(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-24
(45)【発行日】2022-04-01
(54)【発明の名称】NiZn系フェライトを用いた磁心
(51)【国際特許分類】
H01F 1/34 20060101AFI20220325BHJP
H01F 27/255 20060101ALI20220325BHJP
C01G 53/00 20060101ALI20220325BHJP
【FI】
H01F1/34 140
H01F27/255
C01G53/00 A
(21)【出願番号】P 2017185814
(22)【出願日】2017-09-27
【審査請求日】2020-09-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(72)【発明者】
【氏名】小湯原 徳和
(72)【発明者】
【氏名】西村 和則
【審査官】後藤 嘉宏
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-219306(JP,A)
【文献】特開2004-153244(JP,A)
【文献】特開2000-327411(JP,A)
【文献】特開昭51-33898(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 1/34
H01F 27/255
C01G 53/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Fe
2O
3換算で51.0mol%超52.5mol%以下のFe、ZnO換算で21.0mol%以上24.5mol%以下のZn、及びNiO換算で23.0mol%以上28.0mol%未満のNiのNiZn系フェライトで構成され(但し、Fe
2O
3、NiO、ZnOの合計は100mol%)、
平均結晶粒径が5~15μmで、焼結体密度dsが5.2×10
3kg/m
3以上で、励磁磁束密度4,000A/m、温度20℃における飽和磁束密度が490mT以上で、周波数100kHzにおける初透磁率μiが400以上600以下、品質係数Qが35以上で、且つ、初透磁率μiと品質係数Qとの積であるμQ積が15,000以上であるNiZn系フェライトを用いた磁心。
【請求項2】
請求項1に記載のNiZn系フェライトを用いた磁心であって、
FeがFe
2O
3換算で51.4mol%超52.5mol%以下であって、品質係数Qが40以上で、且つ、前記μQ積が19,000以上であるNiZn系フェライトを用いた磁心。
【請求項3】
請求項1または2に記載のNiZn系フェライトを用いた磁心であって、
-20℃~+20℃での相対温度係数αμir1と、+20℃~+60℃での相対温度係数αμir2が、+6×10
-6/℃から+14×10
-6/℃の範囲であるNiZn系フェライトを用いた磁心。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁性フェライトを用いたインダクタ等に使用される磁心に関し、特にはNiZn系フェライトを用いた磁心に関するものである。
【背景技術】
【0002】
磁性フェライトはスピネル型結晶構造を有し、その化学量論組成は3価化合物と2価化合物が等モルに配合されることが知られている。例えばNiZn系フェライトのスピネル型結晶(一般式Fe2O3・MeO)は、Fe2O3とMeO(Me:Ni,Zn)が50:50の比率で化学量論組成となる。
【0003】
このような磁性フェライトの一般的な製造方法では、磁性フェライトを構成する元素の酸化物等を素原料として準備し、それを所定の組成となるように配合し焼成してスピネル化する。均一なスピネル化反応を得る観点から、素原料を本焼成よりも低温度で焼成してスピネル化する仮焼成を経て得られた仮焼粉を所定の形状に固めて成形して成形体とし、それを焼結して磁心とする製法を採用する場合が多い。
【0004】
磁性フェライトの磁気特性は組成に強く依存することが知られている。インダクタ等に用いられる磁性フェライトとして要求される特性としては、例えば、使用される周波数、温度領域において初透磁率μiが高いとともに品質係数Qが大きく、且つ飽和磁束密度Bsが高いことが挙げられる。従って、NiZn系フェライトの組成設計においても、要求される磁気特性に応じて化学量論組成から偏倚した組成とするのが通常である。そのため磁心はNiZnフェライトと酸化鉄、酸化ニッケル、及び酸化亜鉛などの混合物で構成されることとなる。
【0005】
一般にNiZn系フェライトでは、Fe2O3のモル量が化学量論組成に近づくにしたがって初透磁率は上昇し化学量論組成近傍をピークとして低下する。一方でFe2O3のモル量が少なく、全体に占めるFeの質量比が小さくなるに従って飽和磁束密度も低下する。一方でFe2O3のモル量が増えるに従い品質係数Qが低下する傾向にある。
【0006】
また、焼成においてFe2O3はFe3O4(Fe2O3・FeOで表される)に還元され易く、それにともなってFeO(Fe2+イオン)が増加し比抵抗が低下するのを抑えるように、Fe2O3のモル量を化学量論組成の50mol%より減量し、相対的にNiO、ZnOを増量することでFe2O3の耐還元性を向上させると、高い透磁率が得られ難いといった問題があった。
【0007】
特許文献1には主成分としてFeをFe2O3換算で46~52mol%、NiをNiO換算で28~36mol%、ZnをZnO換算で16~22mol%を含有し、平均結晶粒径をDとする時、0.2D~3Dの粒径の結晶が50体積%以上とすることで、Q値が高く、インダクタンスの変化率が小さい高周波帯で使用するフェライト材料が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
磁心の性能を現す一つの方法としてμQ積が用いられる。使用周波数でのμQ積が大きい程、損失が小さく、同性能のインダクタを小型に構成することができる。しかしながら、特許文献1のフェライト材料ではQ値は大きいが透磁率40~60と小さい。そのため大きなμQ積が得られ難く、インダクタの小型化には充分な性能が得られない問題があった。
そこで本発明は、初透磁率μiと品質係数Qとの積であるμQ積が大きく、かつ飽和磁束密度が大きなNiZn系フェライトを用いた磁心を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、Fe2O3換算で51.0mol%超52.5mol%以下のFe、ZnO 換算で21.0mol%以上24.5mol%以下のZn、及びNiO換算で23.0mol%以上28.0mol%未満のNiのNiZn系フェライトで構成され(但し、Fe2O3、NiO、ZnOの合計は100mol%)、焼結体密度dsが5.2×103kg/m3以上で、励磁磁束密度4,000A/m、温度20℃における飽和磁束密度が490mT以上で、周波数100kHzにおける初透磁率μiが400以上600以下、品質係数Qが35以上で、且つ、初透磁率μiと品質係数Qとの積であるμQ積が15,000以上であるNiZn系フェライトを用いた磁心である。
【0011】
本発明においては、FeがFe2O3換算で51.4mol%超52.5mol%以下とし、品質係数Qが40以上で、且つ、前記μQ積を19,000以上としたNiZn系フェライトを用いた磁心であるのが好ましい。
【0012】
本発明においては、-20℃~+20℃での相対温度係数αμir1と、+20℃~+60℃での相対温度係数αμir2が、+6×10-6/℃から+14×10-6/℃の範囲であるNiZn系フェライトを用いた磁心であるのが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、初透磁率μiと品質係数Qとの積であるμQ積が大きく、かつ飽和磁束密度が大きいNiZn系フェライトを用いた磁心を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の一実施形態に係るNiZn系フェライトのFe
2O
3のモル量と初透磁率μi及び品質係数Qとの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施形態に係るNiZn系フェライトについて具体的に説明する。ただし、本発明はこれに限定されるものではなく、技術的思想の範囲内で適宜変更可能である。
【0016】
(A) 組成
NiZn系フェライトは、Fe2O3換算で51.0mol%超52.5mol%以下のFe、ZnO 換算で21.0mol%以上24.5mol%以下のZn、及びNiO換算で残部Niとする組成で構成される。この他に、素原料中の不可避的不純物元素が含まれ得る。不純物元素は酸化物換算で数ppm~数百ppm程度、含まれ得る。具体的には、Si、Ca、B、C、S、Cl、Se、Br、Te、I、Li、Na、Mg、Al、K、Ga、Ge、Sr、In、Sn、Sb、Ba、Bi、Sc、Ti、V、Cr、Y、Nb、Mo、Pd、Ag、Hf、Ta等が挙げられる。
【0017】
この様な主組成分の範囲において、Fe2O3が51.0mol%以下であると高い品質係数Qが得られにくい。また52.5mol%超であるとNiZn系フェライトの焼結性が低下して初透磁率の低下を招き、所定の焼結体密度で磁心を焼結するには焼成温度の上昇を招くと共に、大気中の焼成では比抵抗が低下し1Ω・m未満となって、実用上好ましくない。
【0018】
一般にQ値は下式で表される。
Q=1/tanδ
=1/(tanδe + tanδh + tanδr)
tanδe:渦電流損失係数、tanδh:ヒステリシス損失係数、tanδr:残留損失係数
【0019】
本発明ではFe2O3のモル量を、化学量論組成を超える51.0mol%超とすることで、Fe2O3のモル量が50.0mol%未満において残存するNiOが零となるとともに、Fe3O4の生成に伴い磁歪が減少して行くことで、ヒステリシス損失を低減し、Q値を向上させることができる。
【0020】
ZnOが21.0mol%未満であると所望の初透磁率が得られず、24.5mol%超では、所望の飽和磁束密度が得られない場合がある。2価化合物でNiOを減少させ、ZnOを増加すると初透磁率μiは高くなるが、ZnOのモル量が多くなると、キュリー温度Tcが低下し実用的な温度特性を満足させることが困難になる。なおFe2O3及びZnOのモル量から計算により求められるキュリー温度Tcは、Fe含有量及びZn含有量が上記範囲であれば凡そ230~250℃の範囲となり、100℃を超える温度であっても実用上問題が無い。
【0021】
NiOは23.0mol%以上28.0mol%未満である。本発明によれば、成分組成としてFe,Zn及びNiを選択し、その組成範囲を所定の範囲に限定することによって高い初透磁率と品質係数を得て、初透磁率μiと品質係数Qとの積であるμQ積が大きく、高い飽和磁束密度のNiZn系フェライトを用いた磁心とすることが出来る。
【0022】
各成分の定量は、蛍光X線分析及びICP発光分光分析により行うことができる。予め蛍光X線分析により含有元素の定性分析を行い、次に含有元素を標準サンプルと比較する検量線法により定量する。
【0023】
(B)製造方法
Fe2O3、ZnO、及びNiOを所定割合で湿式混合した後、乾燥し、750℃~900℃で仮焼成してスピネル化した仮焼粉とするのが好ましい。得られた仮焼粉をイオン交換水とともにボールミルに投入し、平均粉砕粒径(空気透過法)が0.5~1.5μmとなるまで粉砕してスラリーとすれば良い。得られたスラリーにバインダとしてポリビニルアルコールを加え、スプレードライヤーにて顆粒化した後、加圧成形して所定形状の成形体を得ることが出来る。仮焼粉平均粉砕粒径が小さいほど反応活性が上がるため、低い焼成温度から緻密化が促進され、Fe2O3のモル量が50mol%を超えて化学量論組成よりも多くても結晶粒径が均一で緻密なNiZn系フェライトが得られる。
【0024】
得られた成形体を焼成炉にて焼結してNiZn系フェライトの焼結体(磁心)を得る。焼成工程は昇温工程と、高温保持工程と、降温工程とを有する。焼成工程における雰囲気は、不活性ガス雰囲気でも良いし大気雰囲気でも構わない。高温保持工程において、温度は1250℃~1350℃とするのが好ましい。温度が1250℃未満であると焼結が不十分で、初透磁率μiが小さく、磁心の強度が得られない場合がある。また温度が1350℃超であると焼結が過剰となり、また焼成炉のエネルギー消費も多くなって製造コストの上昇を招くため好ましくない。
【0025】
(C)組織
焼成後のNiZn系フェライトにおいては、平均結晶粒径を5~15μmとして、結晶粒を均一に成長させることが好ましい。これにより安定した初透磁率を得ることができる。平均結晶粒径が5μm未満であると単磁区が形成され始め初透磁率は徐々に低下する傾向にあり、また平均結晶粒径が15μm超であると、結晶粒を均一に成長させることが難しくなり異常粒成長を含む不均一な組織となり易い。
【0026】
本発明を以下の実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はそれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0027】
Fe2O3、ZnO及びNiOの各成分を表1に示す割合で湿式混合した後、乾燥し、850℃で1.5時間仮焼成した。得られた仮焼粉をイオン交換水とともにボールミルに投入し、平均粉砕粒径が1.0μmとなるまで粉砕してスラリーとした。得られたスラリーにバインダとしてポリビニルアルコールを加え、スプレードライヤーにて顆粒化した後、加圧成形してリング状の成形体を得た。
【0028】
得られた成形体を焼成炉にて大気中、1300℃で4時間保持して焼結し、外径29mm×内径19mm×高さ8mmの円環状の焼結体(磁心)と外径10mm×高さ11mmの円柱体を得た。各磁心の初透磁率μi、品質係数Q、相対温度係数αμir、飽和磁束密度Bs、保磁力Hc、焼結体密度dsは前述の円環状の磁心で、比抵抗ρは後述の円柱体の磁心で、下記の方法により測定した。
【0029】
(1)初透磁率μi
磁心を被測定物とし、導線を20ターン巻回し、LCRメータ(アジレント・テクノロジー株式会社製4285A)により、室温にて周波数100kHz、1mAの電流で測定したインダクタンスから次式により求めた。
初透磁率μi=(le×L)/(μ0×Ae×N2)
(le:磁路長、L:試料のインダクタンス(H)、μ0:真空の透磁率=4π×10-7(H/m)、Ae:磁心の断面積、N:導線の巻数)
【0030】
(2)品質係数Q
環状体の磁心を被測定物とし、LCRメータ(アジレント・テクノロジー株式会社製4285A)により、20℃にて周波数100kHzで1mAの電流で測定した。
【0031】
(3)相対温度係数αμir
αμir=〔(μi2-μi1)/μi1
2〕/(T2-T1)
(ただし、T1及びT2は測定温度であり、μi1は温度T1における初透磁率であり、μi2は温度T2における初透磁率である。)
電子恒温槽で-20℃~+60℃に調整した各サンプルに対して、初透磁率μiを測定した。-20℃~+20℃の相対温度係数αμir1の場合、T1=+20℃であり、T2=-20℃であり、μi1は+20℃における初透磁率であり、μi2は-20℃における初透磁率である。また+20℃~+60℃の相対温度係数αμir2の場合、T1=+20℃であり、T2=+60℃であり、μi1は+20℃における初透磁率であり、μi2は+60℃における初透磁率である。
【0032】
(4)飽和磁束密度Bs、保磁力Hc
飽和磁束密度(Bs)および保磁力(Hc)は、一次側巻線と二次側巻線とをそれぞれ30回巻回した磁心に、4,000A/mの磁界を印加し、直流磁化測定試験装置(メトロン技研株式会社製SK-110型)を用いて+20℃、+100℃において測定した。
【0033】
(5)焼結体密度ds
アルキメデスの原理を利用し、水中置換法により焼結体密度を算出した。
【0034】
(6)比抵抗ρ
円柱体試料の上下面を研磨し表面層を除去し、導電性ペーストを塗布・乾燥し、室温にてマルチメータで抵抗を測定後、磁心定数(断面積Ae,磁路長le)を用い、比抵抗(ρ)を算出した。
【0035】
NiZn系フェライトの組成と、磁心の物性値を表1に示す。また表1に測定で得られた初透磁率μiと品質係数Qから得られたμQ積も一緒に示す。
【0036】
【0037】
図1は、NiZn系フェライトのFe
2O
3のモル量と初透磁率μi及び品質係数Qとの関係を示すグラフである。本発明によればμQ積が15,000以上と高いNiZn系フェライトを用いた磁心とすることが出来る。