(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-29
(45)【発行日】2022-04-06
(54)【発明の名称】銅の電解精製方法
(51)【国際特許分類】
C25C 7/06 20060101AFI20220330BHJP
C25C 1/12 20060101ALI20220330BHJP
【FI】
C25C7/06 301A
C25C1/12
(21)【出願番号】P 2018154700
(22)【出願日】2018-08-21
【審査請求日】2021-03-05
(73)【特許権者】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123869
【氏名又は名称】押田 良隆
(72)【発明者】
【氏名】中野 博昭
(72)【発明者】
【氏名】大上 悟
(72)【発明者】
【氏名】大原 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】浅野 聡
(72)【発明者】
【氏名】中西 次郎
【審査官】中西 哲也
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-105684(JP,A)
【文献】特開2017-048438(JP,A)
【文献】特開2001-214291(JP,A)
【文献】実開昭48-079801(JP,U)
【文献】特開2001-081590(JP,A)
【文献】特公昭45-031041(JP,B1)
【文献】特開2010-065263(JP,A)
【文献】特開昭51-067269(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25C 1/00- 7/08
C25D 1/00-21/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解液を電解槽に供給しながら行なう銅の電解精製において、
流速を脈動させた脈動流の電解液を、槽内に複数のアノードとカソードを対向して配置した電解槽に供給
し、且つ、
前記電解槽に電解液を供給する配管が、一定流速で電解液を供給する正給液管と、脈動しながら電解液を供給する副給液管の2種類の配管で構成され、
前記副給液管の電解槽内に位置する吐出口が、前記電解槽に設置されたアノード表面に向かって電解液を吐出するように設置されていること
を特徴とする銅の電解精製方法。
【請求項2】
前記電解液の前記電解槽への供給方法が、前記電解槽内に吐出口が位置する配管を用い、前記配管内を前記電解液が脈動して流れることを特徴とする請求項1に記載の銅の電解精製方法。
【請求項3】
前記副給液管から供給される電解液である副給液のアノード表面での瞬時流速の最大値が20mm/秒以上、50mm/秒以下の範囲であることを特徴とする請求項
1に記載の銅の電解精製方法。
【請求項4】
前記瞬時流速の最大値が、前記瞬時流速の平均値に対して1.5倍以上の値となるように、前記電解液を脈動させることを特徴とする請求項
3に記載の銅の電解精製方法。
【請求項5】
前記副給液管の吐出口を、前記アノード表面に対して平行方向への電解液の供給を供給方向0度とし、アノードの表面に対して垂直方向への電解液の供給を供給方向90度とした場合に、
前記副給液管の吐出口を、前記吐出口からの電解液の供給が前記アノード表面に対して供給方向45度以下の角度になるように設置されていることを特徴とする請求項
1~4のいずれか1項に記載の銅の電解精製方法。
【請求項6】
前記副給液管により供給される電解液が、前記アノードの最下端部を0%、前記アノードが電解液に浸漬している液面高さの位置を100%の供給範囲とする際、アノードの浸漬範囲の0%を超えて、25%以下となる供給範囲に供給されることを特徴とする請求項
1~5のいずれか1項に記載の銅の電解精製方法。
【請求項7】
前記電解槽内でのアノード表面から、前記アノードに対向して設置された前記カソードの表面までの距離が、20mm以上、35mm以下の範囲であることを特徴とする請求項1~
6のいずれか1項に記載の銅の電解精製方法。
【請求項8】
前記電解液が、銅イオン濃度が45g/L以上、50g/L以下であり、遊離硫酸濃度が170g/L以上、200g/L以下の範囲の電解液であることを特徴とする請求項1~
7のいずれか1項に記載の銅の電解精製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅の電解精製における不動態化の抑制方法に関する。
【背景技術】
【0002】
工業的に実施されている電解精製として、主なものに銅の電解精製が挙げられる。
この銅の電解精製では、硫酸銅を主成分とする電解液を貯留した電解槽の中に、銅製錬の乾式工程で製造された粗銅からなる陽極板(以下、アノードと称する。)と、銅もしくはステンレスやチタンなどで作られた陰極板(以下、カソードと称する。)を交互に一定間隔で対向するように配置し、一定の電流値で通電して行われる。
この通電によりアノード側では、アノードの銅成分が電解液中に銅イオンとして溶出し、カソード上では、その溶出した銅イオンが電析する。同時に、アノードに含有されたニッケルやアンチモンやヒ素などの不純物、金や銀などの貴金属元素等は電解液中に溶出しなかったり、溶出してもカソードに電析しなかったりするので、カソード上には高純度な銅(電気銅)が得られる特徴がある。
【0003】
しかしながら、このような反応を阻害する要因にアノードの不動態化がある。
アノードの不動態化は、アノード表面に硫酸銅の結晶が析出することを主原因として生じる。この硫酸銅結晶は非電導性であるため、電流が流れなくなり、製品である高純度な銅(電気銅)の生産を妨げる。
このアノードの不動態化の主原因である硫酸銅結晶の析出は、アノード表面で溶出した銅イオンがアノード近傍にて硫酸銅の溶解度を超過し結晶化して析出することで生じる。
【0004】
通常、生産現場では、硫酸銅の溶解度を超過しない条件にて生産が行われるが、近年は短時間に大量の銅を生産するよう求められている。
ところで、銅の生産量、すなわち電析量は、「通電時の電極面積×通電時間×電流密度」という関係で表される。
「電極の面積」は、設備上の設計で決定されるため、容易に変更することができず、「通電時間」も延長可能な時間はわずかである。そのため、「電流密度」を上昇させる取り組みがなされている。
しかし、電流密度を上昇させると、銅の溶解速度が増加するため、アノードの不動態化が促進される問題が生じた。
【0005】
一方、一般的な電解槽内の銅イオン濃度は均一ではなく、濃度勾配を持つことが知られている。
例えば特許文献1に見られるように、電解槽内の下部では銅イオン濃度が高く、電解槽内の上部では銅イオン濃度が低い。このため、アノードの不動態化は電極の下部で優先的に発生しやすくなる傾向がある。
【0006】
電極の下部で不動態化が発生すると、下部では電流の流れが阻害され、その分電極の上部に電流が集中するため、電極上部での電流密度が上昇し、電極の上部でも不動態化が発生しやすくなる。
アノードの不動態化は、このように連鎖的に進行するため、発生源となる電極下部での不動態化を抑制することが重要である。
【0007】
不動態化の抑制には、硫酸銅結晶を生成させないことが重要である。
そのため、電解液の温度上昇や銅イオン濃度の低下、硫酸イオン濃度の低下等、溶解度に着目した対策が可能である。しかし、工業的な銅の電解精製における電解液温度は、既に60度以上に保温されており、これ以上の温度上昇は設備の耐熱性や電解液の蒸発、昇温コスト等の兼ね合いから実用上は困難である。また、銅イオン濃度の低下は、カソードに電析し製品となる銅の表面性状悪化や不純物濃度増加を招くことから限界があり、硫酸イオン濃度の低下も、電解電圧が増加してしまうため限界がある。
【0008】
そこで、アノードの不動態化抑制策としては他にも、アノードから溶出する銅イオンをアノードの近傍から電解液沖合へと早急に拡散させることが考えられるが、以下のような問題の発生を抱えている。
通常の工業的な銅の電解精製においては、電解槽に対し電解液の給液および排液を連続的に実施し、電解槽内の液循環を行っているが、アノード近傍における銅イオンの拡散促進のために流量を増加させると、電解槽の底に沈積したスライムが舞い上がり、カソードの表面に付着して製品の品質を悪化させる問題が生じている。
【0009】
このような背景から、単なる流量増加でなくアノード表面の電解液流速を増加させ、銅イオンの拡散を促進する手法が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、粗銅を高電流密度で電解精製して電気銅を得るのに際して、電解槽に給液する配管に、従来からの正給液配管に加え、アノード表面に直接給液する副給液配管を設け、かつ副給液配管の電解液を脈動させて供給することにより、アノードの不動態化を抑制する方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決するため、本発明者らは、鋭意研究を重ね、銅の電解精製を行う際に発生するアノードの不動態化は、アノード表面で溶出した銅イオンがアノード近傍で滞留し、硫酸銅の溶解度を超過することで、非電導性の硫酸銅結晶皮膜が生成することにより生じ、一般的な銅の電解精製手法では、電解槽に均一な流速で電解液を給液しているため、アノード近傍にアノード表面から溶出した銅イオンが滞留しやすい点に着目した。そのような状態を防ぐには、脈動を伴った流れである脈動流として電解液を供給し、アノード近傍から電解液沖合への銅イオンの拡散を促進することで、銅イオンの滞留を予防し、アノードの不動態化が抑制可能なことを見出した。
【0013】
本発明の第1の発明は、電解液を電解槽に供給しながら行なう銅の電解精製において、流速を脈動させた脈動流の電解液を、槽内に複数のアノードとカソードを対向して配置した電解槽に供給し、且つ、前記電解槽に電解液を供給する配管が、一定流速で電解液を供給する正給液管と、脈動しながら電解液を供給する副給液管の2種類の配管で構成され、前記副給液管の電解槽内に位置する吐出口が、前記電解槽に設置されたアノード表面に向かって電解液を吐出するように設置されていることを特徴とする銅の電解精製方法である。
【0014】
本発明の第2の発明は、第1の発明における電解液の前記電解槽への供給方法が、前記電解槽内に吐出口が位置する配管を用い、前記配管内を前記電解液が脈動して流れることを特徴とする銅の電解精製方法である。
【0015】
本発明の第3の発明は、第1の発明における副給液管から供給される電解液である副給液のアノード表面での瞬時流速の最大値が20mm/秒以上、50mm/秒以下の範囲であることを特徴とする銅の電解精製方法である。
【0016】
本発明の第4の発明は、第3の発明における瞬時流速の最大値が、前記瞬時流速の平均値に対して1.5倍以上の値となるように、前記電解液を脈動させることを特徴とする銅の電解精製方法である。
【0017】
本発明の第5の発明は、第1から第4の発明における前記副給液管の吐出口を、アノード表面に対して平行方向への電解液の供給を供給方向0度とし、アノードの表面に対して垂直方向への電解液の供給を供給方向90度とした場合に、前記副給液管の吐出口を、前記吐出口からの電解液の供給が前記アノード表面に対して供給方向45度以下の角度になるように設置されていることを特徴とする銅の電解精製方法である。
【0018】
本発明の第6の発明は、第1から第5の発明における副給液管により供給される電解液が、前記アノードの最下端部を0%、前記アノードが電解液に浸漬している液面高さの位置を100%の供給範囲とする際、アノードの浸漬範囲の0%を超えて、25%以下となる供給範囲に供給されることを特徴とする銅の電解精製方法である。
【0019】
本発明の第7の発明は、第1から第6の発明における電解槽内でのアノード表面から、前記アノードに対向して設置された前記カソードの表面までの距離が、20mm以上、35mm以下の範囲であることを特徴とする銅の電解精製方法である。
【0020】
本発明の第8の発明は、第1から第7の発明における電解液が、銅イオン濃度が45g/L以上、50g/L以下であり、遊離硫酸濃度が170g/L以上、200g/L以下の範囲の電解液であることを特徴とする銅の電解精製方法である。
【発明の効果】
【0021】
本実施の形態によれば、アノード表面の電解液を脈動させることで、アノードから溶出した銅イオンのアノード近傍から電解液沖合への拡散を促進し、アノードの不動態化を抑制することができ、効率的に銅の電解精製を可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】実施例1及び比較例1におけるアノード分極時のアノード電位とアノード電流密度の関係を示す図である。
【
図2】実施例1及び比較例1の再現性確認のために行なった実施例1-1、比較例1-1におけるアノード分極時のアノード電位とアノード電流密度の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本実施の形態は、銅の電解精製において、電解槽に電解液を供給する正給液(主給液)配管と共にアノード表面に直接供給する副給液配管を設け、かつ少なくとも副給液配管の電解液を脈動流とし、アノード表面に吐出することにより、アノードの不動態化を抑制するものである。
【0024】
なお、本実施の形態でいう「脈動流」とは、送液する液の流速が意図的かつ周期的に変動する流れであることを意味する。具体的には、ポンプの種類によっては、ローラーポンプ等のローラーの形状や、ダイヤフラムポンプ等の弁の形状や変形周期などで、送液は脈動流となっている。これに対して、マグネットポンプに一定の電圧を付加し連続運転した際の流れは一定であり脈動流ではない。
【0025】
以下、本実施の形態の具体的な内容を詳細に説明する。
一般的な銅の電解精製における電解液の給液および排液方法は、電極表面に対し直交方向の電解槽側壁の一方から電極よりも下部に給液し、給液側の電解槽側壁とは反対側の電解槽側壁における上部より排液するものである。このような給排液の方法では、アノード表面の流速を大きくすることが出来ず、アノードから溶出した銅イオンがアノード近傍に滞留しやすい。
【0026】
アノードの不動態化は、アノード表面への硫酸銅結晶の析出が主な要因と考えられるため、アノードから溶出した銅イオンを電解液沖合へと効率的に拡散させることで抑制できる。そこで、本発明者らは各アノードの表面に対して給液配管を設置し、かつ脈動を伴った脈動流の電解液を、補助(副)給液することで電解液の供給における平均流速は、それほど増加させずに、「アノード表面の瞬時流速」を大きく増加させることが可能になると考えた。なお、脈動流の流速は、時刻により刻々と変化することから、その変化する瞬間における流速を採用し、「瞬時流速」と呼称して用いた。
【0027】
アノード表面における流速は、小さ過ぎると銅イオンの拡散効果に乏しく、大き過ぎるとアノード表面に形成されたアノードスライム層を剥離させ、また、剥離したアノードスライムをカソード表面まで移動させ、カソードへの巻き込みを促進してしまうため、アノード表面の電解液の流速は瞬時流速の最大値にて、20mm/秒以上、50mm/秒以下で、瞬時流速の平均値に対し、1.5倍以上の大きさにする必要がある。
なお、瞬時流速の最大値は、厳密には測定困難であるため、瞬時流速を正弦波に近似した場合の極大値を採用した。
【0028】
また、アノード表面に供給される電解液を脈動させ、脈動流とするには、ポンプの脈動を利用することが出来る。脈動を伴うポンプとしてローラーポンプやダイヤフラムポンプが該当する。
アノード表面における瞬時流速を、副給液管の吐出口付近以外でも高くするためには、電極間の距離(アノード表面からカソード表面までの距離)を短くすることが有効であるが、電極間の距離を短くし過ぎると、カソードへの偏析により凸部が生じた際に、アノードとカソードのショートが発生する頻度が増加してしまう。ショートが発生すると、ショート部に電流が集中し、銅を生産できない。そのため、電極間の距離は20mm以上、35mm以下とすることが良い。
【0029】
また、アノード表面に対し、平行方向への電解液の供給を供給方向0度、アノード表面に対し、垂直方向への電解液の供給を供給方向90度とした場合、90度で電解液を供給する際には、吐出口付近のアノード表面での瞬時流速は大きくなるが、効果を及ぼす面積が低下することに加え、吐出口付近のアノードスライム層を剥離させやすくなるため、アノード表面への電解液の供給は、アノードの表面に対し供給方向45度以下の角度とするのが好ましい。
このようなアノードの表面に対して実施する電解液の供給方法は、アノード表面のいずれの位置に対しても有効であるが、背景技術に示したように、不動態化はアノードの下部で発生しやすいため、アノードの最下端部を基点とし、アノードが電解液に浸漬している高さ迄のアノードの浸漬範囲に対し、基点より4分の1の範囲、即ち、アノードの浸漬範囲の0%を超えて、25%以下の範囲に対して脈動流の電解液を供給することで、より高い効果が得られる。
【0030】
なお、このような電解液の供給方法を実施したとしても、供給する電解液の電解質濃度が高く、硫酸銅結晶の飽和水溶液に近い濃度の場合には、十分な不動態化の抑制効果を期待できない。そのため、供給する電解液の濃度は、一般的な銅の電解精製にて使用されている電解液の濃度、もしくはそれよりも低い濃度である必要がある。
よって、電解液の銅イオン濃度は45g/L以上、50g/L以下の範囲とし、遊離硫酸濃度は170g/L以上、200g/L以下の範囲とする必要がある。
【実施例】
【0031】
以下、実施例により本発明を詳細に説明する。
【実施例1】
【0032】
直径8mm、高さ10mmの円柱形の銅を、直径8mmの面が電極面となるよう、その電極面を除き、周囲をテフロン(登録商標)樹脂でコーティングし、電極とした。
次に、電極面に水平な流れを定量的に把握可能にするため、上記電極を固定可能な電解セルを作製した。電解セルには、ポンプからの吐出口および排液口、アノードおよびカソードとなる電極の設置口、参照電極の設置口を設けた。また、アノード表面での流路断面積は、10mm×3mmの長方形となるように設計した。
硫酸銅五水和物、98%硫酸および純水を混合し、銅濃度49g/l、硫酸濃度199g/lとなる電解液を作製した。
【0033】
この電解セルに、アノードおよびカソードとなる2つの電極、ローラーポンプ(Thermo Fisher Scientific社製)、及び参照電極(銀/塩化銀参照電極)を設置し、電解セルを上記電解液で満たした。なお、電位はNHE(標準水素電位)に換算して評価した。
【0034】
電解液を満たした電解セルを温浴槽に浸漬し、3時間保持することで、電解セル内の電解液を60℃に保温した。また、ローラーポンプにて供給する電解液も温浴槽で60℃に保温した。
ローラーポンプで電解セルに、30ml/分の平均流速で電解液を供給した。この時の流速は約240回/分で脈動しており、瞬時流速の値は、平均流速の値の0倍から2倍の範囲で変動していた。
即ち、30ml/分の平均流速は、0.5ml/秒となり、脈動を伴う本実施例では、0ml/秒から1.0ml/秒の間で周期的に変動していた。
【0035】
測定は、アノード電位を0.33Vvs.NHEから0.9Vvs.NHEまで掃引し、その際のアノード電流密度の変化を測定した。
さらに再現性の確認のため、同じ条件で再度同様の実験(実施例1-1)を行い、同様の結果を得た。
【0036】
(比較例1)
ポンプに実用上脈動を発生せずにスムースに供給できるもの(TACMINA社製 商品名:スムーズフローポンプQ)を用い、平均流速30ml/分で連続して電解液を供給した。それ以外は実施例1と同様の条件で電解した。
さらに再現性を確認するため、同じ条件で再度同様の実験(比較例1-1)を行ったが比較例1と同様の結果が得られた。
図1に実施例1及び比較例1、
図2に実施例1-1及び比較例1-1における電位と電流密度の関係を示す。
【0037】
図1に示したように、脈動を伴うローラーポンプを使用した実施例1の場合、不動態化した臨界電流密度は計測されず、アノード電位が0.9Vvs.NHEまで不動態化することなく電流密度が上昇し続けた。
つまり、アノード表面に、流速を脈動させた脈動流とした電解液を供給することで、不動態化が抑制されたことを確認した。
一方、脈動のないポンプを使用した比較例1の場合、実施例1には見られなかった電位が約0.4Vvs.NHEになったところで極大値である不動態化臨界電流密度を計測した。不動態化が発生した後は、不動態が保持され、上記実施例1に比較して低い電流密度を維持した。
【0038】
さらに
図2は、それぞれの実施例の再現性を確認するために行なった実施例1-1、比較例1-1の結果を示す図であるが、
図1に示す実施例1及び比較例1とほぼ一致する結果が得られた。
図1、
図2から明らかなように、本発明の脈動を伴った電解液を供給することで、不動態化の発生を抑制できることが確認された。