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特許7047814窒化ホウ素ナノチューブ強化アルミニウム複合鋳造物の製造方法、窒化ホウ素ナノチューブ強化アルミニウム複合鋳造物、及び窒化ホウ素ナノチューブ強化アルミニウム複合鋳造物製造用マスターバッチ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-28
(45)【発行日】2022-04-05
(54)【発明の名称】窒化ホウ素ナノチューブ強化アルミニウム複合鋳造物の製造方法、窒化ホウ素ナノチューブ強化アルミニウム複合鋳造物、及び窒化ホウ素ナノチューブ強化アルミニウム複合鋳造物製造用マスターバッチ
(51)【国際特許分類】
   B22D 19/14 20060101AFI20220329BHJP
   B22D 19/00 20060101ALI20220329BHJP
   C01B 21/064 20060101ALI20220329BHJP
【FI】
B22D19/14 B
B22D19/00 V
C01B21/064 Z
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019102135
(22)【出願日】2019-05-31
(65)【公開番号】P2019214073
(43)【公開日】2019-12-19
【審査請求日】2021-01-08
(31)【優先権主張番号】P 2018109194
(32)【優先日】2018-06-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡井 誠
(72)【発明者】
【氏名】山浦 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】杉江 一寿
(72)【発明者】
【氏名】山根 英也
【審査官】松村 駿一
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第104233018(CN,A)
【文献】特開2007-291438(JP,A)
【文献】Acta Materialia,2016年12月30日,Vol.126,p.124-131
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 19/14
B22D 19/00
C01B 21/064
Scopus
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程:
(a)窒化ホウ素ナノチューブと第1のアルミニウム母材とを混合した後ペレット化する工程;
(b)工程(a)で得られたペレットを加熱し、溶融及び混合して溶湯を得る工程;
(c)工程(b)で得られた溶湯を冷却固化してマスターバッチを得る工程;及び
(d)工程(c)で得られたマスターバッチと第2のアルミニウム母材とを溶融及び混合した後冷却固化する工程
を含む、窒化ホウ素ナノチューブ強化アルミニウム複合鋳造物の製造方法。
【請求項2】
工程(d)が、工程(c)で得られたマスターバッチを第2のアルミニウム母材の溶湯に投入し、溶融及び混合した後冷却固化する工程、又は工程(c)で得られたマスターバッチと第2のアルミニウム母材とを同時に加熱し、溶融及び混合した後冷却固化する工程である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
工程(a)において、窒化ホウ素ナノチューブを、窒化ホウ素ナノチューブと第1のアルミニウム母材との合計量に対して、10質量%以上80質量%以下の量で用いる、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
工程(a)において、15MPa以上30MPa以下の圧力でペレット化を行う、請求項1~3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
工程(b)において、ペレットを700℃以上900℃以下に加熱して溶融する、請求項1~4のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
工程(b)において、撹拌及び静置を反復して行い溶湯を得る、請求項1~5のいずれか1項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化ホウ素ナノチューブ強化アルミニウム複合体鋳造物の製造方法、窒化ホウ素ナノチューブ強化アルミニウム複合体鋳造物、及び窒化ホウ素ナノチューブ強化アルミニウム複合鋳造物製造用マスターバッチに関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属材の機械的強度向上を目的として、金属母材中に微小繊維状物質を分散させた複合材の研究開発が進められている。例えば、軽量金属であるアルミニウム母材中に、カーボンナノチューブを分散させた複合材の研究が盛んに行われている。しかし、カーボンナノチューブとアルミニウムの複合材では、アルミニウム母材とカーボンナノチューブとの界面接合性(密着性)が不十分であることと、アルミニウム母材中でのカーボンナノチューブの化学的安定性が不十分であることが問題となっている。
【0003】
一方、近年、アルミニウム母材中に窒化ホウ素ナノチューブを分散させた、窒化ホウ素ナノチューブ複合体(以下、BNNT/Al複合体という。)が注目されている。窒化ホウ素ナノチューブ(以下、BNNTという。)とは、窒素(N)原子とホウ素(B)原子とが交互に結合したシートが筒状体を形成したナノチューブ(NT)である。炭素(C)原子が結合したシートの筒状体であるカーボンナノチューブ(CNT)に比較して、BNNTは、同等の機械的特性を有し、熱的安定性が高いとされている。
【0004】
例えば、非特許文献1には、アルミニウム(Al)粉末とBNNTとを混合し、5GPaの高圧力下でねじり加工を加えることによりBNNT/Al複合体を作製する方法(高圧ねじり加工法)が開示されている。非特許文献1の方法によると、BNNTとAlとの界面領域に非晶質状の極薄Al(BNO)層(厚さ2~5nm)が形成され、室温の引張強さが純Al材に比して2倍超に向上したBNNT/Al複合体が得られるとしている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Yanming Xue et al., “Aluminum matrix composites reinforced with multi-walled boron nitride nanotubes fabricated by a high-pressure torsion technique”, Materials and Design, vol. 88 (2015), pp. 451-460
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、非特許文献1の方法は、高圧ねじり加工法という特殊な製造方法を利用しており、作製すべき試料を全体的に均一に5GPa程度の高圧力をかけながら、さらにねじり応力を印加する必要がある。そのため、得られる複合体の形状自由度及び形状制御性に難点があり、製造コストが高くなり易いという問題があった。BNNT自体、高価な材料であり、既存の材料からの置き換えを図るには、製造方法の低コスト化が必要であり、非特許文献1の方法では低コスト化が難しいという問題があった。
【0007】
また、BNNT/Al複合体の製造方法として、形状自由度及び形状制御性が高く低コスト化の点で優れる鋳造法を採用した場合、BNNTの密度はアルミニウムに比較して低いため、大量のアルミニウムの母材の溶湯にBNNTを直接添加しただけでは、添加したBNNTがアルミニウム溶湯の表面に浮遊し、撹拌しても均一に分散し混合することは困難である。そのため、より高い機械的強度が得られないという問題があった。
【0008】
そこで、本発明では、従来技術よりも低コスト化が可能であり、かつ機械的強度に優れる窒化ホウ素ナノチューブ強化アルミニウム複合鋳造物(以下、BNNT/Al複合鋳造物という。)及びその製造方法を提供すること、また、BNNT/Al複合鋳造物を作製する際に用いるのに適したBNNT/Al複合鋳造物製造用マスターバッチ(以下、BNNT/Alマスターバッチという。)を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、BNNT/Al複合体の製造方法として、形状自由度及び形状制御性が高く低コスト化の点で優れる鋳造法を採用し、BNNT/Al複合鋳造物の製造方法を提供するものである。ここで、窒化ホウ素ナノチューブの密度は、アルミニウムに比較して低いため、大量のアルミニウムの母材の溶湯に窒化ホウ素ナノチューブを直接添加しただけでは、添加した窒化ホウ素ナノチューブがアルミニウム溶湯の表面に浮遊し、撹拌しても均一に混合することは困難である。
【0010】
そこで、本発明の製造方法では、ペレット化工程を介してBNNT及び第1のアルミニウム母材を含むマスターバッチを得て、これをさらに第2のアルミニウム母材の溶湯に投入し、混合する、又は第2のアルミニウム母材と同時に加熱して溶融及び混合した後冷却固化することにより、最終的に少量のBNNTの添加量にて機械的強度に優れるBNNT/Al複合体を鋳造物として得られることを見出した。本発明者らは、ペレット化により、BNNTを比較的多量に含むマスターバッチにおいてBNNTが第1のアルミニウム母材に対して濡れている状態とすることが可能となり、これにより、マスターバッチと多量の第2のアルミニウム母材とを溶融及び混合して得られるBNNT/Al複合鋳造物においてもBNNTがアルミニウム母材に対して濡れている状態となり、十分な機械的強度が得られることを見出した。
【0011】
本発明は以下の発明を包含する。尚、以下の製造方法では、第1のアルミニウム母材と第2のアルミニウム母材とが異なる場合をも含むように記載しているが、同一組成のアルミニウム母材を用いるように読み替えてもよく、第1のアルミニウム母材と第2のアルミニウム母材とが異なる組成であってもよいし、同一組成であってもよい。
[1]以下の工程:
(a)窒化ホウ素ナノチューブと第1のアルミニウム母材とを混合した後ペレット化する工程;
(b)工程(a)で得られたペレットを加熱し、溶融及び混合して溶湯を得る工程;
(c)工程(b)で得られた溶湯を冷却固化してマスターバッチを得る工程;及び
(d)工程(c)で得られたマスターバッチと第2のアルミニウム母材とを溶融及び混合した後冷却固化する工程
を含む、窒化ホウ素ナノチューブ強化アルミニウム複合鋳造物の製造方法。
[2]工程(d)が、工程(c)で得られたマスターバッチを第2のアルミニウム母材の溶湯に投入し、溶融及び混合した後冷却固化する工程、又は工程(c)で得られたマスターバッチと第2のアルミニウム母材とを同時に加熱し、溶融及び混合した後冷却固化する工程である、[1]に記載の製造方法。
[3]工程(a)において、窒化ホウ素ナノチューブを、窒化ホウ素ナノチューブと第1のアルミニウム母材との合計量に対して、10質量%以上80質量%以下の量で用いる、[1]又[2]に記載の製造方法。
[4]工程(a)において、15MPa以上30MPa以下の圧力でペレット化を行う、[1]~[3]のいずれかに記載の製造方法。
[5]工程(b)において、ペレットを700℃以上900℃以下に加熱して溶融する、[1]~[4]のいずれかに記載の製造方法。
[6]工程(b)において、撹拌及び静置を反復して行い溶湯を得る、[1]~[5]のいずれかに記載の製造方法。
[7]アルミニウム母材中に複数の窒化ホウ素ナノチューブが分散した窒化ホウ素ナノチューブ強化アルミニウム複合鋳造物製造用マスターバッチであって、
窒化ホウ素ナノチューブが前記アルミニウム母材に対して濡れている、窒化ホウ素ナノチューブ強化アルミニウム複合鋳造物製造用マスターバッチ。
[8]窒化ホウ素ナノチューブを、窒化ホウ素ナノチューブとアルミニウム母材との合計量に対して、10質量%以上80質量%以下の量で含む、[7]に記載の窒化ホウ素ナノチューブ強化アルミニウム複合鋳造物製造用マスターバッチ。
[9]窒化ホウ素ナノチューブがアルミニウム母材に対して濡れている、窒化ホウ素ナノチューブ強化アルミニウム複合鋳造物。
[10]窒化ホウ素ナノチューブを、窒化ホウ素ナノチューブとアルミニウム母材との合計量に対して、0.1質量%以上8質量%以下の量で含む、[9]に記載の窒化ホウ素ナノチューブ強化アルミニウム複合鋳造物。
【発明の効果】
【0012】
本発明により得られるBNNT/Al複合鋳造物は機械的強度に優れる。また、本発明によれば、低コスト化が可能であり、かつ機械的強度に優れるBNNT/Al複合鋳造物、及びその製造方法と、BNNT/Al複合鋳造物を作製する際に用いるのに適した、BNNT/Al複合鋳造物製造用マスターバッチを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明に係るBNNT/Alマスターバッチの製造方法の一実施形態を示す工程図である。
図2】本発明に係るBNNT/Al複合鋳造物の製造方法の一実施形態を示す工程図である。
図3】実施例1において得られるマスターバッチの薄膜化断面TEM観察像である。
図4】実施例1のBNNT/Al複合鋳造物の薄膜化断面TEM観察像である。
図5】実施例1のBNNT/Al複合鋳造物の薄膜化断面TEM観察像である。
図6】実施例1のBNNT/Al複合鋳造物の薄膜化断面TEM観察像である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、BNNT/Al複合鋳造物の製造方法に関し、以下の工程:(a)BNNTと第1のアルミニウム母材とを混合した後ペレット化する工程;(b)工程(a)で得られたペレットを加熱し、溶融及び混合して溶湯を得る工程;(c)工程(b)で得られた溶湯を冷却固化してマスターバッチを得る工程;及び(d)工程(c)で得られたマスターバッチと第2のアルミニウム母材とを溶融及び混合した後冷却固化する工程を含むことを特徴とする(以下、本発明の製造方法ともいう)。尚、工程(d)は、工程(c)で得られたマスターバッチを第2のアルミニウム母材の溶湯に投入し、溶融及び混合した後冷却固化する工程とすることでもよいし、又は工程(c)で得られたマスターバッチと第2のアルミニウム母材とを同時に加熱し、溶融及び混合した後冷却固化する工程であってもよい。本発明の製造方法によれば、ペレット化工程を介してBNNT及び第1のアルミニウム母材を含むマスターバッチを得て、このマスターバッチと第2のアルミニウム母材とを溶融及び混合する工程をとる。その後、これらの混合物を冷却固化することにより、最終的に少量のBNNTの添加量で、機械的強度に優れるBNNT/Al複合体鋳造物を得られるものである。予め、ペレット化することにより、BNNTを比較的多量に含むマスターバッチにおいてBNNTが第1のアルミニウム母材に対して濡れている状態とすることが可能となる。これによりマスターバッチと多量の第2のアルミニウム母材とを溶融及び混合して得られるBNNT/Al複合鋳造物においてもBNNTがアルミニウム母材に対して濡れている状態となり、十分な機械的強度が得られるものである。また本発明の製造方法は、BNNT/Al複合体を鋳造物として得るものであるため、形状自由度及び形状制御性が高く、かつ経済的である。
【0015】
以下、本発明の製造方法を工程ごとに説明する。
【0016】
工程(a):BNNTと第1のアルミニウム母材とを混合した後ペレット化する工程。
工程(a)により得られるペレットは、BNNTと第1のアルミニウム母材原料が圧縮接合した固形物又は小片の固形物である。工程(b)において、個々のペレットは徐々に溶融しBNNTは第1のアルミニウム母材と、一緒に混合し、均一に分散した溶湯とすることができ、工程(c)において得られるマスターバッチにおいて、BNNTが第1のアルミニウム母材に対して濡れている状態とすることができる。ここで、「BNNTがアルミニウム母材に対して濡れている」とは、薄膜化断面TEM観察像の一視野において、BNNTとアルミニウム母材との接触界面が確認でき、且つその界面に他の物質、例えばBNNTとAlとの化学反応により生じた化合物、又はボイド等の介在物が存在しないことをいう。TEM観察では、サンプルの薄膜化が重要であり、厚さ20nm以下にすることにより、TEM観察によりBNNTがアルミニウム母材に対して濡れていることを観察像で確認することができる。また、BNNTの添加によりアルミニウム母材に対してヤング率や引張強度等の機械的強度が向上することも、BNNTがアルミニウム母材に対して濡れている状態にあることの指標となる。具体的には、BNNTの添加により、アルミニウム母材の機械的強度に対してヤング率は1.5倍以上向上し、且つ/又は引張強度は2倍以上向上する。このように機械的強度が向上することで濡れていた状態にあったと考えられる。
【0017】
工程(a)において、BNNTと第1のアルミニウム母材との混合は、これらを含む懸濁液を調製して超音波処理することにより行うことが好ましい。これにより、特にBNNTがファンデルワールス引力により束になり、得られるマスターバッチにおいてアルミニウム母材とBNNTとの界面が減少することを防ぐことができる。懸濁液に用いる溶媒としては、BNNTに対して、一定の分散能があれば、特に制限されず、例えばメタノール、エタノール及びイソプロピルアルコール等のアルコールを用いることができる。さらには、工程(a)において、上記懸濁液をろ過して得られた残渣を乾燥させたものを加圧することが好ましい。これにより、所望の大きさ又は粒径を有するBNNT及び第1のアルミニウム母材を選別することができる。
【0018】
工程(a)において得られるペレットの形状は、数ミリ~センチ程度の角柱の小片や、直径数ミリ~センチ程度、高さ数ミリ~センチ程度の円柱の小片であることが好ましい。また、工程(a)において得られるペレットは、BNNTと第1のアルミニウム母材とが空隙率10%以下で圧縮接合した状態、具体的にはその密度がアルミニウムの密度2.70g/cmの90%以上であることが好ましい。このような物性を有するペレットを得る観点から、ペレット化する際の圧力は、好ましくは10MPa~30MPa、より好ましくは15MPa~30MPa、特に好ましくは25MPa~30MPaである。本発明の製造方法は、このような比較的小さい圧力にて得られるペレットを用いて機械的強度に優れるBNNT/Al複合体を鋳造物として得ることができるため、経済的に有利である。加圧する手段は特に制限されないが、例えばハンドプレス装置、及び油圧式プレス装置等を挙げることができる。また工程(a)においては、BNNTと第1のアルミニウム母材とが均一に混合しており、BNNTの大きな塊が無いために、例えばSi等の添加剤を加えることなく所望のペレットを得ることが可能であり、この点においても経済的に有利である。尚、本明細書において「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
【0019】
工程(a)において用いるBNNTの層数は、BNNT/Al複合鋳造物の強度を向上させ、かつ経済的に有利とする観点から、好ましくは2層以上10層以下、より好ましくは2層以上5層以下である。単層の場合は、ナノチューブが一部損傷して強度不足となる恐れがある。また、10層を超える場合は、比表面積が小さくなるため、アルミニウム母材とBNNTとの界面を多くするために大量のBNNTを使用する必要があり、経済的に不利となる。
【0020】
上記BNNTは、比較的短繊維の集合体である粉末であることが好ましい。また、上記BNNTの長さは、繊維状物質としての機能を発現させ、かつ均一に分散させる観点から、サブミクロンから数ミクロン程度、具体的には、0.2μm以上5.0μm以下であることが好ましい。上記下限値未満であると、短すぎるために、繊維状物質としての機能を発現できない。また、上記上限値を超えると、絡まりが強く、均一に分散させることが困難となる。
【0021】
工程(a)において用いる第1のアルミニウム母材は、純アルミニウム、並びに、銅、マンガン、シリコン、マグネシウム、亜鉛、ニッケル、鉄、クロム及びチタンの少なくとも1種を含有するアルミニウムを主成分とする合金であってもよい。ここで、アルミニウムを主成分とする合金とは、アルミニウム以外の金属を合金に対して10質量%以下で含有するものがよく、後の工程(c)及び(d)において冷却固化した際にアルミニウムと共晶組織を形成し得るものが好ましい。当業者は本発明の効果を損なわない範囲内で適宜含有量を調整することができる。
【0022】
第1のアルミニウム母材は粉末であることが好ましい。また、上記第1のアルミニウム母材の粒径(直径)は、加熱時に表面酸化膜の形成により溶融が困難となることを防ぎ、かつ均一に分散させる観点から、数十ミクロンから数ミリ程度、具体的には、好ましくは30μm以上2.0mm以下、より好ましくは30μm以上300μm以下である。上記下限値未満の場合、表面酸化膜のために加熱により溶融させることが困難となる。また、上記上限値を超える場合は、比表面積が小さいために、例えば超音波処理等の手段により、均一に分散させることが困難である。
【0023】
工程(a)において、BNNTは、BNNTと第1のアルミニウム母材との合計量に対して、好ましくは10質量%以上80質量%以下、より好ましくは20質量%以上60質量%以下、特に好ましくは30質量%以上60質量%以下の量で用いる。この量のBNNTを含むペレットを用いて、工程(d)により得られるBNNT/Al複合鋳造物におけるBNNTの量は約0.1質量%以上8質量%以下という少量の含有量で所望の機械的強度を発揮できる。BNNTは高価であることから、ペレット化して用いることは経済的観点からも好ましい。尚、所望の機械的強度とは、アルミニウム母材に対してヤング率が1.5倍以上であり、且つ/又は引張強度が2倍以上であることをいう。また、マスターバッチにおけるBNNTの含有濃度は、工程(d)により得られるBNNT/Al複合鋳造物における含有濃度の10倍~100倍であることが経済的である。一方、BNNTの添加量が80質量%を超えると、加圧によるペレット化が困難となり、その後の攪拌による均一溶融が困難となる。
【0024】
工程(b):工程(a)で得られたペレットを加熱し、溶融及び混合して溶湯を得る工程。
工程(b)において得られる均一な溶湯とすることで、後の工程(c)で冷却固化して得られるマスターバッチにおいても、BNNTが第1のアルミニウム母材に対して濡れている状態とすることができる。
【0025】
工程(b)において、アルミニウムの融点より十分高くして容易にアルミニウムを溶融し、かつBNNTに対する熱損傷を最低限に抑える観点から、ペレットを好ましくは700℃~900℃、より好ましくは700℃~800℃に加熱して溶融する。また安全性と経済性の観点から、昇温速度は、好ましくは10~80℃/分、より好ましくは30~70℃/分である。さらには、BNNTとアルミニウム母材を均一に混合する観点から、溶融する際は撹拌及び静置を反復して行うことが好ましい。また、アルミニウム母材の酸化反応を極力抑える観点から、撹拌はゆっくり行うことが好ましく、具体的な撹拌速度、撹拌時間及び静置時間等の条件は、製造する際の原料の量等に依存し、当業者であれば適宜設定することができる。
【0026】
工程(c):工程(b)で得られた溶湯を冷却固化してマスターバッチを得る工程。
工程(c)によりBNNTが第1のアルミニウム母材に対して濡れている状態であるマスターバッチが得られる。また、工程(c)においては、マスターバッチを得るための冷却は共晶組織微細化の観点から急冷により行うことが好ましい。尚、マスターバッチの形状、大きさは任意であるが、例えば数センチ~数十センチ程度の角柱や円柱状とすることができる。
【0027】
工程(d):工程(c)で得られたマスターバッチと第2のアルミニウム母材とを溶融及び混合した後冷却固化する工程。より具体的には、工程(c)で得られたマスターバッチを第2のアルミニウム母材の溶湯に投入し、溶融及び混合した後冷却固化する工程、又は工程(c)で得られたマスターバッチと第2のアルミニウム母材とを同時に加熱し、溶融及び混合した後冷却固化する工程。
工程(d)においては、BNNTが第1のアルミニウム母材に対して濡れている状態であるマスターバッチを用いているために、BNNTが溶湯の表面に浮遊したり、部分的に偏ったり、絡んだりせずに、アルミニウム溶湯に対して一様に分散することができる。よって、得られる鋳造物において、BNNTがアルミニウム母材に対して濡れている状態とすることができ、よって機械的強度に優れる鋳造物を得ることができる。また、工程(d)においては、添加剤を加えることなく所望の鋳造物を得ることも可能であり、この点においても経済的に有利である。冷却は共晶組織微細化の観点から急冷により行うことが好ましい。
【0028】
工程(d)において、マスターバッチを第2のアルミニウム母材と混合して10倍~100倍の量とすることが経済的観点から好ましい。例えば30質量%のBNNTを含有するマスターバッチ10.0kgを、第2のアルミニウム母材290.0kgと混合することにより、BNNTを1質量%含有したBNNT/Al複合鋳造物を作製することができる。尚、マスターバッチの個数は1個でもよいし、複数個用いてもよい。
【0029】
工程(d)において用いる第2のアルミニウム母材は、純アルミニウム、並びに、銅、マンガン、シリコン、マグネシウム、亜鉛、ニッケル、鉄、クロム及びチタンの少なくとも1種を含有するアルミニウムを主成分とする合金であってもよい。ここで、アルミニウムを主成分とする合金とは、アルミニウム以外の金属を合金に対して10質量%以下で含有するものがよく、冷却固化した際にアルミニウムと共晶組織を形成し得るものが好ましい。当業者は本発明の効果を損なわない範囲内で適宜含有量を調整することができる。第2のアルミニウム母材は、第1のアルミニウム母材と同一組成であっても異なる組成であってもよい。
【0030】
第2のアルミニウム母材は粉末を用いることができる。また、上記第2のアルミニウム母材の粒径(直径)は、加熱時に表面酸化膜の形成により溶融が困難となることを防ぎ、かつ均一に分散させる観点から、数十ミクロンから数ミリ程度、具体的には、好ましくは30μm以上2.0mm以下、より好ましくは30μm以上300μm以下である。上記下限値未満の場合、表面酸化膜のために加熱により溶融させることが困難となる。また、上記上限値を超える場合は、比表面積が小さいために、例えば超音波処理等の手段により、均一に分散させることが困難である。
【0031】
第2のアルミニウム母材として、アルミニウムの塊を使用することも可能である。その場合、アルミニウムの塊を溶融した後、マスターバッチをその中に投入することで行われる。アルミニウムの塊を用いる場合、粉末化の手間が省けるため、経済的である。アルミニウムの塊の溶融は、好ましくは700℃~900℃、より好ましくは700℃~800℃に加熱して溶融する。また安全性と経済性の観点から、昇温速度は、好ましくは10~80℃/分、より好ましくは30~70℃/分である。アルミニウム溶湯にマスターバッチを投入した後、均一に混合する観点から、撹拌及び静置を反復して行うことが好ましい。また、アルミニウム母材の酸化反応を極力抑える観点から、撹拌はゆっくり行うことが好ましく、具体的な撹拌速度、撹拌時間及び静置時間等の条件は、製造する際の原料の量等に依存し、当業者であれば適宜設定することができる。
【0032】
アルミニウムの塊とマスターバッチを同時に加熱溶融して撹拌して混合することも可能である。同時に加熱することにより、工程を簡略化できるため、経済的である。加熱溶融は、好ましくは700℃~900℃、より好ましくは700℃~800℃に加熱して溶融する。また安全性と経済性の観点から、昇温速度は、好ましくは10~80℃/分、より好ましくは30~70℃/分である。溶融後、均一に混合する観点から、撹拌及び静置を反復して行うことが好ましい。また、アルミニウム母材の酸化反応を極力抑える観点から、撹拌はゆっくり行うことが好ましく、具体的な撹拌速度、撹拌時間及び静置時間等の条件は、製造する際の原料の量等に依存し、当業者であれば適宜設定することができる。
【0033】
工程(d)における第2のアルミニウム母材の溶湯の温度又は加熱温度は、第2のアルミニウム母材の融点より十分高くして容易に第2のアルミニウムを溶融し、かつBNNTに対する熱損傷を最低限に抑える観点から、好ましくは700℃~900℃、より好ましくは700℃~800℃である。また、BNNTと第2のアルミニウム母材を均一に混合する観点から、撹拌及び静置を反復して行うことが好ましい。また、第2のアルミニウム母材の酸化反応を極力抑える観点から、撹拌はゆっくり行うことが好ましく、具体的な撹拌速度、撹拌時間及び静置時間等の条件は、製造する際の原料の量等に依存し、当業者であれば適宜設定することができる。
【0034】
以上の通り、本発明の製造方法の一実施形態では、BNNTとアルミニウムの混合物であるマスターバッチを作製し、さらにそのマスターバッチをアルミニウム溶湯中に投入する等することにより、BNNT/Al複合鋳造物を作製する。このとき、BNNT粉末とアルミニウム粉末とを混合してペレットを形成し、前記ペレットを加熱溶融した後冷却固化し、アルミニウム母材中に前記BNNT粉末が分散したマスターバッチを形成する。そして、このマスターバッチとアルミニウム溶湯とを混合した後冷却固化し、BNNT/Al複合鋳造物を形成する場合、又は、前記マスターバッチと固体アルミニウムとを同時に加熱溶融しつつ混合した後冷却固化し、BNNT/Al複合鋳造物を形成する場合と、を含む、BNNT/Al複合鋳造物の製造方法である。
【0035】
以下、本発明の製造方法の一実施形態を図1及び図2を用いて説明する。
図1にBNNT/Alマスターバッチの作製工程を示す。まず、BNNTと第1のアルミニウム母材を混合する。次に、エタノール溶液中に上記混合物を投入し、よく攪拌した後、超音波処理を施し、均一に分散させる。これをろ過、乾燥させた後、加圧によるペレット化を行う。得られたペレットを加熱し、撹拌により均一に溶融する。これを鋳型に投入し、冷却固化して、マスターバッチを得る。次に、マスターバッチからの鋳造物の作製工程を図2を用いて説明する。BNNTと第1のアルミニウム母材からなるマスターバッチを第2のアルミニウム母材の溶湯に投入し、撹拌により均一に溶融する。これを鋳型に投入し、冷却固化して、鋳造物を得る。
【0036】
本発明の製造方法の別の一実施形態では、BNNTとアルミニウムの混合物であるマスターバッチを作製し、さらにそのマスターバッチと第2のアルミニウム母材の粉末又は塊とを同時に加熱することにより、BNNT/Al複合鋳造物を作製する。本実施形態を具体的に説明する。先ず、BNNTと第1のアルミニウム母材を混合する。次に、エタノール溶液中に上記混合物を投入し、よく攪拌した後、超音波処理を施し、均一に分散させる。これをろ過、乾燥させた後、加圧によるペレット化を行う。得られたペレットを加熱し、撹拌により均一に溶融する。これを鋳型に投入し、冷却固化して、マスターバッチを得る。次に、マスターバッチと第2のアルミニウム母材の粉末、又は塊とを同時に加熱し、均一に溶融し混合する。これを鋳型に投入し、冷却固化して、鋳造物を得る。
【0037】
本発明は、BNNT/Alマスターバッチにも関する。具体的には、第2のアルミニウム母材に対してBNNT及び第1のアルミニウム母材を配合するためのBNNT/Al複合鋳造物製造用マスターバッチであって、当該マスターバッチは、BNNTが第1のアルミニウム母材に対して濡れていることを特徴とする(以下、本発明のマスターバッチともいう)。本発明のマスターバッチは、第2のアルミニウム母材の溶湯に投入し、混合した後冷却固化する工程、又は第2のアルミニウム母材とを同時に加熱し、溶融及び混合した後冷却固化する工程を含む方法によりBNNT/Al複合鋳造物を製造するために用いることができる。本発明のマスターバッチは、上記本発明の製造方法について上述した工程(a)~(c)を含む方法により製造することができる。本発明のマスターバッチは、BNNTを、BNNTと第1のアルミニウム母材との合計量に対して、好ましくは10質量%以上80質量%以下、より好ましくは20質量%以上60質量%以下、特に好ましくは30質量%以上60質量%以下の量で含み、このような多量の含有量で含むにもかかわらず、BNNTが第1のアルミニウム母材に対して濡れており、これを用いて最終的に得られるBNNT/Al複合鋳造物は、アルミニウム母材全体に占めるBNNTの含有量が少ないにも関わらず機械的強度に優れる。
【0038】
本発明は、BNNTがアルミニウム母材に対して濡れているBNNT/Al複合鋳造物にも関する(以下、本発明の鋳造物ともいう)。本発明の鋳造物は、BNNTがアルミニウム母材に対して濡れているために機械的強度に優れる。本発明のBNNT/Al複合鋳造物は、上記本発明の製造方法について上述した工程(a)~(d)を含む方法により製造することができる。本発明の鋳造物は、BNNTを、BNNTとアルミニウム母材(第1のアルミニウム母材及び第2のアルミニウム母材)との合計量に対して、好ましくは0.1質量%以上8質量%以下、より好ましくは0.3質量%以上6質量%以下の量で含み、BNNTの含有量が少ないにも関わらず機械的強度に優れる。鋳造物の機械強度を増強する観点から上記下限値以上とすることが好ましく、BNNTを均一に分散させる観点から上記上限値以下とすることが好ましい。
【0039】
本発明の製造方法により得られるBNNT/Al複合鋳造物は、JIS規格Z2241により機械的強度を測定した際に、ヤング率が100GPa~350GPaであることができる。また、本発明の製造方法により得られるBNNT/Al複合鋳造物は、JIS規格Z2241により機械的強度を測定した際に、引張強度が75MPa~500MPaであることができる。
【実施例
【0040】
以下に、本発明を実施例に基づいて説明する。尚、本発明は以下の実施例によって限定されるものではない。
【0041】
[1:BNNT/Al複合鋳造物の作製]
<実施例1>
以下に、マスターバッチにおけるBNNTの含有量が20質量%の場合の実施例を示す。
【0042】
(1)マスターバッチの作製
BNNT2.0g((製造元)TEKNA社;(商品名)BNNT-P)と第1のアルミニウム母材の粒子8.0g((製造元)和光純薬工業株式会社;(商品名)アルミニウム粉末(CASNO:7429-90-5);粒径53~150μmの混合物)のエタノール懸濁液500mlを調製し、超音波処理を行った。これをろ過、乾燥し、その後プレス型に入れて加圧によりペレット化した。この際、ろ過は一般的な吸引ろ過装置を用いた。また、ろ紙は1ミクロン孔のものを使用した。ろ紙上部に残ったBNNTと第1のアルミニウム母材の粒子の混合物をアルミニウム製のバットに入れて、ホットプレート上でかき混ぜながら乾燥した。ホットプレートの設定温度は250℃とした。また、ペレット化の加圧圧力は15MPaとした。得られたペレットの大きさは、直径5cm、高さ5cmであった。
【0043】
次に、このペレット(数個から数十個程度)を耐熱性容器に入れ、700℃~800℃程度に加熱し、ゆっくりと攪拌することにより、均一な溶湯とした。加熱は釜式の加熱炉を使用し、50℃/分の速度で昇温した。また、耐熱性容器はアルミナ製のものを使用した。700℃に達したところで、釜の蓋をとり、耐熱性容器の内容物をアルミナ製の棒でゆっくり1分間かき混ぜ、再度蓋をして10分間保持し、さらに蓋を開けて1分間かき混ぜた。この操作を繰返し、1分間のかき混ぜを合計5回行った。この攪拌段階で、BNNTが第1のアルミニウム母材に対して濡れた状態となっていると考えられる。次にこの溶湯を鋳型に投入し、冷却固化して、マスターバッチとした。得られたマスターバッチの大きさは、長さ10cm、幅5cm、高さ20cmであった。マスターバッチにおける、BNNTと第1のアルミニウム母材との合計量に対するBNNTの量は20質量%である。尚、図3に示すように、線状に見えるものが、BNNTであり、第1のアルミニウム母材中に、重なるように存在していることがわかる。
【0044】
(2)鋳造物の作製
マスターバッチ10.0gを700℃~800℃程度の第2のアルミニウム母材90.0g((製造元)和光純薬工業株式会社;(商品名)アルミニウム粉末(CASNO:7429-90-5);粒径53~150μmの混合物)の溶湯に投入し、ゆっくり攪拌することにより、均一に溶融させた。かき混ぜ操作は、マスターバッチ作製時と同じで繰り返し行った。次に、この溶湯を鋳型に投入し、冷却固化してBNNT/Al複合鋳造物を得た。鋳造物における、BNNTとアルミニウム母材(第1のアルミニウム母材及び第2のアルミニウム母材)との合計量に対するBNNTの量は2質量%である。
【0045】
<実施例2>
以下に、マスターバッチにおけるBNNTの含有量が50質量%の場合の実施例を示す。
【0046】
(1)マスターバッチの作製
BNNT5.0g((製造元)TEKNA社;(商品名)BNNT-P)と第1のアルミニウム母材の粒子5.0g((製造元)和光純薬工業株式会社;(商品名)アルミニウム粉末(CASNO:7429-90-5);粒径53~150μmの混合物)のエタノール懸濁液500mlを調製し、超音波処理を行った。以下実施例1と同様にマスターバッチを作製した。マスターバッチにおける、BNNTと第1のアルミニウム母材との合計量に対するBNNTの量は50質量%である。
【0047】
(2)鋳造物の作製
マスターバッチ10.0gを700℃~800℃程度の第2のアルミニウム母材990.0g((製造元)和光純薬工業株式会社;(商品名)アルミニウム粉末(CASNO:7429-90-5);粒径53~150μmの混合物)の溶湯に投入し、ゆっくり攪拌することにより、均一に溶融させた。かき混ぜ操作は、マスターバッチ作製時と同じで繰り返し行った。次に、この溶湯を鋳型に投入し、冷却固化してBNNT/Al複合鋳造物を得た。鋳造物における、BNNTとアルミニウム母材(第1のアルミニウム母材及び第2のアルミニウム母材)との合計量に対するBNNTの量は0.5質量%である。
【0048】
<比較例1>
以下に、本発明の製造方法のペレット化工程(工程(a))以降を経ていない場合の比較例を示す。
【0049】
BNNT2.0g((製造元)TEKNA社;(商品名)BNNT-P)と第1のアルミニウム母材の粒子8.0g((製造元)和光純薬工業株式会社;(商品名)アルミニウム粉末(CASNO:7429-90-5);粒径53~150μmの混合物)のエタノール懸濁液500mlを調製し、超音波処理を行った。これをろ過、乾燥した。この際、ろ過は一般的な吸引ろ過装置を用いた。また、ろ紙は1ミクロン孔のものを使用した。ろ紙上部に残ったBNNTと第1のアルミニウム母材の粒子の混合物をアルミニウム製のバットに入れて、ホットプレート上でかき混ぜながら乾燥した。ホットプレートの設定温度は250℃とした。
【0050】
次に、粉末状である上記混合物10.0gを700℃~800℃程度の第2のアルミニウム母材90.0g((製造元)和光純薬工業株式会社;(商品名)アルミニウム粉末(CASNO:7429-90-5);(粒径)53~150μm)の溶湯に投入し、ゆっくり攪拌した。しかしながら、混合物がアルミニウム溶湯の表面に浮遊し、均一に混合することができなかった。
【0051】
[2:マスターバッチ及び鋳造物の評価方法]
(1)TEM(透過型電子顕微鏡)観察
鋳造物から、1cm角の試験片を旋盤を用いて切り出し、樹脂に埋め込んだ後、表面を鏡面研磨した。その後、収束イオンビーム微細加工装置を用いて、縦横100μm、厚さ100nmの試験片を透過型電子顕微鏡観察用のグリットに固定した。その後、アルゴンスパッタ装置を用いて、サンプル厚さを10nm以下に薄膜化して、加速電圧300kVの透過型電子顕微鏡により観察した。TEM観察像において、BNNTとアルミニウム母材が接触した界面が確認でき、且つその界面に他の物質、例えばBNNTとAlとの化学反応により生じた化合物やボイド等の介在物が存在しない場合に、BNNTがアルミニウム母材に対して濡れていると評価した。
【0052】
(2)機械的強度の測定
JIS規格Z2241により機械的強度を測定した。
【0053】
[3:鋳造物の評価結果]
(1)TEM観察結果
実施例1で得られるマスターバッチの薄膜化断面TEM観察像を図3に示す。図3より、BNNTとアルミニウムが反応しておらず、BNNTとアルミニウムの界面に空隙又はボイドが観察されず、BNNTの表面までアルミニウムが存在する(介在物が存在しない)ことから、BNNTは第1のアルミニウム母材に対して、濡れていることが確認できる。また、実施例1で得られたBNNT/Al複合鋳造物の薄膜化断面TEM観察像を図4から図6に示す。図4には、平行線が多く見られ、たとえば平行線のペアが対になったものが、多層のBNNT401である。また、図5には、多層のBNNTの先端部501が見られる。さらに、図6には、2層のBNNT601が見られる。いずれのTEM観察像においても、BNNTとアルミニウムが反応しておらず、BNNTの表面までアルミニウムが存在することから、BNNTはアルミニウムに対して、濡れていることが確認できる。
【0054】
(2)機械的強度の測定結果
実施例1のBNNT/Al複合鋳造物(BNNTの含有量2質量%)の機械的強度を測定した結果、ヤング率は110GPaであり、純アルミニウムの68GPaの1.62倍であった。また、引張強度は420MPaであり、純アルミニウムの165MPaの2.55倍であった。このように、本発明の製造方法によりBNNTを添加して得られたBNNT/Al複合鋳造物は、その機械的強度がアルミニウムと比較して大幅に向上していることがわかった。
【0055】
実施例2のBNNT/Al複合鋳造物(BNNTの含有量0.5質量%)の機械的強度を測定した結果、ヤング率は120GPaであり、純アルミニウムの68GPaの1.76倍であった。また、引張強度は440MPaであり、純アルミニウムの165MPaの2.67倍であった。このように、本発明の製造方法によりBNNTを添加して得られたBNNT/Al複合鋳造物は、その機械的強度がアルミニウムと比較して大幅に向上していることがわかった。
【符号の説明】
【0056】
401…多層のBNNT
501…多層のBNNTの先端部
601…2層のBNNT
図1
図2
図3
図4
図5
図6