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特許7048367平坦化膜形成用塗布液およびその製造方法、平坦化膜付き金属箔コイルおよびその製造方法、並びにそれらに用いるシリカ微粒子含有ケトン系溶剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-28
(45)【発行日】2022-04-05
(54)【発明の名称】平坦化膜形成用塗布液およびその製造方法、平坦化膜付き金属箔コイルおよびその製造方法、並びにそれらに用いるシリカ微粒子含有ケトン系溶剤
(51)【国際特許分類】
   C09D 183/04 20060101AFI20220329BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20220329BHJP
   B32B 15/08 20060101ALI20220329BHJP
   B05D 7/14 20060101ALI20220329BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20220329BHJP
   C09D 7/20 20180101ALI20220329BHJP
【FI】
C09D183/04
C09D7/61
B32B15/08 Q
B05D7/14 Z
B05D7/24 302Y
C09D7/20
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018048104
(22)【出願日】2018-03-15
(65)【公開番号】P2019157031
(43)【公開日】2019-09-19
【審査請求日】2020-12-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000006644
【氏名又は名称】日鉄ケミカル&マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100187702
【弁理士】
【氏名又は名称】福地 律生
(74)【代理人】
【識別番号】100162204
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 学
(74)【代理人】
【識別番号】100102990
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 良博
(72)【発明者】
【氏名】山田 紀子
(72)【発明者】
【氏名】山口 左和子
【審査官】井上 恵理
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/076399(WO,A1)
【文献】特表2007-502333(JP,A)
【文献】特開2008-291186(JP,A)
【文献】特開2012-214340(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00-201/10
B05D 1/00- 7/26
B32B 1/00- 43/00
C08G77/00- 77/62
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルコール溶媒中、フェニルトリアルコキシシラン1モルに対して、酢酸0.1モル以上1モル以下、有機スズ0.005モル以上0.05モル以下を触媒として加え、2モル以上4モル以下の水で加水分解後、160℃以上210℃以下の温度で、加水分解で生成したものを含む有機溶媒を減圧留去して得られたフェニルシルセスキオキサンラダーポリマーのレジンおよびシリカ微粒子含有ケトン系溶剤を含み、前記シリカ微粒子含有ケトン系溶剤が、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、およびシクロヘキサノンから選ばれる有機溶媒中で、アルコキシシランを塩基性触媒下で加水分解して生成される、シリカ微粒子とシリカ微粒子の形態をとらないアルコキシシランの加水分解縮合反応物とを含む、平坦化膜形成塗布液。
【請求項2】
アルコール溶媒中、フェニルトリアルコキシシラン1モルに対して、酢酸0.1モル以上1モル以下、有機スズ0.005モル以上0.05モル以下を触媒として加え、2モル以上4モル以下の水で加水分解後、160℃以上210℃以下の温度で、加水分解で生成したものを含む有機溶媒を減圧留去して得られたフェニルシルセスキオキサンラダーポリマーのレジンをシリカ微粒子含有ケトン系溶剤に溶解した平坦化膜形成塗布液の製造方法であって、前記シリカ微粒子含有ケトン系溶剤が、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、およびシクロヘキサノンから選ばれる有機溶媒中で、アルコキシシランを塩基性触媒下で加水分解して生成される、シリカ微粒子とシリカ微粒子の形態をとらないアルコキシシランの加水分解縮合反応物とを含む、平坦化膜形成塗布液の製造方法。
【請求項3】
請求項1記載の塗布液を金属箔コイルに塗布後、不活性ガス雰囲気中300℃以上450℃以下の熱処理プロセスでリフローおよび膜硬化させることにより金属箔コイルの表面を膜厚2.0μm以上5.0μm以下、圧延に垂直な方向のRaが30nm以下であるフェニルシルセスキオキサンラダーポリマーの膜で被覆した平坦化膜付き金属箔コイル。
【請求項4】
前記金属箔がステンレス箔であることを特徴とする請求項3に記載の金属箔コイル。
【請求項5】
請求項1記載の塗布液を金属箔に膜厚2.0μm以上5.0μm以下となるように塗布し、不活性ガス雰囲気中300℃以上450℃以下の熱処理炉を通過させることによりリフローおよび膜硬化させた後、巻き取った平坦化膜付き金属箔コイルの製造方法。
【請求項6】
前記金属箔がステンレス箔であることを特徴とする請求項5に記載の金属箔コイルの製造方法。
【請求項7】
メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、およびシクロヘキサノンから選ばれる有機溶媒中で、アルコキシシランを塩基性触媒下で加水分解して生成される、シリカ微粒子とシリカ微粒子の形態をとらないアルコキシシランの加水分解縮合反応物とを含むシリカ微粒子含有ケトン系溶剤。
【請求項8】
アルコキシシラン1モルに対して、0.5~85モルのメチルエチルケトン、メチルイソブチルケン、およびシクロヘキサノンから選ばれる有機溶媒を、アルコキシシランと混合し、撹拌して、溶液1を作製する工程、
アルコキシシラン1モルに対して、0.8~8モルの水と0.1~6モルの塩基性触媒とを混合し溶液2を作製する工程、および
前記溶液1を撹拌しながら、前記溶液1に、前記溶液2を全量滴下し、滴下終了後、さらに撹拌する工程を含む請求項7に記載のシリカ微粒子含有ケトン系溶剤の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子デバイス用フレキシブル基板に適用可能な平坦化膜形成塗布液および平坦化膜付き金属箔コイル、並びにそれらに用いるシリカ微粒子含有ケトン系溶剤に関する。
【背景技術】
【0002】
電子ペーパー、有機ELディスプレイ、有機EL照明、太陽電池などの電子デバイスでは、フレキシブル基板が求められている。従来、これらのデバイスはガラス基板上に作製されていたが、フレキシブル基板上に作製すれば、落としても割れることがなく、軽量性・柔軟性を活かした新しい用途が広がる。フレキシブル基板として検討されている樹脂フィルムは耐熱性が乏しく寸法安定性が悪いという課題があり、薄ガラスは割れやすいという問題がある。金属箔の表面は圧延すじやスクラッチ疵などがあり、表面はガラスとは比較できないほど粗い。このため金属箔を被覆する膜は金属箔の表面をガラス基板並みに平坦化することが重要である。この平坦化膜は金属箔に絶縁性を付与することにもつながる。
【0003】
電子デバイスを作製する際のプロセス温度は、電子デバイスの種類および構成材料によって異なるが、有機ELディスプレイで求められるアモルファスシリコンあるいはLTPS(low-temperature poly silicon)のTFTを作る場合には300~400℃程度のプロセス温度になる。従って金属箔を被覆する絶縁膜も400℃まで耐えられる耐熱性が求められる。
【0004】
金属箔を被覆する膜材料としては、無機・有機ハイブリッド材料が挙げられる。有機材料は耐熱性が不足である。また、有機材料で被覆した場合は、デバイス形成前の平坦化膜付き金属箔の洗浄・乾燥工程において、洗浄用有機溶剤で被覆した有機材料が膨潤したり、洗浄時に被覆有機材料が吸収した水分や溶剤をすべて乾燥で取り除くことが難しく残留成分がデバイスに悪影響を及ぼしたりするので不適である。無機材料はクラックが入りやすく金属箔表面の圧延すじや疵を被覆できるだけの厚膜に成膜することが難しい。このため、耐熱性と柔軟性を適度に兼ね備えた無機・有機ハイブリッド材料が適している。無機・有機ハイブリッド材料による絶縁膜としては有機修飾シリカ膜が代表的である。有機基を含むため、無機膜より柔軟性があり厚膜が得られやすい。有機修飾シリカ膜は主骨格がSi-Oの無機骨格で形成されているため耐熱性は主骨格を修飾している有機基の分解温度で決まる。有機基としてメチル基やフェニル基を選べば400℃程度の耐熱性を確保することができる。特にフェニル基で修飾されたシリカ膜は、フェニル基の高い疎水性により、高温高湿化(たとえば85℃85%RHの環境加速試験)においてもSi-O主骨格が加水分解を受けにくく耐湿性に優れる。このため電子デバイス用基板としては、フェニル基修飾シリカ膜で被覆した金属箔が好ましい。
【0005】
フレキシブル基材上にデバイスを形成する場合には、Roll to Rollプロセスを採用することにより低コストで量産することが可能になる。そのためには平坦化膜を成膜した金属箔のシートではなく、平坦化膜付きの金属箔コイルが求められる。金属箔コイルとしては、幅が0.3~1.5m程度、長さが50~2000m程度のものが想定される。このような金属箔コイルを無機・有機ハイブリッド材料で被覆する有望な方法の1つとしてRoll to Roll成膜装置を使う方法がある。図1に代表的なRoll to Roll成膜装置の模式図を示す。通常Roll to Rollの成膜装置は、被成膜物である無垢の金属箔コイルをセットする巻出し部、金属箔コイルに塗布液を塗る塗工部、乾燥部、熱処理部、成膜済み金属箔コイルを巻き取る巻き取り部から成る。デバイスは一般的に基板の片面にのみ作製するので、平坦化膜も片面に塗布すればよい。塗布液を付けた後、乾燥・熱処理工程を通過するまでは溶剤や水分を多量に含んでいたり、膜の硬度が不十分で疵が入りやすかったりするので、乾燥・熱処理炉内では成膜面に搬送ロールが触れないことが強く望まれる。図1では成膜面に触れるロールに着色して示したが、このように膜面に触れるロールと膜面の反対側に触れるロールで基材を挟み込むことで基材に張力を付与できる。
【0006】
一方、乾燥・熱処理炉は平らに金属箔コイルを搬送する構造になっており、乾燥・熱処理時間が長い材料では非常にゆっくり金属箔を搬送するか、長大な炉を準備する必要がある。しかしながら、炉内で膜面にロールが当たらない状態に保つため、炉長が10mを超えるような長い設備は製造コストが高くなるだけでなく、金属箔に歪みがあっても炉内で金属箔を挟んで張力を掛け直すことができないために、蛇行が発生したり搬送が不安定になってしまったりする。炉長については仮に10mの長さがあっても最高温度や不活性ガス雰囲気などの熱処理環境が確保される領域はその中の一部にとどまるので、現実的な設備で工業生産するには短時間で熱硬化する材料が求められている。その目安は熱処理時間が2分以内で膜が硬化することである。
【0007】
すなわち、フレキシブルなデバイス基板として使える平坦化膜付き金属箔コイルを得るためには、金属箔の表面をガラス基板なみの高い平滑性になるよう被覆することができ、絶縁性を付与し、2分以内で硬化できるような無機・有機ハイブリッド膜、特にフェニル基で修飾されたシリカ膜が求められている。
【0008】
特許文献1には太陽電池用絶縁基板およびその製造方法として、オルガノアルコキシシランを含む材料で被覆されたステンレス鋼板が開示されている。いわゆるゾルゲル法による塗布液を成膜して絶縁性・耐熱性・短時間硬化が実現されているが、ゾルゲル法による塗布液は固形分濃度を高くするとゲル化してしまうため、多量の溶媒を含んでいる。金属箔の表面には圧延すじや疵のような凹凸が多数あり、深さ数μmの凹みが散見されるのが通常である。このような金属箔表面に固形分濃度が低い塗布液を塗ると、溶剤蒸発後に凹みが緩和されるものの、完全に平坦化されることはない。
【0009】
本願発明者は、特許文献2において、フェニルトリアルコキシシランを用いて、フェニルシルセスキオキサンラダーポリマーを形成し、これを芳香族炭化水素系溶剤に溶解した平坦化膜形成用塗布液を提案した。特許文献2に記載の平坦化膜形成用塗布液は、有機溶媒中にフェニルトリアルコキシシラン、酢酸、および有機スズを触媒として加え、水で加水分解後、160℃以上210℃以下の温度で、加水分解で生成したものを含む有機溶媒を減圧留去して得られたフェニルシルセスキオキサンラダーポリマー(以下、単に「ラダーポリマー」ともいう)を芳香族炭化水素系溶剤に溶解して得られる。
【0010】
特許文献2の平坦化膜用塗布液を基材に塗工し、フェニルシルセスキオキサンラダーポリマーの有機基に応じた条件で乾燥・熱処理を行うと、基材上に有機基で修飾されたラダーポリマーの平坦化膜が得られる。この平坦化膜は通常のゾルゲル膜に比べると高分子量の前駆体から形成されるため熱処理中に、膜の収縮が少なく、厚膜化が可能という特徴を持つ。しかし膜の硬度が低く疵が入りやすかった。
【0011】
基材上の平坦化膜耐疵付き性を向上させるために、膜中にフィラーを添加することが一般的に行われ、フュームドシリカ、コロイダルシリカ等のシリカ微粒子が用いられている。しかし、シリカ微粒子の乾燥粉末は溶剤中で凝集しやすい。例えば、コロイダルシリカ微粒子をケトン系溶剤に分散させて、特許文献2の平坦化膜形成用塗布液に加えた場合、シリカ微粒子が凝集して成膜が困難であった。また、得られた平坦化膜にもひび割れの発生が見られた。
【0012】
特許文献3は、シリカ微粒子分散液を基材に塗布することでシリカ微粒子の単層構造を基材に形成する際に、シリカ微粒子の凝集物の生成を抑制し、より均一な状態で基材にシリカ微粒子を配置することが容易な微粒子分散液を開示している。特許文献3では、ゾル-ゲル法(シュテーバー法)によって得られた単分散のシリカ粒子の凝集を抑制するために、シリカ微粒子をシランカップリング剤で疎水化して、(メタ)アクリル酸エステル系高分子を含有する、分散媒に分散させている。
【0013】
特許文献4は、SiNウェハのような研磨対象物を研磨するための研磨用組成物において砥粒として変性コロイダルシリカを用いることを開示する。ここでは、原料コロイダルシリカを、化学的にスルホン酸基に変換できる官能基を有するシランカップリング剤の存在下で加熱して、シランカップリング剤がシリカ粒子の表面に結合した変性コロイダルシリカにより、シリカ同士の凝集を抑制している。
【0014】
特許文献3,4に記載のシリカ微粒子は、いずれも、シリカ微粒子単独で含む分散液、研磨用組成物であって、シリカ微粒子を、シリカ微粒子以外の成分を含む塗布液と混合して用いるフィラーとして用いられてはいない。したがって、シリカ微粒子以外の成分を考慮した、凝集性については、検討されていない。
【0015】
従来技術においては、特許文献2記載のフェニルシルセスキオキサンラダーポリマーレジンをマトリックスとし、凝集していないシリカ微粒子をフィラーとして含み、シリカ微粒子の耐疵付き性の良い膜は得られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【文献】特開平11-40829号公報
【文献】国際公開第2016/076399号
【文献】特開2013-155096号公報
【文献】国際公開第2016/117560号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
上述したように、従来技術においては、特許文献2に記載のフェニルシルセスキオキサンラダーポリマーレジンをマトリックスとし、凝集していないシリカ微粒子をフィラーとして含む耐疵付き性の良い膜は得られていない。
【0018】
本発明は、上記課題を解決すべくなされたものであって、ケトン系有機溶媒中にフェニルトリアルコキシシラン、酢酸、有機スズを加え、加水分解後、加水分解で生成したものを含む有機溶媒を減圧留去して得られたフェニルシルセスキオキサンラダーポリマーレジンを、シリカ微粒子含有ケトン系溶剤に溶解した平坦化膜形成塗布液およびそれに用いるシリカ微粒子含有ケトン系溶剤である。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明により以下が提供される。
(1) アルコール溶媒中、フェニルトリアルコキシシラン1モルに対して、酢酸0.1モル以上1モル以下、有機スズ0.005モル以上0.05モル以下を触媒として加え、2モル以上4モル以下の水で加水分解後、160℃以上210℃以下の温度で、加水分解で生成したものを含む有機溶媒を減圧留去して得られたフェニルシルセスキオキサンラダーポリマーのレジンおよびシリカ微粒子含有ケトン系溶剤を含み、前記シリカ微粒子含有ケトン系溶剤が、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、およびシクロヘキサノンから選ばれる有機溶媒中で、アルコキシシランを塩基性触媒下で加水分解して生成される、シリカ微粒子とシリカ微粒子の形態をとらないアルコキシシランの加水分解縮合反応物とを含む、平坦化膜形成塗布液。
) アルコール溶媒中、フェニルトリアルコキシシラン1モルに対して、酢酸0.1モル以上1モル以下、有機スズ0.005モル以上0.05モル以下を触媒として加え、2モル以上4モル以下の水で加水分解後、160℃以上210℃以下の温度で、加水分解で生成したものを含む有機溶媒を減圧留去して得られたフェニルシルセスキオキサンラダーポリマーのレジンをシリカ微粒子含有ケトン系溶剤に溶解した平坦化膜形成塗布液の製造方法であって、前記シリカ微粒子含有ケトン系溶剤が、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、およびシクロヘキサノンから選ばれる有機溶媒中で、アルコキシシランを塩基性触媒下で加水分解して生成される、シリカ微粒子とシリカ微粒子の形態をとらないアルコキシシランの加水分解縮合反応物とを含む、平坦化膜形成塗布液の製造方法
) 前記(1記載の塗布液を金属箔コイルに塗布後、不活性ガス雰囲気中300℃以上450℃以下の熱処理プロセスでリフローおよび膜硬化させることにより金属箔コイルの表面を膜厚2.0μm以上5.0μm以下、圧延に垂直な方向のRaが30nm以下であるフェニルシルセスキオキサンラダーポリマーの膜で被覆した平坦化膜付き金属箔コイル。
) 前記金属箔がステンレス箔であることを特徴とする前記()に記載の金属箔コイル。
) 前記(1)記載の塗布液を金属箔に膜厚2.0μm以上5.0μm以下となるように塗布し、不活性ガス雰囲気中300℃以上450℃以下の熱処理炉を通過させることによりリフローおよび膜硬化させた後、巻き取った平坦化膜付き金属箔コイルの製造方法。
) 前記金属箔がステンレス箔であることを特徴とする前記()に記載の金属箔コイルの製造方法。
) メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、およびシクロヘキサノンから選ばれる有機溶媒中で、アルコキシシランを塩基性触媒下で加水分解して生成される、シリカ微粒子とシリカ微粒子の形態をとらないアルコキシシランの加水分解縮合反応物とを含むシリカ微粒子含有ケトン系溶剤。
) アルコキシシラン1モルに対して、0.5~85モルのメチルエチルケトン、メチルイソブチルケン、およびシクロヘキサノンから選ばれる有機溶媒を、アルコキシシランと混合し、撹拌して、溶液1を作製する工程、
アルコキシシラン1モルに対して、0.8~8モルの水と0.1~6モルの塩基性触媒とを混合し溶液2を作製する工程、および
前記溶液1を撹拌しながら、前記溶液1に、前記溶液2を全量滴下し、滴下終了後、さらに撹拌する工程を含む前記()に記載のシリカ微粒子含有ケトン系溶剤の製造方法。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、フェニルシルセスキオキサンラダーポリマーレジンとシリカ微粒子フィラーとの密着性が高く、シリカ微粒子の充填率が高くても、ひび割れのない耐疵付き性の高い膜が得られる。また、Roll to Rollプロセスに適用可能な短時間硬化が可能な耐疵付き性が向上した平坦化膜形成塗布液および平坦化膜付き金属箔が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】Roll to Roll 成膜装置の模式図を示す。
図2】本発明に用いるシリカ微粒子含有ケトン系溶剤をスライドガラス上で室温乾燥させ、走査型電子顕微鏡で観察した写真を示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
平坦化膜付き金属箔コイルを得るには、平坦化という観点で膜が硬化過程でリフローして金属箔の表面の凹凸をならすこと、その膜がRoll to Rollプロセスで成膜できるよう2分以内の熱処理時間で硬化できることの2点に加えて、得られる膜の硬度が高く耐疵付き性に優れていることが重要である。
【0023】
発明者らは耐熱性・耐湿性に優れるフェニルシルセスキオキサンラダーポリマーの膜で上記の2点を両立させ、且つ耐疵付き性に優れている膜が得られる平坦化膜形成塗布液を見出した。本発明の平坦化膜形成塗布液は、アルコール溶媒中、フェニルトリアルコキシシラン1モルに対して、酢酸0.1モル以上1モル以下、有機スズ0.005モル以上0.05モル以下を触媒として加え、2モル以上4モル以下の水で加水分解後、160℃以上210℃以下の温度で、加水分解で生成したものを含む有機溶媒を減圧留去して得られたフェニルシルセスキオキサンラダーポリマーレジンを、シリカ微粒子含有ケトン系溶剤に溶解した平坦化膜形成塗布液である。
【0024】
発明者らは、基材上の平坦化膜耐疵付き性を向上させるために添加する凝集しにくいフィラーとして、種々のシリカ微粒子を検討した。その結果、アルコキシシランからをゾルゲル法でシリカ微粒子を生成する方法において、ケトン系の溶媒で、アンモニアを触媒としてアルコキシシランを加水分解すると、大きさの異なるシリカ微粒子が析出するとともに、加水分解されたアルコキシシランのモノマーまたはオリゴマーも生成することを見出し、これを、フェニルシルセスキオキサンラダーポリマーのレジンのシリカ微粒子含有ケトン系溶剤として用いることにより、耐疵付き性に優れている膜が得られることを見出した。
【0025】
本発明に用いることができる、シリカ微粒子含有ケトン系溶剤は、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、およびシクロヘキサノンから選ばれる有機溶媒中で、アルコキシシランを塩基性触媒下で加水分解して生成される、シリカ微粒子とシリカ微粒子の形態をとらないアルコキシシランの加水分解縮合反応物とを含んでいる。図2に本発明に用いるシリカ微粒子含有ケトン系溶剤を走査型電子顕微鏡で観察した写真を示す。図2は、本発明に用いるシリカ微粒子含有ケトン系溶剤をスポイトで1ml吸い上げ、スライドガラス上で室温乾燥させた顕微鏡写真である。直径0.9μm前後と50nm前後の大きさの異なるシリカ粒子と、膜を形成している部分(図2で「膜成分」として示す)が認められる。膜を形成している部分がシリカ微粒子の形態をとらないアルコキシシランの加水分解縮合反応物である。
【0026】
シリカ微粒子含有ケトン系溶剤の製造に用いる有機溶媒は、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、およびシクロヘキサノンから選ばれるケトン系溶媒である。ケトン系溶媒であってもアセトンは、水との親和性が高いので、シリカ微粒子含有ケトン系溶剤の製造には適していない。特に好ましいケトン系溶媒は、シクロヘキサノンである。
【0027】
ケトン系溶媒は、20℃における水の溶解度が250g/L以下であることが好ましい。アルコキシシランは、通常、ケトン系溶媒と均一に混じり合うが、水の溶解度が低いケトン系溶媒では、水が均一に混じり合わないので、アルコキシシランの加水分解が不均一に進む。塩基性触媒下では、一か所加水分解されたアルコキシシラン分子は、選択的に、次の加水分解を受けやすい。疎水性溶媒中では、親水性基同士が集まった方が安定であるため、加水分解初期には、脱水縮合反応が進み、シリカ微粒子が形成され、脱水反応で生じた水が次の加水分解反応に使用され、シリカ微粒子が成長する。この時一か所のみ加水分解されて、他の部分は加水分解されなかったアルコキシシラン分子は、シリカ微粒子の形成に関わることなく、溶媒中にそのままモノマーとして存在し、またモノマー同士で逐次的に縮合してオリゴマー(アルコキシシランの加水分解縮合反応物)を形成する。このように水の溶解度が低いケトン系溶媒中で塩基性触媒を使った場合、加水分解の初期には100nm以上の比較的大きめの粒子と、モノマーまたはオリゴマーが生成する。一定量の加水分解が進むとアルコキシシランの副生成物としてアルコールが得られ、ケトン・アルコール・水から構成される完全に混和した溶液になり、加水分解は溶媒内で均一に進行し、シュテーバー法と同様に水の添加量に応じて100nm未満の小さいナノ粒子が生成する。
【0028】
本発明のシリカ微粒子含有ケトン系溶剤の製造では、前述のようにアルコキシシランの加水分解反応の結果、シリカ微粒子と、シリカ微粒子の形態をとらないアルコキシシランの加水分解縮合反応物(モノマーまたはオリゴマー)が共存して生成する。このモノマーまたはオリゴマーが、シリカ微粒子とラダーポリマーレジンマトリックスとの密着性を高める効果を提供している。
【0029】
生成したシリカ微粒子と、前記アルコキシシランの加水分解縮合反応物の総固形分は、通常、1mass%以上20mass%以下である。総固形分濃度が1mass%未満である場合は、得られる平坦化膜の中に含まれるシリカ微粒子およびアルコキシシランの加水分解縮合反応物が少ないため、耐疵付き性の効果が発現しにくい。総固形分濃度が20mass%を超える場合は、シリカ微粒子含有ケトン系溶媒そのものの貯蔵安定性が悪くなりやすいうえ、平坦化膜中のシリカ微粒子の割合が高くなり、膜に微細なクラックが入って、リーク電流が低下しやすい。
【0030】
本発明に用いるシリカ微粒子含有ケトン系溶剤中のシリカ微粒子の粒度分布は、シュテーバー法に代表される従来技術のゾル-ゲル法によって得られるような、単分散のシリカ微粒子ではなく、10nm~100nmの範囲と、100nm~1000nmの範囲にピークを有している。これらの大きな粒径の粒子群と、小さな粒径の粒子群の2つのタイプが存在することにより、単分散のシリカ微粒子に比較して、シリカ微粒子フィラーの充填率を高めることができ、得られる平坦化膜の耐疵付き性をさらに高める効果を提供している。
本発明ではシリカ微粒子含有ケトン系溶媒を1ml採取してスライドガラス上で乾燥させたもののSEM写真を20枚撮影し、画像解析ソフトで球形近似した粒子の個数を縦軸に、0~25nm、25~50nmのように25nm刻みで、球形近似した粒子の直径を横軸にヒストグラムを作製することで、ピークが2山のバイモーダルな粒度分布になっているかどうか調べている。
【0031】
シリカ微粒子含有ケトン系溶剤の製造に用いるアルコキシシランは、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラブトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、トリメトキシシラン、トリエトキシシランが挙げられる。特に好ましいアルコキシシランは、テトラエトキシシランである。また、使用する触媒は、塩基性触媒である。使用可能な塩基性触媒としては、アンモニア水、NaOH、KOHが挙げられる。特に好ましい塩基性触媒は、アンモニア水である。
【0032】
本発明に用いるシリカ微粒子含有ケトン系溶剤は、以下の工程によって製造することができる。
アルコキシシラン1モルに対して、0.5~85モルのケトン系溶媒を用意して1モルのアルコキシシランと撹拌混合する。別の容器でアルコキシシラン1モルに対して、0.8~8モルの水と0.1~6モルの塩基性触媒とを混ぜ合わせて、塩基性の水溶液を作製する。アルコキシシランとケトン系溶媒とを撹拌しているところへ、塩基性水溶液を滴下する。滴下終了後、さらに1時間撹拌することにより本発明に用いるシリカ微粒子含有ケトン系溶剤が得られる。
【0033】
本発明の平坦化膜形成塗布液のフェニルシルセスキオキサンラダーポリマーのレジンは、有機溶媒中、フェニルトリアルコキシシラン1モルに対して、酢酸0.1モル以上1モル以下、有機スズ0.005モル以上0.05モル以下を触媒として加え、2~4モルの水で加水分解後、160℃以上220℃以下の温度でフェニルトリアルコキシシランの加水分解時に用いた有機溶媒、反応副生成物としての水およびアルコールを減圧留去して得られる。
【0034】
加水分解後の溶液は、粘度1~2mPa・sの透明なものであった。GPC (gel permeation chromatography)により求めたスチレン換算重量平均分子量は300であり、部分加水分解されたフェニルトリアルコキシシランの単分子あるいは2分子程度の縮合物であることを示した。減圧留去は室温から初めて突沸が起きないように徐々に温度を上げていく。オイルバスを用いてロータリーエバポレータで600mlの加水分解溶液の溶媒を減圧留去する場合、オイルバス50℃で溶媒が出なくなるまで約30分保った後、130℃にオイルバスの温度を上げて溶媒が出なくなるまで30分保つ。温度上昇と溶媒除去に伴って、固形分濃度が上がり、固形物の粘度が高くなり、曳糸性を示すようになる。160~210℃にオイルバスの温度を上げて溶媒が出なくなるまで30分保ち、さらに15分保持して溶媒を完全に取り除くことができる。溶媒がほとんどなくなると固形物すなわち曳糸性を示していたレジンは160~210℃において流動性がなくなってくる。この時得られるレジンは室温では半透明~白色の固体である。レジンをシリカ微粒子含有ケトン系溶剤に溶解後、GPCにより求めたスチレン換算重量平均分子量は5000~100000であった。
【0035】
このように曳糸性を示したことと、高分子量でありながら溶剤に溶解したこと、赤外線吸収スペクトルにおいて1100cm-1付近にシロキサン結合に由来するダブルピークを示したことから、本発明によるフェニルトリエトキシシランを原料としたレジンはラダー構造に近い形をとっていると推定される。
【0036】
本発明では酸触媒として酢酸を用いているため、ラダーポリマーに近い構造ではあるが欠陥部にアルコキシ基や水酸基が比較的多く残っており、反応基を多く含むため、熱処理時にこれらの反応基間で縮合反応が進み、短時間で膜硬化が可能になると考えられる。ここで膜硬化とは、熱処理後の膜の鉛筆高度が3H以上になり疵が入りにくくなることと、膜中の溶剤や水分など絶縁膜のリークの原因となりえる成分が揮発し、絶縁膜のリーク電流が1E-6A/cm以下である絶縁膜が形成されることの2つの条件を満たすことを意味する。絶縁膜のリーク電流は、金属箔と、フェニルシルセスキオキサンラダーポリマーの膜の膜上に形成した1cm角の上部電極の間に100Vの電圧を印加して測定する。
【0037】
さらに、本発明においては触媒として加えている有機スズ由来のSnにより熱処理中の縮合反応が一層促進され、300~450℃において2分以内という連続熱処理可能な短時間での膜硬化が可能となる。
【0038】
以下、本発明の高平滑化膜を得るためのパラメータ条件について記載する。特に断りのない限り、モル数はフェニルトリアルコキシシラン1モルに対する量である。
【0039】
塗布液合成時の酢酸の量はフェニルトリアルコキシシランの加水分解の進行具合に大きく影響を及ぼす。酢酸の量が0.1モルより少ない場合は、一部のフェニルトリアルコキシシランのみしか加水分解されないため、その後の重縮合反応がなかなか進行せず、低分子量のレジンとなってしまう。ラダーポリマーとしてある程度の長さがなければ、絡まり合ったポリマーが熱振動でほどけてリフロー性を発揮することにならないので不適である。1モルより多い時は、ほとんどすべてのフェニルトリアルコキシシランのすべてのアルコキシ基が加水分解されてしまうため、その後の重縮合反応が急速に進みすぎ、減圧留去前の加水分解の段階でゲル化が発生するため不適である。
【0040】
有機スズはフェニルトリアルコキシシランおよびその加水分解縮合反応物や、フェニル基含有ラダーポリマーの重縮合反応を促進する触媒である。有機スズが0.005モルより少ない時は熱処理中のラダーポリマーの縮合反応促進効果が不十分で、短時間硬化ができなくなるので不適である。有機スズが0.05モルを超えると、フェニルトリアルコキシシランおよびその加水分解縮合反応物の重縮合が進みすぎ、減圧留去前の加水分解の段階でゲル化が発生するため不適である。
【0041】
加水分解に用いる水の量が2モルより少ない場合、レジンに大量のアルコキシ基が残存するため、熱処理中に縮合反応(ラダーポリマー化)をしなければならなくなる。このため350~450℃において2分の熱処理では熱処理時間が不十分で、溶剤や水分が膜に残り絶縁不良となるため不適である。水の量が4モルを超える場合は急速に加水分解が進むため、ラダー状の規則正しい構造を作るよりもランダムに網目構造ができてしまい、レジンが溶解しなくなるため、塗布液が作製できず不適である。減圧留去時の温度が160℃より低い場合は、レジンの縮合反応が不十分であるため、溶解後のレジンの分子量分布にバラつきができ、低分子量成分が成膜時に揮発してハジキ状の欠陥が発生するため、不適である。減圧留去時の温度が210℃を超える場合は、縮合反応が進みすぎてレジンがケトン系溶媒に溶解しにくくなるので不適である。減圧留去時のより好ましい温度は165℃以上180℃以下である。塗布液の粘度はレジンと溶剤の量比、すなわち固形分量で調整することができる。最適な粘度と固形分量は塗布方法に依存するが、一般的には固形分濃度が15mass%以上40mass%以下で、粘度が3mPa・s以上100mPa・s以下に調整しておくと、2~5μmの膜厚で均一に塗ることができ、塗布液の貯蔵安定性も良好である。
【0042】
次に本発明のフェニルシルセスキオキサンラダーポリマー膜による平坦化膜付き金属箔について説明する。
【0043】
金属箔は圧延によって薄くするので、圧延方向にすじが認められる。また、元の溶融金属に含まれる介在物や、圧延ロールに巻き込まれた異物などによって、圧延方向に引き伸ばされた疵も存在する。疵の大きさは幅数十μm、長さ1~数mm程度であることが多い。
【0044】
金属箔の表面粗さは圧延すじに対して平行な方向と垂直な方向で異なり、垂直方向の方が表面粗さとしては大きい数字となる。したがって、被覆によって金属箔の平坦性を向上させる目的では表面粗さとして最も大きい数字になる垂直方向に注目する必要がある。具体的には、触針式粗さ計により1.25mmの測定長さで表面粗さを10箇所以上、金属箔コイルの圧延方向に対して垂直、すなわちコイルの幅方向に測定し、平均値を採用する。
【0045】
平坦化膜付き金属箔の表面粗さと、その上に形成した有機EL素子の特性の関係を詳細に調べた結果、膜表面の平坦性は素子のリーク電流を減らすうえで重要であることがわかった。平坦化膜付き金属箔表面の圧延と垂直方向の算術平均粗さRaが30nm以下であれば、有機EL発光素子のリーク電流を1E-4A/m以下という実用的なレベルにすることができる。素子のリーク電流はフェニルシルセスキオキサンラダーポリマーの膜の上に、素子の下部電極、発光部、上部電極の順に成膜して素子を作り下部電極と上部電極の間に3Vの電圧を加えたときの電流を素子面積で割って求める。発光部は複数の層から成り全層厚は100~150nm程度であるので、膜の表面が粗い場合は下部電極と上部電極の間の距離の短いところができてしまい、素子のリーク電流が増えることになる。平坦化膜付き金属箔のRaが30nmを超える場合は、1E-4A/mを超えるリーク電流の大きい素子になるため素子としての効率が悪くなったりショートが発生したりするので不適である。Raのより好ましい範囲は20nm以下、さらに好ましくは15nm以下で、より小さなリーク電流にすることができる。
【0046】
平坦化膜の表面粗さは、被覆する金属箔の表面粗さを反映する。金属箔表面そのものの表面粗さは圧延方向と垂直な方向に測ったRaが60nm以下であることが平坦化膜のRaを30nm以下にする目安となる。ただし、比較的粗い金属箔であってもフェニルシルセスキオキサンラダーポリマーの膜を厚く成膜すれば平坦化はしやすくなる傾向がある。金属箔としてはステンレス箔、アルミ箔、チタン箔、めっき鋼箔、銅箔などが挙げられる。金属箔の厚みは折れやしわが入らず扱うことが可能で、かつフレキシブル性を損なわない範囲が望ましく、通常30μm以上150μm以下が使いやすく、更に好ましい板厚は35μm以上80μm以下である。
【0047】
平坦化膜の膜厚は2μm以上5μm以下である。2μmより薄い場合は、金属箔そのものの凹凸を被覆しきれない。5μmを超える場合は膜にクラックが入りやすくなる。成膜時のクラックが入りやすいだけでなく、平坦化膜で被覆されたステンレス箔をフレキシブル基板として曲げたときにも膜にクラックが入りやすくなる。膜厚は2.5μm以上4μm以下であることが、凹凸被覆とクラック防止の観点からさらに好ましい。
【0048】
平坦化膜は1ppm以上5000ppm以下のSnを含むことが望ましい。Snの濃度はSIMS(secondary ion mass spectrometry) 分析あるいはX線蛍光分析によって測定することができる。Snの濃度が1ppmよりも少ない時は、短時間での膜硬化ができにくいためRoll to Rollでコイルに連続成膜することが難しい場合がある。Snの濃度が5000ppmを超えるときは膜が硬くなり曲げたときにクラックが発生しやすくなる場合がある。
【0049】
金属箔コイルへの塗布後、乾燥処理は20℃以上150℃以下の温度で行う。乾燥工程では塗布した膜に含まれる溶剤や水分を除去して乾燥膜とするのが目的である。減圧留去によるレジン合成温度より高い乾燥温度にすると、レジンを形成しているラダーポリマーが軟化する可能性があるため、乾燥温度はレジン合成温度より低いことが望ましい。乾燥膜中ではラダーポリマーが絡まり合って見掛け上、網目構造のようになって膜硬化しているように見えるが、熱振動で分子の運動が活発になるとラダーポリマーはほどけて流動性を示すようになる。熱処理工程は乾燥膜を形成しているラダーポリマーを溶融軟化、すなわちリフローさせて膜の表面を平坦化させることと、リフローに引き続きポリマーの架橋を進めて三次元網目構造を形成させ膜を硬化させることの2つが目的である。リフローは減圧留去によるレジン合成温度より高温域、三次元的な架橋が進んで膜が硬化し始める温度より低い温度域で発生する現象である。リフローのために特別な熱処理プロセスをとる必要はなく、熱処理を300℃以上450℃以下で行えば、熱処理温度まで昇温される過程でリフローが起き、引き続き架橋による膜硬化が進む。金属箔の表面を平坦にするには図1に示したように水平な状態で熱処理を行うことが効果的である。膜硬化は架橋反応による網目構造形成であるので、ひとたび膜が硬化すると、再度リフローすることはない。熱処理温度が300℃より低い場合は、架橋が十分進まずシラノール基などの反応基が膜の中に残るため絶縁性が不十分となるうえ、有機デバイス作製中にシラノール基などに吸着した水分が脱離すると素子に悪影響を及ぼすので不適である。熱処理温度が450℃より高い場合は、フェニル基の熱分解による体積収縮が起き、クラックが入りやすくなるので不適である。より好ましい熱処理温度は360℃以上420℃以下である。
【0050】
本発明で用いるフェニルトリアルコキシシランとしては、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、フェニルトリプロポキシシランなどが挙げられる。
【0051】
フェニルトリアルコキシシランを加水分解するときに用いる有機溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールから選ばれるアルコール系溶媒である。
【0052】
有機スズとしては、ジブチルスズジアセテート、ビス(アセトキシジブチルスズ)オキサイド、ジブチルスズビスアセチルアセトナート、ジブチルスズビスマレイン酸モノブチルエステル、ジオクチルスズビスマレイン酸モノブチルエステル、ビス(ラウロキシジブチルスズ)オキサイドなどが挙げられる。
【0053】
減圧留去時に留去される加水分解で生成したものを含む有機溶媒は、フェニルトリアルコキシシランを加水分解するときに用いた有機溶媒に加えてフェニルトリアルコキシシランの加水分解によって生成したアルコールも含まれる。また加水分解されたフェニルトリアルコキシシランの縮合反応に伴って生成する水が含まれることもある。
【0054】
酸触媒として、塩酸、硝酸、リン酸も検討したが、酢酸の時のような高分子量のラダーポリマーを作ってリフロー性を利用して平滑な膜を得ることは難しかった。この理由は弱酸である酢酸の場合と、塩酸などを用いた場合では酢酸の方がゆっくりと加水分解が進むことにより、得られるラダーポリマーの構造が異なるためと推測される。
【0055】
金属箔コイルに成膜するにはRoll to Rollによる連続成膜を行う。一般的な装置構成はコイルの巻きだし部、塗工部、乾燥炉、熱処理炉、コイル巻き取り部から成る。通板速度は速いほど生産性が良いが、1mpmから20mpm程度が一般的である。塗布する方法としては、マイクログラビアロール、グラビアロールなどによる塗布や、スリットコータ、スクリーン印刷などが挙げられる。ステンレス箔の両面に塗工したい場合は、ディップコートによる成膜もできる。乾燥は20℃以上150℃以下で0.5~2分程度行う。乾燥時の炉内の雰囲気は大気でも窒素などの不活性ガス雰囲気でもよい。熱処理はフェニル基が熱分解しにくいように不活性ガスを流しながら行う。連続成膜装置の場合、基材が熱処理炉内に入るときに若干量の大気を持ち込むが、本発明のフェニルシルセスキオキサンラダーポリマーの膜は1%程度の大気の混入があっても膜特性に影響はない。乾燥炉および熱処理炉内ではデバイス形成側の膜面にロールが当たらないような装置設計にする。巻き取り時には膜面に保護フィルムを貼りつけたり、疵が入らないように合紙を挿入したりしてもよい。また、乾燥と熱処理を連続して行うのではなく、乾燥膜が付いたコイルを一度巻き取って、再度熱処理のみを行ってもよい。この場合は乾燥膜作製用の設備と熱処理用の設備と2種類必要になるが、それぞれを最適の通板速度で処理できる長所がある。
【0056】
以上、本発明の平坦化膜付き金属箔コイルを、Roll to Rollで連続成膜する製造方法を説明したが、本発明の平坦化膜付き金属箔コイルは、連続塗布ではなく、バッチ式で塗布して製造することもできる。
【実施例
【0057】
次に、実施例により本発明を更に説明する。本発明がここに提示した実施例に限定されないことは言うまでもない。
【0058】
試験1
試験1は、本発明の範囲に入るフェニルシルセスキオキサンラダーポリマーのレジンAに対して、種々のシリカ微粒子含有ケトン系溶剤を用いて、平坦化膜形成塗布液を作製し、得られた平坦化膜を評価した。
【0059】
<フェニルシルセスキオキサンラダーポリマーのレジンAの製造>
以下の方法によりフェニルシルセスキオキサンラダーポリマーのレジンAを作製した。エタノール中で、フェニルトリエトキシシラン1モルに対して、酢酸0.3モルとジブチルスズジアセテート0.012モルを触媒として加え、3モルの水で加水分解した。窒素気流下で3時間還流後、ロータリーエバポレータを用いて突沸しないように徐々に温度を上げ、最終的に160℃で、加水分解で生成したものを含む有機溶媒を減圧留去してレジンを得た。GPCにより求めたスチレン換算重量平均分子量Mwは150,000であった。赤外線吸収スペクトルでは1035cm-1と1135cm-1に2つのピークを示しラダーポリマーであることが示唆された。
【0060】
このレジンAを表1に示す種々のシリカ微粒子含有ケトン系溶剤に溶解させ、平坦化膜形成用塗布液を作製した。使用したシリカ微粒子含有溶剤の原料であるアルコキシシランの量(g)、塩基性触媒の量(g)および水の量(g)を表1に示す。尚、表1の下段に、シリカ微粒子含有溶剤の原料と配合比(モル)を表した。ここでの「水の量(※)」は、塩基性触媒としてアンモニア水溶液を使用する場合は、アンモニア水溶液中の水の量と添加した水の量との合計モル数である。表1のシリカ微粒子含有ケトン系溶剤とアルコキシシランとを混合・撹拌しているところに、表1に示す塩基性触媒と水の混合溶液を約1時間かけて滴下し、滴下終了後さらに1時間撹拌した。
【0061】
シリカ微粒子含有ケトン系溶剤1mlをスポイトで採取しシリカガラス上で、24時間室温で乾燥させた。倍率3万倍でSEM写真を20枚とり、株式会社マウンテックの画像解析式粒度分布ソフトウエアMac-View ver.4を用いて粒度分布のヒストグラムを作製した。縦軸は個数、横軸は25nm刻みで0~1000nmまでの粒子直径とした。粒子は球形近似した。粒度分布が1山のものは分布全体を使って平均粒子径を求めた。ピークが2山のバイモーダルな分布の場合は、ピーク毎に平均粒子径を計算した。
平坦化膜形成用塗布液はフェニルシルセスキオキサンラダーポリマーとシリカ微粒子およびアルコキシシランの加水分解縮合反応物をあわせた固形分濃度が30mass%になるような配合比で作製した。
【0062】
平坦化膜形成用塗布液はスピンコータで12cm角の金属箔に成膜した。膜厚はスピンコータの回転数で制御し、すべて3μmの膜厚で成膜した。
室温乾燥後、熱処理は赤外線加熱炉で窒素雰囲気中400℃まで0.5分で昇温し、2分保持した後にヒータースイッチをOFFとした。この場合、200℃までの冷却時間は1分であった。
【0063】
熱処理後の膜の硬さはJIS K5600に従い鉛筆硬度で評価した。鉛筆硬度は、7H以上は非常に良好(◎)、7H未満5H以上は良好(○)とした。
【0064】
フェニルシルセスキオキサンラダーポリマーの膜のリーク電流は、フェニルシルセスキオキサンラダーポリマーの膜の上にマスクを用いて1cm角の白金上部電極を、イオンコータで成膜して、上部電極とし、ステンレス箔を下部電極として、上下の電極間に100Vをかけて測定した。
【0065】
繰り返し曲げ試験はユアサシステム機器株式会社製U字折り返し試験機を用い、面間隔10mm、ストローク±60mm、1分間に60ストロークで10000回実施した。実施前後のリーク電流は1E-8A/cm2未満であれば非常に良好(◎)、1E-8A/cm以上1E-7未満であれば良好(○)とした。
【0066】
比較例1-1は、シリカ微粒子含有溶剤の作製にトルエンを使った。アルコキシシランの加水分解に伴うアルコールの生成が起きても、トルエンと水・アルコールの混和が進まず、相分離したままゲルが生成してしまったので、フェニルシルセスキオキサンラダーポリマーのレジンを溶解させる工程に進めなかった。
【0067】
比較例1-2は通常のシュテーバー法と同様にエタノール溶媒を用いた。このため、35nmにピークを示す1山の粒度分布となり、加水分解されたアルコキシシランのモノマー・オリゴマーの生成が見られなかった。モノマー・オリゴマーが生成しなかったので、粒子とフェニルシルセスキオキサンラダーポリマーの密着性が低く、繰り返し曲げ試験によって平坦化膜に微細なクラックが生じてリーク電流が増大した。
【0068】
比較例1-3は水と混和するケトンであるアセトンを使った例である。水とアセトンが混じるため初期に不均一な加水分解が起きることがなく、加水分解されたアルコキシシランのモノマー・オリゴマーが生成せず、繰り返し曲げ試験後のリーク電流が増大した。比較例1-4は市販の高濃度シリカスラリーを使った例で、シリカ粒子の量が多すぎて乾燥後の平坦化膜にひび割れが発生した。
【0069】
比較例1-5は低濃度に希釈したシリカスラリーを使った例である。アルコキシシランのモノマー・オリゴマーが含まれていないため繰り返し曲げ試験後のリーク電流が増大した。
【0070】
比較例1-6~1-8はシリカ粒子を含まない溶媒のみにフェニルシルセスキオキサンラダーポリマーを溶解させたものである。シリカ粒子がないため皮膜の鉛筆硬度が低かった。
【0071】
実施例1-1はシリカ微粒子含有溶媒の固形分濃度がやや高いためややリーク電流が高めであった。実施例1-5はシリカ微粒子の粒度分布が1山であるため粒子の充填率が上げられずやや鉛筆硬度が低めであった。実施例1-6はシリカ微粒子含有溶媒の固形分濃度がやや低いため、鉛筆硬度が低めであった。それ以外の実施例は非常に良好な結果を示した。
【0072】
【表1】
【0073】
試験2
試験2は、本発明の範囲に入るシリカ微粒子含有ケトン系溶剤Bに対して、種々のフェニルシルセスキオキサンラダーポリマーのレジンを用いて、平坦化膜形成塗布液を作製し、得られた平坦化膜を評価した。
【0074】
<シリカ微粒子含有ケトン系溶剤Bの製造>
ビーカーにシクロヘキサノン5モルとテトラエトキシシラン1モルを入れ、マグネティックスターラーで撹拌した。別のビーカーで30%アンモニア水溶液28.39gと水1.73gを混ぜ合わせて、シクロヘキサノンとテトラエトキシシランが入っているビーカーに滴下した。30%アンモニア水溶液28.39gと水1.73gを混ぜ合わせたものは、0.5モルのアンモニアと1.2モルの水の混合物になる。滴下中もマグネティックスターラーで撹拌を続け、滴下終了後も1時間撹拌した。
【0075】
種々の条件でフェニルシルセスキオキサンラダーポリマーの平坦化膜形成用塗布液を合成した。エタノール溶媒中でフェニルトリエトキシシラン1モルに対して、表2に記載の条件で酢酸と有機スズと水を添加して加水分解を行った。窒素気流下80℃で5時間還流後、ロータリーエバポレータで溶媒を減圧留去した。減圧留去時に徐々に温度を上げていくが、その時の最高温度が減圧留去温度として表2に記載されている。減圧留去して得られたフェニルシルセスキオキサンラダーポリマーをシリカ微粒子含有ケトン系溶剤Bにフェニルシルセスキオキサンラダーポリマーと、シリカ微粒子と、モノマー・オリゴマーを合わせた全固形分濃度が30mass%になるように溶解させて平坦化膜形成用塗布液を作製した。
【0076】
作製した塗布液をスピンコータでNSSC190SB仕上げの厚さ50μmのステンレス箔の上に膜厚3μmで塗布した。乾燥は80℃で1分行った。熱処理は赤外線加熱炉で窒素雰囲気中、表2に記載の熱処理温度まで0.5分で昇温し、1分、2分、5分、15分、30分の各時間保持した後にヒータースイッチをOFFとした。この場合、200℃までの冷却時間は1分であった。
【0077】
フェニルシルセスキオキサンラダーポリマーの膜の膜厚は膜付き金属箔をカットして断面方向から走査型電子顕微鏡(SEM)観察により測定した。圧延に対して垂直な方向に触針式粗さ計で10回測定した平坦化膜の表面粗さRaの平均値が30nm以下○、15nm超である場合は平坦性良好○、15nm以下の場合は平坦性非常に良好◎と判断した。30nmを超える場合は不適×とした。
【0078】
熱処理後の平坦化膜の硬さはJIS K5600に従い鉛筆硬度で評価した。フェニルシルセスキオキサンラダーポリマーの膜のリーク電流はフェニルシルセスキオキサンラダーポリマーの膜の上にマスクを用いて1cm角の白金上部電極をイオンコータで成膜して上部電極とし、ステンレス箔を下部電極として上下の電極間に100Vをかけて測定した。
【0079】
鉛筆硬度5H以上とリーク電流1E-6A/cm以下が得られる最も短い熱処理保持時間を硬化時間とした。鉛筆硬度が5H以上であれば耐疵付き性の良い膜と言える。硬化時間が2分であればRoll to Rollの連続成膜が現実的であり良好○と判断し、1分であればより確実にRoll to Roll の連続成膜ができるので非常に良好◎とした。5分以上の場合は不適×とした。
【0080】
平坦性とRoll to Roll適合性の両方が満たされていれば、電子デバイス基板として機能する絶縁膜付きコイルが得られると考えられるため総合評価合格とした。
【0081】
【表2】
【0082】
実験番号2-1は酢酸の量が少ないためラダーポリマーとして高分子量化がうまく進まず、リフロー性が低く平坦性が悪かった。2-5は酢酸が多すぎるため還流中にゲル化が発生したため塗布液が合成できなかった。2-6は有機スズが少ないため熱処理時間が長くなった。2-10は有機スズの添加量が多すぎたため、還流中にゲル化が発生し塗布液が合成できなかった。2-11は水が少ないため原料であるフェニルトリエトキシシランのエトキシ基が過剰に残留し、熱処理時間が長くなった。2-14は水が多すぎたため難溶解性のレジンとなり塗布液が得られなかった。恐らくラダーポリマーの他に3次元にランダムに網目構造をもつ重合物も同時に生成したためと思われる。2-15は減圧留去の温度が低かったので、低分子量の重縮合物が残り熱処理中にこれらが揮発してハジキとなった。ハジキが多いため短絡が発生し絶縁膜として機能しなかった。2-20は減圧留去時の温度が高すぎたため、ラダーポリマーが3次元的につながって高分子量化したレジンになり、溶媒に溶解しなかった。2-21は熱処理温度が低かったので、膜中のエトキシ基やシラノール基の縮合反応が完了せず、これらの残留する極性基のために高いリーク電流を示した。2-26は熱処理温度が高すぎたためフェニル基の分解が進みクラックが発生した。表2に示すその他の実験番号のものは本発明の範囲であり総合評価合格となった。
【0083】
最後に実験番号2-8の組成の平坦化膜形成塗布液を用いてRoll to Rollの成膜試験を実施した。成膜試験には厚さ50μm、幅300mm、長さ200mのNSSC190SB仕上げのステンレス箔を用いた(NSSC190は新日鉄住金ステンレスの独自鋼種でSUS444とほぼ同じである。SBはスーパーブライト仕上げで新日鉄住金マテリアルズの独自仕上げを表わす。)。ステンレス箔はベークライト製の6インチのコアに巻いてロール状にしたものを巻きだし部に取り付けた。塗布液の粘度は10mPa・sで固形分濃度は31%であった。塗布はセル容積の異なる複数のグラビアロール使って行い、乾燥膜の厚さが3μm前後になるものを選定した。用いたR2R(Roll to Roll)の成膜装置の概略は図1に示したものと同じである。総張力100Nをかけてステンレス箔を搬送した。巻き取り部にはEPC(edge position control)センサーを取り付けて箔の端部を揃えて、ベークライト製の6インチのコアに巻き取った。乾燥炉および熱処理炉はどちらも赤外線パネルヒータと熱風による加熱方式とした。乾燥炉は総長が8mあり炉内設定温度を100℃として運転した。熱風として100℃に加熱した大気を送風した。熱処理炉は長さが12mあり炉内設定温度を380℃とした。熱風として380℃に加熱した窒素を送風した。冷却帯では室温の大気をステンレス箔の上下から吹き付けた。冷却帯の長さは2mであった。巻きだしから巻き取りまでの総長は35mであった。搬送速度4mpmでステンレス箔を通板し、塗布・乾燥・熱処理を実施し、平坦化膜付きステンレス箔を約150mロールとして巻き取った。
【0084】
計算上の乾燥処理時間は2分、熱処理時間は3分となるが、ステンレス箔に熱電対を取り付けて4mpmで搬送したところ乾燥炉内でステンレス箔の基板の温度が上がり始め100℃になるまでに約1分、100℃に保持されている時間が約1分であることがわかった。また熱処理炉については、約100℃のステンレス箔が熱処理炉内に入った後、380℃にステンレス箔の温度が上がるまでに1.5分、380℃に保持されている時間が1.5分であることがわかった。したがって、グラビアコータで塗布された膜のトルエンなどの溶媒が乾燥炉内で蒸発して取り除かれ、熱処理炉に入った後、1分前後の間に200~250℃のリフローが起きやすい温度域を通過して膜がレベリングされ、残りの2分で膜硬化することになる。
【0085】
得られた平坦化膜付きステンレス箔のロールについてJIS K5600に従って鉛筆硬度を測定したところ7Hの硬さで十分な耐疵付き性であった。平坦化膜付きステンレス箔の断面をSEMで観察したところ、膜厚は3.0μmであった。1cm角の上部電極を付けてリーク電流を測定したところ1E-9A/cmであった。触針式粗さ計によるコイルの幅方向の表面粗さRaは12nmであった。耐熱性を確認するために皮膜を削り取って熱重量分析を窒素ガス中で実施した。測定結果を表2に示した。5%重量減少を示した温度は500℃を超えており400℃までの耐熱性は十分あることが示唆された。次に耐湿性を評価するために、膜付きの基板を85℃85%RH(相対湿度)の恒温恒湿槽に保管してリーク電流の変化を調べた。リーク電流は200時間保管後まで全く変化がなく1E-9A/cmであり、膜質の劣化がないことが確認された。
図1
図2