(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-28
(45)【発行日】2022-04-05
(54)【発明の名称】電流センサの設計方法
(51)【国際特許分類】
G01R 15/20 20060101AFI20220329BHJP
【FI】
G01R15/20 C
(21)【出願番号】P 2018023592
(22)【出願日】2018-02-13
【審査請求日】2020-09-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002583
【氏名又は名称】特許業務法人平田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】二口 尚樹
(72)【発明者】
【氏名】奥山 健
(72)【発明者】
【氏名】秋元 克弥
(72)【発明者】
【氏名】駒野 晴保
(72)【発明者】
【氏名】梅津 潤
(72)【発明者】
【氏名】冨田 雄二朗
【審査官】島田 保
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-173334(JP,A)
【文献】特開2012-108147(JP,A)
【文献】国際公開第2013/176271(WO,A1)
【文献】特開2013-238580(JP,A)
【文献】特開2015-194472(JP,A)
【文献】国際公開第2018/190201(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0081110(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 15/00-17/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
断面が矩形状に形成され、幅方向に離間して整列配置され、前記幅方向と垂直な長さ方向に沿って電流を流す複数のバスバと、
前記幅方向及び前記長さ方向と垂直な高さ方向において、前記複数のバスバを一括して挟み込むように配置されている磁性材料からなる一対のシールド板と、
前記各バスバと一方の前記シールド板との間にそれぞれ配置され、前記幅方向の磁界の強度を検出する複数の磁気検出素子と、を備え、
前記シールド板の幅をw、前記一対のシールド板の前記高さ方向に沿った間隔をhとしたとき、任意の前記磁気検出素子における磁界の強度の検出位置と、当該磁気検出素子と対応する前記バスバと前記幅方向に隣り合う前記バスバの幅方向中心位置との距離dが、下式
d/w+0.023(w/h)≧0.36
を満たす、
電流センサ
の設計方法。
【請求項2】
前記距離dが、下式
0.36≦d/w+0.023(w/h)≦0.64
を満たす、
請求項1に記載の電流センサ
の設計方法。
【請求項3】
前記一対のシールド板は、前記バスバ側に配置された第1シールド板と、前記磁気検出素子側に配置された第2シールド板と、からなり、
前記バスバは、その高さ方向における中心位置が、前記第1及び第2シールド板からの距離が等しくなる中間位置よりも、前記第1シールド側となるように配置されており、
かつ、前記磁気検出素子は、その磁界の強度の検出位置が、前記中間位置もしくは前記中間位置よりも前記第1シールド側となるように配置されている、
請求項1または2に記載の電流センサ
の設計方法。
【請求項4】
前記シールド板の幅wと、前記一対のシールド板の前記高さ方向に沿った間隔hとが、下式
w/h≧4.5
を満たす、
請求項1乃至3の何れか1項に記載の電流センサ
の設計方法。
【請求項5】
前記シールド板の比透磁率が1000以上である、
請求項1乃至4の何れか1項に記載の電流センサ
の設計方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電流センサの設計方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電流センサとして、測定対象となる電流により発生する磁界の強度を検出する磁気検出素子を備えたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。磁気検出素子により磁界の強度を検出することで、その磁界の強度を基に、電流を演算により求めることが可能である。
【0003】
特許文献1では、測定対象となる電流が流れるバスバ及び磁気検出素子を挟み込むように、一対のシールド板を配置した電流センサが開示されている。特許文献1に記載の電流センサでは、バスバの板幅方向の磁束密度を検出する磁気検出素子を用い、バスバの板幅方向の外部磁束が透過しない非透過領域に磁気検出素子を設置することにより、外部磁束の影響を抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の電流センサでは、一対のシールド板間に複数のバスバが配置されている場合に、磁気検出素子が、電流検出対象となるバスバ以外のバスバで発生した磁界の影響(他相からの干渉)を受けてしまい、検出精度が低下してしまうおそれがあった。
【0006】
そこで、本発明は、他相からの干渉を抑制し検出精度の向上を図った電流センサの設計方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決することを目的として、断面が矩形状に形成され、幅方向に離間して整列配置され、前記幅方向と垂直な長さ方向に沿って電流を流す複数のバスバと、前記幅方向及び前記長さ方向と垂直な高さ方向において、前記複数のバスバを一括して挟み込むように配置されている磁性材料からなる一対のシールド板と、前記各バスバと一方の前記シールド板との間にそれぞれ配置され、前記幅方向の磁界の強度を検出する複数の磁気検出素子と、を備え、前記シールド板の幅をw、前記一対のシールド板の前記高さ方向に沿った間隔をhとしたとき、任意の前記磁気検出素子における磁界の強度の検出位置と、当該磁気検出素子と対応する前記バスバと前記幅方向に隣り合う前記バスバの幅方向中心位置との距離dが、下式
d/w+0.023(w/h)≧0.36
を満たす、電流センサを提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、他相からの干渉を抑制し検出精度の向上を図った電流センサの設計方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の一実施の形態に係る電流センサを示す図であり、(a)は第1シールド板を透視した斜視図、(b)はそのA-A線断面図である。
【
図2】(a)は、相対強度が1%となるy/wとアスペクト比w/hとの関係を示すグラフ図であり、(b)はそのy/wが負となる領域を抽出したグラフ図、(c)はそのy/wが正となる領域を抽出したグラフ図である。
【
図3】
図2(a)の縦軸を|y/w|+0.023(w/h)としたグラフ図である。
【
図4】z=0の高さ位置においてアスペクト比w/hを変化させた際のDと相対強度の関係を示すグラフ図である。
【
図5】z/hを変化させた際のDと相対強度の関係を示すグラフ図であり、(a)はアスペクト比w/hを7.60とした場合、(b)はアスペクト比w/hを6.33とした場合を示す図である。
【
図6】z/hを変化させた際のDと相対強度の関係を示すグラフ図であり、(a)はアスペクト比w/hを4.75とした場合、(b)はアスペクト比w/hを4.22とした場合を示す図である。
【
図7】シールド板の比透磁率を変化させた際のDと相対強度の関係を示すグラフ図であり、(a)はz/hを-0.10とした場合、(b)はz/hを+0.10とした場合を示す図である。
【
図8】本発明の一変形例に係る電流センサの断面図である。
【
図9】本発明の一変形例に係る電流センサの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[実施の形態]
以下、本発明の実施の形態を添付図面にしたがって説明する。
【0011】
図1は、本実施の形態に係る電流センサを示す図であり、(a)は第1シールド板3aを透視した斜視図、(b)はそのA-A線断面図である。電流センサ1は、複数のバスバ2と、一対のシールド板3と、各バスバ2に対応した複数の磁気検出素子5と、を備えている。バスバ2は、断面が矩形状となるように形成されている。
【0012】
バスバ2は、銅やアルミニウム等の電気良導体からなる板状の導体であり、電流を流す電流路となるものである。バスバ2は、例えば電気自動車やハイブリッド車におけるモータとインバータ間の電源ラインとして用いられるものである。本実施の形態では、三相交流に対応した3本のバスバ2a~2cを用いる場合を説明する。
【0013】
以下、
図1(b)の左右方向を幅方向、上下方向を高さ方向、紙面方向を長さ方向という。3本のバスバ2a~2cは、その幅方向に離間して整列配置されており、長さ方向に沿って電流を流す。電流センサ1では、幅方向の一方から他方にかけて(
図1(b)の右側から左側にかけて)、第1バスバ2a,第2バスバ2b、第3バスバ2cが順次配置されている。各バスバ2a~2cには、三相交流における各相の電流が流れている。本実施の形態では、第1バスバ2aにはU相、第2バスバ2bにはV相、第3バスバ2cにはW相の電流が流れている。
【0014】
シールド板3は、外部からの磁界が磁気検出素子5の検出結果に影響を及ぼさないように、外部からの磁界を遮蔽するためのものである。シールド板3は、磁性材料からなる。シールド板3は、幅方向に対向する2つの辺と、長さ方向に対向する2つの辺とを有する矩形の板状に形成されている。
【0015】
シールド板3は、3本のバスバ2a~2cを高さ方向に一括して挟み込むようにバスバ2と離間して配置されている。また、シールド板3は、その表面がバスバ2の表面に対して平行となるように(シールド板3の高さ方向とバスバ2の高さ方向とが一致するように)配置されている。各バスバ2と一方のシールド板3との間に磁気検出素子5がそれぞれ配置されている。
【0016】
一対のシールド板3は、互いに平行となるように配置されている。ただし、一対のシールド板3は、厳密に平行でなくてもよく、製造公差等による多少の傾きやたわみは許容される。具体的には、一方のシールド板3に対する他方のシールド板3の傾きは、1°以下であるとよい。
【0017】
以下、バスバ2側に配置されたシールド板3を第1シールド板3aと呼称し、磁気検出素子5側に配置されたシールド板3を第2シールド板3bと呼称する。また、第1及び第2シールド板3a,3bからの距離が等しくなる位置、すなわち第1及び第2シールド板3a,3bに挟まれた空間の高さ方向中心位置を、中間位置4と呼称する。
【0018】
磁気検出素子5は、各バスバ2a~2cと第2シールド板3bとの間にそれぞれ配置され、対応するバスバ2a~2cを流れる電流により発生する磁界の強度を検出するものである。磁気検出素子5としては、例えば、ホール素子やGMR(Giant Magneto Resistive effect)素子、AMR(Anisotropic Magneto Resistive)素子、TMR(Tunneling Magneto Resistive)素子等を用いることができる。以下、第1バスバ2aに対応する磁気検出素子5を第1磁気検出素子5a、第2バスバ2bに対応する磁気検出素子5を第2磁気検出素子5b、第3バスバ2cに対応する磁気検出素子5を第3磁気検出素子5cと呼称する。
【0019】
各磁気検出素子5a~5cは、検出軸に沿った方向の磁界の強度(磁束密度)に応じた電圧の出力信号を出力するように構成されている。本実施の形態では、各磁気検出素子5a~5cは、検出軸がバスバ2の幅方向(
図1(b)の左右方向)と一致するように配置されている。つまり、各磁気検出素子5a~5cは、幅方向の磁界の強度を検出する。
図1(b)における符号51は、磁気検出素子5における磁界の強度の検出位置を表している。
【0020】
(磁気検出素子5の位置決定方法)
バスバ2の近傍においては、高さ方向に対する磁束の向きの傾きが大きくなり幅方向成分が発生する。よって、任意の磁気検出素子5において、対応するバスバ2以外のバスバ2(非対応バスバ2と呼称する)を流れる電流の影響を抑制するには、当該磁気検出素子5を非対応バスバ2から十分に離間させるとよい。ただし、シールド板3の端部付近では、高さ方向に対する磁束の向きの傾きが大きくなるため、非対応バスバ2から磁気検出素子5を離しすぎても、非対応バスバ2を流れる電流の影響が大きくなる場合がある。
【0021】
より具体的には、干渉補正等を行わずとも検出精度の低下を抑制するためには、対応するバスバ2を流れる電流により磁気検出素子5で検出される磁界の強度(磁束密度)に対する、非対応バスバ2を流れる電流により磁気検出素子5で検出される磁界の強度(磁束密度)の割合(相対強度という)を、略1%以下とすることが望まれる。
【0022】
そこで、シールド板3の幅w、及びシールド板3の高さ方向に沿った間隔hを変化させた際に、相対強度が1%となる非対応バスバ2と磁気検出素子5との距離dをシミュレーションにより求めた。なお、距離dは、磁気検出素子5における磁界の強度の検出位置51と、当該磁気検出素子5と対応するバスバ2と幅方向に隣り合うバスバ2(非対応バスバ2)の幅方向中心位置との距離を表している(
図1(b)参照)。また、ここでは、幅方向中央に配置された第2バスバ2bに通電した場合についてシミュレーションを行った。幅方向の座標yとして、その原点を第2バスバ2bの幅方向中心とし、+y方向を右方向、-y方向を左方向にとった。検出位置を高さ方向の中間位置4とした場合のシミュレーション結果を
図2(a)に示す。なお、上述の「対応するバスバ2を流れる電流により磁気検出素子5で検出される磁界の強度(磁束密度)」は、本シミュレーションにおいてy=0とした際に磁気検出素子5で検出される磁界の強度(磁束密度)と等しい。また、座標yの位置に当該第2バスバ2bと幅方向に隣り合うバスバ2に対応する磁気検出素子5の検出位置51を設置した場合、その距離dはyの絶対値と等しい。
【0023】
また、シミュレーションにおいては、第1及び第2シールド板3a,3bからの距離が等しくなる中間位置4と検出位置51とが一致するように、磁気検出素子5を配置した。また、バスバ2の幅を15mm、高さを3mmとし、シールド板3の長さを1mm、比透磁率を5000とし、バスバ2と磁気検出素子5の高さ方向に沿った距離を20mmとした。
【0024】
図2(a)に示すように、磁気検出素子5の幅方向における左右で磁界強度の分布は略対称となるため、座標yが正となる領域と負となる領域の両方において、相対強度が1%となる距離dが存在している。なお、
図2(a)では、縦軸をy/wとしており、座標yをシールド板3の幅wに対する相対的な距離として示している。また、
図2(a)における横軸は、w/hとしている。このw/hは、長さ方向に垂直な断面視において、両シールド板3に挟まれた空間のアスペクト比を表している(以下、単にアスペクト比w/hと呼称する)。
【0025】
図2(a)のグラフのうち、座標yが負となる領域について注目すると、
図2(b)に示すように、相対強度が1%となるy/wとw/hの関係は略比例関係となっている。y/wをY、w/hをXとすると、両者の関係は下の近似式
Y=0.0226X-0.3898
で表される。この近似式で表される直線よりも下側の領域(Yの絶対値が大きくなる領域)が、相対強度が1%より小さくなる領域、すなわち非対応バスバ2により影響が十分に抑えられる領域となる。
【0026】
同様に、
図2(a)のグラフのうち、座標yが正となる領域について注目すると、
図2(c)に示すように、相対強度が1%となるy/wとw/hの関係は略比例関係となっている。y/wをY、w/hをXとすると、両者の関係は下の近似式
Y=-0.0228X+0.3903
で表される。この近似式で表される直線よりも上側の領域(dの絶対値が大きくなる領域)が、相対強度が1%より小さくなる領域、すなわち非対応バスバ2により影響が十分に抑えられる領域となる。
【0027】
図2(b),(c)で得られた近似式を考慮し、
図2(a)において、縦軸を|y/w|+0.023(w/h)としたグラフを
図3に示す。
図3より、|y/w|+0.023(w/h)を0.36以上とすることで、相対強度を十分に低減し、非対応バスバ2を流れる電流による影響を十分に抑制できることがわかる。
【0028】
そこで、本実施の形態に係る電流センサ1では、シールド板3の幅w、シールド板3の間隔h、及び磁気検出素子5の検出位置51と非対応バスバ2の幅方向中心位置との距離dが、下式(1)の関係
d/w+0.023(w/h)≧0.36 ・・・(1)
を満たすようにしている。ここでは、yの絶対値が距離dと同じであることを用いている。非対応バスバ2を流れる電流による影響をより抑制するために、d/w+0.023(w/h)は、より好ましくは0.38以上であるとよく、さらに好ましくは0.40以上であるとよい。
【0029】
なお、バスバ2を3本用いる場合、バスバ2がシールド板3に挟まれた領域から外に出ないように、下式
0<d/w≦0.5
を満たす必要がある。シールド板3の幅wは、例えば10mm以上150mm以下である。アスペクト比w/hは、例えば1以上10以下である。
【0030】
アスペクト比w/hを4.22から9.60まで変化させた際の相対強度の変化を
図4に示す。なお、
図4では、横軸に[数1]で表されるDを用いている。上述の式(1)は、Dを用いると|D|≧0.36で表される。
【数1】
【0031】
図4に示すように、アスペクト比w/hを変化させた場合であっても、|D|が0.36以上となる領域では相対強度が略1%以下(最大で1.2%程度)となっており、非対応バスバ2を流れる電流による影響が十分に抑制されることが分かる。
【0032】
次に、磁気検出素子5の検出位置51が、中間位置4から高さ方向にずれた場合について検討する。検出位置51の中間位置4からの第1シールド板3a側(バスバ2側)への高さ方向に沿った距離をzとする。検出位置51が、中間位置4から第1シールド板3a側にずれた場合、距離zの符号はプラスとなり、中間位置4から第2シールド板3b側にずれた場合、距離zの符号はマイナスとなる。アスペクト比w/hを7.60、6.33としたそれぞれの場合について、シールド板3の間隔hに対する相対的な距離z/hを変化させた際の相対強度の変化を
図5(a),(b)に示す。
【0033】
図5(a),(b)に示すように、検出位置51の中間位置4からの距離zが大きくなると、|D|がおよそ0.5までの範囲では|D|が大きくなった際に相対強度が減少するが、|D|がおよそ0.5を超えると|D|が大きくなった際に相対強度が増加してしまうことが分かる。これは、高さ方向に対する磁束の向きの傾きが、中間位置4から離れるほど大きくなり、磁束密度の幅方向成分が増加する傾向があるためである。
図5(a),(b)より、検出位置51の位置ずれの影響によらず相対強度を十分に低く抑えるためには、|D|は少なくとも0.64以下であることが望ましい。すなわち、下式
0.36≦d/w+0.023(w/h)≦0.64
を満たすことが望ましい。
【0034】
さらに
図5(a)の場合について、相対強度を0.5%以下として相対強度をさらに低下させるためには、|D|は0.44以上0.58以下であることがより望ましい。すなわち、下式
0.44≦d/w+0.023(w/h)≦0.58
を満たすことがより望ましいといえる。
【0035】
図5(a),(b)において、さらにアスペクト比w/hを4.75、4.22と低くした場合のグラフを
図6(a),(b)に示す。
図6(a),(b)に示すように、アスペクト比w/hを小さくするほど、Dに対する相対強度が大きくなる傾向(相対強度が1%よりも小さくなるDの領域が小さくなる傾向)があり、磁気検出素子5の検出位置51がわずかに位置ずれした場合でも、相対強度が大きくなってしまうことがわかる。
【0036】
アスペクト比w/hを4.75とした
図6(a)では、z/hを-0.09とした場合に相対強度が1%以下となるDの領域が存在するが、アスペクト比w/hを4.22とした
図6(b)では、z/hを-0.08とした場合であっても相対強度が1%以下とならない。そのため、アスペクト比w/hは、少なくとも4.22より大きいとよく、下式
w/h≧4.5
を満たすことが望ましい。より望ましくは、アスペクト比w/hを4.75以上とするとよい。
【0037】
ここで、
図5及び
図6のグラフの傾向を検討すると、z/hが負である場合(すなわち磁気検出素子5の検出位置51が中間位置4よりも第2シールド板3b側にある場合)よりも、z/hが正である場合(すなわち磁気検出素子5の検出位置51が中間位置4よりも第1シールド板3a側にある場合)の方が、Dに対する相対強度が小さくなっていること(Dの増加により相対強度がより急峻に減少していること)がわかる。よって、磁気検出素子5は、その磁界の強度の検出位置51が、中間位置4もしくは中間位置4よりも第1シールド板3a側(バスバ2と同じ側)となるように配置されていることがより望ましい。すなわち、下式
0≦z/h<0.5
を満たすことがより望ましい。
【0038】
次に、比透磁率の影響について検討する。z/hを-0.10、+0.10としたそれぞれ場合について、シールド板3の比透磁率を変化させた際の相対強度の変化をシミュレーションにより求めた。シミュレーション結果を
図7(a),(b)にそれぞれ示す。なお、
図7(a),(b)のシミュレーションでは、w/hを7.60とした。
【0039】
図7(a),(b)に示すように、シールド板3の比透磁率が低くなるほど、Dに対する相対強度が大きくなる傾向(相対強度が1%よりも小さくなるDの領域が小さくなる傾向)がある。よって、
図7(a),(b)のシミュレーション結果より、シールド板3の比透磁率は、少なくとも500以上であるとよく、1000以上であることが望ましい。
【0040】
(実施の形態の作用及び効果)
以上説明したように、本実施の形態に係る電流センサ1では、シールド板3の幅をw、一対のシールド板3の高さ方向に沿った間隔をhとしたとき、任意の磁気検出素子5における磁界の強度の検出位置51と、当該磁気検出素子5と対応するバスバ2と幅方向に隣り合うバスバ2(非対応バスバ2)の幅方向中心位置との距離dが、下式(1)
d/w+0.023(w/h)≧0.36 ・・・(1)
を満たしている。
【0041】
これにより、非対応バスバ2を流れる電流による影響を十分に抑制することが可能になり、他相からの干渉を抑制し検出精度の向上を図った電流センサ1を実現できる。また、上記式(1)を満たすできるだけ短い距離dやシールド板3の幅wを適宜選択することで、他相からの干渉を抑制しつつも小型な電流センサ1を実現できる。さらに、本実施の形態によれば、干渉補正等の複雑な補正が不要となるため、安価な電流センサ1を実現できる。
【0042】
(変形例)
上記実施の形態では、バスバ2の幅方向中心位置と、当該バスバ2に対応する磁気検出素子5の検出位置51とが、高さ方向に対向している場合を示したが、これに限らず、
図8に示す電流センサ1aのように、バスバ2の幅方向中心位置と、当該バスバ2に対応する磁気検出素子5の検出位置51とが、高さ方向に対向していなくてもよい。
図8では、一例として、第2バスバ2bの幅方向中心位置と第2磁気検出素子5bの検出位置51のみが高さ方向に対向しており、第1及び第3バスバ2a,2cの幅方向中心位置と第1及び第3磁気検出素子5a,5cの検出位置51とが、高さ方向に対向していない場合を示している。
【0043】
図8では、第2磁気検出素子5bの検出位置51と第1バスバ2aの幅方向中心位置との距離をd1、第1磁気検出素子5aの検出位置51と第2バスバ2bの幅方向中心位置との距離をd2、第2磁気検出素子5bの検出位置51と第3バスバ2cの幅方向中心位置との距離をd3、第3磁気検出素子5cの検出位置51と第2バスバ2bの幅方向中心位置との距離をd4で表している。これら距離d1~d4が、それぞれ上記式(1)を満たすことで、全ての磁気検出素子5a~5cにおいて、他相からの干渉が抑えられ、高精度な検出が可能になる。なお、距離d1~d4は同じ値である必要はなく、互いに異なっていてもよい。また、磁気検出素子5の検出位置は、対応するバスバ2の幅方向中心位置に対して、幅方向における左右のどちらにずれてもよい。
【0044】
ただし、バスバ2の幅方向中心位置と、当該バスバ2に対応する磁気検出素子5の検出位置51とが対向している場合に、磁気検出素子5で検出される磁界(対応するバスバ2を流れる電流により発生した磁界)は最も大きくなる。そのため、精度を向上させるという観点からは、全ての磁気検出素子5において、検出位置51と対応するバスバ2の幅方向中心位置とが高さ方向に対応していることがより望ましい。
【0045】
また、上記実施の形態では、バスバ2を3本有する場合について説明したが、バスバ2の本数は、
図9に示す電流センサ1bのように2本であってもよいし、4本以上であってもよい。
図9では、第2磁気検出素子5bの検出位置51と第1バスバ2aの幅方向中心位置との距離をd1、第1磁気検出素子5aの検出位置51と第2バスバ2bの幅方向中心位置との距離をd2で表している。これら距離d1,d2が上記式(1)を満たすことで、全ての磁気検出素子5a,5bにおいて、他相からの干渉が抑えられ、高精度な検出が可能になる。
【0046】
(実施の形態のまとめ)
次に、以上説明した実施の形態から把握される技術思想について、実施の形態における符号等を援用して記載する。ただし、以下の記載における各符号等は、特許請求の範囲における構成要素を実施の形態に具体的に示した部材等に限定するものではない。
【0047】
[1]断面が矩形状に形成され、幅方向に離間して整列配置され、前記幅方向と垂直な長さ方向に沿って電流を流す複数のバスバ(2)と、前記幅方向及び前記長さ方向と垂直な高さ方向において、前記複数のバスバ(2)を一括して挟み込むように配置されている磁性材料からなる一対のシールド板(3)と、前記各バスバ(2)と一方の前記シールド板(3)との間にそれぞれ配置され、前記幅方向の磁界の強度を検出する複数の磁気検出素子(5)と、を備え、前記シールド板(3)の幅をw、前記一対のシールド板(3)の前記高さ方向に沿った間隔をhとしたとき、任意の前記磁気検出素子(5)における磁界の強度の検出位置と、当該磁気検出素子(5)と対応する前記バスバ(2)と前記幅方向に隣り合う前記バスバ(2)の幅方向中心位置との距離dが、下式
d/w+0.023(w/h)≧0.36
を満たす、電流センサ(1)。
【0048】
[2]前記距離dが、下式
0.36≦d/w+0.023(w/h)≦0.64
を満たす、[1]に記載の電流センサ(1)。
【0049】
[3]前記一対のシールド板(3)は、前記バスバ(2)側に配置された第1シールド板(3a)と、前記磁気検出素子(5)側に配置された第2シールド板(3b)と、からなり、前記バスバ(2)は、その高さ方向における中心位置が、前記第1及び第2シールド板(3a,3b)からの距離が等しくなる中間位置(4)よりも、前記第1シールド(3a)側となるように配置されており、かつ、前記磁気検出素子(5)は、その磁界の強度の検出位置(51)が、前記中間位置(4)もしくは前記中間位置(4)よりも前記第1シールド(3a)側となるように配置されている、[1]または[2]に記載の電流センサ(1)。
【0050】
[4]前記シールド板(3)の幅wと、前記一対のシールド板(3)の前記高さ方向に沿った間隔hとが、下式
w/h≧4.5
を満たす、[1]乃至[3]の何れか1項に記載の電流センサ(1)。
【0051】
[5]前記シールド板(3)の比透磁率が1000以上である、[1]乃至[4]の何れか1項に記載の電流センサ(1)。
【0052】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、上記に記載した実施の形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変形して実施することが可能である。
【符号の説明】
【0053】
1…電流センサ
2…バスバ
3…シールド板
3a…第1シールド板
3b…第2シールド板
4…中間位置
5…磁気検出素子
51…検出位置