(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-25
(45)【発行日】2022-04-04
(54)【発明の名称】第一のポリアクリレートまたはその誘導体のひとつである第一のポリマーと、第二のポリアクリレートまたはカルボキシメチルセルロースまたはそれらの誘導体のひとつである第二のポリマーからなる結合剤を含んでなるリチウムイオン電池用電極、ならびにその電極を製造するためのインク
(51)【国際特許分類】
H01M 4/134 20100101AFI20220328BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20220328BHJP
H01M 4/38 20060101ALI20220328BHJP
H01M 4/1395 20100101ALI20220328BHJP
C08L 33/04 20060101ALI20220328BHJP
C08L 1/10 20060101ALI20220328BHJP
C08K 3/00 20180101ALI20220328BHJP
【FI】
H01M4/134
H01M4/62 Z
H01M4/38 Z
H01M4/1395
C08L33/04
C08L1/10
C08K3/00
(21)【出願番号】P 2018547401
(86)(22)【出願日】2017-03-07
(86)【国際出願番号】 FR2017050507
(87)【国際公開番号】W WO2017153678
(87)【国際公開日】2017-09-14
【審査請求日】2020-02-28
(32)【優先日】2016-03-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】510225292
【氏名又は名称】コミサリア ア レネルジー アトミック エ オ ゼネルジー アルテルナティブ
【氏名又は名称原語表記】COMMISSARIAT A L’ENERGIE ATOMIQUE ET AUX ENERGIES ALTERNATIVES
【住所又は居所原語表記】Batiment Le Ponant D,25 rue Leblanc,F-75015 Paris, FRANCE
(73)【特許権者】
【識別番号】501094270
【氏名又は名称】ユミコア
(74)【代理人】
【識別番号】100091982
【氏名又は名称】永井 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100082991
【氏名又は名称】佐藤 泰和
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100187159
【氏名又は名称】前川 英明
(72)【発明者】
【氏名】ウィリー、ポルシェ
(72)【発明者】
【氏名】フレデリック、バルビエ
(72)【発明者】
【氏名】ソフィー、シャゼル
(72)【発明者】
【氏名】ニコラ、マリアージュ
(72)【発明者】
【氏名】レオ、メルシャ
【審査官】小川 進
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-252348(JP,A)
【文献】特開2015-198038(JP,A)
【文献】特開2017-022019(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0266865(US,A1)
【文献】特開2014-170685(JP,A)
【文献】特開2009-135103(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2014-0117313(KR,A)
【文献】特開2010-097761(JP,A)
【文献】特開2009-080971(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/134
H01M 4/62
H01M 4/38
H01M 4/1395
C08L 33/04
C08L 1/10
C08K 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム蓄電池用もしくはリチウム電池用電極であって
-ケイ素から作られる電極活物質、
-導電剤、および
-第一のポリマーおよび第二のポリマーのポリマーの混合物を含んでなる結合剤で、そのポリマーのうち
○第一のポリマーは、第一の分子量を持つ、第一のポリアクリレートまたはその誘導体の一つであり、
○第二のポリマーは、第二の分子量を持つ、第二のポリアクリレートまたはそれら誘導体のひとつ
である結合剤
を含んでなり、
前記第一の分子量が150,000g/mol以上400,000g/mol以下であり、 前記第二の分子量が1,000,000g/mol以上1,500,000g/mol以下であり、
前記第一のポリマーおよび前記第二のポリマーの解離度が90%以上であり、 前記第一の分子量が最大でも、前記第二の分子量の67重量%であることを特徴とする電極。
【請求項2】
前記第一のポリマーおよび前記第二のポリマーがともにポリアクリレートである、請求項1に記載の電極。
【請求項3】
前記結合剤が前記第一のポリマーおよび前記第二のポリマーからなる、請求項1
または2に記載の電極。
【請求項4】
重量比(第一のポリマー/第二のポリマー)が1以下である、請求項1~
3のいずれか1項に記載の電極。
【請求項5】
前記結合剤の重量が電極の重量の2%から15%である、請求項1~
4のいずれか1項に記載の電極。
【請求項6】
前記ケイ素がナノ粒子形状で、シリコンがリチウムと、xを0から3.75としてLi
xSiタイプの合金を形成するものである、請求項1~
5のいずれか1項に記載の電極。
【請求項7】
前記ケイ素がマイクロメートルレベルのマトリック内に挿入され、シリコンがリチウムと、xを0から3.75としてLi
xSiタイプの合金を形成するものである、請求項1~
6のいずれか1項に記載の電極。
【請求項8】
前記ナノ粒子形状ケイ素の90%が300nm未満の粒径分布を示す、請求項
6または7に記載の電極。
【請求項9】
2.5mg/cm
2から10mg/cm
2の範囲の量の塗布活物質を含み、少なくとも1.4の密度を持つ、請求項1~
8のいずれか1項に記載の電極。
【請求項10】
いかなるラテックスも全く含まない、請求項1~
9のいずれか1項に記載の電極。
【請求項11】
さらにカルボキシメチルセルロース、ラテックス、架橋剤、別の分子量を有するポリアクリレートなどの添加物を、電極重量の5%以下含んでなる、請求項1~
9のいずれか1項に記載の電極。
【請求項12】
-ケイ素から作られる電極活物質、
-導電剤、および
-第一のポリマーおよび前記第二のポリマーの混合物を含んでなる結合剤で、そのポリマーのうち
○第一のポリマーは、第一の分子量を持つ、第一のポリアクリレートまたはその誘導体の一つであり、
○第二のポリマーは、第二の分子量を持つ、第二のポリアクリレートまたはそれら誘導体のひとつ
である結合剤
から構成される、請求項1~
11のいずれか1項に記載の電極。
【請求項13】
請求項1~
12のいずれか1項に記載のリチウム電池用電極を製造するためのインクであって、
-ケイ素から作られる電極活物質、
-溶媒、
-導電剤、および
-第一のポリマーおよび前記第二のポリマーの混合物を含んでなる結合剤で、そのポリマーのうち
○第一のポリマーは、第一の分子量を持つ、第一のポリアクリレートまたはその誘導体の一つであり、
○第二のポリマーは、第二の分子量を持つ、第二のポリアクリレートまたはそれら誘導体のひとつ
である結合剤
を含んでなり、
前記第一の分子量が150,000g/mol以上400,000g/mol以下であり、 前記第二の分子量が1,000,000g/mol以上1,500,000g/mol以下であり、
前記第一のポリマーおよび前記第二のポリマーの解離度が90%以上であり、 前記第一の分子量が最大でも、前記第二の分子量の67重量%であることを特徴とするインク。
【請求項14】
前記結合剤が乾燥インク重量の2%から15%である、請求項
13に記載のインク。
【請求項15】
前記ケイ素がナノ粒子形状で、マイクロメートルレベルのマトリック内に含まれるか、あるいは含まれておらず、シリコンがリチウムと、xを0から3.75としてLi
xSiタイプの合金を形成するものである、請求項
13または14に記載のインク。
【請求項16】
前記ナノ粒子形状ケイ素の90%が300nm未満の粒径分布を示す、請求項
13~15のいずれか1項に記載のインク。
【請求項17】
リチウム蓄電池用もしくはリチウム電池用電極であって
-ケイ素から作られる電極活物質、
-導電剤、および
-第一のポリマーおよび第二のポリマーのポリマーからなる結合剤で、そのポリマーのうち
○第一のポリマーは、第一の分子量を持つ、第一のポリアクリレートまたはその誘導体の一つであり、
○第二のポリマーは、第二の分子量を持つ、第二のポリアクリレートまたはそれら誘導体のひとつ
である結合剤
を含んでなり、
前記第一の分子量が150,000g/mol以上400,000g/mol以下であり、 前記第二の分子量が1,000,000g/mol以上1,500,000g/mol以下であり、
前記第一のポリマーおよび前記第二のポリマーの解離度が90%以上であり、 前記第一の分子量が最大でも、前記第二の分子量の67重量%であり、
重量比(第一のポリマー/第二のポリマー)が1以下であり、
前記結合剤の重量が電極の重量の2%から15%である
ことを特徴とする電極。
【請求項18】
請求項
17に記載のリチウム電池用電極を製造するためのインクであって、
-ケイ素から作られる電極活物質、
-溶媒、
-導電剤、および
-第一のポリマーおよび前記第二のポリマーからなる結合剤で、そのポリマーのうち ○第一のポリマーは、第一の分子量を持つ、第一のポリアクリレートまたはその誘導体の一つであり、
○第二のポリマーは、第二の分子量を持つ、第二のポリアクリレートまたはそれら誘導体のひとつ
である結合剤
を含んでなり、
前記第一の分子量が150,000g/mol以上400,000g/mol以下であり、 前記第二の分子量が1,000,000g/mol以上1,500,000g/mol以下であり、
前記第一のポリマーおよび前記第二のポリマーの解離度が90%以上であり、 前記第一の分子量が最大でも、前記第二の分子量の67重量%であり、
重量比(第一のポリマー/第二のポリマー)が1以下であり、
前記結合剤の重量が電極の重量の2%から15%である
ことを特徴とするインク。
【発明の詳細な説明】
【発明の分野】
【0001】
本発明は、二つのポリマーの混合物によって形成される結合剤を含むリチウムイオン電池用電極に関するものであり、それらのポリマーのうち、第一のポリマーは第一のポリアクリレートまたはその誘導体のひとつであり、第二のポリマーは第二のポリアクリレートまたはカルボキシメチルセルロースまたはそれらの誘導体のひとつである。また、本発明は、そのような電極を製造するためのインクに関するものでもある。
【従来技術】
【0002】
図1に示したように、リチウム蓄電池は従来から容器2内に収容された電気化学セル1からなっている。電気化学セル1は、電解質5によって分離された負極3と正極4によって形成されている。負極3および正極4は両者ともに、それぞれ集電体6aまたは6bに接続されており、集電体によって外部回路(図示せず)に電子が移動する。リチウム電池の種類によって、電解質5は固体、液体あるいはゲル状とすることができる
一つの電池は複数の蓄電セルによって構成される。
【0003】
電極3、4は一般に、有機もしくは水性溶媒中に分散した粉末状電気化学活物質、結合剤および電子導電体を含んでなるインクを集電体6aまたは6bに塗布することで製造される。
【0004】
従来から、塗布工程に引き続いて、このインク/集電体構成物を乾燥させてインク中に含まれる痕跡量の溶媒を除去してきた。このようにして得られた電極は集電体と密着している。
【0005】
集電体は電極3、4の導電性を向上させるために用いられる。
電極中の異なった成分は結合剤によって結合され、そのことで電極の機械的強度が得られる。また、結合剤によって、セル内での後処理の作業、特に、コイル要素用のコイリング工程において電極に必要なある程度の柔軟性が得られる。
【0006】
負極用電気化学活物資は、リチウムと合金が作れる金属または半金属によって形成される。ケイ素が特に幅広く用いられる。
このようなタイプの金属は、グラファイトの理論比容量(約370mAh/g)に比べて非常に高い理論比容量(約3580mAh/g)を与える。しかしながら、これらの金属はリチウム化すると大きな体膨張を起こしてしまう。体膨張が起こると、このような負極材料によって作られたリチウムイオンセルは劣化するおそれがある。すなわち、i)電極が無傷な状態でなくなって容量が低下したり、ii)電極-電解質間の界面(もしくは固体電解質界面SEI)が破壊されて劣化物質が連続的に生成したり、iii)電池全体に応力がかかり、他の構成要素が劣化するおそれがある。
【0007】
電極の劣化を防止するとともに電池の電気化学的性能を向上させるため、結合剤の特性について数多くの研究がなされてきた。
【0008】
現在、一般に使用されている電極用ポリマー結合剤は、以下のような溶媒に可溶なポリマー結合剤である。すなわち
-PVDFと呼ばれるポリフッ化ビニリデンのような有機溶媒に可溶なもの、あるいは
-CMCと呼ばれるカルボキシメチルセルロース、NBRと呼ばれるニトリルブタジエンゴム、SBRと呼ばれるスチレンブタジエンゴム、ポリアクリル酸(PAA)あるいは解離度にもよるがポリアクリレートなどの水性溶媒に可溶なもの
である。
【0009】
場合によっては発がん性、突然変異性、生殖毒性のあるCMR物質に分類されるような、特別な取り扱い条件が必要な可燃性、揮発性、引火性そして毒性のある有機溶媒の使用を避けるため、水性溶媒に可溶なポリマー結合剤が好ましい。
【0010】
ポリマー結合剤はその鎖長によって特徴づけられ、従来、下記のg/mol単位での分子量Mwによって特徴づけられてきた。
【数1】
式中、n
xは重合度xの高分子の個数であり、M
xはそのような高分子の質量である。
ポリマーの分子質量、あるいは分子量は平均重量として定義される。分子量は一般に同様に定義した分子量を中心としたガウス曲線にしたがって分布する。
【0011】
電極の無傷性を保つために、PAAやCMCといった比較的高いヤング率を有する弾性の高い結合剤が好ましい。CMCとPAAはともに炭素鎖を有するポリマーである。PAAでは、この炭素鎖中に各モノマー上にあるカルボキシル基が含まれている。また、CMCの堅固な炭素鎖中では特定のOH基が部分的に置換されている。PAAのほうが、特に、クーロン効率に関して高性能である(2014年、グルノーブル大学、エティエンヌ・ラドバニーによる論文「リチウムイオン電池用シリコン電極の(脱)リチウム化と劣化メカニズムの理解および影響因子の研究」)。PAA結合剤は活物質と良好な物理化学的相互作用で好ましく結合し、高いヤング率、十分な弾性を実現し、それによって電極の無傷性を最適な方法で維持できるものと考えられる。
【0012】
電気化学的活物質の膨張・収縮問題を改善するために、ケイ素から作られる負極の形成に結合剤としてPAAを配合することが知られている。
ポリアクリル酸あるいはポリアクリレートは、その解離度によって異なった分子量を示す。すなわち、250000g/mol(上記の論文)、750000g/mol(J.Phy.Chem.C2011,115,13487-13495)、1250000g/mol(Energy Environ.Sci.2012,5,9014-9020)、300000g/molから3000000g/molの間(US2007/0026313)、1000000g/molから1250000g/molの間(US2013/0236778)、2000g/mol、5000g/molあるいは100000g/mol(Appl.Mater.Interface,2010,2,11,3004-3010)などである。
【0013】
PAAを使用することで固体電解質界面の形成を抑制するとともに安定化することはできるが、しかし、上記したインクを用いて電極を製造するのが困難であることは明らかである。これらのグレードのPAAを用いて製造された電極インクには、PAAを多量に、典型的には2重量%を超える濃度で配合することが出来ない場合があり、また、場合によっては、電極インクが電極を製造する際に従来から用いられている塗布技法を行うのに適したレオロジー特性を持たないこともある。
【発明の目的】
【0014】
本発明の目的は、従来技術の欠点を改善することであり、特に、機械的に安定で、組み立てる際の柔軟性も十分で、向上した電気化学特性を示す電極と、容易に塗布できて乾燥後にそのような電極が得られるインクを提案することである。
【0015】
上記の目的は、リチウム蓄電池用もしくはリチウム電池用電極であって
-ケイ素から作られる電極活物質、
-導電剤、および
-二つのポリマーの混合物を含んでなる結合剤で、そのポリマーのうち
○第一のポリマーは、第一の分子量を持つ、第一のポリアクリレートまたはその誘導体の一つであり、
○第二のポリマーは、第二の分子量を持つ、第二のポリアクリレートまたはカルボキシメチルセルロースまたはそれら誘導体のひとつ
である結合剤
からなる電極によって達成される。
【0016】
この電極は、第一の分子量が400000g/mol以下150000g/mol以上である点、および、第二の分子量が650000g/mol以上4000000g/mol以下、好ましくは650000g/mol以上1500000g/mol以下である点で特徴的である。
【0017】
また上記の目的は、リチウムイオン電池用電極を製造するためのインクであって、
-ケイ素から作られる電極活物質、
-溶媒、
-導電剤、および
-二つのポリマーの混合物を含んでなる結合剤で、そのポリマーのうち
○第一のポリマーは、第一の分子量を持つ、第一のポリアクリレートまたはその誘導体の一つであり、
○第二のポリマーは、第二の分子量を持つ、第二のポリアクリレートまたはカルボキシメチルセルロースまたはそれら誘導体のひとつ
である結合剤
を含んでなるインクによっても達成される。
【0018】
このインクは、第一の分子量が400000g/mol以下150000g/mol以上である点、および、第二の分子量が650000g/mol以上4000000g/mol以下、好ましくは650000g/mol以上1500000g/mol以下である点で特徴的である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
添付した図面に本発明の特定の実施形態を示したが、これらは単なる例示目的のためのものであり、何らの制限を与えるものでもない。これらの実施形態を詳しく説明することによって本発明の利点や特長をさらに明らかにする。添付した図面は以下の通り。
-
図1は従来技術によるリチウムイオン蓄電池を模式的な断面図で示したものである。
-
図2、3a、4aは様々なインクや溶液のずり勾配(γ)に対する粘度(η)のグラフである。
-
図3b、4bは様々なインクの振動数(f)に対する粘性係数(G‘’)と弾性率(G‘)のグラフである。
-
図5は解離度100%で分子量250000g/molの第一のポリアクリレートと分子量1250000g/molの第二のポリアクリレートから形成された結合剤を含む電極を組み込んだボタン電池のサイクル回数に対するクーロン効率を示したものである。
【発明の好ましい実施形態の記述】
【0020】
リチウムイオン電池用電極を製造するためのインクは、
-電極活物質、
-溶媒、好ましくは水、
-導電剤、
-二つのポリマーの混合物を含んでなる結合剤で、そのポリマーのうち
○第一のポリマーは、第一の分子量を持つ、第一のポリアクリレートまたはその誘導体の一つであり、
○第二のポリマーは、第二の分子量を持つ、第二のポリアクリレートまたはカルボキシメチルセルロースまたはそれら誘導体のひとつ
である結合剤、さらに場合によっては
-添加物
を含んでなる。
【0021】
好ましい態様においては、上記のインクは
-ケイ素から作られる電極活物質、
-溶媒、
-導電剤、および
-上記の二つのポリマーの混合物を含んでなる結合剤
によって構成される。
【0022】
電極活物質はリチウム蓄電池で用いられる負極材料である。この負極材料は、少なくとも、リチウムとLixM(xは0から5)タイプの合金を形成できるような金属または半金属Mを含んでいる。このような金属または半金属としては、ケイ素、アルミニウム、スズあるいはゲルマニウムが好ましい。
電極活物質はケイ素をベースとして作ることが好ましい。物質の無傷性を保つためには、ケイ素はナノ粒子状であると有利である。
スパッタリング現象を制限するために、ケイ素はナノメートルレベルの形状であり、ナノ粒子状であることが好ましい。粒状分布の90%が300nmより小さいと有利であり、50%が150nmより小さいことが好ましい。なお、ここでの粒状分布は体積当たりの分布である。
また、無傷性を維持する観点から、ケイ素はナノ粒子状でマイクロメートルレベルのマトリックスに集積されることが好ましい。ここで、マイクロメートルレベルのマトリックスとは、マイクロメートル程度の大きさのマトリックス、すなわち、0.1μmから50μmサイズのマトリックス、好ましくは2μmから10μmサイズのマトリックスである。
このマイクロレベルのマトリックスは、炭素マトリックスでも金属マトリックス(Fe、Al、Co、Ni、Mn、Sn、Geなど)でもよい。
マトリックスはケイ素に比べて圧倒的な重量でもよい。マトリックスが重量の少なくとも50%を占めていることが好ましく、少なくとも80%を占めていることが極めて好ましい。
ナノメートル程度のケイ素粒子がマイクロメートル程度のマトリックスに集積されることで、体膨張が繰り返されることによる影響を低減できる合剤が形成される。
ケイ素はリチウムとLixSi(xは0から3.75)タイプの合金を形成できる。
活物質はケイ素系化合物と、例えばグラファイトのような他の化合物との混合物でもよい。
電気化学活物資の重量パーセントは乾燥電極重量の85%以上であり、90%以上であることが好ましい。
【0023】
態様によっては、インクは追加成分とも呼ばれる添加物を含有することができる。
この添加物は、カルボキシメチルセルロースのような電極の柔軟性を増強する追加ポリマーラテックス、あるいはポリビニルアルコール(PVA)のような架橋剤でもよい。またこれに替えて、この成分は別の分子量を有するポリアクリレート(PAA)でもよい。そのようにすると、インクは異なる分子量を持つ三つのポリアクリレートを有することになる。
この成分は電極の5重量%以下で、3重量%以下であることが好ましい。
【0024】
ここでの様々な重量パーセントは、特に断らない限り、以下の化合物、すなわち、電極活物質、電子導電剤、結合剤、および、配合する場合は添加物の重量の総和を基準として計算したものである。
溶媒は勘定に入れない。電極製造工程において溶媒は蒸発するため、インクに関するものと電極に関するものとで相対重量パーセントは同じである。したがって、各インク成分の重量は電極に関してのものである。
すなわち、電極重量あるいは乾燥電極重量とは、インクを塗布して溶媒を蒸発させたときの様々な成分の重量である。乾燥エキスという言葉も同様に使用できる。
【0025】
導電剤としては、分散状態、たとえば球状粒子や繊維状の炭素が好ましい。
導電剤には、一つまたは複数の電子伝導物質が含まれていてもよい。電子導電剤は、カーボンブラック、炭素繊維、微細化炭素およびその混合物から選ぶことが好ましい。ここで微細化炭素とは、極めて大きい比表面積をもつ炭素を意味する。
【0026】
結合剤は、乾燥エキス重量もしくは乾燥電極重量の2%から15%であり、乾燥エキス重量の4%から10%であることが好ましい。
【0027】
インクは、結合剤が二つのポリマーの混合物を含んでなっていて、そのポリマーのうち
○第一のポリマーは、第一の分子量を持つ、第一のポリアクリレートまたはその誘導体の一つであり、
○第二のポリマーは、第二の分子量を持つ、第二のポリアクリレートまたはカルボキシメチルセルロースまたはそれら誘導体のひとつ
であることを特徴としている。
【0028】
第一のポリマーと第二のポリマーとでは分子量が異なる。第二の分子量のほうが、第一の分子量よりも大きい。好ましくは、第一の分子量は第二の分子量の67%以下であり、50%以下であってもよい。
【0029】
ポリアクリレートの誘導体とは、少なくとも50%のアクリレート基を形成する塩基を有するポリマーもしくはコポリマーである。
【化1】
式中、Rは解離状態ではリチウム、ナトリウム、アンモニウムあるいはカリウムなどの陽イオンに相当する(ポリアクリレート)。Rは非解離状態(アクリル酸)では水素に相当する。
PAAのカルボキシル基は、LiOH、NaOH、NH
4OHもしくはKOHを添加すると非解離状態から解離状態になる。
解離度は、カルボキシレート基の数とカルボキシル基およびカルボキシレート基の数との間の比である。
ポリマーの解離度は35%から100%であることが好ましい。
このような解離度にするために、求められる解離度に応じてPAA溶液にLiOH、NaOH、NH
4OHもしくはKOHを添加して35%から100%のカルボキシル基を中和する。
溶液のpHを変化させて結合剤の解離度を制御することができる。このpH値は結合剤の解離度を見積もる指標とすることができる。
PAAの巨大分子は、より小さい解離度のものにくらべて、溶液中でより広がった配置をとる。そのため、インクはより粘度が高く、より顕著なずり流動性を示す。このことは電気化学的性能にとって有利である。
【0030】
CMCの誘導体とは、少なくとも50%の下記モノマーによって形成された塩基を有するポリマーもしくはコポリマーである。
【化2】
式中、Rは、それぞれ独立に、H、CH
2COOH、CH
2COOLi、CH
2COONa、あるいはOLi、ONaまたはOHである。
例えば、アルギン酸塩はCMC誘導体の一つである。
【0031】
このポリマーの解離度は35%から100%である。
【0032】
結合剤は二つのポリマーから構成されることが好ましい。
【0033】
一つの態様としては、第一のポリマーがポリアクリレート、第二のポリマーがカルボキシメチルセルロースであるものが挙げられる。
ポリアクリレートの分子量は150000g/mol以上、400000g/mol以下が好ましい。
CMCの分子量は650000g/molから4000000g/molが好ましく、650000g/molから1500000g/molがより好ましい。
【0034】
別の態様としては、第一のポリマーおよび第二のポリマーが、ともにポリアクリレートもしくはその誘導体であるものが挙げられる。
好ましくは、第一のポリマーがPAA1ポリアクリレートであり、第二のポリマーがPAA2ポリアクリレートである。
このようなインクは、単独のポリアクリレートのみを含むインクと比べて優れたレオロジー特性を持ち、そのため塗布によって容易に電極を製造できる。また同時に、大量のPAAをインク中に含有するので、優れた電気化学特性が得られる。
【0035】
第一のPAA1の分子量は400000g/mol以下が好ましく、また、150000g/mol以上が好ましい。これらのPAAは添加しても粘度が大きく増加することがないので、大量に加えることができる。
【0036】
第二のPAA2の分子量は650000g/mol以上が好ましく、また、4000000g/mol以下が好ましい。
第二のPAA2の分子量は650000g/mol以上で1500000g/mol以下であることがさらに好ましい
分子質量がより大きくなると、適切な粘度にするためにより多くの水を加える必要がある。そのため乾燥時にかかる応力も大きくなり、電極の品質を損ねることになる。
平均分子量が650000g・mol-1よりも大きなPAAは、インクがずり流動性をもつのに十分な長さのポリマー鎖によって形成されることが好ましい。
【0037】
第一のポリマーも第二のポリマーも、ともにポリアクリレートであって、第一の分子量が150000g/mol以上、好ましくは250000g/mol以上で、400000g/mol以下、第二の分子量が1000000g/mol以上、1500000g/mol以下であり、かつ、両ポリマーの解離度が90%以上であることが好ましい。
【0038】
重量比PAA1/PAA2は1以上、すなわち、PAA混合物中の大きい分子量のPAAは最大でも50%である。分子量の小さいほうのPAAが多いことで、分子量の大きいほうのPAAが多い場合に比べて粘度が低くなるために、インクを簡単に塗布できる。
【0039】
もしPAA1だけを用いるとインクは粘度が高くなりすぎるし、もしPAA2を単独で用いるとインクは十分なずり流動性を持たなくなる。電極を製造するためには、PAA混合物は上記のような比率である必要がある。
【0040】
上記のPAA混合物から製造されたインクは、ずり応力100s-1で粘度が0.5Pa・sから5Pa・sである。また流動閾値は数Paである。このようなインクのずり応力0.1s-1での粘度は、ずり応力100s-1での粘度の10倍以上である。すなわち、0.1s-1での粘度は5Pa・sよりも大きい。
【0041】
上記のインクは、静止時には粘度が無限大のずり流動タイプの挙動をしめす。すなわち、静止時には活物質粒子の運動がブロックされる。こういったインクは塗布による電極の製造に特に適している。
【0042】
分子量が650000g/molより大きくて解離度が35%から100%のPAAを単独で含有するインクは優れたレオロジー特性を有する。
しかしながら、このようなPAAを、乾燥時にかかる応力を制限して、少なくとも2.5g/cm2の活物質を有する電極の機械的特性を保証するほどの大きな比率で配合することはできない。さらに、インク用の高含量乾燥エキスを確保することも困難である。従って。このような電極は性能が劣ったものになる。
【0043】
逆に、分子量が400000g/mol未満で解離度が35%から100%のPAAを単独で含有するインクの場合は、PAAを2から15%の高比率で配合することは可能であるが、インクは優れたレオロジー特性を持つことはできず、得られる塗布膜は性能が劣り不均一なものになる。
【0044】
PAAのずり流動性が優れていることは、PAAを単独で含有する溶液から理解できる。解離度100%のPAA濃度の異なる複数の溶液を調製し、上記の条件のもとで粘度を測定した。
【0045】
最終的なインクの粘度0.5から5Pa・sを達成するためには、単独で配合されるPAAは0.5から2Pa.sの粘度を持たなければならない。また、0.1s
-1における粘度でのずり流動性は100s
-1における粘度でのずり流動性の10倍大きくなければならない。同様の特性はインクにも求められる。得られた曲線を
図2に示す。
【0046】
いろいろな溶液について調べた(
図2)。それらのレオロジー特性を下記の表に示す。
【表1】
【0047】
特に断らないかぎり、インクの粘度測定はレオメーター、今回の場合は、直径50mm、角度4°の円錐台状ヘッドを装着したボーリン社製CVO(商品名)、と20℃に設定したペルチェプレートで行った。いずれの測定も100s-1のプレすり応力を10秒間加えた。下流に向かってディケード当たり4,5点で、各点10秒間の測定を行った。
【0048】
分子量が100000、250000および345000g/molのPAA溶液は濃度12%でも100s-1で低い粘度を持つ。これらはいかなるずり流動性も示さない。上記の分子量はPAA1の定義に相当している。すなわち、高い含量の結合剤でも電極インクの粘度を上げすぎることなく電極製造に用いることのできる分子量である。
【0049】
分子量が450000g/molのPAA溶液は100s-1で目的とするものに相当する粘度を持つが、高濃度であっても十分なずり流動性を示さない。この分子量は、PAAの二つの定義のいずれにも相当しない。
【0050】
分子量が1250000および3000000g/molのPAA溶液は低含量であれば100s-1で適当な粘度を持つ。また、これらは目的に合致するずり流動性を示す。上記の分子量はPAA2の定義に相当している。すなわち、電極インクのレオロジー特性を好ましいものとするが、インク中に高い比率で含ませることができない分子量である。
【0051】
分子量が400000g/mol未満のPAAを単独で含むインクを2つ調製した。これらを用いて1cm2当たり約5mgの電極合剤を塗布して電極をそれぞれ製造した。インクは以下のようなものである。
-インクA:比容量600mAh/gの炭素-ケイ素合剤(この複合材料を以下、合剤もしくはSiCと呼ぶ)90%、炭素繊維2%、微細化炭素3%、解離度33%で分子量250000g/molのPAA5%を含む電極、
-インクB:合剤90%、炭素繊維2%、微細化炭素3%、解離度100%で分子量250000g/molのPAA5%を含む電極。
後者をインクに配合する前にLiOHを用いてPAAを解離させた。
【0052】
上記の電極を、結合剤が下記のそれぞれである以外は全く同じ3つの電極と比較した。すなわち、それらの結合剤は
-分子量450000g/molのPAA、
-分子量250000g/molのCMC、または
-ともに250000g/molのPAAとCMCの混合物である。
【0053】
これら3つのインクは以下のようなものである。
-インクC:合剤90%、炭素繊維2%、微細化炭素3%、解離度33%で分子量450000g/molのPAA5%を含む電極、
-インクCMC:合剤90%、炭素繊維2%、微細化炭素3%、解離度100%で分子量250000g/molのCMC5%を含む電極(用いたCMCはカルボキシナトリウムCOONa基によって解離させる)、
-インクCMC/PAA:合剤90%、炭素繊維2%、微細化炭素3%、解離度50%で分子量250000g/molのCMC2.5%および分子量250000g/molのPAA2.5%を含む電極(CMCとPAAはNaOHによって解離させる)。
【0054】
上記5つのインクのレオロジー特性を測定した。粘度は前記の方法で測定し、振動モードは同一のジオメトリーで25℃、応力1%、0.1から10Hzまでで行った。ディケード当たり14点で、プレずり応力をかけずに10分の停止時間をはさんで各点6秒から45秒間測定した。
図3aに,これらのインクのずり応力に対する粘度を示した。
図3bには、インクに応力をかけずに振動モードで得られた粘度と弾性率の線形領域を示した。これより静止時におけるインクの特性が推定できる。
粘度曲線(
図3a)から、それぞれ解離度33%で分子量250000g/molのPAAと分子量450000g/molのPAAを含むインクA、Cがずり流動性を示さないことが分かる。
解離度100%で分子量250000g/molのPAA5%混合物(インクB)ではずり流動性が見られる。しかし、インクBは0.1から1s
-1で粘度崩壊が起こり、もはや粘度無限大に向かう傾向は見られない。
しかしながら、CMCおよびCMC/PAAインクでは、0.1から100s
-1における粘度の間で、10未満の比率でずり流動性を示す。
【0055】
弾性率を調べた振動モード(
図3b)によって以下のような結果が確認される。すなわち、CMC、CMC/PAA、A、B、Cのインクは、いずれも、振動数にかかわらず粘性係数(G‘’)は常に弾性率(G‘)よりも高い。インクは粒子の運動をブロックしない。インクは静止時には不安定で、したがって、塗布によってLiイオン電池の電極を製造する従来の方法には適していない。
【0056】
PAA混合物を用いた以外は上記と同じ成分のインクの粘度曲線も示す(
図4aおよび4b)。
-インクD:合剤90%、炭素繊維2%、微細化炭素3%、解離度100%で分子量1250000g/molのPAA1.5%および分子量250000g/molのPAA3.5%を含む電極、
-インクE:合剤90%、炭素繊維2%、解離度100%で分子量1250000g/molのPAA1.5%、分子量250000g/molのPAA3.5%、およびラテックス3%、
-インクF:合剤90%、炭素繊維2%、解離度100%で分子量1250000g/molのPAA2.5%および分子量100000g/molのPAA5.5%を含む電極、
-インクG:合剤90%、炭素繊維2%、解離度100%で分子量1250000g/molのPAA2.5%および分子量250000g/molのPAA5.5%を含む電極、
-インクH:合剤90%、炭素繊維2%、解離度100%で分子量1250000g/molのPAA2.5%および分子量345000g/molのPAA5.5%を含む電極、
-インクI:合剤90%、炭素繊維2%、解離度100%で分子量3000000g/molのPAA0.5%および分子量250000g/molのPAA7.5%を含む電極。
【0057】
上記の様々なインクはPAAをベースとする下記の表に示したようなものである。
【表2】
表中、CFは炭素繊維、CDは微細化炭素、DDは解離度である。
【0058】
解離度100%の分子量の大きいPAAを含むインクD、E、F、G、HおよびIは、100s-1における粘度と0.1s-1における粘度の間で、少なくとも係数が50である顕著なずり流動性を示す。
ラテックスのような他の成分は、インクの安定性を損なうことなく添加することができる(インクE)。粘性係数および弾性率に関しては、常に粘性係数よりも高い弾性率は。常に低振動数で観測され、静止時でインクが安定である特徴を示している。
【0059】
上記の様々なインクのレオロジー評価を下記の表に示す。
【表3】
【0060】
インクC、GのPAA混合物についてのみ、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)測定を行った。これらは測定のため0.1mg/Lに希釈した。得られた結果は、分子量が二峰型分布していることを明確に示していた。
【0061】
PAAを高い含有率で配合し、かつ、100S-1での粘度0.5から2Pa・sとずり流動性をとも得るためには、明確に異なる二つの分子量をもつPAA混合物を用いることが必須である。
【0062】
このような二つのポリマーの混合物組成、すなわち、第一のポリマーがポリアクリレートまたはその誘導体で、第二のポリマーがポリアクリレート.カルボキシメチルセルロースまたはそれらの誘導体であることで、特に、初期サイクルの不可逆性や繰り返しサイクル中のサイクル当たりの損失について良好な電気化学的および機械的特性を得ることができる。
【0063】
リチウム蓄電池用またはリチウム電池用電極の製造法は、以下のような一連の工程を含んでなる。すなわち、
-上記のインクを集電体上に塗布、乾燥させて電極を得る工程、
-電極の痕跡量の溶媒を乾燥させる工程、および
-電極をカレンダー処理する工程
である。
【0064】
電極の乾燥は、150℃未満で行うのが好ましく、130℃未満で行うのがより好ましい。もし、従来行われてきたよりも高い温度、例えば、150℃を超える温度で電極を乾燥させると、PAAが互いに架橋して、電極内にPAA1-PAA1、PAA2-PAA2あるいはAA1-PAA2といった「巨大ポリマー」が生じるおそれがある。このような架橋は結合剤の柔軟性を低減させ、電極の性能には好ましくない。ポリアクリレートの架橋を防止するために、上記した温度未満の温度を使用すべきである。
結合剤は、このようにして第一のポリアクリレートPAA1と第二のポリアクリレートPAA2からなる混合物によって形成され、架橋反応は起こらない。
【0065】
まず、電気化学活物質、溶媒、結合剤、電子導電剤および、もし用いるのならば添加物など異なる成分を蒸留水と混ぜることによってインクを得る。
さらに、ポリマーを解離させるための塩基をインクに添加することもできる。インクはポリマーのような他の成分を含んでもよい。
【0066】
次に、集電体となる一般的には金属箔の上にインクを任意の厚さで層状に塗布して、インク/集電体構成物を作成する。
集電体は銅製であることが好ましく、例えば、銅箔で構成される。
インクの塗布は、例えば、膜厚制御機構を備えた従来の塗布方法やスリット状ノズルを用いる塗布システムによって行うことが好ましい。
【0067】
電極には、少なくとも2.5mg/cm2の量の塗布された活物質が含まれる。
この量は少なくとも2.5mg/cm2で20mg/cm2を上限とすることが好ましい。電極は2.5mg/cm2から10mg/cm2の範囲の量の塗布活物質を含み、少なくとも1.4の密度を持つことが好ましい。すなわち、得られる電極はコンパクトで密なものである。
上記の量は4から10mg/cm2であることが好ましい。
得られたインクの特性は、工業用に適した、数m・m-1の塗布速度で塗布が可能なものある。
次に、インク/集電体構成物を従来の方法で乾燥して溶媒を蒸発させ、集電体に支持された電極を得る。
このようなインクから得られた約5mg/cm2の量の活物質を含む電極は、ラテックスがなくても、特に、柔軟性と接着性に関して良好な機械的特性を有する。
このような電極は、一般的にはコイリング法やスタッキング法によってLiイオンセル内に簡単に集積できる。
【0068】
続いて、電極を公知の方法で乾燥して痕跡量の溶媒を蒸発させる。
【0069】
次に、電極のエネルギー密度を向上させるとともに電気伝導性を増強するために、このようにして形成された電極を圧縮処理またはカレンダー処理して、典型的には1.4以上の密度にすることができる。圧縮処理やカレンダー処理には、電気化学活物質の粒子を互いに接近させて密度を高めることで電極の電気化学活物質粒子間での電気伝播を向上させる効果がある。
【0070】
この方法によって得られるリチウム蓄電池用電極は、
-好ましくはケイ素から作られる電極活物質、
-導電剤、および
-結合剤
を含んでなる。
【0071】
ケイ素はナノ粒子状である。ケイ素はマイクロメートルレベルのマトリックス内に挿入される。ケイ素はリチウムとLixSi(xは0から3.75)タイプの合金を形成してもよい。
【0072】
ナノ粒子状ケイ素の90%は300nm未満の粒径分布を示すことが好ましく、ナノ粒子状ケイ素の50%は150nm未満の粒径分布を示すことが好ましい。
【0073】
結合剤は、二つのポリマーの混合物を含んでなっており、そのポリマーのうち
○第一のポリマーは、第一の分子量を持つ、第一のポリアクリレートまたはその誘導体の一つであり、
○第二のポリマーは、第二の分子量を持つ、第二のポリアクリレートまたはカルボキシメチルセルロースまたはそれら誘導体のひとつ
である。
【0074】
この結合剤によって、電極は強度、結合力および柔軟性を持つようになり、電極とリチウム蓄電池の電解質との間の相互作用は増強される。
結合剤は電極重量の2%から15%であることが好ましく、4%から10%であることがさらに好ましい。
このような範囲にあると、電気化学特性が向上する。
【0075】
一つの態様では、第一のポリマーがポリアクリレートで、第二のポリマーがカルボキシメチルセルロースである。
【0076】
別の態様では、第一のポリマー、第二のポリマーはともにポリアクリレートまたはその誘導体である。
第一のポリマーがPAA1ポリアクリレート、第二のポリマーがPAA2ポリアクリレートであることが好ましい。
【0077】
第一の分子量は400000g/mol以下、150000g/mol以上である。
【0078】
第二の分子量は650000g/mol以上、4000000g/mol以下であり、好ましくは、650000g/mol以上、1500000g/mol以下である。
【0079】
ポリマーの解離度は35%から100%である。
【0080】
より好ましくは、第一のポリマーがPAA1ポリアクリレート、第二のポリマーがPAA2ポリアクリレート、第一の分子量が150000g/mol以上、好ましくは250000g/mol以上で400000g/mol以下、第二の分子量が1000000g/mol以上で1500000g/mol以下、そしてポリマーの解離度が90%超である。
【0081】
第一の分子量は、最大でも第二の分子量の67重量%である。
【0082】
結合剤は二つのポリマーで形成されることが好ましい。
【0083】
リチウム蓄電池用もしくはリチウム電池用電極を
-ケイ素から作られた電極活物質、
-導電剤、および
-二つのポリマーの混合物を含んでなる結合剤
によって形成する態様もある。
【0084】
電極はラテックスを全く含まないことが好ましい。
【0085】
インクの100s-1まででの最大粘度が5Pa・sとするために、第二のポリアクリレートは電極の総重量に対して2重量%以下であることが好ましい。また、電極の総重量に対して0.1%以上であることが好ましい。
【0086】
上記のように選択したPAA混合物を用いれば、電極に亀裂や剥離が生じないことも確認した。
このような電極は、集電体と良好に接着するだけでなく、均一性、柔軟性も良好である。従って、このような電極を少なくとも一つ有するリチウム蓄電池は、向上した電気化学性能を持つ。
【0087】
電極は、たとえ高重量であっても、どんな形状のパターンにも印刷可能な強度を持っている。
【0088】
乾燥工程でPAAが重合しないことを確認した。電極から結合剤を抽出して、抽出した結合剤を上記したクロマトグラフ法によって調べたところ、分子量の二峰分布が再現できた。
【0089】
上記したインクから製造された電極について、フッ素化エチレンカーボネートを含むカーボネート類から作られた電解質を介してボタン電池中で金属リチウムに対向させて20℃でサイクル試験を行った。電極はC/10の充電率、すなわち、合剤の比率と比容量を勘案した10時間で充電してサイクルさせた。
【0090】
サイクル試験は、バイオロジック・カンパニー(Biologic Company)社のVMP3(商品名)を用いて行い、少なくとも0.05%の精度でクーロン効率、すなわち、同一サイクル(サイクルはリチウム化または還元によって開始する)における脱リチウム化または還元電流とリチウム化または酸化電流との比率を得る。初期サイクルの不可逆性は最初のサイクルでの1未満のクーロン効率であり、サイクル当たりの損失は毎回のサイクルにおける1未満のクーロン効率である。
【0091】
結果は、最初のサイクルにおいては、電極/電解質界面の形成にともなって高い初期サイクル不可逆性を示した。その後、サイクル当たりの損失は低減し、10サイクル後は数10サイクルの間、完全に安定化した(
図5)。
【0092】
様々な電極を試験し、初期サイクル不可逆性と、10サイクル後、典型的には10サイクルから20サイクルの間で安定化した損失を比較した。
【0093】
結果を下記の表に示す。
【表4-1】
【表4-2】
【0094】
最も(電気化学的および電極特性について)性能が低かったのは、単分子量の単独結合剤によって形成された電極である。
二つのポリマーを含んでなる結合剤を使用すると改善される。また、二つの異なる分子量(第一の分子量が第二の分子量の最大でも67%)を持ち、解離度が100%のPAA混合物であるDからIの構成のときに最も良好な結果が得られる。
【0095】
参照構成18650についても結果を得た。正極は、LiCoO218.3mg/cm2、すなわち、2.5mAh/cm2、空隙率25%である。比較する二つの負極は、CMC/PAAおよび二つのPAAの混合物(電極G)5.6mg/cm2、すなわち、3.0mAh/cm2、空隙率35%である。電解質はフッ素化エチレンカーボネートを含むカーボネート類から作られる。下記の結果は、4.2から2.7Vの間、C/2の充電率、20℃でサイクル試験をして得られたものである。
【0096】
【0097】
nサイクル後の容量保持率とは、第nサイクル時における放電容量と第2サイクル時における放電容量の比である。
【0098】
CMCを用いた従来の構成に比べて、PAAの方が向上した性能を示した。
【0099】
電極Gから作られた18650試料は、CMC/PAA電極から作られたものと比べて、初期サイクル不可逆性が1.5%低減していた。
【0100】
容量保持率に関しても、電極Gから作られた18650試料は、CMC/PAA電極から作られたものと比べて大幅に向上する。
【0101】
第2サイクル時における容量に比べて80%の容量になるまでのサイクル回数を基準とするLIイオン蓄電池の寿命は、負極について最適な構成を持つものでは50%以上向上する。