IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日立金属株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-絶縁電線およびケーブル 図1
  • 特許-絶縁電線およびケーブル 図2
  • 特許-絶縁電線およびケーブル 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-24
(45)【発行日】2022-04-01
(54)【発明の名称】絶縁電線およびケーブル
(51)【国際特許分類】
   H01B 7/02 20060101AFI20220325BHJP
   H01B 7/36 20060101ALI20220325BHJP
   H01B 7/18 20060101ALI20220325BHJP
   H01B 7/295 20060101ALI20220325BHJP
【FI】
H01B7/02 Z
H01B7/36 Z
H01B7/18 H
H01B7/295
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2017241960
(22)【出願日】2017-12-18
(65)【公開番号】P2019110021
(43)【公開日】2019-07-04
【審査請求日】2020-07-17
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(72)【発明者】
【氏名】中村 孔亮
(72)【発明者】
【氏名】田所 修一
【審査官】中嶋 久雄
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-306915(JP,A)
【文献】国際公開第2011/048974(WO,A1)
【文献】特開2011-165399(JP,A)
【文献】特開2015-072743(JP,A)
【文献】実開平05-048122(JP,U)
【文献】特開2015-046372(JP,A)
【文献】特開2012-241103(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 7/02
H01B 7/36
H01B 7/18
H01B 7/295
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体と、
前記導体の周囲に設けられた絶縁層と、
前記導体と、前記絶縁層との間に設けられた中間層と、
を有し、
前記絶縁層は、
(1)ポリオレフィン樹脂100重量部に対し、
(2)フタロシアニンブルーを0.05から2重量部、
(3)前記フタロシアニンブルーから発生する銅イオンを捕捉する金属不活性剤として、1,12-ビス[2-(2-ヒドロキシベンゾイル)ヒドラジノ]ドデカン-1,12-ジオン(CAS番号63245-38-5)を0.5から2重量部を含み、架橋されている樹脂組成物からなり、
前記中間層がポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムである、絶縁電線。
【請求項2】
請求項1に記載の絶縁電線において、
前記絶縁層は、最外層を構成している、絶縁電線。
【請求項3】
請求項1または2に記載の絶縁電線において、
前記絶縁層は複数の層からなり、前記複数の層は、それぞれ前記樹脂組成物から形成されている、絶縁電線。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の絶縁電線において、
前記樹脂組成物が金属水酸化物を100から200重量部含む、絶縁電線。
【請求項5】
請求項4に記載の絶縁電線において、
前記金属水酸化物が水酸化マグネシウムおよび/または水酸化アルミニウムである、絶縁電線。
【請求項6】
1本または複数本の絶縁電線と、
前記1本または複数本の絶縁電線の周囲に設けられたシース層と、
有するケーブルにおいて、
前記絶縁電線が請求項1~5のいずれか1項に記載の絶縁電線である、ケーブル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁電線およびケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
フタロシアニンブルーは樹脂組成物に対する青色着色剤として最も一般的な有機顔料のひとつとして知られ、多くの樹脂組成物に使用されており、電線およびケーブルの被覆材料に用いられている。フタロシアニンブルーは銅フタロシアニンとも呼ばれ、化学構造中に銅を有する。
【0003】
銅はポリオレフィンの酸化劣化を促進するため、高度の耐熱性を必要とする電線およびケーブル等においては使用することが難しい場合がある。
【0004】
特許文献1によれば、フタロシアニンブルーを含む樹脂組成物であっても特定の金属不活性剤(3-(N-サリチロイル)アミノ-1,2,4-トリアゾールまたはイソフタル酸ビス(2-フェノキシプロピオニルヒドラジド)を添加することで耐熱性を改善することが提案されている。
【0005】
近年、鉄道車両や自動車などに使用される電線およびケーブルは、車両の軽量化や省スペース化などにより、細径軽量化が求められ、導体断面積の小さな電線でより多くの電流を流す必要があり、被覆材料には導体発熱に耐えられる高い耐熱性が求められている。また、自動車においてもハイブリッドカーやエレクトロンビークルなどに代表される電動化によって、鉄道車両と同じように電線およびケーブルに対しても高い耐熱性が必要になってきている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特公昭64-5609号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特定の金属不活性剤を用いると耐熱性はある程度は改善はするものの、フタロシアニンブルーを含まない場合と同等の耐熱性を満足することができなかった。このため、フタロシアニンブルーを使用していない場合は、電線およびケーブルの耐熱性への影響を考慮する必要はないが、フタロシアニンブルーを使用する場合は、電線およびケーブルの耐熱性が劣ってしまうという問題があった。
【0008】
そこで本発明の課題は、着色剤にフタロシアニンブルーを使用しても、高度な耐熱性を有する絶縁電線およびケーブルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために、金属不活性剤として銅イオンを捕捉できる化学構造を持った化合物と、それらの組合せを検討した結果、以下の発明に至った。すなわち、複数種類の金属不活性剤およびその組合せを検討したところ、フタロシアニンブルーを含むポリオレフィン樹脂に、1,12-ビス[2-(2-ヒドロキシベンゾイル)ヒドラジノ]ドデカン-1,12-ジオンを併用することにより、フタロシアニンブルーを添加しない場合と同等の耐熱性が得られることを見出した。
【0010】
さらに、高度な耐熱性を維持するためにはフタロシアニンブルーの含有量に関わらず、一定量の1,12-ビス[2-(2-ヒドロキシベンゾイル)ヒドラジノ]ドデカン-1,12-ジオンを含むことが必要であることも分かった。
【0011】
すなわち、本発明は以下の通りである。
[1]導体と、前記導体の周囲に設けられた絶縁層と、を有し、前記絶縁層は、(1)ポリオレフィン樹脂100重量部に対し、(2)フタロシアニンブルーを0.05から2重量部、(3)1,12-ビス[2-(2-ヒドロキシベンゾイル)ヒドラジノ]ドデカン-1,12-ジオン(CAS番号63245-38-5)を0.5から2重量部を含み、架橋されている樹脂組成物からなる、絶縁電線。
[2][1]に記載の絶縁電線において、前記絶縁層は、最外層を構成している、絶縁電線。
[3][1]または[2]に記載の絶縁電線において、前記絶縁層は複数の層からなり、前記複数の層は、それぞれ前記樹脂組成物から形成されている、絶縁電線。
[4][1]~[3]のいずれか1つに記載の絶縁電線において、前記樹脂組成物が金属水酸化物を100から200重量部含む、絶縁電線。
[5][4]に記載の絶縁電線において、前記金属水酸化物が水酸化マグネシウムおよび/または水酸化アルミニウムである、絶縁電線。
[6][1]~[5]のいずれか1つに記載の絶縁電線において、前記導体と、前記絶縁層との間に設けられた中間層を有する、絶縁電線。
[7][6]に記載の絶縁電線において、前記中間層がポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムである、絶縁電線。
[8]1本または複数本の絶縁電線と、前記1本または複数本の絶縁電線の周囲に設けられたシース層と、を有し、前記シース層は、(1)ポリオレフィン樹脂100重量部に対し、(2)フタロシアニンブルーを0.05から2重量部、(3)1,12-ビス[2-(2-ヒドロキシベンゾイル)ヒドラジノ]ドデカン-1,12-ジオン(CAS番号63245-38-5)を0.5から2重量部を含み、架橋されている樹脂組成物からなる、ケーブル。
[9][8]に記載のケーブルにおいて、前記絶縁電線を複数本有し、前記複数本の絶縁電線が撚り合わされている、ケーブル。
[10][8]または[9]に記載のケーブルにおいて、前記樹脂組成物が金属水酸化物を100から200重量部含む、ケーブル。
[11][10]に記載のケーブルにおいて、前記金属水酸化物が水酸化マグネシウムおよび/または水酸化アルミニウムである、ケーブル。
[12][8]~[11]のいずれか1つに記載のケーブルにおいて、前記絶縁電線が[1]~[7]のいずれか1つに記載の絶縁電線である、ケーブル。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、着色剤にフタロシアニンブルーを使用しても高度な耐熱性を有する絶縁電線およびケーブルを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の絶縁電線の実施形態を示す横断面図である。
図2】本発明のケーブルの一実施形態を示す横断面図である。
図3】本発明のケーブルの他の実施形態を示す横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の絶縁電線およびケーブルに使用することができ、フタロシアニンブルーを含むことによる耐熱性の劣化を防ぐ、樹脂組成物について先に説明する。
【0015】
(樹脂組成物のベースポリマ)
本発明において樹脂組成物に用いられるベースポリマとしては、絶縁性を付与する観点からポリオレフィン樹脂が好ましい。本発明で用いられるポリオレフィン樹脂の例としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレンプロピレン共重合体、エチレンプロピレンジエン共重合体、エチレンαオレフィン共重合体、エチレン酢酸ビニル共重合体、エチレンアクリル酸エステル共重合体及びこれらの酸変性物などを挙げることができ、これらの成分は、単独でも組み合わせて用いてもよい。これらのポリオレフィン樹脂のなかでは、好ましくは、エチレン酢酸ビニル共重合体、エチレンαオレフィン共重合体等を挙げることができる。
【0016】
なお、本発明においてベースポリマとは、樹脂組成物中で最も多く含まれるポリマを意味する。
【0017】
また、これらの成分のほかに、必要に応じて酸化防止剤、シランカップリング剤、難燃剤、難燃助剤、架橋剤、架橋助剤、架橋促進剤、界面活性剤、軟化剤、無機充填剤、相溶化剤、安定剤、紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系光安定剤(HALS)などの添加剤を添加することもできる。特に高度な耐熱性を要求される場合は酸化防止剤や紫外線吸収剤、HALSをベースポリマに添加することが好ましい。
【0018】
(フタロシアニンブルー)
フタロシアニンブルーを含む樹脂組成物は、特にハロゲンフリーの絶縁電線およびケーブルの被覆材のとして使用されることが多く、銅による酸化劣化促進を起こしやすい。このため、フタロシアニンブルーを用いた場合、絶縁電線やケーブルの耐熱性の低下を起こしやすい。
【0019】
本発明において、樹脂組成物中のフタロシアニンブルーの含有量としては、ポリオレフィン樹脂100重量部に対し、0.05~2重量部であり、好ましくは、0.08~1.5、より好ましくは0.7~1.0重量%を挙げることができる。
【0020】
ここで、フタロシアニンブルーの含有量がポリオレフィン樹脂100重量部に対し0.05重量部より少ない場合は、ポリオレフィン樹脂に対して銅の含有量が少なくなるため、耐熱性の低下は問題とはならないが、着色性が低下する。また、2重量部を超えて添加した場合は、着色性に大きな変化はないが、電気絶縁性に悪影響を及ぼすことがある。
【0021】
(1,12-ビス[2-(2-ヒドロキシベンゾイル)ヒドラジノ]ドデカン-1,12-ジオン(CAS番号63245-38-5))
本発明において、1,12-ビス[2-(2-ヒドロキシベンゾイル)ヒドラジノ]ドデカン-1,12-ジオンは、フタロシアニンブルーから発生する銅イオンを捕捉する金属不活性剤として作用する。このような金属不活性剤は数種類販売されている。一方、その効果は樹脂組成物中に存在する金属イオンを供給する化合物の形や、金属イオンが銅導体等の外部から供給される場合などによって異なることが知られている。
【0022】
ここで、1,12-ビス[2-(2-ヒドロキシベンゾイル)ヒドラジノ]ドデカン-1,12-ジオンの含有量としては、ポリオレフィン樹脂100重量部に対して、0.5~2重量部であり、好ましくは、0.75~1.5重量部、より好ましくは、1~1.25重量部を挙げることができる。
【0023】
ポリオレフィン樹脂100重量部に対して、1,12-ビス[2-(2-ヒドロキシベンゾイル)ヒドラジノ]ドデカン-1,12-ジオンが0.5重量部より少ない場合は、耐熱性の改善はある程度見られるが十分ではない。ポリオレフィン樹脂100重量部に対して、1,12-ビス[2-(2-ヒドロキシベンゾイル)ヒドラジノ]ドデカン-1,12-ジオンが、2重量部を超えるとその耐熱性の効果は飽和する場合があり、また、滑性が強くなり混練が長くなる場合がある。
【0024】
なお、高度な耐熱性を要求される鉄道車両用電線においては、火災時の安全性確保の観点からハロゲンフリーであり、かつ難燃性が要求される。このような絶縁電線およびケーブルは被覆材に難燃剤として水酸化マグネシウムや水酸化アルミニウムといった金属水酸化物を添加する必要がある。そして、1,12-ビス[2-(2-ヒドロキシベンゾイル)ヒドラジノ]ドデカン-1,12-ジオンが、水酸化マグネシウムや水酸化アルミニウムと同様に高度な耐熱性を有し、更には金属水酸化物に不純物が含まれていても、耐熱性を上げることができることも分かった。
【0025】
(架橋)
本発明のように高度な耐熱性が要求されるポリオレフィン樹脂を、絶縁電線およびケーブルの被覆として用いる場合は、架橋されていなければ十分な絶縁効果が得られない。すなわち、前述したようにポリオレフィン樹脂は融点があるものが多く、架橋されていないと、高い温度で使用すると変形や場合によっては溶融してしまうおそれがある。
【0026】
架橋の方法は、樹脂組成物が適式に架橋できれば特に制限はなく、例えば、1.0~3MPaの飽和水蒸気で架橋することができる。また、架橋剤や架橋助剤を配合し、押出成形した後に架橋処理を施すこともできる。
【0027】
また、電線およびケーブルの製造工程の都合上、有機過酸化物を樹脂組成物に添加して熱で架橋する有機過酸化物架橋、電離放射線のエネルギーを利用した放射線架橋、樹脂組成物にビニルアルコキシシラン等のシランカップリング剤をグラフトし水架橋するシラン架橋が好ましい。
【0028】
(樹脂組成物)
上述した、所定量の樹脂組成物のベースポリマ、フタロシアニンブルー、(1,12-ビス[2-(2-ヒドロキシベンゾイル)ヒドラジノ]ドデカン-1,12-ジオンを架橋することにより、本発明の樹脂組成物を得ることができる。また、この樹脂組成物を用いて、本発明の絶縁電線およびケーブルを製造することができる。
【0029】
以下、本発明における好適な絶縁電線およびケーブルについての例を図面を参照しながら説明する。
【0030】
図1は、本発明の一実施形態に係る絶縁電線の長さ方向に対して垂直な断面図を示す。
【0031】
(導体)
本発明に用いる導体11には、汎用の材料、例えば、純銅や錫めっき銅、銅合金、アルミニウム、金、銀等を用いることができる。また、金属線の外周に錫やニッケルなどの金属メッキを施したものを用いてもよい。さらに、金属線を撚り合わせた集合撚導体を用いることもできる。導体11の断面積や外径は、絶縁電線1に求められる電気特性に応じて適宜変更することが可能であり、例えば断面積が1mm以上400mm以下で、外径が1.25mm以上25.8mm以下のものを挙げることができる。
【0032】
(絶縁電線)
図1に示すように、本実施形態に係る絶縁電線1は、導体11の周囲に、絶縁層5を有し、この絶縁層5は、本発明の樹脂組成物から構成されている。
【0033】
そして、絶縁層5は、本発明の樹脂組成物の作用により、フタロシアニンブルーを使用した場合の絶縁電線1の耐熱性の低下を抑えることができる。
【0034】
また、絶縁電線1において、絶縁層5は最外層を構成していることが好ましい。本発明の樹脂組成物からなる絶縁層5を最外層に設けることにより、フタロシアニンブルーを用いることに起因する耐熱性の劣化を抑制することができる。
【0035】
また、絶縁層5は複数の層からなり、各層がそれぞれ本発明の樹脂組成物から形成されていることが好ましい。これにより、フタロシアニンブルーを用いることによる耐熱性の低下をより効果的に抑えることができる。
【0036】
なお、図1においては、導体11の外周にポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム15が接しているが、PETフィルム15を用いることにより、さらに耐熱性および/または耐摩耗性に優れた特性が得られる。更にPETフィルムを用いることにより、絶縁導線を製造する際に、樹脂組成物が導体に潜り込むことを防止することができる。
【0037】
図1においては、PETフィルムおよび絶縁層の2層構造を形成する場合を例示したが、本発明はこれに限定されない。例えば、PETフィルムと絶縁層の間に中間層を介在させて3層構造とすることもできる。すなわち、絶縁層は単層である必要はなく、複数層からなる積層構造で構成されていてもよい。
【0038】
(ケーブル)
図2に、本発明のケーブル20を示す。
【0039】
本発明のケーブル20は、1本の絶縁電線の周囲に設けられたシース層40を有し、シース層40は、本発明の樹脂組成物から構成されている。
【0040】
すなわち、本発明に用いるシース層40は、上述の絶縁電線に用いる樹脂組成物と同様に、(1)ポリオレフィン樹脂100重量部に対し、(2)フタロシアニンブルーを0.05から2重量部、(3)1,12-ビス[2-(2-ヒドロキシベンゾイル)ヒドラジノ]ドデカン-1,12-ジオン(CAS番号63245-38-5)を0.5から2重量部を含み、架橋された樹脂組成物からなる。
【0041】
ここで、本発明のケーブルに用いる絶縁電線としては、特に制限はなく、導体に絶縁層を被覆させる等により絶縁性を有する電線であればよい。
【0042】
しかし、本発明の効果をさらに得たい場合には、絶縁電線として、本発明の絶縁電線1を用いることが好ましい。これにより、フタロシアニンブルーを用いることによる耐熱性の低下をより効果的に抑えることができる。
【0043】
なお、シース層40は、単層である必要はなく、複数層からなる積層構造で構成されていてもよい。
【0044】
図3は本発明の一実施形態に係る長さ方向のケーブル50の断面図を示す。図3に示すように、本発明のケーブル50は、コアに複数本の絶縁電線3を含んでおり、複数本の絶縁電線3が撚り合わされて多芯撚線80を構成している。ケーブル50は、多芯撚線80と、セパレータ60、シールド層70と、シース層40とを備えている。セパレータ60は必要に応じて設けることができ、多芯撚線80の周囲に巻き回されている。シールド層70は、セパレータ60の周囲に形成されている。多芯撚線80とセパレータ60との間には空間90が形成され、シールド層70の周囲には、シース層40が形成されている。シース層40は、本発明の樹脂組成物から構成されており、フタロシアニンブルーを用いた場合においても、耐熱性の劣化を抑制することができる。
【0045】
本発明のケーブルに用いる絶縁電線3としては、特に制限はなく、導体を絶縁層で被覆させる等により絶縁性を有する電線であればよい。図3において絶縁電線3は、導体11から外側に向かって、絶縁層100、難燃層110を備えている。
【0046】
なお、本発明に用いる絶縁電線3として、本発明の絶縁電線1を用いてもよい。これにより、さらに耐熱性による劣化を抑制できるケーブルとすることができる。
【0047】
セパレータ60としては、その材質を限定するものではないが、アルミラミネートPETテープ等を用いることができる。
【0048】
また、シールド層70としては、その材質を特に限定するものではないが、銅又は銅合金を使用することができる。
【0049】
本発明において、シース層40を備えることにより、フタロシアニンブルーを用いることによる耐熱性の低下を抑えることができることとなる。シース層40は、それ自身が単層である必要はなく、複数層からなってもよい。また、絶縁電線とシース層40との間に他の樹脂層を形成するものであってもよい。
【0050】
また、図3においては、複数の絶縁電線3を多芯撚線80としているが、ケーブルの用途に応じ、複数の絶縁電線3を撚らずに用いてもよい。
【実施例
【0051】
以下、実施例を示して、本発明をより詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0052】
表1、表2に示す配合比で夫々材料を秤量し、加圧ニーダーによって混練し、ストランドで押出、冷却後ペレット状にした。
【0053】
錫めっき銅導体を複数本撚り合わせ作製した、導体断面積25mmの錫めっき銅導体上に厚さ20μmポリエチレンテレフタレートフィルムを巻き付け、その上に混練した各材料を0.9mmの厚さで押出被覆し、直後に1.5MPaGの飽和水蒸気で絶縁材料を架橋し、図1に示す絶縁電線1を得た。
【0054】
【表1】
【0055】
【表2】
(評価方法)
[初期引張試験]
作製した絶縁電線から被覆材を剥ぎ、剥いだ被覆材の導体側を平滑になるように研磨後、JISK6251に記載されている6号ダンベルで打ち抜いた試験サンプルを引張試験機で200mm/minの速度で引っ張り、引張強さ及び破断伸びを測定した。
【0056】
[耐熱性試験(1)]
作製した絶縁電線から被覆材を剥ぎ、剥いだ被覆材を示差走査熱量計を用いて220℃で酸化誘導時間を測定した。220℃までの昇温は窒素雰囲気で10℃/minとした。
【0057】
フタロシアニンブルーを添加していない参考例よりも酸化誘導時間が長いものを合格とした。
【0058】
[耐熱性試験(2)]
初期引張試験に記載した方法でダンベルを作製し、JISK6257に記載された方法で温度180℃で10日間の熱老化試験を実施した。熱老化試験後のダンベルに一定の荷重をかけた際に、50%以上の伸びを示したものを合格とした。
【0059】
[総合判定]
耐熱性試験(1)および(2)に合格したものを合格とした。
【0060】
評価結果を表3に示す。本発明の範囲内である実施例1から8はフタロシアニンブルーを添加しているのにも関わらず、高い耐熱性を保持していることが分かる。また、参考例と比較しても耐熱性試験(1)の220℃の酸化誘導時間が長く、水酸化マグネシウムを含むポリオレフィン樹脂組成物の配合において、1,12-ビス[2-(2-ヒドロキシベンゾイル)ヒドラジノ]ドデカン-1,12-ジオンの添加が耐熱性を底上げしていることが分かる。
【0061】
実施例6から8は1,12-ビス[2-(2-ヒドロキシベンゾイル)ヒドラジノ]ドデカン-1,12-ジオンと他の金属不活性剤との組合せを試している。全て合格はしているが、実施例5と比較して分かる通り、大きな相乗効果はなく、1,12-ビス[2-(2-ヒドロキシベンゾイル)ヒドラジノ]ドデカン-1,12-ジオンの効果が大きいことが分かる。
【0062】
比較例1と比較例2は金属不活性剤を添加しておらず、参考例と比較しても耐熱性が劣っている。
【0063】
比較例3と比較例4は金属不活性剤を添加しており耐熱性は改善しているものの、耐熱性試験(1)および(2)ともに不十分であった。
【0064】
比較例5は酸化誘導時間は長かったが、耐熱性試験(2)で不合格となった。これは、酸化がはじまるのは遅れるが、酸化劣化が機械特性に影響を及ぼすまでの期間が短かったのではないかと思われる。
【0065】
比較例6から8は1,12-ビス[2-(2-ヒドロキシベンゾイル)ヒドラジノ]ドデカン-1,12-ジオン以外の金属不活性剤の組合せであるが、どれも相乗効果は乏しく不合格となった。
【0066】
【表3】
(他の実施例および変形例)
実施例の絶縁電線の樹脂組成物の評価方法はケーブルのシース層材料の評価方法と同様のものとなる。このためケーブルのシース層材料においても同様の結果が得られるものと考えられる。
【0067】
また、本発明の絶縁電線およびケーブルで使用した樹脂組成物をホース等に使用すれば、フタロシアニンブルーを使用しても高い耐熱性を保持できることが容易に想像出来る。
【符号の説明】
【0068】
1:絶縁電線
3:絶縁電線
5:絶縁層
11:導体
15:PETフィルム
20:ケーブル
30:絶縁層
40:シース層
50:ケーブル
60:セパレータ
70:シールド層
80:多芯撚線
90:空間
100:絶縁層
110:難燃層
図1
図2
図3