(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-23
(45)【発行日】2022-03-31
(54)【発明の名称】グアニン結晶の製造方法
(51)【国際特許分類】
C07D 487/04 20060101AFI20220324BHJP
【FI】
C07D487/04 144
(21)【出願番号】P 2019097478
(22)【出願日】2019-05-24
【審査請求日】2021-06-25
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28~31年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業「魚のバイオリフレクターで創るバイオ・光デバイス融合技術の開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】304020177
【氏名又は名称】国立大学法人山口大学
(73)【特許権者】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(74)【代理人】
【識別番号】100107984
【氏名又は名称】廣田 雅紀
(74)【代理人】
【識別番号】100102255
【氏名又は名称】小澤 誠次
(74)【代理人】
【識別番号】100096482
【氏名又は名称】東海 裕作
(74)【代理人】
【識別番号】100188352
【氏名又は名称】松田 一弘
(74)【代理人】
【識別番号】100113860
【氏名又は名称】松橋 泰典
(74)【代理人】
【識別番号】100131093
【氏名又は名称】堀内 真
(74)【代理人】
【識別番号】100150902
【氏名又は名称】山内 正子
(74)【代理人】
【識別番号】100141391
【氏名又は名称】園元 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100198074
【氏名又は名称】山村 昭裕
(74)【代理人】
【識別番号】100096013
【氏名又は名称】富田 博行
(72)【発明者】
【氏名】浅田 裕法
(72)【発明者】
【氏名】倉橋 優
(72)【発明者】
【氏名】木村 隆幸
(72)【発明者】
【氏名】岩坂 正和
【審査官】神谷 昌克
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-031478(JP,A)
【文献】特開平11-060575(JP,A)
【文献】特開昭59-027890(JP,A)
【文献】特開昭64-026579(JP,A)
【文献】Crystal Growth & Design,2016年,Vol.16,pp.4975-4980
【文献】Advanced Functional Materials,2017年,Vol.27,1603514(pp.1-13),DOI: 10.1002/adfm.201603514
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
グアニン強塩基塩結晶を水に溶解して
グアニン強塩基塩水溶液を得る工程、及び
前記グアニン強塩基塩水溶液をpH13~7に調整した水溶液と混合する工程を有することを特徴とする、グアニン結晶の製造方法
。
【請求項2】
前記グアニン強塩基塩水溶液が、以下の1)、2)及び3)の工程によって得られることを特徴とする、請求項1に記載のグアニン結晶の製造方法。
1)グアニン結晶粉末をpH14以上の強塩基溶液に溶解させてグアニン強塩基塩を生成する工程、
2)前記1)の工程において得たグアニン強塩基塩を含有する溶液に、前記強塩基との共通陽イオンを添加することにより、グアニン強塩基塩結晶を析出、沈殿させて単離する工程、及び
3)前記2)の工程で得たグアニン強塩基塩結晶を水に溶解する工程。
【請求項3】
グアニン強塩基塩水溶液のpHを14以上にすることを特徴とする、請求項1又は2に記載のグアニン結晶の製造方法。
【請求項4】
前記グアニン強塩基塩水溶液をpH13~7に調整した水溶液と混合する工程において、混合溶液のpHを所定の値に調整することを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載のグアニン結晶の製造方法。
【請求項5】
前記混合溶液のpHを一定値に維持することを特徴とする、請求項4に記載のグアニン結晶の製造方法。
【請求項6】
前記混合溶液のpHを酸もしくはアルカリ又はそれらの塩類で調整することを特徴とする、請求項4又は5に記載のグアニン結晶の製造方法。
【請求項7】
前記グアニン強塩基塩水溶液をpH13~7に調整した水溶液に滴下するか又は分割してpH13~7に調整した水溶液と混合することを特徴とする、請求項1~6のいずれか一項に記載のグアニン結晶の製造方法。
【請求項8】
前記pH13~7に調整した水溶液が、緩衝剤を含有することを特徴とする、請求項1~7のいずれか一項に記載のグアニン結晶の製造方法。
【請求項9】
前記グアニン強塩基塩水溶液及び/又はpH13~7に調整した水溶液に、無機塩類、有機塩類、蛋白質、糖類、アミノ酸、核酸塩基類、界面活性剤及び分散剤から選ばれる1種又は2種以上の水溶性物質を添加することを特徴とする、請求項1~8のいずれか一項に記載のグアニン結晶の製造方法。
【請求項10】
前記グアニン強塩基塩水溶液をpH13~7に調整した水溶液と混合する工程において、加温することを特徴とする、請求項1~9のいずれか一項に記載のグアニン結晶の製造方法。
【請求項11】
前記強塩基が、ナトリウムもしくはカリウムを含む化合物又は水酸化テトラアルキルアンモニウムであることを特徴とする、請求項1~10のいずれか一項に記載のグアニン結晶の製造方法。
【請求項12】
前記強塩基との共通陽イオンとして添加する化合物が、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムもしくはこれらのいずれかの化合物の陽イオンを有する強酸塩又は水酸化テトラアルキルアンモニウムもしくは強酸のアンモニウム塩を含むことを特徴とする、請求項
2~
11に記載のグアニン結晶の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グアニン結晶の製造方法に関し、特に、グアニン強塩基塩水溶液からpHの制御と添加剤により所望の人工グアニン結晶を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、生物由来のグアニン結晶は、耐光性、耐熱性が優れているために魚鱗箔として化粧品に、また、無毒性であるために天然の食品添加物等として利用されてきた。
近年になって、水圏生物由来の結晶板の層状構造体がフォトニック結晶として注目されるようになり、そのうち、生物由来のグアニン結晶は、高い反射率と透過性を有することから、高い光反射機能を持つ材料であるバイオリフレクターとして、光ディバイスへの応用が期待されている。
しかしながら、生物由来のグアニン結晶は価格が高いため、低コストで安定供給を可能にするべく、グアニン結晶を人工的に得るためのプロセスの開発が行われている。
非特許文献1には、グアニンの再結晶により、平板結晶を作製すること、及び、溶液中に有機、無機化合物を添加し、結晶形態を制御することが記載されているが、生成する結晶は1ミクロン前後と小さく、再結晶したものは凝集している。
非特許文献2には、グアニン結晶を溶解し、溶液のpHを調整して再結晶することが記載されているが、グアニンの溶解度が小さく、結晶化に長時間を要するなどの問題点がある。
特許文献1には、グアニン結晶粉末を強塩基性溶液に溶解させてベース溶液を生成させ、次いで、ナトリウムと塩素とを含むトリガー液を添加後、静置してグアニン結晶を析出させることが記載されている。また、魚類から得た色素胞を添加することにより、様々な方向に対して高い反射率を有する高輝度グアニン結晶を迅速に作製することができることも記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Yuya Oaki,et al.,”Morphology and orientation control of guanine crystal : a biogenic architecture and its structure mimetics”, Journal of Materials Chemistry, 2012,22,22686-22691
【文献】Dvir Gur,et al., “Guanine Crystallization in Aqueous Solutions Enables Control over Crystal Size and Polymorphism”, Crystal Growth and Design, pp.4975-4980, Sep. 2016
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来、人工的にグアニン結晶を得る方法は、グアニン粉末をアルカリ溶液に溶解し、pHを制御することにより再結晶してグアニン結晶を得る方法が通常であった。しかし、グアニンはアルカリ溶液にも溶解度が低く高濃度にできないため、製造効率が悪くなる。また、生成したグアニン結晶は凝集が発生し、針状に結晶が成長するなど魚等から得られるグアニン結晶のように数十ミクロンの板状結晶を得ることはできていない。さらに得られた結晶の光学特性は魚等から得られるグアニン結晶の光学特性を実現できていなかった。
そのため、本発明の課題は、天然グアニン結晶と同等以上の性能と均一な特性を持つ人工結晶を得ることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題の解決のために鋭意検討した結果、グアニン粉末を原料として、グアニン強塩基性塩を形成し、その溶液を用いてpHの制御と添加剤の使用等により所望の人工グアニン結晶を得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、以下の発明に関する。
(1)グアニン強塩基塩水溶液をpH13~7に調整した水溶液と混合する工程を有することを特徴とする、グアニン結晶の製造方法。
(2)1)グアニン結晶粉末をpH14以上の強塩基溶液に溶解させてグアニン強塩基塩を生成する工程、
2)前記工程において得たグアニン強塩基塩を含有する溶液に、前記強塩基との共通陽イオンを添加することにより、グアニン強塩基塩結晶を析出、沈殿させて単離する工程、及び
3)前記工程で得たグアニン強塩基塩結晶を水に溶解した水溶液とpH13~7に調整した水溶液を混合する工程
を有することを特徴とする、グアニン結晶の製造方法。
(3)グアニン強塩基塩水溶液をpH13~7に調整した水溶液と混合する工程において、混合溶液のpHを所定の値に調整することを特徴とする、(1)又は(2)に記載のグアニン結晶の製造方法。
(4)前記pH13~7に調整した水溶液が、緩衝剤を含有することを特徴とする、(1)~(3)のいずれかに記載のグアニン結晶の製造方法。
(5)前記グアニン強塩基塩水溶液及び/又はpH13~7に調整した水溶液に、無機塩類、有機塩類、蛋白質、糖類、アミノ酸、核酸塩基類、界面活性剤及び分散剤から選ばれる1種又は2種以上の水溶性物質を添加することを特徴とする、(1)~(4)のいずれかに記載のグアニン結晶の製造方法。
(6)前記グアニン強塩基塩水溶液をpH13~7に調整した水溶液と混合する工程において、加温することを特徴とする (1)~(5)のいずれかに記載のグアニン結晶の製造方法。
(7)前記強塩基が、ナトリウムまたはカリウムを含む化合物であることを特徴とする、(1)~(6)のいずれかに記載のグアニン結晶の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
グアニンの水溶性強塩基塩を経由し、pHを制御して結晶を析出させることにより、サブmm~サブμmオーダーの結晶を作製することができる。また、pH、温度の調整、各種添加剤により、結晶の形態、特性を制御することができるので、所望の結晶形の人工グアニン結晶を得ることが可能となった。
また、グアニン結晶化の際の溶液の濃度を高濃度にできるため製造効率が良く、低pH(13~7)でグアニン結晶を製造できることなどの優位点がある。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施例1で得たグアニン結晶(左側の写真)及び、実施例1で得たグアニン結晶について、磁場を印加した時の結晶の移動状況を白色LEDランプを光源としたテレセントリック系の顕微鏡により撮影した写真(右側の写真)である。
【
図2】グアニン強塩基塩を含有する水溶液を塩化アンモニウムでpHを9に調整した水溶液に滴下した場合に得られたグアニン結晶(実施例2)を、白色LEDランプを光源としたテレセントリック系の顕微鏡により撮影した写真である。
【
図3】グアニン強塩基塩を含有する水溶液を45℃に加温して滴下した場合に得られたグアニン結晶(実施例2)を、白色LEDランプを光源としたテレセントリック系の顕微鏡により撮影した写真である。
【
図4】グアニン強塩基塩を含有する水溶液をpH12の水溶液に滴下した場合に得られたグアニン結晶(実施例3)を、白色LEDランプを光源としたテレセントリック系の顕微鏡により撮影した写真である。
【
図5】グアニン強塩基塩を含有する水溶液を塩化カルシウムを添加した水溶液に滴下した場合に得られたグアニン結晶(実施例4)を、白色LEDランプを光源としたテレセントリック系の顕微鏡により撮影した写真である。
【
図6】グアニン強塩基塩を含有する水溶液を塩化カルシウム及びグルタミン酸ナトリウムを添加した水溶液に滴下した場合に得られたグアニン結晶(実施例4)を、白色LEDランプを光源としたテレセントリック系の顕微鏡により撮影した写真である。
【
図7】グアニン強塩基塩を含有する水溶液を魚の皮及びグルタミン酸ナトリウムを添加した水溶液に滴下した場合に得られたグアニン結晶(実施例4)を、白色LEDランプを光源としたテレセントリック系の顕微鏡により撮影した写真である。
【
図8】グアニン強塩基塩を含有する水溶液を魚の皮及びグルタミン酸ナトリウムを添加した水溶液に滴下した場合に得られたグアニン結晶(実施例4)に、斜めから青色LEDランプを照射して、テレセントリック系の顕微鏡により撮影した暗視野写真である。
【
図9】グアニン強塩基塩を作成する際に強塩基として水酸化カリウムを用いて得たグアニン結晶(実施例5)を、白色LEDランプを光源としたテレセントリック系の顕微鏡により撮影した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、グアニン強塩基塩を含有する水溶液をpH13~7に調整した水溶液と混合する工程を有することを特徴とする、グアニン結晶を製造する方法である。本発明の方法により、結晶形状、特性などを制御することができる。
以下に詳細に説明する。
【0011】
(1)グアニン強塩基塩及びその水溶液の製造
グアニン強塩基塩及びその水溶液は、具体的には、たとえば、以下の1)~3)の工程を経て得ることができる。
1)グアニン結晶粉末をpH14以上の強塩基溶液に溶解させてグアニン強塩基塩を生成し、
2)前記工程で得たグアニン強塩基塩を含有する溶液に、前記強塩基との共通陽イオンを添加することにより、グアニン強塩基塩結晶を析出、沈殿させて単離し、そして
3)前記工程で得たグアニン強塩基塩結晶を水に溶解する。
【0012】
上記1)で得たグアニン強塩基塩を含有する溶液は、より具体的には、グアニン結晶粉末をpH14以上の強塩基溶液に加えた後、撹拌して得られるクリーム状液体に水を加えて溶解することにより製造することができる。
前記「グアニン結晶粉末」は、市販の、例えば、和光純薬工業株式会社製のグアニン結晶粉末を使用することができる。
「pH14以上の強塩基溶液」は、強塩基の水溶液を用いることができる。強塩基としては、LiOH,NaOH,KOH等のアルカリ金属の水酸化物や水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム等の水酸化テトラアルキルアンモニウムが挙げられる。
本発明において使用する水は、上記工程のみならず、すべての工程において、本発明の効果を阻害しない限り、特に制限はなく、水道水、井戸水等の飲料水でもよいが、蒸留水、純水、超純水が好ましい。
「グアニン結晶粉末」と混合する「pH14以上の強塩基溶液」の使用量は、生成したグアニン強塩基塩が溶解し得る範囲の量であればよく、通常、グアニン結晶粉末1モルに対して1モル以上~飽和濃度以下の強塩基を含むpH14以上の強塩基溶液を使用し、10倍モル以上使用するのは効率的ではない。
【0013】
グアニン強塩基塩結晶を析出させるためにグアニン強塩基塩を含有する溶液に添加する「強塩基との共通陽イオン」とは、強塩基である化合物の陽イオンと同じ陽イオンを有する化合物を意味する。
たとえば、強塩基がNaOHの場合は、NaOHのほか、Naイオンを有するNaCl、NaBr、Na2SO4等の強酸のナトリウム塩が挙げられる。 強塩基がKOHの場合は、KOHのほか、KCl、KBr、K2SO4等の強酸のカリウム塩が挙げられる。また、強塩基が水酸化テトラアルキルアンモニウムの場合は、水酸化テトラアルキルアンモニウムのほか、NH4Cl、(NH4)2SO4等の強酸のアンモニウム塩が挙げられる。
特に、ナトリウム又はカリウムを含む化合物が好ましい。
グアニン強塩基塩を含有する溶液に添加する「強塩基との共通陽イオン」の使用量は、グアニン強塩基塩結晶が析出し得る範囲の量であればよく、ル・シャトリエの法則に従って添加する「強塩基との共通陽イオン」の溶解度積から予測が可能である。通常、グアニンナトリウム塩の場合、1モルに対して「強塩基との共通陽イオン」を0.1モル~5モル使用する。
【0014】
「強塩基との共通陽イオン」を添加して析出したグアニン強塩基塩結晶は、単離後、水に溶解される。このとき、pHが14以上となるように水の量を調整する。グアニン強塩基塩結晶1gを水を50ml以下に溶解するとpH14以上となる。
また、グアニン強塩基塩結晶を水に溶解する際に、各種添加剤の1種又は2種以上を水に添加することができる。
【0015】
添加剤としては、水溶性の材料であれば、特に制限がなく、無機塩類、有機塩類、水溶性蛋白質、糖類、アミノ酸、核酸塩基類、界面活性剤、分散剤等に属する水溶性の材料が挙げられる。また、魚の皮等のように、蛋白質、糖類、その他の水溶性有機物が皮等に付着している固体材料も使用可能である。
無機塩類、有機塩類、水溶性蛋白質、糖類、アミノ酸、核酸塩基類等は、グアニンの結晶形態を制御することができ、界面活性剤、分散剤等は生成するグアニン結晶の凝集を防ぐことができる。
【0016】
無機塩類としては、アルカリ金属やアルカリ土類金属の塩酸塩、硫酸塩、亜硫酸水素塩、炭酸塩、炭酸水素塩、リン酸塩、ホウ酸塩等が挙げられ、たとえば、硫酸ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、炭酸ナトリウム、塩化カルシウム、硫酸マグネシウム等が挙げられる。これらは、1種又は2種以上を使用することができる。
有機塩類としては、アルカリ金属やアルカリ土類金属の有機酸塩等が挙げられ、たとえば、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、コハク酸マグネシウム、安息香酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、及びアスコルビン酸ナトリウム等が挙げられる。これらは、1種又は2種以上を使用することができる。
水溶性蛋白質としては、カゼイン、ゼラチン、アルブミン、コラーゲンそれらの変性物等が挙げられる。これらは、1種又は2種以上を使用することができる。
糖類としては、デキストリンのような澱粉分解物;乳糖、グルコース、果糖、砂糖、キシロース、トレハロース等の糖類:キシリトール、エリスリトール、ソルビトール、マルチトール、ラクチトール、マンニトール等の糖アルコール類;セロオリゴ糖、マルトオリゴ糖、フラクトオリゴ糖等のオリゴ糖類等が挙げられる。これらは、1種又は2種以上を使用することができる。
アミノ酸としては、リシン、アルギニン、ヒスチジン等の塩基性アミノ酸;アスパラギン酸、グルタミン酸等の酸性アミノ酸;グルタミン酸モノナトリウム塩、アスパラギン酸モノカリウム塩等のアミノ酸のアルカリ金属塩;2-メチルグルタミン酸、3-ヒドロキシアスパラギン酸、N-メチルタウリン等のアミノ酸誘導体等が挙げられる。これらは、1種又は2種以上を使用することができる。
核酸塩基類としては、ヒポキサンチン、シトシン等が挙げられる。これらは、1種又は2種以上を使用することができる。
【0017】
界面活性剤としては、アニオン、カチオン、両性、及びノニオンのいずれも使用することができる。
アニオン界面活性剤としては、モノアルキル硫酸塩、アルキルポリオキシエチレン硫酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、モノアルキルリン酸塩等が挙げられる。
カチオン界面活性剤としては、アルキルトリメチルアンモニウム塩、ジアルキルジメチルアンモニウム塩、アルキルベンジルジメチルアンモニウム塩等が挙げられる。
両性界面活性剤としては、アルキルジメチルアミンオキシド、アルキルカルボキシベタイン等が挙げられる。
ノニオン界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、脂肪酸ソルビタンエステル、アルキルポリグルコシド、脂肪酸ジエタノールアミド、アルキルモノグリセリルエーテル等が挙げられる。
分散剤としては、ポリアクリル酸とその塩、ポリメタクリル酸とその塩、ポリアクリル酸共重合体とその塩、ポリスチレンスルホン酸とその塩等のカルボン酸系分散剤;アルキルイミダゾリン系化合物などの複素環系分散剤;スルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、リグニンスルホン酸、これらの塩などのスルホン酸系分散剤;オルトケイ酸、メタケイ酸、フミン酸、タンニン酸、ドデシル硫酸等が挙げられる。
これらの添加剤は、グアニン強塩基塩を含有する水溶液中に、界面活性剤、分散剤等の場合は、0.01~10重量%となるように添加する。無機塩類、有機塩類、水溶性蛋白質、糖類、アミノ酸、核酸塩基類等の場合は0.01%~飽和濃度までの範囲で添加する。
【0018】
(2)グアニン結晶の製造
前記工程において得たグアニン強塩基塩水溶液を、pH13~7のいずれかに調整した水溶液と混合することにより、グアニン結晶を製造することができる。pHにより結晶粒径や形状を変えることができる。そのため、目的に応じて、pHを13~7のいずれかに設定する。
水溶液をpH13~7に調整するには、酸、アルカリ、それらの塩類等を添加して行うことができる。
混合方法としては、グアニン強塩基塩水溶液をpH13~7に調整した水溶液に滴下する方法、グアニン強塩基塩水溶液を分割してpH13~7に調整した水溶液と混合する方法等がある。
pH13~7に調整した水溶液の使用量は、グアニン強塩基塩水溶液に対して、通常、1~1000倍量である。
また、pH13~7に調整した水溶液には、グアニン強塩基塩結晶を水に溶解する際に使用する添加剤と同様の各種添加剤の1種又は2種以上を添加することができる。
これらの添加剤は、pH13~7に調整した水溶液中に、界面活性剤、分散剤等の場合は、0.01~10重量%となるように添加する。無機塩類、有機塩類、水溶性蛋白質、糖類、アミノ酸、核酸塩基類等の場合は0.01%~飽和濃度までの範囲で添加する
【0019】
さらに、グアニンの強塩基塩水溶液をpH13~7に調整した水溶液と混合した後、混合溶液のpHを、酸、アルカリ、それらの塩類等により、所定の値にpHを調整することができる。pHの調整により、結晶粒径や形状を変えることができる。
pH13~7に調整した水溶液には、pHを維持するために緩衝剤を適当量添加してもよい。
緩衝剤としては、ホウ酸緩衝剤、リン酸緩衝剤、炭酸緩衝剤、クエン酸緩衝剤、酢酸緩衝剤等があげられる。これらは、1種又は2種以上を添加することができる。
ホウ酸緩衝剤として、ホウ酸またはその塩(ホウ酸ナトリウム、テトラホウ酸カリウム、メタホウ酸カリウム、ホウ酸アンモニウム、ホウ砂等);リン酸緩衝剤として、リン酸またはその塩(リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸三カリウム、リン酸一水素カルシウム、リン酸二水素カルシウム等);炭酸緩衝剤として、炭酸またはその塩(炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸アンモニウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム、炭酸水素カリウム、炭酸マグネシウム等);クエン酸緩衝剤として、クエン酸またはその塩(クエン酸ナトリウム、クエン酸カリウム、クエン酸カルシウム、クエン酸二水素ナトリウム、クエン酸二ナトリウム等);酢酸緩衝剤として、酢酸またはその塩(酢酸アンモニウム、酢酸カリウム、酢酸カルシウム、酢酸ナトリウム等)等が挙げられる。
【0020】
前記グアニンの強塩基塩水溶液をpH13~7に調整した水溶液と混合する工程においては、加温することができ、約70℃以下で加温することが好ましい。混合する添加剤の種類などにより、温度を適宜設定することができる。温度により、結晶粒径や形状を変えることができる。
目標とする結晶の大きさや形状により、グアニンの強塩基塩水溶液とpH13~7に調整した水溶液と混合する時間、添加剤の選択、温度、最終的なpHを設定することができる。
析出したグアニン結晶は、ろ過などにより溶液から分離後、水等で洗浄して精製することができる。
【0021】
単離したグアニン結晶はフーリエ変換赤外分光光度計(FT-IR)、X線回折(XRD)等により確認することができる。
グアニン結晶の析出した溶液について、光学顕微鏡による形態観察、磁場を印加した時の結晶の移動状況の観察、及び/又は、光照射による干渉縞と反射の観察をすることができる。
【実施例】
【0022】
以下に本発明の実施例を示すが、本発明の技術的範囲はこれに限定されない。
(実施例1)
苛性ソーダ:2gを10mlに溶解し、市販グアニン3gを加えよく撹拌するとクリーム状の溶液を得た。さらに水を25ml加え、グアニンナトリウム塩の水溶液とする。この水溶液に苛性ソーダを2粒添加しグアニンナトリウム塩の結晶を得た。
120rpmで撹拌した200mlのpH7の超純水中に、グアニンナトリウム塩結晶を0.85g取り、30mlの超純水に溶解した液を15分間で滴下した。この時、1N-HCl溶液を用いpH11以上とならないように調整した。滴下終了後、pH10とし放置した。放置開始直後から沈殿が生じ、1日放置後は上澄みが透明となった。pH8としてさらに1日放置後、ろ過、洗浄を行い、沈殿を得た。得られた沈殿は0.84gであった。白色LEDランプを光源としたテレセントリック系の顕微鏡で観察された結晶の写真を
図1(左側の写真)に示す。得られた結晶は米粒状であり、150mT程度の磁石により垂直磁場を印加すると90°回転することが確認出来た(右側の写真)。
【0023】
(実施例2)
実施例1において、グアニンナトリウム塩溶液をpH7の超純水液に滴下する際に以下の条件1)、2)で行い、結晶を析出させた。得られた結晶の白色LEDランプを光源としたテレセントリック系の顕微鏡写真を
図2、
図3に示す。
1)塩化アンモニウムでpH9に調整した(
図2)
得られた結晶は、実施例1に比較してアスペクト比が大きくなっている。
2)45℃に加温した(
図3)
得られた結晶は、実施例1に比較して柱状の形態を示している。
【0024】
(実施例3)
グアニンナトリウム塩を得る工程は実施例1と同じである。
120rpmで撹拌した苛性ソーダでpH12に調整した200ml超純水液中に、グアニンナトリウム塩結晶を0.35g取り、30mlの超純水に溶解した液を20分間で滴下した。この時、1N-HCl溶液を用いpH12をキープするように調整した。滴下終了後、撹拌を止め、放置した。放置開始後2時間位から沈殿が確認出来た。3日後、pH8とし、さらに1日放置後、ろ過、洗浄し沈殿を得た。得られた沈殿は0.34gであった。得られた結晶の白色LEDランプを光源としたテレセントリック系の顕微鏡による写真を
図4に示す。結晶は板状でモアレ状の縞模様が観察出来た。
【0025】
(実施例4)
実施例3において、pH12に調整した超純水液に3)~5)の添加物を加えて、結晶を析出させた。得られた結晶の白色LEDランプを光源としたテレセントリック系の顕微鏡写真を
図5~7に示す。
3)塩化カルシウム(
図5)
添加前の結晶(
図4)と比べ結晶径が小さくなったが、モアレ状の縞模様が観察出来た。
4)塩化カルシウム及びグルタミン酸ナトリウム(
図6)
粒子が小さく、均一な米粒状の粒子であった。
5)魚の皮及びグルタミン酸ナトリウム(
図7)
得られた結晶の斜めから青色LEDランプを照射したテレセントリック系の顕微鏡の暗視野写真を
図8に示した。反射強度の大きな結晶が得られている。
【0026】
(実施例5)
実施例2において、グアニン強塩基塩を作成する際、用いる強塩基として、水酸化カリウムを用いて、グアニン結晶を析出させた。得られた結晶の白色LEDランプを光源としたテレセントリック系の顕微鏡写真を
図9に示す。得られた結晶の粒子径の分布は広いが、結晶は板状でモアレ状の縞模様が観察出来た。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明により、形状が制御された均一なグアニン結晶を量産する見通しが得られた。そのため、バイオリフレクター(水中・磁気による姿勢制御)、光デバイス(モアレによる微小部分の分光等)等の機能デバイスのほか、化粧品等として大量にグアニン結晶を消費する用途にも適用が可能である。