(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-28
(45)【発行日】2022-04-05
(54)【発明の名称】有機金属化合物、有機金属化合物を含む薄膜蒸着用組成物、薄膜蒸着用組成物を用いた薄膜の製造方法、薄膜蒸着用組成物から製造される薄膜、および薄膜を含む半導体素子
(51)【国際特許分類】
H01L 21/316 20060101AFI20220329BHJP
H01L 21/31 20060101ALI20220329BHJP
C23C 16/18 20060101ALI20220329BHJP
C23C 16/455 20060101ALI20220329BHJP
【FI】
H01L21/316 X
H01L21/31 B
C23C16/18
C23C16/455
(21)【出願番号】P 2020199801
(22)【出願日】2020-12-01
【審査請求日】2020-12-01
(31)【優先権主張番号】10-2019-0173308
(32)【優先日】2019-12-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】590002817
【氏名又は名称】三星エスディアイ株式会社
【氏名又は名称原語表記】SAMSUNG SDI Co., LTD.
【住所又は居所原語表記】150-20 Gongse-ro,Giheung-gu,Yongin-si, Gyeonggi-do, 446-902 Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】八田国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】任 相 均
(72)【発明者】
【氏名】朴 景 鈴
(72)【発明者】
【氏名】金 容 兌
(72)【発明者】
【氏名】成 太 根
(72)【発明者】
【氏名】呉 釜 根
(72)【発明者】
【氏名】林 雪 熙
【審査官】長谷川 直也
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-007192(JP,A)
【文献】特表2009-529579(JP,A)
【文献】特表2012-520943(JP,A)
【文献】特開平07-249616(JP,A)
【文献】特開2009-040707(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/316
H01L 21/31
C23C 16/18
C23C 16/455
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化学式1で表される、有機金属化合物
(ただし、下記化合物Aを除く):
【化1】
上記化学式1中、
Mは、SrまたはBaであり、
Aは、下記化学式2で表される化合物に由来し、
【化2】
上記化学式2中、
R
1~R
5は、それぞれ独立して、水素原子、または置換または非置換の炭素数1~20のアルキル基であり、
R
1~R
5のうちの少なくとも一つは、置換または非置換の炭素数3~20の分枝状アルキル基であり、残りのR
1~R
5のうちの少なくとも一つは、前記置換または非置換の炭素数3~20の分枝状アルキル基と異なる他の置換または非置換の炭素数1~20のアルキル基である。
【化3】
化合物A
【請求項2】
前記少なくとも一つの置換または非置換の炭素数3~20の分枝状アルキル基は、置換または非置換の炭素数3~10のiso-アルキル基、置換または非置換の炭素数3~10のsec-アルキル基、置換または非置換の炭素数4~10のtert-アルキル基、または置換または非置換の炭素数5~10のneo-アルキル基である、請求項1に記載の有機金属化合物。
【請求項3】
前記R
1~R
5のうちの少なくとも二つは、置換または非置換の炭素数3~20の分枝状アルキル基である、請求項1または2に記載の有機金属化合物。
【請求項4】
前記少なくとも二つの置換または非置換の炭素数3~20の分枝状アルキル基は、互いに同一である、請求項3に記載の有機金属化合物。
【請求項5】
前記R
1~R
5のうちの一つまたは二つは、それぞれ独立して、置換または非置換の炭素数3~10のiso-アルキル基であり、
残りのR
1~R
5のうちの一つまたは二つは、それぞれ独立して、置換または非置換の炭素数1~20の線状アルキル基、置換または非置換の炭素数3~10のsec-アルキル基、または置換または非置換の炭素数4~10のtert-アルキル基である、請求項1~4のいずれか1項に記載の有機金属化合物。
【請求項6】
前記R
1~R
5のうちの一つまたは二つは、それぞれ独立して、iso-プロピル基、iso-ブチル基、またはiso-ペンチル基であり、
残りのR
1~R
5のうちの一つまたは二つは、それぞれ独立して、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、sec-ブチル基、sec-ペンチル基、tert-ブチル基、またはtert-ペンチル基である、請求項1~5のいずれか1項に記載の有機金属化合物。
【請求項7】
上記化学式2は、下記化学式2-1~2-6のいずれか一つで表される、請求項1~6のいずれか1項に記載の有機金属化合物:
【化4】
上記化学式2-1~2-6中、
R
aおよびR
bは、それぞれ独立して、iso-プロピル基、iso-ブチル基、またはiso-ペンチル基であり、
R
cおよびR
dは、それぞれ独立して、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、sec-ブチル基、sec-ペンチル基、tert-ブチル基、またはtert-ペンチル基である。
【請求項8】
前記有機金属化合物は、常温で液体である、請求項1~7のいずれか1項に記載の有機金属化合物。
【請求項9】
下記条件により測定された粘度が1,000cps以下である、請求項1~8のいずれか1項に記載の有機金属化合物。
[粘度測定条件]
・粘度測定計:RVDV-II(BROOKFIELD社製)
・Spindle No.:CPA-40z
・Torque/RPM:20~80% Torque/1-100 RPM
・測定温度(sample cup温度):25℃
【請求項10】
アルゴンガス雰囲気下で、1気圧で熱重量分析法(thermogravimetric analysis)による測定時、前記有機金属化合物の初期重量に対して50%の重量の減少が生じる温度が50℃~300℃である、請求項1~9のいずれか1項に記載の有機金属化合物。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか1項に記載の有機金属化合物を含む、薄膜蒸着用組成物。
【請求項12】
請求項11に記載の第1薄膜蒸着用組成物を気化させる段階と、
前記気化した第1薄膜蒸着用組成物を基板上に蒸着させる段階と、を含む、薄膜の製造方法。
【請求項13】
前記薄膜の製造方法は、第2薄膜蒸着用組成物を気化させる段階と、
前記気化した第2薄膜蒸着用組成物を前記基板上に蒸着させる段階と、をさらに含み、
前記第2薄膜蒸着用組成物は、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、ニオブ、タンタル、またはこれらの組み合わせを含む第2有機金属化合物を含む、請求項12に記載の薄膜の製造方法。
【請求項14】
前記気化した第1薄膜蒸着用組成物と前記気化した第2薄膜蒸着用組成物は、前記基板上に一緒に、またはそれぞれ独立して蒸着される、請求項12または13に記載の薄膜の製造方法。
【請求項15】
前記第1薄膜蒸着用組成物を気化させる段階は、前記第1薄膜蒸着用組成物を300℃以下の温度で熱処理する段階を含む、請求項12~14のいずれか1項に記載の薄膜の製造方法。
【請求項16】
前記気化した第1薄膜蒸着用組成物を基板上に蒸着させる段階は、前記気化した第1薄膜蒸着用組成物を反応ガスと反応させる段階をさらに含み、
前記反応ガスは、水蒸気(H
2O)、酸素(O
2)、オゾン(O
3)、プラズマ、過酸化水素(H
2O
2)、アンモニア(NH
3)またはヒドラジン(N
2H
4)、またはこれらの組み合わせを含む、請求項12~15のいずれか1項に記載の薄膜の製造方法。
【請求項17】
前記気化した第1薄膜蒸着用組成物を基板上に蒸着させる段階は、原子層蒸着法(Atomic Layer Deposition;ALD)または有機金属化学蒸着法(Metal Organic Chemical Vapor Deposition;MOCVD)を用いて行われる、請求項12~16のいずれか1項に記載の薄膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機金属化合物、有機金属化合物を含む薄膜蒸着用組成物、薄膜蒸着用組成物を用いた薄膜の製造方法、薄膜蒸着用組成物から製造される薄膜、および薄膜を含む半導体素子に関する。
【背景技術】
【0002】
最近、半導体産業は、数百ナノメートルサイズから数~数十ナノメートルサイズへの超微細技術に発展している。このような超微細技術を実現するためには、高い誘電率、および低い電気抵抗を有する薄膜が必須である。
【0003】
しかし、半導体素子の高集積化によって、スパッタリング(sputtering)工程などの従来から使用されてきた物理気相蒸着工程(PVD)によっては前記薄膜を形成しにくい。これにより、近来、化学気相蒸着工程(CVD)または原子層蒸着工程(ALD)によって前記薄膜を形成する。
【0004】
化学気相蒸着工程(CVD)または原子層蒸着工程(ALD)で前記薄膜を均一に形成するためには、気化が容易でありながらも熱的に安定な薄膜蒸着用組成物が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】韓国公開特許第2012-0056827号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の一実施形態は、低粘度でかつ揮発性に優れた有機金属化合物を提供する。
【0007】
本発明の他の実施形態は、前記有機金属化合物を含む薄膜蒸着用組成物を提供する。
【0008】
本発明のさらに他の実施形態は、前記薄膜蒸着用組成物を用いた薄膜の製造方法を提供する。
【0009】
本発明のさらに他の実施形態は、前記薄膜蒸着用組成物から製造される薄膜を提供する。
【0010】
本発明のさらに他の実施形態は、前記薄膜を含む半導体素子を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一実施形態によれば、下記化学式1で表される有機金属化合物を提供する。
【0012】
【0013】
上記化学式1中、
Mは、SrまたはBaであり、
Aは、下記化学式2で表される化合物に由来し、
【0014】
【0015】
上記化学式2中、
R1~R5は、それぞれ独立して、水素原子、または置換または非置換の炭素数1~20のアルキル基であり、
R1~R5のうちの少なくとも一つは、置換または非置換の炭素数3~20の分枝状アルキル基であり、残りのR1~R5のうちの少なくとも一つは、前記置換または非置換の炭素数3~20の分枝状アルキル基と異なる他の置換または非置換の炭素数1~20のアルキル基である。
【0016】
前記少なくとも一つの置換または非置換の炭素数3~20の分枝状アルキル基は、置換または非置換の炭素数3~10のiso-アルキル基、置換または非置換の炭素数3~10のsec-アルキル基、置換または非置換の炭素数4~10のtert-アルキル基、または置換または非置換の炭素数5~10のneo-アルキル基であってもよい。
【0017】
前記R1~R5のうちの少なくとも二つは、置換または非置換の炭素数3~20の分枝状アルキル基であってもよい。
【0018】
前記少なくとも二つの置換または非置換の炭素数3~20の分枝状アルキル基は互いに同一であってもよい。
【0019】
前記R1~R5のうちの一つまたは二つは、それぞれ独立して、置換または非置換の炭素数3~10のiso-アルキル基であり、残りのR1~R5のうちの一つまたは二つは、それぞれ独立して、置換または非置換の炭素数1~20の線状アルキル基、置換または非置換の炭素数3~10のsec-アルキル基、または置換または非置換の炭素数4~10のtert-アルキル基であってもよい。
【0020】
前記R1~R5のうちの一つまたは二つは、それぞれ独立して、iso-プロピル基、iso-ブチル基、またはiso-ペンチル基であり、残りのR1~R5のうちの一つまたは二つは、それぞれ独立して、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、sec-ブチル基、sec-ペンチル基、tert-ブチル基、またはtert-ペンチル基であってもよい。
【0021】
上記化学式2は、下記化学式2-1~2-6のいずれか一つで表される。
【0022】
【0023】
上記化学式2-1~2-6中、
RaおよびRbは、それぞれ独立して、iso-プロピル基、iso-ブチル基、またはiso-ペンチル基であり、
RcおよびRdは、それぞれ独立して、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、sec-ブチル基、sec-ペンチル基、tert-ブチル基、またはtert-ペンチル基である。
【0024】
前記有機金属化合物は、常温で液体であってもよい。
【0025】
前記有機金属化合物は、下記条件により測定された粘度が1,000cps以下であってもよい。
【0026】
[粘度測定条件]
・粘度測定計:RVDV-II(BROOKFIELD社製)
・Spindle No.:CPA-40z
・Torque/RPM:20~80% Torque/1-100 RPM
・測定温度(sample cup温度):25℃。
【0027】
Ar(アルゴン)ガス雰囲気下で、1気圧で熱重量分析法(thermogravimetric analysis)による測定時、前記有機金属化合物の初期重量に対して50%の重量減少が生じる温度が50℃~300℃であってもよい。
【0028】
本発明の他の実施形態によれば、一実施形態による有機金属化合物を含む薄膜蒸着用組成物を提供する。
【0029】
上述した薄膜蒸着用組成物は、第1薄膜蒸着用組成物であってもよい。
【0030】
さらに他の実施形態によれば、本発明の一実施形態による第1薄膜蒸着用組成物を気化させる段階と、前記気化した前記第1薄膜蒸着用組成物を基板上に蒸着させる段階とを含む薄膜の製造方法を提供する。
【0031】
前記薄膜の製造方法は、第2薄膜蒸着用組成物を気化させる段階と、
前記気化した第2薄膜蒸着用組成物を前記基板上に蒸着させる段階とをさらに含み、
前記第2薄膜蒸着用組成物としては、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、ニオブ、タンタル、またはこれらの組み合わせを含む第2有機金属化合物を含んでもよい。
【0032】
前記気化した第1薄膜蒸着用組成物と前記気化した第2薄膜蒸着用組成物は、前記基板上に一緒に、またはそれぞれ独立して蒸着してもよい。
【0033】
前記第1薄膜蒸着用組成物を気化させる段階は、前記第1薄膜蒸着用組成物を300℃以下の温度で加熱する段階を含んでもよい。
【0034】
前記気化した第1薄膜蒸着用組成物を基板上に蒸着させる段階は、前記気化した第1薄膜蒸着用組成物を反応ガスと反応させる段階をさらに含み、前記反応ガスとしては、水蒸気(H2O)、酸素(O2)、オゾン(O3)、プラズマ、過酸化水素(H2O2)、アンモニア(NH3)またはヒドラジン(N2H4)、またはこれらの組み合わせを含んでもよい。
【0035】
前記気化した第1薄膜蒸着用組成物を基板上に蒸着させる段階は、原子層蒸着法(Atomic Layer Deposition;ALD)または有機金属化学蒸着法(Metal Organic Chemical Vapor Deposition;MOCVD)を用いて行うことができる。
【0036】
さらに他の実施形態によれば、本発明の一実施形態による薄膜蒸着用組成物から製造される薄膜を提供する。
【0037】
さらに他の実施形態によれば、本発明の一実施形態による薄膜を含む半導体素子を提供する。
【発明の効果】
【0038】
本発明の一実施形態による有機金属化合物は、常温で液体相で低粘度を示し、揮発性に優れている。したがって、本発明の一実施形態による有機金属化合物を用いて半導体薄膜を容易に製造することができ、前記製造された薄膜を含むことによって電気的特性に対する信頼性の高い半導体素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【
図1】実施例1による有機金属化合物の温度に応じた重量変化率を示す温度-重量変化率を示すグラフである。
【
図2】実施例2による有機金属化合物の温度に応じた重量変化率を示す温度-重量変化率を示すグラフである。
【
図3】実施例3による有機金属化合物の温度に応じた重量変化率を示す温度-重量変化率を示すグラフである。
【
図4】実施例4による有機金属化合物の温度に応じた重量変化率を示す温度-重量変化率を示すグラフである。
【
図5】比較例1による有機金属化合物の温度に応じた重量変化率を示す温度-重量変化率を示すグラフである。
【
図6】比較例2による有機金属化合物の温度に応じた重量変化率を示す温度-重量変化率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下、本発明の実施形態について本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が容易に実施できるように詳しく説明する。しかし、本発明は様々な異なる形態で実現でき、ここで説明する実施形態に限定されない。
【0041】
本明細書で特別な定義がない限り、層、膜、薄膜、領域、板などの部分が他の部分「の上に」または「上に」あるという時、これは他の部分の「真上に」ある場合だけでなく、その中間にさらに他の部分がある場合も含む。
【0042】
本明細書で特別な定義がない限り、「これらの組み合わせ」とは、構成物の混合物、複合体、配位化合物、積層物、合金などを意味する。
【0043】
本明細書で特別な定義がない限り、「置換」とは、水素原子が重水素原子、ハロゲン原子(ハロゲン基)、ヒドロキシ基、シアノ基、ニトロ基、-NRR’(ここで、RおよびR’は、それぞれ独立して、水素原子、置換または非置換の炭素数1~30の飽和または不飽和脂肪族炭化水素基、置換または非置換の炭素数3~30の飽和または不飽和脂環式炭化水素基、または置換または非置換の炭素数6~30の芳香族炭化水素基である)、-SiRR’R”(ここで、R、R’、およびR”は、それぞれ独立して、水素原子、置換または非置換の炭素数1~30の飽和または不飽和脂肪族炭化水素基、置換または非置換の炭素数3~30の飽和または不飽和脂環式炭化水素基、または置換または非置換の炭素数6~30の芳香族炭化水素基である)、炭素数1~20のアルキル基、炭素数1~10のハロアルキル基、炭素数1~10のアルキルシリル基、炭素数3~30のシクロアルキル基、炭素数6~30のアリール基、炭素数1~20のアルコキシ基、またはこれらの組み合わせで置換されることを意味する。「非置換」とは、水素原子が他の置換基で置換されず、水素原子が残っていることを意味する。
【0044】
本明細書において「ヘテロ」とは、別途の定義がない限り、一つの官能基内にN、O、S、およびPからなる群から選択されるヘテロ原子を1~3個含有し、残りは炭素であることを意味する。
【0045】
本明細書において「アルキル(alkyl)基」とは、別途の定義がない限り、線状または分枝状脂肪族炭化水素基を意味する。アルキル基は、いかなる二重結合や三重結合を含んでいない「飽和アルキル(saturated alkyl)基」であってもよい。前記アルキル基は、炭素数1~20ののアルキル基であってもよい。例えば、前記アルキル基は、炭素数1~10のアルキル基、炭素数1~8のアルキル基、炭素数1~6のアルキル基、または炭素数1~4のアルキル基であってもよい。例えば、炭素数1~4のアルキル基は、メチル基、エチル基、n-プロピル基、iso-プロピル基(イソプロピル基)、n-ブチル基、iso-ブチル基(イソブチル基)、sec-ブチル基、またはtert-ブチル基であってもよい。
【0046】
本明細書において、「飽和脂肪族炭化水素基」とは、別途の定義がない限り、分子中の炭素と炭素原子間の結合が単結合からなる炭化水素基を意味する。前記飽和脂肪族炭化水素基は、炭素数1~20の飽和脂肪族炭化水素基であってもよい。例えば、前記飽和脂肪族炭化水素基は、炭素数1~10の飽和脂肪族炭化水素基、炭素数1~8の飽和脂肪族炭化水素基、炭素数1~6の飽和脂肪族炭化水素基、炭素数1~4の飽和脂肪族炭化水素基、炭素数1~2の飽和脂肪族炭化水素基であってもよい。例えば、炭素数1~6の飽和脂肪族炭化水素基は、メチル基、エチル基、n-プロピル基、iso-プロピル基(イソプロピル基)、n-ブチル基、iso-ブチル基(イソブチル基)、sec-ブチル基、2,2-ジメチルプロピル基またはtert-ブチル基であってもよい。
【0047】
本明細書において「アミン基(アミノ基)」は、第一級アミン基(第一級アミノ基)、第二級アミン基(第二級アミノ基)、および第三級アミン基(第三級アミノ基)を意味する。
【0048】
本明細書において「シリルアミン基(シリルアミノ基)」は、一つまたは複数個のシリル基が窒素原子に置換された第一級~第三級アミン基(アミノ基)を意味し、シリル基中の水素原子は、ハロゲン原子(ハロゲン基;-F、-Cl、-Br、または-I)、置換または非置換の炭素数1~20のアルキル基で置換されていてもよい。
【0049】
本明細書において「有機金属化合物」は、金属元素と炭素、酸素、または窒素元素の化学結合を含む化合物であって、ここで、化学結合は共有結合、イオン結合、および配位結合を含むことを意味する。
【0050】
本明細書において「リガンド」は、金属イオンの周囲に化学結合する分子またはイオンを意味し、前記分子は有機分子であってもよく、ここで、化学結合は共有結合、イオン結合、および配位結合を含むことを意味する。
【0051】
本明細書において粘度は、下記の測定条件により測定したものを基準とする。
【0052】
[粘度測定条件]
・粘度測定計:RVDV-II(BROOKFIELD社製)
・Spindle No.:CPA-40z
・Torque/RPM:20~80% Torque/1-100 RPM
・測定温度(sample cup温度):25℃。
【0053】
化学気相蒸着工程(CVD)または原子層蒸着工程(ALD)により高誘電率、および高い電気容量(Capactiance)を有する薄膜を製造するために、アルカリ土類金属、および前記アルカリ土類金属と結合した一つ以上の有機リガンドを含む有機金属化合物を使用している。前記アルカリ土類金属は、IIA族(2族)元素を意味し、例えば、ストロンチウム、バリウム、またはこれらの組み合わせを含んでもよく、前記有機リガンドは、少なくとも一つの置換または非置換の炭素数1~20のアルキル基で置換されたシクロペンタジエンに由来する。しかし、前記有機金属化合物は、大部分固体であるか蒸気圧が低いので、化学気相蒸着工程(CVD)または原子層蒸着工程(ALD)で薄膜を均一に形成しにくい。したがって、高誘電率、および高い電気容量(Capactiance)を有しながらも、気化が容易で熱的に安定な有機金属化合物が必要である。
【0054】
本発明の一実施形態は、下記化学式1で表される有機金属化合物を提供する。
【0055】
【0056】
上記化学式1中、
Mは、アルカリ土類金属であり、
Aは、下記化学式2で表される化合物に由来し、
【0057】
【0058】
上記化学式2中、
R1~R5はそれぞれ独立して、水素原子、または置換または非置換の炭素数1~20のアルキル基であり、
R1~R5のうちの少なくとも一つは、置換または非置換の炭素数3~20の分枝状アルキル基であり、残りのR1~R5のうちの少なくとも一つは、前記置換または非置換の炭素数3~20の分枝状アルキル基と異なる他の置換または非置換の炭素数1~20のアルキル基である。
【0059】
本発明の一実施形態による有機金属化合物は、有機金属Mの周囲に上記化学式2で表される有機リガンドを含むことによって、有機金属化合物の格子エネルギーが減少し、有機金属化合物間のスタッキング相互作用(stacking interaction)を防止して有機金属化合物間引力が減少し、これにより、常温で低粘度の液体でかつ揮発性に優れた有機金属化合物を提供することができる。したがって、一実施形態による有機金属化合物は、薄膜製造のための蒸着用組成物として有利に使用することができる。また、このように製造された蒸着用組成物は、高誘電率を示すので、高い電気容量(Capactiance)を示す薄膜を提供することができる。
【0060】
特定の理論に拘束されることを望むものではないが、前記化学式1で表される有機金属化合物は、有機金属Mが前記化学式2で表される2つの化合物の5員環を構成する炭素のいずれか一つとそれぞれ単結合するか、または前記化学式2で表される2つ化合物の5員環を構成する5個の炭素原子に非局在化された電子対とそれぞれ結合するとみなされる。
【0061】
一例として、MはIIA族(2族)元素であってもよく、例えば、ストロンチウム、バリウム、またはこれらの組み合わせであってもよい。
【0062】
一例として、前記化学式2中の置換または非置換の炭素数1~20の線状アルキル基、置換または非置換の炭素数3~20の分枝状アルキル基、またはこれらの組み合わせであってもよい。
【0063】
具体的には、前記化学式2中の置換または非置換の炭素数1~20の線状アルキル基は、置換または非置換のメチル基、置換または非置換のエチル基、置換または非置換のn-プロピル基、置換または非置換のn-ブチル基、置換または非置換のn-ペンチル基、置換または非置換のn-ヘキシル基、置換または非置換のn-ヘプチル基、置換または非置換のn-オクチル基、またはこれらの組み合わせであってもよいが、これらに限定されない。
【0064】
具体的には、前記化学式2中の置換または非置換の炭素数3~20の分枝状アルキル基は、置換または非置換の炭素数3~10のiso-アルキル基、置換または非置換の炭素数3~10のsec-アルキル基、置換または非置換の炭素数4~10のtert-アルキル基、または置換または非置換の炭素数5~10のneo-アルキル基、またはこれらの組み合わせであってもよい。より具体的には、置換または非置換の炭素数3~20の分枝状アルキル基は、置換または非置換のiso-プロピル基、置換または非置換のiso-ブチル基、置換または非置換のsec-ブチル基、置換または非置換のtert-ブチル基、置換または非置換のiso-ペンチル基、置換または非置換のsec-ペンチル基、置換または非置換のtert-ペンチル基、または置換または非置換のneo-ペンチル基であってもよいが、好ましくは、置換または非置換のiso-プロピル基、置換または非置換のiso-ブチル基、置換または非置換のsec-ブチル基、またはこれらの組み合わせであってもよいが、これらに限定されない。
【0065】
一例として、(R1~R5のうちの)少なくとも一つの置換または非置換の炭素数3~20の分枝状アルキル基は、置換または非置換の炭素数3~10のiso-アルキル基、置換または非置換の炭素数3~10のsec-アルキル基、置換または非置換の炭素数4~10のtert-アルキル基、または置換または非置換の炭素数5~10のneo-アルキル基、またはこれらの組み合わせであってもよく、具体的には、(R1~R5のうちの)少なくとも一つの置換または非置換の炭素数3~20の分枝状アルキル基は、置換または非置換のiso-プロピル基、置換または非置換のiso-ブチル基、置換または非置換のsec-ブチル基、置換または非置換のtert-ブチル基、置換または非置換のiso-ペンチル基、置換または非置換のsec-ペンチル基、置換または非置換のtert-ペンチル基、または置換または非置換のneo-ペンチル基であってもよいが、好ましくは、置換または非置換のiso-プロピル基、置換または非置換のsec-ブチル基、またはこれらの組み合わせであってもよい。
【0066】
一例として、前記R1~R5のうちの少なくとも二つは、置換または非置換の炭素数3~20の分枝状アルキル基であってもよく、前記少なくとも二つの置換または非置換の炭素数3~20の分枝状アルキル基は、互いに同一または異なってもよいが、互いに同一であることが好ましい。ここで、置換または非置換の炭素数3~20の分枝状アルキル基は上述した通りである。
【0067】
一例として、残りのR1~R5のうちの少なくとも一つは、前記(R1~R5のうちの)少なくとも一つの置換または非置換の炭素数3~20の分枝状アルキル基と異なる他の置換または非置換の炭素数3~20の分枝状アルキル基、置換または非置換の炭素数1~20の線状アルキル基、またはこれらの組み合わせであってもよい。ここで、置換または非置換の炭素数3~20の分枝状アルキル基、および置換または非置換の炭素数1~20の線状アルキル基は上述した通りである。
【0068】
一例として、残りのR1~R5のうちの一つまたは二つは、(R1~R5のうちの)少なくとも一つの置換または非置換の炭素数3~20の分枝状アルキル基と異なる他の置換または非置換の炭素数3~20の分枝状アルキル基、置換または非置換の炭素数1~20の線状アルキル基、またはこれらの組み合わせであってもよい。ここで、置換または非置換の炭素数3~20の分枝状アルキル基、および置換または非置換の炭素数1~20の線状アルキル基は上述した通りである。
【0069】
一例として、R1~R5のうちの少なくとも一つは、それぞれ独立して、置換または非置換の炭素数3~10のiso-アルキル基であり、残りのR1~R5のうちの少なくとも一つは、それぞれ独立して、置換または非置換の炭素数1~20の線状アルキル基、置換または非置換の炭素数3~10のsec-アルキル基、または置換または非置換の炭素数4~10のtert-アルキル基であってもよい。
【0070】
一例として、R1~R5のうちの少なくとも一つは、それぞれ独立して、iso-プロピル基、iso-ブチル基、またはiso-ペンチル基であり、残りのR1~R5のうちの少なくとも一つは、それぞれ独立して、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、sec-ブチル基、sec-ペンチル基、tert-ブチル基、またはtert-ペンチル基であってもよい。
【0071】
一例として、R1~R5のうちの一つまたは二つは、互いに同一または異なり、それぞれ独立して、置換または非置換の炭素数3~10のiso-アルキル基であり、残りのR1~R5のうちの一つまたは二つは、互いに同一または異なり、それぞれ独立して、置換または非置換の炭素数1~20の線状アルキル基、置換または非置換の炭素数3~10のsec-アルキル基、または置換または非置換の炭素数4~10のtert-アルキル基であってもよい。
【0072】
一例として、R1~R5のうちの一つまたは二つは、互いに同一または異なり、それぞれ独立して、iso-プロピル基、iso-ブチル基、またはiso-ペンチル基であり、残りのR1~R5のうちの一つまたは二つは、互いに同一または異なり、それぞれ独立して、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、sec-ブチル基、sec-ペンチル基、tert-ブチル基、またはtert-ペンチル基であってもよい。
【0073】
一例として、上記化学式2に由来する二つのAは、互いに同一または異なってもよいが、互いに同一であることが好ましい。具体的には、前記化学式2のR1は、互いに同一または異なってもよいが、互いに同一であることが好ましく、R2は、互いに同一または異なってもよいが、互いに同一であることが好ましく、R3は、互いに同一または異なってもよいが、互いに同一であることが好ましく、R4は、互いに同一または異なってもよいが、互いに同一であることが好ましく、R5は、互いに同一または異なってもよいが、互いに同一であることが好ましい。
【0074】
上記化学式2は、下記化学式2-1~2-6のいずれか一つで表される。
【0075】
【0076】
上記化学式2-1~2-6中、
RaおよびRbは、それぞれ独立して、置換または非置換の炭素数3~10のiso-アルキル基であり、RcおよびRdは、それぞれ独立して、置換または非置換の炭素数1~20の線状アルキル基、置換または非置換の炭素数3~10のsec-アルキル基、または置換または非置換の炭素数4~10のtert-アルキル基であってもよい。
【0077】
一例として、前記RaおよびRbは、それぞれ独立して、iso-プロピル基、iso-ブチル基、またはiso-ペンチル基であってもよく、前記RcおよびRdは、それぞれ独立して、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、sec-ブチル基、sec-ペンチル基、tert-ブチル基、またはtert-ペンチル基であってもよい。
【0078】
一例として、RaおよびRbは、互いに同一または異なってもよく、前記RcおよびRdは、互いに同一または異なってもよいが、前記RcおよびRdは、互いに同一であることが好ましい。
【0079】
一例として、上記化学式2-1~2-6のいずれか一つに由来する二つのAは、互いに同一または異なってもよいが、互いに同一であることが好ましい。具体的には、上記化学式2-1~2-6中のRaは、互いに同一または異なってもよいが、互いに同一であることが好ましく、Rbは、互いに同一または異なってもよいが、互いに同一であることが好ましく、Rcは、互いに同一または異なってもよいが、互いに同一であることが好ましく、Rdは、互いに同一または異なってもよいが、互いに同一であることが好ましい。
【0080】
一例として、前記有機金属化合物は、常温(例えば約20±5℃の範囲、1気圧)で液体であってもよい。これにより、前記有機金属化合物の流体チャンネルを通じた輸送(Liquid Delivery System、LDS工程)が容易である。
【0081】
一例として、前記有機金属化合物は、下記条件により測定された粘度が約1,000cps以下、例えば、約10cps~1,000cps、約10cps~500cps、または約10cps~50cpsである。これにより、別途の加熱および保温過程を行わず、前記有機金属化合物の流体チャンネルを通じた輸送が容易である。
【0082】
[粘度測定条件]
・粘度測定計:RVDV-II(BROOKFIELD社製)
・Spindle No.:CPA-40z
・Torque/RPM:20~80% Torque/1-100 RPM
・測定温度(sample cup温度):25℃。
【0083】
一例として、Ar(アルゴン)ガス雰囲気下で、1気圧で熱重量分析(thermogravimetric analysis)時、前記有機金属化合物の初期重量に対して50%の重量減少が生じる温度は、例えば、約50℃~300℃、約50℃~250℃、または約50℃~200℃であってもよい。
【0084】
本発明の他の実施形態によれば、一実施形態による有機金属化合物を含む薄膜蒸着用組成物を提供する。
【0085】
前記薄膜蒸着用組成物は、上記化学式1で表される1種または2種以上の有機金属化合物を含んでもよい。
【0086】
前記薄膜蒸着用組成物は、上記化学式1で表される有機金属化合物と異なる他の化合物をさらに含むかまたは含まなくてもよいが、上記化学式1で表される有機金属化合物と異なる他の化合物をさらに含まないことが好ましい。
【0087】
前記薄膜蒸着用組成物が、前記有機金属化合物と異なる他の化合物をさらに含む場合、前記有機金属化合物と異なる他の化合物は、非共有電子対含有化合物であってもよく、例えば、前記非共有電子対含有化合物は、非共有電子対を少なくとも一つ含んでもよい。また、前記非共有電子対含有化合物は、ヘテロ原子を少なくとも1個含んでもよく、例えば、前記非共有電子対含有化合物は、ヘテロ原子を1個または2個含んでもよい。ここで、前記ヘテロ原子は、N、O、S、またはこれらの組み合わせであってもよい。これにより、有機金属化合物の安定性を向上させることができ、薄膜蒸着用組成物の粘度をさらに低下させ、揮発性をさらに向上させることができる。
【0088】
一例として、前記非共有電子対含有化合物は、アルキルアミン系、アルキルホスフィン系、アルキルアミンオキシド系、アルキルホスフィンオキシド系、エーテル系、チオエーテル系、またはこれらの組み合わせであってもよい。例えば、前記非共有電子対含有化合物は、第三級アルキルアミン、第三級アルキルホスフィン、第三級アルキルアミンオキシド、第三級アルキルホスフィンオキシド、ジアルキルエーテル、ジアルキルチオエーテル、またはこれらの組み合わせであってもよいが、これらに限定されない。
【0089】
一例として、前記薄膜蒸着用組成物が、前記有機金属化合物と異なる他の化合物をさらに含む場合、前記有機金属化合物は、薄膜蒸着用組成物の総重量を基準にして、10重量%~90重量%で含まれ、例えば15~80重量%、20~70重量%、または25~65重量%で含まれる。
【0090】
一例として、前記薄膜蒸着用組成物が、前記有機金属化合物と異なる他の化合物をさらに含む場合、Ar(アルゴン)ガス雰囲気下で、1気圧で熱重量分析(thermogravimetric analysis)時、前記薄膜蒸着用組成物の初期重量に対して50%の重量減少が生じる温度は、前記有機金属化合物の初期重量に対して50%の重量減少が生じる温度、および前記非共有電子対含有化合物の初期重量に対して50%の重量減少が生じる温度より低いことがある。即ち、薄膜蒸着用組成物の揮発性が、前記薄膜蒸着用組成物に含まれているそれぞれの有機金属化合物、および非共有電子対含有化合物の揮発性より高いことがある。これにより、前記薄膜蒸着用組成物は、比較的低温で容易に気化して蒸着することができ、均一な薄膜を形成することができる。
【0091】
前記薄膜蒸着用組成物は、前記有機金属化合物、および前記非共有電子対含有化合物以外の他の化合物をさらに含むことができる。
【0092】
前記薄膜蒸着用組成物は、第1薄膜蒸着用組成物であってもよい。
【0093】
本発明の他の実施形態によれば、第1薄膜蒸着用組成物を気化させる段階と、前記気化した第1薄膜蒸着用組成物を基板上に蒸着させる段階とを含む薄膜の製造方法を提供する。
【0094】
一例として、前記第1薄膜蒸着用組成物を気化させる段階は、第1反応器に前記第1薄膜蒸着用組成物を提供する段階を含むことができ、前記第1反応器に前記第1薄膜蒸着用組成物を提供する段階は、流体チャネルを通じて前記第1反応器に前記第1薄膜蒸着用組成物を提供することである。
【0095】
一例として、前記第1薄膜蒸着用組成物を気化させる段階は、前記第1薄膜蒸着用組成物を300℃以下の温度で熱処理する段階を含むことができる。
【0096】
一例として、前記薄膜の製造方法は、第2薄膜蒸着用組成物を気化させる段階と、前記気化した第2薄膜蒸着用組成物を前記基板上に蒸着させる段階とをさらに含むことができる。
【0097】
前記第2薄膜蒸着用組成物は、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、ニオブ、タンタル、またはこれらの組み合わせを含む第2有機金属化合物を含むことができ、前記第2有機金属化合物は、アルコキシド系リガンド、アルキルアミド系リガンド、およびシクロペンタジエン系リガンド、β-ジケトネート系リガンド、ピロール系リガンド、イミダゾール系リガンド、アミジネート系リガンド、またはこれらの組み合わせを含むことができる。
【0098】
前記第2薄膜蒸着用組成物は、前記第2有機金属化合物以外の溶媒をさらに含むか、または含まなくてもよく、溶媒をさらに含まない場合、前記第2有機金属化合物は、常温(例えば、約20±5℃の範囲、1気圧)で液体相であり得る。前記第2薄膜蒸着用組成物が溶媒をさらに含む場合、前記溶媒は有機溶媒であって、例えば、ジエチルエーテル、石油エーテル、テトラヒドロフランまたは1,2-ジメトキシエタンなどの極性溶媒を含むことができる。前記有機溶媒を含む場合、前記有機金属化合物に対して2倍のモル数比で含むことができる。
【0099】
これにより、薄膜蒸着用組成物に含まれる有機金属化合物は、前記有機溶媒によって配位(coordination)でき、これによって有機金属化合物の安定性を向上させることができ、したがって、有機金属化合物に含まれている中心金属原子が周囲の他の有機金属化合物と反応してオリゴマーを生成することを抑制することができる。また、有機溶媒を含む薄膜蒸着用組成物は、単分子として存在する有機金属化合物の蒸気圧をさらに上昇させることができる。
【0100】
一例として、前記第2薄膜蒸着用組成物を気化させる段階は(流体チャネルを通じて)、前記第1反応器、または前記第1反応器と異なる第2反応器に前記第2薄膜蒸着用組成物を提供する段階を含むことができる。
【0101】
一例として、前記第2薄膜蒸着用組成物を気化させる段階は、前記第2薄膜蒸着用組成物を約200℃以下の温度で熱処理する段階を含むことができ、例えば、約30℃~200℃、約30℃~175℃、または約30℃~150℃の温度で前記第2薄膜蒸着用組成物を熱処理する段階を含むことができる。
【0102】
一例として、前記第1薄膜蒸着用組成物と前記第2薄膜蒸着用組成物は一緒に、またはそれぞれ独立して気化してもよい。前記第1薄膜蒸着用組成物と前記第2薄膜蒸着用組成物がそれぞれ独立して気化した場合、前記気化した第1薄膜蒸着用組成物と前記気化した第2薄膜蒸着用組成物は、基板上に一緒に、またはそれぞれ独立して蒸着でき、例えば、交互に蒸着できる。
【0103】
一例として、前記気化した第1薄膜蒸着用組成物を基板上に蒸着させる段階は、前記気化した第1薄膜蒸着用組成物を反応ガスと反応させる段階をさらに含むことができ、前記気化した第2薄膜蒸着用組成物を基板上に蒸着させる段階は、前記気化した第2薄膜蒸着用組成物を反応ガスと反応させる段階をさらに含むことができる。
【0104】
一例として、前記反応ガスは酸化剤であってもよく、例えば、水蒸気(H2O)、酸素(O2)、オゾン(O3)、プラズマ、過酸化水素(H2O2)、アンモニア(NH3)またはヒドラジン(N2H4)、またはこれらの組み合わせを含むことができる。
【0105】
蒸着方法は特に限定されないが、上述の薄膜の製造方法は、原子層蒸着法(Atomic Layer Deposition;ALD)または有機金属化学蒸着法(Metal Organic Chemical Vapor Deposition;MOCVD)を用いて行うことができる。具体的には、前記気化した第1薄膜蒸着用組成物、および/または前記気化した第2薄膜蒸着用組成物を基板上に蒸着させる段階は、原子層蒸着法(Atomic Layer Deposition;ALD)または有機金属化学蒸着法(Metal Organic Chemical Vapor Deposition;MOCVD)を用いて行うことができる。
【0106】
一例として、前記気化した第1薄膜蒸着用組成物、および/または前記気化した第2薄膜蒸着用組成物を前記基板上に蒸着する段階は、100℃~1,000℃の温度で行うことができる。
【0107】
さらに他の実施形態によれば、一実施形態による薄膜蒸着用組成物から製造される薄膜を提供する。前記薄膜は、一実施形態による薄膜の製造方法で製造することができる。
【0108】
例えば、前記薄膜は、ペロブスカイト薄膜であってもよく、例えば、前記薄膜は、酸化ストロンチウムチタン系、酸化バリウムストロンチウムチタン系、酸化ルビジウムストロンチウム系、またはこれらの組み合わせを含むことができる。具体的には、前記薄膜はSrTiO3、BaxSr1-xTiO3(ここでxは0.1~0.9)、SrRuO3、SrCeO3またはこれらの組み合わせを含むことができる。
【0109】
一例として、前記薄膜の厚さは、約10nm未満であってもよく、前記薄膜の誘電率(誘電定数)の値は、約50以上、例えば、約110以上であってもよい。これにより、前記薄膜は、微細なパターンを形成しながらも、均一な厚さおよび優れた漏れ電流特性を有し得る。
【0110】
前記薄膜は高い誘電率、および高い電気容量を示す均一な薄膜であってもよく、優れた絶縁特性を示すことができる。これにより、前記薄膜は絶縁膜であってもよく、前記絶縁膜は電気電子素子に含まれる。前記電気電子素子は半導体素子であってもよく、前記半導体素子は、例えば、DRAM(Dynamic random-access memory)であってもよい。
【0111】
さらに他の実施形態によれば、一実施形態による薄膜を含む半導体素子を提供する。前記半導体素子は、一実施形態による薄膜を含むことによって、電気的特性および信頼性を改善できる。
【0112】
以下、実施例を通じて前記実施形態をより詳細に説明する。但し、下記の実施例は単に説明の目的のためのものであり、権利範囲を制限するものではない。
【実施例】
【0113】
<有機金属化合物の合成>
以下、本発明による有機金属酸化物と金属-ケイ素酸化物薄膜蒸着用有機金属前駆体化合物および薄膜蒸着方法について下記の実施例および実験例により、より詳細に説明するが、これは本発明の理解を助けるために提示されるものに過ぎず、本発明は下記の実施例および実験例に限定されるものではない。
【0114】
(実施例1:有機金属化合物1の合成)
ストロンチウム金属(10.61g、0.121mol)、下記化学式2aで表される化合物(55g、0.278mol)、およびテトラヒドロフラン(THF)300mlを火力乾燥したフラスコに投入し、-78℃まで冷却させた後、高純度アンモニアガス(>5N)を2時間ゆっくりと投入した。以降、5時間ゆっくり室温まで昇温させながら、過剰に投入されたアンモニアガスを除去し、24時間アルゴンガス雰囲気下で攪拌した。減圧下で、50℃まで昇温させながらTHFを完全に除去し、減圧蒸留して有機金属化合物1を得た(収率51.9%、粘度490cps)。
【0115】
1H NMR(Bruker社製、Ultraspin 300MHZ、C6D6):δ0.87(s-Bu(CH2-CH3)、m、6H)、δ1.21(i-Pr(CH-CH3)、m、24H)、δ1.29(s-Bu(CH-CH3)、m、6H)、δ1.51(s-Bu(CH-CH2)、m、4H)、δ2.57(s-BuCp(CH)、m、2H)、δ2.88(i-PrCp(CH)、m、4H)、δ5.62(Cp(CH2)、m、2H)、δ5.69(Cp(CH)、m、1.5H)(ここで、Cpはシクロペンタジエン、iはiso、sはsecondary、Prはプロピル基、Buはブチル基をそれぞれ意味する。)。
【0116】
【0117】
前記有機金属化合物1は下記化学式1aで表される。
【0118】
【0119】
(実施例2:有機金属化合物2の合成)
ストロンチウム金属(10.61g、0.121mol)の代わりにストロンチウム金属(2g、0.023mol)を使用し、上記化学式2aで表される化合物(55g、0.278mol)の代わりに下記化学式2bで表される化合物(10.1g、0.053mol)を使用したことを除いては、実施例1と同様の方法で、有機金属化合物2を得た(収率55.2%、粘度145,000cps)。
【0120】
1H NMR(Bruker社製、Ultraspin 300MHZ、C6D6):δ1.02(n-Pr(CH2-CH3)、m、6H)、δ1.24(i-Pr(CH-CH3)、m、24H)、δ1.65(n-Pr(CH2-CH2)、m、4H)、δ2.50(n-PrCp(CH2)、m、4H)、δ2.91(i-PrCp(CH)、m、4H)、δ5.53、5.64(Cp(CH2)、Cp(CH)、m、4H)(ここで、Cpはシクロペンタジエン、iはiso、nはnormal、Prはプロピル基をそれぞれ意味する。)。
【0121】
【0122】
(実施例3:有機金属化合物3の合成)
ストロンチウム金属(10.61g、0.121mol)の代わりにストロンチウム金属(2g、0.023mol)を使用し、上記化学式2aで表される化合物(55g、0.278mol)の代わりに下記化学式2cで表される化合物(10.8g、0.053mol)を使用したことを除いては、実施例1と同様の方法で、有機金属化合物3を得た(収率54.8%、粘度5,240cps)。
【0123】
1H NMR(Bruker社製、Ultraspin 300MHZ、C6D6):δ1.12(Et(CH2-CH3)、m、12H)、δ1.23(i-Pr(CH-CH3)、m、24H)、δ2.44(EtCp(CH2)、m、8H)、δ2.85(i-PrCp(CH)、m、4H)、δ5.62(Cp(CH2)、m、2.5H)(ここで、Cpはシクロペンタジエン、iはiso、Etはエチル基、Prはプロピル基をそれぞれ意味する。)。
【0124】
【0125】
(実施例4:有機金属化合物4の合成)
ストロンチウム金属(10.61g、0.121mol)の代わりにストロンチウム金属(2g、0.023mol)を使用し、上記化学式2aで表される化合物(55g、0.278mol)の代わりに下記化学式2dで表される化合物(10.8g、0.053mol)を使用したことを除いては、実施例1と同様の方法で、有機金属化合物4を得た(収率50.6%、粘度260cps)。
【0126】
1H NMR(Bruker社製、Ultraspin 300MHZ、C6D6):δ0.94(s-Bu(CH2-CH3)、m、12H)、δ1.21(i-Pr(CH-CH3)、m、12H)、δ1.31(s-Bu(CH-CH3)、m、12H)、δ1.50(s-Bu(CH-CH2)、m、8H)、δ2.60(s-BuCp(CH)、m、4H)、δ2.87(i-PrCp(CH)、m、2H)、δ5.58(Cp(CH2)、m、3H)、δ5.90(Cp(CH)、m、0.5H)(ここで、Cpはシクロペンタジエン、iはiso、sはsecondary、Prはプロピル基、Buはブチル基をそれぞれ意味する。)。
【0127】
【0128】
(比較例1:比較有機金属化合物1の合成)
ストロンチウム金属(10.61g、0.121mol)の代わりにストロンチウム金属(2g、0.023mol)を使用し、上記化学式2aで表される化合物(55g、0.278mol)の代わりに下記化学式2eで表される化合物(10.1g、0.053mol)を使用したことを除いては、実施例1と同様の方法で、比較有機金属化合物1を得た(収率57.1%、パウダー(powder)形状)。
【0129】
1H NMR(Bruker社製、Ultraspin 300MHZ、C6D6):δ1.22、1.30(i-Pr(CH-CH3)、m、36H)、δ2.88(i-PrCp(CH)、m、6H)、δ5.63(Cp(CH2)、s、3H)、δ5.81、5.82(Cp(CH)、d、0.5H)(ここで、Cpはシクロペンタジエン、iはiso、Prはプロピル基をそれぞれ意味する。)。
【0130】
【0131】
(比較例2:比較有機金属化合物2の合成)
ストロンチウム金属(10.61g、0.121mol)の代わりにストロンチウム金属(2g、0.023mol)を使用し、上記化学式2aで表される化合物(55g、0.278mol)の代わりに下記化学式2fで表される化合物(12.3g、0.053mol)を使用したことを除いては、実施例1と同様の方法で、比較有機金属化合物2を得た(収率49.6%、粘度423cps)。
【0132】
1H NMR(Bruker社製、Ultraspin 300MHZ、C6D6):δ0.96(s-Bu(CH2-CH3)、m、18H)、δ1.19、1.34(s-Bu(CH-CH3)、m、18H)、δ1.53(s-Bu(CH-CH2)、m、12H)、δ2.61(s-BuCp(CH)、m、6H)、δ5.62(Cp(CH2)、m、3H)、δ5.84(Cp(CH)、m、0.5H)(ここで、Cpはシクロペンタジエン、sはsecondary、Buはブチル基をそれぞれ意味する。)。
【0133】
【0134】
(比較例3:比較有機金属化合物3の合成)
ストロンチウム金属(10.61g、0.121mol)の代わりにストロンチウム金属(2g、0.023mol)を使用し、上記化学式2aで表される化合物(55g、0.278mol)の代わりに下記化学式2gで表される化合物(10.1g、0.053mol)を使用したことを除いては、実施例1と同様の方法で、比較有機金属化合物3を得た(収率42.7%、パウダー(powder)形状)。
【0135】
1H NMR(Bruker社製、Ultraspin 300MHZ、C6D6):δ0.94、0.97、0.99(Et(CH2-CH3)、t、6H)、δ1.95、1.98(MeCp(CH)、d、24H)、δ2.37、2.40、2.42、2.45(EtCp(CH2)、q、4H)(ここで、Cpはシクロペンタジエン、Meはメチル基、Etはエチル基をそれぞれ意味する。)。
【0136】
【0137】
〔評価1〕
前記実施例1~4、および比較例1~3による有機金属化合物の分子量、常温(約20±5℃の範囲、1気圧)での相(Phase)、および粘度を測定して下記表1に示す。
【0138】
粘度の測定条件は下記の通りである。
【0139】
・粘度測定計:RVDV-II(BROOKFIELD社製)
・Spindle No.:CPA-40z
・Torque/RPM:20~80% Torque/1-100 RPM
・測定温度(sample cup温度):25℃。
【0140】
【0141】
上記表1を参照すると、比較例1、および比較例3による有機金属化合物は、常温で固体であるのに対して、実施例1~4による有機金属化合物は、25℃で液体であり、実施例1、および実施例4による有機金属化合物は1,000cps以下の低い粘度を有することを確認できた。
【0142】
〔評価2〕
前記実施例1~4、比較例1および比較例2による有機金属化合物の揮発性を1気圧で温度に応じた熱重量分析法(thermogravimetric analysis、TGA)によって評価した。
【0143】
前記実施例1~4、比較例1および比較例2による有機金属化合物をそれぞれ20±2mgの範囲で取ってアルミナ試料容器に入れた後、10℃/minの速度で500℃まで昇温させながらそれぞれの有機金属化合物の温度に応じた重量変化率を測定した。
【0144】
前記重量変化率は、下記計算式1によって計算した値である。
【0145】
【0146】
図1~
図6は、それぞれ実施例1~4、比較例1および比較例2による有機金属化合物の温度に応じた重量変化率を示す温度-重量変化率グラフである。
【0147】
図1~
図6を参照すると、実施例1~4による有機金属化合物の重量変化率が50%での温度が、比較例1および比較例2による有機金属化合物の重量変化率が50%での温度より低いことを確認できた。これにより、比較例1および比較例2による有機金属化合物に比べて実施例1~4による有機金属化合物の揮発性がさらに優れていることを確認できた。
【0148】
したがって、表1および
図1~
図6を参照すると、実施例1~4による有機金属化合物は常温で液体であり、揮発性に優れているので、流体チャンネルを通じた輸送が容易であり、比較的低温で容易に気化して蒸着することができる。
【0149】
<薄膜の製造>
前記実施例1~4による有機金属化合物をバブラータイプの300ccキャニスタに200g充填し、ALD装置を用いて薄膜を製造した。
【0150】
前記有機金属化合物が十分に供給されるように、キャニスタを50~150℃で加熱し、配管に前記有機金属化合物が凝縮することを防止するために配管をキャニスタ温度より10℃以上高く加熱した。このとき、キャリアガスとして高純度(99.999%)のArガスを使用し、前記Arガス50~500sccmを流しながら前記薄膜蒸着用組成物を供給した。その後、酸化剤反応ガスとしてオゾンガス100~500sccmを流し、前記シリコン基板の温度を200~450℃まで変更しながら、シリコン基板上に薄膜を蒸着した。蒸着された薄膜はRTA(rapid thermal anneal)装置を用いて650℃で数分間熱処理した。
【0151】
製造された薄膜の蒸着サイクルによる成長率(Growth per cycle、GPC)は1.05±0.05Å/cycleであり、厚さ均一性(non-uniformity)は5.0±0.5%であり、340℃以上で成長した薄膜から結晶相が観察された。
【0152】
以上で、本発明の特定の実施形態が説明され図示されたが、本発明は、記載された実施形態に限定されるものではなく、本発明の思想および範囲を逸脱しない範囲内で多様に修正および変形可能であることは、当該技術分野における通常の知識を有する者にとって自明である。したがって、そのような修正例または変形例は本発明の技術的思想や観点から個別に理解されてはならず、変形された実施例は本発明の特許請求の範囲に属する。