(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-29
(45)【発行日】2022-04-06
(54)【発明の名称】シリコン単結晶の製造方法
(51)【国際特許分類】
C30B 29/06 20060101AFI20220330BHJP
【FI】
C30B29/06 502Z
(21)【出願番号】P 2018007053
(22)【出願日】2018-01-19
【審査請求日】2020-11-10
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】312007423
【氏名又は名称】グローバルウェーハズ・ジャパン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101878
【氏名又は名称】木下 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100187506
【氏名又は名称】澤田 優子
(72)【発明者】
【氏名】松村 尚
(72)【発明者】
【氏名】坪田 寛之
(72)【発明者】
【氏名】永井 勇太
(72)【発明者】
【氏名】安部 吉亮
【審査官】神▲崎▼ 賢一
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-155762(JP,A)
【文献】特開平03-083887(JP,A)
【文献】特開2015-017019(JP,A)
【文献】特表2000-503623(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 29/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
チョクラルスキー法により育成されるシリコン単結晶の製造方法であって、
ルツボにシリコン原料を装填するステップと、
ルツボ内のシリコン原料を溶融する初期段階において、シリコン原料を全溶融するために必要な出力の15%以上50%以下の範囲のヒータ出力であるシリコン原料が溶融しない低出力の状態を、予め設定された3時間以上20時間以下の間、保持するステップと、
前記低出力の状態を3時間以上20時間以下の間保持した後に、前記ヒータ出力を、シリコン原料を全溶融するために必要な出力に切り替えて、シリコン原料を溶融し、シリコン融液を形成するステップと、
前記シリコン融液が形成された前記ルツボからシリコン単結晶を引き上げるステップと、
を含
み、
前記ルツボ内のシリコン原料を溶融する初期段階において、シリコン原料を全溶融するために必要な出力の15%以上50%以下の範囲のヒータ出力であるシリコン原料が溶融しない低出力の状態を、予め設定された3時間以上20時間以下の間、保持するステップにおいて、
炉内のCOガス量を検出し、COガス濃度がピーク値から減少に転じ、前記ピーク時の濃度から30%以上減少した後、
前記ヒータ出力を、シリコン原料を全溶融するために必要な出力に切り替えて、シリコン融液を形成するステップを実行することを特徴とするシリコン単結晶の製造方法。
【請求項2】
前記ルツボ内のシリコン原料を溶融する初期段階において、シリコン原料を全溶融するために必要な出力の15%以上50%以下の範囲のヒータ出力であるシリコン原料が溶融しない低出力の状態を、予め設定された3時間以上20時間以下の間、保持するステップにおいて、
炉内の不活性ガスの流量を200L/min以上400L/min以下とすることを特徴とする請求項
1に記載されたシリコン単結晶の製造方法。
【請求項3】
前記ルツボにシリコン原料を装填するステップにおいて、
前記ルツボに装填されるシリコン原料の重量は、1本のシリコン単結晶を育成するのに必要なシリコン原料全体量の30%以下であることを特徴とする請求項1
または請求項2に記載されたシリコン単結晶の製造方法。
【請求項4】
前記シリコン原料を全溶融するために必要な出力の15%以上50%以下の範囲のヒータ出力であるシリコン原料が溶融しない低出力の状態を、予め設定された3時間以上20時間以下の間、保持するステップの後に、
前記ヒータ出力を、シリコン原料を全溶融するために必要な出力に切り替えて、前記シリコン原料を前記ルツボに追加投入するステップが実行されることを特徴とする請求項
3に記載されたシリコン単結晶の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコン単結晶の製造方法に関し、特にチョクラルスキー法によりルツボから引き上げられるシリコン単結晶において、炭素濃度をより低減することのできるシリコン単結晶の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
チョクラルスキー法により引き上げられるシリコン単結晶の育成中において、炭素が結晶中に多く取り込まれると、結晶欠陥が導入されやすくなる。そのため、従来からできるかぎり炭素が結晶中に取り込まれないよう工夫しながら結晶育成が行われている。
シリコン単結晶に取り込まれる炭素は、シリコン原料由来の含有炭素及び表面付着物に由来し、それらがシリコン融液に溶け込むことで育成する結晶中に取り込まれる。
【0003】
また、引上装置におけるヒータ、ルツボ、断熱材等の炭素を原材料とする部材(以下、炭素製部材と呼ぶ)に由来する場合もある。
即ち、シリコン原料を溶融中に、ルツボ内のシリコン融液からSiOガスが蒸発し、SiOが炭素製部材(C)と反応してCOガスを発生する。このCOガスがシリコン融液中に溶け込むことにより育成する結晶中に炭素が取り込まれる。
【0004】
従来、結晶中の炭素濃度を低減するための技術として、例えば特許文献1には、多結晶シリコン原料を不活性ガス雰囲気下で350℃~600℃に加熱し、シリコン原料表面の有機物を気化させてクリーニングする方法が開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、多結晶シリコン原料を5~60mbarの炉内圧で溶融し、100mbar≧の炉内圧でシリコン単結晶の引き上げを行う方法が開示されている。この方法によれば、原料溶融中の炉内圧を5~60mbarとすることにより炭素製部材から発生するCOガスのシリコン融液中への混入を抑制し、炭素濃度を低減することができる。
【0006】
また、特許文献3には、高温の炭素製部材からのCOガスの発生量を低減するために、ヒータや黒鉛ルツボ等の炭素製部材の表面に、SiC等のコーティングを施す方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第5615946号公報
【文献】特許第2635456号公報
【文献】特開平7-89789号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、特許文献1~3に開示された方法を用いることにより、シリコン単結晶中の炭素濃度を低減することができるが、炭素濃度をより低減したシリコン単結晶を求める要求を満足させるものではなかった。
そのため、シリコン単結晶中の炭素濃度をより低減するため、発明者らは鋭意研究を重ねた。その結果、炉内加熱中において、炭素製部材の表面から多量のCOガス、CO2ガスが発生することを知見した。原因は定かではないが、原因としては、例えば、炉内に残存する空気中の水分(H2O)と炭素製部材(C)との反応により発生すると推察される。
特に、CO2ガスに比べて、COガスは比較的低温(250℃~750℃)でより多く発生するため、溶解される前のシリコン原料と反応し、シリコン原料の表面に、SiC結合を有する膜を形成し、その膜がシリコン融液に溶融されることにより、結晶中の炭素濃度が高くなることを知見し、本発明を想到したものである。
【0009】
本発明は、前記したような事情の下になされたものであり、チョクラルスキー法により引き上げられるシリコン単結晶中の炭素濃度をより低減させることができるシリコン単結晶の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するためになされた、本発明に係るシリコン単結晶の製造方法は、チョクラルスキー法により育成されるシリコン単結晶の製造方法であって、ルツボにシリコン原料を装填するステップと、ルツボ内のシリコン原料を溶融する初期段階において、ヒータ出力を、シリコン原料を全溶融するために必要な出力の15%以上50%以下とし、かつ、3時間以上20時間以下保持するステップと、前記ヒータ出力を、シリコン原料を全溶融するために必要な出力とし、シリコン原料を溶融し、シリコン融液を形成するステップと、シリコン融液が形成された前記ルツボからシリコン単結晶を引き上げるステップと、 を含むことを特徴としている。
【0011】
尚、前記ルツボにシリコン原料を溶融する初期段階において、ヒータ出力を、シリコン原料を全溶融するために必要な出力の15%以上50%以下とし、かつ、3時間以上20時間保持するステップにおいて、炉内のCOガス量を検出し、COガス濃度がピーク値から減少に転じ、前記ピーク時の濃度から30%以上減少した後、前記ヒータ出力を、シリコン原料を全溶融するために必要な出力とし、シリコン融液を形成するステップを実行することが望ましい。
【0012】
また、前記ルツボにシリコン原料を溶融する初期段階において、ヒータ出力を、シリコン原料を全溶融するために必要な出力の15%以上50%以下とし、かつ、3時間以上20時間保持するステップにおいて、炉内の不活性ガスの流量を200L/min以上400L/min以下とすることが望ましい。
【0013】
また、前記ルツボにシリコン原料を装填するステップにおいて、前記ルツボに装填されるシリコン原料の重量は、シリコン原料を追加投入後の最終的な重量に対し、30%以下であることが望ましい。
【0014】
また、前記ヒータ出力を、シリコン原料を全溶融するために必要な出力の15%以上50%以下とし、かつ、3時間以上20時間以下保持するステップの後であって、前記ヒータ出力を、シリコン原料を全溶融するために必要な出力とし、前記シリコン原料を前記ルツボに追加投入するステップが実行されることが望ましい。
【0015】
このような方法によれば、炭素製部材から発生するCOガスとシリコン原料表面との反応が抑制され、シリコン原料表面におけるSiC結合を有する膜の形成を抑制することができる。即ち、前記SiCがシリコン融液に取り入れられることを原因とする炭素濃度の上昇を抑制することができる。
また、炭素製部材からCOガスを出しきることで、COガスがシリコン融液に混入することによる炭素濃度の上昇を抑制することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、チョクラルスキー法により引き上げられるシリコン単結晶中の炭素濃度をより低減させることができるシリコン単結晶の製造方法を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、本発明に係るシリコン単結晶の製造方法を実施可能な単結晶引上装置の構成を示す断面図である。
【
図2】
図2は、本発明に係るシリコン単結晶の製造方法の流れを示すフローである。
【
図3】
図3(a)、
図3(b)は、本発明の実施例の結果を示すグラフである。
【
図4】
図4は、本発明の他の実施例の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係るシリコン単結晶の製造方法について説明する。
本発明のシリコン単結晶の製造方法は、チョクラルスキー法によりルツボから引き上げられるシリコン単結晶において、従来課題を解決しつつ、結晶中の炭素濃度をより低減するための方法である。
【0019】
図1は、本発明に係るシリコン単結晶の製造方法を実施可能な単結晶引上装置の構成を示す断面図である。この単結晶引上装置1は、円筒形状のメインチャンバ2aの上にプルチャンバ2bを重ねて形成された炉体2と、炉体2内に収容されたルツボ3と、ルツボ3に装填されたシリコン原料Mを溶融するヒータ4とを有している。尚、ルツボ3は二重構造であり、内側が石英ガラスルツボ3a、外側が黒鉛ルツボ3bで構成されている。
また、ヒータ4の周囲には、ヒータ4の熱を効果的にルツボ3に与えるために、メインチャンバ2aの内壁に沿って保温部材13が設けられている。
【0020】
また、炉体2の上方には、シリコン単結晶(図示せず)を引き上げる引上機構5が設けられ、この引上機構5は、モータ駆動される巻き取り機構5aと、この巻き取り機構5aによって巻き上げられる引上ワイヤ5b(一部のみ図示)とにより構成される。この引上ワイヤ5bの先端に種結晶(図示せず)が取り付けられ、単結晶を育成しながら引き上げるようになっている。
【0021】
また、
図1に示すようにプルチャンバ2bの上部には、不活性ガスであるArガスを炉体2内に供給するためのガス供給口15が設けられている。
このガス供給口15には、バルブ16を介してArガス供給源17が接続されており、バルブ16が開かれるとArガスがプルチャンバ2b上部からルツボ3内に供給されるようになされている。
【0022】
また、メインチャンバ2aの底面には、複数の排気口18が設けられ、この排気口18には排気手段としての排気ポンプ19が接続されている。
この構成において、排気ポンプ19が駆動し、前記バルブ16が開かれることにより、ガス供給口15からArガスが炉体2内に供給され、ガス流を形成して排気口18から排気されるようになされている。
尚、ガス供給口15からのガス流量の調整は、バルブ16の開閉度及び排気ポンプ19の吸引速度を制御することによってなされる。
【0023】
また、メインチャンバ2a内において、ルツボ3の上方かつ近傍には、シリコン単結晶の周囲を包囲するよう上部と下部が開口形成され、育成中の単結晶にヒータ4等からの余計な輻射熱を与えないようにするための輻射シールド6が設けられている。
この輻射シールド6は、外側が水平環状部6a、内側が傾斜環状部6bにより形成され、傾斜環状部6bは図示するように中心方向下方に向け直線状に傾斜している。尚、この輻射シールド6は、図示しない昇降機構により上下移動可能に設けられている。
【0024】
また、単結晶引上装置1は、図示するようにシリコン原料の加熱温度を制御するヒータ4への供給電力量を制御するヒータ制御部9と、石英ガラスルツボ3を回転させるモータ10と、モータ10の回転数を制御するモータ制御部10aとを備えている。
また、石英ガラスルツボ3の高さを制御する昇降装置11と、昇降装置11を制御する昇降制御部11aと、成長結晶の引上速度と回転数とを制御するワイヤリール回転装置制御部12とを備えている。
【0025】
さらには、メインチャンバ2a上部に、気体取出管2a1を介して、炉体2内に存在するCOガス量を検出するためのガス分析装置7が接続されている。
また、この単結晶引上装置1は、単結晶引き上げの制御を行うためのプログラムを記憶した記憶装置8aと、前記プログラムを実行するための演算制御装置であるCPU8bとを有するコンピュータ8を備えている。
前記各制御部9、10a、11a、12及びガス分析装置7は、前記CPU8bに接続されている。
【0026】
続いて、
図1に示す単結晶引上装置1によりシリコン単結晶を製造する方法について説明する。
先ず、ルツボ3内に初期投入量として所定量のシリコン原料Mを装填する(
図2のステップS1)。この初期投入量は、1本のシリコン単結晶を育成するのに必要なシリコン原料全体量の30%以下とされる。これは、後述するようにルツボ加熱の初期段階において炉内にCOガスが発生するため、それによるシリコン原料Mへの汚染を極力少なくするためである。
【0027】
次いで、バルブ16を閉じたまま排気ポンプ19を起動させ、炉内の空気が排気口18から炉外に排出される。その後バルブ16を開けArガスを流す、その時のArガス流量は200L/min以上400L/min以下の流量で形成される。バルブ16の開閉作業を複数回繰り返し炉内の真空度を上昇させる。
これにより、炉内の空気が炉外に排気され、炉内雰囲気中の水分(H2O)及び炭素製部材の水分(H2O)の除去がなされる。
【0028】
次いで、コンピュータ8の記憶装置8aに記憶されたプログラムに基づき、CPU8bの指令によりヒータ制御部9を作動させてヒータ4を昇温させ、ルツボ3を加熱してシリコン原料Mの溶融作業が開始される(
図2のステップS3)。
この溶融作業開始から所定時間の間、ヒータ4の出力(W)は、シリコン原料Mを全溶解させるのに必要なヒータ出力(100%)に対して、15%以上50%以下の範囲のヒータ出力とされる。この低いヒータ出力ではシリコン原料Mは溶融しないが、比較的低温(250℃以上750℃以下の範囲含む)で加熱されることによって、炉内の炭素製部材(ヒータ4、ルツボ3、保温部材13等)からCOガスが発生し、これが排気される(Arガスに置換される)。
【0029】
このヒータ4の低出力の状態は、予め設定された3時間以上20時間以下の間、保持される(
図2の標準モードの場合)。これにより、炉内の炭素製部材からCOガスが発生しても、シリコン原料Mの温度を低温に維持することが可能であるため、COガスとシリコン原料Mの表面での反応を抑制することができる。
【0030】
尚、この初期段階のヒータ出力が、シリコン原料Mを全溶解させるためのヒータ出力に対し15%未満の場合、炉内の炭素製部材の温度が上昇せず、COガスが完全に放出されないため、好ましくない。一方、ヒータ出力が、シリコン原料Mを全溶解させるためのヒータ出力に対し50%より高い場合、炉内の炭素製部材の温度が上昇する前に、シリコン原料Mの温度が上昇し、COガスとシリコン原料Mの表面反応が促進され、シリコン融液の炭素濃度が増加するため、好ましくない。
【0031】
また、前記
図2のステップS3のように、3時間以上20時間以下の間、ヒータ出力を低く抑えることによって、炉内の炭素製部材から発生するCOガスを、炉外へ排気することができる。
尚、ヒータ出力を低く保持する時間が3時間未満の場合、炉内の炭素製部材からのCOガスの排出が不完全となるため、好ましくない。また、20時間以上の場合には、それ以上の効果が望めないため、好ましくない。
【0032】
また、前記のように炉内のArガス流量は200L/min以上400L/min以下である。シリコン原料MとCOガスとの反応を抑制するためには、できるだけ炉内に導入するArガス流量は多いほうが好ましい。
しかしながら、流量が200L/min未満では、COガスの排出効果が小さいため、好ましくない。一方、流量が400L/min以上の場合は、COガスの排出効果が飽和し、大量のArガスを排出するポンプの負荷が大きく、ポンプが停止するトラブルが発生しやすくなる。また、Arガスの流量が多いと、コストが高くなるため、好ましくない。
【0033】
ステップS3の後、CPU8bの指令によりヒータ制御部9を制御し、ヒータ4の出力(W)を、シリコン原料Mを全溶解させるのに必要なヒータ出力に切り替える(
図2のステップS4)。
これにより、ルツボ3内のシリコン原料Mが全て溶融される。シリコン原料Mが溶融され、生成されたシリコン融液からはSiOガスが発生し、炉内の炭素部材(ヒータ4、ルツボ3、保温部材13等)との反応でCOガスが発生するが、ガス流れの経路的にシリコン原料Mよりも排気ポンプ19側の下流側での発生であるため影響は少ないものとなる。
【0034】
尚、前記ステップS3では、ヒータ出力を低く抑える時間を予め設定された3時間以上20時間以上としたが、より製造効率を向上させためには、
図1に示すガス分析装置7(例えば、四重極型質量分析計)を利用すればよい(
図2の高効率モードの場合)。
即ち、ステップS2の後、ヒータ4の出力(W)は、シリコン原料Mを全溶解させるのに必要なヒータ出力(100%)に対して、15%以上50%以下の範囲のヒータ出力とされる(
図2のステップS6)。
【0035】
CPU8bは、ガス分析装置7の分析結果に基づいて炉内のCOガス量を監視し、COガスの量がステップS3の加熱工程により増加し、減少に転じた後、COガス量ピーク値の濃度の30%以上減少した時点を検出する(
図2のステップS7)。
尚、COガス量ピーク値の濃度の30%以上減少した時点としたのは、COガス量が増加から減少に転じた後、再びCOガス量が約20%程度増加する場合があること、また分析のばらつき等を考慮したためである。
前記ステップS7の条件が満たされると、CPU8bはヒータ制御部9を制御し、ヒータ4の出力(W)を、シリコン原料Mを全溶解させるのに必要なヒータ出力に切り替える(
図2のステップS4)。
このようにすることで、ステップS3の保持時間を予め決められた3時間以上20時間以下の時間に設定する必要がなく適切な保持時間となるため、無駄な加熱時間が無くなり製造効率を向上させることができる。
【0036】
このシリコン原料Mの初期装填重量は、前記したように最終的な装填重量に対して、30%以下である。
このように、シリコン原料Mの充填量を少なくすることにより、シリコン原料表面に形成されるSiC結合を有する膜の形成を抑制することができ、シリコン融液の炭素濃度の増加を抑制することができる。
【0037】
また、炉内の炭素製部材からのCOガスの放出が完了してから、全てのシリコン原料Mを追加投入するほうが炭素汚染量を減少させることができる。
そのため、シリコン原料Mを追加投入するタイミングは、シリコン原料MとCOガスとの反応を減少させるために、前記ヒータ出力を、シリコン原料を全溶融するために必要な出力の15%以上50%以下とし、かつ、3時間以上20時間以下保持するステップ(S3,S7)の後であって、前記ヒータ出力を、シリコン原料を全溶融するために必要な出力とし、シリコン原料を溶融し、シリコン融液を形成するステップ(S4)の前に、前記シリコン原料を前記ルツボに追加投入するステップが実行されることが望ましい。
【0038】
前記ルツボ3において、全てのシリコン原料Mが溶融され、シリコン融液が形成されると、単結晶引上工程に移行する(
図2のステップS5)。
即ち、CPU8bの指令により昇降装置制御部11aと、ワイヤリール回転装置制御部12とが作動し、回転するルツボ3の高さ位置が調整されるとともに、巻き取り機構5aが作動してワイヤ5bが降ろされる。
【0039】
そして、ワイヤ5bの先端に取り付けられた種結晶がシリコン融液に接触され、種結晶の先端部を溶解し、ヒータ出力により温度調整した後にネッキングが行われてネック部(直径3~6mm、長さ100~400mm)が形成される。
しかる後、CPU8bの指令によりヒータ4への電力供給や、単結晶引上速度(通常、毎分数ミリの速度)などをパラメータとして引き上げ条件が調整され、直胴部直径まで結晶径を拡げるクラウン工程、製品となる単結晶を育成する直胴工程、直胴工程後の単結晶直径を縮径するテール部工程の単結晶引上工程が順に行われる。
【0040】
以上のように本発明に係る実施の形態によれば、ルツボ3にシリコン原料Mを溶融する初期段階において、ヒータ4出力を、シリコン原料Mを全溶解させるのに必要なヒータ出力の15以上50%以下とし、炉内の炭素製部材から発生するCOガスを放出させ、排気した後、ヒータ出力を上昇させ、ルツボ3内にシリコン融液を形成するようにした。
これにより、炭素製部材から発生するCOガスとシリコン原料表面の反応が抑制され、シリコン原料M表面におけるSiC結合を有する膜の形成を抑制することができる。即ち、前記SiC結合を有する膜がシリコン融液に取り入れられることを原因とする、シリコン融液中の炭素濃度の上昇を抑制することができる。
【0041】
また、前記実施の形態においては、炉内に導入する不活性ガスをArガスとしたが、本発明にあっては、それに限定されることなく、例えばHe(ヘリウム)ガスのような他の不活性ガスでもよい。
【実施例】
【0042】
本発明に係るシリコン単結晶の製造方法について、実施例に基づきさらに説明する。本実施例では、前記実施の形態に基づき以下の実験を行った。
【0043】
(実験1)
実験1では、炉内において炭素製部材から発生するCOガス量について検証した。
サンプルとしては、炉内において使用されているものを用いた。サンプル1は10×10×5mmの断熱材とし、サンプル2は10×10×5mmのCIP材とした。
炉内を昇温速度10℃/minで1000℃まで加熱し、大気圧で、Heガスを流量50mL/min流した。
そして、炉内に発生するガスの重量を、TPD-MS(Temperature Programmed Desorption-Mass Spectrometry)を用いて分析した。その結果を
図3に示す。
尚、サンプル1の結果を
図3(a)のグラフに示し、サンプル2の結果を
図3(b)のグラフに示す。
図3(a)、(b)のグラフにおいて、縦軸は炭素製部材から発生した脱ガスの重量(μg)であり、横軸は炉内温度(℃)である。
【0044】
これらのグラフに示されるように、サンプル1、2ともに炉内温度が250℃~750℃においてCOガスの発生量が多いことを確認した。即ち、
図3(a)(b)から明らかなようにCO
2ガスよりもCOガスの脱ガス重量が大きく、COガスがシリコン単結晶中の炭素濃度に与える影響が大きいことを確認した。
【0045】
一般的に、シリコン原料を溶融し、シリコン融液とする場合、炉内の最高温度は1800℃程度が必要である。通常、炉内は温度分布が存在し、発熱源である
図1のヒータ周辺が最も高温になる。ヒータ出力をシリコン原料が全溶解するために必要な出力に一気に上昇させた場合、ヒータ周辺およびルツボ内の原料シリコンは高温状態となるが、ヒータから離れて設置された炭素製部材は低温状態である。ヒータから離れて設置された炭素製部材が250~750℃になった時点では、シリコン原料はかなりの高温となり、発生したCOガスとの反応が促進される。
そのため、本発明では、ヒータ出力を、ヒータから離れた炭素製部材の温度を250~750℃に維持可能なヒータ出力とし、3時間以上20時間以下維持することした。この炭素製部材の温度を250~750℃に維持可能なヒータ出力は、シリコン原料を全溶融するために必要なヒータ出力の15%以上50%以下に相当する。
【0046】
(実験2)
実験2では、32インチの石英ルツボに初期投入量として100kgのシリコン原料を装填し、原料溶融工程の初期のヒータ出力保持時間と、炉内のAr流量とを表1に示す条件とし、原料溶融を実施した。
【0047】
原料溶融工程初期において、所定の保持時間経過後に270kgのシリコン原料を追加し、ヒータ出力を上昇させて全シリコン原料を溶融し、シリコン融液として直径300mmの結晶の引き上げを行った。
そして、引き上げた結晶の固化率85%の位置の炭素濃度をFT-IR(フーリエ変換赤外分光光度計)で測定した。各実施例の条件、及び結果を表1に示す。
【0048】
【0049】
表1に示すように、実施例1~実施例6では、炭素濃度が1.0×1015atoms/cm3以下の低い値が得られ、本発明の有効性を確認できた。
一方、比較例1では、炭素濃度が1.7×1015atoms/cm3と高い値となった。これは、ヒータ出力が10%と低く、炉内の炭素製部材の温度が上昇せず、COガスが完全に放出されなかったためと考えられる。
また、比較例2では、炭素濃度が2.0×1015atoms/cm3と高い値となった。これは、ヒータ出力が60%と高く、炉内の炭素製部材の温度が上昇する前に、シリコン原料の温度が上昇し、シリコン原料表面とCOガスとの反応が促進され、シリコン融液の炭素濃度が増加したものと考えられる。
【0050】
また、比較例3では、炭素濃度が1.5×1015atoms/cm3と高い値となった。これは、初期ヒータ出力の保持時間が2時間と短すぎ、COガスの排出が不完全となったためと考えられる。
また、比較例4では、炭素濃度が1.8×1015atoms/cm3と高い値となった。これは、Ar流量が100L/minと少なすぎ、COガスの排出効果が小さいために、炉内でのCOガスの反応により炭素濃度が増加したものと考えられる。
【0051】
(実験3)
実験3では、本実施の形態のように、ルツボ加熱初期段階でのヒータ出力の制御が効果を有するか否かについて検証した。
実施例7、8では、φ150mm結晶を育成するために必要なシリコン原料を溶解する際のヒータ出力(100kW)に対しヒータ出力を30kWとし、3時間、その状態を保持した後、ヒータ出力を100kWとしてシリコン融液を形成した。
実施例7では、炉内のAr流量を150L/minとし、実施例8では120L/minとした。
【0052】
比較例5、6として、従来のようにヒータ出力をルツボ加熱開始時から100kWとしシリコン融液を形成した。比較例5では、炉内のAr流量を150L/minとし、比較例6では120L/minとした。
その他の条件は、実施例7、8、比較例5、6において同一条件とした。
【0053】
実施例7、8、及び比較例5、6の結果を
図4のグラフに示す。
図4のグラフにおいて、横軸に示す実施例7、8、比較例5、6の条件毎に、縦軸に炭素濃度(10
15atoms/cm
3)を試行毎にプロットした。
このグラフに示すように、加熱初期段階でのヒータ出力を低く保持することにより、結晶中の炭素濃度が従来よりも大きく低減(約58%)できることを確認できた。
【0054】
以上の実施例の結果より、本発明によれば、従来よりも結晶中の炭素濃度を大幅に低減できることを確認した。
【符号の説明】
【0055】
1 単結晶引上装置
2 炉体
3 ルツボ
4 ヒータ
5 引上機構
7 ガス分析装置
8 コンピュータ
8a 記憶装置
8b CPU
9 ヒータ制御部
10 ルツボ回転機構