(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-24
(45)【発行日】2022-04-01
(54)【発明の名称】洗浄方法、洗浄装置の使用方法および洗浄装置
(51)【国際特許分類】
C23G 5/028 20060101AFI20220325BHJP
B08B 3/04 20060101ALI20220325BHJP
B08B 3/08 20060101ALI20220325BHJP
【FI】
C23G5/028
B08B3/04 Z
B08B3/08 Z
(21)【出願番号】P 2017543610
(86)(22)【出願日】2016-09-30
(86)【国際出願番号】 JP2016079002
(87)【国際公開番号】W WO2017057669
(87)【国際公開日】2017-04-06
【審査請求日】2019-02-07
【審判番号】
【審判請求日】2021-02-24
(31)【優先権主張番号】P 2015193707
(32)【優先日】2015-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】特許業務法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中村 允彦
(72)【発明者】
【氏名】光岡 宏明
【合議体】
【審判長】池渕 立
【審判官】粟野 正明
【審判官】境 周一
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2014/0206589(US,A1)
【文献】特開2014-181405(JP,A)
【文献】特開2010-248443(JP,A)
【文献】特表2013-504658(JP,A)
【文献】特表2017-513711(JP,A)
【文献】特開2017-25210(JP,A)
【文献】特開2000-143568(JP,A)
【文献】特開平7-278029(JP,A)
【文献】特開平7-53996(JP,A)
【文献】特開平8-92600(JP,A)
【文献】今日からモノ知りシリーズ トコトンやさしい 洗浄の本(編者:日本産業洗浄協議会 洗浄技術委員会 発行所:日刊工業新聞社)2006年9月28日初版1刷発行、2014年4月25日初版6刷発行 76-77頁、94-95頁
【文献】洗浄剤・洗浄装置活用ノート(編者:日本産業洗浄協議会 発行所:(株)工業調査会)2004年10月1日 初版1刷発行、130-131頁
【文献】洗浄技術の展開,シーエムシー出版,2007年9月20日,34-47頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23G1/00-5/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
洗浄槽に収容された、(Z)-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロ-1-プロペンを含む溶剤組成物に物品を浸漬する浸漬工程と、
蒸気発生槽に収容された、前記溶剤組成物から(Z)-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロ-1-プロペンの蒸気を発生させ、前記発生させた蒸気に前記物品を曝す蒸気接触工程とを有し、
前記蒸気発生槽の温度が前記洗浄槽の温度より5℃以上高く、
前記溶剤組成物は、前記(Z)-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロ-1-プロペンと、安定化剤としてフェノール類、エーテル類、エポキシド類またはピロール類と、を含み、
前記フェノール類は、フェノール、1,2-ベンゼンジオール、2,6-ジターシャリーブチル-4-メチルフェノール、3-クレゾール、2-イソプロピル-5-メチルフェノールおよび2-メトキシフェノールからなる群より選ばれる少なくとも1種であり、
前記エーテル類は、エチルフェニルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテルおよびジエチレングリコールモノエチルエーテルからなる群より選ばれる少なくとも1種であり、
前記エポキシド類は、1,2-エポキシ-3-フェノキシプロパンおよびジエチレングリコールジグリシジルエーテルからなる群より選ばれる少なくとも1種であり、
前記ピロール類は、ピロール、N-メチルピロール、およびN-エチルピロールからなる群より選ばれる少なくとも1種であり、
前記溶剤組成物における前記フェノール類、エーテル類、エポキシド類またはピロール類の含有量の割合はそれぞれ、1質量ppm~10質量%であり、
前記溶剤組成物の全量に対する、(Z)-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロ-1-プロペンの含有量の割合が80質量%以上であることを特徴とする物品の洗浄方法。
【請求項2】
前記洗浄槽に収容された前記溶剤組成物の温度が35℃未満である、請求項1に記載の物品の洗浄方法。
【請求項3】
前記蒸気発生槽に収容された前記溶剤組成物の温度が35℃以上である、請求項1または2に記載の物品の洗浄方法。
【請求項4】
前記物品に付着した加工油を洗浄する、請求項1~3のいずれか一項に記載の物品の洗浄方法。
【請求項5】
前記加工油が、切削油、焼き入れ油、圧延油、潤滑油、機械油、プレス加工油、打ち抜き油、引き抜き油、組立油および線引き油からなる群より選ばれる1種以上である、請求項4に記載の物品の洗浄方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、洗浄方法、洗浄装置の使用方法および洗浄装置に関する。
【背景技術】
【0002】
IC、電子部品、精密機械部品、光学部品等の製造では、製造工程、組立工程、最終仕上げ工程等において、部品を洗浄用溶剤組成物によって洗浄し、該部品に付着したフラックス、加工油、ワックス、離型剤、ほこり等を除去することが行われている。
【0003】
このような洗浄に用いられる洗浄溶剤としては、不燃性で毒性が低く、乾燥性、安定性に優れ、金属、プラスチック、エラストマー等の基材を侵さず、化学的および熱的安定性に優れる点から、1,1,2-トリクロロ-1,2,2-トリフルオロエタン等のクロロフルオロカーボン(以下「CFC」という。)、2,2-ジクロロ-1,1,1-トリフルオロエタン、1,1-ジクロロ-1-フルオロエタン、1,1-ジクロロ-2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロパン(以下「HCFC-225ca」という。)、1,3-ジクロロ-1,1,2,2,3-ペンタフルオロプロパン(以下「HCFC-225cb」という。)等のハイドロクロロフルオロカーボン(以下「HCFC」という。)等を含有するフッ素系溶剤等が使用されていた。
【0004】
しかし、CFCおよびHCFCは、化学的に極めて安定であることから、気化後の対流圏内での寿命が長く、拡散して成層圏にまで達する。そのため、成層圏に到達したCFCまたはHCFCが紫外線により分解され、塩素ラジカルを発生してオゾン層が破壊される問題がある。
【0005】
一方、塩素原子を有さず、オゾン層に悪影響を及ぼさない溶剤としては、ペルフルオロカーボン(以下「PFC」という。)が知られている。またCFCおよびHCFCの代替溶剤として、ハイドロフルオロカーボン(以下「HFC」という。)、ハイドロフルオロエーテル(以下「HFE」という。)等も開発されている。しかし、HFCやPFCは、地球温暖化係数が大きいという問題がある。
【0006】
不燃性で毒性が低いというCFC、HCFC、HFC、HFEおよびPFCの特徴を持ちつつ、オゾン層に悪影響を及ぼさず、かつ、地球温暖化係数が小さい、地球環境に悪影響を及ぼさない新しい溶剤として、(Z)-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロ-1-プロペン(CF3CH=CClH、HCFO-1233zd(Z)、以下「1233zd(Z)」ともいう。)が提案されている。
【0007】
特許文献1には、1233zd(Z)を含む洗浄剤が開示されている。1233zd(Z)は、分解しやすいために大気中での寿命が短く、オゾン破壊係数や地球温暖化係数が小さく、地球環境への影響が小さいという優れた性質を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
地球環境に悪影響を及ぼすことのない溶剤として1233zd(Z)を用いた場合、汚れが充分洗浄できない場合があることを発明者らは明らかにした。さらに、1233zd(Z)は分解しやすいために、安定性に劣ることを発明者らは明らかにしたが、安定剤を用いた場合にも汚れが充分洗浄されないおそれがある。本発明は、溶剤として1233zd(Z)を含む溶剤組成物、特に安定剤を含む溶剤組成物を用いた場合に、汚れが充分洗浄できる物品の洗浄方法、洗浄装置の使用方法および洗浄装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討したところ、物品を、1233zd(Z)を含む溶剤組成物に浸漬し、および、1233zd(Z)を含む溶剤組成物から発生した蒸気に曝すことで、また、洗浄槽と、蒸気発生槽を有する洗浄装置を用いることで、溶剤として1233zd(Z)を含む溶剤組成物物品の洗浄において、汚れが充分洗浄できることを見出し、本発明を完成した。
本発明は、以下の構成を有する洗浄方法、洗浄装置の使用方法および洗浄装置を提供する。
【0011】
なお、本明細書において、ハロゲン化炭化水素については、化合物名の後の括弧内にその化合物の略称を記し、必要に応じて化合物名に代えてその略称を用いる。また、幾何異性体を有する化合物の略称に付けられた(E)は、E体(トランス体)を示し、(Z)はZ体(シス体)を示す。該化合物の名称、略称において、E体、Z体の明記がない場合、該名称、略称は、E体、Z体、およびE体とZ体の混合物を含む総称を意味する。
【0012】
[1]洗浄槽に収容された、(Z)-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロ-1-プロペンを含む溶剤組成物に物品を浸漬する浸漬工程と、
蒸気発生槽に収容された、前記溶剤組成物から(Z)-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロ-1-プロペンの蒸気を発生させ、前記発生させた蒸気に前記物品を曝す蒸気接触工程とを有し、
前記蒸気発生槽の温度が前記洗浄槽の温度より5℃以上高く、
前記溶剤組成物は、前記(Z)-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロ-1-プロペンと、安定化剤としてフェノール類、エーテル類、エポキシド類またはピロール類と、を含み、
前記フェノール類は、フェノール、1,2-ベンゼンジオール、2,6-ジターシャリーブチル-4-メチルフェノール、3-クレゾール、2-イソプロピル-5-メチルフェノールおよび2-メトキシフェノールからなる群より選ばれる少なくとも1種であり、
前記エーテル類は、エチルフェニルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテルおよびジエチレングリコールモノエチルエーテルからなる群より選ばれる少なくとも1種であり、
前記エポキシド類は、1,2-エポキシ-3-フェノキシプロパンおよびジエチレングリコールジグリシジルエーテルからなる群より選ばれる少なくとも1種であり、
前記ピロール類は、ピロール、N-メチルピロール、およびN-エチルピロールからなる群より選ばれる少なくとも1種であり、
前記溶剤組成物における前記フェノール類、エーテル類、エポキシド類またはピロール類の含有量の割合はそれぞれ、1質量ppm~10質量%であり、
前記溶剤組成物の全量に対する、(Z)-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロ-1-プロペンの含有量の割合が80質量%以上であることを特徴とする物品の洗浄方法。
[2]前記洗浄槽に収容された前記溶剤組成物の温度が35℃未満である、[1]に記載の物品の洗浄方法。
[3]前記蒸気発生槽に収容された前記溶剤組成物の温度が35℃以上である、[1]または[2]に記載の物品の洗浄方法。
[4]前記物品に付着した加工油を洗浄する、[1]~[3]のいずれか一項に記載の物品の洗浄方法。
[5]前記加工油が、切削油、焼き入れ油、圧延油、潤滑油、機械油、プレス加工油、打ち抜き油、引き抜き油、組立油および線引き油からなる群より選ばれる1種以上である、[4]に記載の物品の洗浄方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、地球環境に悪影響を及ぼさず、溶剤として1233zd(Z)を含む溶剤組成物を用いた、汚れが充分洗浄できる、物品の洗浄方法、物品の洗浄に用いる洗浄装置の使用方法および洗浄装置が提供できる。また、地球環境に悪影響を及ぼさず、安定剤をさらに含む1233zd(Z)を含む溶剤組成物を用いた、汚れが充分洗浄できる物品の洗浄方法、洗浄装置の使用方法および洗浄装置が提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本実施形態の洗浄方法に使用される洗浄装置の構成を概略的に示す図である。
【
図2】本実施形態の洗浄方法に使用される他の洗浄装置の構成を概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[洗浄方法]
本発明の洗浄方法は、1233zd(Z)を含む溶剤組成物に物品を浸漬する浸漬工程と、前記溶剤組成物から1233zd(Z)の蒸気を発生させ、前記発生させた蒸気に前記物品を曝す蒸気接触工程とを有することを特徴とする。
【0016】
本発明の洗浄方法において浸漬工程と蒸気接触工程はその順に行うことが好ましい。
本発明の洗浄方法において、浸漬工程は、洗浄槽に収容された上記溶剤組成物に物品を浸漬する工程が好ましく、蒸気接触工程は、蒸気発生槽に収容された上記溶剤組成物から発生させた蒸気に物品を曝す工程であることが好ましい。
【0017】
本発明の洗浄方法は、洗浄される物品(以下、「被洗浄物品」)に付着した付着物を洗浄する方法であり、例えば、1233zd(Z)を含む溶剤組成物をそれぞれ収容する洗浄槽と蒸気発生槽を有する後述の本発明の洗浄装置を用いて行うことができる。以下、本発明の洗浄方法において、本発明の洗浄装置を用いた例を説明する。
【0018】
被洗浄物品はまず、洗浄槽内の1233zd(Z)を含む溶剤組成物に浸漬された後、蒸気発生槽の上方に移動する。ついで、被洗浄物品は蒸気発生槽の上方で、蒸気発生槽が収容する1233zd(Z)を含む溶剤組成物から発生した蒸気に曝される。蒸気発生槽では被洗浄物品は1233zd(Z)を含む溶剤組成物に浸漬されることはない。必要に応じ、洗浄槽と蒸気発生槽の間に1233zd(Z)を含む溶剤組成物を収容するリンス槽を設け、該溶剤組成物に浸漬することにより洗浄槽に浸漬後の被洗浄物品をさらに浸漬処理してもよい。
【0019】
本例の洗浄方法によれば、被洗浄物品は、洗浄槽で1233zd(Z)を含む溶剤組成物に浸漬後、蒸気発生槽上の蒸気層中を通過する際に1233zd(Z)を含む溶剤組成物の蒸気に曝されることで洗浄される。上記洗浄装置においては、装置内全体が、冷却管の位置を上限に、1233zd(Z)を含む溶剤組成物の蒸気で満たされている。以下、1233zd(Z)を含む溶剤組成物を溶剤組成物Lともいう。また、被洗浄物品を溶剤組成物Lに浸漬する処理を浸漬洗浄、溶剤組成物Lの蒸気に曝す処理を蒸気洗浄ともいう。
【0020】
そして、蒸気発生槽の上方の空間では、溶剤組成物Lの蒸気が蒸気発生槽から連続的に発生していることから、蒸気発生槽から洗浄槽の方向へ向かう溶剤組成物Lの蒸気の流れが生じているものと思われる。蒸気発生槽の上方の空間に被洗浄物品が至ると、かかる蒸気の流れを受けた被洗浄物品の表面では溶剤組成物Lが蒸気の状態から次々に結露して液状になる。液状になった溶剤組成物Lは、被洗浄物品の表面において洗浄効果を発揮するものと思われる。したがって、洗浄槽と、蒸気発生槽を有する洗浄装置と1233zd(Z)を含む溶剤組成物を用いる物品の洗浄方法においては、洗浄槽で浸漬洗浄を受けた被洗浄物品に洗浄しきれずに残った汚れが、蒸気発生槽において低減され、実用上問題ないレベルにまで洗浄されると考えられる。
【0021】
本発明の洗浄方法においては、被洗浄物品を浸漬洗浄する際の前記洗浄槽の温度が35℃未満であることが好ましい。かかる範囲であれば洗浄槽からの溶剤組成物Lの蒸発量が抑えられる。なお、洗浄槽の温度は、洗浄槽内に収容された溶剤組成物Lの温度を意味する。また、後述する蒸気発生槽の温度およびリンス槽の温度についても同様に、それぞれ、蒸気発生槽、リンス槽に収容された溶剤組成物Lの温度を意味する。
【0022】
前記洗浄槽の温度としては20℃以上35℃未満が好ましく、25℃以上34℃未満がより好ましく、28℃以上33℃未満が特に好ましい。洗浄槽の温度が低すぎると洗浄効率が落ちるおそれがある。洗浄槽の温度が上記範囲より高すぎても洗浄効率が落ちるおそれがある。これは、洗浄槽からの蒸気発生量が増えることにより、相対的に蒸気発生槽からの蒸気発生量が減少し、蒸気発生槽の上方の蒸気ゾーンで行われる蒸気洗浄において効率よく蒸気が供給されないことによると考えられる。
【0023】
本発明の洗浄方法においては、被洗浄物品を蒸気洗浄する際の前記蒸気発生槽の温度が35℃以上であることが好ましい。かかる範囲であれば汚れがほぼ残らない洗浄が可能になる。
【0024】
蒸気発生槽の温度としては35℃以上40℃未満が好ましく、36℃以上40℃未満がより好ましく、37℃以上40℃未満が特に好ましい。蒸気発生槽の温度が低すぎると蒸気発生槽からの蒸気発生量が減少することにより、蒸気発生槽の上方の蒸気ゾーンで行われる蒸気洗浄において効率よく蒸気が供給されないことにより洗浄効率が落ちる。蒸気発生槽の温度が高すぎると、蒸気発生量が増加し蒸気ロスが増えるとともに、溶剤組成物Lの熱による分解が起こりやすい。特に本発明に用いる溶剤組成物Lは安定性が低く分解により発生した組成物や、分解を抑えるために添加する安定剤が残り易く、蒸気発生槽上方で行われる蒸気洗浄の効率は最終的に高い洗浄度を得るためには重要である。
【0025】
本発明の洗浄方法においては、被洗浄物品を洗浄する際の前記洗浄槽の温度が35℃未満であり前記蒸気発生槽の温度が35℃以上であることが好ましく、洗浄槽の温度が34℃未満であり蒸気発生槽の温度が36℃以上であることが好ましく、洗浄槽の温度が33℃未満であり蒸気発生槽の温度が37℃以上であることが特に好ましい。かかる範囲であれば汚れの残渣がほとんど見られない洗浄が可能である。
【0026】
洗浄槽と蒸気発生槽の温度差としては、蒸気発生槽の温度が洗浄槽の温度より5℃以上高いことが好ましく、7℃以上高いことがより好ましく、8℃以上高いことが特に好ましい。かかる範囲であれば汚れの残渣がほとんど見られない洗浄が可能である。
【0027】
本発明の洗浄方法における被洗浄物品としては例えば精密機械工業、金属加工工業、光学機械工業、電子工業、プラスチック工業等における金属、セラミック、ガラス、プラスチック、エラストマー等の加工部品等が挙げられる。具体的には、バンパー、ギア、ミッション部品、ラジエーター部品等の自動車部品、プリント基板、IC部品、リードフレーム、モーター部品、コンデンサー等の電子電気部品、ベアリング、ギア、エンプラ製歯車、時計部品、カメラ部品、光学レンズ等の精密機械部品、印刷機械、印刷機ブレード、印刷ロール、圧延製品、建設機械、ガラス基板、大型重機部品等の大型機械部品、食器類等の生活製品や繊維製品等が挙げられる。
【0028】
本発明の洗浄方法において、洗浄除去される付着物は、上記各種の被洗浄物品に付着したフラックス、加工油、例えば、切削油、焼き入れ油、圧延油、潤滑油、機械油、プレス加工油、打ち抜き油、引き抜き油、組立油、線引き油等、離型剤、ほこり等が挙げられる。本発明に使用される溶剤組成物Lは従来の溶剤組成物であるHFCやHFEなどと比較して加工油の溶解性に優れることから、加工油の洗浄に用いることが好ましい。
【0029】
また、本発明の洗浄方法は、金属、プラスチック、エラストマー、ガラス、セラミックおよびそれらの複合材料等、様々な材質の被洗浄物品の洗浄に適用できる。
【0030】
<溶剤組成物L>
本発明の洗浄方法、および、後述する本発明の洗浄装置の使用方法および洗浄装置に用いる溶剤組成物Lは、1233zd(Z)を含む溶剤(以下、「溶剤(A)」という。)を含有する。
【0031】
溶剤組成物Lに用いる1233zd(Z)は、炭素原子-炭素原子間に二重結合を持つHCFOの1種であり、大気中での寿命が短く、オゾン破壊係数や地球温暖化係数が小さい。また、1233zd(Z)の沸点は約40℃(常圧)で乾燥性に優れている。また、沸騰させて蒸気となっても約40℃であるので、樹脂部品等の熱による影響を受けやすい部品に対しても悪影響を及ぼし難い。また、1233zd(Z)は引火点を持たず、表面張力や粘度も低く、室温でも容易に蒸発する等、優れた性能を有している。
【0032】
本発明に用いる溶剤組成物Lは、溶剤(A)を含有する。溶剤(A)は1233zd(Z)のみで構成されてもよく、1233zd(Z)の有する上記特徴を害しない範囲で、溶質となる各種の物質の溶解性を高める、揮発速度を調節する等の目的に応じて、1233zd(Z)以外の溶剤(以下「溶剤(a1)」という。)を含有していてもよい。
【0033】
溶剤(a1)は1233zd(Z)に可溶な溶剤であれば特に制限されない。なお、1233zd(Z)に可溶な溶剤とは、1233zd(Z)と該溶剤とを任意の混合割合で混合した際に、常温(25℃)で撹拌することにより相分離や濁りを起こさずに1233zd(Z)に均一に溶解する溶剤を意味する。また、溶剤とは常温(25℃)で液状の物質をいう。ただし、本発明における安定剤(B)を除く。
【0034】
本発明に用いる溶剤組成物Lにおける溶剤(A)の含有割合は、溶剤組成物Lの全量に対して、80質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましく、95質量%以上がさらに好ましく、99質量%以上が特に好ましい。溶剤組成物Lにおける溶剤(A)の含有割合は多いほど好ましい。したがって、溶剤組成物Lにおける溶剤(A)の含有割合の上限値は、特に好ましくは用いる安定剤(B)の含有割合の下限値を引いた値となる。
【0035】
溶剤(A)全量に対する1233zd(Z)の含有量の割合、すなわち1233zd(Z)と溶剤(a1)の合計量100質量%に対する1233zd(Z)の含有量の割合としては、50質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、90質量%以上がさらに好ましく、95質量%以上がさらにより好ましく、99質量%以上が特に好ましく、100質量%が最も好ましい。
【0036】
溶剤(A)全量に対する1233zd(Z)の含有量の割合が前記下限値以上であれば、1233zd(Z)が持つ優れた乾燥性が阻害されることがない。1233zd(Z)の含有割合の上限値は、100質量%である。溶剤(A)全量に対する溶剤(a1)の含有量の割合が上記下限値以上であれば、溶剤(a1)による効果が充分に得られる。溶剤(A)全量に対する溶剤(a1)の含有量の割合が上記上限値以下であれば、溶剤組成物Lは乾燥性に優れる。
【0037】
また、溶剤組成物Lの全量に対する1233zd(Z)の含有量の割合は80質量%以上が好ましく、90質量%以上がさらに好ましく、95質量%以上がさらにより好ましく、99質量%以上が特に好ましい。
【0038】
また、1233zd(Z)と溶剤(a1)が共沸組成を形成する場合は、共沸組成での使用も可能である。
【0039】
1233zd(Z)は、例えば、特表2012-509324号公報の段落[0011]~[0012]に記載の方法;特表2015-505302号公報に記載の方法;国際公開2014/175403号に記載の方法で得られた反応生成物を蒸留精製する方法等で製造できる。
【0040】
具体的には、1,1,3,3-テトラクロロロプロペン(HCO-1230za)および/または1,1,1,3,3-ペンタクロロプロパン(HCC-240fa)を、触媒の存在下または不存在下で気相フッ素化させる方法、またはHCO-1230zaを液相フッ素化させる方法、1,1,2-トリクロロ-3,3,3-トリフルオロプロパン(233da)を脱塩素化剤で処理する方法、1,1-ジクロロ-3,3,3-トリフルオロプロパン(243fa)および1,1-ジクロロ-1,3,3-トリフルオロプロパン(243fb)の合計量に対して、243fbが5モル%以下の組成物を脱塩化水素反応させる方法等で1233zd(Z)を含む反応生成物を得る。得られた1233zd(Z)を含む反応生成物を蒸留精製して1233zd(Z)を製造することができる。
【0041】
溶剤(a1)としては、炭化水素、アルコール、ケトン、エステル、クロロカーボン、HFCおよびHFEからなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましい。
【0042】
溶剤(a1)である炭化水素としては、炭素数が5以上の炭化水素が好ましい。炭素数が5以上の炭化水素であれば、鎖状であっても環状であってもよく、また飽和炭化水素であっても、不飽和炭化水素であってもよい。
【0043】
炭化水素として、具体的には、n-ペンタン、2-メチルブタン、n-ヘキサン、2-メチルペンタン、2,2-ジメチルブタン、2,3-ジメチルブタン、n-ヘプタン、2-メチルヘキサン、3-メチルヘキサン、2,4-ジメチルペンタン、n-オクタン、2-メチルヘプタン、3-メチルヘプタン、4-メチルヘプタン、2,2-ジメチルヘキサン、2,5-ジメチルヘキサン、3,3-ジメチルヘキサン、2-メチル-3-エチルペンタン、3-メチル-3-エチルペンタン、2,3,3-トリメチルペンタン、2,3,4-トリメチルペンタン、2,2,3-トリメチルペンタン、2-メチルヘプタン、2,2,4-トリメチルペンタン、n-ノナン、2,2,5-トリメチルヘキサン、n-デカン、n-ドデカン、2-メチル-2-ブテン、1-ペンテン、2-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-ノネン、1-デセン、シクロペンタン、メチルシクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、ビシクロヘキサン、シクロヘキセン、α-ピネン、ジペンテン、デカリン、テトラリン、アミルナフタレン等が挙げられる。なかでも、n-ペンタン、シクロペンタン、n-ヘキサン、シクロヘキサン、n-ヘプタンが好ましい。
【0044】
溶剤(a1)であるアルコールとしては、炭素数1~16のアルコールが好ましい。炭素数1~16のアルコールであれば、鎖状であっても環状であってもよく、また飽和アルコールであっても、不飽和アルコールであってもよい。
【0045】
アルコールとして、具体的には、メタノール、エタノール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n-ブチルアルコール、sec-ブチルアルコール、イソブチルアルコール、tert-ブチルアルコール、1-ペンタノール、2-ペンタノール、1-エチル-1-プロパノール、2-メチル-1-ブタノール、3-メチル-1-ブタノール、3-メチル-2-ブタノール、ネオペンチルアルコール、1-ヘキサノール、2-メチル-1-ペンタノール、4-メチル-2-ペンタノール、2-エチル-1-ブタノール、1-ヘプタノール、2-ヘプタノール、3-ヘプタノール、1-オクタノール、2-オクタノール、2-エチル-1-ヘキサノール、1-ノナノール、3,5,5-トリメチル-1-ヘキサノール、1-デカノール、1-ウンデカノール、1-ドデカノール、アリルアルコール、プロパルギルアルコール、ベンジルアルコール、シクロヘキサノール、1-メチルシクロヘキサノール、2-メチルシクロヘキサノール、3-メチルシクロヘキサノール、4-メチルシクロヘキサノール、α-テルピネオール、2,6-ジメチル-4-ヘプタノール、ノニルアルコール、テトラデシルアルコール等が挙げられる。なかでも、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールが好ましい。
【0046】
溶剤(a1)であるケトンとしては、炭素数3~9のケトンが好ましい。炭素数3~9のケトンであれば、鎖状であっても環状であってもよく、また飽和ケトンであっても、不飽和ケトンであってもよい。
【0047】
ケトンとして具体的には、アセトン、メチルエチルケトン、2-ペンタノン、3-ペンタノン、2-ヘキサノン、メチルイソブチルケトン、2-ヘプタノン、3-ヘプタノン、4-ヘプタノン、ジイソブチルケトン、メシチルオキシド、ホロン、2-オクタノン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン、イソホロン、2,4-ペンタンジオン、2,5-ヘキサンジオン、ジアセトンアルコール、アセトフェノン等が挙げられる。なかでも、アセトン、メチルエチルケトンが好ましい。
【0048】
溶剤(a1)であるエステルとしては、炭素数2~19のエステルが好ましい。炭素数2~19のエステルであれば、鎖状であっても環状であってもよく、また飽和エステルであっても、不飽和エステルであってもよい。
【0049】
エステルとして具体的には、ギ酸メチル、ギ酸エチル、ギ酸プロピル、ギ酸ブチル、ギ酸イソブチル、ギ酸ペンチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、酢酸sec-ブチル、酢酸ペンチル、酢酸メトキシブチル、酢酸sec-ヘキシル、酢酸2-エチルブチル、酢酸2-エチルヘキシル、酢酸シクロヘキシル、酢酸ベンジル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸ブチル、酪酸メチル、酪酸エチル、酪酸ブチル、イソ酪酸イソブチル、2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオン酸エチル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸プロピル、安息香酸ブチル、安息香酸ベンジル、γ-ブチロラクトン、シュウ酸ジエチル、シュウ酸ジブチル、シュウ酸ジペンチル、マロン酸ジエチル、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル、マレイン酸ジブチル、酒石酸ジブチル、クエン酸トリブチル、セバシン酸ジブチル、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジブチル等が挙げられる。なかでも、酢酸メチル、酢酸エチルが好ましい。
【0050】
溶剤(a1)であるクロロカーボンとしては、炭素数1~3のクロロカーボンが好ましい。炭素数1~3のクロロカーボンであれば、鎖状であっても環状であってもよく、また飽和クロロカーボンであっても、不飽和クロロカーボンであってもよい。
【0051】
クロロカーボンとして、具体的には、塩化メチレン、1,1-ジクロロエタン、1,2-ジクロロエタン、1,1,2-トリクロロエタン、1,1,1,2-テトラクロロエタン、1,1,2,2-テトラクロロエタン、ペンタクロロエタン、1,1-ジクロロエチレン、(Z)-1,2-ジクロロエチレン、(E)-1,2-ジクロロエチレン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン等が挙げられる。なかでも、塩化メチレン、(E)-1,2-ジクロロエチレン、トリクロロエチレンが好ましい。
【0052】
溶剤(a1)であるHFCとしては、炭素数4~8の鎖状または環状のHFCが好ましく、1分子中のフッ素原子数が水素原子数以上であるHFCに含まれる溶剤がより好ましい。
【0053】
HFCとして、具体的には、1,1,1,3,3-ペンタフルオロブタン、1,1,1,2,2,3,4,5,5,5-デカフルオロペンタン、1,1,2,2,3,3,4-ヘプタフルオロシクロペンタン、1,1,1,2,2,3,3,4,4-ノナフルオロヘキサン、1,1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6-トリデカフルオロヘキサン、1,1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6-トリデカフルオロオクタン等が挙げられる。なかでも、1,1,1,2,2,3,4,5,5,5-デカフルオロペンタン、1,1,1,2,2,3,3,4,4-ノナフルオロヘキサン、1,1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6-トリデカフルオロヘキサンが好ましい。
【0054】
溶剤(a1)であるHFEとしては、例えば、(ペルフルオロブトキシ)メタン、(ペルフルオロブトキシ)エタン、1,1,2,2-テトラフルオロ-1-(2,2,2-トリフルオロエトキシ)エタン等が挙げられる。なかでも、(ペルフルオロブトキシ)メタン、1,1,2,2-テトラフルオロ-1-(2,2,2-トリフルオロエトキシ)エタンが好ましい。
【0055】
本発明に用いる溶剤組成物Lに含まれる溶剤(a1)は、1種であってもよく、2種以上であってもよい。
【0056】
溶剤(a1)は引火点を持たない溶剤であることが好ましい。引火点を持たない溶剤(a1)としては、1,1,1,2,2,3,4,5,5,5-デカフルオロペンタン、1,1,1,2,2,3,3,4,4-ノナフルオロヘキサン、1,1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6-トリデカフルオロヘキサン等のHFCや、(ペルフルオロブトキシ)メタン、1,1,2,2-テトラフルオロ-1-(2,2,2-トリフルオロエトキシ)エタン等のHFEが挙げられる。溶剤(a1)として引火点を有する溶剤を用いる場合には、本発明に用いる溶剤組成物Lとした際に引火点を持たない範囲で、1223zd(Z)と混合して用いることが好ましい。
【0057】
なお、溶剤組成物Lにおいては、溶剤(a1)として、1233zd(Z)の幾何異性体である(E)-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロ-1-プロペン(HCFO-1233zd(E)、以下「1233zd(E)」ともいう。)を、含有してもよい。1233zd(E)は、上記1233zd(Z)を製造する際に1233zd(Z)とともに生成される副生物である。1233zd(Z)と1233zd(E)を含む反応生成物から1233zd(E)を除去するのには高度な精製が要求される。よって、溶剤組成物Lが1233zd(E)を上記割合で含有する場合、1233zd(Z)の高度な精製を省略することができ、生産性の向上につながる。1233zd(E)の含有割合は、溶剤(A)全量に対して0.1質量%以下が好ましい。
【0058】
さらに、本発明に用いる溶剤組成物Lは、溶剤(A)の他に、フェノール類、エーテル類、エポキシド類、ピロール類およびニトロ化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の安定剤(B)を添加してもよい。
【0059】
(フェノール類)
安定剤(B)として用いるフェノール類とは、芳香族炭化水素核に1個以上のヒドロキシ基を有する芳香族ヒドロキシ化合物をいう。フェノール類としては、溶剤(A)に溶解性の高い化合物が好ましい。芳香族炭化水素核としてはベンゼン核が好ましい。ヒドロキシ基の数は1~6個が好ましく、1~3個がより好ましく、1個が特に好ましい。
【0060】
芳香族炭化水素核のヒドロキシ基が結合した以外の炭素原子には水素原子の他に1つ以上の置換基が結合していてもよい。置換基としては、炭化水素基、アルコキシ基、アシル基、カルボニル基などが挙げられる。また、芳香族炭化水素核に結合している1つ以上の水素原子がハロゲン原子に置換されていてもよい。
【0061】
炭化水素基としては、アルキル基、アルケニル基、芳香族炭化水素基、アラルキル基が挙げられる。このうち、アルキル基、アルケニル基、アルコキシ基、アシル基、カルボニル基の炭素数は1~6が好ましく、1~4がより好ましい。芳香族炭化水素基の炭素数は6~10が好ましく、アラルキル基の炭素数は7~10が好ましい。炭化水素基としてはアルキル基やアルケニル基が好ましく、特にアルキル基が好ましい。
【0062】
置換基を有する場合、その数は、1~5個が好ましく、1~3個がより好ましい。置換基の位置は、特に制限されない。芳香族炭化水素核のヒドロキシ基に対して少なくともオルト位が置換されていることが好ましい。
【0063】
なかでも、芳香族炭化水素核がベンゼン核であって、ヒドロキシ基を1~3個有する、置換または非置換基の化合物が好ましい。置換基を有するフェノール類として、ヒドロキシ基に対して少なくともオルト位に炭素数1~4のアルキル基および/またはアルコキシ基を有する、置換基数1~3個の化合物が好ましい。オルト位のアルキル基としてはターシャリーブチル基などの分岐アルキル基が好ましい。オルト位が2つ存在する場合はそのいずれにもアルキル基が存在していてもよい。
【0064】
フェノール類として、具体的にはフェノール、1,2-ベンゼンジオール、1,3-ベンゼンジオール、1,4-ベンゼンジオール、1,3,5-ベンゼントリオール、2,6-ジターシャリーブチル-4-メチルフェノール、2,4,6-トリターシャリーブチルフェノール、2-ターシャリーブチルフェノール、3-ターシャリーブチルフェノール、4-ターシャリーブチルフェノール、2,4-ジターシャリーブチルフェノール、2,6-ジターシャリーブチルフェノール、4,6-ジターシャリーブチルフェノール、1-クレゾール、2-クレゾール、3-クレゾール、2,3-ジメチルフェノール、2,4-ジメチルフェノール、2,5-ジメチルフェノール、2,6-ジメチルフェノール、2,3,6-トリメチルフェノール、2,4,6-トリメチルフェノール、2,5,6-トリメチルフェノール、3-イソプロピルフェノール、2-イソプロピル-5-メチルフェノール、2-メトキシフェノール、3-メトキシフェノール、4-メトキシフェノール、2-エトキシフェノール、3-エトキシフェノール、4-エトキシフェノール、2-プロポキシフェノール、3-プロポキシフェノール、4-プロポキシフェノール、4-ターシャリーブチルカテコールおよびα-トコフェロール等が挙げられる。
【0065】
なかでも、フェノール、1,2-ベンゼンジオール、2,6-ジターシャリーブチル-4-メチルフェノール、3-クレゾール、2-イソプロピル-5-メチルフェノールおよび2-メトキシフェノールが好ましい。
本発明に用いる溶剤組成物Lにおいては、安定剤(B)としてフェノール類の1種を用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0066】
本発明に用いる溶剤組成物Lにおけるフェノール類の含有量の割合は、溶剤組成物Lの全量に対して、1質量ppm~10質量%が好ましく、より好ましくは3質量ppm~7質量%、さらに好ましくは5質量ppm~5質量%である。
【0067】
溶剤組成物Lにおけるフェノール類の含有量の割合が、上記好ましい範囲の下限値以上であれば、安定化のための充分な効果が発揮される。該含有量の割合が、上記好ましい範囲の上限値以下であれば表面張力や粘度が低く浸透性がよく、室温でも容易に蒸発する。
【0068】
(エーテル類)
安定剤(B)として用いるエーテル類とは、酸素原子に2つの炭化水素基が結合した鎖状エーテルと環を構成する原子として酸素原子を有する環状エーテル(ただし、3員環状エーテルであるエポキシ環を除く)とをいう。エーテル類における上記炭素原子に挟まれた酸素原子をエーテル性酸素原子という。なお、本発明においては、エーテル性酸素原子とエポキシ基の両方を有する化合物はエポキシド類に分類する。
【0069】
安定剤(B)として用いるエーテル類としては、溶剤(A)に溶解性の高い化合物が好ましい。鎖状エーテルと環状エーテルにおけるエーテル性酸素原子の数は2以上であってもよい。エーテル性酸素原子の数は好ましくは1~3である。さらに、エーテル類は飽和エーテル類であっても、不飽和エーテル類であってもよい。エーテル類の炭素数は2~12が好ましく、2~8がより好ましい。また、エーテルを構成する炭化水素基は脂肪族炭化水素基であっても芳香族炭化水素基であってもよく、その炭素原子にはハロゲン原子、ヒドロキシ基等の置換基が結合していてもよい。
【0070】
鎖状エーテルとして、具体的には、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジペンチルエーテル、ジイソペンチルエーテル、ジアリルエーテル、エチルメチルエーテル、エチルプロピルエーテル、エチルイソプロルエーテル、エチルイソブチルエーテル、エチルイソペンチルエーテル、エチルビニルエーテル、アリルエチルエーテル、エチルフェニルエーテル、エチルナフチルエーテル、エチルプロパルギルエーテル、ブチルビニルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールモノベンジルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジフェニルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールメチルエーテル、アニソール、メチルアニソール、アネトール、フェネトール、1,1,1-トリメトキシエタン、1,1,2-トリメトキシエタン、1,1,1-トリエトキシエタン、1,1,2-トリエトキシエタン等が挙げられる。
【0071】
環状エーテルとしては、4~6員環の環状エーテルが好ましく、具体的には、1,4-ジオキサン、1,3-ジオキサン、1,3,5-トリオキサン、フラン、2-メチルフラン、テトラヒドロフラン等が挙げられる。
【0072】
安定剤(B)として用いるエーテル類としては、鎖状エーテルであるエチルフェニルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、環状エーテルである1、4-ジオキサン、1,3-ジオキサン、1,3,5-トリオキサン、フラン、2-メチルフランおよびテトラヒドロフランが好ましい。
安定剤(B)としてエーテル類の1種を用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0073】
本発明に用いる溶剤組成物Lにおけるエーテル類の含有量の割合は、溶剤組成物Lの全量に対して、1質量ppm~10質量%が好ましく、より好ましくは10質量ppm~7質量%、さらに好ましくは0.01~5質量%である。
【0074】
溶剤組成物Lにおけるエーテル類の含有量の割合が、上記好ましい範囲の下限値以上であれば、安定化のための充分な効果が得られる。該含有量の割合が、上記好ましい範囲の上限値以下であれば、表面張力や粘度が低く浸透性がよく、室温でも容易に蒸発する。
【0075】
(エポキシド類)
本発明における安定剤(B)として用いるエポキシド類とは、3員環状エーテルであるエポキシ基を1個以上有する化合物をいう。安定剤(B)として用いるエポキシド類としては、溶剤(A)に溶解性の高い化合物が好ましい。エポキシド類は、エポキシ基を1分子中に2個以上有していてもよい。エポキシド類が有するエポキシ基の数は1~3個が好ましい。エポキシド類は、脂肪族エポキシドであっても、芳香族エポキシドであってもよい。エポキシド類は、ハロゲン原子、エーテル性酸素原子、ヒドロキシ基等の置換基を有していてもよい。エポキシド類の炭素原子数は12以下が好ましい。
【0076】
エポキシド類として、具体的には、1,2-プロピレンオキシド、1,2-ブチレンオキシド、1,2-エポキシ-3-フェノキシプロパン、メチルグリシジルエーテル、エチルグリシジルエーテル、ブチルグリシジルエーテル、ビニルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、エピクロロヒドリン、d-リモネンオキシドおよびl-リモネンオキシド等が挙げられる。
【0077】
なかでも、1,2-プロピレンオキシド、1,2-ブチレンオキシド、ブチルグリシジルエーテル、1,2-エポキシ-3-フェノキシプロパンおよびジエチレングリコールジグリシジルエーテルが好ましい。
本発明に用いる溶剤組成物Lにおいては、安定剤(B)としてエポキシド類の1種を用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0078】
溶剤組成物Lにおけるエポキシド類の含有量の割合は、溶剤組成物Lの全量に対して、1質量ppm~10質量%が好ましく、より好ましくは10質量ppm~7質量%、さらに好ましくは0.01~5質量%である。
【0079】
溶剤組成物Lにおけるエポキシド類の含有量の割合が、上記好ましい範囲の下限値以上であれば、安定化のための充分な効果が得られる。該含有量の割合が、上記好ましい範囲の上限値以下であれば、表面張力や粘度が低く浸透性がよく、室温でも容易に蒸発する。
【0080】
(ピロール類)
安定剤(B)として用いるピロール類とは、炭素、窒素原子からなる複素環式5員環の化合物をいう。ピロール類としては、溶剤(A)に溶解性の高い化合物が好ましい。また、ピロール類は窒素原子、炭素原子のいずれかに置換基を有していてもよい。ピロール類が置換基を有する場合、置換基の数は1~5が好ましい。置換基としては、炭素数1~3のアルキル基が好ましい。
【0081】
ピロール類として、具体的には、ピロール、N-メチルピロール、N-エチルピロール等が挙げられる。なかでも、ピロールおよびN-メチルピロールが好ましい。本発明に用いる溶剤組成物Lにおいては、安定剤(B)としてピロール類の1種を用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0082】
本発明に用いる溶剤組成物Lにおけるピロール類の含有量の割合は、溶剤組成物Lの全量に対して、1質量ppm~10質量%が好ましく、より好ましくは3質量ppm~7質量%、さらに好ましくは5質量ppm~5質量%である。
【0083】
溶剤組成物Lにおけるピロール類の含有量の割合が、上記好ましい範囲の下限値以上であれば、安定化のための充分な効果が発揮される。該含有量の割合が、上記好ましい範囲の上限値以下であれば、表面張力や粘度が低く浸透性がよく、室温でも容易に蒸発する。
【0084】
(ニトロ化合物)
安定剤(B)として用いるニトロ化合物とは、有機化合物の炭素原子にニトロ基-NO2が結合した有機化合物のことをいう。ニトロ化合物としては、溶剤(A)への溶解性があり、それ自体揮発性を有することで、溶剤(A)とともに揮発して洗浄等に際して物品の表面に残留しにくいことが好ましい。該観点から、ニトロ化合物としては、脂肪族ニトロ化合物が好ましく、沸点が100℃~150℃の化合物が好ましい。
【0085】
このようなニトロ化合物として、具体的には、ニトロメタン、ニトロエタン、1-ニトロプロパン、2-ニトロプロパン、ニトロエチレン等が挙げられ、上記観点から、ニトロメタン、ニトロエタン、1-ニトロプロパン、2-ニトロプロパンがより好ましい。溶剤組成物Lにおいては、安定剤(B)としてニトロ化合物の1種を用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0086】
本発明に用いる溶剤組成物Lにおけるニトロ化合物の含有量の割合は、溶剤組成物Lの全量に対して、1質量ppm~10質量%が好ましく、0.01~7質量%がより好ましく、0.05質量%~5質量%がさらに好ましい。
【0087】
溶剤組成物Lにおけるニトロ化合物の含有量の割合が、上記好ましい範囲の下限値以上であれば、金属腐食防止のための充分な効果が発揮される。該含有量の割合が、上記好ましい範囲の上限値以下であれば、表面張力や粘度が低く浸透性がよく、室温でも容易に蒸発する。
【0088】
本発明に用いる溶剤組成物Lは、上記溶剤(A)任意に添加する安定剤(B)の各成分を秤量し混合することで作製できる。
【0089】
[洗浄装置]
本発明の洗浄装置は、物品を浸漬するための1233zd(Z)を含む溶剤組成物を収容する洗浄槽と、物品を蒸気に曝すための蒸気を発生させる蒸気発生槽を有し、蒸気発生槽は溶剤組成物Lを収容し溶剤組成物Lから蒸気を発生させることを特徴とする。本発明の洗浄装置は、上記本発明の洗浄のための装置として好適である。
【0090】
本発明の洗浄装置は、例えば、少なくとも洗浄槽と蒸気発生槽を有する、公知の多槽式一液洗浄装置の、洗浄槽および蒸気発生槽のそれぞれに溶剤組成物Lを収容して得られる。多槽式一液洗浄装置は、洗浄槽、リンス槽および蒸気発生槽の三槽を有する三槽式一液洗浄装置と、洗浄槽と蒸気発生槽の二槽を有する二槽式一液洗浄装置に大別できる。当該装置は主として、電子電気部品、精密機械部品、光学機器部品等を洗浄することができる。
【0091】
図面を参照しながら、二槽式一液洗浄装置を例に本発明の洗浄装置について説明するが、後述するように本発明ではリンス槽を有する三槽式一液洗浄装置を用いてもよい。
【0092】
図1は、本発明の洗浄装置の一例である二槽式一液洗浄装置10の構造を概略的に示す図である。
図1に示す二槽式一液洗浄装置10は、主な構造として溶剤組成物Lを入れる洗浄槽1および蒸気発生槽3、溶剤組成物Lの蒸気に満たされる蒸気ゾーン4、蒸発した溶剤組成物Lを冷却する冷却管9、冷却管9によって凝縮された溶剤組成物Lの液と冷却管に付着した水とを静置分離するための水分離槽5を備えている。実際の洗浄においては被洗浄物品Dを専用のジグやカゴ等に入れて、洗浄装置10内を洗浄槽1内、蒸気発生槽3上方の蒸気ゾーン4の順に移動しながら洗浄を完了させる。
【0093】
洗浄槽1の下部にはヒーター7および超音波振動子8が備えられている。洗浄槽1内で、ヒーター7によって溶剤組成物Lを加熱昇温し、一定温度にコントロールしながら、超音波振動子8により発生したキャビテーションで被洗浄物品Dに物理的な力を付与し、被洗浄物品Dに付着した汚れを洗浄除去する。このときの、物理的な力としては超音波以外にも、揺動や溶剤組成物Lの液中噴流等のこれまでの洗浄機に採用されているいかなる方法を使用してもよい。なお、洗浄槽1における被洗浄物品Dの洗浄において、超音波振動は必須ではなく、必要に応じて超音波振動なしに洗浄を行ってもよい。二槽式一液洗浄装置10においては被洗浄物品Dを洗浄槽1から移動する際、溶剤組成物L成分が被洗浄表面に付着している。そのため、被洗浄物品D表面での乾燥による汚れ成分の固着を防止しつつ、被洗浄物品Dを蒸気発生槽3上へ移動することが可能となる。なお、洗浄装置10は、洗浄槽1に収容される溶剤組成物Lのオーバーフローが蒸気発生槽3に流入する設計である。
【0094】
蒸気発生槽3の下部には、蒸気発生槽3内の溶剤組成物Lを加熱するヒーター6が備えられている。蒸気発生槽3内に収容される、洗浄槽1からのオーバーフローを含む溶剤組成物Lは、ヒーター6で加熱沸騰され、その組成の一部または全部が蒸気となって矢印13の示す方向、すなわち蒸気発生槽3の上方へ上昇し、蒸気発生槽3の上方に溶剤組成物Lの蒸気で満たされた蒸気ゾーン4が形成される。洗浄槽1での浸漬洗浄を終えた被洗浄物品Dは蒸気発生槽3の上方の蒸気ゾーン4に移送され溶剤組成物Lの蒸気に曝されて蒸気洗浄される。蒸気洗浄においては、被洗浄物品Dの表面で溶剤組成物Lの蒸気が凝集し液化した成分が被洗浄物品Dを洗浄する。蒸気洗浄で使用される溶剤組成物Lの蒸気には汚れ成分が全く含まれないため、洗浄工程最後の仕上げ洗浄として有効である。
【0095】
なお、洗浄装置10では、各槽上方の空間を蒸気ゾーン4として共通に使用している。洗浄槽1および蒸気発生槽3から発生した蒸気は、二槽式一液洗浄装置10の壁面上部に備えられた冷却管9で冷却され凝縮されることで、溶剤組成物Lとして蒸気ゾーン4から回収される。凝集された溶剤組成物Lは、その後、冷却管9と水分離槽5をつなぐ配管14を介して水分離槽5に収容される。水分離槽5内で、溶剤組成物Lに混入した水が分離される。水が分離された溶剤組成物Lは、水分離槽5と洗浄槽1をつなぐ配管12を通って洗浄槽1に戻される。洗浄装置10では、このような機構により、溶剤組成物Lの蒸発ロスを抑制することが可能となる。
【0096】
このように、溶剤組成物Lを二槽式一液洗浄装置10内で液体や気体に状態変化させながら循環することによって、洗浄槽1に持ち込まれた汚れ成分を連続的に蒸気発生槽3に蓄積し、蒸気ゾーン4における蒸気洗浄が可能となる。
【0097】
洗浄装置10においては、被洗浄物品を洗浄する際の洗浄槽1の温度が35℃未満であることが好ましい。かかる範囲であれば洗浄槽1からの溶剤組成物Lの蒸発量が抑えられる。
【0098】
洗浄槽1の温度としては20℃以上35℃未満が好ましく、25℃以上34℃未満がより好ましく、28℃以上33℃未満が特に好ましい。洗浄槽1の温度が低すぎると洗浄効率が落ちるおそれがある。洗浄槽1の温度が高すぎても洗浄効率が落ちるおそれがある。洗浄槽1からの蒸気発生量が増えることにより、相対的に蒸気発生槽3からの蒸気発生量が減少し、蒸気発生槽3の上方の蒸気ゾーン4で行われる蒸気洗浄において効率よく蒸気が供給されないことによると考えられる。
【0099】
蒸気発生槽3の温度は35℃以上が好ましい。蒸気発生槽3の温度は35℃以上40℃未満が好ましく、36℃以上40℃未満がより好ましく、37℃以上40℃未満が特に好ましい。蒸気発生槽3の温度が低すぎると蒸気発生槽3からの蒸気発生量が減少することにより、蒸気発生槽3の上方の蒸気ゾーン4で行われる蒸気洗浄において効率よく蒸気が供給されないことにより洗浄効率が落ちる。蒸気発生槽3の温度が高すぎると、蒸気発生量が増加し蒸気ロスが増えるとともに、溶剤組成物Lの熱による分解が起こりやすい。特に本発明に用いる溶剤組成物Lは安定性が低く分解により発生した組成物や、分解を抑えるために添加する安定剤が残り易く、蒸気発生槽3上方で行われる蒸気洗浄の効率は最終的に高い洗浄度を得るためには重要である。
【0100】
洗浄装置10においては、被洗浄物品Dを洗浄する際の洗浄槽1の温度が35℃未満であり蒸気発生槽3の温度が35℃以上であることが好ましく、洗浄槽1の温度が34℃未満であり蒸気発生槽3の温度が36℃以上であることが好ましく、洗浄槽1の温度が33℃未満であり蒸気発生槽3の温度が37℃以上であることが特に好ましい。かかる範囲であれば汚れがほとんど残らない洗浄が可能である。
【0101】
洗浄槽1と蒸気発生槽3の温度差としては、5℃以上が好ましく、7℃以上がより好ましく、8℃以上が特に好ましい。かかる範囲であれば汚れがほとんど残らない洗浄が可能である。
【0102】
本発明の洗浄装置は、リンス槽2を有しない二槽式一液洗浄装置で実現できるが、洗浄する被洗浄物品Dにより、洗浄効果を高める観点から、例えば、
図2に示すようなリンス槽2を有する三槽式一液洗浄装置20が好ましい。
【0103】
図2は、本発明の洗浄装置の他の例である、三槽式一液洗浄装置20を概略的に示す図である。三槽式一液洗浄装置20は、
図1に示す二槽式一液洗浄装置10にさらに、溶剤組成物Lを収容するリンス槽2を備える点で二槽式一液洗浄装置10と異なっている。それに伴い、三槽式一液洗浄装置20では、リンス槽2に収容される溶剤組成物Lのオーバーフローが洗浄槽1に流入する設計である。洗浄槽1は液面が所定の高さ以上になるのを防ぐ目的で溶剤組成物Lを蒸気発生槽3に送液する配管11を備えている。また、二槽式一液洗浄装置10では配管12が水分離槽5と洗浄槽1をつないでいるのに対し、三槽式一液洗浄装置20では、配管12は水分離槽5とリンス槽2をつないでおり、水分離槽5内で水と分離された溶剤組成物Lは配管12を通ってリンス槽2に戻される。その他の構成については、三槽式一液洗浄装置20は、二槽式一液洗浄装置10と同様である。三槽式一液洗浄装置20において、二槽式一液洗浄装置10と同様の機能を奏する構成には同一の符号を付して重複する説明を省略する。
【0104】
三槽式一液洗浄装置20では、被洗浄物品Dは、洗浄槽1、リンス槽2、蒸気発生槽3上方の蒸気ゾーン4の順に移動しながら洗浄を完了させる。リンス槽2では、被洗浄物品Dを溶剤組成物Lに浸漬することで、洗浄槽1から引き上げられる際に被洗浄物品Dに付着した溶剤組成物L中に溶解している汚れ成分を除去する。リンス槽2は、洗浄槽1と同様に被洗浄物品Dに物理的な力を付与する手段を有してもよい。
【0105】
さらに、洗浄効果を高めるためには、三槽式一液洗浄装置20を用いてリンス槽2に冷却装置を設置し、これによってリンス槽2内の溶剤組成物Lの温度を低温に保ち、浸漬する被洗浄物品Dの温度を低くしておくことによって、蒸気温度との温度差を広げ、被洗浄物品Dにおける溶剤組成物Lの凝縮量を増やすことが効果的である。
【0106】
三槽式一液洗浄装置20を用いる場合においても、洗浄槽1および蒸気発生槽3の温度設定は、二槽式一液洗浄装置10と同様にできる。リンス槽2の温度としては30℃未満が好ましく、20℃未満がより好ましく、10℃未満が特に好ましい。リンス槽2の温度が高いと被洗浄物品Dの温度が十分に冷えず、蒸気発生槽3の上方の蒸気ゾーン4で行われる蒸気洗浄において蒸気温度と被洗浄物品Dの温度差が小さくなるため、被洗浄物品Dにおける溶剤組成物Lの凝縮量が少なくなることにより洗浄効率が低下する傾向にある。
【0107】
本発明の洗浄装置に用いる1233zd(Z)を含む溶剤組成物は上記のとおりである。また、本発明の洗浄装置が対象とする被洗浄物品、その材質および洗浄除去される付着物は、本発明の洗浄方法における被洗浄物品、その材質および洗浄除去される付着物と同様である。
【0108】
[洗浄装置の使用方法]
本発明の洗浄装置の使用方法は、第1の洗浄液を収容する洗浄槽と、第2の洗浄液を収容し第2の洗浄液から蒸気を発生させる蒸気発生槽とを有し、第1の洗浄液に物品を浸漬すること、および第2の洗浄液から発生した蒸気に物品を曝すことにより物品を洗浄する洗浄装置の使用方法であって、第1の洗浄液および第2の洗浄液として、1233zd(Z)を含む溶剤組成物(溶剤組成物L)を用いることを特徴とする。
【0109】
本発明の洗浄装置の使用方法は、例えば、本発明の洗浄装置に適用される。具体的には、本発明の洗浄装置の使用方法は、それぞれに溶剤組成物Lを収容する洗浄槽と、蒸気発生槽を有する上述の本発明の洗浄装置を用い、洗浄槽内、蒸気発生槽の上方の順番に被洗浄物品を移動することで、被洗浄物品に付着した付着物を洗浄する洗浄装置の使用方法である。
【0110】
被洗浄物品はまず、洗浄槽内の溶剤組成物Lに浸漬された後、蒸気発生槽の上方に移動する。ついで、被洗浄物品は蒸気発生槽の上方で、蒸気発生槽が収容する溶剤組成物Lから発生した蒸気に曝される。蒸気発生槽では被洗浄物は溶剤組成物Lに浸漬されることはない。洗浄槽と蒸気発生槽の間に溶剤組成物Lを収容するリンス槽が設けられた洗浄装置を使用する場合は、洗浄槽に浸漬後の被洗浄物品をリンス槽で溶剤組成物Lに浸漬することにより、さらなる浸漬洗浄が行える。
【0111】
本発明の洗浄装置の使用方法においては、被洗浄物品を浸漬洗浄する際の前記洗浄槽の温度が35℃未満であることが好ましい。かかる範囲であれば洗浄槽からの溶剤組成物Lの蒸発量が抑えられる。
【0112】
上記洗浄槽の温度としては20℃以上35℃未満が好ましく、25℃以上34℃未満がより好ましく、28℃以上33℃未満が特に好ましい。洗浄槽の温度が低すぎると洗浄効率が落ちるおそれがある。洗浄槽の温度が上記範囲より高すぎても洗浄効率が落ちるおそれがある。これは、洗浄槽からの蒸気発生量が増えることにより、相対的に蒸気発生槽からの蒸気発生量が減少し、蒸気発生槽の上方の蒸気ゾーンで行われる蒸気洗浄において効率よく蒸気が供給されないことによると考えられる。
【0113】
本発明の洗浄装置の使用方法においては、被洗浄物品を洗浄する際の上記蒸気発生槽の温度が35℃以上であることが好ましい。かかる範囲であれば汚れがほぼ残らない洗浄が可能になる。
【0114】
蒸気発生槽の温度としては35℃以上40℃未満が好ましく、36℃以上40℃未満がより好ましく、37℃以上40℃未満が特に好ましい。蒸気発生槽の温度が低すぎると蒸気発生槽からの蒸気発生量が減少することにより、蒸気発生槽の上方の蒸気ゾーンで行われる蒸気洗浄において効率よく蒸気が供給されないことにより洗浄効率が落ちることがある。蒸気発生槽の温度が高すぎると、蒸気発生量が増加し蒸気ロスが増えるとともに、溶剤組成物Lの熱による分解が起こりやすい。特に本発明に用いる溶剤組成物Lは安定性が低く分解により発生した組成物や、分解を抑えるために添加する安定剤が残り易く、蒸気発生槽上方で行われる蒸気洗浄の効率は最終的に高い洗浄度を得るためには重要である。
【0115】
本発明の洗浄方法においては、被洗浄物品を洗浄する際の上記洗浄槽の温度が35℃未満であり上記蒸気発生槽の温度が35℃以上であることが好ましく、洗浄槽の温度が34℃未満であり蒸気発生槽の温度が36℃以上であることが好ましく、洗浄槽の温度が33℃未満であり蒸気発生槽の温度が37℃以上であることが特に好ましい。かかる範囲であれば汚れがほとんど残らない洗浄が可能である。
【0116】
洗浄槽と蒸気発生槽の温度差としては、蒸気発生槽の温度が洗浄槽の温度より5℃以上高いことが好ましく、7℃以上高いことがより好ましく、8℃以上高いことが特に好ましい。かかる範囲であれば汚れがほとんど残らない洗浄が可能である。
【0117】
本発明の洗浄装置の使用方法における1233zd(Z)を含む溶剤組成物は上記のとおりである。また、本発明の洗浄装置の使用方法が対象とする被洗浄物品、その材質および洗浄除去される付着物は、本発明の洗浄方法における被洗浄物品、その材質および洗浄除去される付着物と同様である。
【実施例】
【0118】
以下、実施例によって本発明を詳細に説明する。本発明はこれらの実施例に限定されない。
【0119】
[例1~20]
(1233zd(Z)の合成)
国際公開2014/175403号の実施例3の方法により得られた蒸留後釜残分をさらに蒸留精製することで、純度99.9質量%の1233zd(Z)を含む組成物(以下「1233zd(Z)(1)」という。)を得る。すなわち、テトラn-ブチルアンモニウムクロリド(TBAC)の存在下、HCFC-243faとHCFC-243fbを含み、HCFC-243faとHCFC-243fbの合計に対してHCFC-243fbが5モル%以下である原料組成物に水酸化ナトリウムを加えて、1233zd(Z)を含む反応生成物を得、これを蒸留精製して1233zd(Z)(1)を得る。1233zd(Z)(1)中の、1233zd(Z)以外の0.1質量%の成分は(E)-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロ-1-プロペン(1233zd(E))である。
【0120】
(溶剤組成物Lの調製)
1233zd(Z)(1)に、溶剤組成物とした際に表1に示す質量割合となるように安定剤(B)を添加して、溶剤組成物1~4を50kgずつ調製する。また、表1に示す、1233zd(Z)(1)は含有するが安定剤(B)を含有しない溶剤組成物5を50kg調製する。なお、表1に示す安定剤(B)の質量割合は、溶剤組成物中の1233zd(Z)の含有量に対する質量割合である。
【0121】
(洗浄装置での洗浄性能評価試験)
図2に示す三槽式一液洗浄装置20と同様の洗浄装置を用い、洗浄槽1、リンス槽2、蒸気発生槽3に溶剤組成物1~5の50kgを入れ、洗浄槽1および蒸気発生槽3をそれぞれ表2に示す温度に調整して以下の各洗浄試験を行う。
【0122】
[洗浄試験A]
ステンレス鋼SUS304の試験片(25mm×30mm×2mm)を、切削油である製品名「ダフニーマーグプラスHT-10」(出光興産株式会社製)中に浸漬した後、溶剤組成物1~5をそれぞれ投入した洗浄装置に導入し、洗浄槽1内の溶剤組成物中、リンス槽2内の溶剤組成物中、蒸気発生槽3上方の蒸気発生槽3内の溶剤組成物から発生した蒸気中の順に各槽に1分間ずつ保持した後、取り出して切削油等の残渣の有無を観察する。洗浄性の評価は以下の基準で行う。
【0123】
「S」:切削油等の汚れがほとんど見られない。
「A」:切削油等の汚れがほぼ残らない。
「B」:切削油等の汚れが微量に残存するが実用上問題のないレベルである。
「×」:切削油等の汚れがかなり残存する。
【0124】
[洗浄試験B]
切削油として製品名「ダフニーマーグプラスAM20」(出光興産株式会社製)を使用する以外は洗浄試験Aと同様に試験し、同じ基準で洗浄性を評価する。
【0125】
[洗浄試験C]
切削油として製品名「ダフニーマーグプラスHM25」(出光興産株式会社製)を使用する以外は洗浄試験Aと同様に試験し、同じ基準で洗浄性を評価する。
【0126】
[洗浄試験D]
切削油として製品名「G-6318FK」(日本工作油株式会社製)を使用する以外は洗浄試験Aと同様に試験し、同じ基準で洗浄性を評価する。
【0127】
各溶剤組成物の組成を表1に示し、各洗浄試験における洗浄槽1および蒸気発生槽3の温度条件と試験の結果を、表2に示す。なお、洗浄槽1および蒸気発生槽3の温度はそれぞれ各槽が収容する溶剤組成物の温度と同じである。
【0128】
【0129】
【0130】
表2より、1233zd(Z)を含有する溶剤組成物を用いた、蒸気発生槽3の温度が洗浄槽1の温度より5℃以上高い洗浄方法である例1,5,9,および13の本発明の実施例は、いずれの洗浄試験においても切削油を充分に洗浄除去し、残渣は実用上問題のないレベルであり、高い洗浄度を得られることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0131】
本発明では、地球環境に悪影響を及ぼすことのない1233zd(Z)を含有する溶剤組成物を用いた高い洗浄度を効率的に得る物品の洗浄方法、該溶剤組成物を用いた、洗浄槽と、蒸気発生槽を有する洗浄装置および該溶剤組成物を用いて洗浄装置を使用する方法により、高い洗浄度を効率的に得る方法を提供することが可能である。
【符号の説明】
【0132】
1…洗浄槽、2…リンス槽、3…蒸気発生槽、4…蒸気ゾーン、5…水分離槽、6…ヒーター、7…ヒーター、8…超音波振動子、9…冷却管、10…二槽式一液洗浄装置、20…三槽式一液洗浄装置、11,12,14…配管、13…矢印、D…被洗浄物品、L…溶剤組成物。