IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東京応化工業株式会社の特許一覧

特許7046948芳香族アミン化合物、エポキシ化合物用硬化剤、硬化性組成物、硬化物、硬化物の製造方法、及び芳香族アミン化合物の製造方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-25
(45)【発行日】2022-04-04
(54)【発明の名称】芳香族アミン化合物、エポキシ化合物用硬化剤、硬化性組成物、硬化物、硬化物の製造方法、及び芳香族アミン化合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 237/40 20060101AFI20220328BHJP
   C07C 231/12 20060101ALI20220328BHJP
   C07C 231/02 20060101ALI20220328BHJP
   C08G 59/40 20060101ALI20220328BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20220328BHJP
【FI】
C07C237/40 CSP
C07C231/12
C07C231/02
C08G59/40
C07B61/00 300
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2019532866
(86)(22)【出願日】2018-07-26
(86)【国際出願番号】 JP2018028132
(87)【国際公開番号】W WO2019022203
(87)【国際公開日】2019-01-31
【審査請求日】2020-01-21
(31)【優先権主張番号】P 2017145639
(32)【優先日】2017-07-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000220239
【氏名又は名称】東京応化工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】引田 二郎
(72)【発明者】
【氏名】塩田 大
【審査官】松澤 優子
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第102617382(CN,A)
【文献】特開2010-180349(JP,A)
【文献】特開2015-054825(JP,A)
【文献】HE,X. et al.,European Polymer Journal,2013年,Vol.49,p.2759-2768
【文献】European Polymer Journal,Vol.44,2008年,pp.3578-3587
【文献】ZHANG,L. et al.,JOURNAL OF MACROMOLECULAR SCIENCE, PART A: PURE AND APPLIED CHEMISTRY,2016年,Vol.53, No.2,p.88-95
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
C08G
C07B
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(a1):
【化1】
(式(a1)中、R1a、R1b、R2a、R2b、R3a、及びR3bは、それぞれ独立に、1価の炭化水素基、-OR4aで表される基、-SR4bで表される基、アシル基、ハロゲン原子、シアノ基、-NHR4cで表される基、又は-N(R4dで表される基であり、1価の炭化水素基、-OR4aで表される基、-SR4bで表される基、アシル基、-NHR4cで表される基、及び-N(R4dで表される基は、-OR4eで表される基、-SR4fで表される基、アシル基、ハロゲン原子、シアノ基、及び-NHR4gで表される基からなる群より選択される1以上の基で置換されていてもよく、
4a~R4gは、それぞれ独立に1価の炭化水素基であり、
、及びXは、それぞれ独立に、-CO-NH-、-CO-NH-CO-、-O-CO-NH-、又は-CO-NH-CO-NH-であり、
環Y、環Y、環Y及び環Yは、それぞれ独立に芳香族炭化水素環であり、
Rは、単結合、置換基を有してもよいメチレン基、置換基を有してもよいエチレン基エチレン基の2個の炭素原子間にヘテロ原子を含基、-O-で表される基、-NH-で表される基、又は-S-で表される基であり、
n1及びn2は、それぞれ独立に0以上4以下の整数であり、
n3及びn4は、それぞれ独立に0以上5以下の整数であり、
n5及びn6は、それぞれ独立に0以上4以下の整数であり、
n7及びn8は、それぞれ独立に0以上2以下の整数であり、
n3+n7と、n4+n8とはそれぞれ独立に0以上5以下の整数であり、
n7+n8は、1以上4以下の整数である。)
で表される芳香族アミン化合物。
【請求項2】
下記式(a2):
【化2】
(式(a2)中、R1a、R1b、R2a、R2b、R3a、R3b、X、X、環Y、環Y、R、及びn1~n8は、式(a1)と同様である。)
で表される、請求項1に記載の芳香族アミン化合物。
【請求項3】
下記式(a3):
【化3】
(式(a3)中、R1a、R1b、R2a、R2b、R3a、R3b、環Y、環Y、R、及びn1~n8は、式(a1)と同様である。)
で表される、請求項2に記載の芳香族アミン化合物。
【請求項4】
下記式(a4):
【化4】
(式(a4)中、R1a、R1b、R2a、R2b、R3a、R3b、環Y、環Y、R、及びn1~n8は、式(a1)と同様である。)
で表される、請求項3に記載の芳香族アミン化合物。
【請求項5】
下記式(a5):
【化5】
(式(a4)中、R1a、R1b、R2a、R2b、R3a、R3b、環Y、環Y、R、及びn1~n6は、式(a1)と同様である。)
で表される、請求項3に記載の芳香族アミン化合物。
【請求項6】
下記式(a6):
【化6】
(式(a6)中、R1a、R1b、R2a、R2b、R3a、R3b、環Y、環Y、R、及びn1~n6は、式(a1)と同様である。)
で表される、請求項4に記載の芳香族アミン化合物。
【請求項7】
前記環Y、及び前記環Yが、それぞれベンゼン環であり、前記Rが単結合である、請求項1~6のいずれか1項に記載の芳香族アミン化合物。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の芳香族アミン化合物を含む、エポキシ化合物用硬化剤。
【請求項9】
(A)エポキシ化合物と、(B)硬化剤とを含み、
前記(B)硬化剤が、請求項8に記載のエポキシ化合物用硬化剤である硬化性組成物。
【請求項10】
請求項9に記載の前記硬化性組成物の硬化物。
【請求項11】
請求項9に記載の前記硬化性組成物を所定の形状に成形することと、
成形性された前記硬化性組成物を加熱することと、
を含む硬化物の製造方法。
【請求項12】
下記式(a1-1):
【化7】
(式(a1-1)中、R1a、R1b、R2a、R2b、R3a、R3b、X、X、環Y、環Y、環Y、環Y、R、及びn1~n8は、式(a1)と同様である。)
で表される芳香族ニトロ化合物が有するニトロ基を水素化してアミノ基に変換することを含む、請求項1に記載の芳香族アミン化合物の製造方法。
【請求項13】
請求項12に記載の製造方法であって、
下記式(a1-1a)で表される芳香族化合物と、下記式(a1-1b)で表される化合物と、下記式(a1-1c)で表される化合物と:
【化8】
(式(a1-1a)、式(a1-1b)、及び式(a1-1c)中、R1a、R1b、R2a、R2b、R3a、R3b、環Y、環Y、環Y、環Y、R、及びn1~n8は、式(a1)と同様であり、
基X1aは、基X1bとの反応により、式(a1-1)中の基Xを形成させる基であり、
基X2aは、基X2bとの反応により、式(a1-1)中の基Xを形成させる基である。)
を反応させて、式(a1-1)で表される前記芳香族ニトロ化合物を製造することを含み、
基X1aと基X1bとの反応により基Xを生成させ、基X2aと基X2bとの反応により基Xを生成させ、
基X1aと基X1bとの組み合わせ、及び基X2aと基X2bとの組み合わせが、それぞれ独立に、
カルボキシ基(-COOH)又はハロカルボニル基(-COHal)と、アミノ基(-NH)との組み合わせ、
カルボキシ基(-COOH)又はハロカルボニル基(-COHal)と、カルバモイル基(-CO-NH)との組み合わせ、
水酸基とイソシアネート基との組み合わせ、又は、
カルバモイル基(-CO-NH)と、イソシアネート基との組み合わせ、である、製造方法。
【請求項14】
下記式(a1-1a)で表される芳香族化合物と、下記式(a1-3b)で表される化合物と、下記式(a1-3c)で表される化合物と:
【化9】
(式(a1-1a)、式(a1-3b)、及び式(a1-3c)、及び中、R1a、R1b、R2a、R2b、R3a、R3b、環Y、環Y、環Y、環Y、R、及びn1~n8は、式(a1)と同様であり、
基X1aは、基X1bとの反応により、式(a1)中の基Xを形成させる基であり、
基X2aは、基X2bとの反応により、式(a1)中の基Xを形成させる基である。)
を反応させて、式(a1)で表される前記芳香族アミン化合物を製造することを含み、
基X1aと基X1bとの反応により基Xを生成させ、基X2aと基X2bとの反応により基Xを生成させ、
基X1aと基X2bとの組み合わせ、及び基X2aと基X2bとの組み合わせが、それぞれ独立に、
カルボキシ基(-COOH)又はハロカルボニル基(-COHal)と、アミノ基(-NH)との組み合わせ、又は
カルボキシ基(-COOH)又はハロカルボニル基(-COHal)と、カルバモイル基(-CO-NH)との組み合わせ
である、請求項1に記載の芳香族アミン化合物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香族アミン化合物、エポキシ化合物用硬化剤、硬化性組成物、硬化物、硬化物の製造方法、及び芳香族アミン化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
芳香族アミン化合物は、硬化性組成物の硬化剤等の種々の用途で使用されている。例えば、エポキシ化合物と芳香族アミン化合物とを含む硬化性組成物が、接着剤、電子部品封止、及び繊維強化複合材料のマトリックス形成等の用途等において広く使用されている。
【0003】
例えば分子内にエポキシ基を有するエポキシ化合物と、芳香族アミン化合物とを含む硬化性組成物が特許文献1に開示されている。また、ポリイミド樹脂の前駆体として使用され得る芳香族アミン化合物が特許文献2に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特公平6-39520号公報
【文献】特許第5773090号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
芳香族アミン化合物は、その用途に応じて構造が最適化される。例えば、芳香族アミン化合物をエポキシ化合物の硬化剤として用いる場合、硬化物の硬さや脆さを緩和させるために、芳香族アミン化合物において、芳香環等の剛直な環同士が、アミド結合(-CONH-)やエステル結合(-COO-)等の柔軟な2価基により連結されているのが好ましい。
【0006】
特許文献2には、芳香環とフルオレン環とがアミド結合(-CONH-)により連結された芳香族アミン化合物(式(21))が記載されている。しかし、特許文献2の式(21)に記載の芳香族アミン化合物を用いてエポキシ化合物を硬化させると、得られる硬化物の耐アルカリ性が必ずしも良好でない。
【0007】
本発明は、上記の課題に鑑みなされたものであって、エポキシ化合物と反応させることによって、耐アルカリ性に優れる硬化物を良好に形成できる芳香族アミン化合物と、当該芳香族アミン化合物を含むエポキシ化合物用硬化剤と、当該エポキシ化合物用硬化剤を含む硬化性組成物と、当該硬化性組成物の硬化物と、当該硬化物の製造方法と、前述の芳香族アミン化合物の製造方法とを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、芳香族アミン化合物の構造を、フルオレン環等の縮合環からなる中心骨格における特定の位置が、アミド結合等の柔軟な結合で連結された2つの芳香族基を含む側鎖基で置換されており、該側鎖基の末端に少なくとも1つのアミノ基が結合し、且つ水酸基を持たない構造とすることによって上記の課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、本発明は以下のものを提供する。
【0009】
本発明の第1の態様は、下記式(a1):
【化1】
(式(a1)中、R1a、R1b、R2a、R2b、R3a、及びR3bは、それぞれ独立に、1価の炭化水素基、-OR4aで表される基、-SR4bで表される基、アシル基、アルコキシカルボニル基、ハロゲン原子、シアノ基、-NHR4cで表される基、又は-N(R4dで表される基であり、1価の炭化水素基、-OR4aで表される基、-SR4bで表される基、アシル基、アルコキシカルボニル基、-NHR4cで表される基、及び-N(R4dで表される基は、-OR4eで表される基、-SR4fで表される基、アシル基、アルコキシカルボニル基、ハロゲン原子、シアノ基、-NHR4gで表される基、及び-N(R4hで表される基からなる群より選択される1以上の基で置換されていてもよく、
4a~R4gは、それぞれ独立に1価の炭化水素基であり、
、及びXは、それぞれ独立に、-CO-NH-、-CO-O-、-NH-CO-NH-、-CO-NH-CO-、-O-CO-NH-、又は-CO-NH-CO-NH-であり、
環Y、環Y、環Y、及び環Yは、それぞれ独立に芳香族炭化水素環であり、
Rは、単結合、置換基を有してもよいメチレン基、置換基を有してもよく、2個の炭素原子間にヘテロ原子を含んでもよいエチレン基、-O-で表される基、-NH-で表される基、又は-S-で表される基であり、
n1及びn2は、それぞれ独立に0以上4以下の整数であり、
n3及びn4は、それぞれ独立に0以上5以下の整数であり、
n5及びn6は、それぞれ独立に0以上4以下の整数であり、
n7及びn8は、それぞれ独立に0以上2以下の整数であり、
n3+n7と、n4+n8とはそれぞれ独立に0以上5以下の整数であり、
n7+n8は、1以上4以下の整数である。)
で表される芳香族アミン化合物である。
【0010】
本発明の第2の態様は、第1の態様にかかる芳香族アミン化合物を含む、エポキシ化合物用硬化剤である。
【0011】
本発明の第3の態様は、(A)エポキシ化合物と、(B)硬化剤とを含み、
(B)硬化剤が、第2の態様にかかるエポキシ化合物用硬化剤である硬化性組成物である。
【0012】
本発明の第4の態様は、第3の態様にかかる硬化性組成物の硬化物である。
【0013】
本発明の第5の態様は、第3の態様にかかる硬化性組成物を所定の形状に成形することと、
成形性された硬化性組成物を加熱することと、
を含む硬化物の製造方法である。
【0014】
本発明の第6の態様は、下記式(a1-1):
【化2】
(式(a1-1)中、R1a、R1b、R2a、R2b、R3a、R3b、X、X、環Y、環Y、環Y、環Y、R、及びn1~n8は、式(a1)と同様である。)
で表される芳香族ニトロ化合物が有するニトロ基を水素化してアミノ基に変換することを含む、第1の態様にかかる芳香族アミン化合物の製造方法である。
【0015】
本発明の第7の態様は、下記式(a1-2):
【化3】
(式(a1-2)中、R1a、R1b、R2a、R2b、R3a、R3b、X、X、環Y、環Y、環Y、環Y、R、及びn1~n8は、式(a1)と同様であり、Z、及びZはそれぞれアミノ基を保護し、且つ脱保護可能な保護基である。)
で表される芳香族化合物が有する、Z-NH-、又はZ-NH-で表される保護されたアミノ基を脱保護することを含む、第1の態様にかかる芳香族アミン化合物の製造方法である。
【0016】
本発明の第8の態様は、下記式(a1-1a)で表される芳香族化合物と、下記式(a1-3b)で表される化合物と、下記式(a1-3c)で表される化合物と:
【化4】
(式(a1-1a)、式(a1-3b)、及び式(a1-3c)、及び中、R1a、R1b、R2a、R2b、R3a、R3b、環Y、環Y、環Y、環Y、R、及びn1~n8は、式(a1)と同様であり、
基X1aは、基X1bとの反応により、式(a1)中の基Xを形成させる基であり、
基X2aは、基X2bとの反応により、式(a1)中の基Xを形成させる基である。)
を反応させて、式(a1)で表される芳香族アミン化合物を製造することを含み、
基X1aと基X1bとの反応により基Xを生成させ、基X2aと基X2bとの反応により基Xを生成させ、
基X1aと基X2bとの組み合わせ、及び基X2aと基X2bとの組み合わせが、それぞれ独立に、
カルボキシ基(-COOH)又はハロカルボニル基(-COHal)と、アミノ基(-NH)との組み合わせ、
カルボキシ基(-COOH)又はハロカルボニル基(-COHal)と、水酸基との組み合わせ、又は
カルボキシ基(-COOH)又はハロカルボニル基(-COHal)と、カルバモイル基(-CO-NH)との組み合わせである、第1の態様にかかる芳香族アミン化合物の製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、エポキシ化合物と反応させることによって、耐アルカリ性に優れる硬化物を良好に形成できる芳香族アミン化合物と、当該芳香族アミン化合物を含むエポキシ化合物用硬化剤と、当該エポキシ化合物用硬化剤を含む硬化性組成物と、当該硬化性組成物の硬化物と、当該硬化物の製造方法と、前述の芳香族アミン化合物の製造方法とを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
≪芳香族アミン化合物≫
芳香族アミン化合物は、下記式(a1):
【化5】
(式(a1)中、R1a、R1b、R2a、R2b、R3a、及びR3bは、それぞれ独立に、1価の炭化水素基、-OR4aで表される基、-SR4bで表される基、アシル基、アルコキシカルボニル基、ハロゲン原子、シアノ基、-NHR4cで表される基、又は-N(R4dで表される基であり、1価の炭化水素基、-OR4aで表される基、-SR4bで表される基、アシル基、アルコキシカルボニル基、-NHR4cで表される基、及び-N(R4dで表される基は、-OR4eで表される基、-SR4fで表される基、アシル基、アルコキシカルボニル基、ハロゲン原子、シアノ基、-NHR4gで表される基、及び-N(R4hで表される基からなる群より選択される1以上の基で置換されていてもよく、
4a~R4gは、それぞれ独立に1価の炭化水素基であり、
、及びXは、それぞれ独立に、-CO-NH-、-CO-O-、-NH-CO-NH-、-CO-NH-CO-、-O-CO-NH-、又は-CO-NH-CO-NH-であり、
環Y、環Y、環Y、及び環Yは、それぞれ独立に芳香族炭化水素環であり、
Rは、単結合、置換基を有してもよいメチレン基、置換基を有してもよく、2個の炭素原子間にヘテロ原子を含んでもよいエチレン基、-O-で表される基、-NH-で表される基、又は-S-で表される基であり、
n1及びn2は、それぞれ独立に0以上4以下の整数であり、
n3及びn4は、それぞれ独立に0以上5以下の整数であり、
n5及びn6は、それぞれ独立に0以上4以下の整数であり、
n7及びn8は、それぞれ独立に0以上2以下の整数であり、
n3+n7と、n4+n8とはそれぞれ独立に0以上5以下の整数であり、
n7+n8は、1以上4以下の整数である。)
で表される芳香族アミン化合物である。
【0019】
芳香族アミン化合物の用途は特に限定されない。芳香族アミン化合物はエポキシ化合物用硬化剤として好適に用いられる。式(a1)で表される芳香族アミン化合物は、その構造中に、カルボキシ基やフェノール性水酸基等のアルカリ可溶性基を含まない。このため、式(a1)で表される芳香族アミン化合物を用いて、エポキシ化合物を硬化させると、耐アルカリ性が良好な硬化物を形成できる。
また、芳香族アミン化合物は、従来から芳香族アミン化合物が使用されている種々の用途に適用できる。例えば、芳香族アミン化合物が2以上のアミノ基を有する場合、ポリアミド樹脂合成用のモノマーとして使用できる。また、芳香族アミン化合物は、アゾ色素合成用のジアゾニウム塩やテトラゾニウム塩の原料として好適に使用できる。
【0020】
上記式(a1)において、環Y、環Y、環Y、及び環Yとしては、例えば、ベンゼン環、縮合多環式芳香族炭化水素環[例えば、縮合二環式炭化水素環(例えば、ナフタレン環等のC8-20縮合二環式炭化水素環、好ましくはC10-16縮合二環式炭化水素環)、縮合三環式芳香族炭化水素環(例えば、アントラセン環、フェナントレン環等)等の縮合2乃至4環式芳香族炭化水素環]等が挙げられる。環Y、環Y、環Y、及び環Yとしては、それぞれ、ベンゼン環又はナフタレン環が好ましく、ベンゼン環がより好ましい。環Y及び環Yは、同一でも異なっていてもよくいずれの環もベンゼン環であることが特に好ましい。環Y及び環Yは、同一でも異なっていてもよくいずれの環もベンゼン環であることが特に好ましい。
【0021】
式(a1)において、X、及びXは、-CO-NH-、-CO-O-、-NH-CO-NH-、-CO-NH-CO-、-O-CO-NH-、又は-CO-NH-CO-NH-である。これらの結合の向きは特に限定されない。例えば、Xが-CO-NH-である場合、環Y側にカルボニル基(-CO-)が存在しても、環Y側にアミノ基(-NH-)が存在してもよい。
【0022】
式(a1)において、R1a、R1b、R2a、R2b、R3a、及びR3bとしては、非反応性置換基が好ましい。非反応性置換基としては、例えば、;アルキル基(例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基等のC1-12アルキル基、好ましくはC1-8アルキル基、より好ましくはC1-6アルキル基等)、シクロアルキル基(シクロヘキシル基等のC5-10シクロアルキル基、好ましくはC5-8シクロアルキル基、より好ましくはC5-6シクロアルキル基等)、アリール基(例えば、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等のC6-14アリール基、好ましくはC6-10アリール基、より好ましくはC6-8アリール基等)、アラルキル基(ベンジル基、フェネチル基等のC6-10アリール-C1-4アルキル基等)等の1価の炭化水素基;
アルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基等のC1-12アルコキシ基、好ましくはC1-8アルコキシ基、より好ましくはC1-6アルコキシ基等)、シクロアルコキシ基(シクロヘキシルオキシ基等のC5-10シクロアルコキシ基等)、アリールオキシ基(フェノキシ基等のC6-10アリールオキシ基)、アラルキルオキシ基(例えば、ベンジルオキシ基等のC6-10アリール-C1-4アルキルオキシ基)等の-OR4aで示される基;
アルキルチオ基(メチルチオ基、エチルチオ基、プロピルチオ基、ブチルチオ基等のC1-12アルキルチオ基、好ましくはC1-8アルキルチオ基、より好ましくはC1-6アルキルチオ基等)、シクロアルキルチオ基(シクロヘキシルチオ基等のC5-10シクロアルキルチオ基等)、アリールチオ基(フェニルチオ基等のC6-10アリールチオ基)、アラルキルチオ基(例えば、ベンジルチオ基等のC6-10アリール-C1-4アルキルチオ基)等の-SR4bで示される基;
アシル基(アセチル基等のC1-6アシル基等);
アルコキシカルボニル基(メトキシカルボニル基等のC1-4アルコキシ-カルボニル基等);
ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等);
シアノ基;
アルキルアミノ基(メチルアミノ基、エチルアミノ基、プロピルアミノ基、ブチルアミノ基等のC1-12アルキルアミノ基、好ましくはC1-8アルキルアミノ基、より好ましくはC1-6アルキルアミノ基等)、シクロアルキルアミノ基(シクロヘキシルアミノ基等のC5-10シクロアルキルアミノ基等)、アリールアミノ基(フェニルアミノ基等のC6-10アリールアミノ基)、アラルキルアミノ基(例えば、ベンジルアミノ基等のC6-10アリール-C1-4アルキルアミノ基)等の-NHR4cで示される基;
ジアルキルアミノ基(ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジプロピルアミノ基、ジブチルアミノ基等のジ(C1-12アルキル)アミノ基、好ましくはジ(C1-8アルキル)アミノ基、より好ましくはジ(C1-6アルキル)アミノ基等)、ジシクロアルキルアミノ基(ジシクロヘキシルアミノ基等のジ(C5-10シクロアルキル)アミノ基等)、ジアリールアミノ基(ジフェニルアミノ基等のジ(C6-10アリール)アミノ基)、ジアラルキルアミノ基(例えば、ジベンジルアミノ基等のジ(C6-10アリール-C1-4アルキル)アミノ基)等の-N(R4dで示される基、が好ましい。
【0023】
1a、R1b、R2a、R2b、R3a、及びR3bが1価の炭化水素基、-OR4aで表される基、-SR4bで表される基、アシル基、アルコキシカルボニル基、-NHR4cで表される基、及び-N(R4dで表される基である場合、これらの基は、-OR4eで表される基、-SR4fで表される基、アシル基、アルコキシカルボニル基、ハロゲン原子、シアノ基、-NHR4gで表される基、及び-N(R4hで表される基からなる群より選択される1以上の基で置換されていてもよい。
【0024】
これらの置換基の好ましい例は、-OR4aで表される基、-SR4bで表される基、アシル基、アルコキシカルボニル基、ハロゲン原子、シアノ基、-NHR4cで表される基、及び-N(R4dで表される基の好ましい例と同様である。
【0025】
1a、R1b、R2a、R2b、R3a、及びR3bが、それぞれ複数存在する場合、複数の基はそれぞれ同一でも異なっていてもよい。R1a、R1b、R2a、R2b、R3a、及びR3bの置換位置は特に限定はされない。
【0026】
式(a1)において、n1及びn2は、それぞれ独立に0以上4以下の整数であり、0又は1が好ましく、0がより好ましい。n3及びn4は、それぞれ独立に0以上5以下の整数であり、0又は1が好ましく、0がより好ましい。n5及びn6は、それぞれ独立に0以上5以下の整数であり、0又は1が好ましく、0がより好ましい。n7及びn8は、それぞれ独立に0以上2以下の整数であり、1が好ましい。
【0027】
式(a1)において、Rは単結合、置換基を有してもよいメチレン基、置換基を有してもよく、2個の炭素原子間にヘテロ原子を含んでもよいエチレン基、-O-で示される基、-NH-で示される基、又は-S-で示される基であり、典型的には単結合である。置換基としては、例えば、シアノ基、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子等)、1価の炭化水素基[例えば、アルキル基(メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、t-ブチル基等のC1-6アルキル基)、アリール基(フェニル基等のC6-10アリール基)等]等が挙げられる。ヘテロ原子としては、例えば、酸素原子、窒素原子、イオウ原子、珪素原子等が挙げられる。
【0028】
式(a1)において、環Y、及び前記環Yが、それぞれベンゼン環であり、Rが単結合であるのが好ましい。つまり、式(a1)で表される芳香族アミン化合物はフルオレン環を含むのが好ましい。
【0029】
式(a1)において、n3+n7と、n4+n8とはそれぞれ独立に0以上5以下の整数である。n7及びn8は、互いに同一でも異なっていてもよい。n7+n8は、1以上4以下の整数である。よって、環Y又は環Yの少なくとも一方に1以上のアミノ基が結合する。n7+n8は、2又は3が好ましく、2がより好ましい。n7と、n8との双方が1であるのが特に好ましい。
【0030】
以上説明した式(a1)で表される芳香族アミン化合物としては、下記式(a2):
【化6】
(式(a2)中、R1a、R1b、R2a、R2b、R3a、R3b、環Y、環Y、環Y、環Y、R、及びn1~n8は、式(a1)と同様である。)
で表される化合物が好ましい。
【0031】
式(a2)で表される芳香族アミン化合物としては、下記式(a3):
【化7】
(式(a3)中、R1a、R1b、R2a、R2b、R3a、R3b、X、X、環Y、環Y、R、及びn1~n8は、式(a1)と同様である。)
で表される化合物が好ましい。
【0032】
式(a3)で表される芳香族アミン化合物としては、下記式(a4):
【化8】
(式(a4)中、R1a、R1b、R2a、R2b、R3a、R3b、X、X、環Y、環Y、R、及びn1~n8は、式(a1)と同様である。)
で表される化合物が好ましい。
【0033】
また、式(a3)で表される芳香族アミン化合物としては、下記式(a5):
【化9】
(式(a4)中、R1a、R1b、R2a、R2b、R3a、R3b、X、X、環Y、環Y、R、及びn1~n6は、式(a1)と同様である。)
で表される化合物が好ましい。
【0034】
また、式(a4)で表される芳香族アミン化合物としては、下記式(a6):
【化10】
(式(a6)中、R1a、R1b、R2a、R2b、R3a、R3b、X、X、環Y、環Y、R、及びn1~n6は、式(a1)と同様である。)
で表される化合物が好ましい。
【0035】
以上説明した式(a1)で表される芳香族アミン化合物の好ましい具体例としては、下記式の、9位に2つの同一の置換基を有するフルオレン化合物が挙げられる。
【化11】
【0036】
【化12】
【0037】
また、上記の化合物における、アミド結合(-CO-NH-)を、-CO-O-、-NH-CO-NH-、-CO-NH-CO-、-O-CO-NH-、又は-CO-NH-CO-NH-に置換した化合物も、式(a1)で表される化合物の好適な例として挙げられる。
【0038】
≪エポキシ化合物用硬化剤≫
エポキシ化合物用硬化剤は、前述の式(a1)で表される化合物を含んでいれば特に限定されない。式(a1)で表される化合物のみをエポキシ化合物用硬化剤として用いてもよい。また、エポキシ化合物用硬化剤は、式(a1)で表される化合物以外の、エポキシ化合物を硬化し得る化合物や有機溶剤等の種々の成分を含んでいてもよい。
例えば、エポキシ化合物用硬化剤は、エポキシ化合物用硬化剤としての性能を阻害しない範囲で、酸化防止剤、紫外線吸収剤、粘度調整剤、消泡剤、界面活性剤等を含んでいてもよい。
有機溶剤としては、後述する硬化性組成物が含んでいてもよい有機溶剤と同様の有機溶剤が挙げられる。
【0039】
エポキシ化合物用硬化剤は、硬化促進剤を含んでいてもよい。硬化促進剤としては、例えば、ウレア化合物、第三級アミンとその塩、イミダゾール類とその塩、ホスフィン系化合物とその誘導体、カルボン酸金属塩やルイス酸、ブレンステッド酸類とその塩類、テトラフェニルボロン塩等が挙げられる。
【0040】
エポキシ化合物用硬化剤における式(a1)で表される化合物の含有量は、有機溶剤を除くエポキシ化合物用硬化剤の質量に対して、70質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、90質量%以上が特に好ましく、95質量%以上が最も好ましい。
【0041】
≪硬化性組成物≫
硬化性組成物は、(A)エポキシ化合物と、(B)硬化剤とを含む。(B)硬化剤は、前述したエポキシ化合物用硬化剤である。
【0042】
<(A)エポキシ化合物>
(A)エポキシ化合物は、エポキシ基を有する化合物であれば特に限定されない。(A)エポキシ化合物は、従来から硬化性組成物に配合されているエポキシ基を有する種々の化合物から選択できる。(A)エポキシ化合物は、非重合体であるエポキシ基を有する低分子化合物であってもよく、エポキシ基を有する重合体であってもよい。以下、(A)エポキシ化合物に関して、エポキシ基を有する非重合体と、エポキシ基を有する重合体とについて順に説明する。
【0043】
〔エポキシ基を有する非重合体〕
エポキシ基を有する非重合体としては、硬化性組成物を用いて形成される硬化物が機械的特性に優れる点から、芳香族基を含まない脂肪族エポキシ化合物が好ましい。脂肪族エポキシ化合物の中では、透明性及び硬度に優れる硬化物を与えることから、脂環式エポキシ基を有する脂肪族エポキシ化合物が好ましい。
【0044】
脂環式エポキシ基を有する脂肪族エポキシ化合物の具体例としては、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル-5,5-スピロ-3,4-エポキシ)シクロヘキサン-メタ-ジオキサン、ビス(3,4-エポキシシクロヘキシルメチル)アジペート、ビス(3,4-エポキシ-6-メチルシクロヘキシルメチル)アジペート、3,4-エポキシ-6-メチルシクロヘキシル-3’,4’-エポキシ-6’-メチルシクロヘキサンカルボキシレート、ε-カプロラクトン変性3,4-エポキシシクロヘキシルメチル-3’,4’-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、トリメチルカプロラクトン変性3,4-エポキシシクロヘキシルメチル-3’,4’-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、β-メチル-δ-バレロラクトン変性3,4-エポキシシクロヘキシルメチル-3’,4’-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、メチレンビス(3,4-エポキシシクロヘキサン)、エチレングリコールのジ(3,4-エポキシシクロヘキシルメチル)エーテル、エチレンビス(3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート)、エポキシシクロヘキサヒドロフタル酸ジオクチル、及びエポキシシクロヘキサヒドロフタル酸ジ-2-エチルヘキシル、トリシクロデセンオキサイド基を有するエポキシ樹脂や、下記式(A1-1)~(A1-5)で表される化合物が挙げられる。
これらの脂環式エポキシ化合物は単独で用いても2種以上混合して用いてもよい。
【0045】
【化13】
(式(A1-1)中、Zは単結合又は連結基(1以上の原子を有する2価の基)を示す。R~R18は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、及び有機基からなる群より選択される基である。)
【0046】
連結基Zとしては、例えば、2価の炭化水素基、-O-、-O-CO-、-S-、-SO-、-SO-、-CBr-、-C(CBr-、-C(CF-、及び-R19-O-CO-からなる群より選択される2価の基及びこれらが複数個結合した基等を挙げることができる。
【0047】
連結基Zである二価の炭化水素基としては、例えば、炭素原子数が1以上18以下の直鎖状又は分岐鎖状のアルキレン基、二価の脂環式炭化水素基等を挙げることができる。炭素原子数が1以上18以下の直鎖状又は分岐鎖状のアルキレン基としては、例えば、メチレン基、メチルメチレン基、ジメチルメチレン基、ジメチレン基、トリメチレン基等を挙げることができる。上記二価の脂環式炭化水素基としては、例えば、1,2-シクロペンチレン基、1,3-シクロペンチレン基、シクロペンチリデン基、1,2-シクロヘキシレン基、1,3-シクロヘキシレン基、1,4-シクロヘキシレン基、シクロヘキシリデン基等のシクロアルキレン基(シクロアルキリデン基を含む)等を挙げることができる。
【0048】
19は、炭素原子数1以上8以下のアルキレン基であり、メチレン基又はエチレン基であるのが好ましい。
【0049】
【化14】
【0050】
(式(A1-2)中、R~R18は、水素原子、ハロゲン原子、及び有機基からなる群より選択される基である。R及びR10は互いに結合して環を形成してもよい。R13及びR16は互いに結合して環を形成してもよい。mは、0又は1である。)
【0051】
【化15】
(式(A1-3)中、R~R10は、水素原子、ハロゲン原子、及び有機基からなる群より選択される基である。R及びRは、互いに結合して環を形成してもよい。)
【0052】
【化16】
(式(A1-4)中、R~R12は、水素原子、ハロゲン原子、及び有機基からなる群より選択される基である。R及びR10は、互いに結合して環を形成してもよい。)
【0053】
【化17】
(式(A1-5)中、R~R12は、水素原子、ハロゲン原子、及び有機基からなる群より選択される基である。)
【0054】
式(A1-1)~(A1-5)中、R~R18が有機基である場合、有機基は本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されず、炭化水素基であっても、炭素原子とハロゲン原子とからなる基であっても、炭素原子及び水素原子とともにハロゲン原子、酸素原子、硫黄原子、窒素原子、ケイ素原子のようなヘテロ原子を含むような基であってもよい。ハロゲン原子の例としては、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、及びフッ素原子等が挙げられる。
【0055】
有機基としては、炭化水素基と、炭素原子、水素原子、及び酸素原子からなる基と、ハロゲン化炭化水素基と、炭素原子、酸素原子、及びハロゲン原子からなる基と、炭素原子、水素原子、酸素原子、及びハロゲン原子からなる基とが好ましい。有機基が炭化水素基である場合、炭化水素基は、芳香族炭化水素基でも、脂肪族炭化水素基でも、芳香族骨格と脂肪族骨格とを含む基でもよい。有機基の炭素原子数は1以上20以下が好ましく、1以上10以下がより好ましく、1以上5以下が特に好ましい。
【0056】
炭化水素基の具体例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、2-エチルヘキシル基、n-ノニル基、n-デシル基、n-ウンデシル基、n-トリデシル基、n-テトラデシル基、n-ペンタデシル基、n-ヘキサデシル基、n-ヘプタデシル基、n-オクタデシル基、n-ノナデシル基、及びn-イコシル基等の鎖状アルキル基;ビニル基、1-プロペニル基、2-n-プロペニル基(アリル基)、1-n-ブテニル基、2-n-ブテニル基、及び3-n-ブテニル基等の鎖状アルケニル基;シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、及びシクロヘプチル基等のシクロアルキル基;フェニル基、o-トリル基、m-トリル基、p-トリル基、α-ナフチル基、β-ナフチル基、ビフェニル-4-イル基、ビフェニル-3-イル基、ビフェニル-2-イル基、アントリル基、及びフェナントリル基等のアリール基;ベンジル基、フェネチル基、α-ナフチルメチル基、β-ナフチルメチル基、α-ナフチルエチル基、及びβ-ナフチルエチル基等のアラルキル基が挙げられる。
【0057】
ハロゲン化炭化水素基の具体例は、クロロメチル基、ジクロロメチル基、トリクロロメチル基、ブロモメチル基、ジブロモメチル基、トリブロモメチル基、フルオロメチル基、ジフルオロメチル基、トリフルオロメチル基、2,2,2-トリフルオロエチル基、ペンタフルオロエチル基、ヘプタフルオロプロピル基、パーフルオロブチル基、及びパーフルオロペンチル基、パーフルオロヘキシル基、パーフルオロヘプチル基、パーフルオロオクチル基、パーフルオロノニル基、及びパーフルオロデシル基等のハロゲン化鎖状アルキル基;2-クロロシクロヘキシル基、3-クロロシクロヘキシル基、4-クロロシクロヘキシル基、2,4-ジクロロシクロヘキシル基、2-ブロモシクロヘキシル基、3-ブロモシクロヘキシル基、及び4-ブロモシクロヘキシル基等のハロゲン化シクロアルキル基;2-クロロフェニル基、3-クロロフェニル基、4-クロロフェニル基、2,3-ジクロロフェニル基、2,4-ジクロロフェニル基、2,5-ジクロロフェニル基、2,6-ジクロロフェニル基、3,4-ジクロロフェニル基、3,5-ジクロロフェニル基、2-ブロモフェニル基、3-ブロモフェニル基、4-ブロモフェニル基、2-フルオロフェニル基、3-フルオロフェニル基、4-フルオロフェニル基等のハロゲン化アリール基;2-クロロフェニルメチル基、3-クロロフェニルメチル基、4-クロロフェニルメチル基、2-ブロモフェニルメチル基、3-ブロモフェニルメチル基、4-ブロモフェニルメチル基、2-フルオロフェニルメチル基、3-フルオロフェニルメチル基、4-フルオロフェニルメチル基等のハロゲン化アラルキル基である。
【0058】
炭素原子、水素原子、及び酸素原子からなる基の具体例は、ヒドロキシメチル基、2-ヒドロキシエチル基、3-ヒドロキシ-n-プロピル基、及び4-ヒドロキシ-n-ブチル基等のヒドロキシ鎖状アルキル基;2-ヒドロキシシクロヘキシル基、3-ヒドロキシシクロヘキシル基、及び4-ヒドロキシシクロヘキシル基等のハロゲン化シクロアルキル基;2-ヒドロキシフェニル基、3-ヒドロキシフェニル基、4-ヒドロキシフェニル基、2,3-ジヒドロキシフェニル基、2,4-ジヒドロキシフェニル基、2,5-ジヒドロキシフェニル基、2,6-ジヒドロキシフェニル基、3,4-ジヒドロキシフェニル基、及び3,5-ジヒドロキシフェニル基等のヒドロキシアリール基;2-ヒドロキシフェニルメチル基、3-ヒドロキシフェニルメチル基、及び4-ヒドロキシフェニルメチル基等のヒドロキシアラルキル基;メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、イソプロポキシ基、n-ブチルオキシ基、イソブチルオキシ基、sec-ブチルオキシ基、tert-ブチルオキシ基、n-ペンチルオキシ基、n-ヘキシルオキシ基、n-ヘプチルオキシ基、n-オクチルオキシ基、2-エチルヘキシルオキシ基、n-ノニルオキシ基、n-デシルオキシ基、n-ウンデシルオキシ基、n-トリデシルオキシ基、n-テトラデシルオキシ基、n-ペンタデシルオキシ基、n-ヘキサデシルオキシ基、n-ヘプタデシルオキシ基、n-オクタデシルオキシ基、n-ノナデシルオキシ基、及びn-イコシルオキシ基等の鎖状アルコキシ基;ビニルオキシ基、1-プロペニルオキシ基、2-n-プロペニルオキシ基(アリルオキシ基)、1-n-ブテニルオキシ基、2-n-ブテニルオキシ基、及び3-n-ブテニルオキシ基等の鎖状アルケニルオキシ基;フェノキシ基、o-トリルオキシ基、m-トリルオキシ基、p-トリルオキシ基、α-ナフチルオキシ基、β-ナフチルオキシ基、ビフェニル-4-イルオキシ基、ビフェニル-3-イルオキシ基、ビフェニル-2-イルオキシ基、アントリルオキシ基、及びフェナントリルオキシ基等のアリールオキシ基;ベンジルオキシ基、フェネチルオキシ基、α-ナフチルメチルオキシ基、β-ナフチルメチルオキシ基、α-ナフチルエチルオキシ基、及びβ-ナフチルエチルオキシ基等のアラルキルオキシ基;メトキシメチル基、エトキシメチル基、n-プロポキシメチル基、2-メトキシエチル基、2-エトキシエチル基、2-n-プロポキシエチル基、3-メトキシ-n-プロピル基、3-エトキシ-n-プロピル基、3-n-プロポキシ-n-プロピル基、4-メトキシ-n-ブチル基、4-エトキシ-n-ブチル基、及び4-n-プロポキシ-n-ブチル基等のアルコキシアルキル基;メトキシメトキシ基、エトキシメトキシ基、n-プロポキシメトキシ基、2-メトキシエトキシ基、2-エトキシエトキシ基、2-n-プロポキシエトキシ基、3-メトキシ-n-プロポキシ基、3-エトキシ-n-プロポキシ基、3-n-プロポキシ-n-プロポキシ基、4-メトキシ-n-ブチルオキシ基、4-エトキシ-n-ブチルオキシ基、及び4-n-プロポキシ-n-ブチルオキシ基等のアルコキシアルコキシ基;2-メトキシフェニル基、3-メトキシフェニル基、及び4-メトキシフェニル基等のアルコキシアリール基;2-メトキシフェノキシ基、3-メトキシフェノキシ基、及び4-メトキシフェノキシ基等のアルコキシアリールオキシ基;ホルミル基、アセチル基、プロピオニル基、ブタノイル基、ペンタノイル基、ヘキサノイル基、ヘプタノイル基、オクタノイル基、ノナノイル基、及びデカノイル基等の脂肪族アシル基;ベンゾイル基、α-ナフトイル基、及びβ-ナフトイル基等の芳香族アシル基;メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、n-プロポキシカルボニル基、n-ブチルオキシカルボニル基、n-ペンチルオキシカルボニル基、n-ヘキシルカルボニル基、n-ヘプチルオキシカルボニル基、n-オクチルオキシカルボニル基、n-ノニルオキシカルボニル基、及びn-デシルオキシカルボニル基等の鎖状アルキルオキシカルボニル基;フェノキシカルボニル基、α-ナフトキシカルボニル基、及びβ-ナフトキシカルボニル基等のアリールオキシカルボニル基;ホルミルオキシ基、アセチルオキシ基、プロピオニルオキシ基、ブタノイルオキシ基、ペンタノイルオキシ基、ヘキサノイルオキシ基、ヘプタノイルオキシ基、オクタノイルオキシ基、ノナノイルオキシ基、及びデカノイルオキシ基等の脂肪族アシルオキシ基;ベンゾイルオキシ基、α-ナフトイルオキシ基、及びβ-ナフトイルオキシ基等の芳香族アシルオキシ基である。
【0059】
~R18は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1以上5以下のアルキル基、及び炭素原子数1以上5以下のアルコキシ基からなる群より選択される基が好ましい。特に機械的特性に優れる硬化膜を形成しやすいことから、R~R18が全て水素原子であるのがより好ましい。
【0060】
式(A1-2)~(A1-5)中、R~R18は、式(A1-1)におけるR~R18と同様である。式(A1-2)及び式(A1-4)において、R及びR10が、互いに結合する場合、式(A1-2)において、R13及びR16が、互いに結合する場合、及び式(A1-3)において、R及びRが、互いに結合する場合、2つの基が結合して形成される2価の基としては、例えば、-CH-、-C(CH-が挙げられる。
【0061】
式(A1-1)で表される脂環式エポキシ化合物のうち、好適な化合物の具体例としては、下記式(A1-1a)、式(A1-1b)、及び式(A1-1c)で表される脂環式エポキシ化合物や、2,2-ビス(3,4-エポキシシクロヘキサン-1-イル)プロパン[=2,2-ビス(3,4-エポキシシクロヘキシル)プロパン]等を挙げることができる。
【化18】
【0062】
式(A1-2)で表される脂環式エポキシ化合物のうち、好適な化合物の具体例としては、下記式(A1-2a)又は下記式(A1-2b)で表される化合物等が挙げられる。
【化19】
【0063】
式(A1-3)で表される脂環式エポキシ化合物のうち、好適な化合物の具体例としては、Sスピロ[3-オキサトリシクロ[3.2.1.02,4]オクタン-6,2’-オキシラン]等が挙げられる。
【0064】
式(A1-4)で表される脂環式エポキシ化合物のうち、好適な化合物の具体例としては、4-ビニルシクロヘキセンジオキシド、ジペンテンジオキシド、リモネンジオキシド、1-メチル-4-(3-メチルオキシラン-2-イル)-7-オキサビシクロ[4.1.0]ヘプタン等が挙げられる。
【0065】
式(A1-5)で表される脂環式エポキシ化合物のうち、好適な化合物の具体例としては、1,2,5,6-ジエポキシシクロオクタン等が挙げられる。
【0066】
以上説明した脂環式エポキシ基を有する脂肪族エポキシ化合物以外に、(A)エポキシ化合物として好適に使用し得る、エポキシ基を有する非重合体の例としては、グリシジル(メタ)アクリレート、2-メチルグリシジル(メタ)アクリレート、3,4-エポキシブチル(メタ)アクリレート、6,7-エポキシヘプチル(メタ)アクリレート等のエポキシアルキル(メタ)アクリレート;2-グリシジルオキシエチル(メタ)アクリレート、3-グリシジルオキシ-n-プロピル(メタ)アクリレート、4-グリシジルオキシ-n-ブチル(メタ)アクリレート、5-グリシジルオキシ-n-ヘキシル(メタ)アクリレート、6-グリシジルオキシ-n-ヘキシル(メタ)アクリレート等のエポキシアルキルオキシアルキル(メタ)アクリレート;ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、及びビフェニル型エポキシ樹脂等の2官能エポキシ樹脂;フェノールノボラック型エポキシ樹脂、臭素化フェノールノボラック型エポキシ樹脂、オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂、及びビスフェノールADノボラック型エポキシ樹脂等のノボラックエポキシ樹脂;ジシクロペンタジエン型フェノール樹脂のエポキシ化物等の環式脂肪族エポキシ樹脂;ナフタレン型フェノール樹脂のエポキシ化物等の芳香族エポキシ樹脂;9,9-ビス[4-(グリシジルオキシ)フェニル]-9H-フルオレン、9,9-ビス[4-[2-(グリシジルオキシ)エトキシ]フェニル]-9H-フルオレン、9,9-ビス[4-[2-(グリシジルオキシ)エチル]フェニル]-9H-フルオレン、9,9-ビス[4-(グリシジルオキシ)-3-メチルフェニル]-9H-フルオレン、9,9-ビス[4-(グリシジルオキシ)-3,5-ジメチルフェニル]-9H-フルオレン、及び9,9-ビス(6‐グリシジルオキシナフタレン-2-イル)-9H-フルオレン等のエポキシ基含有フルオレン化合物;ダイマー酸グリシジルエステル、及びトリグリシジルエステル等のグリシジルエステル型エポキシ樹脂;テトラグリシジルアミノジフェニルメタン、トリグリシジル-p-アミノフェノール、テトラグリシジルメタキシリレンジアミン、及びテトラグリシジルビスアミノメチルシクロヘキサン等のグリシジルアミン型エポキシ樹脂;トリグリシジルイソシアヌレート等の複素環式エポキシ樹脂;フロログリシノールトリグリシジルエーテル、トリヒドロキシビフェニルトリグリシジルエーテル、トリヒドロキシフェニルメタントリグリシジルエーテル、グリセリントリグリシジルエーテル、2-[4-(2,3-エポキシプロポキシ)フェニル]-2-[4-[1,1-ビス[4-(2,3-エポキシプロポキシ)フェニル]エチル]フェニル]プロパン、及び1,3-ビス[4-[1-[4-(2,3-エポキシプロポキシ)フェニル]-1-[4-[1-[4-(2,3-エポキシプロポキシ)フェニル]-1-メチルエチル]フェニル]エチル]フェノキシ]-2-プロパノール等の3官能型エポキシ樹脂;テトラヒドロキシフェニルエタンテトラグリシジルエーテル、テトラグリシジルベンゾフェノン、ビスレゾルシノールテトラグリシジルエーテル、及びテトラグリシドキシビフェニル等の4官能型エポキシ樹脂、及び2,2-ビス(ヒドロキシメチル)-1-ブタノールの1,2-エポキシ-4-(2-オキシラニル)シクロヘキサン付加物が挙げられる。2,2-ビス(ヒドロキシメチル)-1-ブタノールの1,2-エポキシ-4-(2-オキシラニル)シクロヘキサン付加物は、EHPE-3150(株式会社ダイセル製)として市販される。
【0067】
〔エポキシ基を有する重合体〕
エポキシ基を有する重合体は、エポキシ基を有する単量体又はエポキシ基を有する単量体を含む単量体混合物を重合させて得られる重合体であってもよく、水酸基、カルボキシ基、アミノ基等の反応性を有する官能基を有する重合体に対して、例えばエピクロルヒドリンのようなエポキシ基を有する化合物を用いてエポキシ基を導入した重合体であってもよい。また、1,2-ポリブタジエンのような側鎖に不飽和脂肪族炭化水素基を有する重合体の部分酸化物もエポキシ基を有する重合体として好適に使用できる。かかる部分酸化物は、側鎖に含まれる不飽和結合の酸化により生成したエポキシ基を含む。
【0068】
入手、調製、重合体中のエポキシ基の量の調整等が容易であることから、エポキシ基を有する重合体としては、エポキシ基を有する単量体又はエポキシ基を有する単量体を含む単量体混合物を重合させて得られる重合体と、側鎖に不飽和脂肪族炭化水素基を有する重合体の部分酸化物と、が好ましい。
【0069】
側鎖に不飽和脂肪族炭化水素基を有する重合体の部分酸化物としては、入手や合成が容易であること等から、側鎖にビニル基を有する1,2-ポリブタジエンの部分酸化物が好ましい。1,2-ポリブタジエンを部分的に酸化することによって、側鎖にオキシラニル基とビニル基とを有する、エポキシ化ポリブタジエンが得られる。このようなエポキシ化ポリブタジエンにおけるオキシラニル基の比率は、オキシラニル基とビニル基との総モル数に対して10モル%以上70モル%以下が好ましく、10モル%以上50モル%以下がより好ましく、10モル%以上40モル%以下がより好ましい。エポキシ化ポリブタジエンとしては、日本曹達株式会社より市販される、JP-100、及びJP-200を好適に使用できる。
【0070】
エポキシ基を有する重合体の中では、調製が容易であること等から、エポキシ基を有する(メタ)アクリル酸エステルの単独重合体か、エポキシ基を有する(メタ)アクリル酸エステルと他の単量体との共重合体が好ましい。
【0071】
エポキシ基を有する(メタ)アクリル酸エステルは、鎖状脂肪族エポキシ基を有する(メタ)アクリル酸エステルであっても、後述するような、脂環式エポキシ基を有する(メタ)アクリル酸エステルであってもよい。また、エポキシ基を有する(メタ)アクリル酸エステルは、芳香族基を含んでいてもよい。エポキシ基を有する(メタ)アクリル酸エステルの中では、鎖状脂肪族エポキシ基を有する脂肪族(メタ)アクリル酸エステルや、脂環式エポキシ基を有する脂肪族(メタ)アクリル酸エステルが好ましく、脂環式エポキシ基を有する脂肪族(メタ)アクリル酸エステルがより好ましい。
【0072】
芳香族基を含み、エポキシ基を有する(メタ)アクリル酸エステルの例としては、4-グリシジルオキシフェニル(メタ)アクリレート、3-グリシジルオキシフェニル(メタ)アクリレート、2-グリシジルオキシフェニル(メタ)アクリレート、4-グリシジルオキシフェニルメチル(メタ)アクリレート、3-グリシジルオキシフェニルメチル(メタ)アクリレート、及び2-グリシジルオキシフェニルメチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0073】
鎖状脂肪族エポキシ基を有する脂肪族(メタ)アクリル酸エステルの例としては、エポキシアルキル(メタ)アクリレート、及びエポキシアルキルオキシアルキル(メタ)アクリレート等のような、エステル基(-O-CO-)中のオキシ基(-O-)に鎖状脂肪族エポキシ基が結合する(メタ)アクリル酸エステルが挙げられる。このような(メタ)アクリル酸エステルが有する鎖状脂肪族エポキシ基は、鎖中に1又は複数のオキシ基(-O-)を含んでいてもよい。鎖状脂肪族エポキシ基の炭素原子数は、特に限定されないが、3以上20以下が好ましく、3以上15以下がより好ましく、3以上10以下が特に好ましい。
【0074】
鎖状脂肪族エポキシ基を有する脂肪族(メタ)アクリル酸エステルの具体例としては、グリシジル(メタ)アクリレート、2-メチルグリシジル(メタ)アクリレート、3,4-エポキシブチル(メタ)アクリレート、6,7-エポキシヘプチル(メタ)アクリレート等のエポキシアルキル(メタ)アクリレート;2-グリシジルオキシエチル(メタ)アクリレート、3-グリシジルオキシ-n-プロピル(メタ)アクリレート、4-グリシジルオキシ-n-ブチル(メタ)アクリレート、5-グリシジルオキシ-n-ヘキシル(メタ)アクリレート、6-グリシジルオキシ-n-ヘキシル(メタ)アクリレート等のエポキシアルキルオキシアルキル(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0075】
脂環式エポキシ基を有する脂肪族(メタ)アクリル酸エステルの具体例としては、例えば下記式(A2-1)~(A2-15)で表される化合物が挙げられる。これらの中でも、下記式(A2-1)~(A2-5)で表される化合物が好ましく、下記式(A2-1)~(A2-3)で表される化合物がより好ましい。
【0076】
【化20】
【0077】
【化21】
【0078】
【化22】
【0079】
上記式中、R20は水素原子又はメチル基を示し、R21は炭素原子数1以上6以下の2価の脂肪族飽和炭化水素基を示し、R22は炭素原子数1以上10以下の2価の炭化水素基を示し、tは0以上10以下の整数を示す。R21としては、直鎖状又は分枝鎖状のアルキレン基、例えばメチレン基、エチレン基、プロピレン基、テトラメチレン基、エチルエチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基が好ましい。R22としては、例えばメチレン基、エチレン基、プロピレン基、テトラメチレン基、エチルエチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基、フェニレン基、シクロヘキシレン基が好ましい。
【0080】
エポキシ基を有する重合体としては、エポキシ基を有する(メタ)アクリル酸エステルの単独重合体、及びエポキシ基を有する(メタ)アクリル酸エステルと他の単量体との共重合体のいずれも用いることができるが、エポキシ基を有する重合体中の、エポキシ基を有する(メタ)アクリル酸エステルに由来する単位の含有量は、70質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、90質量%以上が特に好ましく、100質量%であるのが最も好ましい。
【0081】
エポキシ基を有する重合体が、エポキシ基を有する(メタ)アクリル酸エステルと他の単量体との共重合体である場合、他の単量体としては、不飽和カルボン酸、エポキシ基を持たない(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリルアミド類、アリル化合物、ビニルエーテル類、ビニルエステル類、スチレン類等が挙げられる。これらの化合物は、単独又は2種以上組み合わせて用いることができる。硬化性組成物の保存安定性や、硬化性組成物を用いて形成される硬化膜のアルカリ等に対する耐薬品性の点からは、エポキシ基を有する(メタ)アクリル酸エステルと他の単量体との共重合体は、不飽和カルボン酸に由来する単位を含まないのが好ましい。
【0082】
不飽和カルボン酸の例としては、(メタ)アクリル酸;(メタ)アクリル酸アミド;クロトン酸;マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、メサコン酸、イタコン酸、これらジカルボン酸の無水物が挙げられる。
【0083】
エポキシ基を持たない(メタ)アクリル酸エステルの例としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、アミル(メタ)アクリレート、t-オクチル(メタ)アクリレート等の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル(メタ)アクリレート;クロロエチル(メタ)アクリレート、2,2-ジメチルヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンモノ(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フルフリル(メタ)アクリレート;脂環式骨格を有する基を有する(メタ)アクリル酸エステルが挙げられる。エポキシ基を持たない(メタ)アクリル酸エステルの中では、脂環式骨格を有する基を有する(メタ)アクリル酸エステルが好ましい。
【0084】
脂環式骨格を有する基を有する(メタ)アクリル酸エステルにおいて、脂環式骨格を構成する脂環式基は、単環であっても多環であってもよい。単環の脂環式基としては、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。また、多環の脂環式基としては、ノルボルニル基、イソボルニル基、トリシクロノニル基、トリシクロデシル基、テトラシクロドデシル基等が挙げられる。
【0085】
脂環式骨格を有する基を有する(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば下記式(A3-1)~(A3-8)で表される化合物が挙げられる。これらの中では、下記式(A3-3)~(A3-8)で表される化合物が好ましく、下記式(A3-3)又は(A3-4)で表される化合物がより好ましい。
【0086】
【化23】
【0087】
【化24】
【0088】
上記式中、R23は水素原子又はメチル基を示し、R24は単結合又は炭素原子数1以上6以下の2価の脂肪族飽和炭化水素基を示し、R25は水素原子又は炭素原子数1以上5以下のアルキル基を示す。R24としては、単結合、直鎖状又は分枝鎖状のアルキレン基、例えばメチレン基、エチレン基、プロピレン基、テトラメチレン基、エチルエチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基が好ましい。R25としては、メチル基、エチル基が好ましい。
【0089】
(メタ)アクリルアミド類の例としては、(メタ)アクリルアミド、N-アルキル(メタ)アクリルアミド、N-アリール(メタ)アクリルアミド、N,N-ジアルキル(メタ)アクリルアミド、N,N-アリール(メタ)アクリルアミド、N-メチル-N-フェニル(メタ)アクリルアミド、N-ヒドロキシエチル-N-メチル(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。
【0090】
アリル化合物の例としては、酢酸アリル、カプロン酸アリル、カプリル酸アリル、ラウリン酸アリル、パルミチン酸アリル、ステアリン酸アリル、安息香酸アリル、アセト酢酸アリル、乳酸アリル等のアリルエステル類;アリルオキシエタノール;等が挙げられる。
【0091】
ビニルエーテル類の例としては、ヘキシルビニルエーテル、オクチルビニルエーテル、デシルビニルエーテル、エチルヘキシルビニルエーテル、メトキシエチルビニルエーテル、エトキシエチルビニルエーテル、クロロエチルビニルエーテル、1-メチル-2,2-ジメチルプロピルビニルエーテル、2-エチルブチルビニルエーテル、ヒドロキシエチルビニルエーテル、ジエチレングリコールビニルエーテル、ジメチルアミノエチルビニルエーテル、ジエチルアミノエチルビニルエーテル、ブチルアミノエチルビニルエーテル、ベンジルビニルエーテル、テトラヒドロフルフリルビニルエーテル等の脂肪族ビニルエーテル;ビニルフェニルエーテル、ビニルトリルエーテル、ビニルクロロフェニルエーテル、ビニル-2,4-ジクロロフェニルエーテル、ビニルナフチルエーテル、ビニルアントラニルエーテル等のビニルアリールエーテル;等が挙げられる。
【0092】
ビニルエステル類の例としては、ビニルブチレート、ビニルイソブチレート、ビニルトリメチルアセテート、ビニルジエチルアセテート、ビニルバレレート、ビニルカプロエート、ビニルクロロアセテート、ビニルジクロロアセテート、ビニルメトキシアセテート、ビニルブトキシアセテート、ビニルフェニルアセテート、ビニルアセトアセテート、ビニルラクテート、ビニル-β-フェニルブチレート、安息香酸ビニル、サリチル酸ビニル、クロロ安息香酸ビニル、テトラクロロ安息香酸ビニル、ナフトエ酸ビニル等が挙げられる。
【0093】
スチレン類の例としては、スチレン;メチルスチレン、ジメチルスチレン、トリメチルスチレン、エチルスチレン、ジエチルスチレン、イソプロピルスチレン、ブチルスチレン、ヘキシルスチレン、シクロヘキシルスチレン、デシルスチレン、ベンジルスチレン、クロロメチルスチレン、トリフルオロメチルスチレン、エトキシメチルスチレン、アセトキシメチルスチレン等のアルキルスチレン;メトキシスチレン、4-メトキシ-3-メチルスチレン、ジメトキシスチレン等のアルコキシスチレン;クロロスチレン、ジクロロスチレン、トリクロロスチレン、テトラクロロスチレン、ペンタクロロスチレン、ブロモスチレン、ジブロモスチレン、ヨードスチレン、フルオロスチレン、トリフルオロスチレン、2-ブロモ-4-トリフルオロメチルスチレン、4-フルオロ-3-トリフルオロメチルスチレン等のハロスチレン;等が挙げられる。
【0094】
以上説明した、エポキシ基を有する重合体の分子量は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されない。エポキシ基を有する重合体の分子量は、ポリスチレン換算の質量平均分子量として、3,000以上30,000以下が好ましく、5,000以上15,000以下がより好ましい。
【0095】
硬化性組成物における、(A)エポキシ化合物の含有量は、(A)エポキシ化合物のエポキシ当量や、(B)硬化剤の使用量や、硬化性組成物を使用する際の好ましい粘度等を勘案したうえで適宜決定される。
硬化性組成物における(A)エポキシ化合物の含有量は、典型的には、硬化性組成物中の溶剤以外の成分の質量の合計に対して、例えば10質量%以上95質量%以下であり、20質量%以上90質量%以下が好ましく、30質量%以上80質量%以下がより好ましく、40質量%以上70質量%以下がさらに好ましい。
【0096】
<その他の成分>
硬化性組成物には、必要に応じて、界面活性剤、熱重合禁止剤、消泡剤、シランカップリング剤、着色剤(顔料、染料)、樹脂(熱可塑性樹脂、アルカリ可溶性樹脂等)、無機フィラー、有機フィラー等の添加剤を含有させることができる。いずれの添加剤も、従来公知の添加剤を用いることができる。界面活性剤としては、アニオン系、カチオン系、ノニオン系等の化合物が挙げられ、熱重合禁止剤としては、ヒドロキノン、ヒドロキノンモノエチルエーテル等が挙げられ、消泡剤としては、シリコーン系、フッ素系化合物等が挙げられる。
【0097】
硬化性組成物は、塗布性や粘度の調整の目的で、溶剤を含むのが好ましい。溶剤としては、典型的には有機溶剤が用いられる。有機溶剤の種類は、硬化性組成物に含まれる成分を、均一に溶解又は分散させることができれば特に限定されない。
【0098】
溶剤として使用し得る有機溶剤の好適な例としては、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコール-n-プロピルエーテル、エチレングリコールモノ-n-ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノ-n-プロピルエーテル、ジエチレングリコールモノ-n-ブチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノ-n-プロピルエーテル、プロピレングリコールモノ-n-ブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノ-n-プロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノ-n-ブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノエチルエーテル等の(ポリ)アルキレングリコールモノアルキルエーテル類;エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート等の(ポリ)アルキレングリコールモノアルキルエーテルアセテート類;ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等の他のエーテル類;メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、2-ヘプタノン、3-ヘプタノン等のケトン類;2-ヒドロキシプロピオン酸メチル、2-ヒドロキシプロピオン酸エチル等の乳酸アルキルエステル類;2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオン酸エチル、3-メトキシプロピオン酸メチル、3-メトキシプロピオン酸エチル、3-エトキシプロピオン酸メチル、3-エトキシプロピオン酸エチル、エトキシ酢酸エチル、ヒドロキシ酢酸エチル、2-ヒドロキシ-3-メチルブタン酸メチル、3-メチル-3-メトキシブチルアセテート、3-メチル-3-メトキシブチルプロピオネート、酢酸エチル、酢酸n-プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸n-ブチル、酢酸イソブチル、蟻酸n-ペンチル、酢酸イソペンチル、プロピオン酸n-ブチル、酪酸エチル、酪酸n-プロピル、酪酸イソプロピル、酪酸n-ブチル、ピルビン酸メチル、ピルビン酸エチル、ピルビン酸n-プロピル、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、2-オキソブタン酸エチル等の他のエステル類;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;N-メチルピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド等のアミド類等が挙げられる。これらの有機溶剤は、単独又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0099】
硬化性組成物における、溶剤の使用量は特に限定されない。硬化性組成物の塗布性の点等から、溶剤の使用量は、硬化性組成物全体に対して、例えば30質量%以上99.9質量%以下が好ましく、50質量%以上98質量%以下がより好ましい。また、硬化性組成物の粘度は、300mPa・s以下の範囲で調整されるのが好ましい。硬化性組成物の粘度は、60mPa・s以下がより好ましく、30mPa・s以下が特に好ましい。下限は特にないが、0.1mPa・s以上である。
なお、上記の粘度は、E型粘度計を用いて25℃で測定される粘度である。
【0100】
≪硬化性組成物の製造方法≫
以上説明した各成分を所定の比率で均一に混合することにより、硬化性組成物を製造できる。硬化性組成物の製造に用いることができる混合装置としては、二本ロールや三本ロール等が挙げられる。硬化性組成物の粘度が十分に低い場合、必要に応じて、不溶性の異物を除去するために、所望のサイズの開口を有するフィルターを用いて硬化性組成物をろ過してもよい。
【0101】
≪硬化物の製造方法≫
前述の硬化性組成物を用いて硬化物を製造する方法は特に限定されない。典型的には、
硬化性組成物を所定の形状に成形することと、
成形性された硬化性組成物を加熱することと、
を含む方法により硬化物が製造される。
【0102】
硬化性組成物を成形する方法は特に限定されず、塗布や、所望する形状の型への注型等が挙げられる。所望する形状に成形された硬化性組成物を硬化させる際の温度及び時間は、硬化が十分に進行する限り特に限定されない。具体的には、例えば、100℃以上250℃以下(好ましくは100℃以上160℃以下)程度の温度、1分以上60分以下(好ましくは3分以上10分以下)程度の時間で加熱を行うことにより、硬化性組成物が硬化される。
【0103】
≪芳香族アミン化合物の製造方法≫
前述の式(a1)で表される芳香族アミン化合物の製造方法は特に限定されない。
前述の式(a1)で表される芳香族アミン化合物は、例えば、下記式(a1-1)で表される芳香族ニトロ化合物が有するニトロ基(-NO)を水素化してアミノ基(-NH)に変換することにより製造できる。
【0104】
【化25】
(式(a1-1)中、R1a、R1b、R2a、R2b、R3a、R3b、X、X、環Y、環Y、環Y、環Y、R、及びn1~n8は、式(a1)と同様である。)
【0105】
上記式(a1-1)で表される化合物としては、下記式(a1-1-1):
【化26】
(式(a1-1-1)中、R1a、R1b、R2a、R2b、R3a、R3b、X、X、環Y、環Y、R、及びn1~n8は、式(a1)と同様である。)
で表される化合物が好ましい。
【0106】
式(a1-1)で表される化合物の製造方法は特に限定されない。例えば、下記式(a1-1a)で表される芳香族化合物と、下記式(a1-1b)で表される化合物と、下記式(a1-1c)で表される化合物と:
【化27】
(式(a1-1a)、式(a1-1b)、及び式(a1-1c)中、R1a、R1b、R2a、R2b、R3a、R3b、環Y、環Y、環Y、環Y、R、及びn1~n8は、式(a1)と同様であり、
基X1aは、基X1bとの反応により、式(a1-1)中の基Xを形成させる基であり、
基X2aは、基X2bとの反応により、式(a1-1)中の基Xを形成させる基である。)
を反応させて、式(a1-1)で表される化合物を製造できる。
【0107】
基X1aと基X1bとの反応は、基Xを生成させ、基X2aと基X2bとの反応は、基Xを生成させる。
基X1aと基X1bとの組み合わせ、及び基X2aと基X2bとの組み合わせは、それぞれ独立に、
カルボキシ基(-COOH)又はハロカルボニル基(-COHal)と、アミノ基(-NH)との組み合わせ、
カルボキシ基(-COOH)又はハロカルボニル基(-COHal)と、水酸基との組み合わせ、
アミノ基(-NH)と、イソシアネート基との組み合わせ、
カルボキシ基(-COOH)又はハロカルボニル基(-COHal)と、カルバモイル基(-CO-NH)との組み合わせ、
水酸基とイソシアネート基との組み合わせ、又は、
カルバモイル基(-CO-NH)と、イソシアネート基との組み合わせである。
これらの組み合わせについて、例えば、基X1aと基X1bとの組み合わせが、カルボキシ基とアミノ基との組み合わせである場合、X1aがカルボキシ基でありX1bがアミノ基であってもよく、X1aがアミノ基でありX1bがカルボキシ基であってもよい。
【0108】
カルボキシ基(-COOH)又はハロカルボニル基(-COHal)と、アミノ基(-NH)との組み合わせは、-CO-NH-を生成させる組み合わせである。
カルボキシ基(-COOH)又はハロカルボニル基(-COHal)と、水酸基との組み合わせは、-CO-O-を生成させる組み合わせである。
アミノ基(-NH)と、イソシアネート基との組み合わせは、-NH-CO-NH-を生成させる組み合わせである。
カルボキシ基(-COOH)又はハロカルボニル基(-COHal)と、カルバモイル基(-CO-NH)との組み合わせは、-CO-NH-CO-を生成させる組み合わせである。
水酸基とイソシアネート基との組み合わせは、-O-CO-NH-を生成させる組み合わせである。
カルバモイル基(-CO-NH)と、イソシアネート基との組み合わせは、-CO-NH-CO-NH-を生成させる組み合わせである。
【0109】
上記式(a1-1a)で表される芳香族化合物と、下記式(a1-1b)で表される化合物と、下記式(a1-1c)で表される化合物とを反応させる方法は特に限定されない。反応方法は、基X1aと基X1bとの組み合わせ、及び基X2aと基X2bとの組み合わせとを勘案して、公知の方法から適宜選択される。
【0110】
式(a1-1a)で表される芳香族化合物と、下記式(a1-1b)で表される化合物と、下記式(a1-1c)で表される化合物とを反応させる際のこれらの使用量は、所望する量の式(a1-1)で表される化合物を生成させることができれば特に限定されない。式(a1-1b)で表される化合物の使用量と、式(a1-1c)で表される化合物の資料量とは、それぞれ独立に、式(a1-1a)で表される化合物1モルに対して、0.5モル以上2モル以下が好ましく、0.7モル以上1.5モル以下がより好ましく、0.9モル以上1.1モル以下が特に好ましい。
【0111】
式(a1-1)で表される芳香族ニトロ化合物が有するニトロ基(-NO)を水素化してアミノ基(-NH)に変換する方法は特に限定されず、公知のニトロ基の水素化方法から適宜選択される。典型的には、パラジウム触媒の存在下に式(a1-1)で表される芳香族ニトロ化合物を水素と接触させる方法が挙げられる。
【0112】
芳香族アミン化合物は、例えば、下記式(a1-2)の芳香族化合物が有するZ-NH-、又はZ-NH-で表される保護されたアミノ基を脱保護して、アミノ基(-NH)に変換することにより製造できる。
【0113】
【化28】
(式(a1-2)中、R1a、R1b、R2a、R2b、R3a、R3b、X、X、環Y、環Y、環Y、環Y、R、及びn1~n8は、式(a1)と同様であり、Z、及びZはそれぞれアミノ基を保護し、且つ脱保護可能な保護基である。)
【0114】
上記式(a1-2)で表される化合物としては、下記式(a1-1-1):
【化29】
(式(a1-2-1)中、R1a、R1b、R2a、R2b、R3a、R3b、X、X、環Y、環Y、R、及びn1~n8は、式(a1)と同様であり、Z、及びZはそれぞれアミノ基を保護し、且つ脱保護可能な保護基である。)
で表される化合物が好ましい。
【0115】
、及びZとしての保護基とは、アミノ基を、特定の化学反応条件に対して実質的に不活である異なる化学基に変換する官能基を指す。保護基は、良好な収率で簡単且つ選択的に除去され得る。保護基の例には、ホルミル基、アセチル基、ベンジル基、tert-ブチルジメチルシリル基、tert-ブチジルジフェニルシリル基、tert-ブチルオキシカルボニル基(Boc)、p-メトキシベンジル基、メトキシメチル基、トシル基、トリフルオロアセチル基、トリメチルシリル(TMS)基、フルオレニルメチルオキシカルボニル基(Fmoc)、2-トリメチルシリルエトキシカルボニル基、1-メチル-1-(4-ビフェニルイル)エトキシカルボニル基、アリルオキシカルボニル基、ベンジルオキシカルボニル基(CBZ)、2-トリメチルシリル-エタンスルホニル(SES)、トリチル及び置換トリチル基、9-フルオレニルメチルオキシカルボニル(FMOC)、ニトロ-ベラトリルオキシカルボニル(NVOC)等が含まれるが、これらに限定されない。
【0116】
式(a1-2)で表される化合物の製造方法は特に限定されない。例えば、下記式(a1-1a)で表される芳香族化合物と、下記式(a1-2b)で表される化合物と、下記式(a1-2c)で表される化合物と:
【化30】
(式(a1-1a)、式(a1-2b)、及び式(a1-2c)中、R1a、R1b、R2a、R2b、R3a、R3b、環Y、環Y、環Y、環Y、R、及びn1~n8は、式(a1)と同様であり、Z、及びZは式(a1-2)と同様であり、
基X1aは、基X1bとの反応により、式(a1-2)中の基Xを形成させる基であり、
基X2aは、基X2bとの反応により、式(a1-2)中の基Xを形成させる基である。)
を反応させて、式(a1-2)で表される化合物を製造できる。
【0117】
基X1aと基X1bとの組み合わせと、基X2aと基X2bとの組み合わせとについては、式(a1-1a)で表される芳香族化合物と、式(a1-1b)で表される化合物と、式(a1-1c)で表される化合物との反応について説明した通りである。
【0118】
式(a1-1a)で表される芳香族化合物と、下記式(a1-2b)で表される化合物と、下記式(a1-2c)で表される化合物とを反応させる際のこれらの使用量は、所望する量の式(a1-2)で表される化合物を生成させることができれば特に限定されない。式(a1-2b)で表される化合物の使用量と、式(a1-2c)で表される化合物の資料量とは、それぞれ独立に、式(a1-1a)で表される化合物1モルに対して、0.5モル以上2モル以下が好ましく、0.7モル以上1.5モル以下がより好ましく、0.9モル以上1.1モル以下が特に好ましい。
【0119】
-NH-、又はZ-NH-で表される保護されたアミノ基を脱保護して、アミノ基(-NH)に変換する方法は、従来公知の方法であれば特に制限はされない。脱保護は、保護基の種類に応じた公知の手段により行われる。
【0120】
また、式(a1)で表される芳香族アミン化合物は、下記式(a1-3b)で表される化合物と、下記式(a1-3c)で表される化合物と、下記式(a1-1a)で表される芳香族化合物と:
【化31】
(式(a1-1a)、式(a1-3b)、及び式(a1-3c)、及び中、R1a、R1b、R2a、R2b、R3a、R3b、環Y、環Y、環Y、環Y、R、及びn1~n8は、式(a1)と同様であり、
基X1aは、基X1bとの反応により、式(a1)中の基Xを形成させる基であり、
基X2aは、基X2bとの反応により、式(a1)中の基Xを形成させる基である。)
を反応させて製造できる。
この方法によれば、副反応が生じやすい場合がある、ニトロ基の水素化や、保護されたアミノ基の脱保護等の工程が不要であることから、式(a1)で表される芳香族アミン化合物の合成が容易である。
【0121】
基X1aと基X1bとの組み合わせと、基X2aと基X2bとの組み合わせとについては、式(a1-1a)で表される芳香族化合物と、式(a1-1b)で表される化合物と、式(a1-1c)で表される化合物との反応について説明した通りである。
ただし、式(a1-1a)で表される芳香族化合物と、式(a1-3b)で表される化合物と、式(a1-3c)で表される化合物とを反応させる場合、基X1aと基X1bとの組み合わせと、基X2aと基X2bとの組み合わせとは、
カルボキシ基(-COOH)又はハロカルボニル基(-COHal)と、アミノ基(-NH)との組み合わせ、
カルボキシ基(-COOH)又はハロカルボニル基(-COHal)と、水酸基との組み合わせ、又は
カルボキシ基(-COOH)又はハロカルボニル基(-COHal)と、カルバモイル基(-CO-NH)との組み合わせに限定される。
【実施例
【0122】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。なお、本発明は、実施例の範囲になんら限定されない。
【0123】
[実施例1]
温度計、滴下漏斗、及び撹拌翼を備えた四つ口フラスコに、4-アミノ安息香酸(2.74g、0.02mol)のピリジン溶液に塩化チオニル2mLを添加した。塩化チオニルを添加した後、室温でフラスコの内容物を3時間撹拌して、4-アミノベンゾイルクロライドを得た。得られた4-アミノベンゾイルクロライドに、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)に溶解した9,9’-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン(3.48g、0.01mol)を加え、5時間撹拌した。得られた反応液を一定の速度で撹拌された0~5℃の氷水に少しずつ注いた後、固液分離を行った。未反応の4-アミノ安息香酸を除去するため、分離された湿体を濃度10質量%の炭酸水素ナトリウム水溶液で4回洗った。次いで、湿体を無水メタノールで洗浄後、80℃で乾燥し、9,9’-ビス(4-(4-アミノベンゾイルアミノ)フェニル)フルオレンを収率58%で得た。
9,9’-ビス(4-(4-アミノベンゾイルアミノ)フェニル)フルオレンのH-NMR測定結果は以下の通りである。
H-NMR(400MHz、DMSO-d6)δ=9.72(2H,s),7.94(2H,d),7.70(4H,d),7.65(4H,d),7.3-7.5(6H,m)
【0124】
[実施例2]
温度計、滴下漏斗、撹拌翼を備えた四つ口フラスコに、9,9’-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン(3.48g,0.01mol)のNMP溶液を加えた。フラスコの内温を60℃に上げた後、4-ニトロベンゾイルクロリド(3.72g,0.02mol)とトルエン9.2gとの混合溶液を缶内に滴下した。同温度にてフラスコ内の液を2時間撹拌した後、フラスコ内にメタノール50gを滴下した。得られた反応液を一定の速度で撹拌された0~5℃の氷水に少しずつ注いた後、固液分離を行って、9,9’-ビス(4-(4-ニトロベンズアミド)フェニル)フルオレンを3.23g(収率50%)得た。
【0125】
続いて、容量100mLのオートクレーブに、得られた9,9’-ビス(4-(4-ニトロベンズアミド)フェニル)フルオレン(3.23g,0.005mol)と、テトラヒドロフラン10gと、NMP3gと、n-ブチルアミン0.8gと、5%Pd/C0.2gとを仕込んだ。次いで、缶内温度20~30℃、水素圧0~0.05MPa(G)の条件で、水素化反応を行った。水素の吸収が終わった時点から、反応液の温度を35~40℃で2時間保持し、接触水素化反応を完結させた。反応後、メンブレンフィルターを使い、触媒濾過を行い、ろ液を取得した。ろ液に酢酸0.7gと、メタノール20gとを仕込み、次いで、イオン交換水を20g滴下した。その後、缶内温度を10℃に下げて、固液分離を行い、湿体を得た。得られた湿体を乾燥して9,9’-ビス(4-(4-アミノベンゾイルアミノ)フェニル)フルオレンを3.00g取得した。
【0126】
実施例2より、式(a1-2b)で表される化合物と、式(a1-2c)で表される化合物及び式(a1-1a)で表される芳香族化合物と、から、式(a1)で表される芳香族アミン化合物である9,9’-ビス(4-(4-アミノベンゾイルアミノ)フェニル)フルオレンを製造できることが確認された。
【0127】
[実施例3]
4-アミノ安息香酸を、3-アミノ安息香酸に変えることの他は、実施例1と同様にして、9,9’-ビス(4-(3-アミノベンゾイルアミノ)フェニル)フルオレンを収率47%で得た。
【0128】
[実施例4]
4-ニトロ安息香酸を、3-ニトロ安息香酸に変えることの他は、実施例2と同様にして、9,9’-ビス(4-(3-アミノベンゾイルアミノ)フェニル)フルオレンを2.78g取得した。
【0129】
[実施例5~10、及び比較例1~4]
それぞれ、表1に記載の量の(A)エポキシ化合物と、(B)硬化剤とを混合して、各実施例、及び比較例の硬化性組成物を得た。なお、比較例1では、(B)硬化剤成分を用いなかった。また、実施例7~10、比較例3、及び比較例4においては、さらにプロピレングリコールモノメチルエーテルを加え、硬化性組成物の固形分濃度を25質量%に調整した。実施例5、比較例1、及び比較例2において、(A)エポキシ化合物としては、ビスフェノールAジグリシジルエーテル(ビスフェノールA型エポキシ樹脂、Ep-1)を用いた。実施例6~10、比較例3、及び比較例4において、以下の(A)エポキシ化合物として下記のEp-2~Ep-6をそれぞれ用いた。Ep-6は、カッコ内に示される構造の構成単位からなる樹脂である。Ep-6についての下記式において括弧の右下の数値は、樹脂中の各構成単位の質量比率(質量%)を表す。
【化32】
【0130】
実施例5~10では、硬化剤1として、実施例1で得た、9,9’-ビス(4-(4-アミノベンゾイルアミノ)フェニル)フルオレンを用いた。比較例2では硬化剤2として、1-メチルイミダゾールを用いた。
【0131】
<硬化性評価>
2枚の金型の間に形成された幅2mmの隙間に、硬化性組成物を注入した。隙間に注入された硬化性組成物を、5分間加熱した後、金型を剥離して、厚さ2mmの板状の試験片を得た。試験片の表面がべたつきのないタックフリーの状態となっていることを硬化の目安として確認を行った。以下の基準に従い、硬化性を評価した。
◎加熱温度が130℃以下で硬化した。
○加熱温度が130℃超160℃以下で硬化した。
×加熱温度が130℃超160℃以下で硬化しなかった。
【0132】
<ボトル安定性評価>
硬化性組成物の調製直後の粘度(cP)を、E型粘度計(TV-20型、コーンプレートタイプ、東機産業株式会社製)を用いて測定した。また、硬化性組成物の粘度を、25℃で保存した後に測定した。以下の基準に従い、ボトル安定性を評価した。
◎:30日保存後の粘度の初期粘度に対する増加が20cP未満であった。
○:10日保存後の粘度の初期粘度に対する増加は20cP未満であるが、30日保存後の粘度が初期粘度よりも20cP以上増加していた。
×:10日保存後の粘度が初期粘度より20cP以上増加していた。
【0133】
【表1】
【0134】
表1により、式(a1)で表される芳香族アミン化合物が、エポキシ化合物を良好に硬化させ、また、式(a1)で表される芳香族アミン化合物を硬化剤として含む硬化性組成物のボトル安定性が良好であることが分かる。
【0135】
Ep-1をエポキシ化合物(A)として含むが、硬化剤を含まない比較例1の硬化性組成物は、やや高い温度が必要ではあったものの、タックフリー状態となるまで硬化が進行した。
他方、Ep-3及びEp-4をエポキシ化合物(A)として含むが、硬化剤を含まない比較例3及び比較例4の硬化性組成物は、160℃超の温度に加熱しても硬化しなかった。
しかしながら、式(a1)で表される芳香族アミン化合物とともに、Ep-3及びEp-4をエポキシ化合物(A)として含む、実施例7及び実施例8の硬化性組成物は、130℃以下の低温での加熱でも良好に硬化した。
実施例5と、比較例1との比較からは、一見、式(a1)で表される芳香族アミン化合物のエポキシ化合物に対する硬化促進効果が顕著でないように解されるかもしれない。
しかし、実施例7及び実施例8と、比較例3及び比較例4との比較によれば、式(a1)で表される芳香族アミン化合物のエポキシ化合物に対する硬化促進効果が顕著であることが分かる。