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特許7045254棟内伝送システム、光受信装置、カプセル化装置、及びデカプセル化装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-23
(45)【発行日】2022-03-31
(54)【発明の名称】棟内伝送システム、光受信装置、カプセル化装置、及びデカプセル化装置
(51)【国際特許分類】
   H04N 21/438 20110101AFI20220324BHJP
   H04H 20/78 20080101ALI20220324BHJP
   H04H 60/82 20080101ALI20220324BHJP
【FI】
H04N21/438
H04H20/78
H04H60/82
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2018084373
(22)【出願日】2018-04-25
(65)【公開番号】P2019193116
(43)【公開日】2019-10-31
【審査請求日】2021-03-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000004352
【氏名又は名称】日本放送協会
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100161148
【弁理士】
【氏名又は名称】福尾 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100185225
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 恭一
(72)【発明者】
【氏名】楠 知也
(72)【発明者】
【氏名】倉掛 卓也
(72)【発明者】
【氏名】高島 稔弘
(72)【発明者】
【氏名】前田 直樹
(72)【発明者】
【氏名】金井 久幸
【審査官】鈴木 順三
(56)【参考文献】
【文献】特表2008-530830(JP,A)
【文献】特開2003-179903(JP,A)
【文献】特表2009-531963(JP,A)
【文献】特開2012-060534(JP,A)
【文献】特開平05-227200(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04N 21/00 - 21/858
H04H 20/00 - 60/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光信号で伝送されたケーブルテレビにおける放送信号を棟内において電気信号で伝送する棟内伝送システムであって、
番組のIPパケットを含む光信号を受信し、電気信号に変換後、視聴要求された番組のIPパケットを、配信用IPアドレスでカプセル化して出力する光受信装置と、
カプセル化された前記IPパケットを、前記配信用IPアドレスに基づいて、直交位相振幅変調されたRF(Radio Frequency)信号のチャンネルで伝送するCMTS(Cable Modem Termination System)と、
を共通で備え、
各受信者において、CM(Cable Modem)で前記チャンネルを受信し、復調した後、カプセル化を解いて元の番組のIPパケットに戻すことを特徴とする、棟内伝送システム。
【請求項2】
光信号で伝送されたケーブルテレビにおける放送信号を棟内において電気信号で伝送する棟内伝送システムであって、
番組のIPパケットを含む光信号を受信し、電気信号に変換後、視聴要求された番組のIPパケットを出力する光受信装置と、
視聴要求された番組の前記IPパケットを、配信用IPアドレスでカプセル化するカプセル化装置と、
カプセル化された前記IPパケットを、前記配信用IPアドレスに基づいて、直交位相振幅変調されたRF(Radio Frequency)信号のチャンネルで伝送するCMTS(Cable Modem Termination System)と、
を共通で備え、
各受信者において、CM(Cable Modem)で前記チャンネルを受信し、復調した後、カプセル化を解いて元の番組のIPパケットに戻すことを特徴とする、棟内伝送システム。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の棟内伝送システムにおいて、
前記CMTSは、前記チャンネルをボンディングし、マルチキャスト伝送することを特徴とする、棟内伝送システム。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の棟内伝送システムにおいて、
前記CMTS及び前記CMは、DOCSIS(Data Over Cable Service Interface Specifications)規格に対応していることを特徴とする、棟内伝送システム。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の棟内伝送システムにおいて、
前記カプセル化は、番組IPアドレスと配信用IPアドレスとの対応関係が設定されたカプセル化テーブルに基づいて行い、前記カプセル化テーブルを番組視聴要求に基づいて更新することを特徴とする、棟内伝送システム。
【請求項6】
ケーブルテレビの番組のIPパケットを含む光信号を受信し、視聴要求された番組のIPパケットを、CMTS(Cable Modem Termination System)に出力する光受信装置であって、
前記光信号を電気信号に変換するO/E変換部と、
前記電気信号を復号して、番組のIPパケットを生成する伝送路符号化復号部と、
復号された番組のIPパケットから視聴要求された番組のIPパケットを分離して出力する多重化分離部と、
前記CMTSのチャンネルに対応する配信用IPアドレスと、番組IPアドレスとの対応関係が設定されたカプセル化テーブルに基づいて、前記多重化分離部から出力された番組のIPパケットを、前記配信用IPアドレスのIPヘッダでカプセル化するカプセル化部と、
を備えた、光受信装置。
【請求項7】
請求項6に記載の光受信装置において、
前記カプセル化テーブルを番組視聴要求に基づいて更新することを特徴とする、光受信装置。
【請求項8】
ケーブルテレビの番組のIPパケットをカプセル化して出力するカプセル化装置であって、
CMTS(Cable Modem Termination System)のチャンネルに対応する配信用IPアドレスと、番組IPアドレスとの対応関係が設定されたカプセル化テーブルと、
前記カプセル化テーブルに基づいて、入力された番組のIPパケットを、前記配信用IPアドレスのIPヘッダでカプセル化するカプセル化部と、
を備えた、カプセル化装置。
【請求項9】
請求項8に記載のカプセル化装置において、
前記カプセル化テーブルを番組視聴要求に基づいて更新することを特徴とする、カプセル化装置。
【請求項10】
カプセル化された、ケーブルテレビの番組のIPパケットを受信するデカプセル化装置であって、
CMTS(Cable Modem Termination System)における配信用IPアドレスと、番組IPアドレスとの対応関係が設定されたカプセル化テーブルと、
マルチキャストjoin信号を、前記CMTSが対応可能な所定のフォーマットに変換して送信するマルチキャストプロトコル変換部と、
前記カプセル化テーブルを参照して、カプセル化された番組のIPパケットをデカプセル化するデカプセル化部と、
を備えた、デカプセル化装置。
【請求項11】
請求項10に記載のデカプセル化装置において、
前記カプセル化テーブルを番組視聴要求に基づいて更新することを特徴とする、デカプセル化装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、棟内伝送システム、光受信装置、カプセル化装置、及びデカプセル化装置に関し、特に、IP(Internet Protocol)信号を利用したケーブルテレビにおける棟内伝送システムと、これを構成する光受信装置、カプセル化装置、及びデカプセル化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、ケーブルテレビでは、地上波・衛星放送再送信やコミュニティチャンネル放送、多チャンネル放送などの放送サービスと、インターネット接続、電話、VOD(Video On Demand)などの様々な通信サービスが行われている。
【0003】
ケーブルテレビ局から加入者までがHFC(Hybrid Fiber Coaxial)伝送路の場合、放送サービスの伝送方式として64QAM(Quadrature Amplitude Modulation:直交位相振幅変調)または256QAMで再変調するトランスモジュレーション方式、周波数変換パススルー方式、パススルー方式が使用されている。通信サービスの場合、IP信号をRF(Radio Frequency)信号で伝送するDOCSIS3.0(Data Over Cable Service Interface Specifications 3.0)規格が運用されている(非特許文献1、2)。これらの放送と通信の信号は1波あたり6MHzの帯域幅を持ち、90-770MHzの周波数帯域で周波数多重されている。そして、この周波数多重されたRF信号の電圧で光をアナログ強度変調するSCM(Sub Carrier Multiplexing)伝送方式で光ファイバーを伝送し、途中で電気信号に変換して分配系は同軸ケーブルで伝送している。しかしながら、この伝送方式の総伝送容量は3-4Gbps程度であり、帯域の逼迫が言われている。
【0004】
一方、ケーブルテレビ事業者の中にはFTTH(Fiber to the Home)システムを採用している場合がある。この場合、90-770MHzの帯域だけでなく、BS-IF(Intermediate Frequency)帯も周波数多重してSCM伝送方式で伝送可能であるため、合わせて4-6Gbps程度の伝送容量を放送サービスに利用可能である。なお、通信サービスはSCMに多重するのではなく、デジタル光強度変調されたIP信号として、G-EPON(Gigabit Ethernet Passive Optical Network)などの伝送方式で別波長の信号として伝送している。
【0005】
上述のように、分配系に同軸ケーブルを用いるケーブルテレビでは既に帯域の逼迫が言われており、また、FTTH化したケースでは放送サービスの帯域にまだ余裕があると考えられるが、将来、4K・8K(スーパーハイビジョン)サービスが普及する段階では、FTTH伝送路の場合でもさらなる大容量化が必要になると考えられる。
【0006】
FTTHでの大容量伝送を実現する手法として、現状のケーブルテレビで用いられるRF信号で光をアナログ強度変調して伝送するのではなく、通信系と同様にベースバンド信号で光をデジタル強度変調して伝送する手法が検討されている(特許文献1)。通信用のベースバンド光伝送技術としては、10Gbpsの大容量伝送が可能な10G-EPON(非特許文献3)が2009年に規格化され、対応製品も商品化されている。放送系も10G-EPONの下り方向の伝送路符号化を活用し、映像信号を時分割多重してIP信号でベースバンド伝送することで、大容量信号を安価に光伝送することができる可能性がある。
【0007】
ところで、ケーブルテレビ事業者が伝送路を光化(光ファイバー化)する場合、戸建住宅の場合は各加入者まで光化することは比較的容易であり、ベースバンド伝送方式を導入することができる。しかし、マンション等の集合住宅における棟内伝送路はケーブルテレビ事業者の管轄外であり、各加入者まで光化することは難しい。棟内伝送路は同軸ケーブルあるいは電話線などの伝送路しかない設備が多く、また新たにケーブルを敷設するスペースがない場合や、光化工事の手続きの煩雑さもあり、光化には時間と費用を要する。
【0008】
従来のアナログ光強度変調を用いるSCM伝送方式の場合、同軸ケーブル前段でV-ONU(Video Optical Network Unit)で光信号をO/E(光/電気)変換することでRF信号に戻し、棟内を電気信号で伝送している。しかし、デジタル光強度変調を行うベースバンド伝送方式の場合、O/E変換したベースバンド信号をそのまま伝送するのは、高周波成分の減衰が大きく難しい。そのため、棟内伝送路において大容量のベースバンド信号を伝送する手段が必要となる。
【0009】
これを実現する手段として、ケーブルテレビ事業者において、通信用のDOCSIS3.0規格対応の送受信装置を用いたIP放送が検討されている(非特許文献4)。これは、送信装置にあたるCMTS(Cable Modem Termination System)、あるいはCMC(Coax Media Converter)を伝送路の途中の光ファイバーから同軸ケーブルに変わるポイントに設置し、宅内のCM(Cable Modem)までIP信号をマルチキャストで伝送するものである。DOCSIS3.0規格にあるチャンネルボンディング技術を使って、256QAM信号を8チャンネルボンディングして約300Mbpsの大容量伝送が可能である。また、CMはDBC(Dynamic Bonding Change)により受信するボンディンググループを動的に変更することができ、別のボンディンググループにあるチャンネルも受信することができる。
【0010】
このDOCSIS3.0規格対応のCMTSをマンション内に設置し、各受信者(加入者)宅にCMを設置して4K・8K信号をIPマルチキャストで伝送する方式として、これまで2種類の棟内伝送システム(配信方式)が検討されている。
【0011】
1つは、チャンネルボンディングを用いてダイナミックに伝送番組を切り替えて、番組をIPマルチキャスト伝送する方法である。図9に基づいて、従来検討された第1の棟内伝送システムとその配信方式を説明する。図9は、集合住宅(マンション等)に光ファイバーを経由して届いた番組が、各受信者宅に配信されるまでを示している。棟内伝送システムは、光受信装置91、CMTS92、及びCM931~942を備えている。光受信装置91からCM931~942までの間は同軸ケーブルで結ばれている。
【0012】
光受信装置91は、光ファイバー(図示せず)を経由して届いた全番組の番組データ(例えば、ベースバンド信号)を受信し、電気信号に変換して、視聴要求のあった番組をIP信号としてCMTS92に出力する。
【0013】
CMTS92は、受信者が受信可能なチャンネルと要求された番組データを対応させ、さらにチャンネルを結合させて、複数のチャンネルからなるボンディンググループ(ボンディングされたチャンネルのグループ。以下、単に「ボンディング」という。)を作る。図で1つの黒い台形が1つのチャンネルを示しており、例えば、所定の搬送波周波数を有する256QAMの信号で構成され、周波数多重されて伝送される。グループ1のCM931を介して8K1番組の要求があったときは、ボンディング1のチャンネルに8K1番組のデータを対応付ける。
【0014】
CM931~942は、各受信者宅に設置され、所定のボンディングを受信し、チャンネル信号を復調・復号して番組の映像ストリームを生成する。この場合、CMのチューナー数によって受信可能なボンディング数が制限されるため、少数の世帯(受信者宅)からなる複数のサービスグループ93,94を作り、各グループ内でマルチキャストを行う。それぞれのサービスグループ内のCMは固定のボンディングのチャンネルを受信する。例えば、グループ1のCM931,932はボンディング(チャンネル)1を受信し、グループ2のCM941,942はボンディング2を受信する。CM931~942からCMTS92に番組視聴要求があると、CMTS92は各ボンディングで伝送する番組を動的に変更する。CMのチューナー数を8個、8つのチャンネルが全て256QAM伝送とすると、伝送容量は約300Mbpsとなり、この帯域をサービスグループ内の世帯でシェアすることになる。
【0015】
DOCSIS3.0規格を利用するもう1つの方法は、DBCを用いて受信するボンディング(チャンネル)を変更しながらIPマルチキャスト伝送する方法である。図10に基づいて、従来検討された第2の棟内伝送システムとその配信方式を説明する。図10の棟内伝送システムは、光受信装置91、CMTS92、及びCM95~98からなる。光受信装置91からCM95~98までの間は同軸ケーブルで結ばれている。
【0016】
光受信装置91は、光ファイバー(図示せず)を経由して届いた全番組の番組データ(例えば、ベースバンド信号)を受信し、電気信号に変換して、視聴要求のあった番組をIP信号としてCMTS92に出力する。
【0017】
CMTS92は、チャンネルと伝送する番組データを対応させ、さらにチャンネルを結合させて、複数のチャンネルからなるボンディングを作る。この場合、番組とそれを伝送するチャンネルの対応関係は、予め設定されている。
【0018】
CM95~98は、各受信者宅に設置され、所望のボンディング(チャンネル)を受信し、チャンネル信号を復調・復号して番組の映像ストリームを生成する。各CMは、固定のボンディングではなく、視聴要求に応じて受信するボンディングを変更する。例えば、CM1(95)が番組1(8K1)を視聴する時はボンディング1を受信し、番組2(8K2)を視聴する時はボンディング2を受信する。他のCMも同様である。そのため、同じ番組が複数の加入者宅で視聴される場合、マルチキャストで効率的に伝送できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【文献】特開2016-152539号公報
【非特許文献】
【0020】
【文献】CableLabs DOCSIS 3.0 specifications
【文献】JCTEA STD-024-1.0 「CATV高速データ伝送装置DOCSIS3.0」
【文献】IEEE編、「IEEE Std 802.3av-2009」
【文献】総務省報道資料 4K・8K時代に向けたケーブルテレビの映像配信の在り方に関する研究会 資料1-4「ケーブル業界の現状とIP放送に対する考え方」、(2017年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
DOCSIS3.0規格対応のCMTSとCMを利用することにより、4K・8K信号をIPマルチキャストで伝送することができるが、従来検討された2つの棟内伝送システムには、それぞれ次のような課題がある。
【0022】
図9に示した第1の棟内伝送システムの場合、別々のサービスグループの受信者(加入者)が同じ番組を視聴要求した際に、同じ信号が複数のボンディングで伝送される状況(例えば、番組8K1が、ボンディング1とボンディング2で同時に伝送される状況)が発生してしまい、帯域を有効に利用することが出来ない。8Kの伝送容量が約100Mbpsであるため、例えば同じ8K番組が約300Mbpsのボンディングでそれぞれ伝送されるとなると、1/3の帯域が無駄に使われてしまう。
【0023】
図10に示した第2の棟内伝送システムの場合、CMからの番組視聴要求(IPマルチキャストjoin信号)でDBCを行うためには、どのボンディング(チャンネル)にどの番組が伝送されているかをあらかじめ知っている必要があり、各ボンディングと伝送する番組のIPアドレスとを固定してマルチキャストで伝送する必要がある。つまり、あるボンディングはこのIPアドレスのパケットを伝送するという設定を事前に行っておく必要があり、既存のDOCSIS規格ではこの設定を動的に変更することはできない。この場合、受信者(加入者)が全ての番組を選局可能とするためには、世帯数にかかわらず、CMTSは全ての番組を常に伝送できるような伝送容量が必要になる。あるいは、伝送容量の上限で視聴可能な番組数を制限することになってしまう。
【0024】
このように従来検討された棟内伝送システムでは、帯域を無駄に消費してしまうことや、番組数を制限してしまうため、より効率的な配信方式が必要となる。具体的には、光ファイバーに比べて帯域が制限される同軸ケーブル上で、効率的に番組を配信する手段が求められている。
【0025】
従って、本発明はこのような状況に鑑みて成されたものであり、本発明の目的は、集合住宅(マンション等)の棟内伝送路として普及している同軸ケーブルと通信用の送受信装置を活用することができ、従来よりも効率的に4K・8Kの多チャンネル信号の伝送を可能とする棟内伝送システムと、これを構成する光受信装置、カプセル化装置、及びデカプセル化装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0026】
上記課題を解決するために本発明に係る棟内伝送システムは、光信号で伝送されたケーブルテレビにおける放送信号を棟内において電気信号で伝送する棟内伝送システムであって、番組のIPパケットを含む光信号を受信し、電気信号に変換後、視聴要求された番組のIPパケットを、配信用IPアドレスでカプセル化して出力する光受信装置と、カプセル化された前記IPパケットを、前記配信用IPアドレスに基づいて、直交位相振幅変調されたRF(Radio Frequency)信号のチャンネルで伝送するCMTS(Cable Modem Termination System)と、を共通で備え、各受信者において、CM(Cable Modem)で前記チャンネルを受信し、復調した後、カプセル化を解いて元の番組のIPパケットに戻すことを特徴とする。
【0027】
また、上記課題を解決するために本発明に係る棟内伝送システムは、光信号で伝送されたケーブルテレビにおける放送信号を棟内において電気信号で伝送する棟内伝送システムであって、番組のIPパケットを含む光信号を受信し、電気信号に変換後、視聴要求された番組のIPパケットを出力する光受信装置と、視聴要求された番組の前記IPパケットを、配信用IPアドレスでカプセル化するカプセル化装置と、カプセル化された前記IPパケットを、前記配信用IPアドレスに基づいて、直交位相振幅変調されたRF(Radio Frequency)信号のチャンネルで伝送するCMTS(Cable Modem Termination System)と、を共通で備え、各受信者において、CM(Cable Modem)で前記チャンネルを受信し、復調した後、カプセル化を解いて元の番組のIPパケットに戻すことを特徴とする。
【0028】
また、前記棟内伝送システムにおいて、前記CMTSは、前記チャンネルをボンディングし、マルチキャスト伝送することが望ましい。
【0029】
また、前記棟内伝送システムにおいて、前記CMTS及び前記CMは、DOCSIS(Data Over Cable Service Interface Specifications)規格に対応していることが望ましい。
【0030】
また、前記棟内伝送システムにおいて、前記カプセル化は、番組IPアドレスと配信用IPアドレスとの対応関係が設定されたカプセル化テーブルに基づいて行い、前記カプセル化テーブルを番組視聴要求に基づいて更新することが望ましい。
【0031】
上記課題を解決するために本発明に係る光受信装置は、ケーブルテレビの番組のIPパケットを含む光信号を受信し、視聴要求された番組のIPパケットを、CMTS(Cable Modem Termination System)に出力する光受信装置であって、前記光信号を電気信号に変換するO/E変換部と、前記電気信号を復号して、番組のIPパケットを生成する伝送路符号化復号部と、復号された番組のIPパケットから視聴要求された番組のIPパケットを分離して出力する多重化分離部と、前記CMTSのチャンネルに対応する配信用IPアドレスと、番組IPアドレスとの対応関係が設定されたカプセル化テーブルに基づいて、前記多重化分離部から出力された番組のIPパケットを、前記配信用IPアドレスのIPヘッダでカプセル化するカプセル化部と、を備えることを特徴とする。
【0032】
また、前記光受信装置は、前記カプセル化テーブルを番組視聴要求に基づいて更新することが望ましい。
【0033】
上記課題を解決するために本発明に係るカプセル化装置は、ケーブルテレビの番組のIPパケットをカプセル化して出力するカプセル化装置であって、CMTS(Cable Modem Termination System)のチャンネルに対応する配信用IPアドレスと、番組IPアドレスとの対応関係が設定されたカプセル化テーブルと、前記カプセル化テーブルに基づいて、入力された番組のIPパケットを、前記配信用IPアドレスのIPヘッダでカプセル化するカプセル化部と、を備えることを特徴とする。
【0034】
また、前記カプセル化装置は、前記カプセル化テーブルを番組視聴要求に基づいて更新することが望ましい。
【0035】
上記課題を解決するために本発明に係るデカプセル化装置は、カプセル化された、ケーブルテレビの番組のIPパケットを受信するデカプセル化装置であって、CMTS(Cable Modem Termination System)における配信用IPアドレスと、番組IPアドレスとの対応関係が設定されたカプセル化テーブルと、マルチキャストjoin信号を、前記CMTSが対応可能な所定のフォーマットに変換して送信するマルチキャストプロトコル変換部と、前記カプセル化テーブルを参照して、カプセル化された番組のIPパケットをデカプセル化するデカプセル化部と、を備えることを特徴とする。
【0036】
また、前記デカプセル化装置は、前記カプセル化テーブルを番組視聴要求に基づいて更新することが望ましい。
【発明の効果】
【0037】
本発明は、同軸ケーブルしか敷設されていない集合住宅の棟内伝送路において、既存の同軸ケーブル及び通信用の送受信装置を活用し、多チャンネルの4K・8K信号を従来よりも効率的に伝送することを可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0038】
図1】本発明の棟内伝送システムを含む、FTTH伝送システムの全体図である。
図2】本発明の棟内伝送システムとその配信方式を説明する図である。
図3】本発明の光受信装置の構成例を示すブロック図である。
図4】本発明のデカプセル化装置の構成例を示すブロック図である。
図5】本発明で利用するCMTSのマルチキャストの設定例である。
図6】本発明で利用するカプセル化テーブルの構成例である。
図7】視聴要求によりアドレス割当を変更した場合のカプセル化テーブルの構成例である。
図8】集合住宅の世帯数と必要な伝送容量の計算値の比較図である。
図9】従来検討された第1の棟内伝送システムとその配信方式を説明する図である。
図10】従来検討された第2の棟内伝送システムとその配信方式を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、本発明を実施するための形態について図面を用いて詳細に説明する。
【0040】
図1に、本発明の棟内伝送システムを含む、ケーブルテレビにおけるFTTH伝送システムの全体図を示す。以下では、FTTH伝送路にベースバンド伝送方式を導入した場合を例として説明するが、ベースバンド伝送方式に限らず、光伝送路を利用して全番組の番組データ(IP信号)を伝送できる方式であれば、FTTH伝送路上をどのような伝送方式で信号伝送してもよい。
【0041】
図1に示すFTTH伝送システムは、1つのケーブルテレビ局1と、任意の数の戸建住宅2及び集合住宅3と、それらを接続する光ファイバーからなる光伝送路4とを含む。ケーブルテレビ局1は光送信装置5を備え、映像信号を光信号に変換して、例えば、ベースバンド伝送で光伝送路4に出力する。光信号は分岐(増幅分配)されて、受信者(加入者)宅又は受信者のいる集合住宅まで伝送される。
【0042】
戸建住宅2は、光受信装置10と、IP-STB(Set Top Box)50と、TV(テレビ)60とを備える。
【0043】
光受信装置10は、光伝送路4を経由して届いた全番組の番組信号(例えば、ベースバンド信号)を受信し、O/E(光/電気)変換、復号、選局等を行って、視聴される映像ストリーム(番組のIPパケット)のみをIP-STB50に出力する。なお、後述のとおり、この光受信装置10は、集合住宅3で用いる光受信装置10と共通化することも可能である。
【0044】
IP-STB50は、視聴を希望する番組を光受信装置10に要求するとともに、光受信装置10から映像ストリーム(番組のIPパケット)を受信して、一般のテレビで視聴可能な信号に変換し、TV60に出力する。
【0045】
そして、受信者(視聴者)は、TV60で希望の番組を視聴することができる。
【0046】
集合住宅(マンション等)3は、光信号で伝送されたケーブルテレビにおける放送信号を棟内において電気信号で伝送する棟内伝送システムを備えている。集合住宅3は、共同(共通)で使用される光受信装置10、及びCMTS20と、各受信者宅に設置されるCM30(301~30n)、デカプセル化装置40(401~40n)、IP-STB50(501~50n)、及びTV60(601~60n)とを備える。
【0047】
以下、図2に基づいて、本発明の棟内伝送システムとその配信方式を説明する。
【0048】
光受信装置10は、光伝送路4を経由して届いた全番組の番組信号(例えば、ベースバンド信号)を受信し、O/E(光/電気)変換、復号、選局等を行う。後述するように、光受信装置10は内部にIPカプセル化処理部12を備えており、視聴要求される映像ストリーム(番組のIPパケット)に配信用IPアドレス(この例では、IPv4アドレス)を付加してIPカプセル化を行い、カプセル化された信号をCMTS20に出力する。なお、集合住宅の場合、マンション内のMDF(Main Distributing Frame)室などの共用スペースに光受信装置10とCMTS20を設置することができる。
【0049】
CMTS20は、配信用IPアドレスに基づいて、光受信装置10から入力された番組のデータをボンディング(チャンネル)と対応させる。すなわち、各配信用IPアドレスの信号をどのチャンネル又はボンディングで伝送するかを予め設定しておき、光受信装置10から入力される番組データをマルチキャストで視聴世帯(各受信者宅のCM30)に配信する。図で1つの黒い台形が1つのチャンネルを示しており、例えば、所定の搬送波周波数を有する256QAMの信号で構成され、周波数多重されたRF信号として伝送される。各チャンネル又はボンディングには、配信用IPアドレスでカプセル化された番組データが対応付けられている。なお、CMTS20は受信者からの視聴要求であるマルチキャストjoin信号を光受信装置10に出力し、光受信装置10がカプセル化IPアドレス(配信用IPアドレス)を制御することで、視聴している番組だけを伝送する。このCMTS20は、既製品のDOCSIS3.0規格対応の送信装置を用いることができる。
【0050】
図5に、CMTSのマルチキャストの設定例(すなわち、ボンディングと配信用IPアドレスとの対応)を示す。この例では、CMTS20は、ボンディング1として、256QAMのチャンネルを8ch(周波数93~135MHz)ボンディングし、300Mbpsの伝送容量としている。このボンディング1を用いて、225.0.01から225.0.0.6の配信用IPアドレス(マルチキャストIPv4アドレス)の番組をマルチキャストで伝送するように設定している。
【0051】
なお、ここでは、大容量伝送を行うために、チャンネルのボンディングを前提としているが、配信用IPアドレスとチャンネルの対応関係が設定されていれば、番組データ(カプセル化されたIPパケット)を単独のチャンネル(QAM信号)で伝送してもよい。また、伝送方法はマルチキャストに限定されず、ユニキャスト伝送を利用してもよい。
【0052】
CM1~CMn(301~30n)は各受信者宅に設置され、視聴要求を行った番組が伝送されるボンディング(チャンネル)を受信し、チャンネル信号を復調・復号して番組の映像ストリーム(ここでは、カプセル化された番組のIPパケット)を生成する。例えば、CM1(301)が番組8K1を視聴する時はボンディング1を受信し、CM2(302)が番組8K2を視聴する時はボンディング2を受信する。復調・復号して得られたカプセル化された番組のIPパケットを、デカプセル化装置40に出力する。このCM1~CMn(301~30n)は、既製品のDOCSIS3.0規格対応の受信装置を用いることができる。
【0053】
なお、このCMTSとCMはDOCSIS3.0規格対応のもの以外に、DOCSIS3.1規格対応のものを用いてもよい。
【0054】
デカプセル化装置40(401~40n)は、CM30から入力された、カプセル化された番組のIPパケットをデカプセル化する。すなわち、カプセル化IPパケットから配信用IPアドレス(IPヘッダ)を削除し、元の番組データ(番組のIPパケット)に戻してIP-STB50に出力する。詳細は後述する。なお、この後のIP-STB50(501~50n)、及びTV60(601~60n)の機能・動作は、戸建住宅のものと同一である。
【0055】
図3に、本発明の光受信装置10の構成例を示すブロック図を示す。
【0056】
光受信装置10は、伝送路復号化・多重分離部11と、カプセル化処理部12を備える。さらに、この光受信装置10を戸建住宅と集合住宅で共用することができるようにするために、戸建住宅での伝送時と集合住宅での棟内伝送時とで、映像ストリームの流れを制御する配信ルート制御部13,14を備えることができる。なお、光受信装置10を棟内伝送システムの専用とする場合には、戸建伝送時の配信ルートは不要であり、配信ルート制御部13,14を省略してもよい。伝送路復号化・多重分離部11は、O/E変換部111と、伝送路符号化復号部112と、多重化分離部113とを有しており、また、カプセル化処理部12は、カプセル化テーブル100と、IPv4/IPv6カプセル化部121を有している。以下、それぞれのブロックの機能を説明する。
【0057】
O/E(光/電気)変換部111は、光送信装置5から伝送されてくる光信号(例えば、ベースバンド伝送された番組データ)を電気信号に変換し、伝送路符号化復号部112に出力する。
【0058】
伝送路符号化復号部112は、電気信号となった伝送データについて、送信側で行った伝送路符号化を復号する。ここでの処理は、例えば、送信側で行ったインターリーブに対してデインターリーブ処理を行うことや、誤り訂正処理等を行うことが含まれる。復号された全番組データ(番組のIPパケット)を多重化分離部113に出力する。
【0059】
多重化分離部113は、復号された全番組データの映像ストリームに対し、受信者(加入者)のIP-STBからの番組視聴要求に基づいて選局される映像ストリームを分離して出力する。ここで、戸建伝送時は、配信ルート制御部13,14により、多重化分離部113から出力される信号(IPv6映像ストリーム)をそのまま光受信装置10の出力として出力する。一方、棟内伝送時は、選局分離された映像ストリームをカプセル化処理部12に出力する。
【0060】
カプセル化処理部12は、IPv4/IPv6カプセル化部121において、分離された映像ストリーム(番組のIPデータ)を、カプセル化してから出力する。具体的には、視聴要求のある番組(映像信号)のIPパケットを、後段のCMTSで伝送できるように設定した配信用IPアドレスのIPヘッダでIPカプセル化して出力する。カプセル化する配信用IPアドレスは、カプセル化テーブル100を参照して決定する。視聴されていない番組や新たに視聴される番組が要求された場合、カプセル化テーブル100を更新して、配信する番組を制御する。
【0061】
図6に、カプセル化テーブル100の構成例を示す。番組1(8K)から番組6(4K)までが視聴されているため、これらの番組のオリジナルIPアドレス(番組IPアドレスと呼ぶこともある。この例では、IPv6アドレス)を配信用IPアドレス(この例では、IPv4アドレス)でカプセル化を行っている。配信用IPアドレスは、CMTSで伝送するチャンネルまたはボンディングに対応している。もし、受信者が番組6の視聴をやめて、番組8(4K)を視聴しはじめた場合、図7のようにカプセル化テーブルを更新(配信用IPアドレス225.0.0.6を、番組8のオリジナルIPアドレスFF02::08に対応させるように更新)することで、CMTSの設定を変更することなく、伝送する番組を変更することができる。
【0062】
なお、図2図3の例において、カプセル化をIPv4ヘッダで行っているのは、後段のCMTSがIPv4しか対応していない場合を想定しているためであり、この場合にはIPv4ヘッダでカプセル化する。後段のCMTSがIPv6マルチキャストに対応していれば、IPv6ヘッダでカプセル化する。またユニキャストしか伝送できない場合はIPv4/IPv6ユニキャストにカプセル化する。番組のIPパケットの伝送については、全てCMTSの設定とカプセル化テーブルの設定に従う。
【0063】
また、この光受信装置10は、CMTS20と一体化して用いてもよい。また、これまで光受信装置はベースバンド光受信装置(データの下り専用機)として説明したが、これを他のIP信号受信装置、例えば10G-EPONの受信装置(データの下りと上り対応機)とし、カプセル化処理部12を10G-EPON受信装置に設置して、棟内伝送システムのCMTSに接続してもよい。
【0064】
また、図3の光受信装置を、伝送路復号化・多重分離部11を備える光受信装置と、カプセル化処理部12を備えるカプセル化装置とに分離して構成してもよい(図示せず)。このとき、光受信装置は番組のIPパケットを含む光信号を受信し、電気信号に変換後、視聴要求された番組のIPパケット(図3のIPv6映像ストリーム)を、カプセル化装置に出力する。カプセル化装置は、視聴要求された番組のIPパケットを、カプセル化テーブルに基づいて配信用IPアドレスでカプセル化し、後段のCMTSに出力する。
【0065】
図4に、本発明のデカプセル化装置40の構成例を示すブロック図を示す。
【0066】
デカプセル化装置40は、マルチキャストプロトコル変換部41と、IPv4/IPv6デカプセル化部42と、カプセル化テーブル100を備える。このカプセル化テーブル100は、光受信装置10のカプセル化テーブル100と同一のものであり、光受信装置10と同期して更新される。
【0067】
マルチキャストプロトコル変換部41の動作とカプセル化テーブル100の同期更新の手順は次のとおりである。マルチキャストプロトコル変換部41は、IP-STB50から番組視聴要求であるマルチキャストjoin信号がくると、番組視聴要求があることと視聴要求番組のIPアドレスの情報をユニキャストで光受信装置10に送信する。光受信装置10はデカプセル化装置40からの情報を元に、帯域が空いているボンディングQAM信号で伝送するように、自身のカプセル化テーブル100を更新する。そして、カプセル化テーブルの更新情報を各デカプセル化装置40(401~40n)まで送信し、全てのデカプセル化装置40のカプセル化テーブル100が更新される。デカプセル化装置(マルチキャストプロトコル変換部41)は更新されたカプセル化テーブル100を元に、番組のオリジナルIPアドレスを配信用IPアドレスに変更した番組視聴要求(マルチキャストjoin信号)を光受信装置10に送信する。この際、CMTSがIPv4対応の場合はIGMP(Internet Group Management Protocol)に、IPv6対応の場合はMLD(Multicast Listener Discovery)に変換して出力する。またこの際、ソースアドレスを指定する必要がないIGMPv2またはMLDv1を用いる。
【0068】
そして、IPv4/IPv6デカプセル化部42は、CMから入力されたIPv6/IPv4カプセル化映像パケットを、カプセル化テーブル100を参照しながら識別し、カプセル化を解いて元の映像信号(オリジナルIPアドレスを有する番組のIPパケット)に戻し、IP-STB50とTV60に出力する。このデカプセル化装置40は、CM30またはIP-STB50の中にデカプセル化部として、組み込んでもよい。なお、この例では、IPv4ヘッダでカプセル化されたデータが入力されるとしたが、CMTS20がIPv6対応の場合は、IPv6ヘッダでカプセル化されたデータが入力され、このIPv6ヘッダを削除して元の番組データに戻せばよい。
【0069】
本発明の棟内伝送システムにおける伝送の手順を、図2等に基づいて簡単に説明する。
【0070】
(1)CMTS20において、配信用IPアドレスと伝送チャンネル又はボンディングとの対応を事前設定する。
【0071】
(2)受信者宅のIP-STBからの番組(例えば、番組1:8K1)の視聴要求を、デカプセル化装置1(401)を介して光受信装置10に送信する。
【0072】
(3)配信用IPアドレスと視聴要求された番組のオリジナルIPアドレス(番組IPアドレス)の対応関係を、カプセル化テーブルに設定する。例えば、番組1のオリジナルIPアドレスをボンディング1の配信用IPアドレスに対応させるよう設定する。この設定は、IPカプセル化処理部12とデカプセル装置1~n(401~40n)のカプセル化テーブルの全てに反映される。
【0073】
(4)光受信装置10において、要求された番組1のIPパケットを、カプセル化テーブルの設定に従って、ボンディング1の配信用IPアドレスのIPヘッダでカプセル化して出力する。
【0074】
(5)CMTS20は、カプセル化された番組1のIPパケットをボンディング1で送信するとともに、CM1(301)にボンディング1を受信するように指示する。
【0075】
(6)CM1(301)は、番組1(8K1)をボンディング1で受信する。
【0076】
(7)デカプセル化装置1(401)は、カプセル化したパケットを元に戻し、番組1の映像データ(8K1)を出力する。
【0077】
このように、カプセル化を利用して、少ないチャンネルでも全番組を伝送することができる。
【0078】
(効果の検証)
以上説明した棟内伝送システムの効果を確認するため、具体的な数値を用いて検証する。
【0079】
まず条件設定として、想定するマンションの世帯数として30世帯、FTTHを伝送する番組として、2K(10Mbps)を100番組、4K(40Mbps)を18番組、8K(100Mbps)を1番組で全伝送容量1.8Gbpsと仮定する。各世帯は2番組まで同時視聴可能とする。使用するCMTSは、256QAM信号(38Mbps)で最大8チャンネルボンディングで伝送し、1カードあたり32chのQAM信号を出力する。1ボンディンググループあたりの伝送容量は、38Mbps×8chで約300Mbpsとなる。1カードあたりの伝送容量は、38Mbps×32=1216Mbpsとなる。CMは8個のマルチチューナーでボンディングされた信号を受信する。DBCを行う場合は、プライマリーチャンネル1ch以外のセカンダリーチャンネル7chで映像を伝送し、セカンダリーチャンネルをDBCで切り替えるものとする。
【0080】
第1の従来伝送システム(図9)を用いた場合を検証する。8Kを1番組、4Kを5番組伝送する場合、伝送容量300Mbps必要となる。3世帯で6番組を同時に視聴することを考慮すると、1ボンディンググループ(300Mbps)あたり3世帯を収容する。異なるサービスグループ間でマルチキャストできないため、30世帯の場合はボンディンググループが10個必要である。よって、80chの256QAM信号(3Gbps)が必要となる。
【0081】
第2の従来伝送システム(図10)を用いた場合を検証する。各世帯で全ての番組を選局可能とするには、全番組を伝送するしかない。全番組(1.8Gbps)を38Mbps/チャンネルで割れば、48chとなる。2chはプライマリーチャンネルで、残り48chをセカンダリーチャンネルとすると、50chの256QAM信号(約1.9Gbps)が必要となる。ただし、概算値であり、複数の番組の合計の伝送容量がボンディンググループに正確に収まるように仮定して計算している。
【0082】
本発明の棟内伝送システム(図2)を用いた場合を検証する。この場合、マルチキャスト伝送可能なため、同時視聴時の最大伝送容量で設計すればよい。30世帯あり、各世帯2番組まで同時視聴(全体で60番組)を考慮すると、8K1番組(100Mbps)+4K18番組(40Mbps×18)+2K41番組(10Mbps×41)=1230Mbpsとなる。同時視聴時の最大伝送容量(1230Mbps)を38Mbps/チャンネルで割れば、33chとなる。2chはプライマリーチャンネルで、残り33chをセカンダリーチャンネルとすると、35chの256QAM信号(約1.3Gbps)が必要となる。
【0083】
このように、本発明の棟内伝送システムのほうが従来伝送システムより少ない伝送容量で伝送可能なことが分かる。この例では各世帯で同時に2番組まで選局可能である。また、本発明の場合、各世帯が同じ番組を視聴する場合は、マルチキャストにより効率的に伝送することができ、空き帯域をデータ通信等に有効利用できる。
【0084】
図8に、集合住宅の世帯数と必要な伝送容量の計算値の比較を示す。横軸が受信者の世帯数であり、縦軸が棟内伝送路に必要な伝送容量である。
【0085】
第1の従来伝送システム(従来システム1)は3世帯ごとに300Mbpsの伝送容量が必要なため、世帯数に応じて必要な伝送容量が線形に増加していくのが分かる。また、第2の従来伝送システム(従来システム2)では、世帯数に関わらず常に全番組分の伝送容量が必要となることが分かる。本発明の場合は、世帯数×視聴番組の帯域×2の伝送容量が必要なため、世帯数に応じて必要な伝送容量が緩やかに増加していく。50世帯程度で全番組を伝送する帯域が必要となるため、50世帯以上の場合は、従来システム2と同じグラフとなる。よって、この番組数の例では50世帯以下の場合、従来システムに比べて本発明の棟内伝送システムの方が少ない伝送容量で効率的に各世帯に番組を伝送し、全番組を選局可能とすることができることがわかる。
【0086】
このように、ケーブルテレビのFTTHシステムにベースバンド伝送方式を導入する場合、マンション等の棟内伝送路での4K・8K多チャンネル信号の効率的な伝送手段の確立という課題に対して、本発明はこの課題を解決することが出来る方法である。
【0087】
なお、上記の実施の形態では、棟内伝送システムの構成について説明したが、本発明はこれに限らず、集合住宅内の同軸ケーブルを利用して、番組データを伝送する伝送方法として構成されてもよい。すなわち、図2のデータの流れに従って、IPマルチキャスト伝送を利用した、番組データ(番組のIPパケット)を複数の受信者に伝送する伝送方法として構成されても良い。
【0088】
上述の実施形態は代表的な例として説明したが、本発明の趣旨及び範囲内で、多くの変更及び置換ができることは当業者に明らかである。したがって、本発明は、上述の実施形態によって制限するものと解するべきではなく、特許請求の範囲から逸脱することなく、種々の変形や変更が可能である。例えば、実施形態に記載の複数の構成ブロックを1つに組み合わせたり、あるいは1つの構成ブロックを分割したりすることが可能である。
【符号の説明】
【0089】
1 ケーブルテレビ局
2 戸建住宅
3 集合住宅
4 光伝送路
5 光送信装置
10 光受信装置
11 伝送路復号化・多重分離部
12 カプセル化処理部
13,14 配信ルート制御部
20 CMTS
30 CM
40 デカプセル化装置
41 マルチキャストプロトコル変換部
42 IPv4/IPv6デカプセル化部
50 IP-STB
60 TV
91 光受信装置
92 CMTS
93,94 サービスグループ
95~98 CM
100 カプセル化テーブル
111 O/E変換部
112 伝送路符号化復号部
113 多重化分離部
121 IPv4/IPv6カプセル化部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10