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特許7048574アンチセンスオリゴヌクレオチドおよび糖原病Ia型予防または治療用組成物
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  • 特許-アンチセンスオリゴヌクレオチドおよび糖原病Ia型予防または治療用組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-28
(45)【発行日】2022-04-05
(54)【発明の名称】アンチセンスオリゴヌクレオチドおよび糖原病Ia型予防または治療用組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/7088 20060101AFI20220329BHJP
   A61K 31/712 20060101ALI20220329BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20220329BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20220329BHJP
   C12N 15/113 20100101ALI20220329BHJP
【FI】
A61K31/7088 ZNA
A61K31/712
A61K48/00
A61P3/10
C12N15/113 130Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019503873
(86)(22)【出願日】2018-03-09
(86)【国際出願番号】 JP2018009326
(87)【国際公開番号】W WO2018164275
(87)【国際公開日】2018-09-13
【審査請求日】2020-12-18
(31)【優先権主張番号】P 2017046766
(32)【優先日】2017-03-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】510136312
【氏名又は名称】国立研究開発法人国立成育医療研究センター
(73)【特許権者】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(73)【特許権者】
【識別番号】307010166
【氏名又は名称】第一三共株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】但馬 剛
(72)【発明者】
【氏名】岡田 賢
(72)【発明者】
【氏名】津村 弥来
【審査官】西 賢二
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/168435(WO,A1)
【文献】特表2015-501817(JP,A)
【文献】特表平08-510130(JP,A)
【文献】KAJIHARA, Susumu et al.,Exon redefinition by a point mutation within exon 5 of the glucose-6-phosphatase gene is the major cause of glycogen storage disease type Ia in Japan,Am. J. Hum. Genet.,1995年,Vol. 57,pp. 549-555
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
A61K 31/33-33/44
A61K 48/00
A61P 3/00-3/14
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
糖原病Ia型予防または治療用組成物であって、
アンチセンスオリゴヌクレオチドを薬効成分として含み、
上記アンチセンスオリゴヌクレオチドが、14~104塩基からなり配列番号4で示されるG6PCの塩基配列の648番目の塩基がGからTに置換されたc.648G>T変異型G6PCのプレmRNAの塩基配列における652番目の塩基および653番目の塩基のうちの少なくとも1つの塩基を含む領域にハイブリダイズし、上記ハイブリダイズする領域におけるプレmRNAの配列と完全に相補的な配列からなり、c.648G>T変異型G6PCのプレmRNAの異常スプライシングを抑制する活性を有している、糖原病Ia型予防または治療用組成物。
【請求項2】
上記アンチセンスオリゴヌクレオチドが、配列番号4で示されるG6PCの塩基配列の648番目の塩基がGからTに置換されたc.648G>T変異型G6PCのプレmRNAの塩基配列における599番目~702番目の塩基の領域にハイブリダイズし、c.648G>T変異型G6PCのプレmRNAの異常スプライシングを抑制する活性を有するアンチセンスオリゴヌクレオチドである、請求項に記載の糖原病Ia型予防または治療用組成物。
【請求項3】
上記アンチセンスオリゴヌクレオチドが、以下の(a)アンチセンスオリゴヌクレオチドである、請求項1または2に記載の糖原病Ia型予防または治療用組成物。
(a)配列番号14、配列番号17、配列番号20または配列番号23に示される塩基配列を含むアンチセンスオリゴヌクレオチド。
【請求項4】
上記アンチセンスオリゴヌクレオチドが、少なくとも1つの修飾ヌクレオチドを含む、請求項1~3の何れか一項に記載の糖原病Ia型予防または治療用組成物。
【請求項5】
上記アンチセンスオリゴヌクレオチドは、少なくとも1つのモルホリノヌクレオチドを含み、14~30塩基からなるモルホリノアンチセンスオリゴヌクレオチドまたは少なくとも1つのロックド核酸(LNA)を含み、14~25塩基からなるLNAアンチセンスオリゴヌクレオチドである、請求項に記載の糖原病Ia型予防または治療用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアンチセンスオリゴヌクレオチドおよび糖原病Ia型予防または治療用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
糖原病Ia型は内因性血糖供給経路の最終段階を触媒する酵素「グルコース-6-ホスファターゼ(G6Pase)」の機能低下による先天代謝異常を伴う疾患である。糖原病Ia型の主な治療はデンプン質の頻回食療法であり、アシドーシスに対するクエン酸製剤、高尿酸血症に対する尿酸合成阻害剤等が併用されるが、代謝障害による各種異常所見の是正には遠く及ばず、長期的に病態が進行すると肝癌発生や腎不全に至ることもある。このような肝癌発生例では肝移植、腎不全例には腎移植が選択される(非特許文献1)。
【0003】
日本人糖原病Ia型患者では、その患者の約9割において、該疾患の責任遺伝子であって、G6Paseをコードする遺伝子であるG6PCに、コード領域DNAの648番目の塩基グアニン(G)がチミン(T)に置換した共通変異(c.648G>T)を有することが知られている(非特許文献2)。この変異はアミノ酸置換を起こさず、近傍配列が異所性スプライス受容部位となって、異常スプライシングが起こり、その結果91塩基対短縮した転写産物を生じる(非特許文献3)。近年、スプライシング変異に関し、当該領域の塩基配列に相補的な核酸誘導体「アンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)」によって正常な転写を回復させる技術が知られている(非特許文献4)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Chou JY et al., J Inherit Metab Dis 38: 511-519, 2014.
【文献】Akanuma J et al., Am J Med Genet 91: 107-12, 2000.
【文献】Kajihara S et al., Am J Hum Genet 57: 549-55, 1995.
【文献】Havens MA et al., WIREs RNA 4: 247-66, 2013.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
現在までのところ糖原病Ia型に対する特異的な治療薬は存在しない。本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、新規アンチセンスオリゴヌクレオチドおよび糖原病Ia型予防または治療用組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意検討を行い、糖原病Ia型患者の細胞において、c.648G>T変異型G6PC遺伝子のプレmRNAの配列を標的配列とするアンチセンスオリゴヌクレオチドの添加をすることにより、c.648G>T変異型G6PCのプレmRNAの異常なスプライシングが抑制され、正常な塩基長を有する遺伝子転写産物が生じることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は以下の何れかの一態様を包含する。
<1> アンチセンスオリゴヌクレオチドであって、GRCh38/hg38のヒト第17染色体塩基配列における、第42911000番目の塩基、第42911004番目の塩基および第42911005番目の塩基のうちの少なくとも1つの塩基を含む領域のプレmRNAの配列にハイブリダイズし、c.648G>T変異型G6PCのプレmRNAの異常スプライシングを抑制する活性を有する、アンチセンスオリゴヌクレオチド。
<2> 糖原病Ia型予防または治療用組成物であって、アンチセンスオリゴヌクレオチドを薬効成分として含み、上記アンチセンスオリゴヌクレオチドが、GRCh38/hg38のヒト第17染色体塩基配列における、第42911000番目の塩基、第42911004番目の塩基および第42911005番目の塩基のうちの少なくとも1つの塩基を含む領域のプレmRNAの配列にハイブリダイズし、c.648G>T変異型G6PCのプレmRNAの異常スプライシングを抑制する活性を有する、糖原病Ia型予防または治療用組成物。
【発明の効果】
【0007】
本発明は、新規なアンチセンスオリゴヌクレオチドおよび該アンチセンスオリゴヌクレオチドを薬効成分として含む、糖原病Ia型予防または治療用組成物を提供する。本発明は、糖原病Ia型の予防または治療に有効である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】c.648G>Tの変異によって生じるG6PCのプレmRNAの異常スプライシング領域を示す図である。
図2】健常コントロール被験者由来(レーン1~3)およびGSD-Iaの患者由来(レーン4~6)のネステッドPCR産物のアガロースゲル電気泳動の結果を示す図である。
図3】ネステッドPCR産物のダイレクトシーケンシングの結果を示す図である。図3の(a)は、レーン1~3における単一のバンド(305bp)の配列を示している。図3の(b)は、レーン5および6における単一のバンド(214bp)およびレーン4におけるより短い方のバンド(214bp)の配列を示している。図3の(c)は、レーン4におけるより長い方のバンド(305bp)の配列を示している。
図4】各種LNA ASO(LNA01~13)添加およびLNA ASO無添加(ブランク)サンプルのネステッドPCR産物のアガロースゲル電気泳動の結果を示す図である。
図5】ネステッドPCR産物のダイレクトシーケンシングの結果を示す図である。図5の(a)は、LNA ASO無添加サンプルにおけるネステッドPCR産物の配列を示している。図5の(b)は、各種LNA ASO添加サンプルにおけるネステッドPCR産物のc.648G>T付近の波形を示している。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
【0010】
〔用語の説明〕
「グルコース-6-ホスファターゼ(G6Pase)」は、糖新生およびグリコーゲン分解の最終ステップにおけるグルコース-6-リン酸(G6P)からグルコースおよびリン酸への加水分解を触媒し、また、グルコース恒常性の維持において重要な酵素タンパク質である。また、「G6PC」は、G6Paseをコードする遺伝子(遺伝子座17q21)である。
【0011】
「糖原病(glycogen storage diseases、以下GSDとも称する)」とは、グリコーゲン代謝経路の酵素またはトランスポーターの遺伝子異常によって、グリコーゲンの合成あるいは分解が障害される疾患であり、11種の病型が知られている。G6PC遺伝子の突然変異により、糖原病Ia型(GSD-Ia)が引き起こされる。
【0012】
「糖原病Ia型(GSD-Iaとも称する)」とは、最も代表的な糖原病であり、発生率は出生数100,000人に約1人である。また、別名としてフォン・ギールケ病としても知られている。GSD-Iaは、G6Paseの先天的な欠損によって生じる遺伝子疾患である。糖原病Ia型は、責任遺伝子のホモ接合または複合ヘテロ接合の変異により発症する。
【0013】
GSD-Iaでは、G6Paseの欠損により、グリコーゲンから、および糖新生から遊離のグルコースを産生する肝臓の能力が損なわれる。肝臓および腎臓におけるグリコーゲンおよび脂肪の蓄積に伴う重度の空腹時低血糖を特徴とする。グリコーゲンおよび糖新生前駆体から産生した過剰量のグルコース-6-リン酸からはグルコースは生じず、解糖系に入り、血中の乳酸、尿酸、コレステロールおよびトリグリセリドの副次的上昇が生じる。応答遺伝子G6PCは、肝臓、腎臓および小腸に発現しているため、グリコーゲンの蓄積によって、これらの組織が慢性的に損傷を受ける。このように、GSD-Iaに罹患している患者は、グルコース恒常性を維持することができず、反復性低血糖症、慢性的な乳酸アシドーシス、成長障害、肝障害、腎肥大症、高脂血症、高尿酸血症、肝臓肥大、血中のアミノトランスフェラーゼの持続的上昇および糸球体過剰濾過等を示す。さらにこれらの症状によりしばしば肝臓における多発性腺腫、タンパク尿を発症し、最悪の場合、悪性肝腫瘍および慢性腎不全を発症することがある。
【0014】
本明細書において、「タンパク質」は、「ポリペプチド」とも換言できる。「タンパク質」は、アミノ酸がペプチド結合してなる構造を含むが、さらに、例えば、糖鎖、またはイソプレノイド基等の構造を含んでいてもよい。「タンパク質」は、特に明記しない場合は、天然に存在するアミノ酸と同様に機能することができる、天然に存在するアミノ酸の既知の類似体を含有するポリペプチドを包含する。
【0015】
本明細書において「核酸」には、任意の単純ヌクレオチドおよび/または修飾ヌクレオチドからなるポリヌクレオチド、例えばcDNA、mRNA、全RNA、hnRNA、等が含まれる。
【0016】
本明細書において「遺伝子」は、「ポリヌクレオチド」、「核酸」または「核酸分子」と交換可能に使用される。「ポリヌクレオチド」はヌクレオチドの重合体を意味する。したがって、本明細書での用語「遺伝子」には、2本鎖DNAのみならず、それを構成するセンス鎖およびアンチセンス鎖といった各1本鎖DNAやRNA(mRNA等)を包含する。
【0017】
本明細書において「オリゴヌクレオチド」は、所定の個数のヌクレオチドが重合してなるヌクレオチドの重合体を意味する。本明細書において「オリゴヌクレオチド」というとき、その長さは限定されないが、「ポリヌクレオチド」の中でも、比較的短いヌクレオチド鎖を有するものを意図している。また、「アンチセンスオリゴヌクレオチド(Antisense Oligonucleotide、ASOとも称する)」は、標的核酸配列(センス配列に相当)にハイブリダイズして、該標的核酸配列を含む核酸配列によってコードされる標的遺伝子の発現を調節する機能を有するオリゴヌクレオチドの総称である。
【0018】
本明細書において「DNA」には、例えばクローニングや化学合成技術、またはそれらの組み合わせで得られるようなcDNAやゲノムDNA等が含まれる。すなわち、DNAとは、動物のゲノム中に含まれる形態であるイントロン等の非コード配列を含む「ゲノム」形DNAであってもよいし、また逆転写酵素やポリメラーゼを用いてmRNAを経て得られるcDNA、すなわちイントロン等の非コード配列を含まない「転写」形DNAであってもよい。
【0019】
「プレmRNA」とは、mRNA前駆体とも称し、エクソンとイントロンの両方を含むRNAを指す。「mRNA」は、イントロンが除去され、エクソン同士が結合されたRNAを指す。このmRNAからタンパク質が翻訳される。
【0020】
本明細書において「標的配列」は、アンチセンスオリゴヌクレオチドが、ハイブリダイズする標的核酸配列の部分、すなわち、アンチセンスオリゴヌクレオチドが相補的にハイブリッド形成する配列をいう。
【0021】
本明細書において「予防」とは、疾病、疾患または障害に罹患することを防ぐことを指す。また、「治療」とは、すでに罹患している疾病、疾患もしくは障害、またはそれに伴う症状を、緩和または除去することを指す。
【0022】
本明細書において「健常」であるとは、糖原病Ia型に罹患していないことを指す。また、本明細書で「健常」であるとは、例えばG6Paseの欠損などを有することなどによって、糖原病Ia型に罹患するリスクを有しているが、臨床的症状の発症には至っていない場合も包含している。
【0023】
〔1.アンチセンスオリゴヌクレオチド〕
近年、アンチセンスオリゴヌクレオチドを用いた遺伝子治療は、特定種類の遺伝的欠陥を修正するための有効な選択的手法として確立されつつある。mRNAの異常スプライシングはASO療法の有効な標的となり得る[参考文献1]。
【0024】
本発明では、アンチセンスオリゴヌクレオチドであって、GRCh38/hg38のヒト第17染色体塩基配列における、第42911000番目の塩基、第42911004番目の塩基および第42911005番目の塩基のうちの少なくとも1つの塩基を含む領域のプレmRNAの配列にハイブリダイズし、c.648G>T変異型G6PCのプレmRNAの異常スプライシングを抑制する活性を有する、アンチセンスオリゴヌクレオチドを提供する。
【0025】
糖原病Ia型に関して、G6PCにおけるコード領域DNAの648番目の塩基G(グアニン)がT(チミン)に置換した変異体(c.648G>T)は、日本、韓国、台湾および中国等の東アジアの諸国で特異的にみられる主要な変異であることが報告されている[参考文献2]。
【0026】
この変異は、以前の表記法では727G>Tとして知られており、アミノ酸変異の要因とはならないが、異所性のスプライス受容部位としての、G6PCにおけるコード領域DNAの652番目の塩基アデニン(A)から653番目のグアニン(G)までの配列(c.652_653AG)を活性化し、エクソン5の563番目のG(c.563G、以降同様に表記する)からc.653Gまでの91bpの欠失(配列番号5)を生じる(実施例の図1)。このように、プレmRNAのスプライシング機序に影響する突然変異が存在すると、その突然変異はプレmRNAに異常スプライシングを引き起こさせ、通常のプレmRNAから生成されるmRNAとは異なる異常mRNAあるいはmRNA断片が生じる。その結果、正常なG6Pase転写産物の産生が阻害される。
【0027】
より詳細には、変異型のG6PC遺伝子であるc.648G>T変異型G6PCでは、GRCh38/hg38のヒト第17染色体塩基配列の第42909418番目のグアニン(cDNA(配列番号4)におけるc.562G)の3’側の2塩基、つまり第42909419番目のグアニン(G)(cDNA(配列番号4)におけるc.562+1G)と第42909420番目のチミン(T)(cDNA(配列番号4)におけるc.562+2T)がスプライス供与部位となり、第42911006番目のシトシン(C)(cDNA(配列番号4)におけるc.654C)の5’側の2塩基、つまり第42911004番目のアデニン(A)(cDNA(配列番号4)におけるc.652A)と第42911005番目のグアニン(G)(cDNA(配列番号4)におけるc.653G)が新たなスプライス受容部位(異所性スプライス受容部位)となる。つまりc.648G>T変異型G6PCでは、GRCh38/hg38のヒト第17染色体塩基配列の第42909419番目のグアニンから第42911005番目のグアニンをイントロンと認識し、第42911006番目のシトシンから第42914433番目のアデニンをエクソンと認識する異常スプライシングが生じる。それゆえ、第42909419番目のグアニン(G)(cDNA(配列番号4)におけるc.562+1G)と第42909420番目のチミン(T)(cDNA(配列番号4)におけるc.562+2T)とからなるスプライス供与部位、および第42911004番目のアデニン(A)(cDNA(配列番号4)におけるc.652A)と第42911005番目のグアニン(G)(cDNA(配列番号4)におけるc.653G)とからなるスプライス受容部位を用いる異常スプライシングを抑制すれば、異常mRNAの発現量が減少し、同時に正常スプライシングに基づく正常な塩基長を有するG6PC mRNAの発現が回復し、結果として正常型G6Paseタンパク質の生成が回復する。つまり、「c.648G>T変異型G6PCのプレmRNAの異常スプライシングを抑制する活性を有する」とは、上述の異常スプライシングを阻害すること、および、その結果、異常mRNAの発現量を減少させる、正常スプライシングに基づく正常な塩基長を有するG6PC mRNAの発現を回復させる、および正常型G6Paseタンパク質を生成させる、という機能の少なくとも何れかの機能を有することを意図している。
【0028】
また、G6PCの塩基配列およびG6Paseタンパク質のアミノ酸配列の情報は、例えば、NCBI Reference Sequence(RefSeq)やGenBank等から入手可能である。例えば、G6Paseタンパク質として、具体的には、配列番号6に示すアミノ酸配列を有するヒトのG6Paseタンパク質のアミノ酸配列(RefSeq アクセッション番号:NP_000142.2)が挙げられる。
【0029】
ここでGRCh38/hg38は、https://www.ncbi.nlm.nih.gov/等に登録されているヒトゲノムデータのアッセンブリ(RefSeq assembly accession: GCF_000001405.36, GenBank assembly accession: GCA_000001405.25)であり、ヒト第17染色体領域はGenBank アクセッション番号: CM000679.2 に示される。
【0030】
さらにヒト第17染色体のG6PC領域の塩基配列のゲノムDNAの塩基配列を配列番号1に示す。当該配列は、RefSeq アクセッション番号:NG_011808.1に示される。また、c.648G>T変異型G6PCのゲノムDNAの塩基配列は、GRCh38/hg38のヒト第17染色体塩基配列の第42911000番目の塩基がGからTへ置換した配列である。
【0031】
なお、GRCh38/hg38のヒト第17染色体塩基配列における第42911000番目の塩基には、配列番号1の15203番目の塩基、配列番号2または配列番号3の694番目の塩基、配列番号4の648番目の塩基および配列番号13の728番目の塩基が、GRCh38/hg38のヒト第17染色体塩基配列における第42911004番目の塩基には、配列番号1の15207番目の塩基、配列番号2または配列番号3の698番目の塩基、配列番号4の652番目の塩基および配列番号13の732番目の塩基が、GRCh38/hg38のヒト第17染色体塩基配列における第42911005番目の塩基には、配列番号1の15208番目の塩基、配列番号2または配列番号3の699番目の塩基、配列番号4の653番目の塩基および配列番号13の733番目の塩基が、それぞれ対応する。
【0032】
また、G6PC mRNAの塩基配列は、RefSeq アクセッション番号:NM_000151.3(配列番号13)に示される。さらにまた、G6PCのコード領域の塩基配列は、GenBank アクセッション番号:BC130478.1(配列番号2)およびBC136369.1(配列番号3)に示される。なお、BC130478.1の配列番号2に示す配列は、BC136369.1(配列番号3)の2349番目のTと2350番目のGとの間にさらに1塩基Tが挿入されている点のみ異なるがそれ以外は同一の配列である。
【0033】
アンチセンスオリゴヌクレオチドは、上述の変異型G6PC遺伝子をコードする塩基配列の一部であり得る。例えば、正常型G6PCまたはc.648G>T変異型G6PCのゲノムDNA、cDNA、プレmRNAまたはmRNAの塩基配列に基づいて設計し得る。本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチドはプレmRNA分子とハイブリッド形成し、スプライシングが可能な条件で二本鎖分子を作る。つまり、本発明のアンチセンスヌクレオチドは、c.648G>T変異型G6PC遺伝子の転写段階において、一次転写産物であるプレmRNAの上記異常スプライシングを抑制し、正常スプライシング反応に修復させる。これにより、正常な塩基長を有するG6PC mRNAを発現させ、正常型G6Paseタンパク質の生成を回復させることができる。
【0034】
本発明においては、GRCh38/hg38のヒト第17染色体塩基配列とは異なるヒト第17染色体塩基配列における、上述のGRCh38/hg38のヒト第17染色体塩基配列の第42911000番目の塩基、第42911004番目の塩基および第42911005番目の塩基に対応する(相当する)塩基および一塩基多型のうちの少なくとも1つの塩基を含む領域のプレmRNAの配列にハイブリダイズし、c.648G>T変異型G6PCのプレmRNAの異常スプライシングを抑制する活性を有する、アンチセンスオリゴヌクレオチドも包含する。ここで、「対応する(相当する)塩基および一塩基多型」とは、GRCh38/hg38のヒト第17染色体塩基配列とは異なるヒト第17染色体塩基配列の該当塩基および一塩基多型を意味し、ヒトの個体の違いなどによって若干変化しているヒト第17染色体塩基配列なども標的配列に包含されることを意味している。
【0035】
アンチセンスヌクレオチドの具体的配列としては、上述の異常スプライシングに用いられる異所性スプライス受容部位の周辺配列を標的配列とするものであり得る。一実施形態としては、アンチセンスヌクレオチドは、GRCh38/hg38のヒト第17染色体塩基配列における、第42911000番目の塩基、第42911004番目の塩基および第42911005番目の塩基のうちの少なくとも1つの塩基を基準として、50塩基上流の塩基から50塩基下流の塩基までの領域に含まれる配列のプレmRNAの配列にハイブリダイズするものであり得る。言い換えると、一実施形態のアンチセンスオリゴヌクレオチドはGRCh38/hg38のヒト第17染色体塩基配列における、第42910951番目~第42911054番目の塩基(cDNA(配列番号4)のc.599G~c.702C)の領域のプレmRNAの配列にハイブリダイズし、c.648G>T変異型G6PCのプレmRNAの異常スプライシングを抑制する活性を有するアンチセンスオリゴヌクレオチドである。別の実施形態としては、GRCh38/hg38のヒト第17染色体塩基配列における、第42911000番目の塩基、第42911004番目の塩基および第42911005番目の塩基のうちの少なくとも1つの塩基を基準として、30塩基上流の塩基から30塩基下流の塩基までの領域に含まれる配列のプレmRNAの配列にハイブリダイズするものであり得る。言い換えると別の実施形態のアンチセンスオリゴヌクレオチドは、GRCh38/hg38のヒト第17染色体塩基配列における、第42910971番目~第42911034番目の塩基(cDNA(配列番号4)のc.619A~c.682A)の領域のプレmRNAの配列にハイブリダイズし、c.648G>T変異型G6PCのプレmRNAの異常スプライシングを抑制する活性を有するアンチセンスオリゴヌクレオチドである。
【0036】
ある実施形態のアンチセンスオリゴヌクレオチドは、GRCh38/hg38のヒト第17染色体塩基配列における、第42911000番目の塩基、第42911004番目の塩基および第42911005番目の塩基のうちの1つ、2つまたは3つ全ての塩基を含む領域のプレmRNAの配列にハイブリダイズし、c.648G>T変異型G6PCのプレmRNAの異常スプライシングを抑制する活性を有する。
【0037】
本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチドの配列は、異常スプライシングが生じる要因となる異所性スプライス受容部位をブロックするように選択されている。
【0038】
このアンチセンスヌクレオチドを用いれば、正常スプライシングにより正常なイントロン領域が除去され、正常型G6Paseタンパク質をコードするmRNAが産生する。本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチドは、上述の標的配列とハイブリダイズ可能な塩基配列を含んでおり、c.648G>T変異型G6PCのプレmRNAの異常スプライシングを抑制する活性を有している。
【0039】
一実施形態のアンチセンスオリゴヌクレオチドは、c.648G>T変異型G6PCのプレmRNA配列のエクソン5内領域の異所性スプライス受容部位を含む領域に十分に相補的な塩基配列を含む。該アンチセンスオリゴヌクレオチドは、c.648G>T変異型G6PCのプレmRNAの異常なスプライシングを抑制し、それにより、正常な活性を有する正常型G6Paseタンパク質の発現を増加させることができる。このようなアンチセンスオリゴヌクレオチドの具体的配列としては、例えば、配列番号7にハイブリダイズする塩基配列(配列番号14)を含むオリゴヌクレオチドが挙げられる。配列番号7に示す塩基配列は、G6PCのコード領域のDNAの塩基配列(配列番号4)のc.648G>T変異型における第630番目~654番目と一致する配列である。
【0040】
一実施形態に係るアンチセンスオリゴヌクレオチドは、具体的には以下の(a)~(c)から選択されるアンチセンスオリゴヌクレオチドである。
【0041】
(a)配列番号14に示される塩基配列を含むアンチセンスオリゴヌクレオチド
(b)配列番号14に示される塩基基配列において1~10個、好ましくは1~5個の塩基が欠失、置換、挿入、および/または付加された塩基配列を含み、c.648G>T変異型G6PCのプレmRNAの異常スプライシングを抑制する活性を有するアンチセンスオリゴヌクレオチド
(c)配列番号14に示される塩基配列に対して、60%以上の配列同一性を有する塩基配列を含み、かつc.648G>T変異型G6PCのプレmRNAの異常スプライシングを抑制する活性を有するアンチセンスオリゴヌクレオチド。ここで、配列同一性は、65%以上であることが好ましく、70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、90%以上であることがより好ましく、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上または99%以上であることが特に好ましい。
【0042】
上記(b)および(c)のアンチセンスオリゴヌクレオチドは、具体的には上記(a)のアンチセンスオリゴヌクレオチドの変異体であるということができる。つまり、集団の遺伝子間の多型などに対応することを意図している。
【0043】
つまり、一実施形態のアンチセンスヌクレオチドは、G6PCのプレmRNAのrs80356484(G/Tの多型)で表される一塩基多型(single nucleotide polymorphism(SNP))を含む領域に対して相補的なアンチセンスオリゴヌクレオチドであって、c.648G>T変異型G6PCのプレmRNAの異常スプライシングを抑制する活性を有するアンチセンスオリゴヌクレオチドである。rs80356484のrs番号はNational Center for Biotechnology InformationのdbSNPデータベース(http//www.ncbi.nlm.nih.gov/projects/SNP/)の登録番号を示し、ウェブサイト(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/SNP/snp_ref.cgi?rs=80356484&pt=1ZSlUX0_YR_X1REc5s-B-00w7e7HgeIfXE3I8aMuPnEiTRLgNu)から取得可能である。
【0044】
なお、rs80356484について、SNPの塩基(c.648G/T)、c.652Aおよびc.653Gとその前後の領域を含む合計104bpの長さの配列(c.599G~c.702C)を、配列番号8に示した。50番目の塩基が多型を有する。
【0045】
また、本発明のさらなる実施形態に係るアンチセンスオリゴヌクレオチドは、具体的には以下の(d)~(h)から選択されるアンチセンスオリゴヌクレオチドである。
【0046】
(d)その塩基配列が配列番号15(配列番号8にハイブリダイズする配列)の全体または一部の配列で表されるものであり、配列番号15の第50番目~55番目で示された全ての塩基を少なくとも含むアンチセンスオリゴヌクレオチド
(e)配列の長さが7塩基以上、10塩基以上、11塩基以上、12塩基以上、13塩基以上、14塩基以上、15塩基以上、16塩基以上、17塩基以上、18塩基以上、19塩基以上、20塩基以上、21塩基以上、22塩基以上、23塩基以上、24塩基以上、または、25塩基以上である、上記(d)のアンチセンスオリゴヌクレオチド
(f)配列の長さが、104塩基以下、103塩基以下、102塩基以下、101塩基以下、100塩基以下、90塩基以下、80塩基以下、70塩基以下、60塩基以下、 50塩基以下、40塩基以下、35塩基以下、30塩基以下、29塩基以下、28塩基以下、27塩基以下、又は、26塩基以下である、上記(d)または(e)のアンチセンスオリゴヌクレオチド
(g) 上記(d)~(f)の何れかに記載のアンチセンスオリゴヌクレオチドに対して、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、または、99%以上の配列同一性を示すアンチセンスオリゴヌクレオチド
(h) 好ましくは、A)配列番号15の第50番目の塩基がC、B)第51番目の塩基がT、C)第55番目の塩基がAという条件のうち少なくとも1つ、少なくとも2つ、または3つを満たす、上記(d)~(g)の何れかのアンチセンスオリゴヌクレオチド。
【0047】
なお、アンチセンスオリゴヌクレオチドが、標的配列に対してハイブリダイズするとは、ハイブリダイズが生じうる領域においてアンチセンスオリゴヌクレオチドの塩基配列と標的配列の塩基配列とが完全に相補的な関係にある場合に限定されない。一例では、ハイブリダイズが生じうる上記領域が25bp以上である場合、アンチセンスオリゴヌクレオチドは、当該領域におけるプレmRNAの塩基配列と完全に相補的な配列に対して、60%以上、好ましくは65%以上、70%以上、75%以上、80%以上、より好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上の配列同一性を有するアンチセンスオリゴヌクレオチドであってもよい。あるいは、ハイブリダイズが生じうる上記領域が25bp以上である場合、アンチセンスオリゴヌクレオチドは、完全に相補的な上記配列に対して、10塩基以下、好ましくは5塩基以下、4塩基以下、より好ましくは3塩基以下、さらに好ましくは2塩基以下、特に好ましくは1塩基の相違を有するアンチセンスオリゴヌクレオチドであってもよい。または、別の例では、ハイブリダイズが生じうる上記領域が7bp以上である場合、アンチセンスオリゴヌクレオチドは、当該領域におけるプレmRNAの塩基配列と完全に相補的な配列に対して、好ましくは2塩基以下、より好ましくは1塩基の相違を有するアンチセンスオリゴヌクレオチドであってもよい。
【0048】
アンチセンスオリゴヌクレオチドは、DNA分子、RNA分子、およびDNAとRNAとのハイブリッド分子の何れであってもよい。安定性の観点からは、DNA分子であることが好ましい場合がある。
【0049】
本発明に係るアンチセンスオリゴヌクレオチドの長さは特に限定されないが、オリゴヌクレオチドの修飾の種類等によって好適な長さが異なる場合がある。ある実施形態のアンチセンスオリゴヌクレオチドでは、7~104塩基であることが好ましく、10~104塩基であることがより好ましく、15~64塩基であることがさらにより好ましく、15~44塩基であることが特に好ましく、15~30塩基であることが最も好ましい。別の例示として、本発明に係るアンチセンスオリゴヌクレオチドが、後述するモルホリノオリゴヌクレオチドである場合は、14~30塩基であることが好ましく、20~30塩基であることが特に好ましい。また別の例示として、本発明に係るアンチセンスオリゴヌクレオチドが、後述するロックド核酸(locked nucleic acids、LNA)を含むオリゴヌクレオチド(すなわち、LNAオリゴヌクレオチド)である場合は、7~25塩基であることが好ましく、7~23塩基であることがより好ましく、9~20塩基であることがさらにより好ましく、10~17塩基であることが特に好ましい。
【0050】
また、本発明に係るアンチセンスオリゴヌクレオチドは、天然型のオリゴヌクレオチドであってもよく、非天然型のオリゴヌクレオチドであってもよい。非天然型のオリゴヌクレオチドとしては、例えば、モルホリノ骨格、カルバメート骨格、シロキサン骨格、スルフィド骨格、スルホキシド骨格、スルホン骨格、ホルムアセチル骨格、チオホルムアセチル骨格、メチレンホルムアセチル骨格、リボアセチル骨格、アルケン含有骨格、スルホメート骨格、スルホネート骨格、スルホンアミド骨格、メチレンイミノ骨格、メチレンヒドラジノ骨格、アミド骨格等の修飾骨格を有するオリゴヌクレオチドが挙げられる。よって非天然型のオリゴヌクレオチドとしては、ホスホロアミダートモルホリノオリゴヌクレオチドまたはホスホロジアミダートモルホリノオリゴヌクレオチド(PMO)等のモルホリノオリゴヌクレオチド、PMO-X、PPMO、ペプチド核酸(PNA)、ロックド核酸(locked nucleic acids、LNA)、ホスホロチオアートオリゴヌクレオチド、トリシクロ-DNAオリゴヌクレオチド、トリシクロ-ホスホロチオアートオリゴヌクレオチド、2’O-Me修飾オリゴヌクレオチド、2’-O,4’-C-エチレン架橋型核酸種(ENA)等が挙げられる。これらの非天然型のオリゴヌクレオチドはヌクレアーゼによって分解されにくいため、細胞内で効率的に作用する。例えば、モルホリノオリゴヌクレオチドは、ヌクレアーゼに対する安定性を向上させ、細胞への取り込みを促進することが知られている。モルホリノオリゴヌクレオチドは、デオキシリボース環またはリボース環の代わりにモルホリン環に結合した核酸塩基を有する。また、LNAの場合は、標的となる核酸に対する結合親和性を高め、かつヌクレアーゼに対する耐性を有することが知られている。LNAオリゴヌクレオチドは、天然型のオリゴヌクレオチド中の1つ以上のヌクレオチドをLNAに置換することによって作製され得る。本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチドがLNAオリゴヌクレオチドである場合において、オリゴヌクレオチド当たりの好ましいLNA含有割合はアンチセンスオリゴヌクレオチドの長さによって異なる。例えば、LNAオリゴヌクレオチドの長さが10~17塩基である場合、LNAを好ましくは20%~55%、より好ましくは25%~55%、さらにより好ましくは30%~50%で含有することが好ましい。
【0051】
一方、例えば、LNAオリゴヌクレオチドの長さが7~9塩基である場合、LNAを好ましくは40%~100%、より好ましくは50%~100%、さらにより好ましくは70%~100%で含有することが好ましい。
【0052】
ある実施形態に係るアンチセンスオリゴヌクレオチドは、上記(d)~(h)から選択され、かつヌクレオチドの一部または全部がLNAであるアンチセンスオリゴヌクレオチドである。また、一実施形態のアンチセンスオリゴヌクレオチドは、上記(d)~(h)から選択され、かつヌクレオチドが一塩基おきにLNAである、アンチセンスオリゴヌクレオチドである。一例は、15塩基長とし、3’末端および5’末端の塩基は天然型のヌクレオチドとしてLNAを1残基おきに導入し、各塩基間はホスホロチオエート結合にした、配列番号17、配列番号20または配列番号23で示される塩基配列を含むアンチセンスオリゴヌクレオチドである。
【0053】
さらにまた、本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチドは、5’末端および/または3’末端が修飾されていてもよい。修飾の例示としては、トリエチレングリコール(TEG)修飾、ヘキサエチレングリコール(HEG)修飾、ドデカエチレングリコール(DODEG)修飾等が挙げられる。あるいは、アンチセンスオリゴヌクレオチドを構成する塩基と塩基との間にスペーサー化合物を有していてもよい。また、アンチセンスオリゴヌクレオチドは、1つ以上の修飾されたヌクレオチド、ヌクレオチド間の修飾または改変された1つ以上の結合などを含んでいてもよい。例えばヌクレオチド間の結合の例として、ホスホロチオエート(PS)結合、ホスホロジチオエート結合、アルキルホスホネート結合、ホスホロアミデート結合、ボラノフォスフェート結合などが挙げられる。
【0054】
アンチセンスオリゴヌクレオチドは、公知の遺伝子工学的手法およびポリヌクレオチド合成方法によって得ることができる。具体的には、化学合成、in vitro transcription等の公知の方法を用いて調製し得る。
【0055】
(ベクター)
本発明は、本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチドを発現可能に組み込んだベクターも提供する。アンチセンスオリゴヌクレオチドをコードするオリゴヌクレオチドが組み込まれるベクターは、特に限定されないが、遺伝子治療に適用可能なベクターであることが好ましい。例えば、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、ヘルペスウイルスベクター、ワクシニアウイルスベクター、およびレトロウイルスベクター等のウイルスベクター、ならびにプラスミドベクター等が挙げられる。ウイルスベクターは、自己複製能を欠損するように改変されているものであることが好ましい。
【0056】
上記ベクターには、上記アンチセンスオリゴヌクレオチドを被験体細胞に特異的に発現させる発現調節配列が組み込まれていることが好ましい。ここで、発現調節配列とは、例えば、プロモータまたはエンハンサ等が挙げられる。発現ベクターの構築は、公知の遺伝子工学的手法を用いて行うことができる。
【0057】
上記ベクターには、上記アンチセンスオリゴヌクレオチドを投与対象の被験体の標的器官に特異的に発現させる発現調節配列が組み込まれていることが好ましい。ここで、発現調節配列とは、例えば、プロモータまたはエンハンサが挙げられる。
【0058】
(宿主細胞)
本発明は、本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチドを含むベクターを導入した宿主細胞も提供する。例えば、単離された宿主細胞は、組換え細胞を作製するのに適した細胞(または細胞株)であってよい。いくつかの例では、宿主細胞は、HEK-293細胞およびBHK細胞等の哺乳動物細胞である。
【0059】
〔2.c.648G>T変異型G6PCのプレmRNAの異常スプライシングを抑制する方法〕
すなわち、本発明のある態様として、本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチドおよび、後述する本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチドを含む組成物は、c.648G>T変異型G6PC遺伝子における異常スプライシングを抑制するための、in vitroまたはin vivoの方法または分子生物学的な研究の手段として用いることにも当然有効である。
【0060】
従って、本発明は、c.648G>T変異型G6PCのプレmRNAの異常スプライシングを抑制する方法も提供する。一実施形態における方法は、in vitroまたはin vivoの細胞において、上述のアンチセンスオリゴヌクレオチドを添加し、c.648G>T変異型G6PCのプレmRNAの異常スプライシングを抑制することを包含する、方法である。本方法は、プレmRNAのスプライシングをさせる工程、およびプレmRNAの該スプライシングによって生じるmRNAを翻訳させる工程をさらに包含するものであってもよい。なお、in vitroまたはin vivoの細胞へのアンチセンスオリゴヌクレオチドの添加量および添加後の細胞培養期間等は細胞の種類または目的等に応じて適宜設定される。
【0061】
また、異常スプライシングが抑制されたか否かは、該スプライシング領域周辺のG6PCmRNAの塩基配列を調べることによって行うことができる。配列を調べる方法としては、ダイレクトシークエンス法等の公知の配列決定方法を用いることができる。あるいは、例えば、ネステッドPCR等の公知のポリヌクレオチド増幅方法を用いて、増幅された配列長で判断することもできる。
【0062】
異常スプライシングが抑制されていること、および正常な塩基長を有するG6PC mRNAの発現が回復していることは、例えば、被験体の細胞(例えば、リンパ芽球細胞)に本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチドを導入し、当該細胞を試料として定量RT-PCR等の公知のmRNA測定方法を用いることにより確認することができる。また、正常型G6Paseタンパク質の生成が回復していることは、被験体の細胞を試料としてウエスタンブロッティング、ELISA等の公知のタンパク質測定法を用いることにより確認することができる。なお、正常なスプライシングにより生成される正常な塩基長を有するG6PC mRNAの発現量が高いほど正常型G6Paseタンパク質の発現量も高いことが予想される。
【0063】
〔3.糖原病Ia型予防または治療用組成物〕
本発明に係る糖原病Ia型予防または治療用組成物は、アンチセンスオリゴヌクレオチドを薬効成分として含み、上記アンチセンスオリゴヌクレオチドが、GRCh38/hg38のヒト第17染色体塩基配列における、第42911000番目の塩基、第42911004番目の塩基および第42911005番目の塩基のうちの少なくとも1つの塩基を含む領域のプレmRNAの配列にハイブリダイズし、c.648G>T変異型G6PCのプレmRNAの異常スプライシングを抑制する活性を有する組成物である。
【0064】
本発明の一実施形態に係る予防または治療用組成物に含まれるアンチセンスオリゴヌクレオチドは、〔1.アンチセンスオリゴヌクレオチド〕の項目において上述した通りのものである。なお、単一の糖原病Ia型予防または治療用組成物において、複数種のアンチセンスオリゴヌクレオチドが含まれていてもよい。また、本発明に係る組成物に含まれるアンチセンスオリゴヌクレオチドは、例えば、そのオリゴヌクレオチド自体の状態で含まれ、被験体に投与される形態のものであってもよいし、適当なプロモータ配列の下流に組み込まれたアンチセンスRNA発現ベクターとして、被験体の生体内へ取り込まれる形態のものであってもよい。
【0065】
本実施形態の糖原病Ia型予防または治療用組成物は、c.648G>T変異型G6PCのプレmRNAの異常スプライシングを抑制するので、これを被験体に投与することにより、糖原病Ia型を予防または治療することができる。よって、本実施形態の組成物を用いれば、例えば、糖原病Ia型を罹患している患者の治療に有用である。また、本発明の組成物は、糖原病Ia型を発症する危険性(リスク)が高くなっている被験体を治療的または予防的に処置するために用いることができる。
【0066】
一実施形態の糖原病Ia型予防または治療用組成物は、上記G6PCのc.648G>T共通変異を標的とするアンチセンスオリゴヌクレオチドを含むため、共通変異を有する糖原病Ia型患者、すなわち上述したように日本を含む東アジア諸国の大多数の患者への特異的な薬物療法を実現することが期待される。
【0067】
(溶媒)
一実施形態の糖原病Ia型予防または治療用組成物の溶媒の例としては、水、緩衝液等が挙げられ、緩衝液として具体的には、生理食塩水、リン酸緩衝液、リンゲル液等が挙げられる。また、組成物に用いられる溶媒は上述の溶媒の2種類以上の混合物であってもよい。
【0068】
(その他成分)
一実施形態の糖原病Ia型予防または治療用組成物は、上述のアンチセンスオリゴヌクレオチド以外のその他の成分をさらに含んでいてもよい。当該その他の成分は特に限定されないが、例えば、薬学的に許容される担体、潤滑剤、保存剤、安定剤、湿潤剤、乳化剤、緩衝剤、着色剤、香味料、甘味料、抗酸化剤、および粘度調整剤等が挙げられる。また、必要に応じて、公知の薬剤を、本発明に係る糖原病Ia型予防または治療用組成物の一構成として加えて複合剤を構成してもよい。組成物に含有されるこれらの成分は、アンチセンスオリゴヌクレオチドの機能を阻害せず、かつ、投与対象となる被験体に対して実質的な悪影響を及ぼさないという性質を備えることが好ましい。
【0069】
上記その他の成分としては、この分野で公知のものを広く使用でき、具体的には、例えばラクトース、デキストロース、ショ糖、ソルビトール、マンニトール、デンプン、アルコール、植物油、ポリエチレングリコール、ゼラチン、アラビアゴム、リン酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、セルロース、タルク、ヒドロキシメチルセルロース、ポリビニルピロリドンが挙げられるが、特にこれらに限定されない。担体の種類は、組成物の剤型および投与方法等に応じて、適宜選択すればよい。
【0070】
(剤型)
上記糖原病Ia型予防または治療用組成物の剤型も特に限定されず、液体、固体または半固体もしくは半液体とすることができる。さらに凍結乾燥製剤としてもよい。例えば、錠剤、丸剤、散剤、液剤、懸濁剤、乳剤、顆粒剤、カプセル剤、坐剤、および注射剤等が挙げられ、好ましくは注射剤または錠剤等の経口投与用の剤型である。
【0071】
(投与経路)
上記糖原病Ia型予防または治療用組成物の投与経路としては、経口、局所、皮下、筋肉内、静脈内、皮内、経皮等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0072】
(投与方法)
上記糖原病Ia型予防または治療用組成物の投与方法は特に限定されず、経口投与、血管内投与、腸内投与といった手法によって全身投与されてもよく、経皮投与、舌下投与といった手法によって局所投与されてもよい。被験体への投与は、公知の方法に基づいて行われればよいが、具体的には、皮下、静脈内、筋肉内、腹腔内、皮内等への直接注射、鼻腔内、口腔内、肺内、膣内、直腸内等の粘膜への噴霧、経口投与、静脈内または動脈内への血管内投与等が挙げられる。1つの好ましい投与方法は、皮下、静脈内または動脈内への直接注射による全身投与である。別の好ましい投与方法は、投与が容易である観点から、経口投与である。
【0073】
(投与量および投与期間)
上記糖原病Ia型予防または治療用組成物の投与量(治療有効量)は、投与の対象となる被験体の年齢、体重、性別、投与する剤型、目的とする糖原病Ia型予防または治療効果の程度等によって適宜選択可能である。また、糖原病Ia型予防または治療用組成物の投与期間についても、目的とする糖原病Ia型予防または治療効果が得られるように適宜選択することができる。
【0074】
また、例えば、糖原病Ia型予防または治療用組成物の糖原病Ia型予防または治療効果を損なわない限り、別の糖原病Ia型予防または治療効果を有する医薬品または別の効果を有する医薬品と併用投与されてもよい。
【0075】
(投与の対象)
本発明に係る組成物の投与対象となる被験体としては、あらゆる動物が挙げられるが、脊椎動物が好ましく、哺乳類であることがより好ましい。さらに、哺乳類の被験体としては、ヒトの他に、家畜類(ニワトリ、ブタ、ウマ、ヤギ、ヒツジ、ウシ等)、ペット動物(ネコ、イヌ、ハムスター、ウサギ、モルモット等)および実験動物(マウス、ラット等のげっ歯類、サル等)が挙げられるが、特にヒトが好ましい。さらに、被験体がヒトの場合、なかでも、東アジア(日本、中国、韓国、台湾等)の人種であることが好ましい。
【0076】
例示的な被験体は、糖原病Ia型を有する患者であるか、糖原病Ia型を発症するリスクを有する。また、別の実施形態では、被験体は、G6PCにおけるc.648G>Tの変異をホモ接合または複合ヘテロ接合で有しており、好ましくはホモ接合で有している。
【0077】
さらに被験体は、いかなる年齢であってもよい。なお、糖原病Ia型は乳児期から発症しうる疾患であるため、0歳の被験体を含め可能な限り早期に投与を開始することが望ましい。より低い年齢から投与することにより、成長障害および腎障害などを早期に防止することができる。また、疾患の早期予防および治療の早期開始により、重篤な障害等が生じることを防ぐことができる。
【0078】
一実施形態の被験体は、肝臓、腎臓および小腸を含む1以上の組織中のグリコーゲン蓄積が増加しているか、上述した糖原病Ia型の少なくとも1つの臨床的症状を呈している。
【0079】
本発明の組成物は、投与が容易であり、かつ、安全性が高いため、長期間にわたる投与、または乳幼児への投与にも用いることができる。したがって、糖原病Ia型予防または治療のために好適に使用可能である。
【0080】
〔4.糖原病Ia型(GSD-Ia)の治療方法〕
本発明に係る糖原病Ia型の治療方法は、上述の糖原病Ia型予防または治療用組成物を、被験体に対して、治療有効量投与する工程を含む。一実施形態においては、投与対象となる被験体へ、該組成物のみを単独で投与してもよく、または、投与の目的に適した薬学的組成物の一構成成分として投与してもよい。
【0081】
(投与量および投与期間)
上記糖原病Ia型予防または治療用組成物の投与量(治療有効量)は、投与対象となる被験体の年齢、性別、体重、症状、投与経路、投与回数、および投与期間等に応じて適宜設定すればよい。投与方法、投与量、投与期間等は〔3.糖原病Ia型予防または治療用組成物〕に記載した通りである。
【0082】
上記糖原病Ia型予防または治療用組成物の投与回数も治療効果が得られる限り特に限定されず、例えば、被験体の疾患症状の重症度、上記投与量、投与経路、症状、被験体の年齢、性別、体重等に応じて適宜設定すればよい。
【0083】
なお、臨床的に健常な被験体に対して、糖原病Ia型を発症する前に該糖原病Ia型予防または治療用組成物を投与する工程を包含する、予防投与の形態も、本発明の治療方法の範疇に含まれる。すなわち、被験体に該組成物が有効量以上生体中に投与された状態にし、あらかじめ糖原病Ia型を予防するという態様である。
【0084】
(併用療法)
本発明に係る糖原病Ia型の治療方法において、本発明に係る糖原病Ia型予防または治療用組成物以外の糖原病Ia型の治療に用いられる薬剤(例えば、アシドーシスに対するクエン酸製剤、高尿酸血症に対する尿酸合成阻害剤等)の投与、およびデンプン質の頻回食療法等の、従来の療法のうちの1以上と組み合わせた併用療法を行ってもよい。本発明に係る糖原病Ia型の治療方法は、従来の糖原病Ia型の治療とは異なるメカニズムを利用した新規な治療方法である。それゆえ、本併用療法を採用すれば、併用剤の治療効果と相乗的な治療効果が期待できる。
【0085】
上記治療方法を用いて治療中の被験者の治療効果は、〔2.c.648G>T変異型G6PCのプレmRNAの異常スプライシングを抑制する方法〕に記載した、異常スプライシングの抑制有無を調べる方法や、正常な塩基長を有するG6PC mRNAの発現を調べる方法、正常型G6Paseタンパク質の発現を調べる方法を適宜用いて調べることもできる。生体におけるG6Paseタンパク質の量は、該生体の有する糖原病Ia型の重症度に比例し得る。そのため、治療の各段階において、治療効果の有無の検査を行うことができる。
【0086】
〔5.本発明に係る具体的な態様の例示〕
本発明は以下の何れかの態様を包含する。
<1> アンチセンスオリゴヌクレオチドであって、GRCh38/hg38のヒト第17染色体塩基配列における、第42911000番目の塩基、第42911004番目の塩基および第42911005番目の塩基のうちの少なくとも1つの塩基を含む領域のプレmRNAの配列にハイブリダイズし、c.648G>T変異型G6PCのプレmRNAの異常スプライシングを抑制する活性を有する、アンチセンスオリゴヌクレオチド。
<2> 上記アンチセンスオリゴヌクレオチドは、GRCh38/hg38のヒト第17染色体塩基配列における、第42910951番目~第42911054番目の塩基の領域のプレmRNAの配列にハイブリダイズし、c.648G>T変異型G6PCのプレmRNAの異常スプライシングを抑制する活性を有する、<1>に記載のアンチセンスオリゴヌクレオチド。
<3> 7~104塩基からなる、<1>または<2>に記載のアンチセンスオリゴヌクレオチド。
<4> 上記アンチセンスオリゴヌクレオチドは、以下の(a)および(b)のうちから選択される、<1>~<3>の何れかに記載のアンチセンスオリゴヌクレオチド。
【0087】
(a)配列番号14、配列番号17、配列番号20または配列番号23に示される塩基配列を含むアンチセンスオリゴヌクレオチド
(b)配列番号14、配列番号17、配列番号20または配列番号23に示される塩基配列に対して、60%以上の配列同一性を有する塩基配列を含み、かつc.648G>T変異型G6PCのプレmRNAの異常スプライシングを抑制する活性を有するアンチセンスオリゴヌクレオチド。
<5> 上記アンチセンスオリゴヌクレオチドは、14~30塩基からなるモルホリノアンチセンスオリゴヌクレオチドまたは7~25塩基からなるロックド核酸(LNA)アンチセンスオリゴヌクレオチドである、<1>~<4>の何れかに記載のアンチセンスオリゴヌクレオチド。
<6> 糖原病Ia型予防または治療用組成物であって、アンチセンスオリゴヌクレオチドを薬効成分として含み、上記アンチセンスオリゴヌクレオチドが、GRCh38/hg38のヒト第17染色体塩基配列における、第42911000番目の塩基、第42911004番目の塩基および第42911005番目の塩基のうちの少なくとも1つの塩基を含む領域のプレmRNAの配列にハイブリダイズし、c.648G>T変異型G6PCのプレmRNAの異常スプライシングを抑制する活性を有する、糖原病Ia型予防または治療用組成物。
<7> 上記アンチセンスオリゴヌクレオチドが、GRCh38/hg38のヒト第17染色体塩基配列における、第42910951番目~第42911054番目の塩基の領域のプレmRNAの配列にハイブリダイズし、c.648G>T変異型G6PCのプレmRNAの異常スプライシングを抑制する活性を有するアンチセンスオリゴヌクレオチドである、<6>に記載の糖原病Ia型予防または治療用組成物。
<8> 上記アンチセンスオリゴヌクレオチドは、7~104塩基からなる、<6>または<7>に記載の糖原病Ia型予防または治療用組成物。
<9> 上記アンチセンスオリゴヌクレオチドが、以下の(a)および(b)から選択されるアンチセンスオリゴヌクレオチドである、<6>~<8>の何れかに記載の糖原病Ia型予防または治療用組成物。
【0088】
(a)配列番号14、配列番号17、配列番号20または配列番号23に示される塩基配列を含むアンチセンスオリゴヌクレオチド
(b)配列番号14、配列番号17、配列番号20または配列番号23に示される塩基配列に対して、60%以上の配列同一性を有する塩基配列を含み、かつc.648G>T変異型G6PCのプレmRNAの異常スプライシングを抑制する活性を有するアンチセンスオリゴヌクレオチド。
<10> 上記アンチセンスオリゴヌクレオチドは、14~30塩基からなるモルホリノアンチセンスオリゴヌクレオチドまたは7~25塩基からなるロックド核酸(LNA)アンチセンスオリゴヌクレオチドである、<6>~<9>の何れかに記載の糖原病Ia型予防または治療用組成物。
【0089】
以上に示したように、本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例
【0090】
以下、本発明の実施例について説明する。
【0091】
〔実施例1〕
まず、c.648G>T変異型G6PCのプレmRNAの異常スプライシング部位について、図を参照して説明する。図1は、c.648G>Tの変異によって生じるG6PCのプレmRNAの異常スプライシング領域を示す図である。
【0092】
G6PC変異体c.648G>Tはエクソン5の5’側の91bpのヌクレオチド(配列番号5)が欠失したmRNAを生じる。これは、変異配列“ccttcttcctTttcAG”の伸長したポリピリミジン領域が、正常配列“ccttcttcctGttcAG”および野生型のスプライス受容部位“ctttcttccactcAG”の配列を超える増大したスプライシング効果を有していることによる可能性がある。アンチセンスオリゴヌクレオチドはエクソン5における変異型配列における異所性スプライス受容部位をブロックするように設計した。
【0093】
=材料および方法=
(アンチセンスオリゴヌクレオチド)
c.648G>T変異型G6PCのプレmRNAにおける異常スプライシングの異所性スプライス受容部位を標的とする25 merのモルホリノアンチセンスオリゴヌクレオチド(mASO)を設計した。c.648Gがc.648Tに置換されたG6PCの配列のうちの、c.630Tからc.654Cまでの配列(5'-TCTCATTACCTTCTTCCTTTTCAGC-3'(配列番号7))の相補配列(5'-GCTGAAAAGGAAGAAGGTAATGAGA-3'(配列番号14))となるように設計したmASOと、同一の長さのコントロールのモルホリノオリゴヌクレオチド(mCO)(5'-CCTCTTACCTCAGTTACAATTTATA-3'(配列番号9))とを、Gene Tools, LLC (Philomath, OR)によって合成した。Endo-Porter (Gene Tools)をモルホリノオリゴヌクレオチドの細胞への組み込みに用いた。
【0094】
(患者および細胞株)
臨床症状およびGSD-Iaの生物学的な異常表現型を有する、日本人の乳児期からの患者の血液から白血球を分離した。ゲノムDNAの双方向シークエンシングによって、c.648G>Tのホモ接合体であるものを探索した。
【0095】
Epstein-Barrウイルス(EBV)による形質転換後、リンパ芽球細胞を、10%ウシ胎児血清(HyClone, Logan, Utah, USA)、100U/mLのペニシリンおよび100mg/mLのストレプトマイシンを含有するRMPI 1640培地にて、37℃、5%COで維持した。健康な成人由来の別の細胞を健常コントロールとして準備した。
【0096】
(アンチセンスオリゴヌクレオチドの曝露)
mASOまたはmCOの何れかを1.0μmol/LおよびEndo-Porterを0.8μL含んでいる新しい培地200μLに、10の細胞を再懸濁した。37℃で48時間インキュベーション後、リン酸緩衝生理食塩水で細胞を洗浄し、回収した。
【0097】
(RNA調製、RT-PCRおよびネステッドPCR)
Total RNAをRNeasy kit (Qiagen, Valencia, CA)を用いて抽出し、first-strand synthesis system for RT-PCR (SuperScript; Invitrogen, Carlsbad, CA)を用いた逆転写反応によりcDNAを合成した。
【0098】
続いて、ネステッドPCRを行い、mRNAのスプライシングにおけるmASOの効果を調べた。ネステッドPCRに用いたプライマーを表1に示す。first PCRでは、プライマーセットG6PC-F1/G6PC-Rを用い、c.648G>Tを含むセグメントを増幅した。second PCRでは、別のプライマーセットG6PC-F2/G6PC-Rを用いた。正常なスプライシング由来のPCR産物の予想サイズは305bpであり、異常なスプライシング由来のPCR産物の予想サイズは214bpであった。アガロースゲル電気泳動によって分離後、PCR産物をアガロースゲルから抽出し、BigDye Terminator v3.1 cycle sequencing kit (Applied Biosystems, Foster City, CA, USA)およびABI PRISM 310 genetic analyzer (Applied Biosystems)を用いて直接配列決定した。
【0099】
【表1】
=結果=
(ネステッドPCR産物のアガロースゲル電気泳動)
図2は、健常コントロール被験者由来(レーン1~3)およびGSD-Iaの患者由来(レーン4~6)のネステッドPCR産物のアガロースゲル電気泳動の結果を示す図である。
【0100】
レーン1~3には約300bpの長さの単一のバンド、レーン5および6には約200bpの長さの単一のバンドが見られ、両方のバンドがレーン4において観察された。より長いネステッドPCR産物のバンドがレーン4の★印に見られた。これは、モルホリノアンチセンスオリゴヌクレオチドによるG6PC c.648G>Tの異常スプライシングの回復を示している。
【0101】
続いて、図2において示したネステッドPCR産物をゲルから抽出し、直接配列決定した。図3は、ネステッドPCR産物のダイレクトシーケンシングの結果を示す図である。図3の(a)は、レーン1~3における単一のバンド(305bp)の配列を示している。エクソン4の3’末端(c.561_562AG)に、正常なエクソン5(c.563G_753C)が続いている。図3の(b)は、レーン5および6における単一のバンド(214bp)およびレーン4におけるより短い方のバンド(214bp)の配列を示している。エクソン4の3’末端(c.561_562AG)にc.654C_753Cが続いている。このことは、91bp(c.563G_653G)の欠失を示している。図3の(c)は、レーン4におけるより長い方のバンド(305bp)の配列を示している。より短い方のバンドの断片によるコンタミネーションが生じていたが、エクソン4の3’末端(c.561_562AG)にc.563G_753Cが続いており、c.648Gはc.648Tに置換されていた。
【0102】
健常コントロールのサンプルにおいて、mASOもしくはmCOで処理されたサンプル間、または処理の有無で相違は見られず、すべてのサンプルで約300bpの単一のバンドが現れた。同様に、mCOによる処理有りまたは無しの患者サンプルで約200bpの単一のバンドが見られた。これと比較して、mASOで処理した患者サンプルでは、約200bpおよび約300pの2つのバンドが現れた。このことは、患者サンプルにおける正常なスプライシングの部分的な回復を示唆している(図3)。
【0103】
健常コントロールサンプルでは、エクソン4およびエクソン5の結合領域の配列はmASOまたはmCOの何れの処理の場合も正常であった。一方患者サンプルにおいては、mCOによる処理または処理無しのサンプルの約200bpのバンドで91bp欠失が観察された。mASOで処理したサンプルの約300bpのバンドは2種類のDNA断片を含んでいた。1つの断片は、塩基置換c.648Tを含む正常な長さのcDNAとしての配列を示しており、もう1つの断片は、91bpの欠失を含む異常な長さの配列を示していた。これは、アガロースゲル電気泳動の工程において、上記の正常な長さのcDNA断片より下流に位置している異常な長さの断片がコンタミネーションを起こしたものであると考えられた。
【0104】
=議論=
アンチセンスオリゴヌクレオチドは、先天性の代謝異常を含む様々な遺伝疾患に対するスプライシング変異を回復させることが広く示されてきている[参考文献1]。様々な種類のASO分子の中でもモルホリノASOはin vivoで効果的に投与され、輸送され得る。様々な種類のASO分子の中でも、モルホリノASOは、樹状分子トランスポーターとの結合によってin vivoで効果的に投与され、輸送され得る。グロブリン遺伝子のイントロンにスプライシング変異を有するトランスジェニックマウスへの、樹状分子トランスポーターとモルホリノASOとの複合体の静脈投与は、骨格筋、肝臓、腎臓および小腸においてほとんど完全な正常なmRNAの回復を示した。一方、脾臓、心臓、肺および脳では、あまり効果が見られなかった[参考文献3]。G6PCは、肝臓、腎臓および小腸のみにおいてG6Paseを発現するので、G6PC c.648G>Tの変異によるGSD-IaはASOベースの治療のための好適な標的となり得る。
【0105】
一般的に、遺伝疾患における変異体の多くは散発性のため、この種の薬剤の実用的な使用への導入は困難であることも多く、医薬開発の好適な標的ではない場合もあるが、G6PC c.648G>T変異体の場合はASO療法の標的として好適である。
【0106】
この変異による異常スプライシングは罹患患者の肝臓組織において最初に報告され[参考文献4]、続いて、EBVによる形質転換リンパ芽球細胞において成功した別の観察の報告がなされた[参考文献5]。これらの発見がされたのち、この変異体アレル頻度が東アジア人集団で非常に高いことが分かった(表2)。日本においては、罹患集団の80~85%がG6PC c.648G>Tのホモ接合体であり、残りは主にc.648G>Tのヘテロ接合体および散発性の変異であった[参考文献5, 6]。
【0107】
【表2】
これらのことから、日本人のGSD-Iaの患者のおよそ95%は、少なくとも1つのアレルにおいてこの変異を有していると思われる。台湾[参考文献7]、中国[参考文献8]および韓国[参考文献9]でのこの変異の検出に関するいくつかの報告によれば、c.648G>Tの少なくとも1つのアレルを有している患者の割合は、ぞれぞれ、韓国人で92.3%、中国人で88.6%であった。
【0108】
これらの知見は、上記で列挙している国のGSD-Ia患者の大部分に対し単一のASOベースの治療薬が有効であることを示唆している。ASOが罹患患者において観察された病理学的な変化を改善するか否かは、例えばc.648G>T 変異型G6PCを有するGSD-Ia患者由来の人工多能性幹細胞(induced pluripotent stem (iPS) cells)細胞株を確立して、それらの細胞を、細胞内へのグリコーゲンの蓄積を示す肝細胞様の細胞へと分化させる方法などによって確認する [参考文献10]。
【0109】
以上の通り、本発明は新規なGSD-Ia型特異的医薬を確立する、非常に有効な知見を得たものである。
【0110】
=実施例1の参考文献の一覧=
[参考文献1] M.A. Havens, D.M. Duelli, M.L. Hastings, Targeting RNA splicing for disease therapy, Wiley Interdiscip. Rev. RNA 4 (3) (2013) 247-266.
[参考文献2] J.Y. Chou, B.C. Mansfield, Mutations in the Glucose-6-Phosphatase-α (G6PC) gene that cause type Ia glycogen storage disease, Hum. Mutat. 29 (7) (2008) 921-930.
[参考文献3] Y.F. Li, P.A. Morcos, Design and synthesis of dendritic molecular transporter that achieves efficient in vivo delivery of morpholino antisense oligo, Bioconjugate Chem. 19 (7) (2008) 1464-1470.
[参考文献4] S. Kajihara, S. Matsuhashi, K. Yamamoto, K. Kido, K. Tsuji, A. Tanae, S. Fujiyama, T. Itoh, K. Tanigawa, M. Uchida, Y. Setoguchi, M. Motomura, T. Mizuta, T. Sakai, Exon redefinition by a point mutation within exon 5 of the glucose-6-phosphatase gene is the major cause of glycogen storage disease type Ia in Japan, Am. J. Hum. Genet. 57 (3) (1995) 549-555.
[参考文献5] J. Akanuma, T. Nishigaki, K. Fujii, Y. Matsubara, K. Inui, K. Takahashi, S. Kure, Y. Suzuki, T. Ohura, S. Miyabayashi, E. Ogawa, K. Iinuma, S. Okada, K. Narisawa, Glycogen storage disease type 1a: molecular diagnosis of 51 Japanese patients and characterization of splicing mutations by analysis of ectopically transcribed mRNA from lymphoblastoid cells, Am. J. Med. Genet. 91 (2) (2000) 107-112.
[参考文献6] J. Kido, K. Nakamura, S. Matsumoto, H. Mitsubuchi, T. Ohura, Y. Shigematsu, T. Yorifuji, M. Kasahara, R. Horikawa, F. Endo, Current status of hepatic glycogen storage disease in Japan: clinical manifestations, treatments and long-term outcomes. J. Hum. Genet. 58 (5) (2013) 285-292.
[参考文献7] S.C. Chiang, Y.M. Lee, M.H. Chang, T.R. Wang, T.M. Ko, W.L. Hwu, Glucose-6-phosphatase gene mutations in Taiwan Chinese patients with glycogen storage disease type 1a, J. Hum. Genet. 45 (4) (2000) 197-199.
[参考文献8] W.J. Qiu, X.F. Gu, J. Ye, L.S. Han, Y.F. Zhang, X.Q. Liu, Molecular genetic analysis of glycogen storage disease type Ia in 26 Chinese patients, J. Inherit. Metab. Dis. 26 (8) (2003) 811-812.
[参考文献9] C.S. Ki, S.H. Han, H.J. Kim, S.G. Lee, E.J. Kim, J.W. Kim, Y.H. Choe, J.K. Seo, Y.J. Chang, J.Y. Park, Mutation spectrum of the glucose-6-phosphatase gene and its implication in molecular diagnosis of Korean patients with glycogen storage disease type Ia, Clin. Genet. 65 (6) (2004) 487-489.
[参考文献10] S.T. Rashid, S. Corbineau, N. Hannan, S.J. Marciniak, E. Miranda, G. Alexander, I. Huang-Doran, J. Griffin, L. Ahrlund-Richter, J. Skepper, R. Semple, A. Weber, D.A. Lomas, L. Vallier, Modeling inherited metabolic disorders of the liver using human induced pluripotent stem cells, J. Clin. Invest. 120 (9) (2010) 3127-3136.
〔実施例2〕
LNAアンチセンスオリゴヌクレオチド、すなわち、生体投与において効果が期待できるlocked nucleic acid (LNA) を含むアンチセンスオリゴヌクレオチドを用いて、異常スプライシングの抑制を試みた。
【0111】
=材料および方法=
(LNAアンチセンスオリゴヌクレオチド)
c.648G>T変異型G6PCのプレmRNAにおける異常スプライシングの異所性スプライス受容部位を標的とする15 merのLNAアンチセンスオリゴヌクレオチド(LNA ASO)を下記の条件で設計した。c.648Gがc.648Tに置換されたG6PCの配列のうちの、c.639Cからc.665Gまでの領域に含まれる15 merの配列の相補配列となるようにLNA ASOを7種類設計した。7種類のLNA ASOをそれぞれLNA01、LNA03、LNA05、LNA07、LNA09、LNA11およびLNA13とした。合成は受託合成(株式会社ジーンデザイン,大阪府茨木市)によって行った。
【0112】
(LNA ASOの設計条件)
・15塩基長とし、LNAを1残基おきに導入した(表3の網掛け部位)。
・3’末端および5’末端の塩基は天然DNAとした。
・各塩基間はホスホロチオエート(PS)結合とした。
・設計領域を2塩基ごとにずらして設計した。
【0113】
【表3】
(細胞株)
c.648G>T変異を同定済みの糖原病Ia型患者(ホモ接合体)から、末梢血リンパ球を採取し、EBVを感染させて不死化リンパ球細胞株を樹立し、実施例1と同様の方法で維持した。
【0114】
(トランスフェクション)
CaCl2を最終濃度9mM、LNA01~13をそれぞれ最終濃度1μMとなるように添加した新しい培地200μLに、4.5×10個の細胞を再懸濁し、ポリ-D-リジンで表面をコーティングしたマイクロプレート(96ウェル)(Thermo Fisher Scientific, Waltham, Massachusetts, USA)に播種した。LNA無添加のウェルをブランクとした。37℃でconfluencyとなるまで7日間培養した後、リン酸緩衝生理食塩水で細胞を洗浄し、回収した。
【0115】
(RNA調製、RT-PCRおよびネステッドPCR)
回収した細胞からtotal RNAを抽出してcDNAを合成した。続いて、ネステッドPCRを行い、G6PC エクソン4およびエクソン5の結合領域からc.648G>Tの変異部位と異所性スプライス受容部位(c.652_653AG)とを含む領域の配列を増幅することによって、mRNAのスプライシングにおけるLNA ASOの効果を調べた。ネステッドPCRは実施例1で用いたプライマーセットと同じものを用いて行った。
【0116】
実施例1と同様に、正常なスプライシング由来のPCR産物の予想サイズは305bp(正常長)であり、異常なスプライシング由来のPCR産物の予想サイズは214bp(欠失長)であった。アガロースゲル電気泳動によって分離後、ゲル上の欠失長バンドと正常長バンドとを一塊としてアガロースゲルからDNA抽出し、直接配列決定を行った。
【0117】
なお、実施例2におけるRNAの抽出、cDNAの合成方法、アガロースゲル電気泳動および直接配列決定は実施例1と同様の方法を用いた。
【0118】
=結果=
(ネステッドPCR産物のアガロースゲル電気泳動)
図4は、各種LNA ASO(LNA01~13)添加およびLNA ASO無添加(ブランク)サンプルのネステッドPCR産物のアガロースゲル電気泳動の結果を示す図である。
【0119】
各種LNA ASO添加サンプルにおいては両方のバンドが観察された。これは、LNA ASOによるG6PC c.648G>Tの異常スプライシングからの回復を示しており、正常長バンドが濃いほどLNA ASOの異常スプライシングからの回復効果が高いことが予想された。
【0120】
図5は、ネステッドPCR産物のダイレクトシーケンシングの結果を示す図である。図5の(a)は、LNA ASO無添加(LNA00)サンプルにおけるネステッドPCR産物の配列を示している。図5の(b)は、各種LNA ASO添加サンプルにおけるネステッドPCR産物のc.648G>T付近の波形を示している。
【0121】
=考察=
LNA ASOは、他の各種の構造のオリゴヌクレオチドに比較して作用が強く、導入薬剤または物理的刺激によらない、細胞への自然な取り込み("gymnosis"または"free-uptake")でもアンチセンス効果を発揮することが報告されており[参考文献12,13]、実施例2ではこの方法で検討を行った。
【0122】
EBV不死化リンパ球細胞株でのc.648G>T変異型G6PCの異常スプライシングによる発現においては、若干量であるが、正常スプライシングによる正常型の発現産物も自発的に生じていた。
【0123】
上述のアガロースゲル電気泳動で得られた欠失長バンドの濃さに対する正常長バンドの濃淡と、ゲル抽出における欠失バンド由来波高と正常長バンド由来波高との相対関係とには相関性が示唆されることから、LNA01~LNA13のうち、特にLNA01、LNA07およびLNA13がLNA ASOの候補として特に有望と思われる。

=実施例2の参考文献の一覧=
[参考文献11] Shimo T, Tachibana K, Saito K, Yoshida T, Tomita E, Waki R, Yamamoto T, Doi T, Inoue T, Kawakami J, Obika S, Design and evaluation of locked nucleic acid-based splice-switching oligonucleotides in vitro, Nucleic Acids Res. 42 (12) (2014) 8174-8187.
[参考文献12] Soifer HS, Koch T, Lai J, Hansen B, Hoeg A, Oerum H, Stein CA, Silencing of gene expression by gymnotic delivery of antisense oligonucleotides, Methods Mol. Biol. 815 (2012) 333-346.
[参考文献 13] Hori S, Yamamoto T, Waki R, Wada S, Wada F, Noda M, Obika S, Ca2+ enrichment in culture medium potentiates effect of oligonucleotides, Nucleic Acids Res. 43 (19) (2015) e128.
【産業上の利用可能性】
【0124】
本発明は、例えば、糖原病Ia型の予防または治療に利用することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
【配列表】
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