IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三星エスディアイ株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-リチウムイオン二次電池 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-28
(45)【発行日】2022-04-05
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/13 20100101AFI20220329BHJP
   H01M 10/0566 20100101ALI20220329BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20220329BHJP
【FI】
H01M4/13
H01M10/0566
H01M10/052
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018028125
(22)【出願日】2018-02-20
(65)【公開番号】P2019145323
(43)【公開日】2019-08-29
【審査請求日】2020-12-23
(73)【特許権者】
【識別番号】590002817
【氏名又は名称】三星エスディアイ株式会社
【氏名又は名称原語表記】SAMSUNG SDI Co., LTD.
【住所又は居所原語表記】150-20 Gongse-ro,Giheung-gu,Yongin-si, Gyeonggi-do, 446-902 Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】山本 英和
(72)【発明者】
【氏名】水雲 智信
(72)【発明者】
【氏名】川瀬 賢一
【審査官】井原 純
(56)【参考文献】
【文献】特表2009-529762(JP,A)
【文献】特開2015-069863(JP,A)
【文献】特開2016-134267(JP,A)
【文献】特開2011-023241(JP,A)
【文献】国際公開第2017/221572(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第105304907(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00-4/62
H01M 10/05-10/0587
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バリウム化合物を含有するSEI膜を有する負極
を備え、
前記バリウム化合物は、0.8μm以下の粒径を有する微粒子として前記SEI膜に含有され、前記SEI膜における前記バリウム化合物の含有量は、バリウム換算で0.3原子%以下であり、
前記バリウム化合物は、硫酸バリウムである、リチウムイオン二次電池。
【請求項2】
前記SEI膜は、前記負極の表面に設けられる、請求項1に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項3】
前記SEI膜は、前記負極を含浸する電解液に含まれる成分の分解物から構成される、請求項1又は2に記載のリチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池
に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン(lithium ion)二次電池等の非水電解質二次電池は、ノート型パソコン(note PC)又は携帯電話などのポータブル(portable)機器の電源として広く用いられている。また、リチウムイオン二次電池は、これらの用途に加え、電気自動車又はハイブリッド(hybrid)自動車等のxEV向けの電源としても注目されている。このため、近年、リチウムイオン二次電池の需要は、さらに活発に伸長するものと考えられる。
【0003】
ここで、xEV向けのリチウムイオン二次電池は、従来のガソリンエンジン(gasoline engine)車と同等の性能を確保するために、高容量及び長寿命が求められる。また、xEV向けのリチウムイオン二次電池では、ガソリンエンジン車の給油時間と同等の時間内に充電を完了するための急速充電特性も強く求められている。
【0004】
ただし、リチウムイオン二次電池では、高容量化又は高寿命化についての開発が進んでいるものの、急速充電特性(すなわち、高レートでの充放電特性)についての開発は、十分に進んでいかった。
【0005】
一方、他の二次電池では、様々な観点から充電特性についての研究が行われている。例えば、下記の非特許文献1には、鉛蓄電池の電解液に硫酸バリウム(barium sulfate)等を添加することで負極の充放電特性が向上することが開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】H. Vermesan, et al.,"Effect of barium sulfate and strontium sulfate on charging anddischarging of the negative electrode in a lead-acid battery" Journal ofPower Sources, 28 May 2004, Volume 133, Issue 1, Pages 52-58
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記の非特許文献1に開示される技術は、あくまでも鉛蓄電池に関するものであった。そのため、二次電池としての構造及び機構が異なるリチウムイオン二次電池に対して、非特許文献1に開示される技術が適用できるか否かについては十分な検証がなされていなかった。加えて、上記の非特許文献1に開示される技術をリチウムイオン二次電池に適用した場合の好適な構成ついては全く検討がされていなかった。
【0008】
そこで、本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、高レート(rate)での充放電特性を向上させることが可能な、新規かつ改良されたリチウムイオン二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、バリウム化合物を含有するSEI膜を有する負極を備え、前記バリウム化合物は、0.8μm以下の粒径を有する微粒子として前記SEI膜に含有され、前記SEI膜における前記バリウム化合物の含有量は、バリウム換算で0.3原子%以下である、リチウムイオン二次電池が提供される。
【0010】
本観点によれば、リチウムイオン二次電池の高レートでの充放電特性が向上する。
【0011】
前記バリウム化合物は、硫酸バリウムであってもよい。
【0012】
本観点によれば、高レートでの充放電特性が向上したリチウムイオン二次電池を提供することができる。
【0013】
前記SEI膜は、前記負極の表面に設けられ得る。
【0014】
本観点によれば、高レートでの充放電特性が向上したリチウムイオン二次電池を提供することができる。
【0015】
前記SEI膜は、前記負極が含浸される電解液に含まれる成分の分解物から構成され得る。
【0016】
本観点によれば、高レートでの充放電特性が向上したリチウムイオン二次電池を提供することができる。
【発明の効果】
【0017】
以上説明したように本発明によれば、高レートでの充放電特性が向上したリチウムイオン二次電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】リチウムイオン二次電池の構成を概略的に示す側断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0020】
<1.リチウムイオン二次電池の構成>
まず、図1を参照して、本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池10の構成について説明する。図1は、リチウムイオン二次電池の構成を概略的に示す側断面図である。
【0021】
図1に示すように、リチウムイオン二次電池10は、正極20と、負極30と、セパレータ40と、電解液とを備える。なお、リチウムイオン二次電池10の形態は、特に限定されない。即ち、リチウムイオン二次電池10は、円筒形、角形、ラミネート(laminate)形又はボタン(button)形等のいずれの形態であってもよい。
【0022】
(正極20)
正極20は、集電体21と、正極活物質層22とを備える。集電体21は、導電体であればどのようなものでも良い。集電体21は、例えば、アルミニウム(aluminium)、ステンレス(stainless)鋼、又はニッケルメッキ(nickel coated)鋼等で構成される。
【0023】
正極活物質層22は、少なくとも正極活物質を含み、導電剤と、バインダとをさらに含んでいてもよい。なお、正極活物質、導電剤及びバインダの含有量の比率は、特に制限されず、一般的なリチウムイオン二次電池にて用いられる含有量の比率を使用することが可能である。
【0024】
正極活物質は、例えばリチウムを含む固溶体酸化物である。ただし、正極活物質は、電気化学的にリチウムイオンを吸蔵及び放出することができる物質であれば特に制限されない。固溶体酸化物は、例えば、LiMnCoNi(1.150≦a≦1.430、0.45≦x≦0.6、0.10≦y≦0.15、0.20≦z≦0.28)、LiMnCoNi(0.3≦x≦0.85、0.10≦y≦0.3、0.10≦z≦0.3)、又はLiMn1.5Ni0.5などであってもよい。
【0025】
導電剤は、例えば、ケッチェンブラック(ketjen black)若しくはアセチレンブラック(acetylene black)等のカーボンブラック(carbon black)、天然黒鉛、人造黒鉛、カーボンナノチューブ(carbon nanotubes)、グラフェン(graphene)若しくはカーボンナノファイバ(carbon nanofibers)等の繊維状炭素、又はこれら繊維状炭素とカーボンブラック(carbon black)との複合体等を用いることができる。ただし、導電剤は、正極の導電性を高めるためのものであれば特に制限されない。
【0026】
バインダは、例えばポリフッ化ビニリデン(polyvinylidene fluoride)、エチレンプロピレンジエン(ethylene-propylene-diene)三元共重合体、スチレンブタジエンゴム(Styrene-butadiene rubber)、アクリロニトリルブタジエンゴム(acrylonitrile-butadiene rubber)、フッ素ゴム(fluororubber)、ポリ酢酸ビニル(polyvinyl acetate)、ポリメチルメタクリレート(polymethylmethacrylate)、ポリエチレン(polyethylene)、又はニトロセルロース(cellulose nitrate)等である。ただし、バインダは、正極活物質及び導電剤を集電体21上に結着させることができるものであれば、特に制限されない。
【0027】
(負極30)
負極30は、集電体31と、負極活物質層32とを含む。集電体31は、導電体であればどのようなものでも良い。集電体31は、例えば、銅、銅合金、アルミニウム、ステンレス鋼又はニッケルメッキ鋼等であってもよい。
【0028】
負極活物質層32は、少なくとも負極活物質を含み、導電剤と、バインダとをさらに含んでいてもよい。なお、負極活物質、導電剤及びバインダの含有量の比率は、特に制限されず、一般的なリチウムイオン二次電池にて用いられる含有量の比率を使用することが可能である。
【0029】
負極活物質は、例えば、黒鉛活物質、ケイ素(Si)若しくはスズ(Sn)系活物質、又は酸化チタン(TiO)系活物質等である。ただし、負極活物質は、電気化学的にリチウムイオンを吸蔵及び放出することができる物質であれば特に制限されない。黒鉛系活物質は、人造黒鉛、天然黒鉛、人造黒鉛と天然黒鉛との混合物、又は人造黒鉛で被覆した天然黒鉛などであってもよい。ケイ素若しくはスズ系活物質は、ケイ素若しくはスズの微粒子、ケイ素若しくはスズの酸化物の微粒子、又はケイ素若しくはスズの合金などであってもよい。酸化チタン系活物質は、LiTi12等であってもよい。さらに、負極活物質は、これらの他に、例えば金属リチウム(Li)等であってもよい。
【0030】
導電剤は、正極活物質層22で用いた導電剤と同様のものが使用可能である。
【0031】
バインダは、例えば、スチレンブタジエンゴム(Styrene-Butadiene Rubber:SBR)などを用いることができる。ただし、バインダは、負極活物質及び導電剤を集電体31上に結着させることができるものであれば、特に制限されない。
【0032】
ここで、本実施形態では、負極30の表面には、バリウム(barium)化合物を含有するSEI(Solid Electrolyte Interphase)膜が形成される。
【0033】
SEI膜は、初回の充放電時に、負極30の表面で電解液が分解されることによって形成される。具体的には、SEI膜は、負極30を含浸する電解液及び電解液の添加剤の分解物等によって形成される極薄の膜である。SEI膜は、リチウムイオンを負極30中に挿入又は脱離させる役割を果たしつつ、負極30上でのさらなる電解液の分解反応を抑制することができる。
【0034】
SEI膜に含有されるバリウム化合物は、バリウムの塩、酸化物、硫化物、水酸化物又はハロゲン化物などであってもよい。バリウム化合物は、例えば、硫酸バリウム(BaSO)であってもよい。硫酸バリウム(BaSO)は、水に対する溶解度が低く、安定であるため、容易に取り扱うことができる。
【0035】
SEI膜にバリウム化合物を含有されることで、リチウムイオン二次電池の高レートでの充放電特性が向上することは、以下で説明する実施例及び比較例から明らかであるが、その理由については定かではない。おそらく、誘電体であるバリウム化合物が負極30の表面で分極することによって、負極30へのリチウムイオンの挿入又は脱離を支援しているのではないかと推測される。
【0036】
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池10では、負極30の作製時に、バリウム化合物を負極30の表面に散布することで、負極30の表面のSEI膜にバリウム化合物を含有させる。この方法によれば、SEI膜に含有されるバリウム化合物の量及び粒径を後述する範囲に制御することが容易になる。
【0037】
SEI膜におけるバリウム化合物の含有量は、初期充放電を行った後、さらに満充電状態にしたリチウムイオン二次電池10を解体し、負極30の表面のSEI膜をX線光電子分光法によって解析することで測定することができる。SEI膜におけるバリウム化合物の含有量は、バリウム換算で0.3原子%以下であり、0.2原子%以下であることが好ましい。
【0038】
バリウム化合物の含有量が0.3原子%超である場合、SEI膜中のバリウム化合物が過剰となることで、リチウムイオン二次電池の高レートでの充放電特性が低下してしまう。一方、SEI膜におけるバリウム化合物の含有量は、特に下限を定めないが、0.05原子%超であればよい。換言すると、SEI膜におけるバリウム化合物の含有量の下限は、X線光電子分光法のスペクトルにおいて、バリウムのピークが確認できる程度であればよい。
【0039】
なお、SEI膜におけるバリウム化合物の含有量は、負極30へのバリウム化合物の散布量とは一致しない。ただし、負極30へのバリウム化合物の散布量を増加させることで、SEI膜におけるバリウム化合物の含有量を増加させることができる。
【0040】
また、バリウム化合物は、微粒子としてSEI膜に含有される。SEI膜に含有されるバリウム化合物の粒径は、0.8μm以下であり、0.5μm以下であることが好ましい。バリウム化合物の粒径が0.8μm超である場合、SEI膜中でバリウム化合物が占める領域が過剰となることで、リチウムイオン二次電池の高レートでの充放電特性が低下してしまう。一方、バリウム化合物の粒径は、特に下限を定めないが、バリウム化合物の微粒子の製造上、0.01μm以上であればよい。
【0041】
なお、バリウム化合物の粒径は、負極30に散布した際の粒径である。バリウム化合物の粒径は、例えば、散布前のバリウム化合物を走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope:SEM)にて観察し、バリウム化合物の形状を球形と近似した場合の直径の平均値として算出することができる。
【0042】
(セパレータ40)
セパレータ40は、リチウムイオン二次電池のセパレータとして使用されるものであれば、特に制限されず使用することが可能である。セパレータは、優れた高率放電性能を示す多孔膜又は不織布等を、単独若しくは併用して用いることが好ましい。セパレータを構成する樹脂は、例えばポリエチレン(polyethylene),ポリプロピレン(polypropylene)等に代表されるポリオレフィン(polyolefin)系樹脂、ポリエチレンテレフタレート(Polyethylene terephthalate),ポリブチレンテレフタレート(polybutylene terephthalate)等に代表されるポリエステル(Polyester)系樹脂、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、フッ化ビニリデン(VDF)-ヘキサフルオロプロピレン(HFP)共重合体、フッ化ビニリデン-パーフルオロビニルエーテル(par fluorovinyl ether)共重合体、フッ化ビニリデン-テトラフルオロエチレン(tetrafluoroethylene)共重合体、フッ化ビニリデン-トリフルオロエチレン(trifluoroethylene)共重合体、フッ化ビニリデン-フルオロエチレン(fluoroethylene)共重合体、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロアセトン(hexafluoroacetone)共重合体、フッ化ビニリデン-エチレン(ethylene)共重合体、フッ化ビニリデン-プロピレン(propylene)共重合体、フッ化ビニリデン-トリフルオロプロピレン(trifluoro propylene)共重合体、フッ化ビニリデン-テトラフルオロエチレン(tetrafluoroethylene)-ヘキサフルオロプロピレン(hexafluoropropylene)共重合体、フッ化ビニリデン-エチレン(ethylene)-テトラフルオロエチレン(tetrafluoroethylene)共重合体等であってもよい。
【0043】
(電解液)
電解液は、リチウムイオン二次電池の電解液として用いられるものであれば、特に限定されず使用することが可能である。電解液は、非水溶媒に電解質塩を含有させた組成を有する。
【0044】
非水溶媒は、例えば、プロピレンカーボネート(propylene carbonate)、エチレンカーボネート(ethylene carbonate)、ブチレンカーボネート(ethylene carbonate)、クロロエチレンカーボネート(chloroethylene carbonate)、ビニレンカーボネート(vinylene carbonate)等の環状炭酸エステル(ester)類;γ-ブチロラクトン(butyrolactone)、γ-バレロラクトン(valerolactone)等の環状エステル類;ジメチルカーボネート(dimethyl carbonate)、ジエチルカーボネート(diethyl carbonate)、エチルメチルカーボネート(ethyl methyl carbonate)等の鎖状カーボネート類;ギ酸メチル(methyl formate)、酢酸メチル(methyl acetate)、酪酸メチル(butyric acid methyl)等の鎖状エステル類;テトラヒドロフラン(Tetrahydrofuran)又はその誘導体;1,3-ジオキサン(dioxane)、1,4-ジオキサン(dioxane)、1,2-ジメトキシエタン(dimethoxyethane)、1,4-ジブトキシエタン(dibutoxyethane)、メチルジグライム(methyl diglyme)等のエーテル(ether)類;アセトニトリル(acetonitrile)、ベンゾニトリル(benzonitrile)等のニトリル(nitrile)類;ジオキソラン(Dioxolane)又はその誘導体;エチレンスルフィド(ethylene sulfide)、スルホラン(sulfolane)、スルトン(sultone)又はその誘導体等を単独で若しくは2種以上混合して用いることができる。
【0045】
電解質塩は、例えば、LiClO、LiBF、LiAsF、LiPF,LiPF6-x(C2n+1(但し、1<x<6,n=1or2),LiSCN,LiBr,LiI,LiSO,Li10Cl10,NaClO,NaI,NaSCN,NaBr,KClO,KSCN等のリチウム(Li)、ナトリウム(Na)又はカリウム(K)の1種を含む無機イオン塩、LiCFSO,LiN(CFSO,LiN(CSO,LiN(CFSO)(CSO),LiC(CFSO,LiC(CSO,(CHNBF,(CHNBr,(CNClO,(CNI,(CNBr,(n-CNClO,(n-CNI,(CN-maleate,(CN-benzoate,(CN-phtalate、ステアリルスルホン酸リチウム(stearyl sulfonic acid lithium)、オクチルスルホン酸リチウム(octyl sulfonic acid)、ドデシルベンゼンスルホン酸リチウム(dodecyl benzene sulphonic acid)等の有機イオン塩等であってもよい。電解質塩は、これらのイオン塩又はイオン性化合物を単独で若しくは2種以上混合して用いることができる。なお、電解質塩の濃度は、一般的なリチウムイオン二次電池で使用される濃度と同様の濃度(0.8mol/L~2.0mol/L程度)を使用することができる。
【0046】
なお、電解液には、各種の添加剤が添加されてもよい。このような添加剤としては、負極作用添加剤、正極作用添加剤、エステル系添加剤、炭酸エステル系添加剤、硫酸エステル系添加剤、リン酸エステル系添加剤、ホウ酸エステル系添加剤、酸無水物系添加剤、又は電解質系添加剤等が挙げられる。これらのうちいずれか1種又は複数種類の添加剤が電解液に添加されてもよい。
【0047】
<2.リチウムイオン二次電池の製造方法>
次に、リチウムイオン二次電池10の製造方法について説明する。
【0048】
正極20は、以下の方法にて作製される。まず、正極活物質、導電剤及びバインダを所定の割合で混合したものを、溶媒(例えばN-メチル-2-ピロリドン)に分散させることでスラリー(slurry)を形成する。次に、スラリーを集電体21上に塗布し、乾燥させることで、正極活物質層22を形成する。なお、塗布の方法は、特に限定されない。塗布の方法としては、例えば、ナイフコーター(knife coater)法、グラビアコーター(gravure coater)法等を用いることができる。続いて、プレス(press)機により正極活物質層22を所定の密度となるように圧縮する。これにより、正極20が作製される。
【0049】
負極30も、正極20と同様の方法にて作製される。まず、負極活物質、及びバインダを混合したものを、溶媒(例えば水)に分散させることでスラリーを形成する。次に、スラリーを集電体31上に塗布し、乾燥させることで、負極活物質層32を形成する。続いて、プレス機により負極活物質層32を所定の密度となるように圧縮する。さらに、圧縮後の負極30の表面に所定の粒径のバリウム化合物の微粒子を噴霧することで、負極30の表面にバリウム化合物の微粒子を配置させた。これにより、負極30が作製される。
【0050】
次に、セパレータ40を正極20及び負極30で挟むことで、電極構造体を作製する。続いて、作製した電極構造体を所望の形態(例えば、円筒形、角形、ラミネート形又はボタン形等)に加工し、該所望の形態の容器に挿入する。その後、容器内に電解液を注入することで、セパレータ40内の各気孔に電解液を含浸させる。これにより、リチウムイオン二次電池10が作製される。
【0051】
さらに、作製したリチウムイオン二次電池10に対して、初回充放電を行うことで、負極30の表面に、バリウム化合物を含有するSEI膜を形成する。
【0052】
以上にて説明したように、本実施形態によれば、あらかじめ負極30の表面にバリウム化合物の微粒子を散布することによって、バリウム化合物が好適な量にて含有されたSEI膜を負極30の表面に形成することができる。これによれば、リチウムイオン二次電池10の高レートでの充放電特性を向上させることができる。
【実施例
【0053】
以下では、実施例及び比較例を参照しながら、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池、及びリチウムイオン二次電池の製造方法について具体的に説明する。なお、以下に示す実施例は、あくまでも一例であって、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池、及びリチウムイオン二次電池の製造方法が下記の例に限定されるものではない。
【0054】
(リチウムイオン二次電池の作製)
正極活物質としてLiNi0.88Co0.1Al0.02で表されるリチウムニッケルコバルト酸化物を用い、導電剤として炭素粉末を用い、バインダとしてポリフッ化ビニリデンを用いた。正極活物質、導電剤、及びバインダを94:4:2の質量比になるように混合し、N-メチル-2-ピロリドンを加えて混練することで、正極スラリー(正極合剤)を調整した。
【0055】
次に、厚み12μm、長さ238mm及び幅29mmのアルミニウム箔からなる集電体に、上記の正極スラリーを集電体の一面に長さ222mm及び幅29mmで塗布し、集電体の一面と対向する他面に長さ172mm及び幅29mmで塗布した。正極スラリー塗布後の集電体を乾燥させた後、圧延し、正極極板を作製した。このとき、正極の厚みは、両面で125μmであり、集電体上の正極合剤の量は42.5mg/cmであり、正極合剤の充填密度は3.75g/cmであった。
【0056】
その後、上記の正極極板の正極合剤が塗布されていない部分に、厚み70μm、長さ40mm及び幅4mmのアルミニウム平板からなる集電タブを取り付けた。
【0057】
負極活物質として人造黒鉛及びシリコン含有炭素を用い、バインダとしてカルボキシメチルセルロース及びスチレンブタジエンゴムを用いた。人造黒鉛、シリコン含有炭素、カルボキシメチルセルロース、及びスチレンブタジエンゴムを92.2:5.3:1.0:1.5の質量比になるように混合し、水を加えて混練することで、負極スラリー(負極合剤)を調整した。
【0058】
次に、厚み8μm、長さ271mm及び幅30mmのアルミニウム箔からなる集電体に、上記の負極スラリーを集電体の一面に長さ235mm及び幅30mmで塗布し、集電体の一面と対向する他面に長さ178mm及び幅30mmで塗布した。負極スラリー塗布後の集電体を乾燥させた後、圧延し、負極極板を作製した。このとき、負極の厚みは両面で152μmであり、集電体上の負極合剤の量は23.0mg/cmであり、負極合剤の充填密度は1.6g/cmであった。
【0059】
その後、作製した負極極板の表面に、下記の表1で示す粒径の硫酸バリウム粉末を異なる量で噴霧した。さらに、上記の負極極板の負極合剤が塗布されていない部分に、厚み70μm、長さ40mm及び幅4mmのニッケル平板からなる集電タブを取り付けた。
【0060】
エチレンカーボネート、メチルエチルカーボネート、及びジメチルカーボネートを20:40:40の体積比になるように混合することで、非水溶媒を作製した。作製した非水溶媒に、電解質塩としてLiPFを1.15mol/Lの濃度で溶解させ、電解液を作製した。さらに、作製した電解液に、ビニレンカーボネートを電解液の総質量に対して1.5質量%にて外添した。
【0061】
上記で作製した正極、負極及び電解液を用いてリチウム二次電池を作製した。正極及び負極はセパレータを介して対向するように配置し、これらを所定の位置で折り返して巻回した後、プレスすることで扁平型の電極組立体を作製した。なお、セパレータは、長さ350mm及び幅32mmのポリエチレン製多孔体からなるセパレータを2枚用いた。
【0062】
作製した電極組立体をアルミラミネートにて構成される電池容器に収納し、電池容器に電解液を注入した。このとき、正極及び負極の集電タブを外部に取り出せるように配置した。作製したリチウムイオン二次電池の設計容量は480mAhである。
【0063】
(リチウムイオン二次電池の評価)
続いて、上記で作製したリチウムイオン二次電池の初期充放電を行った。具体的には、25℃の環境下において、リチウムイオン二次電池を48mAの定電流で4.3Vになるまで充電し、さらに4.3Vの定電圧で電流値が24mAになるまで充電した後、48mAの定電流で2.8Vになるまで放電を行った。このときの放電容量を初期容量Q1とした。
【0064】
次に、上記のように初期充放電を行ったリチウム二次電池について、25℃の環境下において、240mAの定電流で4.3Vになるまで充電し、さらに4.3Vの定電圧で電流値が24mAになるまで充電した。その後、充電後のリチウムイオン二次電池を解体し、負極極板を取り出した。
【0065】
取り出した負極極板の表面に形成されたSEI膜をX線光電子分光法にて解析した。なお、X線源は単色化AlKα(1486.6eV)とし、負極極板の解析領域は700μm×300μmとした。X線光電子分光法にて得られたスペクトルから、バリウムの組成率を原子%で算出した。結果を表1に示す。
【0066】
さらに、上記のように初期充放電を行ったリチウム二次電池について、25℃の環境下において、240mAの定電流で4.3Vになるまで充電した後、4.3Vの定電圧で電流値が24mAになるまで充電し、さらに240mAの電流で2.8Vになるまで放電を行った。これを1サイクルとして、100サイクルの充放電を繰り返し行った。その後、初期容量Q1及び100サイクル目の放電容量Q[0.5C]から、以下の式を用いて、0.5Cサイクルにおける容量維持率を求めた。
0.5Cサイクルにおける容量維持率(%)=(Q[0.5C]/Q1)×100
【0067】
また、上記のように初期充放電を行ったリチウム二次電池について、25℃の環境下において、960mAの定電流で4.3Vになるまで充電した後、4.3Vの定電圧で電流値が24mAになるまで充電し、さらに240mAの電流で2.8Vになるまで放電を行った。これを1サイクルとして、100サイクルの充放電を繰り返し行った。その後、初期容量Q1及び100サイクル目の放電容量Q[2C]から、以下の式を用いて、2.0Cサイクルにおける容量維持率を求めた。
2.0Cサイクルにおける容量維持率(%)=(Q[2C]/Q1)×100
【0068】
実施例及び比較例の各々のバリウム化合物の粒径及び含有量、並びに評価結果を下記の表1に示す。なお、比較例1は、負極の表面にバリウム化合物を噴霧していない比較例である。
【0069】
【表1】
【0070】
表1を参照すると、実施例1~4は、負極表面のSEI膜にバリウム化合物が含有されているため、比較例1に対して、0.5Cサイクル及び2.0Cサイクルの容量維持率が向上していることがわかる。
【0071】
また、比較例2は、負極表面のSEI膜におけるバリウム化合物の含有量が本実施形態に係る範囲を超えているため、0.5Cサイクル及び2.0Cサイクルの容量維持率が低下していることがわかる。さらに、比較例3は、負極表面に噴霧したバリウム化合物の粒径が本実施形態に係る範囲を超えているため、0.5Cサイクル及び2.0Cサイクルの容量維持率が低下していることがわかる。
【0072】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0073】
10 リチウムイオン二次電池
20 正極
21 集電体
22 正極活物質層
30 負極
31 集電体
32 負極活物質層
40 セパレータ
図1