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特許7047491投射装置、移動体および投射装置の設置方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-28
(45)【発行日】2022-04-05
(54)【発明の名称】投射装置、移動体および投射装置の設置方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 27/01 20060101AFI20220329BHJP
【FI】
G02B27/01
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018044792
(22)【出願日】2018-03-12
(65)【公開番号】P2019159066
(43)【公開日】2019-09-19
【審査請求日】2020-12-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100089118
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 宏明
(72)【発明者】
【氏名】後藤 斗貴子
【審査官】井亀 諭
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-148665(JP,A)
【文献】特開2016-102965(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 27/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源と、
ベース部、当該ベース部に固定された梁である駆動部、及び、当該駆動部に回転可能に支持された反射部を含み、前記駆動部によって前記反射部を駆動して前記光源からの光を走査する光走査部と、
前記光走査部からの光で走査されることで投射画像を形成する被走査部と、を備えた投射装置であって、
当該投射装置を設置する自動車である設置物の設置部に取り付けるための取り付け部を、更に備え、
前記取り付け部は、前記反射部の反射面に略垂直な方向と、前記設置物の進行方向及び重力方向に直交する左右方向との成す角度が30度以下となるように、前記設置部に当該投射装置を取り付けること
を特徴とする投射装置。
【請求項2】
前記光走査部は、前記反射部の反射面に対して略垂直になる方向が、前記設置物発生する振動の影響を受け易い方向であること、
を特徴とする請求項1に記載の投射装置。
【請求項3】
前記光源及び前記光走査部を備えた光源ユニット(表示画像形成装置20)は、当該投射装置の一次共振周波数成分を減衰する振動減衰特性を有する防振部材を介して、当該投射装置の筐体に取り付けられていること
を特徴とする請求項1又は請求項2に記載の投射装置。
【請求項4】
前記防振部材は、3つで三角形を形成するように配置され、
前記光源ユニットは、重心が、XY平面内、YZ平面内、ZX平面内において、前記三角形の重心と一致するように、前記3つの防振部材を介して、当該投射装置の筐体に取り付けられていること
を特徴とする請求項3に記載の投射装置。
【請求項5】
前記取り付け部は、前記反射部の反射面に対して略垂直になる方向の直線と、前記左右方向の直線とが成す角度が、前記設置物発生する振動により前記投射画像に発生する揺れが5min以下となるような角度となるように、前記設置部に当該投射装置を取り付けること
を特徴とする請求項1から請求項4のうち、いずれか一項に記載の投射装置。
【請求項6】
物理的な位置の移動を行う移動体であって、
請求項1から請求項5のうち、いずれか一項に記載の投射装置を有すること
を特徴とする移動体。
【請求項7】
光源と、ベース部、当該ベース部に固定された梁である駆動部、及び、当該駆動部に回転可能に支持された反射部を含み、前記駆動部によって前記反射部を駆動して前記光源からの光を走査する光走査部と、前記光走査部からの光で走査されることで投射画像を形成する被走査部と、を備えた投射装置の設置方法であって、
当該投射装置を設置する自動車である設置物の設置部に取り付けるための取り付け部により、前記反射部の反射面に略垂直な方向と、前記設置物の進行方向及び重力方向に直交する左右方向との成す角度が30度以下となるように、前記設置部に当該投射装置を取り付けること
を特徴とする投射装置の設置方法。
【請求項8】
光源と、ベース部、当該ベース部に固定された梁である駆動部、及び、当該駆動部に回転可能に支持された反射部を含み、前記駆動部によって前記反射部を駆動して前記光源からの光を走査する光走査部と、前記光走査部からの光で走査されることで投射画像を形成する被走査部と、を備えた投射装置を、前記反射部の反射面に略垂直な方向と、自動車である移動体の進行方向及び重力方向に直交する左右方向との成す角度が30度以下となるように、前記移動体の設置部に取り付けたこと
を特徴とする移動体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、投射装置、移動体および投射装置の設置方法に関する。
【背景技術】
【0002】
今日において、光源から出射された光を光走査デバイスで走査して生成したスクリーン画像の虚像を、ユーザが視認可能となるように、被提示対象物に投射する光走査型のヘッドアップディスプレイ装置が知られている。このヘッドアップディスプレイ装置に設けられている光走査デバイスは、例えば直径1mm程度のミラー部をバネ構造で支持した構成であるため、光走査デバイス自体に大きな共振が発生する共振周波数を有する。
【0003】
ヘッドアップディスプレイ装置は、表示画像領域の広画角化が望まれており、これに伴い、光走査デバイスも広画角化を達成する必要がある。光走査デバイスを広画角化するには、ミラー部を支持するバネ構造の剛性を低くして、ミラー部を大きく回転可能とすればよい。
【0004】
しかし、ミラー部を支持するバネ構造の剛性を低くすると、バネ構造の共振周波数も低くなり、例えば低周波帯では数百Hz付近に固有共振周波数を有するようになる。この低周波帯の固有共振周波数が、自動車などの移動体で発生する外部振動(以下、単に「外乱」とも称する)で励起されると、ミラー部の振幅が不安定となり表示画像が乱れる要因となる。この問題を解決するために、光走査デバイスを含む光学ユニットをダンパで支持することで、光学ユニットに伝達する外部振動を減衰させる手法が知られている。
【0005】
一方、特許文献1(特開2017-083657号公報)には、外部環境要因が変化した場合でも、ミラー部を適切に制御することで、投射角度範囲および空間位置を一定に保つことが可能な映像投射装置が開示されている。この映像投射装置は、映像を形成する際、MEMSミラーであるミラー部の振れ角に応じたセンサ信号が所定値となってから、光検出器で光を検出するまでの時間と、ミラー部の共振周波数との積算値を算出する。そして、積算値が一定となるようにミラー部を駆動する。これにより、外部環境要因が変化した場合でも、投射角度範囲および空間位置を一定に保つことができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、ダンパ自体も大きな共振周波数を有している。光学ユニットに伝達する振動を減衰させるには、光走査デバイスの走査周波数の半分以下の低周波帯域内となるように、ダンパの共振周波数を設計する必要がある。また、ダンパの減衰率を大きく設計するほど、ダンパの共振時における共振倍率が大きくなる。このため、ダンパの共振周波数付近の外部振動が伝達されると、光学ユニットの変位量(振動量)が大きくなり、表示画像が乱れる要因となる。
【0007】
一方、自動車などの移動体で発生する外部振動は、100Hz以下の低周波帯域で大きくなる傾向にある。このため、自動車などの移動体で低周波数の外部振動が発生した際に、ダンパが大きく共振して光学ユニットの変位量が大きくなり、表示画像が乱れる不都合を生ずる。広画角な光走査デバイスの場合、上述のようにミラー部を支持するバネ構造の剛性を低くしているため、低周波帯域の外部振動でミラー部の変位量が、より大きくなり、上述の表示画像の乱れが顕著となる。
【0008】
また、特許文献1に開示されている技術の場合、温度又は湿度等のMEMS(Micro Electro Mechanical System)の駆動周波数に対して緩やかに変化する外部環境要因による共振周波数の変化には対応可能であるが、外部振動のようにMEMSの共振周波数に一致する周波数の変化が生じる場合には、変化に対応困難となり、表示画像に乱れが生じる。
【0009】
本発明は、上述の課題に鑑みてなされたものであり、設置物から伝達する振動を軽減する投射装置、移動体および投射装置の設置方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明は、光源と、ベース部、ベース部に固定された梁である駆動部、及び、駆動部に回転可能に支持された反射部を含み、駆動部によって反射部を駆動して光源からの光を走査する光走査部と、光走査部からの光で走査されることで投射画像を形成する被走査部と、を備えた投射装置であって、投射装置を設置する自動車である設置物の設置部に取り付けるための取り付け部を、更に備え、取り付け部は、反射部の反射面に略垂直な方向と、設置物の進行方向及び重力方向に直交する左右方向との成す角度が30度以下となるように、設置部に投射装置を取り付けることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、設置物から投射装置に伝達する振動を軽減できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、実施の形態の移動体を進行方向に沿って縦切りにして要部を示す断面図である。
図2図2は、ヘッドアップディスプレイ装置の上面図である。
図3図3は、移動体に取り付けられたヘッドアップディスプレイ装置を示す図である。
図4図4は、ヘッドアップディスプレイ装置を、移動体の進行方向に沿って切断した状態の断面図である。
図5図5は、表示画像形成装置の内部の構成を示す図である。
図6図6は、光走査デバイスの正面図である。
図7図7は、防振部材の振動伝達特性を示す図である。
図8図8は、移動体の振動特性を示す図である。
図9図9は、光走査デバイスの一次共振点付近での振動応答特性を示す図である。
図10図10は、移動体のヘッドアップディスプレイ装置の取り付け部のXYZ方向のオーバーオール実効値の一例を示す図である。
図11図11は、光走査デバイスの基板厚み方向である「y’方向」を、移動体の左右方向である「Y方向」から徐々にずらした際の、ヘッドアップディスプレイ装置の表示画像の角度変化の評価結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、一例として説明する移動体に基づいて、投射装置、移動体および投射装置の設置方法の説明をする。
【0014】
(移動体の要部の構成)
図1は、実施の形態の移動体を進行方向に沿って縦切りにして要部を示す断面図である。この図1に示すように、移動体1は、いわゆる自動車となっており、運転席でハンドルを操作する運転手(操作者)の前方に、インストルメントパネル2およびフロントウィンドウガラス3が設けられている。インストルメントパネル2の内部には、図1に点線のブロックで示すようにヘッドアップディスプレイ装置10が設けられている。ヘッドアップディスプレイ装置10は、投射装置の一例である。また、移動体1は、設置物の一例であり、物理的な位置の移動を行う。
【0015】
一例ではあるが、ヘッドアップディスプレイ装置10は、フロントウィンドウガラス3の一部を投射面として用いるウィンドウシールド方式のヘッドアップディスプレイ装置となっている。ヘッドアップディスプレイ装置10で形成された表示画像は、被提示対象物としてのフロントウィンドウガラス3に照射され、その反射光が運転手により視認されるようになっている。表示画像は、運転手から見ると、フロントウィンドウガラス3の前方に表示画像の虚像Pとして認識される。
【0016】
以降、車両の進行方向をX、左右方向をY、上下方向をZとして座標軸を定める。なお、小型で透明なプラスチックディスク等で形成されたコンバイナーを、フロントウィンドウガラス3の代わりに、情報を表示するミラーとして使用してもよい。
【0017】
(取り付け部の構成)
図2は、ヘッドアップディスプレイ装置10の上面図である。この図2に示すように、ヘッドアップディスプレイ装置10は、右側面部及び左側面部に、それぞれ2つずつ、ヘッドアップディスプレイ装置10を移動体に取り付けるための取り付け部41a~41dが設けられている。各取り付け部41a~41dには、それぞれネジ孔が設けられており、このネジ孔を介して、ヘッドアップディスプレイ装置10が移動体1に取り付けられるようになっている。
【0018】
図3は、移動体1に取り付けられたヘッドアップディスプレイ装置10を右側面側から見た図である。移動体1は、インストルメントパネル2に溶着又は締結された取り付けブラケット42と、クロスカービーム43に溶着又は締結された取り付けブラケット44を有している。取り付けブラケット42及び取り付けブラケット44は、設置部の一例である。ヘッドアップディスプレイ装置10は、取り付け部41a、41cを取り付けブラケット42にネジ等で締結すると共に、取り付け部41b、41dを取り付けブラケット44にネジ等で締結することで、移動体に取り付けられている。
【0019】
(ヘッドアップディスプレイ装置の構成)
図4は、ヘッドアップディスプレイ装置10を、移動体1の進行方向に沿って切断した状態の断面図である。この図4に示すように、ヘッドアップディスプレイ装置10は、筐体13内に、ユニット状の表示画像形成装置20(光源ユニットの一例)、表示画像形成装置20で生成した表示画像を反射する折り返しミラー14、および、折り返しミラー14で反射された表示画像が投射される投射ミラー11を収納して形成されている。また、ヘッドアップディスプレイ装置10は、筐体13に、投射ミラー11で反射された表示画像を透過させてフロントウィンドウガラス3に投射する出射窓12を設けて形成されている。
【0020】
筐体13は、インストルメントパネル2の内部において、図示しないインパネ構成部材に固定され支持されている。筐体13内の折り返しミラー14、投射ミラー11および出射窓12の各光学部材は、画像投射光学系として機能する。また、筐体13内の折り返しミラー14、投射ミラー11および出射窓12の各光学部材は、ある程度の光学設計に適合し、表示画像形成装置20から投射された表皮画像に歪みおよび枠切れが発生しない程度の配置精度で配置されている。
【0021】
(表示画像形成装置の構成)
図5に、表示画像形成装置20の内部の構成を示す。表示画像形成装置20の筐体30は、防振部材21a~21cを介して、ヘッドアップディスプレイ装置10の筐体13に固定されている。一例ではあるが、実施の形態の移動体1の場合、3つの防振部材21a~21cを線で結ぶと略々正三角形となるように、3箇所に、それぞれいずれかの防振部材21a~21cが配置されている。表示画像形成装置20の筐体30は、重心が、XY平面内、YZ平面内、ZX平面内において、3つの防振部材21a~21cで形成される三角形の重心Jと一致するように、ヘッドアップディスプレイ装置10の筐体13に固定されている。
【0022】
このように、表示画像形成装置20の各平面の重心と、3つの防振部材21a~21cで形成される三角形の重心Jとが一致するように、表示画像形成装置20を筐体13に固定することで、筐体30に加わる慣性モーメントを抑制することができ、筐体30の振動を抑制し安定に保持することができる。
【0023】
表示画像形成装置20は、赤(R)、緑(G),青(B)の各色のレーザ光源22,23,24、青色反射ミラー25、緑色反射ダイクロイックプリズム26,赤色反射ダイクロイックプリズム27、光走査デバイス28およびスクリーン29を備えている。各色のレーザ光源22~24は、光源の一例である。光走査デバイス28は、光走査部の一例である。スクリーン29は、被走査部の一例である。
【0024】
青色レーザ光源24から出射された青色レーザ光は、青色反射ミラー25で全反射され、緑色反射ダイクロイックプリズム26および赤色反射ダイクロイックプリズム27を順に介して光走査デバイス28に照射される。緑色レーザ光源23から出射された緑色レーザ光は、緑色反射ダイクロイックプリズム26により反射され、赤色反射ダイクロイックプリズム27を介して光走査デバイス28に照射される。赤色レーザ光源22から出射された赤色レーザ光は、赤色反射ダイクロイックプリズム27により反射され光走査デバイス28に照射される。
【0025】
すなわち、各色のレーザ光は、赤色反射ダイクロイックプリズム27で合成されて光走査デバイス28に照射される。光走査デバイス28に入射された上述の合成光は、光走査デバイス28により2軸で走査されることで走査光(投射画像の一例)とされスクリーン29に照射される。スクリーン29は、拡散板およびマイクロレンズなどで形成されており、走査光に対応する中間像を形成して出射する。この中間像は、図4に示した折り返しミラー14、投射ミラー11、出射窓12、および、フロントウィンドウガラス3に照射される。運転手は、図1に示すように表示画像の虚像Pを視認する。
【0026】
(光走査デバイスの構成)
一例ではあるが、光走査デバイス28には、MEMS(Micro Electro Mechanical System)ミラーが設けられている。MEMSミラーは、単結晶シリコン上に金属のコイルを形成し、コイルの内側にMEMS加工によりミラーを形成し、基板の下に磁石を配置して形成される。このようなMEMSミラーが設けられた光走査デバイス28は、図6に示すように、可動ミラー部34および枠部材35を有する。可動ミラー部34は、反射部の一例である。また、枠部材35は、ベース部の一例である。この図6では、枠部材35は、中空の枠形状を有するように図示されているが、この他、例えば「コの字形状」としてもよい。
【0027】
なお、この図6図4および図5)において、x’、y’、z’の座標系は、光走査デバイス28の座標系であり、X、Y、Zの座標系は移動体1の座標系を示している。このうち、x’方向は、長方形形状を有する光走査デバイス28の長手方向、y’は、光走査デバイス28の基板の厚さ方向、z’は、光走査デバイス28の短手方向を示している。また、X方向は、移動体の進行方向、Y方向は、移動体の左右方向、Z方向は、移動体の上下方向を示している。
【0028】
枠部材35は、複数の折り返し部を有し、蛇行して形成された一対の蛇行状梁部36を支持している。蛇行状梁部36は、駆動部の一例であり、一つおきに梁部36aと梁部36bとに分けられている。蛇行状梁部36には、蛇行した隣り合う各梁部36a,36bに対して、それぞれ独立した圧電部材(圧電体層)37が設けられている。
【0029】
これらの圧電部材37に対しては、一つおき(梁部36a,36b)に異なる電圧が印加される。これにより、隣り合う梁部36a,36bに、異なる方向の撓みが発生する。これにより、各梁部36a,36bの撓みの累積分に対応する角度で、可動ミラー部34をZ軸周り(=垂直方向)に回転させることができる。これに対して、X軸を中心とした水平方向には、光走査デバイス28に接続されたトーションバーなどを利用した共振により光走査が行われる。
【0030】
このようなMEMSミラーを用いて光束(ビーム)を高速に偏向するには、可動ミラー部34を共振点付近で駆動させる必要がある。このため、偏向角すなわち可動ミラー部34の傾斜角を時間に対して正弦波状に変化させる。可動ミラー部34は、直径が約1mmと小さくかつ回転モーメントも小さいので、ねじり方向(回転方向)の共振周波数を高くすることができると共に、容易に大きな振幅を得ることができる。
【0031】
(防振部材の共振周波数特性)
防振部材21a~21cは、例えばシリコンゴム又はブチルゴム等で形成されている。図7に、防振部材21a~21cの振動伝達特性を示す。この図7は、横軸が周波数(Hz)で、縦軸が伝達率である。実施の形態の移動体1の場合、表示画像形成装置20の質量および防振部材21a~21cの剛性で決定される防振部材21a~21cの共振周波数が、100Hz以上の範囲となるように設計されている。共振周波数近傍では、伝達率は、図7中点線で示す「1」よりも大きくなる。これは、入力された振動が防振部材21a~21cに伝達することで、振動が増幅されることを意味している。これに対して、共振周波数の約√2倍以上の周波数域では、伝達率は「1」よりも小さくなる。これは、共振周波数が約√2倍以上の周波数の振動は、防振部材21a~21cにより減衰されることを意味している。
【0032】
(移動体の振動特性)
次に、図8に移動体1の振動特性を示す。この図8は、横軸が周波数(Hz)で、縦軸が加速度パワースペクトル密度(PSD)である。この図8に示すように、一般的に移動体1からヘッドアップディスプレイ装置10に伝達する外乱振動は、100Hz以下で大きくなる。このため、実施の形態の移動体1では、防振部材21a~21cの共振周波数を100Hz以上に設計している。これにより、防振部材21a~21cの共振時にも、外乱による振動振幅が大きくなる不都合を防止でき、表示画像形成装置20及び後段の光学素子(折り返しミラー14、投射ミラー11、出射窓12およびフロントウィンドウガラス3)の間の位置精度を高く維持することができる。
【0033】
(光走査デバイス振動応答特性)
図9に、光走査デバイス28の一次共振点付近での振動応答特性を示す。この図9は、横軸が周波数(Hz)、縦軸が応答レベルである。光走査デバイス28は、上述のようにバネ構造により支持されているため、図9に実線で示すような急峻な応答ピークを有する。この一次共振は、図6に示した光走査デバイス28の基板厚方向である「y’方向」の外乱振動によって励起される。つまり、基板厚方向に外乱振動が加わると、光走査デバイス28が共振して2次元走査が乱れ、表示画像に乱れが生じる。これは、光走査デバイス28の「y’方向」は、剛性が低いことから共振周波数が低くなり、変位量が大きくなるためである。
【0034】
(外乱振動の周波数分布)
一方、移動体1からヘッドアップディスプレイ装置10に伝達する外乱振動は、移動体1の左右方向(図5及び図6のY方向)で最も小さくなる。図10に、移動体1のヘッドアップディスプレイ装置10の取り付け部のXYZ方向のオーバーオール実効値の一例を示す。この図10は、横軸が周波数(Hz)で、縦軸がオーバーオール実効値である。オーバーオール実効値は、周波数範囲全体の加速度の大きさを示す値である。また、図10の白抜きの棒線グラフは、移動体1の前後方向(X方向)の振動のオーバーオール実効値を示し、右斜線の棒線グラフは、移動体1の左右方向(Y方向)の振動のオーバーオール実効値を示し、左斜線の棒線グラフは、移動体1の上下方向(重力方向:Z方向)の振動のオーバーオール実効値を示している。
【0035】
この図10から分かるように、移動体1の振動は、X方向(前後方向)及びZ方向(重力方向)よりも、Y方向(左右方向)の方がオーバーオール実効値は小さくなる。これは、移動体1のX方向およびZ方向は、路面の凹凸又は車速変動の影響を受けやすい方向となるが、Y方向は、これらの影響を受け難い方向だからである。
【0036】
(表示画像形成装置の設置形態)
このようなことから、実施の形態の移動体1は、移動体1が発生する振動が所定以下となる左右方向(Y方向)と、光走査デバイス28の可動ミラー34の反射面とが略垂直になるように、取り付けブラケット42及び取り付けブラケット44に、取り付け部41a~41dをネジで締結することで、ヘッドアップディスプレイ装置10を取り付けている。また、光走査デバイス28は、光走査デバイス28の基板の形状に対応する各方向のうち、移動体1からの外乱振動の影響を最も受ける方向と、移動体1が発生する振動が最も小さくなる方向とが一致するように、ヘッドアップディスプレイ装置10に設けられている。
【0037】
すなわち、一例ではあるが、具体的に説明すると、実施の形態の移動体1は、図4図6に示すように、光走査デバイス28の外乱振動に弱い基板厚方向(y’方向)と、移動体1の外乱振動が小さくなる方向である左右方向(Y方向)とを一致させるように、表示画像形成装置20を移動体1に設けている。なお、移動体1の左右方向(Y方向)は、地面に対して水平となる横方向の一例である。
【0038】
すなわち、光走査デバイス28は、図5に示すように長手方向の直線と、防振部材21aおよび防振部材21bを結ぶ直線とが平行となるように、表示画像形成装置20の筐体30内に設けられている。また、筐体30は、図4に示すように、防振部材21aおよび防振部材21bを結ぶ直線が、移動体1の進行方向(X方向)と一致するように、移動体1に固定されて設けられている。このように、表示画像形成装置20の筐体30を移動体1に固定することで、図4に示すように、光走査デバイス28の基板厚方向(y’方向)と、移動体1の左右方向(Y方向)とを一致させた状態で、表示画像形成装置20を移動体1に固定することができる。
【0039】
これにより、振動が小さい移動体の左右方向(Y方向)と、光走査デバイス28の外乱振動に弱い基板厚方向(y’方向)とを一致させることができ、移動体1から光走査デバイス28に伝達する外乱振動を小さくすることができる。従って、光走査デバイス28の共振による画像乱れの無い良好な表示画像のヘッドアップディスプレイ装置10を提供することができる。
【0040】
また、光走査デバイス28の一次共振周波数成分(低周波数成分)を減衰する振動減衰特性となるように、防振部材21a~21cを設計することで、移動体1から光走査デバイス28へ伝達する外乱振動を、さらに抑制することができる。
【0041】
ここで、図6に示す可動ミラー部34を支持するバネ構造の剛性を低くすることで、可動ミラー部34を大きく回転させることが可能となり、光走査デバイス28を広画角化することができる。可動ミラー部34を支持するバネ構造の剛性を低くすると、バネ構造の共振周波数も低くなり、光走査デバイス28が、例えば低周波帯では数百Hz付近に固有共振周波数成分(低周波数成分)を有するようになる。
【0042】
しかし、実施の形態の移動体1の場合、上述のように光走査デバイス28に対する低周波帯の振動の伝達を抑制することができる。このため、光走査デバイス28の可動ミラー部34を支持するバネ構造の剛性を低くすることで、可動ミラー部34が低周波帯の固有共振周波数を有することとなっても、光走査デバイス28が低周波帯で共振する不都合を防止できる。そして、可動ミラー部34を支持するバネ構造の剛性を低くすることで行う広画角化を、障害なく行うことができる。従って、広画角で画像乱れの無いヘッドアップディスプレイ装置10を提供することができる。
【0043】
図11は、光走査デバイス28の基板厚み方向である「y’方向」を、移動体1の左右方向である「Y方向」から徐々にずらした際の、ヘッドアップディスプレイ装置10の表示画像の角度変化の評価結果を示している。なお、図11は、横軸が光走査デバイス28の「y’方向」と移動体1の「Y方向」とが成す角度であり、縦軸が画像乱れ量(min=1/60度)である。
【0044】
光走査デバイス28の基板厚み方向である「y’方向」の直線と、移動体1の左右方向である「Y方向」の直線とが成す角を徐々に変化させると、移動体1のXYZ方向のy’方向への射影成分が変化し、図11に実線のグラフで示すようにヘッドアップディスプレイ装置10の表示画像の角度が変化する。
【0045】
移動体1の走行中において、一般的に運転手(操作者)は、5min程度の対象物の表示角度変化の認識が可能である。このため、ヘッドアップディスプレイ装置10の表示画像の乱れを防止するには、画像振動角度を図11に点線で示す許容振幅範囲である5min以下に抑える必要がある。
【0046】
このため、実施の形態の移動体1の場合、光走査デバイス28の可動ミラー34の反射面に対して略垂直になる方向の直線と、移動体1が発生する振動が、所定以下となる「y’方向」の直線とが成す角度が、移動体1が発生する振動により投射画像に発生する揺れを、操作者が認識可能な範囲である許容振幅範囲内の角度となるように、移動体1にヘッドアップディスプレイ装置10を取り付けている。
【0047】
換言すると、図11に示すように、光走査デバイス28の基板厚み方向である「y’方向」の直線と、移動体1の左右方向である「Y方向」の直線とが成す角が30度以下となるように、光走査デバイス28を配置している。
【0048】
これにより、ヘッドアップディスプレイ装置10に表示画像の乱れ(揺れ)が生じても、運転手(操作者)が認識できないレベルの乱れに抑制できる。従って、画像乱れが無く、広画角なヘッドアップディスプレイ装置10を提供することができる。
【0049】
(実施の形態の効果)
以上の説明から明らかなように、実施の形態の移動体1は、光走査デバイス28の基板厚方向(y’方向)と、移動体1の左右方向(Y方向)とを一致させた状態で、表示画像形成装置20を移動体1に固定する。これにより、移動体1から光走査デバイス28に低周波数の振動が伝達する不都合を防止して、画像乱れの無い良好な表示画像のヘッドアップディスプレイ装置10を提供することができる。
【0050】
また、光走査デバイス28に対する低周波数の振動の伝達を防止できるため、光走査デバイス28の可動ミラー部34を支持するバネ構造の剛性を低くすることで、可動ミラー部34が低周波帯の固有共振周波数を有することとなっても、光走査デバイス28が低周波帯で共振する不都合を防止できる。このため、広画角化されたヘッドアップディスプレイ装置10を提供することができる。
【0051】
また、表示画像形成装置20を移動体1に固定する際、移動体1の左右方向(Y方向)の共振周波数以上の周波数に対する共振特性を有し、移動体1の左右方向(Y方向)の共振周波数未満の周波数の振動を減衰させる防振部材21a~21cを介して、表示画像形成装置20を移動体1に固定する。
【0052】
これにより、移動体1からヘッドアップディスプレイ装置10に伝達する振動を大幅に低減することができ、より画像乱れの無い、広画角化された表示画像のヘッドアップディスプレイ装置10を提供することができる。
【0053】
(変形例)
最後に、上述の各実施の形態は、一例として提示したものであり、本発明の範囲を限定することは意図していない。例えば、上述の実施の形態の説明では、3つの防振部材21a~21cを用いることとしたが、これは、4つ又は5つ等の防振部材を用いてもよい。また、防振部材21a~21cとして、流体ダンパを用いてもよいし、グロメット形状の防振部材21a~21cを用いてもよい。いずれの場合も、上述と同様の効果を得ることができる。
【0054】
また、各レーザ光源22~24として、LED(Light Emitting Diode)を用いてもよいし、光走査デバイス28として、複数の可動ミラー部34を備えた光走査デバイスを用いてもよい。この場合も、上述と同様の効果を得ることができる。
【0055】
また、上述の実施の形態の説明では、移動体1は、自動車であることとして説明をしたが、航空機又は船舶等の他の移動体でもよい。また、上述の実施の形態は、本発明をヘッドアップディスプレイ装置に適用した例であったが、いわゆるプロジェクタ装置に適用してもよい。いずれの場合も、上述と同様の効果を得ることができる。
【0056】
上述の新規な実施の形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことも可能である。また、実施の形態及び実施の形態の変形例は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0057】
1 移動体
2 インストルメントパネル
3 フロントウィンドウガラス
10 ヘッドアップディスプレイ装置
11 投射ミラー
12 出射窓
13 ヘッドアップディスプレイ装置の筐体
14 折り返しミラー
20 表示画像形成装置
21a 防振部材
21b 防振部材
21c 防振部材
22 赤(R)のレーザ光源
23 緑(G)のレーザ光源
24 青(B)のレーザ光源
25 青色反射ミラー
26 緑色反射ダイクロイックプリズム
27 赤色反射ダイクロイックプリズム
28 光走査デバイス
29 スクリーン
30 表示画像形成装置の筐体
34 可動ミラー部
35 枠部材
36 蛇行状梁部
36a 梁部
36b 梁部
37 圧電部材(圧電体層)
41a 取り付け部
41b 取り付け部
41c 取り付け部
41d 取り付け部
42 取り付けブラケット
43 クロスカービーム
44 取り付けブラケット
【先行技術文献】
【特許文献】
【0058】
【文献】特開2017-083657号公報
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11