(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-30
(45)【発行日】2022-04-07
(54)【発明の名称】半導体レーザ装置及びその製造方法並びにガス分析装置
(51)【国際特許分類】
H01S 5/026 20060101AFI20220331BHJP
H01S 5/343 20060101ALI20220331BHJP
G01N 21/01 20060101ALI20220331BHJP
G01N 21/3504 20140101ALI20220331BHJP
【FI】
H01S5/026 650
H01S5/343
G01N21/01 D
G01N21/3504
(21)【出願番号】P 2017240867
(22)【出願日】2017-12-15
【審査請求日】2020-11-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000155023
【氏名又は名称】株式会社堀場製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【氏名又は名称】西村 竜平
(74)【代理人】
【識別番号】100154704
【氏名又は名称】齊藤 真大
(72)【発明者】
【氏名】松濱 誠
(72)【発明者】
【氏名】井戸 琢也
(72)【発明者】
【氏名】渋谷 享司
【審査官】村井 友和
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-022266(JP,A)
【文献】特開2004-312110(JP,A)
【文献】特開2002-237645(JP,A)
【文献】特開昭61-108189(JP,A)
【文献】特開昭59-076490(JP,A)
【文献】特開2007-258491(JP,A)
【文献】特表2017-511608(JP,A)
【文献】特開平09-312441(JP,A)
【文献】特開2006-054272(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 5/00-5/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光導波路を有する半導体レーザ素子部と、
前記光導波路の層構成と同じ層構成を有する温度センサ素子部と、
前記半導体レーザ素子部及び前記温度センサ素子部が
一方の面である上面に設けられる半導体基板と、
前記半導体レーザ素子部及び前記温度センサ素子部を温調する温調部と、
前記半導体レーザ素子部及び前記温度センサ素子部を覆う保護膜と、
前記半導体基板の他方の面である下面に設けられ、前記半導体レーザ素子部の下方に位置するレーザ発振用下部電極と、
前記半導体基板の前記下面に設けられ、前記温度センサ素子部の下方に位置する温度検出用下部電極と、
前記半導体基板及び前記温調部を収容するとともに、前記半導体レーザ素子部の光出射部に対向する部位に光学窓部材が設けられた気密容器とを備え、
前記光導波路は、クラッド層とコア層とから構成され、
前記コア層は、電流が注入されることにより光を発する活性層を有しており、
前記活性層は、複数の井戸層を有する多重量子井戸構造からなり、
前記半導体レーザ素子は、複数の井戸層を有する多重量子井戸構造からなり、その量子井戸中に形成されるサブバンド間の光遷移により光を発生させる量子カスケードレーザである半導体レーザ装置。
【請求項2】
前記温度センサ素子部は、前記半導体レーザ素子部に対して前記光導波路の光導波方向に直交する側方に設けられている、請求項1記載の半導体レーザ装置。
【請求項3】
前記温度センサ素子部は、前記半導体レーザ素子部に対して前記光導波路の光導波方向の一方の端部側に設けられている、請求項1記載の半導体レーザ装置。
【請求項4】
複数の前記温度センサ素子部を備える、請求項1乃至
3の何れか一項に記載の半導体レーザ装置。
【請求項5】
前記半導体レーザ素子部がパルス発振されるものであり、
前記半導体レーザ素子部がパルスオフとなっている期間に前記温度センサ素子部により温度測定を行うものである、請求項1乃至
4の半導体レーザ装置。
【請求項6】
ガスに含まれる測定対象成分を分析するガス分析装置であって、
前記ガスが導入される測定セルと、
前記測定セルにレーザ光を照射する請求項1乃至
5の何れか一項に記載の半導体レーザ装置と、
前記測定セルを通過したレーザ光を検出する光検出器と、
前記光検出器の検出信号を用いて前記測定対象成分を分析する分析部とを有する、ガス分析装置。
【請求項7】
請求項1乃至
5の何れか一項に記載の半導体レーザ装置の製造方法であって、
前記半導体レーザ素子部及び前記温度センサ素子部を同一の製造プロセスにより層形成する、半導体レーザ装置の製造方法。
【請求項8】
前記半導体レーザ素子部及び前記温度センサ素子部は、前記同一の製造プロセスにより層形成された後に、エッチングにより分離される、請求項
7記載の半導体レーザ装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体レーザ装置及びその製造方法並びにガス分析装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体レーザ素子の発振波長は、周囲の温度及び素子の温度に依存することが知られている。この発振波長の温度依存性は、半導体レーザ素子を構成する半導体の屈折率が温度依存性を有するためである。
【0003】
従来、発振波長の温度依存性を補正する方法として、特許文献1に示すように、半導体レーザ素子の近傍に例えばサーミスタなどの温度センサを設けて、その検出温度を半導体レーザ素子の温度とみなして、例えばペルチェ素子などの温調機構により半導体レーザ素子を温調している。
【0004】
しかしながら、半導体レーザ素子と温度センサとは構成が異なる別部品であるため、半導体レーザ素子の温度と温度センサの検出温度との間に差が生じてしまう。その結果、発振波長の温度依存性を精度良く補正することが難しい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで本発明は上記問題点を解決すべくなされたものであり、半導体レーザ素子の温度と温度センサの検出温度との差を小さくすることをその主たる課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち本発明に係る半導体レーザ装置は、基板上に設けられた光導波路を有する半導体レーザ素子部と、前記基板上に設けられ、前記光導波路の層構成の全部又は一部と同じ層構成を有する温度センサ素子部とを備えることを特徴とする。
【0008】
このようなものであれば、基板上に設けられる温度センサ素子部の層構成を半導体レーザ素子部の層構成の全部又は一部と同じにしているので、周囲から受ける熱影響の差を小さくすることができ、半導体レーザ素子部の温度と温度センサ素子部により得られる検出温度との差を小さくする。その結果、発振波長の温度依存性を精度良く補正することができる。また、基板上に設けられる温度センサ素子部の層構成を半導体レーザ素子部の層構成の全部又は一部と同じにしているので、基板上に半導体レーザ素子部及び温度センサ素子部を同時に作り込むことができる。基板上に半導体レーザ素子部及び温度センサ素子部を作り込むことによって、半導体レーザ素子部に対する温度センサ素子部の位置を精度良く設定することができ、基板に対する温度センサ素子部の接合のバラつきも低減することができる。
【0009】
前記温度センサ素子部は、前記半導体レーザ素子部に対して前記光導波路の光導波方向に直交する側方(側面側)に設けられていることが望ましい。
この構成であれば、光導波路から射出されたレーザ光が温度センサ素子部に当たらない配置にすることができ、温度センサ素子部にレーザ光が当たることによる温度影響を受けにくくすることができる。
【0010】
前記温度センサ素子部は、半導体レーザ素子部に対して前記光導波路の光導波方向の一端部側に設けられているものであれば、光導波路の光導波方向の一端側から射出されるレーザ光を温度センサ素子部により遮光することができる。これにより、光導波路の一端側に別途遮光部材を設ける必要が無くなり、構造を簡単にすることができる。
【0011】
温度センサ素子部の具体的な実施の態様としては、前記温度センサ素子部は、1又は複数の半導体層と、第1電極及び第2電極とを有し、前記第1電極及び前記第2電極の間の抵抗値を用いて温度を検出するものであることが考えられる。
【0012】
半導体レーザ装置が複数の前記温度センサ素子部を備えるものであれば、基板上の温度分布を検出することができ、半導体レーザ素子部の温度を精度良く検出することができる。
【0013】
半導体レーザ装置の一態様としては、前記半導体レーザ素子部がパルス発振されるものが考えられる。半導体レーザ素子部がパルスオン時には半導体レーザ素子部の温度が局所的に上昇してしまい、半導体レーザ素子部のレーザ発振前の温度を精度良く検出することができない。このため、前記半導体レーザ素子部がパルスオフとなっている期間に前記温度センサ素子部により温度測定を行うものであることが望ましい。
【0014】
半導体レーザ素子部の具体的な実施の態様としては、前記光導波路は、クラッド層とコア層とから構成され、前記コア層は、電流が注入されることにより光を発する活性層を有しており、前記活性層は、複数の井戸層を有する多重量子井戸構造からなるものであることが考えられる。より好ましくは、前記半導体レーザ素子は、前記半導体レーザ素子は、複数の井戸層が多段に接続された多重量子井戸構造からなり、その量子井戸中に形成されるサブバンド間の光遷移により光を発生させる量子カスケードレーザ(QCL)素子であることが考えられる。なお、複数の井戸層は厚さが異なるものであってもよい。
量子カスケードレーザ素子は、他の半導体レーザ素子よりも電力消費が多く、温度上昇しやすいことから、その温度変動を検出するためには、温度センサ部を可及的に量子カスケードレーザ素子に近づけることが望ましい。本発明では、半導体レーザ素子部に対する温度センサ素子部の位置を精度良く設定することができ、このような量子カスケードレーザ素子に対して有効に適用することができる。
また、他の半導体レーザ素子は、チップサイズが小さいため、温度センサ素子部を作り込むことが難しいのに対して、量子カスケードレーザ素子は、他の半導体レーザ素子に対してサイズが大きく(例えば3mm程度)、温度センサ素子部を作り込むことが他の半導体レーザ素子に比べて容易である。
【0015】
また、本発明に係る半導体レーザ素子の製造方法は、前記半導体レーザ素子部及び前記温度センサ素子部を同一の製造プロセスにより層形成することを特徴とする。
このようなものであれば、半導体レーザ素子部及び温度センサ素子部を同時に作り込むことができる。また、同一の製造プロセスで層形成しているので、その後のエッチング処理により、温度センサ素子部を半導体レーザ素子部に対して任意の位置に任意の個数形成することができる。また、面積を変更した温度センサ素子部を複数配置することにより、抵抗値の異なる複数の温度センサ素子部を形成することができる。このように互いに異なる抵抗値を有する複数の温度センサ素子部を設けることにより、精度良く温度補正を行うことが可能となる。
【0016】
前記半導体レーザ素子部及び前記温度センサ素子部は、前記同一の製造プロセスにより層形成された後に、エッチングにより分離される。
このように半導体レーザ素子部に対して温度センサ素子部を分離することによって、温度センサ素子部の面積を小さくすることができる。その結果、温度センサ素子部の抵抗値を大きくすることができ、正確な温度測定が可能となる。
【発明の効果】
【0017】
以上に述べた本発明によれば、基板上に設けられる温度センサ素子部の層構成を半導体レーザ素子部の層構成の全部又は一部と同じにしているので、半導体レーザ素子の温度と温度センサの検出温度との差を小さくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本実施形態に係る半導体レーザ装置が用いられる排ガス分析装置の全体模式図である。
【
図2】同実施形態に係る半導体レーザ装置の全体模式図である。
【
図3】同実施形態に係る半導体レーザ装置の配置を模式的に示す平面図である。
【
図4】同実施形態に係る半導体レーザ素子部の光導波方向に直交する断面図である。
【
図5】同実施形態に係る半導体レーザ素子部のA-A線断面図である。
【
図6】量子カスケードレーザの発光原理を示す図である。
【
図7】同実施形態に係る温度検出素子部の断面図である。
【
図8】同実施形態に係る半導体レーザ素子部及び温度センサ素子部の製造プロセスを示す模式図である。
【
図9】変形実施形態に係る温度制御装置の機能を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の一実施形態に係る半導体レーザ装置について、図面を参照しながら説明する。
【0020】
本実施形態の半導体レーザ装置100は、
図1に示すように、例えば内燃機関から排出される排ガス中の測定対象成分を分析する排ガス分析装置10に用いられるものである。ここで、排ガス分析装置10は、排ガスが導入される多重反射型の測定セル11と、測定セル11にレーザ光を照射する半導体レーザ装置100と、測定セル11を通過したレーザ光を検出する光検出器12と、光検出器12の検出信号を用いて測定対象成分を分析する分析部13とを有している。
【0021】
具体的に半導体レーザ装置100は、測定対象成分の吸収波長に対して±1cm
-1の発振波長のレーザ光を射出するものであり、
図2及び
図3に示すように、InP基板などの半導体基板2と、当該半導体基板2上に形成された半導体レーザ素子部3と、前記半導体基板2上に形成された温度センサ素子部4とを有している。
【0022】
なお、半導体レーザ素子部3及び温度センサ素子部4が設けられた半導体基板2は、バタフライパッケージ等の気密容器5内に収容されている。この気密容器5において半導体レーザ素子部3の光出射部に対向する部位には、レーザ光を外部に導出するための光導出部51が形成されている。当該光導出部51には、光学窓部材6が設けられており、当該光学窓部材6は、光学窓部材6で反射したレーザ光が再度半導体レーザ素子部3に戻らないように、若干(例えば2度)傾斜している。その他、半導体レーザ素子部3を冷却するための冷却モジュール7なども気密容器6に収容されている。
【0023】
半導体レーザ素子部3は、
図4及び
図5に示すように、分布帰還型レーザ(DFBレーザ:Distributed Feedback Laser)であり、半導体基板2上に設けられたクラッド層とコア層とから構成される光導波路3Aを備えている。この光導波路3Aにおいてクラッド層の屈折率とコア層の屈折率との違いにより光がコア層を通過する。
【0024】
具体的に半導体レーザ素子部3は、半導体基板2の上面にバッファ層31、コア層32、上部クラッド層33及びキャップ層34がこの順に形成されたものである。また、これらの層31~34はいずれも同一方向に延在しており、その幅方向の側面が保護膜35に覆われることによって一方向に延びる光導波路3Aが形成される。なお、保護膜35は無機膜であり、例えばSiO2や、SiO2及びSi3N4の組み合わせであっても良い。
【0025】
バッファ層31及び上部クラッド層33はいずれもInPからなる層である。なお、バッファ層31とコア層32との間にInPからなる下部クラッド層を設けても良いし、バッファ層31をクラッド層として機能させてもよい。
【0026】
キャップ層34はInGaAsからなる層であり、その上面の一部(幅方向両側)は保護層35で覆われている。また、キャップ層34の上面の他の部分(幅方向中央部)は、上部電極36により覆われている。
【0027】
コア層32は、InGaAsからなる下部ガイド層321と、電流が注入されることにより光を発する活性層322と、InGaAsからなる上部ガイド層323とを有している。
【0028】
活性層322は、複数の井戸層を有する多重量子井戸構造からなるものであり、発光領域となる半導体層と、注入領域となる半導体層とが所定数交互に積層されて構成されている。なお、発光領域となる半導体層は、InGaAsとInAlAsとが交互に積層して構成されており、注入領域となる半導体層は、InGaAsとInAlAsとが交互に積層して構成されている。
【0029】
このように構成された半導体レーザ素子部は、
図6に示すように、複数の井戸層が多段接続されており、それら量子井戸中に形成されるサブバンド間の光学遷移により光を発する量子カスケードレーザである。
【0030】
この半導体レーザ素子部3においてコア層32と上部クラッド層33との間、つまり、上部ガイド層323上に回折格子3Bが形成されている(
図5参照)。この回折格子3Bは、上部ガイド層323に交互に形成された凹部及び凸部により構成されており、凹部及び凸部は上部ガイド層323の幅方向に延びている。この回折格子3Bにより所定の発振波長の光が強め合って選択的に増幅される。なお、所定の発振波長は、回折格子3Bのピッチにより規定される。
【0031】
半導体基板2の下面において半導体レーザ素子部3の下方に位置する部分には下部電極37が設けられている。そして、上部電極36及び下部電極37にレーザ発振用の電流(又は電圧)を与えることによって、回折格子3Bにより規定された所定の発振波長が射出される。レーザ発振用の上部電極36及び下部電極37には電流源(又は電圧源)が接続されており、レーザ制御装置8がその電流源(又は電圧源)を制御する。
【0032】
温度センサ素子部4は、
図7に示すように、半導体レーザ素子部3と同様に半導体基板2の上面に設けられている。この温度センサ素子部4は、前記光導波路3Aの層構成の全部と同じ層構成を有するものである。つまり、温度センサ素子部4は、半導体レーザ素子部3のバッファ層31、コア層32、上部クラッド層33及びキャップ層34に対応する複数の半導体層41~44を有している。また、これら複数の半導体層41~44の幅方向両側は保護膜45により覆われている。なお、本実施形態の温度センサ素子部4は、半導体基板2の任意の場所に設けることができ、
図3の(a)配置例1に示すように、半導体レーザ素子部3に対して光導波路3Aの光導波方向に直交する側方に設けられていてもよい。この場合、光導波路3Aから射出されたレーザ光が温度センサ素子部4に当たらない配置にすることができ、温度センサ素子部4にレーザ光が当たることによる温度影響を受けにくくすることができる。また、(b)配置例2に示すように、光導波路3Aに対して光導波方向の他方側に設けられていてもよい。この場合、温度センサ素子部4が、光導波路3Aの他端から射出される光を遮る遮光部材として機能する。
【0033】
この温度センサ素子部4においても、温度センサ素子部4の最上部の半導体層(キャップ層34に相当)の上面には、第1電極である上部電極46が設けられている。また、半導体基板2において温度センサ素子部4の下方に位置する部分には第2電極である下部電極47が設けられている。
【0034】
そして、上部電極46及び下部電極47に温度検出用の電流(又は電圧)を与えることによって、温度センサ素子部4の抵抗値が算出される。温度検出用の上部電極46及び下部電極47には電流源(又は電圧源)が接続されており、温度制御装置9がその電流源(又は電圧源)を制御する。温度制御装置9は、算出した抵抗値と、抵抗値-温度換算式とから、温度センサ素子部4の検出温度を算出する。また、温度制御装置9は、算出した温度センサ素子部4の検出温度に基づいて、半導体レーザ素子部3を温調(例えば冷却)する温調モジュール7を制御する。本実施形態の温調モジュール7はペルチェ素子を用いた冷却モジュールである。具体的に温度制御装置9は、温度センサ素子部4により得られた検出温度が所定の目標温度となるように、ペルチェ素子への供給電力を制御する。なお、冷却モジュール7としては、コンプレッサーを用いたもの、電熱線を用いたもの、ファンを用いたもの、水冷方式のもの等を用いることができる。
【0035】
<半導体レーザ装置の製造方法>
次に半導体レーザ装置100の製造方法について
図8を参照して説明する。なお、
図8では、半導体レーザ素子部3の層構成を例示している。
【0036】
半導体基板2の上面に、バッファ層31となるInP層、下部ガイド層321となるInGaAs層、活性層322となるInGaAs層及びInAlAs層及び上部ガイド層323となるInGaAs層を有機金属気相成長法(MOVPE法)により積層する。
【0037】
上部ガイド層323の上面に、フォトリソグラフィ及びウェットエッチングにより回折格子3Bを形成する。そして、上部ガイド層323の上部に上部クラッド層33となるInP層及びキャップ層34となるInGaAs層を有機金属気相成長法(MOVPE法)により積層する。
【0038】
このように形成された多層構造に対してエッチングを行って光導波路3Aを形成する。このエッチングにより、半導体レーザ素子部3と温度センサ素子部4とを分離する。また、光導波路3Aの幅方向両側を覆うように例えばSiO2の保護膜35を形成する。これにより、半導体レーザ素子部3と温度センサ素子部4とが形成される。ここでは、1つの半導体基板2上に複数の半導体レーザ素子部3と温度センサ素子部4とが形成された例を示している。
【0039】
そして、分離された半導体レーザ素子部3に対してレーザ発振用の上部電極36及び下部電極37を形成するとともに、温度センサ素子部4に対して温度検出用の上部電極46及び下部電極47を形成する。その後、半導体レーザ素子部3及び温度センサ素子部4を有する領域ごとに半導体基板2を切断することによって、温度センサ素子部4を一体に有する半導体レーザチップが形成される。この半導体レーザチップは、冷却モジュール7に搭載された状態で機密容器5内に設けられる。なお、半導体レーザ素子部3と温度センサ素子部4とが一体となった積層構造体に対して保護膜35を形成した後に、積層構造体の一部をエッチングにより取り除くことによって、半導体レーザ素子部3と温度センサ素子部4とに分離してもよい。
【0040】
<本実施形態の効果>
本実施形態の半導体レーザ装置100によれば、半導体基板2上に設けられる温度センサ素子部4の層構成を半導体レーザ素子部3の層構成の全部又は一部と同じにしているので、周囲から受ける熱影響の差を小さくすることができ、半導体レーザ素子部3の温度と温度センサ素子部4により得られる検出温度との差を小さくする。その結果、発振波長の温度依存性を精度良く補正することができる。また、半導体基板2上に設けられる温度センサ素子部4の層構成を半導体レーザ素子部3の層構成の全部又は一部と同じにしているので、半導体基板2上に半導体レーザ素子部3及び温度センサ素子部4を同時に作り込むことができる。半導体基板2上に半導体レーザ素子部3及び温度センサ素子部4を作り込むことによって、半導体レーザ素子部3に対する温度センサ素子部4の位置を精度良く設定することができ、半導体基板2に対する温度センサ素子部4の接合のバラつきも低減することができる。
【0041】
<その他の変形実施形態>
なお、本発明は前記各実施形態に限られるものではない。
【0042】
例えば前記実施形態では、1つの半導体レーザ素子部3に対して1つの温度センサ素子部4を設ける構成であったが、1つの半導体レーザ素子部3に対して複数の温度センサ素子部4を設ける構成であっても良い。この場合、複数の温度センサ素子部4は、半導体レーザ素子部3の前後方向に異なる位置、左右方向に異なる位置、又は半導体レーザ素子部3から距離が異なる位置に設けることが考えられる。これにより、半導体基板2の温度分布を検出することができ、半導体レーザ素子部3の温度を精度良く検出することができる。
【0043】
また、前記実施形態では、半導体レーザ素子部3と温度センサ素子部4とが分離したものであったが、それらが分離されない一体構成であっても良い。この場合、レーザ発振用の上部電極36及び下部電極37と、温度検出用の上部電極46及び下部電極47とを別々に設ける構成とする。
【0044】
さらに、前記実施形態では、半導体レーザ素子部3の層構成と温度センサ素子部4の層構成とは同じであったが、温度センサ素子部4の層構成が半導体レーザ素子部3の層構成の一部と同じであっても良い。この場合であっても、前記実施形態と同様の効果を奏することができる。ここで、一部が同じとは、少なくともクラッド層とコア層とが同じであれば良い。その理由は、クラッド層及びコア層から形成される部分の温度影響が最も高く、温度センサ素子部への温度影響が大きいからである。
【0045】
レーザ制御装置が半導体レーザ素子部3をパルス発振させるものの場合には、温度制御装置9はパルスオフの期間中に温度センサ素子部4を用いて温度を検出することが考えられる。これは半導体レーザ素子部3が発振されている状態では流れる電流によって一時的に温度上昇が生じるからであり、パルスオフでは、温度上昇が生じず、結果、より正確に測定することができる。
【0046】
前記実施形態に加えて周囲温度による発振波長の変動をより一層低減する為には、次の方法を採用することもできる。つまり、温度制御装置9が、
図9に示すように、半導体レーザ素子部3の発振波長を一定としたときの目標温度とペルチェ素子の供給電力との関係を示す関係データを格納する関係データ格納部91と、ペルチェ素子への供給電力を示す供給電力データを取得する供給電力データ取得部92と、供給電力データと関係データとに基づいて目標温度を変更して供給電力を調整する供給電力制御部93とを有する。
【0047】
関係データ格納部91は、発振波長を一定としたときの温度センサ素子部4による検出温度の目標温度とペルチェ素子の供給電力との関係を示す関係データを格納している。この関係データは予め実験により求めておく。なお、この関係データは、異なる発振波長ごとに複数求めておいてもよい。
【0048】
供給電力データ取得部92は、温度センサ素子部4の検出温度が一定の目標温度となるようにペルチェ素子が制御されている状態で、当該ペルチェ素子に供給される供給電流及び供給電圧を取得して、それら供給電流及び供給電圧を用いて供給電力を算出するものである。ここで、ペルチェ素子に供給される供給電流は電流センサにより検出され、供給電圧は電圧センサにより検出される。なお、ペルチェ素子が電流制御される場合には、当該電流制御の設定値を用いることができるし、ペルチェ素子が電圧制御される場合には、当該電圧制御の設定値を用いることができる。供給電力データ取得部92は、算出した供給電力データを供給電力制御部に出力する。
【0049】
供給電力制御部93は、関係データ格納部91から関係データを受け取るとともに、供給電力データ取得部92から供給電力データを受け取る。そして、供給電力制御部93は、供給電力データ及び関係データから、発振波長が一定となるように、温度センサ素子部4の目標温度を変更して、温度センサ素子部4の検出温度が変更後の目標温度となるようにペルチェ素子の供給電力を制御する。
【0050】
前記実施形態では、量子カスケードレーザ素子を有する半導体レーザ装置について説明したが、その他の半導体レーザ素子2(例えば分布反射型レーザ(DBRレーザ))を有するものであっても良い。
【0051】
半導体レーザ素子部3の駆動方式としては、連続発振(CW)方式であっても良いし、疑似連続発振(疑似CW)方式であっても良いし、パルス発振方式であっても良い。
【0052】
前記実施形態では、半導体レーザ装置をガス分析装置に適用した例を説明したが、その他の光学分析装置に適用しても良いし、光通信用途に用いられるものであっても良い。
【0053】
その他、本発明の趣旨に反しない限りにおいて様々な実施形態の変形や組み合わせを行っても構わない。
【符号の説明】
【0054】
10・・・ガス分析装置
11・・・測定セル
12・・・光検出器
13・・・分析部
100・・・半導体レーザ装置
2・・・半導体基板
3・・・半導体レーザ素子部
3A・・・光導波路
3B・・・回折格子
32・・・コア層
323・・・活性層
33・・・上部クラッド層
4・・・温度センサ素子部
41~44・・・半導体層
46・・・上部電極(第1電極)
47・・・下部電極(第2電極)