(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-25
(45)【発行日】2022-04-04
(54)【発明の名称】ロールの製造方法及びロール
(51)【国際特許分類】
C25D 7/04 20060101AFI20220328BHJP
B65H 27/00 20060101ALI20220328BHJP
F16C 13/00 20060101ALI20220328BHJP
【FI】
C25D7/04
B65H27/00 A
F16C13/00 A
(21)【出願番号】P 2021098005
(22)【出願日】2021-06-11
【審査請求日】2021-06-28
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】500108688
【氏名又は名称】サンレイ工機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100152146
【氏名又は名称】伏見 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】越畑 雅信
(72)【発明者】
【氏名】津覇 浩一
【審査官】瀧口 博史
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-121291(JP,A)
【文献】特開2010-047841(JP,A)
【文献】特開2010-247375(JP,A)
【文献】特開平05-193097(JP,A)
【文献】特許第5013799(JP,B2)
【文献】米国特許出願公開第2015/0204476(US,A1)
【文献】特開2015-013711(JP,A)
【文献】特開平02-291349(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 7/04
F16C 13/00
B65H 27/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素繊維強化プラスチックを含有する第一の円筒体の外周面側に金属スリーブを装着する装着工程と、前記金属スリーブの外周面にクロムめっき処理を施して被膜を形成するめっき工程と、前記被膜の表面を研磨する研磨工程と、を有し、
前記めっき工程において、前記第一の円筒体の外周面側に
前記金属スリーブが設けられたロール状積層体の軸線方向を水平方向と平行にして、前記ロール状積層体の外径に対する、前記ロール状積層体の下端からめっき液の液面までの距離の比が1/14以上13/28以下となるように、前記ロール状積層体をめっき液に部分的に浸漬し、前記ロール状積層体を軸線周りに回転させながら、前記金属スリーブの外周面にクロムめっき処理を施して被膜を形成する、ロールの製造方法。
【請求項2】
前記研磨工程の研磨によって、前記被膜の厚みを0.01mm以上0.50mm以下とする、請求項
1に記載のロールの製造方法。
【請求項3】
ウェブ処理用又はウェブ搬送用のロールの製造方法であって、
炭素繊維強化プラスチックを含有する第一の円筒体の外周面側に、金属スリーブが設けられたロール状積層体の軸線方向を水平方向と平行にして、前記ロール状積層体の外径に対する、前記ロール状積層体の下端からめっき液の液面までの距離の比が1/14以上13/28以下となるように、前記ロール状積層体をめっき液に部分的に浸漬し、前記ロール状積層体を軸線周りに回転させながら、前記金属スリーブの外周面にクロムめっき処理を施して被膜を形成する、ロールの製造方法。
【請求項4】
炭素繊維強化プラスチックを含有する第一の円筒体の外周面側に、金属スリーブが設けられたロール状積層体の軸線方向を水平方向と平行にして、前記ロール状積層体の外径に対する、前記ロール状積層体の下端からめっき液の液面までの距離の比が1/14以上13/28以下となるように、前記ロール状積層体をめっき液に部分的に浸漬し、前記ロール状積層体を軸線周りに回転させながら、前記金属スリーブの外周面にクロムめっき処理を施して、厚みが0.04mm以上0.70mm以下の被膜を形成する、ロールの製造方法。
【請求項5】
炭素繊維強化プラスチックがピッチ系炭素繊維及びPAN系炭素繊維を含む、請求項1
~4のいずれか一項に記載のロールの製造方法。
【請求項6】
前記第一の円筒体中の炭素繊維が、周方向、軸線方向及び斜交方向に配向している、請求項1
~5のいずれか一項に記載のロールの製造方法。
【請求項7】
前記ロール状積層体の軸線周りの回転速度を0.02rpm以上20.0rpm以下とする、請求項1~
6のいずれか一項に記載のロールの製造方法。
【請求項8】
前記被膜の硬度がHV750以上である、請求項1~
7のいずれか一項に記載のロールの製造方法。
【請求項9】
前記第一の円筒体の厚みが3mm以上50mm以下である、請求項1~
8のいずれか一項に記載のロールの製造方法。
【請求項10】
前記第一の円筒体の長さが2m以上12m以下である、請求項1~
9のいずれか一項に記載のロールの製造方法。
【請求項11】
前記金属スリーブの外周面を液体ホーニングした後、クロムめっき処理を施す、請求項1~
10のいずれか一項に記載のロールの製造方法。
【請求項12】
クロムめっき処理によって厚みが0.04mm以上0.70mm以下の前記被膜を形成する、請求項1~
3、5~
11のいずれか一項に記載のロールの製造方法。
【請求項13】
ウェブ処理用又はウェブ搬送用のロールを製造する、請求項1
、2、4~
11のいずれか一項に記載のロールの製造方法。
【請求項14】
クロムめっき処理直後のロール長手方向中央の真円度が0.10mm以下である、請求項1~
13のいずれか一項に記載のロールの製造方法。
【請求項15】
クロムめっき処理直後のロールの全振れ公差が0.13mm以下である、請求項1~
14のいずれか一項に記載のロールの製造方法。
【請求項16】
ウェブ処理用又はウェブ搬送用のロールであって、
炭素繊維強化プラスチックを含有する第一の円筒体と、前記第一の円筒体の外周面側に設けられ、金属スリーブと、前記金属スリーブの外周面に設けられ、第二の金属を含有する被膜と、を備え、
前記第一の円筒体と前記金属スリーブの長さが2m以上12m以下であり、
円筒度が0.20mm以下である、ロール。
【請求項17】
ウェブ処理用又はウェブ搬送用のロールであって、
炭素繊維強化プラスチックを含有する第一の円筒体と、前記第一の円筒体の外周面側に設けられ、金属スリーブと、前記金属スリーブの外周面に設けられ、第二の金属を含有する被膜と、を備え、
前記第一の円筒体と前記金属スリーブの長さが2m以上12m以下であり、
全振れ公差が0.13mm以下である、ロール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロールの製造方法及びロールに関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂フィルム等のウェブの処理や搬送に用いられるガイドロール等のロールとして、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)製のロールが知られている。しかし、CFRP製のロールは表面硬度が低く、外周面が傷付きやすい問題がある。そこで、CFRP製のロールの外周面上にクロムめっき膜等の被膜を形成することが提案されている(例えば、特許文献1~3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平6-210763号公報
【文献】特開2015-214727号公報
【文献】特開2017-71476号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1~3のような従来の方法では、均一な被膜を形成することが難しく、高精度を要求されるロールでは、後加工に時間を要する。
【0005】
本発明は、均一な被膜を効率良く形成でき、回転精度が高いロールが得られるロールの製造方法、及び回転精度が高いロールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下の態様を有する。
[1]炭素繊維強化プラスチックを含有する第一の円筒体の外周面側に、金属を含有する第二の円筒体が設けられたロール状積層体を軸線周りに回転させながら、前記第二の円筒体の外周面にクロムめっき処理を施して被膜を形成する、ロールの製造方法。
[2]前記ロール状積層体の軸線方向を水平方向と平行にしてクロムめっき処理を施す、[1]に記載のロールの製造方法。
[3]前記ロール状積層体の外径に対する、前記ロール状積層体の下端からめっき液の液面までの距離の比が1/14以上13/28以下となるように、前記ロール状積層体をめっき液に部分的に浸漬する、[2]に記載のロールの製造方法。
[4]前記ロール状積層体の軸線周りの回転速度を0.02rpm以上20.0rpm以下とする、[1]~[3]のいずれかに記載のロールの製造方法。
[5]前記被膜の硬度がHV750以上である、[1]~[4]のいずれかに記載のロールの製造方法。
[6]前記第一の円筒体の厚みが3mm以上50mm以下である、[1]~[5]のいずれかに記載のロールの製造方法。
[7]前記第一の円筒体の長さが2m以上12m以下である、[1]~[6]のいずれかに記載のロールの製造方法。
[8]前記第二の円筒体の外周面を液体ホーニングした状態でクロムめっき処理を施す、[1]~[7]のいずれかに記載のロールの製造方法。
[9]クロムめっき処理によって厚みが0.04mm以上0.70mm以下の前記被膜を形成する、[1]~[8]のいずれかに記載のロールの製造方法。
[10]ウェブ処理用又はウェブ搬送用のロールを製造する、[1]~[9]のいずれかに記載のロールの製造方法。
[11]前記第一の円筒体の外周面側に前記第二の円筒体を装着する装着工程と、前記第二の円筒体の外周面にクロムめっき処理するめっき工程と、前記被膜の表面を研磨する研磨工程と、を有する、[1]~[10]のいずれかに記載のロールの製造方法。
[12]前記研磨工程の研磨によって、前記被膜の厚みを0.01mm以上0.50mm以下とする、[11]に記載のロールの製造方法。
[13]クロムめっき処理直後のロール長手方向中央の真円度が0.10mm以下である、[1]~[12]のいずれかに記載のロールの製造方法。
[14]クロムめっき処理直後のロールの全振れ公差が0.13mm以下である、[1]~[13]のいずれかに記載のロールの製造方法。
[15]炭素繊維強化プラスチックを含有する第一の円筒体と、前記第一の円筒体の外周面側に設けられ、第一の金属を含有する第二の円筒体と、前記第二の円筒体の外周面に設けられ、第二の金属を含有する被膜と、を備え、前記第一の円筒体と前記第二の円筒体の長さが2m以上12m以下であり、円筒度が0.20mm以下である、ロール。
[16]炭素繊維強化プラスチックを含有する第一の円筒体と、前記第一の円筒体の外周面側に設けられ、第一の金属を含有する第二の円筒体と、前記第二の円筒体の外周面に設けられ、第二の金属を含有する被膜と、を備え、前記第一の円筒体と前記第二の円筒体の長さが2m以上12m以下であり、全振れ公差が0.13mm以下である、ロール。
[17]ウェブ処理用又はウェブ搬送用のロールである、[15]又は[16]に記載のロール。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、均一な被膜を効率良く形成でき、回転精度が高いロールが得られるロールの製造方法、及び回転精度が高いロールを提供できる。特に長尺ロールの場合に均一な被膜を効率良く形成できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の製造方法で製造されるロールの一実施形態を示した断面図である。
【
図2】本発明のロールの製造方法のめっき工程の一実施形態を示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明のロール及びその製造方法の一例について図面を参照して説明する。なお、以下の説明において例示される図の寸法等は一例であって、本発明はそれらに必ずしも限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0010】
本実施形態のロールの製造方法は、
図1に例示したロール100を製造する方法である。ロール100は、第一の円筒体10と、第一の円筒体10の外周面側に設けられた第二の円筒体20と、第二の円筒体20の外周面21に設けられた被膜30と、第一の円筒体10の軸線O1方向の両方の端部に嵌合されたジャーナル40と、を備えている。
【0011】
ロール100では、第一の円筒体10の全体が第二の円筒体20で覆われるように第一の円筒体10の外周面側に第二の円筒体20が装着されている。第一の円筒体10の軸線と第二の円筒体20の軸線はロール100の軸線O1に一致している。
【0012】
第一の円筒体10は、炭素繊維強化プラスチックを含有する円筒体である。第一の円筒体10としては、軽量であり、かつ弾性率が高い点から、炭素繊維強化プラスチック、又は炭素繊維強化プラスチックとガラス繊維強化プラスチックの混合物からなるものが好ましい。
【0013】
第一の円筒体10のヤング率は、90GPa以上が好ましく、120GPa以上がより好ましい。第一の円筒体10のヤング率が前記下限値以上であれば、ロール100の剛性が高くなるため、ロール100の曲がりを小さくすることができる。第一の円筒体10のヤング率の上限は特に限定されず、炭素繊維のヤング率の上限が900GPa程度であることから、500GPaとされる。
【0014】
炭素繊維強化プラスチックは、炭素繊維とマトリックス樹脂とからなる。
炭素繊維としては、ピッチ系炭素繊維、ポリアクリロニトリル系(以下、PAN系と記す。)炭素繊維等が挙げられる。
【0015】
ピッチ系炭素繊維は、「メソフェーズピッチ、すなわち石油タール、石炭タール等を処理して生じた部分的に液晶構造を示す樹脂、又は、人工的に合成されたメソフェーズピッチを紡糸して、不融化して、さらに炭化させて生成した、黒鉛結晶構造が繊維軸方向に高度に発達した実質的に炭素のみからなるフィラメント繊維」である。
PAN系炭素繊維とは、「アクリロニトリルを主成分として重合させたポリアクリロニトリル系樹脂からなる繊維を、不融化させて、さらに炭化させて生成した実質的に炭素のみからなるフィラメント繊維」である。
炭素繊維としては、弾性率が高く、熱膨張が少なく、生産性が高い観点から、ピッチ系炭素繊維とPAN系炭素繊維を組み合わせて使用することが好ましい。炭素繊維として、ピッチ系炭素繊維とPAN系炭素繊維を単独で使用してもよい。
【0016】
マトリックス樹脂としては、熱硬化性樹脂の硬化物又は熱可塑性樹脂が挙げられる。
熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、マレイミド樹脂、フェノール樹脂等が挙げられる。
熱硬化性樹脂は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0017】
熱可塑性樹脂としては、ポリアミド(ナイロン6、ナイロン66等)、ポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレン等)、変性ポリオレフィン、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等)、ポリカーボネート、ポリアミドイミド、ポリフェニレンオキシド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリスチレン、アクリロニトリル-ブチレン-スチレン共重合体、ポリフェニレンサルファイド、液晶ポリエステル、アクリロニトリル-スチレン共重合体等が挙げられる。
熱可塑性樹脂は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0018】
マトリックス樹脂は、繊維強化複合材料の要求物性に応じて、難燃剤、耐候性改良剤、酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、可塑剤、滑剤、着色剤、相溶化剤、導電性フィラー等の各種添加剤を含んでいてもよい。
【0019】
第一の円筒体10は、例えば、プリプレグを用いた公知の方法(シートワインディング法等)によって作製できる。
プリプレグとしては、炭素繊維を一方向に引き揃えてマトリックス樹脂を含浸させたUDプリプレグ、炭素繊維を織ったクロスにマトリックス樹脂を含浸させたクロスプリプレグ、ガラス繊維を一方向に引き揃えてマトリックス樹脂を含浸させたガラスUDプリプレグ、ガラス繊維を織ったクロスにマトリックス樹脂を含浸させたガラスクロスプリプレグ等が挙げられる。
【0020】
第二の円筒体20は、金属(第一の金属)を含有する円筒体である。
第二の円筒体20に含有される金属としては、例えば、ステンレススチール、チタン、鉄、アルミニウム、銅、ニッケル等が挙げられる。耐腐食性の点からは、金属としては、ステンレススチール、チタンが好ましい。熱膨張係数が小さい点からは、金属としては、鉄又はチタンが好ましい。軽量である点からは、金属としては、アルミニウムが好ましい。第二の円筒体20を形成する金属は、1種でもよく、2種以上でもよい。
【0021】
被膜30は、第二の金属を含有する被膜である。被膜30は第二の円筒体20の外周面21の全面に形成されている。被膜30は、異なる成分からなる被膜を複数含んでいてもよい。例えば、第二の円筒体20の外周面21に第一の被膜を配置し、第二の被膜を第一の被膜上に配置することができる。この場合、加工性と耐傷性の観点から、第一の被膜は第二の被膜より硬度が低いことが好ましい。
【0022】
第二の金属としては、特に限定されず、例えば、クロム、ニッケル、銅等が挙げられる。被膜30を形成する金属は、1種でもよく、2種以上でもよい。第二の金属としては、耐傷性の観点からクロムが好ましい。すなわち、被膜30としては、クロムを含有する被膜が好ましく、クロムめっき膜がより好ましい。第二の金属は、第一の金属とは異なっていることが好ましい。第一の金属が銅である場合には、この部分に溝等の加工を行った後に第二の金属としてクロムを施工することにより、加工性と耐傷性を両立させることができる。
【0023】
クロムめっき膜である被膜30の硬度は、HV750以上が好ましく、HV850以上がより好ましい。被膜30の硬度が前記下限値以上であれば、被膜30がより傷付きにくくなる。被膜30の硬度の上限値は、特に限定されず、実質的にはHV900である。
なお、被膜30の硬度は、JIS Z 2244:2009に準拠して測定されるビッカーズ硬度である。
【0024】
(ロールの製造方法)
以下、被膜30がクロムめっき膜であるロール100を製造する方法について説明する。
本実施形態では、第一の円筒体10の外周面側に第二の円筒体20が設けられたロール状積層体110を軸線O1周りに回転させながら、第二の円筒体20の外周面21にクロムめっき処理を施して被膜30を形成する。
【0025】
本実施形態のロール100の製造方法としては、例えば、下記の装着工程、下地研磨工程、めっき工程、及び研磨工程を有する方法が挙げられる。
装着工程:第一の円筒体10の外周面側に第二の円筒体20を装着する。
下地研磨工程:第二の円筒体20の外周面21を研磨する。
めっき工程:第二の円筒体20の外周面21にクロムめっき処理を施して被膜30を形成する。
研磨工程:被膜30の表面を研磨する。
【0026】
<装着工程>
第一の円筒体10の外周面側に第二の円筒体20を装着し、それらを密着一体化させる。これにより、第一の円筒体10の外周面側に第二の円筒体20が設けられたロール状積層体110が得られる。
【0027】
第一の円筒体10の外周面側に第二の円筒体20を装着しやすくする点から、装着前に第一の円筒体10の外周面を研削することが好ましい。研削方法としては、公知の金属用研削機械を用いて研削する方法等が挙げられる。
【0028】
第一の円筒体10の長さは、2m以上12m以下が好ましく、3m以上10m以下がより好ましい。本実施形態では、3m以上の第一の円筒体10を備える長尺のロール100であっても均一な被膜30を効率良く形成できる。
【0029】
第一の円筒体10の外径は、50mm以上375m以下が好ましく、80mm以上350mm以下がより好ましい。第一の円筒体10の外径が前記範囲の下限値以上であれば、精度良く第一の円筒体10の外周面を研削することができる。第一の円筒体10の外径が前記範囲の上限値以下であれば、被膜30のめっき施工が容易となる。
【0030】
第一の円筒体10の厚みは、3mm以上50mm以下が好ましく、5mm以上30mm以下がより好ましい。第一の円筒体10の厚みが前記範囲の下限値以上であれば、第一の円筒体10の厚みが適度にあり、第二の円筒体20の剛性に負けて、ロール100に曲がりが発生することが少ない。第一の円筒体10の厚みが前記範囲の上限値以下であれば、第一の円筒体10を製造する際に割れが発生し難い。
【0031】
第二の円筒体20の長さは、2m以上12m以下が好ましく、3m以上10m以下がより好ましい。第二の円筒体20の長さは、第一の円筒体10の長さと同じ長さにすることができる。
【0032】
第二の円筒体20の内径は、第一の円筒体10の外周面側に第二の円筒体20を装着し、第二の円筒体20と第一の円筒体10とを密着一体化させる点から、第一の円筒体10の外径と同一もしくは小さいことが好ましい。
【0033】
第二の円筒体20の厚みは、0.1mm以上10.0mm以下が好ましく、0.5mm以上5.0mm以下がより好ましい。第二の円筒体20の厚みが前記範囲の下限値以上であれば、第二の円筒体20の剛性が低くなりすぎず、第一の円筒体10に装着することが容易となる。第二の円筒体20の厚みが前記範囲の上限値以下であれば、第二の円筒体20の質量が大きくなりすぎず、ロールの軽量化効果が向上する。
【0034】
(めっき工程)
例えば、
図2に例示しためっき装置200によってクロムめっき処理を行う。
めっき装置200は、めっき液211を収容するめっき槽210と、電源212と、電源212と電気的に接続されたアノード213と、ジャーナル40を軸周りに回転可能に支持する回転軸214と、を備えている。めっき装置200では、アノード213がめっき槽210内の底部に配置されている。また、ジャーナル40を軸周りに回転可能に支持する回転軸214が電源212と電気的に接続されてカソードとして機能し、ジャーナル40を通じて第二の円筒体20の外周面21まで電気が流れるようになっている。
【0035】
本実施形態では、ロール状積層体110の軸線O1方向を水平方向と平行(横)にした状態で、めっき槽210に収容されているめっき液211にロール状積層体110を部分的に浸漬する。この状態で、ロール状積層体110を軸線O1周りに回転させながらクロムめっき処理を施し、第二の円筒体20の外周面21に被膜30を形成する。
【0036】
ロール状積層体110を軸線O1周りに回転させながらクロムめっき処理を施すことで、第二の円筒体20の外周面21に均一な被膜30を効率良く形成できる。また、ロール状積層体110の軸線O1方向を横にすることで、ロール状積層体110が取り扱いやすくクロムめっき処理が容易になり、均一な被膜30をより効率良く形成できる。また、ロール状積層体110をめっき液211に部分的に浸漬してクロムめっき処理を施すことで、めっき施工時のロールの回転に複雑なシール機構を用いなくともよく、効率的にめっきができる。
【0037】
クロムめっき処理時のロール状積層体110の軸線O1周りの回転速度は、0.02rpm以上20.0rpm以下が好ましく、0.10rpm以上10.0rpm以下がより好ましい。ロール状積層体110の回転速度が前記範囲の下限値以上であれば、めっきのムラが少なく円筒度が良好な被膜30を得ることができる。ロール状積層体110の回転速度が前記範囲の上限値以下であれば、円筒度の良好な被膜30を得ることができる。
【0038】
クロムめっき処理時のロール状積層体110の軸線O1方向の水平方向に対する傾斜角度は、均一に被膜30を形成させる点から、2°以下が好ましく、1°以下がより好ましく、0°が特に好ましい。
【0039】
ロール状積層体110の外径Dに対する、ロール状積層体110の下端からめっき液211の液面までの距離Hの比(H/D)は、1/14以上13/28以下が好ましく、1/8以上3/7以下がより好ましい。H/Dが前記範囲の下限値以上であれば、局所的に電流密度が高くなり難く、被膜30の施工が容易である。H/Dが前記範囲の上限値以下であれば、ロールのジャーナル部分からめっき液がめっき槽外に漏れ出すことを抑制しやすく、被膜30の施工が容易である。なお、ロール状積層体110の外径Dは、第二の円筒体20の外径と一致する。
【0040】
第二の円筒体20の外周面21には、クロムめっき処理前に液体ホーニングを施すことが好ましい。第二の円筒体20の外周面21に液体ホーニングしてからクロムめっき処理を施すことで、第二の円筒体20と被膜30との密着性が向上する。
【0041】
液体ホーニングに用いる粒子としては、例えば、珪砂、アルミナ、ガラスビーズ等が挙げられる。
液体ホーニングに用いる粒子の平均粒子径は、120μm以上250μm以下が好ましく、150μm以上200μm以下がより好ましい。
なお、平均粒子径は、JIS Z 8815:1994によって測定される。また、フィルム等のウェブによっては、ロールとウェブ間の摩擦係数を向上させる目的で、第二の円筒体20の外周面21をサンドブラスト処理し、いわゆる梨地表面としてもよい。
【0042】
なお、クロムめっき処理前の第二の円筒体20の外周面21には液体ホーニングを施さなくてもよい。また、クロムめっき処理前の第二の円筒体20の外周面21は、被膜30形成後のロール真円度、円筒度、全振れ公差を向上させる目的で液体ホーニングの前に研磨することが好ましい。第二の円筒体20の外周面21を研磨する方法は、特に限定されず、公知の方法を採用できる。
【0043】
めっき工程においてクロムめっき処理によって形成される被膜30の厚み(めっき厚み)、すなわちクロムめっき処理直後の被膜30の厚みは、0.04mm以上0.70mm以下が好ましく、0.04mm以上0.30mm以下がより好ましい。クロムめっき処理直後の被膜30の厚みが前記範囲の下限値以上であれば、被膜30の研磨工程でクロムめっきを第二の円筒体20の外周面21の全体に被膜30を残すことができる。クロムめっき処理直後の被膜30の厚みが前記範囲の上限値以下であれば、比較的短時間で被膜30を得ることができる。
【0044】
クロムめっき処理直後のロール100の円筒度は、0.20mm以下が好ましく、0.15mm以下がより好ましく、0.10mm以下がさらに好ましい。ロール100の円筒度が前記上限値以下であれば、ロール100の表面研磨が容易になり、回転精度が高くなる。
なお、ロールの円筒度は、JIS B 0672-2:2002に準拠して測定される。
【0045】
クロムめっき処理直後のロール100のロール長手方向中央の真円度は、0.10mm以下が好ましく、0.05mm以下がより好ましい。ロール100の真円度が前記上限値以下であれば、ロール100の回転精度が高くなる。
なお、ロールのロール長手方向中央の真円度は、JIS B0621:1984に準拠して測定される。
【0046】
クロムめっき処理直後のロール100の全振れ公差(静フレ)は、0.13mm以下が好ましく、0.10mm以下がより好ましい。ロール100の全振れ公差が前記上限値以下であれば、ロール100の回転精度が高くなる。
なお、ロールの全振れ公差は、JIS B0021:1998に準拠して測定される。
【0047】
(研磨工程)
めっき工程後には、被膜30の表面を研磨する。これにより、被膜30の表面が平滑になり、ロール100の回転精度が高くなる。
被膜30の表面を研磨する方法は、特に限定されず、例えば、砥石によるバフ研削やバーチカル研磨機等による研磨が挙げられる。
【0048】
研磨工程では、研磨によって被膜30の厚みを0.01mm以上0.50mm以下にすることが好ましく、0.02mm以上0.35mm以下にすることがより好ましく、0.02mm以上0.30mm以下にすることがさらに好ましい。研磨後の被膜30の厚みが前記範囲の下限値以上であれば、第二の円筒体20が露出するリスクが少なく、被膜30を第二の円筒体20の表面全体に残すことができる。研磨後の被膜30の厚みが前記範囲の上限値以下であれば、比較的短時間で被膜30の加工が可能となる。
【0049】
以上説明した製造方法により、ロール100が得られる。
最終製品としてのロール100の円筒度は、0.20mm以下が好ましく、0.15mm以下がより好ましく、0.10mm以下がさらに好ましい。ロール100の円筒度が前記上限値以下であれば、ロール100の回転精度が高くなる。
最終製品としてのロール100のロール長手方向中央の真円度は、0.10mm以下が好ましく、0.05mm以下がより好ましい。ロール100の真円度が前記上限値以下であれば、ロール100の回転精度が高くなる。
最終製品としてのロール100の全振れ公差(静フレ)は、0.13mm以下が好ましく、0.10mm以下がより好ましい。ロール100の全振れ公差が前記上限値以下であれば、ロール100の回転精度が高くなる。
【0050】
ロール100の用途としては、特に限定されず、ウェブ処理用又はウェブ搬送用のロールが好ましい。ロール100の用途の具体例としては、例えば、ガイドロール、タッチロール、ニップロール、搬送ロール等が挙げられる。
【0051】
以上説明したように、本実施形態では、ロール状積層体110を軸線O1周りに回転させながらクロムめっき処理を施すため、第二の円筒体20の外周面21に被膜30を形成する。そのため、均一な被膜30を効率良く形成でき、回転精度が高いロール100が得られる。クロム以外の第二の金属を含む被膜30は、例えば当該第二の金属をめっきするためのめっき液を用いる以外は前記のクロムめっき処理と同様のめっき処理を行うことで形成できる。
【0052】
なお、本発明の技術的範囲は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能であり、また前記実施形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えてもよく、前記した変形例を適宜組み合わせてもよい。
【実施例】
【0053】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の記載によっては限定されない。
[実施例1]
下記の3種類のプリプレグを用い、シートワインディング法にて、外径100mm、内径80mmの炭素繊維強化プラスチック製のパイプを作製した。各UDプリプレグの炭素繊維は、第一の円筒体の周方向、軸線方向及び斜交方向に配向させた。第一の円筒体のヤング率は、210GPaであった。
・UDプリプレグ(HyEJ34M65PD、ピッチ系炭素繊維、マトリックス樹脂:エポキシ樹脂、三菱ケミカル社製)。
・UDプリプレグ(HyEJ17、PAN系炭素繊維、マトリックス樹脂:エポキシ樹脂、三菱ケミカル社製)。
・UDプリプレグ(HyEJ25、PAN系炭素繊維、マトリックス樹脂:エポキシ樹脂、三菱ケミカル社製)。
【0054】
パイプを長さ2600mmに切断し、その両端にSUS304製のジャーナルを接着した。パイプの表面を研削し、炭素繊維強化複合材料製の第一の円筒体を得た。第一の円筒体の外径は、98.6mmであった。
第二の円筒体として金属スリーブ(金属:SUS304、外径:100mm、肉厚:0.7mm)を用い、第二の円筒体内に第一の円筒体を装着してロール状積層体を得た。次いで、ロール状積層体における第二の円筒体の外周面を研磨した。
【0055】
図2に例示しためっき装置200を用い、ロール状積層体の軸線方向を水平にし、めっき槽210に収容されているクロムめっき液(めっき液211)にロール状積層体を部分的に浸漬した状態で、ロール状積層体を軸線周りに回転させながらクロムめっき処理を施して、第二の円筒体の外周面に被膜(厚み:50μm)を形成した。
クロムめっき処理時のロール状積層体の軸線周りの回転速度は、3.0rpmとした。ロール状積層体の外径Dに対する、ロール状積層体の下端からめっき液の液面までの距離の比(H/D)は3/8とした。
次いで、膜厚が30μmになるまで被膜の表面を研磨し、第二の円筒体の外周面の全体にクロムめっき膜が形成されているロールを得た。
【0056】
[比較例1]
クロムめっき処理時にロール状積層体を回転させずにめっき槽に縦に入れた以外は、実施例1と同様の方法でロールを作製した。
【0057】
[円筒度]
ロールの円筒度は、JIS B 0672-2:2002に準拠して測定した。
【0058】
[真円度]
ロール長手方向中央部の真円度は、JIS B 0621:1984に準拠して測定した。
【0059】
[全振れ公差]
ロールの全振れ公差は、JIS B 0021:1998に準拠して測定した。
【0060】
[回転精度の評価]
各例で作製したロールの回転精度は、マイクロメーター、テストインジケーターによって評価した。
【0061】
各例のロールについて、クロムめっき処理直後と被膜表面の研磨後のロールの円筒度、ロール長手方向中央部の真円度、及び全振れ公差を測定した結果を表1に示す。
【0062】
【符号の説明】
【0063】
10…第一の円筒体、20…第二の円筒体、21…外周面、30…被膜、O1…軸線、40…ジャーナル、100…ロール、200…めっき装置、210…めっき槽、211…めっき液、212…電源、213…アノード、214…回転軸。
【要約】
【課題】均一な被膜を効率良く形成でき、回転精度が高いロールが得られるロールの製造方法、及び回転精度が高いロールを提供することを目的とする。
【解決手段】炭素繊維強化プラスチックを含有する第一の円筒体10の外周面側に、金属を含有する第二の円筒体20が設けられたロール状積層体110の軸線O1方向を横にし、ロール状積層体110をめっき液211に部分的に浸漬して、ロール状積層体110を軸線O1周りに回転させながら、第二の円筒体20の外周面21にクロムめっき処理を施して被膜を形成する、ロールの製造方法。
【選択図】
図2