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特許7047123負極用組成物、全固体二次電池用負極シート及び全固体二次電池、並びに、全固体二次電池用負極シート若しくは全固体二次電池の製造方法
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  • 特許-負極用組成物、全固体二次電池用負極シート及び全固体二次電池、並びに、全固体二次電池用負極シート若しくは全固体二次電池の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-25
(45)【発行日】2022-04-04
(54)【発明の名称】負極用組成物、全固体二次電池用負極シート及び全固体二次電池、並びに、全固体二次電池用負極シート若しくは全固体二次電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/1395 20100101AFI20220328BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20220328BHJP
   H01M 4/134 20100101ALI20220328BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20220328BHJP
   H01M 4/139 20100101ALI20220328BHJP
   H01M 10/058 20100101ALI20220328BHJP
【FI】
H01M4/1395
H01M4/62 Z
H01M4/134
H01M10/0562
H01M4/139
H01M10/058
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020549207
(86)(22)【出願日】2019-09-24
(86)【国際出願番号】 JP2019037251
(87)【国際公開番号】W WO2020067002
(87)【国際公開日】2020-04-02
【審査請求日】2020-09-08
(31)【優先権主張番号】P 2018184891
(32)【優先日】2018-09-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002631
【氏名又は名称】特許業務法人イイダアンドパートナーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100076439
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 敏三
(74)【代理人】
【識別番号】100118809
【弁理士】
【氏名又は名称】篠田 育男
(74)【代理人】
【識別番号】100161469
【弁理士】
【氏名又は名称】赤羽 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100202898
【弁理士】
【氏名又は名称】植松 拓己
(72)【発明者】
【氏名】八幡 稔彦
(72)【発明者】
【氏名】小澤 信
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 秀幸
(72)【発明者】
【氏名】磯島 広
【審査官】冨士 美香
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-149238(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00-4/62
H01M 10/0562
H01M 10/058
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫化物系無機固体電解質と、ケイ素原子又はスズ原子を有する負極活物質と、ポリマーとを含有する負極用組成物であって、
前記ポリマーが前記硫化物系無機固体電解質及び前記負極活物質に対して吸着能を有し、かつ、前記硫化物系無機固体電解質に対する前記ポリマーの吸着率が10%以下であり、前記負極活物質に対する前記ポリマーの吸着率が10%以下であり、JIS K 7161(2014)に準拠して測定される前記ポリマーの弾性率が100MPa以上1000MPa以下であり、
前記ポリマーは、前記負極用組成物により負極活物質層を構成した場合に負極活物質層中に粒子状で含まれる、負極用組成物。
【請求項2】
前記ポリマーの含有量が、全固形成分中5~20質量%である、請求項1に記載の負極用組成物。
【請求項3】
前記ポリマー中、エステル結合、アミド結合、カルボキシ基、カルボニル基、ウレタン結合及びイミド結合中の炭素原子含有量が、前記ポリマーの全炭素原子含有量中10mol%以下である、請求項1又は2に記載の負極用組成物。
【請求項4】
電子伝導性の炭素材料を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の負極用組成物。
【請求項5】
前記電子伝導性の炭素材料のアスペクト比が3以上である、請求項4に記載の負極用組成物。
【請求項6】
前記負極活物質がケイ素原子を有する、請求項1~5のいずれか1項に記載の負極用組成物。
【請求項7】
前記負極活物質を構成する全原子中のケイ素原子の含有量が50mol%以上である、請求項6に記載の負極用組成物。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の負極用組成物で構成した負極活物質層を有する全固体二次電池用負極シート。
【請求項9】
正極活物質層と固体電解質層と負極活物質層とをこの順で具備する全固体二次電池であって、
前記負極活物質層が、請求項1~7のいずれか1項に記載の負極用組成物で構成した層である、全固体二次電池。
【請求項10】
請求項1~7のいずれか1項に記載の負極用組成物を塗布することを含む、全固体二次電池用負極シートの製造方法。
【請求項11】
請求項10に記載の製造方法により全固体二次電池用負極シートを得て、当該全固体二次電池用負極シートを用いて全固体二次電池を製造することを含む、全固体二次電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、負極用組成物、全固体二次電池用負極シート及び全固体二次電池、並びに、全固体二次電池用負極シート若しくは全固体二次電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、負極と、正極と、負極及び正極の間に挟まれた電解質とを有し、両極間にリチウムイオンを往復移動させることにより充放電を可能とした蓄電池である。リチウムイオン二次電池には、従来、電解質として有機電解液が用いられてきた。しかし、有機電解液は液漏れを生じやすく、また、過充電又は過放電により電池内部で短絡が生じ発火するおそれもあり、安全性と信頼性の更なる向上が求められている。
このような状況下、有機電解液に代えて、無機固体電解質を用いた全固体二次電池が注目されている。全固体二次電池は負極、電解質及び正極の全てが固体からなり、有機電解液を用いた電池の安全性及び信頼性を大きく改善することができる。
【0003】
このような全固体二次電池において、負極活物質層、固体電解質層及び正極活物質層等の全固体二次電池を構成する層(構成層)を形成する材料として、無機固体電解質、活物質及びポリマー等を含有する材料が、提案されている。
例えば、特許文献1には、周期律表第1族又は第2族に属する金属のイオンの伝導性を有する無機固体電解質と、ポリマー粒子と、このポリマー粒子を溶解する溶媒及びこのポリマー粒子を溶解しない溶媒を含む分散媒体とを含有する固体電解質組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-139511号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1には、種々の負極活物質を用いうることが記載されている。全固体二次電池の負極活物質層では、充放電時、負極活物質が膨張収縮により体積変化することで固体粒子間に間隙が生じ、サイクル特性等の電池性能が低下してしまうことがある。特許文献1記載の、負極活物質を含有する固体電解質組成物を用いて作製した全固体二次電池では、ポリマー粒子が固体粒子に吸着することにより、負極活物質の体積変化により固体粒子間に間隙が生じることを抑制すると考えられる。
【0006】
負極活物質の中でも、ケイ素原子又はスズ原子を有する負極活物質は、黒鉛及びアセチレンブラックなどの負極活物質に比べて、より多くのLiイオンを吸蔵できる。そのため、電池容量を大きくすることができる。しかし、その分、充放電時の膨張収縮による体積変化が大きく、サイクル特性が低下してしまう。
【0007】
本発明は、ケイ素原子又はスズ原子を有する負極活物質を含有する負極活物質層を形成する材料として用いることにより、抵抗が低く、また充放電を繰り返しても放電容量が低下しにくい(サイクル特性に優れた)全固体二次電池を実現できる負極用組成物を提供することを課題とする。また、本発明は、この負極用組成物で構成した負極活物質層を有する、全固体二次電池用負極シート及び全固体二次電池を提供することを課題とする。また、本発明は、上記全固体二次電池用負極シート及び上記全固体二次電池の各製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、種々検討を重ねた結果、ケイ素原子又はスズ原子を有する負極活物質に実質的に吸着能を有さず、硫化物系無機固体電解質にも実質的に吸着能を有さず、特定の弾性率を示すポリマーと、上記負極活物質及び硫化物系無機固体電解質とを組み合わせて負極用組成物を調製し、この負極用組成物を用いて全固体二次電池の負極活物質層を形成して上記ポリマーを層中に粒子状で存在させることにより、得られる全固体二次電池を、抵抗が低く、また充放電を繰り返しても放電容量が低下しにくい特性とすることができることを見出した。本発明はこれらの知見に基づき更に検討を重ね、完成されるに至ったものである。
【0009】
すなわち、上記の課題は以下の手段により解決された。
<1>
硫化物系無機固体電解質と、ケイ素原子又はスズ原子を有する負極活物質と、ポリマーとを含有する負極用組成物であって、
上記ポリマーが上記硫化物系無機固体電解質及び上記負極活物質に対して吸着能を有し、かつ、上記硫化物系無機固体電解質に対する上記ポリマーの吸着率が10%以下であり、上記負極活物質に対する上記ポリマーの吸着率が10%以下であり、JIS K 7161(2014)に準拠して測定される上記ポリマーの弾性率が100MPa以上1000MPa以下であり、
上記ポリマーは、上記負極用組成物により負極活物質層を構成した場合に負極活物質層中に粒子状で含まれる、負極用組成物。
<2>
上記ポリマーの含有量が、全固形成分中5~20質量%である、<1>に記載の負極用組成物。
<3>
上記ポリマー中、エステル結合、アミド結合、カルボキシ基、カルボニル基、ウレタン結合及びイミド結合中の炭素原子含有量が、上記ポリマーの全炭素原子含有量中10mol%以下である、<1>又は<2>に記載の負極用組成物。
<4>
電子伝導性の炭素材料を含む、<1>~<3>のいずれか1つに記載の負極用組成物。
<5>
上記電子伝導性の炭素材料のアスペクト比が3以上である、<4>に記載の負極用組成物。
<6>
上記負極活物質がケイ素原子を有する、<1>~<5>のいずれか1つに記載の負極用組成物。
<7>
上記負極活物質を構成する全原子中のケイ素原子の含有量が50mol%以上である、<6>に記載の負極用組成物。
<8>
<1>~<7>のいずれか1つに記載の負極用組成物で構成した負極活物質層を有する全固体二次電池用負極シート。
<9>
正極活物質層と固体電解質層と負極活物質層とをこの順で具備する全固体二次電池であって、
上記負極活物質層が、<1>~<7>のいずれか1つに記載の負極用組成物で構成した層である、全固体二次電池。
<10>
<1>~<7>のいずれか1つに記載の負極用組成物を塗布することを含む、全固体二次電池用負極シートの製造方法。
<11>
<10>に記載の製造方法により全固体二次電池用負極シートを得て、この全固体二次電池用負極シートを用いて全固体二次電池を製造することを含む、全固体二次電池の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の負極用組成物は、ケイ素原子又はスズ原子を有する負極活物質を含有する負極活物質層を形成する材料として用いることにより、抵抗が低く、また充放電を繰り返しても放電容量が低下しにくい全固体二次電池を実現できる。また、本発明の全固体二次電池用負極シート、全固体二次電池の負極活物質層に用いることにより、抵抗が低く、また充放電を繰り返しても放電容量が低下しにくい全固体二次電池を実現できる。また、本発明の全固体二次電池は、抵抗が低く、また充放電を繰り返しても放電容量が低下しにくい。更に、本発明の全固体二次電池用負極シート及び全固体二次電池の各製造方法によれば、上記の全固体二次電池用負極シート及び全固体二次電池を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は本発明の好ましい実施形態に係る全固体二次電池を模式化して示す縦断面図である。
図2図2は実施例で作製した全固体二次電池(コイン電池)を模式的に示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の説明において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
【0013】
本発明において、ポリマーの分子量は、特に断らない限り、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって標準ポリスチレン換算の質量平均分子量をいう。その測定法としては、基本として下記条件1又は条件2(優先)の方法により測定した値とする。ただし、ポリマー等の種類によっては適宜適切な溶離液を選定することもできる。
(条件1)
カラム:TOSOH TSKgel Super AWM-H(商品名、東ソー社製)を2本つなげる。
キャリア:10mMLiBr/N-メチルピロリドン
測定温度:40℃
キャリア流量:1.0ml/min
試料濃度:0.1質量%
検出器:RI(屈折率)検出器
(条件2)
カラム:TOSOH TSKgel Super HZM-H、TOSOH TSKgel Super HZ4000、TOSOH TSKgel Super HZ2000(いずれも商品名、東ソー社製)をつないだカラムを用いる。
キャリア:テトラヒドロフラン
測定温度:40℃
キャリア流量:1.0ml/min
試料濃度:0.1質量%
検出器:RI(屈折率)検出器
【0014】
[負極用組成物]
本発明の負極用組成物は、硫化物系無機固体電解質と、ケイ素原子又はスズ原子を有する負極活物質(以下、単に負極活物質と記載することもある)と、ポリマーとを含有する。上記ポリマーは、上記負極活物質及び上記硫化物系無機固体電解質のいずれに対しても実質的に吸着能を有しない。また、上記ポリマーは、JIS K 7161(2014)に準拠して測定される上記ポリマーの弾性率が100MPa以上1000MPa以下である。
【0015】
本発明に用いられるポリマーは、負極活物質層中では、粒子状で存在するものである。これにより、本発明は目的の効果を奏する。上記ポリマーは、負極用組成物中においても粒子として存在していていることが好ましい。すなわち、本発明の負極用組成物は、硫化物系無機固体電解質と、負極活物質と、ポリマーとを分散してなる分散液(スラリー)であることが好ましい。しかし、負極用組成物を用いて形成した負極活物質層中において粒子状で存在できる限り、上記ポリマーは負極用組成物中において溶解された状態にあってもよい。例えば、負極用組成物が分散媒(溶媒)を含有する場合において、上記ポリマーが分散媒に溶解していてもよい。負極用組成物中において溶媒に溶解した状態のポリマーを、この組成物により形成した負極活物質層において粒子状に存在させる方法としては、例えば、ポリマーが被膜形態になる前に析出させる方法が挙げられる。溶媒に対する溶解性の低いポリマーを用いることで、析出するタイミングを早め、広く濡れ広がった状態で析出が開始するため、負極活物質層中で被膜状態にならずに粒子状で存在させることができる。また、溶媒の乾燥条件を調整し、乾燥時間を短縮することにより、十分にポリマーが拡散した状態で溶媒を揮発させてポリマーを析出させることにより負極活物質層中で粒子状で存在させることもできる。
なお、本発明の効果を損なわない範囲内で、本発明の全固体二次電用電極シート及び全固体二次電池は、負極活物質層に非粒子状のポリマーを含んでもよい。
負極活物質層中のポリマーの形態は、例えば走査型電子顕微鏡により観察することができる。
【0016】
本発明の説明において、「ポリマーが負極活物質及び硫化物系無機固体電解質に対して実質的に吸着能を有しない」とは、ポリマーが負極活物質及び硫化物系無機固体電解質に対して吸着能を有しながらも、その吸着能が低いことを意味する。具体的には、ポリマーの負極活物質に対する吸着率が10%以下であり、かつ、ポリマーの硫化物系無機固体電解質に対する吸着率が10%以下であることを意味する。ポリマーの負極活物質に対する吸着率は5%以下であることが好ましく、ポリマーの硫化物系無機固体電解質に対する吸着率は5%以下であることが好ましい。固体粒子を被覆せずに、固体粒子同士を結着させたり、負極活物質層と固体電解質層とを結着させたりする観点からは、ポリマーの負極活物質に対する吸着率は0.1%以上であることが好ましく、ポリマーの硫化物系無機固体電解質に対する吸着率は0.1%以上であることが好ましい。
上記吸着率は、実施例に記載の方法により決定することができる。
上記ポリマーの負極活物質及び硫化物系無機固体電解質に対する吸着能、上記ポリマーの弾性率は、例えば、合成時のモノマー原料の配合量等により調整することができる。例えば、極性の大きい官能基を有しないモノマー成分の割合を多くすることで吸着能を抑えることができる。
【0017】
本発明の負極用組成物は負極活物質がケイ素原子又はスズ原子を有する。したがって、この組成物により負極活物質層を構成した全固体二次電池は、負極活物質層に活物質として黒鉛、アセチレンブラックなどを用いた場合に比べて、充放電時における負極活物質層の体積変化が大きい。それにもかかわらず、この全固体二次電池は低抵抗を実現でき、また優れたサイクル特性を実現することができる。この理由は未だ定かではないが以下のように推定される。
従来のバインダー(結着剤)を構成するポリマーは、負極活物質等の固体粒子同士、全固体二次電池構成層同士等の結着力を高めることに主眼がおかれ、電池性能を向上させるため、固体粒子に対して吸着能が高いものを使用する傾向にあった。これに対して、本発明に用いられるポリマーは、負極活物質層中で粒子として存在し、従来のバインダーを構成するポリマーと比べて、固体粒子に対する吸着能が低い。そのため、充放電による体積変化の大きい負極活物質を用いても、固体粒子に対する吸着状態をある程度維持しつつ、濡れ広がりによるポリマーの固体粒子表面の被覆面積の増加を抑えることができ、固体粒子の界面抵抗の上昇を抑制することができると考えられる。さらに、負極活物質の膨張収縮に合わせてポリマーの形状がある程度柔軟に変化し、形成される空隙量を低減でき、負極活物質層全体としての体積の増減を低減することができるため、電池稼働前後における負極活物質層内の抵抗上昇を抑制できると考えられる。
【0018】
本発明の負極用組成物は、非水系組成物である。本発明において、非水系組成物とは、水分を含有しない態様に加えて、含水率(水分含有量ともいう。)が50ppm以下である形態をも包含する。非水系組成物において、含水率は、20ppm以下であることが好ましく、10ppm以下であることがより好ましく、5ppm以下であることが更に好ましい。含水量は、負極用組成物中に含有している水の量(負極用組成物に対する質量割合)を示す。含水量は、負極用組成物を0.45μmのメンブレンフィルターでろ過し、カールフィッシャー滴定により求めることができる。
【0019】
以下、本発明の負極用組成物が含有する成分及び含有しうる成分について説明する。
【0020】
<硫化物系無機固体電解質>
本発明において、無機固体電解質とは、無機の固体電解質のことであり、固体電解質とは、その内部においてイオンを移動させることができる固体状の電解質のことである。主たるイオン伝導性材料として有機物を含むものではないことから、有機固体電解質(ポリエチレンオキシド(PEO)などに代表される高分子電解質、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)などに代表される有機電解質塩)とは明確に区別される。また、無機固体電解質は定常状態では固体であるため、通常カチオン及びアニオンに解離又は遊離していない。この点で、電解液、又は、ポリマー中でカチオン及びアニオンが解離若しくは遊離している無機電解質塩(LiPF、LiBF、LiFSI、LiClなど)とも明確に区別される。無機固体電解質は周期律表第1族若しくは第2族に属する金属のイオンの伝導性を有するものであれば特に制限されず電子伝導性を有さないものが一般的である。
【0021】
本発明において、無機固体電解質は、周期律表第1族若しくは第2族に属する金属のイオン伝導性を有する。無機固体電解質は、この種の製品に適用される固体電解質材料を適宜選定して用いることができる。無機固体電解質は、(i)硫化物系無機固体電解質と、(ii)酸化物系無機固体電解質が代表例として挙げられる。本発明の負極用組成物は、硫化物系無機固体電解質を含有し、本発明の効果を損なわない範囲でその他の無機固体電解質(代表的には酸化物系無機固体電解質)を含有してもよい。
本発明の全固体二次電池が全固体リチウムイオン二次電池である場合、無機固体電解質はリチウムイオンのイオン伝導性を有することが好ましい。
【0022】
(i)硫化物系無機固体電解質
硫化物系無機固体電解質は、硫黄原子を含有し、かつ、周期律表第1族若しくは第2族に属する金属のイオン伝導性を有し、かつ、電子絶縁性を有する化合物が好ましい。硫化物系無機固体電解質は、元素として少なくともLi、S及びPを含有し、リチウムイオン伝導性を有しているものが好ましいが、目的又は場合に応じて、Li、S及びP以外の他の元素を含んでもよい。
【0023】
硫化物系無機固体電解質としては、例えば、下記式(1)で示される組成を満たすリチウムイオン伝導性硫化物系無機固体電解質が挙げられる。

a1b1c1d1e1 式(I)

式中、LはLi、Na及びKから選択される元素を示し、Liが好ましい。Mは、B、Zn、Sn、Si、Cu、Ga、Sb、Al及びGeから選択される元素を示す。Aは、I、Br、Cl及びFから選択される元素を示す。a1~e1は各元素の組成比を示し、a1:b1:c1:d1:e1は1~12:0~5:1:2~12:0~10を満たす。a1は1~9が好ましく、1.5~7.5がより好ましい。b1は0~3が好ましく、0~1がより好ましい。d1は2.5~10が好ましく、3.0~8.5がより好ましい。e1は0~5が好ましく、0~3がより好ましい。
【0024】
各元素の組成比は、下記のように、硫化物系無機固体電解質を製造する際の原料化合物の配合比を調整することにより制御できる。
【0025】
硫化物系無機固体電解質は、非結晶(ガラス)であっても結晶化(ガラスセラミックス化)していてもよく、一部のみが結晶化していてもよい。例えば、Li、P及びSを含有するLi-P-S系ガラス、又はLi、P及びSを含有するLi-P-S系ガラスセラミックスを用いることができる。
硫化物系無機固体電解質は、例えば硫化リチウム(LiS)、硫化リン(例えば五硫化二燐(P))、単体燐、単体硫黄、硫化ナトリウム、硫化水素、ハロゲン化リチウム(例えばLiI、LiBr、LiCl)及び上記Mで表される元素の硫化物(例えばSiS、SnS、GeS)の中の少なくとも2つ以上の原料の反応により製造することができる。
【0026】
Li-P-S系ガラス及びLi-P-S系ガラスセラミックスにおける、LiSとPとの比率は、LiS:Pのモル比で、好ましくは60:40~90:10、より好ましくは68:32~78:22である。LiSとPとの比率をこの範囲にすることにより、リチウムイオン伝導度を高いものとすることができる。具体的には、リチウムイオン伝導度を好ましくは1×10-4S/cm以上、より好ましくは1×10-3S/cm以上とすることができる。上限は特にないが、1×10-1S/cm以下であることが実際的である。
【0027】
具体的な硫化物系無機固体電解質の例として、原料の組み合わせ例を下記に示す。例えば、LiS-P、LiS-P-LiCl、LiS-P-HS、LiS-P-HS-LiCl、LiS-LiI-P、LiS-LiI-LiO-P、LiS-LiBr-P、LiS-LiO-P、LiS-LiPO-P、LiS-P-P、LiS-P-SiS、LiS-P-SiS-LiCl、LiS-P-SnS、LiS-P-Al、LiS-GeS、LiS-GeS-ZnS、LiS-Ga、LiS-GeS-Ga、LiS-GeS-P、LiS-GeS-Sb、LiS-GeS-Al、LiS-SiS、LiS-Al、LiS-SiS-Al、LiS-SiS-P、LiS-SiS-P-LiI、LiS-SiS-LiI、LiS-SiS-LiSiO、LiS-SiS-LiPO、Li10GeP12などが挙げられる。ただし、各原料の混合比は問わない。このような原料組成物を用いて硫化物系無機固体電解質材料を合成する方法としては、例えば非晶質化法を挙げることができる。非晶質化法としては、例えば、メカニカルミリング法、溶液法及び溶融急冷法を挙げられる。常温での処理が可能になり、製造工程の簡略化を図ることができるからである。
【0028】
(ii)酸化物系無機固体電解質
酸化物系無機固体電解質は、酸素原子を含有し、かつ、周期律表第1族若しくは第2族に属する金属のイオン伝導性を有し、かつ、電子絶縁性を有する化合物が好ましい。
酸化物系無機固体電解質は、イオン伝導度として、1×10-6S/cm以上であることが好ましく、5×10-6S/cm以上であることがより好ましく、1×10-5S/cm以上であることが特に好ましい。上限は特に限定されないが、1×10-1S/cm以下であることが実際的である。
【0029】
具体的な化合物例としては、例えばLixaLayaTiO〔xa=0.3~0.7、ya=0.3~0.7〕(LLT)、LixbLaybZrzbbb mbnb(MbbはAl、Mg、Ca、Sr、V、Nb、Ta、Ti、Ge、In、Snの少なくとも1種以上の元素でありxbは5≦xb≦10を満たし、ybは1≦yb≦4を満たし、zbは1≦zb≦4を満たし、mbは0≦mb≦2を満たし、nbは5≦nb≦20を満たす。)、Lixcyccc zcnc(MccはC、S、Al、Si、Ga、Ge、In、Snの少なくとも1種以上の元素でありxcは0<xc≦5を満たし、ycは0<yc≦1を満たし、zcは0<zc≦1を満たし、ncは0<nc≦6を満たす。)、Lixd(Al,Ga)yd(Ti,Ge)zdSiadmdnd(ただし、1≦xd≦3、0≦yd≦1、0≦zd≦2、0≦ad≦1、1≦md≦7、3≦nd≦13)、Li(3-2xe)ee xeeeO(xeは0以上0.1以下の数を表し、Meeは2価の金属原子を表す。Deeはハロゲン原子又は2種以上のハロゲン原子の組み合わせを表す。)、LixfSiyfzf(1≦xf≦5、0<yf≦3、1≦zf≦10)、Lixgygzg(1≦xg≦3、0<yg≦2、1≦zg≦10)、LiBO-LiSO、LiO-B-P、LiO-SiO、LiBaLaTa12、LiPO(4-3/2w)(wはw<1)、LISICON(Lithium super ionic conductor)型結晶構造を有するLi3.5Zn0.25GeO、ペロブスカイト型結晶構造を有するLa0.55Li0.35TiO、NASICON(Natrium super ionic conductor)型結晶構造を有するLiTi12、Li1+xh+yh(Al,Ga)xh(Ti,Ge)2-xhSiyh3-yh12(ただし、0≦xh≦1、0≦yh≦1)、ガーネット型結晶構造を有するLiLaZr12(LLZ)等が挙げられる。またLi、P及びOを含むリン化合物も望ましい。例えばリン酸リチウム(LiPO)、リン酸リチウムの酸素の一部を窒素で置換したLiPON、LiPOD(Dは、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zr、Nb、Mo、Ru、Ag、Ta、W、Pt、Au等から選ばれた少なくとも1種)等が挙げられる。また、LiAON(Aは、Si、B、Ge、Al、C、Ga等から選ばれた少なくとも1種)等も好ましく用いることができる。
【0030】
硫化物系無機固体電解質は、負極活物質層中で粒子であることが好ましい。この場合、無機固体電解質の平均粒径(体積平均粒子径)は特に制限されないが、0.01μm以上であることが好ましく、0.1μm以上であることがより好ましい。上限としては、100μm以下であることが好ましく、50μm以下であることがより好ましい。「体積平均粒子径」は、体積基準のメジアン径とする。なお、メジアン径とは粒径分布を累積分布として表したときの累積50%に相当する。
無機固体電解質の平均粒径の測定は、以下の手順で行う。無機固体電解質粒子を、水(水に不安定な物質の場合はヘプタン)を用いて20mLサンプル瓶中で1質量%の分散液を希釈調製する。希釈後の分散試料は、1kHzの超音波を10分間照射し、その直後に試験に使用する。この分散液試料を用い、レーザ回折/散乱式粒度分布測定装置LA-920(商品名、HORIBA社製)を用いて、温度25℃で測定用石英セルを使用してデータ取り込みを50回行い、体積平均粒子径を得る。その他の詳細な条件等は必要によりJIS Z 8828:2013「粒子径解析-動的光散乱法」の記載を参照する。1水準につき5つの試料を作製しその平均値を採用する。
【0031】
硫化物系無機固体電解質は、1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
硫化物系無機固体電解質の、負極用組成物中の含有量は、特に制限されないが、分散性、界面抵抗の低減及び結着性の点で、固形分100質量%において、硫化物系無機固体電解質と後述の負極活物質との合計含有量が、50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることが更に好ましい。上限としては、同様の観点から、99.9質量%以下であることが好ましく、99.5質量%以下であることがより好ましく、99質量%以下であることが特に好ましい。
本発明において、固形分(固形成分)とは、負極用組成物を、1mmHgの気圧下、窒素雰囲気下150℃で6時間乾燥処理を行ったときに、揮発若しくは蒸発して消失しない成分をいう。典型的には、後述の分散媒以外の成分を指す。
【0032】
<ケイ素原子又はスズ原子を有する負極活物質>
本発明の負極用組成物は、ケイ素原子又はスズ原子を有する負極活物質を含有する。この負極活物質は、周期律表第1族若しくは第2族に属する金属元素のイオンの挿入放出が可能な物質である。
本発明に用いられる負極活物質は、可逆的にリチウムイオンを挿入及び放出することが好ましい。上述のように、本発明の負極用組成物で形成した負極活物質層は負極活物質の膨張収縮による体積変化にポリマーの形状が追従するため、本発明では、負極活物質として、充放電による膨張収縮が大きく、リチウムと合金化可能な、ケイ素原子又はスズ原子を有する負極活物質を用いることができる。ケイ素原子を有する負極活物質としてケイ素原子の含有量が全構成原子の50mol%以上(好ましくは70mol%以上、より好ましくは80mol%以上)の負極活物質が好ましい。これにより、全固体二次電池の大容量化と電池の長寿命化とが可能となる。
【0033】
本発明に用いられる負極活物質の具体例として、Sn、Si、SiOx(0<x≦1)、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、ニッケル、銅、ランタン、これらのうちの原子を含む合金(LaSi、VSi)、これらの原子若しくは化合物の混合物、組織化した活物質(例えばLaSi/Si等)、SnO、SnO、SnSiO、SnS、SnS、又はSnSiSが好ましく挙げられる。
SiOは、それ自体を負極活物質(半金属酸化物)として用いることができ、また、全固体二次電池の稼働によりSiを生成するため、リチウムと合金化可能な活物質(その前駆体物質)として用いることができる。
【0034】
負極活物質の形状は特に制限されないが粒子状が好ましい。負極活物質の平均粒子径は0.1~60μmが好ましい。負極活物質粒子の平均粒径は上記無機固体電解質の平均粒径と同様にして測定できる。負極活物質を所定の粒子径にするには、通常の粉砕機又は分級機が用いられる。例えば、乳鉢、ボールミル、サンドミル、振動ボールミル、衛星ボールミル、遊星ボールミル、旋回気流型ジェットミル又は篩などが好適に用いられる。粉砕時には水又はメタノール等の有機溶媒を共存させた湿式粉砕も必要に応じて行うことができる。所望の粒子径とするためには分級を行うことが好ましい。分級方法としては、特に限定はなく、篩、風力分級機などを必要に応じて用いることができる。分級は乾式及び湿式ともに用いることができる。
【0035】
上記負極活物質は、1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
負極活物質層を形成する場合、負極活物質層の単位面積(cm)当たりの負極活物質の質量(mg)(目付量)は特に限定されるものではない。設計された電池容量に応じて、適宜に決めることができる。
【0036】
負極活物質の、負極用組成物中における含有量は、特に限定されず、固形分100質量%において、10~80質量%であることが好ましく、20~80質量%がより好ましい。
【0037】
(負極活物質の被覆)
負極活物質の表面は別の金属酸化物で表面被覆されていてもよい。表面被覆剤としてはTi、Nb、Ta、W、Zr、Al、Si又はLiを含有する金属酸化物等が挙げられる。具体的には、チタン酸スピネル、タンタル系酸化物、ニオブ系酸化物、ニオブ酸リチウム系化合物等が挙げられ、具体的には、LiTi12、LiTi、LiTaO、LiNbO、LiAlO、LiZrO、LiWO、LiTiO、Li、LiPO、LiMoO、LiBO、LiBO、LiCO、LiSiO、SiO、TiO、ZrO、Al、B等が挙げられる。
また、負極活物質を含む電極表面は硫黄又はリンで表面処理されていてもよい。
更に、負極活物質の粒子表面は、上記表面被覆の前後において活性光線又は活性気体(プラズマ等)により表面処理を施されていてもよい。
【0038】
<ポリマー>
本発明に用いられるポリマーは、本発明の負極用組成物を用いて形成した全固体二次電用電極シート及び全固体二次電池の負極活物質層中では粒子状で存在すること、ケイ素原子又はスズ原子を有する負極活物質に対して実質的に吸着能を有しないこと、JIS K 7161(2014)に準拠して測定される弾性率が100MPa以上1000MPa以下(好ましくは150MPa以上900MPa以下、より好ましくは180MPa以上850MPa以下)であること、を満たすものであれば特に制限されない。
【0039】
負極活物質層中、粒子状で存在するポリマーの形状は、特に制限されず、偏平状、無定形等であってもよいが、球状若しくは顆粒状が好ましい。この粒子状ポリマーのアスペクト比は、例えば、1~100が好ましく、1~50がより好ましく、1~30がさらに好ましい。粒子状ポリマーのアスペクト比は、後述の実施例に記載の導電助剤を構成する粒子のアスペクト比の算出方法と同様にして算出することができる。
【0040】
粒子状ポリマーの粒子径は、特に制限されず、10~1000nmであることが好ましく、20~500nmがより好ましく、30~300nmがより好ましく、50~200nmが更に好ましい。本明細書において粒子状ポリマーの粒子径は体積基準のメジアン径であり、無機固体電解質と同様にして測定できる。
なお、全固体二次電池の構成層における粒子状ポリマーの粒子径は、例えば、電池を分解して粒子状ポリマーを含有する構成層を剥がした後、その構成層について測定を行い、予め測定していた粒子状ポリマー以外の粒子の粒子径の測定値を排除することにより、測定することができる。
粒子状ポリマーの粒子径は、例えば、ポリマー中の構成成分の含有量及び含有量等により調整できる。
【0041】
上記ポリマーの具体例としては、含フッ素ポリマー、ポリウレタン、ポリイミド及びポリアミドが挙げられ、含フッ素ポリマー、ポリウレタン及びポリイミドが好ましく、含フッ素ポリマー及びポリイミドがより好ましい。
【0042】
上記ポリマーは、活物質及び硫化物系無機固体電解質への吸着能を抑えるため、エステル結合、アミド結合、カルボキシ基、カルボニル基、ウレタン結合及びイミド結合の炭素原子含有量が、上記ポリマーの全炭素原子含有量(モル量)中10mol%以下であることが好ましく、8%mol以下であることがより好ましい。下限は、特に制限されないが0mol%であってもよい。
上記ポリマーがエステル結合、アミド結合、カルボニル基、ウレタン結合又はイミド結合を有する場合、ポリマー主鎖及び側鎖のいずれに有してもよい。
なお、カルボニル基にエステル結合、アミド結合、ウレタン結合及びイミド結合は含まれず、アミド結合にウレタン結合及びイミド結合は含まれない。
上記結合及び基の含有量は、合成時の原料の配合量等により調整することができる。
上記結合及び基の含有量は、例えば13C-NMRにより算出することができる。
【0043】
本発明に用いられるポリマーは、2.5V~0.05V(vs Li/Li+基準)の範囲で還元反応しにくいものが好ましい。還元反応しにくいか否かは以下の方法で確認する。
白金板の上にポリマー1gと導電助剤(アセチレンブラック)0.1gの混合物を塗布し、ポリマー膜を作製する。ポテンショスタットのビーカー内の作用極にポリマー膜を配置した白金板を接続し、ビーカー内に、対極にLi金属、リファレンス極にLi金属を配置し、電解液(LiPFの1.0M溶液、溶媒は、エチレンカーボネート(EC)及びエチルメチルカーボネート(EMC)の混合液、EC/EMC=1/1(体積比))をビーカーに満たし、10mV/secで2.5Vから0.05Vまで3往復電位評価を行う。この際の2.5Vから0.05Vまで掃引した際に流れた電流値の総和電流が、ポリマー膜を付着させない白金板を用いて同じ操作を行った場合の総和電流よりも小さい場合を還元反応が生じにくいと評価する。
【0044】
本発明に用いられるポリマーの質量平均分子量は特に制限されないが、例えば、5000~5,000,000である。
【0045】
本発明に用いられるポリマーは、常法により合成することができ、また、市販品を用いてもよい。以下に市販品の具体例を商品名又は型番を併記して記載するが、本発明はこれらに限定されない。
【0046】
含フッ素ポリマーとしては、例えば、トレパール(ポリフッ化ビニリデン(PVDF)(登録商標)、東レ社製))、変性PVDF(アルケマ社製(型番2500-20))及びPVDF-HFP(フッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンとの共重合体、(アルケマ社製)型番4500-20)が挙げられ、トレパール(ポリフッ化ビニリデン(PVDF)(登録商標)、東レ社製))及び変性PVDF(アルケマ社製(型番2500-20))が好ましい。
上記含フッ素ポリマーのJIS K 7161(2014)に準拠して測定される弾性率は100~350MPa、反応電位(還元反応する電位)は0.05V未満もしくは2.5V越えである。すなわち、上記含フッ素ポリマーは、2.5V~0.05Vで還元反応しにくい。
【0047】
ポリウレタンとしては、例えば、ダイミックビーズUCN-8070CM(平均粒子径:7μm、大日精化(株)製)、ダイミックビーズUCN-8150CM(平均粒子径:15μm、大日精化(株)製)、アートパールC(根上工業(株)製)、アートパールP(根上工業(株)製)、アートパールJB(根上工業(株)製)、アートパールU(根上工業(株)製)、アートパールCE(根上工業(株)製)、アートパールAK(根上工業(株)製)、アートパールHI(根上工業(株)製)、アートパールMM(根上工業(株)製)、アートパールFF(根上工業(株)製)、アートパールTK(根上工業(株)製)、アートパールC-TH(根上工業(株)製)、アートパールRW(根上工業(株)製)、アートパールRX(根上工業(株)製)、アートパールRY(根上工業(株)製)、アートパールRZ(根上工業(株)製)、アートパールRU(根上工業(株)製)、アートパールRV(根上工業(株)製)、アートパールBP(根上工業(株)製)、グロスデールSシリーズ(三井化学(株)製)、グロスデールMシリーズ(三井化学(株)製)、グロスデールVシリーズ(三井化学(株)製)、グロスデールTシリーズ(三井化学(株)製)、及びインフィナジー(BASF社製)(いずれも商品名)が挙げられる。
上記ポリウレタンのJIS K 7161(2014)に準拠して測定される弾性率は100~500MPa、反応電位は0.05V未満もしくは2.5V越えである。すなわち、上記ポリウレタンは、2.5V~0.05Vで還元反応しにくい。
【0048】
ポリイミドとしては、例えば、ポリイミドパウダーP84(R)NT(ダイセルエヴォニック(株)製)、ポリイミドパウダーPIP-3(セイシン企業(株)製)、ポリイミドパウダーPIP-25(セイシン企業(株)製)、ポリイミドパウダーPIP-60(セイシン企業(株)製)、ポリイミドパウダーUIP-R(宇部興産(株)製)、及びポリイミドパウダーUIP-S(宇部興産(株)製)(いずれも商品名)が挙げられる。
上記ポリイミドのJIS K 7161(2014)に準拠して測定される弾性率は100~500MPa、反応電位は0.05V未満もしくは2.5V越えである。すなわち、上記ポリイミドは、2.5V~0.05Vで還元反応しにくい。
【0049】
上記ポリマーは1種単独で用いてもよく、2種以上を組合わせて用いてもよい。本発明の負極用組成物中の上記ポリマーの含有量は特に制限されないが、全固形成分中5~20質量%が好ましく、5~15質量%がより好ましい。本発明に用いられるポリマーは、ケイ素原子又はスズ原子を有する負極活物質と硫化物系無機固体電解質に実質的に吸着能を有しないため、上記含有量にすることにより、固体粒子の界面抵抗の上昇の抑制と、全固体二次電池の抵抗の上昇及びサイクル特性を向上とを両立させることができる。
【0050】
<電子伝導性の炭素材料>
本発明の負極用組成物は、電子伝導性の炭素材料を含有することが好ましい。
炭素材料とは、全構成原子中の炭素原子の含有量が95質量%以上の材料(物質)を意味する。「電子伝導性の炭素材料」とは、電子伝導度が1mS/cmの導電性を有する材料を意味する。
電子伝導度は以下のようにして算出する。
粉末状の炭素材料200mgを、φ10mmの金属製の棒2本(長さ6cm)と、ドーナツ状のセラミック製外筒(内径10mm、長さ5.5cm)からなる成形機(例えば、アズワン社製熱プレス機用金型φ10の外筒をセラミック性の上記外筒としたもの)の外筒に入れ、上下の開口から金属製の棒を入れて加圧し、外筒内で成形体を作製する。これを50MPaで加圧しながら上下の金属製の棒に端子を繋ぎ、50mVの電圧を印加する。この時の電流値を読み取ることで電子伝導度を算出することができる。
電子伝導性の炭素材料として、として、具体的には、下記導電助剤のうちの、黒鉛、カーボンブラック、無定形炭素、炭素繊維、炭素質材料等が挙げられる。
【0051】
<導電助剤>
本発明の負極用組成物は、導電助剤を含有することもできる。
導電助剤としては、特に制限はなく、一般的な導電助剤として知られているものを用いることができる。例えば、電子伝導性材料である、天然黒鉛、人造黒鉛などの黒鉛、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ファーネスブラックなどのカーボンブラック、ニードルコークスなどの無定形炭素、気相成長炭素繊維若しくはカーボンナノチューブなどの炭素繊維、グラフェン若しくはフラーレンなどの炭素質材料であってもよいし、銅、ニッケルなどの金属粉、金属繊維でもよく、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセチレン、ポリフェニレン誘導体など導電性高分子を用いてもよい。
本発明において、負極活物質と導電助剤とを併用する場合、上記の導電助剤のうち、電池を充放電した際にLiの挿入と放出が起きず、負極活物質として機能しないものを導電助剤とする。したがって、導電助剤の中でも、電池を充放電した際に負極活物質層中において活物質として機能しうるものは、導電助剤ではなく負極活物質に分類する。電池を充放電した際に負極活物質として機能するか否かは、一義的ではなく、負極活物質との組み合わせにより決定される。
【0052】
導電助剤は、1種を用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
導電助剤の、負極用組成物中の総含有量は、固形分100質量%に対して、0.1~5質量%が好ましく、0.5~3質量%がより好ましい。
【0053】
導電助剤の形状は、特に制限されないが、粒子状が好ましい。導電助剤のメジアン径D50は、特に限定されず、例えば、0.01~1μmが好ましく、0.02~0.1μmが好ましい。
【0054】
導電助剤を構成する粒子のアスペクト比は特に制限されないが、3以上であることが好ましく、5以上であることがより好ましく、10以上であることがさらに好ましく、50以上がさらに好ましい。上限は、500以下であることが好ましく、350以下であることがより好ましく、200以下であることがさらに好ましく、100以下がさらに好ましい。導電助剤を構成する粒子のアスペクト比が上記範囲にあることにより、全固体二次電池の抵抗をより低下させることができる。
【0055】
導電助剤は、1種を用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
導電助剤の、負極用組成物中の総含有量は、固形分100質量%に対して、0.1~5質量%が好ましく、0.5~3質量%がより好ましい。
【0056】
導電助剤の形状は、特に制限されないが、粒子状が好ましい。導電助剤のメジアン径D50は、特に限定されず、例えば、0.01~1μmが好ましく、0.02~0.1μmが好ましい。
【0057】
<分散媒>
本発明の負極用組成物は、分散媒を含有することができる。この負極用組成物が分散媒を含有すると、組成均一性及び取扱性等を向上させることができる。
分散媒は、本発明の負極用組成物に含まれる各成分を分散させるものであればよい。
【0058】
本発明に用いる分散媒としては、例えば各種の有機溶媒が挙げられ、有機溶媒としては、アルコール化合物、エーテル化合物、アミド化合物、アミン化合物、ケトン化合物、芳香族化合物、脂肪族化合物、ニトリル化合物、エステル化合物等の各溶媒が挙げられる。
【0059】
アルコール化合物としては、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、1-プロピルアルコール、2-プロピルアルコール、2-ブタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、1,6-ヘキサンジオール、シクロヘキサンジオール、ソルビトール、キシリトール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオールが挙げられる。
【0060】
エーテル化合物としては、アルキレングリコールアルキルエーテル(エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル等)、ジアルキルエーテル(ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル等)、環状エーテル(テトラヒドロフラン、ジオキサン(1,2-、1,3-及び1,4-の各異性体を含む)等)が挙げられる。
【0061】
アミド化合物としては、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチル-2-ピロリドン、2-ピロリジノン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、2-ピロリジノン、ε-カプロラクタム、ホルムアミド、N-メチルホルムアミド、アセトアミド、N-メチルアセトアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルプロパンアミド、ヘキサメチルホスホリックトリアミドなどが挙げられる。
【0062】
アミン化合物としては、例えば、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、トリブチルアミンなどが挙げられる。
ケトン化合物としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、ジイソブチルケトン(DIBK)などが挙げられる。
芳香族化合物としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素化合物等が挙げられる。
脂肪族化合物としては、例えば、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカンなどの脂肪族炭化水素化合物等が挙げられる。
ニトリル化合物としては、例えば、アセトニトリル、プロピオニトリル、イソブチロニトリルなどが挙げられる。
エステル化合物としては、例えば、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸プロピル、酪酸プロピル、酪酸イソプロピル、酪酸ブチル、酪酸イソブチル、ペンタン酸ブチル、イソ酪酸エチル、イソ酪酸プロピル、イソ酪酸イソプロピル、イソ酪酸イソブチル、ピバル酸プロピル、ピバル酸イソプロピル、ピバル酸ブチル、ピバル酸イソブチルなどのカルボン酸エステル等が挙げられる。
非水系分散媒としては、上記芳香族化合物、脂肪族化合物等が挙げられる。
【0063】
本発明において、分散媒は、ケトン化合物、エステル化合物、芳香族化合物又は脂肪族化合物が好ましく、ケトン化合物、エステル化合物、芳香族化合物及び脂肪族化合物から選択される少なくとも1種を含むことがより好ましい。
負極用組成物に含有される分散媒は、1種であっても、2種以上であってもよく、2種以上であることが好ましい。
【0064】
分散媒の、負極用組成物中の総含有量は、特に限定されず、20~80質量%が好ましく、30~70質量%がより好ましく、40~60質量%が特に好ましい。
【0065】
<他の添加剤>
本発明の負極用組成物は、上記各成分以外の他の成分として、所望により、リチウム塩、イオン液体、増粘剤、消泡剤、レベリング剤、脱水剤、酸化防止剤等を含有することができる。
【0066】
[負極用組成物の製造方法]
本発明の負極用組成物は、硫化物系無機固体電解質、負極活物質、ポリマー、必要により分散媒、導電助剤等の他の成分を、例えば通常用いる各種の混合機で混合することにより調製することができる。混合方法は特に制限されず、一括して混合してもよく、順次混合してもよい。
また、まず、ポリマーの水分散体と負極活物質とを混合し、水を除去してポリマーと負極活物質を含む組成物を得る。この組成物と、ポリマー、必要により分散媒、導電助剤等の他の成分とを上記混合機で混合して本発明の負極用組成物を得ることもできる。
混合する環境は特に制限されないが、乾燥空気下又は不活性ガス下等が挙げられる。
【0067】
[全固体二次電池用負極シート]
本発明の全固体二次電池用負極シート(単に「本発明の負極シート」ともいう。)は、負極活物質層を有する負極シートであればよく、負極活物質層が負極集電体上に形成されているシートでも、基材を有さず、負極活物質層から形成されているシートであってもよい。この負極シートは、通常、集電体及び負極活物質層を有するシートであるが、負極集電体、負極活物質層及び固体電解質層をこの順に有する態様、並びに、負極集電体、負極活物質層、固体電解質層及び正極活物質層をこの順に有する態様も含まれる。本発明の負極シートは保護層及び導電体層等の他の層を有してもよい。本発明の負極シートを構成する各層の層厚は、後述する全固体二次電池において説明する各層の層厚と同じである。
本発明の負極用組成物から形成される負極活物質層は、少なくとも硫化物系無機固体電解質と粒子状ポリマーとを含む混合物である。
【0068】
[全固体二次電池用負極シートの製造方法]
全固体二次電池用負極シートの製造方法は、特に限定されない。全固体二次電池用負極シートは、本発明の負極用組成物を用いて製造することができる。例えば、上述のようにして粒子状ポリマーを含有する、本発明の負極用組成物を調製し、得られた負極用組成物を集電体上(導電体層等の他の層を介していてもよい。)に製膜(塗布乾燥)して、集電体上に負極活物質層(塗布乾燥層)を形成する方法が挙げられる。また、負極用組成物に含まれるポリマーが、例えば、分散媒に溶解している場合、上述の方法により、上記負極用組成物を用いて形成される負極活物質層中、ポリマーを粒子状で存在させることができる。
これにより、集電体と塗布乾燥層とを有する全固体二次電池用負極シートを作製することができる。ここで、塗布乾燥層とは、本発明の負極用組成物を塗布し、分散媒を乾燥させることにより形成される層(すなわち、本発明の負極用組成物を用いてなり、本発明の負極用組成物から分散媒を除去した組成からなる層)をいう。塗布乾燥層は、本発明の効果を損なわない範囲であれば分散媒が残存していてもよく、残存量としては、例えば、3質量%以下とすることができる。
上記製造方法において、本発明の負極用組成物はスラリーとして用いることが好ましく、所望により、公知の方法で本発明の負極用組成物をスラリー化することができる。本発明の負極用組成物の塗布、乾燥等の各工程については、下記全固体二次電池の製造方法において説明する。
【0069】
本発明の全固体二次電池用負極シートの製造方法においては、上記のようにして得られた塗布乾燥層を加圧することもできる。加圧条件等については、後述する、全固体二次電池の製造方法において説明する。
また、本発明の全固体二次電池用負極シートの製造方法においては、負極集電体、保護層(特に剥離シート)等を剥離することもできる。
【0070】
[全固体二次電池]
本発明の全固体二次電池は、正極活物質層と、この正極活物質層に対向する負極活物質層と、正極活物質層及び負極活物質層の間に配置された固体電解質層とを有する。正極活物質層は、必要により正極集電体上に形成され、正極を構成する。負極活物質層は、必要により負極集電体上に形成され、負極を構成する。
全固体二次電池の負極活物質層は、本発明の負極用組成物で形成される。
【0071】
(正極活物質層、固体電解質層、負極活物質層)
本発明の全固体二次電池においては、上述のように、負極活物質層は、本発明の負極用組成物又は上記全固体二次電池用負極シートで形成することができる。形成される負極活物質層は、好ましくは、含有する各成分及びその含有量について、特段の断りがない限り、負極用組成物の固形分におけるものと同じである。
負極活物質層の厚さは特に限定されない。一般的な全固体二次電池の寸法を考慮すると、5~1,000μmが好ましく、10μm以上500μm未満がより好ましい。
正極活物質層及び固体電解質層は通常の全固体二次電池に採用されるものを本発明の全固体二次電池においても採用することができる。例えば、特開2018-88306号公報及び特開2018-37229号公報記載の正極活物質層及び固体電解質層を採用することができる。
【0072】
(筐体)
本発明の全固体二次電池は、用途によっては、上記構造のまま全固体二次電池として使用してもよいが、乾電池の形態とするためには更に適当な筐体に封入して用いることが好ましい。筐体は、金属性のものであっても、樹脂(プラスチック)製のものであってもよい。金属性のものを用いる場合には、例えば、アルミニウム合金及びステンレス鋼製のものを挙げることができる。金属性の筐体は、正極側の筐体と負極側の筐体に分けて、それぞれ正極集電体及び負極集電体と電気的に接続させることが好ましい。正極側の筐体と負極側の筐体とは、短絡防止用のガスケットを介して接合され、一体化されることが好ましい。
【0073】
以下に、図1を参照して、本発明の好ましい実施形態に係る全固体二次電池について説明するが、本発明はこれに限定されない。
【0074】
図1は、本発明の好ましい実施形態に係る全固体二次電池(リチウムイオン二次電池)を模式化して示す断面図である。本実施形態の全固体二次電池10は、負極側からみて、負極集電体1、負極活物質層2、固体電解質層3、正極活物質層4、正極集電体5を、この順に有する。各層はそれぞれ接触しており、積層した構造をとっている。このような構造を採用することで、充電時には、負極側に電子(e)が供給され、そこにリチウムイオン(Li)が蓄積される。一方、放電時には、負極に蓄積されたリチウムイオン(Li)が正極側に戻され、作動部位6に電子が供給される。図示した例では、作動部位6に電球を採用しており、放電によりこれが点灯するようにされている。
本発明の負極用組成物は負極活物質層の成形材料として好ましく用いることができる。また、本発明の全固体二次電池用負極シートは負極活物質層として好適である。
【0075】
図1に示す層構成を有する全固体二次電池を2032型コインケースに入れる場合、この全固体二次電池を全固体二次電池用積層体と称し、この全固体二次電池用積層体を2032型コインケースに入れて作製した電池を全固体二次電池と称して呼び分けることもある。
【0076】
(正極活物質層、固体電解質層、負極活物質層)
全固体二次電池10においては、負極活物質層が本発明の負極用組成物又は上記全固体二次電池用負極シートを用いて形成される。
正極活物質層4、固体電解質層3及び負極活物質層2が含有する各成分は、それぞれ、互いに同種であっても異種であってもよい。
【0077】
正極集電体5及び負極集電体1は、電子伝導体が好ましい。
本発明において、正極集電体及び負極集電体のいずれか、又は、両方を合わせて、単に、集電体と称することがある。
正極集電体を形成する材料としては、アルミニウム、アルミニウム合金、ステンレス鋼、ニッケル及びチタンなどの他に、アルミニウム又はステンレス鋼の表面にカーボン、ニッケル、チタンあるいは銀を処理させたもの(薄膜を形成したもの)が好ましく、その中でも、アルミニウム及びアルミニウム合金がより好ましい。
負極集電体を形成する材料としては、アルミニウム、銅、銅合金、ステンレス鋼、ニッケル及びチタンなどの他に、アルミニウム、銅、銅合金又はステンレス鋼の表面にカーボン、ニッケル、チタンあるいは銀を処理させたものが好ましく、アルミニウム、銅、銅合金及びステンレス鋼がより好ましい。
【0078】
集電体の形状は、通常フィルムシート状のものが使用されるが、ネット、パンチされたもの、ラス体、多孔質体、発泡体、繊維群の成形体なども用いることができる。
集電体の厚みは、特に限定されないが、1~500μmが好ましい。また、集電体表面は、表面処理により凹凸を付けることも好ましい。
【0079】
本発明において、負極集電体、負極活物質層、固体電解質層、正極活物質層及び正極集電体の各層の間又はその外側には、機能性の層や部材等を適宜介在ないし配設してもよい。また、各層は単層で構成されていても、複層で構成されていてもよい。
【0080】
[全固体二次電池の製造方法]
本発明の全固体二次電池は、特に限定されず、本発明の負極用組成物の製造方法を介して(含んで)製造することができる。用いる原料に着目すると、本発明の負極用組成物を用いて製造することもできる。具体的には、全固体二次電池は、上述のようにして本発明の負極用組成物を調製し、得られた負極用組成物を用いて、全固体二次電池の負極活物質層を形成することにより、製造できる。これにより、抵抗が低く、サイクル特性に優れた全固体二次電池を製造できる。本発明の負極用組成物の調製方法は上述の通りであるので省略する。
【0081】
本発明の全固体二次電池は、本発明の負極用組成物を、例えば、負極集電体となる金属箔上に塗布し、塗膜を形成する(製膜する)工程を含む(介する)方法を介して、製造できる。
例えば、正極集電体である金属箔上に、正極用組成物を塗布して正極活物質層を形成し、全固体二次電池用正極シートを作製する。次いで、この正極活物質層の上に、固体電解質層を形成するための固体電解質組成物を塗布して、固体電解質層を形成する。更に、固体電解質層の上に、本発明の負極用組成物を塗布して、負極活物質層を形成する。負極活物質層の上に、負極集電体(金属箔)を重ねることにより、正極活物質層と負極活物質層の間に固体電解質層が挟まれた構造の全固体二次電池を得ることができる。必要によりこれを筐体に封入して所望の全固体二次電池とすることができる。
また、各層の形成方法を逆にして、負極集電体上に、負極活物質層、固体電解質層及び正極活物質層を形成し、正極集電体を重ねて、全固体二次電池を製造することもできる。
【0082】
別の方法として、次の方法が挙げられる。すなわち、上記のようにして、全固体二次電池用正極シートを作製する。また、負極集電体である金属箔上に、本発明の負極用組成物を塗布して負極活物質層を形成し、全固体二次電池用負極シートを作製する。次いで、これらシートのいずれか一方の活物質層の上に、上記のようにして、固体電解質層を形成するための固体電解質組成物を塗布して固体電解質層を形成する。更に、固体電解質層の上に、全固体二次電池用正極シート及び全固体二次電池用負極シートの他方を、固体電解質層と活物質層とが接するように積層する。このようにして、全固体二次電池を製造することができる。
また別の方法として、次の方法が挙げられる。すなわち、上記のようにして、全固体二次電池用正極シート及び全固体二次電池用負極シートを作製する。また、これとは別に、固体電解質組成物を基材上に塗布して、固体電解質層からなる全固体二次電池用固体電解質シートを作製する。更に、全固体二次電池用正極シート及び全固体二次電池用負極シートで、基材から剥がした固体電解質層を挟むように積層する。このようにして、全固体二次電池を製造することができる。
上記固体電解質組成物及び上記正極用組成物は、各々、通常の全固体二次電池の製造に用いるものを採用することができ、例えば、特開2015-088486号公報に記載の固体電解質組成物及び正極用組成物を用いることができる。
【0083】
<各層の形成(製膜)>
全固体二次電池の製造に用いる組成物の塗布方法は、特に限定されず、適宜に選択できる。例えば、塗布(好ましくは湿式塗布)、スプレー塗布、スピンコート塗布、ディップコート、スリット塗布、ストライプ塗布及びバーコート塗布が挙げられる。
このとき、組成物は、それぞれ塗布した後に乾燥処理を施してもよいし、重層塗布した後に乾燥処理をしてもよい。乾燥温度は特に限定されない。下限は30℃以上が好ましく、60℃以上がより好ましく、80℃以上が更に好ましい。上限は、300℃以下が好ましく、250℃以下がより好ましく、200℃以下が更に好ましい。このような温度範囲で加熱することで、分散媒を除去し、固体状態(塗布乾燥層)にすることができる。また、温度を高くしすぎず、全固体二次電池の各部材を損傷せずに済むため好ましい。
【0084】
塗布した組成物、又は、全固体二次電池を作製した後の各層又は全固体二次電池は、加圧することが好ましい。また、各層を積層した状態で加圧することも好ましい。加圧方法としては油圧シリンダープレス機等が挙げられる。加圧力としては、特に限定されず、一般的には50~1500MPaの範囲であることが好ましい。
また、塗布した組成物は、加圧と同時に加熱してもよい。加熱温度としては、特に限定されず、一般的には30~300℃の範囲である。無機固体電解質のガラス転移温度よりも高い温度でプレスすることもできる。
加圧は塗布溶媒又は分散媒を予め乾燥させた状態で行ってもよいし、塗布溶媒又は分散媒が残存している状態で行ってもよい。
なお、各組成物は同時に塗布しても良いし、塗布乾燥プレスを同時及び/又は逐次行っても良い。別々の基材に塗布した後に、転写により積層してもよい。
【0085】
加圧中の雰囲気としては、特に限定されず、大気下、乾燥空気下(露点-20℃以下)及び不活性ガス中(例えばアルゴンガス中、ヘリウムガス中、窒素ガス中)などいずれでもよい。無機固体電解質は水分と反応するため、加圧中の雰囲気は、乾燥空気下又は不活性ガス中が好ましい。
プレス時間は短時間(例えば数時間以内)で高い圧力をかけてもよいし、長時間(1日以上)かけて中程度の圧力をかけてもよい。固体電解質含有シート以外、例えば全固体二次電池の場合には、中程度の圧力をかけ続けるために、全固体二次電池の拘束具(ネジ締め圧等)を用いることもできる。
プレス圧はシート面等の被圧部に対して均一であっても異なる圧であってもよい。
プレス圧は被圧部の面積や膜厚に応じて変化させることができる。また同一部位を段階的に異なる圧力で変えることもできる。
プレス面は平滑であっても粗面化されていてもよい。
【0086】
<初期化>
上記のようにして製造した全固体二次電池は、製造後又は使用前に初期化を行うことが好ましい。初期化は、特に限定されず、例えば、プレス圧を高めた状態で初充放電を行い、その後、全固体二次電池の一般使用圧力になるまで圧力を開放することにより、行うことができる。
【0087】
[全固体二次電池の用途]
本発明の全固体二次電池は種々の用途に適用することができる。適用態様には特に制限はないが、例えば、電子機器に搭載する場合、ノートパソコン、ペン入力パソコン、モバイルパソコン、電子ブックプレーヤー、携帯電話、コードレスフォン子機、ページャー、ハンディーターミナル、携帯ファックス、携帯コピー、携帯プリンター、ヘッドフォンステレオ、ビデオムービー、液晶テレビ、ハンディークリーナー、ポータブルCD、ミニディスク、電気シェーバー、トランシーバー、電子手帳、電卓、携帯テープレコーダー、ラジオ、バックアップ電源、メモリーカードなどが挙げられる。その他民生用として、自動車(電気自動車等)、電動車両、モーター、照明器具、玩具、ゲーム機器、ロードコンディショナー、時計、ストロボ、カメラ、医療機器(ペースメーカー、補聴器、肩もみ機など)などが挙げられる。更に、各種軍需用、宇宙用として用いることができる。また、太陽電池と組み合わせることもできる。
【実施例
【0088】
以下に、実施例に基づき本発明について更に詳細に説明する。なお、本発明がこれにより限定して解釈されるものではない。以下の実施例において組成を表す「部」及び「%」は、特に断らない限り質量基準である。
【0089】
<硫化物系無機固体電解質の合成>
-Li-P-S系ガラスの合成-
硫化物系無機固体電解質として、T.Ohtomo,A.Hayashi,M.Tatsumisago,Y.Tsuchida,S.HamGa,K.Kawamoto,Journal of Power Sources,233,(2013),pp231-235及びA.Hayashi,S.Hama,H.Morimoto,M.Tatsumisago,T.Minami,Chem.Lett.,(2001),pp872-873の非特許文献を参考にして、Li-P-S系ガラスを合成した。
【0090】
具体的には、アルゴン雰囲気下(露点-70℃)のグローブボックス内で、硫化リチウム(LiS、Aldrich社製、純度>99.98%)2.42g及び五硫化二リン(P、Aldrich社製、純度>99%)3.90gをそれぞれ秤量し、メノウ製乳鉢に投入し、メノウ製乳棒を用いて、5分間混合した。LiS及びPの混合比は、モル比でLiS:P=75:25とした。
ジルコニア製45mL容器(フリッチュ社製)に、直径5mmのジルコニアビーズを66g投入し、上記の硫化リチウムと五硫化二リンの混合物全量を投入し、アルゴン雰囲気下で容器を密閉した。フリッチュ社製遊星ボールミルP-7(商品名、フリッチュ社製)に容器をセットし、温度25℃で、回転数510rpmで20時間メカニカルミリングを行うことで、黄色粉体のLi-P-S系ガラス(以下、LPSと記載することもある)6.10gを得た。
【0091】
<組成物の調製>
以下のようにして、本発明の負極用組成物、並びに、固体電解質組成物及び正極用組成物を調製した。
【0092】
(負極用組成物(BS-7)の調製(調製法A))
ジルコニア製45mL容器(フリッチュ社製)に、直径5mmのジルコニアビーズを180個投入し、上記で合成したLi-P-S系ガラス9.0g、変性PVDF(1)(アルケマ社製2500-20(商品名))1.3g、ジイソブチルケトン12gを入れた。この容器を遊星ボールミルP-7(商品名、フリッチュ社製)にセットし、温度25℃、回転数300rpmで2時間攪拌した。攪拌後、Si粉末(平均粒径1μm)9.0gを加え、ジイソブチルケトン5gを添加した。この容器を遊星ボールミルP-7(商品名、フリッチュ社製)にセットし、温度25℃、回転数150rpmで5分攪拌した。このようにして負極用組成物BS-7を得た。
【0093】
(負極用組成物(BS-8)~(BS-10)、(BS-13)、(BS-14)、(BS-16)、(BS-17)及び(BT-2)~(BT-6)の調製(調製法A))
上記負極用組成物(BS-7)の調製において、下記表1に記載の組成を採用したこと以外は、負極用組成物(BS-7)の調製と同様にして、負極用組成物(BS-8)~(BS-10)、(BS-13)、(BS-14)、(BS-16)、(BS-17)及び(BT-2)~(BT-6)を調製した。負極用組成物(BT-2)については、ジイソブチルケトンをイソブチロニトリル(Aldrich社製)に置換した。
【0094】
(負極用組成物(BS-1)の調製(調製法B))
200mLナスフラスコにSi粉末(平均粒径1μm)12.0gと、予め調製したポリマーの水分散体(固形分1質量%)を173g投入し、回転子を用い、温度25℃、回転数700rpmで1時間撹拌した。その後、エバポレーターで水を除去して、ポリマー及び活物質を含む組成物を得た。この組成物を100℃で真空乾燥24時間することで、乾燥された組成物を得た。
ジルコニア製45mL容器(フリッチュ社製)に、直径5mmのジルコニアビーズを180個投入し、Li-P-S系ガラス9.0g、ジイソブチルケトン10gを入れた。この容器を遊星ボールミルP-7(商品名、フリッチュ社製)にセットし、温度25℃、回転数300rpmで2時間攪拌した。攪拌後、上記組成物10.3g及びアセチレンブラック0.9gを加え、ジイソブチルケトン5gを添加した。この容器を遊星ボールミルP-7(商品名、フリッチュ社製)にセットし、温度25℃、回転数150rpmで5分攪拌した。このようにして負極用組成物(BS-1)を得た。この負極用組成物は、硫化物系無機固体電解質と、負極活物質と、ポリマーとを分散してなる分散液(スラリー)である。
【0095】
(負極用組成物(BS-2)~(BS-6)、(BS-11)、(BS-12)、(BS-15)、(BT-1)、(BT-7)及び(BT-10)の調製(調製法B))
上記負極用組成物(BS-1)の調製において、下記表1に記載の組成を採用したこと以外は、負極用組成物(BS-1)の調製と同様にして、負極用組成物(BS-2)~(BS-6)、(BS-11)、(BS-12)、(BS-15)、(BT-1)、(BT-7)及び(BT-10)を調製した。
【0096】
(負極用組成物(BT-8)及び(BT-9)の調製(調製法B))
200mLナスフラスコに黒鉛活物質12.0gに対し、予め調製したポリマーの水分散体(固形分1質量%)を281g投入し、回転子を用い、温度25℃、回転数700rpmで1時間撹拌した。その後、エバポレーターで水を除去して、ポリマーと活物質を含む組成物を得た。この組成物を100℃で真空乾燥24時間することで、乾燥された組成物を得た。
ジルコニア製45mL容器(フリッチュ社製)に、直径5mmのジルコニアビーズを180個投入し、Li-P-S系ガラス9.0g、ジイソブチルケトン10gを入れた。この容器を遊星ボールミルP-7(商品名、フリッチュ社製)にセットし、温度25℃、回転数300rpmで2時間攪拌した。攪拌後、上記組成物11.2g及びアセチレンブラック0.95gを加え、ジイソブチルケトン5gを添加した。この容器を遊星ボールミルP-7(商品名、フリッチュ社製)にセットし、温度25℃、回転数150rpmで5分攪拌した。このようにして負極用組成物(BT-8)を得た。
上記負極用組成物(BT-8)の調製において、下記表1に記載の組成を採用したこと以外は、負極用組成物(BT-8)の調製と同様にして、負極用組成物(BT-9)を調製した。
【0097】
(負極用組成物(BS-21)~(BS-23)、(BT-21)及び(BT-22)の調製(調製法B))
上記負極用組成物(BS-1)の調製において、下記表2に記載の組成を採用したこと以外は、負極用組成物(BS-1)の調製と同様にして、負極用組成物(BS-21)~(BS-23)、(BT-21)及び(BT-22)を調製した。
【0098】
(固体電解質組成物の調製)
ジルコニア製45mL容器(フリッチュ社製)に、直径5mmのジルコニアビーズを180個投入し、上記で合成したLi-P-S系ガラス 9.0g、PVdF-HFP(アルケマ社製)0.4g及びジイソブチルケトン11gを投入した。この容器を遊星ボールミルP-7(商品名、フリッチュ社製)にセットし、温度25℃、回転数300rpmで2時間攪拌を続けた。このようにして、固体電解質組成物を調製した。
【0099】
(正極組成物の調製)
ジルコニア製45mL容器(フリッチュ社製)に、直径5mmのジルコニアビーズを180個投入し、上記で合成したLi-P-S系ガラス9.0g、PVdF-HFP(フッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンとの共重合体)(アルケマ社製)0.4g、トルエン15gを投入した。この容器を遊星ボールミルP-7(商品名、フリッチュ社製)にセットし、温度25℃、回転数300rpmで2時間攪拌を続けた。このようにして、固体電解質組成物を調製した。この固体電解質組成物6.1g、NMC3.5g、アセチレンブラック0.3g及びトルエン12gをジルコニア製45mL容器(フリッチュ社製)に、直径5mmのジルコニアビーズ180個とあわせて投入した。この容器を遊星ボールミルP-7にセットし、温度25℃、回転数100rpmで5分攪拌を続けた。このようにして、正極用組成物を調製した。
【0100】
<全固体二次電池の作製>
以下のようにして、図2に示す全固体二次電池を作製した。
【0101】
(全固体二次電池(BS-1)の作製)
露点-50℃以下のドライルームで、全固体二次電池を以下のようにして作製した。
アプリケーター(商品名:SA-201ベーカー式アプリケータ、テスター産業社製)により、厚さ20μmのアルミニウム箔に、乾燥後質量が1cm辺り21mgになるように正極組成物を塗布し、120℃で1時間乾燥した。その後、ヒートプレス機を用いて、加熱(120℃)しながら加圧し(180MPa、1分)、正極活物質層/アルミニウム箔の積層構造を有する全固体二次電池用正極シートを作製した。
【0102】
全固体二次電池用正極シートの作製と同様にして、本発明の全固体二次電池用負極シートを以下のようにして作製した。
アプリケーターにより、厚さ15μmのステンレス鋼箔に、乾燥後質量が1cm辺り2.9mgとなるように負極用組成物(BS-1)を塗布し、120℃1時間条件で乾燥した。その後、ヒートプレス機を用いて、加熱(120℃)しながら加圧し(180MPa、1分)、負極活物質層/ステンレス鋼箔の積層構造を有する本発明の全固体二次電池用負極シートを作製した。
【0103】
全固体二次電池用負極シートの負極活物質層上に、上記で調製した固体電解質組成物を、上記ベーカー式アプリケーターにより塗布し、80℃で1時間加熱後、さらに100℃で1時間加熱し、固体電解質層を形成した。
【0104】
全固体二次電池用正極シートを、正極活物質層と固体電解質層が接するように全固体二次電池用負極シートの上に重ね、積層体全体を500MPaで、1分加圧し、図1に示す層構成を有する全固体二次電池用積層体を得た。正極活物質層の厚さは75μm、固体電解質層の厚さは100μm、負極活物質層の厚さは25μmであった。
この積層体を直径10mmの円板状に切り出した。直径10mmの全固体二次電池用積層体12をスペーサーとワッシャー(図2において図示せず)を組み込んだ、ステンレス製の2032型コインケース11に入れ、2032型コインケース11をかしめる(拘束圧:0.1MPa)ことで、図2に示す全固体二次電池13を作製した。
【0105】
(全固体二次電池(BS-2)~(BS-17)及び(BT-1)~(BT-7)及び(BT-10)の作製)
全固体二次電池(BS-1)の作製において、負極用組成物(BS-1)に代えて負極用組成物(BS-2)~(BS-17)及び(BT-1)~(BT-7)及び(BT-10)を用いたこと以外は、全固体二次電池(BS-1)と同様にして全固体二次電池(BS-2)~(BS-17)及び(BT-1)~(BT-7)及び(BT-10)を作製した。
【0106】
(全固体二次電池(BT-8)及び(BT-9)の作製)
全固体二次電池(BS-1)の負極シートの作製において、負極用組成物(BS-1)に代えて負極用組成物(BT-8)を用い、乾燥後質量が1cm辺り14mgとなるようにステンレス箔に塗したこと以外は、全固体二次電池(BS-1)と同様にして全固体二次電池(BT-8)を作製した。
全固体二次電池(BT-8)の作製において、負極用組成物(BT-8)に代えて負極用組成物(BT-9)を用いたこと以外は、全固体二次電池(BT-8)と同様にして全固体二次電池(BT-9)を作製した。
【0107】
(全固体二次電池(BS-21)~(BS-23)、(BT-21)及び(BT-22)の作製)
全固体二次電池(BS-1)の作製において、負極用組成物(BS-1)に代えて負極用組成物(BS-21)を用いたこと、アルミニウム箔に、乾燥後質量が1cm辺り7mgになるように正極組成物を塗布したこと、及び、ステンレス箔に、乾燥後質量が1cm辺り0.97mgとなるように負極用組成物(BS-21)を塗布したこと以外は、全固体二次電池(BS-1)と同様にして全固体二次電池(BS-21)を作製した。
全固体二次電池(BS-21)の作製において、負極用組成物(BS-21)に代えて負極用組成物(BS-22)、(BS-23)、(BT-21)及び(BT-22)を用いたこと以外は、全固体二次電池(BS-21)と同様にして全固体二次電池(BS-22)、(BS-23)、(BT-21)及び(BT-22)を作製した。
【0108】
<試験>
全固体二次電池(BS-1)~(BS-17)、(BT-1)~(BT-10)、(BS-21)~(BS-23)、(BT-21)及び(BT-22)について、以下のようにして、サイクル特性試験を行い、1C放電容量を測定した。評価結果を後記表1及び2に示す。
【0109】
(サイクル特性)
上記で作製した全固体二次電池を用い、30℃の環境下、充電電流値0.13mA及び放電電流値0.13mAの条件で4.3V~3.0Vの充放電を1回行った(初期化した)。
その後、サイクル試験として、25℃の環境下、充放電電流値0.39mAの条件で4.3V~3.0Vの充放電を繰り返した。1回の充放電を1サイクルとする。
1サイクル目の放電容量と20サイクル目の放電容量とを測定し、下記式により放電容量維持率を測定し、この放電容量維持率を下記評価基準にあてはめサイクル特性を評価した。「C」以上が本試験の合格である。
【0110】
放電容量維持率(%)=(20サイクル目の放電容量/1サイクル目の放電容量)×100
【0111】
-評価基準-
A:70%以上100%
B:60%以上70%未満
C:50%以上60%未満
D:35%以上50%未満
E:35%未満
【0112】
(1C放電容量(抵抗評価))
上記で作製した全固体二次電池を用い、30℃の環境下、充電電流値0.13mA及び放電電流値0.13mAの条件で4.3V~3.0Vの充放電を1回行った(初期化した)。
その後、サイクル試験として、25℃の環境下、充電電流値0.13mAの条件で4.3Vまで充電した後、放電電流値1.3mAで3.0Vまで放電した(1サイクル目)。再度同じ条件で充放電を行った(2サイクル目)。
1サイクル目の放電容量と2サイクル目の放電容量とを測定し、下記評価基準に従って評価した。「C」以上が本試験の合格である。
【0113】
放電容量維持率(%)=(2サイクル目の放電容量/1サイクル目の放電容量)×100
【0114】
-評価基準-
A:50%以上100%
B:40%以上50%未満
C:35%以上40%未満
D:20%以上35%未満
E:20%未満
本試験の放電容量維持率が大きい程、高い電流値における容量が大きいと見なされるため、全固体二次電池の抵抗が低いといえる。
【0115】
<算出方法>
以下のようにして、ケイ素原子又はスズ原子を有する負極活物質に対するポリマーの吸着率、及び、硫化物系無機固体電解質に対するポリマーの吸着率を算出した。また、JIS K 7161(2014)に準拠してポリマーの弾性率を算出した。また、導電助剤を構成する粒子のアスペクト比を算出した。
【0116】
(吸着率)
ポリマー0.5mgと負極用組成物が含有する分散媒(上記組成物が含有するジイソブチルケトン)1gを10mLの試験管(直径10mm、長さ120mm)に投入し、試験管ミキサー(タイテック社製デルタミキサーSe-04(商品名))により25℃で15分撹拌した。続いて試験管を遠心分離機にセットし、5000rpmで20分遠心分離を行い、上澄み液(液面から閉口部に向かって液全量の内の80%の液)を得た。この上澄み液の質量をAとする。上澄み液中の分散媒を留去したのち、上澄み液に含まれるポリマーの質量を計測した。このポリマーの質量をBとする。
同様にして、ポリマー0.5mgとジイソブチルケトン1gを10mLの試験管(直径及び長さは上記と同じ)に投入し、試験管ミキサーにより25℃で15分撹拌した。試験管にケイ素原子又はスズ原子を有する負極活物質50mgを添加し、試験管ミキサーにより25℃で15分撹拌した。続いて試験管を遠心分離機にセットし、5000rpmで20分遠心分離を行った。沈殿した負極活物質及び負極活物質に吸着したポリマーと、上澄み液とを分離した(液面から閉口部に向かって液全量の内の80%の液)。この上澄み液の質量をCとする。上澄み液中の分散媒を留去したのち、上澄み液に含まれるポリマーの質量を計測した。このポリマーの質量をDとする。以下の式からケイ素原子又はスズ原子を有する負極活物質に対するポリマーの吸着率を算出した。
【0117】
100-〔{(D/C)÷(B/A)}×100〕(%)
【0118】
上記ケイ素原子又はスズ原子を有する負極活物質に対するポリマーの吸着率の算出において、ケイ素原子又はスズ原子を有する負極活物質に代えて、硫化物系無機固体電解質を用いたこと以外は、上記ケイ素原子又はスズ原子を有する負極活物質に対するポリマーの吸着率と同様にして、硫化物系無機固体電解質に対するポリマーの吸着率を算出した。
【0119】
(弾性率(引張弾性率))
JIS K 7161(2014)「プラスチック-引張特性の求め方」に記載の試験片をポリマー溶液から作製し、本規格に記載の引張弾性率を求めた。
具体的には、ポリマーを、例えばメチルエチルケトン(MEK)又はN‐メチルピロリドン(NMP)等に溶解させ、厚みが200μm程度のキャスト膜を作製した。このキャスト膜を10mm×20mmの大きさに切断し、チャック間距離(つかみ具間距離)が10mmとなるように引張試験機にセットし、応力、ひずみ線評価を実施し、弾性率を求めた。
【0120】
(アスペクト比の算出方法)
以下のようにして導電助剤を構成する粒子のアスペクト比を算出した。
走査型電子顕微鏡(SEM)(PHILIPS社製XL30(商品名))を用いて1000~3000倍で、無作為に選択し撮影した3視野のSEM像を、BMP(ビットマップ)ファイルに変換し、旭エンジニアリング株式会社製のIP-1000PC(商品名)の統合アプリケーションである「A像くん」で50個の導電助剤の粒子の画像を取り込み、画像中で重なりなく、粒子が見えている状態で、各粒子の長さの最大値と最小値を読み取り、下記の手順で算出した。
50個の粒子の最大長(長軸長)のうち、上下5点を除く40点の平均値(A)を求めた。次に、50個の粒子の最小長(短軸長)のうち、上下5点を除く40点の平均値(B)を求めた。平均値(A)を平均値(B)で割り、アスペクト比を算出した。
【0121】
【表1】
【0122】
【表2】
【0123】
<表の注>
SE:硫化物系無機固体電解質
PVDF:トレパール(登録商標)、ポリフッ化ビニリデンの水分散体(東レ社製)、平均粒子径1400nm
変性PVDF(1):アルケマ社製(型番2500-20)、平均粒子径2000nm
変性PVDF(2):アルケマ社製(型番2750-20)
ポリイミド:ポリイミドパウダーUIP-S(商品名、宇部興産社製)、平均粒子径1000nm
HSBR(1):BM-400(商品名、日本ゼオン社製)HSBR粒子の水分散体、平均粒子径2000nm
HSBR(2):ダイナロン1321P(商品名、JSR社製)
アクリル樹脂:テクポリマーMBX(商品名、積水化成品工業社製)、平均粒子径1500nm
炭化水素樹脂:フロービーズ(商品名、住友精化社製)、平均粒子径2500nm
PES:トレパール(登録商標)ポリエーテルスルホンの水分散体、東レ社製、平均粒子径3500nm
PTFE:マイクロディスパース200(テクノケミカル社製)、平均粒子径200~500nm
(上記平均粒子径は、負極用組成物中粒子状で存在するポリマーについては、組成物中の平均粒子径を意味する。一方、上記平均粒子径は、負極用組成物中溶解し、負極用組成物中では粒子状で存在するポリマーについては、負極活物質層中での平均粒子径を意味する。)
特定の結合又は基中の炭素原子含有量:ポリマーの全炭素原子含有量中の、上記ポリマーが有するエステル結合、アミド結合、カルボキシ基、カルボニル基、ウレタン結合及びイミド結合の炭素原子含有量を示す。
状態:負極活物質層中のポリマーの形状を示す。
粒子:負極用組成物中でポリマーが粒子状に分散又は溶解しており、この組成物を用いて負極活物質層を形成し、負極活物質層中でポリマーが粒子状で存在していることを示す。
被覆:負極用組成物中でポリマーが溶解しており、この組成物を用いて負極活物質層を形成し、負極活物質層中でポリマーが粒子状で存在していないことを示す。
AB:アセチレンブラック
VGCF:気相成長炭素繊維
「電解質吸着率(ポリマーの硫化物系無機固体電解質に対する吸着率(%))」は、PTFE以外のすべてのポリマーで0.1%以上であり、「活物質吸着率(ポリマーの活物質に対する吸着率(%))」は、PTFE以外のすべてのポリマーで0.1%以上であった。
-:該当する成分を含有しないこと等を意味する。
【0124】
表1から明らかなように、ケイ素原子又はスズ原子を有する負極活物質を用いても、ポリマーの弾性率が、本発明の規定を満たさない負極用組成物を用いて作製した全固体二次電池は、サイクル特性及が不合格であった(BT-1、BT-2及びBT-5~BT-7)。
また、負極活物質中、ポリマーが被覆状態で存在する全固体二次電池は、サイクル特性及が不合格であった(BT-3)。
また、硫化物系無機固体電解質に対して吸着能が大きすぎるポリマーを用いて作製した全固体二次電池及び硫化物系無機固体電解質に対して全く吸着しないポリマーを用いて作製した全固体二次電池は、いずれもサイクル特性及が不合格であった(BT-4及びBT-10)。
また、本発明で規定するポリマーを用いても、負極活物質として黒鉛を用いて作製した全固体二次電池は、抵抗が不合格であった(BT-8)。
また、全固体二次電池(BT-8)及び(BT-9)の作成において、負極用組成物(BT-8)及び(BT-9)の乾燥後質量を1cm辺り2.9mgにしたこと以外は、全固体二次電池(BT-8)及び(BT-9)と同様にして全固体二次電池を作製した。これらの全固体二次電池を稼働させたところ、初期化にて放電容量が30%になった。同目付量ではリチウムイオンが負極にてリチウム金属として析出し、副反応及び不可逆リチウムになったためと考えられる。
これに対して、本発明の規定を満たす負極用組成物を用いて作製した全固体二次電池は、サイクル特性及び抵抗がいずれも合格であった。例えば、BS-5とBT-8の結果の比較から、本発明の負極用組成物は、ケイ素原子又はスズ原子を有する負極活物質の特性を活かして、全固体二次電池の性能を向上できることがわかる。
【0125】
本発明をその実施態様とともに説明したが、我々は特に指定しない限り我々の発明を説明のどの細部においても限定しようとするものではなく、添付の請求の範囲に示した発明の精神と範囲に反することなく幅広く解釈されるべきであると考える。
【0126】
本願は、2018年9月28日に日本国で特許出願された特願2018-184891に基づく優先権を主張するものであり、これはここに参照してその内容を本明細書の記載の一部として取り込む。
【符号の説明】
【0127】
1 負極集電体
2 負極活物質層
3 固体電解質層
4 正極活物質層
5 正極集電体
6 作動部位
10 全固体二次電池
11 2032型コインケース
12 全固体二次電池用積層体
13 全固体二次電池
図1
図2