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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-28
(45)【発行日】2022-04-05
(54)【発明の名称】単結晶シリコンの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/06 20060101AFI20220329BHJP
   C30B 15/00 20060101ALI20220329BHJP
【FI】
C30B29/06 502H
C30B15/00 Z
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018244665
(22)【出願日】2018-12-27
(65)【公開番号】P2020105048
(43)【公開日】2020-07-09
【審査請求日】2020-12-28
(73)【特許権者】
【識別番号】302006854
【氏名又は名称】株式会社SUMCO
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100165696
【弁理士】
【氏名又は名称】川原 敬祐
(72)【発明者】
【氏名】江頭 和幸
【審査官】▲高▼橋 真由
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-172081(JP,A)
【文献】特開平09-110578(JP,A)
【文献】特開2003-040693(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 1/00-35/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
単結晶引き上げ装置内に配置された、カーボン製るつぼ内に収容された石英製るつぼ内にシリコン原料を充填し、前記カーボン製るつぼの周囲に配置したヒーターよって前記シリコン原料を溶融してシリコン融液とする第1工程と、
前記第1工程後、前記カーボン製るつぼの高さ位置を調節することによって前記シリコン融液の液面の高さ位置を前記ヒーターの上端の高さ位置に対して設定された高さ位置に調整する第2工程と、
所望とする酸素濃度を有する単結晶シリコンが得られるように調整された製造条件の下で、種結晶を前記シリコン融液に浸漬して引き上げ、前記種結晶下端に単結晶シリコンを成長させる第3工程とを備え、
前記第1工程から前記第3工程を行って単結晶シリコンを製造する操作を繰り返すことにより複数本の単結晶シリコンを製造するチョクラルスキー法による単結晶シリコンの製造方法であって、
前記ヒーターの上端の高さ位置と前記カーボン製るつぼの上端の高さ位置との差と、製造された単結晶シリコンの酸素濃度の実績値との関係を前記製造条件に対して予め求めておき、
前記第3工程において、求めた前記関係に基づいて前記製造条件を修正し、
前記製造条件は、前記ヒーターの出力、前記単結晶引き上げ装置内に導入する不活性ガスの流量および前記チャンバー内の圧力の少なくとも1つであることを特徴とする単結晶シリコンの製造方法。
【請求項2】
前記第3工程後に、製造された単結晶シリコンの酸素濃度を測定し、
次のバッチにおいて、
前記第2工程後に前記ヒーターの上端の高さ位置と前記カーボン製るつぼの上端の高さ位置との差を求め、求めた差および前記関係から、前記第3工程において製造される単結晶シリコンの酸素濃度の前記所望とする酸素濃度からのずれを予測し、前記第3工程は、予測された前記ずれを相殺するように前記製造条件を修正して行う、請求項1に記載の単結晶シリコンの製造方法。
【請求項3】
各バッチにおいて、
前記第2工程後に、前記ヒーターの上端の高さ位置と前記カーボン製るつぼの上端の高さ位置との差を求め、求めた差および前記関係から、前記第3工程において製造される単結晶シリコンの酸素濃度の前記所望とする酸素濃度からのずれを予測し、前記第3工程は、予測された前記ずれを相殺するように前記製造条件を修正して行う、請求項1に記載の単結晶シリコンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、単結晶シリコンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの基板として使用されるシリコンウェーハは、チョクラルスキー法(CZ法)によって製造された単結晶シリコンインゴットに対してウェーハ加工を施すことによって製造することが多い。
【0003】
図1は、CZ法により単結晶シリコンインゴットを育成する一般的な単結晶引き上げ装置の一例を示している。この図に示した単結晶引き上げ装置100は、チャンバー51内に、多結晶シリコンなどのシリコン原料を収容するためのるつぼ52が設けられている。このるつぼ52は、石英製るつぼ52aとカーボン製るつぼ52bとで構成されており、石英製るつぼ52aはカーボン製るつぼ52b内に収容されている。また、るつぼ52の下部には、カーボン製るつぼ52bを円周方向に回転させるとともに、カーボン製るつぼ52bを鉛直方向に昇降させるるつぼ回転昇降軸53が取り付けられている。また、カーボン製るつぼ52bの周囲には、ヒーター54が配置されており、石英製るつぼ52a内に収容されたシリコン原料を加熱してシリコン融液Mにする。
【0004】
チャンバー51の上部には、単結晶シリコンインゴットIを引き上げるための引き上げ軸55が設けられており、この先端に固定された種結晶保持器56に種結晶Sが保持されている。また、チャンバー51の上部および下部には、ガス導入口57およびガス排出口58がそれぞれ設けられており、単結晶シリコンインゴットIの育成中に、ガス導入口57からチャンバー51内にアルゴン(Ar)ガスなどの不活性ガスを供給し、インゴットIの外周面に沿って通過させてガス排出口58から排出するように構成されている。
【0005】
さらに、チャンバー51内には、育成中のインゴットIの外周面を包囲する円筒形の熱遮蔽部材60が設けられている。熱遮蔽部材60は、ヒーター54やシリコン融液M、カーボン製るつぼ52bの側壁からの輻射熱を遮蔽して、引き上げる単結晶シリコンインゴットIの冷却を促進する一方、インゴットIの外周面を保温し、単結晶シリコンインゴットIの中心部と外周部における結晶軸方向の温度勾配の差が大きくなるのを抑制する。
【0006】
上記装置100を用いて、単結晶シリコンインゴットIの育成は以下のように行う。まず、石英製るつぼ52aにシリコン原料を充填し、チャンバー51内を減圧下のArガス等の不活性ガス雰囲気に維持した状態で、ヒーター54によって石英製るつぼ52a内に充填されたシリコン原料を加熱して溶融し、シリコン融液Mとする。次いで、るつぼ回転昇降軸53によってカーボン製るつぼ52bの高さ位置を調節し、シリコン融液Mの液面の高さ位置をヒーター54の上端の高さ位置に対して設定された高さ位置に調整する。そして、所望の仕様を有する単結晶シリコンが得られるように調整された製造条件の下で、種結晶Sをシリコン融液Mに浸漬し、るつぼ52および引き上げ軸55を設定された方向に回転させながら、引き上げ軸55によって種結晶Sを引き上げる。こうして単結晶シリコンインゴットIを製造することができる。
【0007】
上記単結晶シリコンの仕様の1つとして酸素濃度が挙げられる。仕様に基づいて低酸素濃度や高酸素濃度の単結晶シリコンが製造されているが、近年、単結晶シリコンの酸素濃度を厳密に制御することが要求されており、許容される酸素濃度の仕様からのずれは益々小さくなっている。
【0008】
こうした背景の下、例えば、特許文献1には、CZ法により単結晶シリコンを製造する際に、二つの投射光をシリコン融液Mの液面に照射して液面位置を算出する方法が提案されている。特許文献1に記載された方法により、常に精度よくシリコン融液Mの液面位置を一定に保ちながら操業行なうことができるようになり、引き上げ単結晶インゴット中の酸素濃度のばらつきを低減できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2002-13966号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
一般的に、特許文献1にも記載されているように、単結晶シリコンの育成中は、シリコン融液Mの液面位置が常に一定となるように単結晶シリコンの成長量に応じてカーボン製るつぼ52bを上昇させる操作が行われる。ところが、本発明者がシリコン融液Mの液面位置を一定に保ちながら、その他の製造条件は変えずに単結晶シリコンの製造を繰り返し行ったところ、得られたシリコン単結晶の酸素濃度は育成回数が増加するにつれて所望とする酸素濃度から徐々にずれることが判明した。
【0011】
そこで、本発明の目的は、製造された単結晶シリコンの酸素濃度が所望とする値からずれるのを抑制することができる単結晶シリコンの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決する本発明は以下の通りである。
[1]単結晶引き上げ装置内に配置された、カーボン製るつぼ内に収容された石英製るつぼ内にシリコン原料を充填し、前記カーボン製るつぼの周囲に配置したヒーターよって前記シリコン原料を溶融してシリコン融液とする第1工程と、
前記第1工程後、前記カーボン製るつぼの高さ位置を調節することによって前記シリコン融液の液面の高さ位置を前記ヒーターの上端の高さ位置に対して設定された高さ位置に調整する第2工程と、
所望とする酸素濃度を有する単結晶シリコンが得られるように調整された製造条件の下で、種結晶を前記シリコン融液に浸漬して引き上げ、前記種結晶下端に単結晶シリコンを成長させる第3工程とを備え、
前記第1工程から前記第3工程を行って単結晶シリコンを製造する操作を繰り返すことにより複数本の単結晶シリコンを製造するチョクラルスキー法による単結晶シリコンの製造方法であって、
前記ヒーターの上端の高さ位置と前記カーボン製るつぼの上端の高さ位置との差と、製造された単結晶シリコンの酸素濃度の実績値との関係を前記製造条件に対して予め求めておき、
前記第3工程において、求めた前記関係に基づいて前記製造条件を修正することを特徴とする単結晶シリコンの製造方法。
【0013】
[2]前記第3工程後に、製造された単結晶シリコンの酸素濃度を測定し、
次のバッチにおいて、
前記第2工程後に前記ヒーターの上端の高さと前記カーボン製るつぼの上端の高さとの差を求め、求めた差および前記関係から、前記第3工程において製造される単結晶シリコンの酸素濃度の前記設定された酸素濃度からのずれを予測し、前記第3工程は、予測された前記ずれを相殺するように前記製造条件を修正して行う、前記[1]に記載の単結晶シリコンの製造方法。
【0014】
[3]各バッチにおいて、
前記第2工程後に、前記ヒーターの上端の高さと前記カーボン製るつぼの上端の高さとの差を求め、求めた差および前記関係から、前記第3工程において製造される単結晶シリコンの酸素濃度の前記設定された酸素濃度からのずれを予測し、前記第3工程は、予測された前記ずれを相殺するように前記製造条件を修正して行う、前記[1]に記載の単結晶シリコンの製造方法。
【0015】
[4]前記製造条件は、前記るつぼの回転速度、前記種結晶の回転速度、前記ヒーターの出力、前記単結晶引き上げ装置内に導入する不活性ガスの流量および前記チャンバー内の圧力の少なくとも1つである、前記[1]~[3]のいずれか一項に記載の単結晶シリコンの製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、製造された単結晶シリコンの酸素濃度が所望とする値からずれるのを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】CZ法により単結晶シリコンインゴットを育成する一般的な単結晶引き上げ装置の一例を示す図である。
図2】バッチ毎にヒーターの上端の高さとシリコン融液の液面の高さとの差が変動する原因について説明する図である。
図3】従来例の各バッチにおいて製造された単結晶シリコンの引き上げ方向の酸素濃度を示す図である。
図4】発明例1の各バッチにおいて製造された単結晶シリコンの引き上げ方向の酸素濃度を示す図である。
図5】発明例2の各バッチにおいて製造された単結晶シリコンの引き上げ方向の酸素濃度を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。本発明者は、CZ法により単結晶シリコンを繰り返し製造した際に、製造された単結晶シリコンの酸素濃度が所望とする酸素濃度からずれる原因について鋭意検討した。単結晶シリコン中の酸素の発生源は石英製るつぼ52aであるため、上記酸素濃度のずれは、石英製るつぼ52aの状態が変化したことによるものと考えられる。
【0019】
CZ法によって単結晶シリコンを繰り返し製造する際、バッチ毎に石英製るつぼ52aを交換する場合と、同一の石英製るつぼ52aを使い続ける場合の2つの場合がある。バッチ毎に石英製るつぼ52aを交換する場合、石英製るつぼ52aは、同一の仕様のものでも個体差があり、形状や容積にばらつきがある。そのため、バッチ毎に石英製るつぼ52aを交換する場合には、同一の製造条件で単結晶シリコンを製造した場合であっても、製造した単結晶シリコンの酸素濃度が所望とする値からずれ得る。
【0020】
一方、同じ石英製るつぼ52aを使い回す場合には、石英製るつぼ52aの個体差に起因する酸素濃度のずれは生じないはずである。しかし、本発明者が同じ石英製るつぼ52aを用いて単結晶シリコンの製造を繰り返し行ったところ、バッチ数が増加するにつれて酸素濃度が所望とする値からずれてゆくことが判明した。
【0021】
本発明者は、上記原因について鋭意究明する過程で、カーボン製るつぼ52bの高さ、ひいては単結晶シリコンを引き上げる際のヒーター54の上端の高さ位置に対するカーボン製るつぼ52bの上端の高さ位置がバッチ毎に異なっていることに気づいた。すなわち、上述のように、ヒーター54によって石英製るつぼ52aに充填されたシリコン原料を加熱溶融してシリコン融液Mを得た後、るつぼ回転昇降軸53によってカーボン製るつぼ52bの高さ位置を調節し、シリコン融液Mの液面の高さ位置をヒーター54の上端の高さに対して設定された高さ位置に調整する。これは、単結晶シリコンを引き上げる際、バッチ間での熱履歴変化による単結晶の品質変化が生じないようにするためである。
【0022】
上述のように調整されるシリコン融液Mの液面の高さ位置は、全てのバッチについて同じである。従って、同じ石英製るつぼ52aを用いて単結晶シリコンの製造を繰り返す場合には、ヒーター54の上端の高さ位置に対するカーボン製るつぼ52bの上端の高さ位置は変化しないはずである。
【0023】
本発明者は、上記カーボン製るつぼ52bの上端の高さ位置は変化の変化は、石英製るつぼ52aが単結晶シリコンの引き上げ時にシリコン融液Mの熱によって変形し、石英製るつぼ52aの容積が変化したためではないかと推測した。
【0024】
すなわち、図2に示すように、新品の石英製るつぼ52aを用いて単結晶シリコンを製造するバッチ1において、シリコン融液Mの液面の高さ位置が調整された後のヒーター54の上面の高さとカーボン製るつぼ52bの上面の高さとカーボン製るつぼ52bの上面の高さの差がaであった場合に、次のバッチ2において、石英製るつぼ52aが変形して下部の厚みが増加し、石英製るつぼ52aの上端の高さが下がり、容積が小さくなったとする。
【0025】
この場合、バッチ2においては、バッチ1と同じ量のシリコン原料を石英製るつぼ52a内に充填したとしても、石英製るつぼ52a内のシリコン融液Mの液面の高さは、バッチ1に比べて高くなる。そのため、バッチ2において、シリコン融液Mの液面の高さ位置を、バッチ1ど同じようにヒーター54の上面に対して所定の高さ位置に調整するためには、バッチ1に比べてるつぼ52の高さ位置を低くする必要がある。
【0026】
このように、石英製るつぼ52aの変形によって容積が変化する一方、シリコン融液Mの高さ位置は同一の所定の高さ位置に調整されるために、バッチ毎にるつぼ52とヒーター54との位置関係が変化し、単結晶シリコンに取り込まれる酸素の量が変動して、製造された酸素濃度が所望とする値からずれたものと考えられる。
【0027】
そこで、本発明者は、上述のように熱変形し得る石英製るつぼ52aを用いて単結晶シリコンを繰り返し製造する場合にも、所望とする酸素濃度からのずれを抑制できる方途について鋭意検討した。その結果、所望とする酸素濃度の単結晶シリコンが製造されるように調整された製造条件に対して、ヒーター54の上端の高さ位置とカーボン製るつぼ52bの上端の高さ位置との差と、製造された単結晶シリコンの酸素濃度の実績値との関係を予め求めておき、求めた上記関係に基づいて製造条件を修正して単結晶シリコンの引き上げを行うことが極めて有効であることを見出し、本発明を完成させたのである。以下、各工程について説明する。
【0028】
まず、第1工程において、カーボン製るつぼ52b内に収容された石英製るつぼ52aにシリコン原料を充填し、カーボン製るつぼ52bの周囲に配置したヒーター54よってシリコン原料を溶融してシリコン融液Mとする。
【0029】
本発明において使用するるつぼは、石英製るつぼ52aとカーボン製るつぼ52bとで構成されたるつぼ52であり、石英製るつぼ52aはカーボン製るつぼ52b内に収容されている。カーボン製るつぼ52bとしては、黒鉛のほか、炭素繊維強化炭素複合材(carbon fiber reinforced-carbon matrix-composite)からなるものを用いることができる。本発明においては、同一のるつぼ52を用いて単結晶シリコンの製造を繰り返し行う。
【0030】
また、シリコン原料としては、多結晶シリコンなどの公知の材料を用いることができる。導電型をP型あるいはN型に調整するために、リンやボロンなどの適切なドーパントを添加することができる。
【0031】
次に、第1工程後、第2工程において、カーボン製るつぼ52bの高さ位置を調節することによって、シリコン融液Mの液面の高さ位置をヒーター54の上端の高さ位置に対して設定された高さ位置に調整する。
【0032】
そして、第3工程において、所望とする酸素濃度を有する単結晶シリコンが得られるように調整された製造条件の下で、種結晶Sをシリコン融液Mに浸漬して引き上げ、種結晶S下端に単結晶シリコンを成長させる。
【0033】
上記設定された酸素濃度は、仕様に応じて適切に設定することができるが、例えば、11×1017atoms/cm3~13×1017atoms/cm3の範囲である。
【0034】
上述のような範囲の酸素濃度に調整するためのパラメータとしては、カーボン製るつぼ52bの回転速度や、種結晶Sの回転速度、ヒーター54の出力、単結晶引き上げ装置100内に導入する不活性ガスの流量、単結晶引き上げ装置100のチャンバー51内の圧力などを挙げることができる。そこで、これらのパラメータを上記所望とする酸素濃度を有する単結晶シリコンが得られるように調整しておく。そして、調整された製造条件の下で種結晶Sをシリコン融液Mに浸漬して引き上げ、種結晶S下端に単結晶シリコンを成長させる。
【0035】
以上の第1工程から第3工程を繰り返すことによって、所望とする酸素濃度を有する単結晶シリコンの製造を繰り返し行うが、石英製るつぼ52aの形状変化などによって製造される酸素濃度が仕様(所望とする)からずれが生じる。そこで、本発明においては、ヒーター54の上端の高さ位置とカーボン製るつぼ52bの上端の高さ位置との差と、製造された単結晶シリコンの酸素濃度の実績値との関係を単結晶シリコンの製造条件毎に求めておく。
【0036】
そして、求めた上記関係に基づいて、第3工程における製造条件を修正することによって、製造される単結晶シリコンの酸素濃度の所望とする値からのずれを抑制することができる。これは、例えば、第3工程の後に製造された単結晶シリコンの酸素濃度を測定し、測定された酸素濃度の所望とする値からのずれが大きかった(許容値を超えている)場合に、次のバッチでの製造条件を修正して行うことができる。
【0037】
具体的には、次のバッチにおいて、まず、第2工程後にヒーター54の上端の高さとカーボン製るつぼ52bの上端の高さとの差を求める。次いで、求めた差および予め求めて置いた関係から、続く第3工程において製造される単結晶シリコンの酸素濃度の所望とする酸素濃度からのずれを予測する。そして、第3工程を、予測されたずれを相殺するように製造条件を修正して行う。こうして、上記次のバッチにおいては、製造された単結晶シリコンの酸素濃度の所望とする値からのずれを抑制することができる。
【0038】
上記方法は、製造された単結晶シリコンの酸素濃度の所望とする値からのずれが大きかった場合に対する対応であるが、各バッチにおいて、第2工程後のヒーター54の上端の高さとカーボン製るつぼ52bの上端の高さとの差を求め、求めた差および上記関係から、第3工程において製造される単結晶シリコンの酸素濃度の所望とする酸素濃度からのずれを予測し、第3工程を予測されたずれを相殺するように製造条件を修正して行うこともできる。これにより、各バッチにおいて、製造される単結晶シリコンの酸素濃度が所望とする値からずれるのを抑制することができる。
【0039】
上記製造条件の修正は、上述のるつぼ52の回転速度や、種結晶Sの回転速度、ヒーター54の出力、単結晶引き上げ装置100内に導入する不活性ガスの流量、単結晶引き上げ装置100のチャンバー51内の圧力を変更することにより行うことができる。これらのパラメータをどの程度変更すれば酸素濃度がどの程度変化するかは、単結晶引き上げ装置の仕様や製造条件に依存するため、一概には決まらない。そこで、パラメータの変化量と酸素濃度の変化量との関係を予め求めておき、求めた関係に基づいて製造条件を修正することが好ましい。
【実施例
【0040】
(従来例)
図1に示した単結晶引き上げ装置100を用いて単結晶シリコンインゴットIを引き上げ、単結晶シリコンを製造した。具体的には、まず、石英製るつぼ52aにシリコン原料として多結晶シリコンを充填し、チャンバー51内を減圧して不活性ガスとしてArガスを供給した後、ヒータ54によってるつぼ52内に充填された多結晶シリコン等のシリコン原料を加熱して溶融し、シリコン融液Mを得た(第1工程)。次いで、るつぼ回転昇降軸53によってカーボン製るつぼ52bの高さ位置を調節し、シリコン融液Mの液面の高さ位置をヒーター54の上端の高さ位置に対して設定された位置に調整した(第2工程)。そして、酸素濃度が所望とする値(12.0×1017atoms/cm3)の単結晶シリコンが得られるように、るつぼ52の回転速度、種結晶S(引き上げ結晶)の回転速度、Arガスの流量、ヒーター54の出力、チャンバー51内の圧力などの製造条件を調整して、単結晶シリコンインゴットIを引き上げて単結晶シリコンを製造した(第3工程)。
【0041】
上記第1工程から第3工程までを1バッチとして、単結晶シリコンの製造を3バッチ行った。各バッチでのヒーター54の上端の高さ位置を基準とするカーボン製るつぼ52bの上端との高さ位置の差を表1に示す。なお、表1における負の値は、ヒーター54の上端よりも鉛直方向下方に位置することを意味している。また、各バッチにおいて製造された単結晶シリコンの結晶引き上げ方向の酸素濃度(格子間酸素濃度Oi)を図3に示す。
【0042】
【表1】
【0043】
(発明例1)
図3に示すように、従来例のバッチ3において製造された単結晶シリコンの酸素濃度の所望とする値(12.0×1017atoms/cm3)からのずれが大きかったため、追加の単結晶シリコンの製造(バッチ4)を行った。その際、予め求めておいた、ヒーター54の上端の高さ位置とカーボン製るつぼ52bの上端の高さ位置との差と、製造された単結晶シリコンの酸素濃度の実績値との関係から、上記ずれを相殺するようにArガスの流量を調節した。バッチ4でのヒーター54の上端の高さ位置を基準とするカーボン製るつぼ52bの上端との高さ位置の差を表2に示す。また、バッチ4において製造された単結晶シリコンの結晶引き上げ方向の酸素濃度(格子間酸素濃度Oi)を、バッチ1~3において製造された単結晶シリコンの酸素濃度と合わせて図4に示す。
【0044】
【表2】
【0045】
(発明例2)
従来例と同様に単結晶シリコンの製造を3回行った。ただし、各バッチにおいて、第2工程の後に、ヒーター54の上端の高さとカーボン製るつぼ52bの上端の高さとの差を求め、求めた差および予め求めておいたヒーター54の上端の高さとカーボン製るつぼ52bの上端の高さとの差と、製造された単結晶シリコンの酸素濃度の実績値との関係から、第3工程において製造される単結晶シリコンの酸素濃度の所望とする酸素濃度からのずれを予測し、第3工程を、予測されたずれを相殺するように製造条件を修正して行った。その他の条件は従来例と同じである。各バッチでのヒーター54の上端の高さ位置を基準とするカーボン製るつぼ52bの上端との高さ位置の差を表3に示す。また、各バッチにおいて製造された単結晶シリコンの結晶引き上げ方向の酸素濃度(格子間酸素濃度Oi)を図5に示す。
【0046】
【表3】
【0047】
まず、従来例と発明例1とを比較すると、表1および2から明らかなように、従来例および発明例1のいずれにおいても、単結晶シリコンの製造を繰り返すにつれてカーボン製るつぼ52bの上端の位置が下方に移動することが分かる。そして、図3から明らかなように、従来例のバッチ3において製造された単結晶シリコンの酸素濃度は、所望とする値である12.0×1017atoms/cm3から大きく低下した。しかし、図4に示すように、発明例1のバッチ4において製造された単結晶シリコンの酸素濃度はほぼ仕様どおりとなった。また、発明例2については、表3から明らかなように、従来例および発明例1と同様に、単結晶シリコンの製造を繰り返すにつれてカーボン製るつぼ52bの上端の位置が下方に移動した。また、図5に示すように、各バッチにおいて、製造された単結晶シリコンの酸素濃度は、ほぼ仕様通りであることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明によれば、製造された単結晶シリコンの酸素濃度が所望とする値からずれるのを抑制することができるため、半導体ウェーハ製造業において有用である。
【符号の説明】
【0049】
51 チャンバー
52 るつぼ
52a 石英製るつぼ
52b カーボン製るつぼ
53 るつぼ回転昇降軸
54 ヒーター
55 引き上げ軸
56 種結晶保持器
57 ガス導入口
58 ガス導出口
60 熱遮蔽部材
100 単結晶引き上げ装置
図1
図2
図3
図4
図5