(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-29
(45)【発行日】2022-04-06
(54)【発明の名称】5nm~20nmの波長域用の反射光学素子を補正する方法
(51)【国際特許分類】
G03F 7/20 20060101AFI20220330BHJP
G03F 1/52 20120101ALI20220330BHJP
G03F 1/84 20120101ALI20220330BHJP
G02B 17/00 20060101ALI20220330BHJP
G02B 19/00 20060101ALI20220330BHJP
G02B 5/08 20060101ALI20220330BHJP
【FI】
G03F7/20 503
G03F1/52
G03F1/84
G02B17/00 Z
G02B19/00
G02B5/08 C
(21)【出願番号】P 2019546888
(86)(22)【出願日】2018-02-27
(86)【国際出願番号】 EP2018054769
(87)【国際公開番号】W WO2018158229
(87)【国際公開日】2018-09-07
【審査請求日】2021-02-26
(31)【優先権主張番号】102017203246.4
(32)【優先日】2017-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】503263355
【氏名又は名称】カール・ツァイス・エスエムティー・ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100205833
【氏名又は名称】宮谷 昂佑
(72)【発明者】
【氏名】ヨアヒム カルデン
【審査官】冨士 健太
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-326347(JP,A)
【文献】特開2014-017442(JP,A)
【文献】特表2014-532309(JP,A)
【文献】特開2003-066195(JP,A)
【文献】特表2005-506553(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0002662(US,A1)
【文献】特開平11-202475(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104749871(CN,A)
【文献】独国特許出願公開第102014225197(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/00- 5/136
9/00-21/36
25/00-25/04
G03F 1/00- 1/86
7/20- 7/24
9/00- 9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上の多層系を有する5nm~20nmの波長域用の反射光学素子を補正する方法であって、前記多層系は、極紫外波長域の波長の屈折率の実部が異なる少なくとも2つの異なる材料が交互に配置された層を有する方法において、
前記多層系の表面にわたる反射率分布を測定するステップと、
測定された反射率分布を前記多層系の前記表面にわたる反射率の目標分布と比較して、目標反射率を超える測定反射率を有する1つ又は複数の部分表面を求めるステップと、
前記1つ又は複数の部分表面にイオン又は電子を照射するステップと
を含
み、
照射中の前記イオン又は前記電子のエネルギーは、スパッタ限界未満及び/又は圧縮限界未満であるように選択されることを特徴とする方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法において、前記目標分布は、平均からの変動が1%以下であることを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項1
又は2に記載の方法において、パルスイオンビーム又はパルス電子ビームを照射に用いることを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項1~
3のいずれか1項に記載の方法において、ガリウム、インジウム、ビスマス、スズ、又は金のイオンを照射に用いることを特徴とする方法。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の方法において、前記反射光学素子は、ミラー、マスクブランク、又はマスクであることを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板上の多層系を有する5nm~20nmの波長域用の反射光学素子を補正する方法であって、多層系は、極紫外波長域の波長の屈折率の実部が異なる少なくとも2つの異なる材料が交互に配置された層を有する方法に関する。本発明はさらに、基板上の多層系を有する5nm~20nmの波長域用の反射光学素子であって、多層系は、極紫外波長域の波長の屈折率の実部が異なる少なくとも2つの異なる材料が交互に配置された層を有する反射光学素子に関する。本発明はさらに、光学系及びEUVリソグラフィ装置に関する。本願は、2017年2月28日の独国特許出願第10 2017 203 246.4号の優先権を主張し、上記出願の全内容を参照により本明細書に援用する。
【背景技術】
【0002】
EUVリソグラフィ装置において、極紫外(EUV)波長域(例えば、約5nm~20nmの波長)用の反射光学素子、例えば多層系に基づくマスク又はミラー等が、半導体コンポーネントのリソグラフィに用いられる。EUVリソグラフィ装置は、概して複数の反射光学素子を有するので、十分に高い全体的な反射率を確保するためにできるだけ高い反射率を有しなければならない。
【0003】
反射光学素子の多層系の表面にわたる反射率の分布は、かかる反射光学素子を有する光学系の結像特性、例えばアポダイゼーション及び波面に影響を及ぼし得る。多くの場合の関心事は、反射された放射線の特に高い均一性である。例えば光学系により利用可能となる放射線の均一性を高めるために、場合によっては1つ又は複数のEUVミラー又はマスクを補正する必要があり得る。同様の光学系は、EUVリソグラフィだけでなくマスク又はウェハ検査用のデバイスでも用いられる。
【0004】
EUVリソグラフィ用のマスクの製造に関連して、特に集束電子ビームでの照射によりマスク上の多層系の反射率を局所的に低下させることが、特許文献1から知られている。特に、モリブデン及びケイ素に基づく多層系では、電子ビームにより多層系にエネルギーが導入されることで、エネルギー線量に比例し且つケイ化モリブデンの形成に基づく層厚の収縮が起こる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】米国出願公開第2002/0122989号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、EUVミラーを補正する方法を提案することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的は、基板上の多層系を有する5nm~20nmの波長域用の反射光学素子を補正する方法であって、多層系は、極紫外波長域の波長の屈折率の実部が異なる少なくとも2つの異なる材料が交互に配置された層を有する方法において、
多層系の表面にわたる反射率分布を測定するステップと、
測定された反射率分布を多層系の表面にわたる反射率の目標分布と比較して、目標反射率を超える測定反射率を有する1つ又は複数の部分表面を求めるステップと、
1つ又は複数の部分表面にイオン又は電子を照射するステップと
を含む方法により達成される。
【0008】
EUV放射線用に設計された多層系の反射率は、材料の交互配列により確保されるが、これは各層厚及び層間の界面に非常に敏感に依存する。正確な周期性が失われる結果としてその点における反射率が低下するように、多層系の照射により構造を局所的に変えることが可能である。
【0009】
提案される手順の一利点として、光学系にすでに存在しているミラー又はマスクを点検すること、及び場合によっては局所的に照射することができる。光学系の設計に応じて、照射を現場で、おそらく光学系の動作中にさえ行うこともできる。提案される手順は、マスク及びマスクブランクの検査用のデバイスでも同様に用いることができる。光学系外のミラーも提案のように補正することができる。
【0010】
表面にわたる反射強度の変動は、特に入射放射線の変動に基づき得る。これは、入射放射線の強度変動が少なくとも部分的に補償される反射率の目標分布を確認することにより防ぐことができる。十分に均一な入射放射線強度を取ることができるか、又はEUVミラー若しくは別の反射光学素子での反射により表面にわたる既存の強度分布が大きく変化しすぎることが防止される場合、比較的一定の目標分布、有利には平均からの変動が1%以下、好ましくは0.5%以下、特に好ましくは0.1%以下の目標分布を取ることができる。したがって、反射放射線の表面にわたる強度分布の平均からの変動が1%以下、好ましくは0.5%以下、特に好ましくは0.1%以下であるように、入射放射線の変動を補償するための目標分布を選択することが可能である。目的の用途に応じて、任意の所望の目標分布を選択することができる。提案される手順を用いて、上記点における目標反射率に近似するように実際の反射率を局所的に低下させることができる。
【0011】
照射中のイオン又は電子のエネルギーは、スパッタ限界又は圧縮限界未満、好ましくはスパッタ限界及び圧縮限界未満であるように選択されることが有利である。多層系の材料の除去は、反射光学素子の光学特性の望ましくない変化と、照射点における反射率の制御下にない低下につながり得る。スパッタリングされた材料は、反射光学素子の表面上の隣接する部分表面の望ましくない汚染も招き得る。圧縮は、反射光学素子の光学特性を変化させ得る。
【0012】
パルスイオンビーム又はパルス電子ビームが照射に用いられることが有利である。このように、導入されるエネルギー線量をより良好に制御することができる。したがって、特に、エネルギー導入が原子レベルの多層系の構造、特に個々の層間の界面の急峻性を変えるのに十分ではあるものの、多層系の収縮又は膨張につながることによりミラーの光学特性を変化させ得る化学反応を促進しないことを確実にすることが、より容易に可能である。
【0013】
好ましくは、ガリウム、インジウム、ビスマス、スズ、又は金のイオンが照射に用いられる。特に、これらのイオンビームで集束イオンビームを提供することが可能である。特にガリウムは、低い溶融温度及び低いガス圧を示すので特に適しており、これは、ガリウムイオンビームが特に良好に制御可能であることを意味する。
【0014】
さらに別の態様では、課題を解決するのは、上述の方法により製造又は補正された、基板上の多層系を有する5nm~20nmの波長域用の反射光学素子であって、多層系は、極紫外波長域の波長の屈折率の実部が異なる少なくとも2つの異なる材料が交互に配置された層を有する反射光学素子である。
【0015】
好ましい実施形態では、反射光学素子、ミラー、マスクブランク、又はマスクの形態で具現される。ミラーの構成を有する反射光学素子は、マスクブランクとして働くことができる。例えば、マスクブランクの反射面を吸収層の塗布により構造化して、このようにマスクを得ることができる。マスク構造を表すのに用いられることが多いパラメータは、例えば、「限界寸法」又はCDとして表される線の幾何学的幅である。
【0016】
さらに別の態様では、目的を達成するのは、記載したような又はさらに上述したように補正された反射光学素子を有する光学系である。かかる光学系は、例えばEUVリソグラフィ装置又はウェハ又はマスク用の検査システムで用いることができる。
【0017】
さらに目的を達成するのは、記載したような反射光学素子を有するような光学系とEUV放射源とを有するEUVリソグラフィ装置であって、EUV放射源の放射線がミラーの多層系の表面にわたってさまざまな強度でミラーに入射し、二乗平均粗さが0.25nmを超える1つ又は複数の部分表面が高強度の表面領域にあるEUVリソグラフィ装置である。二乗平均(RMS)粗さは、表面の平均面に対する全偏差の和が最小となるような平均面に対する表面上の測定点の偏差の2乗の平均から計算される。特にEUVリソグラフィの光学素子に関して、0.1μm~200μmの空間周波数の粗さは散乱放射線の増加につながり、これが反射率を低下させるので、この範囲の粗さが特に重要である。
【0018】
さらに、課題を解決するのは、さらに上述したように補正された反射光学素子を有するような光学系とEUV放射源とを有するEUVリソグラフィ装置であって、EUV放射源の放射線が反射光学素子の多層系の表面にわたってさまざまな強度でミラーに入射し、イオン又は電子を照射された1つ又は複数の部分表面が高強度の表面領域にあるEUVリソグラフィ装置である。
【0019】
リソグラフィプロセスに用いられる放射場の照明の均一性は、場の中心よりも放射場の縁の方が透過率の低いEUVリソグラフィ装置の光学系により通常は制限されることが分かった。したがって、場の中心等の高入射強度領域で多少低い反射率を有するか又はその点で補正された1つ又は複数の反射光学素子を設けることが特に有利である。
【0020】
好ましい例示的な一実施形態に関して本発明をより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図2】照明されたEUVミラーの概略平面図を示す。
【
図3】多層系を有するEUVミラーの構成を概略的に示す。
【
図4】多層系を有するマスクの構成を概略的に示す。
【
図6】イオンの進入後の
図5の多層系の構造を概略的に示す。
【
図7】補正方法案の例示的な実行のプロセスを概略的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1は、例示的なEUVリソグラフィ装置10を概略的に示す。基本的なコンポーネントは、照明系14、マスク17、及び投影系20である。EUVリソグラフィ装置10は、その内部のEUV放射線の吸収ができる限り少ないように真空条件下で作動される。
【0023】
プラズマ源又はシンクロトロンが、例えば放射源12として働き得る。ここに示す例では、レーザ作動プラズマ源が用いられる。約5nm~20nmの波長域の照射された放射線は、最初にコレクタミラー13により集束される。動作ビーム11は、続いてビーム経路内で続く照明系14の反射光学素子に導入される。
図1に示す例では、照明系14はさらに2つのミラー15、16を有する。ミラー15、16は、ウェハ21に結像されることを意図した構造を有するマスク17へビームを誘導する。マスク17も同様に、EUV波長域用の反射光学素子であり、リソグラフィプロセスに応じて交換可能である。投影系20を用いて、マスク17から反射したビームは、ウェハ21に投影され、それによりマスクの構造が上記ウェハに結像される。図示の例では、投影系20は2つのミラー18、19を有する。指摘されるべきは、投影系20及び照明系14の両方がそれぞれ1つのみ、又は3つ、4つ、5つ、若しくはそれ以上のミラーを有し得ることである。
【0024】
ここに示すミラー13、15、16、18、19及びマスク17のそれぞれが、基板上の多層系を有することができ、多層系は、極紫外波長域の波長の屈折率の実部が異なる少なくとも2つの異なる材料が交互に配置された層を有し、以下のステップ:
多層系の表面にわたる反射率分布を測定するステップと、
測定された反射率分布を多層系の表面にわたる反射率の目標分布と比較して、目標反射率を超える測定反射率を有する1つ又は複数の部分表面を求めるステップと、
1つ又は複数の部分表面にイオン又は電子を照射するステップと
により補正することができる。
【0025】
これが特に有利なのは、EUVリソグラフィ装置の光学系のミラー200を補正する場合であり、ミラー200の多層系の表面202にわたってさまざまな強度でEUV放射源の放射線が入射する。
図2には、多層系の表面202のうち、平均等の閾値を超える強度の入射放射線が入射する領域204が示されている。上記領域204におけるミラー200の反射率を低下させるために、部分表面206に電子又は好ましくはイオンを照射した。このような照射により、多層系の周期性が乱され、部分表面の領域の反射率が低下した。特に、個々の層間の界面又は多層系の表面は、0.25nmを超えるRMS粗さに粗面化され、それにより散乱放射線の強度が増すと共に対応して反射率が低下する。指摘されるべきは、ここに示す例では、高強度の領域204が照射された部分表面206を完全に包含し、それよりも多少大きいことである。さらに他の実施形態では、状況が逆であってもよく、又は領域240及び部分表面206が同一であり得るか若しくは部分的にのみ相互に重なり得る。ミラー200に関連した言及は、マスク及びマスクブランクにも当てはまる。
【0026】
図3は、多層系54に基づく反射コーティングを有するEUVミラー50の構成を概略的に示す。これは、例えばリソグラフィ露光が実行される動作波長の屈折率の実部が大きい材料の層(スペーサ56とも呼ぶ)及び動作波長の屈折率の実部が小さい材料の層(アブソーバ57とも呼ぶ)を基板51上に交互に施した層を含み、アブソーバ・スペーサ対がスタック55を形成する。ある意味では、これにより、ブラッグ反射が起こる吸収層に相当する格子面を有する結晶が模倣される。通常、EUVリソグラフィ装置又は光学系の反射光学素子は、最大反射率の各波長がリソグラフィプロセス又は光学系の他の用途の動作波長と実質的に一致するように設計される。
【0027】
個々の層56、57の厚さは、また反復スタック55の厚さも、達成しようとするスペクトル若しくは角度依存反射プロファイル又は動作波長の最大反射率に応じて、多層系54全体で一定であってもよく、又は多層系54の表面若しくは全厚にわたって変わってもよい。各動作波長の最大反射率を高めるために、アブソーバ57及びスペーサ56からなる基本構造にさらに他の吸収性のより高い材料及びより低い材料を補うことにより、反射プロファイルに制御下で影響を及ぼすこともできる。そのために、スタックによってはアブソーバ及び/又はスペーサ材料を相互に交換してもよく、又はスタックを2つ以上のアブソーバ及び/又はスペーサ材料から構成してもよい。さらに、スペーサ及びアブソーバ層56、57間に拡散バリアとして追加層を設けることも可能である。例えば13.4nmの動作波長で一般的な材料の組み合わせは、アブソーバ材料としてのモリブデン及びスペーサ材料としてのケイ素である。この場合、スタック55は厚さが約6.7nmであることが多く、スペーサ層56は通常はアブソーバ層57よりも厚い。さらに他の典型的な材料の組み合わせは、特にケイ素-ルテニウム又はモリブデン-ベリリウムである。さらに、場合によっては多層設計でもある保護層43を多層系54に設けることができる。
【0028】
EUVリソグラフィ用の反射光学素子、特にコレクタミラーの典型的な基板材料は、ケイ素、炭化ケイ素、シリコン含浸炭化ケイ素、石英ガラス、チタンドープ石英ガラス、ガラス、及びガラスセラミックである。さらに、基板は、銅、アルミニウム、銅合金、アルミニウム合金、又は銅アルミニウム合金からなることもできる。ミラー、マスク、及びマスクブランクに特に好ましいのは、熱膨張率が低い基板材料である。
【0029】
上記の構成を有するミラーを、マスクの製造用のマスクブランクとして用いることもできる。対応するマスク59を
図4に概略的に示す。マスク59は、吸収層58が多層系54の任意の保護層53上に設けられる点で
図3のミラー50とは異なる。吸収層58は、入射EUV放射線の大部分を吸収し、これは、この表面領域で反射されるEUV放射線が大幅に少なく、ウェハの対応する表面領域に位置付けられるフォトレジストが露光されないことを意味する。吸収層58に適した材料は、例えば特に、アルミニウム、アルミニウム銅合金、クロム、タンタル、チタン、タングステン、ニッケルシリサイド、ホウ化タンタル、窒化タンタル、タンタルシリサイド、タンタルシリコンナイトライド、窒化チタンであり得る。多層吸収層を設けることも可能である。吸収層を施す前のマスクブランク、又はマスクの場合は吸収層が設けられていない部分表面を、上記提案のように補正することができる。
【0030】
図5は、2つのスペーサ層56及び2つのアブソーバ層57に関する照射前の多層系の構造を概略的に示す。一般性を失わずに、本例のスペーサ材料はケイ素であり、ケイ素原子560で示し、アブソーバ材料はモリブデンであり、モリブデン原子570で示す。非照射状態では、ケイ素原子560及びモリブデン原子570の配列は、その各層56、57で規則性が高く、これは多層系の高い周期性及び高い反射率として表れる。
【0031】
図6は、ケイ素原子560及びモリブデン原子570の各層56、57における配列に対するガリウムイオン500の影響を概略的に示す。ガリウムイオン500は、多層系内で行き詰まるまでその軌道501に沿って種々の原子560、570と繰り返し非弾性散乱を起こす。侵入深さは、ガリウムイオンのエネルギーに応じて、数ナノメートル~数十ナノメートルである。ガリウムイオン500が非弾性散乱した軌道501に沿った原子560、570は、それ自体が隣接する原子560、570と非弾性散乱を起こし、原子560、570の秩序性を低下させた。特に、個々の層56、57間の界面が粗面化される。ガリウムイオンの数に応じて、イオンを照射された部分表面の領域の二乗平均粗さは、0.25nmを超え得る、又は0.35nmを超え得る、又は0.5nmさえ超え得る。
【0032】
特に、ミラーの場合、又はすでに非常に均一な照射での使用の場合、又はマスクの場合、補正により、多層系の表面にわたる5nm~20nmの波長域の最大反射率の波長でのその反射率は、平均からの変動が1%以下となり得る。
【0033】
粗さの増加に加えて、イオンの数又は濃度に応じてイオンの存在がスペーサ層又はアブソーバ層の屈折率の実部及び虚部を変えることが可能であるので、スペーサ層とアブソーバ層との間の光学定数を減らすことができ、これも同様に反射率の低下をもたらす。
【0034】
図7は、ここで提案される補正方法の一実施形態のプロセスを例として示す。第1ステップ601において、EUVミラー、マスク、又はマスクブランクの多層系の表面にわたる反射率分布が測定される。前述のように、これらの光学素子は、いずれの場合も基板上の多層系を有する5nm~20nmの波長域用の反射光学素子であり、多層系は、極紫外波長域の波長の屈折率の実部が異なる少なくとも2つの異なる材料が交互に配置された層を有する。
【0035】
第2ステップ603において、測定された反射率分布が多層系の表面にわたる反射率の目標分布と比較される。EUVミラーの用途及びタイプに応じて、目標分布は、多層系の表面にわたって不均一な強度を有する入射放射線が反射される際に反射放射線の強度分布が表面にわたってより均一になるよう最適化され得るか、又は均一な強度分布を有する入射放射線が反射される際に可能であれば強度分布の均一性が悪化しないよう最適化され得る。この場合、目標分布は、平均値からの変動が1%以下、好ましくは0.5%以下、特に好ましくは0.1%以下となるべきである。
【0036】
続いて、第3ステップ605において、目標反射率を超える測定反射率を有する1つ又は複数の部分表面が求められる。ステップ607において、上記1つ又は複数の部分表面にガリウムイオンがパルス状に照射される。ガリウムイオンに加えて、インジウム、ビスマス、スズ、若しくは金のイオン、又は電子も上記1つ又は複数の部分表面にパルス状に照射され得る。パルス照射により、導入されるエネルギー線量をより良好に制御することができる。したがって、特に、エネルギー導入が原子レベルの多層系の構造を変えるのに十分ではあるものの、多層系の収縮又は膨張につながることにより各反射光学素子の光学特性を変化させ得る化学反応を促進しないことを確実にすることが、より容易に可能である。
【0037】
特に、照射中のイオンの又は場合によっては電子のエネルギーは、スパッタ限界未満及び圧縮限界未満であるように有利に選択されるべきである。多層系の材料の除去は、EUVミラー、マスク、又はマスクブランクの光学特性の望ましくない変化と、照射点における反射率の制御下にない低下につながり得る。スパッタリングされた材料は、各反射光学素子の表面上の隣接する部分表面の望ましくない汚染も招き得る。材料の性質に応じて、イオン又は電子のエネルギーはさらに、化学反応の高密度化(densification)等により照射中に照射された層の圧縮が起こらず個々の層間の界面の急峻性のみが影響を受けるよう選択され得る。圧縮は、ミラー、マスクブランク、又はマスクの光学特性を変化させ得る。
【0038】
さらに、集束したイオンビーム又は場合によっては電子ビームで反射率を補正するために1つ又は複数の部分表面が照射されれば特に有用であることが分かった。このように、より小さな部分表面を選択的に補正することもできる。集束イオンビームを利用可能にする市販のデバイスでは、最大10nmの横分解能が得られる。市販の電子描画装置(writers)を用いて、サブナノメートル範囲までの分解能を達成することができる。したがって、各反射光学素子の反射率を特に精密に補正することが可能である。特に均一な補正を達成することができるのは、数十ナノメートル~数マイクロメートルの範囲の横分解能が用いられる場合である。高度に集束したビームを利用することができるのは、特に、例えば回折素子として働くことができる微細構造又はナノ構造が各層に導入される場合である。
【0039】
マスクの場合、各目標幅からのマスク構造の幅の局所偏差が起こり、これがマスクCDの局所変動として表れ、場合によってはチップ等の製造対象の半導体素子の構造の対応する偏差を招き得る。DUV波長域用のマスクに関しては、マスク構造のこのような望ましくない偏差をマスクの透過率の局所的な変更により、例えば国際公開第2016/042549号に記載のようにフェムト秒レーザを用いた散乱画素の書き込みにより補償することができる。ここで本発明者らは、EUV波長域用のマスクにおいて、対応するCD補正をここに記載したような局所反射率の局所的な変更により達成することができ、CD目標値からの偏差を少なくとも部分的に減らすことができることを見出した。
【0040】
指摘されるべきは、本発明をEUVリソグラフィ装置に基づいてより詳細にここで説明したが、全ての記載が同様に、上述のようにミラー又は光学系を有するマスク検査装置又はウェハ検査装置等の他の用途に当てはまることである。
【符号の説明】
【0041】
10 EUVリソグラフィ装置
11 動作ビーム
12 EUV放射源
13 コレクタミラー
14 照明系
15 第1ミラー
16 第2ミラー
17 マスク
18 第3ミラー
19 第4ミラー
20 投影系
21 ウェハ
50 コレクタミラー
51 基板
52 研磨層
53 保護層
54 多層系
55 層対
56 スペーサ
57 アブソーバ
58 マスク
59 吸収層
200 EUVミラー
202 表面
204 領域
206 部分表面
500 ガリウムイオン
501 軌道
560 ケイ素原子
570 モリブデン原子
601~607 方法ステップ