(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-24
(45)【発行日】2022-04-01
(54)【発明の名称】酸素ガスの製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 13/02 20060101AFI20220325BHJP
C01G 49/06 20060101ALI20220325BHJP
C01G 49/08 20060101ALI20220325BHJP
C01B 32/198 20170101ALI20220325BHJP
【FI】
C01B13/02 B
C01G49/06 Z
C01G49/08 Z
C01B32/198
(21)【出願番号】P 2018068918
(22)【出願日】2018-03-30
【審査請求日】2020-11-20
(73)【特許権者】
【識別番号】503092180
【氏名又は名称】学校法人関西学院
(73)【特許権者】
【識別番号】390011877
【氏名又は名称】富士化学工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【氏名又は名称】水谷 馨也
(72)【発明者】
【氏名】橋本 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】磯邉 清
(72)【発明者】
【氏名】世良 佳彦
(72)【発明者】
【氏名】岸 浩史
(72)【発明者】
【氏名】坂本 友和
(72)【発明者】
【氏名】吉元 光児
【審査官】磯部 香
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/158806(WO,A1)
【文献】特開2004-269296(JP,A)
【文献】国際公開第2011/068122(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/021506(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第103934002(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第105441029(CN,A)
【文献】特開2018-043193(JP,A)
【文献】Jae Young Kim et.al.,Graphene-carbon nanotube composite as an effective conducting scaffold to enhance the photoelectroch,RSC Advances,2,The Royal Socirty of Chemistry,2012年08月08日,9415-9422
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 13/02
C01G 49/06
C01G 49/08
C01B 32/198
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄酸化物粒子とグラフェンオキサイドとの複合体を
500℃以上に加熱する工程を備える、酸素ガスの製造方法。
【請求項2】
前記鉄酸化物粒子の粒子径が、0.1~10nmである、請求項1に記載の酸素ガスの製造方法。
【請求項3】
前記複合体の一次粒子の粒子径が、0.1~100μmである、請求項1又は2に記載の酸素ガスの製造方法。
【請求項4】
前記複合体は、赤外吸収スペクトル測定によって、O-H基、C=O基及び701cm
-1付近のFe-O基に由来する吸収が実質上観測されず、C-O基に由来する吸収が観測される、請求項1~3のいずれか1項に記載の酸素ガスの製造方法。
【請求項5】
前記複合体は、鉄の含有量が0.1~50重量%である、請求項1~4のいずれか1項に記載の酸素ガスの製造方法。
【請求項6】
前記鉄酸化物粒子が、Fe
3O
4及びFe
2O
3の少なくとも一方を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の酸素ガスの製造方法。
【請求項7】
前記複合体において、前記鉄酸化物粒子は、前記グラフェンオキサイドに担持されている、請求項1~6のいずれか1項に記載の酸素ガスの製造方法。
【請求項8】
加熱温度が、900℃未満である、請求項1~7のいずれか1項に記載の酸素ガスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸素ガスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属酸化物を用いた酸素ガスの製造方法として、金属酸化物の粒子からなる流動層を反応器内で循環させながら、低酸素分圧ガス雰囲気下で、前記流動層の一部を太陽光により1400℃以上の高温に加熱して、酸素ガスを放出させる方法が知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の方法を利用して酸素ガスを製造する場合、金属酸化物を1400℃以上という非常に高温に加熱する必要あり、より低温で酸素ガスを製造する方法が求められる。
【0005】
本発明は、金属酸化物を低温(例えば、900℃未満)で加熱することにより、効率的に酸素ガスを製造する方法を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前述の課題を解決すべく鋭意検討を行った。その結果、鉄酸化物粒子をグラフェンオキサイドと複合化し、この複合体を、例えば900℃未満といった低温で加熱すると、酸素ガスが好適に発生することを見出した。本発明は、これらの知見に基づいて、さらに検討を重ねることにより、完成したものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、金属酸化物を低温(例えば、900℃未満)で加熱することにより、効率的に酸素ガスを製造する方法を提供することができる。
【0008】
すなわち、本発明は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
項1. 鉄酸化物粒子とグラフェンオキサイドとの複合体を加熱する工程を備える、酸素ガスの製造方法。
項2. 前記鉄酸化物粒子の粒子径が、0.1~10nmである、項1に記載の酸素ガスの製造方法。
項3. 前記複合体の一次粒子の粒子径が、0.1~100μmである、項1又は2に記載の酸素ガスの製造方法。
項4. 前記複合体は、赤外吸収スペクトル測定によって、O-H基、C=O基及び701cm-1付近のFe-O基に由来する吸収が実質上観測されず、C-O基に由来する吸収が観測される、項1~3のいずれか1項に記載の酸素ガスの製造方法。
項5. 前記複合体は、鉄の含有量が0.1~50重量%である、項1~4のいずれか1項に記載の酸素ガスの製造方法。
項6. 前記鉄酸化物粒子が、Fe3O4及びFe2O3の少なくとも一方を含む、項1~5のいずれか1項に記載の酸素ガスの製造方法。
項7. 前記複合体において、前記鉄酸化物粒子は、前記グラフェンオキサイドに担持されている、項1~6のいずれか1項に記載の酸素ガスの製造方法。
項8. 加熱温度が、900℃未満である、項1~7のいずれか1項に記載の酸素ガスの製造方法。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】合成例1において合成した、グラフェンオキサイドのMALDI、 FT-ICR-MS分析の結果を示すデータである。
【
図2】合成例1において合成した、グラフェンオキサイドの紫外可視吸収スペクトルである。
【
図3】合成例1において合成した、グラフェンオキサイドの粉末X線回折(XRD)測定の結果を示すデータである。
【
図4】実施例1において、鉄酸化物粒子-グラフェンオキサイド複合体Aの合成に使用した装置の写真および模式図である。
【
図5】実施例1で得られた鉄酸化物粒子-グラフェンオキサイド複合体Aの赤外吸収スペクトル(IR:ATR法)である。
【
図6】実施例1で得られた鉄酸化物粒子-グラフェンオキサイド複合体AのXRDスペクトルである。
【
図7】実施例1で得られた鉄酸化物粒子-グラフェンオキサイド複合体Aの表面のX線光電子分光測定(XPS)の結果を示すデータである。
【
図8】走査型電子顕微鏡/エネルギー分散型分光法(SEM/EDX)により、実施例1で得られた鉄酸化物粒子-グラフェンオキサイド複合体Aの表面を観察して得られた、鉄原子のマッピング画像である。
【
図9】走査型電子顕微鏡(SEM)により、実施例1で得られた鉄含有粒子-グラフェンオキサイド複合体Aの表面を観察した画像である。
【
図10】実施例1で得られた鉄酸化物粒子-グラフェンオキサイド複合体A、合成例1で得られたグラフェンオキサイド(比較例1)、Fe
2O
3(比較例2)、及びFe
2O
3とグラフェンオキサイドの混合物(比較例3)について、それぞれ、熱重量示差熱分析装置で測定された、加熱温度(℃)と、重量減少割合(%)及び熱流(μV)との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の酸素ガスの製造方法は、鉄酸化物粒子とグラフェンオキサイドとの複合体を加熱する工程を備えることを特徴としている。本発明の酸素ガスの製造方法においては、鉄酸化物粒子が、グラフェンオキサイドと複合体を形成していることにより、加熱による酸素の放出温度が低下しており、鉄酸化物を単独で加熱する場合に比して、より低温の加熱より、効果的に酸素ガスを発生させることができる。以下、本発明の酸素ガスの製造方法について、詳述する。
【0011】
(鉄酸化物粒子とグラフェンオキサイドとの複合体)
本発明の酸素ガスの製造方法で用いられる鉄酸化物粒子とグラフェンオキサイドとの複合体(以下、単に「複合体」ということがある。)において、鉄酸化物粒子は、鉄酸化物を含む粒子である。複合体において、当該鉄酸化物粒子は、好ましくは、グラフェンオキサイドに担持されている。また、複合体において、当該鉄酸化物粒子は、グラフェンオキサイドの表面に均一性高く分散されていることが好ましい。複合体に含まれる、鉄酸化物粒子は、1種類であってもよいし、2種類以上であってもよい。
【0012】
鉄酸化物粒子には、少なくとも、鉄酸化物が含まれている。また、鉄含有粒子に含まれる鉄の価数は、特に制限されず、好ましくは0価、2価、及び3価の少なくとも1つであり、より好ましくは2価及び3価の少なくとも1つである。鉄含有粒子において、鉄は、2価の鉄酸化物及び3価の鉄酸化物の少なくとも一方として存在していることが好ましい。また、鉄酸化物粒子には、鉄酸化物に加えて、金属鉄が含まれていてもよい。
【0013】
例えば900℃未満といった低温で加熱することにより、効率的に酸素ガスを製造する観点から、鉄酸化物粒子は、Fe3O4及びFe2O3の少なくとも一方を含むことが好ましい。すなわち、鉄酸化物粒子において、鉄は、Fe2O3及びFe3O4の少なくとも一方として含まれていることが好ましい。なお、鉄酸化物粒子には、金属鉄が含まれていてもよい。
【0014】
前記の観点から、複合体において、鉄酸化物粒子の粒子径は、好ましくは0.1~10nm程度、より好ましくは0.5~5nm程度、さらに好ましくは1~4nm程度である。鉄酸化物粒子の粒子径は、複合体について、粉末X線回折(XRD)を測定した結果から導き出した値である。
【0015】
前記の観点から、複合体における鉄の含量は、鉄元素換算で、例えば、0.1~50重量%程度、好ましくは0.5~40重量%程度、より好ましくは2~30重量%程度、さらに好ましくは5~20重量%が挙げられる。複合体における鉄の含量は、走査型電子顕微鏡/エネルギー分散型分光法による、鉄酸化物粒子-グラフェンオキサイド複合体の表面に関する元素分析測定結果から算出される。
【0016】
複合体に含まれるグラフェンオキサイドは、グラフェンの酸化物である。グラフェンオキサイドとしては、例えば、市販品やグラファイトもしくはグラフェンを酸化することにより製造されたものを用いることができ、好ましくは、グラファイトを酸化することにより製造されたもの(例えば、グラファイトを硫酸や過マンガン酸カリウム等を用いて酸化して、製造されたもの)である。
【0017】
グラフェンオキサイドの市販品としては、例えば、酸化グラフェン懸濁液、酸化グラフェン粉末、酸化グラフェン、還元的酸化グラフェン、高比表面積グラフェンナノパウダーとして販売されているものを用いることができ、具体的には、Sigma Aldrich社などから市販されているものを使用することができる。なお、グラファイトを、硫酸を用いて酸化した場合には、得られるグラフェンオキサイドには、微量の硫黄が存在する。このため、当該グラフェンオキサイドを用いて製造された、複合体中にも、通常、微量の硫黄が存在する。複合体には、硫黄が含まれていてもよい。
【0018】
グラフェンオキサイドの製造に用いられるグラファイトは、複合体に適しているものであれば、いずれのものを用いてもよい。グラファイトの形状としては、例えば、球状グラファイト、粒状グラファイト、鱗状グラファイト、鱗片状グラファイト、及び粉末グラファイトを使用することができ、鉄酸化物粒子の担持のしやすさや触媒活性から、鱗状グラファイト、鱗片状グラファイトの使用が好ましい。具体的には、ナカライテスク社製の粉末グラファイト、イーエムジャパン社の高比表面積グラフェンナノパウダーなど、市販されているものを使用することができる。当該グラファイトの一次粒子径としては、好ましくは0.1~100μm程度、より好ましくは0.5~80μm程度、さらに好ましくは2~40μm程度が挙げられる。
【0019】
複合体の一次粒子径は、実質的に、グラフェンオキサイドの一次粒子径に対応する。よって、複合体において、グラフェンオキサイドの一次粒子径としては、好ましくは0.1~100μm程度、より好ましくは0.5~80μm程度、さらに好ましくは2~40μm程度が挙げられる。また、複合体の一次粒子径としては、好ましくは0.1~100μm程度、より好ましくは0.5~80μm程度、さらに好ましくは2~40μm程度が挙げられる。複合体は、通常、層状構造を有している。これらの粒子径は、走査型顕微鏡(SEM)写真によって確認することができる。
【0020】
複合体においては、通常、上記ナノサイズ(例えば、10nm以下)の鉄酸化物粒子が、ミクロンサイズ(例えば、0.1~100μm)のグラフェンオキサイドに担持されており、この一次粒子が凝集した粒子状態を形成している。
【0021】
複合体は、赤外吸収スペクトル測定によって、O-H基、C=O基及び701cm-1付近のFe-O基に由来する吸収が実質上観測されず、C-O基に由来する吸収が観測されるものであることが好ましい。具体的には、複合体のIRスペクトルにおいて、C-O基(エポキシ基)に由来する吸収(1035cm-1付近の吸収)が存在し、O-H基(ヒドロキシ基)に由来する吸収(3000cm-1~3800cm-1の範囲のブロードな吸収)、C=O基(カルボニル基)に由来する吸収(1700cm-1付近のシャープな吸収)及びFe-O基(鉄と酸素との結合)に由来する吸収(701cm-1付近の吸収)が実質的に存在しないことが好ましい。ここで、実質的に存在しないとは、C-O基(エポキシ基)に由来する吸収のピーク高に対する、これらの吸収のピーク高の相対比が、0.1以下であることを意味する。このようなスペクトルが観察される複合体においては、グラフェンオキサイドに結合した酸素原子は、主にエポキシ基として存在していると考えられる。なお、複合体には、ヒドロキシ基やカルボニル基が含まれていてもよい。
【0022】
複合体は、磁性を示さないことが好ましい。本発明において、複合体の磁性の有無は、複合体がネオジウム磁石(φ10mm×2mm)に吸着されないことで確認することができる。
【0023】
(鉄酸化物粒子とグラフェンオキサイドとの複合体の製造方法)
本発明の酸素ガスの製造方法で用いる、鉄酸化物粒子とグラフェンオキサイドとの複合体の製造方法としては、特に制限されないが、例えば、以下の工程1及び工程2を備える方法により、好適に製造することができる。
工程1:鉄酸化物粒子の原料としての鉄化合物と、グラフェンオキサイドとを、不活性溶媒中で混合して懸濁液を調製する工程。
工程2:懸濁液に紫外光を含む光を照射する工程。
【0024】
(工程1)
工程1は、鉄酸化物粒子の原料とする鉄化合物と、グラフェンオキサイドとを、不活性溶媒中で混合して懸濁液を調製する工程である。
【0025】
工程1において、原料として使用される、鉄化合物としては、後述の工程2を経て、前述の鉄酸化物粒子-グラフェンオキサイド複合体を形成できるものであれば、特に制限されない。鉄化合物は、1種類単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0026】
原料とする鉄化合物の具体例としては、0価、2価又は3価の鉄化合物であり、例えば、塩化鉄、臭化鉄、硝酸鉄、硫酸鉄、リン酸鉄、過塩素酸鉄等の鉄と無機酸との塩;ギ酸鉄、酢酸鉄、トリフルオロ酢酸鉄、プロピオン酸鉄、シュウ酸鉄、フマル酸鉄、クエン酸鉄、酒石酸鉄、ステアリン酸鉄、安息香酸等の鉄とカルボン酸との塩;メタンスルホン酸鉄、トリフルオロメタンスルホン酸鉄、エタンスルホン酸鉄、ベンゼンスルホン酸鉄、パラスルホン酸鉄等の鉄とスルホン酸との塩;水酸化鉄;フェノール鉄;ヘキサシアン酸鉄ナトリウム、ヘキサシアン酸鉄カリウム、ヘキサシアン酸鉄アンモニウム、エチレンジアミン四酢酸鉄ナトリウム等の鉄複塩;アセチルアセトナート鉄錯体、鉄カルボニル化合物等の鉄錯体であり得、好ましくは、塩化鉄、臭化鉄、硝酸鉄、硫酸鉄、リン酸鉄、鉄とカルボン酸との塩、水酸化鉄、フェノール鉄、アセチルアセトナート鉄錯体又は鉄カルボニル化合物であり、より好ましくは、塩化鉄、硫酸鉄、酢酸鉄、水酸化鉄、アセチルアセトナート鉄錯体又は鉄カルボニル化合物であり、最も好ましくは、塩化鉄、硫酸鉄、酢酸鉄又は鉄-カルボニル化合物である。
【0027】
また、グラフェンオキサイドとしては、前述のものを使用することができる。
【0028】
鉄化合物とグラフェンオキサイドとの混合割合は、特に制限されず、目的とする鉄酸化物粒子-グラフェンオキサイド複合体の組成に応じて、適宜設定することができる。例えば、前述のように、走査型電子顕微鏡/エネルギー分散型分光法による、鉄酸化物粒子-グラフェンオキサイド複合体の表面に関する元素分析測定結果から算出される鉄の含有率が、0.1~50重量%となるようにする観点からは、グラフェンオキサイド100質量部に対して、鉄化合物を100質量部程度使用すればよい。
【0029】
不活性溶媒としては、特に限定されないが、例えば、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール類;酢酸エチル、酢酸プロピル等のエステル類;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド類;ジメチルスルホキシド等のスルホキシド類;水;又はこれらの混合溶媒などが挙げられ、好ましくは、エーテル類、アルコール類、アミド類、水又はこれらの混合溶媒などが挙げられ、さらに好ましくは、テトラヒドロフラン、エタノール、ジメチルホルムアミド、水又はこれらの1種以上の混合溶媒などが挙げられる。
【0030】
(工程2)
工程2は、工程1で調製した懸濁液に紫外光を含む光を照射する工程である。工程2において、懸濁液には、紫外光のみを照射してもよいし、紫外光に加えて、可視光、赤外光などの他の波長の光をさらに照射してもよい。紫外光を含む光としては、例えば、水銀灯の光(例えば高圧水銀灯光)などを使用することができる。
【0031】
工程2で懸濁液に照射する光の波長としては、紫外光を含む波長であれば、特に制限されず、例えば100~800nm程度、好ましくは180~600nm程度が挙げられる。
【0032】
また、工程2において、紫外光を含む光を照射して反応を進行させる際の温度としては、光の波長や照射時間等に応じて適宜調整すればよいが、通常、0℃~50℃程度、好ましくは10℃~30℃程度、より好ましくは20℃~30℃が挙げられる。
【0033】
また、工程2において、紫外光を含む光を照射する時間としては、光の波長や温度等に応じて適宜調整すればよいが、通常、1分間~24時間程度、好ましくは10分間~10時間程度、より好ましくは30分間~5時間程度が挙げられる。
【0034】
工程2により、懸濁液中に、鉄酸化物粒子-グラフェンオキサイド複合体が生成し、当該複合体を空気側電極用触媒として用いることができる。
【0035】
工程1及び工程2は、不活性ガス(例えば、窒素ガス、アルゴンガス等)の雰囲気下に行うことが好ましい。
【0036】
工程2の後に、さらに、得られた鉄酸化物粒子-グラフェンオキサイド複合体を単離する工程を備えていてもよい。単離工程は、常法によって行うことができる。例えば、得られた鉄酸化物粒子-グラフェンオキサイド複合体を、濾取、洗浄、乾燥して単離することができる。
【0037】
本発明の酸素ガスの製造方法においては、鉄酸化物粒子-グラフェンオキサイド複合体を加熱することにより、好適に酸素ガスを製造することができる。加熱温度としては、好ましくは900℃未満が挙げられる。前記の通り、特許文献1に記載のような従来の金属酸化物を用いた酸素製造方法では、1400℃以上といった高温での加熱が必要であったが、本発明においては、鉄酸化物粒子-グラフェンオキサイド複合体を加熱することにより、900℃未満といった低温で好適に酸素を製造することができる。
【0038】
本発明の酸素ガスの製造方法において、複合体の加熱温度としては、特に制限されないが、下限については、好ましくは500℃以上、より好ましくは600℃以上が挙げられ、上限については、好ましくは850℃以下、より好ましくは800℃以下、さらに好ましくは750℃以下が挙げられる。
【0039】
本発明の酸素ガスの製造方法において、複合体を加圧する際の圧力としては、例えば、大気圧が挙げられる。
【0040】
本発明の酸素ガスの製造方法において、複合体の加熱雰囲気については、特に制限されず、大気、不活性ガス(例えば、窒素ガス、アルゴンガス等)の雰囲気下において行うことができる。
【0041】
本発明の酸素ガスの製造方法に生成した酸素ガスを単離する工程を備えていてもよい。単離工程は、常法によって行うことができる。
【実施例】
【0042】
次に、本発明を、実施例および比較例に基づいて説明するが、本発明は、下記の実施例によって限定されるものではない。なお、「部」および「%」は、特に言及がない限り、質量基準である。また、以下の記載において用いられる配合割合(含有割合)、物性値、パラメータなどの具体的数値は、上記の「発明を実施するための形態」において記載されている、それらに対応する配合割合(含有割合)、物性値、パラメータなど該当記載の上限値(「以下」、「未満」として定義されている数値)または下限値(「以上」、「超過」として定義されている数値)に代替することができる。
【0043】
[合成例1]グラフェンオキサイド懸濁液(1-1)の合成(NaNO3添加なし)
500cm3の一口ナスフラスコに濃硫酸(98%、キシダ化学社製)(130cm3)とグラファイト(Graphite flakes、ナカライテスク社製)(1.0g)を加え、室温(約20℃)で、15分間攪拌した。次に、KMnO4(ナカライテスク社製)(4.0g)を加え、室温(約20℃)で約4日間攪拌し、淡紫色の懸濁液を得た。
【0044】
次に、ビーカーに氷(100cm3)を入れ、上記淡紫色の懸濁液をゆっくりと注ぎ入れた。さらにビーカーを氷浴で冷やしながら、30%H2O2水溶液(キシダ化学社製)(約5cm3)をゆっくり加え、淡緑色の懸濁液を得た。得られた懸濁液を遠心管に小分けに入れ、遠心分離(日立工機株式会社、CR20G)(18800G、20分間)した。上澄み液を除去し、沈殿物を水で洗浄した後、遠心分離(18800G、20分間)した。上澄み液を除去し、沈殿物を5%塩酸で洗浄した後、遠心分離(18800G、20分間)した。上澄み液を除去し、沈殿物を水で洗浄した後、遠心分離(18800G、20分間)した。さらに、上澄み液を除去し、沈殿物を水で洗浄した後、遠心分離(18800G、20分間)する操作を2度行った。上澄み液を除去し、得られた沈殿物を水で約250cm3になるように希釈し、グラフェンオキサイド懸濁液(1-1)を合成した。
【0045】
[実施例1]鉄酸化物粒子-グラフェンオキサイド複合体の合成
図4(a)に示す構成の装置を用いて、鉄酸化物粒子-グラフェンオキサイド複合体を合成した。
図4(a)(b)に示すように、本装置は、硬質ガラス製の容器(1)に、撹拌子及び、不活性ガスの導入口(3)及び導出口(4)を備えている。また、硬質ガラス製の容器(1)の内部に、石英ガラス製の冷却ジャケット(5)で覆った100W高圧水銀灯(セン特殊光源株式会社、HL100CH-4)(2)を備えている。冷却ジャケット(5)には循環型冷却装置が接続されており、冷却水が流れる。
【0046】
容器(1)(100cm3)の内部を窒素ガス雰囲気下とし、グラフェンオキサイド懸濁液(1-1)(50cm3)に酢酸鉄(II)(Aldrich社製、300mg)水溶液(60cm3)を加え、室温で約20分間攪拌した。流水冷却下、高圧水銀灯(2)(セン特殊光源株式会社製、HL100GL-1)を用いて、室温にて光照射反応を2時間行った。照射した光の波長は、180~600nmである。また、光照射中、冷却ジャケット(5)には20℃の冷却水を流し続けた。光照射により、懸濁液は茶色から黒色に変化した。得られた混合物を遠心分離(18800G、10分間)した。上澄み液を除去し、沈殿物を水で洗浄した後、遠心分離(18800G、10分間)した。上澄み液を除去し、沈殿物をエタノールで洗浄した後、遠心分離(18800G、10分間)した。上澄み液を除去し、沈殿物をろ過し、アセトンで洗浄した。デシケータにて減圧乾燥を行い、黒色固体の鉄酸化物粒子-グラフェンオキサイド複合体A(452mg)を得た。
【0047】
<鉄含有率の測定>
複合体Aにおける鉄元素の含有率を走査型電子顕微鏡/エネルギー分散型分光法(SEM/EDX)によって測定した。複合体Aの鉄含有率の結果を以下に示す。
【0048】
【0049】
<赤外吸収スペクトルの測定>
実施例1で得られた鉄酸化物粒子-グラフェンオキサイド複合体Aについて、FT-IR Spectrometer FT/IR-6200(日本分光株式会社製)を用いて、赤外吸収スペクトル(IR)をATR測定により行った。赤外吸収スペクトルを
図5に示す。
【0050】
図5のスペクトルにおいては、原料であるグラフェンオキサイドの赤外吸収スペクトルで確認されたO-H基に由来する、3000-3800cm
-1のブロードな吸収、並びにC=O基に由来する1700cm
-1付近の吸収が消失し(C-O基に由来する吸収のピーク高に対する、これらの吸収のピーク高の相対比が0.1以下である)、C-O基に由来する1035cm
-1付近の吸収が残ったままである。これらのことから、複合体Aにおいては、原料であるグラフェンオキサイドのカルボキシル基と水酸基が消失し、エポキシ基は残存していることが分かる。また、さらに、Fe-O基に由来する701cm
-1の吸収は実質的に存在しない(C-O基に由来する吸収のピーク高に対する、この吸収のピーク高の相対比が0.1以下である)。なお、図に記載の合成例1GOで示したグラフェンオキサイドIRデータは、懸濁液1-1を乾燥させて測定したデータである。
【0051】
<粉末X線回折測定>
実施例1で得られた鉄酸化物粒子-グラフェンオキサイド複合体Aについて、デスクトップX線回折装置MiniFlex600((株)リガク社製)を用いて、粉末X線回折(XRD)測定を行った。それぞれのXRDスペクトルを
図6に示す。
【0052】
図6に示されるように、複合体Aについて2θ=20°以上の領域における、鉄による結晶性のシャープな回折シグナルは現れていない。ブロードなシグナルのみ観測されることから鉄酸化物粒子は、非常に細かく、約3nm以下のナノ粒子として、グラフェンオキサイドに存在していることが考えられる。
【0053】
<X線光電子分光測定(XPS)の測定>
実施例1で得られた鉄酸化物粒子-グラフェンオキサイド複合体Aについて、X線光電子分光(XPS)を、オミクロン社製、 B002431(X線源Al-Kα:hν = 1486.6eV、幅=0.85eV、 出力 250W)を用いて、導電性カーボンテープに試料を圧着させ測定を行なった[5.0x10
-7Torr以下の減圧条件下、エネルギー掃引間隔;0.1eV、取り込み時間;0.2sec及び積算回数;20回とした]。XPSスペクトルを
図7に示す。
【0054】
図7から、複合体Aは、Fe
3O
4及びFe
2O
3の両方又はいずれかの一方を含んでいることが分かる。
【0055】
<走査型電子顕微鏡/エネルギー分散型分光法による分析>
実施例1で得られた鉄酸化物粒子-グラフェンオキサイド複合体Aの表面について、株式会社日立ハイテクノロジーズ社製の走査型電子顕微鏡SU6600及びブルッカー社製の付属装置(ブルッカーASX QUANTAX XFlash 5060FQ:エネルギー分散型分光法)を用いて、それぞれSEM画像(
図9)および鉄原子のマッピング画像(
図8)の観察、元素分析を行った。試料はいずれも炭素テープに貼付けて、測定を行った。
【0056】
図8から、複合体Aには、鉄原子が、均一性高く分散して担持されていることが分かる。
【0057】
また、
図9の走査型電子顕微鏡画像から、複合体Aは、鱗片状及び/又は板状の一次粒子が凝集した粒子を形成し、一次粒子の直径は0.2μm~40μmであることが確認された。
【0058】
[酸素ガス放出能の評価]
熱重量示差熱分析装置(Rigaku、TG8120)を用いて、実施例1で得られた鉄酸化物粒子-グラフェンオキサイド複合体A、合成例1で得られたグラフェンオキサイド(比較例1)、Fe
2O
3(比較例2)、及びFe
2O
3と合成例1で得られたグラフェンオキサイドとの混合物(混合質量比3:7、比較例3)を測定サンプルとして、それぞれ、加熱温度(℃)と、重量減少割合(%)及び熱流(μV)との関係を測定した。具体的には、測定サンプル10mg、参照試料α-アルミナ10mgを白金パンにそれぞれ入れ、200cc/minの窒素雰囲気にて測定した。昇温パターンは、室温から100℃まで10℃/minで昇温し、100℃にて10分保持したのち、100℃から1200℃まで10℃/minの速度で昇温した。なお、比較例2,3で用いたFe
2O
3は、三津和化学薬品株式会社 酸化鉄(III)(Iron(III) Oxide)powder ca 0.3μm 99.9%である。加熱温度(℃)と、重量減少割合(%)及び熱流(μV)との関係を示すグラフを
図10に示す。なお、グラフにおいて、実線は重量減少割合(%)であり、破線は熱流(μV)である。この結果から、各測定サンプルの還元温度(酸素発生に好適な温度)は、実施例1が690℃程度、比較例3が900℃程度であり、比較例2は測定範囲において酸素発生しないことが分かる。