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特許7049114塩化アルカリ電解用イオン交換膜の製造方法および塩化アルカリ電解装置の製造方法
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  • 特許-塩化アルカリ電解用イオン交換膜の製造方法および塩化アルカリ電解装置の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-29
(45)【発行日】2022-04-06
(54)【発明の名称】塩化アルカリ電解用イオン交換膜の製造方法および塩化アルカリ電解装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C25B 13/08 20060101AFI20220330BHJP
   C08J 7/00 20060101ALI20220330BHJP
   C25B 9/00 20210101ALI20220330BHJP
【FI】
C25B13/08 302
C08J7/00 A CEW
C25B9/00 E
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2017538510
(86)(22)【出願日】2016-09-08
(86)【国際出願番号】 JP2016076487
(87)【国際公開番号】W WO2017043590
(87)【国際公開日】2017-03-16
【審査請求日】2019-02-04
【審判番号】
【審判請求日】2021-04-02
(31)【優先権主張番号】P 2015176814
(32)【優先日】2015-09-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】特許業務法人 志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】チン曽我 環
(72)【発明者】
【氏名】西尾 拓久央
(72)【発明者】
【氏名】山木 泰
(72)【発明者】
【氏名】金子 隆之
【合議体】
【審判長】粟野 正明
【審判官】平塚 政宏
【審判官】佐藤 陽一
(56)【参考文献】
【文献】特開昭58-181883(JP,A)
【文献】特開平5-112886(JP,A)
【文献】国際公開第2012/157714(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B 1/00 - 15/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボン酸型官能基に変換できる基を有する含フッ素ポリマーを含む前駆体層を有するイオン交換膜前駆体膜を、アルカリ金属水酸化物、水溶性有機溶媒および水を含むアルカリ水溶液に浸漬して、前記カルボン酸型官能基に変換できる基を加水分解処理してカルボン酸型官能基に変換することによって、カルボン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーを含む層を有する塩化アルカリ電解用イオン交換膜を製造する方法であって、
前記水溶性有機溶媒の濃度が、前記アルカリ水溶液(100質量%)中、1~60質量%であり、
前記アルカリ水溶液の温度が、40℃以上80℃未満であり、
前記カルボン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーにおける前記カルボン酸型官能基を有する構成単位の割合が、前記カルボン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーにおけるすべての構成単位(100モル%)のうち、13.10~14.50モル%であることを特徴とする、塩化アルカリ電解用イオン交換膜の製造方法。
【請求項2】
前記水溶性有機溶媒の濃度が、前記アルカリ水溶液(100質量%)中、5~50質量%である、請求項1に記載の塩化アルカリ電解用イオン交換膜の製造方法。
【請求項3】
前記アルカリ金属水酸化物の濃度が、前記アルカリ水溶液(100質量%)中、1~60質量%である、
請求項1または2に記載の塩化アルカリ電解用イオン交換膜の製造方法。
【請求項4】
前記アルカリ金属水酸化物の濃度が、前記アルカリ水溶液(100質量%)中、5~50質量%である、請求項1~3のいずれか一項に記載の塩化アルカリ電解用イオン交換膜の製造方法。
【請求項5】
前記アルカリ金属水酸化物が、水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムである、請求項1~4のいずれか一項に記載の塩化アルカリ電解用イオン交換膜の製造方法。
【請求項6】
前記水溶性有機溶媒が、非プロトン性水溶性有機溶媒、アルコール類およびアミノアルコール類からなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1~5のいずれか一項に記載の塩化アルカリ電解用イオン交換膜の製造方法。
【請求項7】
前記水溶性有機溶媒がジメチルスルホキシド、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、1-メトキシ-2-プロパノール、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、イソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン、ジメチルアミノエタノールおよびジエチルアミノエタノールからなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項6に記載の塩化アルカリ電解用イオン交換膜の製造方法。
【請求項8】
スルホン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーを含む層をさらに有する塩化アルカリ電解用イオン交換膜を製造する方法であって、
前記イオン交換膜前駆体膜が、スルホン酸型官能基に変換できる基を有する含フッ素ポリマーを含む前駆体層をさらに有し、
前記イオン交換膜前駆体膜を前記アルカリ水溶液に浸漬して、前記カルボン酸型官能基に変換できる基を加水分解処理してカルボン酸型官能基に変換するとともに、前記スルホン酸型官能基に変換できる基を加水分解処理して前記スルホン酸型官能基に変換する、請求項1~7のいずれか一項に記載の塩化アルカリ電解用イオン交換膜の製造方法。
【請求項9】
前記塩化アルカリ電解用イオン交換膜が、少なくとも一方の最表層に無機物粒子およびバインダーを含む層をさらに有する、請求項1~8のいずれか一項に記載の塩化アルカリ電解用イオン交換膜の製造方法。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載の塩化アルカリ電解用イオン交換膜の製造方法によって得られた塩化アルカリ電解用イオン交換膜を、陰極および陽極を備える電解槽内を前記陰極側の陰極室と前記陽極側の陽極室とに区切るように前記電解槽内に装着する、塩化アルカリ電解装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩化アルカリ電解用イオン交換膜の製造方法および塩化アルカリ電解装置の製造方法に関する。
なお、2015年9月8日に出願された日本特許出願2015-176814号の明細書、特許請求の範囲、図面および要約書の全内容をここに引用し、本発明の開示として取り入れるものである。
【背景技術】
【0002】
塩化アルカリ(塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化リチウム等)水溶液を電解し、水酸化アルカリと塩素とを製造する塩化アルカリ電解においては、隔膜として、陰極側にカルボン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーからなる層を有し、陽極側にスルホン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーからなる層を有するイオン交換膜が用いられる。
【0003】
イオン交換膜は、たとえば、下記の方法によって製造される。
カルボン酸型官能基に変換できる基を有する含フッ素ポリマーを含む前駆体層と、スルホン酸型官能基に変換できる基を有する含フッ素ポリマーを含む前駆体層とを有するイオン交換膜前駆体膜を、アルカリ金属水酸化物、水溶性有機溶媒および水を含むアルカリ水溶液に浸漬して、カルボン酸型官能基に変換できる基を加水分解処理してカルボン酸型官能基に変換するとともに、スルホン酸型官能基に変換できる基を加水分解処理してスルホン酸型官能基に変換することによって、カルボン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーを含む層と、スルホン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーを含む層とを有するイオン交換膜を製造する方法(たとえば、特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第4329339号公報
【文献】国際公開第2009/133902号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来のイオン交換膜の製造方法で得られるイオン交換膜を用いた塩化アルカリ電解においては、下記の2つの問題が発生しやすい。
・塩化アルカリを電解する際の電流効率のばらつきが大きくなり、安定して塩化アルカリ電解を実施できない。
・塩化アルカリを電解する際、製造される水酸化アルカリの濃度が高くなると電流効率が低下しやすい、すなわちアルカリ耐性が不充分である。電流効率が低下した場合、電力原単位の上昇、膜交換の頻度が上がることによるランニングコストの上昇、生成する塩素中の酸素濃度が上昇することによる塩素品質の低下、等の大きなデメリットが生じる。
【0006】
本発明は、電流効率が高く、電流効率のばらつきが小さく、アルカリ耐性が高いイオン交換膜を得ることができる塩化アルカリ電解用イオン交換膜の製造方法;および、電流効率が高く、電流効率のばらつきが小さく、アルカリ耐性が高い塩化アルカリ電解装置を効率よく製造できる方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の態様を有する。
[1]カルボン酸型官能基に変換できる基を有する含フッ素ポリマーを含む前駆体層を有するイオン交換膜前駆体膜を、アルカリ金属水酸化物、水溶性有機溶媒および水を含むアルカリ水溶液に浸漬して、前記カルボン酸型官能基に変換できる基を加水分解処理してカルボン酸型官能基に変換することによって、カルボン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーを含む層を有する塩化アルカリ電解用イオン交換膜を製造する方法であって、前記水溶性有機溶媒の濃度が、前記アルカリ水溶液(100質量%)中、1~60質量%であり、前記アルカリ水溶液の温度が、40℃以上80℃未満であり、前記カルボン酸型官能基を有する構成単位の割合が、前記カルボン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーにおけるすべての構成単位(100モル%)のうち、13.10~14.50モル%である、塩化アルカリ電解用イオン交換膜の製造方法。
[2]前記水溶性有機溶媒の濃度が、前記アルカリ水溶液(100質量%)中、5~50質量%である、[1]に記載の塩化アルカリ電解用イオン交換膜の製造方法。
[3]前記アルカリ金属水酸化物の濃度が、前記アルカリ水溶液(100質量%)中、1~60質量%である、[1]または[2]の塩化アルカリ電解用イオン交換膜の製造方法。
[4]前記アルカリ金属水酸化物の濃度が、前記アルカリ水溶液(100質量%)中、5~50質量%である、[1]~[3]のいずれかに記載の塩化アルカリ電解用イオン交換膜の製造方法。
[5]前記アルカリ金属水酸化物が、水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムである、[1]~[4]のいずれかに記載の塩化アルカリ電解用イオン交換膜の製造方法。
[6]前記水溶性有機溶媒が、非プロトン性水溶性有機溶媒、アルコール類およびアミノアルコール類からなる群から選ばれる少なくとも1種である、[1]~[5]のいずれかに記載の塩化アルカリ電解用イオン交換膜の製造方法。
[7]前記水溶性有機溶媒がジメチルスルホキシド、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、1-メトキシ-2-プロパノール、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、イソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン、ジメチルアミノエタノールおよびジエチルアミノエタノールからなる群から選ばれる少なくとも1種である、[6]に記載の塩化アルカリ電解用イオン交換膜の製造方法。
[8]スルホン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーを含む層をさらに有する塩化アルカリ電解用イオン交換膜を製造する方法であって、前記イオン交換膜前駆体膜が、スルホン酸型官能基に変換できる基を有する含フッ素ポリマーを含む前駆体層をさらに有し、前記イオン交換膜前駆体膜を前記アルカリ水溶液に浸漬して、前記カルボン酸型官能基に変換できる基を加水分解処理してカルボン酸型官能基に変換するとともに、前記スルホン酸型官能基に変換できる基を加水分解処理して前記スルホン酸型官能基に変換する、[1]~[7]のいずれかに記載の塩化アルカリ電解用イオン交換膜の製造方法。
[9]前記塩化アルカリ電解用イオン交換膜が、少なくとも一方の最表層に無機物粒子およびバインダーを含む層をさらに有する、[1]~[8]のいずれかに記載の塩化アルカリ電解用イオン交換膜の製造方法。
[10]前記[1]~[9]のいずれかに記載の塩化アルカリ電解用イオン交換膜の製造方法によって得られた塩化アルカリ電解用イオン交換膜を、陰極および陽極を備える電解槽内を前記陰極側の陰極室と前記陽極側の陽極室とに区切るように前記電解槽内に装着する、塩化アルカリ電解装置の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の塩化アルカリ電解用イオン交換膜の製造方法によれば、電流効率が高く、電流効率のばらつきが小さく、アルカリ耐性が高いイオン交換膜を効率よく得ることができる。
本発明の塩化アルカリ電解装置の製造方法によれば、電流効率が高く、電流効率のばらつきが小さく、アルカリ耐性が高い塩化アルカリ電解装置を効率よく製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明における塩化アルカリ電解用イオン交換膜の一例を示す模式断面図である。
図2】本発明における塩化アルカリ電解装置の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下の用語の定義は、本明細書および特許請求の範囲にわたって適用される。
本明細書においては、式(1)で表されるモノマーをモノマー(1)と記す。他の式で表されるモノマーもこれに準じて記す。
「カルボン酸型官能基」とは、カルボン酸基(-COOH)又はカルボン酸塩(-COOM。ただし、Mはアルカリ金属または第4級アンモニウムである。)を意味する。
「スルホン酸型官能基」とは、スルホン酸基(-SOH)又はスルホン酸塩(-SO。ただし、Mはアルカリ金属または第4級アンモニウムである。)を意味する。
「カルボン酸型官能基に変換できる基」とは、加水分解処理、酸型化処理等の公知の処理によって、カルボン酸型官能基に変換できる基を意味する。
「スルホン酸型官能基に変換できる基」とは、加水分解処理、酸型化処理等の公知の処理によって、スルホン酸型官能基に変換できる基を意味する。
「含フッ素ポリマー」とは、分子中にフッ素原子を有する高分子化合物を意味する。
「ペルフルオロカーボンポリマー」とは、ポリマー中の炭素原子に結合している水素原子の全部がフッ素原子に置換されたポリマーを意味する。ペルフルオロカーボンポリマー中のフッ素原子の一部は、塩素原子または臭素原子に置換されていてもよい。
「モノマー」とは、重合反応性の炭素-炭素二重結合を有する化合物を意味する。
「構成単位」とは、モノマーが重合することによって形成された該モノマーに由来する単位を意味する。構成単位は、モノマーの重合反応によって直接形成された単位であってもよく、ある構成単位を有するポリマーを形成した後に、該構成単位を化学的に変換することによって該構成単位の一部が別の構造に変換された単位であってもよい。
「一次粒子」とは、走査型電子顕微鏡(SEM)により観察される最小の粒子を意味する。また、「二次粒子」とは、一次粒子が凝集している粒子を意味する。
「イオン交換膜前駆体膜」とは、加水分解処理される前の膜であり、カルボン酸型官能基に変換できる基を有する含フッ素ポリマーを含む前駆体層を有する膜を意味する。イオン交換膜前駆体膜においては、イオン交換膜中のカルボン酸型官能基は、カルボン酸型官能基に変換できる基の状態である。なお、イオン交換膜がさらにスルホン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーを含む前駆体層を有する場合は、スルホン酸型官能基もスルホン酸型化官能基に変換できる基の状態である。
「前駆体層」とは、カルボン酸型官能基に変換できる基を有する含フッ素ポリマーからなる層を意味する。前駆体層は、スルホン酸型官能基に変換できる基を有する含フッ素ポリマーからなる層を含んでいてもよい。前駆体層においては、イオン交換膜中のカルボン酸型官能基は、カルボン酸型官能基に変換できる基の状態であり、スルホン酸型官能基は、スルホン酸型官能基に変換できる基の状態である。
【0011】
<塩化アルカリ電解用イオン交換膜>
本発明の製造方法によって得られる塩化アルカリ電解用イオン交換膜(以下、単に「イオン交換膜」とも記す。)は、カルボン酸型官能基を有する含フッ素ポリマー(以下、単に「含フッ素ポリマー(A)」とも記す。)を含む層(以下、単に「層(C)」とも記す。)を有する。
イオン交換膜は、スルホン酸型官能基を有する含フッ素ポリマー(以下、単に「含フッ素ポリマー(B)」とも記す。)を含む層(以下、単に「層(S)」とも記す。)をさらに有していてもよい。
イオン交換膜は、少なくとも一方の最表層に無機物粒子およびバインダーを含む層(以下、単に「無機物粒子層」とも記す。)をさらに有していてもよい。
イオン交換膜においては、層(S)と層(C)との間、層(S)中、または層(C)中に補強材が埋め込まれていてもよい。
【0012】
図1は、本発明におけるイオン交換膜の一例を示す模式断面図である。
イオン交換膜1は、第1の無機物粒子層10と含フッ素ポリマー(A)を含む層(C)12と、含フッ素ポリマー(B)を含む層(S)14と、第2の無機物粒子層16とを順に有する。
【0013】
層(S)14は補強材18を有してもよく、該補強材18は、第1の層(S1)14aと第2の層(S2)14bとの間に埋め込まれる。
イオン交換膜1は、電解槽内において、第1の無機物粒子層10が陰極に面し、第2の無機物粒子層16が陽極に面するように配置される。
イオン交換膜1の形および大きさは、イオン交換膜1を装着する電解槽に応じて適宜決定すればよい。
【0014】
(層(C))
含フッ素ポリマー(A)を含む層(C)は、高い電流効率を発現する。層(C)は、補強材が埋め込まれた層であってもよい。層(C)としては、電解性能の点から、補強材等の含フッ素ポリマー(A)以外の材料を含まない含フッ素ポリマー(A)のみからなる層が好ましい。層(C)は、単層であってもよく、多層であってもよい。多層の層(C)としては、たとえば、各層において、含フッ素ポリマー(A)を構成する構成単位の種類やカルボン酸型官能基を有する構成単位の割合を異なる構成としたものが挙げられる。
【0015】
含フッ素ポリマー(A)は、カルボン酸型官能基に変換できる基を有する含フッ素ポリマー(以下、単に「含フッ素ポリマー(A’)」とも記す。)のカルボン酸型官能基に変換できる基を加水分解処理してカルボン酸型官能基に変換することによって得られたものである。
含フッ素ポリマー(A)としては、下記のモノマー(1)に基づく構成単位と、下記のモノマー(2)またはモノマー(2’)に基づく構成単位とを有する含フッ素ポリマー(以下、単に「含フッ素ポリマー(A’1)」とも記す。)を加水分解処理して、Yを-COOM(ただし、Mはアルカリ金属である。)に変換した含フッ素ポリマー(以下、単に「含フッ素ポリマー(A1)」とも記す。)が好ましい。
CF=CX ・・・(1)
CF=CF(OCFCFXO(CFY ・・・(2)
CF=CF(CF-(O)-(CFCFX4-(O)-(CF-(CFCFX5-Y ・・・(2’)
【0016】
およびXは、それぞれ独立にフッ素原子、塩素原子、またはトリフルオロメチル基であり、イオン交換膜の化学的耐久性の点から、フッ素原子が好ましい。
モノマー(1)としては、CF=CF、CF=CFCl、CF=CFCF等が挙げられ、イオン交換膜の化学的耐久性の点から、CF=CFが好ましい。
【0017】
は、フッ素原子またはトリフルオロメチル基である。
mは、1~5の整数である。
nは0または1である。
【0018】
4はフッ素原子またはトリフルオロメチル基である。X5はフッ素原子またはトリフルオロメチル基である。1分子中にX4及びX5の両方が存在する場合、それぞれは同一であってもよく、異なっていてもよい。
pは0または1であり、qは0または1であり、rは0~3の整数であり、sは0または1であり、tは0~12の整数であり、uは0~3の整数であり、かつ1≦r+uである。
【0019】
Yは、加水分解によってカルボン酸型官能基に変換できる基である。Yとしては、-COOR(ただし、Rは炭素数1~4のアルキル基である。)、-CN、-COX(ただし、Xはハロゲン原子である。)が好ましく、-COORがより好ましく、-COOCHが特に好ましい。
【0020】
モノマー(2)としては、例えば下記の化合物が挙げられ、イオン交換膜のイオン選択性、モノマーの工業的生産性の点から、p=0、q=1、r=1、S=0~1、t=1~3、u=0~1であるモノマーが好ましく、CF=CF-O-CFCF2-CF-COOCHで表されるモノマーが特に好ましい。
CF=CFOCFCF(CF)OCFCFCOOCH
CF=CFOCFCFCOOCH
CF=CFOCFCFCFCOOCH
CF=CFOCFCFOCFCFCOOCH
CF=CFOCFCFCFCFCFCOOCH
CF=CFOCFCF(CF)OCFCFCFCOOCH
【0021】
含フッ素ポリマー(A)におけるカルボン酸型官能基を有する構成単位の割合の下限は、含フッ素ポリマー(A)におけるすべての構成単位(100モル%)のうち、13.10モル%であり、13.15モル%が好ましく、13.20モル%がより好ましく、13.25モル%がさらに好ましい。含フッ素ポリマー(A)におけるカルボン酸型官能基を有する構成単位の割合の上限は、含フッ素ポリマー(A)におけるすべての構成単位(100モル%)のうち、14.50モル%であり、14.45モル%が好ましく、14.40モル%がより好ましく、14.35モル%がさらに好ましい。
含フッ素ポリマー(A)におけるカルボン酸型官能基を有する構成単位の割合が前記範囲の下限値以上であれば、塩化アルカリを電解する際のアルカリ耐性が高いイオン交換膜を得ることができる。含フッ素ポリマー(A)におけるカルボン酸型官能基を有する構成単位の割合が前記範囲の上限値以下であれば、塩化アルカリを電解する際の電流効率が高いイオン交換膜を得ることができる。
【0022】
含フッ素ポリマー(A)におけるカルボン酸型官能基を有する構成単位の割合を前記範囲内とするためには、含フッ素ポリマー(A)におけるカルボン酸型官能基を有する構成単位の割合と同じ割合でカルボン酸型官能基に変換できる基を有する含フッ素ポリマー(A’)を用いる。
【0023】
含フッ素ポリマー(A1)は、モノマー(1)およびモノマー(2)を共重合させて得られた含フッ素ポリマー(A’1)を加水分解することにより得られる。モノマー(1)およびモノマー(2)を共重合する際の重合方法は特に限定されず、溶液重合、乳化重合、懸濁重合、塊状重合のいずれの方法でもよく、溶液重合または乳化重合が好ましく、溶液重合がより好ましい。
溶液重合では、各モノマーを一括で仕込んでもよいが、逐次的にあるいは連続的に添加して反応させることもできる。生成する含フッ素ポリマーの組成を均一化するという観点からは、各モノマーを逐次的にあるいは連続的に添加して各モノマーの濃度を一定に制御しながら反応させることがよい。
このように溶液重合によって得られた含フッ素ポリマー(A)は、他の重合方法と比較して生成する含フッ素ポリマーの組成が均一になる傾向にある。溶液重合によって得られた含フッ素ポリマー(A)は、組成が均一であり、最適な組成から外れるポリマー分子が少なくなるため、幅広い運転領域の下で安定して電流効率を発現することが可能となる。
【0024】
層(C)の厚さは、5~50μmが好ましく、10~35μmがより好ましい。層(C)の厚さが前記範囲の下限値以上であれば、陽極側から透過する陰極側の塩化アルカリの濃度が抑えられ、製品である水酸化アルカリ水溶液の品質を良好に維持することができる。層(C)の厚さが前記範囲の上限値以下であれば、イオン交換膜の電気抵抗が低くなり、電解電圧を低くできる。
【0025】
(層(S))
含フッ素ポリマー(B)を含む層(S)は、イオン交換膜の機械的強度を保持するのに寄与する。層(S)には、イオン交換膜の機械的強度が高まる点から、補強材が埋め込まれていることが好ましい。補強材を埋め込む場合、層(C)でなく層(S)に埋め込むことで、電解性能に影響を与えることなく、補強効果を得ることができる。層(S)は、単層であってもよく、多層であってもよい。多層の層(S)としては、たとえば、各層において、含フッ素ポリマー(B)を構成する構成単位の種類やスルホン酸型官能基を有する構成単位の割合を異なる構成としたものが挙げられる。
層(S)に補強材を埋め込む場合、層(S)を多層とし、製造時にそのいずれかの層間に補強材を挿入し、次に多層化することによって、補強材が埋め込まれるようにすることが好ましい。
【0026】
含フッ素ポリマー(B)は、スルホン酸型官能基に変換できる基を有する含フッ素ポリマー(以下、単に「含フッ素ポリマー(B’)」とも記す。)のスルホン酸型官能基に変換できる基を加水分解処理してスルホン酸型官能基に変換することによって得られたものである。
含フッ素ポリマー(B)としては、下記のモノマー(1)に基づく構成単位と、下記のモノマー(3)に基づく構成単位とを有する含フッ素ポリマー(以下、単に「含フッ素ポリマー(B’1)」とも記す。)を加水分解処理して、Zを-SOM(ただし、Mはアルカリ金属である。)に変換した含フッ素ポリマー(以下、単に「含フッ素ポリマー(B1)」とも記す。)が好ましい。
CF=CX ・・・(1)
CF=CF(OCFCFXO(CFZ ・・・(3)
【0027】
およびXは、それぞれ独立にフッ素原子、塩素原子、またはトリフルオロメチル基であり、イオン交換膜の化学的耐久性の点から、フッ素原子が好ましい。
モノマー(1)としては、CF=CF、CF=CFCl、CF=CFCF等が挙げられ、イオン交換膜の化学的耐久性の点から、CF=CFが好ましい。
【0028】
は、フッ素原子またはトリフルオロメチル基である。
sは、1~3の整数である。
tは、0~3の整数である。
【0029】
Zは、加水分解によってスルホン酸型官能基に変換できる基である。Zとしては、-SO(ただし、Xはフッ素原子、塩素原子または臭素原子である。)又は-SO(ただし、Rは炭素数1~4のアルキル基である。)が好ましく、-SOがより好ましく、-SOFが特に好ましい。
【0030】
モノマー(3)としては、イオン交換膜の強度的強度、モノマーの工業的生産性の点から、下記の化合物が好ましい。
CF=CFOCFCF(CF)OCFCFCFSOF、
CF=CFOCFCF(CF)OCFCFSOF、
CF=CFOCFCFCFSOF、
CF=CFOCFCFSOF。
【0031】
含フッ素ポリマー(B)におけるスルホン酸型官能基を有する構成単位の割合は、含フッ素ポリマー(B)におけるすべての構成単位(100モル%)のうち、13.10~30.50モル%が好ましく、15.00~18.00モル%がより好ましい。
含フッ素ポリマー(B)におけるスルホン酸型官能基を有する構成単位の割合が前記範囲の下限値以上であれば、イオン交換膜の電気抵抗が低くなり、電解電圧を低くできる。含フッ素ポリマー(B)におけるスルホン酸型官能基を有する構成単位の割合が前記範囲の上限値以下であれば、分子量の高い含フッ素ポリマー(B)の合成が容易であり、また、含フッ素ポリマー(B)の膨潤が抑えられる。
【0032】
層(C)と層(S)との間の剥離を防止する点から、層(S)に隣接する層(C)を構成する含フッ素ポリマー(A)におけるカルボン酸型官能基を有する構成単位の割合Xと、層(C)に隣接する層(S)を構成する含フッ素ポリマー(B)におけるスルホン酸型官能基を有する構成単位の割合Xとの差は小さい方が好ましい。
層(S)に補強材を埋め込む場合、図1に示すように層(S)を多層としてその間に補強材を埋め込むことが好ましい。この場合、電解電圧を低減させやすい点から、補強材よりも陽極側の第2の層(S2)(図1における14b)を構成する含フッ素ポリマー(B)におけるスルホン酸型官能基を有する構成単位の割合XS2は、補強材よりも陰極側の第1の層(S1)(図1における14a)を構成する含フッ素ポリマー(B)におけるスルホン酸型官能基を有する構成単位の割合XS1と同等か、それよりも高いことが好ましい。
層(S)を多層とする場合、各層を形成する含フッ素ポリマー(B)は、同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0033】
層(S)の厚さは、55~200μmが好ましく、70~160μmがより好ましい。層(S)の厚さが前記範囲の下限値以上であれば、イオン交換膜の機械的強度が充分となり、長期間の電解に耐えることができる。層(S)の合計の厚さが前記範囲の上限値以下であれば、電解電圧を充分に低くできる。
【0034】
層(S)に補強材を埋め込む場合、補強材よりも陽極側の第2の層(S2)の厚さは、10~60μmが好ましい。第2の層(S2)の厚さが前記範囲の下限値以上であれば、補強材を層(S)内に埋め込みやすく、また、層間剥離が抑えられる。第2の層(S2)の厚さが前記範囲の上限値以下であれば、イオン交換膜の電気抵抗が低くなり、電解電圧を低くできる。
層(S)に補強材を埋め込む場合、補強材よりも陰極側の第1の層(S1)の厚さは、45~140μmが好ましく、60~100μmがより好ましい。
【0035】
(無機物粒子層)
イオン交換膜は、少なくとも一方の最表層に無機物粒子(以下、「無機微粒子(P)」とも記す。)およびバインダーを含む無機物粒子層を有していてもよい。
イオン交換膜の最表層に無機物粒子層を設けることによって、イオン交換膜の表面にガスが付着することが抑制され、その結果、塩化アルカリ水溶液の電解の際に電解電圧が高くなることが抑えられる。また、無機物粒子層は、バインダーを含んでいるため、無機物粒子(P)の脱落耐性に優れており、他の部材等との摩擦が生じた場合等でも無機物粒子(P)が脱落しにくく、ガス付着抑制効果が安定して得られる。
【0036】
無機物粒子(P)としては、塩化アルカリ水溶液等に対する耐食性に優れ、親水性を有するものが好ましい。具体的には、周期表の第4族元素または第14族元素の、酸化物、窒化物および炭化物からなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましく、SiO、SiC、ZrO、ZrCがより好ましく、ZrOが特に好ましい。
【0037】
無機物粒子(P)の平均一次粒子径は、0.01~1μmが好ましく、0.02~0.4μmがより好ましい。無機物粒子(P)の平均一次粒子径が前記範囲の下限値以上であれば、凝集による不均一が少ない。無機物粒子(P)の平均一次粒子径が前記範囲の上限値以下であれば、分散不良による不均一が少ない。
【0038】
無機物粒子(P)の平均二次粒子径は、0.5~1.5μmが好ましく、0.7~1.3μmがより好ましい。無機物粒子(P)の平均二次粒子径が前記範囲の下限値以上であれば、高いガス付着抑制効果が得られる。無機物粒子(P)の平均二次粒子径が前記範囲の上限値以下であれば、無機物粒子(P)の脱落耐性に優れる。
【0039】
イオン交換膜の層(C)側の表面に設ける無機物粒子層(以下、「第1の無機物粒子層」とも記す。)に含まれるバインダーとしては、水酸化アルカリ水溶液等に対する耐食性に優れ、親水性を有するものが好ましく、カルボン酸基またはスルホン酸基を有する含フッ素ポリマー(H)が好ましく、スルホン酸基を有する含フッ素ポリマー(H)がより好ましい。含フッ素ポリマー(H)は、カルボン酸基またはスルホン酸基を有するモノマーのホモポリマーであってもよく、カルボン酸基またはスルホン酸基を有するモノマーと、該モノマーと共重合可能なモノマーとのコポリマーであってもよい。
【0040】
カルボン酸基を有する含フッ素ポリマー(H)としては、モノマー(1)に基づく構成単位とモノマー(2)に基づく構成単位とを有するコポリマーを加水分解処理し、ついで酸型化処理してYを-COOHに変換したポリマーが挙げられる。
スルホン酸基を有する含フッ素ポリマー(H)としては、モノマー(1)に基づく構成単位とモノマー(3)に基づく構成単位とを有するコポリマーを加水分解処理し、ついで酸型化処理してZを-SOHに変換したポリマーが挙げられる。
【0041】
第1の無機物粒子層における無機物粒子(P)およびバインダーの合計質量に対するバインダーの質量比(以下、「バインダー比」と記す。)は、0.15~0.30が好ましく、0.15~0.25がより好ましく、0.16~0.20がさらに好ましい。第1の無機物粒子層におけるバインダー比が前記範囲の下限値以上であれば、無機物粒子(P)の脱落耐性に優れる。第1の無機物粒子層におけるバインダー比が前記範囲の上限値以下であれば、高いガス付着抑制効果が得られる。
【0042】
イオン交換膜の層(S)側の表面に設ける無機物粒子層(以下、「第2の無機物粒子層」とも記す。)としては、塩化アルカリ水溶液の電解に用いるイオン交換膜の陽極側に設けられる公知の親水化層(ガス解放層)を採用できる。
イオン交換膜の層(S)側の表面に設ける無機物粒子層に含まれるバインダーとしては、陽極側に設けられる公知の親水化層(ガス解放層)に用いられる公知のバインダーを採用でき、たとえば、メチルセルロース等が挙げられる。また、イオン交換膜の層(C)側の表面に設ける無機物粒子層に用いられるバインダーも同様に用いることができる。
【0043】
(補強材)
補強材とは、イオン交換膜の強度を向上させるために用いられる材料であり、イオン交換膜の製造工程において、補強布が埋設された含フッ素ポリマーを含む前駆体層を有するイオン交換膜前駆体膜を、アルカリ水溶液に浸漬することにより、補強布中の犠牲糸の少なくとも一部が溶出して形成された補強布由来の補強糸と任意に含まれる犠牲糸とから形成される材料である。補強材は、犠牲糸の一部が溶解した場合は補強糸と溶解残りの犠牲糸とからなり、犠牲糸の全部が溶解した場合は補強糸のみからなる。すなわち、補強材は、補強糸と任意に含まれる犠牲糸とから形成される材料である。補強材はイオン交換膜中に埋設されており、補強布が埋設されたフッ素系ポリマーからなる前駆体膜を、アルカリ水溶液に浸漬することにより形成される。
補強材の原料となる補強布は、イオン交換膜の強度を向上させるための補強材の原料として用いられる布であり、織布、不織布、フィブリル、多孔体等が挙げられ、機械的強度の点から、織布が好ましい。補強布が織布である場合、織布は、補強糸と犠牲糸が製織されてなることが好ましい。補強布の補強糸と犠牲糸は、それぞれ経糸と緯糸に製織され、これらの経糸と緯糸は、平織等の通常の製織法による場合は直交している。補強糸の材料としては、ポリテトラフルオロエチレン(以下、PTFEとも記す。)等の含フッ素ポリマーが挙げられる。犠牲糸の材料としては、ポリエチレンテレフタレート(以下、PETと記す。)が挙げられる。
【0044】
(イオン交換膜の電流効率)
イオン交換膜の電流効率は、96.0%以上が好ましい。イオン交換膜の電流効率が高いことにより塩化アルカリを効率よく電解することができる。
イオン交換膜の電流効率は、実施例に記載の方法によって測定する。ただし、測定に用いた装置については、同様の機能を有する装置に置き換えてもよい。
【0045】
<塩化アルカリ電解用イオン交換膜の製造方法>
本発明のイオン交換膜の製造方法は、下記の工程(b)を必須とし、必要に応じて下記の工程(a)を有する。
工程(a):含フッ素ポリマー(A’)を含む前駆体層(C’)を有するイオン交換膜前駆体膜を得る工程。
工程(b):工程(a)で得られたイオン交換膜前駆体膜を、アルカリ金属水酸化物、水溶性有機溶媒および水を含むアルカリ水溶液に浸漬して、カルボン酸型官能基に変換できる基を加水分解処理してカルボン酸型官能基に変換する工程。
【0046】
(工程(a))
工程(a)においては、含フッ素ポリマー(A’)を含む前駆体層(C’)を有するイオン交換膜前駆体膜を製造する。イオン交換膜前駆体膜は、必要に応じて、含フッ素ポリマー(B’)を含む前駆体層(S’)をさらに有していてもよい。
イオン交換膜前駆体膜は、含フッ素ポリマー(A’)を用いた公知の方法によって製造できる。前駆体層(S’)をさらに有する場合は、さらに含フッ素ポリマー(B’)を用いた公知の方法によって製造できる。前駆体層(S’)をさらに有する場合、または、前駆体層(C’)もしくは前駆体層(S’)が多層である場合は、各層を積層することによって製造できる。
含フッ素ポリマー(A’)としては、上述した含フッ素ポリマー(A’1)が好ましい。含フッ素ポリマー(B’)としては、上述した含フッ素ポリマー(B’1)が好ましい。
【0047】
含フッ素ポリマー(A’)としては、加水分解処理後に得られる含フッ素ポリマー(A)におけるカルボン酸型官能基を有する構成単位の割合が含フッ素ポリマー(A)におけるすべての構成単位(100モル%)のうち13.10~14.50モル%となるものを用いる。含フッ素ポリマー(A’)としては、含フッ素ポリマー(A)におけるカルボン酸型官能基を有する構成単位の割合が上述した範囲内となるものが好ましい。
加水分解処理後に得られる含フッ素ポリマー(A)におけるカルボン酸型官能基を有する構成単位の割合が前記範囲の下限値以上であれば、塩化アルカリを電解する際のアルカリ耐性が高いイオン交換膜を得ることができる。加水分解処理後に得られる含フッ素ポリマー(A)におけるカルボン酸型官能基を有する構成単位の割合が前記範囲の上限値以下であれば、塩化アルカリを電解する際の電流効率が高いイオン交換膜を得ることができる。
【0048】
(工程(b))
工程(b)においては、イオン交換膜前駆体膜を、アルカリ金属水酸化物、水溶性有機溶媒および水を含むアルカリ水溶液に浸漬して、カルボン酸型官能基に変換できる基を加水分解処理してカルボン酸型官能基に変換する。イオン交換膜前駆体膜が前駆体層(S’)をさらに有する場合は、カルボン酸型官能基に変換できる基をカルボン酸型官能基に変換すると同時に、スルホン酸型官能基に変換できる基を加水分解処理してスルホン酸型官能基に変換する。
【0049】
水溶性有機溶媒の濃度は、アルカリ水溶液(100質量%)中、1~60質量%であり、3~55質量%が好ましく、5~50質量%がより好ましい。水溶性有機溶媒の濃度が下限値未満であれば、加水分解処理の速度が低下し、生産性も低下する。水溶性有機溶媒の濃度が上限値を超えると、であれば、ポリマーが過膨潤し、ポリマーの比抵抗が低下し、含水率が上昇し、前述の機構により電流効率が低下する。
アルカリ金属水酸化物の濃度は、アルカリ水溶液(100質量%)中、1~60質量%が好ましく、3~55質量%がより好ましく、5~50質量%がさらに好ましい。アルカリ金属水酸化物の濃度が前記範囲内であれば、加水分解処理が速やかに進行する。
水の濃度は、アルカリ水溶液(100質量%)中、39~80質量%が好ましく、45~70質量%がより好ましい。
【0050】
イオン交換膜前駆体膜が浸漬されるアルカリ水溶液の温度は、40℃以上80℃未満であり、42~78℃が好ましく、44~76℃がより好ましい。アルカリ水溶液の温度が前記範囲の下限値以上であれば、電解電圧が低く抑えられ、加水分解処理が速やかに完了し、イオン交換膜の生産性が向上する。アルカリ水溶液の温度が前記範囲の上限値以下であれば、電流効率が高く、塩化アルカリを電解する際の電流効率のばらつきが小さいイオン交換を得ることができる。
アルカリ水溶液の温度が下限値以下では加水分解速度が低下し、生産性が低下する。アルカリ水溶液の温度が上限値を超えるとポリマーが過膨潤し、ポリマーの比抵抗が低下し、含水率が上昇し、上述の機構により電流効率が低下する。
加水分解温度は電流効率のばらつきにも影響する。加水分解温度が低いと加水分解反応が遅く、ポリマーが膨潤しにくく、時間をかけてポリマー構造内のイオンの通路(イオンチャネル)が均一に形成されやすくなる。しかし、加水分解温度が高いと、加水分解反応が急速に進み、ポリマーが過膨潤されやすく、ポリマー構造内のイオンチャネルが不均一に形成されやすくなる。このような理由で、アルカリ水溶液の温度が下限値以下であれば、電流効率のばらつきが小さいイオン交換膜が製造できる。
イオン交換膜前駆体膜をアルカリ水溶液に浸漬する時間は、5分~3時間が好ましく、2時間以内がより好ましく、1時間以内がさらに好ましい。
【0051】
アルカリ金属水酸化物としては、水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムが好ましく、水酸化カリウムがより好ましい。アルカリ金属水酸化物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0052】
水溶性有機溶媒としては、非プロトン性水溶性有機溶媒(ジメチルスルホキシド等)、アルキルアルコール類(メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール等)、アルコキシアルコール類(1-メトキシ-2-プロパノール、1-エトキシ-2-プロパノール、1-メトキシ-2-メチル-2-プロパノール、1-プロポキシ-2-プロパノール、1-イソプロポキシ-2-プロパノール、2-エトキシ-1-プロパノール、2,3-エトキシ-1-プロパノール、2-メトキシ-1-プロパノール、1-ブトキシ-2-プロパノール等)、アリールオキシアルコール類(2-フェノキシ-1-プロパノール等)、アミノアルコール類(トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、イソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン、ジメチルアミノエタノール、ジエチルアミノエタノール等)が挙げられる。なお、アルコキシアルコール類、アリールオキシアルコール類の例示において、プロパノール部分を他のアルコール(エタノール、ブタノール等)に置き換えた溶媒も好ましい溶媒として挙げられる。
【0053】
水溶性有機溶媒としては、イオン交換膜を膨潤させ、加水分解反応速度を促進させる点から、非プロトン性水溶性有機溶媒、アルコール類およびアミノアルコール類からなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましく、ジメチルスルホキシド、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、1-メトキシ-2-プロパノール、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、イソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン、ジメチルアミノエタノールおよびジエチルアミノエタノールからなる群から選ばれる少なくとも1種がより好ましく、1-メトキシ-2-プロパノールまたはジメチルスルホキシドがさらに好ましい。水溶性有機溶媒は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0054】
アルカリ水溶液は、水、アルカリ金属水酸化物および水溶性有機溶媒を含んでいればよく、加水分解時の温度において均一であっても不均一に層分離していてもよいが、均一に相溶していることが好ましい。
【0055】
電流効率が高く、電流効率のばらつきが小さく、アルカリ耐性が高い塩化アルカリ電解用イオン交換膜を効率よく製造するには、加水分解に使用するアルカリ水溶液の組成、加水分解温度、およびカルボン酸型官能基を有する構成単位の割合を調整すればよい。たとえば、官能基含有量が高いポリマーは低いポリマーと比べると、含水率が高くなりやすく、比抵抗が低くなりやすいため、有機溶媒の量を減らしたり、加水分解の温度を下げたりすることで調整する。
このように、各調整因子が前述範囲に該当することで、塩化アルカリを電解する際の電流効率およびアルカリ耐性が高い塩化アルカリ電解用イオン交換膜を効率よく製造できる。
【0056】
(無機物粒子層の形成方法)
イオン交換膜前駆体膜が無機物粒子層をさらに有する場合、無機物粒子層は、無機物粒子(P)とバインダーと分散媒とを含む塗布液(以下、「塗布液(D)」とも記す。)を、イオン交換膜の層(C)もしくは層(S)、またはイオン交換膜前駆体膜の層(C’)もしくは層(S’)の表面に塗布し、加熱等によって分散媒を除去して乾燥することによって形成できる。
また、無機物粒子層は、無機物粒子(P)とバインダーと分散媒とを含むペースト状の塗布液(D)を転写基材に塗布して無機物粒子層を形成し、これを、イオン交換膜の層(C)もしくは層(S)、またはイオン交換膜前駆体膜の層(C’)もしくは層(S’)の表面に転写することによって形成できる。
【0057】
塗布液(D)の調製方法としては、無機物粒子(P)とバインダーと分散媒を混合し、ボールミル等を用いて撹拌して均一にした後に、ビーズミルによって分散処理を行う方法が好ましい。該方法を用いることによって、無機物粒子(P)の平均二次粒子径を上述した範囲内に制御しやすい。
塗布液(D)中の無機物粒子(P)の平均二次粒子径は、無機物粒子(P)の平均一次粒子径、分散処理の処理時間等を調節することで制御できる。
【0058】
分散媒としては、バインダーがスルホン酸基を有する含フッ素ポリマー(H)である場合は、アルコール系溶媒(エタノール、イソプロピルアルコール等)が好ましい。
また、分散媒としては、ジメチルスルホキシド、ホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド等の非プロトン系極性溶媒を用いてもよい。非プロトン系極性溶媒は、沸点が140℃以上、含フッ素ポリマー(A)および含フッ素ポリマー(B)の融点以下であり、かつ融点が25℃以下であるものが好ましい。
非プロトン系極性溶媒を用いる場合、非プロトン系極性溶媒を配合した塗布液(D)を調製して塗布してもよく、非プロトン系極性溶媒以外の分散媒(アルコール系溶媒等)を用いた塗布液(D)を調製して塗布した後に、非プロトン系極性溶媒を塗布してもよい。
【0059】
塗布液(D)(100質量%)中の分散媒の含有量は、30~95質量%が好ましく、70~90質量%がより好ましい。分散媒の含有量が前記範囲内であれば、バインダーの分散性が良好であり、また粘度も適当であることから、塗布液(D)をスプレー法で塗布する場合に適している。
非プロトン系極性溶媒を用いる場合、塗布液(D)(100質量%)中の非プロトン系極性溶媒の含有量は、1~70質量%が好ましく、10~50質量%がより好ましい。
【0060】
塗布液(D)の塗布方法としては、公知の塗布方法を採用でき、たとえば、スプレー法、ロールコーター法等が挙げられるが、スプレー法が好ましい。工程(b)の前に後述の工程(c)を行う場合は、塗布液(D)の付着性がより良好になる点から、スプレー法が好ましく、スプレー法においてエアの量を少なくすることが特に好ましい。
【0061】
分散媒を除去するための加熱方法としては、加熱ロールを用いる方法、オーブンを用いる方法等が挙げられ、工業的には、加熱ロールを備えたロールプレス機によって連続的に加熱処理する方法が好ましい。
ロールプレス機を用いる場合、加える圧力は、動力の削減の点では、0.2MPa以下の線圧とすることが好ましい。
【0062】
分散媒を除去するための加熱温度は、30℃以上が好ましく、用いる分散媒の沸点以上がより好ましい。加熱温度が分散媒の沸点より低い場合は、イオン交換膜の表面に分散媒が残留しやすいが、分散媒の種類によっては蒸気圧の関係から沸点以下で加熱しても分散媒を充分に揮発させることができる。
また、加熱温度は、含フッ素ポリマー(A)および含フッ素ポリマー(B)の融点未満が好ましい。これによって、膜厚が不均一となることを抑制しやすくなる。
【0063】
(イオン交換膜の製造方法の一実施形態)
以下、本発明のイオン交換膜の製造方法の実施形態の一例を、図1のイオン交換膜1を例にとり説明する。
イオン交換膜1は、たとえば、下記の工程(a)~(c)を有する方法によって製造できる。
工程(a):第2の無機物粒子層16、含フッ素ポリマー(B’)を含む第2の前駆体層(S’2)、補強布、含フッ素ポリマー(B’)を含む第1の前駆体層(S’1)、および含フッ素ポリマー(A’)を含む前駆体層(C’)をこの順に有する第2の無機物粒子層付きイオン交換膜前駆体膜を得る工程。
工程(b):第2の無機物粒子層付きイオン交換膜前駆体膜を、水、水酸化カリウムおよびジメチルスルホキシドを含むアルカリ水溶液に浸漬して、カルボン酸型官能基に変換できる基およびスルホン酸型官能基に変換できる基を加水分解処理してカルボン酸型官能基およびスルホン酸型官能基に変換するとともに、補強布中の犠牲糸の少なくとも一部を溶解させて、第2の無機物粒子層16、第2の層(S2)14b、補強材18、第1の層(S1)14aおよび層(C)12をこの順に有する複合膜を得る工程。
工程(c):無機物粒子(P)とバインダーと分散媒とを含む塗布液を複合膜における層(C)12の表面に塗布して第1の無機物粒子層10を形成し、イオン交換膜1を得る工程。
【0064】
工程(a):
以下に、上記の工程(a)~(c)について、更に詳しく説明する。
イオン交換膜前駆体膜を得る方法としては、たとえば、下記の手段(i)~(iv)を有する方法が挙げられる。ただし、含フッ素ポリマー(A’)としては、加水分解処理後に得られる含フッ素ポリマー(A)におけるカルボン酸型官能基を有する構成単位の割合が上述した範囲内となるものを用いる。
【0065】
(i)共押出用のフィルムダイを用いて、含フッ素ポリマー(A’)の層(C’)と、含フッ素ポリマー(B’)の層とが積層された積層フィルムを得る手段。
(ii)単層押出用のフィルムダイを用いて、含フッ素ポリマー(B’)の単層フィルムを得る手段。
(iii)積層フィルムの含フッ素ポリマー(B’)の層側に、補強布、単層フィルムを順に重ね合わせ、これらを加熱圧着し、イオン交換膜前駆体膜を得る手段。
(iv)分散媒(メチルセルロース水溶液等)に無機物粒子を分散させたペーストを転写基材に塗布して無機物粒子層を形成し、これをイオン交換膜前駆体膜の層(S’)側に転写し、第2の無機物粒子層16を形成する手段。
【0066】
工程(b):
イオン交換膜前駆体膜をアルカリ水溶液に浸漬して、カルボン酸型官能基に変換できる基およびスルホン酸型官能基に変換できる基を加水分解処理してカルボン酸型官能基およびスルホン酸型官能基に変換し、また、同時にイオン交換膜前駆体膜に埋設された補強布中の犠牲糸の少なくとも一部を溶解して補強材とし、複合膜を得る。ただし、アルカリ水溶液の組成および温度は、上述した範囲内とする。
【0067】
工程(c):
無機物粒子(P)とバインダーと分散媒とを含む塗布液(D)を複合膜における層(C)12の表面に塗布する。その後、加熱等によって分散媒を除去して乾燥することによって第1の無機物粒子層10を形成し、イオン交換膜1を得る。
【0068】
(イオン交換膜の製造方法の他の実施形態)
なお、イオン交換膜1の製造方法は、前記実施形態に限定されない。
たとえば、工程(b)の前に工程(c)を行う方法であってもよい。
また、工程(a)において含フッ素ポリマー(A)および含フッ素ポリマー(B)を用いる場合は、工程(b)を行わなくてもよい。
また、層(C)と層(S)の積層フィルムの層(C)の表面に、塗布液(D)によって第1の無機物粒子層を形成した後に、層(S)の表面に第2の無機物粒子層を積層する方法であってもよい。
また、第2の無機物粒子層を、第1の無機物粒子層と同様に塗布液(D)を塗布して形成する方法であってもよい。
【0069】
本発明のイオン交換膜の製造方法にあっては、加水分解処理後に得られる含フッ素ポリマー(A)におけるカルボン酸型官能基を有する構成単位の割合が上述した範囲内となる含フッ素ポリマー(A’)を用い、加水分解処理においてアルカリ水溶液の温度が上述した範囲内であり、かつ水溶性有機溶媒の濃度が上述した範囲内であるため、電流効率が高く、電流効率のばらつきが小さく、アルカリ耐性が高いイオン交換膜を効率よく得られる。
【0070】
塩化アルカリを電解する際の電流効率のばらつきは、層(C)の含水率のばらつきに原因があることを本発明者らは見出している。
層(C)の含水率にばらつきが生じる原因としては、イオン交換膜前駆体膜におけるカルボン酸型官能基に変換できる基を加水分解する際の反応系内のアルカリ水溶液の温度や液組成の変動が原因と考えられ、特に液組成の変動が主な原因と考えられる。このような変動は、ロット間はもちろんだが、同一ロット内でも発生し得る。
層(C)の含水率のばらつきをいかに抑えるかについて鋭意検討した結果、本発明者らは、加水分解温度が低いと加水分解反応が遅く、ポリマーが膨潤しにくく、時間をかけてポリマー構造内のイオンの通路(イオンチャネル)が均一に形成されやすくなる。しかし、加水分解温度が高いと、加水分解反応が急速に進み、ポリマーが過膨潤されやすく、ポリマー構造内のイオンチャネルが不均一に形成されやすくなる。このような理由で、反応系内のアルカリ水溶液の組成や温度の変動やばらつきの影響を受けにくくなる。アルカリ水溶液の温度が下限以下であれば、電流効率のばらつきが小さいイオン交換膜が製造できる。
【0071】
<塩化アルカリ電解装置の製造方法>
本発明の塩化アルカリ電解装置の製造方法は、本発明のイオン交換膜の製造方法によってイオン交換膜を得て、該イオン交換膜を、陰極および陽極を備える電解槽内を陰極側の陰極室と陽極側の陽極室とに区切るように電解槽内に装着する方法である。
【0072】
図2は、本発明の塩化アルカリ電解装置の一例を示す模式図である。
塩化アルカリ電解装置100は、陰極112および陽極114を備える電解槽110と、電解槽110内を陰極112側の陰極室116と陽極114側の陽極室118とに区切るように電解槽110内に装着されるイオン交換膜1とを有する。
イオン交換膜1は、層(C)12が陰極112側、層(S)14が陽極114側となるように電解槽110内に装着する。
【0073】
陰極112は、イオン交換膜1に接触させて配置してもよく、イオン交換膜1と間隔を開けて配置してもよい。
陰極室116を構成する材料としては、水酸化ナトリウムおよび水素に耐性がある材料が好ましい。該材料としては、ステンレス、ニッケル等が挙げられる。
陽極室118を構成する材料としては、塩化ナトリウムおよび塩素に耐性がある材料が好ましい。該材料としては、チタンが挙げられる。
【0074】
(水酸化ナトリウム水溶液の製造方法)
たとえば、塩化ナトリウム水溶液を電解して水酸化ナトリウム水溶液を製造する場合は、塩化アルカリ電解装置100の陽極室118に塩化ナトリウム水溶液119を供給し、陰極室116に水または水酸化ナトリウム水溶液121を供給し、陰極室116から排出される水酸化ナトリウム水溶液122の濃度を所定の濃度(たとえば32質量%)に保ちながら、塩化ナトリウム水溶液を電解する。
【0075】
陽極室118から排出される塩化ナトリウム水溶液120の濃度は、150~200g/Lが好ましい。
陰極室116から排出される水酸化ナトリウム水溶液122の濃度は、20~40質量%が好ましい。
電解槽110内の温度は、50~120℃が好ましい。
電流密度は、1~6kA/mが好ましい。
【0076】
(塩化アルカリ電解装置の他の実施形態)
本発明における塩化アルカリ電解装置は、隔膜として本発明のイオン交換膜の製造方法によって得られたイオン交換膜を備えたものであればよく、隔膜以外の構成は、公知のものであってもよい。
電解槽は、イオン交換膜を挟んで陰極室と陽極室とを交互に並べ、陰極室同士と陽極室同士とが電気的に並列になっている単極型であってもよく、陰極室の背面と陽極室の背面とが電気的に接続され、各室が電気的に直列になっている複極型であってもよい。
【0077】
本発明の塩化アルカリ電解装置の製造方法にあっては、本発明のイオン交換膜の製造方法によってイオン交換膜を得た後、該イオン交換膜を隔膜として電解槽内に装着する方法であるため、電流効率が高く、電流効率のばらつきが小さく、アルカリ耐性が高い塩化アルカリ電解装置を効率よく製造できる。
【実施例
【0078】
以下、実施例によって本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
例1~8は実施例であり、例9~17は比較例である。
【0079】
(各ポリマーにおける官能基を有する構成単位の割合の測定)
含フッ素ポリマー(A’)または含フッ素ポリマー(B’)の約0.5gを、溶融させて平板プレスしてフィルム状に成形し、これを透過型赤外分光分析装置により分析し、得られたスペクトルのCFピーク、CFピーク、OHピークの各ピーク高さを用いて、含フッ素ポリマー(A’)または含フッ素ポリマー(B’)におけるカルボン酸型官能基に変換できる基またはスルホン酸型官能基に変換できる基を有する構成単位の割合を算出した。これを、加水分解処理後に得られる含フッ素ポリマー(A)または含フッ素ポリマー(B)におけるカルボン酸型官能基またはスルホン酸型官能基を有する構成単位の割合とした。
【0080】
(塩化アルカリ電解装置)
電解槽(有効通電面積:25cm)としては、陰極室の供給水入り口を陰極室下部に配し、生成する水酸化ナトリウム水溶液出口を陰極室上部に配し、陽極室の塩化ナトリウム水溶液入口を陽極室下部に配し、反応により希釈された塩化ナトリウム水溶液出口を陽極室上部に配したものを用いた。
陽極としては、チタン製のパンチドメタル(短径:4mm、長径:8mm)に酸化ルテニウムと酸化イリジウムと酸化チタンとの固溶体を被覆したものを用いた。
陰極としては、SUS304のパンチドメタル(短径:5mm、長径:10mm)にルテニウム入りラネーニッケルを電着したものを用いた。
【0081】
(電流効率および電流効率のばらつきの測定)
電解槽にイオン交換膜を、電解槽内を陰極側の陰極室と陽極側の陽極室とに区切るように、かつイオン交換膜の第1の無機物粒子層が陰極に面し、イオン交換膜の第2の無機物粒子層が陽極に面するように装着した。
陽極とイオン交換膜とが接触するように陰極側を加圧状態にし、290g/Lの塩化ナトリウム水溶液および水をそれぞれ陽極室および陰極室に供給しながら、陽極室から排出される塩化ナトリウム濃度を200g/L、陰極室から排出される水酸化ナトリウム濃度を32質量%に保ちつつ、温度:90℃、電流密度:6kA/mの条件で1週間電解を行い、1週間後の電流効率を測定した。また、電流効率のばらつきは、同一条件で製造した5枚のイオン交換膜の電流効率を測定し、それらの標準偏差の2倍の値をばらつきの値とした。
【0082】
(アルカリ耐性の測定)
電解槽にイオン交換膜を、電解槽内を陰極側の陰極室と陽極側の陽極室とに区切るように、かつイオン交換膜の第1の無機物粒子層が陰極に面し、イオン交換膜の第2の無機物粒子層が陽極に面するように装着した。
陽極とイオン交換膜とが接触するように陰極側を加圧状態にし、290g/Lの塩化ナトリウム水溶液および水をそれぞれ陽極室および陰極室に供給しながら、陽極室から排出される塩化ナトリウム濃度を200g/L、陰極室から排出される水酸化ナトリウム濃度を32質量%に保ちつつ、温度:90℃、電流密度:6kA/mの条件で3日間以上電解を行い、電流効率を測定した。
陰極室から排出される水酸化ナトリウム濃度を、32質量%から40質量%まで2質量%間隔で増加させた4点の水酸化ナトリウム濃度に変更した以外は、各水酸化ナトリウム濃度について、それぞれ前記手法と同様にして電解を行い、各水酸化ナトリウム濃度において電流効率を測定した。
電流効率を縦軸、水酸化ナトリウム濃度を横軸としてグラフを作成し、上記で測定した水酸化ナトリウム濃度と電流効率の各点をプロットした。電流効率が94%を超え94%に最も近い点と、電流効率が94%を下回り94%に最も近い点、の2点を直線で結び、該直線上で電流効率94%の時の水酸化ナトリウム濃度を算出し、該水酸化ナトリウム濃度の値をアルカリ耐性の濃度とした。なお、いずれかの点の電流効率が94%であった場合は、その点をアルカリ耐性の濃度とする。
【0083】
(含フッ素ポリマー(A’1))
CF=CFとCF=CFOCFCFCFCOOCHとを共重合させて含フッ素ポリマー(A’1-1)~(A’1-6)を得た。加水分解処理後に得られる含フッ素ポリマー(A)におけるカルボン酸型官能基を有する構成単位の割合を表1に示す。
【0084】
(含フッ素ポリマー(B’1))
CF=CFとCF=CFOCFCF(CF)OCFCFSOFとを共重合させて含フッ素ポリマー(B’1-1)(加水分解処理後に得られる含フッ素ポリマー(B)におけるスルホン酸型官能基を有する構成単位の割合:15.29モル%)を得た。
CF=CFとCF=CFOCFCF(CF)OCFCFSOFとを共重合させて含フッ素ポリマー(B’1-2)(加水分解処理後に得られる含フッ素ポリマー(B)におけるスルホン酸型官能基を有する構成単位の割合:17.76モル%)を得た。
【0085】
(例1)
工程(a):
2台の押出機、共押出用のフィルムダイおよび引き取り機を備えた装置を用いて、含フッ素ポリマー(A’1-1)からなる厚さ12μmの層(C’)と、厚さ68μmの含フッ素ポリマー(B’1-1)の層とが積層された積層フィルム(1)を得た。
単層押出用のフィルムダイを用いて、厚さ30μmの含フッ素ポリマー(B’1-1)の単層フィルム(2)を得た。
【0086】
PTFEフィルムを急速延伸した後、100デニールの太さにスリットして得たモノフィラメントの強化糸と、5デニールのPETフィラメントを6本引きそろえて撚った30デニールのマルチフィラメントの犠牲糸を、強化糸1本に対し、犠牲糸2本の交互配列で平織りし、補強用の織布(強化糸の密度:10本/cm、犠牲糸の密度:20本/cm)を得た。
【0087】
単層フィルム(2)、織布、積層フィルム(1)、離型用PETフィルム(厚さ:100μm)をこの順に、かつ積層フィルム(1)の層(C’)が離型用PETフィルム側となるように一対のロール間に通し、積層、一体化した。離型用PETフィルムを剥がし、イオン交換膜前駆体膜を得た。
【0088】
酸化ジルコニウム(平均二次粒子径:1μm)の29.0質量%、メチルセルロースの1.3質量%、シクロヘキサノールの4.6質量%、シクロヘキサンの1.5質量%および水の63.6質量%からなるペーストを、イオン交換膜前駆体膜の層(S’)側にロールプレスにより転写し、第2の無機物粒子層を付着させた。膜表面における酸化ジルコニウムの付着量は、20g/mとした。
【0089】
工程(b):
第2の無機物粒子層付きイオン交換膜前駆体膜を、ジメチルスルホキシド/水酸化カリウム/水=5.5/30/64.5(質量比)のアルカリ水溶液に、75℃で浸漬し、加水分解処理することによってカルボン酸型官能基に変換できる基、スルホン酸型官能基に変換できる基をそれぞれ、カルボン酸型官能基(-COOK)、スルホン酸型官能基(-SOK)に変換し、乾燥させて、イオン交換複合膜を得た。
【0090】
工程(c):
含フッ素ポリマー(B’1-2)を加水分解処理し、ついで酸型化処理しスルホン酸基(-SOH)に変換し、エタノールに溶解させ、9.5質量%のエタノール溶液を調製した。該エタノール溶液に無機物粒子として酸化ジルコニウム(平均一時粒子径0.4μm)を10.8質量%加え、バインダー比を0.25とし、参加ジルコニウムの平均二次粒子径が1.3μmの塗布液(D)を得た。
複合膜における層(C)の表面に、塗布液(D)をスプレー法によって塗布し、第1の無機物粒子層を付着させ、イオン交換膜を得た。
イオン交換膜におけるカルボン酸型官能基およびスルホン酸型官能基をそれぞれカリウム塩型からナトリウム塩型に変換し、イオン交換膜の評価を行った。結果を表1に示す。
【0091】
(例2~17)
含フッ素ポリマー(A’1)の種類、工程(b)で使用されるアルカリ水溶液の温度、ジメチルスルホキシドの濃度、水酸化カリウムの濃度を表1に示すように変更した以外は、例1と同様にしてナトリウム塩型のイオン交換膜を得た。イオン交換膜の評価を行った。結果を表1に示す。
【0092】
【表1】
【0093】
加水分解処理後に得られる含フッ素ポリマー(A)におけるカルボン酸型官能基を有する構成単位の割合が特定の範囲内となる含フッ素ポリマー(A’)を用い、かつ加水分解処理においてアルカリ水溶液の温度が特定の範囲内である例1~8においては、得られたイオン交換膜を用いて塩化アルカリを電解する際の電流効率が高く、電流効率のばらつきが小さく、かつアルカリ耐性が高かった。
一方、アルカリ水溶液の温度が80℃以上である例9および10においては、得られたイオン交換膜を用いて塩化アルカリを電解する際の電流効率のばらつきが大きくなった。
アルカリ水溶液の温度が80℃以上である例11および12においては、得られたイオン交換膜を用いて塩化アルカリを電解する際の電流効率が低かった。
加水分解処理後に得られる含フッ素ポリマー(A)におけるカルボン酸型官能基を有する構成単位の割合が低すぎる例13においては、得られたイオン交換膜を用いて塩化アルカリを電解する際のアルカリ耐性が低かった。
加水分解処理後に得られる含フッ素ポリマー(A)におけるカルボン酸型官能基を有する構成単位の割合が高すぎる例14および例16においては、得られたイオン交換膜を用いて塩化アルカリを電解する際の電流効率が低かった。
アルカリ水溶液に、水溶性有機溶媒が含まれない例15においては、加水分解処理に50時間以上かかり、イオン交換膜を効率よく製造できなかった。
アルカリ水溶液の温度が40℃未満である例17においては、加水分解処理に20時間以上かかり、イオン交換膜を効率よく製造できなかった。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明のイオン交換膜は、塩化アルカリ水溶液を電解し、水酸化アルカリと塩素とを製造する塩化アルカリ電解に用いるイオン交換膜として有用である
【符号の説明】
【0095】
1 イオン交換膜、10 第1の無機物粒子層、12 層(C)、14 層(S)、14a 第1の層(S1)、14b 第2の層(S2)、16 第2の無機物粒子層、18 補強材、100 塩化アルカリ電解装置、110 電解槽、112 陰極、114 陽極、116 陰極室、118 陽極室、119 NaCl水溶液、120 淡NaCl水溶液、121 HO又はNaOH水溶液、122 NaOH水溶液。
図1
図2