(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-28
(45)【発行日】2022-04-05
(54)【発明の名称】鉛化合物の除去方法及びこれを有するセレン又はテルルの回収方法
(51)【国際特許分類】
C22B 61/00 20060101AFI20220329BHJP
C22B 3/44 20060101ALI20220329BHJP
【FI】
C22B61/00
C22B3/44
(21)【出願番号】P 2018045139
(22)【出願日】2018-03-13
【審査請求日】2021-02-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100136825
【氏名又は名称】辻川 典範
(72)【発明者】
【氏名】永井 秀昌
(72)【発明者】
【氏名】中井 隆行
(72)【発明者】
【氏名】松原 諭
【審査官】中西 哲也
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-207223(JP,A)
【文献】特開2017-074566(JP,A)
【文献】特開2002-126694(JP,A)
【文献】特開2012-126611(JP,A)
【文献】特開2004-131745(JP,A)
【文献】国際公開第2010/016160(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第103014347(CN,A)
【文献】特開昭56-041825(JP,A)
【文献】米国特許第04293332(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 1/00-61/00
C02F 5/00- 5/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セレン又はテルルと共に鉛が溶存する原料液を還元処理することで析出させたセレン又はテルルを含むスラリーを固液分離する固液分離装置及び該固液分離装置へ該スラリーを供給する供給配管系の接液部に固着した鉛化合物を除去する鉛化合物の除去方法であって、
前記固液分離装置及び前記配管系を所定の濃度の苛性ソーダ水溶液で該スラリーと置換して循環洗浄することを特徴とする鉛化合物の除去方法。
【請求項2】
セレン又はテルルと共に鉛が溶存する原料液に亜硫酸ガスを接触させてセレン又はテルルを析出させる還元工程と、該析出したセレン又はテルルを固液分離により回収する固液分離工程とを有するセレン又はテルルの回収方法であって、
定期的又は前記固液分離されるスラリーの供給配管系の狭窄による流量低下時に請求項1に記載の鉛化合物の除去方法を行うことを特徴とするセレン又はテルルの回収方法。
【請求項3】
前記所定の濃度が12~15質量%であることを特徴とする、請求項2に記載のセレン又はテルルの回収方法。
【請求項4】
前記原料液が、銅電解スライムの浸出液を有機溶媒で抽出処理した後の抽残液をイオン交換樹脂に接触させて白金族元素を分離した残液であることを特徴とする、請求項2又は3に記載のセレン又はテルルの回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉛化合物の除去方法及びこれを有するセレン又はテルルの回収方法に関し、特に銅の電解精製工程で発生するアノードスライムの浸出液からセレン又はテルルを回収する設備にスケールとして固着する鉛化合物の除去方法及びこれを含んだセレン又はテルルの回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
銅の電解精製工程で発生するアノードスライム(以下、銅電解スライム又は単にスライムとも称する)には、金や白金族元素などの有価金属のほか、セレンやテルルなどのレアメタル等が含まれている。これら有価金属やレアメタルを分離回収する方法として、例えば特許文献1に示すような溶媒抽出工程及び還元工程からなる回収方法が知られている。この方法は、具体的には以下の(a)~(d)の工程に沿って有価金属及びレアメタルの分離回収が行われる。
【0003】
即ち、(a)銅電解スライムのスラリーを塩素で処理することにより、金、白金族元素、セレン、及びテルルを浸出させる工程、(b)該浸出により得た塩素浸出液に抽出剤としてビス(2-ブトキシエチル)エーテルを混合して金を有機相に抽出し、この有機相を塩酸で洗浄した後、蓚酸で還元することにより金を単体として分離する工程、(c)金を抽出した後の抽残液に塩化トリオクチルメチルアンモニウム及び燐酸トリブチルからなる混合物を混合して白金族元素を有機相に抽出し、この有機相を塩酸で洗浄した後、ヒドラジン及び水酸化ナトリウムで還元することにより白金族元素を単体として分離する工程、及び(d)白金族元素を抽出した後の抽残液に二酸化硫黄を添加して還元処理し、析出したセレン及びテルルを分離する工程からなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の特許文献1のような溶媒抽出工程及び還元工程を有する有価金属及びレアメタルの回収方法では、一般に還元により析出したテルルを含むスラリーをフィルタープレスに導入してテルルを分離回収することが行われているが、このフィルタープレスの濾布や濾板の濾液孔、更には該フィルタープレスへのスラリー供給配管系が固着物により閉塞し、フィルタープレスの処理量が減少することがあった。このような閉塞が生じたときは、配管系を分解洗浄したり、濾板の濾液孔を手作業で掃除したりすることである程度固着物を除去することができるが、分解洗浄や手作業による掃除は作業時間がかかるうえ、分解時や組み立て時に液封部や濾板を破損するおそれがあった。
【0006】
本発明は、上記した従来の問題点に鑑みてなされたものであり、還元により析出したセレンやテルルの回収を行うフィルタープレスなどの固液分離装置及びその供給配管系の固着物による閉塞時に、分解洗浄等の煩雑で時間のかかる作業を行うことなく容易に該固着物を除去できる方法を提供し、分解洗浄等の煩雑で時間のかかる作業を低減したセレン又はテルルの回収方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は上記目的を達成するため上記のフィルタープレス及びその供給配管系の閉塞原因について調査したところ、セレンやテルルの還元処理後の還元後液から析出した硫酸鉛などの鉛化合物が接液部にスケールとして固着する固着物の主成分であり、この固着物は通液時間の経過と共に徐々に固着していくという知見を得た。そこで、この知見に基づいて更に鋭意研究を重ねた結果、上記の鉛化合物からなる固着物の除去には苛性ソーダ水溶液による洗浄が効果的であり、よって、析出したセレンやテルルを含むスラリーを固液分離する固液分離装置の近傍に苛性ソーダ水溶液を保持可能な専用槽を設け、少なくとも該固液分離装置及びその供給配管系に該専用槽を介して苛性ソーダ水溶液を循環させることで接液部に固着した鉛化合物を効率よく除去できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明に係る鉛化合物の除去方法は、セレン又はテルルと共に鉛が溶存する原料液を還元処理することで析出させたセレン又はテルルを含むスラリーを固液分離する固液分離装置及び該固液分離装置へ該スラリーを供給する供給配管系の接液部に固着した鉛化合物を除去する鉛化合物の除去方法であって、前記固液分離装置及び前記配管系を所定の濃度の苛性ソーダ水溶液で該スラリーと置換して循環洗浄することを特徴としている。
【0009】
また、本発明に係る鉛化合物の除去設備は、セレン又はテルルと共に鉛が溶存する原料液を還元処理することで析出させたセレン又はテルルを含むスラリーを固液分離する固液分離装置の近傍に設けられた所定の濃度のアルカリ洗浄液用の専用槽と、該専用槽から抜き出されたアルカリ洗浄液を供給する洗浄液供給配管と、洗浄後のアルカリ洗浄液を該専用槽に戻す戻り配管とから構成される鉛化合物の除去設備であって、前記洗浄液供給配管は前記固液分離装置に送液するスラリーポンプの吸込側配管に第1の切替弁を介して接続されており、前記戻り配管は該固液分離装置で分離された液体の排出配管に第2の切替弁を介して接続されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば還元により析出したセレンやテルルを含むスラリーを固液分離する固液分離装置及びその供給配管系に固着した鉛化合物を、該配管系や濾板等を損傷させることなく比較的短時間に効率よく除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施形態のセレン及びテルルの回収方法の工程フロー図である。
【
図2】従来のテルルの還元及び回収設備の模式的な構成図である。
【
図3】本発明の実施形態の鉛化合物の除去装置を備えたテルル回収設備の模式的な構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
先ず、
図1を参照しながら本発明の実施形態の鉛化合物の除去方法が好適に適用される銅電解スライムからのセレン及びテルルの回収方法について説明する。この銅電解スライムからのセレン及びテルルの回収方法は、先ず塩素浸出工程S1において、銅電解スライムに水を加えて調製したスラリーに塩素ガスを吹き込んでテトラクロロ金酸イオン(AuCl
4
-)の形態でAuの浸出を行った後、固液分離によりAuを含んだスライム浸出液とスライム浸出残渣を得る。得られたスライム浸出液は、次にAu溶媒抽出工程S2において抽出剤と混合され、上記テトラクロロ金酸イオンの形態を有するAuの抽出が行われる。このテトラクロロ金酸イオンを抽出した抽出剤は、Au含有有機相として水相側の抽出後液から油水分離される。
【0013】
上記のAuの抽出に用いる抽出剤としては、R-O-[C2H4-O]n-Rの構造式で示される「対称グリコールジエーテル」を用いることができる。特に、C4H9-O-C2H4-O-C2H4-O-C4H9の構造を有するジブチルカルビトール:DBC(ジブチル・ジグリコール:DBDGとも称する)は、各種産業界で様々な用途に使われているため入手が容易であるので好ましい。DBCは抽出溶剤としては比較的抽出力の弱い溶媒和型の抽出剤に属し、クロロ錯体の抽出に好適に用いることができる。
【0014】
上記のAu含有有機相から油水分離された抽出後液(抽残液とも称する)は、次にイオン交換工程S3においてイオン交換樹脂に通液せしめられ、これにより白金族元素(PGM)の選択的な吸着除去が行われる。上記の抽残液に含まれる白金族元素はクロロ錯体の陰イオンとして存在しているため、このイオン交換樹脂には陰イオン交換能力がある樹脂が用いられる。このような陰イオン交換樹脂としては、架橋されたポリスチレンやポリアクリルからなる三次元網目構造の樹脂にアミノ基や第四級アンモニウム基等の塩基性基が共有結合したものが一般的に用いられる。これにより、白金族元素のクロロ錯体(例えば[MCl6]2-)をイオン交換樹脂に吸着させて抽残液から分離することができる。イオン交換樹脂に吸着した白金族元素は、チオ尿素等の溶離剤をイオン交換樹脂に流すことで溶離され、これにより白金族元素が濃縮された濃縮液として回収することができる。なお、上記のAu溶媒抽出工程S2で抽出処理された後の抽残液は、通常は白金族元素の濃度が極めて低いため、上記のようにイオン交換樹脂を用いた吸着による分離法が溶媒抽出法よりも適している。
【0015】
上記のイオン交換工程S3で処理された抽残液は、次にセレン還元工程S4においてSe還元始液としてセレンの還元処理が行われる。これにより、該Se還元始液に例えば亜セレン酸やセレン酸等の形態で溶存しているセレンの析出が行われる。このセレンの還元処理では複数のSe還元槽を直列的に接続し、それらにSe還元始液を順に流しながら各槽に亜硫酸ガスを吹き込むことでセレンの還元を行うのが好ましい。
【0016】
上記の複数のSe還元槽においては、液温を50~80℃の温度範囲内に制御すると共に、銀-塩化銀電極を参照電極とした酸化還元電位を400~500mVの範囲内に調整するのが好ましく、440~480mVの範囲内に調整するのがより好ましい。このセレン還元処理により析出したセレンを含むスラリーは、次にフィルタープレスなどの固液分離装置に送られ、セレン粒子の分離が行われる。分離されたセレン粒子を含む湿潤ケーキは、洗浄及び乾燥処理が施されることで製品セレン粉になる。
【0017】
上記セレン還元工程S4でセレンが除去された水溶液は、次にテルル還元工程S5においてTe還元始液としてテルルの還元処理が行われる。このテルル還元工程S5では、上記のセレン還元工程S4よりも還元電位を下げた条件で還元処理が行われ、これにより該Te還元始液に溶存しているテルルの析出が行われる。このテルルの還元処理においても上記のSe還元処理と同様に複数のTe還元槽を直列的に接続し、それらに順にテルル還元始液を流しながら各槽に亜硫酸ガスを吹き込むことでテルルの還元を行うのが好ましい。
【0018】
上記の複数のTe還元槽においては、液温を80~100℃の範囲内に制御すると共に、銀-塩化銀電極を参照電極とした酸化還元電位を290~380mVの範囲内に調整するのが好ましく、310~350mVの範囲内に調整するのがより好ましい。上記のテルル還元処理により析出したテルル(粗テルルとも称する)を含むスラリーは、次にフィルタープレス等の固液分離装置に送られ、テルル粒子の分離が行われる。分離されたテルル粒子を含む湿潤ケーキは、必要に応じて電解法、沈殿法、溶媒抽出法などの精製法で精製することにより高品位のテルル粉として回収される。
【0019】
次に、上記したセレン及びテルルの回収方法のうち、テルル還元工程S5が行われるテルル回収設備に本発明の実施形態の鉛化合物の除去設備を適用する場合について説明する。従来のテルル回収設備は、例えば
図2に示すように二酸化硫黄の吹き込みによりテルルの還元処理が行われるTe還元槽1と、このTe還元槽1からのオーバーフロー液を受け入れるTe冷却中継槽2と、該Te冷却中継槽2の底部から析出したテルルを含むスラリーを抜き出して送るスラリーポンプ3と、該析出したテルルを含むスラリーを固液分離して粗テルルを湿潤ケーキの形態で回収する粗Teフィルタープレス4と、該粗Teフィルタープレスから排出される濾液を受け入れる濾液槽5と、該濾液槽5の底部から濾液を抜き出して図示しない排水工程の中和槽へ送る濾液ポンプ6とからなる機器類で主に構成されている。また、これら機器類を接続する配管系として、Te冷却中継槽2内のスラリーの粗Teフィルタープレス4までの移送用のスラリー供給配管系7、粗Teフィルタープレス4から排出される濾液の濾液槽5までの移送用の濾液1次配管系8、及び濾液槽5に受け入れた濾液の図示しない中和槽までの移送用の濾液2次配管系9が設けられている。
【0020】
上記のテルル回収設備のうち、特にスラリー供給配管系7におけるスラリーポンプ3の吐出側の接液部及び粗Teフィルタープレス4の接液部において鉛化合物である硫酸鉛が固着して閉塞することが多かった。そこで、本発明の実施形態の鉛化合物の除去方法では、
図3に示すような鉛化合物の除去設備を設けてアルカリ循環洗浄が行えるようになっている。すなわち、粗Teフィルタープレス4の近傍にアルカリ洗浄用の専用槽10を設け、この専用槽10の底部の抜出配管11を上記したスラリー供給配管系7のうちスラリーポンプ3の吸込側に接続すると共に、濾液2次配管系9のうち濾液ポンプ6の吐出側から分岐した戻り配管12を専用槽10に接続して循環洗浄用の流路を構築する。そして、好適には濃度6~20質量%、より好適には濃度12~15質量%の苛性ソーダ水溶液を粗Teフィルタープレス4及びその上流及び下流の上記配管系7、8の一部と該専用槽10との間で循環させることで、極めて効果的に上記接液部の鉛化合物の固着物を除去することができる。
【0021】
洗浄液が無駄に消費されるのを防ぐとともに、使用済み洗浄液に随伴して粗テルルが失われるのを抑制する観点から、上記の循環洗浄を行う際、粗Teフィルタープレス4及びその上流及び下流の配管系7、8にはプロセス液であるテルル粒子を含んだスラリーや濾液が少ないほど好ましく、よって上記の循環洗浄を行う時は、粗Teフィルタープレス4の運転を停止してその内部及び上記配管系7、8内の該プロセス液を抜き出しておくのが好ましい。これにより、上記の粗Teフィルタープレス4及びその上流及び下流の配管系7、8内を洗浄液で置換することが可能になる。また、上記の循環洗浄後は、粗Teフィルタープレス4及びその上流及び下流の配管系7、8からアルカリ洗浄液を抜き出してから水でリンス洗浄するのが好ましい。
【0022】
上記の鉛化合物の除去設備において、洗浄液供給配管11がスラリー供給配管系7に接続する部分、及び戻り配管12が濾液2次配管9に接続する部分の各々には、流路の切替えが可能なように切替弁が設けられている。これら切替弁は、例えば洗浄液供給配管11の接続部では、該洗浄液供給配管11上の該接続部近傍部と、スラリー供給配管系7上の該接続部のすぐ上流側とにそれぞれ開閉弁を設けてもよいが、作業性の観点から接続部に3方弁を設けるのが好ましい。
図3では上記の洗浄液供給配管11の接続部と戻り配管12の接続部にそれぞれ第1の3方弁13及び第2の三方弁14を設けた場合が示されている。
【0023】
図3に示す本発明の実施形態の鉛化合物の除去設備は、濾液槽5において濃度25質量%の苛性ソーダ水溶液を受け入れると共に工業用水を受け入れて適度な濃度に希釈した苛性ソーダ水溶液を専用槽10に移送する構造になっているが、これに限定されるものではなく、上記の希釈前の苛性ソーダ水溶液及び工業用水の受け入れ及び調製のための調整槽として専用槽10を用いてもよく、調製槽を別途設けて、その底部抜出配管を上記の専用槽10に接続してもよい
【0024】
図3に示す本発明の実施形態の鉛化合物の除去設備は、スラリーポンプ3、スラリー供給配管系7のうちのスラリーポンプ3吐出側、粗Teフィルタープレス4、濾液1次配管系8、濾液槽5、濾液2次配管系9のうちの濾液ポンプ6の吸込側、及び濾液ポンプ6の接液部をアルカリ洗浄することができるが、これらのうち特に鉛化合物の固着が顕著に生じるのは供給配管系7のうちスラリーポンプ3吐出側と粗Teフィルタープレス4の2ヶ所である。よって、濾液1次配管系8において(好ましくは粗Teフィルタープレス4との接続部近傍)点線で示すようにバイパス配管15の一端部を接続し、このバイパス配管15の他端部を専用槽10に接続(または専用槽10の上方で開口)してもよい。この場合、濾液槽5及びこれに接続される配管系ではアルカリ循環洗浄が行われないようにしてもよいし、最初だけアルカリ循環洗浄してから上記バイパス配管15に切り替えるようにしてもよい。
【0025】
上記した本発明の実施形態の鉛化合物の除去方法は、テルル還元工程が行われるテルル回収設備においてアルカリ循環洗浄を行うものであるが、これに限定されるものではなく、上記テルル回収設備に代えてあるいは上記テルル回収設備に加えてセレン還元工程が行われるセレン回収設備において上記と同様の除去設備を設けてアルカリ循環洗浄を行ってもよい。なお、セレン還元工程はテルル回収設備と同様の設備構成であり、テルル還元工程と同様の手順で行うことができる。いずれの場合においても、上記の鉛化合物の除去方法を定期的に行ってもよいし、フィルタープレスなどの固液分離装置で固液分離されるスラリーの供給配管系の狭窄による流量低下や該固液分離装置の処理量の低下などの状況に応じて適宜行ってもよい。
【0026】
また、テルルの回収設備においては、処理液に溶存するテルルの還元に必要な量よりも多い量の二酸化硫黄を吹き込むのが好ましい。これにより、上記の鉛化合物の除去方法で除去すべく該処理液に溶存する鉛を積極的に析出させることができ、よって排水工程に送られる排水中の鉛含有量を減らして該排水処理の負荷を下げることができる。なお、上記した本発明の実施形態の鉛化合物の除去設備は、銅電解スライムからセレンやテルルの回収設備に適用する場合について説明したが、これに限定されるものではなく、セレン又はテルルに加えて鉛を含む水溶液を同様に処理する設備であれば適用することができる。
【実施例】
【0027】
(参考例)
銅電解精製で発生するアノードスライムを
図1に示す工程に沿って処理する設備において操業停止期間の際にテルル回収設備を分解して目視にて点検したところ、
図2に示す粗Teフィルタープレス4の濾板と、該フィルタープレス4より上流の配管系7の接液部においてスケールが生じていた。これらスケールを前回の操業停止期間に行った場合と同様にして掃除したところ、乾物基準で186kgの付着物が回収された。従って、この付着物は、前回の操業停止期間と今回の操業停止期間との間に接液部にスケールとして付着したものに相当する。
【0028】
次に、この付着物を2つのビーカーA、Bに小分けして入れ、ビーカーAには酢酸アンモニウム水溶液を添加して撹拌し、ビーカーBには濃度12質量%の苛性ソーダ水溶液を添加して撹拌した。しばらくして、ビーカーA、Bの水溶液の組成を分析したところ、ビーカーAの水溶液中の鉛濃度は0.06g/Lであるのに対してビーカーBの水溶液中の鉛濃度は25.5g/Lであった。この結果から、付着物は鉛化合物であり、これは濃度12質量%の苛性ソーダ水溶液により容易に溶解できることが分かる。なお、付着物はTe還元始液に溶存する鉛(原子量207.2)がテルル還元処理の際に吹き込んだ二酸化硫黄と反応して生成した硫酸鉛(分子量303.2)であると考えられる。スケールとして付着する全量を溶解するには、すなわち乾物基準で186kgの鉛化合物を溶解するには、該12質量%の苛性ソーダ水溶液に鉛濃度25g/Lまで溶解すると考えて、下記式1の計算により約5m3の12質量%苛性ソーダ水溶液が必要であることが分かる。
[式1]
186×(207.2/303.2)×103×(1/25)=5080L
【0029】
(実施例1)
上記参考例で掃除を行った時とほぼ同程度の固着物が接液部に付着するように、再度
図1に示すアノードスライムの処理を上記参考例と同じ処理条件で同じ期間操業した。その際、テルル回収設備については、
図2に代えて
図3に示すように鉛化合物の除去設備を有するものを用い、専用槽10には上記の参考例の結果に基づき有効容量5m
3のタンクを設置した。上記の操業期間の経過後は粗Teフィルタープレス4へのスラリー供給を停止し、スラリーポンプ3よりも下流側に残留するプロセス液を全て抜き出してから第1及び第2の3方弁13、14を切り替えてアルカリ循環洗浄を行う循環洗浄流路を構築した。
【0030】
そして、濾液槽5において濃度25質量%の苛性ソーダ及び工業用水を受け入れて濃度6質量%の苛性ソーダ水溶液5m3を調製し、これを専用槽10に移送した。この状態で、スラリーポンプ3及び濾液ポンプ6を使用して循環洗浄を行った。これにより専用槽10から抜き出されたアルカリ洗浄液は、洗浄液供給配管11、スラリーポンプ3及びその吐出側のスラリー供給配管系7、粗Teフィルタープレス4、濾液1次配管系8、濾液槽5、濾液ポンプ6及びその吸込側の濾液2次配管系9、並びに戻り配管12をこの順に経由して専用槽10に戻ることになる。かかるアルカリ循環洗浄を1時間継続した後、専用槽10内の洗浄液をICP発光分光分析装置で分析した。その結果、鉛濃度は9g/Lであった。
【0031】
(実施例2)
専用槽10で調製した苛性ソーダ水溶液の濃度を6質量%に代えて12質量%にしたこと以外は上記実施例1と同様にアルカリ循環洗浄したところ、洗浄後の鉛濃度は25g/Lであった。また、目視により洗浄後の粗Teフィルタープレス4の濾板とスラリー供給配管系7の接液部を確認したところ、洗浄前に比べて付着物が顕著に減少しており、十分な洗浄効果が得られていることが分かった。
【0032】
(実施例3)
専用槽10で調製した苛性ソーダ水溶液の濃度を6質量%に代えて15質量%にしたこと以外は上記実施例1と同様にアルカリ循環洗浄したところ、目視による洗浄後の接液部の確認では実施例2と同様に洗浄前に比べて付着物が顕著に減少しており、十分な洗浄効果が得られていることが分かった。しかし、洗浄後の鉛濃度は25g/Lであり、実施例2に比べて苛性ソーダ水溶液の濃度を増加したにも関わらず鉛除去効果が増加していなかった。
【0033】
(実施例4)
専用槽10で調製した苛性ソーダ水溶液の濃度を6質量%に代えて20質量%にしたこと以外は上記比較例1と同様にアルカリ循環洗浄したところ、目視による洗浄後の接液部の確認では固着物がほぼ完全に除去され、配管の接液面が見えるようになっていた。但し、その後も定期的に濃度20質量%の苛性ソーダ水溶液で洗浄したところ、実施例3の場合よりも早期にフィルタープレスの濾布に穴開きが見られるようになった(すなわち、濾布の使用期間が実施例3の場合よりも短くなった)。
【0034】
(比較例1)
洗浄液に苛性ソーダを含有しない水を使用したこと以外は上記実施例1と同様に循環洗浄したところ、洗浄後液の鉛濃度はほぼ0g/Lであり、十分な洗浄効果が得られなかった。
【0035】
(比較例2)
循環洗浄しなかったこと以外は上記実施例1と同様の処理条件でテルル還元処理を行ったところ、1ヶ月後には粗Teフィルタープレスへの送液流量が半減してしまい、1.5ヶ月後には送液できなくなった。そこで配管を開けて確認したところ、固着物による閉塞が生じていた。
【符号の説明】
【0036】
S1 塩素浸出工程
S2 Au溶媒抽出工程
S3 イオン交換工程
S4 セレン還元工程
S5 テルル還元工程
1 Te還元槽
2 Te冷却中継槽
3 スラリーポンプ
4 粗Teフィルタープレス
5 濾液槽
6 濾液ポンプ
7 スラリー供給配管系
8 濾液1次配管系
9 濾液2次配管系
10 専用槽
11 洗浄液供給配管
12 戻り配管
13 第1の3方弁
14 第2の3方弁
15 バイパス配管