(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-28
(45)【発行日】2022-04-05
(54)【発明の名称】水性樹脂組成物、水性塗料、及び塗装物品
(51)【国際特許分類】
C08L 87/00 20060101AFI20220329BHJP
C08G 81/02 20060101ALI20220329BHJP
C08K 5/17 20060101ALI20220329BHJP
C09D 7/63 20180101ALI20220329BHJP
C09D 133/00 20060101ALI20220329BHJP
C09D 167/00 20060101ALI20220329BHJP
C09D 187/00 20060101ALI20220329BHJP
【FI】
C08L87/00
C08G81/02
C08K5/17
C09D7/63
C09D133/00
C09D167/00
C09D187/00
(21)【出願番号】P 2022500691
(86)(22)【出願日】2021-03-04
(86)【国際出願番号】 JP2021008350
(87)【国際公開番号】W WO2021187126
(87)【国際公開日】2021-09-23
【審査請求日】2022-01-06
(31)【優先権主張番号】P 2020049227
(32)【優先日】2020-03-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100177471
【氏名又は名称】小川 眞治
(74)【代理人】
【識別番号】100163290
【氏名又は名称】岩本 明洋
(74)【代理人】
【識別番号】100149445
【氏名又は名称】大野 孝幸
(72)【発明者】
【氏名】岡田 朋大
(72)【発明者】
【氏名】黒島 彰隆
(72)【発明者】
【氏名】向井 隆
(72)【発明者】
【氏名】小坂 典生
【審査官】横山 法緒
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-298877(JP,A)
【文献】特開昭48-000890(JP,A)
【文献】国際公開第2018/139329(WO,A1)
【文献】特開2012-057013(JP,A)
【文献】特表2003-524696(JP,A)
【文献】特開平03-231926(JP,A)
【文献】特開平06-279710(JP,A)
【文献】特開平09-040743(JP,A)
【文献】特開平09-157538(JP,A)
【文献】特許第3564825(JP,B2)
【文献】特開平10-338719(JP,A)
【文献】特開2001-247818(JP,A)
【文献】特開平07-150111(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 81/02
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
C09D 7/63
C09D 133/00
C09D 167/00
C09D 187/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビニル系重合体セグメントを有するアルキド樹脂(A)、塩基性化合物(B)、及び水性媒体(C)を含有する水性樹脂組成物であって、前記アルキド樹脂(A)中の脂環式多塩基酸由来の構造が20~45質量%であることを特徴とする水性樹脂組成物。
【請求項2】
前記アルキド樹脂(A)中のアクリル重合体セグメントが、15~50質量%である請求項1記載の水性樹脂組成物。
【請求項3】
前記アルキド樹脂(A)の酸価が、20~50mgKOH/gである請求項1又は2記載の水性樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項記載の水性樹脂組成物を含有することを特徴とする水性塗料。
【請求項5】
請求項4記載の水性塗料の塗膜を有することを特徴とする塗装物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性樹脂組成物、水性塗料、及び塗装物品に関する。
【背景技術】
【0002】
ビニル変性アルキド樹脂を含有する塗料は、塗料安定性、及びレベリング性に優れる塗膜が得られることから、自動車等、各種工業分野に利用されている。
【0003】
このような状況下、貯蔵安定性に優れる水性アルキド樹脂の製造法として、特定のビニル化脂肪酸とポリオール化合物との縮合生成物を、塩基性化合物で中和する製造法が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。しかしながら、本製造法から得られる水性アルキド樹脂は、建機、建築外装、自動車等、物理的に過酷な環境に置かれる分野で要求される、高硬度と耐衝撃性とを両立した塗膜が得られないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、高硬度かつ耐衝撃性に優れる塗膜が得られる水性樹脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は前記課題を解決すべく検討した結果、特定のアルキド樹脂と、塩基性化合物と、水性媒体とを含有する水性樹脂組成物が、上記課題を解決できることを見出した。
【0007】
すなわち、本発明は、アクリル重合体セグメントを有するアルキド樹脂(A)、塩基性化合物(B)、及び水性媒体(C)を含有する水性樹脂組成物であって、前記アルキド樹脂(A)中の脂環式多塩基酸由来の構造が20~45質量%であることを特徴とする水性樹脂組成物に関するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の水性樹脂組成物は、高硬度かつ耐衝撃性に優れる塗膜が得られることから、自動車、鉄道車両、機械、家具、缶、建築材料等の金属製品;自動車部品、家電製品等のプラスチック製品;家具、建築材料等の木工製品;建築材料、ガラス等の無機素材製品などの水性塗料に好適に使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の水性樹脂組成物は、アクリル重合体セグメントを有するアルキド樹脂(A)、塩基性化合物(B)、及び水性媒体(C)を含有する水性樹脂組成物であって、前記アルキド樹脂(A)中の脂環式多塩基酸由来の構造が20~45質量%であるものである。
【0010】
まず、前記アクリル重合体セグメントを有するアルキド樹脂(A)について説明する。
前記アルキド樹脂(A)は、例えば、カルボキシル基を有するアクリル重合体(a1)と、水酸基を有するアルキド樹脂(a2)とのエステル化反応により得られる。
【0011】
前記重合体(a1)は、例えば、カルボキシル基を有する不飽和単量体と、その他の不飽和単量体と共重合により得られる。
【0012】
前記カルボキシル基を有する不飽和単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、フマル酸、(無水)マレイン酸、(無水)シトラコン酸、(無水)イタコン酸等が挙げられるが、他モノマーとの共重合性、および塗膜物性の観点から、(メタ)アクリル酸が好ましい。なお、これらの単量体は単独で用いることも、2種以上併用することもできる。
【0013】
前記その他の不飽和単量体としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、iso-プロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート;ベンジル(メタ)アクリレート、フェネチル(メタ)アクリレート等のアラルキル(メタ)アクリレート;シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボニル(メタ)アクリレート等のシクロアルキル(メタ)アクリレート;メトキシエチル(メタ)アクリレート、メトキシブチル(メタ)アクリレート等のアルコキシアルキル(メタ)アクリレート;2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、3-クロロ-2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート;2-ヒドロキシエチルビニルエーテル、4-ヒドロキシブチルビニルエーテル等の水酸基を有するビニルエーテル;2-ヒドロキシエチルアリルエーテル等の水酸基を有するアリルエーテル;ポリオキシアルキレングリコールのモノ(メタ)アクリレート;(ポリ)ラクトン鎖及び水酸基を有するビニル単量体;2-トリメチルシロキシエチル(メタ)アクリレート、2-トリメチルシロキシエチルビニルエーテル、2-(1-エトキシ)エトキシエチル(メタ)アクリレート、2-〔2-(メタ)アクリロイルオキシ〕エトキシテロラヒドロフラン、3-〔2-(メタ)アクリロイルオキシ〕エチルオキサゾリジン、2,2-ジメチル-3-〔2-(メタ)アクリロイルオキシ〕エチルオキサゾリジン等の各種ブロックされた水酸基を有するビニル系単量体;(メタ)アクリロニトル、クロトノニトリル等のシアノ基を有する単量体;2-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N-〔2-(メタ)アクリロイルオキシ〕エチルモルホリン、ビニルピリジン、N-ビニルカルバゾール、N-(2-ジメチルアミノ)エチル(メタ)アクリルアミド、N-(2-ジエチルアミノ)エチル(メタ)アクリルアミド、N-(2-ジメチルアミノ)エチルクロトン酸アミド、N-(2-ジエチルアミノ)エチルクロトン酸アミド、2-ジメチルアミノエチルビニルエーテル、2-ジエチルアミノエチルビニルエーテル等のアミノ基を有するビニル系単量体;メチル(メタ)アクリルアミドグリコレートメチルエーテルメチル(メタ)アクリルアミドグリコレート、N-イソプロピル(メタ)アクリルアミド、
N-メチル(メタ)アクリルアミド、N-ビニルフォルムアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N-(メタ)アクリロイルモルホリン、N-(メタ)アクリロイルピロリジン、N-ビニルピロリドン、エチル(アクリルアミド)グリコレート、エチル(アクリルアミド)グリコレートメチルエーテル、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、N-メトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-エトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-プロポキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-n-ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-i-ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-フェノキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-n-ヘキシロキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-メトキシエチル(メタ)アクリルアミド、N-メトキシプロピル(メタ)アクリルアミド、N-n-ブトキシエチル(メタ)アクリルアミド、N-i-ブトキシエチル(メタ)アクリルアミド等のアミド基を有するビニル系単量体;グリシジル(メタ)アクリレート、メチルグリシジル(メタ)アクリレート、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレート、ビニルシクロヘキセンオキシド、グリシジルビニルエーテル、メチルグリシジルビニルエーテル、アリルグリシジルエーテルの如き、エポキシ基を有するビニル系単量体;2,3-カーボネートプロピル(メタ)アクリレート、2-メチル-2,3-カーボネートプロピル(メタ)アクリレート、3,4-カーボネートブチル(メタ)アクリレート等の5員環のシクロカーボネート基を有するビニル系単量体;5-〔N-(メタ)アクリロイルカルバモイルオキシメチル〕-5-エチル-1,3-ジオキサン-2-オン、5-〔N-{2-(メタ)アクリロイルオキシ}エチルカルバモイルオキシメチル〕-5-エチル-1,3-ジオキサン-2-オン等の6員環のシクロカーボネート基含有ビニル系単量体;N-(メタ)アクリロイルカルバミン酸メチル、N-〔2-(メタ)アクリロイルオキシ〕エチルカルバミン酸エチル等のカーバーメート基を有するビニル系単量体;パープルオロシクロヘキシル(メタ)アクリレート、ジ-パーフルオロシクロヘキシルフマレートまたはN-iso-プロピルパーフルオロオクタンスルホンアミドエチル(メタ)アクリレート等のパーフルオロアルキル基を有する不飽和結合含有単量体;フッ化ビニル、フッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン等のフルオロオレフィン;塩化ビニル、塩化ビニリデン等のクロル化オレフィン;エチレン、プロピレン、イソブチレン、1-ブテン、1-ヘキセン等のα-オレフイン;スチレン、α-メチルスチレン、p-tert-ブチルスチレン、O-メチルスチレン、p-メチルスチレン等の芳香族ビニル単量体;p-スチレンスルホンアミド、N-メチル-p-スチレンスルホンアミド等のスルホン酸アミド基を有する単量体; 燐酸エステル結合含有単量体;スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸、2-アクリルアミド-2-メチル-プロパンスルホン酸等のスルホン酸基を有する単量体またはそれら
の有機アミン塩;ビニルトリメトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、トリメトキシシリルエチルビニルエーテル、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルメチルジクロロシラン等の加水分解シリル基を有するビニル系単量体;エチルビニルエーテル、n-ブチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、n-ヘキシルビニルエーテル等のアルキルビニルエーテル;シクロペンチルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル、メチルシクロヘキシルビニルエーテル等のシクロアルキルビニルエーテルなどが挙げられる。
【0014】
前記重合体(a1)の酸価は、塗膜の耐水性がより向上することから、15~30が好ましい。
【0015】
前記重合体(a1)の重量平均分子量は、塗膜強度がより向上することから10,000~30,000が好ましい。
【0016】
前記アルキド樹脂(a2)は、脂肪酸、脂環式多塩基酸を含む多塩基酸、及び多価アルコールのエステル化反応により得られる。
【0017】
前記脂肪酸としては、公知の脂肪酸が使用できるが、例えば、大豆油脂肪酸、亜麻仁油脂肪酸、サフラワー油脂肪酸、トール油脂肪酸、脱水ひまし油脂肪酸、ヤシ油脂肪酸、キリ油脂肪酸等が挙げられるが、大豆油脂肪酸、脱水ひまし油脂肪酸が好ましい。これらの脂肪酸は、単独で用いることも2種以上併用することもできる。
【0018】
前記多塩基酸は、脂環式多塩基酸を必須成分として含むものであるが、塗膜の硬度及び耐衝撃性がより向上することから、多塩基酸中の脂環式多塩基酸は、30質量%以上が好ましく、50質量%以上がより好ましい。
【0019】
前記脂環式多塩基酸としては、1,1-シクロヘキサンジカルボン酸、ヘキサヒドロ(無水)フタル酸、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、テトラヒドロ(無水)フタル酸、メチルヘキサヒドロ(無水)フタル酸、(無水)ヘット酸、水添(無水)トリメリット酸等の脂環式カルボン酸が挙げられるが、塗膜の硬度及び耐衝撃性がより向上することから、ヘキサヒドロ(無水)フタル酸が好ましい。なお、これらの脂環式多塩基酸は、単独で用いることも2種以上併用することもできる。
【0020】
前記脂環式多塩基酸以外の多塩基酸としては、例えば、無水フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、コハク酸、フマル酸、アジピン酸、セバシン酸、無水マレイン酸等の二塩基酸、及びこれらの酸の低級アルキルエステル化物;無水トリメリット酸、メチルシクロヘキセントリカルボン酸、無水ピロメリット酸等の3価以上の多塩基酸;スルホフタル酸、スルホイソフタル酸及びこれらのアンモニウム塩、ナトリウム塩や低級アルキルエステル化物等が挙げられる。これらの多塩基酸は、単独で用いることも2種以上併用することもできる。なお、酸成分として、安息香酸、クロトン酸、4-tert-ブチル安息香酸等のモノカルボン酸を分子量調整等の目的で併用することができる。これらの中でも、塗膜の硬度を容易に調整できることから、無水フタル酸、イソフタル酸、アジピン酸が好ましい。
【0021】
前記多価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、3-メチルペンタンジオール、1,4-ヘキサンジオール、1,6-ヘキサンジオール等の二価アルコール;グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレート等の3価以上の多価アルコール;ポリオキシエチレン基を有する多価アルコールなどが挙げられる。なお、これらの多価アルコールは、単独で用いることも2種以上併用することもできる。これらの中でも、塗膜への柔軟性付与の観点から、1,4-ブタンジオールと1,6-ヘキサンジオールが好ましい。
【0022】
前記アルキド樹脂(a2)の水酸基価は、塗膜の硬度及び耐衝撃性のバランスがより向上することから、100~200mgKOH/g以下が好ましい。
【0023】
前記アルキド樹脂(a2)の重量平均分子量は、塗膜物性に優れることから、5,000~20,000が好ましい。
【0024】
なお、本発明において、水酸基価は、原料組成から計算により求められる値である。
【0025】
また、本発明において、平均分子量はゲル浸透クロマトグラフィー(以下、「GPC」と略記する。)測定に基づきポリスチレン換算した値である。
【0026】
前記アルキド樹脂(A)中の脂環式多塩基酸由来の構造は、20~45質量%であるが、塗膜の硬度及び耐衝撃性がより向上することから、35~45質量%が好ましい。
【0027】
前記アルキド樹脂(A)中のアクリル重合体セグメントは、樹脂の貯蔵安定性と塗膜物性のバランスがより向上することから、15~50質量%が好ましく、15~30質量%がより好ましい。
【0028】
前記アルキド樹脂(A)のトリグリセライド換算油長は、顔料分散性がより向上することから、5~15%の範囲が好ましい。
【0029】
前記アルキド樹脂(A)の酸価は、貯蔵安定性がより向上することから、20~50mgKOH/gが好ましい。
【0030】
なお、本発明において、酸価は、JIS試験方法K0070-1992に準拠して測定したものである。
【0031】
前記アルキド樹脂(A)の重量平均分子量は、10,000~50,000の範囲が好ましい。
【0032】
前記塩基性化合物(B)としては、例えば、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、ブチルアミン、ジブチルアミン、トリブチルアミン、N,N-ジメチルエタノールアミン、2-アミノエタノール等のモノアルカノールアミン、ジエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン、ジブタノールアミン等の有機アミン;アンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の無機塩基性化合物;テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド、テトラ-n-ブチルアンモニウムハイドロオキサイド、トリメチルベンジルアンモニウムハイドロオキサイドの四級アンモニウムハイドロオキサイドなどが挙げられる。これらの中でも有機アミン、アンモニア(アンモニア水でもよい。)が好ましく、トリエチルアミン、N,N-ジメチルエタノールアミンがより好ましい。なお、これらの塩基性化合物(B)は、単独で用いることも2種以上併用することもできる。
【0033】
また、前記塩基性化合物(B)の使用量としては、水性樹脂組成物の貯蔵安定性がより向上することから、前記アルキド樹脂(A)の有するカルボキシル基の中和率が、50~120%の範囲となる量であることが好ましく、60~80%の範囲となる量であることがより好ましい。
【0034】
前記水性媒体(C)としては、水、水と混和する有機溶剤、及び、これらの混合物が挙げられる。水と混和する有機溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、n-ブタノール、iso-ブタノール、tert-ブタノール、3-メトキシブタノール等のアルコール溶剤;ジイソプロピルエーテル等のエーテル溶剤;エチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール溶剤;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールプロピルエーテル、プロピレングリコールブチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル等のグリコールエーテル溶剤、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート等のグリコールエステル溶剤;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン溶剤等が挙げられる。これらの中でも、水性樹脂組成物の貯蔵安定性がより向上することから、グリコールエーテル溶剤が好ましい。これらの有機溶剤は、単独で用いることも2種以上併用することもできる。本発明では、水のみを用いても良く、また水及び水と混和する有機溶剤との混合物を用いても良く、水と混和する有機溶剤のみを用いても良い。安全性や環境に対する負荷の点から、水のみ、または、水及び水と混和する有機溶剤との混合物が好ましい。
【0035】
本発明の水性樹脂組成物は、前記アルキド樹脂(A)、前記塩基性化合物(B)及び、前記水性媒体(C)を含有するものであるが、上記した方法で得られた前記アルキド樹脂(A)が前記水性媒体(C)に溶解または分散したものであることが好ましい。
【0036】
前記アルキド樹脂(A)を前記水性媒体(C)に溶解または分散する方法としては、前記アルキド樹脂(A)を水と混和する有機溶剤で希釈後、前記アルキド樹脂(A)の有する酸基を前記塩基性化合物(B)で中和し、水と混合する方法が好ましい。
【0037】
本発明の水性塗料は、上記の本発明の水性樹脂組成物を含有するものであるが、硬化剤を使用しない一液型塗料の形態であってもよいし、硬化剤を使用する多液型塗料の形態であってもよい。
【0038】
前記硬化剤としては、前記アルキド樹脂(A)と架橋反応可能なものであれば特に制限されないが、例えば、アミノ樹脂、エポキシ樹脂、ポリイソシアネート、ブロック型ポリイソシアネート等を使用することが好ましい。
【0039】
前記アミノ樹脂としては、例えば、メラミン、尿素、ベンゾグアナミン等の1種または2種以上とホルムアルデヒドとの反応によって得られるメチロール化アミノ樹脂、イミノ基を有するメチロール化アミノ樹脂等であり、それらのメチロール基の全部または一部分を炭素数1~8の1価アルコールでエーテル化したものが好ましく、例えば、ブトキシメチル化メラミン樹脂、メトキシメチル化メラミン樹脂、メトキシ・ブトキシ混合メチル化メラミン樹脂等が挙げられる。
【0040】
また、本発明の水性塗料には、必要に応じて、無機顔料、有機顔料、体質顔料、ワックス、界面活性剤、安定剤、流動調整剤、染料、レベリング剤、レオロジーコントロール剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、可塑剤、帯電防止剤、消泡剤、粘度調整剤、耐光安定剤、耐候安定剤、耐熱安定剤、顔料分散剤、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂等の各種の添加剤等を使用することができる。
【0041】
本発明の塗料組成物の塗装方法としては、塗装する物品により異なるが、例えば、グラビアコーター、ロールコーター、コンマコーター、ナイフコーター、エアナイフコーター、カーテンコーター、キスコーター、シャワーコーター、ホイーラーコーター、スピンコーター、ディッピング、スクリーン印刷、スプレー、アプリケーター、バーコーター等の方法が挙げられる。
【0042】
本発明の水性塗料は、各種物品の表面に、高硬度かつ耐衝撃性に優れる硬化塗膜を付与することができる。
【0043】
本発明の水性塗料は、被塗装物となる物品に、直接塗装してもよいし、被塗装物に適合したプライマー塗材を塗装してから、本発明の水性塗料を塗装してもよい。また、本発明の水性塗料を塗装後、さらにトップコートを塗り重ねてもよい。前記トップコートとしては、アクリルウレタン樹脂、シリコンアクリル樹脂、フッ素樹等を含有する耐候性に優れる塗料が好ましい。
【0044】
被塗装物となる物品の材質としては、鋼板、鉄、銅、亜鉛、アルミニウム、マグネシウム等の各種金属及びこれらの合金;ポリカーボネート(PC)、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS)、PC-ABSのポリマーアロイ、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリアミド(PA)、ポリプロピレン(PP)、ガラス繊維、炭素繊維等のフィラーを入れた繊維強化プラスチック(FRP)等のプラスチック基材;ガラスなどが挙げられる。
【0045】
本発明の水性塗料の塗膜を有する物品としては、例えば、テレビ、冷蔵庫、洗濯機、エアコン等の家電製品の筐体及び内部部品;スマートフォン、携帯電話、タブレット端末、パソコン、デジタルカメラ、ゲーム機等の電子機器の筐体及び内部部品;プリンター、ファクシミリ等のOA機器の筐体;レジャースポーツ用品;自動車、鉄道車輌等の各種車輌の内外装材;産業機械;外壁、屋根、ガラス、化粧板等の建築物の内外装材;防音壁、排水溝等の土木部材などが挙げられる。
【実施例】
【0046】
以下、本発明を実施例及び比較例によって、より具体的に説明する。なお、酸価は、JIS試験方法K0070-1992に準拠して測定したものであり、平均分子量は、下記のGPC測定条件で測定したものである。
【0047】
[GPC測定条件]
測定装置:高速GPC装置(東ソー株式会社製「HLC-8220GPC」)
カラム:東ソー株式会社製の下記のカラムを直列に接続して使用した。
「TSKgel G5000」(7.8mmI.D.×30cm)×1本
「TSKgel G4000」(7.8mmI.D.×30cm)×1本
「TSKgel G3000」(7.8mmI.D.×30cm)×1本
「TSKgel G2000」(7.8mmI.D.×30cm)×1本
検出器:RI(示差屈折計)
カラム温度:40℃
溶離液:テトラヒドロフラン(THF)
流速:1.0mL/分
注入量:100μL(試料濃度4mg/mLのテトラヒドロフラン溶液)
標準試料:下記の単分散ポリスチレンを用いて検量線を作成した。
【0048】
(単分散ポリスチレン)
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン A-500」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン A-1000」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン A-2500」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン A-5000」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-1」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-2」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-4」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-10」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-20」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-40」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-80」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-128」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-288」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-550」
【0049】
(合成例1:ビニル重合体(a1-1)の合成)
攪拌機、温度計、不活性ガス導入管、滴下漏斗および還流管を備えた反応容器に、キシレン260質量部及び脱水ひまし油260質量部を仕込み、130℃まで昇温した。その後、スチレン34質量部、n-ブチルメタクリレート22質量部、2-エチルヘキシルメタクリレート22質量部、メタクリル酸22質量部、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート1質量部、及びターシャリアミルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート1質量部の混合物を3時間かけて滴下した。さらに3時間ホールドした後、温度を下げ、酸価160mgKOH/gであるビニル重合体(a1-1)を得た。
【0050】
(合成例2:アルキド樹脂(a2-1)の合成)
攪拌機、温度計、不活性ガス導入管およびガラス性多段精留塔を備えた反応容器に、ヤシ油脂肪酸5質量部、トリメチロールプロパン30質量部、1,6-ヘキサンジオール15質量部、及びヘキサヒドロ無水フタル酸50質量部を仕込んで、窒素ガスを導入しながら昇温した。180℃ に達した時点から4時間かけて240℃まで昇温し、酸価が6mgKOH/gになるまで反応を続行し、アルキド樹脂(a2-1)を得た。
【0051】
(合成例3:アルキド樹脂(a2-2)の合成)
攪拌機、温度計、不活性ガス導入管およびガラス性多段精留塔を備えた反応容器に、ヤシ油脂肪酸5質量部、トリメチロールプロパン25質量部、1,6-ヘキサンジオール19質量部、ヘキサヒドロ無水フタル酸32質量部、及びイソフタル酸19質量部を仕込んで、窒素ガスを導入しながら昇温した。180℃ に達した時点から4時間かけて240℃まで昇温し、酸価が6mgKOH/gになるまで反応を続行し、アルキド樹脂(a2-2)を得た。
【0052】
(合成例4:アルキド樹脂(Ra2-1)の合成)
攪拌機、温度計、不活性ガス導入管およびガラス性多段精留塔を備えた反応容器に、ヤシ油脂肪酸5質量部、トリメチロールプロパン20質量部、1,6-ヘキサンジオール25質量部、イソフタル酸36質量部、及びアジピン酸14質量部を仕込んで、窒素ガスを導入しながら昇温した。180℃ に達した時点から4時間かけて240℃まで昇温し、酸価が6mgKOH/gになるまで反応を続行し、アルキド樹脂(Ra2-1)を得た。
【0053】
(合成例5:アルキド樹脂(Ra2-2)の合成)
攪拌機、温度計、不活性ガス導入管およびガラス性多段精留塔を備えた反応容器に、ヤシ油脂肪酸5質量部、トリメチロールプロパン20質量部、1,6-ヘキサンジオール25質量部、及びイソフタル酸50質量部を仕込んで、窒素ガスを導入しながら昇温した。180℃ に達した時点から4時間かけて240℃まで昇温し、酸価が6mgKOH/gになるまで反応を続行し、アルキド樹脂(Ra2-2)を得た。
【0054】
(実施例1:水性樹脂組成物(1)の合成及び評価)
攪拌機、温度計、不活性ガス導入管、ならびに揮発溶剤を捕集するためのキャッチャー容器を備えた反応容器に、合成例1で得たビニル重合体(a1-1)350質量部と、合成例2で得たアルキド樹脂(a2-1)160質量部とを仕込んで、200℃ まで昇温した。次いで揮発分を減圧除去したのち、酸価が28となるまで同温度でエステル化反応を行い、ビニル重合体セグメントを有するアルキド樹脂(A-1)を得た。ここへ、プロピレングリコールモノプロピルエーテル24質量部を添加した後、ジメチルエタノールアミン14質量部を添加し、60℃でよく混合したのち、この60℃を保持しながら、イオン交換水570質量部を、間欠的に添加し、不揮発分が42質量%で、pHが8.9の、半透明状の水性樹脂組成物(1)を得た。ビニル重合体セグメントを有するアルキド樹脂(1)の数平均分子量は2,000、重量平均分子量は30,000であり、脂環式多塩基酸由来の構造は43質量%であった。
【0055】
[水性塗料(1)の調整]
実施例1で得た水性樹脂組成物80質量部と、硬化剤(allnex製「サイメル327」、メチル化メラミン樹脂)20質量部とを混合し、水性塗料(1)を得た。
【0056】
[評価用塗膜(1)の作製]
上記で得た水性塗料を、溶融亜鉛メッキ鋼板上に乾燥膜厚が20μmとなるようにスプレー塗装した。その後、80℃で10分間プレヒートした後、その塗膜上に、上塗り塗料(DIC株式会社製「バーノックWD-551」とDIC株式会社製「バーノックDNW-5500」とを80/20(質量比)で混合した塗料)を乾燥膜厚が20μmとなるようにスプレー塗装した。その後、80℃で10分間プレヒートした後、150℃で30分間焼付工程を行い、評価用塗膜(1)を得た。
【0057】
[塗膜硬度の評価]
上記で得た評価用塗膜(1)について、JIS K 5600-5-4:1999に準じて、鉛筆硬度を測定した。
【0058】
[耐衝撃性の評価]
上記で得た評価用塗膜(1)について、
下記の基準に従い、耐衝撃性を評価した。
○:割れ、欠けがない。
△:わずかにひびが入る。
×:中程度以上割れる。
【0059】
(実施例2:水性樹脂組成物(2)の合成及び評価)
実施例1で使用したアルキド樹脂(a2-1)をアルキド樹脂(a2-2)に変更した以外は、実施例1と同様にして、不揮発分が42質量%で、pHが8.9の、半透明状の水性樹脂組成物(2)を得た。ビニル重合体セグメントを有するアルキド樹脂(2)の酸価は28、数平均分子量は2,000、重量平均分子量は30,000であり、脂環式多塩基酸由来の構造は27質量%であった。
【0060】
(比較例1:水性樹脂組成物(R1)の合成及び評価)
実施例1で使用したアルキド樹脂(a2-1)をアルキド樹脂(Ra2-1)に変更した以外は、実施例1と同様にして、不揮発分が42質量%で、pHが8.9の、半透明状の水性樹脂組成物(R1)を得た。ビニル重合体セグメントを有するアルキド樹脂中に、脂環式多塩基酸由来の構造はなかった。
【0061】
(比較例2:水性樹脂組成物(R2)の合成及び評価)
実施例1で使用したアルキド樹脂(a2-1)をアルキド樹脂(Ra2-2)に変更した以外は、実施例1と同様にして、不揮発分が42質量%で、pHが8.9の、半透明状の水性樹脂組成物(R2)を得た。ビニル重合体セグメントを有するアルキド樹脂中に、脂環式多塩基酸由来の構造はなかった。
【0062】
(水性塗料(2)、(R1)及び(R2)の調製及び評価)
水性樹脂組成物(1)を水性樹脂組成物(2)、(R1)及び(R2)に変更した以外は、実施例1と同様にして、水性塗料(2)、(R1)及び(R2)を調製し、塗膜硬度及び耐衝撃性を評価した。
【0063】
上記の実施例1~2及び比較例1~2の組成、及び評価結果を表1に示す。
【0064】
【0065】
実施例1及び2の本発明の水性樹脂組成物から得られる塗膜は、高硬度と優れた耐衝撃性を両立していることが確認された。
【0066】
一方、比較例1及び2は、脂環式多塩基酸由来の構造を有さないアルキド樹脂を用いた例であるが、得られる塗膜の硬度又は耐衝撃性が不十分であることが確認された。