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特許7046056球状結晶性シリカ粒子およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-24
(45)【発行日】2022-04-01
(54)【発明の名称】球状結晶性シリカ粒子およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 33/18 20060101AFI20220325BHJP
   C01B 33/12 20060101ALI20220325BHJP
   H01L 23/29 20060101ALI20220325BHJP
   H01L 23/31 20060101ALI20220325BHJP
【FI】
C01B33/18 E
C01B33/12 B
H01L23/30 R
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2019511209
(86)(22)【出願日】2018-03-30
(86)【国際出願番号】 JP2018013881
(87)【国際公開番号】W WO2018186308
(87)【国際公開日】2018-10-11
【審査請求日】2020-12-04
(31)【優先権主張番号】P 2017075535
(32)【優先日】2017-04-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006644
【氏名又は名称】日鉄ケミカル&マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100187702
【弁理士】
【氏名又は名称】福地 律生
(74)【代理人】
【識別番号】100162204
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 学
(74)【代理人】
【識別番号】100144417
【弁理士】
【氏名又は名称】堂垣 泰雄
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 裕
(72)【発明者】
【氏名】矢木 克昌
(72)【発明者】
【氏名】田中 睦人
(72)【発明者】
【氏名】徳田 尚三
(72)【発明者】
【氏名】阿江 正徳
【審査官】山本 吾一
(56)【参考文献】
【文献】特開昭59-203720(JP,A)
【文献】特開平07-096165(JP,A)
【文献】特開平10-297914(JP,A)
【文献】特開2007-290950(JP,A)
【文献】特開昭61-268750(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0284254(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第102618926(CN,A)
【文献】特開2006-306691(JP,A)
【文献】国際公開第2016/031823(WO,A1)
【文献】OKABAYASHI, M., et al.,Preparation of Spherical Particles with Quartz Single Crystal,Chemistry Letters,2005年,Vol.34, No.1,p.58-59,特にp.58-59, Figures 1-3
【文献】HIGUCHI, M., et al.,非晶質シリカの焼結の伴う結晶化と相転移におけるアルカリ金属酸化物の影響,Journal of the Ceramic Society of Japan,1997年,Vol.105, No.5,p.385-390,特に2.1, 3.1
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B
H01L 23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリカと、アルカリ金属又はアルカリ土類金属と、アルミニウムとを含み、
粒子全体に対する含有量が、前記アルカリ金属は酸化物換算で0.4~5質量%、前記アルカリ土類金属は酸化物換算で1~5質量%、前記アルミニウムは金属アルミニウム換算で50~5000ppmであり、
結晶相が粒子全体の90質量%以上であり、石英結晶が粒子全体の70質量%以上であることを特徴とする、球状結晶性シリカ粒子。
【請求項2】
シリカと、リチウム又はカルシウムと、アルミニウムとを含み、
粒子全体に対する含有量が、前記リチウムは酸化物換算で0.4~5質量%、前記カルシウムは酸化物換算で1~5質量%、前記アルミニウムは金属アルミニウム換算で50~5000ppmであり、
結晶相が粒子全体の90質量%以上であり、石英結晶が粒子全体の70質量%以上であることを特徴とする、球状結晶性シリカ粒子。
【請求項3】
シリカと、リチウムと、アルミニウムとを含み、粒子全体に対する含有量が、前記リチウムは4~5質量%であることを特徴とする、請求項2に記載の球状結晶性シリカ粒子。
【請求項4】
シリカと、カルシウムと、アルミニウムとを含み、粒子全体に対する含有量が、前記カルシウムは1~5質量%であることを特徴とする、請求項2に記載の球状結晶性シリカ粒子。
【請求項5】
平均粒径(D50)が、1~100μmであることを特徴とする、請求項1~のいずれか1項に記載の球状結晶性シリカ粒子。
【請求項6】
平均円形度が、0.88以上であることを特徴とする、請求項1~のいずれか1項に記載の球状結晶性シリカ粒子。
【請求項7】
金属アルミニウム換算で50~5000ppmのアルミニウムを含む非晶質の球状シリカ粒子に、アルカリ金属の化合物を、前記非晶質の球状シリカ粒子の質量と前記アルカリ金属を酸化物換算した質量の合計の質量に対して、酸化物換算で0.4~5質量%の割合で混合し、
混合された球状シリカ粒子を800~1300℃で熱処理し、
熱処理された球状シリカ粒子を冷却する工程を含み、
冷却された球状シリカ粒子が、90質量%以上の結晶相を有し、かつ石英結晶が全体の70質量%以上であることを特徴とする、球状結晶性シリカ粒子を製造する方法。
【請求項8】
前記アルカリ金属の化合物は、LiCOであることを特徴とする、請求項に記載の球状結晶性シリカ粒子を製造する方法。
【請求項9】
金属アルミニウム換算で50~5000ppmのアルミニウムを含む非晶質の球状シリカ粒子に、アルカリ土類金属の化合物を、前記非晶質の球状シリカ粒子の質量とアルカリ土類金属を酸化物換算した質量の合計の質量に対して、酸化物換算で1~5質量%の割合で混合し、
混合された球状シリカ粒子を800~1300℃で熱処理し、
熱処理された球状シリカ粒子を冷却する工程を含み、
冷却された球状シリカ粒子が、90質量%以上の結晶相を有し、かつ石英結晶が全体の70質量%以上であることを特徴とする、球状結晶性シリカ粒子を製造する方法。
【請求項10】
前記アルカリ土類金属の化合物は、CaCO又はCa(OH)であることを特徴とする、請求項に記載の球状結晶性シリカ粒子を製造する方法。
【請求項11】
球状結晶性シリカ粒子の平均粒径(D50)が、1~100μmとなるように製造することを特徴とする、請求項7~10のいずれか1項に記載の球状結晶性シリカ粒子を製造する方法。
【請求項12】
球状結晶性シリカ粒子の平均円形度が、0.88以上となるように製造することを特徴とする、請求項7~11のいずれか1項に記載の球状結晶性シリカ粒子を製造する方法。
【請求項13】
請求項1または2に記載の球状結晶性シリカ粒子を樹脂に混合した混合物。
【請求項14】
請求項13に記載の混合物を使用した半導体封止材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、球状結晶性シリカ粒子およびその製造方法、特に球状石英結晶粒子およびその製造方法に関係する。
【背景技術】
【0002】
シリカ粒子は樹脂用フィラーとして用いられており、例えば、半導体素子の封止材用のフィラーとして用いられている。シリカ粒子の形状について、角張った形状であると樹脂中での流動性、分散性、充填性が悪くなる。これらを改善するため、球状のシリカ粒子が広く用いられている。
【0003】
一般的には、球状シリカの製法として溶射法が用いられている。溶射では、粒子を火炎などの高温領域中に通すことにより、粒子が溶融し、粒子の形状は表面張力により球状となる。溶融球状化された粒子は、粒子どうしが融着しないように気流搬送して回収されるが、溶射後の粒子は急冷される。溶融状態から急冷されるため、シリカは、ほとんど結晶を含有せず、非晶質(アモルファス)構造を有し、一般に石英ガラスと呼ばれるガラス状の粒子となる。
【0004】
球状シリカは非晶質であるため、その熱膨張率および熱伝導率が低い。これらの物性は、結晶構造を有さず非晶質(アモルファス)構造を有する、石英ガラスの熱膨張率と概ね同等と考えられ、熱膨張率は、0.5ppm/Kであり、熱伝導率は1.4W/mKである。
【0005】
一般に封止材などで用いられる球状シリカ粒子は、非晶質であることから、熱膨張率が低いため、樹脂と混合した際に混合物(樹脂組成物)の熱膨張率を下げる効果がある。これにより樹脂組成物の熱膨張率を半導体素子に近づけることができ、樹脂組成物を封止材などに用いた際に、樹脂の硬化過程などの加熱、冷却時に生じる変形を抑制することができる。しかしながら、非晶質のシリカの熱伝導率はあまり高いものではなく、半導体の高性能化に伴い発熱量が増大するにつて、発生する熱をより効率良く逃がすことが求められている。このため、より熱伝導率の高い球状シリカ粒子が必要とされてきている。
【0006】
非晶質のシリカに比べて、結晶性のシリカは規則的かつ緻密な構造を持つことから熱伝導率が高い。シリカの結晶構造として、クリストバライト、石英、トリディマイト等があり、これらの結晶構造を有するシリカは非晶質シリカと比べて、高い熱膨張率および熱伝導率を有することが知られている。特に石英は、他の結晶より緻密な結晶構造を有することから、熱伝導率が12.8W/mKと高く、石英を多く含む球状のシリカ粒子は高い熱伝導率が得られると考えられる。
【0007】
球状の結晶性シリカ粒子を得るための手段としては、特許文献1で、シリカゾルを分散させた分散相液を、該分散相液と相溶性のない連続相液に、細孔を通過させて注入することによりエマルジョンを作製し、該エマルジョンから分散相を分離してケーキとし、分離することにより得られたケーキを、C a 、Y 、L a およびE u からなる群より選ばれる1 種以上の元素を含む結晶化剤の共存下に、8 0 0 ℃ 以上1 3 0 0 ℃ 以下の温度範囲で保持して焼成する技術が開示されている。
【0008】
また、特許文献2では、球状溶融シリカを1200~1600℃、特に1300~1500℃の高温で5~24時間加熱し、結晶を確実に成長させた後、20~50時間かけてゆっくりと室温まで冷却することでクリストバライト化させることができる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2005-231973号公報
【文献】特開2001-172472号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
半導体製品では、発生する熱を効率良く逃がすことが求められており、特に高性能化に伴う発熱量の増大に対応するためには、半導体の封止材料などの周辺部材にもより熱を逃がしやすい高熱伝導の材料が求められている。このため、封止材料などに用いられるフィラーとして、熱伝導率の高く、高い充填率が得られる球状結晶性シリカは有用である。
【0011】
球状結晶性シリカを得る方法としては、非晶質の球状シリカを高温で熱処理して、結晶化する方法が開示されている。しかしながら、高温での熱処理する際に、シリカ粒子どうしが融着したり、焼結したりすることにより結合してしまうという問題がある。また、シリカゾルなどを原料として用いて、液相で球状の粒子を作製、焼成する方法が開示されているが、生産性が低く、製造コストが高いという問題がある。
【0012】
特許文献1は、シリカゾル分散液を細孔に通して球状のエマルジョンにした上で、ゲル化、熱処理して結晶質のシリカを得る方法を提案している。特許文献1の方法は、エマルジョンを分離、乾燥する工程が加わるために、生産性は低く、高価なシリカゾルを原料として用いるため製造コストも高くなる。また、この方法により得られる結晶質のシリカは、結晶相がα石英とクリストバライトとからなり、α石英の割合が24~67%と多くのクリストバライト結晶を含む。クリストバライトは、密度が2.33g/cmとα石英の2.65g/cmよりかなり低く、結晶構造がα石英より緻密でないため、熱伝導率が低い。このため、より高熱伝導の球状結晶性シリカを得るためには、よりα石英含有量の高い球状結晶性シリカが必要である。
【0013】
特許文献2は、球状溶融シリカを1200~1600℃、特に1300~1500℃の高温で5~24時間加熱し、結晶を確実に成長させた後、20~50時間かけてゆっくりと室温まで冷却することでクリストバライト化させる方法が開示されている。この方法では、冷却に20~50時間かけて徐冷する必要があり、生産性が低く、得られる球状シリカ粒子はクリストバライトである。
【0014】
このように従来開示されている技術では、熱伝導率が高い石英結晶を多く含む結晶質の球状シリカ粒子は得られず、原料コストや製造コストが高くなるため、熱伝導率の高い石英結晶を多く含む安価な製造技術の開発が必要である。高熱伝導率の石英結晶を多く含む球状シリカ粒子を用いることにより、樹脂と混合して封止材等に用いた場合に半導体素子で発生する熱を逃がす効果が得られる。また、クリストバライトやトリディマイトは、それぞれ200~250℃、120~200℃の温度域で相転移が起こり、相転移による体積膨張が起こるため、樹脂と混合して硬化させる過程やリフローなどの加熱過程で樹脂とシリカ粒子の間に空隙が生じたり、樹脂との混合物で割れやクラックが発生する原因となる場合がある。このため、石英結晶を多く含み、クリストバライトやトリディマイトの結晶含有量を少なくすることが重要である。
【0015】
本発明は、従来よりも生産性が高く、製造コストは低く、且つ高熱伝導率の石英を多く含む、高流動性、高分散性、高充填性を有し、半導体分野にも適用可能な、球状結晶性シリカ粒子およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、『アルカリ金属またはアルカリ土類金属の化合物を原料中に所定割合添加して製造することで、結晶相が全体の90質量%以上であり、石英結晶が全体の70質量%以上である球状結晶性シリカ粒子』を製造することができることを見出し、これによって、従来よりも生産性が高く、製造コストが低く、且つ高熱膨張率、高熱伝導率、高流動性、高分散性、高充填性を有し、半導体分野にも適用可能な、球状結晶性シリカ粒子を実現できることを見出した。これによって発明を為すに至った。
【0017】
本発明の要旨は以下の通りである。
[1]
結晶相が全体の90質量%以上であり、石英結晶が全体の70質量%以上であることを特徴とする、球状結晶性シリカ粒子。
[2]
アルカリ金属の少なくとも1種を酸化物換算で0.4~5質量%含むことを特徴とする、[1]に記載の球状結晶性シリカ粒子。
[3]
前記アルカリ金属が、Liであることを特徴とする、[2]に記載の球状結晶性シリカ粒子。
[4]
粒子全体に対してアルカリ土類金属の少なくとも1種を酸化物換算で1~5質量%含むことを特徴とする、[1]に記載の球状結晶性シリカ粒子。
[5]
前記アルカリ土類金属が、Caであることを特徴とする、[4]に記載の球状結晶性シリカ粒子。
[6]
金属アルミニウム換算で50~5000ppmのアルミニウムを含むことを特徴とする、[1]~[5]のいずれか1項に記載の球状結晶性シリカ粒子。
[7]
平均粒径(D50)が1~100μmであることを特徴とする、[1]~[6]のいずれか1項に記載の球状結晶性シリカ粒子。
[8]
平均円形度が0.88以上であることを特徴とする、[1]~[7]のいずれか1項に記載の球状結晶性シリカ粒子。
[9]
非晶質の球状シリカ粒子に、アルカリ金属の化合物を、前記非晶質球状シリカ粒子の質量と前記アルカリ金属を酸化物換算した質量の合計の質量に対して、酸化物換算で0.4~5質量%の割合で混合し、
混合された球状シリカ粒子を800~1300℃で熱処理し、
熱処理された球状シリカ粒子を冷却する工程を含み、
冷却された球状シリカ粒子が、90質量%以上の結晶相を有し、かつ石英結晶が全体の70質量%以上であることを特徴とする、球状結晶性シリカ粒子を製造する方法。
[10]
前記アルカリ金属が、Liであることを特徴とする、[9]に記載の球状結晶性シリカ粒子を製造する方法。
[11]
前記アルカリ金属の化合物は、LiCOであることを特徴とする、[10]に記載の球状結晶性シリカ粒子を製造する方法。
[12]
非晶質の球状シリカ粒子に、アルカリ土類金属の化合物を、前記非晶質球状シリカ粒子の質量とアルカリ土類金属を酸化物換算した質量の合計の質量に対して、酸化物換算で1~5質量%の割合で混合し、
混合された球状シリカ粒子を800~1300℃で熱処理し、
熱処理された球状シリカ粒子を冷却する工程を含み、
冷却された球状シリカ粒子が、90質量%以上の結晶相を有し、かつ石英結晶が全体の70質量%以上であることを特徴とする、球状結晶性シリカ粒子を製造する方法。
[13]
前記アルカリ土類金属が、Caであることを特徴とする、[12]に記載の球状結晶性シリカ粒子を製造する方法。
[14]
前記アルカリ土類金属の化合物は、CaCO又はCa(OH)であることを特徴とする、[13]に記載の球状結晶性シリカ粒子を製造する方法。
[15]
金属アルミニウム換算で50~5000ppmのアルミニウムを含む非晶質の球状シリカ粒子を用いることを特徴とする、[9]~[14]のいずれか1項に記載の球状結晶性シリカ粒子を製造する方法。
[16]
球状結晶性シリカ粒子の平均粒径(D50)が、1~100μmとなるように製造することを特徴とする、項目[9]~[15]のいずれか1項に記載の球状結晶性シリカ粒子を製造する方法。
[17]
球状結晶性シリカ粒子の平均円形度が、0.88以上となるように製造することを特徴とする、項目[9]~[16]のいずれか1項に記載の球状結晶性シリカ粒子を製造する方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、従来よりも生産性が高く、製造コストは低く、且つ高熱伝導率の石英を多く含む、高流動性、高分散性、高充填性を有し、半導体分野にも適用可能な、球状結晶性シリカ粒子およびその製造方法を提供される。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明のシリカ粒子は、結晶相を90質量%以上含む。非晶質シリカの熱伝導率は1.4W/mKと低いため、非晶質のシリカを10質量%より多く含むとシリカ粒子の熱伝導率を低下させてしまう。また、結晶相は石英結晶が非晶質を含む粒子全体の70質量%以上である。石英結晶以外の結晶相としては、クリストバライトおよびトリディマイトを含んでも良い。いずれの結晶も、熱伝導率10W/mK程度であり、石英の12.8W/mKより低いものの、非晶質のシリカより高い熱伝導率を有する。粒子全体の90質量%以上が結晶相で、粒子全体の70質量%以上が石英結晶であれば目的とする高熱伝導率の球状シリカ粒子を得ることができる。また、クリストバライトやトリディマイトの含有量が30質量%より多くなると、αクリストバライト→βクリストバライトへの相転移、もしくはαトリディマイト→β1トリディマイト→β2トリディマイトへの相転移が起こり、相転移に伴う体積膨張により、樹脂と混合して使用する際に樹脂とシリカ粒子の間に空隙が生じたり、割れやクラックの原因となる場合がある。このため、石英結晶を全体の70質量%以上にして、クリストバライトやトリディマイトの含有量を少なくすることが重要である。
結晶相と非晶質の含有量および石英、クリストバライト、トリディマイトの含有量は、X線回折により定量分析することができる。X線回折による定量分析では、リートベルト法などの解析方法を用いることにより、標準試料を用いずに定量分析することが可能である。
【0020】
本発明のシリカ粒子は、酸化物換算でアルカリ金属を0.4~5質量%またはアルカリ土類金属を1~5質量%含んでもよい。アルカリ金属とは、周期表において第1族に属する元素のうち水素を除いたリチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、フランシウムをいう。また、アルカリ土類金属とは、周期表において第2族に属する元素のうち、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、ラジウムをいう。
【0021】
特定の理論に拘束されるものではないが、アルカリ金属およびアルカリ土類金属は、熱処理の際に結晶核形成剤として作用することが考えられる。アルカリ金属が0.4質量%未満、もしくはアルカリ土類金属の含有量が1質量%未満では、結晶化促進効果が十分でないことがある。
一方で、特にアルカリ金属は、シリカの融点を低下させる効果も知られており、例えばシリカガラスの融点降下剤としても利用されることがある(いわゆるソーダガラスである)。そのため、アルカリ金属の含有量が5質量%を超えると、シリカ粒子の融点が著しく低下し、熱処理中に、シリカ粒子どうしが融着または焼結により結合しやすくなる。粒子どうしの結合が進むと、半導体封止材用のフィラー等として利用する場合に、流動性、分散性、充填性が十分でなくなる。
また、アルカリ土類金属の含有量が5質量%を超えると、アルカリ土類金属とシリカが反応し、例えばマグネシウムの場合、Mg2(SiO4)のような珪酸化合物を生成してしまう。このような化合物は、粒子の外周部に生成しやすく、粒子の形状が変形して粒子の円形度を低下させたり、珪酸化合物が不定形の微細な粒子となって存在したりするため、樹脂と混合した際の流動性を低下させるおそれがある。
アルカリ金属およびアルカリ土類金属の含有量は、例えば原子吸光法、ICP質量分析(ICP-MS)により測定することができる。
【0022】
特に、本発明のシリカ粒子に含まれるアルカリ金属は、Liを用いることが望ましい。これは、Liを用いることで、低い熱処理温度で石英結晶の含有量が多い結晶性シリカ粒子を得ることができるためである。
また、アルカリ金属、特にLiを用いる場合、金属アルミニウム換算で50~5000ppmのアルミニウムを含むことが望ましい。特定の理論に拘束されるものではないが、アルミニウムは熱処理の際に結晶核形成剤として作用し、アルカリ金属、特にLiとともに用いた場合に石英結晶を多く生成する効果を得ることができる。アルミニウムが金属アルミニウム換算で50ppmより少ない場合、結晶化を促進する効果を得ることができない。また、アルミニウムが金属アルミニウム換算で5000ppmより多くなると、アルカリ金属、特にLiとAlとSiの複合酸化物が生成しやすくなるため、アルカリ金属、特にLi添加の効果が少なくなるとともに、Alが多くなることでクリストバライトが生成し易くなり、石英結晶を生成量が少なくなってしまう。さらに、クリストバライトの生成量をより少なくし、石英の含有量がより多い結晶性球状シリカ粒子を得るためには、アルミニウムが金属アルミニウム換算で50~1000ppmの範囲であることがより望ましい。
なお、アルミニウム含有量の調整には、金属アルミニウムや、アルミニウム化合物を混合してもよいが、非晶質シリカ粒子の原料となる珪石には、不純物としてアルミニウム化合物が含まれていることが多いことから、金属アルミニウム換算での含有量が適正な範囲の原料珪石や非晶質シリカ粒子を用意して、上述の好ましい範囲に調整することもできる。
【0023】
また、本発明のシリカ粒子に含まれるアルカリ土類金属は、Caを用いることが望ましい。これは、Caを用いることで、他のアルカリ土類金属を用いる場合に比べて、より多くの石英結晶を含む結晶性シリカ粒子を得ることができるためである。
また、アルカリ土類金属、特にCaを用いる場合、金属アルミニウム換算で50~5000ppmのアルミニウムを含むことが望ましい。特定の理論に拘束されるものではないが、アルミニウムは熱処理の際に結晶核形成剤として作用し、アルカリ土類金属、特にCaとともに用いた場合に石英結晶を多く生成する効果を得ることができる。アルカリ土類金属を用いた場合、アルカリ金属を用いた場合よりも結晶化は起こり難いが、アルミニウムを用いることで結晶化を促進することができる。しかしながら、アルミニウムが金属アルミニウム換算で50ppmより少ない場合、結晶化を促進する十分な効果を得ることができない。また、アルミニウムが金属アルミニウム換算で5000ppmより多くなると、アルカリ土類金属、特にCaとAlとSiの複合酸化物が生成しやすくなるため、アルカリ土類金属、特にCa添加の効果が少なくなるとともに、Alが多くなることでクリストバライトが生成し易くなるため、石英結晶の生成量が少なくなってしまう。
【0024】
製造方法としては、アルカリ金属を0.4~5質量%もしくはアルカリ土類金属を1~5質量%の範囲で含むことにより、シリカの結晶化が、800~1300℃の温度範囲で1~24時間の加熱処理し、その後100~300℃/時の速度で冷却することで実現できる。この冷却速度は、加熱処理で保持する温度から500℃まで冷却する温度域で適用することで目的のものを得ることができる。冷却速度が100℃/時未満では、冷却時間が長くなり、生産性が十分でないことがあり、冷却速度が300℃/時超では、冷却速度が速いため、粒子にクラックが生じるおそれがある。冷却速度は、500℃より低い温度域にも適用してもよく、室温まで適用してもよい。500℃より低い温度域では、結晶性、粒径、および円形度はほとんど変化しないためである。
【0025】
本発明のシリカ粒子は、平均粒径(D50)が1~100μmであってもよい。平均粒径が100μmを超えると、半導体封止材用のフィラー等として利用する場合に、粒径が粗くなりすぎてゲートづまりや金型摩耗を引き起こしやすくなることがあり、平均粒径が1μm未満では粒子が細かくなりすぎて多量に充填することができなくなることがある。なお、ここでの平均粒径は、湿式のレーザー回折法(レーザー回折散乱法)による粒度分布測定により求めることができる。
ここで言う平均粒径は、メディアン径と呼ばれるもので、レーザー回折法で粒径分布を測定して、粒径の頻度の累積が50%となる粒径を平均粒径(D50)とする。
【0026】
上記の粒径範囲にするためには、原料の非晶質の球状シリカ粒子(結晶化する前の粒子)の粒径を調節することで可能である。溶射手段であれば、容易に粒径を調節することができる。言い換えると、本発明のシリカ粒子の平均粒径は、結晶化のための加熱処理の前後で、ほとんど変化をしない。非晶質のシリカ粒子どうしは、800~1300℃程度でも粒子が軟化し、融着または焼結により結合することがあるが、本発明のシリカ粒子は、比較的低温(800~1300℃)で結晶質にされており、非晶質のように軟化しないため、800~1300℃程度での融着または焼結により結合することが十分に抑えられる。特に、粒子どうしの融着または焼結による結合は、粒子の表面積比が大きいほど、つまり粒径が小さいほど生じやすい。ただし、本発明のシリカ粒子は、結晶性であるため、平均粒径が1μmであっても、融着または焼結による結合をすることがなく、凝集しにくい。したがって、本発明のシリカ粒子は、半導体封止材用のフィラー等として利用する場合に、流動性、分散性、充填性が高くすることができる。
また、粒子同士の融着または焼結が起こる温度は、原料の非晶質の球状シリカの粒径や添加成分の種類、添加量により変わるため、800~1300℃の温度範囲でも、それぞれの原料や添加成分に応じて、融着または焼結が起こらない、適当な温度で熱処理を行うことが望ましい。
【0027】
本発明のシリカ粒子は、球状である。球状にするための手段は特に制限されるものではなく、粉砕、研磨等の手段を用いてもよい。特に、結晶化する前に溶射する手段は、生産性が高く、低コストで球状化することができる。球状のシリカ粒子は、半導体封止材用のフィラー等として利用する場合に、流動性、分散性、充填性が高く、また封止材作製用機器の摩耗も抑えることができる。
【0028】
本発明のシリカ粒子は、平均円形度が0.88以上であってもよく、好ましくは0.90以上であってもよい。円形度は、市販のフロー式粒子像分析装置により測定することができる。また、走査型電子顕微鏡(SEM)等の顕微鏡写真から画像解析処理ソフトウェアを用いて次のように求めることができる。シリカ粒子のサンプルの写真を撮影し、シリカ粒子(二次元投影図)の面積、周囲長さを計測する。シリカ粒子が真円であると仮定し、計測された面積を有する真円の円周を計算する。円形度=円周/周囲長さの式により、円形度を求める。円形度=1のときが、真円である。つまり、円形度が1に近いほど、真円に近いとされる。平均円形度は、100個以上の粒子について測定した円形度の平均値として算出する。平均円形度が0.88未満であると、半導体封止材用のフィラー等として利用する場合に、流動性、分散性、充填性が十分でなく、また封止材作製用機器の摩耗が促進される場合がある。
円形度の上限は1.0であってもよいが、実際に円形度を1.0にするのは実質的に困難であり、実現しようとする場合、製造コスト、管理コストが高くなる。用途等に応じて、円形度の上限を0.98、好ましくは0.95にしてもよい。
【0029】
上記の平均円形度にするためには、非晶質の球状シリカ粒子(結晶化する前の粒子)の円形度を調節することで可能となる。溶射手段であれば、シリカ粉末を容易に円形度の高い粒子にすることができる。そして、本発明のシリカ粒子の平均円形度は、結晶化のための加熱処理の前後で、ほとんど低下しない。本発明のシリカ粒子は、比較的低温(800~1300℃)で結晶質にされており、この温度範囲では円形度がほとんど低下しないためである。また、非晶質のシリカ粒子どうしは、800~1300℃程度で、融着または焼結により結合することがあるが、本発明のシリカ粒子は、比較的低温(800~1300℃)で結晶質にされているため(既に非晶質でないため)、800~1300℃程度での融着または焼結により結合することが十分に抑えられる。結合すると円形度は低下するが、本発明のシリカ粒子どうしは結合が十分に抑えられているために、平均円形度がほとんど低下しない。したがって、本発明のシリカ粒子は、半導体封止材用のフィラー等として利用する場合に、流動性、分散性、充填性が高くすることができる。
【0030】
本発明の製造方法について、以下に詳細を説明する。本発明の球状結晶性シリカ粒子は、以下の工程を含む方法で製造することができる。すなわち、本発明の製造方法は、
非晶質の球状シリカ粒子を、球状シリカ粒子の質量とアルカリ金属またはアルカリ土類金属を酸化物換算した質量の合計の質量に対して酸化物換算で0.4~5質量%のアルカリ金属または1~5質量%のアルカリ土類金属の化合物と混合し、
混合された球状シリカ粒子を800~1300℃で熱処理し、
熱処理された球状シリカ粒子を冷却する工程を含む。そして、この方法によって製造された球状結晶性シリカ粒子は、90質量%以上の結晶相を有し、かつ石英結晶が全体の70質量%以上である。
球状シリカ粒子は、アルミナ等から製造されたシリカ粒子と反応しない容器に入れて熱処理を行うことが望ましい。熱処理は、例えば、電気炉、ガス炉などを用いて、所定の温度に加熱して行う。冷却は、冷却速度を制御しながら行うことが望ましい。
また、石英の結晶が多く生成する熱処理条件は、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の種類および添加量により変わるため、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の種類および添加量に応じて好適な熱処理の温度および保持時間を選択することにより、本発明の球状結晶性シリカ粒子を得ることができる。
【0031】
原料である非晶質の球状シリカ粒子は溶射法などの方法により作製することができる。例えば溶射法では、粉砕して所望の粒径に調製したシリカ粉末を火炎中に通すことにより、粒子が溶融し、粒子の形状は表面張力により球状となる。
【0032】
また、溶射前のシリカ粉末が50~5000ppmのアルミニウムを含むように、シリカ粉末を調製してもよい。特定の理論に拘束されるものではないが、アルミニウムは熱処理の際に結晶核形成剤として作用することが考えられる。溶射工程(溶融)を通じて、アルミニウムがシリカ粒子中に均一に分散する。アルミニウムは、続く熱処理工程の際に結晶核形成剤として作用することが考えられ、シリカ粒子中に均一に分散していることにより、均等且つ従来よりも低い温度と短い時間での結晶成長が実現される。
また、アルミニウムが酸化したアルミナはシリカ粒子の化学耐久性(耐酸性など)を高める効果も期待できる。アルミニウムの含有量が50ppm未満では、結晶化促進効果や化学耐久性向上効果が十分でないことがある。一方でアルミニウムまたはアルミナは、シリカの融点を低下させる効果も知られており、例えばアルミナシリカガラスの融点は、純粋なシリカガラスの融点よりも低い。そのため、アルミニウムの含有量が5000ppmを超えると、シリカ粒子の融点が低下し、熱処理中に、シリカ粒子どうしが融着または焼結により結合しやすくなる。粒子どうしの結合が進むと、半導体封止材用のフィラー等として利用する場合に、流動性、分散性、充填性が十分でなく、また封止材作製用機器の摩耗も促進される。また、半導体封止材では概して高純度が必要とされており、アルミニウムを5000ppm以上添加することは、適当でない場合がある。
また、アルミニウムの存在は、特にアルカリ土類金属を添加して結晶化させる際に効果が得られる。例えば、アルミニウムを本発明の範囲で含む非晶質シリカ粒子とカルシウムを混合し、熱処理することにより石英結晶を多く含む球状の結晶性シリカ粒子を得ることができる。
また、アルミニウムの含有量は、例えば原子吸光法、ICP質量分析(ICP-MS)により測定することができる。
アルミニウムの含有量は、結晶化させるための熱処理段階でもその含有量が変わらない。また、熱処理前後でのシリカ粒子の質量もほとんど変化しない。このため、50~5000ppmのアルミニウムを含有した球状シリカ粒子を用いることで、結晶化促進の効果を得ることができる。
【0033】
溶融球状化された粒子どうしが融着しないように、溶射後の粒子は急冷処理してもよい。その場合、溶融状態から急冷されるため、球状シリカ粒子は、結晶構造を有さず、非晶質(アモルファス)構造を有している。球状シリカ粒子は溶射されているため、非多孔質であってもよい。非多孔質の球状シリカ粒子は、緻密であり、熱伝導率が高くなると期待される。
【0034】
溶射して得られた球状シリカ粒子は、平均粒径(D50)が1~100μmであってもよい。続く結晶化のための加熱、冷却工程は最大温度が1300℃程度であるため、球状シリカ粒子の粒径はほとんど変化をしない。そして、溶射手段であれば、容易に粒径を調節することができる。このため、本発明の方法では、所望の平均粒径の球状結晶性シリカ粒子を容易に実現できる。
【0035】
溶射して得られた球状シリカ粒子は、平均円形度が0.88以上であってもよい。続く結晶化のための加熱、冷却工程は最大温度が1300℃程度であるため、球状シリカ粒子の円形度はほとんど変化をしない。そして、溶射手段であれば、容易に平均円形度の高い粒子を得ることができる。このため、本発明の方法では、所望する円形度の高い球状結晶性シリカ粒子を容易に実現できる。
【0036】
非晶質の球状シリカ粒子を、球状シリカ粒子の質量とアルカリ金属またはアルカリ土類金属を酸化物換算した質量の合計の質量に対して酸化物換算で0.4~5質量%のアルカリ金属または1~5質量%のアルカリ土類金属の化合物と混合したものを熱処理し、熱処理された球状シリカ粒子を冷却して、球状結晶性シリカ粒子を得ることができる。
【0037】
非晶質の球状シリカ粒子と混合するアルカリ金属およびアルカリ土類金属は、酸化物、炭酸化物、水酸化物、硝酸化物など、添加する際の形態は特に制限されない。非晶質の球状シリカ粒子と均一に混合されるものであれば、粉末や水溶液等の状態で添加することができる。
【0038】
アルカリ金属を添加する場合は、Liを用いることが望ましいが、Liを用いる場合は、炭酸化物であるCaCOを用いることが望ましい。LiCOは、水と混合した場合、溶解度も低く、安全上の危険性も低いため、取り扱いが比較的容易である。また、LiCOは710℃で溶融するが、融点以下の温度でSiOと反応してSiO粒子に取り込まれると考えられる。このような低温でLiがSiOに取り込まれることにより、低い温度で結晶化を促進する効果を得ることができる。
【0039】
アルカリ土類金属を添加する場合は、Caを用いることが望ましいが、Caを用いる場合は、炭酸化物であるCaCOや水酸化物であるCa(OH)を用いることが望ましい。CaCOやCa(OH)は、酸化物のCaOに比べて化学的に安定であり、安全上の危険性も低いため、取り扱いが比較的容易である。また、CaCOやCa(OH)を用いる場合、分解温度はCaCOの825℃に比べて、Ca(OH)は580℃と低い温度でCaOに分解する。このため、Ca(OH)を用いた方が、低温でCaOとなり結晶化を促進する効果が得られると考えられ、シリカの低温型の結晶である石英に結晶化する効果を得ることができる。
【0040】
非晶質の球状シリカ粒子とアルカリ金属またはアルカリ土類金属の化合物と混合したものの熱処理は、非晶質球状シリカの粒径や添加するアルカリ金属またはアルカリ土類金属の種類および添加量により、結晶化および球状の保持に好適な条件で行う。熱処理温度は例えば800~1300℃の範囲で選択することができる。また、保持時間も例えば1~24時間の範囲で実施することができる。また、昇温および冷却の速度は、100~300℃/時の範囲で実施することができる。冷却速度が100℃/時未満 では、冷却時間が長くなり、生産性が十分でないことがあり、冷却速度が300℃/時超では、冷却速度が速いため、粒子にクラックが生じるおそれがある。冷却速度は、500℃より低い温度域にも適用してもよく、室温まで適用してもよい。 500℃より低い温度域では、結晶性、粒径、および円形度はほとんど変化しないためである。
【0041】
冷却された球状結晶性シリカ粒子は、90質量%以上の結晶相を有する。また、石英結晶を全体の70質量%以上含有する。この結晶性シリカ粒子は、非晶質のシリカよりも、高い熱伝導率を有する。シリカ粒子を半導体封止材用のフィラー等として利用する場合に、半導体装置の大きな発熱を逃すために熱伝導率の高い結晶性シリカは有用である。
【実施例
【0042】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明は下記の実施例に限定して解釈されるものではない。
【0043】
[アルカリ金属の化合物として炭酸リチウムを用いた例]
金属アルミニウム換算で97ppmおよび4564ppmのAlを含む非晶質の球状シリカ粒子と、炭酸リチウムを混合し、大気中で昇温速度100~300℃/時で1000℃まで昇温し、1000℃で6時間保持した後、降温速度100~300℃/時で常温まで冷却した。得られたシリカ粒子を表1、2に示す。
【0044】
円形度は、Sysmex社製フロー式粒子像解析装置「FPIA-3000」を用いて測定した。
【0045】
結晶化率は、X線回折により、非晶質のピークと結晶質のピークの積分面積を求め、その結晶質の面積の比率を結晶化率とした。つまり、結晶化率=結晶質のピークの積分面積/(非晶質のピークの積分面積+結晶質のピークの積分面積)として計算した。同様に、非晶質、クリストバライト、石英、トリディマイト、その他の結晶の比率を計算した。
原料および熱処理後の平均粒径(D50)は、レーザー回折式粒度分布測定装置(CILAS社製CILAS920)を用いて測定した。尚、D50とは、メディアン径ともよばれ、積算重量%が50%となる粒径である。
原料および熱処理後の不純物含有量は、試料を酸で加熱分解して得られた試料水溶液を原子吸光法により測定した。
【0046】
本発明による実施例では、いずれも結晶化率は全体の90質量%以上であり、石英を全体の70質量%以上含む結晶性球状シリカ粒子が得られた。
また、本発明による実施例の粒子は、円形度が0.90~0.95であった。平均粒径は、金属アルミニウム換算で97ppmのAlを含む非晶質の球状シリカ粒子の原料が11.6μmであったのに対し、この原料を用いた本発明による粒子は13.2~15.9μmであった。また、金属アルミニウム換算で4564ppmのAlを含む非晶質の球状シリカ粒子が9.0μmであったのに、この原料を用いた本発明による粒子は11.1~13.5μmであった。
【表1】
【表2】
【0047】
[アルカリ土類金属の化合物として炭酸カルシウムを用いた例]
金属アルミニウム換算で4564ppmのAlを含む非晶質の球状シリカ粒子と、炭酸カルシウムを混合し、大気中で昇温速度300℃/時で1100~1200℃まで昇温し、1100~1200℃で6~24時間保持した後、降温速度300℃/時で常温まで冷却した。得られたシリカ粒子を表3に示す。
【表3】
【0048】
本発明による実施例では、いずれも結晶化率は全体の90質量%以上であり、石英を全体の70質量%以上含む結晶性球状シリカ粒子が得られた。
また、本発明による実施例の粒子は、円形度が0.90~0.95であった。平均粒径は、金属アルミニウム換算で97ppmのAlを含む非晶質の球状シリカ粒子の原料が11.6μmであったのに対し、この原料を用いた本発明による粒子は12.8~14.1μmであった。また、金属アルミニウム換算で4564ppmのAlを含む非晶質の球状シリカ粒子が9.0μmであったのに、この原料を用いた本発明による粒子は9.8~12.1μmであった。
【0049】
[アルカリ土類金属の化合物として水酸化カルシウムを用いた例]
金属アルミニウム換算で4564ppmのAlを含む非晶質の球状シリカ粒子と、水酸化カルシウムを混合し、大気中で昇温速度300℃/時で1200℃まで昇温し1200℃で6~24時間保持した後、降温速度300℃/時で常温まで冷却した。得られたシリカ粒子を表4に示す。
【表4】
【0050】
本発明による実施例では、いずれも結晶化率は全体の90質量%以上であり、石英を全体の70質量%以上含む結晶性球状シリカ粒子が得られた。
また、本発明による実施例の粒子は、円形度が0.91~0.95であり、平均粒径は、原料の9.0μmに対し、9.5~11.3μmであった。