(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-30
(45)【発行日】2022-04-07
(54)【発明の名称】pH依存的に標的分子に結合するペプチドのスクリーニング方法
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/6811 20180101AFI20220331BHJP
A61K 47/64 20170101ALI20220331BHJP
C07K 7/06 20060101ALI20220331BHJP
C07K 7/08 20060101ALI20220331BHJP
C07K 7/64 20060101ALI20220331BHJP
C40B 30/04 20060101ALI20220331BHJP
G01N 33/566 20060101ALI20220331BHJP
G01N 33/574 20060101ALI20220331BHJP
G01N 33/68 20060101ALI20220331BHJP
C12N 15/09 20060101ALN20220331BHJP
【FI】
C12Q1/6811 Z ZNA
A61K47/64
C07K7/06
C07K7/08
C07K7/64
C40B30/04
G01N33/566
G01N33/574 A
G01N33/68
C12N15/09 Z
(21)【出願番号】P 2018039787
(22)【出願日】2018-03-06
(62)【分割の表示】P 2012129056の分割
【原出願日】2012-06-06
【審査請求日】2018-04-04
【審判番号】
【審判請求日】2020-05-25
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【氏名又は名称】内藤 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100152331
【氏名又は名称】山田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100199679
【氏名又は名称】鷲尾 透
(72)【発明者】
【氏名】菅 裕明
(72)【発明者】
【氏名】飯田 健夫
【合議体】
【審判長】上條 肇
【審判官】伊藤 良子
【審判官】長井 啓子
(56)【参考文献】
【文献】特表2010-505436(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/00-3/00
C12N 15/00-15/90
CAplus/MEDLINE/BIOSIS/EMBASE(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
標的分子に対して、第1のpHでは結合し、第2のpHでは結合しないペプチドを選択するスクリーニング方法であって、該ペプチドは、ペプチドを構成するアミノ酸の数が3から50であり、
核酸ライブラリーであって、各核酸が、pH依存的に側鎖のチャージが変化する特殊アミノ酸を少なくとも1つ含むペプチドをコードするランダムな配列を有する核酸ライブラリーを合成する工程と、
前記核酸ライブラリーを用いて、前記ペプチドを発現させ、ランダムな配列を有するペプチドライブラリーを製造する工程と、
前記ペプチドライブラリーと前記標的分子を前記第1のpH条件下で接触させてインキュベートし、該標的分子に結合するペプチドを選択する工程と、
前記標的分子に結合したペプチドから、前記第2のpH条件では該標的分子と結合しないものを選択する工程と、を含む方法。
【請求項2】
標的分子に対して、第1のpHでは結合し、第2のpHでは結合しないペプチドを選択するスクリーニング方法であって、該ペプチドは、ペプチドを構成するアミノ酸の数が3から50であり、
pH依存的に側鎖のチャージが変化する特殊アミノ酸を少なくとも1つ含むペプチドと、これをコードする核酸とが結合したランダムな配列を有するペプチド-核酸複合体ライブラリーを合成する工程と、
前記ペプチド-核酸複合体ライブラリーと前記標的分子とを前記第1のpH条件下で接触させてインキュベートし、該標的分子に結合するペプチド-核酸複合体を選択する工程(a)と、
前記選択されたペプチド-核酸複合体の核酸を含む核酸ライブラリーを得て、ペプチド-核酸複合体ライブラリーを製造する工程(b)と、
前記工程(a)及び(b)を1回以上行う工程と、
再度工程(a)を行い、前記標的分子に結合したペプチド-核酸複合体を前記第2のpH条件で溶出して、溶出されたペプチドを同定する工程と、を含む方法。
【請求項3】
標的分子に対して、第1のpHでは結合し、第2のpHでは結合しないペプチドを製造する方法であって、該ペプチドは、ペプチドを構成するアミノ酸の数が3から50であり、
核酸ライブラリーであって、各核酸が、pH依存的に側鎖のチャージが変化する特殊アミノ酸を少なくとも1つ含むペプチドをコードするランダムな配列を有する核酸ライブラリーを合成する工程と、
前記核酸ライブラリーを用いて、前記ペプチドを発現させ、ランダムな配列を有するペプチドライブラリーを製造する工程と、
前記ペプチドライブラリーと前記標的分子を前記第1のpH条件下で接触させてインキュベートし、該標的分子に結合するペプチドを選択する工程と、
前記標的分子に結合したペプチドから、前記第2のpH条件では該標的分子と結合しないものを選択する工程と、を含む方法。
【請求項4】
標的分子に対して、第1のpHでは結合し、第2のpHでは結合しないペプチドを製造する方法であって、該ペプチドは、ペプチドを構成するアミノ酸の数が3から50であり、
pH依存的に側鎖のチャージが変化する特殊アミノ酸を少なくとも1つ含むペプチドと、これをコードする核酸とが結合したランダムな配列を有するペプチド-核酸複合体ライブラリーを合成する工程と、
前記ペプチド-核酸複合体ライブラリーと前記標的分子とを前記第1のpH条件下で接触させてインキュベートし、該標的分子に結合するペプチド-核酸複合体を選択する工程(a)と、
前記選択されたペプチド-核酸複合体の核酸を含む核酸ライブラリーを得て、ペプチド-核酸複合体ライブラリーを製造する工程(b)と、
前記工程(a)及び(b)を1回以上行う工程と、
再度工程(a)を行い、前記標的分子に結合したペプチド-核酸複合体を前記第2のpH条件で溶出して、溶出されたペプチドを同定する工程と、を含む方法。
【請求項5】
前記pH依存的に側鎖のチャージが変化するアミノ酸は、側鎖にpH6~8でプロトン化状態が変化する官能基を含む、請求項1から4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記pH依存的に側鎖のチャージが変化するアミノ酸は、以下から選択される、請求項1から4のいずれか1項に記載の方法:
3位、又は3位および5位に、NO
2、Cl、Br、I、SO
2R(Rは、OH、NH
2、又はArを表す。)、COR(Rは、OH、NH
2、Ar、CF
3、又はC
6F
5を表す。)、CN、CF
3、若しくはC
6F
5を有するチロシン又はそのN-置換体;
Nωに、NO
2、SO
2R(Rは、OH、NH
2、又はArを表す。)、COR(Rは、OH、NH
2、Ar、CF
3、又はC
6F
5を表す)、CN、CF
3、若しくはC
6F
5を有するアルギニン又はそのN-置換体;
2位、3位、若しくは4位にアミノ基を有するフェニルアラニン又はそのN-置換体;及び
2-ピリジルアラニン、3-ピリジルアラニン、若しくは4-ピリジルアラニン又はそれらのN-置換体。
【請求項7】
前記pH依存的に側鎖のチャージが変化するアミノ酸は、以下に示す群から選択される、請求項1から4のいずれか1項に記載の方法:
【化1】
【請求項8】
前記ペプチドは、環状ペプチドである、請求項1から7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記標的分子に対して、第1のpHでは結合し、第2のpHでは結合しないペプチドが、がん細胞で発現しているタンパク質に特異的に結合するペプチドであって、
前記標的分子を癌細胞で発現しているタンパク質とし、第1のpHを弱酸性、第2のpHを弱塩基性とする、請求項1から8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記標的分子に対して、第1のpHでは結合し、第2のpHでは結合しないペプチドが、ピノサイトーシス後リサイクルされるペプチドであって、
前記標的分子をneonatal Fc receptor(FcRn)とし、第1のpHを弱酸性、第2のpHを弱塩基性とする、請求項1から8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記標的分子が抗原またはサイトカイン受容体である、請求項1から8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
以下のいずれかのアミノ酸配列を含むペプチド:
[AcD-Nty]F[Nty]LYN[Nna]GDPL[Nty]LC、
[AcD-Nty]QSV[Nty]PDHWS[Pal]C、
[AcD-Nty]F[Nty]W[Nty]IWPKNYC、
[AcD-Nty]VS[Nty]T[Pal][Nty]WYWDC、
[AcD-Nty][Pal]NFGPLWSKLS[Nna]C、及び
[AcD-Nty]LKS[Nty]LSWVYKSC
〔式中、AcD-Ntyは、N-アセチル-3-ニトロ-D-チロシンを表し、Ntyは、3-ニトロ-L-チロシンを表し、Nnaは、Nωニトロ-L-アルギニンを表し、Palは、3-ピリジル-L-アラニンを表す。各ペプチドは、AcD-Ntyのアセチル基とシステイン残基がチオエーテル結合して環状化している。〕
【請求項13】
以下のいずれかのアミノ酸配列において1個のアミノ酸が置換したアミノ酸配
列を含み、
弱酸性のpHにおいてFcRnに結合
し、弱塩基性のpHにおいてFcRnに結合しないペプチド:
[AcD-Nty]F[Nty]LYN[Nna]GDPL[Nty]LC、
[AcD-Nty]QSV[Nty]PDHWS[Pal]C、
[AcD-Nty]F[Nty]W[Nty]IWPKNYC、
[AcD-Nty]VS[Nty]T[Pal][Nty]WYWDC、
[AcD-Nty][Pal]NFGPLWSKLS[Nna]C、及び
[AcD-Nty]LKS[Nty]LSWVYKSC
〔式中、AcD-Ntyは、N-アセチル-3-ニトロ-D-チロシンを表し、Ntyは、3-ニトロ-L-チロシンを表し、Nnaは、Nωニトロ-L-アルギニンを表し、Palは、3-ピリジル-L-アラニンを表す。各ペプチドは、AcD-Ntyのアセチル基とシステイン残基がチオエーテル結合して環状化している。〕
【請求項14】
請求項12
又は13に記載のペプチドと、医薬との複合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、あるpHでは標的分子に結合し、あるpHでは標的分子に結合しない分子を選択するスクリーニング方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
neonatal Fc receptor(FcRn)は、胎児から母体へと胎盤を通過して抗体を輸送する機能をもつ受容体として発見された。また、最近、大人では抗体の血中濃度の恒常性に寄与することが示唆された。これらの機能はいずれも、IgGとFcRnがpH依存的に結合することに起因する。このpH依存性は極めてドラスティックなもので、pH6では解離定数が数nMの結合をもつにもかかわらず、pH7.4ではほぼ結合しない。血中のタンパク質やペプチドは、ピノサイトーシスによりエンドソームへと取り込まれリソソームで分解されるため、血中半減期は短い(
図5A)。しかし、抗体はエンドソームでpHが酸性に変化することで、そこに発現しているFcRnと結合することができる。FcRnと結合した抗体は、エキソサイトーシスの経路にのることができるので、最終的に、再び細胞外に提示され、pHが7.4に戻ることでFcRnと解離し、血中へと戻ってゆく(
図5B)。このためIgGの血中半減期は4週間と非常に長い。変異を導入してpH依存性を失わせたIgGでは、血中半減期が減少することが知られており、また、pH依存性をもたせたままpH6における親和性をさらに強めることで、半減期が延長された例も報告されている。
【0003】
pH依存的な反応の多くは、ヒスチジン(His)残基のプロトネーションと脱プロトネーションによって起きていると考えられている。これは、生体内のpH変化が5~7.4程度であり、20種類のアミノ酸の中でHisの側鎖のみ、pKaが6であるためである。実際に、抗体のCDRにHisを導入することで作製した、抗原からpH依存的に乖離する抗体が報告されている(例えば特許文献1)。この抗体は、pH7.4の血液中においては抗原と強く結合して機能を阻害するが、エンドソームに取り込まれるとpH6.0のエンドソーム内において抗原を解離し、リサイクル、すなわち血液中に再度放出される。その結果、血液中において新たな抗原と何度も結合できることが示唆された。
Hisを多く含む分子を作製すれば、pH依存性を獲得しやすいことが予想されるが、そうすると配列自体の多様性が大きく制限されるので、pH依存的結合分子の創出の可能性も制限される。また、HisのみによるpH依存性では、pHの変化による親和性の変化が十分ではない場合もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
例えば、FcRnとpH6前後では強く結合し、pH7.4前後では結合しないペプチドを得て、かかるペプチドと医薬品を結合させれば、同医薬品を抗体と同様の経路でリサイクルさせて血中半減期を延長できる可能性がある。
また、例えばがん細胞周辺は他の場所に比較して酸性度が高いなど、生体内にはpHが異なる領域が存在するため、pH依存的に標的分子に結合できるペプチドを得ることができれば、かかるペプチドを用いて特定領域をターゲティングすることができる。
そこで、本発明は、標的分子にpH依存的に結合する分子、及び、かかる分子を選択するためのスクリーニング方法等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するために研究を重ねた結果、pHのわずかな変化でも側鎖のチャージが変化する特殊アミノ酸を有するペプチドを含むライブラリーを作製し、当該ライブラリーと標的分子とを第1のpH条件下で結合させ、第2のpH条件下で標的分子からペプチドを解離させることにより、第1のpHでは標的分子に結合し、第2のpHでは標的分子に結合しない、pH依存的に結合する性質をもったペプチドが得られることを見出した。
さらに、そのスクリーニング方法で得られたペプチドは、わずかなpHの違いで標的分子との結合についての解離定数が数十倍変化することを確認し、本発明を確認するに至った。
即ち、本発明は、
〔1〕標的分子に対して、第1のpHでは結合し、第2のpHでは結合しないペプチドを選択するスクリーニング方法であって、
核酸ライブラリーであって、各核酸が、pH依存的に側鎖のチャージが変化する特殊アミノ酸を少なくとも1つ含むペプチドをコードする核酸ライブラリーを合成する工程と、
前記核酸ライブラリーを用いて、前記ペプチドを発現させ、ペプチドライブラリーを製造する工程と、
前記ペプチドライブラリーと前記標的分子を前記第1のpH条件下で接触させてインキュベートし、該標的分子に結合するペプチドを選択する工程と、
前記標的分子に結合したペプチドから、前記第2のpH条件では該標的分子と結合しないものを選択する工程と、を含む方法;
〔2〕標的分子に対して、第1のpHでは結合し、第2のpHでは結合しないペプチドを選択するスクリーニング方法であって、
pH依存的に側鎖のチャージが変化する特殊アミノ酸を少なくとも1つ含むペプチドと、これをコードする核酸とが結合したペプチド-核酸複合体ライブラリーを合成する工程と、
前記ペプチド-核酸複合体ライブラリーと前記標的分子とを前記第1のpH条件下で接触させてインキュベートし、該標的分子に結合するペプチド-核酸複合体を選択する工程(a)と、
前記選択されたペプチド-核酸複合体の核酸を含む核酸ライブラリーを得て、ペプチド-核酸複合体ライブラリーを製造する工程(b)と、
前記工程(a)及び(b)を1回以上行う工程と、
再度工程(a)を行い、前記標的分子に結合したペプチド-核酸複合体を前記第2のpH条件で溶出して、溶出されたペプチドを同定する工程と、を含む方法;
〔3〕前記pH依存的に側鎖のチャージが変化するアミノ酸は、側鎖にpH6~8でプロトン化状態が変化する官能基を含む、上記〔1〕又は〔2〕に記載の方法;
〔4〕前記pH依存的に側鎖のチャージが変化するアミノ酸は、以下から選択される、上記〔1〕又は〔2〕に記載の方法:
3位、又は3位および5位に、NO
2、Cl、Br、I、SO
2R(Rは、OH、NH
2、又はArを表す。)
、COR(Rは、OH、NH
2、Ar、CF
3、又はC
6F
5を表す。)、CN、CF
3、若しくはC
6Fを有するチロシン又はそのN-置換体;
Nωに、NO
2、SO
2R(Rは、OH、NH
2、又はArを表す。)、COR(Rは、OH、NH
2、Ar、CF
3、又はC
6F
5を表す)、CN、CF
3、若しくはC
6F
5を有するアルギニン又はそのN-置換体;
2位、3位、若しくは4位にアミノ基を有するフェニルアラニン又はそのN-置換体;及び 2-ピリジルアラニン、3-ピリジルアラニン、若しくは4-ピリジルアラニン又はそれらのN-置換体;
〔5〕前記pH依存的に側鎖のチャージが変化するアミノ酸は、以下に示す群から選択される、上記〔1〕又は〔2〕に記載の方法:
【化1】
〔6〕前記ペプチドは、環状ペプチドである、上記〔1〕から〔5〕のいずれか1項に記載の方法;
〔7〕がん細胞で発現しているタンパク質に特異的に結合するペプチドを選択するスクリーニング方法であって、
上記〔1〕から〔6〕のいずれか1項に記載の方法において、前記標的分子を癌細胞で発現しているタンパク質とし、第1のpHを弱酸性、第2のpHを弱塩基性とする、方法;
〔8〕ピノサイトーシス後リサイクルされるペプチドを選択するスクリーニング方法であって、
上記〔1〕から〔6〕のいずれか1項に記載の方法において、前記標的分子をneonatal Fc receptor(FcRn)とし、第1のpHを弱酸性、第2のpHを弱塩基性とする、方法;
〔9〕前記標的分子が抗原またはサイトカイン受容体である、上記〔1〕から〔6〕のいずれか1項に記載の方法;
〔10〕以下のアミノ酸配列を含むペプチド、または、以下のアミノ酸配列において1又は数個のアミノ酸が付加、置換又は欠失したアミノ酸配列を含み、FcRnに結合するペプチド:
F[Nty]LYN[Nna]GDPL[Nty]L、
QSV[Nty]PDHWS[Pal]、
F[Nty]W[Nty]IWPKNY、
VS[Nty]T[Pal][Nty]WYWD、
[Pal]NFGPLWSKLS[Nna]、及び
LKS[Nty]LSWVYKS
〔式中、Ntyは、3-ニトロ-L-チロシンを表し、Nnaは、Nωニトロ-L-アルギニンを表し、Palは、3-ピリジル-L-アラニンを表す。〕
〔11〕以下のアミノ酸配列を含むペプチド、または、以下のアミノ酸配列において1又は数個のアミノ酸が付加、置換又は欠失したアミノ酸配列を含み、FcRnに結合するペプチド:
[
AcD-Nty]F[Nty]LYN[Nna]GDPL[Nty]LC、
[
AcD-Nty]QSV[Nty]PDHWS[Pal]C、
[
AcD-Nty]F[Nty]W[Nty]IWPKNYC、
[
AcD-Nty]VS[Nty]T[Pal][Nty]WYWDC、
[
AcD-Nty][Pal]NFGPLWSKLS[Nna]C、及び
[
AcD-Nty]LKS[Nty]LSWVYKSC
〔式中、
AcD-Ntyは、N-アセチル-3-ニトロ-D-チロシンを表し、Ntyは、3-ニトロ-L-チロシンを表し、Nnaは、Nωニトロ-L-アルギニンを表し、Palは、3-ピリジル-L-アラニンを表す。各ペプチドは、
AcD-Ntyのアセチル基とシステイン残基がチオエーテル結合して環状化していてもよい。〕
〔12〕上記〔1〕から〔9〕のいずれか1項に記載の方法で選択されたペプチド、又は〔10〕若しくは〔11〕に記載のペプチドと、医薬との複合体;
;及び
〔13〕上記〔1〕から〔9〕のいずれか1項に記載のスクリーニング方法を行うためのキット、
に関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明のスクリーニング方法によれば、所望の標的分子に対して、わずかなpHの違いで反応の解離定数が大きく変化するペプチドを同定することができる。
例えば、標的分子をFcRnとすれば、得られたペプチドや当該ペプチドを含むコンジュゲートは、ピノサイトーシスによって細胞に取り込まれてもエキソサイトーシスによって再度血中に放出される可能性が高く、これにより血中半減期を延長することが可能である。
また、得られたペプチドや当該ペプチドを含むコンジュゲートを、生体内において周囲と異なるpHを示す組織や臓器等に特異的に送達させることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、実施例で行ったmRNAディスプレイを説明する概念図である。
【
図2】
図2は、実施例で用いた改変された遺伝暗号表である。
【
図3】
図3は、mRNAディスプレイでFcRn結合ペプチドをスクリーニングした結果を示す。
【
図4】
図4は、
図3に示すスクリーニングの結果、もっとも出現頻度が高かった8D-01のクローンのpH6.0及びpH7.4での結合能をmRNAディスプレイで評価した結果を示す。
【
図5A】
図5Aは、血中タンパク質やペプチドが、ピノサイトーシスによりエンドソームへ取り込まれてリソソームで分解されることを示す概念図である。
【
図5B】
図5Bは、抗体がエンドソーム内でFcRnに結合し、エキソサイトーシスの経路にのって再び細胞外に提示され、血中に戻ることを示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明に係るスクリーニング方法の第1の態様は、標的分子に対して、第1のpHでは結合し、第2のpHでは結合しないペプチドを選択する方法であって、
核酸ライブラリーであって、各核酸が、pH依存的に側鎖のチャージが変化する特殊アミノ酸を少なくとも1つ含むペプチドをコードする核酸ライブラリーを合成する工程と、
前記核酸ライブラリーを用いて、前記ペプチドを発現させ、ペプチドライブラリーを製造する工程と、
前記ペプチドライブラリーと前記標的分子を前記第1のpH条件下で接触させてインキュベートし、該標的分子に結合するペプチドを選択する工程と、
前記標的分子に結合したペプチドを前記第2のpH条件で溶出し、溶出されたペプチドを同定する工程と、を含む。
【0010】
本明細書において、標的分子は特に限定されないが、例えばタンパク質やペプチドとすることができる。標的分子の例としては、FcRn、各種抗原、各種受容体、これらの断片などが挙げられる。
【0011】
本明細書において「ライブラリー」は、全部または一部にランダムな配列を有する核酸またはペプチドを2以上含む集合体を意味する。
【0012】
本明細書において、「核酸」はDNA、RNA、DNAとRNAのキメラを含み、PNA(ペプチド核酸)、LNA(Locked核酸)など人工塩基を含んでいてもよい。また、本明細書において「発現」は、DNAの配列に従ってRNAポリメラーゼがmRNAを産生する転写と、mRNAの配列に従ってペプチド又はタンパク質が合成される翻訳のいずれをも含む用語として用いられ、当業者は文脈からその意味を判断することができる。
【0013】
本明細書において、第1のpHと第2のpHは、互いに異なる以上どのようなpHであってもよく、第1のpHが第2のpHより高くてもよいし、第1のpHが第2のpHより低くてもよい。当業者は、目的に応じて第1のpHと第2のpHを選択し、本発明に係るスクリーニング方法を行うことができる。
例えば、標的分子をFcRnとする場合、第1のpHをエンドソーム内と同じ約5.5~6とし、第2のpHを血漿中と同じ約7.4としてもよい。また、癌細胞周辺で特異的に標的分子に結合するペプチドを同定する場合には、第1のpHを弱酸性(例えば、pH6.3~6.8)、第2のpHを弱アルカリ性(例えば、pH7.2~7.5)とするとよい。
そのほか、第1のpHを約4.0~6.5、第2のpHを約6.7~10.0とする組合せ、第1のpHを約6.7~10.0、第2のpHを約4.0~6.5とする組合せ、第1のpHを約5.5~6.5、第2のpHを約7.0~8.0とする組合せ、第1のpHを約7.0~8.0、第2のpHを約5.5~6.5とする組合せなどを用いることもできる。
【0014】
本明細書において、「第1のpHでは結合し、第2のpHでは結合しない」という場合、「結合する」と「結合しない」は相対的な状態を意味し、その系の中のすべての分子が結合している、又は結合していない状態のみを指すものではない。例えば、第1のpHでは標的分子と結合しているペプチドが優勢であり、第2のpHでは標的分子と結合していないペプチドが優勢である場合や、第2のpHに比較して、第1のpHでは標的分子との結合についての解離定数が圧倒的に小さい場合なども、「第1のpHでは結合し、第2のpHでは結合しない」と表現される状態に該当する。
【0015】
本発明に係るスクリーニング方法の第1の態様では、まず、各核酸が、pH依存的に側鎖のチャージが変化する特殊アミノ酸を少なくとも1つ含むペプチドをコードする核酸ライブラリーを合成する工程を行う。
【0016】
本明細書において「アミノ酸」は、その最も広い意味で用いられ、天然アミノ酸に加え、人工のアミノ酸変異体、誘導体を含む。本明細書においてアミノ酸は、天然タンパク性L-アミノ酸;D-アミノ酸;アミノ酸変異体及び誘導体などの化学修飾されたアミノ酸;ノルロイシン、β-アラニン、オルニチンなどの天然非タンパク性アミノ酸;N-置換アミノ酸;及びアミノ酸の特徴である当業界で公知の特性を有する化学的に合成された化合物などが挙げられる。非天然アミノ酸の例として、α-メチルアミノ酸(α-メチルアラニンなど)、D-アミノ酸、ヒスチジン様アミノ酸(β-ヒドロキシ-ヒスチジン、ホモヒスチジン、α-フルオロメチル-ヒスチジン及びα-メチル-ヒスチジンなど)、側鎖に余分のメチレンを有するアミノ酸(「ホモ」アミノ酸)及び側鎖中のカルボン酸官能基アミノ酸がスルホン酸基で置換されるアミノ酸(システイン酸など)が挙げられる。
本明細書においてアミノ酸は、慣用される1文字表記又は3文字表記で表される。1文字表記又は3文字表記で表されたアミノ酸は、それぞれその変異体、誘導体を含む場合もある。
また、本明細書においては、非蛋白質性アミノ酸、非天然アミノ酸、人工アミノ酸をまとめて「特殊アミノ酸」という。
【0017】
本明細書において、「pH依存的に側鎖のチャージが変化する特殊アミノ酸」は、その最も広い意味で用いられ、側鎖がわずかなpHの変化に応じてプロトン化、脱プロトン化、アニオン化、脱アニオン化するものをいう。例えば側鎖にアミノ基や窒素原子を有し、pHの低下によってプロトン化され、pHの上昇よって脱プロトン化されるアミノ酸や、側鎖のヒドロキシ基がpHの上昇によってアニオン化され、pHの低下によって脱アニオン化されるアミノ酸などが挙げられる。「pH依存的に側鎖のチャージが変化する特殊アミノ酸」としては、側鎖のpKaが4~10程度のもの(好ましくはpKaが5~9程度のもの)や、pKbが6~7.4付近のものを用いることもできる。pHが7近傍、すなわちpH6~8程度で、プロトン化状態が変化する官能基を側鎖に有するアミノ酸(N-置換アミノ酸を含む)を用いてもよい。
かかるアミノ酸の非限定的な例としては、
3位、又は3位および5位に、NO2、Cl、Br、I、SO2R(Rは、OH、NH2、Ar等を表す。)、COR(Rは、OH、NH2、Ar、CF3、C6F5等を表す。)、CN、CF3、C6F等を有するチロシン又はそのN-置換体;
Nωに、NO2、SO2R(Rは、OH、NH2、Ar等を表す。)、COR(Rは、OH、NH2、Ar、CF3、C6F5等を表す)、CN、CF3、C6F5等を有するアルギニン又はそのN-置換体;
2位、3位、又は4位にアミノ基を有するフェニルアラニン又はそのN-置換体;及び
2-ピリジルアラニン、3-ピリジルアラニン、若しくは4-ピリジルアラニン、又はそれら
のN-置換体等が挙げられる。
【0018】
このようなアミノ酸としては、例えば、以下のものが挙げられる。
【化2】
化合物(I):N-クロロアセチル-3-ニトロ-D-チロシン(
ClAcD-Nty)
化合物(II):3-ニトロ-L-チロシン(Nty)
化合物(III):Nωニトロ-L-アルギニン(Nna)
化合物(IV):3-ピリジル-L-アラニン(Pal)
化合物(V):4-アミノ-L-フェニルアラニン(Aph)
これらのアミノ酸では、それぞれ丸で囲んだヒドロキシ基、アミノ基、窒素原子が、アニオン化またはプロトン化される結果、わずかなpHの変化で側鎖のチャージが変化する。
【0019】
pH依存的に側鎖のチャージが変化する特殊アミノ酸を少なくとも1つ含むペプチドをコードする核酸は、「遺伝暗号のリプログラミング」によって当該特殊アミノ酸をコードするコドンを割り振り、かかるコドンを少なくとも1つ含む核酸を作ることによって得ることができる。
以下、遺伝暗号のリプログラミングについて説明する。
【0020】
生体の翻訳では、mRNAの3つの塩基の並び(トリプレット)が一つのコドンとなって一つのアミノ酸を指定しており、その並びに対応するペプチドが合成される。このとき、コドンとアミノ酸との対応付けは、以下の2段階で行われる。(i) tRNAの末端にアミノアシルtRNA合成酵素(aminoacyl-tRNA synthetase:ARS)が対応するアミノ酸を連結する。(ii) tRNAのアンチコドンが対応するmRNAのコドンと対合することにより、mRNAの情報に沿ってtRNA上のアミノ酸が重合されペプチドが合成される。
こうしたコドンとアンチコドンとの対応関係は、ほとんど普遍的に決定されており、64種類のコドンそれぞれに、20種類のアミノ酸のいずれか一つが割り当てられている。普遍遺伝暗号表を以下に示す。
【表1】
【0021】
ここで、任意のtRNAに通常とは異なる任意のアミノ酸を結合させ、これを無細胞翻訳系等による発現系に用いれば、遺伝暗号をリプログラミングすることができる。
すなわち、遺伝暗号のリプログラミングとは、任意のtRNAに所望のアミノ酸を結合させたアミノアシル化tRNAを用いることによって、コドンが上表に示したものとは異なるアミノ酸を指定できるようにすることを意味する。
遺伝暗号のリプログラミングを行って、無細胞翻訳系で発現させる場合、無細胞翻訳系の構成因子は目的に合わせて自由に選択することができる。例えば、翻訳系から特定のアミノ酸を除去すると、当該アミノ酸に対応するコドンが空きコドンになる。そこで、その空きコドンに相補的なアンチコドンを有するtRNAに所望のアミノ酸を連結し、これを加えて翻訳を行えば、当該アミノ酸がそのコドンでコードされることになり、除去したアミノ酸の代わりに当該所望のアミノ酸が導入されたペプチドが翻訳される。
【0022】
任意のtRNAに任意のアミノ酸を結合させる方法としては、例えば、人工アミノアシル化RNA触媒「フレキシザイム(flexizyme)」を利用することができる。
フレキシザイムは、任意のtRNAに任意のアミノ酸またはヒドロキシ酸を連結(アシル化)することのできる人工RNA触媒(アシルtRNA合成酵素様活性を持つRNA触媒)である。例えば、以下の文献に記載されたものが公知である:H. Murakami, H. Saito, and H. Suga, (2003), "A Versatile tRNA Aminoacylation Catalyst Based on RNA"Chemistry & Biology, Vol. 10, 655-662; H. Murakami, D. Kourouklis, and H. Suga, (2003), "Using a solid-phase ribozyme aminoacylation system to reprogram the genetic code" Chemistry & Biology, Vol. 10, 1077-1084; H. Murakami, A. Ohta, H. Ashigai, H. Suga
(2006) "The flexizyme system: a highly flexible tRNA aminoacylation tool for the synthesis of nonnatural peptides" Nature Methods 3, 357-359;N. Niwa, Y. Yamagishi, H. Murakami, H. Suga (2009) "A flexizyme that selectively charges amino acids activated by a water-friendly leaving group" Bioorganic & Medicinal Chemistry Letters 19, 3892-3894;及びWO2007/066627「多目的化アシル化触媒とその用途」)。
フレキシザイムは、原型のフレキシザイム(Fx)、及び、これから改変されたジニトロベンジルフレキシザイム(dFx)、エンハンスドフレキシザイム(eFx)、アミノフレキシザイム(aFx)等の呼称でも知られる。
フレキシザイムによれば、例えば、上述したpH依存的に側鎖のチャージが変化する特殊アミノ酸をtRNAに連結することができる。
【0023】
任意のtRNAに任意のアミノ酸を連結する方法としては、化学的アミノアシル化や変異タンパク質酵素を用いる方法も挙げられる。
【0024】
より具体的には、例えば、系からメチオニンを除くと、AUGが空きコドンとなる。そこで、AUGを少なくとも1つランダムな位置に含むDNAを合成し、これを転写してmRNAを得る。一方で、コドンAUGに対応するアンチコドンを有するtRNAにClAcD-Ntyを連結し、これを用いて当該mRNAを翻訳すれば、ランダムな位置に少なくとも1つのClAcD-Ntyを含むペプチドを得ることができる。
【0025】
したがって、各核酸が、pH依存的に側鎖のチャージが変化する特殊アミノ酸を少なくとも1つ含むペプチドをコードする核酸ライブラリーを合成するためには、核酸がDNAである場合、pH依存的に側鎖のチャージが変化する特殊アミノ酸をコードするコドンをアサインし、かかるコドンをランダムに少なくとも1つ含むDNAを合成すればよく、核酸がRNAの場合には、これを転写すればよい。DNAの合成と転写は公知の方法にしたがって行うことができる。
【0026】
本発明に係るスクリーニング方法の第1の態様では、続いて、核酸ライブラリーを発現させる。発現系としては、無細胞翻訳系が好ましく用いられる。
【0027】
本明細書において「無細胞翻訳系」は、例えば、リボソームタンパク質、アミノアシルtRNA合成酵素(ARS)、リボソームRNA、アミノ酸、エネルギーソース(GTP、ATPなど)、tRNA、アミノ酸、翻訳開始因子(IF)伸長因子(EF)、終結因子(RF)、およびリボソーム再生因子(RRF)、ならびに翻訳に必要なその他の因子を含む。発現効率を高くするために大腸菌抽出液や小麦胚芽抽出液を用いてもよい。他に、ウサギ赤血球抽出液や昆虫細胞抽出液を用いてもよい。例えば、大腸菌のリボソームを用いる系として次の文献に記載された技術が公知である:H. F. Kung, B. Redfield, B. V. Treadwell, B. Eskin, C. Spears and H. Weissbach (1977) "DNA-directed in vitro synthesis of beta-galactosidase. Studies with purified factors" The Journal of Biological Chemistry Vol. 252, No. 19, 6889-6894 ; M. C. Gonza, C. Cunningham and R. M. Green (1985) "Isolation and point of action of a factor from Escherichia coli required to reconstruct translation" Proceeding of the National Academy of Sciences of the United States of America Vol. 82, No. 6, 1648-1652 ; M. Y. Pavlov and M. Ehrenberg (1996) "Rate of translation of natural mRNAs in an optimized in vitro system" Archives of Biochemistry and Biophysics Vol. 328, No. 1, 9-16 ; Y. Shimizu, A. Inoue, Y. Tomari, T. Suzuki, T. Yokogawa, K. Nishikawa and T. Ueda (2001) "Cell-free translation reconstituted with purified components"Nature Biotechnology Vol. 19, No. 8, 751-755;H. Ohashi, Y. Shimizu, B. W. Ying, and T. Ueda (2007) "Efficient protein selection based on ribosome display system with purified components" Biochemical and Biophysical Research Communications Vol. 352, No. 1, 270-276。
【0028】
このとき、翻訳系には、pH依存的に側鎖のチャージが変化する特殊アミノ酸を、これをコードするコドンと相補的なアンチコドンを有するtRNAに連結させたものを加えれば、pH依存的に側鎖のチャージが変化する特殊アミノ酸を少なくとも1つ含むペプチドライブラリーを得ることができる。
【0029】
本明細書において、「ペプチド」とは、2以上のアミノ酸がペプチド結合で結合したものをいい、アミノ酸の数は特に限定されないが、例えば、3アミノ酸から50アミノ酸の間、5アミノ酸から30アミノ酸の間等とすることができる。
また、ペプチドライブラリーの各ペプチドに含まれるpH依存的に側鎖のチャージが変化する特殊アミノ酸の数も特に限定されないが、例えば、2以上、3以上、5以上とすることができる。例えば、ペプチド全体のアミノ酸数の10%以上、20%以上、30%以上としてもよい。
【0030】
本明細書において、ペプチドは環状ペプチドも含む。「環状ペプチド」とは、ペプチド中の2つのアミノ酸が結合し、その全部または一部が環状になっているものをいう。
ペプチドは環状化すると、プロテアーゼ耐性が向上したり、剛直性が増して膜透過性や標的タンパク質との親和性が向上したりする、と考えられている。例えば、ペプチドが2個以上のシステイン残基を含むよう設計すれば、翻訳された後、ジスルフィド結合により環状構造を形成できる。また、Gotoらの方法(Y. Goto, et al. ACS Chem. Biol. 3 120-129 (2008))の従い、遺伝暗号のリプログラミング技術により、N末端にクロロアセチル基を有するペプチドを合成し、ペプチド中にシステイン残基を配置しておくことによっても環状化できる。これにより、翻訳後に自発的にメルカプト基がクロロアセチル基に求核攻撃し、ペプチドがチオエーテル結合により環状化する。遺伝暗号のリプログラミング技術により、結合して環状を形成するその他のアミノ酸の組合せをペプチド内に配置して環状化してもよい。
【0031】
本発明に係るスクリーニング方法の第1の態様では、次に、ペプチドライブラリーと標的分子を、第1のpH条件下で接触させてインキュベートし、標的分子に結合するペプチドを選択する工程と、標的分子に結合したペプチドから、第2のpH条件では標的分子と結合しないものを選択する工程とを行う。
これらの工程におけるpH以外の条件は、標的分子にあわせて当業者が適宜決定することができる。標的分子に結合するペプチドを選択する工程と、結合しないペプチドを選択する工程は、pH以外の条件は同一とすることも好ましい。
【0032】
標的分子に結合するペプチドを選択する工程は、当業者が公知の方法にしたがって適宜行うことができるが、例えば、標的分子を固相担体に固定して、ペプチドライブラリーと接触させた後、標的分子に結合しているペプチドごと固相担体を回収したり、固相担体表面を適切な緩衝液で洗浄し、標的分子に結合しているペプチドのみを固相担体表面に捕捉することによって行うことができる。
この場合、標的分子に結合しないペプチドを選択する工程は、固相担体表面を第2のpH条件下で溶出し、第2のpH条件にすることによって、標的分子からはずれたものを同定することにより行うことができる。
【0033】
本明細書において、「固相担体」は、標的分子を固定できる担体であれば特に限定されず、ガラス製、金属性、樹脂製等のマイクロタイタープレート、基板、ビーズ、ニトロセルロースメンブレン、ナイロンメンブレン、PVDFメンブレン等が挙げられ、標的分子は、これらの固相担体に公知の方法に従って固定することができる。
溶出工程、及び溶出されたペプチドの同定等は、当業者が公知の方法に従って行うことができる。
【0034】
また、標的分子に結合するペプチドと結合しないペプチドを選択する工程は、第1のpHと第2のpHにおける、標的分子とペプチドの結合の強さを定量することによって行うこともできる。
標的分子とペプチドの結合の強さの定量は、タンパク質間相互作用を解析するあらゆる方法を用いて行うことができるが、例えば、結合の解離定数を求めてもよい。解離定数は、表面プラズモン共鳴を利用したBiacore(GE healthcare)やFACSにより求めることができる。
標的分子に結合するペプチドと結合しないペプチドを、例えば、標的分子との結合の解離定数が、2倍以上、10倍以上、20倍以上、または40倍以上異なるものとすることができる。
【0035】
次に、本発明に係るスクリーニング方法の第2の態様について説明する。第2の態様は、無細胞翻訳系等を利用した各種のディスプレイ技術を用いるものであり、
pH依存的に側鎖のチャージが変化する特殊アミノ酸を少なくとも1つ含むペプチドと、これをコードする核酸とが結合したペプチド-核酸複合体ライブラリーを合成する工程と、
前記ペプチド-核酸複合体ライブラリーと前記標的分子とを前記第1のpH条件下で接触させてインキュベートし、該標的分子に結合するペプチド-核酸複合体を選択する工程(a)と、
前記選択されたペプチド-核酸複合体の核酸を含む核酸ライブラリーを得て、ペプチド-核酸複合体ライブラリーを製造する工程(b)と、
前記工程(a)及び(b)を1回以上行う工程と、
再度工程(a)を行い、前記標的分子に結合したペプチド-核酸複合体を前記第2のpH条件で溶出して、溶出されたペプチドを同定する工程と、を含む。
第1の態様と同じ用語は同義で用いられるので、説明を省略する。
【0036】
第2の態様では、まず、pH依存的に側鎖のチャージが変化する特殊アミノ酸を少なくとも1つ含むペプチドと、これをコードする核酸とが結合したペプチド-核酸複合体ライブラリーを合成する。pH依存的に側鎖のチャージが変化する特殊アミノ酸を少なくとも1つ含むペプチドをコードする核酸ライブラリーを合成する工程を、第1の態様に準じた方法で行う。
【0037】
続いて、かかる核酸とペプチドとが結合したペプチド-核酸複合体ライブラリーを、各種のディスプレイ法に応じた方法で製造する。ここで、ディスプレイ法とは、無細胞翻訳系やファージ等を用いて、DNA又はmRNA(遺伝子型)と、ペプチド(表現型)とを関連付ける技術をいい、例えば、mRNAディスプレイ(Nemoto, N. et al, (1997)FEBS Lett., 414, 405-408; Roberts, R.W. & Szostak, J.W. (1997)Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 94, 12297-12302)、リボソームディスプレイ(Mattheakis, L. C. et al., (1994)Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 91, 9022-9026; Hanes, J. and Plueckthun, A. (1997)Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 94, 4937-4942)、DNAディスプレイ、RAPIDディスプレイ(国際公開WO2011/049157)、ファージディスプレイ(Science. 1985 Jun 14;228(4705):1315-7.)、bacterial display(Proc Natl Acad Sci U S A. 1993 Nov 15;90(22):10444-8.)、Mammalian cell display(Proc Natl Acad Sci U S A. 2008 Sep 23;105(38):14336-41.)、Yeast display(Nat Biotechnol. 1997 Jun;15(6):553-7.)等が挙げられるがこれらに限定されない。ペプチド-核酸複合体ライブラリーにおいて、核酸とペプチドとは、直接結合していてもよいし、リンカーや他の分子(例えばリボソームなど)を介して結合していてもよく、当業者は、各ディスプレイ法に応じて、適宜結合方法を選択することができる。
【0038】
ディスプレイ法として、mRNAディスプレイを用いる場合、上記方法でmRNAライブラリーを得た後、各mRNAの3'末端にピューロマイシンを結合させ、ピューロマイシン結合mRNAライブラリーを製造する。mRNAの3'末端へのピューロマイシンの結合は公知の方法に従って行うことができる。mRNAとピューロマイシンとがスペーサーを介して結合してもよい。
次に、ピューロマイシン結合mRNAライブラリーを用いて、無細胞翻訳系により前記ペプチドを発現させることにより、ペプチド-mRNA複合体ライブラリーを製造することができる。3'末端にピューロマイシンが結合したmRNAを鋳型として無細胞翻訳反応を行うと、ピューロマイシンがリボソームのPサイトにあるペプチド鎖と結合し、ペプチド-mRNA複合体が形成されるのである。
【0039】
ディスプレイ法として、リボソームディスプレイを用いる場合、上記方法でmRNAライブラリーを製造する際、各mRNAが終止コドンを欠くよう構成する。mRNA上に終止コドンがあれば、終止コドンに結合する解離因子群の触媒作用によって翻訳されたペプチドとリボソームが解離するが、終止コドンがないと、リボソームとmRNAとの解離が生じない結果、mRNA-リボソーム-ペプチド複合体が生じる。
【0040】
ディスプレイ法として、DNAとペプチドとの複合体を利用するDNAディスプレイを用いてもよい。DNAディスプレイとしては、例えば、STABLE法(Doi, N. and Yanagawa, H.(1999)FEBS Lett., 457, 227-230)が挙げられる。この方法では、pH依存的に側鎖のチャージが変化する特殊アミノ酸を少なくとも1つ含むペプチドと、ストレプトアビジンとの融合タンパク質をコードするDNAライブラリーを製造し、各DNAをビオチンラベルして、W/Oエマルジョンにより形成したコンパートメント内で発現させる。これにより、ストレプトアビジンとビオチンが結合し、DNAと発現したペプチドとの複合体を得ることができる。D
NAディスプレイとしては、ほかに、CIS display(Proc Natl Acad Sci U S A. 2004 Mar 2;101(9):2806-10)やCovalent Antibody Display(Nucleic Acids Res. 2005; 33(1): e10.)、SNAP Display(Methods Mol Biol. 2012;805:101-11.)等を用いることもできる。
当業者は、各ディスプレイ法に応じて、DNAとペプチドとの複合体を得ることができる。
【0041】
ディスプレイ法としては、RAPIDディスプレイを用いてもよい。RAPIDディスプレイは、ペプチドをコードするmRNAの3'末端の塩基とハイブリダイズする一本鎖領域を一端に有し、もう一端にペプチド転移反応によって翻訳産物に結合可能な基を含むペプチドアクセプター領域を有するリンカーであって、該ペプチドアクセプター領域が、塩基配列ACCAからなるオリゴRNAにアミノ酸がエステル結合した構造からなるリンカーを用いる方法である。
この場合、pH依存的に側鎖のチャージが変化する特殊アミノ酸を少なくとも1つ含むペプチドをコードするDNAライブラリーを製造する際、ペプチドのコード領域の下流に、上記リンカーの一本鎖領域に相補的な領域を設ける。そして、かかるDNAライブラリーとを、リンカーの存在下、無細胞系で転写、翻訳すると、mRNAの3'末端にリンカーの一本鎖領域がハイブリダイズし、リンカーの他端のアミノ酸が翻訳産物のC末端アミノ酸に結合し、mRNA-リンカー-ペプチド複合体が形成される。
【0042】
その他、当業者は、遺伝子型と表現型を関連付けるあらゆるディスプレイ法を応用して、核酸とペプチドとが結合したペプチド-核酸複合体ライブラリーを製造することができる。
【0043】
こうして得られたペプチド-核酸複合体ライブラリーは、標的分子と第1のpH条件下で接触させてインキュベートし、標的分子に結合するペプチド-核酸複合体を選択する。この工程を工程(a)とする。当該工程は、当業者であれば公知の種々の方法に従って行うことができるが、例えば、標的分子を固相担体に固定しておき、これとペプチド-核酸複合体ライブラリーとを接触させてインキュベートした後、複合体ごと固相担体を回収する方法や、固相担体表面を洗浄等して、標的分子に結合している複合体のみを分離する方法によって行うことができる。
あるいは、標的分子にビオチンを結合しておき、ビオチン化標的分子とペプチド-核酸複合体ライブラリーを液相で接触させた後、ストレプトアビジン磁器ビーズを加えてビオチンとストレプトアビジンを結合させ、磁器ビーズを磁石で回収することによって行ってもよい。
【0044】
工程(a)の後、選択されたペプチド-核酸複合体の核酸を含む核酸ライブラリーを得て、ペプチド-核酸複合体ライブラリーを製造する工程(b)を行う。
核酸ライブラリーから、ペプチド-核酸複合体ライブラリーを製造する方法は、上述のとおり、各ディスプレイ法に応じて、当業者が適宜核酸を修飾し、必要なリンカーを調製して、無細胞翻訳系等で翻訳することにより行うことができる。
例えば、mRNAディスプレイの場合、まず、各mRNAの3'末端にピューロマイシンを結合させ、ピューロマイシン結合mRNAライブラリーを製造する工程を行う。より具体的には、選択されたペプチド-mRNA複合体群のmRNAを逆転写することによってcDNA群を得、このcDNA群を転写することによって再びmRNAライブラリーが得られる。そこで、各mRNAの3'末端にピューロマイシンを結合させて、ピューロマイシン結合mRNAライブラリーを製造することができる。このピューロマイシン結合mRNAライブラリーを、無細胞系で翻訳することにより、ペプチド-mRNA複合体ライブラリーを得ることができる。
【0045】
工程(a)及び(b)のセットを1回以上繰り返し行って、標的分子に結合するペプチドが十分に濃縮された後、再度工程(a)を行い、第2のpH条件で、標的分子に結合したペプチド-核酸複合体を溶出する。工程(a)及び(b)のセットを行う回数は特に限定されず、標的分子に結合するペプチドが十分に濃縮されるまで行う。例えば、3回、5回、7回等とすることができる。
【0046】
具体的には、例えば、標的分子をビーズに固定した場合、工程(a)において当該ビーズを回収することによって、標的分子に結合したペプチド-mRNA複合体を選択する。そして、今度は第2のpH条件の緩衝液でビーズからペプチド-mRNA複合体を溶出する。
かかるペプチドを同定することにより、標的分子に対して、第1のpHでは結合し、第2のpHでは結合しないペプチドを選択することができる。
【0047】
上記ディスプレイ法としてmRNAディスプレイを用いる場合、mRNAの3'末端にピューロマイシンを結合させる際、特開2002-291491号公報の方法に従って、mRNAの3'末端に、当該mRNAの3'末端の一部に相補的なDNA断片を連結し、当該DNA断片の3'末端にピューロマイシンを結合させてもよい。
この場合、ピューロマイシン結合mRNAライブラリーを用いて、無細胞翻訳系により前記ペプチドを発現させ、ペプチド-mRNA複合体ライブラリーを製造する工程の後、逆転写酵素を用いて、上記DNA断片を伸長するようにmRNAの一本鎖部分に相補的なDNAを合成してもよい。これにより、ペプチド-mRNA複合体ライブラリーのmRNAがDNAとのハイブリッドを形成し、より安定的に工程(a)を行うことができる。
【0048】
この場合、工程(b)は、選択されたペプチド-mRNA複合体から、PCRによって二本鎖DNAを得て、これを転写してRNAを得て、このmRNAの3'末端に、当該mRNAの3'末端の一部に相補的なDNA断片をライゲーションし、ピューロマイシンを結合させて、ピューロマイシン結合mRNAライブラリーを得る。
【0049】
上述したスクリーニング方法で得られたペプチドは、第1のpHでは標的分子と結合し、第2のpHでは標的分子と結合しないという性質に基づき、様々な用途に用いられる。
例えば、標的分子ががん細胞にも正常細胞にも発現しているタンパク質である場合、第1のpHを弱酸性(例えば、pH6.3~6.8)、第2のpHを弱塩基(例えば、pH7.2~7.5)として得られたペプチドは、酸性度の高いがん細胞の周辺でのみ標的分子に結合することができ、正常細胞周辺では結合しない。したがって、かかるペプチドを抗がん剤に結合させておけば、抗がん剤をがん細胞周辺に選択的に送達させることが可能である。
【0050】
また、標的分子をFcRnとし、第1のpHを約5.5~6、第2のpHを約7.4として得られたペプチドは、ピノサイトーシスによって酸性度の高いエンドソームに取り込まれると、FcRnに結合することができる。そうするとリソソームで分解されることなく、エキソサイトーシスされ、pHが約7.4の血液中でFcRnと解離する。したがって、かかるペプチドをタンパク質医薬などの医薬に結合させておけば、当該医薬はピノサイトーシスされても分解されることなく再び血中に放出されリサイクルされるので、結果として血中半減期が延長され得る。
【0051】
また、FcRnは、気道の上皮細胞にも発現していることが知られ、このFcRnとのpH依存的な相互作用を介してタンパク質性医薬品を経肺投与したことが報告されている(例えば、Bitonti, A.J. & Dumont, J.A. Advanced Drug Delivery Reviews 58, 1106 - 1118 (2006).; Liebert, M.A. et al. Journal of Aerosol Medicine 18, 294-303 (2005).; Vllasaliu, D. et al. Journal of Controlled Release 1-9 (2011).doi:10.1016/j.jconrel.2011.12.009)。したがって、標的分子をFcRnとして得られたペプチドを、タンパク質医薬などの医薬品に結合させておけば、当該医薬を経肺投与することが可能である。
【0052】
また、抗体の主要な代謝経路には、膜型抗原依存的なものもある。この場合、抗体は、膜型抗原に結合した状態でエンドサイトーシスされ、膜型抗原と一緒にリソソームで分解される。同様に、サイトカインにもサイトカイン受容体に結合し、受容体ごと分解を受ける代謝経路がある(例えば、Igawa, T. et al. Nature Biotechnology 28, 1203-1207 (2010).; Chaparro-riggers, J. et al. Journal of Biological Chemistry 1-15 (2012).doi:10.1074/jbc.M111.319764; Sarkar, C.A. et al. Nature Biotechnology 20, (2002).; 特開2012-21004号公報; 特表2010-536384号公報;特表2004-508044号公報)。
したがって、本願発明の方法で、膜型抗原やサイトカイン受容体を標的分子として、pH依存的に膜型抗原やサイトカイン受容体と解離できるペプチドを得ることができれば、分解を回避できる可能性がある。
【0053】
ペプチドに結合される医薬は特に限定されず、低分子化合物、高分子化合物、核酸、タンパク質、ペプチド等であることができる。ペプチドと医薬の複合体は公知の方法に従って製造される。医薬がペプチドやタンパク質の場合は、融合タンパク質として発現させてもよく、医薬とペプチドとがリンカーを介して結合していてもよい。また、かかる複合体は適宜製剤化してから投与してもよい。
【0054】
また、本発明は、本発明に係るpH依存的にFcRnに結合する、以下のアミノ酸配列を含むペプチド、または、以下のアミノ酸配列において1又は数個のアミノ酸が付加、置換又は欠失したアミノ酸配列を含むペプチドも包含する。
F[Nty]LYN[Nna]GDPL[Nty]L、
QSV[Nty]PDHWS[Pal]、
F[Nty]W[Nty]IWPKNY、
VS[Nty]T[Pal][Nty]WYWD、
[Pal]NFGPLWSKLS[Nna]、及び
LKS[Nty]LSWVYKS
〔式中、Ntyは、3-ニトロ-L-チロシンを表し、Nnaは、Nωニトロ-L-アルギニンを表し、Palは、3-ピリジル-L-アラニンを表す。〕
【0055】
また、これらのペプチドは、N末端に[AcD-Nty]を、C末端にCを有する以下の構成であってもよい。
[AcD-Nty]F[Nty]LYN[Nna]GDPL[Nty]LC、
[AcD-Nty]QSV[Nty]PDHWS[Pal]C、
[AcD-Nty]F[Nty]W[Nty]IWPKNYC、
[AcD-Nty]VS[Nty]T[Pal][Nty]WYWDC、
[AcD-Nty][Pal]NFGPLWSKLS[Nna]C、及び
[AcD-Nty]LKS[Nty]LSWVYKSC
〔式中、AcD-Ntyは、N-アセチル-3-ニトロ-D-チロシンを表し、Ntyは、3-ニトロ-L-チロシンを表し、Nnaは、Nωニトロ-L-アルギニンを表し、Palは、3-ピリジル-L-アラニンを表す。各ペプチドは、AcD-Ntyのアセチル基とシステイン残基がチオエーテル結合して環状化していてもよい。〕
【0056】
本明細書において、「1又は数個のアミノ酸が付加、置換又は欠失する」という場合、得られたペプチドがFcRnに結合する限り、その個数及び場所は問わない。1個から5個、例えば、2個、3個、又は4個のアミノ酸が付加、置換、又は欠失してもよく、付加、置換又は欠失する位置は、N末端又はC末端でもよく、末端以外であってもよい。2個以上の付加、置換又は欠失を含む場合、連続していても連続していなくてもよい。
また上記ペプチドのC末端は、OH、NH2、エステル等であってもよく、PEG、アルキル鎖、ピペリジン等が結合していてもよい。
本発明のポリペプチドには、ポリペプチドの塩も含まれる。ポリペプチドの塩としては、生理学的に許容される塩基や酸との塩が用いられ、例えば、無機酸(塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硫酸、リン酸等)の付加塩、有機酸(p-トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、シュウ酸、p-ブロモフェニルスルホン酸、カルボン酸、コハク酸、クエン酸、安息香酸、酢酸等)の付加塩、無機塩基(水酸化アンモニウム又はアルカリ若しくはアルカリ土類金属水酸化物、炭酸塩、重炭酸塩等)、アミノ酸の付加塩等が挙げられる。
また、本発明のポリペプチドは、本発明の課題を解決するものである限り、リン酸化、メチル化、アセチル化、アデニリル化、ADPリボシル化、糖鎖付加などの修飾が加えられたものであってもよい。他のペプチドやタンパク質と融合させたものであってもよい。
【0057】
上記pH依存的にFcRnに結合するペプチドの具体例としては、以下に示す8D-01~8D-06や2G01Dが挙げられる。
【化3】
【化4】
【0058】
2G01Dは、pH依存的に側鎖のチャージが変化する特殊アミノ酸を5つ含む16アミノ酸からなる環状ペプチドである。
後述する実施例で示されるとおり、この環状ペプチドとFcRnとの結合に関する解離定数は、pH7.4とpH6.0では70倍近く異なった。
【0059】
本発明は、本発明に係るスクリーニング方法を行うためのキットも提供する。かかるキットの内容は特に限定されないが、pH調整剤やpH依存的に側鎖のチャージが変化する特殊アミノ酸を含む各種試薬、各種ライブラリー、緩衝液等を含み得る。その他の必要な器具や取扱説明書等を備えていてもよい。
【0060】
本明細書において引用されるすべての特許文献及び非特許文献の開示は、全体として本明細書に参照により組み込まれる。
【実施例】
【0061】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明は何らこれに限定されるものではない。当業者は、本発明の意義を逸脱することなく様々な態様に本発明を変更することができ、かかる変更も本発明の範囲に含まれる。
【0062】
〔NNK mRNAライブラリーの製造〕
まず、下記の配列を有する二本鎖DNAを調製した(以下では、Forward鎖のみを5'→3'の順で記載する。)
TAATACGACTCACTATAGGGTTAACTTTAAGAAGGAGATATACAT(ATG)(NNK)1(NNK)2・・・(NNK)n(TGC)(GGC)(AGC)(GGC)(AGC)(GGC)(AGC)(TAG)GACGGGGGGCGGAAA
(ORF領域は一つのコドンを一つの( )で括った。NはA、T、G、Cのいずれか一つを、KはT、Gのいずれか一つを、それぞれ表す。nは、4-12の9種類である。
【0063】
続いてこれをT7 RNAポリメラーゼを用いて転写し、下記の配列で表されるmRNAを得た。
GGGUUAACUUUAAGAAGGAGAUAUACAU(AUG)(NNK)1(NNK)2・・・(NNK)n(UGC)(GGC)(AGC)(GGC)(AGC)(GGC)(AGC)(UAG)GACGGGGGGCGGAAA
(NはA、U、G、Cのいずれか一つを、KはU、Gのいずれか一つを、それぞれ表す。)
【0064】
〔RNAディスプレイ〕
以下の「ピューロマイシンリンカーとの連結」から「回収したペプチドの配列情報の増幅」までのサイクルを繰り返すことで、ランダムなペプチドライブラリーからFcRnに結合するペプチドを選択した。
図1にRNAディスプレイの概念図を示す。
【0065】
[1] ピューロマイシンリンカーとの連結
下記の配列で表されるピューロマイシンリンカーを上記のmRNAライブラリーとアニールさせ、T4 RNA ligase で連結した(SPC18はCとOの総数が18であるPEGを表す。Puはピューロマイシンを表す)。
pdCTCCCGCCCCCCGTCC(SPC18)5CC(Pu)
【0066】
[2] 翻訳
リンカーと連結されたmRNAを、
図2に示される改変された遺伝暗号表の下で翻訳した。本実施例の場合には、通常の20種類のアミノ酸からメチオニン、アルギニンが除去された翻訳系を構築し、代わりに、
(i) tRNA
fMet
CAUにα-N-クロロアセチル-3-ニトロ-D-チロシン(ClAc-D-Nty)を連結したもの、
(ii) tRNA
AsnE2
CAUに3-ニトロ-L-チロシン(Nty)を連結したもの、
(iii) tRNA
AsnE2
CUAにω-N-ニトロ-L-アルギニン(Nna)を連結したもの、
(iv) tRNA
AsnE2
ACGに3-ピリジル-L-アラニン(Pal)を連結したもの、及び
(v) tRNA
AsnE2
CCGに4-アミノ-L-フェニルアラニン(Aph)を連結したもの
の5つを、フレキシザイムを用いて調製・添加して翻訳を行った。
翻訳によって、ランダム配列中に(i)から(v)の非タンパク質性アミノ酸を含み、チオエーテル結合で環状化したペプチドライブラリーが合成され、ペプチドのC末端にPuが結合することで、mRNAとペプチドが連結される。
【0067】
[3]FcRnに結合するペプチドの取得
NHS-ビオチンを用いて化学的にビオチン化したヒト可溶型FcRnに、調製した特殊環状ペプチドライブラリーを混合し、pH 6.0のMESバッファー中で、4℃で30分間撹拌した。さらにストレプトアビジン磁気ビーズを加えて4℃で5分間撹拌した。磁石を利用して上澄みを除去し、残った磁性粒子をpH 6.0のMESバッファーで洗浄した。
ビーズにPCR用の溶液を加えて95°Cで5分間加熱し、ペプチドをビーズからはがして上澄みを回収した。
【0068】
[4] 回収したペプチドの配列情報の増幅
FcRnに結合して回収されてきたペプチド-mRNAを、逆転写してcDNAとし、PCRによって増幅した。得られたDNAを転写してmRNAとした。なお、ラウンド2以降では、RNAアプタマーが選択されてくることを防ぐため、mRNAとペプチドの連結直後に逆転写を実施した。
【0069】
[5] 選択されたペプチド配列の同定
上記の一連の操作を繰り返し、FcRnに特異的に結合する配列の濃縮を行った。
【0070】
〔セレクションの結果〕
セレクションの結果を
図3に示す。
mRNAディスプレイによるFcRn結合ペプチドの取得を行った結果、ラウンド6でFcRn依存的にcDNA回収率の増加が確認できた。そこで、再度ラウンド6を実施し、pH 6.0のMESバッファーで洗浄後のビーズに、pH 7.4のMESバッファーを加え、室温で20分間撹拌後、上澄みを回収した。継続して、ラウンド7も同様の溶出を行ったところ、cDNA回収率の増加が再度確認できた。
【0071】
〔選択されたペプチド配列の同定〕
ラウンド7の後、PCRにより増幅されたDNAを用いてTAクローニングを行い、得られたペプチドの配列を同定した。結果を下表に示す。
【化5】
【0072】
〔選択されたペプチドのFcRnに対するpH依存的結合評価評価〕
選択されたペプチドの配列のうち、もっとも出現頻度が高かった8D-01を用い、クローンでの結合能評価を前述のmRNAディスプレイを用いて評価した。FcRnとペプチド-mRNAの相互作用時には、pH 6.0もしくはpH 7.4のMESバッファーを用いた。ペプチド-mRNAの溶出は、ビーズにPCR用の溶液を加えて95°Cで5分間加熱し、ペプチドをビーズからはがして上澄みを回収した。
結果を
図4に示す。pH 6.0のバッファーでFcRnと相互作用した場合、pH 7.4のバッファーと比べ、cDNAの回収率が圧倒的に高く、バッファーのpH依存的にcDNAの回収率が変化した。
【0073】
〔固相合成されたペプチドのFcRnに対するpH依存的結合評価〕
ペプチド単独でも、pH依存的にFcRnと相互作用するかを確かめるため、8D-01のC末端側のSGSGSを持たず、C末端がアミド化されたペプチド2G01Dを固相上で合成し、Biacore T100 (GEヘルスケア社)を用いて、その解離定数Kd結合定数を測定した。FcRnはアミンカップリング法でセンサーチップに固定した。2G01Dを以下に示す。
【化6】
また、pH 6.0もしくは7.4のリン酸バッファーにアナライトとして固相合成されたペプチド2G01Dを加え、解離定数を測定した。
結果を下表に示す。解離定数は、pH 6.0では4.3 nM、pH 7.4では290 nMとなり、pH依存的に約70倍、解離定数が変化した。
【表2】
【配列表】