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特許7045446フォトクロミック接着性組成物、フォトクロミック積層体、及び該フォトクロミック積層体を用いた光学物品
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  • 特許-フォトクロミック接着性組成物、フォトクロミック積層体、及び該フォトクロミック積層体を用いた光学物品 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-23
(45)【発行日】2022-03-31
(54)【発明の名称】フォトクロミック接着性組成物、フォトクロミック積層体、及び該フォトクロミック積層体を用いた光学物品
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/23 20060101AFI20220324BHJP
   C09J 175/04 20060101ALI20220324BHJP
   C09J 11/06 20060101ALI20220324BHJP
   C09K 9/02 20060101ALI20220324BHJP
【FI】
G02B5/23
C09J175/04
C09J11/06
C09K9/02 B
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020512322
(86)(22)【出願日】2019-04-04
(86)【国際出願番号】 JP2019014976
(87)【国際公開番号】W WO2019194281
(87)【国際公開日】2019-10-10
【審査請求日】2021-06-09
(31)【優先権主張番号】P 2018073508
(32)【優先日】2018-04-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
(74)【代理人】
【識別番号】100207756
【弁理士】
【氏名又は名称】田口 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100129746
【弁理士】
【氏名又は名称】虎山 滋郎
(74)【代理人】
【識別番号】100165021
【弁理士】
【氏名又は名称】千々松 宏
(72)【発明者】
【氏名】平連 利光
(72)【発明者】
【氏名】森 力宏
(72)【発明者】
【氏名】百田 潤二
【審査官】中山 佳美
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/141250(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2011/0190455(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0042377(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/23
C09J 175/04
C09J 11/06
C09K 9/02
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)分子量が300以上の分子鎖を置換基として有するフォトクロミック化合物、及び
(B)接着性ウレタン(ウレア)樹脂を含んでなり、
軟化点が140~220℃となるフォトクロミック接着性組成物。
【請求項2】
前記(B)接着性ウレタン(ウレア)樹脂が、
(B1)分子内に2つ以上の水酸基を有する数平均分子量400~3000のポリカーボネートポリオール、及びポリカプロラクトンポリオールから選ばれる少なくとも1種のポリオール化合物、及び
(B2)分子内に2つ以上のイソシアネート基を有するポリイソシアネート化合物を反応して得られるウレタン(ウレア)樹脂である請求項1に記載のフォトクロミック接着性組成物。
【請求項3】
前記(B)接着性ウレタン(ウレア)樹脂が、前記(B1)成分、及び(B2)成分に加えて、
(B3)分子内に2つ以上のイソシアネート基と反応しうる基を有する分子量50~300の活性水素含有化合物とを反応して得られるウレタン(ウレア)樹脂である請求項2に記載のフォトクロミック接着性組成物。
【請求項4】
更に、(C)分子内に少なくとも1つのイソシアネート基を有するイソシアネート化合物を含んでなることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載のフォトクロミック接着性組成物。
【請求項5】
前記(A)フォトクロミック化合物が、下記式(1)、及び下記式(2)から選ばれる少なくとも1種類であることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載のフォトクロミック接着性組成物。
PC-(L-Chain) (1)
PC-(L-Chain-L’)-PC’ (2)
{式(1)または式(2)中、
PC、又はPC’は、それぞれ、下記式(3)~(7)で示される基本骨格を有する化合物から選ばれ、
該基本骨格において、置換基を有することができる炭素原子又は窒素原子の内、1つの原子が2価の有機基であるL又はL’と直接結合し、その他の原子は他の置換基を有してもよく、又は
置換基を有することができる炭素原子又は窒素原子の内、1つの原子が置換基を介して2価の有機基であるL又はL’と結合し、その他の原子は他の置換基を有してもよく、
さらに、PCとPC'とは、同一でも異なっていてもよく、
L、およびL'は、それぞれ、ポリオキシアルキレン鎖、(チオ)エステル基、(チオ)アミド基から選択される少なくとも1種の基を含む2価の有機基であり、LとL'とは、同一でも異なっていてもよく、
Chainは、ポリシロキサン鎖、ポリオキシアルキレン鎖から選択される少なくとも1種の鎖を含む1価または2価の有機基であり、
LおよびChain、またはL、L’およびChainの合計の分子量が前記分子鎖の分子量に該当する。}。
【化1】
(前記式(3)~(7)において、括弧の中の分子構造がPC、又はPC’の基本骨格であり、線はL又はL’と結合することを示す。)。
【請求項6】
前記(A)フォトクロミック化合物の基本骨格が、下記式(3’)~(7’)で示される置換基を有する基本骨格となる請求項5に記載のフォトクロミック接着性組成物。
【化2】
(前記式(3’)~(7’)において、
~R21は、水素原子、前記L又はL’と直接結合する結合手、置換基、又はその置換基を介して前記L又はL’と結合する基である。)。
【請求項7】
互いに対向する2枚の(D)光学シートが請求項1~6のいずれかに記載のフォトクロミック接着性組成物から得られる接着層を介して接合される積層構造を含むフォトクロミック積層体。
【請求項8】
前記(D)光学シートが、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、セルロース樹脂、ポリアミド樹脂、(メタ)アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリウレタンウレア樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、ポリオレフィン樹脂及びポリビニルアルコール樹脂から選ばれる樹脂からなることを特徴とする請求項7に記載のフォトクロミック積層体。
【請求項9】
請求項7、または8に記載のフォトクロミック積層体の少なくとも一方の外表面上に、
ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、アリル樹脂、(メタ)アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリウレタンウレア樹脂、ポリチオウレタン樹脂、ポリエポキシ樹脂、ポリチオエポキシ樹脂、及びポリカーボネート樹脂
から選ばれる樹脂からなる(E)合成樹脂層を積層した光学物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接着性を有する新規なフォトクロミック接着性組成物に関する。光学シート、特に、有機樹脂からなる光学シート同士を高温においても、強固に接着することができ、かつ、優れたフォトクロミック特性を発揮する、新規なフォトクロミック接着性組成物に関する。更には、該フォトクロミック接着性組成物を使用して得られる新規なフォトクロミック積層体、および新規な光学物品に関する。なお、本発明において、ウレタン(ウレア)樹脂は、ウレタン結合のみのウレタン樹脂、並びにウレタン結合、およびウレア結合の両方を含むウレタンウレア樹脂の両方を含むものとする。
【背景技術】
【0002】
近年米国を中心として、防眩性を有するサングラスなどに、透明で優れた耐衝撃性を有するポリカーボネートを用いたプラスチック基材の需要が急速に高まっている。そして、このようなプラスチック製サングラスにおいては、フォトクロミック色素と組み合わせることによって、周囲の明るさに応じて透過率が変化することにより防眩性を調節できるプラスチック製フォトクロミックサングラスが急速に人気を得ている。
【0003】
しかしながら、プラスチック製フォトクロミックサングラスの加工は、必ずしも容易ではない。たとえば、アクリレートコポリマーにフォトクロミック剤を添加したフォトクロミック性塗料を用いる場合(特許文献1参照)には、以下の点で改良の余地があった。該方法では、ポリカーボネートフィルム表面に、該塗料からなるフォトクロミック性被膜を形成した複合フィルムを内部に装着した金型内に、ポリカーボネート樹脂を射出成形するものである。この方法においては、アクリレートコポリマーの性質によるものと考えられるが、ポリカーボネートフィルムとの密着性が不十分であり、良好なフォトクロミック特性を有するサングラスを得ることは困難であった。
【0004】
また、フォトクロミック特性の良好な合成樹脂積層体を製造する方法として、以下の方法が知られている。具体的には、先ず、連続的に移動する、ポリカーボネートシートなどの透明な合成樹脂層の片面にフォトクロミック特性を有する樹脂層を連続的に塗布する。次に該樹脂層の乾燥を行った後に(樹脂層が接着層となる)、他の透明なシートを貼り合わせる方法が提案されている(特許文献2、及び特許文献3参照)。しかし、これらの方法には、上記フォトクロミック特性を有する樹脂層を形成するための樹脂組成物(具体的にはポリウレタン樹脂組成物)が、テトラヒドロフランや、トルエンといった溶剤を含むため、該樹脂組成物をポリカーボネートシート等に塗布した際に、透明な該シートが溶解するおそれがあった。その結果、外観不良が生じたり、ウレタン樹脂中に溶出した合成樹脂によってフォトクロミック特性が低下したりするという問題があった。
【0005】
また、前記特許文献1に記載された方法において、前記複合フィルムに代えて“フォトクロミック色素を含有するポリウレタン樹脂接着層によりポリカーボネートシートを接合した積層シート”を用いる方法がある(特許文献4及び特許文献5参照)。しかし、この方法では、上記積層シートにおけるポリカーボネートシートの密着性や耐熱性が不十分であった。このため、上記積層体を金型に装着し、次いで該金型にポリカーボネート樹脂を射出成形することによって光学物品を製造した場合、得られる光学物品において剥離が生じたり、光学歪が生じたりするといった問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開昭61-5910号公報
【文献】国際公開第2002-099513号
【文献】特開2002-196103号公報
【文献】特表2003-519398号公報
【文献】米国特許出願公開第2004-096666号明細書
【文献】国際公開第2013-099640号
【文献】米国特許出願公開第2017-0327736号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一方、耐熱性が高い、フォトクロミック接着性組成物の開発も進んでいる(例えば、特許文献6、及び7参照)。これら方法においては、ウレタン系樹脂を主成分とする接着剤からなるが、末端に反応性基を有するプレポリマーを架橋させるか、または主ポリマー鎖をポリイソシアネート化合物で架橋させて、耐熱性のよいフォトクロミック接着層とするものである。
【0008】
しかしながら、以上のような耐熱性のよいフォトクロミック接着性組成物を使用する場合においては、以下の点で改善の余地があった。すなわち、上記方法では、近年要求される、より高度なフォトクロミック特性を維持できないという点で改善の余地があった。
【0009】
したがって、本発明の目的は、第一に、光学シートを接合するときの接着層として使用した場合に、優れた密着性、耐熱性を有し、優れたフォトクロミック性を発揮するフォトクロミック接着性組成物を提供することである。
【0010】
また、本発明の第二の目的は、光学シートがフォトクロミック性を有する接着層により接合された積層構造を含むフォトクロミック積層体であって、優れた密着性、優れた耐熱性、および優れたフォトクロミック特性を有するフォトクロミック積層体を提供することである。
【0011】
さらに、本発明の第三の目的は、上記フォトクロミック積層体を使用した、密着性、およびフォトクロミック特性に優れた光学物品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた。そして、フォトクロミック化合物の構造と、ウレタン(ウレア)樹脂の構造の組み合わせを種々検討した。その結果、特定のウレタン(ウレア)接着性樹脂と、特定の構造を有するフォトクロミック化合物とを組み合わせて、特定の軟化点を有するフォトクロミック接着性組成物とすることにより、上記課題を解決することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、第一の本発明は、
(A)分子量が300以上の分子鎖を置換基として有するフォトクロミック化合物(以下、単に「(A)成分」とする場合もある。)、及び
(B)接着性ウレタン(ウレア)樹脂(以下、単に「(B)成分」とする場合もある。)を含み、
軟化点が140~220℃となるフォトクロミック接着性組成物である。
【0014】
第二の本発明は、互いに対向する2枚の(D)光学シートが前記フォトクロミック接着性組成物から得られる接着層を介して接合される積層構造を含むフォトクロミック積層体である。
【0015】
第三の本発明は、前記フォトクロミック積層体の少なくとも一方の外表面上に、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、アリル樹脂、(メタ)アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリウレタンウレア樹脂、ポリチオウレタン樹脂、ポリエポキシ樹脂、ポリチオエポキシ樹脂、及びポリカーボネート樹脂から選ばれる樹脂からなる(E)合成樹脂層を積層した光学物品である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、光学シート同士を高温においても強固に接着することができ、かつ、優れたフォトクロミック特性を発揮する、フォトクロミック接着性組成物となる。そのため、該光学シートを本発明のフォトクロミック接着性組成物からなる接着層で接合したフォトクロミック積層体は、さらにその上に、射出成型等により比較的高温の樹脂を積層したとしても、剥がれ等の成形性不良を生じ難い。それに加えて得られた光学物品は、優れたフォトクロミック特性を発揮するものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明のフォトクロミック積層体の好適な構造を示す断面概略図である。
図2】実施例15で使用したフォトクロミック接着性組成物(接着層)の軟化点を測定した際の測定図(熱機械分析 Thermal Mechanical Analysisの測定図)である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は、(A)フォトクロミック化合物と、(B)接着性ウレタン(ウレア)樹脂からなるフォトクロミック接着性組成物である。そして、
前記(A)フォトクロミック化合物が、分子量が300以上の分子鎖を置換基として有するものであり、かつ、
前記(B)接着性ウレタン(ウレア)樹脂を含んでなり、
軟化点が140~220℃の耐熱性を有するフォトクロミック接着性組成物である。なお、軟化点の測定方法は、実施例に記載の方法で測定した値である。本発明のフォトクロミック接着性組成物は、特に、光学シートとの接着性に優れる。
【0019】
以下、これらについて順を追って説明する。まず始めに、(A)フォトクロミック化合物について説明する。
【0020】
<(A)フォトクロミック化合物>
本発明に使用するフォトクロミック化合物(A)は、分子量が300以上の分子鎖を置換基として有するものであれば、特に制限無く公知の化合物の中から、任意のものを適宜選択し使用できる。分子量が300以上の分子鎖は、高分子量のものであるため、フォトクロミック化合物を製造する際に、1種類の分子鎖ではなく、複数種類の分子鎖を有するものとなる場合がある。その場合、該分子鎖の分子量は、平均値をとればよい。また、この平均値は、数平均分子量であればよい。この分子量は、フォトクロミック化合物の製造時の原料の種類により確認できるし、製造物から確認する場合には、NMR、IR、質量分析等の公知の手段により確認できる。本発明においては、使用した原料から求めた分子量を採用している。
【0021】
(A)成分が、分子量300以上の分子鎖を有することにより、高い耐熱性を有する、下記に詳述する(B)成分中においても、高度なフォトクロミック特性を発揮できると考えられる。該分子鎖の分子量は、フォトクロミック特性、その配合量、および(A)成分自体の生産性を考慮すると300~25,000であることが好ましく、400~20,000であることがより好ましく、440~15,000であることがさらに好ましく、
500~10,000であることが特に好ましい。さらに、高いフォトクロミック特性、接着層等中における(A)成分の分散性、および(A)成分自体の生産性を考慮すると、該分子鎖の分子量は、700~5,000であることが好ましく、1,000~3,000であることがより好ましい。
【0022】
該分子鎖の数は、フォトクロミック化合物1分子に対して、少なくとも0.5個以上となることが好ましい。すなわち、該分子鎖の数が最も少なくなる場合であっても、2つのフォトクロミック化合物を、該分子鎖で結合するような構造となることが好ましい。該分子鎖の数の上限は、分子鎖の分子量との兼ね合い、フォトクロミック特性等を考慮すると、フォトクロミック化合物1分子に対して、4つが好ましく、2つが好ましく、1つであることが好ましい。
【0023】
また、(A)成分は、フォトクロミック特性を発揮する分子構造が、光の照射によって分子の一部が開裂して発色し、開裂した箇所が再結合することにより退色するものが好ましい。従って、フォトクロミック化合物が可逆的に発色と退色を繰り返すためには、開裂と再結合が起こる際に分子の動きを妨げない自由空間の存在(分子の自由度)が大変重要となる。このような分子構造を有する化合物の場合、特に、該分子鎖の効果が発揮されるものと考えられる。
【0024】
このような(A)成分としては、例えば、国際公開第2000-015630号、国際公開第2004-041961号、国際公開第2005-105874号、国際公開第2005-105875号、国際公開第2006-022825号、国際公開第2009-146509号、国際公開第2010-20770号、国際公開第2012-121414号、国際公開第2012-149599号、国際公開第2012-162725号、国際公開第2012-176918号、国際公開第2013-078086号等に記載の、前記分子鎖を有するフォトクロミック化合物が使用できる。
【0025】
<好適な(A)フォトクロミック化合物>
本発明において、好適な(A)成分は、下記式(1)、及び(2)から選択される、少なくとも1種のフォトクロミック化合物である。
PC-(L-Chain) (1)
PC-(L-Chain-L’)-PC’ (2)
【0026】
前記式(1)または式(2)中、
L、およびL'は、それぞれ、ポリオキシアルキレン鎖、(チオ)エステル基、(チオ)アミド基から選択される少なくとも1種の基を含む2価の有機基であり、LとL'とは、同一でも異なっていてもよく、
Chainは、ポリシロキサン鎖、ポリオキシアルキレン鎖から選択される少なくとも1種の鎖を含む1価または2価の有機基であり、
LおよびChain、またはL、L’およびChainの合計の分子量が前記分子鎖の分子量に該当する。つまり、式(1)におけるLおよびChain、または式(2)におけるL、L’およびChainの部分が分子鎖に該当する。
【0027】
前記式(1)または式(2)中、
PC、又はPC’は、それぞれ、下記式(3)~(7)で示される基本骨格を有する化合物から選ばれる。
【0028】
【化1】
【0029】
前記式(3)~(7)において、括弧の中の分子構造がPC、又はPC’の基本骨格であり、線はL又はL’と結合することを示す。
【0030】
前記式(3)~(7)で示される基本骨格において、
置換基を有することができる炭素原子又は窒素原子の内、1つの原子が2価の有機基であるL又はL’と直接結合し、その他の原子は他の置換基を有してもよく、又は
置換基を有することができる炭素原子又は窒素原子の内、1つの原子が置換基を介して2価の有機基であるL又はL’と結合し、その他の原子は他の置換基を有してもよい。
【0031】
すなわち、好適な(A)成分は、前記基本骨格を有することが好ましい。そして、該基本骨格において、置換基を有することができる炭素原子又は窒素原子の内、1つの原子がLおよびChain、またはL、L’およびChain(分子鎖)と直接結合し、その他の原子は、他の置換基、又は水素原子を有することが好ましい。
【0032】
また、好適な(A)成分は、置換基を有することができる炭素原子又は窒素原子の内、1つの原子が置換基を介して分子鎖と結合し、その他の原子は、他の置換基、又は水素原子を有することが好ましい。
【0033】
さらに、PCとPC'とは、同一でも異なっていてもよい。
【0034】
次に、前記式(3)~(7)の特に好適な基本骨格について説明する。前記PC又はPC’はそれぞれ下記式(3’)~(7’)で示される基本骨格を有する化合物から選ばれることが好ましい。
【0035】
<式(3’)で示される基本骨格(式(3)の好適な基本骨格)>
前記式(3)で示される基本骨格において、好ましい基本骨格は、下記式(3’)で示される構造である。
【0036】
【化2】
【0037】
前記式(3’)において、括弧の中の分子構造がPC、又はPC’の基本骨格であり、線はL又はL’と結合することを示す。
【0038】
<式(3’);R、およびR
前記式(3’)におけるR、およびRは、それぞれ、水素原子、ヒドロキシル基、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のハロアルキル基、置換基を有してもよい炭素数3~8のシクロアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、アミノ基、置換アミノ基、置換基を有してもよい複素環基、シアノ基、ハロゲン原子、炭素数1~6のアルキルチオ基、置換基を有してもよい炭素数6~10のアリールチオ基、ニトロ基、ホルミル基、ヒドロキシカルボニル基、炭素数2~7のアルキルカルボニル基、炭素数2~7のアルコキシカルボニル基、置換基を有してもよい炭素数7~11のアラルキル基、置換基を有してもよい炭素数7~11のアラルコキシ基、置換基を有してもよい炭素数6~12のアリールオキシ基、置換基を有してもよい炭素数6~12のアリール基、置換基を有してもよい炭素数3~12のヘテロアリール基、チオール基、炭素数2~9のアルコキシアルキルチオ基、炭素数1~6ハロアルキルチオ基、又は置換基を有してもよい炭素数3~8のシクロアルキルチオ基などが挙げられる。
【0039】
<式(3’);R、およびR
前記式(3’)におけるR、およびRは、それぞれ、水素原子、置換基を有してもよい炭素数6~20のアリール基、又は置換基を有してもよい炭素数3~20のヘテロアリール基である。
【0040】
該アリール基、又は該ヘテロアリール基が有する置換基は、
ヒドロキシル基、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のハロアルキル基、炭素数3~8のシクロアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、アミノ基、複素環基、シアノ基、ハロゲン原子、
炭素数1~6のアルキルチオ基、置換基を有してもよい炭素数6~10のアリールチオ基から選ばれる置換基が挙げられる。
【0041】
<式(3’);R、およびR
前記式(3’)におけるR、およびRは、水素原子、ハロゲン原子、カルボキシル基、アセチル基、炭素数1~10のアルキル基、炭素数2~10のアルケニル基、炭素数1~10のアルコキシ基、炭素数1~10のヒドロキシアルキル基、炭素数1~10のアルコキシ基で置換された炭素数1~10のアルキル基、炭素数1~10のアミノアルキル基、炭素数3~20のシクロアルキル基、置換基を有してもよい炭素数6~20のアリール基、炭素数2~15のアルコキシカルボニル基、又は置換基を有してもよい炭素数3~20ヘテロアリール基などが挙げられる。
【0042】
<式(3’);分子鎖 R~Rが分子鎖を有する場合>
前記式(3’)で示される基本骨格が有する分子鎖は、R~Rの一つが結合手となって、直接、基本骨格と結合することができる。つまり、R~Rの一つが下記に詳述する-(L-Chain)、または-(L-Chain-L’)-となってもよい(R~Rの一つが分子鎖となることができる。)。なお、R~Rは、R、R、R、R、R、Rをまとめて示している。以下、R~Rを使用した場合にはこれに従うものとする。
【0043】
また、R~Rの内、置換基を有していてもよい基の該置換基が「分子鎖」となることもできる。
【0044】
さらには、R~Rの一つの置換基(ただし、水素原子を除く)を介して、分子鎖を有することもできる。例えば、アルキル基の末端に分子鎖を有する(アルキル基を介して分子鎖を有する)場合には、当然のことながら、R~Rのアルキル基は、アルキレン基となる。
【0045】
<式(3’);R~Rの好適な基>
以上のような基の中でも、得られたフォトクロミック化合物の発色濃度、発色色調等を考慮すると、前記式(3’)における、好適なR~Rは、以下の通りである。
【0046】
好適なR、Rは、水素原子、前記アルキル基、前記アルコキシ基、前記複素環基、前記アリール基、前記アリールチオ基である。
【0047】
好適なR、Rは、前記アルキル基、前記アルコキシ基、前記置換アミノ基、前記複素環基、又は置換基を有してもよい炭素数6~20のアリール基である。
【0048】
好適なR、Rは、前記アルキル基、前記アルケニル基、前記アルコキシ基、前記アリール基、前記アルコキシカルボニル基、又は前記ヘテロアリール基である。また、少なくとも一方の基が、下記に詳述する-(L-Chain)、または-(L-Chain-L’)-となることが好ましい。
【0049】
そして、分子鎖は、R、R、R、またはRのいずれかに置換していることが好ましい。
【0050】
<式(4’)で示される基本骨格(式(4)の好適な基本骨格)>
前記式(4)で示される基本骨格において、好ましい基本骨格は、下記式(4’)で示される構造である。
【0051】
【化3】
【0052】
<式(4’);R、R、R、およびR
前記式(4’)におけるR~Rは、前記式(3’)の<式(3’);R、およびR>、<式(3’);R、およびR>で説明した基と同じ基が挙げられる。
【0053】
<式(4’);R
前記式(4’)におけるRは、前記式(3’)の<式(3’);R、およびR>で説明した基と同じ基が挙げられる。
【0054】
<式(4’);R、およびR
前記式(4’)におけるR、およびRは、それぞれ、水素原子、ヒドロキシル基、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のハロアルキル基、置換基を有してもよい炭素数3~8のシクロアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、アミノ基、置換アミノ基、置換基を有してもよい複素環基、シアノ基、ニトロ基、炭素数1~6のアルコキシアルキル基、ホルミル基、ヒドロキシカルボニル基、炭素数2~7のアルキルカルボニル基、炭素数2~7のアルコキシカルボニル基、ハロゲン原子、置換基を有してもよい炭素数7~11のアラルキル基、置換基を有してもよい炭素数7~11のアラルコキシ基、置換基を有してもよい炭素数6~12のアリール基、チオール基、炭素数1~6のアルキルチオ基、炭素数3~8のシクロアルキルチオ基、置換基を有していてもよい複素環基、または置換基を有してもよい炭素数6~10のアリールチオ基である。
【0055】
また、前記式(4’)におけるR、およびRは、2つが一緒になって、それらが結合する13位の炭素原子と共に、環員炭素数が3~20である脂肪族環、前記脂肪族環に芳香族環若しくは芳香族複素環が縮環した縮合多環、環員原子数が3~20である複素環、又は前記複素環に芳香族環若しくは芳香族複素環が縮環した縮合多環を形成してもよく、ただし、これら環は置換基を有してもよい。もしくはそれらが結合する13位の炭素原子と共に、環員炭素数が3~20である脂肪族炭化水素環、前記脂肪族炭化水素環に芳香族環もしくは芳香族複素環が縮環した縮合多環、環員原子数が3~20である複素環、又は前記複素環に芳香族炭化水素環もしくは芳香族複素環が縮環した縮合多環基を形成してもよい。
【0056】
<式(4’);分子鎖 R~R、R~Rが分子鎖を有する場合>
前記式(4’)で示される基本骨格が有する分子鎖は、R~R、R~Rの一つが結合手となって、直接、基本骨格と結合することができる。つまり、R~R、R~Rの一つが下記に詳述する-(L-Chain)、または-(L-Chain-L’)-となってもよい(R~R、R~Rの一つが分子鎖となることができる。)。
【0057】
また、R~R、R~Rの内、置換基を有していてもよい基の該置換基が「分子鎖」となることもできる。
【0058】
さらには、R~R、R~Rの一つの置換基(ただし、水素原子を除く)を介して、分子鎖を有することもできる。
【0059】
<式(4’);R~R、R~R好適な基>
前記式(4’)における、好適なR~R、R~Rは、以下の通りである。
【0060】
好適なR、 R、 R、 Rは、前記式(3’)で示した好適な基と同様であり、 Rは、水素原子、前記アルコキシ基、前記複素環基、前記アリール基が好ましく、 R、及び Rは、前記ヒドロキシル基、前記アルキル基、前記アルコキシ基、 R、及び Rが結合する13位の炭素原子と環を形成していることが好ましい。そして、分子鎖は、R、R、R~Rのいずれかに置換していることが好ましい。
【0061】
<式(5’)で示される基本骨格(式(5)の好適な基本骨格)>
前記式(5)で示される基本骨格において、好ましい基本骨格は、下記式(5’)で示される構造である。
【0062】
【化4】
【0063】
前記式(5’)において、括弧の中の分子構造がPC、又はPC’の基本骨格であり、線はL又はL’と結合することを示す。
【0064】
<式(5’);R、およびR
前記式(5’)におけるR、およびRは、前記式(3’)の<式(3’);R、およびR>で説明した基と同じ基が挙げられる。
【0065】
<式(5’);R10、R11、およびR12
前記式(5’)におけるR10~R12は、前記式(3’)の<式(3’);R、およびR>で説明した基と同じ基が挙げられる。
【0066】
<式(5’);分子鎖 R、R、R10~R12が分子鎖を有する場合>
前記式(5’)で示される基本骨格が有する分子鎖は、R、R、R10~R12の一つが結合手となって、直接、基本骨格と結合することができる。つまり、R、R、R10~R12の一つが下記に詳述する-(L-Chain)、または-(L-Chain-L’)-となってもよい(R、R、R10~R12の一つが分子鎖となることができる。)。
【0067】
また、R、R、R10~R12の内、置換基を有していてもよい基の該置換基が「分子鎖」となることもできる。
【0068】
さらには、R、R、R10~R12の一つの置換基(ただし、水素原子を除く)を介して、分子鎖を有することもできる。
【0069】
<式(6’)で示される基本骨格(式(6)の好適な基本骨格)>
前記式(6)で示される基本骨格において、好ましい基本骨格は、下記式(6’)で示される構造である。
【0070】
【化5】
【0071】
前記式(6’)において、括弧の中の分子構造がPC、又はPC’の基本骨格であり、線はL又はL’と結合することを示す。
【0072】
<式(6’);R13、R17、R18、およびR19
前記式(6’)におけるR13、R17、R18、およびR19は、前記式(3’)の<式(3’);R、およびR>で説明した基と同じ基が挙げられる。
【0073】
<式(6’);R16
前記式(6’)におけるR16は水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~20のアルキル基、炭素数1~5のハロアルキル基、炭素数1~5のジハロアルキル基、炭素数1~5のトリハロアルキル基、炭素数3~20の置換基を有してもよいシクロアルキル基、炭素数6~20の置換基を有してもよいビシクロアルキル基、置換基を有してもよい炭素数6~20のアリール基が挙げられる。
【0074】
<式(6’);R14、およびR15
前記式(6’)におけるR14、およびR15は、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~10のアルキル基、置換基を有してもよい炭素数3~20のシクロアルキル基等が挙げられる。
【0075】
<式(6’);分子鎖 R13~R19が分子鎖を有する場合>
前記式(6’)で示される基本骨格が有する分子鎖は、R13~R19の一つが結合手となって、直接、基本骨格と結合することができる。つまり、R13~R19の一つが下記に詳述する-(L-Chain)、または-(L-Chain-L’)-となってもよい(R13~R19の一つが分子鎖となることができる。)。
【0076】
また、R13~R19の内、置換基を有していてもよい基の該置換基が「分子鎖」となることもできる。
【0077】
さらには、R13~R19の一つの置換基(ただし、水素原子を除く)を介して、分子鎖を有することもできる。
【0078】
<式(7’)で示される基本骨格(式(7)の好適な基本骨格)>
前記式(7)で示される基本骨格において、好ましい基本骨格は、下記式(7’)で示される構造である。
【0079】
【化6】
【0080】
前記式(7’)において、括弧の中の分子構造がPC、又はPC’の基本骨格であり、線はL又はL’と結合することを示す。
【0081】
<式(7’);R13、R18、およびR19)>
前記式(7’)におけるR13、R18、およびR19は、前記式(6’)の<式(6’);R13、R17、R18、およびR19)>((<式(3’);R、およびR>))で説明した基と同じ基が挙げられる。
【0082】
<式(7’);R14、およびR15
前記式(7’)におけるR14、およびR15は、前記式(6’)の<式(6’);R14、およびR15>で説明した基と同じ基が挙げられる。
【0083】
<式(7’);R20、およびR21
前記式(7’)におけるR20、およびR21は、前記式(6’)の<式(6’);R14、およびR15>((<式(7’);R14、およびR15>))で説明した基と同じ基が挙げられる。
【0084】
<式(7’);分子鎖 R13~R15、およびR18~R21が分子鎖を有する場合>
前記式(7’)で示される基本骨格が有する分子鎖は、R13~R15、およびR18~R21の一つが結合手となって、直接、基本骨格と結合することができる。つまり、R13~R15、およびR18~R21の一つが下記に詳述する-(L-Chain)、または-(L-Chain-L’)-となってもよい(R13~R15、およびR18~R21の一つが分子鎖となることができる。)。
【0085】
また、R13~R15、およびR18~R21の内、置換基を有していてもよい基の該置換基が「分子鎖」となることもできる。
【0086】
さらには、R13~R15、およびR18~R21の一つの置換基(ただし、水素原子を除く)を介して、分子鎖を有することもできる。
【0087】
<(A)成分 好適な2価の有機基であるL又はL’>
前記式(1)、および(2)において、L、又はL’は、ポリオキシアルキレン鎖、(チオ)エステル基、(チオ)アミド基から選ばれる少なくとも1種の基を含む2価の結合基であることが好ましい。
【0088】
より具体的には、下記式(8)で示される2価の有機基であることが好ましい。
【0089】
【化7】
【0090】
式中、
22は、2価の基であり、炭素数が1~20の直鎖状若しくは分岐鎖状アルキレン基、環を形成する炭素数が3~12の置換基を有してもよいシクロアルキル基、環を形成する炭素数が6~12の置換基を有してもよいアリール基、又は環を形成する原子の数が3~12である置換基を有してもよい複素環基であり、
23は、2価の基であり、炭素数が1~20の直鎖状若しくは分岐鎖状アルキレン基、環を形成する炭素数が3~12の置換基を有してもよいシクロアルキル基、又は環を形成する炭素数が6~12の置換基を有してもよいアリール基であり、
24は、2価の基であり、炭素数が1~20の直鎖状若しくは分岐鎖状アルキレン基、環を形成する炭素数が3~12の置換基を有してもよいシクロアルキル基、又は環を形成する炭素数が6~12の置換基を有してもよいアリール基であり、
27は、2価の基であり、炭素数が1~20の直鎖状若しくは分岐鎖状アルキレン基、環を形成する炭素数が3~12の置換基を有してもよいシクロアルキル基、環を形成する炭素数が6~12の置換基を有してもよいアリール基、又は環を形成する原子の数が3~12である置換基を有してもよい複素環基であり、
、およびXは、2価の基であり、それぞれ独立に、直結、O、S、アミノ基、置換アミノ基、(チオ)アミド基、又は(チオ)エステル基であり、
23’は、2価の基であり、炭素数が1~20の直鎖状若しくは分岐鎖状アルキレン基、環を形成する炭素数が3~12の置換基を有してもよいシクロアルキル基、又は環を形成する炭素数が6~12の置換基を有してもよいアリール基であり、
dは0~50の整数であり、eは0~50の整数であり、e’は0~50の整数であり、fは0~50の整数であり、gは0~50の整数であり、2つのeは同一でも異なっていてもよく、
dが2以上の場合、複数あるR22は、互いに同一であっても異なっていてもよく、
eが2以上の場合、複数あるeの単位の2価の基は、互いに同一であっても異なっていてもよく、
e’が2以上の場合、複数あるe’の単位の2価の基は、互いに同一であっても異なっていてもよく、
fが2以上の場合、複数あるfの単位の2価の基は、互いに同一であっても異なっていてもよく、
gが2以上の場合、複数あるgの単位の2価の基は、互いに同一であっても異なっていてもよい。
【0091】
また、L、L’は互いに同一であっても異なっていてもよく、点線部がフォトクロミック部位との結合を表している。なお、フォトクロミック部位とは、PC又はPC’を意味する。
【0092】
上記式(8)において、dは0であることが好ましく、e、e’、f、及びgはそれぞれ独立して0~2の整数であることが好ましく、2つのeは同一であっても異なっていてもよい。X1及びX2はO(酸素原子)であることが好ましい。R23、R23’、R24及びR27はそれぞれ独立して炭素数1~5の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキレン基であることが好ましい。
【0093】
上記(8)の好ましいものを例示すると、下記式で示される2価の基が挙げられる。
【0094】
【化8】
【0095】
<(A)成分 好適なChain部分>
前記式(1)、および(2)において、「Chain」部分は、ポリアルキレンオキシド鎖、ポリエステル鎖、ポリエステルポリエーテル鎖、及びポリシロキサン鎖から選ばれる少なくとも1種の鎖を含む1価、または2価の基であることが好ましい。中でも、下記式(9a)~(9d)で示される繰り返し単位を有する鎖となることが好ましい。
【0096】
【化9】
【0097】
式(9a)~(9c)中、
25は、炭素数1~20の直鎖状又は分岐鎖状のアルキレン基であり、同一分子内に複数のR25を含む場合は、R25は、互いに同一であっても異なっていてもよく、
nは、前記オリゴマー鎖基の繰り返し単位を指すものであり、3~200の整数であり、複数ある繰り返し単位の2価の基は、互いに同一であっても異なっていてもよい。
【0098】
式(9d)中、
26は、炭素数1~20の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基、または炭素数6~14のアリール基であり、同一分子内に複数のR26を含む場合は、R26は、互いに同一であっても異なっていてもよい。}
で示される基である。
【0099】
<好適な(A)成分>
本発明において、優れた効果を発揮するためには、前記(A)成分としては、下記組み合わせのフォトクロミック化合物を使用することが好ましい。つまりは、PC、又はPC’が前記式(3’)、(4’)、及び(5’)のナフトピラン骨格の中から選ばれる一つであり、L、L’が前記式(8)であり、「Chain」部分が前記式(9a)~(9d)の中から選ばれる一つである。
次に、(B)成分である接着性ウレタン(ウレア)樹脂について説明する。
【0100】
<(B)接着性ウレタン(ウレア)樹脂>
本発明において、(B)接着性ウレタン(ウレア)樹脂がフォトクロミック接着性組成物の軟化点を主に決定する。(A)成分、および(B)成分を含むフォトクロミック接着性組成物の軟化点が140~220℃を満足するような(B)成分でなければならない。そのため、特に制限されるものではないが、(B)成分の軟化点は、特に優れた効果を発揮するためには、(C)成分を使用しない場合には、140~220℃であることが好ましく、150~200℃であることがより好ましく、160~190℃であることがさらに好ましい。また、下記に詳述する(C)成分を使用する場合には、(C)成分による架橋効果が望まれるため、(B)成分単独での軟化点は、120~220℃であることが好ましく、130~200℃であることがより好ましく、140~190℃であることさらに好ましく、140~170℃であることが特に好ましい。なお、(C)成分を使用した場合には、この(C)成分で該(B)成分を架橋したウレタン(ウレア)樹脂の軟化点が、140~220℃であることが好ましく、150~200℃であることがより好ましく、155~195℃であることがさらに好ましく、160~190℃であることが特に好ましい。
【0101】
なお、本発明において、軟化点は、フォトクロミック接着性組成物を指す。この軟化点は、下記に詳述するフォトクロミック積層体を形成する、フォトクロミック化合物を含む接着層の軟化点に相当する。すなわち、(D)光学シートを接合している、フォトクロミック接着性組成物からなる接着層の軟化点である。この軟化点は、フォトクロミック化合物を含む接着層の軟化点であるが、該フォトクロミック化合物は、軟化点にはほとんど影響を与えないと考えられる。そのため、(B)成分、又は(B)成分と(C)成分との反応物(ウレタン(ウレア)樹脂)の軟化点が、140~220℃となることが好ましく、150~200℃となることがより好ましく、155~195℃であることがさらに好ましく、160~190℃となることが特に好ましい。
【0102】
以上のような軟化点の(B)成分、又は(C)成分により架橋したウレタン(ウレア)接着性樹脂を使用することにより、容易に、軟化点が140~220℃のフォトクロミック接着性組成物を製造できる。
【0103】
本発明において、(B)成分は、接着性、フォトクロミック特性の観点から、(B1)分子内に2つ以上の水酸基を有する数平均分子量400~3000のポリカーボネートポリオール、及びポリカプロラクトンポリオールから選ばれる少なくとも1種のポリオール化合物(以下、単に(B1)成分とする場合もある。)、及び(B2)分子内に2つ以上のイソシアネート基を有するポリイソシアネート化合物(以下、単に(B2)成分とする場合もある。)を反応して得られるウレタン(ウレア)樹脂であることが好ましい。以下、これら各成分について説明する。
【0104】
(B1)成分;ポリオール化合物
該ウレタン(ウレア)樹脂に使用されるポリオール化合物としては、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリカプロラクトンポリオール、ポリエステルポリオールなどのポリオール化合物を使用することできる。中でも、耐熱性、密着性、フォトクロミック特性などの観点から、ポリカーボネートポリオール、ポリカプロラクトンポリオールを使用することが好ましい。該ポリオール化合物の数平均分子量は、400~3000であることが好ましい。中でも、耐熱性、フォトクロミック特性の観点から、数平均分子量は400~2500であることが好ましく、400~2000であることがより好ましい。
【0105】
(B2)成分;ポリイソシアネート化合物
該ウレタン(ウレア)樹脂に使用されるポリイソシアネート化合物としては、耐候性の観点から脂肪族ポリイソシアネート化合物、または脂環式ポリイソシアネート化合物を用いることが好ましい。具体的には、テトラメチレン-1,4-ジイソシアネート、ヘキサメチレン-1,6-ジイソシアネート、オクタメチレン-1,8-ジイソシアネート、2,2,4-トリメチルヘキサン-1,6-ジイソシアネートなどの脂肪族ポリイソシアネート化合物、シクロヘキサン-1,3-ジイソシアネート、シクロヘキサン-1,4-ジイソシアネート、2,4-メチルシクロヘキシルジイソシアネート、2,6-メチルシクロヘキシルジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ノルボルネンジイソシアネート、4,4’-メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)の異性体混合物、ヘキサヒドロトルエン-2,4-ジイソシアネート、ヘキサヒドロトルエン-2,6-ジイソシアネート、ヘキサヒドロフェニレン-1,3-ジイソシアネート、ヘキサヒドロフェニレン-1,4-ジイソシアネートなどの脂環式ポリイソシアネート化合物を挙げることができ、特に耐熱性の観点から、イソホロンジイソシアネート、4,4’-メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)の異性体混合物、ノルボルネンジイソシアネートを用いることが好ましい。
【0106】
本発明における接着性ウレタン(ウレア)樹脂(B)は、上記(B1)、(B2)成分に加えて、(B3)分子内に2つ以上のイソシアネート基と反応しうる基を有する分子量50~300の活性水素含有化合物(以下、単に(B3)成分とする場合もある。)を使用することも可能である。以下に(B3)成分について説明する。
【0107】
(B3)成分;活性水素含有化合物
該ウレタン(ウレア)樹脂に使用される活性水素含有化合物は、(B)ウレタン(ウレア)樹脂を合成する際の鎖延長剤、または架橋剤として機能するものであり、得られるウレタン(ウレア)樹脂の耐熱性、フォトクロミック特性の観点から、分子量50~300の化合物を使用することが好ましい。具体的には、ジアミン化合物、トリアミン化合物などのアミノ基含有化合物、ジオール化合物、トリオール化合物などの水酸基含有化合物を使用できる。
【0108】
該アミノ基含有化合物として好適に使用される化合物を具体的に例示すれば、イソホロンジアミン、エチレンジアミン、1,2-ジアミノプロパン、1,3-ジアミノプロパン、1,2-ジアミノブタン、1,3-ジアミノブタン、1,4-ジアミノブタン、1,5-ジアミノペンタン、1,6-ジアミノヘキサン、ピペラジン、N,N-ビス-(2-アミノエチル)ピペラジン、ビス-(4-アミノシクロヘキシル)メタン、ビス-(4-アミノ-3-ブチルシクロヘキシル)メタン、1,2-、1,3-及び1,4-ジアミノシクロヘキサン、ノルボルナンジアミン、ヒドラジン、アジピン酸ジヒドラジン、フェニレンジアミン、4,4’-ジフェニルメタンジアミン、N,N’-ジエチルエチレンジアミン、N,N’-ジメチルエチレンジアミン、N,N’-ジプロピルエチレンジアミン、N,N’-ジブチルエチレンジアミン、N-メチルエチレンジアミン、N-エチルエチレンジアミン、ビス(ヘキサメチレン)トリアミン、1,2,5-ペンタントリアミン等を挙げることができる。
【0109】
その中でも、密着性、耐熱性、フォトクロミック特性、及びウレタン(ウレア)樹脂の合成の容易さの観点から、アミノ基含有化合物は、分子内にアミノ基を2つ有し、脂環式の化合物が好ましい。具体的には、イソホロンジアミン、ビス-(4-アミノシクロヘキシル)メタン、ノルボルナンジアミンを用いることが好ましい。
【0110】
該水酸基含有化合物として好適に使用される化合物を具体的に例示すれば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ブチレングリコール、1,5-ジヒドロキシペンタン、1,6-ジヒドロキシヘキサン、1,7-ジヒドロキシヘプタン、1,8-ジヒドロキシオクタン、1,9-ジヒドロキシノナン、1,10-ジヒドロキシデカン、1,11-ジヒドロキシウンデカン、1,12-ジヒドロキシドデカン、ネオペンチルグリコ-ル、グリセリン、トリメチロ-ルエタン、トリメチロ-ルプロパン、ジ(トリメリロールプロパン)、ブタントリオール、1,2-メチルグルコサイド、ペンタエリスリト-ル、ジペンタエリスリト-ル、トリペンタエリスリト-ル等を挙げることができる。その中でも、密着性、耐熱性、フォトクロミック特性の観点から、分子内に2つ以上の水酸基を有する水酸基含有化合物であって、分子量が50~300(g/mol)のものが好ましい。具体的には、水酸基を2つ有するものとして、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4ブタンジールが挙げられる。3つ以上水酸基を有するものとして、トリメリロールプロパン、ジ(トリメリロールプロパン)が挙げられる。
【0111】
(B4)成分;反応停止剤
本発明において、(B)成分は、末端がイソシアネート基等の反応性基であってもよいが、下記に詳述する(C)成分を使用する場合には、末端が非反応性基となっていることが好ましい。具体的には、(C)成分を配合する場合には、(B)成分は、分子末端に残存するイソシアネート基を、イソシアネート基と反応しうる活性水素基を有する公知の単官能物質(反応停止剤;以下、単に(B4)成分とする場合もある。)と反応させ、非反応性にしたものを使用することが好ましい。反応停止剤としては、アミン、アルコール、チオール、及びカルボン酸を用いることができる。具体的には、ノルマルブチルアミン、sec-ブチルアミン、tert-ブチルアミン、ジブチルアミン、ジイソプロピルアミン、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ノルマルブタノール、sec-ブタノール、tert-ブタノール、酢酸等を挙げることができる。また、酸化防止機能性付与化合物、光安定性機能性付与化合物を反応停止剤として使用することにより、ポリウレタン-ウレア樹脂に機能性付与化合物を導入すると同時に末端のイソシアネート基を不活性化することができる。
【0112】
<ウレタン(ウレア)樹脂における(B1)、(B2)、(B3)、および(B4)成分の使用量>
本発明のフォトクロミック接着性組成物における接着性ウレタン(ウレア)樹脂(B成分)を構成する上記各成分、即ち(B1)成分、(B2)成分の量比は、ウレタン(ウレア)樹脂を使用する用途等を勘案して適宜決定すればよいが、得られるウレタン(ウレア)樹脂の耐熱性、接着力などのバランスの観点から、次のような量比とすることが好ましい。すなわち、(B1)成分に含まれる水酸基の総モル数をn1とし、(B2)成分に含まれるイソシアネート基の総モル数をn2としたときに、n1:n2=0.2~0.8:1.0となる量比が好ましく、n1:n2=0.3~0.7:1.0となる量比がより好ましい。また、(B1)、(B2)成分に加えて、(B3)成分を構成成分に使用した場合、(B1)成分、(B2)成分、(B3)成分の量比は、得られるウレタン(ウレア)樹脂の耐熱性、接着力などのバランスの観点から、次のような量比とすることが好ましい。すなわち、(B1)成分に含まれる水酸基の総モル数をn1とし、(B2)成分に含まれるイソシアネート基の総モル数をn2とし、(B3)成分に含まれる活性水素基の総モル数をn3としたときに、n1:n2:n3=0.2~0.8:1.0:0.2~0.8となる量比が好ましく、特にn1:n2:n3=0.3~0.7:1.0:0.3~0.7となる量比とすることが好ましい。ここで、上記n1~n3は、各成分として用いる化合物の使用モル数と該化合物1分子中に存在する各基の数の積として求めることができる。
【0113】
(B4)成分を使用して、末端を非反応性基とする場合には、(B4)成分に含まれる活性水素基の総モル数をn4としたときに、
n1:n2:n3:n4=0.2~0.8:1.0:0.2~0.8:0.01~0.2とする量比が好ましく、n1:n2:n3:n4=0.3~0.7:1.0:0.3~0.7:0.01~0.18とする量比がより好ましい。そして、(B4)成分を使用する場合には、n2=n1+n3+n4=1.0となる。
【0114】
<(B)成分 ウレタン(ウレア)接着性樹脂の合成方法>
上記(B1)成分、(B2)成分を反応させて、(B)成分を得る場合には、たとえば次のような方法によって好適に(B)成分を得ることができる。
【0115】
(合成方法)
(B1)成分と(B2)成分とを反応さてウレタンプレポリマーを得、次いで該ウレタンプレポリマーと、(B3)成分を反応性させることにより、(B)成分となる接着性ウレタン(ウレア)樹脂を合成することができる。
【0116】
上記方法において、(B1)成分と(B2)成分との反応は、溶媒の存在下または非存在下で両者を窒素あるいはアルゴンなどの不活性ガス雰囲気下中、25~120℃で0.5~24時間反応させればよい。溶媒としては、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、トルエン、ヘキサン、ヘプタン、酢酸エチル、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、テトラヒドロフラン(THF)などの有機溶媒が使用できる。反応に際しては、ジイソシアネート化合物中のイソシアネート基と不純物としての水との反応を避けるため、各種反応試剤及び溶媒は、予め脱水処理を行い、十分に乾燥しておくことが好ましい。また、上記反応を行う際には、ジラウリル酸ジブチルスズ、ジメチルイミダゾール、トリエチレンジアミン、テトラメチル-1,6-ヘキサジアミン、テトラメチル-1,2-エタンジアミン、1,4-ジアザビシクロ[2,2,2]オクタンなどの触媒を用いてもよい。触媒を使用する際の添加量としては、該B成分の合計100質量部に対して0.001~1質量部であることが好ましい。
【0117】
得られたウレタンプレポリマーと(B3)成分との反応は、溶媒の存在下または非存在下で両者を窒素あるいはアルゴンなどの不活性ガス雰囲気下中、-10~100℃で0.5~24時間反応させればよい。溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、t-ブタノール、2-ブタノール、n-ブタノール、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、トルエン、ヘキサン、ヘプタン、酢酸エチル、DMF、DMSO、THFなどを使用することができる。
【0118】
また、(B3)成分に3官能以上の活性水素基を有する化合物を使用する場合は、一般的な有機溶媒に溶解しない架橋構造を形成するため、後述するフォトクロミック積層体の製造において、(B1)成分と(B2)成分を反応させて得られたプレポリマーと、(B3)成分を混合し、フォトクロミック積層体を形成した後、加熱処理により上記プレポリマーと(B3)成分を反応させることで、(B)成分を形成する方法が好ましい。
【0119】
そして、(B4)成分を使用する場合には、最後に(B4)成分を使用して末端を非反応性基とすればよい。
【0120】
<フォトクロミック接着性組成物>
本発明のフォトクロミック接着性組成物は、前記(A)成分、及び前記(B)接着性ウレタン(ウレア)樹脂を含んでなり、
軟化点が140~220℃とならなければならない。すなわち、特定の分子鎖を有する前記(A)成分を使用し、前記(B)接着性ウレタン(ウレア)樹脂を含み、かつ、軟化点を140~220℃に調整しなければならない。
【0121】
フォトクロミック接着性組成物の軟化点が140℃未満の場合には、フォトクロミック特性は良好なものの、後述する光学物品を製造する工程において、(B)成分からなる接着層が軟化することによる不良が発生する傾向があるため好ましくない。一方、軟化点が220℃を超える場合には、フォトクロミック特性の低下が見られ、光学シートとの密着性も低下する傾向になるため、好ましくない。通常であれば、軟化点が高くなればなるほど耐熱性は向上し、高温時の密着性を維持できるものと考えられる。しかしながら、本発明者等の検討によれば、前記(A)成分をフォトクロミック化合物に使用した場合、フォトクロミック接着性組成物の軟化点を140~220℃にしなければ、高温時の密着性、および優れたフォトクロミック特性を発揮できないことが分かった。フォトクロミック特性、および高温時の密着性を考慮すると、フォトクロミック接着性組成物の軟化点は、150~200℃であることがより好ましく、155~195℃であることがさらに好ましく、160~190℃であることが特に好ましい。
【0122】
本発明において、フォトクロミック接着性組成物の軟化点は、(B)成分の耐熱性、(A)成分の組成・配合量、下記に詳述する(C)成分の配合によって調整できる。
【0123】
<フォトクロミック接着性組成物の製造方法>
本発明のフォトクロミック接着性組成物は、上記(A)成分、(B)成分、及びその他の成分を混合することにより製造することができる。各成分を混合する順序は、特に制限されるものではない。
【0124】
例えば、各成分を溶融混練してフォトクロミック接着性組成物としペレット化することも可能であり、そのままシート成型することも可能である。また、有機溶媒を使用する場合には、各成分を有機溶剤に溶かすことでフォトクロミック接着性組成物を得ることができる。このようにして得られた本発明のフォトクロミック接着性組成物は、特に光学シートどうしを接合するためのフォトクロミック性接着剤として好適に使用できる。そして、本発明のフォトクロミック接着性組成物からなる接着層を介して光学シートを互いに接合することにより、フォトクロミック積層体を得ることができる。
【0125】
<(A)フォトクロミック化合物の配合量>
本発明において、フォトクロミック化合物の配合量は、フォトクロミック特性の観点から、(B)成分100質量部に対して、0.1~20.0質量部とすることが好ましい。上記配合量が少なすぎる場合には、十分な発色濃度や耐久性が得られない傾向がある。一方、多すぎる場合には、フォトクロミック化合物の種類にもよるが、フォトクロミック接着性組成物に溶解しにくくなり、組成物の均一性が低下する傾向があるばかりでなく、接着力(密着力)が低下する傾向もある。発色濃度や耐久性といったフォトクロミック特性を維持したまま、接着性を十分に保持するためには、フォトクロミック化合物の添加量は、樹脂成分合計量100質量部に対して、0.5~20.0質量部とすることがより好ましく、1.0~15.0質量部とすることがさらに好ましい。
【0126】
また、本発明においては、(C)分子内に少なくとも1つのイソシアネート基を有するイソシアネート化合物(以下、単に(C)成分とする場合もある。)を配合し、(B)成分を一部架橋したフォトクロミック接着性組成物とすることもできる。次に、この(C)成分について説明する。
【0127】
<(C)成分;分子内に少なくとも1つのイソシアネート基を有するイソシアネート化合物>
本発明のフォトクロミック接着性組成物において、(B)成分である接着性ウレタン(ウレア)樹脂の軟化点が140℃未満の場合であっても、(C)成分を配合することでフォトクロミック接着性組成物の軟化点を140℃以上とすることもできる。この理由は、(B)成分のウレタン(ウレア)樹脂中のウレタン(ウレア)結合に(C)成分のイソシアネート基が作用し、部分的に高分子量化、又は架橋構造を形成すると考えられ、フォトクロミック接着性組成物の軟化点を140~220℃の範囲とすることができる。その結果、(C)成分を含むフォトクロミック接着性組成物は、光学シートとの密着性、耐熱性が向上するものと推測される。その中でも、該ウレタン(ウレア)樹脂が分子末端に反応性基を有さない非反応性ウレタン(ウレア)樹脂である場合、特に(B4)成分を配合して末端を非反応性基とした(B)成分を用いた場合に、(C)成分を併用することで優れた効果を発揮する。また、前記説明では、(B)成分の軟化点が140℃未満である場合の説明をしたが、最終的に得られるフォトクロミック接着性組成物の軟化点が140~220℃の範囲を満足するのであれば、当然、軟化点が140℃以上の(B)成分と(C)成分とを組み合わせて使用することもできる。
【0128】
該(C)成分を具体的に例示すれば、4,4’-メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)の異性体混合物、シクロブタン-1,3-ジイソシアネート、シクロヘキサン-1,3-ジイソシアネート、シクロヘキサン-1,4-ジイソシアネート、ヘキサヒドロトルエン-2,4-ジイソシアネート、ヘキサヒドロトルエン-2,6-ジイソシアネート、ヘキサヒドロフェニレン-1,3-ジイソシアネート、ヘキサヒドロフェニレン-1,4-ジイソシアネート、及びイソホロンジイソシアネートの3量体(イソシアヌレート化合物)、ヘキサメチレンジイソシアネートのビウレット化合物、ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート化合物、ヘキサメチレンジイソシアネートのアダクト化合物などが挙げられる。これらは、単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。中でも、4,4’-メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)の異性体混合物、イソホロンジイソシアネートの3量体(イソシアヌレート化合物)、ヘキサメチレンジイソシアネートのビウレット化合物、及びヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート化合物からなる群より選ばれるポリイソシアネート化合物を使用することが好ましい。
【0129】
本発明において、(C)成分の配合割合は、使用するウレタン(ウレア)樹脂によって、適宜決定すればよいが、接着性ウレタン(ウレア)樹脂成分((B)成分)100質量部に対して4.0~20質量部であることが好ましい。上記配合量が少なすぎる場合には、十分な接着性、及び耐熱性の向上効果が得られない。また、多すぎる場合には、ウレタン(ウレア)樹脂の白濁、接着性の低下等が起こる傾向がある。
【0130】
(C)成分を配合した場合のフォトクロミック接着組成物の製造方法は、一般的な有機溶媒に溶解しない架橋構造を部分的に形成する場合もある。そのため、以下の方法で製造することが好ましい。具体的には、後述するフォトクロミック積層体の製造において、(B)成分と(C)成分を混合し、フォトクロミック積層体を準備した後、加熱処理により(B)成分と(C)成分を反応させる方法が好ましい。
【0131】
本発明においては、比較的軟化点の低い(B)成分を(C)成分と反応させて得られるウレタン(ウレア)樹脂が一部架橋した樹脂を使用することにより、優れた耐熱性と、優れたフォトクロミック特性とを発揮できるものと考えられる。すなわち、ベースとなる(B)成分の軟化点が低いことにより、フォトクロミック化合物が運動(開環・閉環等)し易い状況になるとと考えられる。そして、この状況を生かしつつ、(C)成分で部分的に架橋して、軟化点を高めることにより、フォトクロミック特性が高まるもの考えられる。特に、この形態とすることにより、分子量が300以上の分子鎖を置換基として有するフォトクロミック化合物を使用する効果をより一層高めることができると考えられる。具体的には、フォトクロミック特性を高める観点から、(B)接着性ウレタン(ウレア)樹脂の軟化点は好ましくは120~150℃であり、より好ましくは120~140℃である。また、(B)接着性ウレタン(ウレア)樹脂の軟化点は、本発明のフォトクロミック接着性組成物の軟化点よりも低いことが好ましく、これらの差(フォトクロミック接着性組成物の軟化点-(B)接着性ウレタン(ウレア)樹脂の軟化点)は、5~30℃であることが好ましく、10~25℃であることが好ましい。これらの差が5~30℃となることにより、特に得られる成型体(例えば、光学物品)の退色速度を速くすることができ、フォトクロミック特性を向上できる。
【0132】
<フォトクロミック接着性組成物;その他の添加剤>
本発明において、フォトクロミック接着性組成物には、フォトクロミック特性を付与する成分以外に、界面活性剤、ヒンダードアミン光安定剤、ヒンダードフェーノール酸化防止剤、フェノール系ラジカル補足剤、イオウ系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、紫外線安定剤、紫外線吸収剤、離型剤、着色防止剤、帯電防止剤、蛍光染料、染料、顔料、香料、可塑剤等の添加剤を配合することもできる。これら添加剤としては、公知の化合物が何ら制限なく使用され、これらは2種以上を混合して使用してもよい。これら添加剤は、フォトクロミック接着性組成物を製造する際に、混合すればよい。上記添加剤の添加量は、本発明の効果を阻害しない範囲で配合することができる。具体的には、(B)成分100質量部に対して、添加剤の合計量が0.001~10質量部の範囲となることが好ましい。
【0133】
また、フォトクロミック接着性組成物から得られる接着層は、一旦、該フォトクロミック接着性組成物を構成する各成分の混合物と、有機溶媒とを混合した溶液を使用して形成できる。すなわち、有機溶媒の存在下、フォトクロミック接着性組成物を構成するため各成分の混合物を十分に混合すると共に、該溶液を使用して塗布層を形成する。その後、この塗膜層から有機溶媒を除去することにより、フォトクロミック接着性組成物からなる接着層を形成できる。この場合、有機溶媒を含まないフォトクロミック接着性組成物(接着層)の軟化点が140~220℃となればよい。
より具体的に説明すると、有機溶媒を使用することにより、フォトクロミック化合物((A)成分)、ウレタン(ウレア)樹脂((B)成分)、さらには、必要に応じて添加されるその他の成分が混合しやすくなる。そして、フォトクロミック接着性組成物の均一性を向上させることができる。また、フォトクロミック接着性組成物、又は該フォトクロミック接着性組成物を構成する各成分の混合物の粘度を適度に調整することができる。そして、光学シートに塗布するときの操作性および塗布層厚の均一性を高くすることもできる。なお、光学シートとして有機溶媒に侵され易い材質のものを使用した場合には、外観不良が生じたり、フォトクロミック特性が低下したりするという問題が発生することが懸念されるが、このような問題は、後述する方法を採用することにより回避することができる。また、フォトクロミック接着性組成物、又は該各成分の混合物においては、後述するように、様々な種類の溶媒が使用できるので、溶媒として光学シートを侵し難い溶媒を選択して使用することによっても上記問題の発生を防止することができる。
【0134】
使用できる有機溶媒を例示すれば、メタノール、エタノール、n-プロパノール、i-プロパノール、2-ペンタノール、3-ペンタノール、3-メチル-2-ブタノール、4-メチル-2-ペンタノール、n-ブタノール、t-ブタノール、2-ブタノール、t-ペンチルアルコール2,2,2-トリフルオロエタノール等のアルコール類;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノ-n-プロピルエーテル、エチレングリコールモノ-n-ブチルエーテル、エチレングリコールモノ-t-ブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコール-n-ブチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル等の多価アルコール誘導体;ジアセトンアルコール;メチルエチルケトン、ジエチルケトン、n-プロピルメチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソプロピルケトン、n-ブチルメチルケトンなどのケトン類;トルエン;ヘキサン;ヘプタン;酢酸エチル、酢酸-2-メトキシエチル、酢酸-2-エトキシエチルなどのアセテート類;ジメチルホルムアミド(DMF);ジメチルスルホキシド(DMSO);テトラヒドロフラン(THF);シクロヘキサノン;クロロホルム;ジクロロメタン及びこれらの組み合せを挙げることができる。
【0135】
これらの中から、使用する(B)成分の種類や光学シートの材質に応じて適宜選定して使用すればよいが、(B)成分にはイソシアネート基が含まれる場合があるため、イソシアネート基と反応する基を含まない有機溶剤を使用することがより好ましい。よって、より好適な有機溶剤としては、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、n-プロピルメチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソプロピルケトン、n-ブチルメチルケトンなどのケトン類、酢酸エチル、酢酸-2-メトキシエチル、酢酸-2-エトキシエチルなどのアセテート類;DMF;DMSO;THF;シクロペンタノン、シクロヘキサノン;クロロホルム;ジクロロメタンなどが挙げられる。
有機溶媒の使用量は、特に制限されるものではないが、接着性ウレタン(ウレア)樹脂成分((B)成分) 100質量部に対して、100~500質量部が好ましい。
以下、フォトクロミック積層体について説明する。
【0136】
<フォトクロミック積層体>
フォトクロミック積層体は、互いに対向する2枚の光学シートが本発明のフォトクロミック接着組成物からなる接着層を介して接合された積層構造を含む。図1に、該フォトクロミック積層体の好適な層構成の断面図を示した。図1を用いて説明すると、フォトクロミック積層体1は、光学シート2、4が、フォトクロミック接着性組成物からなる接着層3を介して接合されてなる積層構造を有することが好ましい。本発明においては、この接着層の軟化点が140~220℃となる必要がある。このフォトクロミック積層体に使用できる光学シートについて説明する。
【0137】
<(D)光学シート>
本発明において、(D)光学シートとしては、光透過性を有するシートであれば、特に制限なく使用できるが、入手の容易性および加工のし易さなどの観点から樹脂製のものを使用することが好適である。該(D)光学シートの原料として好適な樹脂を例示すれば、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、セルロース樹脂、ポリアミド樹脂、(メタ)アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリウレタンウレア樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、ポリオレフィン樹脂及びポリビニルアルコール樹脂などが挙げられる。その中でも、接着性が良好で射出成形法に対する適用性が高いという理由からポリカーボネート樹脂、ポリアミド樹脂が特に好ましい。
【0138】
該(D)光学シートの膜厚は、20~1000μmが好ましく、得られるフォトクロミック積層体の加工性の観点から、50~500μmがより好ましい。
【0139】
本発明の(D)光学シートの表面(上面および下面)は、アルカリ溶液や、酸溶液などの薬液を用いた化学処理、研磨処理、コロナ放電処理、プラズマ放電処理、UVオゾン処理などの物理的な表面処理を行っても構わない。
【0140】
また、本発明の(D)光学シートの表面(上面および下面)には、下記のような塗膜層が形成されていてもよい。塗膜層は、水分散ポリウレタン樹脂、水分散ポリエステル樹脂、水分散アクリル樹脂、水分散ポリウレタン・アクリル樹脂などの水分散性ポリマー;前記水分散性ポリマーの内、カルボニル基を有するポリマーとヒドラジド化合物との架橋体;ポリビニルアルコールなどの水溶性ポリマーの架橋体;(メタ)アクリル基を有する重合性モノマー、及び/またはエポキシ基、(メタ)アクリル基、ビニル基、アミノ基、及びメルカプト基などから選ばれる基を有する加水分解性有機ケイ素化合物の組成物;シラノール基あるいは加水分解してシラノール基を形成しうる基、(メタ)アクリレート基、エポキシ基、及びビニル基から選ばれる重合性基を有するウレタンウレア樹脂の組成物;プロペニルエーテル基含有化合物、ポリエン化合物及びチオール化合物とを含むエン/チオール系組成物、オキセタン化合物などを含む光硬化性組成物などの、樹脂、架橋体、組成物から形成されればよい。該塗膜層を特に最表面(フォトクロミック接着性シートが存在しない側)に形成することにより、(メタ)アクリレート系モノマー組成物、アリル系モノマー組成物、チオウレタン系モノマー組成物、ウレタン系モノマー組成物、チオエポキシ系モノマー組成物などの熱硬化性樹脂(光学基材)を形成するモノマー組成物中に、馴染みよく、本発明のフォトクロミック積層体を埋設することができる。その結果、該熱硬化性樹脂(光学基材)と該フォトクロミック積層体との密着性が良好な、該熱硬化性樹脂(光学基材)中に該フォトクロミック積層体が埋設した光学物品を得ることもできる。
【0141】
<フォトクロミック積層体の製造方法>
本発明のフォトクロミック積層体は、互いに対向する2枚の光学シートを、本発明のフォトクロミック接着性組成物からなる接着層を介して接合させることにより製造される。なお、該接着層の厚さは、フォトクロミック化合物の発色濃度、耐候性および接着強度などの観点から、5~100μm、特に10~60μmとすることが好ましい。
【0142】
該接着層は、次のような方法により得ることができる。本発明のフォトクロミック接着性組成物に溶媒を配合して得られる混合物が適度の粘度に調整されている場合には、一方の光学シート上に、該混合物を塗布し、必要に応じて(加熱)乾燥を行った後、他の光学シートを(加熱)圧着すればよい。
また、本発明のフォトクロミック接着性組成物、および有機溶媒を含む混合物を使用する場合には、(I)平滑な基材上に該混合物を延展せしめた後に乾燥することにより有機溶媒を除去し、その後、基材を剥がして、フォトクロミック性接着シートを作製し、次いで(II)互いに対向する2枚の光学シートの間に上記フォトクロミック性接着シートを介在させて該2枚の光学シートを接合することにより、本発明のフォトクロミック積層体を製造することもできる。最終的な処理を終えて得られたフォトクロミック積層体において、フォトクロミック性接着シートの部分が接着層となる。なお、前記フォトクロミック接着性組成物は、該フォトクロミック接着性組成物を構成する各成分の混合物であってもよい。有機溶媒を含む該混合物を接着層とする際に、フォトクロミック接着性組成物からなる接着層を形成することもできる。
上記平滑な基材の材質としては、本発明で使用する溶剤に耐性があるもの、また該接着層が剥離しやすいものが好ましく、具体的に例示すれば、ガラス、ステンレス、テフロン(登録商標)、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、さらにはシリコン系やフッ素系などの剥離性を向上させるコート層を積層させたプラスチックフィルムなどが挙げられる。
【0143】
このような方法を採用した場合には、溶媒の種類及び光学シートの種類によらず、溶媒の使用に起因する悪影響を排除することが可能である。
【0144】
以上のような製造方法の中でも、本発明の(B)成分である接着性ウレタン(ウレア)樹脂を構成する(B3)成分に、3官能以上の活性水素基を有する化合物を使用する場合は、一般的な有機溶媒に溶解しない架橋構造を形成する。そのため、以下の方法で製造することが好ましい。すなわち、フォトクロミック接着性組成物を製造する際に、(A)成分、(B1)成分、及び(B2)成分から構成されたウレタン(ウレア)プレポリマー、及び3官能以上の活性水素基を有する(B3)成分を有機溶媒と混合し、得られた混合物を平滑な基材状に塗布した後、乾燥により有機溶剤を除去すると共に、ウレタン(ウレア)プレポリマーと3官能以上の活性水素基を有する(B3)成分を反応させ、(B)成分を得る方法である。
【0145】
また、本発明のフォトクロミック積層体は、光学シートとの接着性をより向上させる目的で、フォトクロミック接着性組成物からなる接着層の両側に、フォトクロミック化合物を含まないウレタン(ウレア)樹脂からなる別の接着層(第二接着層)を積層し、2枚の光学シートを接合してなるフォトクロミック積層体であってもよい。すなわち、該積層体は、光学シート、第二接着層、フォトクロミック接着性組成物からなる接着層、第二接着層、光学シートがこの順で積層されている積層体である。
【0146】
この第二接着層は、前記(B)成分をそのまま使用することができる。中でも、前記(B1)、(B2)、(B3)成分が、n1:n2:n3=0.30~0.90:1:0.10~0.70となる量比が好ましく、さらにn1:n2:n3=0.40~0.80:1:0.20~0.60となる量比の(B)成分を使用することが好ましい。また、(B4)成分を使用した場合には、n1:n2:n3:n4=0.30~0.89:1.0:0.10~0.69:0.01~0.20となる量比が好ましく、n1:n2:n3:n4=0.40~0.80:1.0:0.15~0.58:0.01~0.15となる量比の(B)成分を使用することがより好ましい。なお、(B1)~(B4)成分は、(B)成分の説明でしたのと同じ理由で同じ化合物を使用でき、好適な化合物も同じである。
【0147】
さらに、この第二接着層を形成する(B)成分、すなわち、第二接着層そのものは、軟化点が140~220℃となることが好ましい。フォトクロミック接着性組成物からなる接着層よりも第二接着層が薄い場合には、大きな影響は与えることはない。ただし、第二接着層も、後述する射出成型の成型性に影響を与える場合がある。そのため、この第二接着層も、フォトクロミック接着性組成物(接着層)と同じく、軟化点が150~200℃であることが好ましく、160~190℃となることがさらに好ましい。なお、第二接着層には、フォトクロミック化合物を含まないため、(C)成分を使用せずに得られるウレタン(ウレア)樹脂(第二接着層)の軟化点が、140~220℃となることが好ましく、150~200℃であることがより好ましく、155~195℃であることがさらに好ましく、160~190℃であることが特に好ましい。すなわち、フォトクロミック化合物を含まないため、ベースとなる樹脂そのものの軟化点が前記範囲を満足することが好ましい。
また、第二接着層の膜厚は、特に制限されるものではないが、5~15μmとすることが好ましい。なお、2枚の光学シートの両方に第二接着層を設けることが好ましい。そして、フォトクロミック接着性組成物からなる接着層の厚みに対する、第二接着層の合計厚みの比(第二接着層の合計厚み/接着層の厚み)が0.1~0.9となることが好ましく、0.3~0.7となることがより好ましい。
【0148】
<光学物品>
本発明においては、フォトクロミック積層体の少なくとも一方の外表面に、プラスチック光学基材等の合成樹脂層を積層した光学物品とすることができる。
例えば、本発明においては、前記フォトクロミック積層体と、プラスチックレンズ本体などの光学基材とを一体化することにより光学物品を得る。この光学基材の原料としては、前記光学シートの原料と同様のものが挙げられる。一体化する方法としては、例えば、上記本発明のフォトクロミック積層体を金型内に装着した後に、光学基材(例えば、レンズ本体)を構成するための熱可塑性樹脂を射出成形する方法(以下、単に射出成形法ともいう。)、光学基材の表面に接着剤などによりフォトクロミック積層体を貼付する方法などを挙げることができる。また、光学基材を形成できる重合性モノマー中にフォトクロミック積層体を浸漬した後、該重合性モノマーを硬化させることにより、光学基材中にフォトクロミック積層体を埋設させて一体化することもできる。そのため、上記光学物品は、熱可塑性樹脂、又は熱硬化性樹脂よりなるプラスチック光学基材上に、上記フォトクロミック積層体を積層したものであってもよいし、該プラスチック光学基材中に埋設したものであってもよい。該プラスチック光学基材などの合成樹脂層としては、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、アリル樹脂、(メタ)アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリウレタンウレア樹脂、ポリチオウレタン樹脂、ポリエポキシ樹脂、ポリチオエポキシ樹脂、及びポリカーボネート樹脂などの公知の樹脂を挙げることができる。
【0149】
また、本発明のフォトクロミック積層体は、光学基材と一体化する前に、曲げ加工を実施することにより、レンズ状の球面形状に加工することもできる。フォトクロミック積層体を球面形状に曲げ加工する方法は、例えば、熱プレス加工、加圧加工、減圧吸引加工などが挙げられる。
【0150】
曲げ加工する際の温度は、フォトクロミック積層体に使用されている光学シートの種類によって適宜、決定すれば良いが、120℃を超え200℃以下で実施することが好ましい。
【0151】
曲げ加工したフォトクロミック積層体は、射出成型機の金型内に取り付けられ、射出成型により光学基材と該フォトクロミック積層体とを一体化してやればよい。射出成型には一般の射出成型機や射出圧縮成型機等が用いられる。射出成型の成型条件は、光学基材を形成する樹脂の種類、物性に応じて適宜決定すればよい。通常、成型機中の樹脂温度は180~330℃ 、好ましくは200℃~320℃である。また、射出圧力は50~1700kg/cm、好ましくは70kg/cm~1500kg/cmである。
【0152】
本発明のフォトクロミック積層体の優れた耐熱性の効果であると推測されるが、ウレア結合を有さないウレタン樹脂を接着層に用いた場合と比較して、より高温で射出成型を行った際でも、面歪み、接着層の溶融によるフォトクロミック積層体の側面からの溶出、剥離などは観測されなかった。
【実施例
【0153】
以下に例示するいくつかの実施例によって、本発明をさらに詳しく説明する。これらの実施例は、単に、本発明を説明するためのものであり、本発明の精神及び範囲は、これら実施例に限定されるものではない。
以下に、実施例及び比較例で各成分として使用した化合物等の略号を纏める。
【0154】
(A成分):フォトクロミック化合物
<PC1>の合成
実施例に使用した下記式(PC1)は、例えば、国際公開第2009-146509号に記載の製造方法を参考にして製造できる。例えば、国際公開第2009-146509号において、2-ヒドロキシ-エトキシカルボニル基を有するナフトピラン化合物とカルボキシル基を両末端に有するポリジメチルシロキサンとを反応させることにより、製造できる。分子鎖の(平均)分子量は、1350である。該PC1は、分子鎖を置換基として有するフォトクロミック化合物である。
【0155】
【化10】
【0156】
<PC2>の合成
前記式(PC1)で示されるフォトクロミック化合物と同様に、国際公開第2009-146509号に記載の方法を参考にして、それに対応するナフトピラン化合物反応させて合成した。分子鎖の(平均)分子量は1438である。該PC2は、分子鎖を置換基として有するフォトクロミック化合物である。
【0157】
【化11】
【0158】
<PC3>
【化12】
【0159】
<PC4>
【化13】
【0160】
なお、前記PC3、PC4は、分子鎖を有さないフォトクロミック化合物である。
【0161】
(B1)成分:ポリオール化合物
PL1:旭化成ケミカルズ株式会社製デュラノール(1,5-ペンタンジオールとヘキサンジオールを原料とするポリカーボネートポリオール、数平均分子量500)。
PL2:旭化成ケミカルズ株式会社製デュラノール(1,5-ペンタンジオールとヘキサンジオールを原料とするポリカーボネートポリオール、数平均分子量800)。
PL3:旭化成ケミカルズ株式会社製デュラノール(1,5-ペンタンジオールとヘキサンジオールを原料とするポリカーボネートポリオール、数平均分子量1000)。
PL4:旭化成ケミカルズ株式会社製デュラノール(1,5-ペンタンジオールとヘキサンジオールを原料とするポリカーボネートポリオール、数平均分子量2000)。
PL5:ダイセル化学工業株式会社製プラクセル(ポリカプロラクトンポリオール、数平均分子量830)。
PL6:ダイセル化学工業株式会社製プラクセル(ポリカプロラクトンポリオール、数平均分子量1000)。
【0162】
(B2)成分:ポリイソシアネート化合物
NCO1:4,4’-メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)の異性体混合物。
NCO2:イソホロンジイソシアネート。
【0163】
(B3)成分:活性水素含有化合物
H1:1,4-ブタンジオール。
H2:イソホロンジアミン。
H3:ビス-(4-アミノシクロヘキシル)メタン。
H4:トリメチロールプロパン。
H5:ジ(トリメチロールプロパン)。
【0164】
(B4)成分;反応停止剤
HA1:1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-アミノピペリジン。
HA2:n-ブチルアミン。
【0165】
(C)成分
C1:4,4’-メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)の異性体混合物。
C2:ヘキサメチレンジイソシアネートの3量体(旭化成ケミカルズ株式会社製、製品名デュラネート24A-100)。
【0166】
その他の成分
・L1:エチレンビス(オキシエチレン)ビス[3-(5-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-m-トリル)プロピオネート](チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製、Irganox245)。
・L2:DOW CORNING TORAY L-7001(東レ・ダウコーニング株式会社製、界面活性剤)。
【0167】
有機溶媒
D1:THF(テトラヒドロフラン)。
D2:プロピレングリコール-モノメチルエーテル。
【0168】
(B)成分の前駆体の合成
ウレタン樹脂(U1;(B)成分の前駆体)の合成
撹拌羽、冷却管、温度計、窒素ガス導入管を有する三つ口フラスコに、数平均分子量500のポリカーボネートジオール((B1)成分:PL1)250g、4,4’-メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)((B2)成分:NCO1)262.4gを仕込み、窒素雰囲気下、100℃で8時間反応させ、プレポリマーを合成した。反応の終点はイソシアネート基の逆滴定法により確認した。反応終了後、反応液を30℃付近まで冷却し、THF1632gに溶解させ、次いで、鎖延長剤である1,4-ブタンジオール((B3)成分:H1)31.5gを滴下し、25℃で1時間反応させ、ウレタン樹脂(U1)のTHF溶液を得た。
【0169】
ウレタン樹脂(U2~U13;(B)成分)の合成
表1に示すポリオール化合物((B1)成分)、ポリイソシアネート化合物((B2)成分)、活性水素含有化合物((B3)成分)を用い、前述のU1の合成方法と同様にして、U2~U13を合成した。U1~U13の(B1)、(B2)、(B3)成分の種類、モル配合割合を表1にまとめた。
【0170】
なお、これらU1~U13は、そのまま使用することもできるが、各実施例・比較例において、フォトクロミック接着性組成物とする際、架橋剤としてさらに(B3)成分と混合してベースの(B)成分とした。そのため、表1には、(B)成分の前駆体として各配合量とを記載した。
【0171】
【表1】
【0172】
ウレタンウレア樹脂(UU1)の合成
撹拌羽、冷却管、温度計、窒素ガス導入管を有する三つ口フラスコに、数平均分子量500のポリカーボネートジオール((B1)成分:PL1)350g、イソホロンジイソシアネート((B2)成分:NCO2)222.3gを仕込み、窒素雰囲気下、100℃で8時間反応させ、プレポリマーを合成した。反応の終点はイソシアネート基の逆滴定法により確認した。反応終了後、反応液を30℃付近まで冷却し、THF2190gに溶解させ、次いで、鎖延長剤であるビス-(4-アミノシクロヘキシル)メタン((B3)成分:H3)53gを滴下し、25℃で1時間反応させ、その後さらに、1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-アミノピペリジン((B4)成分:HA1)10.5gを滴下し、25℃で1時間反応させ、ウレタンウレア樹脂(UU1)のTHF溶液を得た。
【0173】
ウレタンウレア樹脂((UU2~UU11)の合成
表2に示すポリオール化合物((B1)成分)、ポリイソシアネート化合物((B2)成分)、活性水素含有化合物((B3)成分)、および反応停止剤((B4)成分)を用い、前述のUU1の合成方法と同様にして、UU2~UU11を合成した。
以上、UU1~UU11のB1、B2、B3、成分の種類、モル配合割合を表2にまとめた。また、別途、作製した各(B)成分(すなわち、UU1~UU11)の軟化点を表2に示した。軟化点は、実施例1に記載の方法に従って測定した。
【0174】
【表2】

第二接着層用ウレタンウレア樹脂(W1)の合成
撹拌羽、冷却管、温度計、窒素ガス導入管を有する三つ口フラスコに、数平均分子量1000のポリカーボネートジオール((B1)成分:PL3)225g、イソホロンジイソシアネート((B2)成分:NCO2)100gを仕込み、窒素雰囲気下、100℃で8時間反応させ、プレポリマーを合成した。反応の終点はイソシアネート基の逆滴定法により確認した。反応終了後、反応液を30℃付近まで冷却し、プロピレングリコール-モノメチルエーテル2057gに溶解させ、次いで、鎖延長剤であるイソホロンジアミン(((B3)成分:H2))36gを滴下し、25℃で1時間反応させ、その後さらに、反応停止剤であるn-ブチルアミン((B4)成分:HA2))2gを滴下し、25℃で1時間反応させ、第二接着層用ウレタンウレア樹脂(W1)溶液を得た。また、別途、作製した(W1)成分(第二接着層)の軟化点は、170℃であった。軟化点は、実施例1に記載の方法に従って測定した。
【0175】
実施例1
フォトクロミック接着性組成物の調製
ウレタン樹脂(U1)のTHF溶液10g、フォトクロミック化合物(PC1)75mg、架橋剤としてトリメチロールプロパン((B3)成分:H4)30mg、さらに酸化防止剤としてエチレンビス(オキシエチレン)ビス[3-(5-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-m-トリル)プロピオネート] 25mg、界面活性剤としてDOW CORNING TORAY L-7001 3mgを添加し、室温で攪拌・混合を行い、フォトクロミック接着性組成物を構成するための混合物を得た。各成分の配合割合を表3に示した。
【0176】
上記、有機溶媒を含む混合物を、PET(ポリエチレンテレフタレート)製フィルム(帝人デュポンフィルム株式会社製ピューレックスフィルム、シリコン塗膜付)に塗布し、80℃で5分間乾燥させた後、PET製フィルムを剥がして厚み約40μmのフォトクロミック性接着シートを得た。次いで、得られたフォトクロミック性接着シートを、厚み300μmのポリカーボネートシート2枚の間に挟み、40℃、真空下で24時間静置した。その後、70℃で70時間加熱処理し、次いで60℃、80%RHで24時間の加湿処理を行い、最後に40℃、真空下で24時間静置することにより、目的のフォトクロミック特性を有するフォトクロミック積層体を得た。以上のような処理を行った後のフォトクロミック性接着シートが、フォトクロミック接着性組成物からなる接着層となる。
フォトクロミック特性としての発色濃度は0.9であり、退色速度は40秒であった。また、剥離強度は23℃雰囲気下で140N/25mm、150℃雰囲気で20N/25mmあった。また、該フォトクロミック接着性組成物の軟化点を以下のように測定したところ、軟化点は190℃であった。フォトクロミック接着性組成物からなる接着層の膜厚、第二接着層の使用の有無・膜厚について表3に示した。
次にこれらの評価方法、およびフォトクロミック積層体の評価方法について説明する。
【0177】
軟化点(TMA測定)
フォトクロミック接着性組成物の軟化点は、フォトクロミック接着性組成物からなる接着層の軟化点であり、以下の方法により作製した試料を用いて測定した。上記積層体とは別に、試料を作製して測定した。具体的には、2枚のPET製フィルム間に各実施例及び比較例で用いたものと同じフォトクロミック接着性組成物を構成する混合物(有機溶媒を含む)を塗布した後、80℃で5分間乾燥させた。その後、PET製フィルムを剥がし、70℃で70時間加熱処理し、次いで60℃、80%RHで24時間の加湿処理を行い、最後に40℃、真空下で24時間静置することにより、フォトクロミック性接着シート(接着層)を得た。
【0178】
得られたフォトクロミック性接着シート(接着層)の軟化点は、熱機械測定装置(セイコーインスツルメント社製、TMA120C)を用いて、下記条件で測定した軟化温度を意味する。軟化点(軟化温度)の求め方は、JIS K7196に記載の方法に従った。
〔測定条件〕 昇温速度:10℃/分、測定温度範囲:30~250℃、プローブ:先端径0.5mmの針入プローブ。この結果を表3に示した。
【0179】
フォトクロミック特性
得られたフォトクロミック積層体を試料とし、これに、(株)浜松ホトニクス製のキセノンランプL-2480(300W)SHL-100を、エアロマスフィルター(コーニング社製)を介して23℃、フォトクロミック積層体表面でのビーム強度365nm=2.4mW/cm、245nm=24μW/cmで300秒間照射して発色させ、フォトクロミック積層体のフォトクロミック特性を測定した。
【0180】
1)最大吸収波長(λmax):(株)大塚電子工業製の分光光度計(瞬間マルチチャンネルフォトディレクターMCPD1000)により求めた発色後の最大吸収波長である。該最大吸収波長は、発色時の色調に関係する。
【0181】
2)発色濃度〔ε(300)-ε(0)〕:前記最大吸収波長における、300秒間照射した後の吸光度ε(300)と最大吸収波長における未照射時の吸光度ε(0)との差。この値が高いほどフォトクロミック性が優れていると言える。
【0182】
3)退色速度〔t1/2(sec.)〕:300秒間照射後、光の照射をとめたときに、試料の前記最大吸収波長における吸光度が〔ε(300)-ε(0)〕の1/2まで低下するのに要する時間。この時間が短いほどフォトクロミック性が優れているといえる。
これら結果を表5に示した。
【0183】
剥離強度
得られたフォトクロミック積層体を、25×100mmの接着部分を有する試験片とし、試験機(オートグラフAGS-500NX、島津製作所製)に装着し、クロスヘッドスピード100mm/minで引張り試験を行い、それぞれ下記1)~2)の剥離強度を測定した。
【0184】
1)23℃雰囲気下の剥離強度は、上記の通り試験を実施した。
【0185】
2)150℃雰囲気下の剥離強度は、恒温槽を装着した試験機に試験片を設置し、150℃条件下で10分静置した後、上記のようにして測定した。これら結果を表5に示した。
【0186】
(熱)曲げ加工性
得られたフォトクロミック積層体を曲げ加工機(LEMA社製CPL32)を用いて、熱成型により、球面形状に曲げ加工を行った。吸引口を有する凹型の金型に、φ8cmのフォトクロミック積層体を設置し、吸引しながら140℃で2分加熱した。金型から取り外すことで球面形状に加工されたフォトクロミック積層体を得た。曲げ加工したフォトクロミック積層体を20枚作製し、外観評価を行ったところ、外観不良は確認されず、収率は100%であった。これら結果を表7に示した
なお、上記外観評価は、以下の方法により実施した。
【0187】
曲げ加工性における外観評価
外観評価は、高圧水銀灯を曲げ加工したフォトクロミック積層体表面に照射し、その投影を目視で観察し、フォトクロミック積層体に気泡が発生しているかを確認した。気泡の発生が全くない曲げ加工したフォトクロミック積層体を良品とし、気泡が1個以上発生した曲げ加工したフォトクロミック積層体を不良とした。表7に不良枚数を記載した。
【0188】
射出成型性
得られた曲げ加工したフォトクロミック積層体を球面形状の金型に設置し、100℃に加熱した。射出成型機に120℃、5時間の予備加熱を行ったポリカーボネート樹脂のペレット(帝人化成製パンライト)を充填し、300℃、60rpmで加熱溶融し、射出圧力1400kg/cmでフォトクロミック積層体を設置した金型に射出することで、ポリカーボネート樹脂と一体化し、ポリカーボネートからなる、フォトクロミック性眼鏡レンズを製造した。フォトクロミック性眼鏡レンズの外観評価を行ったところ、外観不良は確認されず、(熱)曲げ加工を含めたトータル収率は100%であった。なお、射出成型性の確認には、前記(熱)曲げ加工で良品と判断した曲げ加工したフォトクロミック積層体のみを使用した。これら結果を表7に示した
なお、上記外観評価は、以下の方法により実施した。
【0189】
射出成型性における外観評価
外観評価は、高圧水銀灯をフォトクロミック性眼鏡レンズに照射し、その投影を目視で観察し、接着性ウレタン(ウレア)樹脂の溶融による射出不良、及び気泡が発生しているかを確認した。接着性ウレタン(ウレア)樹脂の溶融による外観不良、及び気泡の発生が全くないフォトクロミック性眼鏡レンズを良品とし、接着性ウレタン(ウレア)樹脂の溶融による外観不良、又は気泡が1箇所以上発生したフォトクロミック性眼鏡レンズを不良とした。表7に不良枚数を記載した。
【0190】
実施例2
フォトクロミック接着性組成物の調製
実施例1におけるフォトクロミック接着性組成物(接着層)の調製と同じ方法で同じフォトクロミック接着性組成物を構成する混合物を得た。表3に配合を示した。
【0191】
第二接着層用接着剤の調整
第二接着層用ウレタンウレア樹脂(W1)のプロピレングリコール-モノメチルエーテル溶液25gに、界面活性剤としてDOW CORNING TORAY L-7001 2.5mgを添加し、室温で攪拌・混合を行い、第二接着層用接着剤を得た。
【0192】
フォトクロミック積層体の作製
第二接着層用接着剤を厚み300μmのポリカーボネートシート上に塗布し、110℃で10分間乾燥させることにより、膜厚10μmの第二接着層を有するポリカーボネートシートを得た。
【0193】
上記フォトクロミック接着性組成物を構成する混合物を、PET製フィルム(帝人デュポンフィルム株式会社製ピューレックスフィルム、シリコン塗膜付)に塗布し、80℃で10分間乾燥させた後、PET製フィルムを剥がして厚み約40μmのフォトクロミック性接着シートを得た。次いで、得られたフォトクロミック性接着シートを、前述の第2接着層を有するポリカーボネートシート2枚の間に挟み、40℃、真空下で24時間静置した後、70℃で70時間加熱処理し、次いで60℃、80%RHで24時間の加湿処理を行い、最後に40℃、真空下で24時間静置することにより、目的のフォトクロミック特性を有するフォトクロミック積層体を得た。以上のような処理を行った後のフォトクロミック性接着シートが、フォトクロミック接着性組成物からなる接着層となる。
フォトクロミック特性としての発色濃度は0.9であり、退色速度は40秒であった。また、剥離強度は23℃雰囲気下で180N/25mm、150℃雰囲気で40N/25mmあった。また、別途、同様の方法で作製したフォトクロミック接着性シートの軟化点は、190℃であった。フォトクロミック接着性組成物からなる接着層の膜厚、第二接着層の使用の有無・膜厚について表3に示した。なお、表3における第二接着層の厚みは、一方のシート上の厚みである。そのため、2枚のシートを接合する場合には、第二接着層の合計厚みは、表3の値の倍となる。
【0194】
また、得られたフォトクロミック積層体は、実施例1と同様の評価を行い、フォトクロミック特性・剥離強度は表5、曲げ加工、射出成形性は表7に示した。
【0195】
実施例3~14
表3に示す(A)フォトクロミック化合物、(B)接着性ウレタン(ウレア)樹脂、(B3)活性水素含有化合物を用いた以外は、実施例2と同様の方法でフォトクロミック接着性組成物を調整した。得られたフォトクロミック接着性組成物の軟化点を実施例1、2と同様の方法で測定し、表3に示した。
【0196】
また、各フォトクロミック接着性組成物を使用して実施例1(第二接着層なし)、又は実施例2(第二接着層あり)と同様の方法に従い、フォトクロミック積層体を作製した。フォトクロミック接着性組成物からなる接着層の膜厚、第二接着層の使用の有無・膜厚について表3に示した。また、得られたフォトクロミック積層体は、実施例1と同様の評価を行い、フォトクロミック特性・剥離強度は表5、曲げ加工、射出成形性は表7に示した。
【0197】
比較例1~4
表3に示す(A)フォトクロミック化合物、(B)接着性ウレタン(ウレア)樹脂を用いた以外は、実施例1と同様の方法でフォトクロミック接着性組成物を調整した。得られたフォトクロミック接着性組成物の軟化点を実施例1、2と同様の方法で測定し、表3に示した。
【0198】
また、各フォトクロミック接着性組成物を使用して実施例1(第二接着層なし)、又は実施例2(第二接着層あり)と同様の方法に従い、フォトクロミック積層体を作製した。フォトクロミック接着性組成物からなる接着層の膜厚、第二接着層の使用の有無・膜厚について表3に示した。また、得られたフォトクロミック積層体は、実施例1と同様の評価を行い、フォトクロミック特性・剥離強度は表5、曲げ加工、射出成形性は表7に示した。
【0199】
【表3】
【0200】
実施例15
フォトクロミック接着性組成物の調製
ウレタンウレア樹脂(UU1)のTHF溶液10g、フォトクロミック化合物(PC1)82mg、4,4’-メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)の異性体混合物((C)成分;C1)250mg、さらに酸化防止剤としてエチレンビス(オキシエチレン)ビス[3-(5-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-m-トリル)プロピオネート] 28mg、界面活性剤としてDOW CORNING TORAY L-7001 3mgを添加し、室温で攪拌・混合を行い、フォトクロミック接着性組成物を構成する混合物を得た。各成分の配合割合を表4に示した。軟化点も表4に示した。
【0201】
フォトクロミック積層体の作製
上記有機溶媒を含む混合物を、PET(ポリエチレンテレフタレート)製フィルム(帝人デュポンフィルム株式会社製ピューレックスフィルム、シリコン塗膜付)に塗布し、80℃で5分間乾燥させた後、PET製フィルムを剥がして厚み約40μmのフォトクロミック性接着シートを得た。次いで、得られたフォトクロミック性接着シートを、厚み300μmのポリカーボネートシート2枚の間に挟み、40℃、真空下で24時間静置した後、100℃で1時間加熱処理し、次いで60℃、80%RHで24時間の加湿処理を行い、最後に40℃、真空下で24時間静置することにより、目的のフォトクロミック特性を有するフォトクロミック積層体を得た。以上のような処理を行った後のフォトクロミック性接着シートが、フォトクロミック接着性組成物からなる接着層となる。
フォトクロミック特性としての発色濃度は0.9であり、退色速度は45秒であった。また、剥離強度は23℃雰囲気下で120N/25mm、150℃雰囲気で15N/25mmあった。また、別途、同様の方法で作製したフォトクロミック接着性シートの軟化点は、180℃であった。フォトクロミック接着性組成物からなる接着層の膜厚、第二接着層の使用の有無・膜厚について表4に示した。なお、表4における第二接着層の厚みは、一方のシート上の厚みである。そのため、2枚のシートを接合する場合には、第二接着層の合計厚みは、表4の値の倍となる。
また、得られたフォトクロミック積層体は、実施例1と同様の評価を行い、フォトクロミック特性・剥離強度は表6、曲げ加工、射出成形性は表7に示した。
【0202】
実施例16
フォトクロミック接着性組成物の調製
実施例15におけるフォトクロミック接着性組成物の調製と同じ方法で同じフォトクロミック接着性組成物を構成する混合物を得た。表4に配合を示した。
【0203】
第二接着層用接着剤の調整
第二接着層用ウレタンウレア樹脂(W1)のプロピレングリコール-モノメチルエーテル溶液25gに、界面活性剤としてDOW CORNING TORAY L-7001 2.5mgを添加し、室温で攪拌・混合を行い、第二接着層用接着剤を得た。
【0204】
フォトクロミック積層体の作製
第二接着層用接着剤を厚み300μmのポリカーボネートシート上に塗布し、110℃で10分間乾燥させることにより、膜厚10μmの第二接着層を有するポリカーボネートシートを得た。
【0205】
上記、有機溶媒を含む混合物を、PET(ポリエチレンテレフタレート)製フィルム(帝人デュポンフィルム株式会社製ピューレックスフィルム、シリコン塗膜付)に塗布し、80℃で5分間乾燥させた後、PET製フィルムを剥がして厚み約40μmのフォトクロミック性接着シートを得た。次いで、得られたフォトクロミック性接着シートを、厚み300μmのポリカーボネートシート2枚の間に挟み、40℃、真空下で24時間静置した後、100℃で1時間加熱処理し、次いで60℃、80%RHで24時間の加湿処理を行い、最後に40℃、真空下で24時間静置することにより、目的のフォトクロミック特性を有するフォトクロミック積層体を得た。以上のような処理を行った後のフォトクロミック性接着シートが、フォトクロミック接着性組成物からなる接着層となる。
フォトクロミック特性としての発色濃度は0.9であり、退色速度は45秒であった。また、剥離強度は23℃雰囲気下で200N/25mm、150℃雰囲気で60N/25mmあった。また、別途、同様の方法で作製したフォトクロミック接着性シートの軟化点は、180℃であった。フォトクロミック接着性組成物からなる接着層の膜厚、第二接着層の使用の有無・膜厚について表4に示した。
【0206】
また、得られたフォトクロミック積層体は、実施例1と同様の評価を行い、フォトクロミック特性・剥離強度は表6、曲げ加工、射出成形性は表7に示した。
【0207】
実施例17~33
表4に示す(A)フォトクロミック化合物、(B)接着性ウレタン(ウレア)樹脂、(C)成分を用いた以外は、実施例15、16と同様の方法でフォトクロミック接着性組成物を調整した。
【0208】
得られたフォトクロミック接着性組成物の軟化点を実施例15、16と同様の方法で測定し、表4に示した。
【0209】
また、各フォトクロミック接着性組成物を使用して実施例15(第二接着層なし)、又は実施例16(第二接着層あり)と同様の方法に従い、フォトクロミック積層体を作製した。フォトクロミック接着性組成物からなる接着層の膜厚、第二接着層の使用の有無・膜厚について表4に示した。また、得られたフォトクロミック積層体は、実施例1と同様の評価を行い、フォトクロミック特性・剥離強度は表6、曲げ加工性、射出成形性は表7に示した。
【0210】
比較例5~8
表4に示す(A)フォトクロミック化合物、(B)接着性ウレタン(ウレア)樹脂、C成分を用いた以外は、実施例15、16と同様の方法でフォトクロミック接着性組成物を調整した。
【0211】
得られたフォトクロミック接着性組成物の軟化点を実施例15、16と同様の方法で測定し、表4に示した。
【0212】
また、各フォトクロミック接着性組成物を使用して実施例15(第二接着層なし)、又は実施例16(第二接着層あり)と同様の方法に従い、フォトクロミック積層体を作製した。フォトクロミック接着性組成物からなる接着層の膜厚、第二接着層の使用の有無・膜厚について表4に示した。また、得られたフォトクロミック積層体は、実施例1と同様の評価を行い、フォトクロミック特性・剥離強度は表6、曲げ加工、射出成形性は表7に示した。
【0213】
【表4】
【0214】
【表5】
【0215】
【表6】
【0216】
【表7】
【0217】
上記実施例1~33から明らかなように、本発明に従って、(A)分子量が300以上の分子鎖を置換基として有するフォトクロミック化合物、及び(B)接着性ウレタン(ウレア)樹脂を含む、軟化点が140~220℃となるフォトクロミック接着性組成物を使用することにより、優れたフォトクロミック特性、剥離強度(密着性)、曲げ加工性、射出成型性を有していることが分かる。
【0218】
一方、比較例1~8では、本発明の(A)成分と(B)成分のうちいずれかしか使用していないため、フォトクロミック特性、剥離強度(密着性)、曲げ加工性、射出成型性の全てを、同時に満足することは出来なかった。
【符号の説明】
【0219】
1 フォトクロミック積層体
2 光学シート
3 フォトクロミック接着性組成物からなる接着層
4 光学シート
図1
図2