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  • 特許-スパッタリング装置 図1
  • 特許-スパッタリング装置 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-28
(45)【発行日】2022-04-05
(54)【発明の名称】スパッタリング装置
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/34 20060101AFI20220329BHJP
【FI】
C23C14/34 J
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2018103705
(22)【出願日】2018-05-30
(65)【公開番号】P2019206745
(43)【公開日】2019-12-05
【審査請求日】2021-04-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000231464
【氏名又は名称】株式会社アルバック
(73)【特許権者】
【識別番号】000101710
【氏名又は名称】アルバック成膜株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000305
【氏名又は名称】特許業務法人青莪
(72)【発明者】
【氏名】小平 周司
(72)【発明者】
【氏名】高橋 鉄兵
(72)【発明者】
【氏名】飛石 尭大
(72)【発明者】
【氏名】中畦 修
(72)【発明者】
【氏名】金井 修一郎
【審査官】宮崎 園子
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-108610(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空チャンバ内に設けられるターゲットをスパッタリングし、これに対峙して真空チャンバ内に配置される基板表面に薄膜を成膜するスパッタリング装置であって、
基板面内で互いに直交する方向をX軸方向及びY軸方向、これらX軸方向及びY軸方向に直交する方向をZ軸方向とし、X軸方向において基板からターゲットまでの距離が変化するようにターゲットがX軸方向に対して傾斜した姿勢で設けられると共に、基板からターゲットまでのZ軸方向の距離が増加する方向をX軸前方としてターゲット中心を通るZ軸からX軸前方にオフセットさせて基板が配置され、この基板をその中心回りに回転駆動する駆動手段を更に有するものにおいて、
基板中心がX軸前方でY軸方向に所定間隔だけ離れて位置するように基板を更に偏心させ
Y軸に対して線対称となるように2枚の基板が配置されることを特徴とするスパッタリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空チャンバ内に設けられるターゲットをスパッタリングし、これに対峙して真空チャンバ内に配置される基板表面に薄膜を成膜するスパッタリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
マスクブランクスの製造工程には、遮光膜や反射防止膜として、クロム膜、クロム窒化物膜、クロム酸化物膜などのクロム含有膜を成膜する工程があり、このような膜の成膜にはスパッタリング装置を用いることが一般に知られている。このようなスパッタリング装置は、膜種に応じてクロム、クロム窒化物やクロム酸化物といった材料製のターゲットが配置される真空チャンバを備え、真空チャンバ内には、ターゲットと対峙させて基板を保持するステージが設けられている。そして、真空チャンバ内にスパッタガスを導入すると共にターゲットに電力投入して基板とターゲットの間にプラズマを形成し、プラズマによりターゲットをスパッタリングすることで飛散したスパッタ粒子を基板表面に付着、堆積させて薄膜が成膜される。成膜中に基板が直接プラズマに曝されると、プラズマダメージにより膜質が悪化するという不具合がある。このような不具合を防止するため、次の構成を持つスパッタリング装置が例えば特許文献1で知られている。上記従来例のものでは、基板面内で互いに直交する方向をX軸方向及びY軸方向、これらX軸方向及びY軸方向に直交する方向をZ軸方向とし、ターゲットは、Z軸方向に対して所定の傾斜角で傾斜させた姿勢で真空チャンバ内に配置されている。一方、基板は、この基板からターゲットまでのZ軸方向の距離(以下「TS間距離」という)が増加する方向をX軸前方としてターゲット中心を通るZ軸からX軸前方に所定のオフセット量でオフセットさせて真空チャンバ内に配置されており、ターゲットのスパッタリングによる成膜中には、基板が、ステージに付設した駆動手段によって基板中心回りに所定速度で回転駆動されるようになっている。
【0003】
ここで、ターゲット種が異なったり、ターゲットへの投入電力や成膜時の真空チャンバ内の圧力といったスパッタ条件が変更されたりすると、ターゲットから飛散するスパッタ粒子の飛散分布が変化してしまうことがある。その結果、基板表面に所定の薄膜を成膜したときの基板面内における成膜レートの分布や膜厚の分布も変動し、結局、基板のオフセット量やTS間距離、ターゲットの傾斜角を調整する必要があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-207713号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、以上の点に鑑み、スパッタ条件によってスパッタ粒子の飛散分布が変化しても、成膜レートや膜厚分布の変動が抑制されるスパッタリング装置を提供することをその課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、真空チャンバ内に設けられるターゲットをスパッタリングし、これに対峙して真空チャンバ内に配置される基板表面に薄膜を成膜する本発明のスパッタリング装置は、基板面内で互いに直交する方向をX軸方向及びY軸方向、これらX軸方向及びY軸方向に直交する方向をZ軸方向とし、X軸方向において基板からターゲットまでの距離が変化するようにターゲットがX軸方向に対して傾斜した姿勢で設けられると共に、基板からターゲットまでのZ軸方向の距離が増加する方向をX軸前方としてターゲット中心を通るZ軸からX軸前方にオフセットさせて基板が配置され、この基板をその中心回りに回転駆動する駆動手段を更に有し、基板中心がX軸前方でY軸方向に所定間隔だけ離れて位置するように基板を更に偏心させることを特徴とする。
【0007】
本発明によれば、ターゲットに対して基板をX軸前方にオフセットするだけでなくY軸方向にも偏心させることで、許容される成膜レートと、許容される膜厚分布の均一性とを実現できる。つまり、成膜レートや膜厚分布の均一性に対するターゲットからのスパッタ粒子の放出角度分布の依存性を小さくできる。
【0008】
ここで、基板のY軸方向の間隔(偏心量)は、例えば以下の方法で設定することができる。即ち、ターゲットからのスパッタ粒子の放出角度分布としてアンダーコサイン分布の典型的な例であるTiの放出角度分布を用い、ターゲット中心からX軸前方における基板中心までの距離をLx、Y軸方向の間隔をLy、基板からターゲット中心までのZ軸方向の距離をLTSとし、これらLy,LTSをパラメータとして変化させて基板表面に成膜したTi膜の膜厚を夫々求め、許容される成膜レートと、許容される膜厚分布の均一性とを夫々求める。同様の方法で、放出角度分布が概ねコサイン分布の典型的な例としてAlの放出角度分布と、放出角度分布がオーバーコサイン分布の典型的な例としてWの放出角度分布とを用いて、許容される成膜レートと、許容される膜厚分布の均一性とを夫々求める。そして、このように予めシミュレーションによって夫々求めた許容される成膜レートと許容される膜厚分布の均一性とが重なる範囲におけるLyに設定する。このようにY軸方向の間隔Lyを設定すれば、例えば、アンダーコサイン分布~オーバーコサイン分布の任意のターゲットを使用する場合に、成膜条件の変更によって放出角度分布が変更されても、許容される成膜レートと許容される膜厚分布の均一性とを確実に実現することができ、有利である。
【0009】
本発明は、Y軸に対して線対称となるように2枚の基板が配置される場合に、特に好適に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施形態のスパッタリング装置の構成を模式的に説明する図。
図2】ターゲットと基板との位置関係を示す斜視図。
図3】ターゲットと基板との位置関係を示す平面図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して、本発明のスパッタリング装置の実施形態について説明する。図1を参照して、SMはスパッタリング装置であり、このスパッタリング装置SMは、処理室10を画成する真空チャンバ1を備える。真空チャンバ1の側壁には、スパッタガスを導入するガス管11が接続され、ガス管11がマスフローコントローラ12を介して図示省略するガス源に連通している。スパッタガスとしては、アルゴン等の希ガスのほか、反応性スパッタリングを行う場合には、酸素ガスや水蒸気ガス等の反応性ガスを含む。真空チャンバ1の底壁には排気口が開設され、この排気口にはターボ分子ポンプやロータリーポンプなどからなる真空排気手段Pに通じる排気管が接続され、処理室10を所定圧力に真空引きした後、マスフローコントローラ12により流量制御されたスパッタガスを処理室10内に導入すると、処理室10の圧力が略一定に保持されるようになっている。
【0012】
図2及び図3も参照して、真空チャンバ1の下部には、2つのステージ2,2が配置されている。ステージ2,2は、図示省略する公知の静電チャックを有し、静電チャックの電極にチャック電源からチャック電圧を印加することで、後述するターゲットと対峙させて基板S,Sを保持できるようになっている。また、ステージ2,2には、モータ等の駆動手段22(図1参照)の回転軸21,21が接続されており、基板S,Sをその中心Scを回転中心として回転できるようになっている。真空チャンバ1の上部には、真空チャンバ1内を臨むターゲット31を有するターゲットアッセンブリ3が取付けられている。ターゲット31としては、例えばマスクブランクス等の製造に使用されるクロム製、クロム酸化物製、クロム窒化物製のものを用いることができる。ターゲット31には、図示省略のスパッタ電源の出力が接続され、ターゲット31に電力投入できるようになっている。ターゲット31は、基板面内で互いに直交する方向をX軸方向及びY軸方向、これらX軸方向及びY軸方向に直交する方向をZ軸方向とし、X軸方向において基板S,Sからターゲット31までの距離が変化するようにターゲット31が所定角度θ傾斜した姿勢で設けられている。そして、基板S,Sからターゲット31までのZ軸方向の距離が増加する方向をX軸前方としてターゲット中心31aを通るZ軸からX軸前方にオフセット(そのオフセット量をLxという)させて基板S,Sが配置されている。
【0013】
上記スパッタリング装置SMは、特に図示しないが、マイクロコンピュータやシーケンサ等を備えた公知の制御手段を有し、制御手段によりスパッタ電源の稼働、マスフローコントローラ12の稼働、真空排気手段Pの稼働や駆動手段22の稼働等を統括管理している。
【0014】
ところで、前述のようにターゲット種が異なったり、ターゲット31への投入電力や成膜時の真空チャンバ1内の圧力といったスパッタ条件が変更されたりする場合、成膜レートや膜厚の分布の調整ができず、結局、基板S,Sのオフセット量LxやTS間距離LTSを再度見直す作業が必要である。
【0015】
そこで、本実施形態では、基板中心ScがX軸前方でY軸方向に所定間隔Lyだけ離れて位置するように基板S,Sを更に偏心させる。この基板中心ScのY軸方向の間隔(偏心量)Lyは、例えば以下の方法で設定することができる。ここで、2枚の基板S,Sは、Y軸に対して線対称となるように配置されており、Lyは同一であるため、基板Sについて説明する。即ち、ターゲット31として例えば角度分布がアンダーコサイン分布の典型的な例としてTiを用い、ターゲット中心31aからX軸前方における基板中心Scまでの距離をLx、Y軸方向の間隔をLy、基板Sからターゲット中心31aまでのZ軸方向の距離(TS間距離)をLTSとし、これらLy,LTSをパラメータとして変化させて基板S表面に成膜したTi膜の膜厚を夫々求め、許容される成膜レートと、許容される膜厚分布の均一性とを夫々求める。同様の方法で、ターゲット31を角度分布が概ねコサイン分布の典型的な例としてAlとした場合と、ターゲット31を角度分布がオーバーコサイン分布の典型的な例としてWとした場合についても、許容される成膜レートと、許容される膜厚分布の均一性とを夫々求める。そして、このように予めシミュレーションによって夫々求めた許容される成膜レートと許容される膜厚分布の均一性とが重なる範囲におけるLyに設定する。
【0016】
以上説明したように、本実施形態によれば、アンダーコサイン分布~オーバーコサイン分布の任意のターゲット31に対して基板S,SをX軸前方にオフセットするだけでなくY軸方向にも偏心させることで、ターゲット31からのスパッタ粒子の放出角度分布の依存性の小さい、許容される成膜レートと、許容される膜厚分布の均一性とを実現できる。つまり、成膜レートや膜厚分布の均一性に対するターゲット31の傾斜角θの依存性を小さくできる。また、上述のようにY軸方向の間隔Lyを設定すれば、例えば、成膜する膜種に応じてターゲット31の傾斜角θを変更しても、許容される成膜レートと許容される膜厚分布の均一性とを確実に実現することができる。このとき、基板の直径(矩形基板の場合は対角線の長さ)をAとすると、Lxは0.9A~1.1Aの範囲、Lyは0.6A~1.0Aの範囲、TS間距離LTSは1.1A~1.3Aの範囲に夫々設定するのが好ましい。
【0017】
次に、上記効果を確認するために、上記スパッタリング装置SMを用いて次の実験を行った。発明実験では、上述した方法により、ターゲット31をΦ160mmのTi、Al及びWとし、許容される成膜レート(100nm/min以上)と許容される膜厚分布の均一性(±1%以内)を実現する矩形(152×152mm)で対角線長さ215mmのガラス基板S,SのX軸方向のオフセット量Lx、偏心量Ly、基板Sからターゲット中心31aまでの距離(TS間距離)LTSを夫々計算した。そして、Ti、Al及びW製のターゲットを用いる場合において、夫々求めた許容される成膜レートと許容される膜厚分布の均一性とが重なる、Lx(193.5~236.5mm)、Ly(129.0~215.0mm)、TS間距離LTS(236.5~279.5mmm)に設定した。このように設定されたスパッタリング装置SMにおいて、矩形(152×152mm)のガラス基板S,S、ターゲット31をΦ160mmのクロム製のものとし、以下の条件でクロム膜の成膜を行った。即ち、スパッタガスであるアルゴンガスの流量を100sccm(このときの真空チャンバ1内の圧力は1.5Pa)、ターゲット31に投入する電力を3kW、成膜時間を60secに設定した。成膜レートと膜厚分布の均一性を測定した結果、56nm/min±0.3%であった。クロム酸化物膜を成膜するため、スパッタガスをアルゴンガスと酸素ガスとの混合ガスとし、それぞれの流量を100/80sccmとした以外は、上記成膜条件でクロム酸化物膜を成膜し、成膜レートと膜厚分布の均一性を測定した結果、40nm/min±0.3%であった。また、比較実験として、Lxを193.5~236.5mmの範囲、Ly=0mm、TS間距離LTSを236.5~279.5mmの範囲に設定し、上記発明実験と同一の条件でクロム膜及びクロム酸化物膜を夫々成膜した。成膜レートと膜厚分布の均一性を測定した結果、クロム膜は70nm/min±0.7%と許容範囲であったが、クロム酸化物膜は50nm/min±2.5%と膜厚分布が大きく悪化して許容範囲を外れた。これによれば、成膜条件の変更等によってターゲット31からの放出角度分布を変更しても、許容される成膜レートと、許容される膜厚分布の均一性とを実現できること、つまり、成膜レートや膜厚分布の均一性に対するターゲット31からの放出角度分布の依存性を小さくできることが確認された。尚、ターゲット31をクロム製のものとして検証を行ったが、ターゲット31の材料をMoSi,Mo,Si,Ta,Ni等から選択しても、クロム製のものと同様に成膜レートや膜厚分布の均一性に対するターゲット31からの放出角度分布の依存性を小さくできることが確認された。
【0018】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記に限定されるものではない。上記実施形態においては、Y軸に対して線対称となるように2枚の基板S,Sが配置される場合を例に説明したが、いずれか1枚の基板が配置される場合に本発明を適用することができる。但し、1枚のターゲット31を用いて2枚の基板S,Sに対して成膜を行う場合、1枚の基板Sに対して成膜を行う場合と同等の成膜レート及び膜厚分布の均一性が得られるため、2枚の基板S,Sが配置される場合に適用することが好ましい。
【符号の説明】
【0019】
SM…スパッタリング装置、S,S…基板、Sc…基板中心、1…真空チャンバ、2,2…ステージ、22…駆動手段、31…ターゲット。
図1
図2
図3