させることによって低温融液相と高温融液相とを生成させ、且つTiO2を全体の0.5~9重量%添加することによって該低温融液相と高温融液相との融液生成開始温度を低下させて焼成してなることを特徴とする急硬性クリンカ組成物が開示されている。
【0008】
これら従来のセメントクリンカは、固相反応を促進させるため、融液相を積極的に生成させる必要があり、融液相が少ないと固相反応が進まずクリンカ鉱物生成がうまく進行しない。一方、融液相の過剰生成は、クリンカ製造上問題となるため、生成される融液相の量を一定の範囲に入るように調整する必要があった。
特に、上記特許文献2等のクリンカは、C12A7系鉱物含有量をジェットクリンカに比べて増加させたものであり、C12A7系鉱物相を固相反応により生成するものである。このときFeやTiを添加して適量の融液相を生成させてクリンカを得ている。
また、上記従来のクリンカのC12A7系鉱物は固溶体であり、FeやTiの含有によりC12A7系鉱物の固溶状態が変化し、このことは、C12A7系鉱物の水和活性に影響を及ぼす。
【0009】
しかし、常温のみならず夏季のような高温季において、所望する急硬性である、例えば3時間強度を十分に発現し、セメントの流動性を十分に確保することは難しかった。これはクリンカを製造するために必要な適量の融液相を生成させる条件と、急硬性成分の固溶状態、すなわち水和活性を最大とする条件とが必ずしも一致しないからであり、急硬性成分の水和活性を最大となるような設計が困難であることが関係する。
更に、これらのクリンカはセメントの製造に用いる材料であり、任意のセメントに後添加して、得られるセメントの水和活性を利用時に増大し、所望する任意の急硬性を得るのに用いられるものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特許第4616113号公報
【文献】特許第3179702号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、常温のみならず夏季のような高温下で十分な強度を発現し、水和活性に優れて良好な急硬性能を示すとともに、所定の流動性を十分に確保して施工性に優れる、セメント用急硬性添加材及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
請求項1記載のセメント用急硬性添加材は、C12A7系鉱物相を70質量%以上、C2Sを25質量%以下、C3Aを5質量%以下、CAを10質量%以下、C2ASを20質量%以下で含むことを特徴とする、セメント用急硬性添加材である。
【0013】
請求項1記載のセメント用急硬性添加材は、更に、C4AFを0.5質量%以下で含むことを特徴とする、セメント用急硬性添加材である。
【0014】
請求項1記載のセメント用急硬性添加材は、CaO及びMgO並びに、残部の鉱物相の総質量が15質量%以下であることを特徴とする、セメント用急硬性添加材である。
【0015】
請求項2記載のセメント用急硬性添加材は、請求項1記載のセメント用急硬性添加材において、更にFe2O3を5質量%以下で含み、CIE色差式によって求めたL*値が、式L*≧-3.4×Fe2O3+55の範囲であることを特徴とする、セメント用急硬性添加材である。
【0016】
請求項3記載のセメント用急硬性添加材は、請求項1又は2記載のセメント用急硬性添加材において、CIE色差式によって求めたL*値が67~85であることを特徴とする、セメント用急硬性添加材である。
【0017】
請求項4記載のセメント用急硬性添加材の製造方法は、C12A7系鉱物相が70質量%以上、C2Sが25質量%以下、C3Aが5質量%以下、CAが10質量%以下、C2ASが20質量%以下、C4AFを0.5質量%以下、CaO及びMgO並びに、残部の鉱物相の総質量が15質量%以下となるように原料を配合して粉末化し、該粉末化原料を焼成して得られる焼成体のL*値が、式L*≧-3.4×Fe2O3+55の範囲になるように、焼成時の酸素濃度を調整して焼成することを特徴とする、セメント用急硬性添加材の製造方法である。
【発明の効果】
【0018】
本発明のセメント用急硬性添加材は、任意のセメントと混合することにより、得られるモルタル等が、流動性を十分に確保して優れた施工性を得ることができるとともに、水和活性を向上させて所望される優れた3時間初期強度を示すことができる。
従って、急硬性用途において作業現場等で有効に適用することが可能となり、更に、本発明のセメント用急硬性添加材を所望する初期強度に応じて任意の量で簡便に調整添加することで、所望する急硬性を得る設計を行うことが容易となるとともに、常温のみならず、特に30℃以上の夏季等の高温時での施工性を良好とすることが可能となる。
また、本発明のセメント用急硬性添加材を用いたモルタル等の、例えばポンプ圧送性が良好となる流動性を有することが可能である。
【0019】
本発明のセメント用急硬性添加材の製造方法は、上記本発明のセメント用急硬性添加材を有効に製造することができ、また特殊な装置や設備を必要とせず、既存の設備を利用して、上記本発明のセメント用急硬性添加材を経済的に有効に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明を次の形態により説明するが、これらに限定されるものではない。
本発明のセメント用急硬性添加材は、C12A7系鉱物相を70質量%以上、C2Sを25質量%以下、C3Aを5質量%以下、CAを10質量%以下、C2ASを20質量%以下で含む、セメント用急硬性添加材である。
本発明のセメント用急硬性添加材は、C4AFは0.5質量%以下で含まれ、CaO(フリーライム)及びMgO(ペリクレース)並びに残部の鉱物相の総質量が15質量%以下である。
ここで、「残部の鉱物相」とは、セメント用急硬性添加材中のC12A7系鉱物相、C2S、C3A、CA、C2AS、CaO及びMgO以外の鉱物相を意味し、かかる「残部の鉱物相」は、初期水和反応には寄与しないものである。
【0021】
すなわち、本発明のセメント用急硬性添加材は、C12A7系鉱物相を主成分とする添加材であって、C2Sを25質量%以下、C3Aを5質量%以下、CAを10質量%以下、C2ASを20質量%以下で含み、好ましくは、C4AFを0.5質量%以下で含み、更に好ましくはCaO及びMgO並びにC2S、C3A、CA、C2AS以外の残部の鉱物相の総質量が15質量%以下であることにより、任意の市場で入手しうるセメントに添加して得られるモルタル等が、常温のみならず、高温域においても優れた流動性を確保して施工性に優れることができるものとなり、3時間初期強度も良好とすることが可能となる。
【0022】
本発明のセメント用急硬性添加材には、カルシウムアルミネート相であるC12A7系鉱物相が70質量%以上含まれ、好適には83質量%以上含まれる。
従って、C12A7系鉱物相を高含有量で含み且つ水和活性を向上させることができ、その結果、上記本発明の効果を十分に奏することができるものとなる。
上記C12A7系鉱物相の含有量が70質量%未満であると、十分な急硬性が得られず、初期強度が低下してしまい、本発明の上記効果が得られない。
ここで、C12A7系鉱物相は、C12A7やC11A7・CaX2(Xは、F、Cl、Br等のハロゲン)が該当し、またこれらの混合相であってもよい。
【0023】
また、本発明のセメント用急硬性添加材に含まれるC2Sは、25質量%以下、好ましくは20質量%以下であり、実質的に含まれないことが望ましく、C3Aは5質量%以下であり、実質的に含まれないことが望ましく、更にCAは10質量%以下、好ましくは5質量%以下であり、実質的に含まれないことが望ましく、C2ASは20質量%以下、好ましくは10質量%以下であり、実質的には含まれないことが望ましい。
上記各鉱物であるC2S、C3A、CA、C2ASが、それぞれ上記各含有範囲を超えて含まれると、セメント用急硬性添加材中に含まれるC12A7系鉱物の含有量が少なくなってしまい、本発明の上記効果を発揮することができなくなってしまう。
ここで、「実質的に含まれない」とは、これらの鉱物相が、原料中に含まれる不純物であるSiやCaリッチ又はAlリッチな原料を用いることにより生成される場合を妨げないという意味であり、積極的に生成して含有させるものではない。
【0024】
また、かかるC12A7系鉱物相を主成分とし、C2S、C3A、CA、C2ASの含有量が一定以下の本発明のセメント用急硬性添加材は、更に、C4A3Sを実質的に含まないことが望ましい。
実質的に含まれないとは、上記と同様に、原料中に含まれる不純物であるSO3により生成される場合を妨げないという意味であり、積極的に生成して含有させるものではない。
なお、本明細書において、Sは、SO3を意味し、SはSiO2を意味するものである。
【0025】
また、本発明のセメント用急硬性添加材中にはFe2O3は実質的には含まれないことが望ましく、例えば、Feの含有量はFe2O3酸化物換算で5質量%以下、好ましくは1.5質量%以下であるため、含有されるC4AFは0.5質量%以下である。実質的にはC4AFはほとんど生成されず含まれない。
【0026】
更に、本発明のセメント用急硬性添加材は、MgOと、CaOと、上記C2S、C3A、CA及びC2AS以外の鉱物相(残部の鉱物相)との合計含有量が15質量%以下、好ましくは12質量%以下であることが望ましい。
15質量%を超えると、セメント用急硬性添加材中に含まれるC12A7系鉱物の含有量が少なくなってしまい、本発明の上記効果を発揮することができなくなってしまう場合があり望ましくない。
【0027】
また更に、本発明のセメント用急硬性添加材は、下記式を満足する関係とすることにより、本発明の効果を更に有効に発現することができる。
L*≧―3.4×Fe2O3+55
式中、L*は、本発明のセメント用急硬性添加材のCIE色差式によって求めた色差値(L*値)を示し、例えば、コニカミノルタジャパン(株)製の色彩色差計(CR-300)を用いて、CIE(国際照明委員会)で規定された明度(L*値)の値であり、Fe2O3は、含有されるFe量を酸化物換算したものである。
セメント用急硬性添加材を調製する際の焼成時の還元度が高すぎるとL*値が低下し、C12A7系の活性が低下して初期強度不足となってしまい、また、セメント用急硬性添加材中のFe2O3含有量が、上記した含有範囲を超えて多く含むとL*値が低下するが、上記したFe2O3含有範囲であれば、問題にはならない。
上記式は、Fe2O3含有量によってL*値が低下する要素を取り除き、還元焼成によってL*値が低下する要素について範囲を示したものであり、L*値が上記式を満たすように焼成中の酸素濃度を調整するようにする。
【0028】
更に、本発明のセメント用急硬性添加材は、CIE色差式によって求めたL*値が67~85である。
L*値が上記範囲外であると、含有されるC12A7系の活性が低下してしまい、初期強度発現性が劣ることとなり望ましくない。セメント用急硬性添加材中のFe2O3含有量が、上記した含有範囲を超えて多く含むとL*値が低下するが、上記したFe2O3含有範囲であれば、問題にはならず、L*値が67~85とすることができる。
【0029】
本発明のセメント用急硬性添加材は、生石灰、消石灰、石灰石等のカルシウム原料、水酸化アルミニウム、アルミナ、ボーキサイトやバンド頁岩等のアルミニウム原料、ドロマイト等のマグネシウム原料、必要に応じて配合する蛍石等のフッ素原料等を混合して粉砕し、または粉砕して混合し、この粉末混合物を成形して成形体を得て、これを電気炉等加熱炉等を用いて焼成し、冷却して、セメント用急硬性添加材を調製する。
なお、得られるセメント用急硬性添加材中に含まれるFeの原料となるもの(例えばベンガラ等)は積極的に配合しない。得られるセメント用急硬性添加材中に含まれるFeは、上記配合原料中に不純物として含有されることにより、結果として含まれる場合もあるもので、積極的に含有させるものではない。
【0030】
具体的には、本発明のセメント用急硬性添加材は、配合原料を粉末化して混合し、混合粉末を成型して得られた成型体を、例えば1250~1400℃、好ましくは1300~1360℃の温度で十分に、例えば0.5~3時間焼成し、次いで40℃/分以下、好ましくは5~40℃/分の冷却速度により冷却することで製造することができる。なお、上記本発明における含量割合となるように、原料を配合する。
上記各鉱物の含有量を上記のように調整することで、常温及び高温時においての施工性に優れるとともに、3時間強度発現性に優れるものとなる。
【0031】
このように、原料混合粉末を焼成、必要に応じて成型した成型体を焼成して、例えば40℃/分以下、好ましくは5~40℃/分の冷却速度で冷却する。かかる焼成中の酸素濃度を測定するとともに、得られるセメント用急硬性添加材のL*値を測定し、L*≧―3.4×Fe2O3+55を満足できるように、望ましくはL*値が上記67~85の範囲内となるように、焼成時に空気等を導入して、酸素濃度を調整して調整する。
即ち、流動性を良好として可使時間を確保するとともに急硬性を得るためには、上記焼成温度等で焼成し、上記冷却速度で冷却し、酸素濃度を調整することで、好適な本発明のセメント用急硬性添加材を得ることができることとなる。
【0032】
本発明のセメント用急硬性添加材は、粉砕してセメント用急硬性添加材粉末とし、該粉末を任意のセメント、例えば、普通ポルトランドセメント等に硫酸塩等とともに配合して急硬性セメント組成物として利用することが可能である。
本発明のセメント用急硬性添加材は、ブレーン比表面積が4500cm2/g以上に粉砕して用いることが好ましく、これは、4500cm2/g未満では、良好な急硬性が得られない場合があるからである。
また、ブレーン比表面積は、大きくしすぎると流動性に悪影響を及ぼし、粉砕時間を要して生産性が低下しコスト高になるので、5000~7000cm2/gが望ましい。
また、粉砕する際に、粉砕助剤(ジエチレングリコール、トリエタノールアミン等)を添加してもよい。
【0033】
前記本発明のセメント用急硬性添加材が配合されるセメントとしては、市販されている任意のセメントを適用することができ、例えば、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、普通ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、耐硫酸塩ポルトランドセメント、フライアッシュセメント、高炉セメント、シリカセメント等から選ばれる少なくとも1種類を用いることができる。
【0034】
また、硫酸塩としては、例えば、芒硝(硫酸ナトリウム)、硫酸カリウムなどのアルカリ金属硫酸塩、硫酸マグネシウム、石膏(硫酸カルシウム)などのアルカリ土類金属硫酸塩、硫酸アルミニウムなどが挙げられ、強度発現性の点から、石膏の使用が、あるいは石膏と芒硝の併用が好ましい。
石膏としては、無水石膏、半水石膏、二水石膏、またはこれらの混合物が例示できる。
また、その他必要に応じて配合が可能な材料として消石灰が挙げられる。
【0035】
前記本発明のセメント用急硬性添加材、セメント、硫酸塩、水等の混合方法は、特に限定するものではなく、所定の割合に配合したのち、慣用の混合装置を用いて混合すれば良い。
また他に、凝結調整剤(リグニンスルホン酸系、オキシカルボン酸系、糖類等各種有機酸もしくは有機酸のアルカリ金属塩やアルカリ土類金属塩)や減水剤(アルキルアリルスルホン酸系、ナフタレンスルホン酸系、メラミンスルホン酸系、ポリカルボン酸系、AE減水剤、高性能減水剤、高性能AE減水剤も含む)等、液状または粉末状の混和剤や、細骨材(川砂、海砂、山砂、砕砂およびこれらの混合物)や、粗骨材(川砂利、海砂利、砕石およびこれらの混合物)等を配合することができる。
【0036】
このように本発明のセメント用急硬性添加材は、任意のセメントに添加することで、例えば、常温のみならず夏季のような高温での作業においても流動性を確保することができ施工性に優れるとともに、良好な3時間強度発現性を有し、所望する急硬性を現場で得ることができ、施工性を確保しつつ良好な初期強度発現性を得るための設計を極めて容易に操作することが可能となる。
【実施例】
【0037】
本発明を次の実施例、比較例及び試験例に基づき説明する。
(実施例1~19、比較例1~15)
1)セメント用急硬性添加材の調製
下記表1~3に示すように、石灰石、蛍石、水酸化アルミニウム、酸化鉄、酸化チタン及び珪砂の各原料を混合して粉末化して、加圧成形し、各成型体を電気炉にて、1300℃で30分間、表1~3に示す各酸素濃度で焼成し、次いで40℃/分の冷却速度で冷却して各セメント用急硬性添加材を得た
【0038】
2)セメント用急硬性添加材の鉱物の分析
得られた各セメント用急硬性添加材をX線回折/リートベルト法(装置:パナリティカル社製X’Pert MPD、解析ソフト:HighScorePlus)を用いて、C12A7系、C2S、C3A、CA、C2AS、C4AF、C4A3S、CaO(フリーライム)及びMgO(ぺリクレース)の含有割合を測定した。その結果を、表1~3に示す。
なお、表中、前記鉱物以外の鉱物量を「その他」として表記した。
管電圧:45kV 管電流:40mA
【0039】
3)Fe成分の含有量の測定
得られた各セメント用急硬性添加材を、蛍光X線分析装置(パナリティカル社製;Axios)を用いて、JIS R 5204に準じて分析して、含有されるFe成分の含有割合を測定した。
その結果を、表1~3に示す。
但し、Fe成分は、セメント用急硬性添加材中に含まれるFeをFe2O3として換算して表示した。
【0040】
4)色調の測定
得られた各セメント用急硬性添加材の色調を、コニカミノルタジャパン(株)製の色彩色差計(CR-300)を用いて、CIE(国際照明委員会)で規定された明度(L値)の値で測定した。その結果を、表1~3に示す。
【0041】
【0042】
【0043】
【0044】
5)モルタルの調製
次いで、上記各セメント用急硬性添加材をブレーン比表面積が5200±200cm2/g程度に粉砕して、各セメント用急硬性添加材粉末を得た。
早強セメント(HC:住友大阪セメント株式会社製)に、各セメント用急硬性添加材粉末、無水石膏(試薬、ブレーン比表面積6800cm2/g)、Na2SO4(ぼう硝:試薬)及び消石灰(試薬)を、下記表4に示す配合割合にて配合してセメント組成物を調製した。
なお、前記各セメント組成物に、凝結調整剤(試薬;酒石酸、和光純薬工業(株)製)をセメント組成物に対して外割で表4に示す割合で配合するとともに水を、水/セメント組成物質量比が0.38となるように、下記表4のように配合して均一に混練し、各モルタルを得た。
【0045】
【0046】
(試験例)
1)強度測定及びフロー値測定
上記で得られた各モルタルについて、30℃での3時間強度(初期強度)及び30℃でのフロー値を、JIS R 5201に準じて測定した。
その結果も上記表1~3に示す。
【0047】
2)凝結時間
上記で得られた各モルタルについて、JIR R 5201(セメントの物理試験方法)に準じて各モルタルの終結時間を測定した。
但し、終結針は直径1インチ高さ2インチの円錐形針を用い、侵入深さが1.5mmになったときの時間を凝結(終結)時間とした。
【0048】
上記試験で、フロー値が250mm以上、凝結時間が40分以上で且つ3時間強度が25N/mm2以上の物性を有するものを◎とし、フロー値が200mm以上で、凝結時間が30分以上且つ3時間強度が20N/mm2以上の物性を有するものを○として評価して、その評価結果も各表1~3に示す。
【0049】
上記表1~3より、本発明の実施例のものは、常温のみならず夏季のような高温であっても、セメントに良好な初期強度の発現を付与することができるとともに、所定の流動性を十分に確保して施工性に優れることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明のセメント用急硬性添加材を、任意のセメントに添加することで、常温のみならず夏季のような高温下においても、所望する急硬性を設計することが容易となり、トンネルや地下空間の建設工事や土木工事、止水工事、壁面等への吹き付け工事、緊急性を有する道路等の補修工事等、また土壌改良材として、所定のハンドリングタイムを確保しつつ、可使時間経過後には速やかに強度発現することが要求される作業箇所へ、有用に適用することができる。