(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-25
(45)【発行日】2022-04-04
(54)【発明の名称】面取り加工システム及びそれに用いられるツルーイング装置
(51)【国際特許分類】
B24B 9/00 20060101AFI20220328BHJP
B24B 53/00 20060101ALI20220328BHJP
B24B 49/18 20060101ALI20220328BHJP
H01L 21/304 20060101ALI20220328BHJP
【FI】
B24B9/00 601H
B24B53/00 J
B24B49/18
H01L21/304 601B
H01L21/304 622M
(21)【出願番号】P 2018058564
(22)【出願日】2018-03-26
【審査請求日】2021-02-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000151494
【氏名又は名称】株式会社東京精密
(74)【代理人】
【識別番号】100163533
【氏名又は名称】金山 義信
(72)【発明者】
【氏名】岸下 真一
(72)【発明者】
【氏名】顧 華旭
【審査官】奥隅 隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-243422(JP,A)
【文献】特開2005-153085(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B 9/00
B24B 53/00
B24B 49/18
H01L 21/304
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
研削砥石を用いてウエーハ外周部の面取りを行うウエーハ面取り機を複数有する面取り加工システムにおいて、
前記ウエーハ面取り機が複数台設置されたウエーハ面取りラインと、
それぞれの前記ウエーハ面取り機で加工された前記ウエーハの端面形状を測定するウエーハ形状測定機と、
前記ウエーハ形状測定機で測定された値から前記研削砥石の修正要否を判定するコントローラと、
複数のマスター溝が設けられたマスター砥石を設け、前記マスター溝によって前記研削砥石の研削溝を形成可能とした砥石加工機と、
を備え、前記コントローラは前記ウエーハ形状測定機で測定された値に基づいて複数の前記マスター溝からいずれかの前記マスター溝を決定し、前記砥石加工機は前記コントローラによって決定された前記マスター溝を用いて前記研削溝を形成することを特徴とする面取り加工システム。
【請求項2】
前記コントローラは、前記ウエーハ形状測定機で測定された値を砥石形状データとして変換し、該砥石形状データと基準値との差に基づいて複数の前記マスター溝からいずれかの前記マスター溝の決定を行うことを特徴とする請求項1に記載の面取り加工システム。
【請求項3】
前記コントローラは、前記ウエーハ形状測定機で測定された値を前記研削砥石の回転軸の傾きと基準値との差を示す軸間差データとして変換し、該軸間差データに基づいて複数の前記マスター溝からいずれかの前記マスター溝の決定を行うことを特徴とする請求項1又は2に記載の面取り加工システム。
【請求項4】
前記砥石加工機は、前記ウエーハ面取りラインにおけるそれぞれの前記ウエーハ面取り機で共通して用いることが可能とされたことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の面取り加工システム。
【請求項5】
前記ウエーハ面取りラインに設置された全ての前記ウエーハ面取り機に対して前記ウエーハ形状測定機で前記ウエーハの端面形状を測定し、前記コントローラによって、前記マスター溝を決定し、前記砥石加工機によって決定された前記マスター溝を用いて前記研削溝を形成することを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の面取り加工システム。
【請求項6】
前記ウエーハ面取り機のそれぞれに対して決定した前記マスター溝をデータベース化して前記コントローラに記憶することを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の面取り加工システム。
【請求項7】
所定の時間又は所定の前記ウエーハの加工枚数毎に前記ウエーハ形状測定機で前記ウエーハの端面形状を測定し、前記コントローラによって、前記マスター溝を決定し、前記砥石加工機によって決定された前記マスター溝を用いて前記研削溝を形成することを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の面取り加工システム。
【請求項8】
前記ウエーハ面取りラインで前記ウエーハの総加工枚数が所定値に達したとき、前記ウエーハ形状測定機で前記ウエーハの端面形状を測定し、前記コントローラによって、前記マスター溝を決定し、前記砥石加工機によって決定された前記マスター溝を用いて前記研削溝を形成することを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載の面取り加工システム。
【請求項9】
ウエーハを面取りする研削砥石をツルーイング加工して研削溝を形成するツルーイング装置において、
前記ウエーハの端面形状を測定した値から前記研削砥石の修正要否を判定するコントローラと、
複数のマスター溝が設けられたマスター砥石を設け、前記マスター溝によって前記研削溝を形成可能とした砥石加工機と、
を備え、前記コントローラは前記ウエーハの端面形状を測定した値に基づいて複数の前記マスター溝からいずれかの前記マスター溝を決定し、前記砥石加工機は前記コントローラによって決定された前記マスター溝を用いて前記研削溝を形成することを特徴とするツルーイング装置。
【請求項10】
外周部に前記マスター溝の形状が転写されるツルアーと、該ツルアーを用いて、前記研削溝を形成することを特徴とする請求項9に記載のツルーイング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコン、サファイア、化合物、ガラス等の様々な素材、特に半導体ウエーハ、ガラスパネル等のウエーハ外周部の面取りを行うウエーハ面取り機を複数有する面取り加工システム及びそれに用いられるツルーイング装置に関し、特に板状被加工材に対して砥石を傾ける研削に好適である。
【背景技術】
【0002】
近年、ウエーハの品質向上の要求が強く、ウエーハ端面(エッジ部)の加工状態が重要視されている。半導体デバイス等の作製に使用されるシリコンウェーハ等の半導体ウエーハは、ハンドリングによるチッピングを防止するため、縁部を研削することで面取り加工が行われ、研磨による鏡面面取り加工が行われている。つまり、半導体製造工程において、ウエーハ製造からデバイス製造に至るまで、エッジ特性の品質改善は必要不可欠なプロセスとなっている。
【0003】
シリコン等は固くてもろく、ウエーハの端面がスライシング時の鋭利なままでは、続く処理工程での搬送や位置合わせなどの取り扱い時に容易に割れたり欠けたりして、断片がウエーハ表面を傷つけたり汚染したりする。これを防ぐため、切り出されたウエーハの端面をダイヤモンドでコートされた面取り砥石で面取りする。
【0004】
また、スマートフォンやタブレットの薄型化、軽量化のガラス基板にマスキング印刷、センサー電極形成を形成し、その後に切断することが行われている。また、面取りの加工品質、加工面粗さ、マイクロクラックの発生などがガラス基板の端面強度に直接影響する。
【0005】
さらに、通常の研削ではレジン砥石の回転軸に対してウエーハの主面が垂直となる状態で面取り部を研削するが、この場合、面取り部には円周方向の研削痕が発生し易い。そこで、ウエーハに対して例えばレジンボンド砥石(レジン砥石)を傾けてウエーハの面取り部を研削する、いわゆるヘリカル研削を行うことが知られている。
【0006】
特に、面取り面の粗さ精度を改善すると共に研摩効率を低下させないため、半導体ウエーハの周縁を研磨する半導体ウエーハの面取り方法において、砥石の回転軸を半導体ウエーハ外周の接線方向に傾けて半導体ウエーハの周縁を研磨することにより、砥石の砥粒運動方向を半導体ウエーハの研磨面に対して傾斜させることが知られ、特許文献1、2に記載されている。
【0007】
また、ヘリカル研削を行うと、通常研削に比べ面取り部の加工歪みを低減させるだけでなく、ウエーハの面取り部と砥石とが面接触となり、接触領域が増えて面取り部の表面粗さが改善される効果が得られる。
【0008】
また、ウエーハ面取り機は量産ラインで採用されているが、通常1台で2~12カセットに収納されたウエーハの加工が行われる。そのため、1台のウエーハ面取り機は二つのウエーハ加工が可能で、研削砥石の回転軸を2軸設けた2軸面取り機とされることが多い。さらに、実際の量産ラインでは、ウエーハ面取り機が複数台設置され、研削部が50軸に至る加工を行う面取り加工システムとされていることもある。
【0009】
さらに、ウエーハ面取り機で面取り加工するウエーハには所定の規格があり、ウエーハ面取り機は、その規格に合致するように加工条件を設定してウエーハの面取り加工を行うようにしている。通常は面取り加工されたウエーハの外形を測定して、規格通りにウエーハが面取り加工されているかが検査される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開平5-152259号公報
【文献】特開2017-159421号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記従来技術において、特許文献1、2に記載のものは、各ウエーハ面取り機において、ヘリカル研削を行う砥石のツルーイングを行っている。つまり、マスター砥石のマスター溝の断面形状から各ウエーハ面取り機に設けられたツルアーの外周部の断面形状へ転写し、転写されたツルアーを用いて、回転軸がウエーハWの接線方向に傾斜した砥石の溝形状を形成している。
【0012】
したがって、ウエーハ面取り機が複数台設置された場合、正確にそれぞれの加工条件を設定した場合であっても、各ウエーハ面取り機において常に同じ形状のウエーハが面取り加工されるとは限らず、研削砥石の回転軸の傾き、磨耗具合、研削液の供給具合等により、厳密には異なる形状として加工される場合がある。
【0013】
具体的には、研削砥石の回転軸の傾き角度が各ウエーハ面取り機で異なると、ウエーハ端面の断面形状の対称性が異なる恐れがあった。そして、それを防ぐためには、加工後の検査工程で各ウエーハ面取り機の加工条件、特に研削砥石の回転軸の調整を行う必要があった。
本発明の目的は、上記従来技術の課題を解決し、ウエーハ面取り機が複数台設置された場合、各ウエーハ面取り機の加工条件、特に研削砥石の回転軸の設定が異なったとしても、各ウエーハ面取り機で加工されたウエーハ端面の形状精度が所定範囲に入るようにして、全体で総合的に管理することにある。
【0014】
特に、ヘリカル研削において、回転軸によるウエーハ端面の断面形状への影響を少なくして、多数の面取り加工を行う場合であっても、均一な品質を保ち、調整工程を減らして高い生産性を維持することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成するため、本発明は、研削砥石を用いてウエーハ外周部の面取りを行うウエーハ面取り機を複数有する面取り加工システムにおいて、前記ウエーハ面取り機が複数台設置されたウエーハ面取りラインと、それぞれの前記ウエーハ面取り機で加工された前記ウエーハの端面形状を測定するウエーハ形状測定機と、前記ウエーハ形状測定機で測定された値から前記研削砥石の修正要否を判定するコントローラと、複数のマスター溝が設けられたマスター砥石を設け、前記マスター溝によって前記研削砥石の研削溝を形成可能とした砥石加工機と、を備え、前記コントローラは前記ウエーハ形状測定機で測定された値に基づいて複数の前記マスター溝からいずれかの前記マスター溝を決定し、前記砥石加工機は前記コントローラによって決定された前記マスター溝を用いて前記研削溝を形成するものである。
【0016】
さらに、上記において、前記コントローラは、前記ウエーハ形状測定機で測定された値を砥石形状データとして変換し、該砥石形状データと基準値との差に基づいて複数の前記マスター溝からいずれかの前記マスター溝の決定を行うことが望ましい。
【0017】
さらに、上記において、前記コントローラは、前記ウエーハ形状測定機で測定された値を前記研削砥石の回転軸の傾きと基準値との差を示す軸間差データとして変換し、該軸間差データに基づいて複数の前記マスター溝からいずれかの前記マスター溝の決定を行うことが望ましい。
【0018】
さらに、上記において、前記砥石加工機は、前記ウエーハ面取りラインにおけるそれぞれの前記ウエーハ面取り機で共通して用いることが可能とされたことが望ましい。
【0019】
さらに、上記において、前記ウエーハ面取りラインに設置された全ての前記ウエーハ面取り機に対して前記ウエーハ形状測定機で前記ウエーハの端面形状を測定し、前記コントローラによって、前記マスター溝を決定し、前記砥石加工機によって決定された前記マスター溝を用いて前記研削溝を形成することが望ましい。
【0020】
さらに、上記において、前記ウエーハ面取り機のそれぞれに対して決定した前記マスター溝をデータベース化して前記コントローラに記憶することが望ましい。
【0021】
さらに、上記のものにおいて、所定の時間又は所定の前記ウエーハの加工枚数毎に前記ウエーハ形状測定機で前記ウエーハの端面形状を測定し、前記コントローラによって、前記マスター溝を決定し、前記砥石加工機によって決定された前記マスター溝を用いて前記研削溝を形成することが望ましい。
【0022】
さらに、上記のものにおいて、前記ウエーハ面取りラインで前記ウエーハの総加工枚数が所定値に達したとき、前記ウエーハ形状測定機で前記ウエーハの端面形状を測定し、前記コントローラによって、前記マスター溝を決定し、前記砥石加工機によって決定された前記マスター溝を用いて前記研削溝を形成することが望ましい。
【0023】
さらに、本発明は、ウエーハを面取りする研削砥石をツルーイング加工して研削溝を形成するツルーイング装置において、前記ウエーハの端面形状を測定した値から前記研削砥石の修正要否を判定するコントローラと、複数のマスター溝が設けられたマスター砥石を設け、前記マスター溝によって前記研削溝を形成可能とした砥石加工機と、を備え、前記コントローラは前記ウエーハの端面形状を測定した値に基づいて複数の前記マスター溝からいずれかの前記マスター溝を決定し、前記砥石加工機は前記コントローラによって決定された前記マスター溝を用いて前記研削溝を形成するものである。
【0024】
また、上記のものにおいて、外周部に前記マスター溝の形状が転写されるツルアーと、該ツルアーを用いて、前記研削溝を形成することが望ましい。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、それぞれのウエーハ面取り機で加工されたウエーハの端面形状を測定し、その値から研削砥石の修正要否を判定するコントローラを備え、複数のマスター溝を設けた砥石加工機からいずれかのマスター溝を決定する。そして、決定されたマスター溝を用いて研削砥石の研削溝を形成するので、研削砥石の回転軸の設定が各ウエーハ面取り機で異なったとしても、ウエーハの形状精度が所定範囲に入るようにすることができる。したがって、多数の面取り加工を行う場合であっても、均一な品質を保ち、調整工程を減らして高い生産性を維持できる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本発明の一実施形態に係る面取り加工システムの構成を示すブロック図
【
図2】一実施形態におけるウエーハ面取り機の主要部を示す正面図
【
図3】一実施形態における研削砥石の部分を拡大した側面図
【
図4】一実施形態における研削砥石とウエーハWとの関係を示す断面図
【
図5】一実施形態における加工後のウエーハWの形状を示す断面図
【
図6】一実施形態におけるウエーハ面取りラインにおけるウエーハの形状精度の管理及び修正方法を示すフローチャート
【
図7】一実施形態におけるツルーイングの動作を示した側面図
【
図10】一実施例としてのツルーイングテスト結果を示す表
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
図1は本発明の一実施形態に係る面取り加工システムの構成を示すブロック図である。1は、ウエーハ面取り機10が複数台設置されたウエーハ面取りラインである。ウエーハ面取りライン1は、研削砥石55(
図2)をそれぞれ2軸、AB、CD、EFとして設けたウエーハ面取り機10-1、10-2、10-3…とされている。2はウエーハ形状測定機であり、ウエーハ面取り機10-1、10-2、10-3…で加工されウエーハWの端面形状などを測定する。
【0028】
3は、ツルーイング装置であり、コントローラ3-1、砥石加工機3-2を有している。ツルーイング装置3は、ウエーハ形状測定機2で測定した結果が入力され、砥石形状データとして変換する。変換された砥石形状データによってコントローラ3-1で研削砥石の修正要否を判定し、砥石形状データと基準値との差に基づいて研削砥石55(
図2)を修正するためのマスター溝群143(
図8、9)のいずれかのマスター溝143-1…を決定する。決定されたマスター溝143-1…を用いて、砥石加工機3-2で研削砥石55(
図2)をツルーイング加工して研削砥石55(
図2)の研削溝を形成する。
【0029】
図2は、ウエーハ面取り機の主要部を示す正面図である。ウエーハ面取り機10は、ウエーハ送りユニット20、砥石回転ユニット50、図示しないウエーハ供給/収納部、ウエーハ洗浄/乾燥部、ウエーハ搬送手段、及びウエーハ面取り機各部の動作を制御するコントローラ等から構成されている。
【0030】
ウエーハ送りユニット20は、本体ベース11上に載置されたX軸ベース21、2本のX軸ガイドレール22、22、4個のX軸リニアガイド23、23、… 、ボールスクリュー及びステッピングモータから成るX軸駆動機構25によって図のX方向に移動されるXテーブル24を有している。
【0031】
Xテーブル24には、2本のY軸ガイドレール26、26、4個のY軸リニアガイド27、27、… 、図示しないボールスクリュー及びステッピングモータから成るY軸駆動機構によって図のY方向に移動されるYテーブル28が組み込まれている。
【0032】
Yテーブル28には、2本のZ軸ガイドレール29、29と図示しない4個のZ軸リニアガイドによって案内され、ボールスクリュー及びステッピングモータから成るZ軸駆動機構30によって図のZ方向に移動されるZテーブル31が組み込まれている。
【0033】
Zテーブル31には、θ軸モータ32、θスピンドル33が組み込まれ、θスピンドル33にはウエーハW(板状の被加工材)を吸着載置するウェーハテーブル34が取り付けられている。ウェーハテーブル34はウェーハテーブル回転軸心CWを中心として図のθ方向に回転される。
【0034】
このウエーハ送りユニット20によって、ウエーハW及びツルアー41は図のθ方向に回転されると共に、X、Y、及びZ方向に移動される。
【0035】
砥石回転ユニット50は、外周粗研削砥石52が取り付けられ、図示しない外周砥石モータによって軸心を中心に回転駆動される外周砥石スピンドル51、上方に配置されたターンテーブル53に取り付けられた外周精研スピンドル54及び外周精研モータ56を有している
【0036】
図3は、研削砥石55の部分を拡大した側面図であり、外周精研スピンドル54にはウエーハWの外周を仕上げ研削する面取り用砥石である研削砥石55が取り付けられる。外周精研スピンドル54は、ウエーハWの回転軸Rに対して3~20度傾斜させた状態でウエーハWの外周面取りの仕上げ加工を行う。これにより、ヘリカル研削が行われ、ウエーハWの面取り部には斜め方向に弱い研削痕が発生するものの、通常研削に比べ面取り部の表面粗さが改善される効果が得られる。
【0037】
ウエーハ加工プロセスは、スライス→面取り→ラップ→エッチング→ドナーキラー→精面取りの順で行われ、工程間には汚れを取り除くため、各種洗浄が用いられる。シリコン等は固くてもろく、ウエーハの端面がスライシング時の鋭利なままでは、続く処理工程での搬送や位置合わせなどの取り扱い時に容易に割れたり欠けたりして、断片がウエーハ表面を傷つけたり汚染したりする。これを防ぐため、面取り工程では切り出されたウエーハの端面をダイヤモンドでコートされた面取り砥石で面取りする。
【0038】
研削砥石55は、例えば、Fe、Cr、Cu等の金属粉等を主成分とし、ダイヤモンド砥粒を混ぜて成形したものが用いられる。その材質は、例えば、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、ポリスチレン樹脂又はポリエチレン樹脂等を主成分とし、ダイヤモンド砥粒や立方晶窒化ホウ素砥粒を混ぜて成形したものが望ましい。
【0039】
また、研削砥石55は、直径50mmのダイヤモンド砥粒のレジンボンド砥石で、粒度#3000が用いられる。外周精研スピンドル54は、エアーベアリングを用いたビルトインモータ駆動のスピンドルで、回転速度35,000rpmで回転される。
【0040】
図4は、研削砥石55とウエーハWとの関係を示す断面図であり、回転軸Rを傾けた状態である。研削砥石55の研削溝は、上面斜面55u、中央部55C、下面斜面55dとされ、上面斜面55uは被加工材であるウエーハWの上面、下面斜面55dは下面との接触領域となる。加工されたウエーハWの上部及び下部となる上下両端(Tu、Tdの領域)は、中央部Cと比べて条痕が斜面の分、異なる向きの条痕となる。そして、ヘリカル研削の効果が十分に得られ、中央部と遜色なく加工歪み、表面粗さが改善される。
【0041】
図5は、加工後のウエーハWの形状を示す断面図である。回転軸Rの傾きは、基準値が例えば15度とされていても、厳密には
図1におけるウエーハ面取り機10-1、10-2、10-3…毎に異なる、つまり軸間差を持って設定される。また、回転軸Rの傾きがウエーハ面取り機10-1、10-2、10-3…で同じとしても、回転軸Rに対する研削砥石55の傾き、形状が異なる。
【0042】
回転軸Rに対する研削砥石55の傾きも軸間差とみなすことができる。さらに、軸間差以外にもウエーハWを固定するウェーハテーブル34の傾き、ウエーハWの固定状態、研削抵抗、磨耗具合、研削液の供給具合等のウエーハ面取り機10-1、10-2、10-3…の号機毎の違いにより、加工面の形状精度に影響を与える。
【0043】
図5は、加工後のウエーハWの形状を示す断面図の一例であり、
図5(a)は、厚さが740μmで上面A1が290μm、B1が260μm、θ1が44度に対して、下面A2が290μm、B2が240μm、θ2が42度で加工された例である。回転軸Rの軸間差などによって、A1、B1、θ1、A2、B2、θ2の値がウエーハ面取り機10-1、10-2、10-3…の号機毎に異なって加工される。
【0044】
また、
図5(b)は、加工後のウエーハWの形状を示す断面図の一例であり、厚さが740μmで上面A1が340μm、B1が300μm、θ1が43度に対して下面A2が250μm、B2が190μm、θ2が40度と言うように、面取り加工部の対称性が崩れて加工される場合もある。上記のことから、ウエーハ面取り機10-1、10-2、10-3…の号機毎に諸条件、特に回転軸の傾きの調整が重要であった。
【0045】
図6は、ウエーハ面取り機10が複数台設置されたウエーハ面取りラインにおけるウエーハの形状精度の管理及び修正方法を示すフローチャートであり、特に、研削砥石の回転軸の軸間差によるウエーハWの形状への影響を修正するものである。
図1のブロック図も参照して説明する。
【0046】
ステップ1では、各ウエーハ面取り機10-1、10-2、10-3…で加工されたウエーハWを取り出し、ウエーハ形状測定機2でウエーハWの端面形状などを測定する。測定されたデータをツルーイング装置3のコントローラ3-1へ入力する。
【0047】
コントローラ3-1では、ステップ2として、
図5のようなデータに基づいて砥石形状データ、特に砥石形状データの一つである回転軸Rの傾きを示す軸データ、あるいは回転軸Rの傾きと基準値との差を示す軸間差データとして変換する。ステップ3では、ステップ2で求められた値、軸間差データより研削砥石55の形状を修正する、つまりツルーイングの要否を判定する。
【0048】
図7は、ツルーイング装置3の砥石加工機3-2で行うツルーイングの動作を示した側面図である。ウエーハWの周縁を仕上げ面取りする研削砥石55のツルーイングに用いるツルーイング砥石141(以下ツルアー141と称する)が砥石加工機3-2のマスタテーブル134に取り付けられ、マスタモータ(図示せず)で回転される。砥石加工機3-2は、全てのウエーハ面取り機10-1、10-2、10-3…に用いられる研削砥石55のツルーイングを行うことが可能とされている。
【0049】
図8は、砥石加工機3-2に設けられるマスター砥石142の断面図である。研削砥石55のツルーイングに先立って、ツルアー141の外周部をマスター砥石142で加工し、ツルアー141の外周部にマスター砥石142の外周に設けられたマスター溝群143のうちいずれかの形状が転写される。
【0050】
図9は、マスター溝群143を示す断面図であり、マスター溝143-1、143-2、…143-8と言うように、複数の溝が軸間差データに対応して設けられる。例えば、
図3で示した回転軸Rの傾きの基準値が15度である場合、マスター溝143-1は15.0度に対応した形状、マスター溝143-2は15.5度、マスター溝143-3は16.0度、マスター溝143-4は16.5度、マスター溝143-5は17.0度、マスター溝143-6は14.5度、マスター溝143-7は14.0度、マスター溝143-8は13.5度と言うように、基準値が15度に対してプラス及びマイナスとなるように修正範囲に設定されている。基準値が18度の場合も同様である。
【0051】
ステップ4では、ステップ3でツルーイング要と判定されたウエーハ面取り機10-1、10-2、10-3…に対して砥石形状データ、特に砥石形状データと基準値との差を軸間差とし、研削砥石55の修正用としてマスター溝143-1、143-2、…143-8のいずれかが適しているかを決定する。
【0052】
ステップ5では、ステップ4で決定されたマスター溝でツルアー141の外周部を加工して決定されたマスター溝の断面形状からツルアー141の外周部の断面形状へ転写する。そして、外周部に決定されたマスター溝の断面形状が転写されたツルアー141を用いて、研削砥石55の研削溝を形成する。この加工においては、マスター砥石142が回転速度8,000rpmで回転され、
図7のZ方向にツルアー141が移動して決定されたマスター溝の選択が行われる。
【0053】
砥石加工機3-2は、ウエーハ面取り機10が複数台設置されたウエーハ面取りラインで共通して用いることが可能とされるように加工条件が決められている。したがって、共通化された砥石加工機3-2によって各ウエーハ面取り機10-1、10-2、10-3…の研削砥石55(
図2)をツルーイング加工するので、各ウエーハ面取り機10-1、10-2、10-3…における個々の加工条件、特に研削砥石の回転軸の設定に依存しない。さらに、各ウエーハ面取り機10-1、10-2、10-3…によって異なる加工条件による形状精度に対する影響を受けず、より正確で均一な品質を持った形状で転写が行われる。
【0054】
ツルアー141の材質は、マスター砥石142によって加工することができる一方、研削砥石55を研削することができるものを採用する。例えば炭化珪素からなる砥粒を、必要に応じて充填剤等も加えてフェノール樹脂で結合し、これを円盤状のツルアー141に成形したものが望ましい。
【0055】
また、ツルアー141は、加工されるウエーハWと同等以下の外径であり、同厚の円盤状GC(Green silicon carbide)砥石、又はWA(White fused alumina)砥石でも良く、砥石の粒度は#320程度が良い。
【0056】
ステップ6では、ステップ5で研削溝が形成された研削砥石55を用いてウエーハWを加工する。加工されたウエーハWは、ステップ1へ戻って再び端面形状などが測定される。なお、ステップ1の形状測定は、ウエーハ面取り機10が複数台設置されたウエーハ面取りラインが設置された初期には、ステップ1の形状測定を全てのウエーハ面取り機10-1、10-2、10-3…で加工されたウエーハWに対して行い、ステップ1からステップ6までの工程を行うことが望ましい。
【0057】
また、この時ステップ4において、ウエーハ面取り機10-1、10-2、10-3…の各号機に対してマスター溝143-1、143-2、…143-8のいずれかを決定したかをデータベース化してコントローラ3-1に記憶しておく。これにより、研削砥石の修正工程に要する時間が短縮されると共に、品質の管理が容易となる。
【0058】
図10に、ツルーイングした研削砥石55(
図7)で加工したウエーハWの形状角度を実際に測定したツルーイングテスト結果を示す。テストでは、マスター溝群143(
図8)のマスター溝は溝1~溝5の五種類とし、ウエーハ面取り機10-1、10-2、10-3…は、4機、それぞれ加工軸が2軸で、合計A~Hの8軸で行った。
図10で縦軸がマスター溝である溝1~溝5、横軸が各加工軸A~Hである。なお、溝1は17.6度、溝2は17.8度、溝3は18.0度、溝4は18.2度、溝5は18.4度とした。また、
図3で示した回転軸Rの傾きの基準値が18度としている。そして、加工軸毎に溝1~溝5でウエーハWを加工して形状を測定した結果である。
【0059】
各加工軸で溝1~溝5のうち目標形状である18.0度となるものを選択することが最適となる。
図10から分かるように、加工軸Aは溝2、加工軸Bは溝3、加工軸Cは溝4(あるいは溝5)、加工軸Dは溝3、加工軸Eは溝1、加工軸Fは溝2、加工軸Gは溝2、加工軸Hは溝2が最適となる。したがって、このテスト例では、各加工軸と最適な溝との関係をデータベース化してコントローラ3-1(
図1)に記憶しておく。
【0060】
ウエーハ面取りラインが設置され、生産が行われているときは、適宜、あるいは所定の時間又は所定のウエーハWの加工枚数毎にステップ1の形状測定をウエーハ面取り機10-1、10-2、10-3…で加工されたウエーハWに対して行う。
【0061】
この時は全てのウエーハ面取り機10-1、10-2、10-3…に対して総時間が所定の時間又はウエーハWの総加工枚数が所定値に達したとき、としたり、ウエーハ面取り機10-1、10-2、10-3…のうちいずれかが、所定の時間又は所定のウエーハWの加工枚数に達したとき、としたりすれば良い。
【0062】
ただし、ウエーハ面取り機10-1、10-2、10-3…のうちいずれかが、所定の時間又は所定のウエーハWの加工枚数に達したときは、その時点でそのウエーハ面取り機の号機だけステップ1を行うことが、その時点で全てのウエーハ面取り機10-1、10-2、10-3…に対してステップ1を行うことよりも生産性を落とすことがなく、効率が良い。
【0063】
いずれにしても、ステップ1からステップ6を個別のウエーハ面取り機10-1、10-2、10-3…の号機毎に行うのでなく、コントローラ3-1、砥石加工機3-2を有したツルーイング装置3を専用に設ける。これにより、集中して各ウエーハ面取り機の加工条件の違いを修正するので、量産ライン全体でウエーハの形状精度を総合的に管理することができる。なお、研削砥石55の回転軸を傾けるヘリカル研削を行うことで説明したが、回転軸を傾けない通常の端面研削においても、ステップ1からステップ6と同様の修正を行えば、同様に量産ライン全体でウエーハの形状精度を総合的に管理し、品質の均一化を図ることができる。
【符号の説明】
【0064】
W…ウエーハ、R…回転軸、1…ウエーハ面取りライン、2…ウエーハ形状測定機、3…ツルーイング装置、3-1…コントローラ、3-2…砥石加工機、10、10-1、10-2、10-3…ウエーハ面取り機、11…本体ベース、20…ウエーハ送りユニット、21…X軸ベース、22…X軸ガイドレール、23…X軸リニアガイド、24…Xテーブル、25…X軸駆動機構、26…Y軸ガイドレール、27…Y軸リニアガイド、28…Yテーブル、29…Z軸ガイドレール、30…Z軸駆動機構、31…Zテーブル、32…θ軸モータ、33…θスピンドル、34…ウェーハテーブル、41…ツルアー、50…砥石回転ユニット、51…外周砥石スピンドル、52…外周粗研削砥石、53…ターンテーブル、54…外周精研スピンドル、55…研削砥石、55u…上面斜面、55C…中央部、55d…下面斜面、56…外周精研モータ、141…ツルーイング砥石(ツルアー)、134…マスタテーブル、142…マスター砥石、143…マスター溝群、143-1、143-2、143-3、143-4、143-5、143-6、143-7、143-8…マスター溝